説明

刈取収穫機の走行変速装置

【課題】ギヤ対の大型化を避けてミッションケースの小型化を図るとともに、機体走行中での変速をも可能にして、より作業性に優れた刈取収穫機の走行用変速装置を得る。
【解決手段】複数段に変速自在な走行用の第1変速装置Aと、複数段に変速自在な走行用の第2変速装置Bとを直列に備え、第1変速装置Aを、人為操作具の操作で変速ギヤの咬合状態を選択切り換えすることにより変速可能なギヤ伝動機構によって構成するとともに、第2変速装置Bを、変速操作に伴って伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うための速度差緩和手段Cを備えた変速装置によって構成し、移動速度、刈取作業速度と、低速刈取作業速度を得られるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン動力を、刈取部への伝動系と走行装置への伝動系とに分岐して伝達するコンバイン等の刈取収穫機の走行変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の刈取収穫機としては、倒伏した作物の刈り取り作業から畦道などでの移動走行に至る機体の走行速度として適切な走行速度を得られるように、刈取部への伝動系から分岐した走行用の変速装置が、低速位置、中速位置、及び高速位置の複数段に変速自在に構成されている。前記中速位置は、通常の刈取作業状態において使用される場合に適した刈取作業速度が得られるものであり、前記高速位置は、畦道等での走行のように非作業状態で使用される場合の移動速度が得られるものである。前記低速位置は、刈取作業速度よりもさらに低速で、通常の刈取作業状態よりも作物が倒伏している場合の刈取作業が可能である低速刈取作業速度を得ることができるようにしたものである。
【0003】
コンバインの通常の刈取作業速度は、人が足早に歩行する程度の比較的低速のものであり、低速刈取作業速度はそれよりもさらに低速であるため、クラッチを切れば殆ど機体が停止した状態に近い速度となってしまう。高速位置での移動速度は、これらよりも高速ではあるが、それほどの高速ではないので、変速装置としては、特別に変速ショックを回避するための構造は採用されておらず、構造が簡単で伝動効率の良いギヤ対を利用した伝動構造が採用されている。
このように、刈取収穫機の走行系の変速装置に、低速位置、中速位置、及び高速位置の変速段を備えさせるために、従来では、下記[1]に記載の構造のものが知られている。
[1] コンスタントメッシュ型式の3組のギヤ対と、そのギヤ対による変速段を択一選択するための複数のシフトスリーブとを備え、これらを走行系の変速装置内で並列に配置して、シフトスリーブの操作による択一選択によって、高速、中速、低速の3段の変速段を得られるように構成したもの(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−193835号公報(段落〔0020〕、〔0028〕、図2、図3、図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、3組のギヤ対と複数のシフトスリーブとを走行系の変速装置内で並列に配置した構造のものでは、前述した高速、中速、低速の3段の変速段を比較的簡単な構造で得られる点で有用なものである。しかしながら、この構造のものでは、選択されたギヤ対の伝動比で、それぞれの変速位置における変速速度が決定されるため、高速段や低速段での伝動比を十分に大きくしようとすれば、ギヤ対として用いられる変速ギヤとして大きな径のギヤを使用することになり、変速装置内での伝動軸の軸間も大きくなるので、ミッションケースの小型化を図ることが困難になる虞がある。
また、この構造では、シフトスリーブの操作によるギヤ対の選択によって変速段を切り換えるものであり、機体を停止させた状態での変速操作が行なわれるものである。このため、通常の刈取作業中での変速操作を行う場合では特に問題はないが、例えば、機体を走行させながら圃場から畦へ出て高速で移動したい場合や、刈取作業途中で部分的に倒伏度合いが大きい箇所が点在する場合に、ごく短時間だけ一時的に低速刈取作業を行い、すぐに元の刈取作業速度に復帰させたい場合などにも、その都度、一旦機体を止めてから変速操作を行わなければならず、これを繰り返しながら何度も行うという煩わしさがある。
【0006】
本発明の目的は、走行変速装置として用いられるギヤ対の大型化を避け、ミッションケースの小型化を図るとともに、機体停止時のみならず、機体走行中での変速をも可能にして、より作業性に優れた刈取収穫機の走行用変速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために講じた本発明の技術手段は、次の点に構成上の特徴、及び作用効果がある。
〔解決手段1〕
本発明における刈取収穫機の走行変速装置は、エンジンの動力を刈取部への伝動系と走行装置への伝動系の2系統に分岐させ、前記走行装置への伝動系に、複数段に変速自在な走行用の第1変速装置と、複数段に変速自在な走行用の第2変速装置とを直列に備え、
前記第1変速装置を、人為操作具の操作で変速ギヤの咬合状態を選択切り換えすることにより変速可能なギヤ伝動機構によって構成するとともに、前記第2変速装置を、変速操作に伴って伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うための速度差緩和手段を備えた変速装置によって構成し、
前記第1変速装置が低速位置に操作され且つ第2変速装置が高速位置に操作されると、刈取作業速度が得られ、前記第1変速装置が低速位置に操作され且つ第2変速装置が低速位置に操作されると、前記刈取作業速度よりも低速の低速刈取作業速度が得られるように構成し、
前記第1変速装置が高速位置に操作され且つ第2変速装置が高速位置に操作されると、前記刈取作業速度よりも高速の移動速度が得られ、前記第1変速装置が高速位置に操作され且つ第2変速装置が低速位置に操作されると、前記移動速度よりも低速の刈取作業速度が得られるように構成してある。
【0008】
〔解決手段1にかかる発明の作用及び効果〕
上記解決手段1で示した構成によると、複数段に変速自在な走行用の第1変速装置と複数段に変速自在な走行用の第2変速装置とを直列に備えたものであるから、第1変速装置での変速段の伝動比と第2変速装置での変速段の伝動比との積によって出力される変速段の伝動比が決定されるので、第1変速装置又は第2変速装置の何れか一方のみによって所要の伝動比を得るように構成したものに比べ、個々の変速装置で設定される伝動比としては比較的小さなもので済み、各変速装置のギヤ対を小型化して、ミッションケース全体の小型化をも図ることができる。
【0009】
また、第2変速装置が、変速操作に伴って伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うための速度差緩和手段を備えたものであるから、この第2変速装置では機体走行中にも変速操作を行ってスムースな変速段の変更を行うことが可能となる。
このため、圃場から畦へ出てすぐに高速で移動したい場合に、機体を停止させずに変速操作を行ってスムースに移動させることが可能になる。また、刈取作業途中で部分的に存在している倒伏度合いが大きい穀稈を、一時的に低速刈取作業速度で刈り取って、すぐに元の刈取作業速度に復帰させるような一連の変速操作を、機体走行状態のまま行うことが可能となる。特に部分的に倒伏度合いの大きい箇所が多数点在しているような圃場で、その都度機体を完全に停止させるような、時間的ロスの生じる虞が少ないスムースな操作を行い易いものである。
【0010】
さらに、第1変速装置を、変速ギヤの咬合状態を人為操作具の操作で選択切り換えして変速可能なギヤ伝動機構によって構成し、第2変速装置を、変速操作に伴って伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うための速度差緩和手段を備えた変速装置によって構成して、第1変速装置が低速位置である場合と、高速位置である場合との夫々で、第2変速装置を低速位置と高速位置とに切り換え操作可能に構成してある。したがって、これから行う作業の状況によって、機体停止状態で第1変速装置の変速位置を選択し、その後は、機体走行状態のままで第2変速装置側での高速か低速を選択するように操作すればよいので、作業走行中における変速操作の単純化を図り、実使用上の操作性に優れた走行変速装置を得られたものである。
【0011】
〔解決手段2〕
上記課題を解決するために講じた本発明の他の技術手段は、請求項2に記載のように、第1変速装置が低速位置に操作され且つ第2変速装置が高速位置に操作された状態での伝動比と、前記第1変速装置が高速位置に操作され且つ第2変速装置が低速位置に操作された状態での伝動比とを、同じ伝動比に設定してあることである。
【0012】
〔解決手段2にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段2で示した構成によると、第1変速装置が低速位置で第2変速装置が高速位置である状態での伝動比と、第1変速装置が高速位置で第2変速装置が低速位置である状態での伝動比とが同じであることにより、低速の低速刈取作業速度から刈取作業速度への変速操作を行う場合も、高速の移動速度から刈取作業速度への変速操作を行う場合も、選択される刈取作業速度は同じ速度となる。
したがって、主な作業形態に応じて、低速側での作業速度が要望される可能性が高いときには、第1変速装置を低速位置にした状態で第2変速装置の高速位置で刈取作業速度を設定し、逆に、高速側での作業速度が要望される可能性が高いときには、第1変速装置を高速位置にした状態で第2変速装置の低速位置で刈取作業速度を設定しておけば、必要に応じて第2変速装置を切り換え操作して、所要の高速側又は低速側の速度と、適正な刈取速度として設定されている同じ伝動比の刈取作業速度とを任意に切り換え選択して、良好な刈取作業を行うことができる。
【0013】
〔解決手段3〕
上記課題を解決するために講じた本発明の他の技術手段は、請求項3に記載のように、第1変速装置が低速位置に操作され且つ第2変速装置が高速位置に操作された状態での刈取作業速度よりも、前記第1変速装置が高速位置に操作され且つ第2変速装置が低速位置に操作された状態での刈取作業速度が高速であるように、前記第1変速装置及び第2変速装置の伝動比を設定してあることである。
【0014】
〔解決手段3にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段3で示した構成によると、第1変速装置が低速位置で第2変速装置が高速位置に操作された状態での刈取作業速度よりも、第1変速装置が高速位置で第2変速装置が低速位置に操作された状態での刈取作業速度が高速であるように、第1変速装置及び第2変速装置の伝動比を設定してある。
これにより、例えば、刈取条件によって、つまり刈取対象の穀稈の倒伏などが殆どない良好な条件では、高速側の刈取作業速度で能率の良い刈取作業を行い、それよりも多少条件の良くない場合に低速側の刈取作業速度で刈取作業を行うなどの使い分けができる。
したがって、主な作業形態として、低速側での作業速度が要望される可能性が高いときには、低速側での作業に特化した変速状態として良好な作業を行い、逆に、高速側での作業速度が要望される可能性が高いときには、より高速側での作業に特化した変速状態として良好な作業を行い易いという利点がある。
【0015】
〔解決手段4〕
上記課題を解決するために講じた本発明の他の技術手段は、請求項4に記載のように、速度差緩和手段として、多数の摩擦板を備えた油圧操作式の摩擦クラッチ、及びその摩擦クラッチの作動を制御する操作バルブを備え、第2変速装置を変速操作する変速操作具の操作に基づいて、前記摩擦クラッチを入り切り操作する操作信号が前記操作バルブに対して出力されるように構成したことである。
【0016】
〔解決手段4にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段4で示した構成によると、速度差緩和手段が油圧操作式の摩擦クラッチや、その摩擦クラッチの作動を制御する操作バルブを備えたものであり、第2変速装置を変速操作する変速操作具の操作に基づいて出力される操作信号により、摩擦クラッチが入り切り操作されるものであるから、機体の走行中における変速操作を、変速操作具の操作で出力される操作信号で操作バルブを操作し、摩擦クラッチの入り切り操作が行われて、的確に、かつ円滑に変速操作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】コンバインの全体側面図
【図2】伝動系を示す線図
【図3】走行伝動装置の縦断正面図
【図4】走行伝動装置の縦断側面図
【図5】走行伝動装置の上部を示す縦断正面図
【図6】走行伝動装置の下部を示す縦断正面図
【図7】走行副変速部における作動形態を示す縦断正面図
【図8】操向機構部分を示す縦断正面図
【図9】油圧操作系統を示す回路図
【図10】制御装置と入出力装置とを示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
〔コンバインの全体構成〕
図1は、本発明に係る走行伝動装置20を装備したコンバインの全体側面図である。この図に示すように、このコンバインは、左右一対のクローラ式の走行装置1,1、および運転座席2を有した走行機体と、この走行機体の機体フレーム3の前部に連結された刈取り前処理部10とを備え、前記機体フレーム3の後部側に走行機体横方向に並べて設けた脱穀装置4と穀粒タンク5とを備えている。
【0019】
このコンバインは、稲、麦などの収穫作業を行う。
すなわち、走行機体は、前記運転座席2の下方に設けたエンジン6(図2参照)と、前記機体フレーム3の前端部に設けた前記走行伝動装置20とを備え、前記エンジン6から出力された駆動力を前記走行伝動装置20によって変速して前記左右一対の走行装置1,1に伝達し、これによって前記左右一対の走行装置1,1を駆動して走行する。
【0020】
前記刈取り前処理部10は、前処理部フレーム11(図1参照)が油圧シリンダ12(図1参照)によって機体フレーム3に対して上下に揺動操作されることにより、刈取り前処理部10の前端部に位置する分草具13が地面近くに下降した下降作業状態と、前記分草具13が地面から高く上昇した上昇非作業状態とに昇降する。
【0021】
刈取り前処理部10を下降作業状態にして走行機体を走行させると、刈取り部前処理部10は、前記分草具13によって植立穀稈を引起し装置14に導入し、引起し装置14によって引起し処理される植立穀稈をバリカン形の刈取り装置15によって刈取り処理し、刈取り穀稈を供給装置16によって機体後方側に搬送して脱穀装置4の脱穀フィードチェーン4aの始端部に供給する。脱穀装置4は、脱穀フィードチェーン4aによって刈取り穀稈の株元側を挟持して自走機体後方向きに搬送し、これによって刈取り穀稈の穂先側を扱室に供給して脱穀処理する。穀粒タンク5は、脱穀装置4からの脱穀粒を回収して貯留していく。
【0022】
〔伝動系の構成〕
図2は、エンジン6から出力された動力を、走行装置1,1、及び刈取前処理部10へ導く伝動系を示す線図である。図3は、前記走行伝動装置20の縦断正面図、図4は、走行伝動装置20の縦断側面図である。
これらの図に示すように、前記走行伝動装置20は、後述するポンプ軸21を入力軸として上端部に回転自在に備え、下端部に前記左右一対の走行駆動軸1a,1aを回転自在に有したミッションケース22と、このミッションケース22の上端部に収容された走行主変速部としての静油圧式無段変速装置23(以下、HST23と呼称する。)と、このHST23よりも走行機体下方側に位置させて前記ミッションケース22に収容された走行ミッション部30とを備えている。
【0023】
図5は、前記走行伝動装置20の上端側の縦断正面図である。この図5と、図2,3,4に示すように、前記HST23は、アキシャルプランジャ形で、かつ可変容量形の油圧ポンプ24と、この油圧ポンプ24からの圧油によって駆動されるアキシャルプランジャ形の油圧モータ25とを備えている。前記油圧ポンプ24が前記ポンプ軸21を備えている。
【0024】
図6は、前記走行伝動装置20の下端側の縦断正面図である。この図6と図2,3,4,5とに示すように、前記走行ミッション部30は、前記HST23のモータ軸26に一体回転自在に設けたモータ軸ギヤ27に入力ギヤ31が噛み合っている走行副変速部32と、この走行副変速部32の出力ギヤ33に噛み合ったセンタギヤ50とを備え、前記センタギヤ50と前記左右一対の走行駆動軸1a,1aとにわたって設けた操向機構51とを備えている。
【0025】
つまり、走行伝動装置20は、前記エンジン6の出力軸6aの駆動力が、ベルト伝動機構7を構成するようにポンプ軸21に一体回転自在に設けたベルトプーリ76によってポンプ軸21に伝達されている。
そして、ポンプ軸21を介してミッションケース22に入力されたエンジン6の駆動力は、静油圧式無段変速装置23に入力され、この静油圧式無段変速装置23によって前進駆動力と後進駆動力とに変換され、かつ前進側においても後進側においても無段階に変速し得るように構成されている。
前記静油圧式無段変速装置23のモータ軸26からの出力は、走行ミッション部30の入力ギヤ31に入力され、入力ギヤ31の駆動力を走行副変速部32によって変速してセンタギヤ50に伝達し、このセンタギヤ50の駆動力を操向機構51によって左右一対の走行駆動軸1a,1aに伝達することによって左右一対の走行装置1,1が駆動される。
【0026】
この走行伝動装置20は、左右一対の走行駆動軸1a,1aに対する伝動を前記操向機構51によって各別に切ったり変速したりして左右一対の走行装置1,1を直進状態と旋回状態とに切り換えられるように構成されている。
【0027】
図2,3,4に示すように、前記走行伝動装置20は、前記入力ギヤ31を一体回転自在に有した入力軸34を備え、この入力軸34のミッションケース22から横外側の突出した端部に一体回転自在に設けた出力プーリ70を備え、前記入力軸34の駆動力を前記出力プーリ70から刈取り前処理部10に伝達する。
【0028】
〔走行副変速部〕
前記走行副変速部32は、図2乃至図5に示すように、複数段に変速自在な走行用の第1変速装置Aと、複数段に変速自在な走行用の第2変速装置Bとを直列に備えて構成されている。
前記第1変速装置Aは、運転座席2を有した搭乗運転部で操縦者が人為操作することが可能な人為操作具としての副変速レバー81(図10参照)の揺動操作で変速ギヤの咬合状態を選択切り換えすることにより変速可能なギヤ伝動機構によって構成してあり、前記第2変速装置Bは、変速操作に伴って伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うための速度差緩和手段Cを備えた変速装置によって構成してある。
【0029】
すなわち前記第1変速装置Aは、前記入力ギヤ31を一体回転自在に有した入力軸34に一体回転およびシフト操作自在に設けたシフトギヤ35が、副変速レバー81の揺動操作に伴ってシフト操作されて、高速ギヤ36と中速ギヤ37とに択一的に噛み合い対象を変更するように構成したギヤ伝動機構によって構成されている。
【0030】
前記第2変速装置Bは、前記中間伝動軸38に相対回転および摺動自在に支持されたクラッチギヤ39と、前記中間伝動軸38の一端部に相対回転自在に支持された低速ギヤ41とを備えている。また、前記クラッチギヤ39と低速ギヤ41との中間位置の中間伝動軸38上には、変速操作に伴って伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うための前記速度差緩和手段Cとして、多数の摩擦板を備えた油圧操作式の摩擦クラッチ42が設けられている。
【0031】
この第2変速装置Bは、図10に示すように、走行変速用のHST23を、搭乗運転部で操縦者が変速操作するための変速レバー80の握り部80aに設けた押しボタン型式の操作ボタン82のプッシュオン・プッシュオフ操作で、高速側もしくは低速側の何れか一方へ交互に切り換えられるように構成してある。つまり、押しボタン型式の操作ボタン82は、押すたびにonとoffとが切り替わるように構成されているので、この操作ボタン82のon・off操作にともなって、後述する図9における油圧回路で副変速操作用の切り換え制御弁V1を操作して、前記クラッチギヤ39と摩擦クラッチ42との作動状態を切り換え操作するように構成されている。
【0032】
図5及び図7に示されるように、前記クラッチギヤ39は、外周側にギヤ部分が一体形成されたシリンダ部39aを備え、そのシリンダ部39aに油圧ピストン39bを内装してあり、この油圧ピストン39bごと中間軸第1ギヤ40の横側部側へ向けて押圧バネ39cで押し付け付勢されている。
図7(a)に示すように、前記シリンダ部39a及び油圧ピストン39bが中間軸第1ギヤ40の横側部に押し当てられた状態では、シリンダ部39aの外周側のギヤ部分が、前記中間軸第1ギヤ40の横側部に形成された内歯状ギヤ部40aに係合するとともに、出力軸45の出力軸第1ギヤ44と噛合している。
このとき、前記中間伝動軸38の一端部に相対回転自在に支持された低速ギヤ41と前記中間伝動軸38とにわたって設けた摩擦クラッチ42はクラッチ切り状態にあり、中間伝動軸38の回転は低速ギヤ41に伝わらないように構成されている。
【0033】
この状態で前記シリンダ部39aに圧油が供給されると、図7(b)に示すように、前記押圧バネ39cの付勢力に抗して前記シリンダ部39aが、中間軸第1ギヤ40の横側部から離れる側へ移動し、中間軸第1ギヤ40の内歯状ギヤ部40aとの係合を解除される。
同時的に、前記中間伝動軸38の一端部に相対回転自在に支持された低速ギヤ41と前記中間伝動軸38とにわたって設けた摩擦クラッチ42が、油圧ピストン42bによって切り状態から入り状態に切り換え操作されるように構成されている。
つまり、摩擦クラッチ42のケース部42aが中間伝動軸38に固定してあり、図7(b)に示すように、供給された圧油によって油圧ピストン42bがケース部42aから離れる側へ移動し、低速ギヤ41との間で支持された摩擦板を押圧してクラッチ入り状態とすることより、中間伝動軸38の回転を低速ギヤ41に伝えられるように構成してある。
【0034】
すなわち、前記走行副変速部32は、前記入力ギヤ31を一体回転自在に有した入力軸34に一体回転およびシフト操作自在に設けたシフトギヤ35が、シフト操作されて高速ギヤ36と中速ギヤ37とに噛み合い変更され、中間伝動軸38に相対回転および摺動自在に支持されたクラッチギヤ39が、これに一体形成されたシリンダ部39aによって摺動操作されて中間軸第1ギヤ40の横側部に係脱操作され、前記中間伝動軸38の一端部に相対回転自在に支持された低速ギヤ41と前記中間伝動軸38とにわたって設けた摩擦クラッチ42が、油圧ピストン42bによって入り状態と切り状態とに切り換え操作されることにより、前記入力ギヤ31の駆動力を高、中、低速の3段階に変速して出力ギヤ33からセンタギヤ50に伝達する。
【0035】
上記の走行副変速部32では、シフトギヤ35が高速ギヤ36に噛み合い操作され、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部に係合操作され、摩擦クラッチ42が切り状態に切り換え操作されると、通常の刈取作業に適した刈取作業速度としての中速状態になり、入力ギヤ31の駆動力を、入力軸34、シフトギヤ35、高速ギヤ36、中間軸第2ギヤ43、中間伝動軸38、中間軸第1ギヤ40、クラッチギヤ39、出力軸第1ギヤ44、出力軸45を介して出力ギヤ33に伝達する。
【0036】
そして、このシフトギヤ35が高速ギヤ36に噛み合う状態で、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部から離脱操作され、摩擦クラッチ42が入り状態に切り換え操作されると、畦などの移動に適した移動速度としての高速状態になり、入力ギヤ31の駆動力を、入力軸34、シフトギヤ35、高速ギヤ36、中間軸第1ギヤ40、中間伝動軸38、摩擦クラッチ42、低速ギヤ41、出力軸第2ギヤ46、出力軸45を介して出力ギヤ33に伝達する。
【0037】
また、シフトギヤ35が中速ギヤ37に噛み合い操作され、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部に係合操作され、摩擦クラッチ42が切り状態に切り換え操作されると、倒伏茎稈の刈取などに適した低速刈取作業速度としての低速状態になり、入力ギヤ31の駆動力を、入力軸34、シフトギヤ35、中速ギヤ37、中間軸第1ギヤ40、クラッチギヤ39、出力軸第1ギヤ44、出力軸45を介して出力ギヤ33に伝達する。
【0038】
そして、このシフトギヤ35が中速ギヤ37に噛み合い操作され、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部から離脱操作され、摩擦クラッチ42が入り状態に切り換え操作されると、通常の刈取作業に適した刈取作業速度としての中速状態になり、入力ギヤ31の駆動力を、入力軸34、シフトギヤ35、中速ギヤ37、中間軸第1ギヤ40、中間伝動軸38、摩擦クラッチ42、低速ギヤ41、出力軸第2ギヤ46、出力軸45を介して出力ギヤ33に伝達する。
この中速状態は、前記シフトギヤ35が高速ギヤ36に噛み合い操作され、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部に係合操作された状態での中速状態と同じ速度となるように、走行副変速部32での伝動比を設定してある。
【0039】
〔速度差緩和手段〕
前記第2変速装置Bにおいて、変速操作に伴って伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うために設けられる速度差緩和手段Cは、クラッチギヤ39と低速ギヤ41との中間位置の中間伝動軸38上に配置された油圧操作式の摩擦クラッチ42によって構成されている。
この摩擦クラッチ42は、中間伝動軸38に外嵌して固定されたケース部42aと、前記中間伝動軸38に対して相対回転のみ自在で軸線方向移動を阻止した状態に支持された低速ギヤ41と、このケース部42aと前記低速ギヤ41との間で支持された多数の摩擦板と、その摩擦板を前記低速ギヤ41との間で挟持するように低速ギヤ41側へ押し付け付勢可能な油圧ピストン42bとで構成されている。
また、前記クラッチギヤ39は、そのギヤ部分が、高速側及び低速側の何れの側に変速されても、前記出力軸45側の出力軸第1ギヤ44との噛合状態を維持し得る歯幅に設定されている。
【0040】
つまり、第2変速装置Bにおいて、高速側へ変速操作を行う場合に、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部から離脱操作され、摩擦クラッチ42が入り状態に切り換え操作されるのであるが、供給された圧油によって油圧ピストン42bがケース部42aから離れる側へ移動し、低速ギヤ41との間で支持された摩擦板を押圧してクラッチ入り状態とする際に、摩擦板同士のスリップにより、伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うための前記速度差緩和手段Cとして機能する。
【0041】
また、第2変速装置Bにおいて、低速側へ変速操作を行う場合には、前記摩擦板のスリップによる速度差の漸減は期待できないが、機体が比較的高速で移動している状態から低速への変速であり、機体の移動中に変速操作が行われても、走行装置1,1側に連動するクラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40と同方向に回転を続けていて、相対速度差が少なくなっているので、比較的変速ショックの少ない変速操作が行われ易い。
【0042】
〔操向機構〕
前記操向機構51は、図2、3、6、及び図8に示すように、左右一対の走行装置1,1を直進状態と大半径旋回状態と小半径旋回状態とに切り換え操作するためのものである。この操向機構51は、左右一対の操向クラッチギヤ52,52、これに一体成形された油圧ピストン52a,52a、前記操向クラッチギヤ52,52が係合する内歯部を備えたセンタギヤ50、前記センタギヤ50の小径ギヤ部に噛み合った減速ギヤ57と中間伝動軸58とにわたって設けた減速伝動クラッチ59、前記中間伝動軸58からの動力を前記操向クラッチギヤ52,52に対して断続切り操作する左右の伝動クラッチ54,56を備えて構成されている。
【0043】
前記操向機構51では、図6及び図8に示すように、左右一対の操向クラッチギヤ52,52が、これに一体成形された油圧ピストン52aによって摺動操作されて前記センタギヤ50の内歯部に係脱操作される。前記左側の操向クラッチギヤ52と左側の伝動ギヤ53とにわたって設けた左側の伝動クラッチ54が油圧ピストン54aによって入り状態と切り状態とに切り換え操作され、前記右側の操向クラッチギヤ52と右側の伝動ギヤ55とにわたって設けた右側の伝動クラッチ56が油圧ピストン56aによって入り状態と切り状態とに切り換え操作される。前記センタギヤ50の小径ギヤ部に噛み合った減速ギヤ57と中間伝動軸58とにわたって設けた減速伝動クラッチ59が油圧ピストン59aによって入り状態と切り状態とに切り換え操作される。これによって左右一対の走行装置1,1を、上述の直進状態と大半径旋回状態と小半径旋回状態とに切り換えるように構成されている。
【0044】
つまり、操向機構51は、左右一対の操向クラッチギヤ52,52が、これの一端部をセンタギヤ50の内歯部に噛み合せた状態に切り換え操作され、左側の伝動クラッチ54および右側の伝動クラッチ56が切り状態に切り換え操作されると、センタギヤ50の駆動力を左側の操向クラッチギヤ52と左走行駆動ギヤ60とを介して左側の走行駆動軸1aに伝達し、センタギヤ50の駆動力を右側の操向クラッチギヤ52と右走行駆動ギヤ61とを介して右側の走行駆動軸1aに伝達する。
これにより、操向機構51は、左右一対の走行駆動軸1a,1aを同一の駆動速度で駆動し、左右一対の走行装置1,1を同じ駆動方向に同じ駆動速度で駆動して走行機体を直進走行させる。
【0045】
操向機構51は、左右一対の操向クラッチギヤ52,52の一方がセンタギヤ50の内歯部に噛み合った状態に切り換え操作され、他方の操向クラッチギヤ52がセンタギヤ50の内歯部から離脱した状態に切り換え操作され、左側の伝動クラッチ54および右側の伝動クラッチ56が切り状態に切り換え操作されると、センタギヤ50の駆動力をこれの内歯部に噛み合った操向クラッチギヤ52を介してこの操向クラッチギヤ52に対応した走行駆動軸1aに伝達し、センタギヤ50の内歯部から離脱した操向クラッチギヤ52に対応した走行駆動軸1aを遊転状態にする。
これにより、操向機構51は、左右一対の走行駆動軸1a,1aの一方を駆動し、他方の走行駆動軸1aを遊転状態にし、左右一対の走行装置1,1の一方のみを駆動して走行機体を大旋回半径で旋回走行させる。
【0046】
操向機構51は、左右一対の操向クラッチギヤ52,52の一方がセンタギヤ50の内歯部に噛み合った状態に切り換え操作され、他方の操向クラッチギヤ52がセンタギヤ50の内歯部から離脱した状態に切り換え操作され、減速伝動クラッチ59が入り状態に切り換え操作され、センタギヤ50の内歯部に噛み合った操向クラッチギヤ52に対応した左側の伝動クラッチ54または右側の伝動クラッチ56が切り状態に切り換え操作され、センタギヤ50の内歯部から離脱した操向クラッチギヤ52に対応した左側の伝動クラッチ54または右側の伝動クラッチ56が入り状態に切り換え操作されると、センタギヤ50の駆動力をこれの内歯部に噛み合った操向クラッチギヤ52を介してこの操向クラッチギヤ52に対応した走行駆動軸1aに伝達し、センタギヤ50の駆動力を減速ギヤ57、減速伝動クラッチ59を介して中間伝動軸58に伝達し、この中間伝動軸58の駆動力を、センタギヤ50の内歯部から離脱したクラッチギヤ52に対応した左中間軸ギヤ62または右中間軸ギヤ63、減速ギヤ53または55、左側の伝動クラッチ54または右側の伝動クラッチ56を介してセンタギヤ50の内歯から離脱している操向クラッチギヤ52に伝達し、この操向クラッチギヤ52をセンタギヤ50の内歯にかみ合っている操向クラッチギヤ52よりも低速で駆動し、この操向クラッチギヤ52の駆動力を対応する走行駆動軸1aに伝達する。
これにより、操向機構51は、左右一対の走行駆動軸1a,1aの一方を直進走行時と同じ駆動速度で駆動し、他方の走行駆動軸1aを直進走行時よりも低速で駆動し、左右一対の走行装置1,1を同じ駆動方向に異なる駆動速度で駆動して走行機体を小旋回半径で旋回走行させる。
【0047】
図2,3,5,6に示すように、前記操向機構51は、前記中間伝動軸58の一端部に設けた油圧操作式の操向ブレーキ64を備えており、この操向ブレーキ64によって中間伝動軸58に摩擦ブレーキを掛けることにより、センタギヤ50から離脱操作されて操向クラッチギヤ52に対応する走行装置1(旋回内側の走行装置)にブレーキを掛け、走行機体の旋回半径を、旋回内側の走行装置1を減速駆動した場合の旋回半径よりも小にする。
【0048】
〔制御形態〕
上記伝動系の制御形態について説明する。
【0049】
図5に示すように、前記走行伝動装置20は、前記HST23の前記油圧ポンプ24および前記油圧モータ25を有した本体23aよりも走行機体左横側に配置して前記ミッションケース22に組み付けた油圧ポンプ71を備えている。
【0050】
前記油圧ポンプ71は、前記ポンプ軸21に付設されたポンプ歯車を備えたトロコイドポンプによって構成してある。この油圧ポンプ71は、前記ミッションケース22の上端部に設けたサクションフィルタ73(図4参照)と、前記ミッションケース22に穿設された吸い込み油路と有した油圧回路によって、前記ミッションケース22の内部の油貯留部、および前記走行ミッション部30が備える前記各油圧ピストン39b,42b,52a,54a,56a,59aの操作弁に接続されている。
つまり、前記油圧ポンプ71は、前記ポンプ軸21によって駆動され、前記ミッションケース22の内部に貯留されている潤滑油を吸引して圧油を吐出し、吐出した圧油を前記各油圧ピストン39b,42b,52a,54a,56a,59aに供給して走行ミッション部30の切り換え操作を行わせる。
【0051】
すなわち、図9に示すように、油圧ポンプ71からの吐出油路Lは、途中で第1油路L1と第2油路L2とに分岐され、第1油路L1に、減圧弁V11を経て、走行副変速部32を操作するための副変速用電磁弁V1、旋回制動状態を制御するための制動制御用電磁弁V2、及び左右一対の操向クラッチギヤ52,52、及び左右の伝動クラッチ54,56を操作するための操向用電磁弁V3,V4を配設してある。図10に示すように、前記副変速用電磁弁V1、制動制御用電磁弁V2、操向用電磁弁V3,V4、及び後述する圧力調節用の比例電磁制御弁V9の夫々は、制御装置100からの制御信号を受けて制御されるように構成されている。
【0052】
前記第2油路L2には、シーケンス弁V12を経て、一対のパイロット操作弁V7,V8が並列に接続してあり、そのパイロット操作弁V7,V8を通過した圧油を後続の第7油路L7、及び第8油路L8に供給されるように構成してある。
そして、前記パイロット操作弁V7,V8のうち、一方のパイロット操作弁V7は前記操向用電磁弁V3,V4のうちの、左側の伝動クラッチ54を操作する操向用電磁弁V4から供給されるパイロット圧で作動するように構成してあり、他方のパイロット操作弁V8は前記操向用電磁弁V3,V4のうちの、右側の伝動クラッチ56を操作する操向用電磁弁V3から供給されるパイロット圧で作動するように構成してある。
【0053】
前記一方のパイロット操作弁V7に接続される第7油路L7は、左側の操向クラッチギヤ52と左側の伝動クラッチ54との双方に対して圧油を供給するように接続してあり、かつ、伝動クラッチ54に対しては、絞りS2を介して伝動クラッチ54が操向クラッチギヤ52よりも緩やかに作動するように構成してある。
同様に、前記他方のパイロット操作弁V8に接続される第8油路L8は、右側の操向クラッチギヤ52と右側の伝動クラッチ56との双方に対して圧油を供給するように接続してあり、かつ、伝動クラッチ56に対しては、絞りS3を介して伝動クラッチ56が操向クラッチギヤ52よりも緩やかに作動するように構成してある。
【0054】
前記左右一対の操向クラッチギヤ52,52の何れか一方を通過した圧油は、後続の第9油路L9に供給され、さらに圧力調節用の比例電磁制御弁V9を経て第10油路L10へ供給される。この第10油路L10へ供給された圧油は、旋回制動状態を制御するための制動制御用電磁弁V2のパイロット圧で制御される制動切換弁V10によって、減速伝動クラッチ59、又は操向ブレーキ64の何れか一方へ選択的に供給される。尚、第9油路L9の途中にはリリーフ弁V13が接続されている。
【0055】
前記第1油路L1に設けられた副変速用電磁弁V1は、図10に示す変速レバー80の握り部80aに設けた操作ボタン82の操作により、第1油路L1から供給される圧油を後続の第3油路に供給する状態と、ミッションケース22内に戻す状態とに、交互に択一切り換え自在に構成してある。
【0056】
第3油路L3には、その第3油路L3に圧油が供給されると一次側圧でクラッチギヤ39のシリンダ部39aへ圧油を供給する状態に切り替わり、かつ、一次側圧が所定以下に低下すると復帰バネで前記シリンダ部39a、及び摩擦クラッチ42のケース部42aを第5油路L5を介してドレン側に開放する状態に切り替わるように構成された開閉弁V5が接続されている。
【0057】
第3油路L3の途中から、摩擦クラッチ42のケース部42aと油圧ピストン42bとの間の油室に対して圧油を供給するための第4油路L4が分岐されている。この第4油路L4は、油路途中にアキュムレータ77を設けてあって、摩擦クラッチ42における油圧ピストン42bに対してはアキュムレータ77で設定された圧の圧油が供給される。
また、アキュムレータ77を介して圧油が供給されるので、副変速用電磁弁V1の切換操作に伴って急速に圧油が供給された場合にも、アキュムレータ77の緩衝効果で、摩擦クラッチ42の摩擦板が急激に圧接されることを回避できる。
【0058】
さらに、第4油路L4のアキュムレータ77を設けた箇所と摩擦クラッチ42との間の箇所には、第4油路L4の圧をアンロード可能な第6油路L6が接続されている。この第6油路L6には、図5に示すように、中間伝動軸38の軸内部に形成された油路をミッションケース22の内部に開放した箇所に設けられた絞りS1を備えるとともに、その開放状態を解除して第6油路L6を閉塞することのできる弁機構V6が設けられている。
そして、この弁機構V6では、クラッチギヤ39に圧油が供給されてシリンダ部39aが中間第1ギヤ40から離れる側へ移行すると、前記絞りS1がシリンダ部39bで閉塞されて前記第6油路L6の開放状態を阻止した状態に切り替わり、アキュムレータ77側から供給される圧で摩擦クラッチ42をクラッチ入り側へ操作するように構成してある。このとき、前記第5油路L5も開閉弁V5で閉じられている。
【0059】
第1油路L1に設けられた前記制動制御用電磁弁V2は、図10に示すように、搭乗運転部に設けた旋回モード切り換えスイッチ84で切り換え操作されるように構成されている。つまり、旋回モード切り換えスイッチ84が「緩」の位置に操作されていると、制動制御用電磁弁V2は図9に図示されるように、第1油路L1からのパイロット圧が制動切換弁V10側に作用しない状態となり、減速伝動クラッチ59が作用する状態となる。
図10で旋回モード切り換えスイッチ84が「信地」の位置に操作されていると、制動制御用電磁弁V2は図9に図示される状態から切り換えられて、第1油路L1からのパイロット圧が制動切換弁V10側に作用する状態となり、制動切換弁V10が操向ブレーキ6を操作する側に切り換えられる。
【0060】
前記第1油路L1に設けられた操向用電磁弁V3,V4は、図10に示すように、搭乗運転部に設けた操向レバー83によって切り換え操作されるように構成してある。
すなわち、操向レバー83が中立位置Nに位置している状態では、操向用電磁弁V3,V4の何れもが作用しない機体直進状態となっている。
操向レバー83が右側の旋回位置R1に操作されると、操向用電磁弁V3,V4のうち、右側の操向クラッチギヤ52と右側の伝動クラッチ56との双方を操作する右用のパイロット弁V8に対して圧油を供給する右用の操向用電磁弁V3が入り側に操作されて、右の走行装置1が遊転状態となり、操向レバー83が右側の旋回位置R2に操作れると、右の操向装置1が直進走行時よりも低速で駆動される(又は、ブレーキが掛かる)。
操向レバー83が左側の旋回位置L1に操作されると、操向用電磁弁V3,V4のうち、左側の操向クラッチギヤ52と左側の伝動クラッチ54との双方を操作する左用のパイロット弁V7に対して圧油を供給する右用の操向用電磁弁V4が入り側に操作されて、左の走行装置1が遊転状態となり、操向レバー83が左側の旋回位置L2に操作されると、左の走行装置1が直進走行時よりも低速で駆動される(又は、ブレーキが掛かる)。
【0061】
前記第9油路L9に設けられた圧力調節用の比例電磁制御弁V9は、前記操向レバー83の左右何れかへの操作量をポテンショメータ83aで検出し、その操作量に基づいて前記操向ブレーキ64または減速伝動クラッチ59に対する第10油路L10からの供給圧を変化させるように、制御装置100からの制御信号に基づいて制御される。
【0062】
前記油圧ポンプ71とは別に設けたチャージポンプ72からの供給油路LLがHST23のチャージ油供給回路に接続されている。この供給油路LLにリリーフ弁V14が設けられている。
【0063】
〔別実施形態の1〕
上記の実施形態では、第1変速装置Aが低速位置に操作され且つ第2変速装置Bが高速位置に操作された状態での伝動比と、前記第1変速装置Aが高速位置に操作され且つ第2変速装置Bが低速位置に操作された状態での伝動比とを、同じ伝動比に設定したが、これに限らず、刈取作業を行うに可能な範囲であれば、前記伝動比を互いに異なる値に設定してもよい。
この場合、第1変速装置Aが低速位置に操作され且つ第2変速装置Bが高速位置に操作された状態での刈取作業速度よりも、前記第1変速装置Aが高速位置に操作され且つ第2変速装置Bが低速位置に操作された状態での刈取作業速度が高速であるように、前記第1変速装置A及び第2変速装置Bの伝動比を設定すると、高速側での刈取作業と移動を行う可能性が高い場合と、低速側での刈取作業と、倒伏状態の低速刈取作業を行う可能性が高い場合との夫々に応じた使用形態を選択し易い。
【0064】
〔別実施形態の2〕
速度差緩和手段Cとしては、上記実施形態で示したように、油圧操作式の摩擦クラッチ42を採用したものに限らず、例えばシンクロメッシュ式の機械的なギヤ伝動装置や、このギヤ伝動装置を操作する油圧シリンダ等のアクチュエータ、流体を介して伝動する機構を採用するなど、適宜の構造を採用することができる。要は、機体走行中における変速操作が、伝動効率の大きな低下や変速ショックを招く度合いを少なくした状態で行える変速装置であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、実施の形態で示した自脱型コンバインの他、普通型コンバインにも適用することができ、また、コンバイン以外の、玉ねぎ、人参などを各種の作物を収穫対象とするものや、運搬車、トラクタ、土工作業車などの各種作業車でクローラ走行装置を用いるものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
23 油圧式無段変速装置
32 走行副変速部
38 中間伝動軸
39 クラッチギヤ
42 摩擦クラッチ
80 変速レバー
81 副変速レバー
82 変速操作具(操作ボタン)
83 操向レバー
A 第1変速装置
B 第2変速装置
C 速度差緩和手段
V1 操作バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力を刈取部への伝動系と走行装置への伝動系の2系統に分岐させ、前記走行装置への伝動系に、複数段に変速自在な走行用の第1変速装置と、複数段に変速自在な走行用の第2変速装置とを直列に備え、
前記第1変速装置を、人為操作具の操作で変速ギヤの咬合状態を選択切り換えすることにより変速可能なギヤ伝動機構によって構成するとともに、前記第2変速装置を、変速操作に伴って伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うための速度差緩和手段を備えた変速装置によって構成し、
前記第1変速装置が低速位置に操作され且つ第2変速装置が高速位置に操作されると、刈取作業速度が得られ、前記第1変速装置が低速位置に操作され且つ第2変速装置が低速位置に操作されると、前記刈取作業速度よりも低速の低速刈取作業速度が得られるように構成し、
前記第1変速装置が高速位置に操作され且つ第2変速装置が高速位置に操作されると、前記刈取作業速度よりも高速の移動速度が得られ、前記第1変速装置が高速位置に操作され且つ第2変速装置が低速位置に操作されると、前記移動速度よりも低速の刈取作業速度が得られるように構成してある刈取収穫機の走行変速装置。
【請求項2】
第1変速装置が低速位置に操作され且つ第2変速装置が高速位置に操作された状態での伝動比と、前記第1変速装置が高速位置に操作され且つ第2変速装置が低速位置に操作された状態での伝動比とを、同じ伝動比に設定してある請求項1記載の刈取収穫機の走行変速装置。
【請求項3】
第1変速装置が低速位置に操作され且つ第2変速装置が高速位置に操作された状態での刈取作業速度よりも、前記第1変速装置が高速位置に操作され且つ第2変速装置が低速位置に操作された状態での刈取作業速度が高速であるように、前記第1変速装置及び第2変速装置の伝動比を設定してある請求項1記載の刈取収穫機の走行変速装置。
【請求項4】
速度差緩和手段として、多数の摩擦板を備えた油圧操作式の摩擦クラッチ、及びその摩擦クラッチの作動を制御する操作バルブを備え、第2変速装置を変速操作する変速操作具の操作に基づいて、前記摩擦クラッチを入り切り操作する操作信号が前記操作バルブに対して出力されるように構成してある請求項1〜3のいずれか1項記載の刈取収穫機の走行変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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