説明

利得測定回路、利得測定方法および通信装置

【課題】スペクトラムアナライザ等の外部測定器を使用することなく、受信器の利得を低コストで測定することができる利得測定回路、利得測定方法および通信装置の提供を図る。
【解決手段】受信信号RXを受け取り、発振器3からのローカル信号LOと混合して中間周波信号IFを出力する周波数混合器12と、前記ローカル信号の一部の信号を取り出して異なる位相を設定し、前記受信信号RXとして出力する位相制御部14と、を有し、前記位相制御部により設定された異なる位相に対して、前記周波数混合器12から出力される中間周波信号における直流電圧を検出し、前記周波数混合器12の変換利得を求めて前記受信器の利得を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、利得測定回路、利得測定方法および通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、車載用レーダや広帯域無線LAN(Local Area Network)といったミリ波帯(30GHz〜300GHz)の高周波信号を利用したシステムが提供されるようになって来ている。具体的に、車載用レーダは、例えば、77GHzの高周波信号を利用している。
【0003】
ところで、最近の半導体集積回路(IC)には、例えば、出荷時の試験に要するコストを低減するために、そのIC自体で試験を行うBIST(Built-In-Self-Test)機能が設けられている。
【0004】
しかしながら、上述したミリ波帯の高周波信号を利用したシステムに適用されるICでは、例えば、受信器の利得を測定するためにスペクトラムアナライザ等の外部測定器を使用しなければならず、試験に要するコストを低減することが困難であった。
【0005】
従来、例えば、受信器の性能を検査し、或いは、高精度に復調処理を行うことができる、ミリ波帯の高周波信号を利用したシステムに適用される様々なICが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−071914号公報
【特許文献2】特開2010−278896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、ミリ波帯の受信器の利得を測定するには、スペクトラムアナライザ等の外部測定器を使用するため、例えば、製品出荷時の試験に要するコストが嵩んでいた。
【0008】
ところで、受信器の利得の測定は、ICの製品出荷時の試験だけでなく、そのICが搭載された装置の電源投入時や使用時においても有用なものである。すなわち、例えば、受信器の利得を測定することで、その受信器の利得を一定に制御する自動利得制御(Automatic Gain Control)機能を搭載することも可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
開示の技術の一実施形態によれば、周波数混合器と、位相制御部と、を有し、前記周波数混合器の変換利得を求めて前記受信器の利得を低コストで算出する、ことを特徴とする受信器の利得測定回路が提供される。
【0010】
前記周波数混合器は、受信信号を受け取り、発振器からのローカル信号と混合して中間周波信号を出力する。前記位相制御部は、前記ローカル信号の一部の信号を取り出して異なる位相を設定し、前記受信信号として出力する。
【0011】
前記位相制御部により設定された異なる位相に対して、前記周波数混合器(12)から出力される中間周波信号における直流電圧を検出し、前記周波数混合器(12)の変換利得を求めて前記受信器の利得を算出する。
【発明の効果】
【0012】
開示の利得測定回路、利得測定方法および通信装置は、スペクトラムアナライザ等の外部測定器を使用することなく、受信器の利得を低コストで測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、通信装置の一例を示すブロック図である。
【図2】図2は、利得測定回路の一例を説明するための図である。
【図3】図3は、利得測定回路の他の例を説明するための図である。
【図4】図4は、第1実施例に係る利得測定回路を示すブロック図である。
【図5】図5は、図4に示す利得測定回路により得られたIFポートの直流成分から受信器の利得を計算する手法を説明するための図である。
【図6】図6は、第1実施例に係る利得測定回路による利得測定方法の処理ルーチンを示す図である。
【図7】図7は、図4に示す利得測定回路によるシミュレーション条件を説明するための図である。
【図8】図8は、図7に示すシミュレーション条件の利得測定回路により得られたシミュレーション結果を示す図である。
【図9】図9は、第2実施例に係る利得測定回路を示すブロック図である。
【図10】図10は、第3実施例に係る利得測定回路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、利得測定回路、利得測定方法および通信装置の実施例を詳述する前に、通信装置および利得測定回路の例、並びに、その利得測定回路における問題点を、図1〜図3を参照して説明する。
【0015】
図1は、通信装置の一例を示すブロック図であり、例えば、車載用レーダに使用される高周波送受信器を概略的に示すものである。図1において、参照符号1は受信器、2は送信器、そして、3は高周波発振器(発振器)を示す。
【0016】
図1に示されるように、受信器1は、低雑音増幅器(LNA:Low Noise Amplifier)11および周波数混合器(ミキサ)12を含む。受信器1において、例えば、アンテナを介して受信された受信信号RXは、LNA11で増幅された後、ミキサ12で復調される。
【0017】
ミキサ12には、受信信号RXをLNA11で増幅した高周波信号RFと発振器3からのローカル信号(搬送波信号)LOが入力され、これらの信号RFおよびLOが混合されて中間周波信号(IF:Intermediate Frequency 信号)が出力信号として出力される。すなわち、ミキサ12は、高周波信号RFと搬送波信号LOの差周波数をIF信号として出力する。
【0018】
送信器2は、ミキサ21および高出力増幅器(PA:Power Amplifier)22を含む。ミキサ21には、入力信号および発振器3からの搬送波信号LOが入力され、その入力信号が搬送波信号LOで変調され、さらに、PA22で増幅された後、例えば、アンテナから送信信号TXとして送信される。
【0019】
ここで、図1に示す通信装置の受信器1には、図4〜図10を参照して後に詳述する本実施例に係る利得測定回路を適用することができる。なお、この通信装置は、車載用レーダに使用される高周波送受信器に限定されるものではなく、例えば、広帯域無線LANを始めとする様々な通信装置であってもよい。
【0020】
図2は、利得測定回路の一例を説明するための図である。ここで、図2(a)は、図1の受信器1に対して、RX信号源4,電力検出器(PD:Power Detector)13およびスペクトラムアナライザ5を追加した利得測定回路の一例を示すものである。また、図2(b)は、ミキサ12からの出力信号(IF出力)に含まれる信号成分を説明するためのものである。
【0021】
ところで、受信器1の利得は、次の式(1)により表される。
受信器の利得=信号IFのレベル/信号RXのレベル (1)
すなわち、受信器1の利得は、例えば、図2(a)において、LNA11の利得(増幅率)と、ミキサ12の信号RFに対する信号IFの変換利得を測定することにより求めることができる。
【0022】
LNA11の増幅率は、周波数変換がないため、入力される信号RXのレベルに対して出力される信号RFのレベルを包絡線検波器などで測定することにより、間単に求めることができる。しかしながら、ミキサ12に関しては、周波数が変換されているため、簡単に測定することはできない。
【0023】
ここで、図2(a)に示す利得測定回路において、ミキサ12からのIF出力の電圧VIFは、次の式(2)により表される。
【数1】

【0024】
上記の式(2)において、『ADC-offset』は、直流のオフセット電圧を示し、また、『AIFcos(|ωLO−ωRF|t)』は、信号IFの周波数成分を有する信号のレベルを示す。さらに、『ALOcos(ωLOt)+ARFcos(ωRFt)』は、搬送波信号LOの周波数成分を有する信号のレベルを示す。なお、式(2)には、上述した信号IFおよびLOの高調波の周波数成分を有する信号も含まれる。
【0025】
すなわち、図2(b)に示されるように、ミキサ12からのIF出力には、IF信号S11だけでなく、DC信号、搬送波信号LOの周波数成分を有する信号S12、並びに、信号RFの周波数成分を有する信号S13が含まれている。
【0026】
ここで、ミキサ12の変換利得は、次の式(3)により表される。
ミキサの変換利得=信号IFのレベル/信号RFの電力
=AIF/PRF (3)
【0027】
このように、IF出力には、IF信号S11(AIF)だけでなく、DC信号や他の周波数成分を有する信号S12,S13等が含まれているため、例えば、包絡線検波器ではそれらを分離することができない。
【0028】
なお、PRFは、例えば、図2(a)におけるPD13で測定したPRXおよびLNA11の増幅率から求めることができる。もちろん、PD13をLNA11の出力に設けて、直接PRXを測定してもよい。
【0029】
このように、図2(a)に示す利得測定回路では、例えば、スペクトラムアナライザ5を使用して周波数成分を分離し、IF出力から図2(b)における信号S11(AIF)取り出す必要がある。また、発振器3からの搬送波信号LOと受信信号RXは周波数が異なるため、発振器3とは別に受信信号RX用のRX信号源4が必要となり、受信器の利得測定に要するコストが嵩むことになる。
【0030】
図3は、利得測定回路の他の例を説明するための図である。ここで、図3(a)は、利得測定回路の他の例を示し、図2の利得測定回路において、RX信号源4の代わりに、発振器3からの搬送波信号LOの一部を受け取って振幅変調(Amplitude Modulation)するAM変調器6を設けたものを示す。
【0031】
さらに、図3(b)は、LNA11からの出力信号(RF出力)に含まれる信号成分を説明するためのものであり、また、図3(c)は、ミキサ12からの出力信号(IF出力)に含まれる信号成分を説明するためのものである。
【0032】
図3(a)に示す利得測定回路の他の例では、RX信号源4を不要にすることはできるが、AM変調器6により搬送波信号LOの一部を取り出してAM変調をかけ、その信号を受信器へ入力する。
【0033】
すなわち、AM変調器6によりωmの各周波数で変調をかけることで、cos(ωLO+ωm)tおよびcos(ωLO−ωm)tの信号を発生して搬送波信号LOによるcos(ωLOt)を掛け合わせるため、IF出力としてcos(ωm)tが出力される。
【0034】
ここで、図3(a)に示す利得測定回路において、ミキサ12からのIF出力の電圧VIFは、次の式(4)により表される。
【数2】

【0035】
上記の式(4)において、『Aoffset』は、直流のオフセット電圧を示し、また、『AIFcos(ωmt)』は、信号IFの周波数成分を有する信号のレベルを示す。さらに、『AIF2cos(2ωmt)』は、搬送波信号LOの漏れに起因した不要波のレベルを示す。なお、式(4)には、『Aimagecos(ωLO−ωm)t』や『ALOcos(ωLOt)』、並びに、上述した各信号の高調波の周波数成分を有する信号も含まれる。
【0036】
すなわち、図3(b)に示されるように、LNA11からのRF出力には、AM変調器6によりAM変調された信号S22およびS23だけでなく、搬送波信号LOの漏れによる信号S21が含まれる。
【0037】
そのため、図3(c)に示されるように、ミキサ12からのIF出力には、IF信号S31だけでなく、直流のオフセット電圧や信号LO,RFの周波数成分の信号、並びに、それらの高調波の周波数成分(例えば、2倍波(cos(2ωmt)の信号が混在する。
【0038】
その結果、ミキサ12による変換利得を求めるには、スペクトラムアナライザ5を使用して周波数成分を分離しなければならず、受信器の利得測定に要するコストが嵩むことになる。
【0039】
以下、利得測定回路、利得測定方法および通信装置の実施例を、添付図面を参照して詳述する。図4は、第1実施例に係る利得測定回路を示すブロック図である。
【0040】
図4において、参照符号3は発振器(LO信号源)、7は電圧測定器、11は低雑音増幅器(LNA)、12は周波数混合器(ミキサ)、13は電力検出器(PD)、14は位相制御部(可変位相器)、そして、15および16は結合器(カプラ)を示す。
【0041】
図4に示されるように、本第1実施例の利得測定回路は、LO信号源3からのローカル信号LOの一部の信号を、カプラ16を介して取り出し、その取り出した信号を、可変位相器14へ入力する。
【0042】
可変位相器14は、入力された信号(LOの一部)の位相を変化させてカプラ15を介してLNA11(受信器1)へ入力する。なお、カプラ15を介してLNA11へ入力する信号の可変位相器14による位相制御は、後に詳述するように、理論的には180°を除く少なくとも異なる2つの位相となるように制御すればよい。
【0043】
LNA11の入力には、PD13が設けられていて、LNA11へ入力する信号の電力を検出する。ミキサ12のIFを出力するポートには電圧測定器7が設けられていて、ミキサ12からのIF出力における直流電圧を測定するようになっている。
【0044】
なお、電圧測定器7は、直流電圧を測定する直流(DC)電圧測定回路の代わりに、例えば、アナログ/デジタル変換器(A/Dコンバータ)とし、IF出力のアナログレベルをデジタルコードへ変換して出力することもできる。
【0045】
また、電圧測定器(DC電圧測定回路またはA/Dコンバータ)7は、例えば、受信器1が形成される半導体集積回路(IC:通信装置)に内蔵してもよいが、ICの外部に設けることもできる。
【0046】
ここで、図4に示す本第1実施例の利得測定回路において、ミキサ12からのIF出力の電圧VIFは、次の式(5)により表される。
【数3】

【0047】
上記の式(5)において、『ADC-offset』は、直流のオフセット電圧を示し、また、『AIFcos(φ)』は、信号IFの振幅(波の中心からの最大偏差)の電圧を示す。さらに、『(ALO+ARF)cos(ωLOt)』は、信号LOの周波数成分を有する信号のレベルを示す。なお、式(4)には、例えば、上述した信号LOの周波数成分を有する信号の高調波等の周波数成分を有する信号も含まれる。
【0048】
ここで、『ADC-offset』および『AIFcos(φ)』(AIF)は、IF出力(VIF)の直流電圧成分であり、次の式(6)により表される。
IF出力の直流電圧成分=ADC-offset+AIFcos(φ) (6)
【0049】
また、前述した式(3)のように、ミキサの変換利得は、AIF/PRFにより求めることができる。なお、図4に示す利得測定回路において、PRFは、LNA11の入力信号の電力を検出するPD13の検出結果、および、LNA11の増幅度から簡単に求められる。従って、信号IFの振幅『AIF』を求めることにより、ミキサの変換利得、すなわち、受信器の利得を計算することができる。
【0050】
図5は、図4に示す利得測定回路により得られたIFポートの直流成分から受信器の利得を計算する手法を説明するための図である。
【0051】
上述した式(6)から明らかなように、信号IFの振幅『AIF』を求めるには、『IF出力の直流電圧成分』から、ミキサの変換利得(受信器の利得)とは関係のない直流のオフセット電圧『ADC-offset』を除去する必要がある。
【0052】
すなわち、可変位相器14による位相φを連続的に変化させることで図5のような波形が得られ、この波形から直流のオフセット電圧『ADC-offset』の平均値、並びに、信号IFの振幅『AIF』(2×AIF)を求めることができる。
【0053】
具体的に、図5に示す波形において、最大振幅と最小振幅の差電圧が『2×AIF』になるため、(『IF出力の直流電圧成分』−『ADC-offset』)/2としてAIFを求めることができる。なお、可変位相器14による位相φの制御は、連続的に変化させる必要はなく、論理的には180°を除く異なる2つの位相に変化させるだけでもAIFを求めることができる。
【0054】
これは、前述した式(6)において、『IF出力の直流電圧成分』は電圧測定器7により測定されるため変数は『AIF』および『ADC-offset』の2つになり、既知の180°を除く異なる2つの位相(関数)φを与えることで2つの変数を決定できるからである。
【0055】
そして、振幅『AIF』が求められると、ミキサ12の変換利得、並びに、受信器1の利得を計算することができる。すなわち、前述した図2(a)における外部信号源(RX信号源)4、並びに、図2(a)および図3(a)におけるスペクトラムアナライザ5を使用することなく、受信器の利得を求めることが可能になる。
【0056】
このように、例えば、スペクトラムアナライザ等を使用することなく、受信器が形成された半導体集積回路自体のBIST機能により受信器の利得を測定することができると、製品出荷時の試験に要するコストを低減することが可能になる。
【0057】
さらに、受信器の利得測定を、その受信器を使用する装置の電源投入時や使用時に行うことにより、例えば、受信器の自動利得制御(AGC)機能を搭載することも可能になる。
【0058】
図6は、第1実施例に係る利得測定回路による利得測定方法の処理ルーチンを示す図であり、変換利得算出回路8と共に示すものである。
【0059】
ここで、変換利得算出回路8には、前述した図5における電圧測定器(DC電圧測定回路)またはA/Dコンバータ7、並びに、RF信号レベル検出回路81が設けられている。なお、LNA11の入力は、受信信号RXを受信するアンテナ9に接続されている。
【0060】
変換利得算出回路8は、可変位相器14における位相を連続的に、或いは、180°を除く異なる2つの位相に変化させ、さらに、ミキサ12からのIF出力における直流電圧を電圧測定器7により測定する。
【0061】
RF信号レベル検出回路81は、PD13により検出された信号RXの電力およびLNA11の増幅度等から信号RFのレベルPRFを検出(計算)する。さらに、変換利得算出回路8では、図5を参照して説明したように、信号IFの振幅『AIF』および信号RFのレベルPRFからミキサ12の変換利得を求める。
【0062】
以上において、変換利得算出回路8は、受信器1,或いは,送受信器が形成された半導体集積回路(IC)に内蔵させることができるが、別の回路として構成することも可能である。
【0063】
図7は、図4に示す利得測定回路によるシミュレーション条件を説明するための図であり、図8は、図7に示すシミュレーション条件の利得測定回路により得られたシミュレーション結果を示す図である。
【0064】
図7に示されるように、シミュレーションの条件として、LO信号源3は77GHzで+3dBmの高周波信号LOを出力し、カプラ15および16はそれぞれ−20dBおよび−10dBの結合利得を有するものとした。なお、可変位相器14による位相の変化量は0°〜180°で利得は0dBとした。
【0065】
そして、可変位相器14とカプラ15の間に、減衰量が0dB〜−40dBで位相の変化量が0°の可変減衰器10を挿入してシミュレーションを行った。
【0066】
具体的に、まず、可変減衰器10の減衰量を−40dBとし、可変位相器14による位相変化量を0°として、LNA11の出力における電力PRFをPD13で検出した。さらに、可変位相器14により位相を順次変化させ、そのときのミキサ12からのIF出力の直流電圧レベルを電圧測定器7により測定した。
【0067】
これにより、可変減衰器10の減衰量が−40dBのときの振幅(2×AIF)、すなわち、PRFが、3−10+0−40−20+20=−47[dBm]のときの『2×AIF』をプロットした。さらに、可変減衰器10の減衰量を−40dBから0dBへ順に変化させて同様の処理を行うことにより、図8に示されるようなシミュレーション結果が得られた。
【0068】
図8から明らかなように、信号RFのレベル(すなわち、受信信号RXのレベル)に対応して、ミキサ12から出力される信号IFの振幅『2×AIF』(すなわち、信号IFの直流成分)が増加することが確認できた。
【0069】
図9は、第2実施例に係る利得測定回路を示すブロック図である。本第2実施例の利得測定回路では、低雑音増幅器はその増幅度が可変できるLNA110とされ、変換利得算出回路8の出力により、ミキサ12の変換利得が低い場合にはLNA110の増幅度を上げ、逆に、変換利得が高い場合にはLNA110の増幅度を下げて変換利得を一定に制御する。
【0070】
すなわち、受信器の利得が高い場合には、LNA110の増幅度を下げると共に、受信器の利得が高い場合には、LNA110の増幅度を下げることにより、受信器の利得を一定に制御するAGC機能を実現するものである。
【0071】
ここで、変換利得算出回路8は、受信器または送受信器が形成された半導体集積回路に内蔵させることにより、受信器の利得を一定に制御するAGC機能を有する半導体集積回路として提供することが可能になる。
【0072】
これにより、受信器または送受信器が形成された半導体集積回路の歩留りを向上させることができ、さらに、半導体集積回路の付加価値を向上させることができる。
【0073】
図10は、第3実施例に係る利得測定回路を示すブロック図であり、発振器(LO信号源)が周波数可変のLO信号源30とされている。すなわち、本第3実施例の利得測定回路では、周波数可変のLO信号源30によりLO信号の周波数を可変にすることで、異なる周波数に対する利得を測定することができる。
【0074】
これは、例えば、LNA11やミキサ12は、一般的に、入力する信号(RX,RF,LO)の周波数によって利得が異なる特性を有しており、例えば、設計した周波数で最も利得が高くなるようにしている。
【0075】
そのため、本第3実施例の利得測定回路のように、信号LOの周波数を変化させて受信器の利得を求め、その利得の値を利用することにより、各回路の設定を調整し、或いは、設定値を変更するといった様々な変更および制御を可能にすることができる。
【0076】
なお、上述した通信装置は、車載用レーダに使用される高周波送受信器に限定されるものではなく、例えば、広帯域無線LANを始めとする様々な通信装置において、BIST機能により、例えば、製品出荷時の試験を低コストで短時間に行うことができる。
【0077】
さらに、受信器の利得測定を、その受信器を使用する装置の電源投入時や使用時に行うことにより、例えば、受信器の自動利得制御(AGC)機能を搭載することも可能になる。
【0078】
以上の実施例を含む実施形態に関し、さらに、以下の付記を開示する。
(付記1)
受信信号を受け取り、発振器からのローカル信号と混合して中間周波信号を出力する周波数混合器と、
前記ローカル信号の一部の信号を取り出して異なる位相を設定し、前記受信信号として出力する位相制御部と、を有し、
前記位相制御部により設定された異なる位相に対して、前記周波数混合器から出力される中間周波信号における直流電圧を検出し、前記周波数混合器の変換利得を求めて前記受信器の利得を算出する、
ことを特徴とする受信器の利得測定回路。
【0079】
(付記2)
前記位相制御部は、
前記ローカル信号の一部の信号を、180°を除く、少なくとも異なる2つの位相に変化させる可変位相器を含む,
ことを特徴とする付記1に記載の利得測定回路。
【0080】
(付記3)
さらに、
前記ローカル信号の一部の信号を取り出して前記可変位相器に出力する第1結合器と、
前記可変位相器の出力信号の一部を前記受信信号として出力する第2結合器と、
を含むことを特徴とする付記2に記載の利得測定回路。
【0081】
(付記4)
前記可変位相器は、前記ローカル信号の一部の信号の位相を連続的に変化させる、
ことを特徴とする付記2または付記3に記載の利得測定回路。
【0082】
(付記5)
さらに、
前記受信信号を増幅して前記周波数混合器へ出力する低雑音増幅器を含む、
ことを特徴とする付記1乃至付記4のいずれか1項に記載の利得測定回路。
【0083】
(付記6)
さらに、
前記受信信号、または、前記低雑音増幅器の出力信号の電力を検出する電力検出器を含む、
ことを特徴とする付記5に記載の利得測定回路。
【0084】
(付記7)
さらに、
前記周波数混合器から出力される中間周波信号における直流電圧を測定する電圧測定器と、
前記電圧測定器の出力、前記電力検出器の出力、および、前記可変位相器により設定された位相から、前記周波数混合器の変換利得を算出する変換利得算出回路と、
を有することを特徴とする付記6に記載の利得測定回路。
【0085】
(付記8)
前記電圧測定器は、直流電圧測定回路、または、アナログ/デジタル変換器である、
ことを特徴とする付記7に記載の利得測定回路。
【0086】
(付記9)
前記低雑音増幅器は、増幅度が可変とされ、
前記変換利得算出回路は、前記低雑音増幅器の増幅度を可変して前記受信器の利得を一定に制御する、
ことを特徴とする付記7に記載の利得測定回路。
【0087】
(付記10)
前記発振器は、発信周波数が可変とされ、
前記発振器の発信周波数を可変して、前記受信信号の周波数に対する前記受信器の利得の特性を求める、
ことを特徴とする付記7に記載の利得測定回路。
【0088】
(付記11)
受信信号を受け取り、発振器からのローカル信号と混合して中間周波信号を出力する周波数混合器を有する受信器の利得測定方法であって、
前記ローカル信号の一部の信号を取り出し、180°を除く少なくとも異なる2つの位相を設定し、前記受信信号として出力し、
前記設定された異なる位相に対して、前記周波数混合器から出力される中間周波信号における直流電圧を検出し、
前記受信信号、または、前記受信信号を増幅する低雑音増幅器の出力信号の電力を測定し、
前記中間周波信号における直流電圧、前記設定された少なくとも異なる2つの位相、および、前記受信信号または前記低雑音増幅器の出力信号の電力により、前記周波数混合器の変換利得を算出し、前記受信器の利得を測定する、
ことを特徴とする受信器の利得測定方法。
【0089】
(付記12)
前記低雑音増幅器は、増幅度が可変とされ、
前記算出された変換利得に従って前記低雑音増幅器の増幅度を可変し、前記受信器の利得を一定に制御する、
ことを特徴とする利得測定方法。
【0090】
(付記13)
前記発振器は、発信周波数が可変とされ、
前記発信周波数を可変して、前記受信信号の周波数に対する前記受信器の利得の特性を求める、
ことを特徴とする利得測定方法。
【0091】
(付記14)
付記1乃至付記10のいずれか1項に記載の利得測定回路を含む受信器と、
送信信号を送信する送信器と、を有することを特徴する通信装置。
【0092】
(付記15)
前記通信装置は、1つの半導体集積回路である、
ことを特徴とする付記14に記載の通信装置。
【符号の説明】
【0093】
1 受信器
2 送信器
3、30 高周波発振器(発振器,LO源)
4 RX信号源
5 スペクトラムアナライザ
6 AM変調器
7 電圧測定器(DC電圧測定回路,A/Dコンバータ)
8 変換利得算出回路
9 アンテナ
10 可変減衰器
11、110 低雑音増幅器(LNA)
12,21 周波数混合器(ミキサ)
13 電力検出器(PD)
14 位相制御部(可変位相器)
15,16 結合器(カプラ)
22 高出力増幅器(PA)
81 RF信号レベル検出回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号を受け取り、発振器からのローカル信号と混合して中間周波信号を出力する周波数混合器と、
前記ローカル信号の一部の信号を取り出して異なる位相を設定し、前記受信信号として出力する位相制御部と、を有し、
前記位相制御部により設定された異なる位相に対して、前記周波数混合器から出力される中間周波信号における直流電圧を検出し、前記周波数混合器の変換利得を求めて前記受信器の利得を算出する、
ことを特徴とする受信器の利得測定回路。
【請求項2】
前記位相制御部は、
前記ローカル信号の一部の信号を、180°を除く、少なくとも異なる2つの位相に変化させる可変位相器を含む,
ことを特徴とする請求項1に記載の利得測定回路。
【請求項3】
さらに、
前記受信信号を増幅して前記周波数混合器へ出力する低雑音増幅器を含む、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の利得測定回路。
【請求項4】
さらに、
前記受信信号、または、前記低雑音増幅器の出力信号の電力を検出する電力検出器を含む、
ことを特徴とする請求項3に記載の利得測定回路。
【請求項5】
さらに、
前記周波数混合器から出力される中間周波信号における直流電圧を測定する電圧測定器と、
前記電圧測定器の出力、前記電力検出器の出力、および、前記可変位相器により設定された位相から、前記周波数混合器の変換利得を算出する変換利得算出回路と、
を有することを特徴とする請求項4に記載の利得測定回路。
【請求項6】
前記低雑音増幅器は、増幅度が可変とされ、
前記変換利得算出回路は、前記低雑音増幅器の増幅度を可変して前記受信器の利得を一定に制御する、
ことを特徴とする請求項5に記載の利得測定回路。
【請求項7】
前記発振器は、発信周波数が可変とされ、
前記発振器の発信周波数を可変して、前記受信信号の周波数に対する前記受信器の利得の特性を求める、
ことを特徴とする請求項5に記載の利得測定回路。
【請求項8】
受信信号を受け取り、発振器からのローカル信号と混合して中間周波信号を出力する周波数混合器を有する受信器の利得測定方法であって、
前記ローカル信号の一部の信号を取り出し、180°を除く少なくとも異なる2つの位相を設定し、前記受信信号として出力し、
前記設定された異なる位相に対して、前記周波数混合器から出力される中間周波信号における直流電圧を検出し、
前記受信信号、または、前記受信信号を増幅する低雑音増幅器の出力信号の電力を測定し、
前記中間周波信号における直流電圧、前記設定された少なくとも異なる2つの位相、および、前記受信信号または前記低雑音増幅器の出力信号の電力により、前記周波数混合器の変換利得を算出し、前記受信器の利得を測定する、
ことを特徴とする受信器の利得測定方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の利得測定回路を含む受信器と、
送信信号を送信する送信器と、を有することを特徴する通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−98693(P2013−98693A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238635(P2011−238635)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】