説明

切断作業工具

【課題】アダプタを介して工具本体側に取り付けられる長尺定規とを含む切断作業工具において、キックバック防止機構の合理化を図る。
【解決手段】ブレード103が取り付けられる丸鋸本体部101と、丸鋸本体部と別体に構成され、被加工材Wに被着される長尺定規120と、丸鋸本体部に設けられるベース110と、長尺定規120上に設けらるスライドレール部121と、スライドレール部に係合するスライド溝部を有し、係合状態において長尺定規に対しスライド動作が許容される一方、ベース110に固定されるアダプタ130と、アダプタに設けられ長尺定規120の接触時の摩擦によってアダプタが丸鋸本体部とともに切断方向と反対方向に移動するのを規制する規制部材と、規制部材を長尺定規との接触が回避された接触回避位置に保持する保持部材とを含む構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工材の切断作業を行う切断作業工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の作業工具において、工具が取り付けられた工具本体とは別体に設けられた長尺定規を用いる構成が知られている。例えば、下記特許文献1には、工具本体にアダプタを介して取り付けられた長尺定規を被着させ、当該長尺定規に沿って工具本体をアダプタとともにスライドさせて被加工材の加工作業を行う構成が開示されている。さらに、この種の長尺定規を用いた切断作業工具の設計に際しては、切断作業時に切断工具が拘束されることによって生じる反作用現象、いわゆる「キックバック現象」に対処するために考えられた構造(以下、「キックバック防止機構」)が知られている。この従来のキックバック防止機構は、スプリング等による付勢力で常時長尺定規を押圧する形式のものであり、工具本体を長尺定規上でスライド動作する場合等で、作業の邪魔になる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国出願DE3612215C1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、被加工材を切断するための切断工具が取り付けられる工具本体と、アダプタを介して工具本体側に取り付けられる長尺定規とを含む切断作業工具において、キックバック防止機構の合理化を図るのに有効な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明にかかる切断作業工具は、工具本体、長尺定規、ベース、被係合部、アダプタ、規制部材及び保持部材を含む。なお、ここでいう「切断作業工具」として典型的には、切断工具としてのブレード(チップソー、ノコ刃、切断砥石、ダイヤモンドホイール等)が回転駆動される丸鋸、ルータ、トリマなどが挙げられる。
【0006】
工具本体は、切断作業工具の各部位のうち、特に被加工材を切断するための切断工具が取り付けられる部位として構成される。この工具本体によって切断作業工具の概ね外郭が形成される。切断工具は、工具本体の一構成要素とされてもよいし、或いは工具本体とは別の構成要素とされてもよい。長尺定規は、工具本体と別体に構成されるとともに、切断作業時に被加工材に被着され、所定の長尺方向に延在する定規として構成される。ベースは、工具本体の底部に設けられる。このベースが工具本体の土台を形成する。被係合部は、長尺定規上に設けられ、長尺方向に延在する部位として構成される。アダプタは、被係合部に係合する係合部を有し、当該係合状態において長尺定規に対し長尺方向へのスライド動作が許容される部材として構成される。なお、長尺定規とアダプタとが係合する構造としては、長尺定規側の凸状部分とされる被係合部と、アダプタ側の凹状部分とされる係合部が係合する構造や、長尺定規側の凹状部分とされる被係合部と、アダプタ側の凸状部分とされる係合部が係合する構造が挙げられる。
【0007】
規制部材は、アダプタと長尺定規のいずれか一方に設けられて、アダプタと長尺定規の他方に接触し、切断作業時には、アダプタが工具本体とともに長尺定規に対して長尺方向のうちの切断方向に移動するのを許容するとともに、アダプタと長尺定規の他方との接触時の摩擦によってアダプタが工具本体とともに長尺定規に対して長尺方向のうちの切断方向と反対方向に移動するのを規制する部材として構成される。この規制部材の構成に関しては、規制部材がアダプタに設けられて長尺定規に接触する態様や、規制部材が長尺定規に設けられてアダプタに接触する態様が包含される。保持部材は、規制部材を、アダプタと長尺定規の他方との接触が回避された接触回避位置に保持する部材として構成される。
【0008】
切断作業以外の調整作業として、例えば長尺定規に対するアダプタの前後方向へのスライド動作が必要とされる作業等においては、保持部材を用いて規制部材を接触回避位置に設定することによって当該調整作業に適正に対処することが可能なる。
【0009】
また本発明の切断作業工具の更なる形態では、前記の規制部材がアダプタに配設されている構成であるのが好ましい。これにより、規制部材を例えばベースに設ける必要がなく、ベースの既存の構造をそのまま利用することが可能となるため合理的である。
【0010】
また本発明の切断作業工具の更なる形態では、規制部材をアダプタに取り付ける回転軸を備える構成であるのが好ましい。この回転軸は、規制部材が長尺定規に接触する接触位置と、当該接触が回避された接触回避位置との間での当該規制部材の回転動作を許容する機能を果たす。このような構成によれば、規制部材の接触位置と接触回避位置との間の切り換えが、回転軸まわりの規制部材の回転動作によって実現される。
【0011】
また本発明の切断作業工具の更なる形態では、前記の保持部材は、規制部材をネジ込みによって接触回避位置に保持するネジ部材として構成されるのが好ましい。このような構成によれば、保持部材の構造を簡素化することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被加工材を切断するための切断工具が取り付けられる工具本体と、アダプタを介して工具本体側に取り付けられる長尺定規とを含む切断作業工具において、キックバック防止機構の合理化が図られることとなった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態の丸鋸100の全体構成を示す正面図である。
【図2】本実施の形態の丸鋸100の全体構成を示す側面図である。
【図3】本実施の形態の丸鋸100の全体構成を示す平面図である。
【図4】図3中の丸鋸100のA−A線に関する断面構造を示す図である。
【図5】図3中の丸鋸100のB領域の拡大図であって、調整機構150が初期位置にある状態を示す。
【図6】図3中の丸鋸100のB領域の拡大図であって、調整機構150の作動位置にある状態を示す。
【図7】図3中の丸鋸100のC−C線に関する断面構造を示す図である。
【図8】図3中の丸鋸100のD領域の拡大図であって、アダプタ130が長尺定規120に取り付けられたときのキックバック防止機構170の様子を示す。
【図9】アダプタ130が長尺定規120から取り外されたときの図8中のキックバック防止機構170の様子を示す。
【図10】図8中のキックバック防止機構170が解除された様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかる「切断作業工具」の一実施の形態の丸鋸100の全体構成につき、図1〜図3を参照しつつ詳細に説明する。図1、図2及び図3にはそれぞれ、本実施の形態の丸鋸100の全体構成を示す正面図、側面図及び平面図が示されている。なお、図3の平面図については、丸鋸100の特徴部分を説明する便宜上、ブレードが被加工材に対して傾斜状に配設された傾斜切断作業時の状態にて示されている。
【0015】
本実施の形態の丸鋸100は、図1に示すように、概括的に見て、丸鋸本体部101と、ハンドグリップ102、ベース110、長尺定規120、アダプタ130とを主体として構成される。ここでいう丸鋸100が、本発明における「切断作業工具」に相当する。
【0016】
丸鋸本体部101は、丸鋸100の概ね外郭を形成し、被加工材Wを切断するための切断工具が取り付けられる。この丸鋸本体部101は、鉛直面内で回転される円板状のブレード103と、ブレード103を収容したブレードケース104と、駆動モータ105と、駆動モータ105を収容したモータハウジング106と、駆動モータ105の回転出力をブレード103に伝達するための動力伝達機構部107と、動力伝達機構部107を収容したギアハウジング108とを主体として構成される。また、この丸鋸本体部101は、ベース110に対して、回動軸109を中心として図中の矢印10方向への回動が可能とされ、これにより通常の直角切断作業時とは別の作業形態である傾斜切断作業時において、ベース110に対するブレード103の傾斜角度が適宜調節される。ここでいう丸鋸100の丸鋸本体部101が、本発明における「工具本体」に相当し、またここでいうブレード113が本発明における「切断工具」に相当する。
【0017】
ハンドグリップ102は、丸鋸本体部101に連接されて当該丸鋸本体部101の上面側に配置される。このハンドグリップ102は、作用者の手指によって把持される把持部分として構成される。またこのハンドグリップ102には、ハンドグリップ102を把持した状態の作業者の手指によって引き操作されるトリガスイッチ(図2中のトリガスイッチ102a)が設けられている。このトリガスイッチ102aの引き操作によって、駆動モータ105が通電駆動され、駆動モータ105の回転出力が動力伝達機構部107を経てブレード103の回転動作に変換される。
【0018】
ベース110は、丸鋸本体部101に連接して当該丸鋸本体部101の底部に配置される。このベース110は、ブレード103の回転軸(図2中の回転軸103a)と交差する方向の平面上にて丸鋸本体部101の前後方向に延在するベース部材として構成される。このベース110を介して、丸鋸本体部101が被加工材Wの上面に載置される。詳細については後述するが、このベース110には、長尺定規120を当該ベース110に取り付けるための取り付け穴が設けられている。ここでいうベース110が、本発明における「ベース」に相当する。
【0019】
また長尺定規120の下面には、複数の滑り止め111が設けられている。この滑り止め111は、典型的にはゴム材料や樹脂材料によって形成される。これにより、長尺定規120は、被加工材Wの上面と滑り止め111を介して接することとなり、被加工材Wに対する長尺定規120の滑り止め効果が得られる。また、特にブレード103の近傍の滑り止め111は、当該滑り止めがブレード103の位置を示すように配設されるのが好ましい。これにより、作業者はブレード103の刃先の位置が判り易い。
【0020】
図3に示すように、長尺定規120は、丸鋸本体部101と別体に構成され、ベース110に対してアダプタ130を介して取り付けられる。この長尺定規120は、ベース110の下方及び側方において、当該ベース110の延在面に沿って所定の長尺方向(丸鋸本体部101の前後方向)に延在する部材として構成される。切断作業時にはこの長尺定規120が被加工材Wに被着され、従ってベース110と被加工材Wとの間に長尺定規120が介在することとなる(図1参照)。この長尺定規120上、すなわちアダプタ130との対向面には、長尺定規120の長尺方向(丸鋸本体部101の前後方向、或いはブレード103の回転軸103aと交差する方向)に長尺状に延在するスライドレール部121が設けられている。このスライドレール部121は、長尺定規120の上面に形成された上に凸の凸状部分として構成される。ここでいう長尺定規120が、本発明における「長尺定規」に相当し、この長尺定規120のスライドレール部121が、本発明における「被係合部」に相当する。
【0021】
一方、アダプタ130は、長尺定規120の長尺方向に沿ってアダプタ前端130aとアダプタ後端130bとの間に長尺状に延在する部材として構成され、その下面、すなわち長尺定規120との対向面に、長尺定規120のスライドレール部121に係合するスライド溝部131を備えている。このスライド溝部131は、スライドレール部121(凸状部分)の断面形状に対応した凹状部分として構成される。これにより、アダプタ130は、スライド溝部131が長尺定規120のスライドレール部121に凹凸係合した係合状態において、長尺定規120上を丸鋸本体部101の前後方向(図3中の矢印12、またはその反対方向)へのスライド動作が許容される。また、詳細については後述するが、このアダプタ130には、概してベース110に対するアダプタ130の位置を調整可能な調整機構150と、概して切断作業時にブレード103(切断工具)が拘束されることによって生じる反作用現象、いわゆる「キックバック現象」を防止するキックバック防止機構170が設けられている。ここでいうアダプタ130が、本発明における「アダプタ」に相当し、このアダプタ130のスライド溝部131が、本発明における「係合部」に相当する。
【0022】
なお、長尺定規120とアダプタ130とが係合する構造に関しては、当該係合状態において長尺定規120上でのアダプタ130のスライド動作が許容されればよく、長尺定規120側の凸状部分とアダプタ130側の凹状部分が係合する構造以外に、長尺定規120側の凹状部分とアダプタ130側の凸状部分が係合する構造を採用することもできる。
【0023】
ベース110に対するアダプタ130の取り付け構造に関しては、図3及び図4が参照される。ここで図4には、図3中の丸鋸100のA−A線に関する断面構造が示されている。
【0024】
図4に示すように、ベース110に取り付け穴112が設けられている。この取り付け穴112は、ベース110内において長尺定規120の長尺方向と交差する方向に延在する長穴部分として構成される。本実施の形態では、この取り付け穴112が丸鋸本体部101の前後方向の2箇所において互いに平行状に設けられている。一方で、図3及び図4に示すように、アダプタ130には、長尺定規120の長尺方向と交差する方向に関し、当該アダプタ130からベース110に向けて突出する突出アーム132,132が設けられており、この突出アーム132,132がそれぞれベース110の取り付け穴112,112に挿入される。すなわち、両突出アーム132,132は、両取り付け穴112,112の間隔と同一の間隔を隔てて互いに平行状に延在する。このような構成により、各突出アーム132が取り付け穴112を、長尺定規120の長尺方向と交差する方向(丸鋸本体部101の左右方向)についてスライド動作可能とされ、これにより当該長尺方向に関してベース110とアダプタ130との相対位置の変更が許容される。
【0025】
ベース110には、図4中に示される固定機構113が設けられている。この固定機構113は、ベース110の各取り付け穴112に挿入された突出アーム132のスライド動作に関し、当該スライド動作のロック操作及びロック解除操作を可能とする。この固定機構113は、ネジ部材114及び操作レバー115を含む。ネジ部材114は、ベース110の上方から取り付け穴112内へとネジ込みによって締め付け可能なネジ部材として構成される。操作レバー115は、ネジ部材114の頭部114aに取り付けられ、作業者によって操作可能な操作レバーとして構成される。この操作レバー115によって、ネジ部材114が間接的に操作される。
【0026】
操作レバー115が所定のネジ込み方向に回転される固定操作がなされることによって、ネジ部材114がネジ軸まわりに回転されつつ取り付け穴112内へとネジ込まれて締め付け固定される。これにより、ネジ部材114が突出アーム132を押圧するまで操作レバー115の固定操作が継続されると、取り付け穴112の延在方向(長尺定規120の長尺方向と交差する方向)に関し、取り付け穴112内での突出アーム132のスライド動作が固定される。一方、操作レバー115が前記ネジ込み方向と反対のネジ戻し方向に回転される固定解除操作がなされることによって、ネジ部材114がネジ軸まわりに回転されつつネジ戻しされる。これにより、ネジ部材114が突出アーム132の押圧を解除するまで操作レバー115の固定解除操作が継続されると、突出アーム132の固定が解除され、取り付け穴112内での突出アーム132の取り付け穴112の延在方向のスライド動作が許容される。
【0027】
ところで、固定機構113の固定状態において、取り付け穴112内の突出アーム132がベース110の上方から締め付け固定されたとき、取り付け穴112内に設定された突出アーム132と、取り付け穴112を規定するベース110の内壁面112aとの間に、長尺定規120の長尺方向の隙間112bが形成されることがあり、この隙間112bによってベース110とアダプタ130との間に、いわゆる「ガタ」(或いは「ガタツキ」ともいう)が生じることとなる。そこで、本実施の形態では、このガタを解消するべく、ベース110に対するアダプタ130の位置を調整可能な調整機構150を設けている。この調整機構150は、概して固定機構113の固定状態において、長尺定規120の長尺方向についてアダプタ130とベース110との相対位置を変化させて、突出アーム132を取り付け穴112の内壁面112aに対し前記の長尺方向と交差する方向に渡って面接触させることによって、アダプタ130のベース110に対する位置関係を調整する機能を果たす。
【0028】
この調整機構150の具体的な構成及び作用に関しては、図4〜図6が参照される。ここで、図5には、図3中の丸鋸100のB領域の拡大図であって、調整機構150が初期位置にある状態が示されている。また、図6には、図3中の丸鋸100のB領域の拡大図であって、調整機構150の作動位置にある状態が示されている。
【0029】
図4に示すように、調整機構150は、アダプタ130のうちベース110の後端部116に対向するベース対向部133上に設けられている。この調整機構150をアダプタ130に設けることで、この調整機能150を例えばベース110に設ける必要がなく、ベース110の既存の構造をそのまま利用することが可能となるため合理的である。この調整機構150は、偏心カム152と、この偏心カム152を回転可能にベース対向部133に取り付ける回転軸151とを含む。回転軸151は、ネジ込みによって偏心カム152をベース対向部133に取り付ける構成とされる。偏心カム152は、概ね円板状に形成され、回転中心である回転軸151に対して偏心した位置(中心からずれた位置)に偏心カム152のカム中心を有する偏心部材として構成される。
【0030】
調整機構150が図5に示す初期位置にある場合には、偏心カム152のカム面155と後端部116の外壁面116aとの間に空間156が形成され、カム面155による外壁面116aの押圧が解除された非作動状態が形成される。一方、調整機構150が図6に示す作動位置にある場合には、偏心カム152のカム面155と後端部116の外壁面116aとの間の空間156が埋まる、すなわち偏心カム152のカム面155によって後端部116の外壁面116aが取り付け穴112側へと押圧される作動状態が形成される。このように、本実施の形態では、偏心カム152の回転動作に伴って、突出アーム132の側面が取り付け穴112の内壁面112aに面接触する作動状態と、当該押圧が解除された非作動状態とが切り換わるように構成されている。従って、調整機構150として、回転軸151まわりに回転される偏心カム152を用いた簡便な構造が実現される。
【0031】
また、この偏心カム152には、作業者による偏心カム152の回転動作を容易とする操作部153が設けられている。更に、偏心カム152とベース対向部133との間には、ラバーワッシャ(或いはウエーブワッシャ)からなるワッシャ部材154が介在しており、このワッシャ部材154の摩擦によって偏心カム152の非作動時の空転が防止される。
【0032】
上記構成によれば、固定機構113の固定状態において、ベース110に対するアダプタ130の位置を調整する際には、作業者は偏心カム152が図5に示す初期位置から図6に示す作動位置に設定されるように操作部153を操作する。偏心カム152のこの作動状態では、偏心カム152が回転軸151を中心として図5中の矢印14方向に回転され、偏心カム152のカム面155によって後端部116の外壁面116aが取り付け穴112側へと押圧される。これにより、後端部116の内壁面、すなわち取り付け穴112の内壁面112aが図4中の矢印方向に押圧されると、偏心カム152のカム面155と取り付け穴112内の突出アーム132とによって後端部116が挟持されることで、突出アーム132とベース110の内壁面112aとの間の隙間112bが埋まり、突出アーム132が取り付け穴112の内壁面112aに対し長尺定規120の長尺方向と交差する方向(取り付け穴112の延在方向)に渡って面接触する。
【0033】
かくして、長尺定規120の長尺方向に関しベース110とアダプタ130との間のガタが吸収されて、ベース110に対するアダプタ130の位置が適正に調整されることとなる。従って、上記構成の調整機構150を用いれば、長尺定規120の基準面、典型的にはスライドレール部121と、切断工具であるブレード103との平行度を維持した状態で工具位置調整が可能となり、以ってブレード103による被加工材の精密な切断作業が可能となる。
【0034】
なお、上記構成の調整機構150(偏心カム152)の取り付け位置に関し、当該位置が前述の固定機構113の近傍に配設されるのが好ましい。ベース110のうち特に固定機構113が設けられた部位は、ネジ部材114等を設ける構成上、ベース強度が高められた構成である。従って、調整機構150の取り付け位置を固定機構113の近傍に配設することによって、調整機構150の動作、すなわち偏心カム152の回転動作を安定化させることが可能となる。
【0035】
また、上記構成の調整機構150のように、偏心カム152の回転動作に伴って後端部116の外壁面116aが取り付け穴112側へと押圧される構造にかえて、往復動作が可能とされた部材によって後端部116の外壁面116aを取り付け穴112側へと押圧する構造を採用することもできる。
【0036】
アダプタ130のキックバック防止機構170に関しては、図7〜10が参照される。ここで図7には、図3中の丸鋸100のC−C線に関する断面構造が示されている。また、図8には、図3中の丸鋸100のD領域の拡大図であって、アダプタ130が長尺定規120に取り付けられたときのキックバック防止機構170の様子が示されている。また、図9には、アダプタ130が長尺定規120から取り外されたときの図8中のキックバック防止機構170の様子が示されている。また、図10には、図8中のキックバック防止機構170が解除された様子が示されている。なお、図8〜図10においては、説明の便宜上、ネジ部材175を部分的に破断した状態で示している。
【0037】
図7及び図8に示すように、キックバック防止機構170は、アダプタ130に設けられている。このキックバック防止機構170は、回転軸171、ストッパ172及びバネ部材174を含む。ストッパ172は、アダプタ130の各部位のうち、丸鋸本体部101の後側に相当するアダプタ後部(図3中のアダプタ後端130b側)に配設され、且つ長尺定規120のアダプタ対向部122に対向して配設された部材として構成される。このストッパ172をアダプタ130に設けることで、ストッパ172を例えばベース110に設ける必要がなく、ベース110の既存の構造をそのまま利用することが可能となるため合理的である。また、ストッパ172がアダプタ後部である作業者側にあることにより、操作がし易いという作用効果を奏する。回転軸171は、ストッパ172がアダプタ対向部122に接触する接触位置と、当該接触が回避された接触回避位置との間での当該ストッパ172の回転動作を許容するように、ストッパ172をアダプタ130に取り付ける回転軸として構成される。バネ部材174は、ストッパ172を図8中の矢印16方向に弾性付勢するバネ部材として構成される。
【0038】
ストッパ172の構成に関し、本実施の形態では、回転軸171から先端部173までの長さが、回転軸171とアダプタ対向部122との間の直線距離(「最短距離」ともいう)を上回るように構成されている。また、図8に示すアダプタ130の取り付け状態では、ストッパ172は、バネ部材174の回転軸171を中心として、バネ部材174の弾性付勢力に抗して図8中の矢印18方向に所定量回転されて、先端部173がアダプタ対向部122に接触した状態とされる。ストッパ172の先端部173とアダプタ対向部122とのこの接触状態については、図7にも示されている。
【0039】
上記構成によれば、図8に示すアダプタ130の取り付け状態では、ストッパ172の図8中の矢印18方向への更なる回転が許容される。これにより、丸鋸100による切断方向、すなわち長尺定規120に対するアダプタ130の前方へのスライド方向(図8中の矢印20で示す方向)に関しては、ストッパ172の先端部173がアダプタ対向部122に接触した状態でアダプタ130の当該スライド動作を許容する。一方で、丸鋸100による反切断方向、すなわち長尺定規120に対するアダプタ130の後方へのスライド方向(図8中の矢印22で示す方向)に関しては、ストッパ172は、先端部173がアダプタ対向部122に接触した状態のまま図8中の矢印16方向に回転しようとする。このとき、ストッパ172のうち回転軸171から先端部173までの長さが、回転軸171とアダプタ対向部122との間の直線距離を上回っているため、ストッパ172の先端部173がアダプタ対向部122との接触時の摩擦によって引っ掛かりアダプタ130の当該スライド動作を阻止する。従って、丸鋸100による切断作業時に、キックバック現象の発生によって丸鋸本体部101が切断方向と反対の反切断方向(図8中の矢印22方向)への反力を受けた場合、アダプタ130が丸鋸本体部101とともに長尺定規120に対して長尺方向のうちの反切断方向に移動するのがストッパ172によって規制されることとなる。ここでいうストッパ172が、本発明における「規制部材」に相当し、
また、このストッパ172の回転軸171が、本発明における「回転軸」に相当する。
【0040】
また、本実施の形態のキックバック防止機構170では、ストッパ172にネジ部材175が設けられている。このネジ部材175は、ストッパ172を長尺定規120のアダプタ対向部122との接触が回避された接触回避位置にネジ込みによって保持する機能を果たす。ここでいうネジ部材175が、本発明における「保持部材」及び「ネジ部材」に相当する。具体的には、このネジ部材175のネジ山175aが、アダプタ130側のネジ溝134に螺合するように構成されている。ネジ溝134がネジ部材175のネジ山175aと螺合する位置は、図10に示すように、ストッパ172の先端部173がアダプタ対向部122に接触しないように、ストッパ172がバネ部材174の弾性付勢力に抗して図8中の矢印18方向に回転された接触回避位置(「接触解除位置」或いは「退避位置」ともいう)として規定される。これにより、ストッパ172をバネ部材174の弾性付勢力に抗して図8中の矢印18方向に前記の退避位置まで回転させた後に、ネジ部材175のネジ山175aをネジ溝134に螺合させることによって、ストッパ172は、キックバック防止の機能が解除された接触回避位置で保持される。
【0041】
切断作業以外の調整作業として、長尺定規120に対するアダプタ130の前方(図8中の矢印20で示す方向)へのスライド動作のみならず、長尺定規120に対するアダプタ130の後方(図8中の矢印22で示す方向)へのスライド動作も必要とされる作業が想定される。そこで、本実施の形態では、ストッパ172がネジ部材175を備える構成を採用することによって、このような調整作業が円滑に遂行される。すなわち、本実施の形態では、切断作業以外の調整作業時においては、ネジ部材175を用いてストッパ172を接触回避位置に設定することによって調整作業に適正に対処することが可能なるため合理的である。また、ストッパ172を保持する保持部材としてネジ部材175を用いることによって、保持部材の構造が簡素化される。
【0042】
〔他の実施の形態〕
なお、本発明は上記の実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0043】
上記実施の形態では、アダプタ130にキックバック防止機構170が設けられて、このキックバック防止機構170のストッパ172が長尺定規120に接触する場合について記載したが、本発明では、このキックバック防止機構170が長尺定規120側に設けられて、ストッパ172がアダプタに接触する構成を採用することもできる。
【0044】
また上記実施の形態では、アダプタ130に調整機構150を設ける場合について記載したが、本発明では、この調整機構150をベース110側に設ける構成や、当該調整機構150が省略された構成を採用することもできる。
【0045】
また、切断工具としてのブレード(チップソー、ノコ刃、切断砥石、ダイヤモンドホイール等)が回転駆動される丸鋸をはじめ、ルータ、トリマなどの切断作業工具において、本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
100 丸鋸
101 丸鋸本体部(工具本体)
102 ハンドグリップ
102a トリガスイッチ
103 ブレード
103 回転軸
104 ブレードケース
105 駆動モータ
106 モータハウジング
107 動力伝達機構部
108 ギアハウジング
109 回動軸
110 ベース
111 滑り止め
112 取り付け穴
112a 内壁面
112b 隙間
113 固定機構
114 ネジ部材
114a 頭部
115 操作レバー
116 後端部
116a 外壁面
120 長尺定規
121 スライドレール部
122 アダプタ対向部
130 アダプタ
130a アダプタ前端
130b アダプタ後端
131 スライド溝部
132 突出アーム
133 ベース対向部
134 ネジ溝
150 調整機構
151 回転軸
152 偏心カム
153 操作部
154 ワッシャ部材
155 カム面
156 空間
170 キックバック防止機構
171 回転軸
172 ストッパ
173 先端部
174 バネ部材
175 ネジ部材
175a ネジ山

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材を切断するための切断工具が取り付けられる工具本体と、
前記工具本体と別体に構成されるとともに、切断作業時に前記被加工材に被着され、所定の長尺方向に延在する長尺定規と、
前記工具本体の底部に設けられるベースと、
前記長尺定規上に設けられ、前記長尺方向に延在する被係合部と、
前記被係合部に係合する係合部を有し、当該係合状態において前記長尺定規に対し前記長尺方向へのスライド動作が許容される一方、前記ベースに固定されるアダプタと、
前記アダプタと前記長尺定規のいずれか一方に設けられて、前記アダプタと前記長尺定規の他方に接触し、切断作業時には、前記アダプタが前記工具本体とともに前記長尺定規に対して前記長尺方向のうちの切断方向に移動するのを許容するとともに、前記アダプタと前記長尺定規の他方との接触時の摩擦によって前記アダプタが前記工具本体とともに前記長尺定規に対して前記長尺方向のうちの前記切断方向と反対方向に移動するのを規制する規制部材と、
前記規制部材を、前記アダプタと前記長尺定規の他方との接触が回避された接触回避位置に保持する保持部材と、
を含む構成であることを特徴とする切断作業工具。
【請求項2】
請求項1に記載の切断作業工具であって、
前記規制部材は、前記アダプタに配設された構成であることを特徴とする切断作業工具。
【請求項3】
請求項2に記載の切断作業工具であって、
前記規制部材が前記長尺定規に接触する接触位置と、当該接触が回避された前記接触回避位置との間での当該規制部材の回転動作を許容するように、前記規制部材を前記アダプタに取り付ける回転軸を備える構成であることを特徴とする切断作業工具。
【請求項4】
請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の切断作業工具であって、
前記保持部材は、前記規制部材をネジ込みによって前記接触回避位置に保持するネジ部材として構成されることを特徴とする切断作業工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−143526(P2011−143526A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8134(P2010−8134)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】