説明

分析用容器及び微量元素量分析方法

【課題】 試料中の金属等の不純物を分析するために繰り返し使用可能なガラス状カーボン容器を提供することを目的とする。
【解決手段】 目的に応じた適当な大きさの樹脂ブロックを作製し、切削加工により目的の容器を得た後、焼成し、研磨することにより、(Ra)0.1μm以下の液体保持用の容器を作製する。この方法によれば、仕様に合わせた個別の型を使用する必要がなく、かつ分析用治具として十分な純度を有するガラス状カーボンの治具が提供可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用容器及び微量元素量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子などの高純度材料中の微量金属不純物量を評価する手段として、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)及び黒鉛炉原子吸光法(ETAAS法)等を用いる場合には、試料を溶液化して分析を行う。試料の溶液化は、試料分解用の薬品(酸等)を容器に入れ、加圧あるいは加熱などを行う操作であり、分析を行うための前処理である。この試料の溶液化の過程で、分析の前処理に使用する容器(以下分析用容器という)の表面から分析対象とする金属の溶出、使用に伴い分析用容器表面に残留する金属あるいは、洗浄に使用して分析用容器表面に残留する酸等の物質が、溶液化した試料中に混入する場合もある。これらは分析対象とする金属不純物と同じ元素であったり、測定を阻害する成分であったりするため、測定する物質の検出を妨げ(バックグラウンドを上げ)てしまい、微量元素量分析を行う際の大きな障害となる。
【0003】
このような問題を解決する技術として、特許文献1にはふっ素樹脂を用いた方法が開示されている。これはふっ素樹脂自体の高純度化、容器の洗浄方法、表面処 理方法などにより、バックグラウンドを上げる物質の量を低減するものである。しかし、例えばシリコンウェハ上の表面金属不純物量の測定にふっ素樹脂を用いた分析用容器(以下従来の容器という)を用いると、100〜1000fg/cmレベルが検出限界とされ、半導体デバイスの信頼性向上が要求され続けている現状では、更に高純度な分析用器具を必要としている。また、ふっ素樹脂は、静電気により大気中の汚染物質を取り込み易い、多孔質であるためガス状物質が残留し易い、表面に残留する金属の除去に大量の酸を必要とする、などといった様々な問題がある。
【0004】
一方、気体・液体の不透過性(多孔質体を除く)、高耐食性、熱変形が少ない、耐熱性が高い、熱伝導率が高い、高純度である、などふっ素樹脂と石英の良い面を併せ持った特性を有する材料として、ガラス状カーボンが知られている。
【0005】
一般に酸等の液体を取り扱う分析用容器は、液体の非浸透性の他に、表面が平滑であること、気孔率が可能な限り少なく、開気孔などによって表面に凹凸が生じていないことが要求される。ガラス状カーボンはこれらの特性を備えている。
【0006】
特許文献2では、ガラス状カーボンの製造方法として、ガラス状カーボン製の使用済み部品を利用したガラス状カーボン樹脂の製造方法が開示されている。これによるとガラス状カーボンを粉砕して粒径が800μm未満にふるい分けしたふるい分け品と熱硬化性樹脂及び溶媒とを混練した樹脂を離型可能な硬さまで熱硬化して熱硬化性樹脂を得る。この熱硬化性樹脂からなる成形品を不活性ガス雰囲気中にて、800℃以上の温度で焼成してガラス状カーボンを製造するものである。
【0007】
しかし、このようなガラス状カーボンの製造方法により製造されたガラス状カーボン容器は、容器自体から溶出する元素量や、容器へ残留する元素量が分析対象となる金属不純物量に対し十分低い値ではなく、バックグランドを上げてしまうために高精度な分析が困難であるという問題があった。
【特許文献1】特開2001−247627公報
【特許文献2】特開2002−160969公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、試料中の金属等の不純物を分析するために繰り返し使用可能なガラス状カーボン容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明による分析容器は、樹脂組成物を立体容器状に成形し、焼成して得られるガラス状カーボンからなり、20℃から200℃までの範囲において、Al、Cr、Cu、Fe、Mg、Zn、Zrから選ばれる少なくとも1種の金属元素が5%以下の濃度で含まれる溶液を、前記容器に収容した後、純水で洗浄した際の前記容器に残留する前記金属元素の量が100fg/cm以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明による分析容器は、樹脂組成物を立体容器状に成形し、焼成して得られるガラス状カーボンからなり、20℃から200℃までの範囲において5%以下の濃度で含まれる水酸化カリウム、水酸化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種のアルカリ溶液を、前記容器に収容した後、純水で洗浄した際の前記容器に残留するアルカリ金属類の溶出量が100fg/cm以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明による分析容器は、樹脂組成物を立体容器状に成形し、焼成して得られるガラス状カーボンからなり、20℃から200℃までの範囲において5%以下の濃度の塩酸、硝酸、臭化水素酸、硫酸及びふっ化水素酸から選ばれる1種の酸溶液を前記容器に収容した後、純水で洗浄した際の前記容器に残留する塩化物イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、ふっ化物イオンの量が1ng/cm以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明による分析容器は、樹脂組成物を立体容器状に成形し、焼成して得られるガラス状カーボンからなる容器に、20℃から200℃までの範囲において塩酸、硝酸、臭化水素酸、硫酸及びふっ化水素酸から選択される少なくとも1種の酸を入れて加温した場合に、前記ガラス状カーボンからのAl、B,Ca,Co,Cr,Cu,Fe,Ge,K,Mg,Mo,Na,Ni,Pb,Si,Sr、Ti、Zn及びZrの各元素溶出量が、100fg/cm以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明による分析容器は、Al、B、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ge、K、Mg、Mo、Na、Ni、Pb、Si、Sr、Ti、Zn及びZr等の溶出量が100fg/cm以下であるガラス状カーボンからなる分析用容器中に、酸分解液を投入して分析試料を溶解し、溶液を得る溶液化工程と、前記分析試料中に含まれ、溶液中に溶解した前記元素量を測定する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、試料中の金属等の不純物を分析するために繰り返し使用可能なガラス状カーボン容器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らはガラス状カーボンがAl、B、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ge、K、Mg、Mo、Na、Ni、Pb、Si、Sr、Ti、Zn及びZr等の元素(以下不純物という)が残留しにくい材料であることに気付き、不純物の分析用容器としてガラス状カーボンを使用した場合、繰返し使用しても以前の分析に起因するバックグラウンド(分析上のノイズ)を極めて少なくすることが可能になることを確認し、本発明に至った。
【0016】
ここで、分析用容器を用いた分析手法の一例をあげる。
【0017】
ここでは、半導体素子上に残留する微量な不純物量(金属等)を測定する場合を例示し、次のような操作を行う。
【0018】
まず、シリコンウェハ等の材料の1片(1cm程度)をガラス状カーボン容器(容量100ml程度)に入れて、この材料を溶液化する。材料の溶液化には硝酸(30%)及びふっ化水素酸(25%)を1:1で混合した溶液を10ml程度加え、おおよそ100℃で2時間、加温して溶解することによって行う。
【0019】
次に1%程度の硫酸を200μl添加して硫酸の白煙が発生するまで加熱して濃縮し、純水で0.5mlにまで希釈し、この希釈した溶液(以下希釈溶液とする)をICP−MS等の分析機器で測定を行う。
【0020】
このような方法で微量分析は行われ、半導体素子上の金属等の微量分析は上述したような不純物量が100〜1000fg/cmより少ないことを判断するために分析を行っている。
【0021】
例えば、微量元素量分析を繰り返し行う際に、希釈溶液中に含まれる不純物の濃度よりも、前回使用した希釈溶液中の不純物量の濃度が高い場合がある。従来の容器では不純物が容器に残留しやすく、希釈溶液中に不純物が混入し、バックグラウンドを上げ、また容器の洗浄も困難であった。通常の分析操作では容器に残留していた元素か分析で対象としている元素かの区別ができないため、不純物に対する残留性の高い従来の容器を使用した不純物の微量元素量分析は難しい。従って、繰り返し使用されるような分析用容器は、不純物の容器への残留量が100fg/cm以下であるという特性が求められる。
【0022】
また、分析用容器は試料の溶液化のため、あるいは、分析用容器表面に残留する不純物等を洗浄するために多量の酸を使用する。しかし、例えば、金属元素をICP−MS法により測定する場合、プラズマガスとして用いるアルゴンのほか、塩化物イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、ふっ化物イオン等が共存すると、それぞれの分子イオンの生成により、不純物に対するスペクトル干渉が起こり測定に大きな影響を与える。
【0023】
従って、微量分析用の容器には繰り返し使用される時の容器への塩化物イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、ふっ化物イオン等の残留量が100ng/cm以下であるという特性も求められる分析用に適したガラス状カーボン容器を得るために、本発明者らは以下のように分析用容器の製造を行った。
【0024】
まず、目的に応じた大きさの樹脂ブロックを切削加工により成形し、成形した容器を不活性ガス中で焼成後、表面粗さ(Ra)0.1μm程度となるように研磨してガラス状カーボン成形品(容量100ml)を作製する。作成した成形品を濃硝酸中に浸漬して例えば100℃で2日間加熱洗浄し、純水で洗浄後、0.1mol/l硝酸中に2日間浸漬し、更に純水で洗浄後、乾燥してガラス状カーボン容器を得る。
【0025】
このようにして得られたガラス状カーボンは表面が平滑で、気孔率が限りなく少なく、容器表面に凹凸が生じていないなどの分析用容器としての特性を備えた上、不純物の分析用容器への残留が少ないという特性を有する。特に微量元素量分析では、分析用容器に対する不純物の残留量が100fg/cm以下であることが好ましい。
【0026】
更に、このようにして得られた分析用容器は試料の溶液化において使用する酸の蒸気が残留しにくい、洗浄に使用した酸の残留も少ない等の特性を備えている。本実施形態において示した方法で製造されたガラス状カーボン容器は塩化物イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、ふっ化物イオン等の容器への残留量も低い特性をもつことから、微量分析用の容器としての特性を十分備えたものである。特に微量元素量分析では、分析用容器に対する塩化物イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、ふっ化物イオンの残留量が100ng/cm以下であることが好ましく、原料である樹脂中の不純物量を低減することで可能になる。
【0027】
また、従来の容器は、例えば半導体素子などにおける不純物量を測定するために半導体素子を溶液化する過程において、不純物と同じ成分(金属元素等)が容器自体から溶出することがあった。希釈溶液に従来の容器自体から溶出した不純物が混入すると、バックグラウンドを上げるため、分析を困難にする。
【0028】
例えば、半導体素子上に存在する分析対象とする場合に、容器自体から不純物の溶出が100〜1000fg/cm程度あると、分析によって得られた元素が、容器自体から溶出した元素か、半導体素子に起因する元素か特定できなくなる。従って、100〜1000fg/cmを対象として測定するような微量分析の場合には、ガラス状カーボン容器自体から溶出していく不純物が少なくとも100fg/cm以下であることが求められる。本実施形態で示した方法で製造されたガラス状カーボン容器は容器自体からの金属等の不純物の溶出量が少ないという特性を有する。特に微量元素量分析では、分析用容器自体から溶出する不純物の量が100fg/cm以下であることが好ましい。
【0029】
更に本実施形態で示した製造方法によると開気孔などが生じにくいため、試料の溶液化に際し、試料溶解時の突沸(沸点以上に加熱された液体が、突然爆発したように沸騰する現象)等がなく、作業上の安全性も高い。また、分析用に多種多用の型を使用する必要がないため、少量生産品が可能であり、消耗品としての分析用器具を生産することができ、製造コストも低減できる。
【0030】
なお分析用容器は、上述したように容器自体の材質がガラス状カーボンのみである場合だけでなく、耐火度が1000℃から1200℃の耐火物を使用した容器を支持体とし、そのガラス状カーボンで被覆することで同様に微量元素量分析に適用できる。
【0031】
耐火物とは、例えば、Si、AlN、BN、TaN、NbNのような窒化物、TaC、HfC、TiC、WC、SiC、BCのような炭化物、WB、Mo、ZrB、TiB、HfB、TaBのようなホウ化物、SiO2、Al、ZrOのような酸化物、MoSI、WSi、ZrSi、TaSiのようなケイ化物などで、これらを立体容器に成形した容器の表面に、ガラス状カーボンの原料を塗布し、不活性ガス中で焼成する、あるいは、立体容器表面にガラス状カーボンをスパッタリングして被覆加工するなどによって、微量分析用容器として用いることが可能である。
ここで、ガラス状カーボンからなる微量分析用容器としての性能を評価するために、次に示すような実験(1〜5)及び比較実験(1〜16)を行った。
【0032】
実験(1〜5)では、ガラス状カーボン容器の原料となる樹脂に含まれる元素の量が異なる2つの容器(容器(A)及び容器(B))、また比較実験(1〜16)では、ポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEという)及び変性PTFEの原料となる粉の種類及び粒径が異なる4つの容器を使用した。
【0033】
容器(A)は、原料となる樹脂に含まれる元素(Al、B、Ca、Cr、Cu、Fe、K、Na、Ni、Si、Tiから選ばれる少なくとも1つの元素)の量が0.1μg/g以下であるものから製造した容器、容器(B)は、原料となる樹脂に含まれる元素の量が3.2μg/g以下であるものから製造した容器である。
【0034】
一方、PTFE容器及び変性PTFE容器は日本バルカー工業株式会社製の成形品で、PTFEの原料粉が300μmであるものから製造した容器及び20μmであるもの、変性PTFE容器は、変性PTFEの原料粉が300μmであるものから製造した容器及び20μmであるものである。
【0035】
容器(A)及び容器(B)は樹脂ブロックを切削加工により成形し、成形した容器を不活性ガス中で焼成後、表面粗さ(Ra)0.1μm程度となるように研磨してガラス状カーボン成形品(容量100ml)を作製し、濃硝酸中に浸漬した後、100℃で2日間加熱洗浄した。次に純水で洗浄後、0.1mol/l硝酸中に2日間浸漬し、更に純水で洗浄して、分析用容器とした。
【0036】
一方、PTFE容器及び変性PTFE容器は表面粗さ(Ra0.1μm)になるように研磨しているものを使用した。
【0037】
実験1〜4では容器(A)を、また実験5では容器(B)を、更に比較実験1〜17ではPTFE容器及び変性PTFE容器を使用した。詳細は表1の通りである。
【0038】
【表1】

【0039】
各実施例において使用した酸は、分析対象の元素濃度が10(pg/g)以下の超高純度試薬で、後述する金属不純物量、その残留量、イオン残留量の評価のために用いた酸も同等の試薬である。試薬の添加、加熱操作等、前処理操作は全てクラス1000以下のクリーンルーム中で行っている。
【0040】
また、使用した分析機器は次の通りである。誘導結合プラズマ質量分析法(以下ICP−MSとする)はセイコーインスツルメンツ製SPQ9000または Micromass社製PlasmaTrace2を用いた。黒鉛炉原子吸光法(以下ETAASとする)はPerkin−Elmer製5100ZLを用いた。イオンクロマトグラフはDionex製 DX−100を用いた。
【実施例1】
【0041】
容器(A)に対するAl、Zr、Zn、Cu、Fe、Cr、Mg等分析対象の元素の、分析用容器への残留性を以下のように評価した。
【0042】
(実験1)
ガラス状カーボン容器(容器(A)・容量100ml)に高純度Al、Zr、Zn、Cu、Fe、Cr、Mgを各1g入れ、王水20mlにより100℃で2時間加熱後、純水で洗浄した。容器(A)に残留する各元素を定量するために、0.1mol/Lの硝酸中を4時間浸漬して、浸漬した硝酸中の元素量をICP−MS法により定量した(実験1−1)。
【0043】
容器(A)への各元素の残留性の評価を行うために、容器(A)から溶出する金属元素をICP−MS法により定量する(実験1−1)と同様の操作を2回繰り返した。(実験1−2及び1−3)。結果を表2から4へそれぞれ示す。
【0044】
(比較実験1−1〜4−3)
日本バルカー工業株式会社製の成形品(30mmφ、厚さ7mm、粒径300μm原料粉;比較実験1、粒径20μm原料粉;比較実験2、粒径300μm、変性PTFE原料粉;比較実験3、粒径20μm、変性PTFE原料粉;比較実験4)を用いた。金属元素残留量の評価方法、溶出量の定量方法は(実験2)と同じである。結果を表2から4へそれぞれ併記する。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
表2から4で明らかなように、実験1−1〜実験1−3におけるガラス状カーボン容器(容器(A))からの分析対象の元素検出量は繰り返し測定後も100fg/cm以下であり、分析対象の元素は分析用容器の内部への拡散がないことが確認できる。
【0049】
一方、実験1−1〜実験4−3におけるPTFE容器で及び変性PTFE容器では230〜50000fg/cmの 溶出が継続的に検出されており、1回目の使用による容器内部への拡散が確認された。容器(A)は分析対象の元素である金属元素の残留量が少なく、分析用の容器としての特性を十分に有している。また、容器表面のみならず内部への拡散も著しく低いため、酸洗浄処理などの煩雑な工程を省略することが可能である。
【実施例2】
【0050】
容器(A)に対するK、Na等分析対象の元素の、分析用容器への残留性を以下のように評価した。
【0051】
(実験2)
ガラス状カーボン容器(容器(A)・容量100ml)に水酸化カリウム、水酸化ナトリウム各1gを入れ、純水20mlを加え、100℃で2時間加熱後、純水で洗浄した。容器(A)から溶出する各元素を定量するために、純水に容器(A)を4時間浸漬し、K、Naを原子吸光分光分析(以下AAS)という法により定量した(実験2−1)。
【0052】
容器(A)への各元素の残留性の評価を行うために、容器(A)から溶出するK、NaをAAS法により定量する(実験2−1)と同様の操作を2回繰り返した。(実験2−2及び2−3)。結果を表5から7へそれぞれ示す。
【0053】
(比較実験5−1〜8−3)
日本バルカー工業株式会社製の成形品(30mmφ、厚さ7mm、粒径300μm原料粉;比較実験5、粒径20μm原料粉;比較実験6、粒径300μm、変性PTFE原料粉;比較実験7、粒径20μm、new−PTFE原料粉;比較実験8)を用いた。K、Naの残留量の評価方法、溶出量の定量方法は(実験2)と同じである。結果を表5から7へそれぞれ併記する。
【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
【表7】

【0057】
表5から表7で明らかなように、実験2−1〜実験2−3におけるガラス状カーボン容器(容器(A))からのK、Naは繰り返し測定後も100fg/cm以下であり、また容器内部への拡散がないことが確認できる。
【0058】
一方、PTFE成形品では570〜80000fg/cmの溶出が継続的に検出され初期の使用による容器内部への拡散が確認された。
【0059】
ガラス状カーボン容器はK、Na等を含むアルカリ溶液においても、十分な効果を有することが明らかであり、分析用容器としての特性を十分に有している。
【実施例3】
【0060】
容器(A)に対する塩化物イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、硫酸イオン及びふっ化物イオン等のイオンの分析用容器への残留性を以下のように評価した。
【0061】
(実験3)
ガラス状カーボン容器(容器(A)100ml)に濃度50g/lの塩化物イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、硫酸イオン及びふっ化物イオンの混合溶液を20ml添加した後、更にステンレス製外筒容器に入れて蓋をし、180℃の定温炉中で4時間加熱した。
【0062】
冷却後、容器(A)に残留するイオンを測定するために、純水に容器(A)を4時間浸漬して塩化物イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、硫酸イオン及びふっ化物イオンをイオンクロマトグラフにて定量した(実験3−1)。
【0063】
容器(A)への各イオンの残留性の評価を行うために、容器(A)から溶出するイオンをイオンクロマトグラフ法により定量する(実験3−1)と同様の操作を2回繰り返した。(実験3−2及び3−3)。結果を表8から10へそれぞれ示す。
【0064】
(比較実験9−1〜12−3)
日本バルカー工業株式会社製の成形品(30mmφ、厚さ7mm、粒径300μm原料粉;比較実験9、粒径20μm原料粉;比較実験10、粒径300μm、変性PTFE原料粉;比較実験11、粒径20μm、new−PTFE原料粉;比較実験12)を用いた。残留するイオン量の評価方法、溶出量の定量方法は(実験3)と同じである。結果を表8から10へそれぞれ併記する。
【0065】
【表8】

【0066】
【表9】

【0067】
【表10】

【0068】
表8から表10で明らかなように、実験3−1から3−3では容器(A)から溶出する陰イオン成分の量は10pg/cm以下を示しており、金属試料の場合(実施例1及び2)と同様に容器の内部への拡散がないことが確認できる。
【0069】
一方、実験9−1から12−3におけるPTFE成形品では340〜500000pg/cmの溶出が継続的に検出され、容器内部への拡散が見られた。ガラス状カーボン容器は陰イオンにおいても、十分な効果を有することが明らかである。
【0070】
半導体素子などにおける金属不純物成分をICP−MS法により測定する場合、プラズマガスとして用いるアルゴンのほか、塩化物イオン、臭化物イオン及び硫酸イオンなどが共存すると、それぞれの分子イオンの生成により、金属不純物成分に対するスペクトル干渉が起こり、測定時のノイズとなって大きな影響を与える。
【0071】
従来の容器では分析対象の元素の種類によって洗浄に使用する酸の種類を変え、共存する塩化物イオン、臭化物イオン及び硫酸イオンをできるだけ少なくするための洗浄が更に必要であった。しかし、本実施例によるガラス状カーボン容器を用いれば、どのような酸を用いて洗浄しても、この酸の残留がほとんどないため、目的成分に応じた酸洗浄を行うことも可能となる。
【実施例4】
【0072】
容器(A)及び容器(B)自体からのFe、K、Na、Zn、Cu、Cr、Al、B、Mg、K、及びNa等分析対象の元素の溶出を以下のように評価した。
【0073】
(実験4及び5)
ガラス状カーボン容器(容器(A)・容量100ml及び容器(B)・容量100ml)自体からの分析対象の元素を測定する方法は次のように行った。
【0074】
容器(A)及び容器(B)に30%硝酸:25%ふっ化水素酸=1:1で混合した酸溶液10mlを添加して、100℃で2時間加熱する。その後1%硫酸200μlを添加して更に加熱濃縮し、硫酸の白煙が発生するまで加熱する。
【0075】
放冷後、濃縮した溶液を純水で0.5mlに希釈して定容し、この希釈溶液をFe、K、Na、Zn、Cu、Cr、Al、B及びMgをICP−MS法で、K、Na及びZnをETAAS法で測定した。結果は表11に示した。
【0076】
(比較実験13〜16)
日本バルカー工業株式会社製のPTFE(粒径300μm原料粉:比較実験13、粒径20μm原料粉:比較実験14、粒径300μm、変性PTFE原料粉:比較実験15、粒径20μm、変性PTFE原料粉:比較実験16)容器からの溶出量の測定方法は実験4及び実験5に同じである。結果を表11に併記する。
【0077】
【表11】

【0078】
表11より実験4における、Fe、K、Na、Zn、Cu、Cr、Al、B及びMgの溶出量100fg/cm以下であり、更に実験5においても比較実験13〜16のPTFE成形品と比べて1/2−1/10の溶出量である。また、非常に低いレベルであることから、容器(A)及び容器(B)は分析用容器として有効であることが分かる。
【0079】
従って、ICP−MS法やETAAS法等で試料中または試料表面における金属成分の残留量、溶出量及び含有量等を評価する方法において使用する分析用容器として、本実施例で示したガラス状カーボン容器を使用することにより、金属不純物分析において問題となるノイズを著しく低減することが可能となる。
【0080】
また、PTFEと比較してガラス状カーボンは熱伝導率が高いため、試料溶液の濃縮時間を1/2以下に短縮も可能である。濃縮時、PTFEでは加熱温度、溶液の種類にもよるが容器底部から気泡が発生し易く、試料溶液が突沸現象などにより飛散する危険があるが、ガラス状カーボン容器は高温でも気泡が発生し難く、濃縮時の試料溶液の飛散を抑制することができるため使用時にも安全である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物を立体容器状に成形し、焼成して得られるガラス状カーボンからなり、20℃から200℃までの範囲において、Al、Cr、Cu、Fe、Mg、Zn、Zrから選ばれる少なくとも1種の金属元素が5%以下の濃度で含まれる溶液を、前記容器に収容した後、純水で洗浄した際の前記容器に残留する前記金属元素の量が100fg/cm以下であることを特徴とする分析用容器。
【請求項2】
樹脂組成物を立体容器状に成形し、焼成して得られるガラス状カーボンからなり、20℃から200℃までの範囲において5%以下の濃度で含まれる水酸化カリウム、水酸化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種のアルカリ溶液を、前記容器に収容した後、純水で洗浄した際の前記容器に残留するアルカリ金属類の溶出量が100fg/cm以下であることを特徴とする分析用容器。
【請求項3】
樹脂組成物を立体容器状に成形し、焼成して得られるガラス状カーボンからなり、20℃から200℃までの範囲において5%以下の濃度の塩酸、硝酸、臭化水素酸、硫酸及びふっ化水素酸から選ばれる1種の酸溶液を前記容器に収容した後、純水で洗浄した際の前記容器に残留する塩化物イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、ふっ化物イオンの量が1ng/cm以下であることを特徴とする分析用容器。
【請求項4】
樹脂組成物を立体容器状に成形し、焼成して得られるガラス状カーボンからなる容器に、20℃から200℃までの範囲において塩酸、硝酸、臭化水素酸、硫酸及びふっ化水素酸から選択される少なくとも1種の酸を入れて加温した場合に、前記ガラス状カーボンからのAl、B,Ca,Co,Cr,Cu,Fe,Ge,K,Mg,Mo,Na,Ni,Pb,Si,Sr、Ti、Zn及びZrの各元素溶出量が、100fg/cm以下であることを特徴とする分析用容器。
【請求項5】
20℃から200℃までの範囲において塩酸、硝酸、臭化水素酸、硫酸及びふっ化水素酸から選択される少なくとも1種の酸を分析用容器に入れて加温した場合に、前記容器中から溶出するAl,B,Ca,Co,Cr,Cu,Fe,Ge,K,Mg,Mo,Na,Ni,Pb、Si、Sr、Ti、Zn及びZrの各元素溶出量が100fg/cm以下であるガラス状カーボンからなる分析用容器中に、酸分解液を投入して分析試料を溶解し、溶液を得る溶液化工程と、前記分析試料中に含まれ、前記溶液中に溶解した前記元素量を測定する工程とを有することを特徴とする微量元素量分析方法。

【公開番号】特開2008−268222(P2008−268222A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125230(P2008−125230)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【分割の表示】特願2004−144025(P2004−144025)の分割
【原出願日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】