説明

分析用試料調製方法及び装置

【課題】鉄鋼または非鉄金属のX線蛍光分析用・発光分光分析用など及びガス分析用の酸化物層と汚染物などを除去した新鮮な表面を有する板状試料及び酸化物層と汚染物などを除去した新鮮な微細片を一つの装置で同時に調製することができる分析用試料調製方法および装置を提供することである。
【手段】断面が略円形の棒状または円板状の上記分析用検体の切断面から微細片をフライス盤で切削する際、フライス盤として、その回転ヘッドに上記切断面の周縁部をテーパー状に切削するテーパー形成切削歯(a)と、(a)によりテーパー状の周縁が形成された切断面を切削してガス分析用の微細片を形成する微細片形成切削歯(b)とが設置されているフライス盤を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼(鉄、鋼および鉄合金をいう)、あるいは銅、アルミニウムなどの非鉄金属の検体から表面の酸化物層を除去し、X線蛍光分析や発光分光分析などによりその組成、不純物を、また鉄鋼などを高温で燃焼させてガス分析して炭素、硫黄、窒素などの含有量などを確認するための分析に用いる試料を調製する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製造中の、あるいは製品の鉄鋼や非鉄金属の組成や不純物をX線蛍光分析やアーク発光分析、スパーク発光分析などの発光分光分析により確認する方法は、JISやISOなどにより規定されている(例えば、JIS G1256−1982、JIS G1253など参照)。これらの分析には新鮮な平面を有する板状試料が用いられる。
【0003】
一方、製造中の、あるいは製品中の鉄鋼や非鉄金属中の炭素、硫黄、窒素などの含有量を確認する目的で赤外線分光分析によるガス分析も実施される。ガス分析には粒状ないし微細片の試料が用いられる。
上記の分析に供する試料は、酸化物や汚染物などの不純物を含まない新鮮な表面及び新鮮な微細片であることが必要である。
従来から実施されているこれらの分析用試料の調製には、表面に酸化物層を有する断面が略円形の棒状検体を旋盤で側面を削り、次いで回転丸鋸で所定厚さに輪切りして板状の試料とし、一方ドリルで検体に孔を開け、生成する穿孔片を微細片としたり、薄めに輪切りしたものを打ち抜いて粒状試料とするなどの方法が用いられていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この方法では、それぞれ別々の装置で試料を調製する必要があるため、試料調製が煩雑で、1つの装置で形状の異なる分析用試料を調製することが困難であり、そのため試料調製の自動化も困難であった。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、鉄鋼または非鉄金属のX線蛍光分析用・発光分光分析用など及びガス分析用の酸化物層と汚染物などを除去した新鮮な表面を有する板状試料及び酸化物層と汚染物などを除去した新鮮な微細片を一つの装置で同時に調製することができる分析用試料調製方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、鉄鋼または非鉄金属の検体からX線蛍光分析や発光分光分析などに供する新鮮な平面を有する板状試料と、ガス分析に使用する鉄鋼または非鉄金属の新鮮な微細片とを形成するための分析用試料調製方法において、断面が略円形の棒状または円板状の上記分析用検体の切断面から微細片をフライス盤で切削する際、フライス盤として、その回転ヘッドに上記切断面の周縁部をテーパー状に切削するテーパー形成切削歯(a)と、該(a)によりテーパー状の周縁が形成された切断面を切削してガス分析用の微細片を形成する微細片形成切削歯(b)とが設置されているフライス盤を使用することを特徴とする分析用試料調製方法が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、鉄鋼または非鉄金属の検体からX線蛍光分析や発光分光分析などに供する新鮮な平面を有する板状試料と、ガス分析に使用する鉄鋼または非鉄金属の新鮮な微細片とを形成するための分析用試料調製装置において、少なくとも、検体を保持するクランプと、上記のフライス盤または上記フライス盤と回転丸鋸が一体に構成されたものが設置されていることを特徴とする分析用試料調製装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面の酸化物層や汚染物などが除去された新鮮な表面を有する板状試料及び新鮮な微細片を同一の装置で容易に作製することができる鉄鋼または非鉄金属の分析用試料調製方法、さらに自動化も可能な分析用試料調製装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の特徴は、例えば、鋼鉄の製造中に、分析用に形成した検体の断面が略円形のインゴットから分析用の試料を調製する際、インゴット表面から酸化物層を切削して新鮮な表面を露出させ、分析用の微細片及び新鮮な表面を有する板状試料を、一つの装置で調製できるようにしたことにある。本発明で得られる板状試料は、その新鮮な平面を利用するX線蛍光分析や発光分光分析などの各種分析に用いられ、微細片試料は、それを溶解したり、燃焼させるなどして行なうガス分析などに使用される。
【0010】
以下に本発明を図面を参照して説明する。
図1に本発明の装置の1例の概略図を示す。切削ボックスB内には左側から順に、試料を調製する断面が略円形の棒状などの検体Aと、それを垂直方向に固定するクランプ1、検体Aを水平に切断する左右に移動可能な回転丸鋸2、及び該回転丸鋸2と連動して左右に移動可能な、回転丸鋸2により形成された切断面周縁部からバリをとるとともに微細片を切削して切断面を平滑にするフライス盤3が設置されている。クランプ1は、検体Aを固定した状態で上下に移動させることができる。フライス盤3には、例えば、概略平面図を図2に示すように、回転切削ヘッド4に、検体Aの切断面の周縁部のバリを取るとともに周縁部をテーパー状に切削するテーパー形成切削歯4aと、テーパー状の周縁が形成された切断面を切削してガス分析用の微細片を形成するとともに切断面を新鮮な平滑面にする微細片形成切削歯4bの2種の切削歯が、フライス盤軸を中心とする内側と外側の同心円上にそれぞれ着脱自在に取り付けられている。
【0011】
切削歯4aは、検体Aの円形切断面の周縁部をテーパー状に切削し(バリ取りも兼ねる)、切断面より下方の側面の一定幅の部分から酸化物層や汚染物などを除去するものであり、切削歯4bはテーパー状切削後に検体Aの切断面を所定の厚み(例えば20〜50μm程度)で切削するものである。また、これによっても周縁部のバリを取ることもできる。
【0012】
本発明の方法では、例えば、上記の装置に設置された回転丸鋸2を左方向に移動させながら検体Aを切断して新鮮な切断面を露出させるが、切断面周縁部にはバリが生じる。このバリ取りと検体の切断面以下の側面の一部を切削して新鮮な面を露出させるために、回転丸鋸2と連動させてフライス盤3も左方向に移動させ、検体切断面中心とフライス盤3の回転軸とが一致した時点でフライス盤3の移動を停止させる。そして、検体切断面の周縁部を、そこがテーパー状に切削されるように、回転切削ヘッド4を降下させながら切削歯4aで切削する。このテーパー状切削は、回転切削ヘッド4は降下させず、検体Aを上昇させながら切削することによっても可能であり、本発明ではいずれであってもよい。切削歯4aによって検体Aの周縁部がテーパー状に切削され始める状態を図3(1)に、テーパー状に切削された検体Aの状態を図3(2)に示す。
【0013】
次いで、テーパー状周縁部が形成された検体Aの切断面を所定の厚さで回転ヘッド4の切削歯4bで切削するために、図4(1)に示すように上記厚さ分だけ回転切削ヘッド4を降下させ、フライス盤3を右方向に移動させながら検体の左側の周縁部から右側の周縁部に向かって切削歯4bで円弧状に切断面全面を切削する。この際の切削片は捕集され微細片試料として分析に供される。図4(2)に切削終了後の検体Aの状態を示す。この切削歯4bによる切削は、回転ヘッドを降下させず、検体Aを上昇させることによっても可能であるが、本発明ではいずれであってもよい。
以上の切削歯4aと4bの切削により検体から酸化物層や汚染物などが除去された分析用の平滑で新鮮な切断面と新鮮な微細片試料とを調製することができる。
【0014】
上記の切削が実施されるために、切削歯4aと4bは、フライス盤3の回転切削ヘッド4に、例えば図2に示すように、フライス盤の回転軸を中心とする内側の同心円上に切削歯4aが、外側の同心円上に4bが、それぞれ少なくとも1個交換可能に取り付けられる。切削歯4aは、例えば、図5に斜視図を示すように直角三角形板様に形成され、その斜面が検体Aの周縁部を切削できるように加工されたものが使用される。また、上記の直角三角形板様に形成された切削歯4a取り付け基台の斜面に切削歯4aを交換可能に設置したものも使用できる。
【0015】
切削歯4aによる切削終了後、フライス盤を、例えば右方向に移動させながら、周縁部がテーパー状に切削された検体Aの切断面を、回転切削ヘッド4の回転により切削歯4bで円弧状に切削する。切削歯4bは、その先端部が平面を切削できるように形成されたものであれば形状は特に制限されない。また、上記の直角三角形板様の切削歯4aの下端部を平面切削が可能な形状に加工したもの(4aと4bを一体に形成したもの)、あるいは図6に斜視図を示すように切削歯4aの上記の直角三角形板様の取り付け基台の下端部に切削歯4bを交換可能に設置したものも使用することができる。本発明においては切削歯4a、4bの態様は特に制限されるものではない。
【0016】
上記例示の装置では、回転丸鋸2とフライス盤3は、それぞれ独立した切断手段および切削手段として使用されるが、これらを一体に構成したものとして使用することもできる。例えば1例を図7に示すが、フライス盤を改良する場合には、それぞれ交換可能に、丸鋸2を先ず設置し、丸鋸2の下に前記2種の切削歯4aと4bを有する回転切削ヘッド4を設置したものが挙げられる。使用方法は上記の装置の場合と同様である。
【0017】
また、本発明の装置では、クランプ1は、例えば棒状の検体Aを水平に保持固定し、検体Aを左右方向および上下方向には移動させることができず、回転丸鋸2とフライス盤3は連動して左右に移動でき、これらは独立して上下移動ができ、回転丸鋸2は垂直方向に回転して上記検体Aを切断し、フライス盤3はその切断面を切削できるように設置する(いわゆる横フライス盤)こともでき、クランプ1、回転丸鋸2およびフライス盤3の設置方向、上下、左右の移動の可否などは特に限定されない。この場合にも上記の回転丸鋸とフライス盤を一体に構成したものも使用することができる。また、本発明では、回転丸鋸2およびフライス盤3による切削および切削微細片の捕集を窒素ガスやアルゴンなどの不活性ガス中で実施し、切削中の酸化物の生成を防止することもできる。
【0018】
フライス盤の回転ヘッドに設置する切削歯4aは、検体Aの切断面周縁部をテーパー状に切削するために、例えば概略斜視図を図5に示すよう直角三角形の斜辺に形成され、検体Aを上昇させながら、あるいは回転ヘッドを下降させながら検体Aの切断面周縁部をテーパー状に切削する。切削歯4bは、検体Aの切断面を切削することができればよく、特に制限されない。また、回転丸鋸2は先端に超硬合金製の切削歯を着脱自在に設置したものが、切削歯4a、4bは、全体が、あるいは取り付け基台に設置する部分が超硬合金製であるものを使用することができる。鋼の切断および切削には超硬合金製のものが特に好ましい。これらの材質は、検体の種類に応じて選択することができ、特に制限されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明により、鉄鋼または非鉄金属の検体から表面の酸化物層や汚染物などが除去された新鮮な表面を有する板状試料及び新鮮な微細片の調製を同一の装置で、かつ容易に作製することができる。また本発明の装置はコンピュータコントロールによる自動操作化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の装置の1例を説明する模式図である。
【図2】本発明のフライス盤の回転切削ヘッドに取り付ける切削歯4aと4bの配置を説明する概略平面図である。
【図3】(1)は検体の周縁部を切削歯4aで切削する工程を説明する模式図である。(2)は周縁部がテーパー状に切削された検体の模式図である。
【図4】(1)周縁部がテーパー状に切削された検体の切断面を切削歯4bで切削する工程を説明する模式図で、(2)は検体の切断面が平滑に切削された状態(2)を説明する模式図である。
【図5】切削歯4aを説明する斜視図である。
【図6】切削歯4aと4bを共通の取り付け基台に設置した例を説明する概略斜視図である。
【図7】回転丸鋸とフライス盤を一体に構成したものの1例を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0021】
1:検体保持クランプ
2:回転丸鋸
3:フライス盤
4:回転切削ヘッド
4a:テーパー形成切削歯
4b:微細片形成切削歯
A:検体
B:切削ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼または非鉄金属の検体からX線蛍光分析や発光分光分析などに供する新鮮な平面を有する板状試料と、ガス分析に使用する鉄鋼または非鉄金属の新鮮な微細片とを形成するための分析用試料調製方法において、断面が略円形の棒状または円板状の上記分析用検体の切断面から微細片をフライス盤で切削する際、フライス盤として、その回転ヘッドに上記切断面の周縁部をテーパー状に切削するテーパー形成切削歯(a)と、該(a)によりテーパー状の周縁が形成された切断面を切削してガス分析用の微細片を形成する微細片形成切削歯(b)とが設置されているフライス盤を使用することを特徴とする分析用試料調製方法。
【請求項2】
テーパー形成切削歯(a)は、前記回転ヘッドの内側の同心円上に、微細片形成切削歯(b)は、上記回転ヘッドの外側の同心円上に、それぞれ着脱自在に取り付けられている請求項1に記載の分析用試料調製方法。
【請求項3】
テーパー形成切削歯(a)と微細片形成切削歯(b)は、一体に形成されているか、または前記回転ヘッドに取り付ける同一の切削歯取り付け基台にそれぞれ着脱自在に取り付けられている請求項1に記載の分析用試料調製方法。
【請求項4】
前記フライス盤の回転ヘッドに、回転丸鋸とその下方に請求項2または3に記載の切削歯(a)と(b)が取り付けられている請求項1に記載の分析用試料調製方法。
【請求項5】
前記フライス盤は、その回転ヘッドを同一軸上で回転させながら前記切削歯(a)で検体の切断面にテーパー状の周縁部を形成し、次いでテーパー状の周縁部が形成された検体またはフライス盤を水平方向に移動させながら前記切削歯(b)で検体切断面を切削するように上記切削歯(a)と(b)がフライス盤回転ヘッドに取り付けられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析用試料調製方法。
【請求項6】
鉄鋼または非鉄金属の検体からX線蛍光分析や発光分光分析などに供する新鮮な平面を有する板状試料と、ガス分析に使用する鉄鋼または非鉄金属の新鮮な微細片とを形成するための分析用試料調製装置において、少なくとも、検体を保持するためのクランプと、請求項1または4に記載のフライス盤とが設置されていることを特徴とする分析用試料調製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−300680(P2006−300680A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121748(P2005−121748)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(594053497)ハルツォク・ジャパン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】