説明

分析装置

【課題】水素ガスをチャンバから効率良く排気して、分析装置チャンバ内での放電他の悪影響を防止することができるよう改良された分析装置を提供する。
【解決手段】分析装置10の真空排気系は、粗引ポンプ50、及び低真空側段32と高真空側段31とを含むターボ分子ポンプ30を有する。粗引ポンプ50に結合された本体20は、実質的に粗引ポンプ50によって減圧される第1チャンバ24と、その直後でターボ分子ポンプ30の低真空側段32に結合され、水素ガスが導入される第2チャンバ25と、さらに後段でその高真空側段31に結合される第3チャンバ26とを含む。低真空側段32の中間位置に、水素ガス等の軽いガスを実質的に含まず、分子量が大きい追加ガスが導入され、排気の平衡時における低真空側段32の排気側端37の位置での水素分圧が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置に関し、特に、単一の粗引ポンプとターボ分子ポンプとによって複数のチャンバを真空度が異なるように減圧させる構成を備えた分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従前、種々の分析装置が商用化されている。一例として、微量な金属イオンを検出するための高感度の装置として、誘導結合プラズマ質量分析装置が業界内で知られている。当該装置は、被分析試料を含むプラズマを生成した後、インタフェースを介して当該プラズマからイオンビームを形成し、該イオンビーム中の所定のイオンを質量電荷比により分離できるよう構成されている。
【0003】
この分析装置に関する改良技術の一つとして、分析装置のチャンバ内に分子量の比較的小さな反応ガスを導入することが知られている(非特許文献1)。これは、非分析試料とともに装置に導入されるキャリアガスの元素を含む多原子分子イオンの信号が、所定の元素の測定信号と干渉してしまうという問題を解決するためのものであり、反応ガスを中間位置で導入することによって、そのようなイオンを中和して、信号の干渉を防止しようとするものである。
【0004】
具体的に、そのような反応ガスは、ヘリウムガス等を含む又はそれらを含まない水素ガスとすることができる。一例として、そのようなガスは、サンプリングコーン及びスキマーコーンから成るインタフェースの後段に位置して多重極電極を含むセル内に導入され得る。この場合、サンプリングコーン及びスキマーコーンを含むチャンバは、主に粗引ポンプによって粗引きされる。一方、セルが位置するチャンバ及びそれよりも後段のチャンバは、ターボ分子ポンプをさらに使用して減圧される。
【0005】
セルが位置するチャンバよりも後段のチャンバ内に置かれる質量分析手段は、イオンを分離するためのものであり、当該チャンバは高真空であることが要求される。かかる分析装置のための真空排気系は、例えば、2段(或いはそれ以上の多段)の構成を有する複合型のターボ分子ポンプを用いた設計、或いは2つの別個のターボ分子ポンプによってチャンバを実質的に別個に減圧させる設計による。前者の場合、高真空が要求される質量分析手段を含むチャンバは、全段を用いて減圧するようにし、一方、セルを含む前側のチャンバは、より排気側又は低真空側に位置する一部の段のみを用いて減圧するようにすることができる。
【0006】
ところで、ターボ分子ポンプでは、分子量の軽いガスの場合に排気性能が低下することが知られている。水素ガスの場合、特にこの現象は顕著である。これは、ターボ分子ポンプの排気原理に起因するものであり、質量が軽く運動速度の大きな分子を所定の方向に誘導することが困難であるためである。
【0007】
通常、ガス排気に関するそのターボ分子ポンプの性能を示すために、そのガスの圧縮比が表示される。ガスの圧縮比は、そのターボ分子ポンプの動作時の入側、及び出側のガスの圧力の比を示すものであり、高い圧縮比であるほど排気性能が高いといえる。特に、水素ガスについての圧縮比も、水素の排気性能を示す上で重要な指標であるが、上記の理由から、他のガスに比して高い値にはならない。
【0008】
かかる観点から、従来、ターボ分子ポンプで水素ガスを排気するために種々の工夫がされて来た。一例では、ターボ分子ポンプに近い部分の流路を冷却し、気体分子の運動速度を低下させるようにし(特許文献1)、他の例では、真空系内部に水素吸蔵合金を配置する(特許文献2、特許文献3)。また、他の例として、補助ポンプの吸気側に、分子量の大きいガスを導入することにより、ターボ分子ポンプの吸気口における水素ガスの分圧を低下させる方法もある(特許文献4)。
【特許文献1】特開平5−280465号
【特許文献2】特開平5−280466号
【特許文献3】特開平7−310657号
【特許文献4】特開平7−27089号
【非特許文献1】“Beneficial Ion/Molecule Reactions in Elemental Mass Spectrometry”, Gregory C. Eiden, Charles J. Barinaga and David W. Koppenaal, Rapid Communications in Mass Spectrometry, Vol.11, 37-42(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、誘導結合プラズマ質量分析装置で、上述のようにキャリアガスイオンに起因する信号の干渉を防止するために水素ガスを導入した場合、その導入量が多い場合には、水素ガスをターボ分子ポンプによって十分に排気できないことが考えられる。そのような場合、反応を生じることなく装置内に残った水素ガスは、質量分析部内の多重型電極によって放電を生じ、かかる放電は、質量分析の結果にバックグラウンドノイズを生じる等の悪影響を及ぼすことも考えられる。
【0010】
特に、誘導結合プラズマ質量分析装置で、高マトリクス試料の分析の際に、インタフェース部分におけるスキマーコーンのオリフィスの閉塞がある程度進んだときに、そのような現象を生じやすい。すなわち、ターボ分子ポンプの排気側端の圧力は、粗引ポンプの性能によって決まる固定した値になるため、オリフィスの閉塞によりアルゴンガス等のプラズマ構成ガスが供給されない場合には、ターボ分子ポンプの排気側端でも水素ガスの分圧が高くなる。そうすると、水素ガスの排気に対して余裕のある排気条件でターボ分子ポンプを使用している場合は格別、そうでない場合は水素ガスの排気性能が急激に悪化する現象を生じ、質量分析部による分析結果に過度のバックグラウンドノイズを生じるために分析を継続できなくなるという不都合を生じる。
【0011】
したがって、そのような分析装置で、水素ガスを効率良く排気するための手段が必要とされる。しかしながら、上述した特許文献1乃至3に記載の方法では、かかる放電を確実に防止し得る程度に、十分効率良く水素ガスの排気を行うことができない。また、特許文献4に記載の方法では、ターボポンプの最下段の位置での水素ガスの分圧を十分に下げることはできず、したがって、吸気口側の水素分圧も十分に低くすることができない。
【0012】
そこで、本発明は、水素ガスをチャンバから効率良く排気できるようにして、分析装置チャンバ内での放電他の悪影響を防止することができるよう改良された分析装置を提供することをその目的とする。特に、本発明は、上述のように、プラズマ構成ガスの供給が十分に行われなくなった場合であっても、水素ガスの排気性能が急激に低下することがないようにした真空排気系を備えた分析装置を提供することをその目的とする。加えて、本発明は、そのような改良に際して、真空排気系の動作を効率的に行わせ、分析結果に悪影響が無いようにすることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、粗引ポンプによって実質的な排気が行われる低真空チャンバと、低真空チャンバに連結され、粗引ポンプの上流側に位置するターボ分子ポンプを併用して減圧される高真空チャンバとを有し、高真空チャンバの一部に水素ガスを導入する分析装置において、ターボ分子ポンプの内部で、排気側端により近い中間位置に、水素ガスを実質的に含まず、水素ガスよりも分子量の大きな追加ガスを直接導入し、ターボ分子ポンプの排気側端での水素ガスの分圧を低減させることにより、高真空チャンバ内の水素ガスの分圧を低減させるとともに、低真空チャンバ内から高真空のチャンバへの水素ガス以外のガスの流入が減らされたときの高真空チャンバ内における水素ガスの分圧の上昇を抑止するようにしたことを特徴とする分析装置を提供するものである。粗引ポンプは、例えば、油回転ポンプとされ得る。
【0014】
この場合、追加ガスは、大気成分を有するガスであっても良く、或いは、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガスとしても良い。他の場合には、これらのガスを少なくとも2種類混合したガスを用いることもできる。追加ガスは、ターボ分子ポンプの排気側端の位置での排気量に対して、流量比で、20%から90%、好ましくは、40%から80%のガス流量を含むようにされ得る。
【0015】
追加ガスが導入される中間位置は、低真空側段内で排気側端に近い位置とされ得る。追加ガスの導入口として、専用のポートを設けても良いし、既存のベントポートを用いても良い。他の場合には、作用効果の程度は若干減ることになるが、上述のガスと同じガスを、低真空側段の中間位置でなく、排気側端に導入するようにしても良い。この場合には、ポートは専用ポートの他、既存のパージポートを用いることもできる。
【0016】
他の場合には、追加ガスを外部のガス源から導入するのでなく、第1チャンバから延びる粗引き減圧用の配管をターボ分子ポンプの中間位置に連結し、第1チャンバから導かれるガスを追加ガスとして使用することもできる。
【0017】
また、高真空チャンバは、低真空チャンバの直後で水素ガスが導入されるガス導入チャンバと、ガス導入チャンバのさらに後段で分析手段を備えるようにした分析チャンバとを含み得る。
【0018】
この場合、一例として、ターボ分子ポンプは、単一にして、粗引ポンプに結合された側の低真空側段と、低真空側段に重なる高真空側段とを含む複合型の構成を有し、ガス導入チャンバは、ターボ分子ポンプの高真空側段の下流で低真空側段の入口部分に結合され、分析チャンバは、ターボ分子ポンプの高真空側段に結合され得る。
【0019】
他の例として、ターボ分子ポンプは、ガス導入チャンバ及び分析チャンバのそれぞれに結合され、共通の粗引きポンプに結合される第1及び第2のターボ分子ポンプを含み、第1及び第2のターボ分子ポンプの両方に追加ガスが導入されるようにしても良い。
【0020】
さらに、他の例では、ターボ分子ポンプは、ガス導入チャンバ及び分析チャンバのそれぞれに結合される第1及び第2のターボ分子ポンプを含み、第2のターボ分子ポンプの排気側が、第1のターボ分子ポンプの中間位置に結合され、追加ガスが導入されるための中間位置は、第2のターボ分子ポンプの排気側端により近い中間位置よりも、さらに下流の位置とされ得る。
【0021】
また、本発明の分析装置では、水素ガスを分析装置のチャンバ内へ導入しない状態でも、導入口からターボ分子ポンプ内に継続して追加ガスを導入することができる。すなわち、分析の間に継続的に導入された追加ガスによって、真空排気系の平衡状態が実現される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の分析装置によれば、従来技術に比して、さらに大幅に吸気側の水素ガスの分圧を減らすことが可能になり、これにより、チャンバ内で放電等の不都合が生じる虞を減じることができる。また、低真空チャンバから高真空チャンバ内への水素ガス以外のガスの流入量が不本意に減らされた場合にも、水素ガスの分圧の上昇を抑えることができ、水素ガスの分圧が急激に上昇して分析動作が続行不能になるのを防止できる。
【0023】
また、特に、本発明の分析装置によれば、チャンバ内に水素ガスを導入していない状態でもターボ分子ポンプ内に追加ガスを導入することができ、かかる平衡状態の下で、水素ガス導入のオン・オフによる影響を最小にし、ガス導入条件の異なる複数の分析を安定して連続的に行うことができる。また、追加ガスを介して、ターボ分子ポンプに発生する熱を効果的に逃がすことができ、ターボ分子ポンプの使用寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適実施形態となる分析装置について、詳細に説明する。本実施形態では、例示のために、分析装置として誘導結合プラズマ質量分析装置の例を示すが、本発明は、類似の基本構成を有する他の分析装置にも適用可能である。
【0025】
図1は、本発明による第1の実施形態となる誘導結合プラズマ質量分析装置を示すものであり、特に、質量分析の作用をする部分を主として示す概略構成図である。図1の誘導結合プラズマ質量分析装置10は、質量分析手段を含む本体20、およびその高真空側段で誘導結合プラズマPを発生させるためのプラズマトーチ11を含む。図示しないが、プラズマトーチ11の近傍には、高周波電源に接続されたコイルが配置され、当該コイルの動作によって、プラズマトーチ11内にプラズマPが発生する。
【0026】
本体20は、その前端に、サンプリングコーン12及びスキマーコーン13を含むインタフェース構造を有する。プラズマトーチ11で発生したプラズマPの一部は、当該インタフェース構造を介して、イオンビームの形で抽出される。
【0027】
本体20内には、相互に連通し得る3つのチャンバが用意される。第1チャンバ24は、上述のインタフェース構造を含むチャンバで、サンプリングコーン12とスキマーコーン13に挟まれた空間を含む。チャンバ24内には、サンプリングコーン12のオリフィス12aを通過してプラズマPの一部が入り込むようにされる。当該プラズマの一部は、スキマーコーン13のオリフィス13aを通過してイオンビームの形でさらに後段へと導かれる。図示しないが、スキマーコーン13の背後には、イオンビームを案内するためのイオン光学部品が配置され得る。
【0028】
プラズマPが点火された状態では、サンプリングコーン12の外側は、略大気圧程度の圧力を有するので、チャンバ24内は、比較的高い圧力となる。チャンバ24は、ポート21及び排気管53を介して粗引ポンプ50により減圧されるよう構成される。排気管53の途中に位置するバルブ51は、装置の起動時、及び停止時に操作されるものであり、分析動作中には、開状態に維持される。この状態で、チャンバ24は、およそ300乃至1000Pa程度の圧力となる。粗引ポンプ50としては、例えば、油回転ポンプが使用され得る。
【0029】
第1チャンバ24の後段には、ゲート弁14によって第1チャンバ24と隔てられるようにした第2チャンバ25が設けられる。第2チャンバ25内には、セル15が置かれる。セル15は、スキマーコーン13のオリフィス13aを通過して取り出されたイオンビームから、キャリアガス、或いはプラズマトーチに提供されるプラズマガス及び補助ガスの元素を含み質量スペクトルに干渉を生じるような不本意な多原子分子イオンを除去するために、その中で試薬ガス(又は反応ガス)の分子と電荷移動反応等の反応を生ぜしめるためのものである。図中には、試薬ガスの導入口18が図示される。なお、図示しないが、セル15内には、多重極電極等を含むことができる。
【0030】
第2チャンバ25のさらに後段には、隔壁19によって第2チャンバと隔てられる第3チャンバ26が設けられる。第3チャンバ26内には、所定の質量電荷比を有するイオンを抽出するための分離手段が設けられる。本実施形態では、当該手段は、四重極等の多重極電極16とされる。また、チャンバ26内で、多重極電極16の後側には、抽出されたイオンを検知するための検出器17が配置される。図示されるように、検出器17は、本体20の外部に設けられる信号処理手段に向けて検出信号を出力する。
【0031】
図示されるように、第2チャンバ25及び第3チャンバ26は、共にターボ分子ポンプ30によって減圧される。第2チャンバ25は排気口22で、第3チャンバ26は排気口23で、それぞれターボ分子ポンプ30と結合される。図示されるようにターボ分子ポンプ30は、軸方向(又は長さ方向)に連続する高真空側段31及び低真空側段32を有し、さらに高真空側段及び低真空側段31、32を通して置かれる多数の回転翼36を含む。図示される例では、回転翼36は、水平方向の面内を回転可能とされる。他の例では、ターボ分子ポンプは、その軸方向を水平方向に向ける構成のものもあり、そのようなポンプ装置では、回転翼は、鉛直面内で回転する。
【0032】
本体20の第2チャンバ25は、高真空側段31、低真空側段32と一体に形成された通路チャンバ33を介して、高真空側段31及び低真空側段32の中間位置に連結される。すなわち、第3チャンバ26は、高真空側段31内に位置する回転翼群36a及び低真空側段32内に位置する回転翼群36bの両者の作用によって減圧されるのに対し、第2チャンバ25は、低真空側段32内に位置する回転翼群36bによってのみ減圧される。
【0033】
かかる真空排気系の動作によって、ガスの導入がないときには、第2チャンバは、3.0×10−2乃至1.0×10−1Pa程度の圧力を有し、第3チャンバ26は、1.5×10−4乃至5.0×10−4程度の圧力を有する。また、ガスの導入時には、第2チャンバは、0.7×10−1乃至1.3×10−1Pa程度の圧力を有し、第3チャンバ26は、3.0×10−3Pa乃至2.0×10−2Pa程度の圧力を有する。
【0034】
図示されるように、ターボ分子ポンプ30の排気側ポート34は、排気管54を介して粗引ポンプ50に向けて延び、排気管53に結合される。排気管54の途中に設けられるバルブ52は、装置の起動時、及び停止時に操作されるものであり、分析動作中には、開状態に維持される。
【0035】
本実施形態における特徴的な点は、ターボ分子ポンプ30に対して、所定流量の追加ガスが直接提供されるよう構成される点である。図示されるように、ターボ分子ポンプ30には、その低真空側段32に重なる位置に追加ガス導入口35を有する。追加ガスの導入口35は、抵抗42を介してバルブ41に結合される。バルブ41は、ガス源40に結合されている。ターボ分子ポンプ30内は減圧された状態にあるので、バルブ41を開状態にするとき、一定流量のガスが追加ガス導入口35からターボ分子ポンプ30の低真空側段32内へと導入される。他の場合、バルブ41をニードルバルブとし、微量流量の制御を行うようにすることもできる。
【0036】
追加ガスとしては、水素ガス他の分子量の小さい分子を含まない大気成分のガス、アルゴンガス、窒素ガス、又はヘリウムガス等が使用され得る。これらを2種類以上混合ガスも使用することができる。追加ガスの導入は、プラズマの点火後、分析が行われる間は継続して行われる。
【0037】
従来技術に関連して説明したように、分析の際には、必要に応じてセル15内に反応ガスが導入される。反応ガスとしては、例えば、水素を含むガスが用いられる。水素ガスのような分子量の小さいガスの分子は、第2チャンバ25内でセル15の外側へと拡散し、さらに、第3チャンバ26へも拡散し得る。第2チャンバ25及び第3チャンバ26は、ターボ分子ポンプ30を介して減圧されるが、上述のように、ターボ分子ポンプ30は、分子量の小さなガスの排気の際には、その性能が制限される。
【0038】
この場合、第2及び第3チャンバ25、26内に拡散した分子量の小さい水素等のガスを放置すると、特に第3チャンバ26内で多重極電極16周辺での放電により、分析の感度に悪影響を及ぼすおそれもある。逆にそのような現象を生じないように、単純に排気速度を高めようとすると、ターボ分子ポンプ30に大きな負担が生じることになる。
【0039】
そこで、本実施形態のように水素ガスを含まない追加ガスを導入するとき、ターボ分子ポンプ30の排気側端37に存在し得るガスの圧力、すなわち気体分子の総数は、その平衡状態により決定されて所定の値となることから、排気側端37に位置する水素ガスの残留割合は相対的に減らされることになる。そうすると、ターボ分子ポンプ30についての水素圧縮比が決まっていることから、吸気側の第2チャンバ25及び第3チャンバ26内に存在する水素ガス分子の存在割合も減らされることとなる。
【0040】
図2は、第1の好適実施形態の装置による実験例で、測定された圧力を示す表で、(a)は、第2チャンバの圧力を示す表であり、(b)は、第3チャンバの圧力を示す表である。追加ガスとしては、大気を使用している。これらの表から理解されるように、いずれのチャンバの圧力についても、水素ガスを導入してないときに追加ガスを導入しても、圧力に変動はないが、水素ガスを導入しているときに追加ガスを導入することによって、チャンバ内圧力は、20%以上或いは30%以上低減される。
【0041】
なお、本実施形態では、ターボ分子ポンプ30の動作の開始後、分析時間を通じて、追加ガスの供給が継続的に行われるので、特に、水素ガスが導入されない状態でも、ターボ分子ポンプ30の回転翼36に発生した熱を逃がすことができる。さらに、追加ガスが、分析時間中に常に供給されることで、真空系に安定した平衡状態を実現し、精度の高い分析を可能にしている。
【0042】
図3は、本発明による第2の実施形態となる誘導結合プラズマ質量分析装置を示す、図1類似の概略構成図である。図1に示す要素と同様の作用をする要素は、参照番号に100を追加して示すこととし、以下では説明を省略している。
【0043】
本実施形態における誘導結合プラズマ質量分析装置110の本体120は、図1の装置と同様の構成を有する。第1の実施形態による装置10との相違は、本体120下側に位置する真空排気系の構成にある。すなわち、図1に示す装置10では、本体20の第1チャンバ24から延びる排気管53は、粗引き用ポンプ50に直接接続されるのに対し、図3に示す装置110では、当該排気管153は、ターボ分子ポンプ110の下流側に位置する低真空側段132に連通するポート135に結合される。
【0044】
すなわち、本実施形態では、図1の実施形態で導入する追加ガスの代わりに、第1チャンバ124から排気されたガスが利用される。第1チャンバ124から提供されるガスの主成分は、プラズマPの主成分であるアルゴンである。アルゴンガスは、単原子分子であるが、水素に比べて大きな質量数を有する。また、第1チャンバ124は、第2チャンバ125よりも高い圧力を有するので、水素ガスが第2チャンバから第1チャンバに拡散することもない。水素ガスは実質的に含まれない。
【0045】
したがって、かかるガスを追加ガスとして用いることによって、第1の実施形態と同様に、ターボ分子ポンプ130の排気側で水素ガスの分圧を小さくすることができ、よって吸気側の第2及び第3チャンバ125、126における水素ガスの分圧も減らすことができる。
【0046】
図4は、本発明の他の好適実施形態となる分析装置を示す図であり、高真空側の2つのチャンバを減圧するために別個のターボ分子ポンプを設けた装置の例が(a)、(b)の2つの異なる態様で示される。これらの図中では、図1及び図3で示すバルブ等は、存在するものの、記載は省略している。
【0047】
(a)に示す装置210では、水素ガスが導入される第2チャンバ225、及び質量分析手段を含む第3チャンバ226は、それぞれ別個のターボ分子ポンプ230A、230B で減圧される。ターボ分子ポンプ230A、230Bは、並列にして、比較的低真空の第1チャンバ224を減圧する粗引きチャンバへと結合される。
【0048】
この例では、追加ガス、すなわち、上述したところの水素ガスを含まず、水素ガスよりも分子量の大きなガスが、両ターボ分子ポンプ230A、230Bの排気側端により近い中間位置A1、A2に導入される。
【0049】
(b)に示す装置310でも、水素ガスが導入される第2チャンバ325、及び質量分析手段を含む第3チャンバ326は、それぞれ別個のターボ分子ポンプ330A、330B で減圧される。装置210との相違点は、ターボ分子ポンプ330Bの排気口がターボ分子ポンプ330Aの中間位置に結合されることにより部分的な直列の結合関係を生じ、粗引きポンプ350には、ターボ分子ポンプ330Aのみが直接結合されていることである。
【0050】
この例では、追加ガスは、上流側のターボ分子ポンプ330Bの排気側端により近い中間位置よりも下流側、すなわち、B1よりも下流側で導入されることができる。図中には、図1の他に、B2及びB3として、導入位置を例示的に示している。B2は、ターボ分子ポンプ330B及びターボ分子ポンプ330Aを結合する排気管335の途中位置を示しており、B3は、ターボ分子ポンプ330A内で排気管335が結合されたよりも下流側の中間位置を示している。追加ガスは、これらの位置の1又は2以上の位置から導入することが可能である。
【0051】
以上のように、本発明の好適実施形態となる分析装置について詳細に説明したが、当業者によって、さらに、種々の変形・変更が可能である。例えば、上述したように、本発明は、特に水素ガスが導入されるガスクロマトグラフ装置等の他の分析装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による第1の好適実施形態となる誘導結合プラズマ質量分析装置を示すものであり、特に、質量分析の作用をする部分を主として示す概略構成図である。
【図2】第1の好適実施形態の装置による実験例で、測定された圧力を示す表で、(a)は、第2チャンバの圧力を示す表であり、(b)は、第3チャンバの圧力を示す表である。
【図3】本発明による第2の好適実施形態となる誘導結合プラズマ質量分析装置を示す、図1類似の概略構成図である。
【図4】本発明の他の好適実施形態として、高真空側の2つのチャンバを減圧するために別個のターボ分子ポンプを設けた例を示す図であり、(a)、(b)の2つの異なる態様を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
10;110;210;310 分析装置
15;115 セル
24;124;224;324 第1チャンバ(低真空チャンバ)
25;125;225;325 第2チャンバ(高真空チャンバ)
26;126;226;326 第3チャンバ(高真空チャンバ)
30;130;230A、230B;330A、330B ターボ分子ポンプ
31;131 ターボ分子ポンプの高真空側段
32;132 ターボ分子ポンプの低真空側段
40 ガス源
50;150;250;350 粗引ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗引ポンプによって実質的な排気が行われる低真空チャンバと、該低真空チャンバに連結され、前記粗引ポンプの上流側に位置するターボ分子ポンプを併用して減圧される高真空チャンバとを有し、該高真空チャンバの一部に水素ガスを導入する分析装置において、
前記ターボ分子ポンプの内部で、排気側端により近い中間位置に、水素ガスを実質的に含まず、水素ガスよりも分子量の大きな追加ガスを直接導入し、前記ターボ分子ポンプの前記排気側端での水素ガスの分圧を低減させることにより、前記高真空チャンバ内の水素ガス分圧を低減させるとともに、前記低真空チャンバ内から前記高真空のチャンバへの水素ガス以外のガスの流入量が減ったときの前記高真空チャンバ内における水素ガスの分圧の上昇を抑止するようにしたことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記追加ガスは、大気成分を有するガス、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスのいずれか、又はこれらの少なくとも2種を混合したガスとされることを特徴とする、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記追加ガスは、前記ターボ分子ポンプの前記排気側端の位置での全排気量に対して、前記追加ガスが20%から90%の流量比となる量だけ追加されることを特徴とする、請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
前記追加ガスは、前記ターボ分子ポンプの前記排気側端の位置での全排気量に対して、前記追加ガスが40%から80%の流量比となる量だけ追加されることを特徴とする、請求項3に記載の分析装置。
【請求項5】
前記追加ガスの導入は、前記粗引きポンプ及び前記ターボ分子ポンプの操作に合わせてオン・オフされ、分析時には常時継続して提供されることを特徴とする、請求項1に記載の分析装置。
【請求項6】
前記低真空チャンバから延びる前記粗引き減圧用の配管を前記ターボ分子ポンプの前記低真空側段に連結し、前記低真空チャンバから導かれるガスを前記追加ガスとすることを特徴とする、請求項1に記載の分析装置。
【請求項7】
前記高真空チャンバは、前記低真空チャンバの直後に位置し水素ガスが導入されるガス導入チャンバと、該ガス導入チャンバのさらに後段で分析手段を備えるようにした分析チャンバとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の分析装置。
【請求項8】
前記ターボ分子ポンプは、単一にして、前記粗引ポンプに結合された側の低真空側段と、該低真空側段に重なる高真空側段とを含む複合型の構成を有し、前記ガス導入チャンバは、前記ターボ分子ポンプの前記高真空側段の下流で前記低真空側段の入口部分に結合され、前記分析チャンバは、前記ターボ分子ポンプの前記高真空側段に結合されることを特徴とする、請求項7に記載の分析装置。
【請求項9】
前記ターボ分子ポンプは、前記ガス導入チャンバ及び前記分析チャンバのそれぞれに結合され、且つ共通の前記粗引きポンプに結合される第1及び第2のターボ分子ポンプを含み、該第1及び第2のターボ分子ポンプの両方に前記追加ガスが導入されることを特徴とする、請求項7に記載の分析装置。
【請求項10】
前記ターボ分子ポンプは、前記ガス導入チャンバ及び前記分析チャンバのそれぞれに結合される第1及び第2のターボ分子ポンプを含み、該第2のターボ分子ポンプの排気側が、前記第1のターボ分子ポンプの中間位置に結合され、前記追加ガスが導入されるための前記中間位置は、前記第2のターボ分子ポンプの排気側端により近い中間位置よりも、さらに下流の位置とされることを特徴とする、請求項7に記載の分析装置。
【請求項11】
前記粗引ポンプは、油回転ポンプとされることを特徴とする、請求項1に記載の分析装置。
【請求項12】
前記追加ガスの導入位置を前記中間位置に代えて前記排気側端の位置とすることを特徴とする、請求項1に記載の分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−95504(P2008−95504A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274439(P2006−274439)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】