説明

到来波追跡方法及び到来波追跡プログラム

【課題】測定した受信位置と電波の到来方向を用いて、膨大な測定データから到来波の追跡を自動的に行うことができる到来波追跡方法及び到来波追跡プログラムを提供すること。
【解決手段】本発明の到来波追跡方法は、第1受信位置における到来方向データαと第1受信位置に隣接する第2受信位置における到来方向データβとの間の差分値|α−β|が所定の閾値以下である第1条件を満たすレイを抽出し、差分値|α−β|が所定の閾値以下であるレイについての到来方向データαと到来方向データβとから到来方向の傾きG|α−β|を求め、第2受信位置に隣接する第3受信位置における到来方向データγとレイについての到来方向データβとから到来方向の傾きG|β−γ|を求め、傾きG|α−β|と傾きG|β−γ|との間の差分値|G|α−β|−G|β−γ||が所定の閾値以下である第2条件を満たすレイを抽出し、このレイを到来波とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信システムにおける到来波追跡方法及び到来波追跡プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)ネットワークにおいては、周波数利用効率の向上、データレートの向上を目的として、HSDPA(High Speed Downlink Packet Access)やHSUPA(High Speed Uplink Packet Access)を採用することにより、W-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)をベースとしたシステムの特徴を最大限に引き出すことが行われている。このUMTSネットワークについては、更なる高速データレート、低遅延などを目的としてロングタームエボリューション(LTE:Long Term Evolution)システムが検討されている。LTE方式のシステムにおいては、1.4MHz〜20MHzの可変帯域を用いて、下り回線で最大300Mbps及び上り回線で75Mbps程度の伝送レートを実現できる。
【0003】
ところで、複数のアンテナでデータを送受信し、スループット、周波数利用効率を向上させる無線通信技術としてMIMO(Multiple Input Multiple Output)伝送が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。LTE方式のシステムでは、下りリンクMIMOモードとして、空間多重伝送モード(SU−MIMO(Single User MIMO))と、送信ダイバーシチ伝送モードの2つが規定されている。
【0004】
MIMO伝送を利用した移動通信システムを評価する際には、SCM(Spatial Channel Model)に代表されるGSCM(Geometry Based Stochastic Channel Model)を利用することが一般的である。GSCMでは、到来波に対して、遅延時間及び到来方向を統計的に与える。また、上記のようなMIMO伝送を利用した移動通信システムにおいて、AMC(Automatic Modulation Control)やランクアダプテーョンなどの動的リソース割当技術を用いたシステムを評価する際には、上記GSCMにおいて、到来波の遅延時間や到来方向を移動端末の移動に伴って連続的に変化するダイナミックチャネル特性を模擬する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】3GPP TR 25.913[1]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
システムを現実に近い環境で評価するためには、チャネルモデルが実環境を忠実に模擬している方が望ましく、そのため、チャネルモデルのパラメータは、実環境で測定したデータから抽出する方が望ましい。そのため、到来波の遅延時間や到来方向の変化の特性についても測定データから抽出する必要がある。この際、到来波を追跡し、到来角度及び遅延時間の変化特性及び到来波の生起から消滅までのライフスパンなどの特性について明らかにする必要がある。上記のチャネルモデルにおいては、統計的な特性を明らかにすることが必要であるため、膨大な測定データから到来波の追跡を自動的に行う必要がある。
【0007】
また、MIMO伝送を利用した移動通信システムにおいて、動的リソース割当技術を用いたシステムを評価するためには、測定データから到来波を追跡し、ダイナミックチャネル特性をシミュレートするためのパラメータを抽出する必要がある。上記のチャネルモデルには統計的な特性が必要なために、到来波の追跡は膨大な測定データを対象として、自動的に行う必要がある。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、測定した受信位置と電波の到来方向を用いて、膨大な測定データから到来波の追跡を自動的に行うことができる到来波追跡方法及び到来波追跡プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の到来波追跡方法は、電波の到来方向と受信位置のデータとに基づいて到来波を追跡する方法であって、第1受信位置における到来方向データαと前記第1受信位置に隣接する第2受信位置における到来方向データβとの間の差分値|α−β|が所定の閾値以下である第1条件を満たすレイを抽出する工程と、前記差分値|α−β|が所定の閾値以下であるレイについての到来方向データαと到来方向データβとから到来方向の傾きG|α−β|を求める工程と、前記第2受信位置に隣接する第3受信位置における到来方向データγと前記レイについての到来方向データβとから到来方向の傾きG|β−γ|を求める工程と、前記傾きG|α−β|と前記傾きG|β−γ|との間の差分値|G|α−β|−G|β−γ||が所定の閾値以下である第2条件を満たすレイを抽出し、このレイを到来波とする工程と、を具備することを特徴とする。
【0010】
この方法によれば、前記第1条件及び第2条件を満たすレイを抽出することにより、受信位置と到来方向(角度)との間の関係において略連続的に変化しているレイを求めることができるので、膨大な測定データから到来波を自動的に追跡することが可能となる。
【0011】
本発明の到来波追跡方法においては、前記第3受信位置よりも後段の少なくとも一つの受信位置において前記第2条件を満たすレイを抽出する工程を具備することが好ましい。
【0012】
本発明の到来波追跡方法においては、前記第1条件を満たすレイが複数存在する場合において、一つのレイに対して前記第2条件を満たすかどうか判定し、当該一つのレイが前記第2条件を満たす場合には、当該一つのレイを到来波とし、当該一つのレイが前記第2条件を満たさない場合には、別のレイに対して前記第2条件を満たすかどうか判定し、当該別のレイが前記第2条件を満たす場合には、当該別のレイを到来波とする工程を具備することが好ましい。
【0013】
本発明の到来波追跡方法においては、前記第1条件を満たすレイ及び前記第2条件を満たすレイに識別情報を付与する工程を具備することが好ましい。
【0014】
本発明の到来波追跡プログラムは、コンピュータに、電波の到来方向と受信位置のデータとに基づいて到来波の追跡を実行させる到来波追跡プログラムであって、前記到来波追跡プログラムは、第1受信位置における到来方向データαと前記第1受信位置に隣接する第2受信位置における到来方向データβとの間の差分値|α−β|が所定の閾値以下である第1条件を満たすレイを抽出する手順と、前記差分値|α−β|が所定の閾値以下であるレイについての到来方向データαと到来方向データβとから到来方向の傾きG|α−β|を求める手順と、前記第2受信位置に隣接する第3受信位置における到来方向データγと前記レイについての到来方向データβとから到来方向の傾きG|β−γ|を求める手順と、前記傾きG|α−β|と前記傾きG|β−γ|との間の差分値|G|α−β|−G|β−γ||が所定の閾値以下である第2条件を満たすレイを抽出し、このレイを到来波とする手順と、を含むことを特徴とする。
【0015】
このプログラムによれば、前記第1条件及び第2条件を満たすレイを抽出することにより、受信位置と到来方向(角度)との間の関係において略連続的に変化しているレイを求めることができるので、膨大な測定データから到来波を自動的に追跡することが可能となる。
【0016】
本発明の到来波追跡プログラムにおいては、前記第3受信位置よりも後段の少なくとも一つの受信位置において前記第2条件を満たすレイを抽出する手順を含むことが好ましい。
【0017】
本発明の到来波追跡プログラムにおいては、前記第1条件を満たすレイが複数存在する場合において、一つのレイに対して前記第2条件を満たすかどうか判定し、当該一つのレイが前記第2条件を満たす場合には、当該一つのレイを到来波とし、当該一つのレイが前記第2条件を満たさない場合には、別のレイに対して前記第2条件を満たすかどうか判定し、当該別のレイが前記第2条件を満たす場合には、当該別のレイを到来波とする手順を含むことが好ましい。
【0018】
本発明の到来波追跡プログラムにおいては、前記第1条件を満たすレイ及び前記第2条件を満たすレイに識別情報を付与する手順を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の到来波追跡方法は、第1受信位置における到来方向データαと前記第1受信位置に隣接する第2受信位置における到来方向データβとの間の差分値|α−β|が所定の閾値以下である第1条件を満たすレイを抽出し、前記差分値|α−β|が所定の閾値以下であるレイについての到来方向データαと到来方向データβとから到来方向の傾きG|α−β|を求め、前記第2受信位置に隣接する第3受信位置における到来方向データγと前記レイについての到来方向データβとから到来方向の傾きG|β−γ|を求め、前記傾きG|α−β|と前記傾きG|β−γ|との間の差分値|G|α−β|−G|β−γ||が所定の閾値以下である第2条件を満たすレイを抽出し、このレイを到来波とするので、測定した受信位置と電波の到来方向を用いて、膨大な測定データから到来波の追跡を自動的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法の他の例を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法を実行する装置の概略構成を示す図である。
【図4】実測された到来方向データの例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法で用いられる、到来方向と受信位置とを関連づけたテーブルを示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法で用いられる、到来方向と受信位置とを関連づけたテーブルを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法で用いられる、到来方向データ間の差分値を管理するテーブルを示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法で用いられる、到来方向と受信位置とを関連づけたテーブルを示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法で用いられる、レイIDと到来方向と受信位置と到来方向の傾きとを関連づけたテーブルを示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法で用いられる、到来方向の傾きの差分値を管理するテーブルを示す図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法で用いられる、レイIDと到来方向と受信位置と到来方向の傾きとを関連づけたテーブルを示す図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法で用いられる、レイIDと到来方向と受信位置とを関連づけたテーブルを示す図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、受信側装置において受信位置と到来方向との関係を鋭意検討した結果、同じ到来波については、受信位置と到来方向(角度)との間の関係において略連続的に変化していることを見出した。したがって、受信位置と到来方向(角度)との情報に基づいて、受信位置と到来方向(角度)との間の関係において略連続的に変化する(極端な変化がない)レイを到来波とすることにより、膨大な測定データから到来波の追跡を自動的に行うことを見出し本発明をするに至った。ここで、略連続的に変化するレイを抽出する際には、互いに隣接する到来方向データαと到来方向データβとから得られる到来方向の傾きG|α−β|と、互いに隣接する到来方向データγと到来方向データβとから得られる到来方向の傾きG|β−γ|との間の差分値|G|α−β|−G|β−γ||が所定の閾値以下であるという条件(第2条件)を基準とする。なお、本発明において、到来方向(角度)とは、略水平方向における到来方向(角度)を意味する。
【0022】
すなわち、本発明の骨子は、電波の到来方向と受信位置のデータとに基づいて到来波を追跡する際に、第1受信位置における到来方向データαと前記第1受信位置に隣接する第2受信位置における到来方向データβとの間の差分値|α−β|が所定の閾値以下である第1条件を満たすレイを抽出し、前記差分値|α−β|が所定の閾値以下であるレイについての到来方向データαと到来方向データβとから到来方向の傾きG|α−β|を求め、前記第2受信位置に隣接する第3受信位置における到来方向データγと前記レイについての到来方向データβとから到来方向の傾きG|β−γ|を求め、前記傾きG|α−β|と前記傾きG|β−γ|との間の差分値|G|α−β|−G|β−γ||が所定の閾値以下である第2条件を満たすレイを抽出し、このレイを到来波とすることにより、測定した受信位置と電波の到来方向を用いて、膨大な測定データから到来波の追跡を自動的に行うことである。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法を説明するための図である。ここでは、受信位置が移動局位置であり、各移動局位置における到来方向を測定した到来方向データを用いる場合について説明する。
【0024】
図1において、移動局位置A(第1受信位置)で到来波が観測されており、この到来波に対して到来角度の差分値が所定の閾値X以下である波をサーチする。すなわち、まず、移動局位置Aにおける到来方向データαと移動局位置Aに隣接する移動局位置B(第2受信位置)における到来方向データβとの間の差分値|α−β|が所定の閾値X以下である第1条件を満たすレイを抽出する。図1においては、移動局位置Aにおける到来方向データαと移動局位置Bにおける到来方向データβとの間の差分値|α−β|は所定の閾値Xを超えるが、移動局位置Aにおける到来方向データαと移動局位置Bにおける到来方向データβとの間の差分値|α−β|は所定の閾値X以下である。このため、差分値|α−β|であるレイを到来波として抽出する。このとき、差分値|α−β|が所定の閾値X以下であるレイについての到来方向データαと到来方向データβとから到来方向の傾きG|α−β2|を次式のように求める。
傾きG|α−β2|=(到来方向α−到来方向β)/AB間の距離 (1)
【0025】
次いで、移動局位置Bに隣接する移動局位置C(第3受信位置)における到来方向データγと前記レイについての到来方向データβとから到来方向の傾きG|β−γ|を求める。そして、前記傾きG|α−β2|と前記傾きG|β−γ|との間の差分値|G|α−β2|−G|β−γ||が所定の閾値Y以下である第2条件を満たすレイを抽出する。図1においては、傾きG|α−β2|とG|β2−γ1|との間の差分値|G|α−β2|−G|β2−γ1||は所定の閾値Yを超えるが(大きな変化があり略連続的になっていない)、傾きG|α−β2|とG|β2−γ2||との間の差分値|G|α−β2|−G|β2−γ2||は所定の閾値Y以下である。このため、差分値|G|α−β2|−G|β2−γ2||であるレイを到来波(レイα−β2−γ2)として抽出する。そして、このレイを到来波とする。なお、所定の閾値Y以下に入る波が存在しない場合は、波が移動局位置Cにおいて消滅したとみなす。
【0026】
次に、上記の閾値X内に入る波が複数存在する場合について説明する。図2に示すように、移動局位置Bにおいて上記の閾値X以下の波が複数存在する場合、すなわち第1条件を満たすレイが複数存在する場合には、一つのレイに対して第2条件を満たすかどうか判定し、当該一つのレイが第2条件を満たす場合には、当該一つのレイを到来波とし、当該一つのレイが第2条件を満たさない場合には、別のレイに対して前記第2条件を満たすかどうか判定し、当該別のレイが第2条件を満たす場合には、当該別のレイを到来波とする。
【0027】
具体的には、まず、到来方向が近いレイを選択する。すなわち、図2においては、差分値|α−β|と差分値|α−β|とを求め、より小さい差分値|α−β|に対応するレイを選択する。そして、上記のようにして、G|α−β2|を求める。さらに、移動局位置Cにおける到来方向データγと前記レイについての到来方向データβとから到来方向の傾きG|β2−γ|を求める。そして、前記傾きG|α−β2|と前記傾きG|β2−γ|との間の差分値|G|α−β2|−G|β2−γ||が所定の閾値Y以下である第2条件を満たすレイを抽出する。そして、このレイを到来波(レイα−β2−γ2)とする。
【0028】
一方、傾きG|α−β2|と傾きG|β2−γ|との間の差分値|G|α−β2|−G|β2−γ||が所定の閾値Y以下である第2条件を満たすレイが存在しない場合には、移動局位置Bにおいて、到来方向が次に近いレイを選択する。すなわち、図2において、次に小さい差分値|α−β|に対応するレイを選択する。そして、上記のようにして、G|α−β1|を求める。さらに、移動局位置Cにおける到来方向データγと前記レイについての到来方向データβとから到来方向の傾きG|β1−γ|を求める。そして、前記傾きG|α−β1|と前記傾きG|β1−γ|との間の差分値|G|α−β1|−G|β1−γ||が所定の閾値Y以下である第2条件を満たすレイを抽出する。そして、このレイを到来波(レイα−β1−γ1)とする。したがって、ここでは、レイα−β2−γ2を到来波とせずに、レイα−β1−γ1を到来波とする。なお、所定の閾値Y以下に入る波が存在しない場合は、波が移動局位置Cにおいて消滅したとみなす。
【0029】
上記方法においては、第3受信位置(図1では移動局位置C)よりも後段(移動局位置Aから離れた位置)の受信位置において第2条件を満たすレイを抽出する処理を繰り返していき、第2条件を満たさない、すなわち所定の閾値Y以下のレイが存在しない受信位置まで到来波の追跡を行って、所定の閾値Y以下のレイが存在しない受信位置の一つ前の受信位置で到来波を認定しても良く、あるいは、予め設定された受信位置まで第2条件を満たすレイを抽出する処理を繰り返していき、その受信位置において第2条件を満たすレイを到来波と認定しても良い。
【0030】
本発明において、閾値X及び閾値Yについては、特に制限はないが、予め求められた到来方向データを用いて、受信位置と到来方向(角度)との間の関係を求め、その関係から略連続的に変化するレイを複数抽出し、これらの複数のレイの情報から統計処理により決定することができる。
【0031】
このように上記のように処理を行うことにより、受信位置と到来方向(角度)との間の関係において略連続的に変化しているレイを求めることができるので、膨大な測定データから到来波を自動的に追跡することが可能となる。
【0032】
図3は、本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法を実行する装置の概略構成を示す図である。この装置としては、本発明の到来波追跡プログラムをインストールした移動端末装置(移動局)でも良く、本発明の到来波追跡プログラムをインストールした無線基地局装置でも良く、本発明の到来波追跡プログラムをインストールしたPCであっても良い。なお、PCで本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法を実行する場合には、PCに到来方向及び受信位置のデータを入力する必要がある。
【0033】
図3に示す装置は、装置全体を制御する制御手段であるCPU11と、他の通信機器との間でデータ通信するための通信インタフェース(IF)12と、テーブルやプログラムを格納するメモリ13と、到来波の受信や他の信号の送受信を行う送受信部14と、到来波の情報や他の情報を表示するディスプレイ15とを備える。メモリ13は、後述するテーブルを格納するテーブルメモリ131と、到来波追跡プログラムを格納するプログラムメモリ132とを有する。
【0034】
通信IF12は、装置内で到来波を追跡する場合において、外部機器から到来方向データや受信位置データを入力(取得)するときに使用される。また、自装置で到来方向データや受信位置データを取得するときには、送受信部14で到来方向データや受信位置データを取得する。また、ディスプレイ15は、本到来波追跡方法で得られた到来波の情報を出力(表示)する。なお、到来方向データや受信位置データは、図4に示すように、到来方向と、受信位置(装置位置)と、受信レベルとが関連づけられて管理される。
【0035】
テーブルメモリ131には、図5〜図12に示すテーブルが格納されている。図5に示すテーブルは、到来方向と受信位置とを関連づけたテーブルであり、各到来方向に対して識別情報(ID)が付与されている。また、図6に示すテーブルや図8に示すテーブルも、到来方向と受信位置とを関連づけたテーブルである。
【0036】
図7に示すテーブルは、到来方向データ間の差分値を管理するテーブルである。すなわち、第1受信位置でのそれぞれの到来方向と、第2受信位置でのそれぞれの到来方向との間の差分値が管理されている。そして、当該差分値が所定の閾値X以下である組み合わせが抽出される(図7においては、差分値|α−β|であり、網掛されている)。
【0037】
図9及び図11に示すテーブルは、レイIDと到来方向と受信位置と到来方向の傾きとを関連づけたテーブルであり、図12に示すテーブルは、レイIDと到来方向と受信位置とを関連づけたテーブルである。図12に示すテーブルには、到来波として認定されたレイが管理される。到来波として認定されたレイはID毎に管理される。
【0038】
図10に示すテーブルは、到来方向の傾きの差分値を管理するテーブルである。すなわち、第1受信位置−第2受信位置間での到来方向の傾きと、第2受信位置−第3受信位置間での到来方向の傾きとの間の差分値が管理されている。そして、当該差分値が所定の閾値Y以下である組み合わせが抽出される(図10においては、差分値|G−Gβ2−γ2|であり、網掛されている)。
【0039】
プログラムメモリ132には、到来波追跡プログラムが格納されている。この到来波追跡プログラムは、コンピュータに、電波の到来方向と受信位置のデータとに基づいて到来波の追跡を実行させる到来波追跡プログラムであって、第1受信位置における到来方向データαと前記第1受信位置に隣接する第2受信位置における到来方向データβとの間の差分値|α−β|が所定の閾値以下である第1条件を満たすレイを抽出する手順と、前記差分値|α−β|が所定の閾値以下であるレイについての到来方向データαと到来方向データβとから到来方向の傾きG|α−β|を求める手順と、前記第2受信位置に隣接する第3受信位置における到来方向データγと前記レイについての到来方向データβとから到来方向の傾きG|β−γ|を求める手順と、前記傾きG|α−β|と前記傾きG|β−γ|との間の差分値|G|α−β|−G|β−γ||が所定の閾値以下である第2条件を満たすレイを抽出し、このレイを到来波とする手順と、を含む。
【0040】
次に、本発明の到来波追跡方法について図13を用いて説明する。図13は、本発明の実施の形態に係る到来波追跡方法を説明するためのフロー図である。まず、第1受信位置P、第2受信位置Pn+1での到来方向データα,βを取得する(ST11)。到来方向データ及び受信位置データは、自装置で測定して取得しても良く、外部機器で測定あるいは計算されたデータ(例えば、図4に示すデータ)を取得しても良い。これらの到来方向データ及び受信位置データは、図5及び図6に示すようなテーブルで管理される。
【0041】
次いで、第1受信位置Pにおける到来方向データα,…,αと第2受信位置Pn+1における到来方向データβ,…,βとの間の差分値|α−β|が所定の閾値X以下である第1条件を満たすレイを抽出する(ST12)。この差分値は、図7に示すテーブルで管理されており、第1条件を満たすレイ(網掛)が抽出される。このように抽出されたレイについては、IDが付与され(ST13)、図9に示すテーブルで管理される。
【0042】
次いで、差分値|α−β|が所定の閾値X以下であるレイについての到来方向データαと到来方向データβとから到来方向の傾きG(G)を求める(ST14)。このように求められた到来方向の傾きは図9に示すテーブルで管理される。次いで、第1受信位置P、第2受信位置Pn+1と同様にして第3受信位置Pn+2の到来方向データγを取得する(ST15)。次いで、第3受信位置における到来方向データγと前記レイについての到来方向データβとから到来方向の傾きGn+1を求める(ST16)。
【0043】
次いで、傾きGと前記傾きGn+1との間の差分値|G−Gn+1|が所定の閾値Y以下である第2条件を満たすレイを抽出する(ST17)。この差分値は、図10に示すテーブルで管理されており、第2条件を満たすレイ(網掛)が抽出される。そして、この傾きGn+1(G)を図9に示すテーブルに更新して図11に示すテーブルのようにする(ST18)。このようにして、テーブル上で第1条件を満たすレイ及び第2条件を満たすレイにIDを付与(更新)する。このようにして、第1条件及び第2条件を満たしたレイを到来波とし、図12に示すテーブルで管理する。
【0044】
次いで、第3受信位置Pn+2のnを1カウントアップして、第3受信位置に隣接する受信位置で上記と同様にして第2条件を満たすレイを抽出する。このようにして、所定の受信位置まで同様の処理(第2条件を満たすレイの抽出)を繰り返す(ST19、ST20)。
【0045】
なお、上記の閾値X内に入る波が複数存在する場合においては、一つのレイに対して第2条件を満たすかどうか判定し、当該一つのレイが第2条件を満たす場合には、当該一つのレイを到来波とし、当該一つのレイが第2条件を満たさない場合には、別のレイに対して前記第2条件を満たすかどうか判定し、当該別のレイが第2条件を満たす場合には、当該別のレイを到来波とする。
【0046】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態においては、受信位置が3つである場合について説明しているが、本発明はこれに限定されず、受信位置が3つ以上である場合においても同様に適用することができる。また、上記実施の形態においては、移動端末装置で到来波を追跡する場合について説明しているが、本発明はこれに限定されず、無線基地局装置やPCで到来波を追跡する場合にも同様に適用することができる。また、上記実施の形態においては、到来方向データが測定結果である場合について説明しているが、本発明はこれに限定されず、到来方向データがレイトレーシング計算結果である場合にも同様に適用することができる。また、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、上記説明におけるテーブルの管理項目や構成、処理部の数、処理手順については適宜変更して実施することが可能である。その他、本発明の範囲を逸脱しないで適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
11 CPU
12 通信IF
13 メモリ
14 送受信部
15 ディスプレイ
131 テーブルメモリ
132 プログラムメモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波の到来方向と受信位置のデータとに基づいて到来波を追跡する方法であって、
第1受信位置における到来方向データαと前記第1受信位置に隣接する第2受信位置における到来方向データβとの間の差分値|α−β|が所定の閾値以下である第1条件を満たすレイを抽出する工程と、
前記差分値|α−β|が所定の閾値以下であるレイについての到来方向データαと到来方向データβとから到来方向の傾きG|α−β|を求める工程と、
前記第2受信位置に隣接する第3受信位置における到来方向データγと前記レイについての到来方向データβとから到来方向の傾きG|β−γ|を求める工程と、
前記傾きG|α−β|と前記傾きG|β−γ|との間の差分値|G|α−β|−G|β−γ||が所定の閾値以下である第2条件を満たすレイを抽出し、このレイを到来波とする工程と、
を具備することを特徴とする到来波追跡方法。
【請求項2】
前記第3受信位置よりも後段の少なくとも一つの受信位置において前記第2条件を満たすレイを抽出する工程を具備することを特徴とする請求項1記載の到来波追跡方法。
【請求項3】
前記第1条件を満たすレイが複数存在する場合において、一つのレイに対して前記第2条件を満たすかどうか判定し、当該一つのレイが前記第2条件を満たす場合には、当該一つのレイを到来波とし、当該一つのレイが前記第2条件を満たさない場合には、別のレイに対して前記第2条件を満たすかどうか判定し、当該別のレイが前記第2条件を満たす場合には、当該別のレイを到来波とする工程を具備することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の到来波追跡方法。
【請求項4】
前記第1条件を満たすレイ及び前記第2条件を満たすレイに識別情報を付与する工程を具備することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の到来波追跡方法。
【請求項5】
コンピュータに、電波の到来方向と受信位置のデータとに基づいて到来波の追跡を実行させる到来波追跡プログラムであって、前記到来波追跡プログラムは、
第1受信位置における到来方向データαと前記第1受信位置に隣接する第2受信位置における到来方向データβとの間の差分値|α−β|が所定の閾値以下である第1条件を満たすレイを抽出する手順と、
前記差分値|α−β|が所定の閾値以下であるレイについての到来方向データαと到来方向データβとから到来方向の傾きG|α−β|を求める手順と、
前記第2受信位置に隣接する第3受信位置における到来方向データγと前記レイについての到来方向データβとから到来方向の傾きG|β−γ|を求める手順と、
前記傾きG|α−β|と前記傾きG|β−γ|との間の差分値|G|α−β|−G|β−γ||が所定の閾値以下である第2条件を満たすレイを抽出し、このレイを到来波とする手順と、
を含むことを特徴とする到来波追跡プログラム。
【請求項6】
前記第3受信位置よりも後段の少なくとも一つの受信位置において前記第2条件を満たすレイを抽出する手順を含むことを特徴とする請求項5記載の到来波追跡プログラム。
【請求項7】
前記第1条件を満たすレイが複数存在する場合において、一つのレイに対して前記第2条件を満たすかどうか判定し、当該一つのレイが前記第2条件を満たす場合には、当該一つのレイを到来波とし、当該一つのレイが前記第2条件を満たさない場合には、別のレイに対して前記第2条件を満たすかどうか判定し、当該別のレイが前記第2条件を満たす場合には、当該別のレイを到来波とする手順を含むことを特徴とする請求項5又は請求項6記載の到来波追跡プログラム。
【請求項8】
前記第1条件を満たすレイ及び前記第2条件を満たすレイに識別情報を付与する手順を含むことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の到来波追跡プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−47669(P2011−47669A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194131(P2009−194131)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】