説明

制御装置の劣化診断システム

【課題】将来の導電部材の腐食量を精度よく推定する劣化診断システムを提供する。
【解決手段】各センサで測定された制御装置3内環境データと導電部材9の腐食データとを設定期間記録し、記録された筐体内環境データと腐食データとに基づいて導電部材9の将来の腐食量を推定して劣化診断を行う診断処理装置4と、制御装置3外の過去の温度及び湿度からなる外気環境データが記録された外気環境データベース6とを備え、診断処理装置4を、設定期間に記録された制御装置3内環境データ腐食データとの相関関係を求め、設定期間と同時期の外気環境データと制御装置3内環境データの対応関係を求め、その対応関係と過去の外気環境データとに基づいて、将来の制御装置3内環境データを推定し、推定した制御装置3内内環境データと相関関係とから導電部材9の将来の腐食量を推定するように構成した劣化診断システム1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置の劣化診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターやプラント等を制御する制御装置の故障の要因として、制御装置に収納され電子部品等が実装されたプリント基板上の配線及び電子部品の接続端子(以下、導電部材と総称する。)の腐食による劣化が挙げられる。そこで、予め導電部材の劣化診断を行って将来の劣化進行度を推定し、劣化による故障が起きる前に劣化部分を交換できるようにすることが望ましい。
【0003】
従来の劣化診断として、導電部材と同じ金属材料を試験片として、制御装置内に一定期間曝露し、腐食厚さを測定し、腐食厚さと曝露期間から平均腐食進行度を求め、求めた平均腐食進行度から将来の腐食量を推定する方法がある。また、特許文献1のように、腐食量の因子である温度、湿度等を測定して、測定値の範囲に対して評価点を与え、評価点の関数から将来の腐食量を求める方法がある。
【0004】
【特許文献1】特開2001−215187
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、腐食量の因子である温度、湿度は、試験片を曝露する季節により大きく変動し、また、制御装置内の温度、湿度は、制御装置の稼動状態によっても変動することから、実際には腐食進行度は一定ではない。上記従来の方法では、温度及び湿度の変動が考慮されておらず、精度のよい腐食量の推定を行うことが困難であった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、将来の導電部材の腐食量を精度よく推定する劣化診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の劣化診断システムは、診断対象である導電部材を備えた電子又は電気部品が実装されたプリント基板が収納された筐体内の温度を測定する温度センサと、筐体内の湿度を測定する湿度センサと、診断対象の腐食量を測定する腐食センサと、各センサで測定された筐体内の温度及び湿度からなる筐体内環境データと診断対象の腐食データとを設定期間記録し、その記録された筐体内環境データと腐食データとに基づいて診断対象の将来の腐食量を推定して劣化診断を行う診断処理装置と、筐体外の過去の温度及び湿度からなる外気環境データが記録された外気環境データベースとを備え、診断処理装置は、設定期間に記録された筐体内環境データと腐食データとの相関関係を求め、設定期間における外気環境データと筐体内環境データの対応関係を求め、その対応関係と過去の外気環境データとに基づいて将来の筐体内環境データを推定し、その推定した筐体内環境データとその相関関係とから診断対象の将来の腐食量を推定することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、将来の筐体内環境データを実情に合わせて推定できることから、診断対象の将来の腐食量を精度よく推定できる。すなわち、設定期間と同時期の外気環境データと筐体内環境データの対応関係から、例えば外気環境データと筐体内環境データとの温度差、湿度差、それらの周期的変化を求め、これらを過去の外気環境データに当てはめて、筐体内環境データの周期的変化及び外気環境データの影響を加味した将来の筐体内環境データを推定できる。腐食量は温度及び湿度が因子となることから、将来の筐体内環境データを実情に合わせて精度よく推定できれば、将来の腐食量を精度よく推定することができる。なお、設定期間は、1乃至3ヶ月が目安となるが、高精度推定には3ヶ月以上が望ましい。簡易推定には1週間程度でもよいが、この場合は高精度な腐食センサである電気抵抗式腐食センサを用いるのが好ましい。また、外気環境データベースは、例えば気象庁の気象統計情報を利用することができる。
【0009】
ここで、制御装置の設置環境が空調制御されている場合、筐体外の温度及び湿度は、空調の設定温度及び湿度となる。
【0010】
この場合、劣化診断システムを、診断対象である導電部材を備えた電子又は電気部品が実装されたプリント基板が収納され空調雰囲気にある筐体内の温度を測定する温度センサと、筐体内の湿度を測定する湿度センサと、診断対象の腐食量を測定する腐食センサと、各センサで測定された筐体内の温度及び湿度からなる筐体内環境データと診断対象の腐食データとを設定期間記録し、その記録された筐体内環境データと腐食データとに基づいて診断対象の将来の腐食量を推定して劣化診断を行う診断処理装置と、空調の設定温度及び湿度からなる空調データが記録された空調データベースとを備え、診断処理装置を、設定期間に記録された筐体内環境データと腐食データとの相関関係を求め、筐体内環境データと空調データとの対応関係に基づいて、将来の筐体内環境データを推定し、その推定した筐体内環境データとその相関関係とから診断対象の将来の腐食量を推定するように構成することが望ましい。
【0011】
これにより、外気環境データの場合と同様にして、空調の設定温度及び湿度に合わせて将来の筐体内温度及び湿度の変化を精度よく推定することができ、腐食量を精度よく推定することができる。
【0012】
ところで、制御装置の故障のさらなる要因として、プリント基板上の導電部材間の絶縁劣化が挙げられる。よって、腐食量の推定と同様に、絶縁劣化についても推定する必要がある。
【0013】
この場合、劣化診断システムを、診断対象である導電部材を備えた電子又は電気部品が実装されたプリント基板が収納された筐体内の温度を測定する温度センサと、筐体内の湿度を測定する湿度センサと、診断対象に付着する塵埃量を測定する塵埃センサと、各センサで測定された筐体内の温度及び湿度からなる筐体内環境データと塵埃データとを設定期間記録し、その記録された筐体内環境データと塵埃データとに基づいて診断対象の絶縁劣化の診断を行う診断処理装置と、筐体外の過去の温度及び湿度からなる外気環境データが記録された外気環境データベースとを備え、診断処理装置は、設定期間に記録された筐体内環境データと絶縁劣化の進行度との相関関係を求め、設定期間における外気環境データと筐体内環境データとの対応関係を求め、その対応関係と過去の外気環境データとに基づいて将来の筐体内環境データを推定し、その推定した筐体内環境データとその相関関係とから診断対象の将来の絶縁劣化の進行度を推定するように構成することが望ましい。
【0014】
これにより、上記腐食量の推定と同様に、将来の筐体内環境データを精度よく推定することができる。絶縁劣化の主たる要因はイオンマイグレーションであり、イオンマイグレーションの因子は温度及び湿度と塵埃量であることから、推定した筐体内環境データと設定期間に記録された筐体内環境データと絶縁劣化の進行度との相関関係から推定した塵埃量とで、絶縁劣化の進行度を精度よく推定することができる。
【0015】
また、制御装置の設置環境が空調制御されている場合は、上記腐食量の推定と同様に、空調データベースを備えるのが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、将来の腐食量を精度よく推定する劣化診断システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
【実施例1】
【0018】
以下、本発明の第1の実施例を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1(a)は、劣化診断システム1の構成図であり、図1(b)は、制御装置3に収納されるプリント基板10の平面図である。劣化診断システム1は、環境測定装置2と、診断処理装置4と、外気環境データベース6と、診断結果出力装置8とで構成されている。
【0020】
環境測定装置2は、エレベーター等を制御する制御装置3内に設置され、制御装置3内には診断対象となる導電部材9を備えたプリント基板10が収納されている。環境測定装置2は、制御装置3内の温度(以下、内部温度という。)を測定する温度センサ12と、制御装置3内の相対湿度(以下、内部相対湿度という。)を測定する湿度センサ14と、導電部材9の腐食量を測定する腐食センサ16と、導電部材9に付着する塵埃量を測定する塵埃センサ18と、各センサのデータを記録するデータベース22とを備えて構成されている。温度センサ12と相対湿度センサ14は、一定間隔で内部温度及び内部相対湿度を測定してデータをデータベース22に送るように構成されている。
【0021】
ここで、図1(b)を参照して、腐食センサ16及び塵埃センサ18について説明する。腐食センサ16は電気抵抗式腐食センサであり、ガラス等の基板23と電極パッド24と銀電極25とで構成されており、プリント基板10に実装される。腐食センサ16は、腐食により銀電極25の断面積が減少すると、電気抵抗が増加することを利用して腐食量を一定間隔で測定してデータをデータベース22に送るように構成されている。塵埃センサ18は、ガラス等の基板26と電極パッド27とくし歯電極28とで構成されており、プリント基板10に実装される。塵埃センサ18は、付着した塵埃による電極間の漏れ電流から塵埃量を一定間隔で測定してデータをデータベース22に送るように構成されている。なお、塵埃の種類としては、塵、糸くずに加えエアロゾルが挙げられる。また、基板23,26はプリント基板10で兼用することもできる。
【0022】
環境測定装置2による測定結果は、診断処理装置4で処理される。診断処理装置4は、図示しないパソコン等の情報処理端末に組み込まれている。外気環境データベース6には、制御装置3の外部の温度(以下「外部温度」という。)の履歴及び制御装置3の外部の絶対湿度(以下「外部絶対湿度」という。)の履歴が保存されている。外気環境データベース6には、気象庁で公開されている気象統計情報のうち、制御装置3に最も近い測定ポイントの情報を利用してもよい。
【0023】
診断処理装置4は、図1(a)に示すように、環境推定部30と、被害推定部32と、寿命診断部34とで構成されている。環境推定部30は、環境測定装置2による測定結果と、外気環境データベース6のデータとから内部温度及び制御装置3の内部の相対湿度(以下「内部相対湿度」という。)を推定し、推定結果を被害推定部32に出力するように構成されている。被害推定部32は、環境推定部30の推定結果に基づいて、腐食量及び絶縁劣化を推定し、推定結果を寿命診断部34に出力するように構成されている。寿命診断部34は、被害推定部32の推定結果に基づいて寿命を診断し、診断結果を診断結果出力装置8に出力するように構成されている。診断結果出力装置8は、診断結果を図示しない情報処理端末の表示画面に出力するように構成されている。
【0024】
このように構成される劣化診断システム1の動作について、図2を参照して説明する。図2は、劣化診断システム1の処理フローである。ステップ1において、環境測定装置2の温度センサ12、湿度センサ14を制御装置3内に設置し、腐食センサ16、塵埃センサ18をプリント基板10又はプリント基板10付近に図1(b)のように設置する。設置した各センサにより、1乃至3ヶ月間測定を行う。高精度測定の場合は3ヶ月以上、簡易測定の場合は1週間程度でもよい。測定時期は、腐食、絶縁劣化に大きく影響を及ぼす相対湿度の高い時期が好ましい。本実施例では、一例として、2007年の8月から10月までの3ヶ月間測定を行う。また、一般に、導電部材9は銅であるが、ここでは、導電部材9と異なる金属である銀電極25を用いて腐食の推定を行う。その理由としては、銀は銅よりも腐食しやすく、短期に腐食が進行するため、銀の腐食を推定することで、銅である導電部材9の腐食に早めに対処できるためである。無論、銅を用いて腐食の推定を行ってもよい。
【0025】
ステップ2について、図3乃至5を参照して説明する。図3は、診断処理装置4の環境推定部30の処理工程であり、図4(a)は、内部温度と外部温度のグラフ、図4(b)は、内部温度と外部温度の周波数特性であり、図5は、制御装置3の内部の絶対湿度(以下、内部絶対湿度という。)と外部絶対湿度のグラフである。環境推定部30には、ステップ1で測定した8月から10月までの内部温度及び内部相対湿度と、外気環境データベース6に保存されている8月から10月までの外部温度及び外部絶対湿度が入力される。
【0026】
まず、温度について、図4に示すように内部温度と外部温度との温度差ΔTを算出する。温度差ΔTは、8月から10月までの3ヶ月間における平均温度から求める。さらに、離散フーリエ解析により内部温度の周波数特性を抽出する。内部温度は、外部温度と制御装置3の稼動による発熱の影響を受ける。例えば、毎日稼動・停止する制御装置3の内部温度は、外部温度の変動とともに、稼動・停止により1日周期の特徴を有する。また、平日に稼動・停止し、週末に停止する制御装置3では、1日周期の特徴とともに1週間周期の特徴を有する。通常、制御装置3は1週間以上の周期の特徴を有することは少ないが、フーリエ解析によりいずれの周期の周波数特性も取得できる。図4(b)に内部温度、外部温度の周期特性を示す。内部温度、外部温度のいずれも1日周期の特徴を有している。ただし、内部温度は、制御装置3の使用頻度に対応して1週間周期の特徴が顕著に現れている。
【0027】
求めた周波数特性を外気環境データベース6に保存されている測定期間より過去の外部温度、例えば、2006年の1月から12月までの外部温度に、上記で求めた温度差ΔTと周波数特性を加味することにより、将来の、例えば、2009年の1月から12月の内部温度の推定ができる。
【0028】
次に、内部相対湿度の推定について説明する。制御装置3外部の水分は直ちに制御装置3内部に移行するため、外部絶対湿度と内部絶対湿度はほぼ一致する。したがって、外気環境データベース6から得られる外部絶対湿度と、測定した内部温度と内部相対湿度を用いて算出した内部絶対湿度とを比較して同等の値であることを確認できれば、過去の外部絶対湿度、例えば、2006年の1月から12月までの外部絶対湿度から絶対湿度−温度−相対湿度の換算式を用いて、将来の、例えば、2009年の1月から12月の内部相対湿度の推定ができる。
【0029】
以上のように、環境測定部30では、測定期間と同時期の外部温度及び外部絶対湿度と内部温度及び内部相対湿度との対応関係を求め、その対応関係と過去の外部温度及び外部絶対湿度とに基づいて、将来の内部温度及び内部相対湿度を推定することができる。
【0030】
ステップ3の被害推定部32の腐食に関しての処理について、図6を参照して説明する。図6は、環境推定部30の処理工程を示す。環境推定部30には、ステップ1で測定した腐食量、ステップ2で推定した内部温度及び内部相対湿度が入力される。
【0031】
次に、内部温度及び内部相対湿度と腐食量との相関関係を求める。銀の腐食量Xは硫化銀の生成が主であり、例えば古河電工時報79巻93ページ(1986年)に実験式として式(1)が示されている。
X=X・[H2S]1.0・[RH]・exp(−E/kT)・t (1)
ここでXは係数、[H2S]は硫化水素濃度、[RH]は相対湿度、Eは活性化エネルギ、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、tは時間を表す。ここでX・[H2S]1.0を腐食性ガス係数Cと定義すると、腐食量Xは式(2)で与えられる。
X=C・[RH]・exp(−E/kT)・t (2)
ここで、環境測定装置2の各センサの測定の単位時間tUTでの腐食量XUTは、温度T、相対湿度RHの環境において式(3)で与えられる。
UT=C・[RH]・exp(−E/kT)・tUT (3)
ここで銀の腐食量Xは時間に比例することから、腐食センサ16の測定期間tCSでの腐食量XCSは、単位時間tUTの腐食量XUTの積算値として式(4)で与えられる。
CS=ΣXUT=C・Σ{[RH]・exp(−E/kT)・tUT} (4)
は式(4)より、式(5)として与えられる。
=XCS/Σ{[RH]・exp(−E/kT)・tUT} (5)
このように、腐食性ガス係数Cは制御装置の設置環境ごとに固有の値であり、式(5)に測定した内部温度、内部相対湿度、腐食量、測定期間を代入することにより決定できる。実際に計算機を用いて推定する場合は、予め仮の腐食性ガス係数を仮定して推定した積算腐食量と腐食センサ16の測定期間tCSでの腐食量XCSが等しくなるように,腐食性ガス係数を設定する方法を採用してもよい。ここでは腐食性ガス係数Cの季節変動を考慮していないが、ある一定の間隔で測定して腐食性ガス係数Cの季節変動を考慮すれば、より精度の高い推定ができる。決定した腐食性ガス係数Cとステップ2で推定した内部温度及び内部相対湿度の値を式(4)に代入することで積算腐食量を推定することができる。図7(a)に、銀腐食量の実測値と推定値を示す。両者は良く一致しており、本推定方法は妥当である。
【0032】
ここで、診断対象の金属が銅である場合について説明する。銅の腐食量は時間の1/2乗に比例するため、単純に単位時間における腐食量を積算できない。銅の腐食量XCuは式(6)で与えられる。
X=C・[RH]・exp(−E/kT)・t0.5 (6)
最初の単位時間t=tでの温度をT、相対湿度をRH、膜厚をXとすると、腐食量は式(7)で与えられる。
=C・[RH・exp(−E/kT)・t0.5 (7)
次の単位時間t=(t−t)での温度をT、相対湿度をRH、膜厚をXとする。銅の表面には膜厚Xの腐食皮膜が形成されている。ここで銅の腐食皮膜の耐食性が温度、相対湿度に依存しないと仮定する。温度T、相対湿度RHの環境で膜厚Xが形成されている換算時間t2cは、式(8)で与えられる。
2c=[X/{C・[RH・exp(−E/kT)}] (8)
したがって、次の単位時間t=(t−t)での腐食量Xは式(9)で与えられる。
=C・[RH・exp(−E/kT)・(t2c+t0.5 (9)
このように経過時間を修正して等価経過時間を求めることにより、銅の様な腐食量が時間に比例しない金属の場合でも、腐食量を精度良く推定できる。
【0033】
ステップ4において、寿命診断部34には、ステップ3で推定した腐食量と、腐食データベース36に保存されている腐食許容値の割合が入力される。寿命診断部34は、これらから腐食積算被害率を求め、図7(b)に示すように、腐食積算被害率が1に達した時点を腐食寿命として求める。
【0034】
次に、ステップ3´の被害推定部32の絶縁劣化に関しての処理について、図8を参照して説明する。図8は、環境推定部30の絶縁劣化についての処理工程を示し、環境推定部30には、ステップ1で測定した塵埃量、ステップ2で推定した内部温度及び内部相対湿度が入力される。
【0035】
絶縁劣化の主たる原因はイオンマイグレーションである。イオンマイグレーションは、アノード金属の電気化学的溶出、金属イオンの輸送、カソードでの電気化学的析出と3段階の反応を経て起こるため、その寿命は各段階の反応に対して評価する必要がある。ここでは3段階の反応をまとめて算出した寿命を用いる。図9(a)に温度一定、電界強度一定でのイオンマイグレーション寿命と相対湿度、塵埃量の関係を示す。イオンマイグレーション寿命Lは、絶対温度T、相対湿度RH、さらに塵埃量Dに依存し、式(10)で与えられる。
L=C・E−m・[RH]−n・D−p・exp(E/kT) (10)
ここでCは定数、m、n、pは指数、Eは活性化エネルギ、kはボルツマン定数である。実環境では温湿度が変動するため、温度と湿度の変動を考慮した寿命推定式が必要となる。そこで疲労寿命の推定で用いられる線形累積損傷則(Miner則)の考え方を導入する。相対湿度RH、RH、RH、・・・における寿命をL、L、L、・・・とする。相対湿度RH、RH、RH、・・・にt、t、t、・・・時間だけ曝されたとき、t/L、t/L、t/L、・・・をマイグレーション損傷と考える。したがって積算イオンマイグレーション被害率は式(11)で与えられる。
(t/L)+(t/L)+(t/L)+・・・ (11)
マイグレーション寿命判定は,式(12)で与えられる。
(t/L)+(t/L)+(t/L)+・・・=1 (12)
イオンマイグレーションの寿命推定式(12)に、ステップ2で推定した内部温度及び内部相対湿度を代入し、塵埃量は、測定期間に付着した塵埃量から単位時間ごとに付着する塵埃量を求めて代入する。このようにして、単位時間、例えば1時間ごとのイオンマイグレーション損傷を求める。
【0036】
ステップ4´において、寿命診断部34には、ステップ3´で求めた単位時間ごとのイオンマイグレーション損傷が入力される。寿命診断部34は、これからイオンマイグレーション積算被害率を求め、図9(b)に示すように、イオンマイグレーション積算被害率が1に達した時点を絶縁劣化寿命として求める。
【0037】
ステップ5において、ステップ4及び4´で求めた腐食寿命及び絶縁劣化寿命を図示しない情報処理端末の表示画面に出力する。以上で劣化診断システム1の処理が終了する。
【0038】
以上説明したように、本実施例の、導電部材9を備えたプリント基板10が収納された制御装置3内の温度を測定する温度センサ12と、相対湿度を測定する湿度センサ14と、導電部材9の腐食量を測定する腐食センサ16と、診断処理装置4と、外気環境データベース6とを備えた劣化診断システム1によれば、測定期間と同時期の外気環境データと制御装置3内環境データの対応関係から、外気環境データと制御装置3内環境データの温度差、湿度差、それらの周期を求め、これらを過去の外気環境データに当てはめて将来の制御装置3内環境データを推定できる。これにより、温度及び相対湿度が因子となる腐食量を精度よく推定することができる。
【0039】
また、塵埃センサ18を備え、腐食量の場合と同様に将来の制御装置3内環境データを推定し、設定期間に記録された筐体内環境データと絶縁劣化の進行度との相関関係から推定した塵埃量とで、絶縁劣化の進行度を精度よく推定することができる。
【実施例2】
【0040】
図10に、本発明の第2の実施例の劣化診断システム1の構成を示す。本実施例では、制御装置3の設置環境が空調制御され、第1の実施例の外気環境データベース6に替えて空調データベース38を備えており、その他の構成については第1の実施例と同様である。空調データベース38には、制御装置3の設置環境の設定温度及び設定相対湿度が保存されている。これら設定温度及び設定相対湿度を用いて、実施例1と同様の手順で、内部温度及び内部相対湿度を推定することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施例の、外気環境データベース6に替えて空調データベース38を備えた劣化診断システム1によれば、第1の実施例と同様にして、空調の設定温度及び湿度に合わせて将来の内部温度及び内部湿度の変化を精度よく推定することができ、腐食量及び絶縁劣化を精度よく推定することができる。
【0042】
以上、本実施例の劣化診断システム1について説明したが、本発明は、これらの実施例に限らず適宜構成を変更して適用することができる。例えば、本実施例では、腐食センサ16及び塵埃センサ18をプリント基板10に実装して測定を行ったが、腐食センサ16及び塵埃センサ18を備えた測定用の基板を測定キットとして利用してもよい。また、腐食センサ16は、腐食量を比色法、カソード還元法により測定するように構成してもよい。また、塵埃センサ18は、「大気環境の腐食性を評価するための環境因子の測定」(JIS−Z−2382)や、JEIDA−63−2000に示されている曝露ガーゼによる捕集により測定するように構成してもよい。
【0043】
また、腐食の診断対象としては導電部材に限らず、制御装置3内の金属部分、例えばブレーカー等を対象とすることができる。その場合は、上記測定キットを利用するとよい。
【0044】
また、測定した内部温度と外部温度との周期性等をフーリエ解析により求めたが、フーリエ解析により求める方法に限らず、移動平均により平均的な特徴を求め、対象温度データと平均的な特徴の差分から周期的な特徴を求める方法で求めてもよい。また、フーリエ解析による周期的特徴に合わせて移動平均の条件を決定することで、精度の良い推定が可能である。さらに、他の時系列データの解析方法を使用してもよい。
【0045】
さらに、腐食に塵埃が関係する場合には、温度及び湿度に加えて塵埃量を推定して腐食量の推定に用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施例の劣化診断システムの構成図であり、(b)は、制御装置に収納されるプリント基板の平面図である。
【図2】劣化診断システムの処理フローである。
【図3】診断処理装置の環境推定部の処理工程である。
【図4】(a)は、内部温度と外部温度のグラフであり、(b)は、内部温度と外部温度の周波数特性である。
【図5】制御装置の内部の絶対湿度と外部絶対湿度のグラフである
【図6】環境推定部の腐食量推定についての処理工程を示す。
【図7】(a)は、銀腐食量の実測値と推定値を示す図であり、(b)は、腐食寿命と経過年数の関係図である。
【図8】環境推定部の絶縁劣化の推定についての処理工程を示す図である。
【図9】(a)は、イオンマイグレーション寿命と相対湿度、塵埃量の関係を示す図であり、(b)は、イオンマイグレーション寿命と経過年数の関係図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係わる劣化診断システムの環境推定部の処理工程である。
【符号の説明】
【0047】
1 劣化診断システム
2 環境測定装置
4 診断処理装置
6 外気環境データベース
9 導電部材
10 プリント基板
12 温度センサ
14 湿度センサ
16 腐食センサ
18 塵埃センサ
17 腐食積算被害率
18 イオンマイグレーション積算被害率
30 環境推定部
32 被害推定部
34 寿命診断部
36 腐食データベース
38 空調データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象である導電部材を備えた電子又は電気部品が実装されたプリント基板が収納された筐体内の温度を測定する温度センサと、前記筐体内の湿度を測定する湿度センサと、前記診断対象の腐食量を測定する腐食センサと、前記各センサで測定された前記筐体内の温度及び湿度からなる筐体内環境データと前記診断対象の腐食データとを設定期間記録し、該記録された前記筐体内環境データと前記腐食データとに基づいて前記診断対象の将来の腐食量を推定して劣化診断を行う診断処理装置と、前記筐体外の過去の温度及び湿度からなる外気環境データが記録された外気環境データベースとを備え、
前記診断処理装置は、前記設定期間に記録された前記筐体内環境データと前記腐食データとの相関関係を求め、前記設定期間における前記外気環境データと前記筐体内環境データとの対応関係を求め、該対応関係と過去の前記外気環境データとに基づいて将来の前記筐体内環境データを推定し、該推定した筐体内環境データと前記相関関係とから前記診断対象の将来の腐食量を推定する制御装置の劣化診断システム。
【請求項2】
診断対象である導電部材を備えた電子又は電気部品が実装されたプリント基板が収納され空調雰囲気にある筐体内の温度を測定する温度センサと、前記筐体内の湿度を測定する湿度センサと、前記診断対象の腐食量を測定する腐食センサと、前記各センサで測定された前記筐体内の温度及び湿度からなる筐体内環境データと前記診断対象の腐食データとを設定期間記録し、該記録された前記筐体内環境データと前記腐食データとに基づいて前記診断対象の将来の腐食量を推定して劣化診断を行う診断処理装置と、前記空調の設定温度及び湿度からなる空調データが記録された空調データベースとを備え、
前記診断処理装置は、前記設定期間に記録された前記筐体内環境データと前記腐食データとの相関関係を求め、前記筐体内環境データと前記空調データとの対応関係に基づいて将来の前記筐体内環境データを推定し、該推定した筐体内環境データと前記相関関係とから前記診断対象の将来の腐食量を推定する制御装置の劣化診断システム。
【請求項3】
診断対象である導電部材を備えた電子又は電気部品が実装されたプリント基板が収納された筐体内の温度を測定する温度センサと、前記筐体内の湿度を測定する湿度センサと、前記診断対象に付着する塵埃量を測定する塵埃センサと、前記各センサで測定された前記筐体内の温度及び湿度からなる筐体内環境データと塵埃データとを設定期間記録し、該記録された前記筐体内環境データと前記塵埃データとに基づいて前記診断対象の絶縁劣化の診断を行う診断処理装置と、前記筐体外の過去の温度及び湿度からなる外気環境データが記録された外気環境データベースとを備え、
前記診断処理装置は、前記設定期間に記録された前記筐体内環境データと前記絶縁劣化の進行度との相関関係を求め、前記設定期間における前記外気環境データと前記筐体内環境データとの対応関係を求め、該対応関係と過去の前記外気環境データとに基づいて将来の前記筐体内環境データを推定し、該推定した筐体内環境データと前記相関関係とから前記診断対象の将来の絶縁劣化の進行度を推定する制御装置の劣化診断システム。
【請求項4】
診断対象である導電部材を備えた電子又は電気部品が実装されたプリント基板が収納され空調雰囲気にある筐体内の温度を測定する温度センサと、前記筐体内の湿度を測定する湿度センサと、前記診断対象に付着する塵埃量を測定する塵埃センサと、前記各センサで測定された前記筐体内の温度及び湿度からなる筐体内環境データと塵埃データとを設定期間記録し、該記録された前記筐体内環境データと前記塵埃データとに基づいて前記診断対象の絶縁劣化の診断を行う診断処理装置と、前記空調の設定温度及び湿度からなる空調データが記録された空調データベースとを備え、
前記診断処理装置は、前記設定期間に記録された前記筐体内環境データと前記絶縁劣化の進行度との相関関係を求め、前記筐体内環境データと前記空調データとの対応関係に基づいて、将来の前記筐体内環境データを推定し、該推定した筐体内環境データと前記相関関係とから前記診断対象の将来の絶縁劣化の進行度を推定する制御装置の劣化診断システム。
【請求項5】
前記腐食センサは、電気抵抗式腐食センサであることを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置の劣化診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−38838(P2010−38838A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204630(P2008−204630)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】