説明

列車と地上ネットワークの無線接続システム

【課題】データの連続性を保証可能な列車と地上ネットワークの無線接続システムを提供する。
【解決手段】列車10に搭載された移動装置12、列車10の線路14に沿って設置された二以上のアクセスポイント16A、と地上ネットワーク18間のデータ転送の制御を実行するデータ転送制御装置20を備えた無線接続システムであって、データ転送制御装置20は、データポートと、転送処理データのMACアドレスとデータポートを対応付けたMAC学習テーブルと、MAC学習テーブルの更新処理を実行する更新制御部と、を備え、更新制御部は、二以上のデータポートのいずれかに変更信号発信部によって発信された変更信号が着信すると、移動装置12のMACアドレスに対応するデータポートを変更信号が着信されたデータポートに変更するようにMAC学習テーブルの更新を実行することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の列車を広域ネットワークなど地上ネットワークに無線を利用して接続する列車と地上ネットワークの無線接続システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットやブロードバンド通信の発達により、自宅や会社などプライベートな空間だけでなく、例えば移動体電話や無線LANなどを用いることによって、様々な公共の場所においてインターネットに接続することが可能となっている。特に、ブロードバンド通信が普及した現在においては、無線LANなどによるブロードバンド通信の需要が大きい。
【0003】
公共の場所における無線LANによる通信は、一般的に鉄道の駅、空港、飲食店やホテルなどに無線LANのアクセスポイントを設け、各クライアント端末は、そのアクセスポイントにアクセス可能な子局などを設置することによって、アクセスポイントを介したインターネットへの接続を可能としている。このように発達されたブロードバンド通信の環境においては、移動中の列車の中からの無線LANへのアクセスの要望が強いく、様々な研究がなされている。
【0004】
移動中の列車の中からの無線LANへのアクセスは、例えば、移動中の列車がいずれの場所においても、アクセスができるように複数の無線LANのアクセスポイントを列車の線路に沿って所定間隔をおいて設け、これらアクセスポイントを広域ネットワークに接続することによって、実現することができる。そして、これらアクセスポイントと広域ネットワーク間のパケットの転送処理は、イーサネットスイッチ(LANスイッチ)によって行なうことができ、このイーサネットスイッチは、OSI参照モデルにおけるデータリンク層(L2)における処理を実行し、パケットの宛先としてのMACアドレスを識別して、宛先に対するパケットの転送処理を行なっている。すなわち、イーサネットスイッチは、受信パケット、例えばイーサネットフレームを常に全ポートに転送(flooding)するハブと異なり、受信パケットの始点(source)MACアドレスと受信ポートを対応づける(学習する)ことにより、以後、そのMACアドレス宛のパケットを受信した場合は、対応づけられたポートへのみ転送する仕組みを持つ。このMACアドレスと(出力)ポートの対応付けの集まりをMAC学習テーブルと呼ぶ。
【0005】
このイーサネットスイッチにおけるMAC学習テーブルの各エントリは、通常ソフトステートで管理される。同じMACアドレスを始点アドレスとしたイーサフレームを、一定時間(例として5分)以上、対応づけられたポートと同じポートから受信しない場合は、そのエントリは削除される。また、対応付けられたポートと異なるポートから受信した場合は、イーサネットスイッチは、即座にそのMACアドレスに対応づけられた出力ポート先を変更する。言い換えると、イーサネットスイッチにおいて、あるMACアドレスに関するエントリがMAC学習テーブルに登録された場合、そのMACアドレスをもつノードが、明示的にパケットをイーサネットスイッチへ送信しない限り、イーサネットスイッチで保持しているそのMACアドレスに関するエントリは、一定時間が経過するまで削除されない。
【0006】
このイーサネットスイッチの挙動は、パケットの送受信端末が移動する場合、すなわち移動体端末にとって深刻な問題となる。たとえば、あるイーサネットスイッチの下流(downlink)に接続されているアクセスポイント間を、移動体端末が移動(ハンドオーバー)することを考える。
【0007】
まず、移動体端末が一方のアクセスポイントに接続し、ネットワーク上のあるノードと通信を行った結果、イーサネットスイッチのMAC学習テーブルにおいて、その移動体端末のMACアドレスに関するエントリが作成されたとする。この状態で、移動体端末がもう一方のアクセスポイントへ移動した場合、移動体端末が単にハンドオーバーしただけでは、イーサネットスイッチのMAC学習テーブルに登録されているその移動体端末のMACアドレスに関するエントリは残ったままである。そのため、その移動体端末宛のデータパケットをイーサネットスイッチが受信した場合は、(その移動体端末のMACアドレスに関するエントリが一定時間経過後に削除されるまで)移動前の接続アクセスポイントに向かってそのデータパケットは誤って転送されてしまう。
【0008】
また、移動体端末が、ハンドオーバー前にストリーミング映像を受信している(移動体端末はデータを受信するだけで、送信はしない)状況で、ハンドオーバー後もそのストリーミング映像を継続して受信したい場合でも、イーサネットスイッチのMAC学習テーブルにおいて、移動体端末に関するエントリは、移動前のアクセスポイントが接続されているポートに対応づけられたままなので、ストリーミング映像のデータパケットは、イーサネットスイッチにおいて、誤った古い対応づけに従って、(その古い対応づけが一定時間経過後に削除されるまで)移動前の接続アクセスポイントに向かって転送されてしまう。
【0009】
上述した移動体端末におけるアクセスポイント移動による通信エラーの問題は、移動前のアクセスポイントのイーサネットスイッチに移動前の古いエントリが残ることが原因である。この問題は、移動体端末がハンドオーバー後、即座にイーサネットスイッチに向けて、なんらかの移動通知メッセージを送信することで、ある程度解決することが可能である。このメッセージ送信手法の適用構成を開示した従来技術として、特許文献1に開示のものがある。
【0010】
特許文献1に開示されたものは、移動体端末が、ハンドオーバー直後に、特殊なアドレス解決プロトコル(ARP:Address Resolution Protocol、RFC826)パケットをブロードキャスト送信することで、上流にあるイーサネットスイッチのMAC学習テーブルの、その移動体端末に関するエントリを最新の対応づけに更新する構成である。
【0011】
この特許文献1に開示されたものにより、イーサネットスイッチの下流(downlink)に接続されているアクセスポイント間を、移動体端末が移動(ハンドオーバー)しても、パケット中継機器としてのイーサネットスイッチは、その移動体端末のMACアドレスに関する最新の対応づけを保持することができるが、この特許文献1に開示された方式は、高速ハンドオーバーに十分対応し得るものとは言えない。なぜなら、特許文献1に開示された方式は、ノードの移動後に、ノードがアドレス解決プロトコル(ARP)パケットをブロードキャスト送信する処理、それをアクセスポイントが転送する処理、さらに、転送パケットをイーサネットスイッチが受信する処理、パケットを受信したイーサネットスイッチが、ARPパケットに基づいてMAC学習テーブルを更新する処理、これらの複数の処理をシーケンシャルに実行することが必要となるため、この処理期間は、イーサネットスイッチの、移動体端末のMACアドレスに関するエントリがあいかわらず古い対応づけのままに保持されてしまい、そのため、その間にイーサネットスイッチに到着した移動体端末宛のデータパケットは移動前のアクセスポイントに向かって転送されてしまうことになるからである。
【0012】
移動体端末がストリーミング映像などを受信している状態でアクセスポイントを移動、すなわちハンドオーバーした場合には、新しいアクセスポイントへ接続が完了した時点から、即座にストリーミング映像を受信できることが望ましい。
【0013】
このような問題を解決するものとして、特許文献2には、ネットワークを介したデータの転送制御を実行するデータ転送制御装置であり、複数のデータ入出力ポートと、転送処理対象データのMACアドレスと出力ポートを対応付けたMAC学習テーブルを格納した記憶手段と、前記MAC学習テーブルの更新処理を実行する制御部とを有し、前記制御部は、前記MAC学習テーブルの移動体端末対応エントリとして、移動体端末のMACアドレスに異なる出力ポートを対応付けた複数のエントリを設定し、ネットワークを介して受信した移動体端末のMACアドレス宛てのデータを、前記MAC学習テーブルに設定した複数エントリに基づいて、複数の出力ポートに並列出力する処理を実行する構成を有することを特徴とするデータ転送制御装置が開示されている。
【0014】
【特許文献1】特開2000−341339号公報
【特許文献2】特開2004−48334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献2に記載されたデータ転送制御装置は、移動体端末のMACアドレス宛てのデータを、MAC学習テーブルに設定した複数エントリに基づいて、複数の出力ポートに並列出力しているので、データの二重受信が生じる可能性があり、ハンドオーバーの際のデータの連続性を十分に保証できないという問題がある。
【0016】
そこで、本発明は、ハンドオーバーの際のデータの連続性を十分に保証可能な列車と地上ネットワークの無線接続システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以上の目的を達成するため、本発明は、列車に搭載された移動装置、前記列車の線路に沿って設置された二以上のアクセスポイント、及び該二以上のアクセスポイントと地上ネットワーク間のデータ転送の制御を実行するデータ転送制御装置を備えた列車と地上ネットワークの無線接続システムであって、前記二以上のアクセスポイントは、いずれも使用する周波数が、隣接するアクセスポイントと異なるように構成されるとともに、前記移動装置との無線リンク確立可能領域が隣接する両隣のアクセスポイントの無線リンク確立可能領域とのみ重なるように設置され、前記移動装置は、前記二以上のアクセスポイントが使用する周波数の種類数と同数設けられるとともに、それぞれが対応するアクセスポイントと無線リンクを確立可能な二以上の無線装置と、前記二以上の無線装置のうち、前記アクセスポイントのいずれかと無線リンクが確立されている無線装置に関する情報をその無線リンクが確立された時刻とともに保持する無線リンク状態管理部と、前記無線リンク状態管理部に保持された無線装置に関する情報のうち、無線リンクが確立された時刻が最新の無線装置を用いて、前記データ転送制御装置へのデータの転送を実行するデータ転送処理部と、前記無線リンク状態管理部に新しい無線装置に関する情報が保持されると、前記データ転送制御装置に無線装置の変更を伝える変更信号を発信して、前記データ転送処理部によって転送させる変更信号発信部と、を備えており、前記データ転送制御装置は、前記各アクセスポイント及び地上ネットワークそれぞれに接続された二以上のデータポートと、転送処理データのMACアドレスとデータポートを対応付けたMAC学習テーブルと、該MAC学習テーブルの更新処理を実行する更新制御部と、を備え、前記更新制御部は、前記二以上のデータポートのいずれかに前記変更信号発信部によって発信された変更信号が着信すると、前記移動装置のMACアドレスに対応するデータポートを変更信号が着信されたデータポートに変更するように前記MAC学習テーブルの更新を実行することを特徴とする。
【0018】
以上のように、本発明に係る列車と地上ネットワークの無線接続システムにおいて、各アクセスポイントは、それぞれの移動装置との無線リンク確立可能領域が隣接する両隣のアクセスポイントの無線リンク確立領域とのみ重なるように間隔をおいて設置されているので、一方の無線装置の無線リンクが切断される前に、他方の無線装置が新しい無線リンクを確立して、MAC学習テーブルの新しいデータポートへの更新処理を行なうことができ、ハンドオーバーの際のデータ通信の連続性を十分に確保することができる。
【0019】
したがって、先に無線リンクが確立した無線装置の無線リンクが切断される前に、後に無線リンクが確立された無線装置の無線リンクが確立されて、MAC学習テーブルの新しいデータポートへの更新処理が実行されるように、前記各アクセスポイントは、隣接するアクセスポイントとの無線リンク確立可能領域を重ならせて設置されていることが好ましい。すなわち、本発明に係る列車と地上ネットワークの無線接続システムにおいて、前記移動装置と前記アクセスポイントの新しい無線リンクが確立してから前記更新制御部による前記MAC学習テーブルの更新処理が実行されるまでの間、その新しい無線リンクの確立の他に、少なくとも1以上の前記移動装置と前記アクセスポイントの無線リンクの確立が存在するように、前記各アクセスポイントは、隣接するアクセスポイントとの無線リンク確立可能領域を重ならせて設置されていることが好ましい。
【0020】
本発明に係る列車と地上ネットワークの無線接続システムにおいて、移動装置とアクセスポイントの無線リンクの確立とは、移動装置とアクセスポイントが無線によってデータの送受信を確実に行なうことができるようになった状態をいい、移動装置との無線リンク確立可能領域とは、移動装置との無線リンクの確立が可能な程度に電波が届く領域のことをいう。また、本発明に係る列車と地上ネットワークの無線接続システムにおいて、データ転送制御装置に無線装置の変更を伝える変更信号としては、pingやARPパケットなど様々な形態のものが用いられる。
【0021】
本発明に係る列車と地上ネットワークの無線接続システムにおいて、前記移動装置は、前記二以上のアクセスポイントのいずれかの無線リンク確立可能領域に入ると、そのアクセスポイントと無線リンクを確立するよう構成されていることが好ましく、無線リンクが確立していない場合、移動装置が電波を放射することによって、無線リンクの確立が可能なアクセスポイントの検索を行なっても良く、また逆にアクセスポイントが電波を放射することによって、無線リンクの確立が可能な移動装置の検索を行なっても良い。
【0022】
さらに、本発明に係る列車と地上ネットワークの無線接続システムにおいて、前記二以上のアクセスポイントが使用する周波数は、いずれも隣接するアクセスポイントと電波が干渉しない程度に異なることが好ましく、二以上のアクセスポイントが使用する周波数は、2種類でも3種類以上でも良い。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、ハンドオーバーの際のデータの連続性を十分に保証可能な列車と地上ネットワークの無線接続システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明に係る列車と地上ネットワークの無線接続システムの実施例について図面に基づいて説明する。図1は、本実施例に係る無線接続システムの概念ブロック図であり、図2は、本実施例に係る無線接続システムの移動装置12の概念ブロック図であり、図3は、本実施例に係る無線接続システムのイーサネットスイッチ20の概念ブロック図である。本実施例に係る無線接続システムは、列車10に搭載された移動装置12と、列車10の線路14に沿って設置された二以上のアクセスポイント16A、16B・・・と、二以上のアクセスポイント16A、16B・・・と広域ネットワーク18間のデータ転送の制御を実行するイーサネットスイッチ20と、を備えている。
【0025】
二以上のアクセスポイント16A、16B・・・は、いずれも使用する周波数が、隣接するアクセスポイントと異なるように構成されている。本実施例においては、二種類の周波数を一つおきに使用しており、これら二種類の周波数は、電波が互いに干渉しない程度にチャネル間隔を離して使用される。また、二以上のアクセスポイント16A、16B・・・は、それぞれの移動装置12との無線リンク確立可能領域(移動装置12との無線リンクの確立が可能な程度に電波が届く領域)X、Y・・・が隣接する両隣のアクセスポイント16A、16B・・・とのみ重なるように間隔をおいて設置されており、その重なりは、先に確立した無線リンクが切断される前に、イーサネットスイッチ20のMAC学習テーブル48における移動装置12のMACアドレスに対応付けされたデータポート44A、44B・・・が更新される程度必要である。さらに、二以上のアクセスポイント16A、16B・・・は、進行する列車10に向かって電波を放射可能で、かつ進行する列車10からアクセスポイント16A、16Bに向かって放射される電波を受信可能なアンテナ22A、22Bを備えている。
【0026】
移動装置12は、図2に示すように、二以上のアクセスポイント16A、16B・・・と無線リンクの確立が可能な一対の無線装置24A、24Bと、列車10内のクライアント端末26とアクセス可能なゲートウェイルータ28と、ゲートウェイルータ28へのパケットの転送及びゲートウェイルータ28からパケットの転送を行なうとともに、無線装置24A、24Bを制御する無線リンク制御装置30と、を備えている。
【0027】
一対の無線装置24A、24Bそれぞれは、二以上のアクセスポイント16A、16B・・・が使用する二種類の周波数のいずれかと同一の周波数を用いるように構成されており、本実施例に係る無線接続システムにおいては、無線装置24Aは、アクセスポイント16Aと同一の周波数の電波を用いており、無線装置24Bは、アクセスポイント16Bと同一の周波数の電波を用いている。したがって、無線装置24Aは、アクセスポイント16Aと一つおきに設置されたアクセスポイント16A、16C・・・と電波を送受信し、無線装置24Bは、アクセスポイント16Bと一つおきに設置されたアクセスポイント16B、16D・・・と電波を送受信し、それぞれのアクセスポイント16A、16B・・・と無線リンクを確立することができる。各無線装置24A、24Bは、それぞれのアクセスポイント16A、16B・・・が備えているアンテナ22A、22B・・・に向かって電波を放射可能で、かつアンテナ22A、22Bから無線装置24A、24Bに向かって放射される電波を受信可能なアンテナ32A、32Bと、各アクセスポイント16A、16B・・・との無線リンクを制御する無線リンク機能部34A、34Bと、無線リンク機能部34A、34Bによって制御されている無線リンクの状態を無線リンク制御装置30に知らせる信号を送信する無線リンク状態通知部36A、36Bと、を備えている。無線装置24A、24Bは、アクセスポイント16A、16B・・・のいずれかと無線リンクを確立していない場合、電波を放射することによって、無線リンクが確立可能なアクセスポイントを検索するように構成されている。なお、本実施例においては、無線装置24A、24Bとアクセスポイント16A、16B・・・の無線リンクが確立していない場合、無線装置24A、24Bから電波を放射することによって、無線リンクの確立が可能なアクセスポイントの検索を行なっているが、このような場合、アクセスポイント16A、16B・・・から電波を放射して、無線リンクの確立が可能な無線装置24A、24Bの検索を行なっても良い。
【0028】
無線リンク制御装置30は、二以上のアクセスポイント16A、16B・・・と無線リンクを確立している無線装置24A、24Bに関する情報をその無線リンクを確立した時刻とともに保持する無線リンク状態管理部38と、無線リンク状態が確立している無線装置24A、24Bの新しい情報が無線リンク状態管理部38に保持されると、予め設定した広域ネットワーク18の特定のIPアドレス宛に対して、ゲートウェイルータ28経由でpingを送信するping発信制御部40と、パケットの転送処理を行なうパケット転送処理部42と、を備えている。パケット転送処理部42は、ゲートウェイルータ28からパケットを受信すると、無線リンク状態管理部38に保持された無線リンクが確立された無線装置24A、24Bのうち、無線リンクが確立した時刻が新しい無線装置24A、24Bにそのパケットを転送するとともに、無線装置24A、24Bから受信したパケットをゲートウェイ28に転送するように構成されている。
【0029】
ゲートウェイルータ28は、有線又は無線によって、列車10内のクライアント端末26と有線LAN又は無線LANを形成し、クライアント端末26から転送されたパケットを無線リンク制御装置30、無線装置24A、24B及びアクセスポイント16A、16B・・・を介してイーサネットスイッチ20に転送するように構成されている。このゲートウェイルータ28には、固有のMACアドレスが製造業者によって割り当てられている。また、ゲートウェイルータ28は、ping発信制御部40から発信されたpingをイーサネットスイッチ20経由で、予め設定した広域ネットワーク18の特定のIPアドレスに向かって発信するように構成されている。
【0030】
イーサネットスイッチ20は、各アクセスポイント16A、16B・・・が接続されたデータポート44A、44B・・・と、広域ネットワーク18に接続されたデータポート46と、転送処理データのMACアドレスとデータポートを対応付けたMAC学習テーブル48と、MAC学習テーブル48の更新処理を実行する更新制御部50と、MAC学習テーブル48を参照してパケットの転送処理を行なう転送処理部52と、を備えている。更新制御部50は、アクセスポイント16A、16B・・・が接続されたデータポート44A、44B・・・のいずれかに移動装置12のゲートウェイルータ28を経由し発信されたpingが入力されると、移動装置12のMACアドレスに対応するデータポートをpingが入力されたものに変更するようにMAC学習テーブル48の更新を実行するよう構成されている。また、データポート44A、44B・・・それぞれは、アクセスポイント16A、16B・・・それぞれに接続されている。なお、本実施例を説明するためにイーサネットスイッチ20の構成を記述しているが、本発明のためには市販されているイーサネットスイッチを利用することが十分可能であり、特別な機能を具備する必要はない。
【0031】
次に、本実施例に係る無線接続システムの動作について図4から8に示すフロー図に基づいて説明する。図4に示すように列車10は、線路14上を高速で移動しており、現在移動装置12の無線装置24Aとアクセスポイント16Aとの無線リンクが確立している。この際、イーサネットスイッチ20のMAC学習テーブル48において、移動装置12のゲートウェイルータ28のMACアドレスは、アクセスポイント16Aが接続されたデータポート44Aに対応付けされている。したがって、広域ネットワーク18からデータポート46を介してイーサネットスイッチ20に転送されたゲートウェイルータ28を宛先アドレスとするパケットは、転送制御部52によってデータポート44Aからアクセスポイント16A及び無線装置24Aを介してゲートウェイルータ28に転送される。一方、移動装置12において、アクセスポイント16A、16B・・・と無線リンクを確立している無線装置24A、24Bは、無線装置24Aだけであるので、無線リンク状態管理部38には、無線装置24Aに関する情報のみが保持されている。したがって、ゲートウェイルータ28から広域ネットワーク18宛に発信されたパケットは、パケット転送処理部42によって無線装置24Aからアクセスポイント16A及びデータポート44Aを介してイーサネットスイッチ20に転送され、さらに転送制御部52によってデータポート46を介して広域ネットワーク18に転送される。また、この状態において、移動装置12の無線装置24Bは、電波を放射することによって、アクセス可能なアクセスポイントを検索している(S100)。
【0032】
次に、列車10が走行し、無線装置24Bがアクセスポイント16Bの無線リンク確立可能領域Yに入ると、図5に示すように無線装置24Bとアクセスポイント16Bは、無線リンクを確立する(S102)。無線リンクが確立すると、無線装置24Bの無線リンク状態通知部36Bは、無線装置24Bがアクセスポイント16Bと無線リンクを確立したことを知らせる信号を無線リンク制御装置30に送信する(S104)。無線リンク制御装置30がその信号を受信すると、無線リンク状態管理部38は、無線装置24Bに関する情報をその無線リンクが確立した時刻とともに保持する(S106)。無線リンク状態管理部38が無線装置24Bの情報を保持すると、ping発信制御部40は、ゲートウェイルータ28、イーサネットスイッチ20を順に経由したのち、予め設定した広域ネットワーク18の特定のIPアドレスへ到達するpingを発信する(S108)。この際、無線リンク状態管理部38に保持された無線装置24A、24Bの情報のうち、無線リンクが確立した時刻が最も新しいのは、無線装置24Bであるので、パケット転送処理部42は、無線リンク状態管理部38を参照することにより、ゲートウェイルータ28から転送されるパケットを無線装置24B経由でイーサネットスイッチ20に転送する(S110)。したがって、図6に示すようにゲートウェイルータ28を経由して発信されたpingは、無線装置24B、アクセスポイント16B及びそれが接続されたデータポート44Bを介してイーサネットスイッチ20に転送される(S112)。
【0033】
pingがデータポート44Bからイーサネットスイッチ20に到着すると、更新制御部50は、MAC学習テーブル48のゲートウェイルータ28のMACアドレスの対応付けられたデータポートをデータポート44Aから44Bに更新する処理を行なう(S114)。これにより、広域ネットワーク18からデータポート46を介してイーサネットスイッチ20に転送されたゲートウェイルータ28を宛先アドレスとするパケットは、図7に示すように転送制御部52によってデータポート44Bからアクセスポイント16B及び無線装置24Bを介してゲートウェイルータ28に転送される。次に、無線装置24Aがアクセスポイント16Aの無線リンク確立可能領域Xから外れると、無線装置24Aとアクセスポイント16Aの無線リンクは、切断され、無線装置24Aは、図8に示すように電波を放射することによって、アクセス可能なアクセスポイントの検索を行なう(S116)。そして、ステップ102〜ステップ114と同様の動作を無線装置24Aにおいて行ない、さらに列車10の走行中にこれらを繰り返し行なうことにより、ハンドオーバーの際のデータの連続性を十分に確保できる。すなわち、本実施例に係る無線接続システムにおいて、各アクセスポイント16A、16B・・・は、それぞれの移動装置12との無線リンク確立可能領域X、Y・・・が隣接する両隣のアクセスポイント16A、16B・・・とのみ重なるように間隔をおいて設置されているので、一方の無線装置の無線リンクが切断される前に、他方の無線装置が新しい無線リンクを確立することができ、ハンドオーバーの際のデータ通信の連続性を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る無線接続システムの実施例の概念ブロック図である。
【図2】本実施例に係る無線接続システムの移動装置の概念ブロック図である。
【図3】本実施例に係る無線接続システムのイーサネットスイッチの概念ブロック図である。
【図4】本実施例に係る無線接続システムの動作を示すフロー図である。
【図5】本実施例に係る無線接続システムの動作を示すフロー図である。
【図6】本実施例に係る無線接続システムの動作を示すフロー図である。
【図7】本実施例に係る無線接続システムの動作を示すフロー図である。
【図8】本実施例に係る無線接続システムの動作を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0035】
10 列車
12 移動装置
14 線路
16A、16B・・・ アクセスポイント
18 広域ネットワーク
20 イーサネットスイッチ
24A、24B 無線装置
28 ゲートウェイルータ
30 無線リンク制御装置
38 無線リンク状態管理部
40 ping発信制御部
42 パケット転送処理部
44A、44B・・・ データポート
48 MAC学習テーブル
50 更新制御部
52 転送制御部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に搭載された移動装置、前記列車の線路に沿って設置された二以上のアクセスポイント、及び該二以上のアクセスポイントと地上ネットワーク間のデータ転送の制御を実行するデータ転送制御装置を備えた列車と地上ネットワークの無線接続システムであって、
前記二以上のアクセスポイントは、いずれも使用する周波数が、隣接するアクセスポイントと異なるように構成されるとともに、前記移動装置との無線リンク確立可能領域が隣接する両隣のアクセスポイントの無線リンク確立可能領域とのみ重なるように設置され、
前記移動装置は、前記二以上のアクセスポイントが使用する周波数の種類数と同数設けられるとともに、それぞれが対応するアクセスポイントと無線リンクを確立可能な二以上の無線装置と、前記二以上の無線装置のうち、前記アクセスポイントのいずれかと無線リンクが確立されている無線装置に関する情報をその無線リンクが確立された時刻とともに保持する無線リンク状態管理部と、前記無線リンク状態管理部に保持された無線装置に関する情報のうち、無線リンクが確立された時刻が最新の無線装置を用いて、前記データ転送制御装置へのデータの転送を実行するデータ転送処理部と、前記無線リンク状態管理部に新しい無線装置に関する情報が保持されると、前記データ転送制御装置に無線装置の変更を伝える変更信号を発信して、前記データ転送処理部によって転送させる変更信号発信部と、を備えており、
前記データ転送制御装置は、前記各アクセスポイント及び地上ネットワークそれぞれに接続された二以上のデータポートと、転送処理データのMACアドレスとデータポートを対応付けたMAC学習テーブルと、該MAC学習テーブルの更新処理を実行する更新制御部と、を備え、前記更新制御部は、前記二以上のデータポートのいずれかに前記変更信号発信部によって発信された変更信号が着信すると、前記移動装置のMACアドレスに対応するデータポートを変更信号が着信されたデータポートに変更するように前記MAC学習テーブルの更新を実行することを特徴とする列車と地上ネットワークの無線接続システム。
【請求項2】
前記移動装置の各無線装置は、前記二以上のアクセスポイントのうち、対応するアクセスポイントの無線リンク確立可能領域に入ると、そのアクセスポイントと無線リンクを確立するよう構成されていることを特徴とする請求項1記載の列車と地上ネットワークの無線接続システム。
【請求項3】
前記各アクセスポイントは、前記移動装置と前記アクセスポイントの新しい無線リンクが確立してから前記更新制御部による前記MAC学習テーブルの更新処理が実行されるまでの間、その新しい無線リンクの確立の他に、少なくとも1以上の前記移動装置と前記アクセスポイントの無線リンクの確立が存在するように、隣接するアクセスポイントとの無線リンク確立可能領域を重ならせて設置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の列車と地上ネットワークの無線接続システム。
【請求項4】
前記二以上のアクセスポイントが使用する周波数は、いずれも隣接するアクセスポイントと電波が干渉しない程度に異なることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の列車と地上ネットワークの無線接続システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−197345(P2006−197345A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7734(P2005−7734)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.イーサネット
【出願人】(502306660)日本テレコム株式会社 (63)
【Fターム(参考)】