分析物検出アッセイ
迅速かつ高感度な分析物検出アッセイは、蛍光標識された微小回転楕円体粒子のウィスパリングギャラリーモードに基づく。核酸などの分析物に対するリガンドを粒子につなぎ止める。蛍光標識はフルオロフォアまたは量子ドットを含みうる。後者の場合には、粒子はメラミンホルムアルデヒドを含みうる。本アッセイは、水性試料中の分析物を検出するために用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
提出データ
本出願は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、「分析物検出アッセイ」と題する2008年11月21日に提出されたオーストラリア仮特許出願第2008906057号と関連しており、それによる優先権を主張する。
【0002】
分野
本発明は、分析物検出の分野に関する。より詳細には、本発明は、ウィスパリングギャラリーモード(WGM)に基づくアッセイを用いるバイオセンシングならびに迅速および高感度な分析物検出に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
本明細書中に著者によって参照された刊行物の文献学的詳細は、説明の最後にアルファベット順にまとめている。
【0004】
本明細書におけるあらゆる先行技術に対する言及は、この先行技術がいずれかの国において広く知られた一般知識の一部であることを認めたものでも何らかの形で示唆したものでもなく、そのように解釈されるべきではない。
【0005】
モノリシック共振器における環状光学モード(circular optical mode)は、「ウィスパリングギャラリーモード」(WGM)または「形態依存共振」(MDR)と呼ばれる。そのようなモードまたは共振は、共振器の境界からの全内部反射によって維持される光の閉じた軌道(定在光波)である。WGMは、特定の発光プロファイルを持つ定在光波が、全内部反射に近い反射によって球状誘電体空洞の表面の内側に閉じ込められる場合に生じる(Moller et al, Applied Physics Letters 83 (13):2686-2688, 2003(非特許文献1))。
【0006】
WGM技術は、国際特許出願公開第WO 2005/116615号(特許文献1)に詳細に記載されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。WGM技術は、一部には、フルオロフォアが特有のWGMプロファイルを生成することを可能にするという現象を基盤においている。フルオロフォアは、拡散によって微粒子内に入る量子ドット上に組み入れられるか、またはその製造過程で組み入れられてもよい。フルオロフォアの種類には制限はなく、それは例えば有機色素、希土類をベースとするルモフォア(lumophore)、さまざまな形態および組成の半導体ナノ結晶、照射された時に発光するリンまたは他の材料であってよい。このフルオロフォアまたはその混合物を、続いて、微小回転楕円体粒子(microspheroidal particle)と結びつける。標的分析物が、微小回転楕円体粒子に固定化された結合パートナーと相互作用すると、WGMプロファイルが変化し、結合イベントの検出が可能となる。
【0007】
WGMは、ある特定の波長の光のみが粒子から発せられることを可能にする。この現象の結果は、例えばフルオロフォアからの、通常の幅広い発光(10〜100nm幅)バンドが制約され、粒子内部の光の定在モードパターンに事実上対応する一連の鋭いピークとして表示されるというものである。WGMプロファイルは微小回転楕円体粒子の表面での変化に対して極めて高感度であり、WGMプロファイルは微小回転楕円体粒子がその環境内の分析物または分子と相互作用すると変化する。
【0008】
多様な源に由来する試料中の稀な分析物の検出は、高感度で、汎用性があり、かつ実用的な検出手段を必要とする。分析物の検出のためにWGMの感度、汎用性および実用性を高めるための方法を考案することには需要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際特許出願公開第WO 2005/116615号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Moller et al, Applied Physics Letters 83 (13):2686-2688, 2003
【発明の開示】
【0011】
概要
本発明は、とりわけ、試料中の分析物を検出するための、ウィスパリングギャラリーモード(WGM)検出アッセイに基づく高感度の方法および試薬を提供する。
【0012】
特に、本発明の目標は、環境に対するWGMの感度を利用することにより、標識されていない分析物を任意の媒質(液体または気体)中でルーチンに検出しうるようにする方法を記載することである。液体および気体への言及には、水性溶液および生物学的緩衝液および空気が含まれる。
【0013】
本発明の方法および試薬は、1つの部分において、微小球をフルオロフォア自体でコーティングすると、離散的な量子ドットを用いた場合とは対照的に、WGMに基づく検出の感度を向上させることが予想外に明らかになったことを基盤においている。別の部分において、官能性が付与された化学基をその表面に有する粒子などの粒子の選択により、量子ドットまたは直接フルオロフォアのいずれかのコーティングを行った場合の感度が高まる。さらに別の部分においては、アッセイを実施する媒質に比してより高い屈折率を有する粒子を選択する。1つの態様において、微小回転楕円体粒子は1.40を上回る屈折率を有する。
【0014】
したがって、本発明の1つの局面は、媒質中の分析物検出の方法であって、フルオロフォアおよび多種多様なリガンドでコーティングされた微小球を、1つまたは複数のリガンドとリガンド結合性分析物との間の結合イベントを同定するためにWGM検出手段に供する段階を含む方法を提供する。
【0015】
もう1つの局面において、本発明は、媒質中の分析物検出の方法であって、フルオロフォアおよび多種多様なリガンドでコーティングされた、分析物を含む媒質よりも高い屈折率を有する微小球を、1つまたは複数のリガンドとリガンド結合性分析物との間の結合イベントを同定するためにWGM検出手段に供する段階を含む方法を提供する。1つの態様において、微小回転楕円体粒子は1.40を上回る屈折率を有する。
【0016】
本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0017】
本発明のもう1つの局面は、媒質中の分析物を検出するための方法であって、
(i)分析物に対する多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階であって、微小回転楕円体粒子がメラミンホルムアルデヒドであるならばそれがフルオロフォアとコンジュゲートされてもよく、または量子ドットを含んでもよい段階;
(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;
(ii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに
(iii)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにウィスパリングギャラリーモード(WGM)検出手段に供する段階、
を含む方法を提供する。
【0018】
特定の態様において、微小回転楕円体粒子は、アジド基、アルキン基、アミン基、アルデヒド基、硫酸基またはチオール基、カルボキシル基、カルボキシレート基および/またはヒドロキシル基などの化学モイエティーによって官能性が付与されている。1つの局面において、微小回転楕円体粒子は、メラミン粒子またはメラミンホルムアルデヒド粒子などの、ただしそれらには限定されないアミン-アルデヒド粒子である。
【0019】
それ故に、本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせ、官能性が付与された微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)官能性が付与された微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)官能性が付与された微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0020】
特定の態様において、本発明は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせたアミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)アミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)アミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)アミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0021】
最も特定的な態様において、アミン-アルデヒド粒子はメラミンホルムアルデヒド粒子である。
【0022】
それ故に、本発明は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせたメラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0023】
粒子がメラミンホルムアルデヒドである場合、粒子は量子ドットをも含みうる。それ故に、本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアでコーティングされた量子ドットを含むメラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0024】
本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコードする微小回転楕円体粒子である、分析物を含む媒質よりも高い屈折率を有する微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0025】
本発明のさらにもう1つの局面は、分析物を検出する方法であって、微小回転楕円体粒子の少なくとも1つの集団を、分析物を含むことが推定される試料と接触させる段階を含み、微小回転楕円体粒子の集団内の各粒子が、赤外励起に応答して可視光線を発するフルオロフォア、および分析物の固定化された結合パートナーと推定されるものを含み、各粒子集団が規定されたWGMプロファイルを有しており、分析物と固定化された結合パートナーとの結合が、分析物の存在を指し示す、微小回転楕円体粒子の少なくとも1つの集団のWGMプロファイルの変化をもたらすような方法を提供する。
【0026】
1つの態様において、分析物またはその各々のリガンドは、以下のものからなるリストより選択される分子を含む:核酸;タンパク質;ペプチド;抗体;脂質;糖質;ならびに、細胞(例えば、癌細胞)、細菌およびウイルスを含む任意の低分子または化学的実体。
【0027】
1つの具体的な態様において、微小回転楕円体粒子につなぎ止められたリガンドは核酸分子であり、検出しようとする分析物は相補的核酸分子である。
【0028】
もう1つの態様において、核酸リガンドまたは分析物は、一本鎖DNA配列を含むDNA分子である。
【0029】
本発明のもう1つの局面は、以下の段階を含む方法の使用を提供する:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、アッセイの製造において、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階。
【0030】
さらなる態様において、微小球は再生利用してもよい。加えて、アッセイは、空気もしくは他の気体などの任意の媒質中で、または水性溶液、生物学的な緩衝液もしくは複合的な生体液などの液相中で実施することができる。
【0031】
さらにもう1つの局面において、本発明は、リガンドと分析物との間の結合イベントをWGM検出手段によって検出するための、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子、およびそれらにつなぎ止めるための多種多様なリガンドを含むキットを提供する。
【0032】
具体的な態様において、キットは、多種多様なリガンドが結びつけられた、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子を含む。粒子がメラミンホルムアルデヒドである場合には、フルオロフォアを有機色素または量子ドット上にコーティングしてもよい。
【0033】
さらなる局面において、本発明は、電源、光源、試料取り扱いチャンバーおよび分光光度計を含む自己完結型の器具である、WGM検出手段を含むバイオセンサーを提供する。
【0034】
ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、配列識別子番号(SEQ ID NO)によって参照される。SEQ ID NOは、配列の識別子<400>1(SEQ ID NO:1)、<400>2(SEQ ID NO:2)などに数字で対応する。配列識別子の概要を表1に提示している。配列表は特許請求の範囲の後に提示している。
【0035】
本明細書の全体を通じて用いられる配列識別子を、表1に提示している。
【0036】
(表1)配列識別子の概要
【図面の簡単な説明】
【0037】
図面の中には、カラーの表示または実体を含むものがある。カラー写真は、請求により特許権者から、または適切な特許庁から入手可能である。特許庁から入手する場合には、料金が課せられる場合がある。
【図1A】結合後の、一定した、かつ測定可能なシフトを示しているWGM DNAバイオセンシングのグラフ表示である。これらの測定は、pH緩衝剤および電解質を含む水性溶液中で行った。ビーズまたは微小回転楕円体粒子を、ビーズの表面につなぎ止められた核酸分析物結合性パートナーに対して相補的な核酸分析物と接触させた後に、ビーズ9に関して、WGMプロファイルの実証可能なシフトが観察された。ビーズはそれぞれ直径5.6μmであった。
【図1B】結合後の、一定した、かつ測定可能なシフトを示しているWGM DNAバイオセンシングのグラフ表示である。これらの測定は、pH緩衝剤および電解質を含む水性溶液中で行った。ビーズまたは微小回転楕円体粒子を、ビーズの表面につなぎ止められた核酸分析物結合性パートナーに対して相補的な核酸分析物と接触させた後に、ビーズ10に関して、WGMプロファイルの実証可能なシフトが観察された。ビーズはそれぞれ直径5.6μmであった。
【図1C】結合後の、一定した、かつ測定可能なシフトを示しているWGM DNAバイオセンシングのグラフ表示である。これらの測定は、pH緩衝剤および電解質を含む水性溶液中で行った。ビーズまたは微小回転楕円体粒子を、ビーズの表面につなぎ止められた核酸分析物結合性パートナーに対して相補的な核酸分析物と接触させた後に、ビーズ11に関して、WGMプロファイルの実証可能なシフトが観察された。ビーズはそれぞれ直径5.6μmであった。
【図1D】結合後の、一定した、かつ測定可能なシフトを示しているWGM DNAバイオセンシングのグラフ表示である。これらの測定は、pH緩衝剤および電解質を含む水性溶液中で行った。ビーズまたは微小回転楕円体粒子を、ビーズの表面につなぎ止められた核酸分析物結合性パートナーに対して相補的な核酸分析物と接触させた後に、ビーズ12に関して、WGMプロファイルの実証可能なシフトが観察された。ビーズはそれぞれ直径5.6μmであった。
【図2】WGM検出手段および装置の略図である。
【図3】6.3μW、50.2μW、214.5μWおよび1,160.5μWの入射光(それぞれA、B、CおよびD)によって生成されたWGMスペクトルのグラフ表示である。光源の波長は532nm、かつ曝露時間は200msとした。
【図4】入射光(532nm、50μW)による10、60、200および1,000ms(それぞれA、B、CおよびD)にわたる微小回転楕円体粒子の照射後に生成されたWGMプロファイルのグラフ表示である。鮮明度は5秒間の曝露時間(E)まで徐々に低下した。
【図5】カバーグラスの表面上に固定化された本発明の微小回転楕円体粒子の写真画像である。
【図6】メルカプタン基により官能性が付与されたシリカ粒子を用いる単純化された化学反応の段階を示している写真表示である。共有結合により、蛍光標識したアクリロイル-一本鎖オリゴヌクレオチドのコンジュゲーションが達成される。この過程は、WGMを伝播させる蛍光性微小球の、強固で費用効果の高い製作をもたらす。
【図7】単一の微小球からの4つの主要なWGMピークのピーク位置のプロットを、それらを記録したアッセイのステージの関数として示しているグラフ表示である。このプロットは、4つの主要なピークのハイブリダイゼーション中のレッドシフト、変性中のブルーシフトおよび標的への再曝露に応じた再度のレッドシフトを明らかに示している。
【図8】粒子合成およびWGMハイブリダイゼーションアッセイの概略を示している写真表示である。パートA)は、70塩基のenlオリゴヌクレオチドで修飾された7.50μmのSiO2微小球の鍵となる特徴を指し示している。TMR=色素標識テトラメチルローダミン;パートB)粒子アッセイプレートの調製 粒子をハイブリダイゼーション基板上に固定化し、その後に発光シグナルの収得を行う(前処理);パートC)アッセイプレートをDNAプローブまたは対照溶液で処理し、その後に基盤の洗浄を行い、最後に発光シグナルを収得する;パートD)最終段階は、単一粒子からの前/後の発光シグナルを分析し、収得したスペクトルからのピーク位置を比較して処理溶液の影響を明らかにすることを伴う。
【図9】典型的なWGM発光シグナル出力および単一粒子分光分析を示している写真表示である。A)Ocean Optics分光光度計(±0.9nm)と接続する、およびB)Triax分光光度計(±0.05mm)と接続するという2種類のWGM特性評価用設備を用いて、励起された7.50μmのオリゴ体修飾シリカ粒子から空気中で取り込んだ典型的な発光シグナル;C)単一粒子分光分析の概念。この概略図は、同じ試料にそれぞれ由来する、標識された微小球AおよびBという2つの粒子の両方が同一に化学修飾されたことを示している。個々の粒子から収得された発光シグナルが別個に固有であることに注目されたい。
【図10】濃度ベースのcDNAハイブリダイゼーションアッセイに用いたセンサーの選択による、単一微小球のスペクトルシフトデータを示しているグラフ表示である。A)4つの参照波長で参照したcDNA濃度に対してプロットしたハイブリダイゼーション前(緑色の線、ベタ四角)およびハイブリダイゼーション後(赤色の線、ベタ星)のピーク位置。選択した粒子では、観察されるシフトがハイブリダイゼーション後のWGMシグナルのすべてにおいて認められた。70塩基のオリゴ体修飾粒子を濃度10-7〜10-14MのcDNAとハイブリダイズさせた場合にはモードプロファイルにおいて再現性のあるレッドシフトが生じたが、対照試料では一定したピークシフトは明白でなかったことに注目されたい;B)cDNA濃度の関数としてのシフト(Δλ)。λmaxに関するピーク変位の誤差計算は±0.44nmと算出された;C)標識されていない相補的DNAの10-18M濃度の試料に対する曝露の前および後の、同一のenl標的粒子からのピーク位置分析。これらの結果は、アトモル濃度の非標識DNAプローブ溶液に対する曝露後の各蛍光ピークのレッドシフトを指し示している。
【図11】未処理のメラミンホルムアルデヒド(MF)粒子に、標識した一本鎖オリゴヌクレオチド断片により官能性を付与するために利用した反応化学の略図である。反応が、緩衝液のみを用いて室温にて一段階で完了することに注目されたい。断片は粒子表面上の-NH基と共有結合する。
【図12】粒子励起が80Wの水銀ランプおよび420〜490nmのフィルターブロックによって達成されたことを示しているグラフ表示である。30塩基(TMR)オリゴ体で修飾された7.50μmの微小球から空気中および水中で取り込んだ発光シグナル。A)シリカ;B)メラミン。Milli-Qのシングレット(singlet)液滴中に微小球を浸漬させてスペクトル分析を行い、水を蒸発させた後に空気中でスキャン取得を行った。励起されたメラミン粒子の例では、水の添加後にWGM発光シグナルが依然として観察可能であったことに注目されたい。TRIAX 550分光光度計(±0.05nm)を用いた2秒間の積算によって、オリゴヌクレオチド官能性付与の前に単一の7.52μmのMF粒子から収得したベースラインスペクトル;C)空気;D)溶液(Mill-Q H2O)。
【図13】いくつかの複合材料に由来するアッセイプレートを用いて取得した発光シグナル測定を示しているグラフ表示である;粒子励起は80Wの水銀ランプおよび420〜490nmのフィルターブロックによって達成した。A)シリカ製のグリッド入りアレイプレート;B)ポリマーベースの96ウェル細胞培養プレート;C)ポリカーボネート製384サイトウェルプレート;D)384ウェルの光学用マイクロタイタープレート。
【図14】オリゴヌクレオチド(TMR)により官能性が付与された7.52μmのMF粒子の熱安定性分析を示しているグラフ表示である。粒子を、Milli-Q、緩衝液またはMES(pH 5.4)中の溶液中に浸漬させ、3時間の期間にわたり90℃の一定の加熱下においた。80Wの水銀ランプおよび420〜490nmのフィルターブロックを利用して、WGMを各被験粒子から収集した。MES中で加熱した選択した粒子(点線スペクトル)が、PBS処理(黒のスペクトル)およびMilli-Q処理(グレーのスペクトル)を行った選択したオリゴ修飾MF粒子に比して、そのWGM発光シグナルの顕著な減少を呈したことに注目されたい。
【図15】熱サイクル下でのハイブリダイゼーション結合試験を示しているグラフ表示である。二段階の温度勾配(37℃〜72℃)を、共焦点/TRIAX設備と接続された温度調節式の顕微鏡ステージを用いて作り出した。標的DNA(Tm 71.2℃)は、粒子に結びつけたrs10434標的断片に対して相補的であった。ハイブリダイゼーションサイクルを、単一の微小球に対して、Milli-Q H2O(対照)および標的DNAを用いて完了させた。蛍光シグナルを各温度勾配で取り込み、Δλを観察した。A)対照hyb-サイクル1;B)対照hyb-サイクル2;C)標的プローブhyb-サイクル1;D)標的プローブhyb-サイクル2。すべての蛍光ピークは最高サイクル温度(72℃)でブルーシフトし[標的DNAが存在する場合のみ]、ステージ温度が標的プローブのTm未満ではレッドシフトした。
【図16】(A)メラミンビーズWGM実線を示しているグラフ表示である:実線は空気中で入手した単一のメラミンホルムアルデヒドビーズのWGMである。水性媒質中で収得したスペクトルを点線で示している;(B)シリカビーズWGM:実線は空気中で入手した単一のシリカビーズのWGMである。水性媒質中で収得したスペクトルを点線で示している。水中での収得では極めてわずかな蛍光しか生じず、WGMは全く生じなかった。
【図17】抗体WGMイムノアッセイのグラフ表示である。FITCで標識したヒトα-IgM抗体によって官能性が付与された単一の7.52μmのMF粒子を、単一のマイクロウェル中に固定化した。アッセイ全体を室温で行った。処理していない粒子を、参照シグナルを得るためにAr+レーザーで励起させ、続いてMilli-Qで、さらに非標識ヒトIgMで処理した。処理していないWGMに比して、代表的なピークセットは、IgM処理後に生じた数ナノメーターの典型的なレッドシフトを指し示している。添加から30分後に極めてわずかなシフトが認められた。スペクトルはTriax 550/CCD共焦点設備(スペクトル分解能±0.05nm)によって収得した。
【発明を実施するための形態】
【0038】
詳細な説明
本明細書の全体を通じて、文脈上異なる解釈を要する場合を除き、「含む(comprise)」という語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」という変化形は、記述された要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群を含むが、他のいかなる要素もしくは整数も、または要素もしくは整数の群も排除しないことを意味すると解釈されるものとする。
【0039】
本明細書で用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上別の解釈が明らかに求められる場合を除き、複数の局面も含む。したがって、例えば、「1つのリガンド」についての言及は、単一のリガンドに加えて、2つまたはそれ以上のリガンドも含み;「1つの分析物」についての言及は、単一の分析物に加えて、2つまたはそれ以上の分析物も含み;「そのフルオロフォア」についての言及は、単一のフルオロフォアに加えて、2つまたはそれ以上のフルオロフォアも含み;「本発明」についての言及は、本発明の単一または複数の局面を含み;他についても同様である。
【0040】
本発明は、フルオロフォアでコーティングされた微小回転楕円体粒子にコンジュゲートされた、多種多様な分析物結合性パートナーまたはリガンドを提供する。これらの粒子が照射されると、「ベースライン」ウィスパリングギャラリーモード(WGM)スペクトルまたはプロファイルが発せられる。微小回転楕円体粒子の各集団は、固有のWGMベースラインシグネチャーを有する。このベースラインプロファイルは、微小回転楕円体粒子の表面上の分析物結合性パートナーまたはリガンドに対する分析物の結合によって変化し、WGMスペクトルにおける検出可能なシフトを引き起こす。
【0041】
本発明の微小回転楕円体粒子には、照射されると蛍光を発するフルオロフォアでコーティングされた微小球が含まれる。発せられた光は微小球内に封じ込められ、球体の内部で共振して、ウィスパリングギャラリーモードまたは「WGM」と命名されている離散的な波長のスペクトルを作り出す。フルオロフォアによる微小回転楕円体粒子のコーティングは、離散的な量子ドットを用いるのとは対照的に、WGMに基づく検出の感度を高める。本発明は、フルオロフォアで(すなわち、量子ドットを用いずに)コーティングされた微小回転楕円体粒子、またはメラミンホルムアルデヒド粒子と組み合わせた量子ドットの使用にも拡張される。微小回転楕円体粒子を、分析物を含む媒質に比してより高い屈折率を有することに基づいて選択してもよい。1つの態様において、微小回転楕円体粒子は1.40を上回る屈折率を有する。
【0042】
本明細書で用いる場合、「量子ドット」または「QD」という用語は、当技術分野において半導体ナノ粒子、ナノ結晶、量子ドットまたはQ粒子として公知である粒子を範囲に含むと解釈されるものとする。
【0043】
「微小回転楕円体粒子」および「微小球」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、そのフルオロフォアに基づいて1つまたは複数のWGMプロファイルを生成することのできる、均質またはそれ以外である任意の材料を含む球状粒子を含む。当業者には明白であるように、均質またはそれ以外であるほぼあらゆる材料を、微小回転楕円体粒子に対して用いうる。本明細書において想定される微小回転楕円体粒子は複数の物質を含んでもよく、そのため外殻、合金、または有機および/もしくは無機物質の混合物を含みうる。微小回転楕円体粒子が、等方性屈折率を有しかつ非吸収性でもある実質的に均質な材料(以下でさらに説明するフルオロフォア以外)を含むならば、本発明の方法によって生成されるデータの定量化のために有利である。
【0044】
本発明の微小回転楕円体粒子は、以下のものからなるリストより選択される材料を含む:メラミン、またはメラミンホルムアルデヒドなどその化学的誘導体;シリカ;ラテックス;チタニア;二酸化スズ;イットリア;アルミナ;他の二成分系金属酸化物;ペロブスカイトおよび他の圧電性金属酸化物;PLGA;スクロース;アガロース;ならびに他のポリマー。
【0045】
特定の態様において、微小回転楕円体粒子は、アミン基、アルデヒド基、硫酸基またはチオール基、カルボキシル基、カルボキシラーゼ基および/またはヒドロキシル基などの化学モイエティーによって官能性が付与されている。1つの局面において、微小回転楕円体粒子は、メラミンホルムアルデヒド(MF)粒子などの、ただしこれには限定されないアミン-アルデヒド粒子である。MF粒子は、アクリロイル修飾された標的オリゴヌクレオチドおよびタンパク質が結合するための強固なコンジュゲーション基質を与える。高品質WGMを処理後に収得しうることから、共有結合は高pH溶液および極限温度に対する曝露後も無傷に保たれる。
【0046】
メラミンはシアナミドの三量体であり、以下としても知られる:1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン;2,4,6-トリアミノ-s-トリアジン;シアヌロトリアミド;シアヌロトリアミンまたはシアヌルアミド。特定の態様において、メラミンはメラミンホルムアルデヒドである。
【0047】
本発明はまた、WGMアッセイにおける磁性粒子の使用にも拡張される。そのような粒子は、非常に正確な固定位置に提示することが可能と考えられる。磁性により助長された粒子固定化は、離散的な単一粒子の分析を可能にし、特注の固定化基質を製作する必要性を軽減する。
【0048】
特定の態様において、コロイド状シリカ、ジルコニアまたはチタニアなどの溶液中でのWGMを維持させる高屈折率粒子を選択する。または、より高屈折率の材料を外殻とする微小球も、有用で理想的なセンサープラットフォームを与える。これらの粒子は吸着層内部に高次ラジアルモード(radial mode)を含み、その結果として、高次モードを含む高Q WGMスペクトルの収得を可能にするはずである。
【0049】
半導体ナノ結晶(例えば、CdSe、CdTe、CdS)の使用は、もう1つの蛍光的に強い代替選択肢をもたらす。溶液中でのWGMを維持させる蛍光的に安定な粒子は、ナノ結晶の単層を均質な微小球に吸着させ、その後に高屈折率外殻を安定化することによって作製しうる。市販の高屈折率材料および粒子のリストは以下に提示している。
【0050】
フルオロフォアという用語は全般的であり、有機色素には限定されず、照射された時に明確に規定された波長の光を発する特性を有する、任意の化学物質、分子または材料も含む。これには、以下のものが非限定的に含まれる;有機色素、有機金属複合体、量子ドット(ナノロッド、ナノワイヤーおよび他の形態、コーティングされたまたはコーティングされていないQD、合金およびそれらの混合物)、希土類イオンまたはそれらの混合物、アップコンバーターおよびさらに赤外発光性フルオロフォア、それらは試料の吸収において有利な可能性がある。窒素により誘導される欠陥または空孔を含むダイアモンドなどの欠陥のある蛍光材料のような他の材料を組み入れてもよい。
【0051】
WGMは、微小球の表面に結びつけられたフルオロフォアによって生成させることができるが、フルオロフォアを微小球の内部に包埋または分布させた場合にも生成させることができる。フルオロフォアの分布はWGMの種々の強度に影響を及ぼすが、本発明においては、表面にあるフルオロフォアと微小球内にあるものとを区別しない。
【0052】
本発明は、一部には、WGM検出手段が、微小球を量子ドットでコーティングすることを要しないことが明らかになったことを基盤においている。
【0053】
したがって、本発明の1つの局面は、媒質中の分析物検出の方法であって、フルオロフォアおよび多種多様なリガンドでコーティングされた微小球を、1つまたは複数のリガンドとリガンド結合性分析物との間の結合イベントを同定するためにWGM検出手段に供する段階を含む方法を提供する。
【0054】
もう1つの局面において、本発明は、媒質中の分析物検出の方法であって、フルオロフォアおよび多種多様なリガンドでコーティングされた、分析物を含む媒質よりも高い屈折率を有する微小球を、1つまたは複数のリガンドとリガンド結合性分析物との間の結合イベントを同定するためにWGM検出手段に供する段階を含む方法を提供する。
【0055】
本発明のもう1つの局面は、媒質中の分析物を検出するための方法であって、以下の段階:
(i)分析物に対する多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階であって、微小回転楕円体粒子がメラミンホルムアルデヒドであるならばそれがフルオロフォアとコンジュゲートされてもよく、または量子ドットを含んでもよい段階;
(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;
(ii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに
(iii)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにウィスパリングギャラリーモード(WGM)検出手段に供する段階、
を含む方法を提供する。
【0056】
「コーティングされた」または「コンジュゲートされた」についての言及は、量子ドットまたはその機能的等価物の助けを借りずに、微小回転楕円体粒子の表面にフルオロフォアを組み入れることへの言及と解釈されるべきである。
【0057】
本明細書で用いる場合、「フルオロフォア」という用語は、蛍光性を呈する任意の分子のことを指す。本明細書において、「蛍光」という用語は、特定波長の光を吸収して、より長い波長の光を再び発する分子の特性と定義される。波長変化は、その過程で起こるエネルギー損失に関係している。「フルオロフォア」という用語は、化学フルオロフォアおよび色素などの、ある範囲にわたるフルオロフォアを範囲に含む。
【0058】
フルオロフォアは、WGMプロファイルの成分分解を容易に行いうる任意の波長を発するように選択することができる。これは発光波長と粒子半径との比に依存する。球体半径が任意であると考えると、発光を紫外(波長範囲が約350nm〜約3nm)、可視(波長範囲が約350nm〜約800nm)、近赤外([NIR)](波長範囲が約800nm〜約1500nm)および/または赤外([IR)](波長範囲が約1500nm〜約10μm)の範囲から好適なように選択することができる。しかし、検出の容易さの理由から、1つの特に好ましい態様において、フルオロフォアは可視波長範囲で検出可能である。
【0059】
1つの特定の態様において、フルオロフォアは赤外励起に応答して可視光線を発する。そのようなフルオロフォアを、本明細書では「アップコンバーター」とも称する。
【0060】
したがって、本発明のもう1つの局面は、分析物を検出する方法であって、微小回転楕円体粒子の少なくとも1つの集団を、分析物を含むことが推定される試料と接触させる段階を含み、微小回転楕円体粒子の集団内の各粒子が、赤外励起に応答して可視光線を発するフルオロフォア、および分析物の固定化された結合パートナーと推定されるものを含み、各粒子集団が規定されたWGMプロファイルを有しており、分析物と固定化された結合パートナーとの結合が、ベースラインWGMプロファイルと比較した場合に、分析物の存在を指し示す、微小回転楕円体粒子の少なくとも1つの集団のWGMプロファイルの変化をもたらすような方法を提供する。
【0061】
特定の態様において、微小回転楕円体粒子は、アミン基、チオール基および/またはアルデヒド基、硫酸基、カルボキシレート基、ヒドロキシル基、アジド(axide)および/またはアルキンなどの化学モイエティーによって官能性が付与されている。さらに、メラミンホルムアルデヒドなどのアミン-アルデヒドをベースとする粒子は、アクリロイル修飾された標的オリゴヌクレオチドおよびタンパク質が結合するための有用な基質を与える。
【0062】
それ故に、本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせ、官能性が付与された微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)官能性が付与された微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)官能性が付与された微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0063】
特定の態様において、本発明は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせたアミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)アミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)アミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)アミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0064】
最も特定的な態様において、アミン-アルデヒド粒子はメラミンホルムアルデヒドである。それ故に、本発明は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせたメラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0065】
粒子がメラミンホルムアルデヒドである場合、量子ドットも使われうる。
【0066】
それ故に、本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアでコーティングされた量子ドットを含むメラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0067】
本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコードする微小回転楕円体粒子である、分析物を含む媒質よりも高い屈折率を有する微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0068】
フルオロフォアに関する唯一の制約条件は、発光がキャビティモード発光をもたらす必要があること、および本発明のフルオロフォアが量子ドットを明確に含まないことである。
【0069】
本発明によるフルオロフォアとして用いうる、当技術分野において利用可能な蛍光色素は多くある。それを用いうる可能性を決定づける、蛍光色素または他のフルオロフォアの重要な特性は、フルオロフォアの励起波長である;それは光源の入手可能な波長に合致しなければならない。しかし、当業者は多くのさまざまな蛍光色素および他のフルオロフォアに精通していると考えられ、蛍光マーカーの選択は本発明をまったく限定しない。
【0070】
微小回転楕円体粒子の標識のために用いうる好都合な「フルオロフォア」には、以下の群から選択される光源を用いて励起させうる任意の蛍光マーカーが含まれる:
(i)アルゴンイオンレーザー‐は、青色の488nm光線を含み、それは緑色から赤色までの領域にある蛍光を発する多くの色素および蛍光色素の励起のために適している。ある範囲にわたる波長(とりわけ458nm、488nm、496nm、515nm)を発する波長可変アルゴンレーザーも利用可能である。
(ii)ダイオードレーザー‐は、発光波長が635nmである。現在利用可能な他のダイオードレーザーには、532nmで動作するものがある。この波長は、ヨウ化プロピジウム(PI)を励起するのに最適である。476nm前後の光を発する青色ダイオードレーザーも利用可能である。そのようなダイオードレーザーは、微小回転楕円体粒子内でWGMを励起させるために好都合に用いることができる。
(iii)HeNe気体レーザー‐は、赤色の633nm光線を伴って動作する。そのようなレーザーは、微小回転楕円体粒子内でWGMを励起させるために好都合に用いることができる。
(iv)発光ダイオード(LED)
(v)HeCdレーザー‐は、325nmで動作する。そのようなレーザーは、微小回転楕円体粒子内でWGMを励起させるために好都合に用いることができる。
(vi)100W水銀アーク灯‐HoechstおよびDAPIのようなUV色素の励起のために最も効率的な光源。
(vii)Xeアーク灯および石英ハロゲン灯‐は、WGMを励起させ、それ故に粒子をセンサーとして利用するための手段として用いることができる。
【0071】
本発明の特定の態様において、蛍光マーカーは以下のものから選択される:Alexa Fluor色素;BoDipy 630/650およびBoDipy 650/665を含むBoDipy色素;Cy色素、特にCy3、Cy5およびCy 5.5;6-FAM(フルオレセイン);フルオレセインdT;ヘキサクロロフルオレセイン(HEX);6-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシフルオレセイン(JOE);488-Xおよび514を含むOregonグリーン色素;ローダミングリーン、ローダミンレッドおよびROXを含むローダミン色素;カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA);テトラクロロフルオレセイン(TET);ならびにテキサスレッド。
【0072】
微小回転楕円体粒子を蛍光標識するには、内部染色および外部染色(表面標識)という2つの染色手法がよく用いられる。この2つの手法により、それぞれが異なる用途に有益な、固有の性質を有する粒子が作製される。内部染色では、典型的には狭い蛍光発光を伴う極めて安定な粒子が作製される。これらの粒子は多くの場合、光退色に対してより大きな耐性を示す。フルオロフォアが粒子の内部にあるため、表面基を、リガンド(タンパク質、抗体、核酸など)をビーズ表面にコンジュゲートさせる用途に利用することができる。この理由から、分析物の検出およびイムノアッセイの用途には内部標識された粒子を用いることが典型的である。表面標識は、微小回転楕円体粒子の表面に対するフルオロフォアのコンジュゲーションを伴う。フルオロフォアは粒子の表面にあるため、それらは染色された細胞上にあるフルオロフォアと同じようにその環境と相互作用することができる。結果として、染色された細胞試料と同じ励起特性および発光特性を、混入物の存在またはpHの変化といった多種多様な条件下で示す粒子標準になる。表面標識された粒子の「環境応答性」のため、表面標識された粒子は生物試料を模倣するのに理想的に適している。外部標識された粒子は、蛍光検出を利用する数多くの用途において対照および標準として頻繁に用いられる。しかし、本発明は、任意の手段を介した粒子と蛍光標識の会合を想定している。
【0073】
本明細書で用いる場合、「フルオロフォア」という用語は、複数のフルオロフォアおよびフルオロフォアの混合物も範囲に含むと解釈される必要がある。微小回転楕円体粒子上でのそのようなあらゆるフルオロフォアの使用は、本明細書に記載された方法および試薬の範囲内にあるとみなされるべきである。
【0074】
本発明によれば、任意の特定のフルオロフォアの発光は、微小回転楕円体粒子におけるフルオロフォアの分布、フルオロフォアの種類およびフルオロフォアの濃度に依存することが示された。しかし、本発明の方法は、フルオロフォアが微小回転楕円体粒子の表面にあるか、微小回転楕円体粒子内に外殻として存在するか、微小回転楕円体粒子のコアに位置するか、または列挙した位置の複数に存在するかにかかわらず、依然として実施可能である。
【0075】
本発明の方法はフルオロフォアからの発光のクエンチングを根拠においているのではないことに注目すべきである。しかし、本発明の方法は、一部には、分析物と、微小回転楕円体粒子の表面に固定化された結合パートナーとの相互作用または会合の結果としてのフルオロフォアのWGMプロファイルのモジュレーション(すなわち、変化)を根拠においている。
【0076】
電磁放射線について論じる場合、WGMとは、入射光がその周囲の媒質よりも屈折率の高い粒子と相互作用した場合に成立しうる電磁共振のことである。WGMは所与の粒子サイズに対する特定の光共振波長で生じ、WGMの性質は、とりわけ、WGMを含む粒子のサイズならびに粒子および周囲媒質の両方の屈折率に伴って変化しうる。さらに、粒子のサイズは、そこで成立するWGMにも影響を与える可能性がある。WGMは、入射光が粒子表面で全内部反射をする場合に成立する。
【0077】
全内部反射(TIR)は、2つの非吸収性媒質間の境界面で起こりうる。より屈折率の高い媒質中を伝播する光のビームが、臨界角を上回る入射角度で、より屈折率の低い媒質との境界面に当たると、その光は境界面ですべて反射され、屈折率の高い媒質中に戻って伝播する。当業者には明白であろうが、3次元の媒質中で、光はより屈折率の高い粒子内で何回も反射しうる。WGMでは、光は粒子の周縁近くに集中し、それにモード数およびモード次数を割り当てることができる。モード数nは粒子の周縁周りの波長の数を提示し、モード次数lは粒子内の電磁場の径方向依存性における最大の数を提供する。
【0078】
粒子上に埋め込まれた蛍光発光体は、本明細書における定義の通り、規定されたWGMプロファイルを呈する。これらのモードは、ある特定の波長の光のみが粒子から放出されるのを可能にする。この現象の結果は、フルオロフォアの通常の比較的幅広い発光スペクトル(例えば、フルオロフォアは典型的には10〜100nm幅のバンド内で発光する)が制約されて、粒子内の定在モードパターンの光に事実上対応する鋭い一連の「ピーク」として現れる。本発明の微小回転楕円体粒子におけるWGMの成立の結果として生じるこの一連のピークは、本明細書において「ウィスパリングギャラリーモードプロファイル」または「WGMプロファイル」と呼ばれる。
【0079】
WGMプロファイルは、埋め込まれたフルオロフォアの位置およびそれらの濃度、ならびに互いに対するそれらの空間的構成の両方に対して極めて高感度である。粒子サイズおよび屈折率は、WGMプロファイルに見られる発光波長を決定する上で最も重要な2つのパラメーターである。
【0080】
WGMプロファイルにおける1つまたは複数のピークの位置および振幅は、微小回転楕円体粒子と、試料または外部環境内の分子との相互作用または会合によって強く影響される可能性があると提唱する。
【0081】
1つの例において、微小回転楕円体粒子に対する分子の会合または結合は、微小回転楕円体粒子の有効屈折率を変更し、微小回転楕円体粒子によって生成されるWGMプロファイルを変更する。
【0082】
当技術分野において公知である多くの手段の任意のものが、フルオロフォアを微小球の表面にコンジュゲートさせるのに適している。微小球表面は、フルオロフォアまたは任意の生体分子もしくは化学分子を含む分子の疎水性吸着または共有結合のために最適化すること、または官能性を付与することができる。本発明は、微小球を標識するための量子ドットの使用には拡張されず、それを明確に除外する。
【0083】
微小球の表面は、以下のものを含む任意のさまざまな官能基の付加によって官能性を付与することができる:アジド基、アルキン基、マレイミド基、スクシンイミド基、エポキシド基、メタクリレート基、アクリロイル基、アミン基、アルデヒド基、硫酸基またはチオール基;カルボキシル基;カルボキシレート基;ヒドロキシル基;など。
【0084】
1つの態様においては、核酸分子を、シリカ微小球のイオウでコーティングされた表面に共有結合させる。3-メルカプトプロピルトリメトキシシランによるシラン化に続いて、徹底的な洗浄を用いることで、この表面を作り出す。核酸分子、例えばDNAオリゴヌクレオチドは、5'チオール基またはアクリル基を伴うように製造し、表面上の非結合型イオウと結びつける。
【0085】
本発明のリガンドは1つの種には全く限定されず、これには以下のものからなる群より選択されるリガンドが含まれる:核酸;抗体;ペプチド;ポリペプチド;糖質;脂質;糖タンパク質;リポタンパク質;リポペプチド;リポ多糖;有機低分子および無機低分子。抗原または抗体でコーティングされた場合、その粒子は「イムノ-WGM」アッセイまたは「イムノベースWGM」アッセイに用いられる。
【0086】
「核酸」、「ヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」という用語は、RNA、cDNA、ゲノムDNA、合成形態および混合ポリマー、センスおよびアンチセンス鎖の両方を含み、当業者には容易に理解されるであろうが、化学的もしくは生化学的に修飾してもよく、または非天然の、もしくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含んでもよい。そのような修飾には、例えば、標識、メチル化、天然に存在する1つまたは複数のヌクレオチドの類似体(モルホリン環など)による置換、非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメートなど)、荷電結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)、ペンダントモイエティー(例えば、ポリペプチド)、挿入剤(例えば、アクリジン、ソラレンなど)、キレート剤、アルキル化剤、および修飾結合(例えば、α-アノマー核酸など)などのヌクレオチド間修飾を含む。水素結合および他の化学的相互作用を介して指定の配列と結合する能力の点でポリヌクレオチドを模倣する合成分子も同じく含まれる。そのような分子は当技術分野において公知であり、これには例えば、分子の骨格内でリン酸結合がペプチド結合に置換されたものが含まれる。
【0087】
「抗体」という用語は、抗原と合体する、相互作用する、または他の様式で会合することが可能な免疫グロブリンファミリーのタンパク質のことを指す。したがって、抗体は抗原結合分子である。「抗原」という用語は、抗体の抗原結合部位と反応するかまたは結合することが可能な物質を指すために、その最も広義の意味で本明細書において用いられる。本発明に関して、抗原は抗体のイディオタイプも含む。
【0088】
「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる、1つまたは複数のポリペプチドからなるタンパク質のことを指すために本明細書において用いられる。一般に認められている免疫グロブリン分子は、κ、λ、α、γ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、δ、εおよびμ定常領域、軽鎖(κおよびl)、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域を含む。免疫グロブリンの1つの形態は、抗体の基本構造ユニットを構成する。この形態は四量体であり、免疫グロブリン鎖の2つの同一な対からなり、それぞれの対は、1つの軽鎖および1つの重鎖を有する。それぞれの対において、軽鎖および重鎖可変領域は一緒になって抗原との結合を担い、定常領域は抗体エフェクター機能を担う。抗体のほかに、免疫グロブリンは、例えば、Fv、Fab、Fab'および(Fab')2、ならびにキメラ抗体を含む種々の他の形態で存在することもでき、これらの変異体のすべてが、本明細書で用いる「抗体」という用語の範囲に含まれる。加えて、他の動物(例えば、鳥類、哺乳動物、魚類、両生類、および爬虫類)に由来する免疫グロブリンも、命名法は異なるものの同様の機能を有しており、これらも同様に「抗体」とみなされる。
【0089】
1つの態様において、分析物結合性リガンドは一本鎖DNA突出部を含むDNA分子であり、検出しようとする分析物は、そのリガンドとハイブリダイズしうる核酸分子である。ハイブリダイゼーションが起こると、WGMプロファイルにおけるシフトが検出可能である。その反対に、相補的核酸配列間のハイブリダイゼーションがなければ、WGMプロファイルにおけるシフトは起こらない。
【0090】
具体的な態様において、分析物結合性パートナーまたはリガンドは、(i)一本鎖DNA突出部を生成する酵素、例えば制限エンドヌクレアーゼによる二本鎖DNAの消化;および(ii)エキソヌクレアーゼ酵素による消化、によって調製されるDNA分子である。その結果生じる消化されたDNAは、とりわけ、相補的一本鎖核酸とハイブリダイズすることのできる一本鎖DNAを含む。
【0091】
「制限エンドヌクレアーゼ」は、本明細書で用いる場合、DNA分子内の特異的配列の箇所でヌクレオチドを加水分解するヌクレアーゼ酵素のことを意味する。制限エンドヌクレアーゼには、I型、II型およびIII型制限エンドヌクレアーゼが含まれる。
【0092】
表2は、4塩基の5'突出部を生成するI型およびII型制限エンドヌクレアーゼのサブセットを列記している。
【0093】
(表2)I型およびII型制限エンドヌクレアーゼ 4塩基の5'突出部
【0094】
表3は、大部分が4塩基長である3'突出部を生成するI型およびII型制限エンドヌクレアーゼのサブセットを列記している。
【0095】
(表3)I型およびII型制限エンドヌクレアーゼ 大部分が4塩基である3'突出部
【0096】
「エキソヌクレアーゼ」は、本明細書で用いる場合、DNA鎖の末端からヌクレオチドを加水分解するヌクレアーゼ酵素のことを意味する。分析物結合性リガンドおよび/または検出しようとする分析物の調製のために適したエキソヌクレアーゼ酵素の一例は、ラムダ(λ)エキソヌクレアーゼである。λエキソヌクレアーゼは、二本鎖DNAを5'から3'への方向に分解する二本鎖DNAエキソヌクレアーゼである。λエキソヌクレアーゼは、DNAの5'末端が二本鎖であってリン酸化されていることを必要とする。λエキソヌクレアーゼ消化は、二本鎖DNAの特異的な鎖を選択的に分解して、一本鎖DNA分析物結合性リガンドおよび検出しようとする分析物を生成させるために用いることができる。
【0097】
具体的な態様において、本発明の微小回転楕円体粒子は、ウイルス、細菌、酵母または寄生生物などの病原体に由来する核酸でコーティングされる。結合イベントの検出により、試料中の相補的核酸の存在が指し示され、それ故に試料中のおよび/または試料の源での病原体の存在が指し示される。
【0098】
「相補的な」とは、本明細書で用いる場合、オリゴマー性化合物の2つの核酸塩基間での正確な対合の能力のことを指す。例えば、オリゴヌクレオチド(オリゴマー性化合物)のある特定の位置にある核酸塩基が、標的核酸のある特定の位置にある核酸塩基と水素結合を形成することができ、前記標的核酸がDNA、RNAまたはオリゴヌクレオチド分子であるならば、そのオリゴヌクレオチドと標的核酸との間の水素結合の位置は、相補的な位置であるとみなされる。オリゴヌクレオチド、さらにDNA、RNAまたはオリゴヌクレオチド分子は、各分子中の十分な数の相補的位置が、互いに水素結合を形成しうる核酸塩基によって占められている場合には、互いに対して相補的である。したがって、「特異的にハイブリダイズしうる」および「相補的な」は、オリゴヌクレオチドと標的核酸との間で安定かつ特異的な結合が起こるような、十分な数の核酸塩基にわたる十分な度合いの正確な対合または相補性を指し示すために用いられる用語である。
【0099】
本発明は、単一試料中の多様な分析物の存在に関して検査を行うために特に有用である。
【0100】
検出しようとする分析物の実体を知ることは必ずしも必要ではなく、分析物またはリガンドを、例えば蛍光標識または放射性標識で標識することも必ずしも必要ではない。
【0101】
WGM検出手段の感度が高いことから、本発明は、試料中に低濃度で存在する稀な分析物の検出のために有用である。例えば、具体的な態様において、本発明は、微量元素または混入物、例えば、食品および医薬中のアレルゲン、発熱物質および微生物学的または化学的な混入物;環境的および産業的な試料中の汚染物質または毒物;爆発物;生物兵器テロの病原体などの検出のために有用である。本明細書で用いる場合、「稀な」という用語は、低い頻度でしか存在しない、または珍しい、または数が相対的に少ない、または濃度が相対的に低いことを意味する。
【0102】
本発明はまた、特定のリガンドと結合することが以前から知られている分析物の同定のためにも有用である。例えば、本発明の具体的な態様においては、微小回転楕円体粒子を、触媒部位、またはリガンド結合と推定される部位のコンフォメーションが無傷である酵素または受容体分子でコーティングする。そのような粒子と結合する分析物は、酵素活性または受容体リガンド結合のアゴニストまたはアンタゴニストであると推定される。換言すれば、本発明は薬物の同定および設計のために有用である。
【0103】
合理的薬物設計は、例えば、ポリペプチドのより活性の高いもしくはより安定な形態である薬物、または例えば、インビボでのポリペプチドの機能を増強もしくは妨害する薬物を作ることを目的とする、関心対象の生物活性ポリペプチドの、またはそれらと相互作用する低分子(例えば、アゴニスト、アンタゴニスト、阻害薬または増強薬)の構造的類似体の作製を可能にする。例えば、Hodgson(Bio/Technology 9:19-21, 1991)を参照のこと。1つのアプローチでは、まず、X線結晶学により、コンピュータモデリングにより、または最も典型的にはアプローチの組み合わせにより、関心対象のタンパク質の3次元構造を決定する。ポリペプチドの構造に関する有用な情報を、相同タンパク質の構造に基づくモデリングによって得ることもできる。合理的薬物設計の例は、HIVプロテアーゼ阻害薬の開発である(Erickson et al., Science 249.527533, 1990)。加えて、標的分子をアラニンスキャニングによって分析することもできる(Wells, Methods Enzymol. 202:2699-2705, 1991)。この手法では、アミノ酸残基をAlaに置き換えて、ペプチドの活性に対するその影響を判定する。ペプチドのアミノ酸残基のそれぞれをこのようにして分析して、ペプチドの重要な領域を明らかにする。
【0104】
もう1つの態様において、本発明は、特定の病的状態および疾患と関連性のある遺伝子またはそれによりコードされるタンパク質の検出のために有用である。例えば、具体的な態様においては、本発明の微小回転楕円体粒子を、ヒト癌において発現されることが知られている特定のリガンドもしくはリガンドのライブラリーでコーティングするか、またはその反対に、癌と関連性のあることが知られている抗原に対して特異的な抗体もしくは抗体のライブラリーでコーティングする。このため、結合イベントの検出により、癌と関連性のあることが知られている分析物が試料中に存在することが指し示される。その感度が高いことから、本発明のWGM検出手段は、とりわけ、癌の早期発見のための方法を提供する。
【0105】
さらなる態様において、リガンドまたは検出しようとする分析物は、一塩基多型(SNP)または特定の翻訳後修飾を含む。
【0106】
本発明の方法は、例えば、医学、獣医学、農業、法医科学、生物工学、食品工学、スポーツ科学、栄養学、製造、薬物の設計および開発、生体防御、爆発性物質、殺虫剤、肥料および毒素の検出の分野における、いくつかの用途のために有用である。
【0107】
さらに、本発明の方法は、遺伝性疾患、癌、自己免疫疾患、アレルギー、感染症、心疾患、神経疾患、タンパク質症(proteopathy)および代謝性疾患、ウイルス性および細菌性の疾患および汚染を含む、病的状態または疾患の診断、天然試料中の未知の細菌またはウイルスまたは他の微生物の同定のためにも有用である。
【0108】
さらになお、本発明の方法は、とりわけ、組織型判定、血液型判定、遺伝子検査、薬物検査、血液分析物の分析、アルコール検査、妊娠検査などのためにも有用である。
【0109】
本発明の方法は、生物試料を分析物の存在に関してスクリーニングするために特に有用である。「生物試料」は、数ある源の中から例を挙げると、環境試料、生物抽出物、植物または動物の抽出物、血清、尿、滲出物、精液、血漿、土壌試料、河川試料または密封試料、地球外試料のような、生物的な源に由来する試料と解釈されるものとする。
【0110】
本発明のもう1つの局面は、バイオセンサーを提供する。「バイオセンサー」は、本明細書で用いる場合、極めてわずかな数量を含む数量を、または生化学的もしくは化学物質の変化を検出するための、分子間結合イベントが自動記録されてデータに変換されるようなセンサーデバイスのことを意味する。
【0111】
「バイオセンシング」とは、本明細書で用いる場合、生化学的相互作用を定量可能な物理的シグナルに変換する、生体分子、生体構造、微生物などの存在または濃度を測定するために生体分子プローブを用いる種々の手順のうち任意のものを意味する。
【0112】
本発明のバイオセンシングの用途は全く限定されず、これには以下のものが含まれる:環境的用途、例えば、農薬および河川水混入物の検出;例えば対生物兵器テロリスト活動における、空中浮遊細菌またはその胞子の遠隔検知;病原体の検出;バイオレメディエーションの前および後の毒性物質のレベルの決定;有機リン酸塩の検出;生化学的分析物のルーチンな分析的測定;食品中の残留薬物、例えば抗生物質および成長促進物質などの検出;薬物探索および新たな化合物の生物活性の評価。
【0113】
本発明は、とりわけ、WGM検出システムに基づく光学的バイオセンサーを提供する。特定の態様において、バイオセンサーは、小型かつ携帯型である。本発明のバイオセンサーは、分析物の迅速かつ高感度の検出のための手段を提供する。
【0114】
1つの態様において、バイオセンサーは、研究室および分析検査室において、ならびに野外において簡便に用いるのに特に適合している。WGM検出装置はそれ自体が、自己完結化、小型軽量化および携帯性に対応可能である。重要なこととして、この適合性は、かさばる構成要素および高価な構成要素を必要とすることなしに、卓上または野外での迅速かつ簡便な分析物検出を可能にする。
【0115】
本発明の特定の態様において、WGM検出装置は、かさばる電源または光源も、高価な分光光度計または光学レンズも必要としない。例えば、いくつかの態様は60倍顕微鏡用対物レンズを備えており、非冷却型分光光度計を0.5nmスリット幅で用いる。いくつかの態様において、WGM検出装置はバイオセンサーである。
【0116】
約10μW〜約2000μWの電源で、本発明の方法によるWGMスペクトルデータを生成させるには十分である。
【0117】
1つの態様においては、フルオロフォアをコンジュゲートさせた本発明の微小回転楕円体粒子に、光を約20〜2000ミリ秒間にわたり曝露させる。波長532nMの光が、本発明によるWGMスペクトルを生成させるためには特に適している。
【0118】
ある局面においては、本発明の微小回転楕円体粒子を、固体支持体マトリックス、例えばガラスに対して「焼き付け」によって固定化する。固体支持体は、その中を赤外、可視および紫外スペクトルの光が透過しうるような材料を含む。
【0119】
1つの態様においては、微小球を、40℃を上回る温度で10分間よりも長い時間をかけて、ガラス表面に乾燥させる。
【0120】
本システムの鍵となる要求条件は、スペクトルを自動的に比較して、前および後の結合の差を定量することができることである。これは、時間-モードスペクトルの対数変換を用いることによって実現されている。
【0121】
本発明はまた、WGM手段による分析物検出のためのキットも提供する。そのようなキットは、多種多様な分析物結合性リガンドが結びつけられた、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子を含む。1つの態様においては、微小回転楕円体粒子をガラス表面に固定化する。微小回転楕円体粒子につなぎ止められる多種多様なリガンドは、特定の一連の分析物を検出するように設計することができる。例えば、1つの具体的な態様においては、環境試料を、例えば、レジオネラ菌(Legionella pneumophila)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のような、公衆衛生上意義のある1つまたは複数のヒト病原体の存在に関して検査する。1つの態様においては、微小球を、数多くの異なる病原体に由来する核酸のライブラリーでコーティングする。微小回転楕円体粒子につなぎ止めるためのリガンドの組み合わせは限定されない。
【0122】
微小回転楕円体粒子がメラミンホルムアルデヒドである場合には、キットは量子ドットも含みうる。
【0123】
「環境試料」とは、本明細書で用いる場合、空気、水または土壌といった環境性の源から収集した任意の材料の標本のことを意味する。「環境性の源」は、本明細書で用いる場合、天然環境、人工的環境または地球外環境に関係している。他の試料には食品試料が含まれる。それ故に、WGMアッセイは、食品産業、環境水検査、農業産業、生物兵器テロ検査、および薬理学的検査にとって有用である。
【0124】
粒子を、継続使用およびハイスループットスクリーニングのために再生利用してもよい。
【0125】
WGMに対する変化は、分析物の存在を指し示す。また、特定の微小球のWGMピークの相対的強度、線幅および波長の変化から、さらなる情報を拾い集めることも可能である。
【0126】
以下の非限定的な実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0127】
実施例1
多種多様なDNAリガンドをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子(QSand-商標)は、分析物と結合した時にWGMの一定シフトを示す
多種多様なDNAリガンドをコンジュゲートさせ、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子(QSand[商標:シリカ粒子])は、特定の分析物の結合後に、測定可能であってかつ一定した差を示した。直径が4.87、5.6、6.8または7.5μmのいずれかである微小回転楕円体粒子に、ヌクレオチド位置1にTMRタグを有する多種多様な22-mer DNA分子をコンジュゲートさせた。相補的22-merとのハイブリダイゼーションの前および後にWGMを収得した(図1)。
【0128】
実施例2
バイオセンシングのためのWGM装置の最適化
WGM検出システムを小型軽量化、自己完結化および携帯性に関して適合させうるか否かを明らかにするために、いくつかのパラメーターを評価した。
【0129】
図2は、WGM検出システムの略図を提示している。まず、光源の出力を、WGM分解能に対するその影響を明らかにするために変化させた。6.3、50.2、214.5または1160.5μWの光源用の入射出力(532nm、200ミリ秒)は、WGMの成分分解を行うのに十分であった(図3B)。そのような出力は、標準的な安価なレーザー(光ポインター)を用いて達成可能である。
【0130】
励起時間を、WGMに対するその影響を明らかにするために変化させた。WGMを、10、60、200および1000ミリ秒間の入射光(50μW、532nm)の曝露後に評価した。200msという短い曝露時間でWGMの成分分解を行うには十分であり(図4C)、鮮明度は5秒間の曝露時間に至るまで低下することが明らかになった(図4E)。
【0131】
出力50マイクロワットの光に対する200ミリ秒間の曝露が、高品質のWGMのために妥当であることが示された。
【0132】
実施例3
WGMバイオセンサーのプロトタイプ
プロトタイプWGMバイオセンサーを、微小回転楕円体粒子に対する分析物の結合の前および後に、十分に成分分離されたWGMスペクトルがもたらされるように、仕様に合わせて製造する。デバイスはおよそ30×15×15cmおよび2〜5kgであり、電源、光源、試料取り扱いチャンバーおよび分光光度計を含む完全に自己完結的なものである。
【0133】
実施例4
微小回転楕円体粒子の固定化
微小回転楕円体粒子(QSand[商標:シリカ粒子])を、ガラス製の顕微鏡用スライドカバースリップの表面にランダムな配置で固定化した(図5)。QSand(商標)粒子が固定化されたカバースリップは、分光光度計のスリット内に直接連結させることができた。
【0134】
実施例5
単一の蛍光性微小球においてウィスパリングギャラリーモードを用いた、標識されていないオリゴヌクレオチド標的の検出のための単一粒子プラットフォームの開発および特性評価
本実施例では、廉価で高感度のウィスパリングギャラリーモード(WGM)に基づくバイオセンシングシステムの開発について示す。本システムは、フルオロフォア、および一本鎖オリゴヌクレオチドの密な単層により官能性が付与されたシリカ微小球を含む。相補鎖の吸着は微小球の発光スペクトルにおけるスペクトルシフトを引き起こし、それを従来の光学的顕微鏡およびCCD検出器を用いて自動記録することができる。
【0135】
材料
7.50μmのSiO2微小球は、Microparticles GmbH, Berlin, Germanyから得た。5.06μmおよび6.80μmのシリカ粒子は(Bangs Laboratories Inc, USA)から得た。フォトエッチングが行われたグリッド入りカバースリップ(18×18mm)は、Bellco Glass, Vineland, NJ, USAから購入した。(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン((3-mercaptopropyl)trimentoxysilane)(MPS、95%);テトラエチルオルトシリケート(TEOS、98%)、ポリビニルピロリドン(PVP、MW 40,000)、水酸化アンモニウム(水中で29.1% wt%のNH3);(2-[N-モルホリノ]エタンスルホン酸)水和物(MES)、酢酸ナトリウム(NaOAc)、過硫酸アンモニウム(>98%)およびジメチルスルホキシド(>99.9%)は、Sigma-Aldrichから入手した。分析用グレードの硝酸、エタノール、メタノールおよび2-プロパノールは、Merck, Victoria, Australiaから得た。スクシンイミジルエステル色素標識テトラメチルローダミン(TMR)、Bodipy 630/650およびAlexa 647は、Olecular Probes, Eugene, USAから購入した。全体を通じて、Milli-Qグレード(R>18MΩcm)の水を用いた。アクリロイル修飾オリゴヌクレオチドは組織内で設計し、Integrated DNA Technologies, Coralville, Iowa, USAにより構築された。オリゴヌクレオチド構築物は乾燥状態で受け取り、使用前に超精製Milli-Q H2Oにより200μMに再懸濁させた。
【0136】
特性評価用の計器類
Ocean optics設備
実験は、Nikon Eclipse TE2000-S顕微鏡上で行った。微小球蛍光の励起は、80W Nikon水銀ランプを用い、420〜490nmフィルターブロックを通して達成した。励起された微小球からのウィスパリングギャラリーモード発光シグナルを、QE6500 Ocean Optics分光光度計を用いて空気中で取り込んだ。データはすべて、対応するSpectra Suiteソフトウエアを用いて取り込んだ。典型的には、WGMスペクトルは、1〜2秒間以内に、スペクトル分解能±0.9nmで、800msの積算時間で収集した。フィルターを通した励起光を、35.52mWという一定の放射電力で測定した。粒子の撮像は、Nikon Plan Fluor油浸100倍対物レンズを通して、作動距離1.30mmで行った。スペクトル分解能(±0.9nm)は、蛍光ピーク波長を測定することのできる精度を規定する。WGM応答曲線におけるピークシフトは、0.1nmから最大で数nmまでの間でルーチンに観察可能である。製造元によって提示されている光学的分解能は、0.14nm〜7.7nm FWHMのピークをルーチンに検出しうることを指し示している。
【0137】
QE6500を利用する場合には、575nm、585nm、605nmで観察されるピークを、これらの波長での信号雑音比の低さおよび個々のピークの鋭さを理由として、参照ピークとして一般に用いた。
【0138】
共焦点顕微鏡検査
場合によっては、Lympus共焦点顕微鏡に接続した窒素冷却式TRIAX 550分光光度計(Horiba Jovin Yvon, USA)を、スペクトル分解能±0.05nmでスペクトルを収集するために用いた。いずれの計器類による結果も実験誤差の範囲内で同じであった。感度(較正スペクトル分解能±0.05nm)およびスキャニング範囲(o〜1500nm)の能力が高められたTRIAX 500分光計(spectromer)を、Ocean Optics設備と組み合わせて利用することで、特に極めて低濃度のDNA試料を検出する場合に、WGMシフトを確認およびモニターするための有効なプラットフォームが提供される。
【0139】
定常状態の発光スペクトルを、Jobin Yvon Fluorolog-3蛍光計で記録した。この顕微鏡設備および用いたスキャン条件のより広範な概略については実施例6で扱っている。
【0140】
走査型電子顕微鏡(SEM)
微小球の画像はまた、Philips XL-30電解放射型SEMを用いても収集した。これを行うためには、微小球をMilli-Q H2Oで洗浄し、12mmの円形シリカ基板上に直接固定化して、続いてそれをSEMのスタッド上にマウントする。試料には、Edwards S150B Sputter Coaterを用いて、3〜5nmの金をスパッターコーティングした。
【0141】
オリゴヌクレオチド断片の設計および構築
この検討のみを目的として、以下の一本鎖標的および相補的オリゴヌクレオチド配列をランダムに設計して命名した;このため、既知の遺伝子配列との相同性は偶発的であり、無視されるべきである。設計した配列の合成および受注は、integrated DNA technologies, Coralville, Iowa, USAにより行われた。オリゴヌクレオチドは200μMの作業用ストック液として超純度のMilli-Q H2O中に保った。
【0142】
オリゴヌクレオチド配列、および本実施例の全体を通じて用いる略記名を以下に提示する。「iAm」という修飾語は、DNA断片上の非結合型内部アミン基(例えば、フルオロフォアを結びつけるために用いられる)を提示しており、これは本質的には非結合型-NH基が結びついているTヌクレオチド塩基である。
【0143】
配列/Acrd/は、オリゴヌクレオチド配列と結びつけられた5'アクリロイル基(Acrydite-商標、Integrated DNA Technologies, USA)基を表し、/iAm/は、フルオロフォアの結びつけのために用いられる非結合型の内部アミン基を有する、修飾されたTヌクレオチド塩基の位置を特定している(Integrated DNA Technologies, USA)。
【0144】
方法
微小球表面への官能性付与
この検討に用いたシリカ微小球には、標準的な文献上の手順(Battersby et al, Chemical Communications 14:1435-1441, 2002;Corrie et al, Langmuir 22(6):2731-2737, 2006;Miller et al, Chemical Communications 38:4783-4785, 2005;Johnston et al, Chemical Communications 7:848-850, 2005;Verhaegh and Vanblaaderen, Langmuir 10(5):1427-1438, 1994)を用いて、チオール基により官能性を付与した。未処理微小球の5mLアリコートを、20mLのMilli-Q H2O中で、1800rpmでの2分間の遠心によって洗浄した。ペレットを20mLの1.5M硝酸中に再懸濁させ、その後にモーター付き撹拌ホイール上で30分間穏やかに転置させた;この過程を3回繰り返した。続いて微小球を2-プロパノールの20mLアリコートにより洗浄し、80℃の2-プロパノール(20mL)中で一定の撹拌を行いながら還流させ、その間に30分毎に(100μL)の0.5% v/vの純MPSを4時間の期間にわたって投与することで、粒子にメルカプタン基により官能性を付与した。官能性が付与された球体を1800rpmで2-プロパノールにより洗浄し、10mLの新たな2-プロパノール中に再懸濁させた。この微小球スラリーをアリコートに分け、8000rpmで5秒間かけてペレット化した上で、乾燥器内で窒素下に230分間おいて乾燥させた。最後に、完全な2-プロパノール蒸発(90℃)が確実に起こるように、加熱ブロック上で30分間、それらを激しく撹拌しながら熱硬化させた。官能性が付与された微小球はすべて、窒素下にて4℃で乾燥貯蔵した。上記の手順はシリカ表面の再現性のある密な官能性付与をもたらし、さらに貯蔵後の微小球の定量的な再ペプチゼーション(repeptization)も確実に行わせる。
【0145】
表面層を有するナノ結晶がドープされた微小球の合成
発光極大593nmのオレンジ色を発光し、FWHM 32nmであったCdSe@ZnSナノ結晶コア/外殻を用いた。10μMストック溶液からアリコートを採取した。MPSにより官能性が付与されたシリカビーズをCdSe@ZnSコア外殻ナノ結晶(nonocrystal)と1:2.5の比で混ぜ合わせ、徒手的に振盪させ、続いて回転器の上に載せて最小限のrpmで15分間〜1時間おいた。不動態化の後に、2-プロパノールを用いて2つの相を乳化し、コロイド状懸濁液を800rpmで5秒間かけて遠心沈降させた;続いて上清を廃棄し、数回のCHCl3洗浄を行って、遊離性または吸着されなかったナノ結晶を除去した。不動態化されたCdSe@Zns微小球をコーティングするためには60個/表面積nm2のPVP分子が必要であり、PVPは反応溶媒CHCl3:2-プロパノール中に9:1比で1時間撹拌して溶解させた。不動態化されたペレットを反応混合物中に再懸濁させ、短時間のボルテックス処理を行い、反応物を一晩反応させた。PVP分子上のピロリドン環内の極性アミド基は、ほぼ間違いなく、共有結合を介したナノ結晶表面への化学吸着を促すと考えられる。加えて、分子の両親媒性のために、このコーティングは微小球に安定性(疎水性および水中での安定性)を与え、分子が多くの表面に吸収されることを可能にする。これはカップリング剤を使用することなく、最終的なシリカ外殻コーティングに対する粒子の親和性を高める。翌日に、反応させた粒子を2-プロパノール中で数回洗浄し(8000rpm;5秒間)、新たな2-プロパノール中に4℃で保った。微小球のキャッピングをTEOSの1:200溶液中で行い、反応物中のPVPでキャッピングされた粒子および1:200比の容積のTEOS(PVPでキャッピングされた微小球0.005g当たり100μL)の1mLにつき、1mLの4.2%(H2O中)NH3溶液を利用した。TEOSを撹拌下で添加して一晩反応させ、その後に2-プロパノール中で数回洗浄した。微小球はすべて2-プロパノール中に懸濁化された状態のままとし、4℃で保った。
【0146】
オリゴヌクレオチド塩基に特異的な標識
受容された5'アクリロイルenlおよび対照オリゴヌクレオチド配列の非結合型の内部アミン基の色素標識を行うために、200μMのオリゴヌクレオチドストック液15μLを、3.5μLのTMRスクシンイミジル(succinimdyl)エステル-フルオロフォアおよび4.5μLの1M NaHCO3溶液とエッペンドルフチューブ内で混ぜ合わせた。この溶液を室温で2時間、暗所にて(色素の光退色を最小限に抑えるため)、時折混合しながらインキュベートした。標識されたオリゴヌクレオチドを洗浄して沈降させるために、調製物を、反応物に直接添加した58μLのMilli-Q H2O、10μLのNaOAcおよび200μLのエタノールの混合物で処理し、続いてこの溶液を-20℃の冷凍器内に30分間貯蔵した。試料を続いて13,800rpmで20分間遠心し、上清を除去した。これらの段階を、試料上清が余分なフルオロフォアを含まなくなるまで繰り返した。最後に、標識されたオリゴヌクレオチドを、100μLの超純度Milli-Q H2Oにより、200μMの作業用ストック液となるまで希釈し、-20℃の冷凍器内で貯蔵した。
【0147】
微小球に対するアクリロイルオリゴヌクレオチドのカップリング
チオール官能性が付与された微小球の、enlおよび対照標的5'アクリロイル修飾オリゴヌクレオチドによる誘導体化を、標準的なプロトコール(Hermanson, Bioconjugative Techniques, Sand Diego: Academic Press Incorporated, 785, 1996)を用いて、以下の通りに行った:エッペンドルフチューブ内に0.002gの官能性が付与されたMPS微小球を秤量して入れ、続いて微量遠心(8000rpmで5秒間)を介して100μLのメタノールで飽和させ、上清を廃棄した。このペレットを新たに調製した0.5M MES(pH 5.4)中に再懸濁させ、その後にアクリロイルで修飾してTMRで標識した200μMのオリゴ体配列(enlまたは対照)15μLを、100μLの新たに調製した10% w/v過硫酸アンモニウム(w/v)とともに添加した。この反応物をボルテックス処理し、続いてモーター付きホイール上で穏やかに1時間かけて混合した。カップリングされた微小球をリン酸緩衝食塩水(緩衝液)[pH 9.0]で洗浄し、微量遠心管(8000rpmで5秒間)内でペレット化して、上清を除去した。オリゴ体とコンジュゲートされた微小球調製物はすべて、1mLの緩衝液(球体2g/リットル)中に再懸濁させて、4℃で貯蔵した。本実施例で提示し、後に実施例6で提示する、WGMを生じる、蛍光オリゴヌクレオチドで修飾されたシリカ粒子をルーチンに製作するために利用した方法は、図6に図示されている。これらの粒子を、DNA特異的な認識プラットフォームに利用した場合のWGMの強固かつ高感度の検出能力を示すために利用する。
【0148】
グリッド入りアレイプレートに対する微小球の固定化のための方法
各アッセイプレートについて、enl微小球または対照微小球の10μLアリコート(1つのアッセイ当たり20μgの微小球)を、Milli-Q H2Oの1mL部分によりエッペンドルフチューブ内で別々に3〜4回洗浄した(8000rpmで5秒間)。洗浄した微小球を120μLのMilli-Q H2O中に再懸濁させて、ボルテックス処理し、個々のグリッド入りシリカプレート上へのスポッティングを行った。続いて、粒子がマウントされた各アレイを加熱ブロック/プレート(90℃)上に載せて、粒子を固定化するとともに余分な水を完全に蒸発させた。加熱中は、コロイドの徹底的な分散が確実に行われるように、ボルテックス混合器を加熱ブロックと接続することにより、アレイプレートを穏やかにボルテックス処理した。
【0149】
ハイブリダイゼーションサイクル条件
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)調製物の場合と同じように(Rychlik et al, Nuci. Acids Res. 18(21):6409-6412, 1990)、すべてのハイブリダイゼーション反応サイクルに対して二段階温度勾配を使用した。cDNAを投与したところで、アレイプレートを10秒間〜5分間の範囲の時間にわたって90℃の加熱ブロックの上に載せた。その後に、cDNAプローブが標的オリゴヌクレオチドに対してアニーリングするために十分な時間が確実に得られるように、5分間かけてアレイを室温まで冷却した。
【0150】
単一粒子cDNAハイブリダイゼーションアッセイ
200μMのストックcDNA溶液の試料をPBSで希釈して(1:40)、試料をボルテックス処理した。120μLのアリコートを各アレイプレートに対して適用した(グリッド入りアレイ領域を完全に浸漬させるのに十分であった)。続いて、粒子がマウントされた各アレイを、90秒間の単一ハイブリダイゼーションサイクルにかけた。対照試薬アッセイについては、各グリッドを120μLの対照溶液:Milli-Q H2O、さらにその後に緩衝液(PBS)、非特異的DNAおよびcDNA(上記の通り)で処理し、それぞれの処理プレートに対して90秒間のハイブリダイゼーションサイクルを実行した。すべてのアレイを室温で5分間静置し、その後に、溶液相(反応していない)DNAを除去するために、Milli-Q H2Oの100μL部分により穏やかに洗浄した。別に指摘する場合を除き、すべてのアッセイで、cDNA処理後に、加熱ブロック(90℃)上での蒸発により、余分な水を除去した。続いて、処理した球体からの蛍光励起および発光シグナル測定の取り込みを空気中で行った。
【0151】
cDNA変性アッセイ
ハイブリダイゼーションを上記の通りに行い、続いて、ハイブリダイズした試料を90℃の加熱ブロック上で30秒間加熱することによって、変性を生じさせた。Milli-Q H2Oによる数回の100μL洗浄により、緩衝液を直ちに除去した。これらの変性手順を3回繰り返し、その後に余分な液体を蒸発させ、最後に、選択した粒子からの発光を測定した。
【0152】
粒子特性評価試験
粒子の製作
本実施例の当初の目標には、WGMシグナルが紫外(UV)照射を介して生み出されることを可能にするための、シリカ微小球(<10μm)へのCdSeコア外殻(発光体)による表面官能性付与が含まれた(Gomez et al, Small 1(2) :238-241, 2005)。続いてNC粒子にいくつかの有機性安定化層によるキャッピングを施し、最終的な官能性層は選択した生体分子によるものとなるように意図した。残念ながら、これらの実験に利用したナノ結晶の安定性は損なわれていた;順次の処理により、生体分子の想定されるコンジュゲーションが行われるようになる前に、一定した光分解および識別可能なWGMピークの損失がもたらされた。フォトルミネセンスの顕著な損失は、おそらくナノ結晶層の脱離/崩壊によるものと考えられた。ナノ結晶の光安定性は、PVPおよびTEOSキャッピング段階で利用した反応溶媒に対する曝露によって明らかに損なわれた。色素標識された一本鎖オリゴマー断片による、チオール官能性が付与された粒子表面に対する微小球への直接的な表面官能性付与を伴う次の検討では、代替的なアプローチについて記載する。この代替的なアプローチは以後の実施例の基礎となる。
【0153】
単一粒子ハイブリダイゼーションアッセイ
官能性が付与された個々の微小球はいずれも固有のWGMフィンガープリントを示す。したがって、バイオアッセイは、被験溶液に対する曝露の前および後に同一の粒子に対して行う必要がある。そうするために、粒子をグリッド入りシリカアレイ上に固定化し、enl-標的および対照アッセイグリッドの詳細な微小球マップを収集した。各微小球には、測定するその発光シグナルのそれ以外のものに従って番号を付した;続いてその特定の場所を、エッチングされた単一のグリッドに相当する図式上に認められた対応するスキャン番号を用いてマッピングした。グリッド入りアレイを用いると、さまざまな被験溶液および対照に対する曝露後に、同じ微小球の位置をルーチンに再び特定することができると考えられる。しかし、微小球の屈折率は極めて低く、溶液中に浸漬された微小球から高品質のWGMスペクトルを得ることは、屈折率の差異が小さいために困難であった。これは根本的な問題であり、しかも予想外であった。コロイド状シリカと水との間の屈折率ミスマッチは、WGMを維持させるには不十分である。したがって、空気中ですべてのスペクトルを収集しうるようにプロトコールを設計した。
【0154】
アレイプレートを、120μLの標的相補物α-enlで処理した。初期ハイブリダイゼーション手順は、90℃の加熱ブロック上に載せたアッセイグリッドを伴った;溶液をゆっくりと加熱することにより、標的溶液中に存在するあらゆるオリゴマーDNAまたは凝集DNAがペプチゼーションを受け、ビーズ上のプローブDNAとのハイブリダイゼーションが促進される。プローブオリゴヌクレオチドが微小球表面とコンジュゲートされた時に形成されたアクリロイル/スルフヒドリル結合は、標的-プローブ配列を球体表面に有効につなぎ止めるとともに固定化し、これはその後の90℃での加熱による影響を受けなかった。α-enl cDNAプローブがenl標的微小球に対してアニーリングするために十分な時間が得られるように、アレイを5分間かけて室温に冷却した。続いてグリッドを洗浄し、ヒーターブロック上での蒸発により、余分な水をすべて除去した。α-enlプローブによる処理後に、同一の個々の粒子の位置を再び特定し、第2のスペクトルのセットを空気中で収集した。標識enlおよび対照オリゴヌクレオチド標的配列を標識するために用いた色素標識TMRの蛍光スペクトルを蛍光定量的に分析した。色素の発光範囲は、選択したフルオロフォアの発光範囲によって規定されるであろう微小球発光シグナルの予想された範囲を示した。WGM発光シグナルはTMR色素の励起範囲内に収まった。WGMスペクトルは、すべてのピークが等しくシフトするわけではないが、明らかなレッドシフトを示す。示している試料に関して、cDNA α-enlハイブリダイゼーション後に観察された575nm(1.1nm)、585nm(1.5nm)、595nm(1.1nm)および605nm(1.1nm)の波長で測定されたピーク変位はすべて、ハイブリダイゼーション前の発光シグナルと比較してより長い波長であり、すなわち、ハイブリダイゼーションはWGMスペクトルにおける主要なピークのレッドシフトをもたらす。
【0155】
非特異的結合、対照試薬および緩衝液の影響
続いて、ギャラリーモードシグナルに対する対照試薬の影響を調べるために対照アッセイを設定した。単一のアッセイプレートを、Milli-Q H2O、非特異的DNA配列および最後にcDNAプローブにより処理した。90秒間のハイブリダイゼーションサイクルを各ステージの処理について実行し、選択した球体の位置を再び特定して、蛍光スペクトルを各ステージ後に収集した。選択した微小球をMilli-Q処理および非特異的DNA処理に曝露させた場合、一定したピークシフトは観察されなかった。しかし、微小球をcDNA(α-enl)に曝露させた場合には、一定したレッドシフトが観察された。Milli-Q H2O処理後に、相補的標的DNAに対する曝露後と比較して、結果的に起こったブルーシフトの原因は不明であるが、鍵となる結果は、非特異的DNAおよび対照試薬による処理後には何ら関連が認められなかったことである。これは信号雑音比の上での懸念事項ではなく、それはこの実験の単一粒子形式がこの点に適応しているためであり、そのため、このステージでのこの結果はブルーシフトが単にランダムな非特異的結果に過ぎないことを示唆する。
【0156】
WGMアッセイのサイクリング
この局面は、これらのアッセイが可逆的であるか否か、つまり、DNAの変性が元の位置に対するブルーシフトをもたらすか否か、および同じ微小球に対して2度目に行ったハイブリダイゼーション反応もレッドシフトを引き起こすか否かについての検証を伴った。これにより、スペクトルシフトが生体分子認識に起因し、単にDNAによる非特異的結合に起因するのではないことを本発明者らが確かめることが可能になると考えられる。さらに、吸着-脱離サイクルの繰り返しによるサイクリングを行いうることにより、ピークシフトを数サイクルにわたって平均化しうると考えられる、統計学的により信頼性のあるアッセイを設計することが可能になると考えられる。cDNAをプローブ微小球にハイブリダイズさせた後に、それは、DNAを変性させようとするための希釈緩衝液中で90℃でアニーリングし、標的配列の脱離を引き起こした。
【0157】
スペクトルを記録し、それらのシフトを第2のハイブリダイゼーションサイクルの結果とともに図7に示している。見てとれるように、希釈緩衝液中での拡張されたアニーリングは4つの主要なピークすべてのブルーシフトを招き、第2のハイブリダイゼーションはレッドシフトをもたらさず、このことは、アッセイサイクルを繰り返すことはできるが、観察されたシフトは完全な可逆性には合致しないことを指し示している。図7は、選択して位置を再び特定した球体からの、ハイブリダイゼーションアッセイの各ステージでのピーク位置の単純化された表示である。
【0158】
実施例6
単一の蛍光性微小球においてウィスパリングギャラリーモードを用いた、無標識オリゴマー標的のアトモル濃度での検出
本実施例では、アッセイを行いうる感度および限界ならびに速度について明らかにする。
【0159】
実施例5は、一本鎖オリゴヌクレオチド断片により官能性が付与された単一のシリカコロイドが、cDNA標的プローブの10ヌクレオチド塩基の違いを描写しうることを示した。本実施例における結果は、WGMに基づくシステムが、数マイクロリットルの試料を用いて、室温(RT)で、ピコモル濃度以下の濃度で、およびわずか数分以内に、相補的DNA断片の迅速で標的特異的な検出を行いうることを実証している。それらの結果は、標識されていないDNA断片のアトモル濃度での検出がルーチンに可能であることを指し示している。
【0160】
実験の項
粒子合成およびハイブリダイゼーションアッセイの方法を明示している単純化された概略図について、以下に概説する(図8)。利用したDNA断片は、実施例5で用いたものと同じであり、それらをウィスパリングギャラリーモード特性評価用装置とともに用いた。
【0161】
設備および特性評価方法
Triax 550分光光度計およびCCD-3000v外部検出器(Jobin Yvon, USA)と接続したFV-500 Olympus Fluoviewレーザー走査型顕微鏡IX71(Olympus, USA)により、空気中で、より分解能の高いスペクトルが収集された。粒子の撮像は、Olympus UPlanSApo油浸100XO対物レンズを通して、作動距離0.13mmで行った。スペクトルは5秒〜2分以内に収集することができ(波長スキャニング範囲に依存)、スペクトル分解能は0.05nmであった。試料のフォトルミネセンスおよびスペクトルを、液体窒素冷却式(137K)CCDカメラを用いて収集した。粒子は、Melles Griot X2多重線(multi-line)Ar+レーザー(Melles Griot, USA)により、典型的には励起出力を350μWとして励起させた。発光シグナルは、典型的には、波長中心点を600nmとし、550nmカットオフフィルターを通して、積算時間を2秒間として収集した。
【0162】
方法
「実際の」アッセイ環境は、官能性が付与された粒子を、実施例5で指示したさまざまな反応条件下で、さまざまな対照試薬、特異的および非特異的な標識されていない分析物、ならびにハイブリダイゼーション緩衝液に曝露させるものである。現在販売されている競合検出プラットフォームは、ピコモル以下の濃度の分析物をルーチンに検出することができるはずである。本実施例は、WGMアッセイを室温で実施しうるか否かを検討し、実施例5に提示したシステムの検出限界について明らかにする。別に指定する場合を除き、本実施例で行ったアッセイは実施例5で指定したものと同じとした。
【0163】
高感度の相補的プローブハイブリダイゼーションアッセイ
以下のハイブリダイゼーションアッセイのために、200μMのストックα-enl cDNA溶液を用いて系列希釈を行い、cDNA濃度が10-15Mから10-7Mの範囲にわたる標的溶液を作成した。各試料を十分にボルテックス処理し、各プローブ溶液の120μLアリコートを、個々のenl標的アレイに対して適用した。続いて、粒子がマウントされた各アレイを90℃の加熱ブロックの上に載せ、ハイブリダイゼーション反応を90秒間実行した。試料を室温で5分間静置し、Milli-Q H2Oの100μL部分により穏やかに洗浄した。処理後に、反応用緩衝食塩水を希釈するため、および余分な反応物が蒸発した時の塩結晶の沈着が確実に最小限となるように、アレイ-プレートをMilli-Q H2Oにより洗浄した。続いて粒子を回収し、該当する「ハイブリダイゼーション後」の発光シグナルを測定した。
【0164】
室温でのハイブリダイゼーション動態アッセイ
enl-標的センサーが固定化された5つのアレイを調製した。対応する粒子マップに着目し、上記に詳述したような蛍光顕微鏡検査および励起により、WGMスペクトルを収集した。アッセイをRTで行ったことから、緩衝液(2.50×10-8Mのα-enl)中で調製したプローブ処理物を、α-enl DNA断片が確実に一本鎖であるように、使用の前に90℃で10分間加熱した。調製した各アレイプレートを、続いて、緩衝液中に作成した2.50×10-8Mの一本鎖α-enl溶液の120μLアリコートにより処理した。続いて、アレイに対して、10秒間、30秒間、60秒間、180秒間または300秒間にわたる単一ハイブリダイゼーションサイクルを室温で実行した。処理後のアレイ-プレートを室温で5分間静置し、Milli-Q H2Oで洗浄して乾燥させた。続いてセンサーを回収し、該当する発光シグナルを測定した。
【0165】
高感度かつ室温でのハイブリダイゼーションの検討
単一粒子WGMアッセイ
TMRで標識された70塩基のオリゴヌクレオチド断片により官能性が付与された7.50μmのシリカ粒子から、2種類の特性評価用設備を用いてギャラリーモードシグネチャーを収得した。第1のものはocean optics CCD(±0.9nm)検出器と接続したTE2000-S Nikon蛍光顕微鏡であり(図8A)、TRIAX分光光度計(±0.05nm)と接続したOlympus Fluoviewレーザー走査型顕微鏡IX71(Olympus, USA)を用いると、より分解能の高いスペクトルが収得された(図8B)。開発された認識プラットフォームの鍵となる特徴は、粒子スコア化のために利用される「単一粒子」法である。以下の概略図(図8C)は、選択される形式に関する根本的な理由、およびそれがWGMに基づくシステムにおいてなぜ決定的に重要であるかを図示している。この概略図から汲み取るべき要点は、この実施例は同じ試料に由来する同一に修飾された2つの粒子が固有の発光シグネチャーを有することを示しているため、検出プラットフォームにおけるWGMの光学特性を利用するために、アンサンブル結果からのスペクトルを平均化することは成功裏には行えないことである。結局、単一の粒子は「それ自身の参照(own-reference)」として作用し、それ故に単一の粒子は単一の実験とみなすことができる。このパラメーターは、開発されたハイブリダイゼーションアッセイにおける根本的な分析用変数を形成する。
【0166】
感度
cDNAプローブストックの初期系列希釈液(緩衝液)を、10-7Mから10-15Mまでの範囲にわたる濃度で調製した。選択した個々の微小球からの発光シグナルを、cDNA処理曝露の前および後に取り込んだ。575nm、585nm、595nmおよび605nmに近い波長での発光ピーク波長またはモード位置を、cDNA濃度の関数として分析した(図9A)。図9Bは、発光スペクトルのピークシフト間の関係(Δλ)を、cDNA濃度の関数として提示している。一定した定向的なピーク変位が生じなかった(Milli-Q処理)対照アッセイとは対照的に、事実上すべてのWGM発光ピークに関して、曝露後には、発光スペクトルにおいて明らかなレッドシフトがみられる。アッセイの目的には、事実上すべてのモードが、DNAの吸着に応じてレッドシフトを呈したことを指摘することで十分である。さらに、これは融解温度を上回る温度でのDNAの変性に応じて可逆的である。Δλシフトがほとんどのアッセイでは1〜4nm程度に過ぎなかったことを考慮して、モードシフトのより詳細な検討を、±0.05nmのスペクトル分解能を有するTriax 550分光光度計を用いて行った。図9Cは、cDNA曝露の前および後の同じenl標的粒子からの典型的なWGMスペクトルを提示している。
【0167】
個々の微小球はそれぞれ、それ自身のWGMシグネチャーを有するため、検出は単に、同じ個々の微小球に伴って観察されるかまたは観察されないシフトのみに基づくことを認識することが重要である。複数の微小球に対する結果を平均化することは不可能である。現時点では、任意の個々の微小球に伴って陽性検出の場合に観察される実際のシフトは、使用した微小球については典型的には1〜2nmであり、対照についてはそれ未満である。したがって、検出レベルは極めて低いものの、各実験は同じ粒子の挙動のみに関しては相関づけることができる。異なる微小球からの結果を示している、図9Aに示されたようなデータでは、各粒子についての絶対的シフトは無意味である。検出のための基準は、試薬に対する所与の曝露に関して、いずれかの単一の粒子によって、一定したスペクトルシフトが検出されるか否かである。
【0168】
考察
この検討で全般的に使用したCCD設備のスペクトル分解能は、WGMセンサーの感度を限定しうると考えられる。感度は、使用した検出器のスペクトル分解能に決定的に依存する。Ocean Optics検出器の分解能は0.9nmであり、WGM発光ピークはスペクトル分解能が低いために減衰する。それ故に、モード形状から拾い集めることのできる情報は全くない。しかしながら、これらの単純な分光光度計は、アッセイを安価に実施することを可能にし、それを野外でルーチンに行うことも可能にすると考えられる。
【0169】
ハイブリダイゼーションにより誘発されるレッドシフトは、70塩基のオリゴ体で修飾し、ピコモル濃度以下のcDNA濃度により120μLの投与容積で処理した粒子を用いてルーチンに観察される。微小球のWGMモードの観察および特性評価を正しく行うためには、卓上型のLN2冷却式CCDおよび回折格子モノクロメーターが必要であるが、アッセイの目的には、そのような高い分解能は必要条件ではない。最も低いDNA濃度でも、ハイブリダイズ後の粒子から、小さくランダムなブルーシフトを観察することができる。これらは、WGM発光が、温度変動および電解質濃度に起因する溶液屈折率の微細な変化のようなわずかな擾乱によって影響される恐れがあることを指し示している。このことは、水性媒質中でのこれらのバイオアッセイに関して可能な感度の最終的な実用的限界を決定づける。したがって、陽性検出イベントを指し示すと解釈されるのは、4つまたはそれ以上のピークの一定したレッドシフトのみである。
【0170】
本明細書では、cDNA曝露から10秒以内に微小球発光シグナルにおける共振モードシフトによって指し示される標的検出により、本システムを室温で成功裏に使用しうることも示された。これは、非特異的に結合した任意のプローブを変性させ、DNAと微小球との有効なアニーリングを可能にするように微小球環境の温度が勾配変化を生じた時に起こる、塩の沈着および結晶化、pH変化、乾燥ならびに汚染に伴う問題を最小限に抑える。上述した改良点は、DNA分析のための、WGMに基づく生物学的検出プラットフォームの開発全般にとって重要である。
【0171】
実施例7
単一のメラミン微小球におけるウィスパリングギャラリーモードを用いた、一塩基多型標的の溶液ベースの無標識検出
シリカベースのWGMプラットフォームの欠点は、それを溶液中では全く用いることができないことである。本実施例では、高感度のウィスパリングギャラリーモード(WGM)溶液に基づく遺伝子型判定システムの開発とともに、コンジュゲーションプロトコールを設計することにより、現行のWGMシステムに伴う限界を軽減する。本システムは、フルオロフォアおよび一本鎖オリゴヌクレオチドの単層により官能性が付与された、均質な、高度に架橋したメラミンホルムアルデヒド微小球(およそ7.52μm)を含む。マイクロプレートウェルシステムを用いることで、アッセイを溶液中ですべて完了させることができる。このWGM無標識システムは、多型性に増幅されたDNA標的をピコモル濃度以下の感度でスコア化することができる。水中で検出される頻度シフトを用いて、高温での二本鎖ハイブリダイゼーション後複合体の変性をモニターすることができる。二段階温度勾配によって制御することで、WGMシフトを逆方向に動かし、再び活性化することをルーチンに行えるため、ポリマーベースのセンサーの光学的スイッチング能力も示されている。
【0172】
この点を念頭に置くと、生体適合性メラミン複合粒子は、広範囲にわたる粒子サイズ(300nm〜12μm)のものが市販されている。ポリメチルメタクリレート(nr 1.48)、シリカおよび他の大部分のガラス材料(nr 1.47〜1.50)のものよりも大きい、この材料の高い屈折率(nr 1.68)は、明らかな利点となる。Mie理論を用いた計算により、MF粒子と外部の水-媒質(nr 1.33)との間の大きな屈折率ミスマッチは、WGMの品質因子を改善するはずと考えられることが示唆されている。重要なこととして、このミスマッチは、単純化されたアッセイを溶液中で実施することを可能にするほど十分に大きい。
【0173】
本実施例は、オリゴマー標的検出のための、単一粒子の無標識WGM「湿式アッセイ」の開発について検討する。これらの粒子は、空気中での同じサイズのシリカ微小球のものに類似したQ因子を有する。ルミネセンスWGMシグナルを用いることで、本アッセイは、溶液中のピコモル濃度以下のレベルの無標識オリゴヌクレオチド断片を、卓上マイクロウェルプレート形式でルーチンに検出することができる。提示された知見は、高度に架橋したメラミンホルムアルデヒド(MF)微小球(<10μm)における蛍光性WGMシグナルが、特定の遺伝子座に異なるヌクレオチドを保有する3例の個体のゲノムDNA(gDNA)の、標識されていないPCR増幅断片間の一塩基多型(SNP)を陽性識別しうることを示している。
【0174】
実験の項
材料
7.52μmのメラミンホルムアルデヒド樹脂(C5H8N6O)n[MF]微小球を、Microparticles GmbH, Berlin, Germanyから得た。384ウェルのポリカーボネート製マイクロタイタープレート、96ウェル細胞培養プレートおよび384ウェルの光学用マイクロタイタープレートは、NUNC, Brussels, Belgiumから購入した。スクシンイミジルエステル色素標識Bodipy 630/650は、Molecular Probes Eugene, USAから調達した。他の試薬、緩衝液および複合微小球はすべて、以前に報告された供給元から調達した。利用した器具類およびWGM特性評価方法は、実施例5および6に記載したものと同じである。
【0175】
器具類
顕微鏡PE100-NIシステムの倒立ペルティエステージを、熱サイクリングハイブリダイゼーション試験のために利用した。本システムは、diaphot系の倒立スコープを、Nikon TE200/300顕微鏡テーブルに合わせてカスタマイズされたXYテーブルとともに含む。ステージの温度範囲(-5〜99℃)は、PE100-I加熱/冷却用ペルティエステージで制御した。このステージを、ステージ温度を調節するための水循環ポンプと接続した。少々の変更を加えて、上記の設備をIX71 Olympus顕微鏡にもマウントした。
【0176】
ヒトSNP標的DNA配列
* 括弧印はヌクレオチド塩基ミスマッチを表す。
【0177】
別に指定する場合を除き、以上に列記したDNA断片を、実施例5で指定した通りに標識した(Nuhiji and Mulvaney, Small 3(8):1408-1414, 2007)。
【0178】
rs10434 SNP領域
【0179】
個体1[A/A];個体2[A/G];個体3[G/G]と標示された、rs10434 SNPを含むgDNAのPCR増幅領域は、International Diabetes Institute(Melbourne, Australia)から提供された。遺伝子型判定は、以前に記載された通りに(Peyrefitte et al, Mechanisms of Development 104(1-2):99-104, 2001)、MassARRAYシステム(Sequenom, San Diego, CA)を用いて行った。手短に述べると、変異体部位の周囲の97bp断片を増幅するように、rs10434に対するPCRプライマーをSpectroDESIGNERを用いて設計した。5μLの全反応容積中にある、2.5ngのゲノムDNA、2.5mmol/LのMgCl2、標準的な濃度の他のPCR試薬、および0.1単位のHotStar Taq DNAポリメラーゼ(Qiagen, Germany)を用いて、反応を行った。断片は、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen, Germany)を製造元の指示に従って用いる電気泳動によって単離した。
【0180】
方法
微小球に対するオリゴヌクレオチド断片のアクリロイル媒介コンジュゲーション
未処理メラミン粒子をMilli-Q中で数回洗浄し(8000rpmで5秒間)、乾燥させて貯蔵し、窒素下にて4℃で乾燥保存した。洗浄したMF粒子(2mg)をエッペンドルフチューブ内で秤量した。メラミン粒子に固有の表面化学特性(Gao et al, Macromolecular Materials and Engineering 286(6):355-361, 2001)により、一本鎖オリゴヌクレオチド断片を固定化するための強固なコンジュゲーション用表面が得られた。5'アクリル酸(アクリロイル)基によって修飾された断片を利用することにより、粒子への官能性付与を単一の室温反応で行った(Sharmin et al, progress in Organic Coatings 50(1):47-54, 2001)。新たに調製したPBS中に粒子を再懸濁させ、その後にアクリロイルTMRで標識された200μMのオリゴヌクレオチド15μLを添加した。反応物をボルテックス処理し、モーター付きホイール上で1時間にわたり穏やかに混合した。カップリングされた微小球を緩衝液で洗浄し、微量遠心管(8000rpmで5秒間)内でペレット化して、上清を除去した。オリゴ体とコンジュゲートされた微小球調製物はすべて、1mLの緩衝液(球体2g/リットル)中に再懸濁させて、4℃で貯蔵した。コンジュゲーション過程の概略図を図10に提示している。
【0181】
単一粒子の顕微鏡加熱ステージ試験
i)微小球の希釈
1μLのストック微小球(2mg/1mL)を採取し、それを1mLのMilli-Q中に再懸濁させて(希釈物1)、ボルテックス処理を行うことにより、微小球をまず希釈して一連の4回希釈物とした。続いて、250μLの希釈物を1mLのMilli-Q H2O中に再懸濁させ、ボルテックス処理を行った。新たな希釈を3回行うことにより、この希釈過程を繰り返した。希釈物3または4からの1μLアリコートは、典型的には粒子1個/μLを含むと考えられる。
【0182】
ii)単一の微小球の固定化
希釈物3の1μLアリコートを単一のマイクロウェルの基部に適用し、および液滴内の微小球の数をモニターした。1個の粒子カウントが確かめられた時点で、容積49μLの新たに調製した緩衝液pH 7.0の添加後に粒子の発光スペクトルを記録した。メラミン粒子は、重力の影響下にて単一のマイクロウェルの基部に固定化した。
【0183】
iii)対照緩衝液のみのアッセイおよびrs10434標的プローブアッセイ
加熱ステージ温度を37℃に上昇させ、2分間かけて平衡化させた後に、単一のスペクトルを取り込んだ。続いて、5μLのMilli-Qまたは2μMの標的プローブ溶液をウェルに対して適用した。ステージ温度を72℃に上昇させ、2分間維持した後に、スペクトル収得を行った。最後に、ステージ温度を37℃または室温に低下させた。
【0184】
PCR増幅した対照ゲノムDNA試料からのDNA断片を用いたrs10434ハイブリダイゼーションアッセイ
i)標的プローブのハイブリダイゼーション処理
2μLの所望の標的DNAプローブ(10ng/μL)溶液を、単一のrs10434-MF標的粒子を含むウェルに対して直接適用した。90℃での5分間のハイブリダイゼーションサイクルを実施し、その後に10分間の室温冷却サイクルを行った。各サイクルの後に(3回)、発光シグナルスキャンを収得した。ハイブリダイゼーション処理を、個体1、2および3のDNA試料に対して繰り返した。発光シグナルはすべて溶液中で取り込み、洗浄も反応緩衝液の交換も行わなかった。
【0185】
別に指摘する場合を除き、すべてのアッセイで標的プローブ曝露処理後に、微小球をハイブリダイゼーション用緩衝液中に浸漬させたままでスキャニングを行った。処理した球体からの蛍光励起および発光シグナルの測定値を溶液中で取り込み、グリッド入りシリカプレートおよび384ウェルの光学用プレートを用いる場合には典型的には積算時間を500ms〜2秒間とした。プレートは4℃で貯蔵することができ、微小球を必要に応じてさらなるハイブリダイゼーションアッセイに成功裏に用いることができた。
【0186】
粒子の開発および特性評価試験
溶液中の伝播性WGM
ヒトゲノムのrs10434 SNP領域にまたがる30塩基の鎖を模倣するように、微小球に官能性を付与するために用いるオリゴヌクレオチド断片の設計および構築を行った。その配列は、第6番染色体上の領域に対して相同性である。配列解析により、この領域は血管内皮増殖因子受容体(VEGF)をコードすることが指し示されている[Awata et al, Biochemical and Biophysical Research Communications 333(3):679-685, 2005;Errera et al, Diabetes Care 30(2):275-279, 2007;Joussen et al, Ophtalinologe 100(5) :363-370, 2003;Sowers and Epstein, Hypertension 26(6) :869-879, 1995;Uhlmann et al, Experimental and Clinical Endocrinology & Diabetes 114(6):275-294, 2006]。全rs10434 SNP領域の広範囲にわたるBLAST検索により、2つのマッチが明らかになった;この配列は、5'側の866bp(血管内皮増殖因子アイソフォームe前駆体)、位置:6p12;および3'側の215111bp:仮想的タンパク質L0C221416、位置:6p21.1に相同性を有する。この領域内に素因を有する個体は、糖尿病性網膜症、糖尿病、2型糖尿病(NIDDMまたはT2D)としても知られるインスリン非依存性糖尿病、成人発症型糖尿病(MOD)およびインスリン抵抗性に対する感受性が増大している。糖尿病患者が経験する高血糖症は異常な血管細胞機能を引き起こし、特に本疾患のより後期では内皮におけるそれを引き起こす。これらの個体は一般的に、微小循環および大循環の進行性変性を来し、これは結果的に臓器障害を招く(Laselva et al, Acta Diabetologica 30(4):190-200, 1993;Ciulla et al, Acta Ophthalmologica Scandinavica 80(5):468-477, 2002)。複数の研究により、選択されたSNP領域は、T2Dおよび関連疾患に対するマーカーとして用いうる可能性があることが示されている。ここで提示された知見は、最適化されたWGMプラットフォームの、公知のヒト疾患関連SNP標的をルーチンにスコア化するための有効な診断用ツールとしての妥当性を実証するものである。
【0187】
オリゴ体で修飾されたMF粒子の直径は7.52ミクロンであり、これに、5'アクリロイル修飾されTMR標識された標的オリゴヌクレオチドと直接的にバイオコンジュゲートさせた。λが550nmのバリアーフィルターを通した、励起出力350μWの青色多重線Ar+レーザーにより、粒子の蛍光励起がみられる。蛍光強度プロファイリングにより、粒子表面上でのアクリロイルDNA断片とネイティブ性-NH基との間のコンジュゲーションは強固であることが示されている(Krajnc and Toplak, Reactive & Functional Polymers 52(1):11-18, 2002)。
【0188】
シリカとメラミンとの比較
前出のシリカ複合微小球試験を用いる場合は、すべての測定を空気中で行わなければならなかった。これは、単一粒子からのシグナル発光を改善させるために余分な反応液体を蒸発させることを必要とした。本項の主要な目標は、最適化された単一粒子WGM溶液に基づくハイブリダイゼーションアッセイを開発することであった。固定化された単一のMF(nr 1.68)およびシリカ粒子から、空気中および水中で、発光シグナルを系統的に測定した。まず空気中で各々の発光シグナルを取り込み、続いてMilli-Q H2O(R>18MΩcm)の単一の液滴を固定化された各プレートに添加して、粒子を完全に浸漬させた。この過程を数回繰り返した後に、位置を再び特定した球体から、水中および空気中でギャラリーモードシグナルを収得した。図11は、概略を述べた処理後の典型的な出力を示している。シリカ微小球の場合には、それぞれの水処理により、発光シグナルピークの散逸がもたらされ、取り込まれたシグナルは、水性媒質中での非結合型TMRのそれに類似していた[Nuhiji and Mulvaney, 2007、前記](青および赤のスペクトル)。しかし、Milli-Qの蒸発後には、特徴的なWGM発光プロファイルが再び生じた。図11A(黒、緑およびアクアブルーのスペクトル)。メラミン粒子をMilli-Qに対して曝露させた場合には、モードの広幅化および損失が、モード強度の減少とともに起こった;しかし、いくつかの明確なピークは、依然として再現性を伴って収集することができた(図12B、赤および青のスペクトル)。MF粒子はこの先のこの研究の主な焦点であったため、そのベースラインスペクトルも図11のパネルC)およびD)に提示している。
【0189】
マイクロウェルプレートアッセイ
溶液中でWGMを維持させるMF粒子の能力は、溶液中での比較的高品質なWGMのルーチンな収得を容易にするハイブリダイゼーション基質を選択するという次の検討につながった。粒子をマイクロタイタープレート形式で提示することは、ハイスループットの自動アッセイに向けてまた一歩前進することとなる。分析は、マイクロウェルおよびアッセイプレート基板上に固定化された場合に、オリゴ体で修飾されたMF粒子から収集することのできたWGMシグナルの品質に基づくこととした。修飾されたMF粒子を、シリカ製のグリッド入りアレイプレート上、384ウェルのポリカーボネート製サイトプレート、384ウェル光学用プレートおよび96ウェルのポリマー製細胞培養プレートの単一ウェル内に固定化した。選択した粒子の発光シグナルを、標準的なハイブリダイゼーション用緩衝液中に浸漬された状態で収集した。図12は、選択した各々の基板を用いて得られた代表的な発光プロファイルを図示している。基板の有効幅が狭いことから、シリカ製のグリッド入りアレイは、選択したMF粒子から高いシグナル出力を生成することが予想された(図12A)。しかし、ハイスループット方式に関しては、ウェルに基づくシステムが所望の方向であった。第1のマイクロプレートシステム分析は、一般的なプラスチックベースの96ウェル培養プレートを用いて行った(図12B)。収集された発光シグナルは、いくつかの幅広い低強度のピークからなるWGMプロファイルを指し示している。これは単に、各ウェルの基部の幅が大きいこと、およびプラスチックが高度の散乱特性を有することに起因するものであった。同じく、大きな作動距離を可能にする、より低倍率の対物拡大(×40)の使用も、全体的シグナルを低下させた。しかし、この材料が透明であるため、粒子の容易な撮像および位置特定が可能になった。作動距離がより大きいレンズを用いることは、作動距離の増加がシグナル損失に直接関連しているため、トレードオフの影響下にある。次に、ポリ-D-リジンを模倣する384ウェルのCC3-商標のポリスチレン製/ポリマーベースのプレートを、無菌の非生物学的コーティングを用いて分析した。このコーティングは正に荷電しており、接着性の弱い細胞の接着を促進し、本発明者らのケースでは、負に荷電したオリゴ体/DNAでコーティングされた7.52ミクロンのMF粒子の固定化を助けると考えられる。各ウェルの総有効容積はより小さかった(ポリマーベースのプレート:基部の幅100μm;ウェル面積、0.05cm2/ウェル、総有効容積は120μL/ウェル)。また、平底ウェル形状および可視的透明性のために、プレートへの接近および顕微鏡用のX/Y方向作業ステージを用いた操作も容易になった。図12Cは、1つのMF粒子からの典型的な発光シグナルの一例を示している。特定可能な一連の狭い、高強度の蛍光ピークが存在する。384光学用プレートも、ポリマープレートと同じ作業用寸法および容積で用いた。しかし、基部の幅がより狭く(50μm)、ウェル基部は正の電荷を有していない。図13AおよびCに示されているように、9つの別個の発光ピークがWGMプロファイル内に認められる。384ウェル光学用プレートによって収得した粒子スペクトルからは、パネルA〜Cにおけるスペクトルと比較して、特定可能な各モードの強度が改善したことが指し示された(図12D)。図4に提示されたWGM出力中に認められる各λmaxでのダブレットの影響は、単に溶液中でのWGMシグナル収得の影響である。
【0190】
加熱の影響
作業アッセイにおいてMF粒子をマイクロウェル形式で提示することの利点が、このようにして確かめられた。しかし、DNAハイブリダイゼーション反応時に、微小球を90℃を上回る極端な反応条件に曝露させることもできる。アクリロイルオリゴヌクレオチド断片による粒子への官能性付与は、穏和な条件下(37℃未満)で反応させた場合には無傷であった。しかし、過度の熱ストレスがコンジュゲーションにどのように影響するかに関してはまだ不明である。384ウェル光学用マイクロウェルプレートを用いて、高温での化学結合の復元性を明らかにするための加熱試験を策定した。単一のMF粒子をマイクロウェル中に固定化し、続いて緩衝液、MES(pH 5.4)またはMilli-Q H2O(対照)中に浸漬させた。選択した粒子からの参照フォトルミネセンス(PL)シグナルを測定し、プレートを標準的なハイブリダイゼーションアッセイ温度(90℃)まで加熱した。この温度を3時間保ち、その間に、選択した粒子の位置を再び特定し、発光シグナルを定期的に収集した。図14は、熱曝露から3時間後に、選択した粒子から収得した、正規化されたWGMスペクトルを提示している。MES中に浸漬させた粒子(黒の点線)では、3時間の期間にわたって非常に大きな影響が認められ、それはハイブリダイゼーション用緩衝液中に浸漬させた粒子(黒の実線)と比較して、PLシグナルの有意な損失を示した。Milli-Qのみの中に保った対照粒子(グレーの実線)では、熱処理後に最も強いシグナルが観察された。発光シグナルレベルは試料間でさまざまであった。しかし、加熱から3時間後にも、各粒子から、いくつかの特定可能なピークを伴う明らかなWGMプロファイルを依然として得ることができた。
【0191】
実施した特性評価実験により、本実施例に記載した粒子は溶液中のWGMを維持させうることが示された。次に、Linkam PE100-NI熱制御式顕微鏡ステージを使用して、マイクロウェル溶液に基づくハイブリダイゼーションアッセイにおける「リアルタイム」のWGMシグナルの擾乱について調べた。ハイブリダイズした相補的プローブのTmを上回るかまたは下回る、微小球の周りの局所媒質に対する熱変化を周期的に検出しうるか否かを明らかにするために、そのステージ設備を利用するアッセイを策定した。α-rs10434 A(Tm 71.2℃)と標示された、構築した30b標的プローブは、MF粒子につなぎ止められた断片に対して相補的であった。単一の7.52μmのMF-rs10434標的粒子に対して、二段階の勾配(37℃〜72℃)によるサイクリング処理を行った。初期ハイブリダイゼーション反応は、5μLのMilli-Qの添加後に完了させた。それぞれの勾配温度で数サイクルにわたって積算時間2秒間で収得したスペクトルからは、WGMピークの一定した移動は指し示されなかった(図15A〜B)。同じ粒子を用いて、標的プローブDNAの添加(2μMのストック5μL)した上で、実験条件を繰り返した。初期ハイブリダイゼーションサイクル後に収得した発光シグナルデータからは、72℃のα-rs10434 A断片溶液に対する曝露が主要なWGMピークのブルーシフトをもたらし、ステージ温度の37℃への低下は、同じピークをレッドシフトさせることが示された(図15C)。ハイブリダイゼーションサイクルの繰り返しは、局所プレート温度が標的プローブのTmよりも低い場合にはWGMピークの一定して観察されるレッドシフトをもたらし、温度を標的プローブのTmよりも高く上昇させた場合にはブルーシフトが起こった(図15D〜E)。
【0192】
ヒトゲノム標的アッセイ
3例の個々の対照(健常対照)から収得した対照gDNAを用い、rs10434 SNP領域の範囲にまたがるプライマーを用いて、およそ20塩基のDNA断片を増幅した。上記の個体の遺伝子型を、Sequenom MassARRAY遺伝子型判定用プラットフォームを用いて判定した。個体はそれぞれ、異なる遺伝子型を有していた。個体1はこの遺伝子座のAアレルに関してホモ接合性(A/A)であり、個体2はヘテロ接合性(A/G)であり、個体3はGアレルに関してホモ接合性(G/G)であった。ここでの目的は、PCR増幅した試料から、単一塩基対の違いを、WGMシステムを用いて検出しうるか否かを明らかにすることであった。rs10434 DNA変異体のAアレルに対して特異的な単一のrs10434-MF粒子をマイクロプレートウェル中に固定化した;続いて粒子を、別々のハイブリダイゼーション反応を通じて、3種類の異なる分析物に対して曝露させた。各ハイブリダイゼーションは、2μLのDNA試料の添加後に、90℃で5分間かけて完了させた(個体1〜3)。反応温度勾配を周囲室温まで低下させた後、各ハイブリダイゼーション反応後にそれぞれ発光シグナルを収集した。各処理後に収得したWGMシグネチャーを、参照シグナル(黒のスペクトル)と対比して評価した。処理していないWGMプロファイルと対比してピーク位置を分析し、Δλを記録した。得られたスペクトルは、ピーク波長位置を、所与の参照波長の前後でのピークシフトの関数として示す。個体1試料に対する曝露後には、主要な蛍光ギャラリーモードすべての陽性レッドシフトが生じた(黒のベタ四角)。続いて、同じ粒子を個体2のDNA試料で処理した。曝露後に収得したWGMシグナルからは、すべての蛍光ピークのレッドシフト(処理していないシグナルと比較して)が指し示された。しかし、個体1試料による処理後の波長ピーク位置に対比して、ヘテロ接合性の個体2試料による処理は蛍光モードのブルーシフトを引き起こした。最後に、個体3由来のDNAによる処理(緑のベタ三角)は、個体1由来の増幅されたDNAによる処理後に収得したモードシグネチャーに対比して、別のWGMブルーシフトをもたらした。観察されたこれらの極めてわずかなブルーシフトは、個体2および3由来の、ミスマッチのあるDNAプローブの導入の結果である。これらのプローブは非特異的に結合し、その結果、個体1由来のマッチしたDNAのために利用される結合部位の数を減少させた。
【0193】
標的識別
修飾された微小球が作業アッセイにおいて単一塩基ミスマッチをルーチンに識別しうることを確かめるために、色素分子の結びつけのための非結合型の内部アミンを伴う、実験室で合成した2種類の標的DNAプローブを構築した。第1の標的(α-rs10434 A)は、[A]rs10434アレル変異体を模倣するように設計し、断片にTMRによる蛍光性タグ標識を行った。代替的な分析物は単一塩基ミスマッチを含み、これはBodipy 630/650によって同定された。標識されていない単一のrs10434標的MF粒子を、384光学用プレートの3つのマイクロウェル中に固定化した。標的プローブ曝露の前に、選択した粒子から、溶液(緩衝液)中でベースライン発光シグナルを採取した。2つの個々のアッセイを、個々のハイブリダイゼーションサイクルに対してα-rs10434 Aおよびα-rs10434 B標的プローブを用いて完了させた。それらの結果は、rs10434 A標的プローブのハイブリダイゼーションを示している。鋭い蛍光性WGM発光シグナルの収得について、球状蛍光性粒子を示す同じ粒子から採取した蛍光強度画像を用いて検証した。単一のミスマッチを含むα-rs10434 Bに対して曝露させた粒子からは弱い蛍光WGMシグナルが収得されたが、蛍光強度画像スキャニングでは検出可能な蛍光は示されなかった。両方の標的プローブに対する単一粒子の曝露は、粒子をまずα-rs10434 A標的断片に曝露させた場合には、α-rs10434 B処理後に、すべての主要な蛍光ギャラリーモードピークのブルーシフトをもたらした。
【0194】
系列容積希釈における単一粒子試験からも、オリゴ体により官能性が付与されたこれらのポリマー粒子が、アトモル濃度レベルの分析物DNAを検出しうることが示された。そのような検出容積は、少ない反応容積を有効に用いて、単一粒子ハイブリダイゼーションアッセイ全体を完了させうることを強く示すものである。さらに、このことは、これらの粒子がピコモル濃度以下の標的プローブDNAをルーチンに検出しうることも示している。
【0195】
考察
ここに提示した結果は、オリゴヌクレオチドで修飾されたMF微小球に対する、DNAの相補鎖の非共有的結合を、溶液中で検出しうることを明らかに示している。蛍光ギャラリーモードの波長シフトを利用して、標識されていない相補的DNA断片の吸着および脱離を、さまざまな反応条件下でルーチンに検出することができる。
【0196】
MF粒子に固有の表面は、アクリロイルで修飾されたオリゴヌクレオチド断片の密な単層のコンジュゲーションを容易にする。このコンジュゲーションは、本質的には、メラミン分子とアクリル酸との共有結合である。オリゴヌクレオチドで修飾された粒子は、高pH溶液に高温(90℃)で曝露させた場合、長期的曝露後の粒子から高品質のWGMシグナルを収集しうることからみて、高度な復元性を有する。このデータは、FITCで標識されたヒトα-IgM抗体も、修飾されていないMF粒子と有効に結合しうることを示している。続いて、これらの粒子を抗体-抗原結合アッセイに利用することができる。
【0197】
DNAは、一本鎖(変性)コンフォメーションにおいて、より高い屈折率を有する(Parthasarathy et al, Applied Physics Letters 87(11):113901-3, 2005)。そのネイティブ形態において、DNAの屈折率は典型的な有機ポリマーのそれと同程度である(Samoc et al, Chemical Physics Letters 431(1-3):132-134, 2006)。自然な二本鎖のDNAは誘電性材料として存在し、または変性形態では、それは数百ミリ電子ボルトのバンドギャップを有する半導体になる(Rakitin et al, Physical Review Letters 86(16):3670, 2001)。このため、本実施例に記載されたWGMシフト(ハイブリダイゼーション後)は、微小球直径の増加と直接関連する、微小球表面での相対的屈折率の増加または減少によって影響される(Niu and Saraf, Smart Materials and Structures 11(5):778-782, 2002)。これらのパラメーターがいかにしてWGMに特異的に影響を及ぼすかについてはまだ解明されていないが、これとは対照的に、特徴的なシフトは、両方の複合粒子を用いてルーチンに再現可能である。
【0198】
これらの単一粒子試験は、ハイブリダイゼーションアッセイの際に、rs10434で修飾された粒子から収得されたWGMシグナルにおけるΔλシフトを用いて、実験室で合成したプローブDNAにおける単一塩基変化を識別しうることを示している。粒子がマイクロプレート形式で提示される場合には、関心対象の単一ヌクレオチド変化を含むと予想される領域を含むPCR増幅したgDNAを用いる自動システムにおいて、一定したピークシフトを確認する。本実施例に記載されたMF rs10434-標的粒子は、糖尿病に関連したrs10434 SNP(およそ100b)のさまざまなアレルを識別することができる。つなぎ止められたアクリロイルオリゴヌクレオチド(コロイド表面からおよそ5〜10nm)の第1のヌクレオチド塩基でのフルオロフォアの位置により、空気中および水媒質中での励起光のルーチンな全内部反射が容易になる。
【0199】
溶液中でのWGMをマイクロウェル方式アッセイにおいて励起させうることにより、実施例5および6で記載したシステムで遭遇する問題が完全に避けられる。マイクロウェル形式を利用するシステムは、粒子の位置決定が迅速に行われ、洗浄段階は必要でないことから、アッセイが完了するまでの実行時間を短縮させる。最終的にこの形式は、アッセイ全体を溶液中で同じ粒子に対してルーチンに行うことを可能にし、これはまた、さらなる検査に向けたセンサーの再利用のための組織化されたシステムも提供する。
【0200】
さらに、本実施例に記載されたシステムは、WGMを励起させるために光ファイバーカップリング法を利用せず、そのためにアッセイが単純化される。アトモル容積の標的DNAプローブ溶液をルーチンに検出することができる。MF微小球において観察される周期的に可逆性のWGMシフトは、重要なこととして、これらの粒子を再生利用しうることを指し示している。WGMピークシフトは、標的プローブのTmよりも上および下に局所温度を振動させた場合に可逆的であることが示された;それ故に、スペクトルのレッドシフトは相補的DNAのハイブリダイゼーションに明確に起因する。標的プローブの結合親和性は、DNA断片が単一塩基ミスマッチを有する場合には有意に低下する。非特異的結合は、無視しうることが見いだされているものの、同じ粒子を相補的標的にまず曝露させた場合には、粒子のWGMスペクトルにおけるわずかなブルーシフトを引き起こすことができる。単一ウェル-単一粒子のハイブリダイゼーション反応において、比較したWGM発光スペクトルは、単一塩基ミスマッチを含む断片とは対照的に、特異的標的プローブがはるかに大きな結合親和性を有することを指し示している。
【0201】
これらの知見は、標識された(30塩基)オリゴヌクレオチド断片により修飾された高屈折率のメラミン粒子が、溶液中でWGMをルーチンに発することを示している。粒子を溶液中で励起させると、励起シグナルはフォトルミネセンス強度を低下させ、蛍光モードが幅広くなる。しかし、一連の明確なWGM共振ピークは、依然としてルーチンに同定することができる。
【0202】
実施例8
単一の蛍光性シリカ微小球およびメラミンオリゴヌクレオチドで修飾された微小球における、ウィスパリングギャラリーモード励起のための至適条件
本実施例は、蛍光性コロイド中で高品質のウィスパリングギャラリーモード(WGM)をルーチンに励起させるための、一連の最適化されたパラメーターの策定について報告する。実施例5〜7で提示された、標的特異的オリゴヌクレオチドにより修飾された(TSOM)シリカ微小球およびメラミン微小球(7.50〜7.52μm)[Microparticles Germany GmbH]を、全体を通じて利用する。
【0203】
実験の項
材料
粒子の合成、固定化戦略およびWGM特性評価のために用いた材料および方法は、実施例5〜7に記載されたものと同じである。
【0204】
ウィスパリングギャラリーモードの励起パラメーターの検討
カップリング位置の影響
共焦点設備を用いて、レーザー励起位置を変更する結果としてのWGM発光の特性評価を行うための角度分解分光法を設計した。TSOMシリカおよびMF粒子を以前に指定した通りに用いて(実施例5〜7)、カバーガラスアレイスライドを調製した。使用した共焦点システムは、収得した粒子の透過像を参照として用いて、粒子の周縁の周りでの励起位置を変更するために利用した。350μWの放射出力で、選択した粒子を多重線Ar+レーザーによって励起させた。積算時間を2秒間として発光スペクトルを収集した。ここでのすべての共焦点作業には、Ar+レーザーを粒子励起のために用いた。励起位置は、微小球の周辺境界まわりに、0゜(参照)座標を基準として45゜刻みで360゜の回転にわたって変更した。粒子のWGMを共焦点設備上で励起させる場合には励起位置0゜を通常利用し、これは高品質のWGMのルーチンな収得をもたらす。しかし、360゜に至るまでの選択した位置での励起も同じく、強いWGMスペクトルの収集をもたらす。選択した例についてのスペクトルセットの分析により、選択した励起位置では検出可能なピークシフトが観察されないことが示される(Triax 550分光光度計のスペクトル分解能±0.05nmの範囲内で)。場合によっては、ピーク歪みが生じる可能性がある。歪みは、所与の波長で収得した各WGMスペクトルにおいて一定して観察された。
【0205】
続いて、選択したMF粒子を空気中で同じ条件下でスキャニングした。WGMスペクトルセットの分析により、0゜スペクトルを基準として、検出可能なピークシフトが観察されることが示される(CCDのスペクトル分解能は±0.05nm)。選択した例ではブルーシフトが観察されるが、粒子屈折率が観察されたシフトを引き起こすように変化した可能性は低い。これらの影響は励起位置の移動に起因する可能性もあるが、CCDの閾値限界に達した結果である可能性がさらに高い。実施例7では、溶液中に固定化されたTSOM-MF粒子を通しての光の全内部反射が示された。続いて、溶液中に浸漬させた単一のMF粒子を、選択した半径方向位置で励起させた。スキャン範囲内(0゜スキャンを基準とする)の蛍光ピークは一定してレッドシフトする。これらの結果は、0゜スキャンを基準とするピーク変位が、空気での結果と比較して有意に大きいことを指し示している。このピーク変動の大きさは、水の高度の光散乱特性のためである可能性が高い。ピーク位置変動は、180゜、270゜および315゜の位置で最も高度であることが認められた(最大で0.89nm)。これらの結果は、TSOM粒子におけるWGM励起のためには定まった励起位置を利用すべきであることを示唆している。
【0206】
反復励起試験
この追跡調査は、単一の位置を通じてのTSOM粒子の反復励起によって引き起こされる影響の分析を伴い、その結果として、WGMシグナルの相対的劣化を観察する。単一粒子ハイブリダイゼーションアッセイの際に、単一の励起点(0゜)をすべてのWGMスペクトルに対して利用する。定まった励起位置を用いることの重要性が示されている。重要なこととして、これはピーク変動を改善すると考えられる。
【0207】
ルーチンには、作業アッセイの間に、単一のTSOM-微小球をおよそ2〜5回励起させる(スキャニングする)。この間には微小球WGMシグナルが安定に保たれ、そのためWGMスペクトルのセットを数回の処理後に収得しうることが重要である。そのため、この実験の目的は、この論文に記載したTSOM粒子に伴う蛍光シグナル劣化レベルを明らかにすることとした。
【0208】
空気中でのWGM劣化試験
粒子をカバーガラスアレイに対して固定化し、続いて基板を共焦点顕微鏡上にマウントした。選択したシリカ微小球およびMF微小球を、0゜励起位置を通じて空気中で励起させた(積算時間2秒間)。スペクトルセットを、2秒間の積算時間で、選択したシリカ微小球から収得した。WGM光強度(PI)は、一連のスキャン後に蛍光強度に関して有意に低下する。10個の別個のピークがスキャン1で同定され、9〜10個のピークがスキャン20から同定された。
【0209】
続いて、単一のTSOM MF粒子を同じ実験パラメーターに曝露させた。スキャン1およびスキャン20によって同定されたピークの数は一定に保たれた(およそ16個)。Q因子は7分の1に減少し、ピーク位置変動は無視しうる程度である。
【0210】
水中でのWGM劣化試験
次の段階は、単一のTSOM MF粒子を溶液中(Milli-Q H2O)で繰り返し励起させることとした。単一の粒子を位置0゜でレーザー発振させ、スペクトルのセットを積算時間2秒間で取り込んだ。同定されたピークの数は、空気中での測定と比較して、選択したスキャン範囲(8)内で減少した。しかし、ピークの数はスキャンを完了した後も変化しないままであった(スキャン1〜20)。スキャン1と20との間にはそれぞれ、Q因子の6分の1への減少が観察される。
【0211】
最後のWGMスキャンから収集した目盛り入りスペクトルは、8〜16個の特定可能なピークからなった。これらの結果は、反復レーザー発振(放射出力350μW)後に、定まった励起点(0゜)を通じて、同じ粒子からWGMプロファイル(20を上回る)をルーチンに収集しうることを示している。さらに、TMR色素標識の光分解および水中での粒子固定化に起因するピークの広幅化は、いかなる顕著なピーク変動ももたらさない。その結果、使用アッセイにおける粒子の復元特性が強く示される。
【0212】
CCD分解能
前の実施例で示されたように、分光光度計の感度は、作業アッセイの間のWGM測定において重要な役割を果たす。分光光度計は、励起された粒子から収得することのできるスペクトル情報の量、およびWGM検出プラットフォームの感度限界を決定づける。本実施例では、顕微鏡設備およびCCD検出器の感度を比較する。
【0213】
シリカ粒子をまず空気中で励起させ(位置0゜)、Triax 550分光光度計(スペクトル分解能:±0.05nm)を用いて積算時間2秒間でスペクトルを収集した。続いて同じ粒子から、水銀ランプ(励起出力35.52mW)によってスペクトルを収得した。QE6500 Ocean Opticsシステム(スペクトル分解能±0.9nm)を積算時間2秒間で利用して、スペクトルを収得した。QE6500分光光度計を用いて収得したスペクトルから、数個の主要なピークの明らかな広幅化が観察される。さらに、Triax 550によって収得されたスペクトルは、QE6500スペクトル中に存在しない数個のピーク(λmax:577.54nm、588.47nm、594.35mnおよび599.95nm)を指し示している。FWHMの変動(λmax PI=1.00)は、それぞれ0.38nm(Triax)および0.98nm(QE6500)と算出される。続いて、単一のTSOM MF粒子を用いて、同じ測定を空気中で行った。Triax 550によって収得されたスペクトルは、QE6500をWGM収得のために利用した場合の数個のピークの損失という結果を指し示している(λmax:578.81nm、584.65nm、588.07nm、597.73nmおよび608.08nm)。これらのFWHM値、Triax(0.72nm)およびQE6500(1.27nm)は、スペクトル品質の違いをさらに指し示している。
【0214】
次に、溶液中で固定化した単一のMF粒子を蛍光励起させ、そのスペクトルを取り込んだ。それらの結果は、水中で採取したスペクトルが、各々のスキャン後に発光ピークの損失を示さなかったことを指し示している。Triaxで取り込んだ発光スペクトルは、QE6500スペクトルからの0.81mm(PI=1.00の場合のλmax)および1.15nmというFWHMを指し示している。ピーク広幅化の度合いは、空気中のMF粒子およびシリカ粒子に関して測定されたものに比較して小さかった。
【0215】
これらのデータセットは、高出力のCCDを利用した場合に、スペクトルピークの数がより多い高品質のWGMを収得しうることを示している。収得されたWGMプロファイルはまた、より多くのスペクトル情報も含む。しかし、これらの分光光度計の間のばらつきは、測定を溶液中で行うと有意に改善する(およそ0.24nm)。
【0216】
分光光度計間のWGMピークシフトは、単に分光光度計の感度が異なるためである。例えば、計器のスペクトル分解能は、ピーク位置を「真の」λmaxとして測定することのできる精度を定める。それ故に、Ocean Opticsシステム(±0.9nm)は、観察された各WGMピークの「真のλmax」との関連の点で、TRIAXシステム(±0.05nm)と比較してより精度が低い。このため、これらの条件に基づくと、WGM応答曲線の間にもばらつきがあるであろうことが予想される。
【0217】
退色時間
微小球の退色閾値を、定まったカップリング位置を通じた一定の励起の下で評価した。退色プロファイルは、共焦点特性評価用設備を用いて測定した。単一の粒子を、空気中で、488nmの連続波(Ar+)の下で出力エネルギー350μWを用いて励起点0゜を通じてレーザー発振させた。退色プロファイルはすべて、100倍対物レンズ(NA=1.4)を通して測定し、撮像した。退色速度は、経過時間(秒)の関数として観察した[200秒]。選択した粒子の蛍光退色プロファイルを、シリカ(n=100)およびMF(n=100)TSOM粒子からの100個の粒子について収集した。各スキャン収集からの退色プロファイルを平均した。その平均データに適合するように3指数フィッティングを適用した。シリカ粒子に関する平均退色時間曲線は、一定の励起の間に0.23秒以内で蛍光の60%が散逸することを指し示している。粒子蛍光シグナルのさらに31%が、2.51秒後に続いて退色する。最後に、粒子蛍光の残りの9%が26.40秒後に退色する。所与のシリカ試料に関して、粒子蛍光の大半はおよそ3.30秒後に散逸する。それに比べて、TSOM-MF粒子はより強固であることが示されている。データは、粒子蛍光シグナルの50%が31.10秒後に低下することを指し示している。同じ3指数フィッテイングモデルを用いたところ、6.28秒後に最も高いパーセンテージで蛍光シグナルの光量低下が起こり、それはシリカTSOM粒子と比較して有意な改善である。
【0218】
かなり高いレーザー出力を粒子励起のために利用した(350μW)。しかし、それらの結果は、一定の励起の間に、蛍光シグナルを26.40秒後(シリカ)および31.10秒後(MF)にも依然として観察しうることを指し示している。このように、これらの退色時間は、単に励起エネルギーを減少させることによって改善することができる。
【0219】
考察
分光光度計分解精度に伴うスペクトル変動は、溶液中でのWGMを維持させるTSOM MF粒子を利用することによって有意に改善することが示された。この結果はさらに、より低強度のCCDを、溶液ベースのWGMアッセイに、重要なスペクトル情報を失うことなく成功裏に用いうることも示している。MF粒子の蛍光のより緩徐な退色時間は、WGM生物学的検出プラットフォームにおけるポリマー粒子の役割をさらに裏づける。
【0220】
ハイスループットの、マイクロフルイディクスに基づくWGM診断機器の以降の開発には、高屈折率の均質な微小球を利用すべきである。自動スキャニング機器は、粒子をマイクロウェル方式で溶液中に提示すべきである。この機器はまた、フローサイトメーターおよび共焦点レーザー走査型顕微鏡に見られるものに類似したレーザー励起システムも組み込んでいるべきである。粒子は、シグナルの変動を最小限に抑えるために定位置を通じて励起されなければならない。励起位置を固定すること、または代替的には粒子を定位置で提示することにより、高価な対物レンズおよび高精度の画像化ソフトウエアを用いる必要性が軽減されるであろう。
【0221】
実施例9
シリカ粒子およびメラミンホルムアルデヒド粒子を用いたWGMの比較
図17(A)および(B)は、シリカ粒子(B)およびメラミンホルムアルデヒド粒子(A)を用いて得たWGMプロファイルの比較を示している。(A)および(B)における実線は空気中で得たプロファイルであり、点線は粒子が水性媒質中にあった時のプロファイルを表している。
【0222】
シリカビーズを用いた水中での収得では、極めてわずかな蛍光が生じたが、WGMは生じなかった(図16(B))。メラミンホルムアルデヒドを用いた場合には、強いWGMプロファイルが得られた。
【0223】
実施例10
イムノ-WGM
イムノベースのWGMアッセイは、診断用プラットフォームの環境を提供する。データは、抗体(ヒトα-IgM)で修飾されたMF粒子から与えられた蛍光WGMシグナルを利用して、室温での反応で、対照試薬と標的抗原とを識別しうることを示している(図17)。イムノ-WGMアッセイは、タンパク質、抗体、動物病原体および植物病原体、細菌、インターロイキン、ペプチド、RNA、mRNAおよびプリオンといった非常に多くの生体分子標的に対する調整可能な特異性を備えた代替的な認識形式を提供する。イムノ-WGMアッセイは、食品衛生産業、環境水検査、農業産業、軍事(生物戦)、ウイルス学、微生物学診断薬および薬理学スクリーニングにおける用途に関して可能性がある。
【0224】
当業者は、本明細書に記載された本発明に、具体的に記載されているもの以外の変更および改変の余地があることを理解するであろう。本発明はそのようなすべての変更および改変を含むものと理解されるべきである。本発明はまた、本明細書において言及された、または示された段階、特徴、組成物および化合物のすべてを個別的または一括的に含み、さらにそのような段階または特徴の任意の2つまたはそれ以上のありとあらゆる組み合わせも含む。
【0225】
文献
【技術分野】
【0001】
提出データ
本出願は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、「分析物検出アッセイ」と題する2008年11月21日に提出されたオーストラリア仮特許出願第2008906057号と関連しており、それによる優先権を主張する。
【0002】
分野
本発明は、分析物検出の分野に関する。より詳細には、本発明は、ウィスパリングギャラリーモード(WGM)に基づくアッセイを用いるバイオセンシングならびに迅速および高感度な分析物検出に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
本明細書中に著者によって参照された刊行物の文献学的詳細は、説明の最後にアルファベット順にまとめている。
【0004】
本明細書におけるあらゆる先行技術に対する言及は、この先行技術がいずれかの国において広く知られた一般知識の一部であることを認めたものでも何らかの形で示唆したものでもなく、そのように解釈されるべきではない。
【0005】
モノリシック共振器における環状光学モード(circular optical mode)は、「ウィスパリングギャラリーモード」(WGM)または「形態依存共振」(MDR)と呼ばれる。そのようなモードまたは共振は、共振器の境界からの全内部反射によって維持される光の閉じた軌道(定在光波)である。WGMは、特定の発光プロファイルを持つ定在光波が、全内部反射に近い反射によって球状誘電体空洞の表面の内側に閉じ込められる場合に生じる(Moller et al, Applied Physics Letters 83 (13):2686-2688, 2003(非特許文献1))。
【0006】
WGM技術は、国際特許出願公開第WO 2005/116615号(特許文献1)に詳細に記載されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。WGM技術は、一部には、フルオロフォアが特有のWGMプロファイルを生成することを可能にするという現象を基盤においている。フルオロフォアは、拡散によって微粒子内に入る量子ドット上に組み入れられるか、またはその製造過程で組み入れられてもよい。フルオロフォアの種類には制限はなく、それは例えば有機色素、希土類をベースとするルモフォア(lumophore)、さまざまな形態および組成の半導体ナノ結晶、照射された時に発光するリンまたは他の材料であってよい。このフルオロフォアまたはその混合物を、続いて、微小回転楕円体粒子(microspheroidal particle)と結びつける。標的分析物が、微小回転楕円体粒子に固定化された結合パートナーと相互作用すると、WGMプロファイルが変化し、結合イベントの検出が可能となる。
【0007】
WGMは、ある特定の波長の光のみが粒子から発せられることを可能にする。この現象の結果は、例えばフルオロフォアからの、通常の幅広い発光(10〜100nm幅)バンドが制約され、粒子内部の光の定在モードパターンに事実上対応する一連の鋭いピークとして表示されるというものである。WGMプロファイルは微小回転楕円体粒子の表面での変化に対して極めて高感度であり、WGMプロファイルは微小回転楕円体粒子がその環境内の分析物または分子と相互作用すると変化する。
【0008】
多様な源に由来する試料中の稀な分析物の検出は、高感度で、汎用性があり、かつ実用的な検出手段を必要とする。分析物の検出のためにWGMの感度、汎用性および実用性を高めるための方法を考案することには需要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際特許出願公開第WO 2005/116615号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Moller et al, Applied Physics Letters 83 (13):2686-2688, 2003
【発明の開示】
【0011】
概要
本発明は、とりわけ、試料中の分析物を検出するための、ウィスパリングギャラリーモード(WGM)検出アッセイに基づく高感度の方法および試薬を提供する。
【0012】
特に、本発明の目標は、環境に対するWGMの感度を利用することにより、標識されていない分析物を任意の媒質(液体または気体)中でルーチンに検出しうるようにする方法を記載することである。液体および気体への言及には、水性溶液および生物学的緩衝液および空気が含まれる。
【0013】
本発明の方法および試薬は、1つの部分において、微小球をフルオロフォア自体でコーティングすると、離散的な量子ドットを用いた場合とは対照的に、WGMに基づく検出の感度を向上させることが予想外に明らかになったことを基盤においている。別の部分において、官能性が付与された化学基をその表面に有する粒子などの粒子の選択により、量子ドットまたは直接フルオロフォアのいずれかのコーティングを行った場合の感度が高まる。さらに別の部分においては、アッセイを実施する媒質に比してより高い屈折率を有する粒子を選択する。1つの態様において、微小回転楕円体粒子は1.40を上回る屈折率を有する。
【0014】
したがって、本発明の1つの局面は、媒質中の分析物検出の方法であって、フルオロフォアおよび多種多様なリガンドでコーティングされた微小球を、1つまたは複数のリガンドとリガンド結合性分析物との間の結合イベントを同定するためにWGM検出手段に供する段階を含む方法を提供する。
【0015】
もう1つの局面において、本発明は、媒質中の分析物検出の方法であって、フルオロフォアおよび多種多様なリガンドでコーティングされた、分析物を含む媒質よりも高い屈折率を有する微小球を、1つまたは複数のリガンドとリガンド結合性分析物との間の結合イベントを同定するためにWGM検出手段に供する段階を含む方法を提供する。1つの態様において、微小回転楕円体粒子は1.40を上回る屈折率を有する。
【0016】
本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0017】
本発明のもう1つの局面は、媒質中の分析物を検出するための方法であって、
(i)分析物に対する多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階であって、微小回転楕円体粒子がメラミンホルムアルデヒドであるならばそれがフルオロフォアとコンジュゲートされてもよく、または量子ドットを含んでもよい段階;
(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;
(ii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに
(iii)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにウィスパリングギャラリーモード(WGM)検出手段に供する段階、
を含む方法を提供する。
【0018】
特定の態様において、微小回転楕円体粒子は、アジド基、アルキン基、アミン基、アルデヒド基、硫酸基またはチオール基、カルボキシル基、カルボキシレート基および/またはヒドロキシル基などの化学モイエティーによって官能性が付与されている。1つの局面において、微小回転楕円体粒子は、メラミン粒子またはメラミンホルムアルデヒド粒子などの、ただしそれらには限定されないアミン-アルデヒド粒子である。
【0019】
それ故に、本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせ、官能性が付与された微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)官能性が付与された微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)官能性が付与された微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0020】
特定の態様において、本発明は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせたアミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)アミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)アミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)アミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0021】
最も特定的な態様において、アミン-アルデヒド粒子はメラミンホルムアルデヒド粒子である。
【0022】
それ故に、本発明は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせたメラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0023】
粒子がメラミンホルムアルデヒドである場合、粒子は量子ドットをも含みうる。それ故に、本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアでコーティングされた量子ドットを含むメラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0024】
本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコードする微小回転楕円体粒子である、分析物を含む媒質よりも高い屈折率を有する微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0025】
本発明のさらにもう1つの局面は、分析物を検出する方法であって、微小回転楕円体粒子の少なくとも1つの集団を、分析物を含むことが推定される試料と接触させる段階を含み、微小回転楕円体粒子の集団内の各粒子が、赤外励起に応答して可視光線を発するフルオロフォア、および分析物の固定化された結合パートナーと推定されるものを含み、各粒子集団が規定されたWGMプロファイルを有しており、分析物と固定化された結合パートナーとの結合が、分析物の存在を指し示す、微小回転楕円体粒子の少なくとも1つの集団のWGMプロファイルの変化をもたらすような方法を提供する。
【0026】
1つの態様において、分析物またはその各々のリガンドは、以下のものからなるリストより選択される分子を含む:核酸;タンパク質;ペプチド;抗体;脂質;糖質;ならびに、細胞(例えば、癌細胞)、細菌およびウイルスを含む任意の低分子または化学的実体。
【0027】
1つの具体的な態様において、微小回転楕円体粒子につなぎ止められたリガンドは核酸分子であり、検出しようとする分析物は相補的核酸分子である。
【0028】
もう1つの態様において、核酸リガンドまたは分析物は、一本鎖DNA配列を含むDNA分子である。
【0029】
本発明のもう1つの局面は、以下の段階を含む方法の使用を提供する:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、アッセイの製造において、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階。
【0030】
さらなる態様において、微小球は再生利用してもよい。加えて、アッセイは、空気もしくは他の気体などの任意の媒質中で、または水性溶液、生物学的な緩衝液もしくは複合的な生体液などの液相中で実施することができる。
【0031】
さらにもう1つの局面において、本発明は、リガンドと分析物との間の結合イベントをWGM検出手段によって検出するための、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子、およびそれらにつなぎ止めるための多種多様なリガンドを含むキットを提供する。
【0032】
具体的な態様において、キットは、多種多様なリガンドが結びつけられた、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子を含む。粒子がメラミンホルムアルデヒドである場合には、フルオロフォアを有機色素または量子ドット上にコーティングしてもよい。
【0033】
さらなる局面において、本発明は、電源、光源、試料取り扱いチャンバーおよび分光光度計を含む自己完結型の器具である、WGM検出手段を含むバイオセンサーを提供する。
【0034】
ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、配列識別子番号(SEQ ID NO)によって参照される。SEQ ID NOは、配列の識別子<400>1(SEQ ID NO:1)、<400>2(SEQ ID NO:2)などに数字で対応する。配列識別子の概要を表1に提示している。配列表は特許請求の範囲の後に提示している。
【0035】
本明細書の全体を通じて用いられる配列識別子を、表1に提示している。
【0036】
(表1)配列識別子の概要
【図面の簡単な説明】
【0037】
図面の中には、カラーの表示または実体を含むものがある。カラー写真は、請求により特許権者から、または適切な特許庁から入手可能である。特許庁から入手する場合には、料金が課せられる場合がある。
【図1A】結合後の、一定した、かつ測定可能なシフトを示しているWGM DNAバイオセンシングのグラフ表示である。これらの測定は、pH緩衝剤および電解質を含む水性溶液中で行った。ビーズまたは微小回転楕円体粒子を、ビーズの表面につなぎ止められた核酸分析物結合性パートナーに対して相補的な核酸分析物と接触させた後に、ビーズ9に関して、WGMプロファイルの実証可能なシフトが観察された。ビーズはそれぞれ直径5.6μmであった。
【図1B】結合後の、一定した、かつ測定可能なシフトを示しているWGM DNAバイオセンシングのグラフ表示である。これらの測定は、pH緩衝剤および電解質を含む水性溶液中で行った。ビーズまたは微小回転楕円体粒子を、ビーズの表面につなぎ止められた核酸分析物結合性パートナーに対して相補的な核酸分析物と接触させた後に、ビーズ10に関して、WGMプロファイルの実証可能なシフトが観察された。ビーズはそれぞれ直径5.6μmであった。
【図1C】結合後の、一定した、かつ測定可能なシフトを示しているWGM DNAバイオセンシングのグラフ表示である。これらの測定は、pH緩衝剤および電解質を含む水性溶液中で行った。ビーズまたは微小回転楕円体粒子を、ビーズの表面につなぎ止められた核酸分析物結合性パートナーに対して相補的な核酸分析物と接触させた後に、ビーズ11に関して、WGMプロファイルの実証可能なシフトが観察された。ビーズはそれぞれ直径5.6μmであった。
【図1D】結合後の、一定した、かつ測定可能なシフトを示しているWGM DNAバイオセンシングのグラフ表示である。これらの測定は、pH緩衝剤および電解質を含む水性溶液中で行った。ビーズまたは微小回転楕円体粒子を、ビーズの表面につなぎ止められた核酸分析物結合性パートナーに対して相補的な核酸分析物と接触させた後に、ビーズ12に関して、WGMプロファイルの実証可能なシフトが観察された。ビーズはそれぞれ直径5.6μmであった。
【図2】WGM検出手段および装置の略図である。
【図3】6.3μW、50.2μW、214.5μWおよび1,160.5μWの入射光(それぞれA、B、CおよびD)によって生成されたWGMスペクトルのグラフ表示である。光源の波長は532nm、かつ曝露時間は200msとした。
【図4】入射光(532nm、50μW)による10、60、200および1,000ms(それぞれA、B、CおよびD)にわたる微小回転楕円体粒子の照射後に生成されたWGMプロファイルのグラフ表示である。鮮明度は5秒間の曝露時間(E)まで徐々に低下した。
【図5】カバーグラスの表面上に固定化された本発明の微小回転楕円体粒子の写真画像である。
【図6】メルカプタン基により官能性が付与されたシリカ粒子を用いる単純化された化学反応の段階を示している写真表示である。共有結合により、蛍光標識したアクリロイル-一本鎖オリゴヌクレオチドのコンジュゲーションが達成される。この過程は、WGMを伝播させる蛍光性微小球の、強固で費用効果の高い製作をもたらす。
【図7】単一の微小球からの4つの主要なWGMピークのピーク位置のプロットを、それらを記録したアッセイのステージの関数として示しているグラフ表示である。このプロットは、4つの主要なピークのハイブリダイゼーション中のレッドシフト、変性中のブルーシフトおよび標的への再曝露に応じた再度のレッドシフトを明らかに示している。
【図8】粒子合成およびWGMハイブリダイゼーションアッセイの概略を示している写真表示である。パートA)は、70塩基のenlオリゴヌクレオチドで修飾された7.50μmのSiO2微小球の鍵となる特徴を指し示している。TMR=色素標識テトラメチルローダミン;パートB)粒子アッセイプレートの調製 粒子をハイブリダイゼーション基板上に固定化し、その後に発光シグナルの収得を行う(前処理);パートC)アッセイプレートをDNAプローブまたは対照溶液で処理し、その後に基盤の洗浄を行い、最後に発光シグナルを収得する;パートD)最終段階は、単一粒子からの前/後の発光シグナルを分析し、収得したスペクトルからのピーク位置を比較して処理溶液の影響を明らかにすることを伴う。
【図9】典型的なWGM発光シグナル出力および単一粒子分光分析を示している写真表示である。A)Ocean Optics分光光度計(±0.9nm)と接続する、およびB)Triax分光光度計(±0.05mm)と接続するという2種類のWGM特性評価用設備を用いて、励起された7.50μmのオリゴ体修飾シリカ粒子から空気中で取り込んだ典型的な発光シグナル;C)単一粒子分光分析の概念。この概略図は、同じ試料にそれぞれ由来する、標識された微小球AおよびBという2つの粒子の両方が同一に化学修飾されたことを示している。個々の粒子から収得された発光シグナルが別個に固有であることに注目されたい。
【図10】濃度ベースのcDNAハイブリダイゼーションアッセイに用いたセンサーの選択による、単一微小球のスペクトルシフトデータを示しているグラフ表示である。A)4つの参照波長で参照したcDNA濃度に対してプロットしたハイブリダイゼーション前(緑色の線、ベタ四角)およびハイブリダイゼーション後(赤色の線、ベタ星)のピーク位置。選択した粒子では、観察されるシフトがハイブリダイゼーション後のWGMシグナルのすべてにおいて認められた。70塩基のオリゴ体修飾粒子を濃度10-7〜10-14MのcDNAとハイブリダイズさせた場合にはモードプロファイルにおいて再現性のあるレッドシフトが生じたが、対照試料では一定したピークシフトは明白でなかったことに注目されたい;B)cDNA濃度の関数としてのシフト(Δλ)。λmaxに関するピーク変位の誤差計算は±0.44nmと算出された;C)標識されていない相補的DNAの10-18M濃度の試料に対する曝露の前および後の、同一のenl標的粒子からのピーク位置分析。これらの結果は、アトモル濃度の非標識DNAプローブ溶液に対する曝露後の各蛍光ピークのレッドシフトを指し示している。
【図11】未処理のメラミンホルムアルデヒド(MF)粒子に、標識した一本鎖オリゴヌクレオチド断片により官能性を付与するために利用した反応化学の略図である。反応が、緩衝液のみを用いて室温にて一段階で完了することに注目されたい。断片は粒子表面上の-NH基と共有結合する。
【図12】粒子励起が80Wの水銀ランプおよび420〜490nmのフィルターブロックによって達成されたことを示しているグラフ表示である。30塩基(TMR)オリゴ体で修飾された7.50μmの微小球から空気中および水中で取り込んだ発光シグナル。A)シリカ;B)メラミン。Milli-Qのシングレット(singlet)液滴中に微小球を浸漬させてスペクトル分析を行い、水を蒸発させた後に空気中でスキャン取得を行った。励起されたメラミン粒子の例では、水の添加後にWGM発光シグナルが依然として観察可能であったことに注目されたい。TRIAX 550分光光度計(±0.05nm)を用いた2秒間の積算によって、オリゴヌクレオチド官能性付与の前に単一の7.52μmのMF粒子から収得したベースラインスペクトル;C)空気;D)溶液(Mill-Q H2O)。
【図13】いくつかの複合材料に由来するアッセイプレートを用いて取得した発光シグナル測定を示しているグラフ表示である;粒子励起は80Wの水銀ランプおよび420〜490nmのフィルターブロックによって達成した。A)シリカ製のグリッド入りアレイプレート;B)ポリマーベースの96ウェル細胞培養プレート;C)ポリカーボネート製384サイトウェルプレート;D)384ウェルの光学用マイクロタイタープレート。
【図14】オリゴヌクレオチド(TMR)により官能性が付与された7.52μmのMF粒子の熱安定性分析を示しているグラフ表示である。粒子を、Milli-Q、緩衝液またはMES(pH 5.4)中の溶液中に浸漬させ、3時間の期間にわたり90℃の一定の加熱下においた。80Wの水銀ランプおよび420〜490nmのフィルターブロックを利用して、WGMを各被験粒子から収集した。MES中で加熱した選択した粒子(点線スペクトル)が、PBS処理(黒のスペクトル)およびMilli-Q処理(グレーのスペクトル)を行った選択したオリゴ修飾MF粒子に比して、そのWGM発光シグナルの顕著な減少を呈したことに注目されたい。
【図15】熱サイクル下でのハイブリダイゼーション結合試験を示しているグラフ表示である。二段階の温度勾配(37℃〜72℃)を、共焦点/TRIAX設備と接続された温度調節式の顕微鏡ステージを用いて作り出した。標的DNA(Tm 71.2℃)は、粒子に結びつけたrs10434標的断片に対して相補的であった。ハイブリダイゼーションサイクルを、単一の微小球に対して、Milli-Q H2O(対照)および標的DNAを用いて完了させた。蛍光シグナルを各温度勾配で取り込み、Δλを観察した。A)対照hyb-サイクル1;B)対照hyb-サイクル2;C)標的プローブhyb-サイクル1;D)標的プローブhyb-サイクル2。すべての蛍光ピークは最高サイクル温度(72℃)でブルーシフトし[標的DNAが存在する場合のみ]、ステージ温度が標的プローブのTm未満ではレッドシフトした。
【図16】(A)メラミンビーズWGM実線を示しているグラフ表示である:実線は空気中で入手した単一のメラミンホルムアルデヒドビーズのWGMである。水性媒質中で収得したスペクトルを点線で示している;(B)シリカビーズWGM:実線は空気中で入手した単一のシリカビーズのWGMである。水性媒質中で収得したスペクトルを点線で示している。水中での収得では極めてわずかな蛍光しか生じず、WGMは全く生じなかった。
【図17】抗体WGMイムノアッセイのグラフ表示である。FITCで標識したヒトα-IgM抗体によって官能性が付与された単一の7.52μmのMF粒子を、単一のマイクロウェル中に固定化した。アッセイ全体を室温で行った。処理していない粒子を、参照シグナルを得るためにAr+レーザーで励起させ、続いてMilli-Qで、さらに非標識ヒトIgMで処理した。処理していないWGMに比して、代表的なピークセットは、IgM処理後に生じた数ナノメーターの典型的なレッドシフトを指し示している。添加から30分後に極めてわずかなシフトが認められた。スペクトルはTriax 550/CCD共焦点設備(スペクトル分解能±0.05nm)によって収得した。
【発明を実施するための形態】
【0038】
詳細な説明
本明細書の全体を通じて、文脈上異なる解釈を要する場合を除き、「含む(comprise)」という語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」という変化形は、記述された要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群を含むが、他のいかなる要素もしくは整数も、または要素もしくは整数の群も排除しないことを意味すると解釈されるものとする。
【0039】
本明細書で用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上別の解釈が明らかに求められる場合を除き、複数の局面も含む。したがって、例えば、「1つのリガンド」についての言及は、単一のリガンドに加えて、2つまたはそれ以上のリガンドも含み;「1つの分析物」についての言及は、単一の分析物に加えて、2つまたはそれ以上の分析物も含み;「そのフルオロフォア」についての言及は、単一のフルオロフォアに加えて、2つまたはそれ以上のフルオロフォアも含み;「本発明」についての言及は、本発明の単一または複数の局面を含み;他についても同様である。
【0040】
本発明は、フルオロフォアでコーティングされた微小回転楕円体粒子にコンジュゲートされた、多種多様な分析物結合性パートナーまたはリガンドを提供する。これらの粒子が照射されると、「ベースライン」ウィスパリングギャラリーモード(WGM)スペクトルまたはプロファイルが発せられる。微小回転楕円体粒子の各集団は、固有のWGMベースラインシグネチャーを有する。このベースラインプロファイルは、微小回転楕円体粒子の表面上の分析物結合性パートナーまたはリガンドに対する分析物の結合によって変化し、WGMスペクトルにおける検出可能なシフトを引き起こす。
【0041】
本発明の微小回転楕円体粒子には、照射されると蛍光を発するフルオロフォアでコーティングされた微小球が含まれる。発せられた光は微小球内に封じ込められ、球体の内部で共振して、ウィスパリングギャラリーモードまたは「WGM」と命名されている離散的な波長のスペクトルを作り出す。フルオロフォアによる微小回転楕円体粒子のコーティングは、離散的な量子ドットを用いるのとは対照的に、WGMに基づく検出の感度を高める。本発明は、フルオロフォアで(すなわち、量子ドットを用いずに)コーティングされた微小回転楕円体粒子、またはメラミンホルムアルデヒド粒子と組み合わせた量子ドットの使用にも拡張される。微小回転楕円体粒子を、分析物を含む媒質に比してより高い屈折率を有することに基づいて選択してもよい。1つの態様において、微小回転楕円体粒子は1.40を上回る屈折率を有する。
【0042】
本明細書で用いる場合、「量子ドット」または「QD」という用語は、当技術分野において半導体ナノ粒子、ナノ結晶、量子ドットまたはQ粒子として公知である粒子を範囲に含むと解釈されるものとする。
【0043】
「微小回転楕円体粒子」および「微小球」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、そのフルオロフォアに基づいて1つまたは複数のWGMプロファイルを生成することのできる、均質またはそれ以外である任意の材料を含む球状粒子を含む。当業者には明白であるように、均質またはそれ以外であるほぼあらゆる材料を、微小回転楕円体粒子に対して用いうる。本明細書において想定される微小回転楕円体粒子は複数の物質を含んでもよく、そのため外殻、合金、または有機および/もしくは無機物質の混合物を含みうる。微小回転楕円体粒子が、等方性屈折率を有しかつ非吸収性でもある実質的に均質な材料(以下でさらに説明するフルオロフォア以外)を含むならば、本発明の方法によって生成されるデータの定量化のために有利である。
【0044】
本発明の微小回転楕円体粒子は、以下のものからなるリストより選択される材料を含む:メラミン、またはメラミンホルムアルデヒドなどその化学的誘導体;シリカ;ラテックス;チタニア;二酸化スズ;イットリア;アルミナ;他の二成分系金属酸化物;ペロブスカイトおよび他の圧電性金属酸化物;PLGA;スクロース;アガロース;ならびに他のポリマー。
【0045】
特定の態様において、微小回転楕円体粒子は、アミン基、アルデヒド基、硫酸基またはチオール基、カルボキシル基、カルボキシラーゼ基および/またはヒドロキシル基などの化学モイエティーによって官能性が付与されている。1つの局面において、微小回転楕円体粒子は、メラミンホルムアルデヒド(MF)粒子などの、ただしこれには限定されないアミン-アルデヒド粒子である。MF粒子は、アクリロイル修飾された標的オリゴヌクレオチドおよびタンパク質が結合するための強固なコンジュゲーション基質を与える。高品質WGMを処理後に収得しうることから、共有結合は高pH溶液および極限温度に対する曝露後も無傷に保たれる。
【0046】
メラミンはシアナミドの三量体であり、以下としても知られる:1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン;2,4,6-トリアミノ-s-トリアジン;シアヌロトリアミド;シアヌロトリアミンまたはシアヌルアミド。特定の態様において、メラミンはメラミンホルムアルデヒドである。
【0047】
本発明はまた、WGMアッセイにおける磁性粒子の使用にも拡張される。そのような粒子は、非常に正確な固定位置に提示することが可能と考えられる。磁性により助長された粒子固定化は、離散的な単一粒子の分析を可能にし、特注の固定化基質を製作する必要性を軽減する。
【0048】
特定の態様において、コロイド状シリカ、ジルコニアまたはチタニアなどの溶液中でのWGMを維持させる高屈折率粒子を選択する。または、より高屈折率の材料を外殻とする微小球も、有用で理想的なセンサープラットフォームを与える。これらの粒子は吸着層内部に高次ラジアルモード(radial mode)を含み、その結果として、高次モードを含む高Q WGMスペクトルの収得を可能にするはずである。
【0049】
半導体ナノ結晶(例えば、CdSe、CdTe、CdS)の使用は、もう1つの蛍光的に強い代替選択肢をもたらす。溶液中でのWGMを維持させる蛍光的に安定な粒子は、ナノ結晶の単層を均質な微小球に吸着させ、その後に高屈折率外殻を安定化することによって作製しうる。市販の高屈折率材料および粒子のリストは以下に提示している。
【0050】
フルオロフォアという用語は全般的であり、有機色素には限定されず、照射された時に明確に規定された波長の光を発する特性を有する、任意の化学物質、分子または材料も含む。これには、以下のものが非限定的に含まれる;有機色素、有機金属複合体、量子ドット(ナノロッド、ナノワイヤーおよび他の形態、コーティングされたまたはコーティングされていないQD、合金およびそれらの混合物)、希土類イオンまたはそれらの混合物、アップコンバーターおよびさらに赤外発光性フルオロフォア、それらは試料の吸収において有利な可能性がある。窒素により誘導される欠陥または空孔を含むダイアモンドなどの欠陥のある蛍光材料のような他の材料を組み入れてもよい。
【0051】
WGMは、微小球の表面に結びつけられたフルオロフォアによって生成させることができるが、フルオロフォアを微小球の内部に包埋または分布させた場合にも生成させることができる。フルオロフォアの分布はWGMの種々の強度に影響を及ぼすが、本発明においては、表面にあるフルオロフォアと微小球内にあるものとを区別しない。
【0052】
本発明は、一部には、WGM検出手段が、微小球を量子ドットでコーティングすることを要しないことが明らかになったことを基盤においている。
【0053】
したがって、本発明の1つの局面は、媒質中の分析物検出の方法であって、フルオロフォアおよび多種多様なリガンドでコーティングされた微小球を、1つまたは複数のリガンドとリガンド結合性分析物との間の結合イベントを同定するためにWGM検出手段に供する段階を含む方法を提供する。
【0054】
もう1つの局面において、本発明は、媒質中の分析物検出の方法であって、フルオロフォアおよび多種多様なリガンドでコーティングされた、分析物を含む媒質よりも高い屈折率を有する微小球を、1つまたは複数のリガンドとリガンド結合性分析物との間の結合イベントを同定するためにWGM検出手段に供する段階を含む方法を提供する。
【0055】
本発明のもう1つの局面は、媒質中の分析物を検出するための方法であって、以下の段階:
(i)分析物に対する多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階であって、微小回転楕円体粒子がメラミンホルムアルデヒドであるならばそれがフルオロフォアとコンジュゲートされてもよく、または量子ドットを含んでもよい段階;
(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;
(ii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに
(iii)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにウィスパリングギャラリーモード(WGM)検出手段に供する段階、
を含む方法を提供する。
【0056】
「コーティングされた」または「コンジュゲートされた」についての言及は、量子ドットまたはその機能的等価物の助けを借りずに、微小回転楕円体粒子の表面にフルオロフォアを組み入れることへの言及と解釈されるべきである。
【0057】
本明細書で用いる場合、「フルオロフォア」という用語は、蛍光性を呈する任意の分子のことを指す。本明細書において、「蛍光」という用語は、特定波長の光を吸収して、より長い波長の光を再び発する分子の特性と定義される。波長変化は、その過程で起こるエネルギー損失に関係している。「フルオロフォア」という用語は、化学フルオロフォアおよび色素などの、ある範囲にわたるフルオロフォアを範囲に含む。
【0058】
フルオロフォアは、WGMプロファイルの成分分解を容易に行いうる任意の波長を発するように選択することができる。これは発光波長と粒子半径との比に依存する。球体半径が任意であると考えると、発光を紫外(波長範囲が約350nm〜約3nm)、可視(波長範囲が約350nm〜約800nm)、近赤外([NIR)](波長範囲が約800nm〜約1500nm)および/または赤外([IR)](波長範囲が約1500nm〜約10μm)の範囲から好適なように選択することができる。しかし、検出の容易さの理由から、1つの特に好ましい態様において、フルオロフォアは可視波長範囲で検出可能である。
【0059】
1つの特定の態様において、フルオロフォアは赤外励起に応答して可視光線を発する。そのようなフルオロフォアを、本明細書では「アップコンバーター」とも称する。
【0060】
したがって、本発明のもう1つの局面は、分析物を検出する方法であって、微小回転楕円体粒子の少なくとも1つの集団を、分析物を含むことが推定される試料と接触させる段階を含み、微小回転楕円体粒子の集団内の各粒子が、赤外励起に応答して可視光線を発するフルオロフォア、および分析物の固定化された結合パートナーと推定されるものを含み、各粒子集団が規定されたWGMプロファイルを有しており、分析物と固定化された結合パートナーとの結合が、ベースラインWGMプロファイルと比較した場合に、分析物の存在を指し示す、微小回転楕円体粒子の少なくとも1つの集団のWGMプロファイルの変化をもたらすような方法を提供する。
【0061】
特定の態様において、微小回転楕円体粒子は、アミン基、チオール基および/またはアルデヒド基、硫酸基、カルボキシレート基、ヒドロキシル基、アジド(axide)および/またはアルキンなどの化学モイエティーによって官能性が付与されている。さらに、メラミンホルムアルデヒドなどのアミン-アルデヒドをベースとする粒子は、アクリロイル修飾された標的オリゴヌクレオチドおよびタンパク質が結合するための有用な基質を与える。
【0062】
それ故に、本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせ、官能性が付与された微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)官能性が付与された微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)官能性が付与された微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0063】
特定の態様において、本発明は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせたアミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)アミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)アミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)アミン-アルデヒド微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0064】
最も特定的な態様において、アミン-アルデヒド粒子はメラミンホルムアルデヒドである。それ故に、本発明は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせたメラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0065】
粒子がメラミンホルムアルデヒドである場合、量子ドットも使われうる。
【0066】
それ故に、本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアでコーティングされた量子ドットを含むメラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0067】
本発明のもう1つの局面は、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコードする微小回転楕円体粒子である、分析物を含む媒質よりも高い屈折率を有する微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階、を含む方法を提供する。
【0068】
フルオロフォアに関する唯一の制約条件は、発光がキャビティモード発光をもたらす必要があること、および本発明のフルオロフォアが量子ドットを明確に含まないことである。
【0069】
本発明によるフルオロフォアとして用いうる、当技術分野において利用可能な蛍光色素は多くある。それを用いうる可能性を決定づける、蛍光色素または他のフルオロフォアの重要な特性は、フルオロフォアの励起波長である;それは光源の入手可能な波長に合致しなければならない。しかし、当業者は多くのさまざまな蛍光色素および他のフルオロフォアに精通していると考えられ、蛍光マーカーの選択は本発明をまったく限定しない。
【0070】
微小回転楕円体粒子の標識のために用いうる好都合な「フルオロフォア」には、以下の群から選択される光源を用いて励起させうる任意の蛍光マーカーが含まれる:
(i)アルゴンイオンレーザー‐は、青色の488nm光線を含み、それは緑色から赤色までの領域にある蛍光を発する多くの色素および蛍光色素の励起のために適している。ある範囲にわたる波長(とりわけ458nm、488nm、496nm、515nm)を発する波長可変アルゴンレーザーも利用可能である。
(ii)ダイオードレーザー‐は、発光波長が635nmである。現在利用可能な他のダイオードレーザーには、532nmで動作するものがある。この波長は、ヨウ化プロピジウム(PI)を励起するのに最適である。476nm前後の光を発する青色ダイオードレーザーも利用可能である。そのようなダイオードレーザーは、微小回転楕円体粒子内でWGMを励起させるために好都合に用いることができる。
(iii)HeNe気体レーザー‐は、赤色の633nm光線を伴って動作する。そのようなレーザーは、微小回転楕円体粒子内でWGMを励起させるために好都合に用いることができる。
(iv)発光ダイオード(LED)
(v)HeCdレーザー‐は、325nmで動作する。そのようなレーザーは、微小回転楕円体粒子内でWGMを励起させるために好都合に用いることができる。
(vi)100W水銀アーク灯‐HoechstおよびDAPIのようなUV色素の励起のために最も効率的な光源。
(vii)Xeアーク灯および石英ハロゲン灯‐は、WGMを励起させ、それ故に粒子をセンサーとして利用するための手段として用いることができる。
【0071】
本発明の特定の態様において、蛍光マーカーは以下のものから選択される:Alexa Fluor色素;BoDipy 630/650およびBoDipy 650/665を含むBoDipy色素;Cy色素、特にCy3、Cy5およびCy 5.5;6-FAM(フルオレセイン);フルオレセインdT;ヘキサクロロフルオレセイン(HEX);6-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシフルオレセイン(JOE);488-Xおよび514を含むOregonグリーン色素;ローダミングリーン、ローダミンレッドおよびROXを含むローダミン色素;カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA);テトラクロロフルオレセイン(TET);ならびにテキサスレッド。
【0072】
微小回転楕円体粒子を蛍光標識するには、内部染色および外部染色(表面標識)という2つの染色手法がよく用いられる。この2つの手法により、それぞれが異なる用途に有益な、固有の性質を有する粒子が作製される。内部染色では、典型的には狭い蛍光発光を伴う極めて安定な粒子が作製される。これらの粒子は多くの場合、光退色に対してより大きな耐性を示す。フルオロフォアが粒子の内部にあるため、表面基を、リガンド(タンパク質、抗体、核酸など)をビーズ表面にコンジュゲートさせる用途に利用することができる。この理由から、分析物の検出およびイムノアッセイの用途には内部標識された粒子を用いることが典型的である。表面標識は、微小回転楕円体粒子の表面に対するフルオロフォアのコンジュゲーションを伴う。フルオロフォアは粒子の表面にあるため、それらは染色された細胞上にあるフルオロフォアと同じようにその環境と相互作用することができる。結果として、染色された細胞試料と同じ励起特性および発光特性を、混入物の存在またはpHの変化といった多種多様な条件下で示す粒子標準になる。表面標識された粒子の「環境応答性」のため、表面標識された粒子は生物試料を模倣するのに理想的に適している。外部標識された粒子は、蛍光検出を利用する数多くの用途において対照および標準として頻繁に用いられる。しかし、本発明は、任意の手段を介した粒子と蛍光標識の会合を想定している。
【0073】
本明細書で用いる場合、「フルオロフォア」という用語は、複数のフルオロフォアおよびフルオロフォアの混合物も範囲に含むと解釈される必要がある。微小回転楕円体粒子上でのそのようなあらゆるフルオロフォアの使用は、本明細書に記載された方法および試薬の範囲内にあるとみなされるべきである。
【0074】
本発明によれば、任意の特定のフルオロフォアの発光は、微小回転楕円体粒子におけるフルオロフォアの分布、フルオロフォアの種類およびフルオロフォアの濃度に依存することが示された。しかし、本発明の方法は、フルオロフォアが微小回転楕円体粒子の表面にあるか、微小回転楕円体粒子内に外殻として存在するか、微小回転楕円体粒子のコアに位置するか、または列挙した位置の複数に存在するかにかかわらず、依然として実施可能である。
【0075】
本発明の方法はフルオロフォアからの発光のクエンチングを根拠においているのではないことに注目すべきである。しかし、本発明の方法は、一部には、分析物と、微小回転楕円体粒子の表面に固定化された結合パートナーとの相互作用または会合の結果としてのフルオロフォアのWGMプロファイルのモジュレーション(すなわち、変化)を根拠においている。
【0076】
電磁放射線について論じる場合、WGMとは、入射光がその周囲の媒質よりも屈折率の高い粒子と相互作用した場合に成立しうる電磁共振のことである。WGMは所与の粒子サイズに対する特定の光共振波長で生じ、WGMの性質は、とりわけ、WGMを含む粒子のサイズならびに粒子および周囲媒質の両方の屈折率に伴って変化しうる。さらに、粒子のサイズは、そこで成立するWGMにも影響を与える可能性がある。WGMは、入射光が粒子表面で全内部反射をする場合に成立する。
【0077】
全内部反射(TIR)は、2つの非吸収性媒質間の境界面で起こりうる。より屈折率の高い媒質中を伝播する光のビームが、臨界角を上回る入射角度で、より屈折率の低い媒質との境界面に当たると、その光は境界面ですべて反射され、屈折率の高い媒質中に戻って伝播する。当業者には明白であろうが、3次元の媒質中で、光はより屈折率の高い粒子内で何回も反射しうる。WGMでは、光は粒子の周縁近くに集中し、それにモード数およびモード次数を割り当てることができる。モード数nは粒子の周縁周りの波長の数を提示し、モード次数lは粒子内の電磁場の径方向依存性における最大の数を提供する。
【0078】
粒子上に埋め込まれた蛍光発光体は、本明細書における定義の通り、規定されたWGMプロファイルを呈する。これらのモードは、ある特定の波長の光のみが粒子から放出されるのを可能にする。この現象の結果は、フルオロフォアの通常の比較的幅広い発光スペクトル(例えば、フルオロフォアは典型的には10〜100nm幅のバンド内で発光する)が制約されて、粒子内の定在モードパターンの光に事実上対応する鋭い一連の「ピーク」として現れる。本発明の微小回転楕円体粒子におけるWGMの成立の結果として生じるこの一連のピークは、本明細書において「ウィスパリングギャラリーモードプロファイル」または「WGMプロファイル」と呼ばれる。
【0079】
WGMプロファイルは、埋め込まれたフルオロフォアの位置およびそれらの濃度、ならびに互いに対するそれらの空間的構成の両方に対して極めて高感度である。粒子サイズおよび屈折率は、WGMプロファイルに見られる発光波長を決定する上で最も重要な2つのパラメーターである。
【0080】
WGMプロファイルにおける1つまたは複数のピークの位置および振幅は、微小回転楕円体粒子と、試料または外部環境内の分子との相互作用または会合によって強く影響される可能性があると提唱する。
【0081】
1つの例において、微小回転楕円体粒子に対する分子の会合または結合は、微小回転楕円体粒子の有効屈折率を変更し、微小回転楕円体粒子によって生成されるWGMプロファイルを変更する。
【0082】
当技術分野において公知である多くの手段の任意のものが、フルオロフォアを微小球の表面にコンジュゲートさせるのに適している。微小球表面は、フルオロフォアまたは任意の生体分子もしくは化学分子を含む分子の疎水性吸着または共有結合のために最適化すること、または官能性を付与することができる。本発明は、微小球を標識するための量子ドットの使用には拡張されず、それを明確に除外する。
【0083】
微小球の表面は、以下のものを含む任意のさまざまな官能基の付加によって官能性を付与することができる:アジド基、アルキン基、マレイミド基、スクシンイミド基、エポキシド基、メタクリレート基、アクリロイル基、アミン基、アルデヒド基、硫酸基またはチオール基;カルボキシル基;カルボキシレート基;ヒドロキシル基;など。
【0084】
1つの態様においては、核酸分子を、シリカ微小球のイオウでコーティングされた表面に共有結合させる。3-メルカプトプロピルトリメトキシシランによるシラン化に続いて、徹底的な洗浄を用いることで、この表面を作り出す。核酸分子、例えばDNAオリゴヌクレオチドは、5'チオール基またはアクリル基を伴うように製造し、表面上の非結合型イオウと結びつける。
【0085】
本発明のリガンドは1つの種には全く限定されず、これには以下のものからなる群より選択されるリガンドが含まれる:核酸;抗体;ペプチド;ポリペプチド;糖質;脂質;糖タンパク質;リポタンパク質;リポペプチド;リポ多糖;有機低分子および無機低分子。抗原または抗体でコーティングされた場合、その粒子は「イムノ-WGM」アッセイまたは「イムノベースWGM」アッセイに用いられる。
【0086】
「核酸」、「ヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」という用語は、RNA、cDNA、ゲノムDNA、合成形態および混合ポリマー、センスおよびアンチセンス鎖の両方を含み、当業者には容易に理解されるであろうが、化学的もしくは生化学的に修飾してもよく、または非天然の、もしくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含んでもよい。そのような修飾には、例えば、標識、メチル化、天然に存在する1つまたは複数のヌクレオチドの類似体(モルホリン環など)による置換、非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメートなど)、荷電結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)、ペンダントモイエティー(例えば、ポリペプチド)、挿入剤(例えば、アクリジン、ソラレンなど)、キレート剤、アルキル化剤、および修飾結合(例えば、α-アノマー核酸など)などのヌクレオチド間修飾を含む。水素結合および他の化学的相互作用を介して指定の配列と結合する能力の点でポリヌクレオチドを模倣する合成分子も同じく含まれる。そのような分子は当技術分野において公知であり、これには例えば、分子の骨格内でリン酸結合がペプチド結合に置換されたものが含まれる。
【0087】
「抗体」という用語は、抗原と合体する、相互作用する、または他の様式で会合することが可能な免疫グロブリンファミリーのタンパク質のことを指す。したがって、抗体は抗原結合分子である。「抗原」という用語は、抗体の抗原結合部位と反応するかまたは結合することが可能な物質を指すために、その最も広義の意味で本明細書において用いられる。本発明に関して、抗原は抗体のイディオタイプも含む。
【0088】
「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる、1つまたは複数のポリペプチドからなるタンパク質のことを指すために本明細書において用いられる。一般に認められている免疫グロブリン分子は、κ、λ、α、γ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、δ、εおよびμ定常領域、軽鎖(κおよびl)、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域を含む。免疫グロブリンの1つの形態は、抗体の基本構造ユニットを構成する。この形態は四量体であり、免疫グロブリン鎖の2つの同一な対からなり、それぞれの対は、1つの軽鎖および1つの重鎖を有する。それぞれの対において、軽鎖および重鎖可変領域は一緒になって抗原との結合を担い、定常領域は抗体エフェクター機能を担う。抗体のほかに、免疫グロブリンは、例えば、Fv、Fab、Fab'および(Fab')2、ならびにキメラ抗体を含む種々の他の形態で存在することもでき、これらの変異体のすべてが、本明細書で用いる「抗体」という用語の範囲に含まれる。加えて、他の動物(例えば、鳥類、哺乳動物、魚類、両生類、および爬虫類)に由来する免疫グロブリンも、命名法は異なるものの同様の機能を有しており、これらも同様に「抗体」とみなされる。
【0089】
1つの態様において、分析物結合性リガンドは一本鎖DNA突出部を含むDNA分子であり、検出しようとする分析物は、そのリガンドとハイブリダイズしうる核酸分子である。ハイブリダイゼーションが起こると、WGMプロファイルにおけるシフトが検出可能である。その反対に、相補的核酸配列間のハイブリダイゼーションがなければ、WGMプロファイルにおけるシフトは起こらない。
【0090】
具体的な態様において、分析物結合性パートナーまたはリガンドは、(i)一本鎖DNA突出部を生成する酵素、例えば制限エンドヌクレアーゼによる二本鎖DNAの消化;および(ii)エキソヌクレアーゼ酵素による消化、によって調製されるDNA分子である。その結果生じる消化されたDNAは、とりわけ、相補的一本鎖核酸とハイブリダイズすることのできる一本鎖DNAを含む。
【0091】
「制限エンドヌクレアーゼ」は、本明細書で用いる場合、DNA分子内の特異的配列の箇所でヌクレオチドを加水分解するヌクレアーゼ酵素のことを意味する。制限エンドヌクレアーゼには、I型、II型およびIII型制限エンドヌクレアーゼが含まれる。
【0092】
表2は、4塩基の5'突出部を生成するI型およびII型制限エンドヌクレアーゼのサブセットを列記している。
【0093】
(表2)I型およびII型制限エンドヌクレアーゼ 4塩基の5'突出部
【0094】
表3は、大部分が4塩基長である3'突出部を生成するI型およびII型制限エンドヌクレアーゼのサブセットを列記している。
【0095】
(表3)I型およびII型制限エンドヌクレアーゼ 大部分が4塩基である3'突出部
【0096】
「エキソヌクレアーゼ」は、本明細書で用いる場合、DNA鎖の末端からヌクレオチドを加水分解するヌクレアーゼ酵素のことを意味する。分析物結合性リガンドおよび/または検出しようとする分析物の調製のために適したエキソヌクレアーゼ酵素の一例は、ラムダ(λ)エキソヌクレアーゼである。λエキソヌクレアーゼは、二本鎖DNAを5'から3'への方向に分解する二本鎖DNAエキソヌクレアーゼである。λエキソヌクレアーゼは、DNAの5'末端が二本鎖であってリン酸化されていることを必要とする。λエキソヌクレアーゼ消化は、二本鎖DNAの特異的な鎖を選択的に分解して、一本鎖DNA分析物結合性リガンドおよび検出しようとする分析物を生成させるために用いることができる。
【0097】
具体的な態様において、本発明の微小回転楕円体粒子は、ウイルス、細菌、酵母または寄生生物などの病原体に由来する核酸でコーティングされる。結合イベントの検出により、試料中の相補的核酸の存在が指し示され、それ故に試料中のおよび/または試料の源での病原体の存在が指し示される。
【0098】
「相補的な」とは、本明細書で用いる場合、オリゴマー性化合物の2つの核酸塩基間での正確な対合の能力のことを指す。例えば、オリゴヌクレオチド(オリゴマー性化合物)のある特定の位置にある核酸塩基が、標的核酸のある特定の位置にある核酸塩基と水素結合を形成することができ、前記標的核酸がDNA、RNAまたはオリゴヌクレオチド分子であるならば、そのオリゴヌクレオチドと標的核酸との間の水素結合の位置は、相補的な位置であるとみなされる。オリゴヌクレオチド、さらにDNA、RNAまたはオリゴヌクレオチド分子は、各分子中の十分な数の相補的位置が、互いに水素結合を形成しうる核酸塩基によって占められている場合には、互いに対して相補的である。したがって、「特異的にハイブリダイズしうる」および「相補的な」は、オリゴヌクレオチドと標的核酸との間で安定かつ特異的な結合が起こるような、十分な数の核酸塩基にわたる十分な度合いの正確な対合または相補性を指し示すために用いられる用語である。
【0099】
本発明は、単一試料中の多様な分析物の存在に関して検査を行うために特に有用である。
【0100】
検出しようとする分析物の実体を知ることは必ずしも必要ではなく、分析物またはリガンドを、例えば蛍光標識または放射性標識で標識することも必ずしも必要ではない。
【0101】
WGM検出手段の感度が高いことから、本発明は、試料中に低濃度で存在する稀な分析物の検出のために有用である。例えば、具体的な態様において、本発明は、微量元素または混入物、例えば、食品および医薬中のアレルゲン、発熱物質および微生物学的または化学的な混入物;環境的および産業的な試料中の汚染物質または毒物;爆発物;生物兵器テロの病原体などの検出のために有用である。本明細書で用いる場合、「稀な」という用語は、低い頻度でしか存在しない、または珍しい、または数が相対的に少ない、または濃度が相対的に低いことを意味する。
【0102】
本発明はまた、特定のリガンドと結合することが以前から知られている分析物の同定のためにも有用である。例えば、本発明の具体的な態様においては、微小回転楕円体粒子を、触媒部位、またはリガンド結合と推定される部位のコンフォメーションが無傷である酵素または受容体分子でコーティングする。そのような粒子と結合する分析物は、酵素活性または受容体リガンド結合のアゴニストまたはアンタゴニストであると推定される。換言すれば、本発明は薬物の同定および設計のために有用である。
【0103】
合理的薬物設計は、例えば、ポリペプチドのより活性の高いもしくはより安定な形態である薬物、または例えば、インビボでのポリペプチドの機能を増強もしくは妨害する薬物を作ることを目的とする、関心対象の生物活性ポリペプチドの、またはそれらと相互作用する低分子(例えば、アゴニスト、アンタゴニスト、阻害薬または増強薬)の構造的類似体の作製を可能にする。例えば、Hodgson(Bio/Technology 9:19-21, 1991)を参照のこと。1つのアプローチでは、まず、X線結晶学により、コンピュータモデリングにより、または最も典型的にはアプローチの組み合わせにより、関心対象のタンパク質の3次元構造を決定する。ポリペプチドの構造に関する有用な情報を、相同タンパク質の構造に基づくモデリングによって得ることもできる。合理的薬物設計の例は、HIVプロテアーゼ阻害薬の開発である(Erickson et al., Science 249.527533, 1990)。加えて、標的分子をアラニンスキャニングによって分析することもできる(Wells, Methods Enzymol. 202:2699-2705, 1991)。この手法では、アミノ酸残基をAlaに置き換えて、ペプチドの活性に対するその影響を判定する。ペプチドのアミノ酸残基のそれぞれをこのようにして分析して、ペプチドの重要な領域を明らかにする。
【0104】
もう1つの態様において、本発明は、特定の病的状態および疾患と関連性のある遺伝子またはそれによりコードされるタンパク質の検出のために有用である。例えば、具体的な態様においては、本発明の微小回転楕円体粒子を、ヒト癌において発現されることが知られている特定のリガンドもしくはリガンドのライブラリーでコーティングするか、またはその反対に、癌と関連性のあることが知られている抗原に対して特異的な抗体もしくは抗体のライブラリーでコーティングする。このため、結合イベントの検出により、癌と関連性のあることが知られている分析物が試料中に存在することが指し示される。その感度が高いことから、本発明のWGM検出手段は、とりわけ、癌の早期発見のための方法を提供する。
【0105】
さらなる態様において、リガンドまたは検出しようとする分析物は、一塩基多型(SNP)または特定の翻訳後修飾を含む。
【0106】
本発明の方法は、例えば、医学、獣医学、農業、法医科学、生物工学、食品工学、スポーツ科学、栄養学、製造、薬物の設計および開発、生体防御、爆発性物質、殺虫剤、肥料および毒素の検出の分野における、いくつかの用途のために有用である。
【0107】
さらに、本発明の方法は、遺伝性疾患、癌、自己免疫疾患、アレルギー、感染症、心疾患、神経疾患、タンパク質症(proteopathy)および代謝性疾患、ウイルス性および細菌性の疾患および汚染を含む、病的状態または疾患の診断、天然試料中の未知の細菌またはウイルスまたは他の微生物の同定のためにも有用である。
【0108】
さらになお、本発明の方法は、とりわけ、組織型判定、血液型判定、遺伝子検査、薬物検査、血液分析物の分析、アルコール検査、妊娠検査などのためにも有用である。
【0109】
本発明の方法は、生物試料を分析物の存在に関してスクリーニングするために特に有用である。「生物試料」は、数ある源の中から例を挙げると、環境試料、生物抽出物、植物または動物の抽出物、血清、尿、滲出物、精液、血漿、土壌試料、河川試料または密封試料、地球外試料のような、生物的な源に由来する試料と解釈されるものとする。
【0110】
本発明のもう1つの局面は、バイオセンサーを提供する。「バイオセンサー」は、本明細書で用いる場合、極めてわずかな数量を含む数量を、または生化学的もしくは化学物質の変化を検出するための、分子間結合イベントが自動記録されてデータに変換されるようなセンサーデバイスのことを意味する。
【0111】
「バイオセンシング」とは、本明細書で用いる場合、生化学的相互作用を定量可能な物理的シグナルに変換する、生体分子、生体構造、微生物などの存在または濃度を測定するために生体分子プローブを用いる種々の手順のうち任意のものを意味する。
【0112】
本発明のバイオセンシングの用途は全く限定されず、これには以下のものが含まれる:環境的用途、例えば、農薬および河川水混入物の検出;例えば対生物兵器テロリスト活動における、空中浮遊細菌またはその胞子の遠隔検知;病原体の検出;バイオレメディエーションの前および後の毒性物質のレベルの決定;有機リン酸塩の検出;生化学的分析物のルーチンな分析的測定;食品中の残留薬物、例えば抗生物質および成長促進物質などの検出;薬物探索および新たな化合物の生物活性の評価。
【0113】
本発明は、とりわけ、WGM検出システムに基づく光学的バイオセンサーを提供する。特定の態様において、バイオセンサーは、小型かつ携帯型である。本発明のバイオセンサーは、分析物の迅速かつ高感度の検出のための手段を提供する。
【0114】
1つの態様において、バイオセンサーは、研究室および分析検査室において、ならびに野外において簡便に用いるのに特に適合している。WGM検出装置はそれ自体が、自己完結化、小型軽量化および携帯性に対応可能である。重要なこととして、この適合性は、かさばる構成要素および高価な構成要素を必要とすることなしに、卓上または野外での迅速かつ簡便な分析物検出を可能にする。
【0115】
本発明の特定の態様において、WGM検出装置は、かさばる電源または光源も、高価な分光光度計または光学レンズも必要としない。例えば、いくつかの態様は60倍顕微鏡用対物レンズを備えており、非冷却型分光光度計を0.5nmスリット幅で用いる。いくつかの態様において、WGM検出装置はバイオセンサーである。
【0116】
約10μW〜約2000μWの電源で、本発明の方法によるWGMスペクトルデータを生成させるには十分である。
【0117】
1つの態様においては、フルオロフォアをコンジュゲートさせた本発明の微小回転楕円体粒子に、光を約20〜2000ミリ秒間にわたり曝露させる。波長532nMの光が、本発明によるWGMスペクトルを生成させるためには特に適している。
【0118】
ある局面においては、本発明の微小回転楕円体粒子を、固体支持体マトリックス、例えばガラスに対して「焼き付け」によって固定化する。固体支持体は、その中を赤外、可視および紫外スペクトルの光が透過しうるような材料を含む。
【0119】
1つの態様においては、微小球を、40℃を上回る温度で10分間よりも長い時間をかけて、ガラス表面に乾燥させる。
【0120】
本システムの鍵となる要求条件は、スペクトルを自動的に比較して、前および後の結合の差を定量することができることである。これは、時間-モードスペクトルの対数変換を用いることによって実現されている。
【0121】
本発明はまた、WGM手段による分析物検出のためのキットも提供する。そのようなキットは、多種多様な分析物結合性リガンドが結びつけられた、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子を含む。1つの態様においては、微小回転楕円体粒子をガラス表面に固定化する。微小回転楕円体粒子につなぎ止められる多種多様なリガンドは、特定の一連の分析物を検出するように設計することができる。例えば、1つの具体的な態様においては、環境試料を、例えば、レジオネラ菌(Legionella pneumophila)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のような、公衆衛生上意義のある1つまたは複数のヒト病原体の存在に関して検査する。1つの態様においては、微小球を、数多くの異なる病原体に由来する核酸のライブラリーでコーティングする。微小回転楕円体粒子につなぎ止めるためのリガンドの組み合わせは限定されない。
【0122】
微小回転楕円体粒子がメラミンホルムアルデヒドである場合には、キットは量子ドットも含みうる。
【0123】
「環境試料」とは、本明細書で用いる場合、空気、水または土壌といった環境性の源から収集した任意の材料の標本のことを意味する。「環境性の源」は、本明細書で用いる場合、天然環境、人工的環境または地球外環境に関係している。他の試料には食品試料が含まれる。それ故に、WGMアッセイは、食品産業、環境水検査、農業産業、生物兵器テロ検査、および薬理学的検査にとって有用である。
【0124】
粒子を、継続使用およびハイスループットスクリーニングのために再生利用してもよい。
【0125】
WGMに対する変化は、分析物の存在を指し示す。また、特定の微小球のWGMピークの相対的強度、線幅および波長の変化から、さらなる情報を拾い集めることも可能である。
【0126】
以下の非限定的な実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0127】
実施例1
多種多様なDNAリガンドをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子(QSand-商標)は、分析物と結合した時にWGMの一定シフトを示す
多種多様なDNAリガンドをコンジュゲートさせ、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子(QSand[商標:シリカ粒子])は、特定の分析物の結合後に、測定可能であってかつ一定した差を示した。直径が4.87、5.6、6.8または7.5μmのいずれかである微小回転楕円体粒子に、ヌクレオチド位置1にTMRタグを有する多種多様な22-mer DNA分子をコンジュゲートさせた。相補的22-merとのハイブリダイゼーションの前および後にWGMを収得した(図1)。
【0128】
実施例2
バイオセンシングのためのWGM装置の最適化
WGM検出システムを小型軽量化、自己完結化および携帯性に関して適合させうるか否かを明らかにするために、いくつかのパラメーターを評価した。
【0129】
図2は、WGM検出システムの略図を提示している。まず、光源の出力を、WGM分解能に対するその影響を明らかにするために変化させた。6.3、50.2、214.5または1160.5μWの光源用の入射出力(532nm、200ミリ秒)は、WGMの成分分解を行うのに十分であった(図3B)。そのような出力は、標準的な安価なレーザー(光ポインター)を用いて達成可能である。
【0130】
励起時間を、WGMに対するその影響を明らかにするために変化させた。WGMを、10、60、200および1000ミリ秒間の入射光(50μW、532nm)の曝露後に評価した。200msという短い曝露時間でWGMの成分分解を行うには十分であり(図4C)、鮮明度は5秒間の曝露時間に至るまで低下することが明らかになった(図4E)。
【0131】
出力50マイクロワットの光に対する200ミリ秒間の曝露が、高品質のWGMのために妥当であることが示された。
【0132】
実施例3
WGMバイオセンサーのプロトタイプ
プロトタイプWGMバイオセンサーを、微小回転楕円体粒子に対する分析物の結合の前および後に、十分に成分分離されたWGMスペクトルがもたらされるように、仕様に合わせて製造する。デバイスはおよそ30×15×15cmおよび2〜5kgであり、電源、光源、試料取り扱いチャンバーおよび分光光度計を含む完全に自己完結的なものである。
【0133】
実施例4
微小回転楕円体粒子の固定化
微小回転楕円体粒子(QSand[商標:シリカ粒子])を、ガラス製の顕微鏡用スライドカバースリップの表面にランダムな配置で固定化した(図5)。QSand(商標)粒子が固定化されたカバースリップは、分光光度計のスリット内に直接連結させることができた。
【0134】
実施例5
単一の蛍光性微小球においてウィスパリングギャラリーモードを用いた、標識されていないオリゴヌクレオチド標的の検出のための単一粒子プラットフォームの開発および特性評価
本実施例では、廉価で高感度のウィスパリングギャラリーモード(WGM)に基づくバイオセンシングシステムの開発について示す。本システムは、フルオロフォア、および一本鎖オリゴヌクレオチドの密な単層により官能性が付与されたシリカ微小球を含む。相補鎖の吸着は微小球の発光スペクトルにおけるスペクトルシフトを引き起こし、それを従来の光学的顕微鏡およびCCD検出器を用いて自動記録することができる。
【0135】
材料
7.50μmのSiO2微小球は、Microparticles GmbH, Berlin, Germanyから得た。5.06μmおよび6.80μmのシリカ粒子は(Bangs Laboratories Inc, USA)から得た。フォトエッチングが行われたグリッド入りカバースリップ(18×18mm)は、Bellco Glass, Vineland, NJ, USAから購入した。(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン((3-mercaptopropyl)trimentoxysilane)(MPS、95%);テトラエチルオルトシリケート(TEOS、98%)、ポリビニルピロリドン(PVP、MW 40,000)、水酸化アンモニウム(水中で29.1% wt%のNH3);(2-[N-モルホリノ]エタンスルホン酸)水和物(MES)、酢酸ナトリウム(NaOAc)、過硫酸アンモニウム(>98%)およびジメチルスルホキシド(>99.9%)は、Sigma-Aldrichから入手した。分析用グレードの硝酸、エタノール、メタノールおよび2-プロパノールは、Merck, Victoria, Australiaから得た。スクシンイミジルエステル色素標識テトラメチルローダミン(TMR)、Bodipy 630/650およびAlexa 647は、Olecular Probes, Eugene, USAから購入した。全体を通じて、Milli-Qグレード(R>18MΩcm)の水を用いた。アクリロイル修飾オリゴヌクレオチドは組織内で設計し、Integrated DNA Technologies, Coralville, Iowa, USAにより構築された。オリゴヌクレオチド構築物は乾燥状態で受け取り、使用前に超精製Milli-Q H2Oにより200μMに再懸濁させた。
【0136】
特性評価用の計器類
Ocean optics設備
実験は、Nikon Eclipse TE2000-S顕微鏡上で行った。微小球蛍光の励起は、80W Nikon水銀ランプを用い、420〜490nmフィルターブロックを通して達成した。励起された微小球からのウィスパリングギャラリーモード発光シグナルを、QE6500 Ocean Optics分光光度計を用いて空気中で取り込んだ。データはすべて、対応するSpectra Suiteソフトウエアを用いて取り込んだ。典型的には、WGMスペクトルは、1〜2秒間以内に、スペクトル分解能±0.9nmで、800msの積算時間で収集した。フィルターを通した励起光を、35.52mWという一定の放射電力で測定した。粒子の撮像は、Nikon Plan Fluor油浸100倍対物レンズを通して、作動距離1.30mmで行った。スペクトル分解能(±0.9nm)は、蛍光ピーク波長を測定することのできる精度を規定する。WGM応答曲線におけるピークシフトは、0.1nmから最大で数nmまでの間でルーチンに観察可能である。製造元によって提示されている光学的分解能は、0.14nm〜7.7nm FWHMのピークをルーチンに検出しうることを指し示している。
【0137】
QE6500を利用する場合には、575nm、585nm、605nmで観察されるピークを、これらの波長での信号雑音比の低さおよび個々のピークの鋭さを理由として、参照ピークとして一般に用いた。
【0138】
共焦点顕微鏡検査
場合によっては、Lympus共焦点顕微鏡に接続した窒素冷却式TRIAX 550分光光度計(Horiba Jovin Yvon, USA)を、スペクトル分解能±0.05nmでスペクトルを収集するために用いた。いずれの計器類による結果も実験誤差の範囲内で同じであった。感度(較正スペクトル分解能±0.05nm)およびスキャニング範囲(o〜1500nm)の能力が高められたTRIAX 500分光計(spectromer)を、Ocean Optics設備と組み合わせて利用することで、特に極めて低濃度のDNA試料を検出する場合に、WGMシフトを確認およびモニターするための有効なプラットフォームが提供される。
【0139】
定常状態の発光スペクトルを、Jobin Yvon Fluorolog-3蛍光計で記録した。この顕微鏡設備および用いたスキャン条件のより広範な概略については実施例6で扱っている。
【0140】
走査型電子顕微鏡(SEM)
微小球の画像はまた、Philips XL-30電解放射型SEMを用いても収集した。これを行うためには、微小球をMilli-Q H2Oで洗浄し、12mmの円形シリカ基板上に直接固定化して、続いてそれをSEMのスタッド上にマウントする。試料には、Edwards S150B Sputter Coaterを用いて、3〜5nmの金をスパッターコーティングした。
【0141】
オリゴヌクレオチド断片の設計および構築
この検討のみを目的として、以下の一本鎖標的および相補的オリゴヌクレオチド配列をランダムに設計して命名した;このため、既知の遺伝子配列との相同性は偶発的であり、無視されるべきである。設計した配列の合成および受注は、integrated DNA technologies, Coralville, Iowa, USAにより行われた。オリゴヌクレオチドは200μMの作業用ストック液として超純度のMilli-Q H2O中に保った。
【0142】
オリゴヌクレオチド配列、および本実施例の全体を通じて用いる略記名を以下に提示する。「iAm」という修飾語は、DNA断片上の非結合型内部アミン基(例えば、フルオロフォアを結びつけるために用いられる)を提示しており、これは本質的には非結合型-NH基が結びついているTヌクレオチド塩基である。
【0143】
配列/Acrd/は、オリゴヌクレオチド配列と結びつけられた5'アクリロイル基(Acrydite-商標、Integrated DNA Technologies, USA)基を表し、/iAm/は、フルオロフォアの結びつけのために用いられる非結合型の内部アミン基を有する、修飾されたTヌクレオチド塩基の位置を特定している(Integrated DNA Technologies, USA)。
【0144】
方法
微小球表面への官能性付与
この検討に用いたシリカ微小球には、標準的な文献上の手順(Battersby et al, Chemical Communications 14:1435-1441, 2002;Corrie et al, Langmuir 22(6):2731-2737, 2006;Miller et al, Chemical Communications 38:4783-4785, 2005;Johnston et al, Chemical Communications 7:848-850, 2005;Verhaegh and Vanblaaderen, Langmuir 10(5):1427-1438, 1994)を用いて、チオール基により官能性を付与した。未処理微小球の5mLアリコートを、20mLのMilli-Q H2O中で、1800rpmでの2分間の遠心によって洗浄した。ペレットを20mLの1.5M硝酸中に再懸濁させ、その後にモーター付き撹拌ホイール上で30分間穏やかに転置させた;この過程を3回繰り返した。続いて微小球を2-プロパノールの20mLアリコートにより洗浄し、80℃の2-プロパノール(20mL)中で一定の撹拌を行いながら還流させ、その間に30分毎に(100μL)の0.5% v/vの純MPSを4時間の期間にわたって投与することで、粒子にメルカプタン基により官能性を付与した。官能性が付与された球体を1800rpmで2-プロパノールにより洗浄し、10mLの新たな2-プロパノール中に再懸濁させた。この微小球スラリーをアリコートに分け、8000rpmで5秒間かけてペレット化した上で、乾燥器内で窒素下に230分間おいて乾燥させた。最後に、完全な2-プロパノール蒸発(90℃)が確実に起こるように、加熱ブロック上で30分間、それらを激しく撹拌しながら熱硬化させた。官能性が付与された微小球はすべて、窒素下にて4℃で乾燥貯蔵した。上記の手順はシリカ表面の再現性のある密な官能性付与をもたらし、さらに貯蔵後の微小球の定量的な再ペプチゼーション(repeptization)も確実に行わせる。
【0145】
表面層を有するナノ結晶がドープされた微小球の合成
発光極大593nmのオレンジ色を発光し、FWHM 32nmであったCdSe@ZnSナノ結晶コア/外殻を用いた。10μMストック溶液からアリコートを採取した。MPSにより官能性が付与されたシリカビーズをCdSe@ZnSコア外殻ナノ結晶(nonocrystal)と1:2.5の比で混ぜ合わせ、徒手的に振盪させ、続いて回転器の上に載せて最小限のrpmで15分間〜1時間おいた。不動態化の後に、2-プロパノールを用いて2つの相を乳化し、コロイド状懸濁液を800rpmで5秒間かけて遠心沈降させた;続いて上清を廃棄し、数回のCHCl3洗浄を行って、遊離性または吸着されなかったナノ結晶を除去した。不動態化されたCdSe@Zns微小球をコーティングするためには60個/表面積nm2のPVP分子が必要であり、PVPは反応溶媒CHCl3:2-プロパノール中に9:1比で1時間撹拌して溶解させた。不動態化されたペレットを反応混合物中に再懸濁させ、短時間のボルテックス処理を行い、反応物を一晩反応させた。PVP分子上のピロリドン環内の極性アミド基は、ほぼ間違いなく、共有結合を介したナノ結晶表面への化学吸着を促すと考えられる。加えて、分子の両親媒性のために、このコーティングは微小球に安定性(疎水性および水中での安定性)を与え、分子が多くの表面に吸収されることを可能にする。これはカップリング剤を使用することなく、最終的なシリカ外殻コーティングに対する粒子の親和性を高める。翌日に、反応させた粒子を2-プロパノール中で数回洗浄し(8000rpm;5秒間)、新たな2-プロパノール中に4℃で保った。微小球のキャッピングをTEOSの1:200溶液中で行い、反応物中のPVPでキャッピングされた粒子および1:200比の容積のTEOS(PVPでキャッピングされた微小球0.005g当たり100μL)の1mLにつき、1mLの4.2%(H2O中)NH3溶液を利用した。TEOSを撹拌下で添加して一晩反応させ、その後に2-プロパノール中で数回洗浄した。微小球はすべて2-プロパノール中に懸濁化された状態のままとし、4℃で保った。
【0146】
オリゴヌクレオチド塩基に特異的な標識
受容された5'アクリロイルenlおよび対照オリゴヌクレオチド配列の非結合型の内部アミン基の色素標識を行うために、200μMのオリゴヌクレオチドストック液15μLを、3.5μLのTMRスクシンイミジル(succinimdyl)エステル-フルオロフォアおよび4.5μLの1M NaHCO3溶液とエッペンドルフチューブ内で混ぜ合わせた。この溶液を室温で2時間、暗所にて(色素の光退色を最小限に抑えるため)、時折混合しながらインキュベートした。標識されたオリゴヌクレオチドを洗浄して沈降させるために、調製物を、反応物に直接添加した58μLのMilli-Q H2O、10μLのNaOAcおよび200μLのエタノールの混合物で処理し、続いてこの溶液を-20℃の冷凍器内に30分間貯蔵した。試料を続いて13,800rpmで20分間遠心し、上清を除去した。これらの段階を、試料上清が余分なフルオロフォアを含まなくなるまで繰り返した。最後に、標識されたオリゴヌクレオチドを、100μLの超純度Milli-Q H2Oにより、200μMの作業用ストック液となるまで希釈し、-20℃の冷凍器内で貯蔵した。
【0147】
微小球に対するアクリロイルオリゴヌクレオチドのカップリング
チオール官能性が付与された微小球の、enlおよび対照標的5'アクリロイル修飾オリゴヌクレオチドによる誘導体化を、標準的なプロトコール(Hermanson, Bioconjugative Techniques, Sand Diego: Academic Press Incorporated, 785, 1996)を用いて、以下の通りに行った:エッペンドルフチューブ内に0.002gの官能性が付与されたMPS微小球を秤量して入れ、続いて微量遠心(8000rpmで5秒間)を介して100μLのメタノールで飽和させ、上清を廃棄した。このペレットを新たに調製した0.5M MES(pH 5.4)中に再懸濁させ、その後にアクリロイルで修飾してTMRで標識した200μMのオリゴ体配列(enlまたは対照)15μLを、100μLの新たに調製した10% w/v過硫酸アンモニウム(w/v)とともに添加した。この反応物をボルテックス処理し、続いてモーター付きホイール上で穏やかに1時間かけて混合した。カップリングされた微小球をリン酸緩衝食塩水(緩衝液)[pH 9.0]で洗浄し、微量遠心管(8000rpmで5秒間)内でペレット化して、上清を除去した。オリゴ体とコンジュゲートされた微小球調製物はすべて、1mLの緩衝液(球体2g/リットル)中に再懸濁させて、4℃で貯蔵した。本実施例で提示し、後に実施例6で提示する、WGMを生じる、蛍光オリゴヌクレオチドで修飾されたシリカ粒子をルーチンに製作するために利用した方法は、図6に図示されている。これらの粒子を、DNA特異的な認識プラットフォームに利用した場合のWGMの強固かつ高感度の検出能力を示すために利用する。
【0148】
グリッド入りアレイプレートに対する微小球の固定化のための方法
各アッセイプレートについて、enl微小球または対照微小球の10μLアリコート(1つのアッセイ当たり20μgの微小球)を、Milli-Q H2Oの1mL部分によりエッペンドルフチューブ内で別々に3〜4回洗浄した(8000rpmで5秒間)。洗浄した微小球を120μLのMilli-Q H2O中に再懸濁させて、ボルテックス処理し、個々のグリッド入りシリカプレート上へのスポッティングを行った。続いて、粒子がマウントされた各アレイを加熱ブロック/プレート(90℃)上に載せて、粒子を固定化するとともに余分な水を完全に蒸発させた。加熱中は、コロイドの徹底的な分散が確実に行われるように、ボルテックス混合器を加熱ブロックと接続することにより、アレイプレートを穏やかにボルテックス処理した。
【0149】
ハイブリダイゼーションサイクル条件
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)調製物の場合と同じように(Rychlik et al, Nuci. Acids Res. 18(21):6409-6412, 1990)、すべてのハイブリダイゼーション反応サイクルに対して二段階温度勾配を使用した。cDNAを投与したところで、アレイプレートを10秒間〜5分間の範囲の時間にわたって90℃の加熱ブロックの上に載せた。その後に、cDNAプローブが標的オリゴヌクレオチドに対してアニーリングするために十分な時間が確実に得られるように、5分間かけてアレイを室温まで冷却した。
【0150】
単一粒子cDNAハイブリダイゼーションアッセイ
200μMのストックcDNA溶液の試料をPBSで希釈して(1:40)、試料をボルテックス処理した。120μLのアリコートを各アレイプレートに対して適用した(グリッド入りアレイ領域を完全に浸漬させるのに十分であった)。続いて、粒子がマウントされた各アレイを、90秒間の単一ハイブリダイゼーションサイクルにかけた。対照試薬アッセイについては、各グリッドを120μLの対照溶液:Milli-Q H2O、さらにその後に緩衝液(PBS)、非特異的DNAおよびcDNA(上記の通り)で処理し、それぞれの処理プレートに対して90秒間のハイブリダイゼーションサイクルを実行した。すべてのアレイを室温で5分間静置し、その後に、溶液相(反応していない)DNAを除去するために、Milli-Q H2Oの100μL部分により穏やかに洗浄した。別に指摘する場合を除き、すべてのアッセイで、cDNA処理後に、加熱ブロック(90℃)上での蒸発により、余分な水を除去した。続いて、処理した球体からの蛍光励起および発光シグナル測定の取り込みを空気中で行った。
【0151】
cDNA変性アッセイ
ハイブリダイゼーションを上記の通りに行い、続いて、ハイブリダイズした試料を90℃の加熱ブロック上で30秒間加熱することによって、変性を生じさせた。Milli-Q H2Oによる数回の100μL洗浄により、緩衝液を直ちに除去した。これらの変性手順を3回繰り返し、その後に余分な液体を蒸発させ、最後に、選択した粒子からの発光を測定した。
【0152】
粒子特性評価試験
粒子の製作
本実施例の当初の目標には、WGMシグナルが紫外(UV)照射を介して生み出されることを可能にするための、シリカ微小球(<10μm)へのCdSeコア外殻(発光体)による表面官能性付与が含まれた(Gomez et al, Small 1(2) :238-241, 2005)。続いてNC粒子にいくつかの有機性安定化層によるキャッピングを施し、最終的な官能性層は選択した生体分子によるものとなるように意図した。残念ながら、これらの実験に利用したナノ結晶の安定性は損なわれていた;順次の処理により、生体分子の想定されるコンジュゲーションが行われるようになる前に、一定した光分解および識別可能なWGMピークの損失がもたらされた。フォトルミネセンスの顕著な損失は、おそらくナノ結晶層の脱離/崩壊によるものと考えられた。ナノ結晶の光安定性は、PVPおよびTEOSキャッピング段階で利用した反応溶媒に対する曝露によって明らかに損なわれた。色素標識された一本鎖オリゴマー断片による、チオール官能性が付与された粒子表面に対する微小球への直接的な表面官能性付与を伴う次の検討では、代替的なアプローチについて記載する。この代替的なアプローチは以後の実施例の基礎となる。
【0153】
単一粒子ハイブリダイゼーションアッセイ
官能性が付与された個々の微小球はいずれも固有のWGMフィンガープリントを示す。したがって、バイオアッセイは、被験溶液に対する曝露の前および後に同一の粒子に対して行う必要がある。そうするために、粒子をグリッド入りシリカアレイ上に固定化し、enl-標的および対照アッセイグリッドの詳細な微小球マップを収集した。各微小球には、測定するその発光シグナルのそれ以外のものに従って番号を付した;続いてその特定の場所を、エッチングされた単一のグリッドに相当する図式上に認められた対応するスキャン番号を用いてマッピングした。グリッド入りアレイを用いると、さまざまな被験溶液および対照に対する曝露後に、同じ微小球の位置をルーチンに再び特定することができると考えられる。しかし、微小球の屈折率は極めて低く、溶液中に浸漬された微小球から高品質のWGMスペクトルを得ることは、屈折率の差異が小さいために困難であった。これは根本的な問題であり、しかも予想外であった。コロイド状シリカと水との間の屈折率ミスマッチは、WGMを維持させるには不十分である。したがって、空気中ですべてのスペクトルを収集しうるようにプロトコールを設計した。
【0154】
アレイプレートを、120μLの標的相補物α-enlで処理した。初期ハイブリダイゼーション手順は、90℃の加熱ブロック上に載せたアッセイグリッドを伴った;溶液をゆっくりと加熱することにより、標的溶液中に存在するあらゆるオリゴマーDNAまたは凝集DNAがペプチゼーションを受け、ビーズ上のプローブDNAとのハイブリダイゼーションが促進される。プローブオリゴヌクレオチドが微小球表面とコンジュゲートされた時に形成されたアクリロイル/スルフヒドリル結合は、標的-プローブ配列を球体表面に有効につなぎ止めるとともに固定化し、これはその後の90℃での加熱による影響を受けなかった。α-enl cDNAプローブがenl標的微小球に対してアニーリングするために十分な時間が得られるように、アレイを5分間かけて室温に冷却した。続いてグリッドを洗浄し、ヒーターブロック上での蒸発により、余分な水をすべて除去した。α-enlプローブによる処理後に、同一の個々の粒子の位置を再び特定し、第2のスペクトルのセットを空気中で収集した。標識enlおよび対照オリゴヌクレオチド標的配列を標識するために用いた色素標識TMRの蛍光スペクトルを蛍光定量的に分析した。色素の発光範囲は、選択したフルオロフォアの発光範囲によって規定されるであろう微小球発光シグナルの予想された範囲を示した。WGM発光シグナルはTMR色素の励起範囲内に収まった。WGMスペクトルは、すべてのピークが等しくシフトするわけではないが、明らかなレッドシフトを示す。示している試料に関して、cDNA α-enlハイブリダイゼーション後に観察された575nm(1.1nm)、585nm(1.5nm)、595nm(1.1nm)および605nm(1.1nm)の波長で測定されたピーク変位はすべて、ハイブリダイゼーション前の発光シグナルと比較してより長い波長であり、すなわち、ハイブリダイゼーションはWGMスペクトルにおける主要なピークのレッドシフトをもたらす。
【0155】
非特異的結合、対照試薬および緩衝液の影響
続いて、ギャラリーモードシグナルに対する対照試薬の影響を調べるために対照アッセイを設定した。単一のアッセイプレートを、Milli-Q H2O、非特異的DNA配列および最後にcDNAプローブにより処理した。90秒間のハイブリダイゼーションサイクルを各ステージの処理について実行し、選択した球体の位置を再び特定して、蛍光スペクトルを各ステージ後に収集した。選択した微小球をMilli-Q処理および非特異的DNA処理に曝露させた場合、一定したピークシフトは観察されなかった。しかし、微小球をcDNA(α-enl)に曝露させた場合には、一定したレッドシフトが観察された。Milli-Q H2O処理後に、相補的標的DNAに対する曝露後と比較して、結果的に起こったブルーシフトの原因は不明であるが、鍵となる結果は、非特異的DNAおよび対照試薬による処理後には何ら関連が認められなかったことである。これは信号雑音比の上での懸念事項ではなく、それはこの実験の単一粒子形式がこの点に適応しているためであり、そのため、このステージでのこの結果はブルーシフトが単にランダムな非特異的結果に過ぎないことを示唆する。
【0156】
WGMアッセイのサイクリング
この局面は、これらのアッセイが可逆的であるか否か、つまり、DNAの変性が元の位置に対するブルーシフトをもたらすか否か、および同じ微小球に対して2度目に行ったハイブリダイゼーション反応もレッドシフトを引き起こすか否かについての検証を伴った。これにより、スペクトルシフトが生体分子認識に起因し、単にDNAによる非特異的結合に起因するのではないことを本発明者らが確かめることが可能になると考えられる。さらに、吸着-脱離サイクルの繰り返しによるサイクリングを行いうることにより、ピークシフトを数サイクルにわたって平均化しうると考えられる、統計学的により信頼性のあるアッセイを設計することが可能になると考えられる。cDNAをプローブ微小球にハイブリダイズさせた後に、それは、DNAを変性させようとするための希釈緩衝液中で90℃でアニーリングし、標的配列の脱離を引き起こした。
【0157】
スペクトルを記録し、それらのシフトを第2のハイブリダイゼーションサイクルの結果とともに図7に示している。見てとれるように、希釈緩衝液中での拡張されたアニーリングは4つの主要なピークすべてのブルーシフトを招き、第2のハイブリダイゼーションはレッドシフトをもたらさず、このことは、アッセイサイクルを繰り返すことはできるが、観察されたシフトは完全な可逆性には合致しないことを指し示している。図7は、選択して位置を再び特定した球体からの、ハイブリダイゼーションアッセイの各ステージでのピーク位置の単純化された表示である。
【0158】
実施例6
単一の蛍光性微小球においてウィスパリングギャラリーモードを用いた、無標識オリゴマー標的のアトモル濃度での検出
本実施例では、アッセイを行いうる感度および限界ならびに速度について明らかにする。
【0159】
実施例5は、一本鎖オリゴヌクレオチド断片により官能性が付与された単一のシリカコロイドが、cDNA標的プローブの10ヌクレオチド塩基の違いを描写しうることを示した。本実施例における結果は、WGMに基づくシステムが、数マイクロリットルの試料を用いて、室温(RT)で、ピコモル濃度以下の濃度で、およびわずか数分以内に、相補的DNA断片の迅速で標的特異的な検出を行いうることを実証している。それらの結果は、標識されていないDNA断片のアトモル濃度での検出がルーチンに可能であることを指し示している。
【0160】
実験の項
粒子合成およびハイブリダイゼーションアッセイの方法を明示している単純化された概略図について、以下に概説する(図8)。利用したDNA断片は、実施例5で用いたものと同じであり、それらをウィスパリングギャラリーモード特性評価用装置とともに用いた。
【0161】
設備および特性評価方法
Triax 550分光光度計およびCCD-3000v外部検出器(Jobin Yvon, USA)と接続したFV-500 Olympus Fluoviewレーザー走査型顕微鏡IX71(Olympus, USA)により、空気中で、より分解能の高いスペクトルが収集された。粒子の撮像は、Olympus UPlanSApo油浸100XO対物レンズを通して、作動距離0.13mmで行った。スペクトルは5秒〜2分以内に収集することができ(波長スキャニング範囲に依存)、スペクトル分解能は0.05nmであった。試料のフォトルミネセンスおよびスペクトルを、液体窒素冷却式(137K)CCDカメラを用いて収集した。粒子は、Melles Griot X2多重線(multi-line)Ar+レーザー(Melles Griot, USA)により、典型的には励起出力を350μWとして励起させた。発光シグナルは、典型的には、波長中心点を600nmとし、550nmカットオフフィルターを通して、積算時間を2秒間として収集した。
【0162】
方法
「実際の」アッセイ環境は、官能性が付与された粒子を、実施例5で指示したさまざまな反応条件下で、さまざまな対照試薬、特異的および非特異的な標識されていない分析物、ならびにハイブリダイゼーション緩衝液に曝露させるものである。現在販売されている競合検出プラットフォームは、ピコモル以下の濃度の分析物をルーチンに検出することができるはずである。本実施例は、WGMアッセイを室温で実施しうるか否かを検討し、実施例5に提示したシステムの検出限界について明らかにする。別に指定する場合を除き、本実施例で行ったアッセイは実施例5で指定したものと同じとした。
【0163】
高感度の相補的プローブハイブリダイゼーションアッセイ
以下のハイブリダイゼーションアッセイのために、200μMのストックα-enl cDNA溶液を用いて系列希釈を行い、cDNA濃度が10-15Mから10-7Mの範囲にわたる標的溶液を作成した。各試料を十分にボルテックス処理し、各プローブ溶液の120μLアリコートを、個々のenl標的アレイに対して適用した。続いて、粒子がマウントされた各アレイを90℃の加熱ブロックの上に載せ、ハイブリダイゼーション反応を90秒間実行した。試料を室温で5分間静置し、Milli-Q H2Oの100μL部分により穏やかに洗浄した。処理後に、反応用緩衝食塩水を希釈するため、および余分な反応物が蒸発した時の塩結晶の沈着が確実に最小限となるように、アレイ-プレートをMilli-Q H2Oにより洗浄した。続いて粒子を回収し、該当する「ハイブリダイゼーション後」の発光シグナルを測定した。
【0164】
室温でのハイブリダイゼーション動態アッセイ
enl-標的センサーが固定化された5つのアレイを調製した。対応する粒子マップに着目し、上記に詳述したような蛍光顕微鏡検査および励起により、WGMスペクトルを収集した。アッセイをRTで行ったことから、緩衝液(2.50×10-8Mのα-enl)中で調製したプローブ処理物を、α-enl DNA断片が確実に一本鎖であるように、使用の前に90℃で10分間加熱した。調製した各アレイプレートを、続いて、緩衝液中に作成した2.50×10-8Mの一本鎖α-enl溶液の120μLアリコートにより処理した。続いて、アレイに対して、10秒間、30秒間、60秒間、180秒間または300秒間にわたる単一ハイブリダイゼーションサイクルを室温で実行した。処理後のアレイ-プレートを室温で5分間静置し、Milli-Q H2Oで洗浄して乾燥させた。続いてセンサーを回収し、該当する発光シグナルを測定した。
【0165】
高感度かつ室温でのハイブリダイゼーションの検討
単一粒子WGMアッセイ
TMRで標識された70塩基のオリゴヌクレオチド断片により官能性が付与された7.50μmのシリカ粒子から、2種類の特性評価用設備を用いてギャラリーモードシグネチャーを収得した。第1のものはocean optics CCD(±0.9nm)検出器と接続したTE2000-S Nikon蛍光顕微鏡であり(図8A)、TRIAX分光光度計(±0.05nm)と接続したOlympus Fluoviewレーザー走査型顕微鏡IX71(Olympus, USA)を用いると、より分解能の高いスペクトルが収得された(図8B)。開発された認識プラットフォームの鍵となる特徴は、粒子スコア化のために利用される「単一粒子」法である。以下の概略図(図8C)は、選択される形式に関する根本的な理由、およびそれがWGMに基づくシステムにおいてなぜ決定的に重要であるかを図示している。この概略図から汲み取るべき要点は、この実施例は同じ試料に由来する同一に修飾された2つの粒子が固有の発光シグネチャーを有することを示しているため、検出プラットフォームにおけるWGMの光学特性を利用するために、アンサンブル結果からのスペクトルを平均化することは成功裏には行えないことである。結局、単一の粒子は「それ自身の参照(own-reference)」として作用し、それ故に単一の粒子は単一の実験とみなすことができる。このパラメーターは、開発されたハイブリダイゼーションアッセイにおける根本的な分析用変数を形成する。
【0166】
感度
cDNAプローブストックの初期系列希釈液(緩衝液)を、10-7Mから10-15Mまでの範囲にわたる濃度で調製した。選択した個々の微小球からの発光シグナルを、cDNA処理曝露の前および後に取り込んだ。575nm、585nm、595nmおよび605nmに近い波長での発光ピーク波長またはモード位置を、cDNA濃度の関数として分析した(図9A)。図9Bは、発光スペクトルのピークシフト間の関係(Δλ)を、cDNA濃度の関数として提示している。一定した定向的なピーク変位が生じなかった(Milli-Q処理)対照アッセイとは対照的に、事実上すべてのWGM発光ピークに関して、曝露後には、発光スペクトルにおいて明らかなレッドシフトがみられる。アッセイの目的には、事実上すべてのモードが、DNAの吸着に応じてレッドシフトを呈したことを指摘することで十分である。さらに、これは融解温度を上回る温度でのDNAの変性に応じて可逆的である。Δλシフトがほとんどのアッセイでは1〜4nm程度に過ぎなかったことを考慮して、モードシフトのより詳細な検討を、±0.05nmのスペクトル分解能を有するTriax 550分光光度計を用いて行った。図9Cは、cDNA曝露の前および後の同じenl標的粒子からの典型的なWGMスペクトルを提示している。
【0167】
個々の微小球はそれぞれ、それ自身のWGMシグネチャーを有するため、検出は単に、同じ個々の微小球に伴って観察されるかまたは観察されないシフトのみに基づくことを認識することが重要である。複数の微小球に対する結果を平均化することは不可能である。現時点では、任意の個々の微小球に伴って陽性検出の場合に観察される実際のシフトは、使用した微小球については典型的には1〜2nmであり、対照についてはそれ未満である。したがって、検出レベルは極めて低いものの、各実験は同じ粒子の挙動のみに関しては相関づけることができる。異なる微小球からの結果を示している、図9Aに示されたようなデータでは、各粒子についての絶対的シフトは無意味である。検出のための基準は、試薬に対する所与の曝露に関して、いずれかの単一の粒子によって、一定したスペクトルシフトが検出されるか否かである。
【0168】
考察
この検討で全般的に使用したCCD設備のスペクトル分解能は、WGMセンサーの感度を限定しうると考えられる。感度は、使用した検出器のスペクトル分解能に決定的に依存する。Ocean Optics検出器の分解能は0.9nmであり、WGM発光ピークはスペクトル分解能が低いために減衰する。それ故に、モード形状から拾い集めることのできる情報は全くない。しかしながら、これらの単純な分光光度計は、アッセイを安価に実施することを可能にし、それを野外でルーチンに行うことも可能にすると考えられる。
【0169】
ハイブリダイゼーションにより誘発されるレッドシフトは、70塩基のオリゴ体で修飾し、ピコモル濃度以下のcDNA濃度により120μLの投与容積で処理した粒子を用いてルーチンに観察される。微小球のWGMモードの観察および特性評価を正しく行うためには、卓上型のLN2冷却式CCDおよび回折格子モノクロメーターが必要であるが、アッセイの目的には、そのような高い分解能は必要条件ではない。最も低いDNA濃度でも、ハイブリダイズ後の粒子から、小さくランダムなブルーシフトを観察することができる。これらは、WGM発光が、温度変動および電解質濃度に起因する溶液屈折率の微細な変化のようなわずかな擾乱によって影響される恐れがあることを指し示している。このことは、水性媒質中でのこれらのバイオアッセイに関して可能な感度の最終的な実用的限界を決定づける。したがって、陽性検出イベントを指し示すと解釈されるのは、4つまたはそれ以上のピークの一定したレッドシフトのみである。
【0170】
本明細書では、cDNA曝露から10秒以内に微小球発光シグナルにおける共振モードシフトによって指し示される標的検出により、本システムを室温で成功裏に使用しうることも示された。これは、非特異的に結合した任意のプローブを変性させ、DNAと微小球との有効なアニーリングを可能にするように微小球環境の温度が勾配変化を生じた時に起こる、塩の沈着および結晶化、pH変化、乾燥ならびに汚染に伴う問題を最小限に抑える。上述した改良点は、DNA分析のための、WGMに基づく生物学的検出プラットフォームの開発全般にとって重要である。
【0171】
実施例7
単一のメラミン微小球におけるウィスパリングギャラリーモードを用いた、一塩基多型標的の溶液ベースの無標識検出
シリカベースのWGMプラットフォームの欠点は、それを溶液中では全く用いることができないことである。本実施例では、高感度のウィスパリングギャラリーモード(WGM)溶液に基づく遺伝子型判定システムの開発とともに、コンジュゲーションプロトコールを設計することにより、現行のWGMシステムに伴う限界を軽減する。本システムは、フルオロフォアおよび一本鎖オリゴヌクレオチドの単層により官能性が付与された、均質な、高度に架橋したメラミンホルムアルデヒド微小球(およそ7.52μm)を含む。マイクロプレートウェルシステムを用いることで、アッセイを溶液中ですべて完了させることができる。このWGM無標識システムは、多型性に増幅されたDNA標的をピコモル濃度以下の感度でスコア化することができる。水中で検出される頻度シフトを用いて、高温での二本鎖ハイブリダイゼーション後複合体の変性をモニターすることができる。二段階温度勾配によって制御することで、WGMシフトを逆方向に動かし、再び活性化することをルーチンに行えるため、ポリマーベースのセンサーの光学的スイッチング能力も示されている。
【0172】
この点を念頭に置くと、生体適合性メラミン複合粒子は、広範囲にわたる粒子サイズ(300nm〜12μm)のものが市販されている。ポリメチルメタクリレート(nr 1.48)、シリカおよび他の大部分のガラス材料(nr 1.47〜1.50)のものよりも大きい、この材料の高い屈折率(nr 1.68)は、明らかな利点となる。Mie理論を用いた計算により、MF粒子と外部の水-媒質(nr 1.33)との間の大きな屈折率ミスマッチは、WGMの品質因子を改善するはずと考えられることが示唆されている。重要なこととして、このミスマッチは、単純化されたアッセイを溶液中で実施することを可能にするほど十分に大きい。
【0173】
本実施例は、オリゴマー標的検出のための、単一粒子の無標識WGM「湿式アッセイ」の開発について検討する。これらの粒子は、空気中での同じサイズのシリカ微小球のものに類似したQ因子を有する。ルミネセンスWGMシグナルを用いることで、本アッセイは、溶液中のピコモル濃度以下のレベルの無標識オリゴヌクレオチド断片を、卓上マイクロウェルプレート形式でルーチンに検出することができる。提示された知見は、高度に架橋したメラミンホルムアルデヒド(MF)微小球(<10μm)における蛍光性WGMシグナルが、特定の遺伝子座に異なるヌクレオチドを保有する3例の個体のゲノムDNA(gDNA)の、標識されていないPCR増幅断片間の一塩基多型(SNP)を陽性識別しうることを示している。
【0174】
実験の項
材料
7.52μmのメラミンホルムアルデヒド樹脂(C5H8N6O)n[MF]微小球を、Microparticles GmbH, Berlin, Germanyから得た。384ウェルのポリカーボネート製マイクロタイタープレート、96ウェル細胞培養プレートおよび384ウェルの光学用マイクロタイタープレートは、NUNC, Brussels, Belgiumから購入した。スクシンイミジルエステル色素標識Bodipy 630/650は、Molecular Probes Eugene, USAから調達した。他の試薬、緩衝液および複合微小球はすべて、以前に報告された供給元から調達した。利用した器具類およびWGM特性評価方法は、実施例5および6に記載したものと同じである。
【0175】
器具類
顕微鏡PE100-NIシステムの倒立ペルティエステージを、熱サイクリングハイブリダイゼーション試験のために利用した。本システムは、diaphot系の倒立スコープを、Nikon TE200/300顕微鏡テーブルに合わせてカスタマイズされたXYテーブルとともに含む。ステージの温度範囲(-5〜99℃)は、PE100-I加熱/冷却用ペルティエステージで制御した。このステージを、ステージ温度を調節するための水循環ポンプと接続した。少々の変更を加えて、上記の設備をIX71 Olympus顕微鏡にもマウントした。
【0176】
ヒトSNP標的DNA配列
* 括弧印はヌクレオチド塩基ミスマッチを表す。
【0177】
別に指定する場合を除き、以上に列記したDNA断片を、実施例5で指定した通りに標識した(Nuhiji and Mulvaney, Small 3(8):1408-1414, 2007)。
【0178】
rs10434 SNP領域
【0179】
個体1[A/A];個体2[A/G];個体3[G/G]と標示された、rs10434 SNPを含むgDNAのPCR増幅領域は、International Diabetes Institute(Melbourne, Australia)から提供された。遺伝子型判定は、以前に記載された通りに(Peyrefitte et al, Mechanisms of Development 104(1-2):99-104, 2001)、MassARRAYシステム(Sequenom, San Diego, CA)を用いて行った。手短に述べると、変異体部位の周囲の97bp断片を増幅するように、rs10434に対するPCRプライマーをSpectroDESIGNERを用いて設計した。5μLの全反応容積中にある、2.5ngのゲノムDNA、2.5mmol/LのMgCl2、標準的な濃度の他のPCR試薬、および0.1単位のHotStar Taq DNAポリメラーゼ(Qiagen, Germany)を用いて、反応を行った。断片は、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen, Germany)を製造元の指示に従って用いる電気泳動によって単離した。
【0180】
方法
微小球に対するオリゴヌクレオチド断片のアクリロイル媒介コンジュゲーション
未処理メラミン粒子をMilli-Q中で数回洗浄し(8000rpmで5秒間)、乾燥させて貯蔵し、窒素下にて4℃で乾燥保存した。洗浄したMF粒子(2mg)をエッペンドルフチューブ内で秤量した。メラミン粒子に固有の表面化学特性(Gao et al, Macromolecular Materials and Engineering 286(6):355-361, 2001)により、一本鎖オリゴヌクレオチド断片を固定化するための強固なコンジュゲーション用表面が得られた。5'アクリル酸(アクリロイル)基によって修飾された断片を利用することにより、粒子への官能性付与を単一の室温反応で行った(Sharmin et al, progress in Organic Coatings 50(1):47-54, 2001)。新たに調製したPBS中に粒子を再懸濁させ、その後にアクリロイルTMRで標識された200μMのオリゴヌクレオチド15μLを添加した。反応物をボルテックス処理し、モーター付きホイール上で1時間にわたり穏やかに混合した。カップリングされた微小球を緩衝液で洗浄し、微量遠心管(8000rpmで5秒間)内でペレット化して、上清を除去した。オリゴ体とコンジュゲートされた微小球調製物はすべて、1mLの緩衝液(球体2g/リットル)中に再懸濁させて、4℃で貯蔵した。コンジュゲーション過程の概略図を図10に提示している。
【0181】
単一粒子の顕微鏡加熱ステージ試験
i)微小球の希釈
1μLのストック微小球(2mg/1mL)を採取し、それを1mLのMilli-Q中に再懸濁させて(希釈物1)、ボルテックス処理を行うことにより、微小球をまず希釈して一連の4回希釈物とした。続いて、250μLの希釈物を1mLのMilli-Q H2O中に再懸濁させ、ボルテックス処理を行った。新たな希釈を3回行うことにより、この希釈過程を繰り返した。希釈物3または4からの1μLアリコートは、典型的には粒子1個/μLを含むと考えられる。
【0182】
ii)単一の微小球の固定化
希釈物3の1μLアリコートを単一のマイクロウェルの基部に適用し、および液滴内の微小球の数をモニターした。1個の粒子カウントが確かめられた時点で、容積49μLの新たに調製した緩衝液pH 7.0の添加後に粒子の発光スペクトルを記録した。メラミン粒子は、重力の影響下にて単一のマイクロウェルの基部に固定化した。
【0183】
iii)対照緩衝液のみのアッセイおよびrs10434標的プローブアッセイ
加熱ステージ温度を37℃に上昇させ、2分間かけて平衡化させた後に、単一のスペクトルを取り込んだ。続いて、5μLのMilli-Qまたは2μMの標的プローブ溶液をウェルに対して適用した。ステージ温度を72℃に上昇させ、2分間維持した後に、スペクトル収得を行った。最後に、ステージ温度を37℃または室温に低下させた。
【0184】
PCR増幅した対照ゲノムDNA試料からのDNA断片を用いたrs10434ハイブリダイゼーションアッセイ
i)標的プローブのハイブリダイゼーション処理
2μLの所望の標的DNAプローブ(10ng/μL)溶液を、単一のrs10434-MF標的粒子を含むウェルに対して直接適用した。90℃での5分間のハイブリダイゼーションサイクルを実施し、その後に10分間の室温冷却サイクルを行った。各サイクルの後に(3回)、発光シグナルスキャンを収得した。ハイブリダイゼーション処理を、個体1、2および3のDNA試料に対して繰り返した。発光シグナルはすべて溶液中で取り込み、洗浄も反応緩衝液の交換も行わなかった。
【0185】
別に指摘する場合を除き、すべてのアッセイで標的プローブ曝露処理後に、微小球をハイブリダイゼーション用緩衝液中に浸漬させたままでスキャニングを行った。処理した球体からの蛍光励起および発光シグナルの測定値を溶液中で取り込み、グリッド入りシリカプレートおよび384ウェルの光学用プレートを用いる場合には典型的には積算時間を500ms〜2秒間とした。プレートは4℃で貯蔵することができ、微小球を必要に応じてさらなるハイブリダイゼーションアッセイに成功裏に用いることができた。
【0186】
粒子の開発および特性評価試験
溶液中の伝播性WGM
ヒトゲノムのrs10434 SNP領域にまたがる30塩基の鎖を模倣するように、微小球に官能性を付与するために用いるオリゴヌクレオチド断片の設計および構築を行った。その配列は、第6番染色体上の領域に対して相同性である。配列解析により、この領域は血管内皮増殖因子受容体(VEGF)をコードすることが指し示されている[Awata et al, Biochemical and Biophysical Research Communications 333(3):679-685, 2005;Errera et al, Diabetes Care 30(2):275-279, 2007;Joussen et al, Ophtalinologe 100(5) :363-370, 2003;Sowers and Epstein, Hypertension 26(6) :869-879, 1995;Uhlmann et al, Experimental and Clinical Endocrinology & Diabetes 114(6):275-294, 2006]。全rs10434 SNP領域の広範囲にわたるBLAST検索により、2つのマッチが明らかになった;この配列は、5'側の866bp(血管内皮増殖因子アイソフォームe前駆体)、位置:6p12;および3'側の215111bp:仮想的タンパク質L0C221416、位置:6p21.1に相同性を有する。この領域内に素因を有する個体は、糖尿病性網膜症、糖尿病、2型糖尿病(NIDDMまたはT2D)としても知られるインスリン非依存性糖尿病、成人発症型糖尿病(MOD)およびインスリン抵抗性に対する感受性が増大している。糖尿病患者が経験する高血糖症は異常な血管細胞機能を引き起こし、特に本疾患のより後期では内皮におけるそれを引き起こす。これらの個体は一般的に、微小循環および大循環の進行性変性を来し、これは結果的に臓器障害を招く(Laselva et al, Acta Diabetologica 30(4):190-200, 1993;Ciulla et al, Acta Ophthalmologica Scandinavica 80(5):468-477, 2002)。複数の研究により、選択されたSNP領域は、T2Dおよび関連疾患に対するマーカーとして用いうる可能性があることが示されている。ここで提示された知見は、最適化されたWGMプラットフォームの、公知のヒト疾患関連SNP標的をルーチンにスコア化するための有効な診断用ツールとしての妥当性を実証するものである。
【0187】
オリゴ体で修飾されたMF粒子の直径は7.52ミクロンであり、これに、5'アクリロイル修飾されTMR標識された標的オリゴヌクレオチドと直接的にバイオコンジュゲートさせた。λが550nmのバリアーフィルターを通した、励起出力350μWの青色多重線Ar+レーザーにより、粒子の蛍光励起がみられる。蛍光強度プロファイリングにより、粒子表面上でのアクリロイルDNA断片とネイティブ性-NH基との間のコンジュゲーションは強固であることが示されている(Krajnc and Toplak, Reactive & Functional Polymers 52(1):11-18, 2002)。
【0188】
シリカとメラミンとの比較
前出のシリカ複合微小球試験を用いる場合は、すべての測定を空気中で行わなければならなかった。これは、単一粒子からのシグナル発光を改善させるために余分な反応液体を蒸発させることを必要とした。本項の主要な目標は、最適化された単一粒子WGM溶液に基づくハイブリダイゼーションアッセイを開発することであった。固定化された単一のMF(nr 1.68)およびシリカ粒子から、空気中および水中で、発光シグナルを系統的に測定した。まず空気中で各々の発光シグナルを取り込み、続いてMilli-Q H2O(R>18MΩcm)の単一の液滴を固定化された各プレートに添加して、粒子を完全に浸漬させた。この過程を数回繰り返した後に、位置を再び特定した球体から、水中および空気中でギャラリーモードシグナルを収得した。図11は、概略を述べた処理後の典型的な出力を示している。シリカ微小球の場合には、それぞれの水処理により、発光シグナルピークの散逸がもたらされ、取り込まれたシグナルは、水性媒質中での非結合型TMRのそれに類似していた[Nuhiji and Mulvaney, 2007、前記](青および赤のスペクトル)。しかし、Milli-Qの蒸発後には、特徴的なWGM発光プロファイルが再び生じた。図11A(黒、緑およびアクアブルーのスペクトル)。メラミン粒子をMilli-Qに対して曝露させた場合には、モードの広幅化および損失が、モード強度の減少とともに起こった;しかし、いくつかの明確なピークは、依然として再現性を伴って収集することができた(図12B、赤および青のスペクトル)。MF粒子はこの先のこの研究の主な焦点であったため、そのベースラインスペクトルも図11のパネルC)およびD)に提示している。
【0189】
マイクロウェルプレートアッセイ
溶液中でWGMを維持させるMF粒子の能力は、溶液中での比較的高品質なWGMのルーチンな収得を容易にするハイブリダイゼーション基質を選択するという次の検討につながった。粒子をマイクロタイタープレート形式で提示することは、ハイスループットの自動アッセイに向けてまた一歩前進することとなる。分析は、マイクロウェルおよびアッセイプレート基板上に固定化された場合に、オリゴ体で修飾されたMF粒子から収集することのできたWGMシグナルの品質に基づくこととした。修飾されたMF粒子を、シリカ製のグリッド入りアレイプレート上、384ウェルのポリカーボネート製サイトプレート、384ウェル光学用プレートおよび96ウェルのポリマー製細胞培養プレートの単一ウェル内に固定化した。選択した粒子の発光シグナルを、標準的なハイブリダイゼーション用緩衝液中に浸漬された状態で収集した。図12は、選択した各々の基板を用いて得られた代表的な発光プロファイルを図示している。基板の有効幅が狭いことから、シリカ製のグリッド入りアレイは、選択したMF粒子から高いシグナル出力を生成することが予想された(図12A)。しかし、ハイスループット方式に関しては、ウェルに基づくシステムが所望の方向であった。第1のマイクロプレートシステム分析は、一般的なプラスチックベースの96ウェル培養プレートを用いて行った(図12B)。収集された発光シグナルは、いくつかの幅広い低強度のピークからなるWGMプロファイルを指し示している。これは単に、各ウェルの基部の幅が大きいこと、およびプラスチックが高度の散乱特性を有することに起因するものであった。同じく、大きな作動距離を可能にする、より低倍率の対物拡大(×40)の使用も、全体的シグナルを低下させた。しかし、この材料が透明であるため、粒子の容易な撮像および位置特定が可能になった。作動距離がより大きいレンズを用いることは、作動距離の増加がシグナル損失に直接関連しているため、トレードオフの影響下にある。次に、ポリ-D-リジンを模倣する384ウェルのCC3-商標のポリスチレン製/ポリマーベースのプレートを、無菌の非生物学的コーティングを用いて分析した。このコーティングは正に荷電しており、接着性の弱い細胞の接着を促進し、本発明者らのケースでは、負に荷電したオリゴ体/DNAでコーティングされた7.52ミクロンのMF粒子の固定化を助けると考えられる。各ウェルの総有効容積はより小さかった(ポリマーベースのプレート:基部の幅100μm;ウェル面積、0.05cm2/ウェル、総有効容積は120μL/ウェル)。また、平底ウェル形状および可視的透明性のために、プレートへの接近および顕微鏡用のX/Y方向作業ステージを用いた操作も容易になった。図12Cは、1つのMF粒子からの典型的な発光シグナルの一例を示している。特定可能な一連の狭い、高強度の蛍光ピークが存在する。384光学用プレートも、ポリマープレートと同じ作業用寸法および容積で用いた。しかし、基部の幅がより狭く(50μm)、ウェル基部は正の電荷を有していない。図13AおよびCに示されているように、9つの別個の発光ピークがWGMプロファイル内に認められる。384ウェル光学用プレートによって収得した粒子スペクトルからは、パネルA〜Cにおけるスペクトルと比較して、特定可能な各モードの強度が改善したことが指し示された(図12D)。図4に提示されたWGM出力中に認められる各λmaxでのダブレットの影響は、単に溶液中でのWGMシグナル収得の影響である。
【0190】
加熱の影響
作業アッセイにおいてMF粒子をマイクロウェル形式で提示することの利点が、このようにして確かめられた。しかし、DNAハイブリダイゼーション反応時に、微小球を90℃を上回る極端な反応条件に曝露させることもできる。アクリロイルオリゴヌクレオチド断片による粒子への官能性付与は、穏和な条件下(37℃未満)で反応させた場合には無傷であった。しかし、過度の熱ストレスがコンジュゲーションにどのように影響するかに関してはまだ不明である。384ウェル光学用マイクロウェルプレートを用いて、高温での化学結合の復元性を明らかにするための加熱試験を策定した。単一のMF粒子をマイクロウェル中に固定化し、続いて緩衝液、MES(pH 5.4)またはMilli-Q H2O(対照)中に浸漬させた。選択した粒子からの参照フォトルミネセンス(PL)シグナルを測定し、プレートを標準的なハイブリダイゼーションアッセイ温度(90℃)まで加熱した。この温度を3時間保ち、その間に、選択した粒子の位置を再び特定し、発光シグナルを定期的に収集した。図14は、熱曝露から3時間後に、選択した粒子から収得した、正規化されたWGMスペクトルを提示している。MES中に浸漬させた粒子(黒の点線)では、3時間の期間にわたって非常に大きな影響が認められ、それはハイブリダイゼーション用緩衝液中に浸漬させた粒子(黒の実線)と比較して、PLシグナルの有意な損失を示した。Milli-Qのみの中に保った対照粒子(グレーの実線)では、熱処理後に最も強いシグナルが観察された。発光シグナルレベルは試料間でさまざまであった。しかし、加熱から3時間後にも、各粒子から、いくつかの特定可能なピークを伴う明らかなWGMプロファイルを依然として得ることができた。
【0191】
実施した特性評価実験により、本実施例に記載した粒子は溶液中のWGMを維持させうることが示された。次に、Linkam PE100-NI熱制御式顕微鏡ステージを使用して、マイクロウェル溶液に基づくハイブリダイゼーションアッセイにおける「リアルタイム」のWGMシグナルの擾乱について調べた。ハイブリダイズした相補的プローブのTmを上回るかまたは下回る、微小球の周りの局所媒質に対する熱変化を周期的に検出しうるか否かを明らかにするために、そのステージ設備を利用するアッセイを策定した。α-rs10434 A(Tm 71.2℃)と標示された、構築した30b標的プローブは、MF粒子につなぎ止められた断片に対して相補的であった。単一の7.52μmのMF-rs10434標的粒子に対して、二段階の勾配(37℃〜72℃)によるサイクリング処理を行った。初期ハイブリダイゼーション反応は、5μLのMilli-Qの添加後に完了させた。それぞれの勾配温度で数サイクルにわたって積算時間2秒間で収得したスペクトルからは、WGMピークの一定した移動は指し示されなかった(図15A〜B)。同じ粒子を用いて、標的プローブDNAの添加(2μMのストック5μL)した上で、実験条件を繰り返した。初期ハイブリダイゼーションサイクル後に収得した発光シグナルデータからは、72℃のα-rs10434 A断片溶液に対する曝露が主要なWGMピークのブルーシフトをもたらし、ステージ温度の37℃への低下は、同じピークをレッドシフトさせることが示された(図15C)。ハイブリダイゼーションサイクルの繰り返しは、局所プレート温度が標的プローブのTmよりも低い場合にはWGMピークの一定して観察されるレッドシフトをもたらし、温度を標的プローブのTmよりも高く上昇させた場合にはブルーシフトが起こった(図15D〜E)。
【0192】
ヒトゲノム標的アッセイ
3例の個々の対照(健常対照)から収得した対照gDNAを用い、rs10434 SNP領域の範囲にまたがるプライマーを用いて、およそ20塩基のDNA断片を増幅した。上記の個体の遺伝子型を、Sequenom MassARRAY遺伝子型判定用プラットフォームを用いて判定した。個体はそれぞれ、異なる遺伝子型を有していた。個体1はこの遺伝子座のAアレルに関してホモ接合性(A/A)であり、個体2はヘテロ接合性(A/G)であり、個体3はGアレルに関してホモ接合性(G/G)であった。ここでの目的は、PCR増幅した試料から、単一塩基対の違いを、WGMシステムを用いて検出しうるか否かを明らかにすることであった。rs10434 DNA変異体のAアレルに対して特異的な単一のrs10434-MF粒子をマイクロプレートウェル中に固定化した;続いて粒子を、別々のハイブリダイゼーション反応を通じて、3種類の異なる分析物に対して曝露させた。各ハイブリダイゼーションは、2μLのDNA試料の添加後に、90℃で5分間かけて完了させた(個体1〜3)。反応温度勾配を周囲室温まで低下させた後、各ハイブリダイゼーション反応後にそれぞれ発光シグナルを収集した。各処理後に収得したWGMシグネチャーを、参照シグナル(黒のスペクトル)と対比して評価した。処理していないWGMプロファイルと対比してピーク位置を分析し、Δλを記録した。得られたスペクトルは、ピーク波長位置を、所与の参照波長の前後でのピークシフトの関数として示す。個体1試料に対する曝露後には、主要な蛍光ギャラリーモードすべての陽性レッドシフトが生じた(黒のベタ四角)。続いて、同じ粒子を個体2のDNA試料で処理した。曝露後に収得したWGMシグナルからは、すべての蛍光ピークのレッドシフト(処理していないシグナルと比較して)が指し示された。しかし、個体1試料による処理後の波長ピーク位置に対比して、ヘテロ接合性の個体2試料による処理は蛍光モードのブルーシフトを引き起こした。最後に、個体3由来のDNAによる処理(緑のベタ三角)は、個体1由来の増幅されたDNAによる処理後に収得したモードシグネチャーに対比して、別のWGMブルーシフトをもたらした。観察されたこれらの極めてわずかなブルーシフトは、個体2および3由来の、ミスマッチのあるDNAプローブの導入の結果である。これらのプローブは非特異的に結合し、その結果、個体1由来のマッチしたDNAのために利用される結合部位の数を減少させた。
【0193】
標的識別
修飾された微小球が作業アッセイにおいて単一塩基ミスマッチをルーチンに識別しうることを確かめるために、色素分子の結びつけのための非結合型の内部アミンを伴う、実験室で合成した2種類の標的DNAプローブを構築した。第1の標的(α-rs10434 A)は、[A]rs10434アレル変異体を模倣するように設計し、断片にTMRによる蛍光性タグ標識を行った。代替的な分析物は単一塩基ミスマッチを含み、これはBodipy 630/650によって同定された。標識されていない単一のrs10434標的MF粒子を、384光学用プレートの3つのマイクロウェル中に固定化した。標的プローブ曝露の前に、選択した粒子から、溶液(緩衝液)中でベースライン発光シグナルを採取した。2つの個々のアッセイを、個々のハイブリダイゼーションサイクルに対してα-rs10434 Aおよびα-rs10434 B標的プローブを用いて完了させた。それらの結果は、rs10434 A標的プローブのハイブリダイゼーションを示している。鋭い蛍光性WGM発光シグナルの収得について、球状蛍光性粒子を示す同じ粒子から採取した蛍光強度画像を用いて検証した。単一のミスマッチを含むα-rs10434 Bに対して曝露させた粒子からは弱い蛍光WGMシグナルが収得されたが、蛍光強度画像スキャニングでは検出可能な蛍光は示されなかった。両方の標的プローブに対する単一粒子の曝露は、粒子をまずα-rs10434 A標的断片に曝露させた場合には、α-rs10434 B処理後に、すべての主要な蛍光ギャラリーモードピークのブルーシフトをもたらした。
【0194】
系列容積希釈における単一粒子試験からも、オリゴ体により官能性が付与されたこれらのポリマー粒子が、アトモル濃度レベルの分析物DNAを検出しうることが示された。そのような検出容積は、少ない反応容積を有効に用いて、単一粒子ハイブリダイゼーションアッセイ全体を完了させうることを強く示すものである。さらに、このことは、これらの粒子がピコモル濃度以下の標的プローブDNAをルーチンに検出しうることも示している。
【0195】
考察
ここに提示した結果は、オリゴヌクレオチドで修飾されたMF微小球に対する、DNAの相補鎖の非共有的結合を、溶液中で検出しうることを明らかに示している。蛍光ギャラリーモードの波長シフトを利用して、標識されていない相補的DNA断片の吸着および脱離を、さまざまな反応条件下でルーチンに検出することができる。
【0196】
MF粒子に固有の表面は、アクリロイルで修飾されたオリゴヌクレオチド断片の密な単層のコンジュゲーションを容易にする。このコンジュゲーションは、本質的には、メラミン分子とアクリル酸との共有結合である。オリゴヌクレオチドで修飾された粒子は、高pH溶液に高温(90℃)で曝露させた場合、長期的曝露後の粒子から高品質のWGMシグナルを収集しうることからみて、高度な復元性を有する。このデータは、FITCで標識されたヒトα-IgM抗体も、修飾されていないMF粒子と有効に結合しうることを示している。続いて、これらの粒子を抗体-抗原結合アッセイに利用することができる。
【0197】
DNAは、一本鎖(変性)コンフォメーションにおいて、より高い屈折率を有する(Parthasarathy et al, Applied Physics Letters 87(11):113901-3, 2005)。そのネイティブ形態において、DNAの屈折率は典型的な有機ポリマーのそれと同程度である(Samoc et al, Chemical Physics Letters 431(1-3):132-134, 2006)。自然な二本鎖のDNAは誘電性材料として存在し、または変性形態では、それは数百ミリ電子ボルトのバンドギャップを有する半導体になる(Rakitin et al, Physical Review Letters 86(16):3670, 2001)。このため、本実施例に記載されたWGMシフト(ハイブリダイゼーション後)は、微小球直径の増加と直接関連する、微小球表面での相対的屈折率の増加または減少によって影響される(Niu and Saraf, Smart Materials and Structures 11(5):778-782, 2002)。これらのパラメーターがいかにしてWGMに特異的に影響を及ぼすかについてはまだ解明されていないが、これとは対照的に、特徴的なシフトは、両方の複合粒子を用いてルーチンに再現可能である。
【0198】
これらの単一粒子試験は、ハイブリダイゼーションアッセイの際に、rs10434で修飾された粒子から収得されたWGMシグナルにおけるΔλシフトを用いて、実験室で合成したプローブDNAにおける単一塩基変化を識別しうることを示している。粒子がマイクロプレート形式で提示される場合には、関心対象の単一ヌクレオチド変化を含むと予想される領域を含むPCR増幅したgDNAを用いる自動システムにおいて、一定したピークシフトを確認する。本実施例に記載されたMF rs10434-標的粒子は、糖尿病に関連したrs10434 SNP(およそ100b)のさまざまなアレルを識別することができる。つなぎ止められたアクリロイルオリゴヌクレオチド(コロイド表面からおよそ5〜10nm)の第1のヌクレオチド塩基でのフルオロフォアの位置により、空気中および水媒質中での励起光のルーチンな全内部反射が容易になる。
【0199】
溶液中でのWGMをマイクロウェル方式アッセイにおいて励起させうることにより、実施例5および6で記載したシステムで遭遇する問題が完全に避けられる。マイクロウェル形式を利用するシステムは、粒子の位置決定が迅速に行われ、洗浄段階は必要でないことから、アッセイが完了するまでの実行時間を短縮させる。最終的にこの形式は、アッセイ全体を溶液中で同じ粒子に対してルーチンに行うことを可能にし、これはまた、さらなる検査に向けたセンサーの再利用のための組織化されたシステムも提供する。
【0200】
さらに、本実施例に記載されたシステムは、WGMを励起させるために光ファイバーカップリング法を利用せず、そのためにアッセイが単純化される。アトモル容積の標的DNAプローブ溶液をルーチンに検出することができる。MF微小球において観察される周期的に可逆性のWGMシフトは、重要なこととして、これらの粒子を再生利用しうることを指し示している。WGMピークシフトは、標的プローブのTmよりも上および下に局所温度を振動させた場合に可逆的であることが示された;それ故に、スペクトルのレッドシフトは相補的DNAのハイブリダイゼーションに明確に起因する。標的プローブの結合親和性は、DNA断片が単一塩基ミスマッチを有する場合には有意に低下する。非特異的結合は、無視しうることが見いだされているものの、同じ粒子を相補的標的にまず曝露させた場合には、粒子のWGMスペクトルにおけるわずかなブルーシフトを引き起こすことができる。単一ウェル-単一粒子のハイブリダイゼーション反応において、比較したWGM発光スペクトルは、単一塩基ミスマッチを含む断片とは対照的に、特異的標的プローブがはるかに大きな結合親和性を有することを指し示している。
【0201】
これらの知見は、標識された(30塩基)オリゴヌクレオチド断片により修飾された高屈折率のメラミン粒子が、溶液中でWGMをルーチンに発することを示している。粒子を溶液中で励起させると、励起シグナルはフォトルミネセンス強度を低下させ、蛍光モードが幅広くなる。しかし、一連の明確なWGM共振ピークは、依然としてルーチンに同定することができる。
【0202】
実施例8
単一の蛍光性シリカ微小球およびメラミンオリゴヌクレオチドで修飾された微小球における、ウィスパリングギャラリーモード励起のための至適条件
本実施例は、蛍光性コロイド中で高品質のウィスパリングギャラリーモード(WGM)をルーチンに励起させるための、一連の最適化されたパラメーターの策定について報告する。実施例5〜7で提示された、標的特異的オリゴヌクレオチドにより修飾された(TSOM)シリカ微小球およびメラミン微小球(7.50〜7.52μm)[Microparticles Germany GmbH]を、全体を通じて利用する。
【0203】
実験の項
材料
粒子の合成、固定化戦略およびWGM特性評価のために用いた材料および方法は、実施例5〜7に記載されたものと同じである。
【0204】
ウィスパリングギャラリーモードの励起パラメーターの検討
カップリング位置の影響
共焦点設備を用いて、レーザー励起位置を変更する結果としてのWGM発光の特性評価を行うための角度分解分光法を設計した。TSOMシリカおよびMF粒子を以前に指定した通りに用いて(実施例5〜7)、カバーガラスアレイスライドを調製した。使用した共焦点システムは、収得した粒子の透過像を参照として用いて、粒子の周縁の周りでの励起位置を変更するために利用した。350μWの放射出力で、選択した粒子を多重線Ar+レーザーによって励起させた。積算時間を2秒間として発光スペクトルを収集した。ここでのすべての共焦点作業には、Ar+レーザーを粒子励起のために用いた。励起位置は、微小球の周辺境界まわりに、0゜(参照)座標を基準として45゜刻みで360゜の回転にわたって変更した。粒子のWGMを共焦点設備上で励起させる場合には励起位置0゜を通常利用し、これは高品質のWGMのルーチンな収得をもたらす。しかし、360゜に至るまでの選択した位置での励起も同じく、強いWGMスペクトルの収集をもたらす。選択した例についてのスペクトルセットの分析により、選択した励起位置では検出可能なピークシフトが観察されないことが示される(Triax 550分光光度計のスペクトル分解能±0.05nmの範囲内で)。場合によっては、ピーク歪みが生じる可能性がある。歪みは、所与の波長で収得した各WGMスペクトルにおいて一定して観察された。
【0205】
続いて、選択したMF粒子を空気中で同じ条件下でスキャニングした。WGMスペクトルセットの分析により、0゜スペクトルを基準として、検出可能なピークシフトが観察されることが示される(CCDのスペクトル分解能は±0.05nm)。選択した例ではブルーシフトが観察されるが、粒子屈折率が観察されたシフトを引き起こすように変化した可能性は低い。これらの影響は励起位置の移動に起因する可能性もあるが、CCDの閾値限界に達した結果である可能性がさらに高い。実施例7では、溶液中に固定化されたTSOM-MF粒子を通しての光の全内部反射が示された。続いて、溶液中に浸漬させた単一のMF粒子を、選択した半径方向位置で励起させた。スキャン範囲内(0゜スキャンを基準とする)の蛍光ピークは一定してレッドシフトする。これらの結果は、0゜スキャンを基準とするピーク変位が、空気での結果と比較して有意に大きいことを指し示している。このピーク変動の大きさは、水の高度の光散乱特性のためである可能性が高い。ピーク位置変動は、180゜、270゜および315゜の位置で最も高度であることが認められた(最大で0.89nm)。これらの結果は、TSOM粒子におけるWGM励起のためには定まった励起位置を利用すべきであることを示唆している。
【0206】
反復励起試験
この追跡調査は、単一の位置を通じてのTSOM粒子の反復励起によって引き起こされる影響の分析を伴い、その結果として、WGMシグナルの相対的劣化を観察する。単一粒子ハイブリダイゼーションアッセイの際に、単一の励起点(0゜)をすべてのWGMスペクトルに対して利用する。定まった励起位置を用いることの重要性が示されている。重要なこととして、これはピーク変動を改善すると考えられる。
【0207】
ルーチンには、作業アッセイの間に、単一のTSOM-微小球をおよそ2〜5回励起させる(スキャニングする)。この間には微小球WGMシグナルが安定に保たれ、そのためWGMスペクトルのセットを数回の処理後に収得しうることが重要である。そのため、この実験の目的は、この論文に記載したTSOM粒子に伴う蛍光シグナル劣化レベルを明らかにすることとした。
【0208】
空気中でのWGM劣化試験
粒子をカバーガラスアレイに対して固定化し、続いて基板を共焦点顕微鏡上にマウントした。選択したシリカ微小球およびMF微小球を、0゜励起位置を通じて空気中で励起させた(積算時間2秒間)。スペクトルセットを、2秒間の積算時間で、選択したシリカ微小球から収得した。WGM光強度(PI)は、一連のスキャン後に蛍光強度に関して有意に低下する。10個の別個のピークがスキャン1で同定され、9〜10個のピークがスキャン20から同定された。
【0209】
続いて、単一のTSOM MF粒子を同じ実験パラメーターに曝露させた。スキャン1およびスキャン20によって同定されたピークの数は一定に保たれた(およそ16個)。Q因子は7分の1に減少し、ピーク位置変動は無視しうる程度である。
【0210】
水中でのWGM劣化試験
次の段階は、単一のTSOM MF粒子を溶液中(Milli-Q H2O)で繰り返し励起させることとした。単一の粒子を位置0゜でレーザー発振させ、スペクトルのセットを積算時間2秒間で取り込んだ。同定されたピークの数は、空気中での測定と比較して、選択したスキャン範囲(8)内で減少した。しかし、ピークの数はスキャンを完了した後も変化しないままであった(スキャン1〜20)。スキャン1と20との間にはそれぞれ、Q因子の6分の1への減少が観察される。
【0211】
最後のWGMスキャンから収集した目盛り入りスペクトルは、8〜16個の特定可能なピークからなった。これらの結果は、反復レーザー発振(放射出力350μW)後に、定まった励起点(0゜)を通じて、同じ粒子からWGMプロファイル(20を上回る)をルーチンに収集しうることを示している。さらに、TMR色素標識の光分解および水中での粒子固定化に起因するピークの広幅化は、いかなる顕著なピーク変動ももたらさない。その結果、使用アッセイにおける粒子の復元特性が強く示される。
【0212】
CCD分解能
前の実施例で示されたように、分光光度計の感度は、作業アッセイの間のWGM測定において重要な役割を果たす。分光光度計は、励起された粒子から収得することのできるスペクトル情報の量、およびWGM検出プラットフォームの感度限界を決定づける。本実施例では、顕微鏡設備およびCCD検出器の感度を比較する。
【0213】
シリカ粒子をまず空気中で励起させ(位置0゜)、Triax 550分光光度計(スペクトル分解能:±0.05nm)を用いて積算時間2秒間でスペクトルを収集した。続いて同じ粒子から、水銀ランプ(励起出力35.52mW)によってスペクトルを収得した。QE6500 Ocean Opticsシステム(スペクトル分解能±0.9nm)を積算時間2秒間で利用して、スペクトルを収得した。QE6500分光光度計を用いて収得したスペクトルから、数個の主要なピークの明らかな広幅化が観察される。さらに、Triax 550によって収得されたスペクトルは、QE6500スペクトル中に存在しない数個のピーク(λmax:577.54nm、588.47nm、594.35mnおよび599.95nm)を指し示している。FWHMの変動(λmax PI=1.00)は、それぞれ0.38nm(Triax)および0.98nm(QE6500)と算出される。続いて、単一のTSOM MF粒子を用いて、同じ測定を空気中で行った。Triax 550によって収得されたスペクトルは、QE6500をWGM収得のために利用した場合の数個のピークの損失という結果を指し示している(λmax:578.81nm、584.65nm、588.07nm、597.73nmおよび608.08nm)。これらのFWHM値、Triax(0.72nm)およびQE6500(1.27nm)は、スペクトル品質の違いをさらに指し示している。
【0214】
次に、溶液中で固定化した単一のMF粒子を蛍光励起させ、そのスペクトルを取り込んだ。それらの結果は、水中で採取したスペクトルが、各々のスキャン後に発光ピークの損失を示さなかったことを指し示している。Triaxで取り込んだ発光スペクトルは、QE6500スペクトルからの0.81mm(PI=1.00の場合のλmax)および1.15nmというFWHMを指し示している。ピーク広幅化の度合いは、空気中のMF粒子およびシリカ粒子に関して測定されたものに比較して小さかった。
【0215】
これらのデータセットは、高出力のCCDを利用した場合に、スペクトルピークの数がより多い高品質のWGMを収得しうることを示している。収得されたWGMプロファイルはまた、より多くのスペクトル情報も含む。しかし、これらの分光光度計の間のばらつきは、測定を溶液中で行うと有意に改善する(およそ0.24nm)。
【0216】
分光光度計間のWGMピークシフトは、単に分光光度計の感度が異なるためである。例えば、計器のスペクトル分解能は、ピーク位置を「真の」λmaxとして測定することのできる精度を定める。それ故に、Ocean Opticsシステム(±0.9nm)は、観察された各WGMピークの「真のλmax」との関連の点で、TRIAXシステム(±0.05nm)と比較してより精度が低い。このため、これらの条件に基づくと、WGM応答曲線の間にもばらつきがあるであろうことが予想される。
【0217】
退色時間
微小球の退色閾値を、定まったカップリング位置を通じた一定の励起の下で評価した。退色プロファイルは、共焦点特性評価用設備を用いて測定した。単一の粒子を、空気中で、488nmの連続波(Ar+)の下で出力エネルギー350μWを用いて励起点0゜を通じてレーザー発振させた。退色プロファイルはすべて、100倍対物レンズ(NA=1.4)を通して測定し、撮像した。退色速度は、経過時間(秒)の関数として観察した[200秒]。選択した粒子の蛍光退色プロファイルを、シリカ(n=100)およびMF(n=100)TSOM粒子からの100個の粒子について収集した。各スキャン収集からの退色プロファイルを平均した。その平均データに適合するように3指数フィッティングを適用した。シリカ粒子に関する平均退色時間曲線は、一定の励起の間に0.23秒以内で蛍光の60%が散逸することを指し示している。粒子蛍光シグナルのさらに31%が、2.51秒後に続いて退色する。最後に、粒子蛍光の残りの9%が26.40秒後に退色する。所与のシリカ試料に関して、粒子蛍光の大半はおよそ3.30秒後に散逸する。それに比べて、TSOM-MF粒子はより強固であることが示されている。データは、粒子蛍光シグナルの50%が31.10秒後に低下することを指し示している。同じ3指数フィッテイングモデルを用いたところ、6.28秒後に最も高いパーセンテージで蛍光シグナルの光量低下が起こり、それはシリカTSOM粒子と比較して有意な改善である。
【0218】
かなり高いレーザー出力を粒子励起のために利用した(350μW)。しかし、それらの結果は、一定の励起の間に、蛍光シグナルを26.40秒後(シリカ)および31.10秒後(MF)にも依然として観察しうることを指し示している。このように、これらの退色時間は、単に励起エネルギーを減少させることによって改善することができる。
【0219】
考察
分光光度計分解精度に伴うスペクトル変動は、溶液中でのWGMを維持させるTSOM MF粒子を利用することによって有意に改善することが示された。この結果はさらに、より低強度のCCDを、溶液ベースのWGMアッセイに、重要なスペクトル情報を失うことなく成功裏に用いうることも示している。MF粒子の蛍光のより緩徐な退色時間は、WGM生物学的検出プラットフォームにおけるポリマー粒子の役割をさらに裏づける。
【0220】
ハイスループットの、マイクロフルイディクスに基づくWGM診断機器の以降の開発には、高屈折率の均質な微小球を利用すべきである。自動スキャニング機器は、粒子をマイクロウェル方式で溶液中に提示すべきである。この機器はまた、フローサイトメーターおよび共焦点レーザー走査型顕微鏡に見られるものに類似したレーザー励起システムも組み込んでいるべきである。粒子は、シグナルの変動を最小限に抑えるために定位置を通じて励起されなければならない。励起位置を固定すること、または代替的には粒子を定位置で提示することにより、高価な対物レンズおよび高精度の画像化ソフトウエアを用いる必要性が軽減されるであろう。
【0221】
実施例9
シリカ粒子およびメラミンホルムアルデヒド粒子を用いたWGMの比較
図17(A)および(B)は、シリカ粒子(B)およびメラミンホルムアルデヒド粒子(A)を用いて得たWGMプロファイルの比較を示している。(A)および(B)における実線は空気中で得たプロファイルであり、点線は粒子が水性媒質中にあった時のプロファイルを表している。
【0222】
シリカビーズを用いた水中での収得では、極めてわずかな蛍光が生じたが、WGMは生じなかった(図16(B))。メラミンホルムアルデヒドを用いた場合には、強いWGMプロファイルが得られた。
【0223】
実施例10
イムノ-WGM
イムノベースのWGMアッセイは、診断用プラットフォームの環境を提供する。データは、抗体(ヒトα-IgM)で修飾されたMF粒子から与えられた蛍光WGMシグナルを利用して、室温での反応で、対照試薬と標的抗原とを識別しうることを示している(図17)。イムノ-WGMアッセイは、タンパク質、抗体、動物病原体および植物病原体、細菌、インターロイキン、ペプチド、RNA、mRNAおよびプリオンといった非常に多くの生体分子標的に対する調整可能な特異性を備えた代替的な認識形式を提供する。イムノ-WGMアッセイは、食品衛生産業、環境水検査、農業産業、軍事(生物戦)、ウイルス学、微生物学診断薬および薬理学スクリーニングにおける用途に関して可能性がある。
【0224】
当業者は、本明細書に記載された本発明に、具体的に記載されているもの以外の変更および改変の余地があることを理解するであろう。本発明はそのようなすべての変更および改変を含むものと理解されるべきである。本発明はまた、本明細書において言及された、または示された段階、特徴、組成物および化合物のすべてを個別的または一括的に含み、さらにそのような段階または特徴の任意の2つまたはそれ以上のありとあらゆる組み合わせも含む。
【0225】
文献
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒質中の分析物を検出するための方法であって、以下の段階を含む方法:
(i)分析物に対する多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子(microspheroidal particle)の集団につなぎ止める段階であって、微小回転楕円体粒子がメラミンホルムアルデヒドである場合それがフルオロフォアとコンジュゲートされてもよく、または量子ドットを含んでもよい、段階;
(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;
(ii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに
(iii)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにウィスパリングギャラリーモード(WGM)検出手段に供する段階。
【請求項2】
微小回転楕円体粒子が、以下のものからなるリストより選択される材料を含む、請求項1記載の方法:メラミンまたはその誘導体;シリカ;ラテックス;チタニア;二酸化スズ;イットリア;アルミナ;他の二成分系金属酸化物;ペロブスカイトおよび他の圧電性金属酸化物;PLGA;スクロースおよびアガロース。
【請求項3】
微小回転楕円体粒子がメラミンホルムアルデヒドを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
検出が行われる媒質に比してより高い屈折率を有する微小回転楕円体粒子を選択する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
微小回転楕円体粒子が1.40を上回る屈折率を有する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
媒質が液相または気相である、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
液相が水性溶液、緩衝液または生体液であり、かつ気相が空気である、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
分析物またはその各々のリガンドが、以下からなるリストより選択される分子を含む、請求項1記載の方法:核酸;タンパク質;ペプチド;抗体;脂質;糖質;細菌;ウイルス;細胞および任意の低分子または化学的実体。
【請求項9】
分析物またはその各々のリガンドが核酸を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
核酸が一本鎖DNAを含む、請求項8記載の方法。
【請求項11】
一本鎖DNAが、二本鎖DNAを制限エンドヌクレアーゼおよび/またはエキソヌクレアーゼで消化することによって調製される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
制限エンドヌクレアーゼが1型制限エンドヌクレアーゼである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
エキソヌクレアーゼがλエキソヌクレアーゼである、請求項11記載の方法。
【請求項14】
一本鎖DNAがRNA:DNAハイブリッド分子から調製される、請求項10記載の方法。
【請求項15】
RNA:DNAハイブリッド分子が、逆転写によって調製されたメッセンジャーRNAとハイブリダイズさせたDNAを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
RNAがウイルスRNAである、請求項14記載の方法。
【請求項17】
分析物またはリガンドが、生物的、産業的、実験検査的または環境的な源から得られた単離された試料に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
試料が、鉱物、合成物、真核生物、原核生物またはウイルスに起源を持つ材料を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
以下の段階を含む方法の使用:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階であって、微小回転楕円体粒子がメラミンホルムアルデヒドである場合それがフルオロフォアとコンジュゲートされてもよく、または量子ドットを含んでもよい、段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、アッセイの製造において、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階。
【請求項20】
分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階を含む方法:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせるかまたは量子ドットで標識したメラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階。
【請求項1】
媒質中の分析物を検出するための方法であって、以下の段階を含む方法:
(i)分析物に対する多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子(microspheroidal particle)の集団につなぎ止める段階であって、微小回転楕円体粒子がメラミンホルムアルデヒドである場合それがフルオロフォアとコンジュゲートされてもよく、または量子ドットを含んでもよい、段階;
(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;
(ii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに
(iii)微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにウィスパリングギャラリーモード(WGM)検出手段に供する段階。
【請求項2】
微小回転楕円体粒子が、以下のものからなるリストより選択される材料を含む、請求項1記載の方法:メラミンまたはその誘導体;シリカ;ラテックス;チタニア;二酸化スズ;イットリア;アルミナ;他の二成分系金属酸化物;ペロブスカイトおよび他の圧電性金属酸化物;PLGA;スクロースおよびアガロース。
【請求項3】
微小回転楕円体粒子がメラミンホルムアルデヒドを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
検出が行われる媒質に比してより高い屈折率を有する微小回転楕円体粒子を選択する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
微小回転楕円体粒子が1.40を上回る屈折率を有する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
媒質が液相または気相である、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
液相が水性溶液、緩衝液または生体液であり、かつ気相が空気である、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
分析物またはその各々のリガンドが、以下からなるリストより選択される分子を含む、請求項1記載の方法:核酸;タンパク質;ペプチド;抗体;脂質;糖質;細菌;ウイルス;細胞および任意の低分子または化学的実体。
【請求項9】
分析物またはその各々のリガンドが核酸を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
核酸が一本鎖DNAを含む、請求項8記載の方法。
【請求項11】
一本鎖DNAが、二本鎖DNAを制限エンドヌクレアーゼおよび/またはエキソヌクレアーゼで消化することによって調製される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
制限エンドヌクレアーゼが1型制限エンドヌクレアーゼである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
エキソヌクレアーゼがλエキソヌクレアーゼである、請求項11記載の方法。
【請求項14】
一本鎖DNAがRNA:DNAハイブリッド分子から調製される、請求項10記載の方法。
【請求項15】
RNA:DNAハイブリッド分子が、逆転写によって調製されたメッセンジャーRNAとハイブリダイズさせたDNAを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
RNAがウイルスRNAである、請求項14記載の方法。
【請求項17】
分析物またはリガンドが、生物的、産業的、実験検査的または環境的な源から得られた単離された試料に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
試料が、鉱物、合成物、真核生物、原核生物またはウイルスに起源を持つ材料を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
以下の段階を含む方法の使用:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせた微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階であって、微小回転楕円体粒子がメラミンホルムアルデヒドである場合それがフルオロフォアとコンジュゲートされてもよく、または量子ドットを含んでもよい、段階;(ii)微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)微小回転楕円体粒子を、アッセイの製造において、分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階。
【請求項20】
分析物とリガンドとの間の結合イベントを検出するための方法であって、以下の段階を含む方法:(i)多種多様なリガンドを、フルオロフォアをコンジュゲートさせるかまたは量子ドットで標識したメラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子の集団につなぎ止める段階;(ii)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を陰性対照試料と接触させて、ベースラインスペクトルを決定する段階;(iii)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を、分析物を含むことが推定される試料と、分析物とその各々のリガンドとの間の結合イベントを促進するのに十分な時間および条件の下で接触させる段階;ならびに(iv)メラミンホルムアルデヒド微小回転楕円体粒子を、結合イベントを検出するためにWGM検出手段に供する段階。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2012−509070(P2012−509070A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536705(P2011−536705)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/AU2009/001515
【国際公開番号】WO2010/057264
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(507192585)ジェネラ バイオシステムズ リミテッド (6)
【出願人】(591143869)ザ ユニバーシティー オブ メルボルン (9)
【氏名又は名称原語表記】The University of Melbourne
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/AU2009/001515
【国際公開番号】WO2010/057264
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(507192585)ジェネラ バイオシステムズ リミテッド (6)
【出願人】(591143869)ザ ユニバーシティー オブ メルボルン (9)
【氏名又は名称原語表記】The University of Melbourne
【Fターム(参考)】
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