説明

分析用デバイスとこれを使用する分析装置および分析方法

【課題】希釈液を長期間保存でき、かつ分析装置の構造を複雑にしなくても希釈溶液を簡単な操作で開封できる分析用デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】保護キャップ(2)が希釈液容器(5)のラッチ部(10)に係合して希釈液容器(5)が希釈液容器収容部(11)の液保持位置に係止され、前記係合に抗して保護キャップ(2)を開放位置にして前記注入口(13)を露出させることによって前記係合が解除され、保護キャップ(2)を開放位置から閉塞位置に閉じる際に、保護キャップ(2)が希釈液容器(5)を液放出位置に押し込むよう構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物などから採取した液体の分析に使用する分析用デバイスと、これを使用する分析装置および分析方法に関するものであり、より詳細には、分析用デバイス内で試料液を希釈するための希釈液を保持した希釈液容器を開封するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生物などから採取した液体を分析する方法として、液体流路を形成した分析用デバイスを用いて分析する方法が知られている。分析用デバイスは、回転装置を使って流体の制御をすることが可能であり、遠心力を利用して、試料液の希釈、溶液の計量、固体成分の分離、分離された流体の移送分配、溶液と試薬の混合等を行うことができるため、種々の生物化学的な分析を行うことが可能である。
【0003】
特に、試料液の希釈については、微量な試料を分析するためには必要な工程であるが、測定時に毎回、必要量の希釈液を外部から分析用デバイスに注入するのは、利用者にとって操作性が悪いため、分析用デバイス内にあらかじめ希釈液を保持させた希釈液容器を収容して簡単に開封できる構成が検討されている。
【0004】
試料液を希釈して分析を行う特許文献1に記載の分析用デバイスでは、図17(a)に示すように、分析用デバイス内のチェンバー50内に希釈液容器51が収容されている。希釈液容器51は薄膜シール52と、けがきマーク53を有した剛的な側部54とを有している。希釈液容器51は保持ポスト55により所定の位置に保持されている。図17(b)は、スピンドルあるいはポスト56が受け穴57を通ってチェンバー50の中へ入ってきた状態を示している。この位置においては、ポスト56は希釈液容器51を受けチェンバー58の方へ移動させ、剛的な側部54はけがきマーク53に沿って割れ、開口59を作り出している。希釈液容器51内に保持された希釈液は、ローターの回転によって流出して、出口チャンネル60を介して受けチェンバー58の中へ移される。受けチェンバー58は混合チェンバーであり、ここで試料液と希釈液が混合される。
【0005】
また、特許文献2に記載の分析用デバイスは、図18に示すように、分析用デバイス本体61内に液体供給貯留器62が収容された構成であり、液体供給貯留器62内に保持された液体試薬63は、膜64の末端65を引くことによって反応路66に導入される。その後、液体試薬63は、破線の矢印67が示す経路に沿って重力により、反応路66の角68に自由に流入する。なお、試料は毛細管ホールダ69を分析用デバイス本体61内に導入する作業によって取り込まれる。70,71,72は試薬である。
【特許文献1】特表平7−503794号公報
【特許文献2】特開平3−46566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、希釈液容器51を割れやすくするために、けがきマーク53の部分の容器厚みが薄くなり、希釈液容器51の水分透過率が高くなる。また、薄膜シール52も剛性のある樹脂部材を用いる必要があるため、シール部分の水分透過率が高くなってしまい、希釈液容器51内の希釈液を長期間保存することができず、液量の変動や試薬濃度の変動によって測定精度に影響を与えてしまう。さらには、装置にポスト55を動作させる機構が必要となって構成が複雑になったり、分析装置のコストが高くなるという課題を有している。
【0007】
また、特許文献2では、分析装置にセットするまでに利用者が行う作業として、試料液を毛細管ホールダ69の試料採取用毛細管73で採取する作業と、毛細管ホールダ69を分析用デバイス本体61内に導入する作業と、液体供給貯留器62の膜64を引く作業とがあるため、利用者にとって操作性が悪く、誤操作の恐れがある。さらに、膜64を引き剥がして廃棄しなければならないため、ゴミが増えて利用者の負担となるという課題を有している。
【0008】
本発明は、従来の課題を解決するもので、希釈液を長期間保存でき、かつ分析装置の構造を複雑にしなくても希釈溶液を簡単な操作で開封できる分析用デバイスと、これを使用する分析装置および分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1記載の分析用デバイスは、試料液を遠心力によって測定スポットに向かって移送するマイクロチャネル構造を有し、前記測定スポットにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスであって、内部に微細な凹凸形状を表面に有するマイクロチャネル構造が形成された分析デバイス本体と、開放位置では前記マイクロチャネル構造に試料液を採取する注入口が露出し閉塞位置では前記ベース基板と前記カバー基板の一部を覆い前記注入口からの試料液の飛散を防止する保護キャップと、内部に希釈液を保持するように開口部がシール部材で封止された希釈液容器と、前記分析デバイス本体の内部に形成され前記希釈液容器を液保持位置と液放出位置とに移動自在に収容する希釈液容器収容部と、前記希釈液容器収容部における前記希釈液容器の液保持位置から液放出位置への移動経路中に突出して設けられ前記液放出位置に移動した前記希釈液容器の前記シール部材を破り前記希釈液容器を開封する突出部とを設け、開放位置から閉塞位置への前記保護キャップの開閉によって前記希釈液容器を前記シール部材が前記突出部に係合して破れる前記開放位置に移動させるよう構成するとともに、前記希釈液容器と開放位置にして前記注入口を露出させる前の閉塞位置の前記保護キャップの一部とが直接にまたは間接的に係合して前記希釈液容器が前記液放出位置に移動しないよう前記希釈液容器を前記液保持位置に係止するよう構成したことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2記載の分析用デバイスは、請求項1において、前記希釈液容器には前記保護キャップの側にラッチ部を設け、前記希釈液容器と開放位置にして前記注入口を露出させる前の閉塞位置の前記保護キャップが、前記希釈液容器のラッチ部とに係合して前記希釈液容器が希釈液容器収容部の液保持位置に係止され、前記希釈液容器のラッチ部と前記保護キャップとの係合に抗して前記保護キャップを開放位置にして前記注入口を露出させることによって前記係合が解除され、前記保護キャップを開放位置から閉塞位置に閉じる際に、保護キャップが希釈液容器の前記ラッチ部の前記保護キャップの側の面に当接して前記希釈液容器を前記液放出位置に押し込むよう構成したことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3記載の分析用デバイスは、請求項1または請求項2において、前記希釈液容器の前記シール部材が貼られるシール面が斜めに形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4記載の分析用デバイスは、請求項2において、前記分析デバイス本体には、係止治具を前記移動経路中に突出させる孔を設け、前記希釈液容器の上面もしくは下面には、液保持位置において前記孔を通して前記係止治具が係合して前記希釈液容器を係止する溝を設けたことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5記載の分析用デバイスは、請求項2において、前記希釈液容器は、前記シール部材でシールされている開放部とは反対側の底部を円弧面で形成したことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項6記載の分析装置は、試料液を採取した請求項1に記載の分析用デバイスがセットされる分析装置であって、前記分析用デバイスを軸心周りに回転と停止させて試料液と前記希釈液容器から放出された希釈液を測定チャンバーに移送する回転駆動手段と、前記測定チャンバーの溶液にアクセスして分析する分析手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項7記載の分析方法は、請求項1に記載の分析用デバイスを用いた分析方法であって、分析用デバイスの保護キャップを開放して露出した注入口に試料液を点着して採取し、前記保護キャップの開放位置から閉塞位置への操作によって前記分析用デバイスの希釈液容器収容部にセットされている希釈液容器を、前記希釈液容器収容部における前記希釈液容器の液保持位置から液放出位置への移動経路中に突出して設けられた突出部に向かって押し込んで前記突出部に前記希釈液容器のシール部材を押し付けて破り前記希釈液容器を開封するステップと、前記シール部材を破って開放された分析用デバイスを、軸心を有するロータにセットし、前記ロータを回転させて前記分析用デバイスに点着された試料液の少なくとも一部を前記希釈液容器から放出された希釈液で希釈するステップと、希釈液で希釈後の溶液成分または希釈液で希釈後の溶液成分と試薬との反応物にアクセスして分析するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の分析用デバイスとこれを使用する分析装置および分析方法によれば、利用者が試料液を採取する最小限の操作で希釈液容器を開封し、自動で希釈液を分析用デバイス内に移送させることができるため、分析精度の向上や、分析装置の簡略化、コストダウンができ、さらには利用者の操作性も向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の分析用デバイスとこれを使用する分析装置および分析方法の実施の形態を図1〜図16に基づいて説明する。
図1〜図6は分析用デバイスを示す。
【0018】
図1(a)(b)は分析用デバイス1の保護キャップ2を閉じた状態と開いた状態を示している。図2は図1(a)における下側を上に向けた状態で分解した状態を示し、図3はその組み立て図を示している。
【0019】
図1と図2に示すようにこの分析用デバイス1は、微細な凹凸形状を表面に有するマイクロチャネル構造が片面に形成されたベース基板3と、ベース基板3の表面を覆うカバー基板4と、希釈液を保持している希釈液容器5と、試料液飛散防止用の保護キャップ2とを合わせた4つの部品で構成されている。
【0020】
ベース基板3とカバー基板4は、希釈液容器5などを内部にセットした状態で接合され、この接合されたものに保護キャップ2が取り付けられている。
ベース基板3の上面に形成されている数個の凹部の開口をカバー基板4で覆うことによって、後述の複数の収容エリア(後述の測定スポットと同じ)とその収容エリアの間を接続するマイクロチャネル構造の流路などが形成されている。収容エリアのうちの必要なものには各種の分析に必要な試薬が予め担持されている。保護キャップ2の片側は、ベース基板3とカバー基板4に形成された軸6a,6bに係合して開閉できるように枢支されている。検査しようとする試料液が血液の場合、毛細管力の作用する前記マイクロチャネル構造の各流路の隙間は、50μm〜300μmに設定されている。
【0021】
この分析用デバイス1を使用した分析工程の概要は、希釈液が予めセットされた分析用デバイス1に試料液を点着し、この試料液の少なくとも一部を前記希釈液で希釈した後に測定しようとするものである。
【0022】
図4は希釈液容器5の形状を示している。
図4(a)は平面図、図4(b)は図4(a)のA−A断面図、図4(c)は側面図、図4(d)は背面図、図4(e)は開口部7から見た正面図である。この開口部7は希釈液容器5の内部5aに、図6(a)に示すように希釈液8を充填した後にシール部材としてのアルミシール9によって密封されている。希釈液容器5の開口部7とは反対側には、ラッチ部10が形成されている。この希釈液容器5は、ベース基板3とカバー基板4の間に形成され希釈液容器収容部11にセットされて図6(a)に示す液保持位置と、図6(c)に示す液放出位置とに移動自在に収容されている。
【0023】
図5は保護キャップ2の形状を示している。
図5(a)は平面図、図5(b)は図5(a)のB−B断面図、図5(c)は側面図、図5(d)は背面図、図5(e)は開口2aから見た正面図である。保護キャップ2の内側には、図1(a)に示した閉塞状態で図6(a)に示すように、希釈液容器5のラッチ部10が係合可能な係止用溝12が形成されている。
【0024】
この図6(a)は使用前の分析用デバイス1を示す。この状態では保護キャップ2が閉塞されており、保護キャップ2の係止用溝12に希釈液容器5のラッチ部10が係合して希釈液容器5が矢印J方向に移動しないように液保持位置に係止されている。この状態で利用者に供給される。
【0025】
試料液の点着に際して保護キャップ2が図6(a)でのラッチ部10との係合に抗して図1(b)に示したように開かれると、保護キャップ2の係止用溝12が形成されている底部2bが弾性変形して図6(b)に示すように保護キャップ2の係止用溝12と希釈液容器5のラッチ部10との係合が解除される。
【0026】
この状態で、分析用デバイス1の露出した注入口13に試料液を点着して保護キャップ2を閉じる。この際、保護キャップ2を閉じることによって、係止用溝12を形成していた壁面14が、希釈液容器5のラッチ部10の保護キャップ2の側の面5bに当接して、希釈液容器5を前記矢印J方向(液放出位置に近づく方向)に押し込む。希釈液容器収容部11には、ベース基板3の側から突出部としての開封リブ14が形成されており、希釈液容器5が保護キャップ2によって押し込まれると、希釈液容器5の斜めに傾斜した開口部7のシール面に張られていたアルミシール9が図6(c)に示すように開封リブ14に衝突して破られる。
【0027】
この分析用デバイス1を図7と図8に示すように、カバー基板4を下側にして分析装置100のロータ101にセットすることで、試料液の成分分析を行うことができる。
ロータ101の上面には溝102が形成されており、分析用デバイス1をロータ101にセットした状態では分析用デバイス1のカバー基板4に形成された回転支持部15と保護キャップ2に形成された回転支持部16が溝102に係合してこれを収容している。
【0028】
ロータ101に分析用デバイス1をセットした後に、ロータ101の回転させる前に分析装置のドア103を閉じると、セットされた分析用デバイス1は、ドア103の側に設けられた可動片104によって、ロータ101の回転軸心上の位置がバネ105の付勢力でロータ101の側に押さえられて、分析用デバイス1は、回転駆動手段106によって回転駆動されるロータ101と一体に回転する。107はロータ101の回転中の軸心を示している。保護キャップ2は注入口13の付近に付着した試料液が、分析中に遠心力によって外部へ飛散を防止するために取り付けられている。
【0029】
分析用デバイス1を構成する部品の材料としては、材料コストが安価で量産性に優れる樹脂材料が望ましい。前記分析装置100は、分析用デバイス1を透過した光を測定する光学的測定方法によって試料液の分析を行うため、ベース基板3およびカバー基板4の材料としては、PC,PMMA,AS,MSなどの透明性が高い合成樹脂が望ましい。
【0030】
また、希釈液容器5の材料としては、希釈液容器5内部に希釈液8を長期間封入しておく必要があるため、PP,PEなどの水分透過率の低い結晶性の合成樹脂が望ましい。保護キャップ2の材料としては、成形性のよい材料であれば特に問題がなく、PP,PEなどの安価な樹脂が望ましい。
【0031】
ベース基板3とカバー基板4との接合は、前記収容エリアに担持された試薬の反応活性に影響を与えにくい方法が望ましく、接合時に反応性のガスや溶剤が発生しにくい超音波溶着やレーザー溶着などが望ましい。
【0032】
また、ベース基板3とカバー基板4との接合によって両基板3,4の間の微小な隙間による毛細管力によって溶液を移送させる部分には、毛細管力を高めるための親水処理がなされている。具体的には、親水性ポリマーや界面活性剤などを用いた親水処理が行われている。ここで、親水性とは水との接触角が90°未満のことをいい、より好ましくは接触角40°未満である。
【0033】
図9は分析装置100の構成を示す。
この分析装置100は、ロータ101を回転させるための回転駆動手段106と、分析用デバイス1内の溶液を光学的に測定するための光学測定手段108と、ロータ101の回転速度や回転方向および光学測定手段の測定タイミングなどを制御する制御手段109と、光学測定手段108によって得られた信号を処理し測定結果を演算するための演算部110と、演算部110で得られた結果を表示するための表示部111とで構成されている。
【0034】
回転駆動手段106は、ロータ101を介して分析用デバイス1を回転軸心107の回りに任意の方向に所定の回転速度で回転させるだけではなく、所定の停止位置で回転軸心107を中心に所定の振幅範囲、周期で左右に往復運動をさせて分析用デバイス1を揺動させることができるように構成されている。
【0035】
光学測定手段108には、分析用デバイス1の測定部にレーザー光を照射するためのレーザー光源112と、レーザー光源105から照射されたレーザー光のうち、分析用デバイス1を通過した透過光の光量を検出するフォトディテクタ113とを備えている。
【0036】
分析用デバイス1をロータ101によって回転駆動して、注入口13から内部に取り込んだ試料液を、注入口13よりも内周にある前記回転軸心107を中心に分析用デバイス1を回転させて発生する遠心力と、分析用デバイス1内に設けられた毛細管流路の毛細管力を用いて、分析用デバイス1の内部で溶液を移送していくよう構成されており、分析用デバイス1のマイクロチャネル構造を分析工程とともに詳しく説明する。
【0037】
図10は分析用デバイス1の注入口13の付近を示している。
図10(a)は注入口13を分析用デバイス1の外側から見た拡大図を示し、図10(b)は前記マイクロチャネル構造をロータ101の側からカバー基板4を透過して見たものである。
【0038】
注入口13は、ベース基板3とカバー基板4との間に形成された微小な隙間δの毛細管力の作用する誘導部17を介して、この誘導部17と同様に毛細管力の作用する隙間で必要量の試料液18を保持できる容積の毛細管キャビティ19と接続されている。誘導部17の流れ方向と直交する断面形状(図10(b)のD−D断面)は、奥側が垂直な矩形形ではなくて、図10(c)に示すように奥端ほどカバー基板4に向かって次第に狭くなる傾斜面20で形成されている。誘導部17と毛細管キャビティ19と接続部にはベース基板3に凹部21を形成して通路の向きを変更する屈曲部22が形成されている。
【0039】
誘導部17から見て毛細管キャビティ19を介してその先には、毛細管力が作用しない隙間の分離キャビティ23が形成されている。毛細管キャビティ19と屈曲部22および誘導部17の一部の側方には、一端が分離キャビティ23に接続され、他端が大気に開放したキャビティー24が形成されている。
【0040】
このように構成したため、注入口13に点着すると、試料液18は誘導部17を介して毛細管キャビティ19まで取り込まれる。図11はこのようにして点着後の分析用デバイス1をロータ101にセットして回転させる前の状態を示している。このとき、図6(c)で説明したように希釈液容器5のアルミシール9が開封リブ14に衝突して破られている。25a,25b,25c,25dはベース基板3に形成された空気孔である。
【0041】
− 工程1 −
分析用デバイス1は、図12(a)に示すように毛細管キャビティ19内に試料液を保持し、希釈液溶液5のアルミシール9が破られた状態でロータ101にセットされる。
【0042】
− 工程2 −
ドア103を閉じた後にロータ101を時計方向(C2方向)に回転駆動すると、保持されている試料液が屈曲部22の位置で破断し、誘導部17内の試料液は保護キャップ2内に排出され、毛細管キャビティ19内の試料液18は図12(b)と図15(a)に示すように分離キャビティ23に流入するとともに、分離キャビティ23で血漿成分18aと血球成分18bとに遠心分離される。希釈液容器5から流出した希釈液8は、排出流路26a,26bを介して保持キャビティ27に流入する。保持キャビティ27に流入した希釈液8が所定量を越えると、越えた希釈液8は溢流流路28を介して溢流キャビティ29に流れ込み、さらに逆流防止用のリブ30を介してリファレンス測定チャンバー31に流れ込む。
【0043】
なお、希釈液容器5は、アルミシール9でシールされている開口部7とは反対側の底部の形状が、図4(a)(b)に示すように円弧面32で形成され、かつ図12(b)に示す状態希釈液容器5の液放出位置においては、図13に示すように円弧面32の中心mが回転軸心107よりも排出流路26b側に近づくよう距離dだけオフセットするように形成されているため、この円弧面32に向かうように流れた希釈液8が円弧面32に沿って外側から開口部7に向かう流れ(矢印n方向)に変更されて、希釈液容器5の開口部7から効率よく希釈液容器収容部11に放出される。
【0044】
− 工程3 −
次に、ロータ101の回転を停止させると、血漿成分18aは分離キャビティ23の壁面に形成された毛細管キャビティ33に吸い上げられ、毛細管キャビティ33と連通する毛細管流路37を介して図14(a)と図15(b)に示すように計量流路38に流れて定量が保持される。図15(c)に毛細管キャビティ33とその周辺の斜視図を示す。
【0045】
− 工程4 −
ロータ101を反時計方向(C1方向)に回転駆動すると、図14(b)に示すように、計量流路38に保持されていた血漿成分18aが逆流防止用のリブ39を介して測定チャンバー40に流れ込み、また、保持キャビティ27の希釈液8がサイホン形状の連結流路41と逆流防止用のリブ39を介して測定チャンバー40に流れ込む。また、分離キャビティ23内の試料液はサイホン形状の連結流路34と逆流防止用のリブ35を介して溢流キャビティ36に流れ込む。そして必要に応じてロータ101を反時計方向(C1方向)と時計方向(C2方向)に往復回動させて揺動させて測定チャンバー内に担持された試薬と希釈液8と血漿成分18aからなる測定対象の溶液を攪拌する。
【0046】
− 工程5 −
ロータ101を反時計方向(C1方向)または時計方向(C2方向)に回転させて、リファレンス測定チャンバー31の測定スポットがレーザー光源112とフォトディテクタ113の間を通過するタイミングに、演算部110がフォトディテクタ113の検出値を読み取ってリファレンス値を決定する。更に、測定チャンバー40の測定スポットがレーザー光源112とフォトディテクタ113の間を通過するタイミングに、演算部110がフォトディテクタ113の検出値を読み取って、前記リファレンス値に基づいて特定成分を計算している。
【0047】
このように、利用者が試料液を採取する際の保護キャップ2の開閉操作で希釈液容器5を開封し、希釈液を分析用デバイス1内に移送させることができるため、分析装置の簡略化、コストダウンができ、さらには利用者の操作性も向上させることができる。
【0048】
さらに、シール部材としてのアルミシール9で封止された希釈液容器5を使用し、突出部としての開封リブ14によってアルミシール9を破って希釈液容器5を開封するので、長期間の保存によって希釈液が蒸発して減少することもなく、分析精度の向上を実現できる。
【0049】
また、図6(a)に示した分析用デバイス1の出荷状態では、閉塞された保護キャップ2の係止用溝12に希釈液容器5のラッチ部10が係合して、希釈液容器5が矢印J方向に移動しないように液保持位置に係止されているため、保護キャップ2の開閉操作で希釈液容器5を希釈液容器収容部11において移動自在に構成しているにもかかわらず、利用者が保護キャップ2を開放して使用するまでの期間は、希釈液容器収容部11における希釈液容器5の位置が、液保持位置に係止されるため、利用者が使用前の輸送中に希釈液容器5が誤って開封されて希釈液が零れるようなことがない。
【0050】
図16は分析用デバイス1を図6(a)に示した出荷状態にセットする製造工程を示している。先ず、保護キャップ2を閉じる前に、希釈液容器5の下面に設けた溝42(図2(b)と図4(d)参照)と、カバー基板4に設けた孔43とを位置合わせして、この液保持位置において孔43を通して希釈液容器5の溝42に、ベース基板3またはカバー基板4とは別に設けられた係止治具44の突起44aを係合させて、希釈液容器5を液保持位置に係止した状態にセットする。そして、保護キャップ2の上面に形成されている切り欠き45(図1参照)から、押圧治具46を差し入れて保護キャップ2の底面を押圧して弾性変形させた状態で保護キャップ2を閉じてから押圧治具46を解除することによって、図6(a)の状態にセットできる。
【0051】
なお、この実施の形態では希釈液容器5の下面に溝42を設けた場合を例に挙げて説明したが、希釈液容器5の上面に溝42を設け、この溝42に対応してベース基板3に孔43を設けて係止治具44の突起44aを溝42に係合させるようにも構成できる。
【0052】
上記の実施の形態では、保護キャップ2の係止用溝12が希釈液容器5のラッチ部10に直接に係合して希釈液容器5を液保持位置に係止したが、保護キャップ2の係止用溝12と希釈液容器5のラッチ部10とを間接的に係合させて希釈液容器5を液保持位置に係止することもできる。
【0053】
上記の実施の形態では、分析用デバイス1を回転軸心107の周りに回転させて試料液から遠心分離された成分と希釈液容器5から放出された希釈液8を測定チャンバー40に移送して希釈し、試料液から分離された溶液成分または試料液から分離された溶液成分と試薬との反応物にアクセスして分析する場合を例に挙げて説明したが、試料液から溶液成分を分離しなくても良い場合には、遠心分離の工程は必要でなく、この場合には、分析用デバイス1を回転軸心107の周りに回転させて、点着された試料液のうちの定量の試料液の全部と希釈液容器5から放出された希釈液8を測定チャンバー40に移送して希釈し、希釈液で希釈後の溶液成分または希釈液で希釈後の溶液成分と試薬との反応物にアクセスして分析する。
【0054】
また、分析用デバイス1を回転軸心107の周りに回転させて試料液から分離された固体成分と希釈液容器5から放出された希釈液を測定チャンバーに移送して希釈し、試料液から分離された固体成分または試料液から分離された固体成分と試薬との反応物にアクセスして分析することもできる。
【0055】
上記の実施の形態では、内部に微細な凹凸形状を表面に有するマイクロチャネル構造が形成された分析デバイス本体を、ベース基板3とカバー基板4との2層で構成したが、3層以上の基板を貼り合わせて構成することもできる。具体的には、マイクロチャネル構造に応じて切り欠きが形成された基板を中央にして、その上面と下面を別の基板を貼り合わせて前記切り欠きを閉塞してマイクロチャネル構造を形成する3層構造などを例に挙げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、生物などから採取した液体の成分分析に使用する分析用デバイスの移送制御手段として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態の分析用デバイスの保護キャップを閉じた状態と開いた状態の外観斜視図
【図2】同実施の形態の分析用デバイスの分解斜視図
【図3】保護キャップを閉じた状態の分析用デバイスを背面から見た斜視図
【図4】同実施の形態の希釈液容器の説明図
【図5】同実施の形態の保護キャップの説明図
【図6】同実施の形態の分析用デバイスの使用前と試料液を点着する際ならびに点着後に保護キャップを閉じた状態の断面図
【図7】分析用デバイスを分析装置にセットする直前の斜視図
【図8】分析用デバイスを分析装置にセットした状態の断面図
【図9】同実施の形態の分析装置の構成図
【図10】同実施の形態の分析デバイスの要部の拡大説明図
【図11】分析用デバイスを分析装置にセットして回転開始前の断面図
【図12】分析用デバイスを分析装置にセットして回転後とその後の遠心分離後の断面図
【図13】分析用デバイスの回転軸心と希釈液容器から希釈液が放出されるタイミングの希釈液容器の位置を示す断面図
【図14】遠心分離後の試料液の固体成分を定量採取し希釈するときの断面図
【図15】要部の拡大図と斜視図
【図16】出荷状態にセットする工程の断面図
【図17】従来例の分析用デバイスにおける希釈液容器の開封前と開封後の平面図
【図18】別の従来例の分析用デバイスにおける希釈液容器の開封時の断面図
【符号の説明】
【0058】
1 分析用デバイス
2 保護キャップ
2a 開口
2b 底部
3 ベース基板
4 カバー基板
5 希釈液容器
5a 内部
5b ラッチ部10の面
6a,6b 軸
7 開口部
8 希釈液
9 アルミシール(シール部材)
10 ラッチ部
11 希釈液容器収容部
12 係止用溝
13 注入口
14 開封リブ(突出部)
15,16 回転支持部
17 誘導部
18 試料液
18a 血漿成分
18b 血球成分
19 毛細管キャビティ
20 傾斜面
21 凹部
22 屈曲部
23 分離キャビティ
24 キャビティー
25a,25b,25c,25d 空気孔
26a,26b 排出流路
27 保持キャビティ
28 溢流流路
29 溢流キャビティ
30 リブ
31 リファレンス測定チャンバー
32 円弧面
33 毛細管キャビティ
34 連結流路
35 リブ
36 溢流キャビティ
37 毛細管流路
38 計量流路
39 逆流防止用のリブ
40 測定チャンバー
41 連結流路
42 溝
43 孔
44 係止治具
44a 突起
45 切り欠き
46 押圧治具
100 分析装置
101 ロータ
102 溝
103 ドア
104 可動片
105 バネ
106 回転駆動手段
107 回転軸心
108 光学測定手段
109 制御手段
110 演算部
111 表示部
112 レーザー光源
113 フォトディテクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を遠心力によって測定スポットに向かって移送するマイクロチャネル構造を有し、前記測定スポットにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスであって、
内部に微細な凹凸形状を表面に有するマイクロチャネル構造が形成された分析デバイス本体と、
開放位置では前記マイクロチャネル構造に試料液を採取する注入口が露出し閉塞位置では前記ベース基板と前記カバー基板の一部を覆い前記注入口からの試料液の飛散を防止する保護キャップと、
内部に希釈液を保持するように開口部がシール部材で封止された希釈液容器と、
前記分析デバイス本体の内部に形成され前記希釈液容器を液保持位置と液放出位置とに移動自在に収容する希釈液容器収容部と、
前記希釈液容器収容部における前記希釈液容器の液保持位置から液放出位置への移動経路中に突出して設けられ前記液放出位置に移動した前記希釈液容器の前記シール部材を破り前記希釈液容器を開封する突出部と
を設け、開放位置から閉塞位置への前記保護キャップの開閉によって前記希釈液容器を前記シール部材が前記突出部に係合して破れる前記開放位置に移動させるよう構成するとともに、
前記希釈液容器と開放位置にして前記注入口を露出させる前の閉塞位置の前記保護キャップの一部とが直接にまたは間接的に係合して前記希釈液容器が前記液放出位置に移動しないよう前記希釈液容器を前記液保持位置に係止するよう構成した
分析用デバイス。
【請求項2】
前記希釈液容器には前記保護キャップの側にラッチ部を設け、
前記希釈液容器と開放位置にして前記注入口を露出させる前の閉塞位置の前記保護キャップが、前記希釈液容器のラッチ部とに係合して前記希釈液容器が希釈液容器収容部の液保持位置に係止され、
前記希釈液容器のラッチ部と前記保護キャップとの係合に抗して前記保護キャップを開放位置にして前記注入口を露出させることによって前記係合が解除され、前記保護キャップを開放位置から閉塞位置に閉じる際に、保護キャップが希釈液容器の前記ラッチ部の前記保護キャップの側の面に当接して前記希釈液容器を前記液放出位置に押し込むよう構成した
請求項1記載の分析用デバイス。
【請求項3】
前記希釈液容器の前記シール部材が貼られるシール面が斜めに形成されている
請求項1または請求項2記載の分析用デバイス。
【請求項4】
前記分析デバイス本体には、係止治具を前記移動経路中に突出させる孔を設け、
前記希釈液容器の上面もしくは下面には、液保持位置において前記孔を通して前記係止治具が係合して前記希釈液容器を係止する溝を設けた
請求項2記載の分析用デバイス。
【請求項5】
前記希釈液容器は、前記シール部材でシールされている開放部とは反対側の底部を円弧面で形成した
請求項2記載の分析用デバイス。
【請求項6】
試料液を採取した請求項1に記載の分析用デバイスがセットされる分析装置であって、
前記分析用デバイスを軸心周りに回転と停止させて試料液と前記希釈液容器から放出された希釈液を測定チャンバーに移送する回転駆動手段と、
前記測定チャンバーの溶液にアクセスして分析する分析手段とを備えた
分析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の分析用デバイスを用いた分析方法であって、
分析用デバイスの保護キャップを開放して露出した注入口に試料液を点着して採取し、
前記保護キャップの開放位置から閉塞位置への操作によって前記分析用デバイスの希釈液容器収容部にセットされている希釈液容器を、前記希釈液容器収容部における前記希釈液容器の液保持位置から液放出位置への移動経路中に突出して設けられた突出部に向かって押し込んで前記突出部に前記希釈液容器のシール部材を押し付けて破り前記希釈液容器を開封するステップと、
前記シール部材を破って開放された分析用デバイスを、軸心を有するロータにセットし、前記ロータを回転させて前記分析用デバイスに点着された試料液の少なくとも一部を前記希釈液容器から放出された希釈液で希釈するステップと、
希釈液で希釈後の溶液成分または希釈液で希釈後の溶液成分と試薬との反応物にアクセスして分析するステップとを有する
分析方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2009−109251(P2009−109251A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279738(P2007−279738)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】