説明

分注装置および自動分析装置

【課題】製造コストを維持しつつも、装置ごとの特性によらずに分注異常を高い精度で検知することができる分注装置および当該分注装置を備えた自動分析装置を提供する。
【解決手段】液体を吸引または吐出するプローブ2と、プローブ2が前記液体を吸引または吐出するために必要な圧力を発生するシリンジ4と、シリンジ4によって発生し、プローブ2に加えられる圧力を測定する圧力測定部6と、圧力測定部6で測定した結果を用いることにより、当該装置固有の特性に基づいた物理量の補正を行う際に適用される補正係数を設定する設定部14と、設定部14で設定した補正係数を含む情報を記憶する記憶部15と、記憶部15で記憶する補正係数を用いて前記物理量の補正を行う補正部16と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を分注する分注装置、および当該分注装置を備えて検体の分析を行う自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
検体の成分を分析する自動分析装置では、検体や試薬を反応容器へ分注するために分注装置が用いられる。分注装置は、細管状のプローブと、このプローブによって検体や試薬を吸引または吐出するのに必要な圧力を発生するシリンジとを管路によって接続し、その管路を介してシリンジで発生した圧力をプローブへ伝達する構成を有する。
【0003】
従来、前述した構成を有する分注装置において、圧力センサを用いてプローブに加えられる圧力を検出し、この検出した結果に基づいてプローブ先端の詰まりなどの分注異常を検知する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この従来技術では、プローブの詰まりの有無を判定するためにプローブに加わる圧力の閾値を予め設定しておき、その閾値と圧力センサで測定した実測値と比較することによってプローブの詰まりを検出している。
【0004】
【特許文献1】実公平2−45818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術では、分注異常としてのプローブの詰まりを検出するための閾値が、プローブの先端径、シリンジの径、圧力センサの感度、配管経路内の摩擦などの装置ごとの特性差に応じて変化するため、使用する装置によらずに同じ判定結果を得るには、閾値として装置ごとの特性差を考慮し、ある程度の幅を持たせた値を設定をせざるを得ず、分注異常の検知精度を向上させることが難しかった。
【0006】
このような従来技術の課題を解決するため、プローブの先端径やシリンジの径のバラツキを少なくしたり、感度のバラツキが少ない圧力センサを適用するなどの方法も考えられる。しかしながら、この場合には、プローブ、シリンジ、圧力センサなどが高価となり、製造コストの上昇を招く結果となっていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、製造コストを維持しつつも、装置ごとの特性によらずに分注異常を高い精度で検知することができる分注装置および当該分注装置を備えた自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1記載の発明に係る分注装置は、液体を吸引または吐出するプローブと、前記プローブが前記液体を吸引または吐出するために必要な圧力を発生する圧力発生手段と、前記圧力発生手段によって発生し、前記プローブに加えられる圧力を測定する圧力測定手段と、前記圧力測定手段で測定した結果を用いることにより、当該装置固有の特性に基づいた物理量の補正を行う際に適用される補正係数を設定する設定手段と、前記設定手段で設定した補正係数を含む情報を記憶する記憶手段と、前記記憶手段で記憶する補正係数を用いて前記物理量の補正を行う補正手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明における「液体」には、微量の固体成分を含有する液体も含まれる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記記憶手段は、前記補正係数の設定を行うときに前記設定手段が参照すべき参照量を記憶し、前記設定手段は、前記圧力測定手段で測定した結果と、前記記憶手段で記憶する前記参照量とを用いることによって補正係数を設定することを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記圧力測定手段は、前記プローブに加えられる圧力の変化を検出して電気信号に変換する圧力センサと、前記圧力センサの出力に対し、増幅およびA/D変換を含む信号処理を施す信号処理回路と、を有することを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記物理量は、前記圧力センサの出力であることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記物理量は、前記信号処理回路における信号の増幅率であることを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記物理量は、前記信号処理回路でA/D変換後に出力されるディジタル値であることを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項記載の発明において、前記補正手段で補正した量を用いて当該装置における分注異常を検知する異常検知手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記異常検知手段は、前記プローブに加わる吐出圧の最大値を所定の閾値とを比較することによって前記プローブの詰まりの有無を判定し、前記プローブによる分注量を所定の正常範囲と比較することによって前記分注量の多寡を判定することを特徴とする。
【0017】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記物理量は、前記閾値および前記正常範囲であることを特徴とする。
【0018】
請求項10記載の発明は、検体と試薬とを反応させることによって前記検体の分析を行う自動分析装置であって、請求項1〜9のいずれか一項に記載の分注装置を、前記検体を分注する検体分注手段として備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、液体を吸引または吐出するプローブと、前記プローブが前記液体を吸引または吐出するために必要な圧力を発生する圧力発生手段と、前記圧力発生手段によって発生し、前記プローブに加えられる圧力を測定する圧力測定手段と、前記圧力測定手段で測定した結果を用いることにより、当該装置固有の特性に基づいた物理量の補正を行う際に適用される補正係数を設定する設定手段と、前記設定手段で設定した補正係数を含む情報を記憶する記憶手段と、前記記憶手段で記憶する補正係数を用いて前記物理量の補正を行う補正手段と、を備えたことにより、製造コストを維持しつつも、装置ごとの特性によらずに分注異常を高い精度で検知することができる分注装置および当該分注装置を備えた自動分析装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以後、「実施の形態」と称する)を説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る分注装置の構成を模式的に示す図である。同図に示す分注装置1は、分注対象の液体Lqを直接吸引または吐出する細管状のプローブ2と、プローブ2に鉛直方向の昇降動作や水平方向の回転動作を行わせることによってプローブ2を移送するプローブ移送部3と、プローブ2に圧力を伝達する圧力伝達用媒体である洗浄液Waの吸排動作を行うシリンジ4と、プローブ2とシリンジ4とを接続し、洗浄液Waの流路をなすチューブ5と、プローブ2に加わる圧力を検出する圧力測定部6と、を備える。ここで、洗浄液Waは、イオン交換水や蒸留水等の非圧縮性流体から成る。
【0021】
シリンジ4は、シリンダ4aとピストン4bとを有し、ピストン駆動部7によってピストン4bがシリンダ4aの内部を図1で鉛直上下方向に摺動することにより、洗浄液Waを介してプローブ2に伝達すべき圧力を発生する。この意味で、シリンジ4は、圧力発生手段の少なくとも一部の機能を実現する。シリンジ4は、チューブ5とは異なるチューブ8にも接続されている。このチューブ8の他端は、洗浄液Waの流量を調整する電磁弁9に接続されている。電磁弁9には、別のチューブ10も接続されており、このチューブ10の他端は洗浄液Waの吸排動作を行うポンプ11に接続されている。ポンプ11は、さらに別のチューブ12に接続されている。このチューブ12の他端は、洗浄液Waを収容する洗浄液タンク13に達している。
【0022】
圧力測定部6は、チューブ5に接続されてチューブ5の内部に充填された洗浄液Waの圧力変化を検出して電気信号に変換する圧力センサ61と、圧力センサ61から出力された電気信号に対して増幅やA/D変換などの信号処理を施す信号処理回路62とを有する。圧力測定部6は、プローブ2の近傍に設置すればより好ましいが、圧力センサ61の感度などの条件によってはプローブ2とシリンジ4の中間部に設置してもよいし、シリンジ4の近傍に設置してもよい。
【0023】
引き続き、分注装置1の構成を説明する。分注装置1は、装置固有の特性に応じて所定の物理量の補正を行う際に適用される補正係数αの設定を行う設定部14と、設定部14で設定した補正係数αを含む各種情報を記憶する記憶部15と、記憶部15で記憶する補正係数αを読み出して物理量の補正演算を行う補正部16と、補正部16での補正結果を用いて分注異常を検知する異常検知部17と、各種情報の入力および出力をそれぞれ行う入力部18および出力部19と、分注装置1の動作を制御する制御部20と、を備える。
【0024】
記憶部15は、補正係数αの他、その補正係数αを設定する際に設定部14が参照すべき参照量を記憶する。本実施の形態における参照量としては、既知の感度S0を有する標準圧力センサ61sを具備するとともに、所定の条件を満たすプローブ2、シリンジ4、配管系を具備する標準分注装置1sが所定の基準液体Lq0の分注を行ったときに、標準圧力センサ61sから出力された出力電圧の時間変化が挙げられる。
【0025】
図2は、標準分注装置1sのプローブ2が基準液体Lq0を正常に分注したときの標準圧力センサ61sの出力電圧の時間変化を模式的に示す図である。同図において、横軸(t)は時間であり、縦軸(V)は標準圧力センサ61sの出力電圧である。一般に、プローブ2の吐出圧と圧力センサ61の出力電圧とは、誤差を除けば線形な関係にある。このため、プローブ2の吐出圧は、標準圧力センサ61sの出力電圧とほぼ同様の時間変化すなわち図2に示す曲線Lのような時間変化を示す。したがって、標準圧力センサ61sの出力電圧の最大値V0は、プローブ2の吐出圧(正圧)の最大値に対応する。
【0026】
記憶部15は、上述した標準圧力センサ61sからの出力電圧の時間変化に加えて、分注異常の有無を判定するため、標準分注装置1sにおいて基準液体Lq0を分注するときにプローブ2の詰まりを検知する閾値Vth、および標準分注装置1sにおいて基準液体Lq0を分注するときのプローブ2の分注量の正常範囲をR(Lq0)を記憶している。これらの閾値Vthや正常範囲R(Lq0)については、標準分注装置1sにおいてプローブ2に加わる吐出圧の正常時の時間変化に基づいて適宜設定することができる。
【0027】
なお、基準液体Lq0は、粘性が一定である液体であればよく、例えば洗浄液Waと同様にイオン交換水や蒸留水などを用いることができる。また、標準分注装置1sの構成が本実施の形態に係る分注装置1の構成と同じであることはいうまでもない。
【0028】
入力部18は、キーボードやマウスを有するが、トラックボール、トラックパッドなどのポインティングデバイスや、音声入力用のマイクロフォン等のユーザインターフェースをさらに有してもよい。また、出力部19は、各種情報を表示する液晶、プラズマ、有機EL、CRT等のディスプレイ装置を有するが、音声出力用のスピーカや、紙などに情報を印刷して出力するプリンタをさらに有してもよい。
【0029】
設定部14、記憶部15、補正部16、異常検知部17、および制御部20は、CPU、RAM、およびROMなどを用いて構成されている。また、記憶部15として、ハードディスクを具備した補助記憶装置や、CD−ROMやフレキシブルディスクなどの各種記憶媒体を装着可能な補助記憶装置を具備してもよい。
【0030】
なお、記憶部15で記憶する出力電圧の最大値V0、詰まり検知用の閾値Vth、分注量の正常範囲R(Lq0)は、入力部18から入力するようにしてもよいし、適当な記憶媒体に予め書き込んで記憶させておき、記憶部15が具備する補助記憶装置から読み込むようにしてもよい。
【0031】
以上の構成を有する分注装置1が液体Lqの分注動作を行う際には、制御部20の制御のもと、まず電磁弁9を開き、ポンプ11によって洗浄液Waを吸引し、シリンジ4、チューブ5およびプローブ2の順に洗浄液Waを順次流入し充填させた後、電磁弁9を閉じてポンプ11の動作を終了する。その後、プローブ2で液体Lqの吸引または吐出を行う際には、制御部20の制御のもと、ピストン駆動部7が駆動してシリンジ4のピストン4bを移動させることにより、洗浄液Waを介してプローブ2の先端部に適当な吸引圧(負圧)または吐出圧(正圧)を発生させる。なお、プローブ2の先端部で液体Lqを吸引したとき、液体Lqと洗浄液Waとの間には空気層が介在するため、液体Lqを吸引または吐出するときに液体Lqが洗浄液Waと混合することはない。
【0032】
次に、設定部14における補正係数αの設定処理の概要を、図3に示すフローチャートを参照して説明する。分注装置1では、基準液体Lq0に対する分注動作を開始し(ステップS1)、基準液体Lq0を吐出する際のプローブ2の吐出圧を圧力測定部6で測定する(ステップS2)。ステップS2で測定する吐出圧に対応する圧力センサ61からの出力電圧は、概ね図2に示す曲線Lと同様の時間変化を示すが、曲線Lと一致するとは限らない。また、圧力センサ61の感度Sも標準圧力センサ61sの感度S0と一致するとは限らない。実際、本実施の形態に係る分注装置1で使用する圧力センサ61の感度は、±20〜30%程度のバラツキが想定される。このため、ステップS2における測定によって圧力センサ61から出力される出力電圧の最大値Vが図2の最大値V0と同じであるとは限らない。
【0033】
その後、設定部14では、ステップS2における測定結果を用いて補正係数αを設定する(ステップS3)。以下、このステップS3における補正係数αの設定処理について詳述する。圧力センサ61の感度Sは、上述したように±20〜30%程度のバラツキが含まれるのに対し、互いに異なる感度を有する複数の圧力センサ61(標準圧力センサ61sを含む)を用いて液体Lqを正常に分注したときの圧力センサ61の出力電圧の最大値Vと圧力センサ61の感度Sの比の値V/Sは、圧力センサ61の感度Sのバラツキと比較して十分に小さいことが分かっている。そこで、この比の値V/Sは、圧力センサ61の感度Sによらずに一定値を取ると仮定する(仮定I)。なお、分注装置1の他の構成要素に関しては、従来の分注装置と同程度で同じ条件下にあるものとする。
【0034】
以後、分注装置1が具備している圧力センサ61の感度をS1とし、この圧力センサ61で基準液体Lq0を正常に分注したときの出力電圧の最大値がV1であったとすると、前述した仮定Iにより、
0/S0=V1/S1 (1)
が成り立つ。式(1)から
0/V1=S0/S1 (2)
が得られる。この式(2)は、圧力センサ61の感度S1が不明であっても、記憶部15で記憶している値V0と圧力センサ61の出力電圧の最大値V1を用いることによって、標準圧力センサ61sの感度S0と圧力センサ61の感度S1の比の値に等しい量が得られることを意味している。このため、設定部14は、記憶部15からV0を読み出して参照するとともにステップS2における圧力測定部6の測定結果を得ることによって、補正係数αを
α=V0/V1 (3)
として算出し、設定する。式(3)からも明らかなように、圧力センサ61の感度S1が標準圧力センサ61sの感度S0と等しい場合(S1=S0)には、α=1となる。
【0035】
ステップS3で設定した補正係数αの値は、制御部20の制御のもと、記憶部15へ格納され、記憶される(ステップS4)。
【0036】
なお、設定部14では、上述したステップS1〜ステップS3の処理を所定の回数だけ繰り返し行い、1回ごとに求めた補正係数αの値を平均することによって得られるα(mean)を補正係数として設定するようにしてもよい。
【0037】
続いて、異常検知部17における液体Lq分注時の分注異常検知処理の概要について、図4に示すフローチャートを参照して説明する。まず、分注装置1では、液体Lqの分注動作を開始し(ステップS11)、液体Lqを吐出する際のプローブ2の吐出圧を測定する(ステップS12)。
【0038】
ステップS12の後、補正部16は、記憶部15から設定済みの補正係数αを読み出し、この読み出した補正係数αを用いることによって、ステップS2で測定した圧力センサ61の出力電圧V(t)を
V'(t)=α×V(t) (4)
と補正する(ステップS13)。この補正後の値V'(t)は、圧力センサ61からの出力電圧を標準圧力センサ61sからの出力電圧へと換算した値にほかならない。
【0039】
その後、異常検知部17では、補正後のセンサ出力電圧V'(t)を用いて分注装置1の分注動作の異常検知を行う(ステップS14)。具体的には、センサ出力電圧V'(t)を記憶部15で記憶する詰まり検知用の閾値Vthと比較することによってプローブ2の詰まりの有無を判定するとともに、センサ出力電圧V'(t)を用いて算出されるプローブ2の分注量を記憶部15で記憶する分注量の正常範囲R(Lq0)と比較することによってプローブ2の分注量の多寡を判定する。
【0040】
異常検知部17が分注異常を検知した場合(ステップS15でYes)には、制御部20の制御のもと、分注動作を中止し(ステップS16)、出力部19から異常情報を出力する(ステップS17)。ステップS17で出力する異常情報としては、分注異常の具体的な内容(詰まりの有無、分注量の多寡など)が含まれるようにすればより好ましい。
【0041】
他方、異常検知部17が分注異常を検知しなかった場合(ステップS15でNo)、続いて行うべき分注処理があれば(ステップS18でYes)、ステップS11に戻って処理を繰り返す。他方、続いて行うべき分注処理がなければ(ステップS18でNo)、一連の処理を終了する。
【0042】
なお、ステップS13において補正部16が補正する物理量は、圧力センサ61の出力電圧以外でもよく、例えば、プローブ2の詰まり検知用の閾値Vthや分注量の正常範囲R(Lq0)を補正してもよい。この場合、分注装置1(一般に標準分注装置1sとは異なる)において基準液体Lq0を用いて分注したときの詰まり検知用の閾値をVth(1)とすると、この閾値Vth(1)と標準分注装置1sで基準液体Lq0を用いて分注したときの詰まり検知用の閾値Vthとの比の値は、各分注装置がそれぞれ備える圧力センサ61および61sの感度の比の値と等しいはずである。したがって、
th/Vth(1)=S0/S1=V0/V1 (5)
が成立する。ここで、最後の等式は式(2)による。式(5)により、閾値Vth(1)は、標準分注装置1sにおける既知の閾値Vthを用いて
th(1)=(V1/V0)×Vth=α-1×Vth (6)
と表される。ここで、最後の等式は式(3)による。分注装置1における分注量の正常範囲R(1)(Lq0)についても、標準分注装置1sにおける分注量の正常範囲R(Lq0)を、補正係数αを用いて上記同様の補正演算を実行することによって求めることができる。
【0043】
また、他の物理量として、例えば信号処理回路62における信号の増幅率を補正してもよいし、信号処理回路62におけるA/D変換後のディジタル値を補正してもよい。その際にも、式(3)で与えられる補正係数αを用いて補正演算を行うことはいうまでもない。
【0044】
以上説明した分注装置1によれば、プローブ2や圧力センサ61として高価な機器を使用することなく、装置内部の調整によって機差によるバラツキを補正し、分注異常の検知を含む測定精度の向上を実現することができる。したがって、製造コスト自体が従来の分注装置と比較して上昇してしまうこともなく、経済的である。
【0045】
本実施の形態に係る分注装置1は、検体の成分の分析を行う自動分析装置に適用することができる。図5は、本発明の一実施の形態に係る自動分析装置要部の構成を模式的に示す図である。同図に示す自動分析装置100は、液体Lqに相当する検体と試薬とを所定の容器にそれぞれ分注し、その容器内部に収容された液体に対して光学的な測定を行う測定機構101と、この測定機構101を含む自動分析装置100の制御を行うとともに測定機構101における測定結果の分析を行う制御分析機構102とを有し、これら二つの機構が連携することによって複数の検体の成分の生化学的な分析を自動的かつ連続的に行う装置である。
【0046】
最初に、自動分析装置100の測定機構101について説明する。測定機構101は、主として一般検体を収容する検体容器21が搭載された複数のラック22を収納して順次移送する検体移送部31と、一般検体以外の各種検体(検量線作成用のスタンダード検体、精度管理検体、緊急検体、STAT検体、再検査用検体等)を収容する検体容器23を保持する検体容器保持部32と、試薬容器24を保持する試薬容器保持部33と、検体と試薬とを反応させる容器である反応容器25を保持する反応容器保持部34と、反応容器25の内部に収容された液体を攪拌する攪拌部35と、反応容器25内部を通過した光の波長成分ごとの強度等を測定する測光部36と、を備える。
【0047】
また、測定機構101は、検体移送部31上の検体容器21や検体容器保持部32上の検体容器23に収容された検体を反応容器25に分注する検体分注部37と、試薬容器保持部33上の試薬容器24に収容された試薬を反応容器25に分注する試薬分注部38と、反応容器25の洗浄を行う洗浄部39と、を備える。このうち、検体分注部37および試薬分注部38は、上述した分注装置1と同様の機能構成を有しており、反応容器25内部に収容されている液体の液面を検知することができる。
【0048】
検体容器21および23には、内部に収容する検体を識別する識別情報をバーコードまたは2次元コード等の情報コードにコード化して記録した情報コード記録媒体がそれぞれ貼付されている(図示せず)。同様に、試薬容器24にも、内部に収容する試薬を識別する識別情報を情報コードにコード化して記録した情報コード記録媒体が貼付されている(図示せず)。このため、測定機構101には、検体容器21に貼付された情報コードを読み取る情報コード読取部CR1、検体容器23に貼付された情報コードを読み取る情報コード読取部CR2、および試薬容器24に貼付された情報コードを読み取る情報コード読取部CR3が設けられている。
【0049】
検体容器保持部32、試薬容器保持部33、および反応容器保持部34は、検体容器23、試薬容器24および反応容器25をそれぞれ収容保持するホイールと、このホイールの底面中心に取り付けられ、その中心を通る鉛直線を回転軸としてホイールを回転させる駆動手段とを有する(図示せず)。
【0050】
各容器保持部の内部は一定の温度に保たれている。例えば、試薬容器保持部33内は、試薬の劣化や変性を抑制するために室温よりも低温に設定される。また、反応容器保持部34内は、人間の体温と同程度の温度に設定される。
【0051】
測光部36は、白色光を照射する光源と、反応容器25を透過してきた白色光を分光する分光光学系と、分光光学系で分光した光を成分ごとに受光して電気信号に変換する受光素子とを有する。
【0052】
なお、検体の成分の生化学的な分析を行う際には一つの検体に対して2種類の試薬を用いることが多いため、第1試薬用の試薬容器保持部33と第2試薬用の試薬容器保持部33とを別個に設けてもよい。この場合には、個々の試薬容器保持部33に対応した試薬分注部38を2個設ければよい。また、検体または試薬の分注後の適当なタイミングで複数の反応容器25内部の液体の攪拌を同時に行うため、攪拌部35を複数個設けてもよい。
【0053】
ところで、図5では、測定機構101の主要な構成要素を模式的に示すことを主眼としているため、構成要素間の位置関係は必ずしも正確ではない。正確な構成要素間の位置関係は、試薬容器保持部33の数や分注動作のインターバルにおける反応容器保持部34のホイールの回転態様などの各種条件に応じて定められるべき設計的事項である。
【0054】
次に、自動分析装置100の制御分析機構102について説明する。制御分析機構102は、検体の分析に必要な情報や自動分析装置100の動作指示信号などを含む情報の入力を受ける入力部51と、検体の分析に関する情報を出力する出力部52と、測定機構101における測定結果に基づいて検体の分析データを生成するデータ生成部53と、検体の分析に関する情報や自動分析装置100に関する情報を含む各種情報を記憶する記憶部54と、制御分析機構102内の各機能または各手段の制御を行うとともに測定機構101の駆動制御を行う制御部55と、を備える。
【0055】
データ生成部53は、測定機構101の測光部36から受信した測定結果の分析演算を行う。この分析演算では、測光部36から送られてくる測定結果に基づいて反応容器25内部の液体の吸光度を算出したり、吸光度の算出結果と検量線や分析パラメータ等の各種情報とを用いて反応容器25内部の液体の成分を定量的に求める成分量算出処理等を行ったりすることにより、検体ごとの分析データを生成する。このようにして生成された分析データは、出力部52から出力される一方、記憶部54に書き込まれて記憶される。
【0056】
記憶部54は、分析項目、検体情報、試薬の種類、検体や試薬の分注量、検体や試薬の有効期限、分析に使用する検量線に関する情報、検量線の有効期限、各分析項目の参照値や許容値などの分析に必要なパラメータ、およびデータ生成部53で生成した分析データなどを記憶、管理する。
【0057】
なお、入力部51、出力部52、記憶部54および制御部55は、分注装置1の入力部18、出力部19、記憶部15および制御部20の機能をそれぞれ兼備している。
【0058】
このような自動分析装置100においては、検体として血液等の固形成分を有する液体を用いることがあるため、それらの固形成分がプローブ2の内部に付着することによってプローブ2の詰まりを生じやすい上、洗浄が十分でない場合には分注量の誤差も生じる可能性がある。したがって、検体分注部37や試薬分注部38に対して本実施の形態に係る分注装置1を適用することにより、装置ごとの特性差によらず、分注異常を適確に検知することが可能となる。
【0059】
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、液体を吸引または吐出するプローブと、このプローブが前記液体を吸引または吐出するために必要な圧力を発生するシリンジと、このシリンジによって発生し、プローブに加えられる圧力を測定する圧力測定部と、この圧力測定部で測定した結果を用いることにより、当該装置固有の特性に基づいた物理量の補正を行う際に適用される補正係数を設定する設定部と、この設定部で設定した補正係数を含む情報を記憶する記憶部と、この記憶部で記憶する補正係数を用いて物理量の補正を行う補正部と、を備えたことにより、製造コストを維持しつつも、装置ごとの特性によらずに分注異常を高い精度で検知することができる分注装置および当該分注装置を備えた自動分析装置を提供することが可能となる。
【0060】
ここまで、本発明を実施するための最良の形態を詳述してきたが、本発明は上記一実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、本発明に係る分注装置は、凝集法等の均一系反応に基づいて血液型の判定を行ったり、感染症関連の抗原や抗体の検出を行うタイプの自動分析装置の検体分注手段としても好適である。このタイプの自動分析装置は、血球および血漿、血清などの検体を所定の希釈液によって希釈した後、複数の検体をマトリックス状に収容可能なウェルを有するマイクロプレートを用いて検体と試薬との混合および攪拌を行い、ウェル内で所定の反応時間を経過させた後、反応像(凝集像)を高精度CCDカメラで撮影することによって検体の分析を行う。この場合、検体の分注量は微量であるため、分注異常を高精度で検知する必要がある。したがって、本発明に係る分注装置を用いることにより、装置ごとの特性によらずに分注異常を適確に検知し、誤判定を防止することができる。
【0061】
また、本発明に係る分注装置を、不均一系反応に基づく免疫分析を行う自動分析装置に適用してもよい。この場合には、不均一系反応を用いた免疫分析に必要なB/F洗浄を行うB/F洗浄部と、測光部として発光物質の発光量をカウントする光電子増倍管とを設ければよい。これらの点を除く自動分析装置の構成は、上述した自動分析装置100の構成とほぼ同様であるが、圧力伝達用媒体として洗浄液の代わりにエアーを適用し、そのエアーによる圧力の加減によって検体や試薬を分注する構成としてもよい。さらに、プローブの先端にディスポーザブルチップを取り付け可能な構成としてもよい。このタイプの自動分析装置で免疫分析などを行う場合にも、検体の分注量は微量であることが多いため、上述した均一系反応に基づく分析を行う自動分析装置と同様の効果を得ることができる。
【0062】
このように、本発明は、ここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施の形態に係る分注装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】基準液体分注時における圧力センサからの出力電圧の時間変化の概要を示す図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る分注装置が行う補正係数設定処理の概要を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施の形態に係る分注装置が行う分注異常検知処理の概要を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置要部の構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 分注装置
1s 標準分注装置
2 プローブ
3 プローブ移送部
4 シリンジ
4a シリンダ
4b ピストン
5、8、10、12 チューブ
6 圧力測定部
7 ピストン駆動部
9 電磁弁
11 ポンプ
13 洗浄液タンク
14 設定部
15、54 記憶部
16 補正部
17 異常検知部
18、51 入力部
19、52 出力部
20、55 制御部
21、23 検体容器
22 ラック
24 試薬容器
25 反応容器
31 検体移送部
32 検体容器保持部
33 試薬容器保持部
34 反応容器保持部
35 攪拌部
36 測光部
37 検体分注部
38 試薬分注部
39 洗浄部
53 データ生成部
61 圧力センサ
61s 標準圧力センサ
62 信号処理回路
100 自動分析装置
101 測定機構
102 制御分析機構
CR1、CR2、CR3 情報コード読取部
L 曲線
Lq 液体
Lq0 基準液体
Wa 洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吸引または吐出するプローブと、
前記プローブが前記液体を吸引または吐出するために必要な圧力を発生する圧力発生手段と、
前記圧力発生手段によって発生し、前記プローブに加えられる圧力を測定する圧力測定手段と、
前記圧力測定手段で測定した結果を用いることにより、当該装置固有の特性に基づいた物理量の補正を行う際に適用される補正係数を設定する設定手段と、
前記設定手段で設定した補正係数を含む情報を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段で記憶する補正係数を用いて前記物理量の補正を行う補正手段と、
を備えたことを特徴とする分注装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、前記補正係数の設定を行うときに前記設定手段が参照すべき参照量を記憶し、
前記設定手段は、前記圧力測定手段で測定した結果と、前記記憶手段で記憶する前記参照量とを用いることによって補正係数を設定することを特徴とする請求項1記載の分注装置。
【請求項3】
前記圧力測定手段は、
前記プローブに加えられる圧力の変化を検出して電気信号に変換する圧力センサと、
前記圧力センサの出力に対し、増幅およびA/D変換を含む信号処理を施す信号処理回路と、
を有することを特徴とする請求項1または2記載の分注装置。
【請求項4】
前記物理量は、前記圧力センサの出力であることを特徴とする請求項3記載の分注装置。
【請求項5】
前記物理量は、前記信号処理回路における信号の増幅率であることを特徴とする請求項3記載の分注装置。
【請求項6】
前記物理量は、前記信号処理回路でA/D変換後に出力されるディジタル値であることを特徴とする請求項3記載の分注装置。
【請求項7】
前記補正手段で補正した前記物理量を用いて当該装置における分注異常を検知する異常検知手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の分注装置。
【請求項8】
前記異常検知手段は、
前記プローブに加わる吐出圧の最大値を所定の閾値とを比較することによって前記プローブの詰まりの有無を判定し、
前記プローブによる分注量を所定の正常範囲と比較することによって前記分注量の多寡を判定することを特徴とする請求項7記載の分注装置。
【請求項9】
前記物理量は、前記閾値および前記正常範囲であることを特徴とする請求項8記載の分注装置。
【請求項10】
検体と試薬とを反応させることによって前記検体の分析を行う自動分析装置であって、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の分注装置を、前記検体を分注する検体分注手段として備えたこと特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−2897(P2008−2897A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171609(P2006−171609)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】