説明

列車無線システム

【課題】ピコ的なインフラを大量に設置可能なように送受信の小型RFモジュールを提供すること、及びその小型RFモジュールを用いてインフラを構築・運用する手段を提供する。
【解決手段】Bluetooth基地局は、それぞれDownLink用受信モジュール11、DownLink用送信モジュール12、UpLink用受信モジュール13、UpLink用送信モジュール14を有する。ネットワーク層的に末端の列車の通信装置に接続を図る際に、これらのBluetooth基地局を複数経由して無線で接続することで、局地的な災害等の際に通信ネットワークを最低限維持することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急災害時の列車無線、特に近距離無線通信方式を用いた列車無線システムの構築に関する。
【背景技術】
【0002】
列車無線システムは、列車の乗務員と運転指令所などが音声通話をする際に用いられる無線通信システムである。図1は一般的な列車無線システムの構成を表す概念図である。
【0003】
この列車無線システムは操作卓101、中央装置102、光ファイバ103、基地局111、112、113、列車200、架線201、線路202、車上局203を含んで構成される。
【0004】
操作卓101は、中央装置102などを操作するための列車指令室内の操作用入出力装置である。
【0005】
中央装置102は、各基地局を制御するための制御装置である。
【0006】
基地局111、112、113は、車上局203との間で実際の通信を行うための固定局である。各基地局と中央装置102との間は、光ファイバ103を用いて接続される。
【0007】
光ファイバ103は、各基地局及び中央装置102との間を接続する2重系の光ファイバ網である。図上ではバス型のトポロジで表しているが、ネットワークトポロジはスター型などでも問題ではない。
【0008】
架線201は、列車200に電力を供給するための給電線である。
【0009】
線路202は、列車200の運行のための軌道である。
【0010】
車上局203は、列車200に設置された無線局である。車上局203は各基地局との間で、通信を行うこととなる。
【0011】
この構成下で、災害が発生したときに列車無線システムには以下のような問題が生じる可能性が考えられる。
・送電線による車上への電力供給が止まる。
・線路202から列車200が脱線し、送電線201から給電が停止する。
・車上局203が破損する。
・各基地局への電源供給の停止、物理的、電気的な破壊。
・操作卓101、中央装置102への電源供給の停止、物理的、電気的な破壊。
・光ファイバ103の切断。
【0012】
特にインフラ側設備における災害時のインパクトは大きく、中央装置102との音声通話切断の可能性が大きくなる。車上局203側には正副2系統を用意する等の工夫があるが、インフラ側設備が破壊されてしまうと意味が極めて薄くなってしまう。
【0013】
一般的に、電源供給の停止に対しては、二次電池や太陽電池などで対応する方法などが知られている。また通信網の切断に対しては無線を使用する、インフラの大規模な障害に対してはピコセルを多数用いるインフラ(以下ピコ的なインフラ)で対処する、などの対応が知られている。
【0014】
また、これらの問題への対抗する先行技術としては、特開2005−142990号公報(特許文献1)なども上げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005−142990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、二次電池では充電可能量に限界があり、また太陽電池では発電能力により消費可能電力の上限が決まってくる。当然、この消費電力の中には通信網切断時に用いられる無線通信設備の消費電力も含まれる。
【0017】
本発明の目的は、ピコ的なインフラを大量に設置可能なように送受信の小型RFモジュールを提供すること、及びその小型RFモジュールを用いてインフラを構築・運用する手段を提供することにある。
【0018】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
【0020】
本発明の代表的な実施の形態に関わる列車無線システムは、短距離無線通信仕様に基づく上り方向送信器及び上り方向受信器と、この短距離無線通信仕様と同じ仕様又は異なる仕様の何れかに基づく下り方向送信器及び下り方向受信器と、を含む短距離無線通信用基地局を2以上有し、これらの短距離無線通信用基地局を複数経由して、特定の列車の通信装置と接続を維持することが可能なことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、太陽電池、二次電池などで動作可能な通信網を災害時にも維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一般的な列車無線システムの構成を表す概念図である。
【図2】本発明に関わるBluetooth基地局に付いてのブロック図である。
【図3】Bluetooth通信モジュールの内部構成を表すブロック図である。
【図4】本発明に関わるBluetooth基地局の配置の例に関わる概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の実施の形態においては、便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明する。しかし、特に明示した場合を除き、それは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部又は全部の変形例、詳細、補足説明などの関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数など(個数、数値、量、範囲などを含む)に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合などを除き、その特定の数に限定されるものでなく、特定の数以上でも以下でも良い。
【0024】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素は、特に明示した場合及び原理的に明らかに必須であると考えられる場合を除き、必ずしも必須のものでないことは言うまでもない。
【0025】
以下、図を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
図2は本発明に関わるBluetooth基地局に付いてのブロック図である。
【0027】
本発明におけるBluetooth基地局は、光ファイバ103断線時に無線通信によって接続を維持するための短距離無線通信用基地局である。
【0028】
このBluetooth基地局は、CPU10、DownLink用受信モジュール11、DownLink用送信モジュール12、UpLink用受信モジュール13、UpLink用送信モジュール14、保守用シリアルI/F15を含んで構成される。本Bluetooth基地局に4つの送信モジュール/受信モジュールが用意されている理由は、音声による全二重通信を行う際にDownLinkとUpLinkで送受信が必要となる為である。
【0029】
なお、これらのモジュールには通常の電源による電力供給のほか、二次電池、太陽電池による電力供給も可能なように構成される。このために、緊急時に太陽電池、又は二次電池で動作するにはBluetoothなどの低消費短距離無線規格が採用されている。
【0030】
CPU10は、このBluetooth基地局全体を制御する中央処理装置である。本実施の形態のように組み込み機器に用いる場合には、CPLD(Complex Programable Logic Device)で回路構成をする場合が多いが、これに拘るものでは無い。
【0031】
CPU10は、DownLink(下り方向)用受信モジュール11、DownLink用送信モジュール12、UpLink(上り方向)用受信モジュール13、UpLink用送信モジュール14との間をシリアルインターフェースで接続されている。これらのシリアルインターフェースは単一方向への通信ができればよい。これは、UpLink、DownLinkが固定されているためである。
【0032】
また、CPU10と保守用シリアルI/F15との間もシリアルインターフェースで接続されている。外部からの設定を受け入れる、又は、外部へアクセスログなどを出力する、などの観点から双方向通信が可能であることが望ましい。ただし、機能を制限しても良い場合には、何れか一方向の通信しかできなくとも良い。
【0033】
DownLink用受信モジュール11、DownLink用送信モジュール12、UpLink用受信モジュール13、UpLink用送信モジュール14は、Bluetooth規格に基づく送受信器である。送信モジュールは送信器としての、受信モジュールは受信器としての機能があれば良いが、実際には双方とも同じ送受信モジュールを用意し、その能力を送信器または受信器に制限することになるであろう。また、通常1Chip形式でBluetooth規格に基づく送受信器は構成される。
【0034】
DownLink用受信モジュール11から受信したデータが他のBluetooth基地局宛のものであれば、CPU10はDownLink用送信モジュール12からそのデータをデータリンク層的に隣接するBluetooth基地局に送信する。
【0035】
DownLink用受信モジュール11から受信したデータが自局宛のものであれば、それに関連する処理をCPU10は行う。応答の必要があれば、UpLink用送信モジュール14経由で、データリンク層的には隣接する基地局に、ネットワーク層的には該データの送信元である中央装置102に応答を返す。
【0036】
UpLink用受信モジュール13で受信したデータは、そのままUpLink用送信モジュール14からデータリンク層的に隣接するBluetooth基地局に送信する。なお、後述するが、本システムでは中央装置102をマスタとするマスタ・スレイブ方式でシステムが構成されているため、UpLinkでは自局宛の送信が生じることは無い。このため、UpLinkのCPU10の処理はDownLinkのCPU10の処理より軽くすることが可能となる。
【0037】
図3は、DownLink用受信モジュール11などに適用されるBluetooth通信モジュールの内部構成を表すブロック図である。
【0038】
このBluetooth通信モジュールは、制御モジュール301、RFモジュール302、バンドパスフィルタ303、電圧レギュレータ304を含んで構成される。
【0039】
制御モジュール301は、上位のCPU10から送信される情報源符号化後のデータに冗長性を持たせて、誤り検出・訂正ができる形態にする、ないしは受信したデータに対して誤り検出・訂正を実行するモジュールである。制御モジュール301で取り扱われるデータはデジタルデータである。従って、実際には制御モジュール301はCPUまたはDSPで構成されることが多い。
【0040】
RFモジュール302は、制御モジュール301より送られてくる冗長性のあるデータを伝送路符号化する、あるいはアンテナから受信されたアナログ信号から冗長性のあるデータを取り出すベースバンド処理を行うモジュールである。Bluetoothは2.4GHz帯(ISMバンド)で79チャネルによる周波数ホッピングを伴う通信を行う。これに伴う送受信GFSK変復調処理、周波数ホッピング処理、拡散符号化処理などの諸機能をRFモジュール302が提供する。
【0041】
RFモジュール302では、ミキシングなども行われ、それに伴う高周波クロックの供給も必要とする。ただし、これらについては一般の技術と相違が無いので、本図では省略している。
【0042】
バンドパスフィルタ303は、RFモジュール302で行われるミキシング処理などによって生じる高調波成分などを原因とするノイズを除去するバンドパスフィルタである。
【0043】
電圧レギュレータ304は、制御モジュール301及びRFモジュール302に一定の電圧を供給するレギュレータである。本発明では、通常の動作に用いられる電圧電源、太陽電池、二次電池など、複数の電圧供給源が存在する。このため、電圧レギュレータ304により、制御モジュール301などに一定の電圧を供給することで動作を安定させる必要がある。
【0044】
なお、CPU10が制御モジュール301に対して無線通信を送信あるいは受信のみに制限する機能を持たせることが望ましい。これは単一の処理に特化させることで電力消費を低下させる狙いがある。これにより、DownLink用受信モジュール11、DownLink用送信モジュール12、UpLink用受信モジュール13、UpLink用送信モジュール14の特性の差を持たせることが可能となる。
【0045】
なお、Bluetoothは近距離無線通信を想定した規格であり、無線出力が低い。従って送信用に増幅器を必要とせず、小型化が可能となる。図2のBluetooth基地局の物理的な大きさも例えば5cm×5cm程度の大きさの物を想定する。
【0046】
次に、図2のBluetooth基地局をどのように配置するか説明する。
【0047】
図4は、本発明に関わるBluetooth基地局の配置の例に関わる概念図である。
【0048】
本発明では、線路202沿いに光ファイバ103が並走する形で付設される。この光ファイバ103にはBluetooth基地局121、122、123、124、125が接続されている。なお、図面ではBluetooth基地局は5つしか存在しないが、実際には、これよりもはるかに多い数のBluetooth基地局が必要となる。
【0049】
Bluetooth基地局の配置の間隔は約100mを想定している。これはBluetoothクラス1の通信可能距離(100m)を念頭に置いたものである。このようにすることで、線路沿いのいずれの箇所で車両が停止したとしても、2以上の基地局の通信可能範囲に含まれる。これにより、1のBluetooth基地局への送電が停止したとしても、他のいずれかの基地局でバックアップすることが可能となる。
【0050】
また、既述の通り、Bluetoothにより、各Bluetooth基地局間は無線通信を行えるようになっている。これにより、光ファイバ103が何れか一箇所で断線したとしても、普通区間のみ、または全区間で無線通信を行えるようにする。
【0051】
次に車両内の運用について説明する。
【0052】
車上局203に代えて、本発明に関わる車両内の運行従事者はBluetoothヘッドセット251を着用する。このヘッドセット251には一般的なヘッドセットIDのほかに、列車と同じ編成番号が付与される構成をとる。1つの編成中には同じ編成番号が付与され異なるヘッドセットIDを有するヘッドセット251が複数個存在する。
【0053】
音声会話の主導権は列車司令室側が握ることとなる。すなわち、列車指令室からの音声は、同一の列車内の各ヘッドセットが共通して聞くことができる。司令室は、保守メンテナンスツールで会話したいヘッドセットIDを指定し、Bluetooth基地局を介して現地のヘッドセット251と音声通話を行う。ヘッドセットIDを指定されていないヘッドセットは、指定されたヘッドセットと列車司令室との間の会話のモニタをするだけとなる。
【0054】
また、司令室から指定したヘッドセットと会話を行うために必要な情報としては、上記のヘッドセットID及び編成番号だけでは足らない。通信の上り/下りを表すDirection IDが必要である。このDirection IDは、Bluetooth基地局が有するDownLink用受信モジュール11、DownLink用送信モジュール12、UpLink用受信モジュール13、UpLink用送信モジュール14のいずれを用いて送受信するかを表す。
【0055】
本発明では、緊急災害時に確実な音声伝達を行えることだけを意識している。このため、全区間無線通信を行う場合には、中央装置102より離れたBluetooth基地局になればなるほど、音声の伝播遅延が大きくなることとなる。
【0056】
例えば、20km先のBluetooth基地局の通信可能範囲に存在する列車との間で通信を行おうとする場合には、Bluetooth基地局が200個必要となる。一つのBluetooth基地局で伝播遅延が40msec発生する場合には、8秒もの伝播遅延が生じることとなる。こうなると、同時通話というよりも応答通話となる。
【0057】
この改善のためには、中央装置102の配下に制御局などを配置し、一つの制御局が担当する区間の長さを一定以上にならないようにするなどが考えられる。
【0058】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは言うまでもない。
【0059】
たとえば、上記では上り方向、下り方向で同じBluetooth仕様に基づく送受信器を使用した。これを上りと下りで異なる通信仕様を採用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は緊急災害時に中央装置、基地局が何らかの外的要因によりシステムとして機能しない場合における列車無線システムに適用される。
【符号の説明】
【0061】
121、122、123、124、125…Bluetooth基地局、
200…列車、201…架線、202…線路、203…車上局、
251…ヘッドセット、
301…制御モジュール、302…RFモジュール、
303…バンドパスフィルタ、304…電圧レギュレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短距離無線通信仕様に基づく上り方向送信器及び上り方向受信器と、前記短距離無線通信仕様と同じ仕様又は異なる仕様の何れかに基づく下り方向送信器及び下り方向受信器と、を含む短距離無線通信用基地局を2以上有し、
これらの短距離無線通信用基地局を複数経由して、特定の列車の通信装置と接続を維持することが可能なことを特徴とする列車無線システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−124559(P2012−124559A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271216(P2010−271216)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】