説明

制御弁

【課題】従来より気密封止部の数が少ない制御弁の提供を第1の目的とし、電力を従来より効率良くロータ側界磁部の回転に変換することが可能な制御弁の提供を第2の目的とする。
【解決手段】本発明の制御弁10によれば、大径筒部31と小径筒部32とが一体成形されているので、それら大径筒部31と小径筒部32に相当する部品を別々に備えてロウ付けを行っていた従来の制御弁に比べて気密封止部の数を少なくすることができる。また、本発明の制御10弁では、ロータシャフト13を支持する部品間のロウ付けを廃止し、プロジェクション溶接で固定したので、ロウ付け時に比べて治具が高温にならず、厳密に芯出し可能な治具90を使用することが可能になる。これにより、大径筒部31とロータ側界磁部12との間の勘合隙間を小さくすることができ、電力を従来より効率良くロータ側界磁部12の回転に変換することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータシャフトの回転を、弁座に対する弁体の直動動作に変換して弁開度を変更可能な制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示した従来の制御弁は、ロータシャフト4を収容するために、ロータケース2と弁座ベース3とを主要部として備えている。ロータケース2は、板金の成形品であって両端開放の円筒状をなし、その一端開口は、蓋体2Fを溶接して閉塞されている。一方、弁座ベース3は、金属ブロックの切削加工品であり、本体部3Hとインナー筒部3Aとからなる。そして、インナー筒部3Aをロータケース2内に収容した状態で、ロータケース2の先端部が本体部3Hにロウ付けされている。
【0003】
インナー筒部3A内にはナット3Nが圧入され、そのナット3Nにロータシャフト4の螺子部が螺合している。本体部3Hには、インナー筒部3Aの内部空間の延長線上に、シャフト挿通孔3Bが貫通形成され、シャフト挿通孔3Bの中間部から側部流路3Cが側方に分岐している。そして、側部流路3C及びシャフト挿通孔3Bの開放端には、流路用パイプR1,R2がロウ付けされている。また、シャフト挿通孔3Bの開放端寄り位置には弁座3Zが形成され、ロータシャフト4の先端に備えた弁体7が弁座3Zに対向している。
【0004】
ロータシャフト4には、ロータ側界磁部6が固定されてロータケース2内に収容されている。また、ロータケース2の外側にはステータ側界磁部8が固定され、そのステータ側界磁部8に備えた電磁コイル8Aの励磁することでロータシャフト4が回転駆動されて、弁体7が弁座3Zに対して直動し、弁開度が変更される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−233368号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した構造の制御弁では、流路用パイプR1,R2がロウ付けされると、制御弁の内部空間と流路用パイプR1,R2内の空間とが連通した状態になる。そして、従来の制御弁には、流体を漏らさないための気密封止部が、ロータケース2の一端開口と蓋体2Fとの溶接部と、流路用パイプR1,R2との2箇所のロウ付け部と、ロータケース2と弁座ベース3とのロウ付け部との合計4箇所にあった。これら気密封止部は、溶接やロウ付け作用のばらつきにより、気密不足が発生し得るので、気密性向上のために、気密封止部が少ない制御弁の開発が求められていた。
【0006】
また、上記した従来の制御弁では、ロータケース2と弁座ベース3とがロウ付けによって固定されていたので、それらロータケース2と弁座ベース3との間で芯出しの精度を高くすることができないという問題もあった。具体的には、ロウ付け時にロウ材は700〜800℃で溶融し、ロータケース2及び弁座ベース3のみならず、それらを芯出しするための治具も高温になる。そして、厳密に芯出し可能な治具を用いると、ロータケース2及び弁座ベース3と治具との熱膨張の差によって治具が外れなくなったり、ロータケース2又は弁座ベース3が破損する事態が生じ得る。その結果、厳密に芯出し可能な治具を用いることができず、ロータケース2と弁座ベース3との間で芯出しの精度を高くすることができなかった。このため、ロータケース2とロータ側界磁部6との間の嵌合隙間を小さく設定すると、ロータ側界磁部6とロータケース2との間の芯がずれによる摺接異音が発生し、NG品が多発することになる。これに対し、従来の制御弁では、摺接異音の発生を防ぐために、ロータ側界磁部6とロータケース2との間の嵌合隙間を比較的大きく設置していた。そのために、ロータ側界磁部6とステータ側界磁部8との間の磁力が低下することなり、電力をロータ側界磁部6の回転に変換する際のエネルギー効率が悪くなっていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来より気密封止部の数が少ない制御弁の提供を第1の目的とし、電力を従来より効率良くロータ側界磁部の回転に変換することが可能な制御弁の提供を第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る制御弁(10)は、ロータシャフト(13)に固定したロータ側界磁部(12)をロータ収容部(31)内に回転可能に収容すると共に、ロータシャフト(13)の先端部に備えた弁体(22)を、ロータ収容部(31)の一端部から延設された弁体収容部(32)に収容し、ロータシャフト(13)の中間部をロータ収容部(31)の一端部内側に固定されたナット(44)に螺合して、ロータ収容部(31)の外側で発生させた磁気によりロータ側界磁部(12)を回転駆動することで弁体(22)を直動させて、弁体収容部(32)に備えた弁孔(42A)の開度を変更可能とした制御弁(10)において、ロータ収容部(31)としての大径筒部(31)と弁体収容部(32)としての小径筒部(32)とを一体成形して備えた段付きスリーブ(30)を設け、小径筒部(32)の先端開口(32X)寄り位置に弁孔(42A)を有した弁座(42)を設けると共に、小径筒部(32)のうち弁座(42)より大径筒部(31)寄り位置に側部開口(32B)を設け、小径筒部(32)の先端開口(32X)と側部開口(32B)とを、流路用パイプ(P1,P2)が気密状態に連結される気密封止部とし、大径筒部(31)の先端開口を、蓋体(18)で閉塞された気密封止部としたところに特徴を有する。
【0009】
請求項2の発明に係る制御弁(10)は、ロータシャフト(13)の回転を、弁座(42)に対する弁体(22D)の直動動作に変換して弁開度を変更可能な制御弁(10)において、互いに径が異なる大径筒部(31)と小径筒部(32)とを同軸上に並んだ状態に一体形成して備えかつそれら大径筒部(31)と小径筒部(32)との間が段差壁(33)にて連絡された段付きスリーブ(30)と、大径筒部(31)より小径でかつ短い筒状をなし、一端から側方に張り出したフランジ壁(40B)を有し、大径筒部(31)の内側同軸上に配置されて段付きスリーブ(30)の段差壁(33)にフランジ壁(40B)がプロジェクション溶接されたインナースリーブ(40)と、インナースリーブ(40)の内側に圧入されたナット(44)と、小径筒部(32)の側面に形成され、流路用パイプ(P1)が気密状態に連結される側部開口(32B)と、小径筒部(32)の先端に備えられ、流路用パイプ(P2)が気密状態に連結される先端開口(32X)と、小径筒部(32)のうち側部開口(32B)と先端開口(32X)との間に圧入され、弁孔(42A)が貫通成形された弁座(42)と、大径筒部(31)のうち小径筒部(32)から離れた側の端部開口を閉塞して気密状態に溶接された蓋体(18)と、一端側がインナースリーブ(40)及び小径筒部(32)の内側に収容され、他端側が大径筒部(31)内でインナースリーブ(40)の端部から突出したロータシャフト(13)と、ロータシャフト(13)に設けられて、ナット(44)に螺合した雄螺子部(14C)と、ロータシャフト(13)の一端部に設けられ、雄螺子部(14C)とナット(44)との螺合深さの変化に伴って、弁座(42)に対して直動する弁体(22D)と、大径筒部(31)内に回転可能に収容され、ロータシャフト(13)のうちインナースリーブ(40)の先端から突出した部分に固定されて、雄螺子部(14C)と一体回転するロータ側界磁部(12)と、大径筒部(31)の外側に嵌合固定され、ロータ側界磁部(12)を回転駆動する磁力を発生させるための電磁コイル(11A)を有したステータ側界磁部(11)とを備えたところに特徴を有する。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2に記載の制御弁(10)において、弁孔(42A)の形状が異なる複数種類の弁座(42)を備え、任意に弁座(42)を選択して小径筒部(32)に圧入可能としたところに特徴を有する。
【0011】
請求項4の発明に係る請求2又は3に記載の制御弁(10)は、小径筒部(32)の内側に圧入され、ロータシャフト(13)を段付きスリーブ(30)の中心に芯だしして回転可能かつ直動可能に軸支する軸受スリーブ(43)を備えたところに特徴を有する。
【0012】
請求項5の発明は、請求項2乃至4の何れかに記載の制御弁(10)において、弁座(42)のうち側部開口(32B)から離れた側の端部の外径を、側部開口(32B)側の端部の外径より大きくして小径筒部(32)内に圧入される圧入部(42C)を形成し、弁座(42)のうち側部開口(32B)側の端部の外面と、小径筒部(32)の内面との間に、溶けたロウ材を受容可能にする隙間(C1)を設けたところに特徴を有する。
【0013】
請求項6の発明は、請求項5に記載の制御弁(10)において、小径筒部(32)のうち弁座(42)が圧入される被圧入部(32A)より大径筒部(31)側の内径を大きくして、弁座(42)を遊嵌可能としたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
[請求項1の発明]
請求項1の制御弁(10)では、ロータ収容部(31)としての大径筒部(31)と、弁体収容部(32)としての小径筒部(32)とを一体成形して備えた段付きスリーブ(30)を設けたことにより、それら大径筒部(31)と小径筒部(32)に相当する部品を別々に備えてロウ付けを行っていた従来の制御弁に比べて気密封止部の数を少なくすることができる。具体的には、請求項1の制御弁(10)では、小径筒部(32)の先端開口(32X)と側部開口(32B)とを、流路用パイプ(P1,P2)が気密状態に連結される気密封止部とし、大径筒部(31)の先端開口を、蓋体(18)で閉塞された気密封止部としたので、制御弁(10)全体で気密封止部は3箇所になり、4箇所に気密封止部を備えた従来の制御弁に比べて気密封止部の数を少なくすることができる。これにより、気密性の向上が図られる。
【0015】
[請求項2の発明]
請求項2の構成によれば、ロータ側界磁部(12)を収容した大径筒部(31)と、弁座(42)を備えた小径筒部(32)とが一体成形されているので、それら大径筒部(31)と小径筒部(32)に相当する部品を別々に備えてロウ付けを行っていた従来の制御弁に比べて気密封止部の数を少なくすることができる。これにより、気密性の向上が図られる。
【0016】
[請求項3の発明]
請求項3の構成によれば、弁孔(42A)の形状が異なる複数の種類の弁座(42)を備え、任意に弁座(42)を選択して小径筒部(32)に圧入可能としたので、弁孔(42A)の形状が異なる複数の制御弁(10)間で、弁座(42)以外の部品の共通化を図ることができる。
【0017】
[請求項4の発明]
請求項4の構成によれば、大径筒部(31)と小径筒部(32)とが一体成形されているので、それら大径筒部(31)及び小径筒部(32)の間においては組付誤差による芯ずれは生じない。また、小径筒部(32)とインナースリーブ(40)とに共通の治具(90)を嵌合した状態でプロジェクション溶接することができる。ここで、プロジェクション溶接では、溶接対象部分が局所的に加熱されるので、ロウ付け時のように治具(90)まで高温になることはない。これにより、厳密に芯出し可能な治具(90)を用いることができ、インナースリーブ(40)と大径筒部(31)及び小径筒部(32)との間における芯ずれを防ぐことができる。そして、小径筒部(32)の内側に圧入された軸受スリーブ(43)によって、ロータシャフト(13)が段付きスリーブ(30)の中心に芯だしされるので、ロータシャフト(13)と一体回転するロータ側界磁部(12)と大径筒部(31)と間の芯ずれが抑えられる。これにより、大径筒部(31)とロータ側界磁部(12)との間の勘合隙間を従来より小さくすることができ、電力を従来より効率良くロータ側界磁部(12)の回転に変換することができる。
【0018】
[請求項5の発明]
請求項5の構成では、流路用パイプ(P1)を側部開口(32B)の開口縁に固定するためのロウ材が、側部開口(32B)から小径筒部(32)内に流れ込んだ場合に、そのロウ材が弁座(42)の外面と小径筒部(32)の内面との間の隙間(C1)に流れ込み、弁孔(42A)がロウ材によって塞がれることを防ぐことができる。
【0019】
[請求項6の発明]
請求項6の構成によれば、小径筒部(32)のうち弁座(42)が圧入される被圧入部(32A)より大径筒部(31)側の内径を大きくして、弁座(42)を遊嵌可能としたので、弁座(42)を大径筒部(31)側から小径筒部(32)の被圧入部(32A)まで容易に挿入することができる。これにより、弁座(42)、ナット(44)、ロータシャフト(13)を含む複数の部品を、全て段付きスリーブ(30)の大径筒部(31)側から挿入組み付けする場合の組み付け作業が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。本実施形態の制御弁10は、図1に全体が示されている。この制御弁10は、重力方向に対してどのような姿勢で使用してもよいが、説明の便宜上、図1における上下方向を、以下、制御弁10及びその各構成部品の上下方向とする。
【0021】
制御弁10は、本発明に係る段付きスリーブ30の外側にステータ側界磁部11を固定して備える一方、段付きスリーブ30の内側にロータ側筒形界磁部を回転可能に収容して備えている。そして、ステータ側界磁部11とロータ側界磁部12とを主要部としてステッピングモータが構成されている。
【0022】
ステータ側界磁部11は円環状をなし、複数の電磁コイル11Aを周方向に並べて備えている。また、ステータ側界磁部11の側面からはコネクタ部11Bが突出している。
【0023】
ロータ側界磁部12は、上端有底の円筒形をなした永久磁石であって、例えば、周方向を複数当分した位置に磁極をそれぞれ備えている。ロータ側界磁部12の上端壁12Aにおける中心にはロータシャフト13が貫通している。ロータシャフト13は、駆動シャフト14とニードル22とからなる。駆動シャフト14は、軸方向の中間位置に鍔部14Aを備え、その鍔部14Aが上端壁12Aに中心部に固定されている。駆動シャフト14のうち鍔部14Aより上側部分には、螺旋ガイド16が固定されている。螺旋ガイド16は、駆動シャフト14の上端部に線材を螺旋状に巻回し、その線材の上端部を駆動シャフト14の上端部に側方から貫通させた構造になっている。
【0024】
螺旋ガイド16にはストッパーリング17が係合している。ストッパーリング17は、螺旋ガイド16のうち軸方向で隣り合った線材同士の隙間の一部に収まったリング状をなしかつ側方にストッパーアーム17Aを張り出して備えている。また、段付きスリーブ30の上端開口を閉塞する後述の蓋体18からは、駆動シャフト14と平行にストッパーシャフト19が垂下されている。そして、ストッパーアーム17Aがこのストッパーシャフト19に当接した状態で、ロータ側界磁部12が回転すると、ストッパーリング17が螺旋ガイド16に対して相対回転して上下動し、螺旋ガイド16の上端部又は下端部まで移動したときに回動不能となる。これにより、ロータ側界磁部12の回転量が規制される。
【0025】
駆動シャフト14のうち鍔部14Aより下側には、円柱状の摺動軸部14Bと雄螺子部14Cとが上下に並べて備えられている。また、駆動シャフト14の中心部には、連結孔14Dが穿孔されて、その連結孔14Dが駆動シャフト14の下端面に開放している。そして、図2に示すように、連結孔14Dの奥部にはボール20が収容され、そのボール20に次いで圧縮コイルバネ21が収容され、さらに、その下方にニードル22の上端部が収容されている。
【0026】
ニードル22は、断面円形をなして上下方向に延び、その上端部には、フランジ形係止壁22Fが形成されている。そして、フランジ形係止壁22Fが連結孔14Dに挿入された状態で連結孔14Dの下端部に抜止リング23が圧入され、ニードル22の上端部が連結孔14Dに抜け止めされている。なお、前記圧縮コイルバネ21の下端部はフランジ形係止壁22Fの上面に押し付けられ、圧縮コイルバネ21の上端部は、ボール20に押し付けられている。
【0027】
ニードル22の下端部は、本発明に係る弁体22Dになっている。弁体22Dには、下端側の先端から上方に向かって順番に、第1テーパー部22A、第2テーパー部22B、第3テーパー部22Cが備えられている。なお、第1テーパー部22Aは三角錐状をなし、各テーパー部における中心軸とテーパー面との角度は、第1テーパー部22Aが最も大きく、第3テーパー部22Cが2番目に大きく、第2テーパー部22Bが一番小さくなっている。
【0028】
さて、段付きスリーブ30は、板金の成形品であって、互いに径が異なる大径筒部31と小径筒部32とを上下に並べて備えている。これら大径筒部31と小径筒部32とは同軸上に配置され、それら大径筒部31及び小径筒部32の端部同士の間が円板状の段差壁33にて連絡されている。
【0029】
小径筒部32の下端部は、小径筒部32の全体に比べて若干小径の被圧入部32Aになっている。また、小径筒部32の下端面は開放して、本発明に係る先端開口32Xになっている。さらに、小径筒部32における軸方向の中間位置には、側方に開放した側部開口32Bが形成されている。
【0030】
なお、板金から段付きスリーブ30を成形するには、例えば円形平板状の板金(例えば、ステンレス)を金型で椀形にプレス成形し、その椀形の成形品を異なる複数種類の金型を用いて、徐々に段付きスリーブ30の形状にプレス成形する。そして、最後に小径筒部32の端部を打ち抜いて先端開口32Xを成形すると共に、小径筒部32の中間を側方から打ち抜いて側部開口32Bを成形する。
【0031】
段付きスリーブ30における段差壁33の内面には、インナースリーブ40が固定されている。インナースリーブ40は、板金の成形品であって全体が円筒状をなし、その一端から側方にフランジ壁40Bが張り出している。また、インナースリーブ40を段付きスリーブ30に固定する際には、図3に示すように、段付きスリーブ30の小径筒部32に治具90を嵌合してその治具90を段差壁33から上方に突出させた状態にする。そして、インナースリーブ40をフランジ壁40B側から大径筒部31内に挿入し、インナースリーブ40を前記治具90の外側に嵌合することで、インナースリーブ40を大径筒部31の内側同軸上に芯だし、さらに、段差壁33の下面に円環状のベースプレート41を宛がった状態にして、フランジ壁40Bと段差壁33とベースプレート41とをプロジェクション溶接(抵抗溶接)する。これにより、インナースリーブ40が段付きスリーブ30に芯だしされた状態で固定されている。図3において、符号91,92は、プロジェクション溶接用の電極であって、一方の電極91は、大径筒部31とインナースリーブ40との間に遊嵌されてフランジ壁40Bに突き当てられた円筒状をなし、他方の電極92は、フランジ壁40B、段差壁33、ベースプレート41を電極91との間に挟むことが可能な円環状になっている。
【0032】
上記したように段付きスリーブ30にインナースリーブ40を固定したものには、図2に示した弁座42、軸受スリーブ43及びナット44が、順番に、大径筒部31側からインナースリーブ40又は小径筒部32内に挿入組み付けされている。
【0033】
弁座42は、小径筒部32の下端部の被圧入部32Aに圧入されている。弁座42の中心には、弁孔42Aが貫通形成され、その弁孔42Aの上端側開口縁は、上方に向かってテーパー状に拡開している。また、弁座42の下端部は、上端部に比べて外径が大きな圧入部42Cになっている。そして、弁座42は、大径筒部31側からインナースリーブ40、小径筒部32へと挿入される。このとき、弁座42は、小径筒部32の被圧入部32Aに当接するまでは遊嵌状態になるのでスムーズに挿入することができる。そして、弁座42が被圧入部32Aに圧入された状態で、弁座42の下端部が、小径筒部32における最下端より若干上方に位置すると共に、弁座42の上端部が、側部開口32Bの下端部と同一位置又は若干下方位置に配置されている。また、弁座42のうち側部開口32B側の端部の外面と、小径筒部32の内面との間には、隙間C1が形成されたている。
【0034】
軸受スリーブ43は、小径筒部32のうち側部開口32Bより上方側に圧入されている。軸受スリーブ43は、下端部が先細りになった筒形状をなしている。また、軸受スリーブ43の上面は、段差壁33の上面より若干下方に位置している。
【0035】
ナット44は、インナースリーブ40の内側に圧入されている。ナット44の上端部は、軸受部44Bになっている。この点において、ナット44は、本発明に係る「軸受スリーブ」にも相当する。また、ナット44のうち軸受部44Bより下側部分は、軸受部44Bより内径が小さい雌螺子部44Aになっている。
【0036】
上記したようにロータ側界磁部12とロータシャフト13とが一体になった部品は、段付きスリーブ30に大径筒部31側から挿入される。そして、ロータシャフト13の雄螺子部14Cがナット44の雌螺子部44Aに螺合され、駆動シャフト14の摺動軸部14Bがナット44の軸受部44Bに回転可能かつ直動可能に軸支され、さらに、ロータシャフト13を構成するニードル22の中間部分が軸受スリーブ43に回転可能かつ直動可能に軸支される。そして、ロータ側界磁部12の外周面と、段付きスリーブ30における大径筒部31の内周面とが間に隙間C2が形成された状態に保持される。
【0037】
ロータシャフト13等が段付きスリーブ30内に組み付けられたら、図1に示すように、段付きスリーブ30の上面開口が蓋体18によって密閉される。蓋体18は、段付きスリーブ30と同じ材料(例えば、ステンレス)で構成され、段付きスリーブ30に対してプラズマ溶接され、これにより段付きスリーブ30の上面開口が気密状態に封止される。そして、段付きスリーブ30の外側にステータ側界磁部11を嵌合してベースプレート41をステータ側界磁部11に固定し、制御弁10が完成する。
【0038】
制御弁10は、例えば、エアコンの流路の途中に取り付けられる。具体的には、小径筒部32の先端開口32X内に流路用パイプP2が挿入された状態でロウ付けされて、先端開口32Xが気密状態に封止される。また、側部開口32Bの開口縁には、流路用パイプP1の先端がフランジ状に拡げた状態でロウ付けされて、側部開口32Bが気密状態に封止される。ここで、流路用パイプP1をロウ付けする際に、そのロウ材が、側部開口32Bから小径筒部32内に流れ込んでも、そのロウ材は弁座42の外面と小径筒部32の内面との間の隙間C1に流れ込むので、弁孔42Aがロウ材によって塞がれることはない。また、制御弁10のコネクタ部11Bは、エアコンの制御回路に接続される。そして、制御回路から電力を受けて電磁コイル11Aが励磁され、ロータ側界磁部12と共にロータシャフト13が回転駆動されて、ニードル22が直動する。これにより、弁孔42Aの開度が変更されて、流路用パイプP1と流路用パイプP2との間を流れる流体(冷媒)の流量が変更される。
【0039】
さて、本実施形態の制御弁10によれば、上述したようにロータ側界磁部12を収容した大径筒部31と、弁座42を備えた小径筒部32とが一体成形されているので、それら大径筒部31と小径筒部32に相当する部品を別々に備えてロウ付けを行っていた従来の制御弁に比べて気密封止部の数を少なくすることができる。具体的には、本実施形態の制御弁10では、小径筒部32の先端開口32Xと側部開口32Bとを、流路用パイプP1,P2が気密状態に連結される気密封止部とし、大径筒部31の先端開口を蓋体18の溶接による気密封止部としたので、気密封止部は制御弁10全体で3箇所になり、4箇所に気密封止部を備えた従来の制御弁に比べて気密封止部の数を少なくすることができる。これにより、気密性の向上が図られる。
【0040】
また、大径筒部31と小径筒部32とは、一体成形されているので、それら大径筒部31及び小径筒部32の間で組付誤差による芯ずれは生じない。さらに、上記したように、小径筒部32とインナースリーブ40とに共通した治具90を嵌合した状態で、インナースリーブ40が段付きスリーブ30にプロジェクション溶接されている。ここで、プロジェクション溶接では、溶接対象部分が局所的に加熱されるので、ロウ付け時のように治具90が高温になることはない。これにより、厳密に芯出し可能な治具90を用いることができ、インナースリーブ40と大径筒部31及び小径筒部32との間における芯ずれを防ぐことができる。そして、小径筒部32の内側に固定された軸受スリーブ43と、インナースリーブ40の内側に固定されたナット44の軸受部44Bとによって、ロータシャフト13が段付きスリーブ30の中心に芯だしされているので、ロータシャフト13と一体回転するロータ側界磁部12と大径筒部31と間の芯ずれが抑えられる。これにより、大径筒部31の内周面とロータ側界磁部12との間の隙間C2(図2参照)を小さくすることができ、電力を従来より効率良くロータ側界磁部12の回転に変換することができる。
【0041】
その上、本実施形態の制御弁10によれば、弁孔42Aの形状が異なる複数の種類の弁座42を用意しておき、任意に弁座42を選択して小径筒部32に圧入可能とすることで、弁孔42Aの形状が異なる複数の制御弁10間で、弁座42以外の部品の共通化を図ることができる。
【0042】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、上記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る制御弁の側断面図
【図2】制御弁の一部を拡大した側断面図
【図3】段付きスリーブにインナースリーブを固定する際の側断面図
【図4】従来の制御弁の側断面図
【符号の説明】
【0044】
10 制御弁
11 ステータ側界磁部
11A 電磁コイル
12 ロータ側界磁部
13 ロータシャフト
14C 雄螺子部
17 ストッパーリング
18 蓋体
22D 弁体
30 段付きスリーブ
31 大径筒部(ロータ収容部)
32 小径筒部(弁体収容部)
32A 被圧入部
32B 側部開口
32X 先端開口
33 段差壁
40 インナースリーブ
40B フランジ壁
42 弁座
42A 弁孔
42C 圧入部
43 軸受スリーブ
44 ナット
90 治具
C1 隙間
P1,P2 流路用パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータシャフト(13)に固定したロータ側界磁部(12)をロータ収容部(31)内に回転可能に収容すると共に、前記ロータシャフト(13)の先端部に備えた弁体(22)を、前記ロータ収容部(31)の一端部から延設された弁体収容部(32)に収容し、
前記ロータシャフト(13)の中間部を前記ロータ収容部(31)の一端部内側に固定されたナット(44)に螺合して、前記ロータ収容部(31)の外側で発生させた磁気により前記ロータ側界磁部(12)を回転駆動することで前記弁体(22)を直動させて、前記弁体収容部(32)に備えた弁孔(42A)の開度を変更可能とした制御弁(10)において、
前記ロータ収容部(31)としての大径筒部(31)と前記弁体収容部(32)としての小径筒部(32)とを一体成形して備えた段付きスリーブ(30)を設け、
前記小径筒部(32)の先端開口(32X)寄り位置に前記弁孔(42A)を有した弁座(42)を設けると共に、前記小径筒部(32)のうち前記弁座(42)より前記大径筒部(31)寄り位置に側部開口(32B)を設け、
前記小径筒部(32)の前記先端開口(32X)と前記側部開口(32B)とを、流路用パイプ(P1,P2)が気密状態に連結される気密封止部とし、
前記大径筒部(31)の先端開口を、蓋体(18)で閉塞された気密封止部としたことを特徴とする制御弁(10)。
【請求項2】
ロータシャフト(13)の回転を、弁座(42)に対する弁体(22D)の直動動作に変換して弁開度を変更可能な制御弁(10)において、
互いに径が異なる大径筒部(31)と小径筒部(32)とを同軸上に並んだ状態に一体形成して備えかつそれら大径筒部(31)と小径筒部(32)との間が段差壁(33)にて連絡された段付きスリーブ(30)と、
前記大径筒部(31)より小径でかつ短い筒状をなし、一端から側方に張り出したフランジ壁(40B)を有し、前記大径筒部(31)の内側同軸上に配置されて前記段付きスリーブ(30)の前記段差壁(33)に前記フランジ壁(40B)がプロジェクション溶接されたインナースリーブ(40)と、
前記インナースリーブ(40)の内側に圧入されたナット(44)と、
前記小径筒部(32)の側面に形成され、流路用パイプ(P1)が気密状態に連結される側部開口(32B)と、
前記小径筒部(32)の先端に備えられ、流路用パイプ(P2)が気密状態に連結される先端開口(32X)と、
前記小径筒部(32)のうち前記側部開口(32B)と前記先端開口(32X)との間に圧入され、前記弁孔(42A)が貫通成形された弁座(42)と、
前記大径筒部(31)のうち前記小径筒部(32)から離れた側の端部開口を閉塞して気密状態に溶接された蓋体(18)と、
一端側が前記インナースリーブ(40)及び前記小径筒部(32)の内側に収容され、他端側が前記大径筒部(31)内で前記インナースリーブ(40)の端部から突出した前記ロータシャフト(13)と、
前記ロータシャフト(13)に設けられて、前記ナット(44)に螺合した雄螺子部(14C)と、
前記ロータシャフト(13)の一端部に設けられ、前記雄螺子部(14C)と前記ナット(44)との螺合深さの変化に伴って、前記弁座(42)に対して直動する前記弁体(22D)と、
前記大径筒部(31)内に回転可能に収容され、前記ロータシャフト(13)のうち前記インナースリーブ(40)の先端から突出した部分に固定されて、前記雄螺子部(14C)と一体回転するロータ側界磁部(12)と、
前記大径筒部(31)の外側に嵌合固定され、前記ロータ側界磁部(12)を回転駆動する磁力を発生させるための電磁コイル(11A)を有したステータ側界磁部(11)とを備えたことを特徴とする制御弁(10)。
【請求項3】
前記弁孔(42A)の形状が異なる複数種類の前記弁座(42)を備え、任意に前記弁座(42)を選択して前記小径筒部(32)に圧入可能としたことを特徴とする請求項2に記載の制御弁(10)。
【請求項4】
前記小径筒部(32)の内側に圧入され、前記ロータシャフト(13)を前記段付きスリーブ(30)の中心に芯だしして回転可能かつ直動可能に軸支する軸受スリーブ(43)を備えたことを特徴とする請求2又は3に記載の制御弁(10)。
【請求項5】
前記弁座(42)のうち前記側部開口(32B)から離れた側の端部の外径を、前記側部開口(32B)側の端部の外径より大きくして前記小径筒部(32)内に圧入される圧入部(42C)を形成し、
前記弁座(42)のうち前記側部開口(32B)側の端部の外面と、前記小径筒部(32)の内面との間に、溶けたロウ材を受容可能にする隙間(C1)を設けたことを特徴とする請求項2乃至4の何れかに記載の制御弁(10)。
【請求項6】
前記小径筒部(32)のうち前記弁座(42)が圧入される被圧入部(32A)より前記大径筒部(31)側の内径を大きくして、前記弁座(42)を遊嵌可能としたことを特徴とする請求項5に記載の制御弁(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−25143(P2010−25143A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183912(P2008−183912)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】