説明

列車無線システム及び送信局及び受信局

【課題】 LCX方式を用いた列車無線システムにおいて、送信アンテナ毎に異なった差動符号化マッピングを適用したMIMO伝送方式(PADM)を用いることにより、受信アンテナ数を増やすことなく回線の通信品質を向上させる。
【解決手段】 移動局(送信局)601は2台の送信機7a、7bを備えている。送信機7a、7bは異なる差動符号化マッピングを用いてデータを変調する。変調されたデータはアンテナ8a、8bから各々輻射される。輻射された2波はLCX 4b、中継装置5a、LCX 4aを介して基地局(受信局)101の受信機9にて受信される。受信機9に具備されたPADM復調部2は、異なる差動符号化マッピングにより変調された2波をもとに、上り回線のデータを復調する。PADMを用いれば、受信アンテナ数を増やすことができない回線においても、通信品質を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、列車の乗務員と中央局の指令員との間で通信を行う列車無線システム、特にLCX(Leakage CoaxialCable:漏洩同軸ケーブル)方式を用いた列車無線システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、列車無線システムにおいてはLCXを列車の線路に沿って布設し、そのケーブルから漏洩された電波を用いて通信を行うLCX方式などが実用化されている。
また、LCX方式において、下り回線の通信品質を向上するため、列車に複数アンテナを設置し、移動局において位置ダイバーシチ受信を行う技術が利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−56697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の列車無線システムは位置ダイバーシチ受信を利用することにより、下り回線における通信品質向上は確保することができた。また、列車のアンテナ数を増やし、ダイバーシチ受信数を増加させれば更なる通信品質の向上を確保することも可能であった。しかし、LCX方式を用いた場合の上り回線においては、受信アンテナ数は布設されたLCXの数と同数となる。通常LCXは線路に沿って両側に2本布設されることが最大数であるため、ダイバーシチ受信数を2以上とすることはできず、受信数を増加させることにより通信品質の向上を図ることは困難である。
【0004】
更に、下り回線においては中継方式による多段中継劣化という課題がある。LCXの伝送損失を補うための中継方式として中継装置を直列に接続した多段中継方式を用いた場合、基地局から遠方に位置する移動局からの電波は、複数の中継装置を経由して伝送されるため、経由した中継装置の台数分ノイズが加算されC/N(Carrier to Noise Ratio:搬送波電力対雑音電力比)が劣化し、無線通信に悪影響を及ぼす。以上のような条件により、上り回線での通信品質を向上することは困難であるという課題があった。
【0005】
本発明は、例えば、回線の通信品質を向上させ信頼性を高めることができる無線システムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の列車無線システムは、
送信アンテナ毎に異なった差動符号化マッピングを適用したMIMO(Multiple−Input/Multiple−Output)伝送方式(以後、PADM(per transmit antenna differential mapping)と記述する)を用いて電波を送信する送信局と、
送信局から送信された電波を、PSP(pre−survivor processing)により復調する復調部(以後、PADM復調部と記述する)を有する受信機で受信して通信を行う受信局と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、送信アンテナ毎に異なった差動符号化マッピングを適用したMIMO伝送方式を用いて電波を送信し、PADM復調部を有する受信機によりその電波を受信する。そのため、受信アンテナ数を制限され、ダイバーシチ受信数を増やすことが出来ない状況においても極めて効率的に(高精度で)通信品質が向上する効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1〜図3を用いて実施の形態1を説明する。
【0009】
図1は、この発明の実施の形態1における列車無線システム401の構成の一例を示す図である。図1において、基地局(受信局)101はPADM復調部2(PSP(pre−survivor processing)により復調する復調部)を具備している。3は中央局であり列車運行区間内の複数の基地局101を統括している。4a〜4cはLCX、5a、5bはLCXでの伝送損失を増幅する中継装置、601は移動局(送信局)であり送信機7a、7bを具備している。8a、8bは列車に設置されたアンテナである。
【0010】
図2は上記基地局(受信局)101の構成を示すブロック図である。図2において、基地局101は、PADM復調部2を搭載した受信機9と、この受信機を制御する制御部12と、送信と受信の電波を分離する分波器15を具備する高周波部13とを備えている。
【0011】
図3は上記移動局(送信局)601の構成を示すブロック図である。図3において、移動局(受信局)601はマッピング部(変調部)21a、21bを具備する送信機7a、7bと、これらの送信機を制御する制御部18と、送信と受信の電波を分離する分波器20a、20bを具備した高周波部19とを備えている。高周波部19はアンテナ8a、8bと接続されている。
【0012】
次に図2と図3を用いて動作について説明する。図3の移動局(送信局)601は2台の送信機7a、7bを備えている。送信機7a及び送信機7bは各々異なる差動符号化マッピング(例えば、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying:四位相偏移変調)とπ/4QPSK)を適用したマッピング部(変調部)21a及び21bを具備している。移動局(送信局)601の制御部18が同一のデータを送信機7a、7bに伝送する。送信機に伝送されたデータは送信機内部のマッピング部(変調部)21a、21bにおいて異なる差動符号化マッピングを用いて変調される。送信機7a、7bにより異なる差動符号化マッピングを用いて変調されたデータは高周波部19内の分波器20a、20bを介して、アンテナ8a、8bから各々輻射される。
【0013】
異なる差動符号化マッピングを用いて変調され、送信機7a、7bから送信された2波(但し、データ内容は同一)は図2のLCX 4b、中継装置5a、LCX 4a、基地局(受信局)101の高周波部13内の分波器15を介して受信機9にて受信される。受信機9に具備されたPADM復調部2により、異なる差動符号化マッピングにより変調された2波をもとに上り回線のデータが復調される。
【0014】
PADM復調を用いることにより、上り回線の受信特性を改善することが可能である。
【0015】
以上のように、この実施の形態1によれば、同一データを異なる差動符号化マッピングにより変調して送信する2台の送信機を備えた移動局(送信局)と、PADM復調部を搭載する受信機を備えた基地局(受信局)により、受信アンテナ数を増やすことができない上り回線においても、通信品質を向上させることができる。
【0016】
実施の形態2.
図4〜図6を用いて実施の形態2を説明する。
【0017】
図4は、この発明の実施の形態2における列車無線システム402の構成の一例を示す図である。図4において、基地局(送信局)102は送信機10a、10bを具備している。3は中央局であり列車運行区間内の複数の基地局(送信局)102を統括している。4a〜4cはLCX、5a、5bはLCXでの伝送損失を増幅する中継装置である。移動局(受信局)602はPADM復調部16を搭載した受信機17を具備している。8a、8bは列車に設置されたアンテナである。
【0018】
図5は上記基地局(送信局)102の構成の一例を示すブロック図である。図5において、基地局(送信局)102は、マッピング部(変調部)11a、11bを具備する送信機10a、10bと、これらの送信機10a、10bを制御する制御部12と、送信機10a、10bの電波を合成する分配器14及び電波を分離する分波器15を具備した高周波部13とを備えている。
【0019】
図6は上記移動局(受信局)602の構成の一例を示すブロック図である。図6において、移動局(受信局)602はPADM復調部16を搭載した受信機17と、受信機17を制御する制御部18と、電波を分離する分波器20a、20bを具備した高周波部19とを備えている。高周波部19はアンテナ8a、8bと接続されている。
【0020】
次に図5と図6を用いて動作について説明する。図5の基地局(送信局)102は2台の送信機10a、10bを備えている。送信機10a及び送信機10bは各々異なる差動符号化マッピング(例えば、QPSKとπ/4QPSK)を適用したマッピング部(変調部)11a及び11bを具備している。基地局(送信局)102の制御部12が同一のデータを送信機10a、10bに伝送する。送信機に伝送されたデータは送信機内部のマッピング部(変調部)11a、11bにおいて異なる差動符号化マッピングを用いて変調される。送信機10a、11bにより異なる差動符号化マッピングを用いて変調されたデータは高周波部13内の分配器14、分波器15を介して、LCX 4a〜4cから各々輻射される。
【0021】
異なる差動符号化マッピングを用いて変調され、基地局(送信局)102が送信した2波(但し、データ内容は同一)は列車に設置された図6のアンテナ8a、8b、移動局(受信局)602の高周波部19内の分波器20a、20bを介して受信機17にて受信される。受信機17に具備されたPADM復調部16により、異なる差動符号化マッピングにより変調された2波をもとに下り回線のデータが復調される。
【0022】
PADMを用いることにより、下り回線の受信特性を改善することが可能である。
【0023】
以上のように、この実施の形態2によれば、同一データを異なる差動符号化マッピングにより変調して送信する2台の送信機を備えた基地局(送信局)102と、PADM復調部を搭載する受信機を備えた移動局(受信局)602により、受信アンテナ数を増やすことなく下り回線においても、通信品質を向上させることができる。
【0024】
実施の形態3.
図7〜図9を用いて実施の形態3を説明する。
【0025】
図7は、この発明の実施の形態3における列車無線システム403の構成の一例を示す図である。図7において、基地局(受信局及び送信局)103はPADM復調部2を搭載する受信機9と、送信機10a、10bを具備している。3は中央局であり列車運行区間内の複数の基地局(受信局及び送信局)103を統括している。4a〜4cはLCX、5a、5bはLCXでの伝送損失を増幅する中継装置である。移動局(送信局及び受信局)603はPADM復調部16を搭載した受信機17と、送信機7a、7bを具備している。8a、8bは列車に設置されたアンテナである。
【0026】
図8は上記基地局(受信局及び送信局)103の構成の一例を示すブロック図である。図8において、基地局(受信局及び送信局)103は、PADM復調部2を搭載した受信機9と、マッピング部(変調部)11a、11bを具備する送信機10a、10bと、これらの受信機9、送信機10a、10bを制御する制御部12と、送信機10a、10bの電波を合成する分配器14及び送信と受信の電波を分離する分波器15を具備した高周波部13とを備えている。
【0027】
図9は上記移動局(送信局及び受信局)603の構成の一例を示すブロック図である。図9において、移動局(送信局及び受信局)603はPADM復調部16を搭載した受信機17と、マッピング(変調部)21a、21bを搭載した送信機7a、7bと、受信機17と送信機7a、7bを制御する制御部18と、送信と受信の電波を分離する分波器20a、20bを具備した高周波部19とを備えている。高周波部19はアンテナ8a、8bと接続されている。
【0028】
実施の形態3の動作について、上り回線(移動局が送信し、基地局で受信する回線)は実施の形態1と同様であり、下り回線(基地局で送信し、移動局で受信する回線)は実施の形態2と同様である。
【0029】
PADMを用いることにより、上り回線及び下り回線の受信特性を改善することが可能である。なお、下り回線についての通信品質向上が不要の場合は、基地局103の送信機は1台で良く、移動局603の受信機17にPADM復調部16を具備する必要もない。
【0030】
以上のように、この実施の形態3によれば、同一データを異なる差動符号化マッピングにより変調して送信する複数の送信機を備えた送信局と、PADM復調部を搭載する受信機を備えた受信局により、受信アンテナ数を増やすことなく、通信品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施の形態1における列車無線システムの構成の一例を示す図。
【図2】実施の形態1における列車無線システムの構成要素である基地局(受信局)の構成の一例を示すブロック図。
【図3】実施の形態1における列車無線システムの構成要素である移動局(送信局)の構成の一例を示すブロック図。
【図4】実施の形態2における列車無線システムの構成の一例を示す図。
【図5】実施の形態2における列車無線システムの構成要素である基地局(送信局)の構成の一例を示すブロック図。
【図6】実施の形態2における列車無線システムの構成要素である移動局(受信局)の構成の一例を示すブロック図。
【図7】実施の形態3における列車無線システムの構成の一例を示す図。
【図8】実施の形態3における列車無線システムの構成要素である基地局(受信局及び送信局)の構成の一例を示すブロック図。
【図9】実施の形態3における列車無線システムの構成要素である移動局(送信局及び受信局)の構成の一例を示すブロック図。
【符号の説明】
【0032】
101 基地局(受信局)、102 基地局(送信局)、103 基地局(受信局及び送信局)、2 PADM復調部、3 中央局、4a〜4c LCX、5a〜5b 中継装置、601 移動局(送信局)、602 送信局(移動局)、603 移動局(送信局及び移動局)、7a〜7b 送信機、8a〜8b アンテナ、9 受信機、10a〜10b 送信機、11a〜10b マッピング部(変調部)、12 制御部、13 高周波部、14 分配器、15 分波器、16 PADM復調部、17 受信機、18 制御部、19 高周波部、20a〜20b 分波器、21a〜21b マッピング部(変調部)、401〜403 列車無線システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一データを各々異なるマッピング方式により変調して送信する送信機を複数具備する送信局と、
上記送信局の複数の送信機から異なるマッピング方式により変調して送信されたデータを受信し、その受信したデータを復調する受信機を具備する受信局と、
を備えたことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
同一データを各々異なるマッピング方式により変調して送信する送信機を複数備えたことを特徴とする送信局
【請求項3】
複数の送信機から異なるマッピング方式により変調して送信された同一データをそれぞれ受信し、これらそれぞれ受信したデータをそれぞれ復調する復調部を有する受信機を備えたことを特徴とする受信局。
【請求項4】
上記送信機は、差動符号化マッピングを適用したMIMO(Multiple−Input/Multiple−Output)伝送方式(PADM:per transmit antenna differential mapping)によりデータを変調する変調部を有することを特徴とする請求項1又は2記載の送信局。
【請求項5】
上記受信機の復調部は、複数の送信機から受信したデータをPSP(pre−survivor processing)により復調する復調部を有することを特徴とする請求項1又は3記載の受信局。
【請求項6】
同一データをPADM(per transmit antenna differential mapping)により変調して送信する送信機を複数具備する送信局と、
上記送信局の複数の送信機から送信されたデータをLCX(Leakage Coaxial Cable:漏洩同軸ケーブル)方式により受信し、その受信したデータをPSP(pre−survivor processing)により復調する受信機を具備する受信局と、
を備えたことを特徴とする列車無線システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−295433(P2006−295433A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111768(P2005−111768)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】