説明

制御されたpHを有する、低フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を生成する方法

フッ素系界面活性剤の存在下において水性媒体中で少なくとも1つのフルオロモノマーを重合し、第1pHおよび初期フッ素系界面活性剤含有量を有するフルオロポリマー水性分散液を生成することによって、低フッ素系界面活性剤含有量を有するフルオロポリマー水性分散液を生成する方法。この方法は、非イオン界面活性剤を添加して、分散液を安定化する工程と、安定化されたフッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させて、フッ素系界面活性剤含有量を所定のレベルに低減する工程であって、陰イオン交換樹脂が水酸化物の形態である工程と、フッ素系界面活性剤含有量が低減された後に、陰イオン交換樹脂を分散液から分離する工程であって、分離された分散液が第2pHを有する工程とを含む。本発明にしたがって、第1pHは、陰イオン交換樹脂との接触から生じるpHの増加が、コーティングおよびフィルム用途における非イオン界面活性剤の揮発よりも熱分解を促進するpH未満の第2pHをもたらすように十分に低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換樹脂を使用して、フルオロポリマー水性分散液からフッ素系界面活性剤を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
剥離、耐薬品性および耐熱性、腐食保護、清浄性、低引火性、および耐候性を付与するために、フルオロポリマーは多くの基材に塗布される。フルオロポリマーを基材に塗布する一方法は、分散液塗布による方法、つまり、分散状態で分散液を塗布し、続いて乾燥および合体させるために熱を加えることによる方法である。この方法は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ホモポリマーおよび変性PTFEなどの非溶融加工性フルオロポリマーに特に有用であるが、溶融加工性テトラフルオロエチレン(TFE)コポリマーにも有用である。
【0003】
分散液塗布プロセスでは一般に、重合したままの(as−polymerized)分散液よりも高濃度でかかるフルオロポリマー分散液が使用される。このように、分散液は、マーク(Mark)らの米国特許公報(特許文献1)に教示される方法であって、重合したままの分散液に非イオン界面活性剤を添加し、曇点を超えて加熱し、濃縮分散液の上に形成する上部の透明な上清を除去することを含む方法によって濃縮される場合が多い。さらに、細菌の成長を抑制するために、水酸化アンモニウムまたは水酸化ナトリウムなどの塩基性化合物を添加して、細菌が成長しないように十分に分散液のpHを高める。塩基の添加は一般に、分散液を濃縮する前に行われる。つまり、分散液に非イオン界面活性剤を添加する前に、または添加すると共に、添加される。
【0004】
したがって、分散液塗布に使用される濃縮分散液は、かなりの量の非イオン界面活性剤、例えば分散液中のフルオロポリマー固形分の重量を基準にして6〜8重量%の非イオン界面活性剤を含有する。濃縮分散液を用いた分散液塗布プロセスは、吹付け、ローラーまたはカーテンコーティングなどの一般的な技術によって基材に濃縮分散液を塗布する工程と、基材を乾燥させて揮発性成分(主に水および非イオン界面活性剤)を除去する工程と、基材を焼付けする工程とを含む。焼付け温度が十分に高い場合には、主な分散液粒子は融合し、凝集塊となる。非溶融加工性フルオロポリマーの粒子を融合する高温での焼付けは、焼結と呼ばれることが多い。
【0005】
ベリー(Berry)の米国特許公報(特許文献2)に記述されているように、フッ素系界面活性剤は、フルオロポリマー水性分散液の製造において非テロゲン(non−telogenic)分散剤として使用され、したがって、除去されない限り、フッ素系界面活性剤は通常、フルオロポリマー水性分散液中に存在する。環境上の問題のため、かつフッ素系界面活性剤のコストが高いことから、フルオロポリマー分散液のフッ素系界面活性剤含有量を低減することが望まれる場合が多い。米国特許公報(特許文献3)(セキ(Seki)ら)および米国特許公報(特許文献4)(クールズ(Kuhls))に教示されているように、フッ素系界面活性剤は、ポリマーが分散液から凝集した後に水相から、または濃縮前にポリマー水性分散液中で回収することができる。クールズ(Kuhls)およびセキ(Seki)らに教示されている、フルオロポリマー分散液からフッ素系界面活性剤を回収するための好ましい方法は、陰イオン交換樹脂上への吸着による方法である。強塩基性陰イオン交換樹脂は特に、最も一般的に使用されるフッ素系界面活性剤、ペルフルオロオクタン酸アンモニウム(PFOA)のほぼ定量的な除去に有用であることが判明している。分散液中に不要なイオン、例えば塩化物イオンが導入されるのを防ぐため、水酸化物形態の陰イオン交換樹脂が好ましい。
【0006】
フッ素系界面活性剤含有量が陰イオン交換法を用いて低減され、得られた分散液が分散液塗布プロセスで使用される場合、望ましくない色が生じ得る。望ましくない色は、乾燥および焼付け/焼結中の界面活性剤の不完全な揮発に起因する残留物、つまり炭素および/または有色有機分解生成物が原因であると考えられる。
【0007】
望まれるものは、不要な色のないコーティングまたはフィルムとして基材に塗布することができる、低フッ素系界面活性剤含有量を有するフルオロポリマー水性分散液を製造する方法である。細菌成長に対して耐性がある、低フッ素系界面活性剤含有量を有する、かかるフルオロポリマー分散液を生成することがさらに望まれる。
【0008】
【特許文献1】米国特許第3,037,953号明細書
【特許文献2】米国特許第2,559,752号明細書
【特許文献3】米国特許第3,882,153号明細書
【特許文献4】米国特許第4,282,162号明細書
【特許文献5】米国特許第4,380,618号明細書
【特許文献6】米国特許第3,704,272号明細書
【特許文献7】米国特許第6,153,688号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第1472307 A1号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、フッ素系界面活性剤の存在下において水性媒体中で少なくとも1つのフルオロモノマーを重合して、第1pHおよび初期フッ素系界面活性剤含有量を有するフルオロポリマー水性分散液を生成することによって、低フッ素系界面活性剤含有量を有するフルオロポリマー水性分散液を生成する方法を提供する。この方法は、非イオン界面活性剤を添加して、分散液を安定化する工程と、安定化されたフッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させて、フッ素系界面活性剤含有量を所定のレベルに低減する工程であって、陰イオン交換樹脂が水酸化物の形態である工程と、フッ素系界面活性剤含有量が低減された後に、陰イオン交換樹脂を分散液から分離する工程であって、その分離された分散液が第2pHを有する工程とを含む。本発明に従って、第1pHは、陰イオン交換樹脂との接触から生じるpHの増加が、コーティングおよびフィルム用途における非イオン界面活性剤の揮発よりも熱分解を促進するpH未満の第2pHをもたらすように十分に低い。
【0010】
本発明の好ましい形態において、方法はさらに、塩基を添加して分散液の最終pHを制御して、細菌成長を抑制し、かつコーティングおよびフィルム用途において非イオン界面活性剤の熱分解を抑制する工程を含む。
【0011】
本発明の一実施形態において、第1pHは約2〜約5である。他の実施形態において、第2pHは、約11未満である。好ましい実施形態において、最終pHは、約9〜約11、さらに好ましくは約9.5〜約10.5である。
【0012】
この方法は好ましくは、約300ppm以下の所定のレベル、さらに好ましくは約100ppm以下の所定のレベル、最も好ましくは50ppm以下の所定のレベルにフッ素系界面活性剤含有量を低減する。
【0013】
本発明は、分散液中のフルオロポリマー固形分の重量を基準にして非イオン界面活性剤約2〜約11重量%を含む、水性媒体中にフルオロポリマー粒子を含むフルオロポリマー水性分散液も提供する。分散液は、約30〜約70重量%のフルオロポリマー固形分、約300ppm以下のフッ素系界面活性剤含有量、pH約9〜約11を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上述のように、分散液塗布プロセスでは一般に、重合したままの分散液よりも高濃度でかかるフルオロポリマー分散液が使用される。つまり、濃縮された分散液は、フルオロポリマー固形分約35〜約70重量%を有する。これらの濃縮分散液は、分散液中のフルオロポリマーの重量を基準にして範囲2〜11重量%、一般に6〜8重量%のかなりの量の非イオン界面活性剤を含有し、除去されない限り、フッ素系界面活性剤も含有する。本発明は、分散液のフッ素系界面活性剤含有量を低減し、制御されたpHを有する分散液を生成する方法を提供する。
【0015】
本発明は、陰イオン交換樹脂を使用してフッ素系界面活性剤を低減することによって、分散液の最終pHが高くなりすぎ、乾燥および焼付け/焼結プロセスにおいてコーティングおよびフィルムを形成するために基材に分散液を塗布する場合に、分散液の安定化/濃縮で使用される非イオン界面活性剤の熱分解が促進されるという発見に基づく。高いpHは、フィルム形成時の界面活性剤の揮発に対して分解を促進し、炭素および/または有色有機残留物が残ると考えられる。濃縮分散液のpHを酸で調整し、pHのレベルを下げて色の形成を低減しようとする場合には、分散液の局在化した凝集によって、濾過などによって使用前に分散液から除去しない限り、分散液の質に悪影響を及ぼす凝集塊が形成する。本発明の方法を用いて、分散液のpHを制御し、コーティングおよびフィルム用途における非イオン界面活性剤の熱分解を防ぐことができる。
【0016】
本発明による方法において、ポリマー分散液は、第1pHおよび初期フッ素系界面活性剤含有量を有する。以下にさらに完全に説明されるように、好ましくは、出発分散液は、重合したままの分散液である。安定化のために非イオン界面活性剤を添加した後、分散液を水酸化物形態の強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させ、フッ素系界面活性剤含有量を低減する。分散液から陰イオン交換樹脂を分離した後、分散液は、第1pHを超えて増加した第2pHを有する。本発明に従って、第1pHは、コーティングおよびフィルム用途で非イオン界面活性剤の熱分解が生じるpHよりも第2pHが低くなるのに十分に低い。第1pHおよび初期フッ素系界面活性剤含有量および第2pHを決定する他のアニオンに応じて、酸化アンモニウムまたは水酸化ナトリウムなどの塩基を添加して、細菌成長を抑制するのに十分に、最終pHをさらに増加することが望ましい。
【0017】
(フルオロポリマー)
本発明に従って処理される、安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液は、分散重合(乳化重合としても知られる)によって調製される。処理されるフルオロポリマー水性分散液は、フッ素系界面活性剤含有量が低減された場合に、分散液の凝集を防ぐのに十分な非イオン界面活性剤を含有することを意味する、安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液である。本発明に従って処理する前に、安定化のために非イオン界面活性剤を添加する。濃縮後、フルオロポリマー水性分散液は、コーティングまたは含浸組成物として、かつキャストフィルムを製造するのに有用である。
【0018】
フルオロポリマー分散液は、そのモノマーのうちの少なくとも1つがフッ素を含有するモノマーから製造されたポリマーの粒子で構成される。本発明で使用される水性分散液の粒子のフルオロポリマーは、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、モノクロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルエチレンモノマー、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)モノマー、フッ化ビニリデン、およびフッ化ビニルのポリマーおよびコポリマーの群から独立して選択される。
【0019】
本発明は、分散液のフルオロポリマー成分が、溶融加工性ではない、変性PTFEなどのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である場合に特に有用である。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とは、重要なコモノマーが存在しない、単独での重合テトラフルオロエチレンを意味する。変性PTFEとは、得られるポリマーの融点がPTFEの融点未満に実質的に下がらないような低い濃度のコモノマーとTFEとのコポリマーを意味する。かかるコモノマーの濃度は、好ましくは1重量%未満、さらに好ましくは0.5重量%未満である。変性PTFEは、パーフルオロオレフィン、特にヘキサフルオロプロピレン(HFP)またはパーフルオロ(アルキルビニル)エーテル(PAVE)(そのアルキル基が炭素原子1〜5個を含有する)など、焼付け(融合)中の塗膜形成能力を向上させる少量のコモノマー改質剤を含有し、パーフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)が好ましい。クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、または分子中に嵩高い側基を導入する他のモノマーも含まれる。本発明のこの好ましい形態において、PTFEは一般に、少なくとも1×10Pa・sの溶融クリープ粘度を有する。このような高い溶融粘度から、PTFEは溶融状態で流動せず、したがって溶融加工性ではないことが示されている。PTFEおよび変性PTFEは、分散液の状態で販売され、運送用コンテナで輸送される場合が多く、本発明の方法は、かかる分散液のフッ素系界面活性剤含有量を低減するために容易に用いることができる。
【0020】
分散液のフルオロポリマー成分は、溶融加工性であり得る。溶融加工性とは、ポリマーを溶融状態で加工することができる(つまり、その意図する目的に有用であるのに十分な強度および靱性を示す、フィルム、繊維、チューブ等の成形物品に溶融物から製造される)ことを意味する。かかる溶融加工性フルオロポリマーの例としては、テトラフルオロエチレン(TFE)と、例えばTFEホモポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の融点より実質的に低いコポリマーの融点を315℃以下の溶融温度に低減するのに十分な量でポリマー中に存在する少なくとも1つのフッ素化共重合性モノマー(コモノマー)と、のコポリマーが挙げられる。かかるフルオロポリマーとしては、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)またはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のコポリマーが挙げられる。TFEとの好ましいコモノマーは、炭素原子3〜8個を有するパーフルオロオレフィン、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、および/またはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)であり、その直鎖状または分岐状アルキル基は炭素原子1〜5個を含有する。好ましいPAVEモノマーは、そのアルキル基が炭素原子1、2、3または4個を含有するモノマーであり、コポリマーはいくつかのPAVEモノマーを使用して製造することができる。好ましいTFEコポリマーとしては、FEP(TFE/HFPコポリマー)、PFA(TFE/PAVEコポリマー)、TFE/HFP/PAVEが挙げられ、PAVEは、PEVEおよび/またはPPVEおよびMFAである(PAVEのアルキル基が少なくとも2個の炭素原子を有する、TFE/PMVE/PAVE)。溶融加工性コポリマーは、特定のコポリマーに標準的な温度でASTM D−1238に従って測定されたメルトフローレート約1〜100g/10分を一般に有するコポリマーを提供するために、コポリマー中に一定量のコモノマーを組み込むことによって製造される。一般に、米国特許公報(特許文献5)に記載のように、変更が加えられたASTM D−1238の方法によって372℃で測定される溶融粘度は、10Pa・s〜約10Pa・s、好ましくは10〜約10Pa・sの範囲である。更なる溶融加工性フルオロポリマーは、エチレンまたはプロピレンと、TFEまたはCTFE、特にETFE、ECTFEおよびPCTFEと、のコポリマーである。更なる有用なポリマーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の塗膜形成ポリマーおよびフッ化ビニリデンのコポリマーならびにポリフッ化ビニルおよびフッ化ビニルのコポリマーである。
【0021】
(フッ素系界面活性剤)
このプロセスにおいて低減されるフッ素系界面活性剤含有分散液中のフッ素系界面活性剤は、水に可溶性であり、かつ親水性アニオン基および疎水性部分を含有する、非テロゲン、アニオン性分散剤である。好ましくは、疎水性部分は、少なくとも4個の炭素原子を含有する脂肪族フルオロアルキル基であり、その炭素原子のうちの多くて1つを除いてすべて、および可溶化基に最も近いその1つが少なくとも2個のフッ素原子を有し、末端炭素原子は、水素またはフッ素からなる原子をさらに有する。これらのフッ素系界面活性剤は、分散のための重合助剤として使用されるが、それらは連鎖移動しないため、望ましくない短い鎖長を有するポリマーの形成を引き起こさない。適切なフッ素系界面活性剤の広範なリストは、米国特許公報(特許文献2)(ベリー(Berry))に開示されている。好ましくは、フッ素系界面活性剤は、炭素原子6〜10個を有する過フッ素化カルボン酸であり、かつ一般に塩の状態で使用される。適切なフッ素系界面活性剤は、パーフルオロカルボン酸アンモニウム、例えば、パーフルオロカプリル酸アンモニウムまたはペルフルオロオクタン酸アンモニウムである。フッ素系界面活性剤は通常、形成されるポリマーの量を基準にして0.02〜1重量%の量で存在する。
【0022】
(イオン交換樹脂)
本発明の実施のために、水酸化物の形態の強塩基性陰イオン交換樹脂を使用して、フルオロポリマー分散液からフッ素系界面活性剤を除去する。適切な強塩基性陰イオン交換樹脂は、ポリマーおよび第4級アンモニウム基の官能基を含む。強塩基性イオン交換樹脂は、pHに対する感受性が低いという利点を有する。塩化物対イオンを有するイオン交換樹脂よりもむしろ、ヒドロキシル対イオンの形態のイオン交換樹脂を使用し、その結果、最終用途の加工装置に有害になり得る、最終分散液製品中の塩化物イオンの存在についての問題が解消される。陰イオン交換体樹脂は好ましくは、NaOH溶液と接触させることによってOHの形態にされる。トリメチルアミン部分を有する第4級アンモニウム基を有する、市販の適切な強塩基性陰イオン交換樹脂の例としては、ダウエックス(DOWEX)(登録商標)550A、USフィルター(US Filter)A464−OH、シブロン(SYBRON)M−500−OH、シブロン(SYBRON)ASB1−OH、ピュロライト(PUROLITE)A−500−OH、イトチュー(Itochu)TSA 1200、アンバーライト(AMBERLITE)(登録商標)IR 402が挙げられる。ジメチルエタノールアミン部分を有する第4級アンモニウム基を有する、市販の適切な強塩基性陰イオン交換樹脂の例としては、USフィルター(US Filter)A244−OH、アンバーライト(AMBERLITE)(登録商標)410、ダウエックス(DOWEX)(登録商標)マラソン(MARATHON)A2、およびダウエックス(DOWEX)(登録商標)アップコア・モノ(UPCORE Mono)A2が挙げられる。
【0023】
本発明の方法において使用される陰イオン交換樹脂は、好ましくは単分散である。さらに好ましくは、陰イオン交換樹脂ビーズは、ビーズの95%が、ビーズ数平均直径の100μm±以内の直径を有する、数平均粒径分布を有する。
【0024】
単分散陰イオン交換樹脂は、床を通して適切な圧力低下を提供する粒径を有する。上述のように、非常に大きなビーズは脆く、破損し易い。非常に小さなイオン交換ビーズは、密な粒子の充填に影響を受けやすく、その結果、床に曲がりくねった流路が生じる。この結果、床に高せん断条件が生じ、高い圧力低下が起こる。好ましい陰イオン交換樹脂は、数平均ビーズ粒径約450〜約800μmを有し、さらに好ましくは、陰イオン交換樹脂ビーズは、数平均ビーズ粒径約550〜約700μmを有する。
【0025】
(非イオン界面活性剤)
マークス(Marks)らの米国特許公報(特許文献1)およびホルムズ(Holmes)の米国特許公報(特許文献6)の教示に従って、イオン交換処理前にフッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を安定化するため、およびかかる分散液を濃縮するためにも、非イオン界面活性剤として芳香族アルコールエトキシレートが使用される。しかしながら、芳香族化合物は環境上の影響を及ぼす可能性があるという問題のために、好ましい非イオン界面活性剤は、脂肪族アルコールエトキシレートである。適切な非イオン界面活性剤としては、濃縮中に所望の曇点を提供し、かつ分散液の所望の特性、例えば低い燃焼温度、分散液安定性等を提供する、様々な脂肪族アルコールエトキシレートのいずれかまたはその混合物が挙げられる。これらの非イオン界面活性剤の多くは、マークス(Marks)らの米国特許公報(特許文献1)およびミウラ(Miura)らの米国特許公報(特許文献7)に開示されている。特に好ましい非イオン界面活性剤は、キャバノー(Cavanaugh)の(特許文献8)に開示されている、次式:
R(OCHCHOH
(式中、Rが、炭素原子8〜18個を有する分岐状アルキル、分岐状アルケニル、シクロアルキル、またはシクロアルケニル炭化水素基であり、nは、5〜18の平均値である)の化合物または化合物の混合物である。安定化された分散液は好ましくは、分散液中のフルオロポリマー固形分の重量を基準にして非イオン界面活性剤を2〜11重量%含有する。
【0026】
(プロセス)
好ましいポリマーPTFEの水性分散重合の一般的なプロセスは、フッ素系界面活性剤、パラフィンワックスおよび脱イオン水を含有する加熱反応器にTFE蒸気を供給するプロセスである。PTFEの分子量を低減することが望まれる場合には、連鎖移動剤も添加される。ラジカル開始剤溶液が添加され、重合が進むにしたがって、圧力を維持するためにさらにTFEが添加される。発熱反応熱は、反応器の外装を介して冷却水を循環させることによって除去される。数時間後、供給を停止し、反応器をガス抜きし、窒素でパージし、容器中の未処理分散液を冷却容器に移す。パラフィンワックスを除去し、分散液を分離し、非イオン界面活性剤で安定化する。安定化されたフルオロポリマー分散液は、第1pHおよび一般に約500ppmを超え約2500ppmのレベルまでの初期フッ素系界面活性剤含有量を有する。好ましい実施形態において、第1pHは約2〜約5である、必要な場合、または望ましい場合には、例えば、希鉱酸、希硫酸を添加することによって、第1pHが調整される。
【0027】
このようにして生成されたフルオロポリマー分散液は、重合および加工に使用される金属製装置から、または触媒等の鉄化合物の添加から、または水中にそれ自体が存在するために、いくらかの第二鉄イオンを含有する。本発明の方法において、水酸化物形態の陰イオン交換樹脂とフッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を接触させる前に、有効な量の適切なキレート剤が、安定化されたフッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液に添加されることが好ましい。このようにして、強く結合した鉄錯体が形成され、スカムの形成が防止される。
【0028】
イオン交換プロセスを行うため、分散液を陰イオン交換樹脂と接触させる様々な技術のいずれかを使用することができる。例えば、攪拌タンク中の分散液にイオン交換樹ビーズを添加することによってプロセスを行うことができる。そのタンク内では、分散液と樹脂のスラリーが形成し、続いて濾過によって陰イオン交換樹脂ビーズから分散液が分離される。他の適切な方法は、攪拌タンクを使用する代わりに、陰イオン交換樹脂の固定層に分散液を通す方法である。流れは、固定層を通って上にまたは下に流れ、樹脂は固定層に残るため、別の分離工程は必要ない。
【0029】
好ましいプロセスは、所定のレベルに、約300ppm以下の所定のレベル、さらに好ましくは約100ppm以下の所定のレベル、特に約50ppm以下の所定のレベルにフッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液のフッ素系界面活性剤含有量を低減することを可能にする。
【0030】
本発明に従って、第1pHが十分に低い場合(フッ素系界面活性剤および存在する他のアニオンの量に応じて)、分散液を陰イオン交換樹脂と接触させると、pHの増加が起こり、それによって、非イオン界面活性剤の揮発に対して熱分解を促進するpHよりも低い第2pHが生じる。本発明によれば、第1pHが低いと、pHが高く上がり過ぎるのが避けられ、そのため、上述のように凝集の問題を起こし得る酸を添加する必要がなくなる。好ましい実施形態において、第2pHは約11未満である。
【0031】
イオン交換処理後、フッ素系界面活性剤含有量が低減されたフルオロポリマー水性分散液を分散液濃縮作業に移す。分散液濃縮前に、分散液の最終pHは一般に、分散液における細菌成長を防ぐために水酸化アンモニウムまたは水酸化ナトリウムなどの塩基を添加することによって、必要に応じて9を超えるpHに制御される。好ましい実施形態において、最終pHは、約9〜約11、さらに好ましくは約9.5〜10.5に制御される。分散液濃縮作業において、分散液は、マークス(Marks)らの米国特許公報(特許文献1)およびホルムズ(Holmes)の米国特許公報(特許文献6)に教示されているように非イオン界面活性剤を用いて濃縮され、公称上35重量%〜約60重量%の固形分に高められる。ミウラ(Miura)らの米国特許公報(特許文献7)に、同様なプロセスが開示されている。イオン交換処理のために未処理分散液を調製する場合に、安定化のために非イオン界面活性剤が添加されることから(ワックスの除去後)、非イオン界面活性剤は既に存在する。濃縮前または濃縮後に更なる非イオン界面活性剤を添加することが望まれる場合には、同一または異なる非イオン界面活性剤を使用することができる。
【0032】
本明細書に記述されるように、安定化分散液と陰イオン交換樹脂との接触は、濃縮前に行われている。低固形分の分散液が低い粘度を有し、処理が容易になることから、このことは有利である。このプロセスは、濃縮分散液が本発明の実施に適した第1pHを有するという条件で、既に濃縮されている安定化分散液でも行われる。
【0033】
所望の場合には、陰イオン交換樹脂からフッ素系界面活性剤を回収することができ、または環境上許容できる方法において、例えば灰化によってフッ素系界面活性剤を有する樹脂を処分することができる。フッ素系界面活性剤を回収することが望ましい場合には、溶離によって樹脂からフッ素系界面活性剤を取り除くことができる。陰イオン交換樹脂に吸着されたフッ素系界面活性剤の溶離は、米国特許公報(特許文献4)にクールズ(Kuhls)によって示されるように希鉱酸と有機溶媒との混合物(例えば、HCl/エタノール)によって、硫酸および硝酸などの強鉱酸によって、吸着されたフッ素化カルボン酸を溶離剤に移行して容易に達成される。溶離剤における高濃度のフッ素系界面活性剤は、酸析出(acid−deposition)、塩析、および濃縮の他の方法等の一般的な方法によって、純粋な酸の状態で、または塩の状態で容易に回収することができる。
【0034】
1つまたは複数のコモノマーを最初にバッチに添加し、かつ/または重合中に導入することを除いては、溶融加工性TFEコポリマーの分散重合は同様である。さらに、炭化水素などのテロゲンを用いて、分子量を制御し、意図する目的のための、ポリマーの所望のメルトフローが達成される。PTFE分散液に使用されるのと同じ分散液濃縮作業が、TFEコポリマー分散液に用いられる。
【0035】
本発明により生成された分散液は、金属およびガラス織物などの基材にコーティングおよびフィルムを提供する。本発明により製造されたコーティングは、pHが制御された分散液中に存在する界面活性剤の熱分解が低減されていることから、不要な色が最小限に抑えられている。当技術分野で公知のように、分散液を基材に塗布し、焼付けし、基材上に焼付け層が形成される。焼付け温度が十分に高い場合には、主な分散液粒子は融合し、凝集塊となる。本発明の分散液のコーティング組成物を使用して、ガラス、セラミック、ポリマーまたは金属の繊維およびコンベヤーベルトまたは建築用織物、例えば被覆ガラス織物などの繊維構造をコーティングすることができる。金属基材をコーティングするために使用される場合、本発明のコーティングは、フライパンなどの料理器具および他の料理道具、ならびに耐熱皿およびグリルおよびアイロンなどの小さな家庭用電気器具のコーティングに高い有用性を有する。本発明のコーティングは、ミキサー、タンクおよびコンベヤーならびに印刷およびコピー装置用のロールなどの化学処理産業で使用される装置にも適用することができる。代替方法としては、分散液を使用して、封止用途用の繊維および濾過布を含浸することができる。さらに、本発明の分散液を支持体上に付着させ、続いて乾燥させ、熱で合体させ、支持体から剥がして、分散液からキャストされた自立フィルムを形成することができる。かかるキャストフィルムは、金属、プラスチック、ガラス、コンクリート、織物および木材の基材を覆う貼合せプロセスにおいて適している。
【0036】
(製品)
本発明は、分散液中のフルオロポリマー固形分の重量を基準にして非イオン界面活性剤約2〜約11重量%を含む、水性媒体中のフルオロポリマー粒子を含むフルオロポリマー水性分散液を提供する。分散液は、約30〜約70重量%のフルオロポリマー固形分、約300ppm以下のフッ素系界面活性剤含有量、pH約9〜約11を有する。好ましくは、pHは、約9.5〜約10.5である。好ましくは、フルオロポリマー水性分散液は、約100ppm以下、さらに好ましくは約50ppm以下のフッ素系界面活性剤含有量を有する。本発明による好ましい低フッ素系界面活性剤の分散液は、焼付け/焼結した場合に望ましくない色を形成しにくいことから、分散液塗布用途に特に適している。さらに、好ましい低フッ素系界面活性剤の分散液は、細菌成長に対する耐性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系界面活性剤の存在下において水性媒体中で少なくとも1つのフルオロモノマーを重合し、第1pHおよび初期フッ素系界面活性剤含有量を有するフルオロポリマー水性分散液を生成する工程と、
非イオン界面活性剤を添加して、前記分散液を安定化する工程と、
前記安定化されたフッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させて、所定のレベルにフッ素系界面活性剤含有量を低減する工程であって、前記陰イオン交換樹脂が水酸化物の形態である工程と、
フッ素系界面活性剤が低減された後、前記分散液から前記陰イオン交換樹脂を分離する工程であって、前記分離された分散液が第2pHを有する工程と
を含む、低フッ素系界面活性剤含有量を有するフルオロポリマー水性分散液を生成する方法であって、
前記第1pHは、陰イオン交換樹脂との接触から生じるpHの増加が、コーティングおよびフィルム用途における非イオン界面活性剤の揮発よりも熱分解を促進するpH未満の第2pHをもたらすように十分に低いことを特徴とする方法。
【請求項2】
塩基を添加して前記分散液の最終pHを制御して、細菌成長を抑制し、かつコーティングおよびフィルム用途における前記非イオン界面活性剤の熱分解を抑制する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1pHが、約2〜約5であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2pHが、約11未満であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記最終pHが、約9〜約11であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記最終pHが、約9.5〜約10.5であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記分散液からフィルムまたはコーティングを形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記分散液を濃縮する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
さらに、前記陰イオン交換樹脂が、第4級アンモニウム基を含む官能基を有するポリマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液と陰イオン交換樹脂との前記接触が、フッ素系界面活性剤含有量を約300ppm以下の所定のレベルに低減することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液と陰イオン交換樹脂との前記接触が、フッ素系界面活性剤含有量を約100ppm以下の所定のレベルに低減することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液と陰イオン交換樹脂との前記接触が、フッ素系界面活性剤含有量を約50ppm以下の所定のレベルに低減することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記初期フッ素系界面活性剤含有量が、少なくとも約500ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
分散液中のフルオロポリマー固形分の重量を基準にして非イオン界面活性剤約2〜約11重量%を含む、水性媒体中のフルオロポリマー粒子を含むフルオロポリマー水性分散液であり、前記分散液が、約30〜約70重量%のフルオロポリマー固形分、約300ppm以下のフッ素系界面活性剤含有量、およびpH約9〜約11を有することを特徴とするフルオロポリマー水性分散液。
【請求項15】
pH約9.5〜約10.5を有することを特徴とする請求項14に記載のフルオロポリマー水性分散液。
【請求項16】
約100ppm以下のフッ素系界面活性剤含有量を有することを特徴とする請求項14に記載のフルオロポリマー水性分散液。
【請求項17】
約50ppm以下のフッ素系界面活性剤含有量を有することを特徴とする請求項14に記載のフルオロポリマー水性分散液。

【公表番号】特表2008−530314(P2008−530314A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555395(P2007−555395)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【国際出願番号】PCT/US2006/006984
【国際公開番号】WO2006/086795
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】