説明

制御装置

【課題】フィードフォワード制御手法による算出値をフィードバック制御手法による算出値で補正した値に基づき、制御入力を算出する場合において、制御対象が過渡状態にあるときでも、高い制御精度を確保することができる制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置1は、酸素濃度センサの出力VO2が目標出力VO2_TRGTに収束するように、燃料補正係数KAFを算出し、これを基本噴射量Tibsに乗算することで、燃料噴射量Toutを算出する。基本噴射量Tibsは、マップ誤差の要因に応じて、3つの値Tibs1〜3のいずれかが選択される。値Tibs1,2は、スロットル弁開度THを補正した値THmod1,THmod2と、エンジン回転数NEに応じてマップ検索により算出され、値Tibs3は、2つの値TH,NEに応じてマップ検索した値Tibs_mapに補正係数Kffを乗算することで算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィードフォワード制御手法による算出値をフィードバック制御手法による算出値で補正した値に基づいて、制御対象への制御入力を算出する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の混合気の空燃比を制御する制御装置として、特許文献1に記載されたものを本出願人は既に提案している。この制御装置は、LAFセンサ、酸素濃度センサ、状態予測器、オンボード同定器、スライディングモードコントローラおよび目標空燃比算出部などを備えている。これらのLAFセンサおよび酸素濃度センサはいずれも、内燃機関の排気通路内の排気ガス中の酸素濃度を表す値すなわち空燃比を検出するためのものであり、排気通路の集合部よりも下流側に設けられている。また、内燃機関は、排気通路の集合部よりも下流側設けられた第1触媒装置と、その下流側に設けられた第2触媒装置を備えている。LAFセンサは、第1触媒装置の上流側に配置され、酸素濃度センサは、第1触媒装置と第2触媒装置の間に配置されている。
【0003】
この制御装置では、制御対象モデルとして、LAFセンサの検出空燃比KACTと空燃比基準値FLAFBASEとの偏差(以下「空燃比偏差」という)DKACTを入力とし、酸素濃度センサの出力VOUTと所定の目標値VOUT_TARGETとの偏差(以下「出力偏差」という)DVO2を出力とする離散時間系モデルを用い、以下に述べるように、制御入力としての目標空燃比KCMDが算出される。
【0004】
すなわち、状態予測器において、上記制御対象モデルに基づいた所定の予測アルゴリズムにより、出力偏差DVO2の予測値が算出され、オンボード同定器で、逐次型最小2乗法により、制御対象モデルのモデルパラメータが同定される。また、スライディングモードコントローラにおいて、出力偏差の予測値およびモデルパラメータの同定値に基づいて、スライディングモード制御アルゴリズムにより、出力偏差DVO2が値0に収束するように、操作量Uslが算出される。
【0005】
さらに、目標空燃比算出部において、操作量Uslを空燃比基準値FLAFBASEに加算することにより、目標空燃比KCMDが算出され、フィードバック補正係数算出部で、検出空燃比KACTが目標空燃比KCMDに収束するように、フィードバック補正係数KFBが算出される。また、基本噴射量算出部では、エンジン回転数NEおよび吸気圧PBに応じて、マップを検索することによって、基本噴射量Timが算出される。さらに、この基本噴射量Timに各種の補正係数を乗算することによって、要求燃料噴射量Tcylが算出される。
【0006】
次いで、この要求燃料噴射量Tcylにフィードバック補正係数KFBを乗算することによって、燃料噴射量Toutが、検出空燃比KACTを上記目標空燃比KCMDに収束させるように算出され、その結果、酸素濃度センサの出力VOUTが所定の目標値VOUT_TARGETに収束するように、空燃比が制御される。この所定の目標値VOUT_TARGETは、酸素濃度センサの出力VOUTがこの値にあるときに、第1触媒装置において良好な排ガス浄化率が得られるような値に設定されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−234550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1の制御装置を、モータサイクル用内燃機関などの小排気量の内燃機関に適用しようとした場合、以下のように構成することが考えられる。すなわち、小排気量の内燃機関は、一般的に、大排気量の内燃機関と比べて、吸気通路が極めて短くかつ吸気チャンバの容積がかなり小さいことによって、吸気通路内の吸気脈動および吸気圧脈動が大きいという特性を有している。そのため、基本噴射量Timを、吸入空気量または吸気圧などに応じて算出した場合、エアフローメータまたは吸気圧センサの検出信号の信頼性が極めて低いことで、基本噴射量Timの算出精度を低下を招くので、基本噴射量Timの算出用マップとしては、特許文献1のマップに代えて、スロットル弁開度センサで検出したスロットル弁の開度(以下「スロットル弁開度」という)THと、エンジン回転数NEとに対応してマッピングされたものを用いればよい。
【0009】
また、特許文献1のLAFセンサを小排気量の内燃機関に適用した場合、LAFセンサが高価なため、コストアップを招くことに加えて、LAFセンサの出力を安定化させるのにヒータ加熱が必要な分、燃費が悪化することになるので、以上の観点からLAFセンサを省略する必要がある。このようにLAFセンサを省略する場合、特許文献1の制御装置において、制御対象モデルとして、目標空燃比KCMDと空燃比基準値FLAFBASEとの偏差DKCMDを入力とし、酸素濃度センサの出力VOUTと所定の目標値VOUT_TARGETとの偏差DVO2を出力とする離散時間系モデルを用いればよい。
【0010】
小排気量の内燃機関用の制御装置(以下「小排気量制御装置」という)を以上のように構成した場合、低コスト化および燃費の向上を達成できるものの、以下に述べるオフセットずれ、温度ドリフトおよびスラッジ堆積の3つの事象が発生すると、基本噴射量Timを適切に算出できなくなる可能性がある。ここで、本明細書における「オフセットずれ」とは、衝撃や機械的な遊びなどに起因して、スロットル弁開度センサのゼロ点位置が正しい位置からずれることをいう。また、「温度ドリフト」とは、内燃機関が高負荷運転状態で高温のときに、その影響によってスロットル弁開度センサの検出信号がドリフトすることで、検出信号から算出したスロットル弁開度THが実際値に対してずれることをいう。さらに、「スラッジ堆積」とは、内燃機関の使用期間が長くなることで、スロットル弁やその周囲の吸気通路の内壁にスラッジなどが堆積した状態をいう。
【0011】
上記オフセットずれまたは温度ドリフトが発生した場合、基本噴射量Timの適切な値(必要な値)とスロットル弁開度THとの関係が、マップ値とスロットル弁開度THとの関係からずれてしまう。なお、本明細書の以下の説明では、上記3つの事象に起因して、マップから算出した基本噴射量Timが適切な値に対して誤差を生じることを「マップ誤差」という。このようなマップ誤差が発生した場合、上記の小排気量制御装置では、フィードバック補正係数KFBを用いて、空燃比フィードバック制御が実行されるので、内燃機関が定常運転状態にあるときには、マップ誤差の影響を補償しながら、酸素濃度センサの出力VOUTを所定の目標値VOUT_TARGETに収束させることができる。
【0012】
しかし、フィードバック制御手法は、フィードフォワード制御手法と比べて、その応答性が低いという特性を有しているので、上記マップ誤差が発生している場合において、内燃機関が定常運転状態から過渡運転状態に移行すると、マップ誤差の影響を空燃比フィードバック制御で適切に補償することができず、酸素濃度センサの出力VOUTが所定の目標値VOUT_TARGETから離間してしまう。その結果、空燃比制御の制御精度が低下することで、排ガス特性が悪化してしまう。
【0013】
また、スラッジ堆積が発生している場合、スラッジ堆積が発生していない場合と比べて、吸入空気量が低下するので、基本噴射量Timの適切な値と、スロットル弁開度THおよびエンジン回転数NEとの関係が、マップ値とエンジン回転数NEおよびスロットル弁開度THとの関係からずれてしまい、マップ誤差が発生してしまう。その結果、上述したように、内燃機関が過渡運転状態にあるときに、マップ誤差の影響を適切に補償することができず、空燃比制御の制御精度が低下することで、排ガス特性が悪化してしまう。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、フィードフォワード制御手法による算出値をフィードバック制御手法による算出値で補正した値に基づき、制御入力を算出する場合において、制御対象が過渡状態にあるときでも、高い制御精度を確保することができる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、制御対象における制御量(酸素濃度センサの出力VO2)を制御入力(燃料噴射量Tout)によって制御する制御装置1であって、制御量を検出する制御量検出手段(酸素濃度センサ12)と、制御量の目標となる目標制御量(目標出力VO2_TRGT)を設定する目標制御量設定手段(ECU2)と、制御量を目標制御量に収束させるようにフィードバック制御するためのフィードバック補正値(燃料補正係数KAF)を、所定のフィードバック制御アルゴリズム[式(1)〜(5)]を用いて算出するフィードバック補正値算出手段(ECU2、燃料補正係数算出部20)と、制御量以外の、制御対象の動作状態を表す第1動作状態パラメータ(スロットル弁の開度TH、エンジン回転数NE)を検出する第1動作状態パラメータ検出手段(ECU2、スロットル弁開度センサ10、クランク角センサ11)と、制御量を目標制御量にフィードフォワード制御するためのフィードフォワード入力(基本噴射量Tibs、第1〜第3基本噴射量Tibs1〜3)を、フィードフォワード入力と第1動作状態パラメータとの間の相関関係を表す相関関係モデル(図6、図12、図15)および第1動作状態パラメータを用いて算出するフィードフォワード入力算出手段(ECU2、燃料コントローラ30、第1〜第3燃料コントローラ40,50,70)と、フィードフォワード入力(基本噴射量Tibs)をフィードバック補正値(燃料補正係数KAF)で補正した値に基づき、制御入力(燃料噴射量Tout)を算出する制御入力算出手段(ECU2、乗算器21)と、を備え、フィードフォワード入力算出手段は、所定の制御アルゴリズム[式(7)〜(12),(14)〜(19),(21),(22)]を用いて、フィードバック補正値を所定の目標値(値1)にするための修正値(第1開度補正値DTH1、第2開度補正値DTH2、補正係数Kff)を算出し、修正値によって、第1動作状態パラメータおよび相関関係モデルの一方を修正する[式(13),(20),(23)]とともに、相関関係モデルおよび第1動作状態パラメータのうちの修正された一方と他方とを用いて、フィードフォワード入力を算出することを特徴とする。
【0016】
この制御装置によれば、制御量を目標制御量に収束させるようにフィードバック制御するためのフィードバック補正値が、所定のフィードバック制御アルゴリズムを用いて算出され、制御量を目標制御量にフィードフォワード制御するためのフィードフォワード入力が、フィードフォワード入力と第1動作状態パラメータとの相関関係を表す相関関係モデル、および第1動作状態パラメータを用いて算出され、このフィードフォワード入力をフィードバック補正値で補正した値に基づき、制御入力が算出される。以上のように制御入力を算出した場合、第1動作状態パラメータの検出結果の信頼性の低下や経年変化などに起因して、相関関係モデルがフィードフォワード入力と第1動作状態パラメータとの間の実際の相関関係を適切に表さない状態となっているとき、言い換えれば、相関関係モデルが両者の実際の相関関係に対してずれているときには、フィードフォワード入力が不適切な値に算出されることで、制御量が目標制御量から離間し、制御誤差が発生してしまう。このような制御誤差が発生した場合、制御対象が定常状態にあるときには、制御誤差をフィードバック補正値によって適切に補償できるものの、制御対象が過渡状態にあるときには、フィードバック制御手法は、フィードフォワード制御手法と比べて、その応答性が低いという特性を有しているので、制御誤差をフィードバック補正値によって適切に補償することができない。また、そのような状態で算出されたフィードバック補正値の大小度合は、制御誤差の大小度合を表すことになる。
【0017】
これに対して、この制御装置によれば、所定の制御アルゴリズムを用いて、フィードバック補正値を所定の目標値にするための修正値が算出され、この修正値によって、第1動作状態パラメータおよび相関関係モデルの一方が修正される。すなわち、フィードバック補正値が所定の目標値になるように、相関関係モデルまたは第1動作状態パラメータの一方が修正される。さらに、相関関係モデルおよび第1動作状態パラメータのうちの修正された一方と他方とを用いて、フィードフォワード入力が算出されるので、相関関係モデルが両者の実際の相関関係に対してずれることで、フィードバック補正値が所定の目標値から離間している場合でも、フィードバック補正値が所定の目標値になるように、フィードフォワード入力を算出することができる。すなわち、相関関係モデルのずれを迅速かつ適切に補償しながら、フィードフォワード入力を精度よく算出することができる。その結果、制御対象が過渡状態にあるときでも、制御誤差を適切に抑制することができ、高い制御精度を確保することができる。特に、相関関係モデルとして、フィードフォワード制御手法において一般的な、第1動作状態パラメータとフィードフォワード入力との間の相関関係を表すN(Nは自然数)次元マップや、両者の相関関係を表す算出式などを用いた場合、フィードバック補正値によって制御誤差を補償する場合と比べて、制御誤差をより迅速に補償することができる(なお、本明細書における「相関関係モデル」は、応答曲面モデルや数学的モデルに限らず、N(Nは自然数)次元マップや所定の算出アルゴリズムなどの、第1動作状態パラメータとフィードフォワード入力との間の相関関係を表すものをすべて含む。また、本明細書における「パラメータの検出」は、パラメータを、センサによって直接的に検出することに限らず、算出または推定することも含む)。
【0018】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の制御装置1において、フィードフォワード入力算出手段は、修正値(第1開度補正値DTH1、第2開度補正値DTH2)で第1動作状態パラメータ(スロットル弁の開度TH)を修正することにより、修正後動作状態パラメータ(第1補正後開度THmod1、第2補正後開度THmod2)を算出する修正後動作状態パラメータ算出手段(ECU2、第1および第2燃料コントローラ40,50)と、修正後動作状態パラメータおよび相関関係モデルを用いて、フィードフォワード入力(第1および第2基本噴射量Tibs1,2)を算出する入力算出手段(ECU2、第1および第2基本噴射量算出部46,67)と、を有することを特徴とする。
【0019】
この制御装置によれば、修正値で第1動作状態パラメータを修正することにより、修正後動作状態パラメータが算出され、この修正後動作状態パラメータおよび相関関係モデルを用いて、フィードフォワード入力が算出されるので、相関関係モデルがフィードフォワード入力と第1動作状態パラメータとの間の実際の相関関係に対してずれている場合において、制御対象が過渡状態にあるときでも、このようなずれを迅速かつ適切に補償しながら、フィードフォワード入力を精度よく算出することができる。
【0020】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の制御装置1において、フィードフォワード入力算出手段は、第1動作状態パラメータに応じて、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度を表す第1感度パラメータ(重みW)を算出する第1感度パラメータ算出手段(ECU2、重み算出部42)と、フィードバック補正値および所定の目標値の一方と他方との偏差(モデル誤差Em)を、第1感度パラメータ(重みW)で修正することにより、第1修正偏差(補正モデル誤差Ew)を算出する第1修正偏差算出手段(ECU2、乗算器43)と、所定の制御アルゴリズム[式(8)〜(12)]を用いて、第1修正偏差が値0になるように、修正値(第1開度補正値DTH1)を算出する第1修正値算出手段(ECU2、SMコントローラ44)と、をさらに有することを特徴とする。
【0021】
この制御装置によれば、第1動作状態パラメータに応じて、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度を表す第1感度パラメータが算出され、フィードバック補正値および所定の目標値の一方と他方との偏差を、第1感度パラメータで修正することにより、第1修正偏差が算出され、所定の制御アルゴリズムを用いて、第1修正偏差が値0になるように、修正値が算出される。すなわち、修正値は、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度を反映させながら、フィードバック補正値が所定の目標値に近づくように算出されるので、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度が、第1動作状態パラメータの領域によって大きく変化するような制御対象においても、フィードフォワード入力が振動的な挙動を示したり、修正値によって誤修正されたりするのを回避しながら、フィードフォワード入力を適切に算出することができる。その結果、制御精度を向上させることができる。
【0022】
請求項4に係る発明は、請求項2に記載の制御装置1において、制御量以外の、制御対象の動作状態を表す第2動作状態パラメータ(スロットル弁の開度TH)を検出する第2動作状態パラメータ検出手段(ECU2、スロットル弁開度センサ10)をさらに備え、フィードフォワード入力算出手段は、所定の複数の第1関数(結合関数ωi)の値をフィードバック補正値および所定の目標値の一方と他方との偏差(モデル誤差Em)に乗算することによって、複数の第1乗算値ωiEmを算出し、所定の制御アルゴリズム[式(14)〜(18)]を用いて、複数の第1乗算値ωiEmが値0になるように、複数の第1修正係数θiを算出し、複数の第1修正係数θiに所定の複数の第1関数ωiの値をそれぞれ乗算することによって、複数の第2乗算値ωiθiを算出するとともに、複数の第2乗算値ωiθiの総和を用いて、修正値(第2開度補正値DTH2)を算出する第2修正値算出手段(ECU2、第2燃料コントローラ50)を有し、所定の複数の第1関数はそれぞれ、第2動作状態パラメータが変化し得る領域を区分した複数の領域に対応して、対応する領域において値0以外の値に設定されかつ対応する領域以外において値0に設定されており、隣り合う各2つの領域が互いに重なり合っているとともに、重なり合う領域に対応する第1関数の値の総和の絶対値(値1)が、第1関数における最大値の絶対値(値1)と等しくなるように設定されていることを特徴とする。
【0023】
この制御装置によれば、所定の複数の第1関数は、第2動作状態パラメータが変化し得る領域を区分した複数の領域にそれぞれ対応して、対応する領域においてのみ値0以外の値に設定されかつ対応する領域以外において値0に設定されており、互いに重なり合う領域において、この重なり合う領域に対応する第1関数の値の総和の絶対値は、第1関数における最大値の絶対値と等しくなるように設定されている。そのような所定の複数の第1関数の値を、フィードバック補正値および所定の目標値の一方と他方との偏差に乗算することによって、複数の第1乗算値が算出され、所定の制御アルゴリズムを用いて、複数の第1乗算値が値0になるように、複数の第1修正係数が算出されるので、偏差を複数の第1関数の値を介して、複数の第1修正係数に配分することができる。それにより、複数の第1修正係数を用いて算出した修正値によって、複数の領域における相関関係モデルのずれ度合を適切に補償することができる。特に、相関関係モデルのずれが発生している場合において、そのずれの変化方向が複数の領域毎に異なっているときでも、そのようなずれを領域毎に補償することができる。
【0024】
さらに、複数の第1関数の値を複数の第1修正係数にそれぞれ乗算することによって、複数の第2乗算値が算出されるので、複数の第2乗算値の総和を、第1修正係数を連続的に結合させた値として算出することができる。それにより、そのような複数の第2乗算値の総和を用いて修正値を算出することによって、第2動作状態パラメータが急変したときでも、フィードフォワード入力を滑らかに段差なく変化するように算出することができる。その結果、制御精度および制御の安定性を向上させることができる。
【0025】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の制御装置1において、第2修正値算出手段は、第1動作状態パラメータに応じて、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度を表す第2感度パラメータ(重みW)を算出する第2感度パラメータ算出手段と(ECU2、重み算出部54)、複数の第1乗算値ωiEmを第2感度パラメータ(重みW)で修正することにより、複数の第1修正乗算値(第2補正モデル誤差Ew2i)を算出する第1修正乗算値算出手段(ECU2、乗算器56〜58)と、所定の制御アルゴリズム[式(14)〜(18)]を用いて、複数の第1修正乗算値が値0になるように、複数の第1修正係数θiを算出する第1修正係数算出手段(ECU2、SMコントローラ62〜64)と、を有することを特徴とする。
【0026】
この制御装置によれば、第1動作状態パラメータに応じて、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度を表す第2感度パラメータが算出され、複数の第1乗算値を第2感度パラメータで修正することにより、複数の第1修正乗算値が算出され、所定の制御アルゴリズムを用いて、複数の第1修正乗算値が値0になるように、複数の第1修正係数が算出される。すなわち、第1修正係数は、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度を反映させながら、複数の第1修正乗算値が値0になるように算出されるとともに、そのような第1修正係数を用いて、修正値が算出される。したがって、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度が、第1動作状態パラメータの領域によって大きく変化するような制御対象においても、フィードフォワード入力が振動的な挙動を示したり、修正値によって誤修正されたりするのを回避しながら、フィードフォワード入力を適切に算出することができる。その結果、制御精度をさらに向上させることができる。
【0027】
請求項6に係る発明は、請求項1に記載の制御装置1において、フィードフォワード入力算出手段は、フィードフォワード入力のモデル値(マップ値Tibs_map)を、第1動作状態パラメータおよび相関関係モデルを用いて算出するモデル値算出手段(ECU2、マップ値算出部77)と、モデル値と修正値との積を、フィードフォワード入力として設定する入力設定手段(ECU2、乗算器78)と、を有することを特徴とする。
【0028】
この制御装置によれば、フィードフォワード入力のモデル値が、第1動作状態パラメータおよび相関関係モデルを用いて算出され、このモデル値と修正値との積が、フィードフォワード入力として設定されるので、結果的に、修正値で相関関係モデルを修正することによって、フィードフォワード入力が算出されることになる。それにより、相関関係モデルがフィードフォワード入力と第1動作状態パラメータとの間の実際の相関関係に対してずれている場合において、制御対象が過渡状態にあるときでも、このようなずれを迅速かつ適切に補償しながら、フィードフォワード入力を精度よく算出することができる。
【0029】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の制御装置1において、制御量以外の、制御対象の動作状態を表す第3動作状態パラメータ(スロットル弁の開度TH)を検出する第3動作状態パラメータ検出手段(ECU2、スロットル弁開度センサ10)をさらに備え、フィードフォワード入力算出手段は、所定の複数の第2関数(結合関数ωi)の値をフィードバック補正値および所定の目標値の一方と他方との偏差(モデル誤差Em)に乗算することによって、複数の第3乗算値ωiEmを算出し、所定の制御アルゴリズム[式(14)〜(18)]を用いて、複数の第3乗算値が値0になるように、複数の第2修正係数θiを算出し、複数の第2修正係数θiに所定の複数の第2関数(結合関数ωi)の値をそれぞれ乗算することによって、複数の第4乗算値ωiθiを算出するとともに、複数の第4乗算値の総和(乗算和Kff’)と所定値(値1)との和(1+Kff’)を用いて、修正値(補正係数Kff)を算出する第3修正値算出手段(ECU2、第3燃料コントローラ70)を有し、所定の複数の第2関数(結合関数ωi)はそれぞれ、第3動作状態パラメータが変化し得る領域を区分した複数の領域に対応して、対応する領域において値0以外の値に設定されかつ対応する領域以外において値0に設定されており、隣り合う各2つの領域が互いに重なり合っているとともに、重なり合う領域に対応する第2関数の値の総和の絶対値(値1)が、第2関数における最大値の絶対値(値1)と等しくなるように設定されていることを特徴とする。
【0030】
この制御装置によれば、所定の複数の第2関数は、第3動作状態パラメータが変化し得る領域を区分した複数の領域にそれぞれ対応して、対応する領域においてのみ値0以外の値に設定されかつ対応する領域以外において値0に設定されており、互いに重なり合う領域において、この重なり合う領域に対応する第2関数の値の総和の絶対値は、第2関数における最大値の絶対値と等しくなるように設定されている。そのような所定の複数の第2関数の値を、フィードバック補正値および所定の目標値の一方と他方との偏差に乗算することによって、複数の第3乗算値が算出され、所定の制御アルゴリズムを用いて、複数の第3乗算値が値0になるように、複数の第2修正係数が算出されるので、偏差を複数の第2関数の値を介して、複数の第2修正係数に配分することができる。それにより、複数の第2修正係数によって、複数の領域における相関関係モデルのずれ度合を適切に補償することができる。特に、相関関係モデルのずれが発生している場合において、そのずれの変化方向が複数の領域毎に異なっているときでも、そのようなずれを領域毎に補償することができる。
【0031】
さらに、複数の第2関数の値を複数の第2修正係数にそれぞれ乗算することによって、複数の第4乗算値が算出されるので、複数の第4乗算値の総和を、第2修正係数を連続的に結合させた値として算出することができる。それにより、そのような複数の第4乗算値の総和と所定値との和を用いて修正値を算出することによって、第3動作状態パラメータが急変したときでも、フィードフォワード入力を滑らかに段差なく変化するように算出することができる。その結果、制御精度および制御の安定性を向上させることができる。
【0032】
請求項8に係る発明は、請求項7に記載の制御装置1において、第1動作状態パラメータは、制御対象の動作状態を表す複数の動作状態パラメータ(スロットル弁の開度TH、エンジン回転数NE)で構成され、第3修正値算出手段は、複数の第4乗算値の総和(乗算和Kff’)と所定値(値1)との和(1+Kff’)を、修正値(補正係数Kff)に設定することを特徴とする。
【0033】
この制御装置のように、相関関係モデルとして、複数の動作状態パラメータとフィードフォワード入力との間の相関関係を表すものを用いた場合、相関関係モデルのずれは、複数の動作状態パラメータの組み合わせに対して非線形な関係になる。これに対して、この制御装置によれば、複数の第4乗算値の総和と所定値との和を、相関関係モデルから算出したモデル値に乗算することによって、フィードフォワード入力が算出されるので、上記のような非線形なずれが発生している場合でも、そのようなずれを迅速かつ適切に補償することができ、制御精度をさらに向上させることができる。
【0034】
請求項9に係る発明は、請求項7に記載の制御装置1において、第3修正値算出手段は、第1動作状態パラメータに応じて、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度を表す第3感度パラメータ(重みW)を算出する第3感度パラメータ算出手段(ECU2、重み算出部54)と、複数の第3乗算値ωiEmを第3感度パラメータ(重みW)で修正することにより、複数の第2修正乗算値(第2補正モデル誤差Ew2i)を算出する第2修正乗算値算出手段(ECU2、乗算器56〜58)と、所定の制御アルゴリズム[式(14)〜(18)]を用いて、複数の第2修正乗算値(第2補正モデル誤差Ew2i)が値0になるように、複数の第2修正係数θiを算出する第2修正係数算出手段(ECU2、SMコントローラ62〜64)と、を有することを特徴とする。
【0035】
この制御装置によれば、第1動作状態パラメータに応じて、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度を表す第3感度パラメータが算出され、フィードバック補正値および所定の目標値の一方と他方との偏差を、第3感度パラメータで修正することにより、第3修正偏差が算出され、所定の制御アルゴリズムを用いて、第3修正偏差が値0になるように、各第2修正係数が算出される。すなわち、第2修正係数は、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度を反映させながら、フィードバック補正値が所定の目標値に近づくように算出されるとともに、そのような第2修正係数を用いて、修正値が算出される。したがって、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度が、第1動作状態パラメータの領域によって大きく変化するような制御対象においても、フィードフォワード入力が振動的な挙動を示したり、修正値によって誤修正されたりするのを回避しながら、フィードフォワード入力を適切に算出することができる。その結果、制御精度をさらに向上させることができる。
【0036】
請求項10に係る発明は、請求項1ないし9のいずれかに記載の制御装置1において、制御量は、内燃機関3の排気通路7の触媒装置(第1触媒装置8)よりも下流側における排ガス中の所定成分の濃度(酸素濃度)を検出する排ガス濃度センサ(酸素濃度センサ12)の出力VO2であり、目標制御量は、触媒装置の排ガス浄化率が所定状態になると推定される目標出力VO2_TRGTであり、制御入力は、内燃機関3への燃料供給量(燃料噴射量Tout)であり、第1動作状態パラメータは、内燃機関3の運転状態を表す運転状態パラメータ(スロットル弁の開度TH、エンジン回転数NE)であり、フィードフォワード入力は、燃料供給量の基本値(基本噴射量Tibs)であり、フィードバック補正値は、排ガス濃度センサの出力が目標出力に収束するように、所定のフィードバック制御アルゴリズムを用いて算出されるとともに、燃料供給量の基本値(基本噴射量Tibs)に乗算される燃料補正係数KAFであることを特徴とする。
【0037】
この制御装置では、燃料補正係数が、排ガス濃度センサの出力を目標出力に収束させるように、所定のフィードバック制御アルゴリズムを用いて算出され、燃料供給量の基本値が、これと運転状態パラメータの間の相関関係を表す相関関係モデルおよび運転状態パラメータを用いて算出され、燃料補正係数を燃料供給量の基本値に乗算することによって、内燃機関への燃料供給量が算出される。このように燃料供給量を算出した場合、運転状態パラメータの検出結果の信頼性の低下や経年変化などに起因して、相関関係モデルが燃料供給量の基本値と運転状態パラメータとの間の実際の相関関係を適切に表さない状態となっているとき、言い換えれば、相関関係モデルが両者の実際の相関関係に対してずれているときには、燃料供給量の基本値が不適切な値に算出されることによって、排ガス濃度センサの出力が目標出力から離間し、両者の偏差が増大してしまうことで、触媒装置の排ガス浄化率が所定状態から外れてしまう可能性がある。その場合、内燃機関が定常状態にあるときには、偏差をフィードバック補正値によって適切に補償できるものの、内燃機関が過渡状態にあるときには、フィードバック制御手法は、フィードフォワード制御手法と比べて、その応答性が低いという特性を有しているので、偏差をフィードバック補正値によって適切に補償することができない。
【0038】
これに対して、この制御装置によれば、所定の制御アルゴリズムを用いて、燃料補正係数を所定の目標値にするための修正値が算出され、この修正値によって、運転状態パラメータおよび相関関係モデルの一方が修正される。すなわち、燃料補正係数が所定の目標値になるように、相関関係モデルまたは運転状態パラメータの一方が修正される。さらに、相関関係モデルおよび運転状態パラメータのうちの修正された一方と他方とを用いて、燃料供給量の基本値が算出されるので、所定の目標値を適切に設定することによって、相関関係モデルが両者の実際の相関関係に対してずれている場合でも、このようなずれを迅速かつ適切に補償しながら、燃料供給量の基本値を精度よく算出することができる。その結果、内燃機関が過渡状態にあるときでも、排ガス濃度センサの出力と目標出力との偏差を極めて小さい値に抑制することができ、触媒装置の排ガス浄化率を所定状態に維持することができる。それにより、この所定状態を良好な排ガス浄化率に設定することで、良好な排ガス特性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る制御装置について説明する。本実施形態の制御装置は、内燃機関の空燃比を制御するものであり、図1は、この制御装置1およびこれを適用した内燃機関(以下「エンジン」という)3の概略構成を示している。同図に示すように、この制御装置1は、ECU2を備えており、このECU2は、後述するように、エンジン3の運転状態に応じて、その気筒内に供給される混合気の空燃比を制御する。
【0040】
このエンジン3は、比較的小排気量で、図示しないモータサイクルに搭載されたガソリンエンジンであり、一般的な自動車用エンジンと比べて、吸気通路4が極めて短くかつ吸気チャンバの容積がかなり小さい値に設定されている。この吸気通路4には、上流側から順に、スロットル弁5および燃料噴射弁6が設けられている。
【0041】
このスロットル弁5は、吸気通路4の途中に回動自在に設けられているとともに、ギヤ機構およびワイヤを介してスロットルレバー(いずれも図示せず)に連結されている。スロットル弁5は、運転者によるスロットルレバーの操作に従って回動し、それにより、吸気通路4内の空気の流量を変化させる。
【0042】
また、吸気通路4のスロットル弁5の近傍には、スロットル弁開度センサ10が設けられている。このスロットル弁開度センサ10は、例えばポテンショメータなどで構成され、スロットル弁5の開度(以下「スロットル弁開度」という)THを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、スロットル弁開度センサ10の検出信号に基づき、スロットル弁開度THを算出する。なお、本実施形態では、スロットル弁開度センサ10が第1〜第3動作状態パラメータ検出手段に相当し、スロットル弁開度THが第1〜第3動作状態パラメータ、動作状態パラメータおよび運転状態パラメータに相当する。
【0043】
さらに、燃料噴射弁6は、エンジン3の運転中、ECU2からの制御入力信号によって、その開弁時間である燃料噴射量Toutおよび噴射タイミングが制御される。
【0044】
一方、エンジン3のクランクシャフト(図示せず)には、クランク角センサ11が設けられている。このクランク角センサ11は、クランクシャフトの回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。TDC信号は、各気筒のピストン(図示せず)が吸気行程のTDC位置よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、所定クランク角ごとに1パルスが出力される。
【0045】
また、CRK信号は、所定のクランク角(例えば30゜)ごとに1パルスが出力される。ECU2は、このCRK信号に応じ、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。なお、本実施形態では、クランク角センサ11が第1動作状態パラメータ検出手段に相当し、エンジン回転数NEが第1動作状態パラメータ、動作状態パラメータおよび運転状態パラメータに相当する。
【0046】
一方、エンジン3の排気通路7には、上流側から順に、第1触媒装置8および第2触媒装置9が間隔を存して設けられている。両触媒装置8,9はいずれも、NOx触媒と3元触媒を組み合わせたものであり、NOx触媒による酸化還元作用により、リーンバーン運転時の排気ガス中のNOxを浄化するとともに、3元触媒の酸化還元作用により、リーンバーン運転以外の運転時の排気ガス中のCO、HCおよびNOxを浄化する。
【0047】
これらの第1および第2触媒装置8,9の間には、酸素濃度センサ(以下「O2センサ」という)12が取り付けられている。このO2センサ12は、ジルコニアおよび白金電極などで構成され、第1触媒装置8の下流側の排気ガス中の酸素濃度に基づく検出信号をECU2に出力する。このO2センサ12の出力(以下「センサ出力」という)VO2は、理論空燃比よりもリッチな混合気が燃焼したときには、ハイレベルの電圧値(例えば0.8V)となり、混合気がリーンのときには、ローレベルの電圧値(例えば0.2V)となるとともに、混合気が理論空燃比付近のときには、ハイレベルとローレベルの間の所定の目標出力VO2_TRGT(例えば0.6V)となる。
【0048】
以上のような構成では、第1触媒装置8の劣化・未劣化状態にかかわらず、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTにあるときに、第1触媒装置8がHCおよびNOxを最も効率よく浄化することを、本出願人は確認済みである(例えば、特許第3904923号公報の図2参照)。したがって、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTになるように、混合気の空燃比を制御することにより、第1触媒装置8によって排気ガスを最も効率よく浄化できるので、後述する空燃比制御では、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTに収束するように、燃料補正係数KAFが算出される。
【0049】
なお、本実施形態では、酸素濃度センサ12が制御量検出手段および排ガス濃度センサに相当し、酸素濃度センサ12の出力VO2が制御量および排ガス濃度センサの出力に相当し、目標出力VO2_TRGTが目標制御量に相当する。
【0050】
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種のセンサ10〜12の検出信号などに応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、各種の制御を実行する。具体的には、ECU2は、後述するように、エンジン3の運転状態に応じて、燃料補正係数KAFを算出し、これに基づいて燃料噴射弁6の燃料噴射量Toutを算出するとともに、噴射タイミングを算出する。そして、算出した燃料噴射量Toutおよび噴射タイミングに基づいた制御入力信号で、燃料噴射弁6を駆動することにより、混合気の空燃比を制御する。
【0051】
なお、本実施形態では、ECU2が、目標制御量設定手段や、フィードバック補正値算出手段、第1〜第3動作状態パラメータ検出手段、フィードフォワード入力算出手段、制御入力算出手段、修正後動作状態パラメータ算出手段、入力算出手段、第1〜第3感度パラメータ算出手段、第1修正偏差算出手段、第1〜第3修正値算出手段、第1および第2修正乗算値算出手段、第1および第2修正係数算出手段、モデル値算出手段、入力設定手段に相当する。
【0052】
次に、図2を参照しながら、本実施形態の制御装置1について説明する。同図に示すように、この制御装置1は、燃料補正係数算出部20、乗算器21および燃料コントローラ30を備えており、これらは、具体的にはECU2によって構成されている。
【0053】
まず、燃料補正係数算出部20では、以下の式(1)〜(5)に示すスライディングモード制御アルゴリズムによって、燃料補正係数KAFが算出される。この燃料補正係数KAFは当量比として算出される。
【0054】
【数1】

【0055】
上式(1)〜(5)において、記号(k)付きの各データは、所定の制御周期ΔT(TDC信号の発生周期)で算出またはサンプリングされた離散データであることを表しており、記号kは各離散データの制御時刻を表している。例えば、記号kは今回の制御タイミングで算出(またはサンプリング)された今回値であることを、記号k−1は前回の制御タイミングで算出された前回値であることをそれぞれ示している。この点は以下の数式においても同様である。なお、以下の説明では、各離散データにおける記号(k)を適宜、省略する。
【0056】
上式(1)に示すように、追従誤差Eafは、センサ出力VO2と目標出力VO2_TRGTの偏差として算出される。また、上式(2)において、σは切換関数であり、Sは−1<S<0の関係が成立するように設定される切換関数設定パラメータである。この場合、切換関数設定パラメータSの設定値により、追従誤差Eafの値0への収束速度すなわちセンサ出力VO2の目標出力VO2_TRGTへの収束速度が指定される。また、上式(3)において、Urchは到達則入力であり、Krchは所定の到達則ゲインを表している。さらに、上式(4)において、Uadpは適応則入力であり、Kadpは所定の適応則ゲインを表している。
【0057】
燃料補正係数算出部20では、燃料補正係数KAFが、以上のようなスライディングモード制御アルゴリズムによって、センサ出力VO2を目標出力VO2_TRGTに収束させるように算出されるとともに、当量比として算出される。そのため、VO2≒VO2_TRGTが成立している場合において、マップ誤差が生じていないときには、KAF≒1となるとともに、マップ誤差が生じているときには、値1から離間することになる。なお、本実施形態では、燃料補正係数算出部20がフィードバック補正値算出手段に相当し、燃料補正係数KAFがフィードバック補正値に相当し、スライディングモード制御アルゴリズムが所定のフィードバック制御アルゴリズムに相当する。
【0058】
さらに、燃料コントローラ30では、燃料補正係数KAF、エンジン回転数NEおよびスロットル弁開度THに応じて、後述する手法により基本燃料噴射量Tibsが算出される。そして、乗算器21で、下式(6)によって燃料噴射量Toutが算出される。
【数2】

【0059】
上式(6)に示すように、燃料噴射量Toutは、基本燃料噴射量Tibsを燃料補正係数KAFで補正することによって算出され、この燃料補正係数KAFは、前述したように、センサ出力VO2を目標出力VO2_TRGTに収束させるように算出される。したがって、以上のように算出された燃料噴射量Toutを用いることによって、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTに収束するように、混合気の空燃比が制御される。
【0060】
なお、本実施形態では、乗算器21が制御入力算出手段に、燃料噴射量Toutが制御入力および燃料供給量に、燃料コントローラ30がフィードフォワード入力算出手段に、基本燃料噴射量Tibsがフィードフォワード入力および燃料供給量の基本値にそれぞれ相当する。
【0061】
次に、図3を参照しながら、上述した燃料コントローラ30について説明する。同図に示すように、燃料コントローラ30は、演算モード値発生部31、コントローラ切換部32、出力選択部33および第1〜3燃料コントローラ40,50,70を備えている。
【0062】
この演算モード値発生部31は、演算モード値MOD_CALをコントローラ切換部32および出力選択部33に出力するものであり、この演算モード値MOD_CALは、そのエンジン3において発生しやすいマップ誤差の種類に基づき、値1〜3のいずれかに工場出荷時に予め設定される。より具体的には、演算モード値MOD_CALは、前述したオフセットずれに起因するマップ誤差が発生しやすい場合には値1に設定され、前述した温度ドリフトに起因するマップ誤差が発生しやすい場合には値2に設定され、前述したスラッジ堆積に起因するマップ誤差が発生しやすい場合には値3に設定される。
【0063】
また、コントローラ切換部32では、3つの値NE,TH,KAFが、演算モード値MOD_CALに応じて、3つのコントローラ40,50,70のいずれかに切り換えて入力される。具体的には、3つの値NE,TH,KAFは、MOD_CAL=1のときには第1燃料コントローラ40に入力され、MOD_CAL=2のときには、第2燃料コントローラ50に入力され、MOD_CAL=3のときには、第3燃料コントローラ70に入力される。
【0064】
さらに、第1〜第3燃料コントローラ40,50,70では、第1〜第3基本噴射量Tibs1〜3がそれぞれ後述する手法によって算出される。
【0065】
そして、出力選択部33では、3つのコントローラ40,50,70で算出された第1〜第3基本噴射量Tibs1〜3のいずれかが、演算モード値MOD_CALに応じて、基本噴射量Tibsとして選択され、出力される。具体的には、MOD_CAL=1のときには第1基本噴射量Tibs1が基本噴射量Tibsとして出力され、MOD_CAL=2のときには第2基本噴射量Tibs2が基本噴射量Tibsとして出力され、MOD_CAL=3のときには第3基本噴射量Tibs3が基本噴射量Tibsとして出力される。
【0066】
次に、前述した第1燃料コントローラ40について説明する。この第1燃料コントローラ40では、以下に述べる手法により、オフセットずれに起因するマップ誤差を補償しながら、第1基本噴射量Tibs1が算出される。なお、本実施形態では、第1燃料コントローラ40が、フィードフォワード入力算出手段および修正後動作状態パラメータ算出手段に相当し、第1基本噴射量Tibs1がフィードフォワード入力および燃料供給量の基本値に相当する。
【0067】
図4に示すように、第1燃料コントローラ40は、減算器41、重み算出部42、乗算器43、SMコントローラ44、加算器45および第1基本噴射量算出部46を備えている。
【0068】
まず、減算器41では、下式(7)により、モデル誤差Emが算出される。
【数3】

【0069】
ここで、前述したように、燃料補正係数KAFは、VO2≒VO2_TRGTが成立している場合において、マップ誤差が生じていないときには、KAF≒1となるとともに、マップ誤差が生じているときには、値1から離間することになるので、このモデル誤差Emは、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTから離間している度合を表すことになる。なお、本実施形態では、モデル誤差Emが、フィードバック補正値および所定の目標値の一方と他方の偏差に相当し、値1が所定の目標値に相当する。
【0070】
また、重み算出部42では、スロットル弁開度THおよびエンジン回転数NEに応じて、図5に示す応答曲面マップを検索することにより、重みWが算出される。なお、本実施形態では、重み算出部42が第1感度パラメータ算出手段に相当し、重みWが第1〜第3感度パラメータに相当する。同図において、NE1〜NE3は、NE1<NE2<NE3の関係が成立するエンジン回転数NEの所定値であり、THmaxは、全開値であり、スロットル弁5が全開状態にあるときのスロットル弁開度THに相当する。これらの点は以下の説明においても同様である。なお、この重みWの意味については後述する。
【0071】
さらに、乗算器43では、下式(8)により、補正モデル誤差Ewが算出される。なお、本実施形態では、乗算器43が第1修正偏差算出手段に相当し、補正モデル誤差Ewが第1修正偏差に相当する。
【数4】

【0072】
次に、SMコントローラ44では、下式(9)〜(12)に示すスライディングモード制御アルゴリズムによって、第1開度補正値DTH1が算出される。
【0073】
【数5】

【0074】
上式(9)において、σvは切換関数であり、Svは−1<Sv<0の関係が成立するように設定される切換関数設定パラメータである。この場合、切換関数設定パラメータSvの設定値により、補正モデル誤差Ewの値0への収束速度(すなわち燃料補正係数KAFの値1への収束速度)が指定される。また、上式(10)において、Urch_vは到達則入力であり、Krch_vは所定の到達則ゲインを表している。さらに、上式(11)において、Uadp_vは適応則入力であり、Kadp_vは所定の適応則ゲインを表している。
【0075】
以上のように、SMコントローラ44では、第1開度補正値DTH1が、スライディングモード制御アルゴリズムによって、補正モデル誤差Ewを値0に収束させるための値として算出される。この場合、第1開度補正値DTH1を、スライディングモード制御アルゴリズム以外のフィードバック制御アルゴリズムで算出してもよいが、応答指定型制御アルゴリズムの場合、他のフィードバック制御アルゴリズムと異なり、補正モデル誤差Ewの値0への収束挙動を指数関数的に指定することができることで、燃料補正係数算出部20における制御(スライディングモード制御)との干渉を回避することができる。
【0076】
以上の理由により、本実施形態では、応答指定型制御アルゴリズムであるスライディングモード制御アルゴリズムを用いて、第1開度補正値DTH1を算出している。ここで、第1開度補正値DTH1の算出アルゴリズムとして、上記スライディングモード制御アルゴリズムに代えて、他の応答指定型制御アルゴリズムを用いた場合、すなわちバックステッピング制御アルゴリズムや、スライディングモード制御アルゴリズムにおける制御対象モデルを一次系に置き換えることで導出される制御アルゴリズムなどを用いた場合でも、上記の効果を得ることができる。なお、本実施形態では、SMコントローラ44が第1修正値算出手段に相当し、第1開度補正値DTH1が修正値に相当する。
【0077】
次いで、加算器45では、下式(13)により、第1補正後開度THmod1(修正後動作状態パラメータ)が算出される。
【数6】

【0078】
そして、第1基本噴射量算出部46(入力算出手段)では、第1補正後開度THmod1およびエンジン回転数NEに応じて、図6に示すマップを検索することにより、第1基本噴射量Tibs1が算出される。この図6のマップは、図7のマップの縦軸を基本噴射量Tibsから第1基本噴射量Tibs1に置き換えるとともに、横軸をスロットル弁開度THから第1補正後開度THmod1に置き換えたものであり、この図7は、エンジン3が燃料補正係数KAF=1が成立する状態で運転されているとき(すなわち混合気の空燃比が理論空燃比になっているとき)に、スロットル弁開度THおよびエンジン回転数NEと、基本噴射量Tibs(=Tout)との関係をマッピングしたものである。
【0079】
次に、図8を参照しながら、第1燃料コントローラ40において、以上のような算出手法で第1基本噴射量Tibs1を算出する理由について説明する。同図において、実線で示す曲線は、図7におけるNE=NE1のときの基本噴射量Tibsのマップ値を示しており、破線で示す曲線は、オフセットずれに起因して、基本噴射量Tibsの適切な値(必要な値)とスロットル弁開度THとの関係が、マップ値とスロットル弁開度THとの関係からずれているとき、すなわちマップ誤差が発生しているときの一例を示している。
【0080】
図8に示すように、マップ誤差がオフセットずれに起因して発生した場合、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTから乖離し、排ガス特性が悪化してしまうので、良好な排ガス特性を確保するために、マップ誤差を解消する必要がある。その場合、マップ誤差がオフセットずれに起因している関係上、スロットル弁開度THをオフセットずれの分だけ減少補正または増大補正した値を用いて、基本噴射量Tibsを算出すればよい。したがって、この第1燃料コントローラ40では、スロットル弁開度THのオフセットずれに起因するマップ誤差を補償するために、第1補正後開度THmod1を、加算項である第1開度補正値DTH1でスロットル弁開度THを補正することによって算出し、そのような第1補正後開度THmod1を用いて、第1基本噴射量Tibs1が算出される。
【0081】
また、前述した重みWを用いたのは以下の理由による。制御装置1による空燃比制御の実行中、前述した追従誤差Eaf(=VO2−VO2_TRGT)が発生することで、モデル誤差Emが発生している場合、スロットル弁開度THの変化に対する基本噴射量Tibsの変化量が大きいほど、上記オフセットずれに起因して、モデル誤差Emが発生している確率が高くなる。言い換えれば、上述した図7のマップにおいて、基本噴射量Tibsを示す曲線の勾配が大きいほど、オフセットずれがモデル誤差Emの発生要因である確率が高くなる。
【0082】
ここで、図9に示すように、スロットル弁開度THが所定量ΔTH(例えば1deg)変化したときの、基本噴射量Tibsの変化量をΔTibsとした場合、基本噴射量Tibsを示す曲線の勾配はΔTibs/ΔTHとなる。上述したように、この勾配ΔTibs/ΔTHが大きいほど、オフセットずれがモデル誤差Emの発生要因である確率が高くなるので、この勾配を重みWとして設定し(W=ΔTibs/ΔTH)、図7のマップに基づいて重みWを算出すると、図5の応答曲面マップが得られる。このように、重みWは、スロットル弁開度THに対する基本噴射量Tibsの感度を表すものとして算出される。そして、前述したように、重みWをモデル誤差Emに乗算することによって、補正モデル誤差Ewを算出し、この補正モデル誤差Ewが値0になるように、第1開度補正値DTH1を算出することによって、オフセットずれがモデル誤差Emの発生要因である確率の高低を反映させながら、第1開度補正値DTH1を算出することができる。
【0083】
また、そのような第1開度補正値DTH1でスロットル弁開度THを補正することで、第1補正後開度THmod1を算出し、これを用いて第1基本噴射量Tibs1が算出されるので、オフセットずれに起因するマップ誤差を迅速かつ適切に補償しながら、第1基本噴射量Tibs1を算出することができる。
【0084】
次に、前述した第2燃料コントローラ50について説明する。この第2燃料コントローラ50は、以下に述べる手法によって、前述した温度ドリフトに起因するマップ誤差を補償しながら、第2基本噴射量Tibs2を算出するものである。なお、本実施形態では、第2燃料コントローラ50がフィードフォワード入力算出手段、修正後動作状態パラメータ算出手段および第2修正値算出手段に相当し、第2基本噴射量Tibs2がフィードフォワード入力および燃料供給量の基本値に相当する。
【0085】
図10に示すように、第2燃料コントローラ50は、3つの結合関数算出部51〜53、重み算出部54、減算器55、6つの乗算器56〜61、3つのSMコントローラ62〜64、2つの加算器65,66および第2基本噴射量算出部67を備えている。
【0086】
まず、3つの結合関数算出部51〜53では、スロットル弁開度THに応じて、図11に示すマップを検索することにより、3つの結合関数ωi(i=1〜3)の値がそれぞれ算出される。同図において、TH1〜TH4は、0<TH1<TH2<TH3<TH4(=THmax)が成立するように設定される、スロットル弁開度THの所定値を表している。
【0087】
ここで、結合関数ωiの添字iは、以下に述べるスロットル弁開度THの3つの領域に対応する値であることを表しており、この関係は、後述する各種の値においても同様である。具体的には、結合関数ω1は、0≦TH<TH2と規定される第1領域に対応し、結合関数ω2は、TH1<TH<TH3と規定される第2領域に対応し、結合関数ω3は、TH2<THと規定される第3領域に対応するように設定されている。
【0088】
また、同図に示すように、3つの結合関数ωiの各々は、上述した対応する領域では値1以下の正値にかつそれ以外の領域では値0に設定されており、さらに、隣り合う各2つの結合関数ωm,ωm+1(m=1または2)は、互いに交差しているとともに、交差している部分の両者の和が、結合関数ωiの最大値1になるように設定されている。なお、本実施形態では、結合関数ωiが第1および第2関数に相当する。
【0089】
一方、重み算出部54では、前述した重み算出部42と同様に、スロットル弁開度THおよびエンジン回転数NEに応じて、図5に示す応答曲面マップを検索することにより、重みWが算出される。なお、本実施形態では、重み算出部54が第2および第3感度パラメータ算出手段に相当し、重みWが第2および第3感度パラメータに相当する。
【0090】
また、減算器55では、前述した減算器41と同様に、前述した式(7)により、モデル誤差Emが算出される。
【0091】
さらに、3つの乗算器56〜58では、下式(14)によって、3つの第2補正モデル誤差Ew2iが算出される。なお、本実施形態では、乗算器56〜58が第1および第2修正乗算値算出手段に相当し、第2補正モデル誤差Ew2iが第1および第2修正乗算値に相当する。
【数7】

【0092】
次に、3つのSMコントローラ62〜64では、下式(15)〜(18)に示すスライディングモード制御アルゴリズムによって、3つの修正係数θiが算出される。
【0093】
【数8】

【0094】
上式(15)において、σv2は切換関数であり、Sv2は−1<Sv2<0の関係が成立するように設定される切換関数設定パラメータである。この場合、切換関数設定パラメータSv2の設定値により、第2補正モデル誤差Ew2iの値0への収束速度が指定される。また、上式(16)において、Urch_v2は到達則入力であり、Krch_v2は所定の到達則ゲインを表している。さらに、上式(17)において、Uadp_v2は適応則入力であり、Kadp_v2は所定の適応則ゲインを表している。
【0095】
以上のように、SMコントローラ62〜64では、3つの修正係数θiがそれぞれ、スライディングモード制御アルゴリズムによって、3つの第2補正モデル誤差Ew2iを値0に収束させるための値として算出される。なお、本実施形態では、SMコントローラ62〜64が第1および第2修正係数算出手段に相当し、修正係数θiが第1および第2修正係数に相当する。
【0096】
次に、3つの乗算器59〜61では、3つの結合関数ωiを3つの修正係数θiにそれぞれ乗算することによって、3つの乗算値ωiθi(第2および第4乗算値)が算出される。
【0097】
また、加算器65では、下式(19)によって、第2開度補正値DTH2(修正値)が3つの乗算値乗算値ωiθiの和として算出される。
【数9】

【0098】
次いで、加算器66では、下式(20)によって、第2補正後開度THmod2(修正後動作状態パラメータ)が算出される。
【数10】

【0099】
そして、第2基本噴射量算出部67(入力算出手段)では、第2補正後開度THmod2およびエンジン回転数NEに応じて、図12に示すマップを検索することにより、第2基本噴射量Tibs2が算出される。同図のマップは、図7のマップの縦軸を基本噴射量Tibsから第2基本噴射量Tibs2に置き換えるとともに、横軸をスロットル弁開度THから第2補正後開度THmod2に置き換えたものに相当する。
【0100】
次に、図13を参照しながら、第2燃料コントローラ50において、以上のような算出手法で第2基本噴射量Tibs2を算出する理由について説明する。同図において、実線で示す曲線は、図7におけるNE=NE1のときの基本噴射量Tibsのマップ値を示しており、破線で示す曲線は、温度ドリフトに起因して、基本噴射量Tibsの適切な値(必要な値)とスロットル弁開度THとの関係が、マップ値とスロットル弁開度THとの関係からずれているとき、すなわちマップ誤差を生じているときの一例を示している。
【0101】
このように、マップ誤差が温度ドリフトに起因して発生した場合にも、前述したオフセットずれの場合と同様に、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTから乖離し、排ガス特性が悪化してしまうので、良好な排ガス特性を確保するために、マップ誤差を解消する必要がある。その場合、マップ誤差が温度ドリフトに起因している関係上、スロットル弁開度THを温度ドリフトの分だけ減少補正または増大補正した値を用いて、基本噴射量Tibsを算出すればよいとともに、スロットル弁開度THを補正するための値すなわち第2開度補正値DTH2を、スロットル弁開度センサ10の温度と相関性の高いエンジン3の負荷に応じて算出する必要がある。また、温度ドリフトは、エンジン3の負荷に応じて発生する関係上、エンジン3の負荷と相関性の高いスロットル弁開度THの全閉から全開までの領域で、異なる発生度合を示すことになり、そのため、温度ドリフトに起因するマップ誤差は、スロットル弁開度THの全閉から全開までの領域で非線形な状態で発生することになる。
【0102】
したがって、この第2燃料コントローラ50では、3つの結合関数ωiをそれぞれ、エンジン3の負荷と相関性の高いスロットル弁開度THの前述した3つの領域に対応するように非線形に設定し、そのように非線形な3つの結合関数ωiを用いることによって、エンジン3の負荷すなわち温度ドリフトに応じて、第2開度補正値DTH2を算出する。そして、そのような第2開度補正値DTH2をスロットル弁開度THに加算することによって、第2補正後開度THmod2を算出し、これを用いて第2基本噴射量Tibs2が算出される。その結果、温度ドリフトに起因する非線形なマップ誤差を迅速かつ適切に補償しながら、第2基本噴射量Tibs2を算出することができる。
【0103】
次に、図14を参照しながら、前述した第3燃料コントローラ70について説明する。この第3燃料コントローラ70は、以下に述べる手法によって、前述したスラッジ堆積に起因するマップ誤差を補償しながら、第3基本噴射量Tibs3を算出するものである。同図に示すように、この第3燃料コントローラ70は、一部を除いて、前述した第2燃料コントローラ50と同様に構成されているので、以下、第2燃料コントローラ50と同じ構成に関しては同じ符号を付し、その説明を省略するとともに、異なる点を中心に説明する。
【0104】
なお、本実施形態では、第3燃料コントローラ70がフィードフォワード入力算出手段および第3修正値算出手段に相当し、第3基本噴射量Tibs3がフィードフォワード入力および燃料供給量の基本値に相当する。
【0105】
図14に示すように、第3燃料コントローラ70は、3つの結合関数算出部51〜53、重み算出部54、減算器55、6つの乗算器56〜61、3つのSMコントローラ62〜64、2つの加算器75,76、マップ値算出部77および乗算器78を備えている。
【0106】
まず、3つの乗算器59〜61では、前述したように、3つの結合関数ωiを3つの修正係数θiにそれぞれ乗算することによって、3つの乗算値ωiθiが算出される。
【0107】
次いで、加算器75では、下式(21)によって、乗算和Kff’(複数の第4乗算値の総和)が算出される。
【数11】

【0108】
また、加算器76では、下式(22)によって、補正係数Kff(修正値)が算出される。
【数12】

【0109】
以上のように、補正係数Kffが乗算和Kff’に値1を加算することによって算出されるのは、補正係数Kffがマップ値Tibs_mapへの乗算値として用いられるので、KAF≒1すなわちVO2≒VO2_TRGTが成立していることで、マップ値Tibs_mapを補正する必要がないときに、Kff=1となるようにするためである。
【0110】
さらに、マップ値算出部77では、スロットル弁開度THおよびエンジン回転数NEに応じて、図15に示すマップを検索することにより、マップ値Tibs_mapが算出される。同図のマップは、図7の縦軸を基本噴射量Tibsからマップ値Tibs_mapに置き換えたものである。なお、本実施形態では、マップ値算出部77がモデル値算出手段に相当し、マップ値Tibs_mapがフィードフォワード入力のモデル値に相当する。
【0111】
そして、最終的に、乗算器78(入力設定手段)で、下式(23)によって第3基本噴射量Tibs3が算出される。
【数13】

【0112】
次に、図16を参照しながら、第3燃料コントローラ70において、以上のような算出手法で第3基本噴射量Tibs3を算出する理由について説明する。同図において、実線で示す曲線は、図7におけるNE=NE1のときの基本噴射量Tibsのマップ値を示しており、破線で示す曲線は、スラッジ堆積に起因して、基本噴射量Tibsの適切な値(必要な値)とスロットル弁開度THとの関係が、マップ値とスロットル弁開度THとの関係からずれているとき、すなわちマップ誤差が発生しているときの一例を示している。
【0113】
同図に示すように、スラッジ堆積が発生した場合、吸気通路4の開口面積が低下することで、エンジン回転数NEおよびスロットル弁開度THに対して、実際の吸入空気量がスラッジ堆積が発生していない場合よりも低下する。その結果、図7のマップを用いて基本噴射量Tibsを算出すると、算出結果が不適切な値となってしまい、マップ誤差が生じてしまう。この場合、マップ誤差は、スラッジ堆積に起因して発生する関係上、エンジン回転数NEおよびスロットル弁開度THの組み合わせに対して非線形な状態で発生する。
【0114】
このように、マップ誤差がスラッジ堆積に起因して発生した場合にも、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTから乖離し、排ガス特性が悪化してしまうので、良好な排ガス特性を確保するために、マップ誤差を解消する必要がある。その場合、上述したように、スラッジ堆積に起因するマップ誤差は、エンジン回転数NEおよびスロットル弁開度THの組み合わせに対して非線形な状態で発生するので、このマップ誤差を補償するには、基本噴射量Tibsとエンジン回転数NEおよびスロットル弁開度THとの関係を、エンジン3の負荷に応じて非線形に補正する必要がある。
【0115】
そのため、この第3燃料コントローラ70では、前述した3つの乗算値ωiθiを互いに加算することによって、乗算和Kff’を算出し、これに値1を加算することで、補正係数Kffが算出される。そして、そのような補正係数Kffでマップ値Tibs_mapを補正することによって、第3基本噴射量Tibs3が算出される。それにより、スラッジ堆積に起因する非線形なマップ誤差を迅速かつ適切に補償しながら(すなわち、基本噴射量Tibsと、エンジン回転数NEおよびスロットル弁開度THとの関係を非線形に補償しながら)、第3基本噴射量Tibs3を算出することができる。
【0116】
次に、図17を参照しながら、ECU2により実行される空燃比制御処理について説明する。本処理は、燃料噴射弁6から噴射すべき燃料噴射量Toutを算出するものであり、前述した所定の制御周期ΔTで実行される。
【0117】
この処理では、まず、ステップ1(図では「S1」と略す。以下同じ)で、THセンサ故障フラグF_THNGが「1」であるか否かを判別する。このTHセンサ故障フラグF_THNGは、図示しない判定処理において、スロットル弁開度センサ10が故障したときに「1」に、それ以外のときに「0」に設定される。
【0118】
ステップ1の判別結果がNOで、スロットル弁開度センサ10が正常であるときには、ステップ2に進み、エンジン始動フラグF_ENGSTARTが「1」であるか否かを判別する。このエンジン始動フラグF_ENGSTARTは、図示しない判定処理において、エンジン始動制御中すなわちクランキング中であるか否かを判定することによって設定されるものであり、具体的には、エンジン始動制御中であるときには「1」に、それ以外のときには「0」にそれぞれ設定される。
【0119】
ステップ2の判別結果がYESで、エンジン始動制御中であるときには、ステップ3に進み、燃料補正係数の始動時用値KAF_STを、エンジン水温TWに応じて、図18に示すマップを検索することにより算出する。このマップでは、始動時用値KAF_STは、エンジン水温TWが低いほど、よりリッチ側の値に設定されている。これは、エンジン水温TWが低い場合、エンジン3の始動性を高めるために、混合気をリッチ側の値に制御する必要があることによる。
【0120】
次に、ステップ4に進み、燃料補正係数KAFを上記始動時用値KAF_STに設定する。ステップ4に続くステップ5で、エンジン回転数NEおよびスロットル弁開度THに応じて、前述した図7のマップを検索することにより、基本噴射量Tibsを算出する。
【0121】
次いで、ステップ6に進み、燃料噴射量Toutを、基本噴射量Tibsと燃料補正係数KAFの積Tibs・KAFに設定した後、本処理を終了する。
【0122】
一方、ステップ2の判別結果がNOで、エンジン始動制御中でないときには、ステップ7に進み、スロットル弁開度THが所定値THREFより小さいか否かを判別する。この判別結果がYESで、運転者がスロットルレバーを操作していないときには、ステップ8に進み、始動後タイマの計時値Tastが所定値Tastlmtより小さいか否かを判別する。
【0123】
この判別結果がYESで、Tast<Tastlmtのときには、触媒暖機制御を実行すべきであるとして、ステップ9に進み、燃料補正係数の触媒暖機用値KAF_ASTを、始動後タイマの計時値Tastおよびエンジン水温TWに応じて、図19に示すマップを検索することにより算出する。同図において、TW1〜TW3は、TW1<TW2<TW3の関係が成立するエンジン水温TWの所定値を示している。
【0124】
このマップでは、触媒暖機用値KAF_ASTは、TW=TW1が成立する低水温域では、計時値Tastが小さいほど、触媒の活性化を早めるために、よりリッチ側の大きな値に設定されている。また、TW=TW3が成立し、触媒暖機が完了した高温域では、触媒暖機用値KAF_ASTが理論空燃比に相当する値1に設定されている。
【0125】
次に、ステップ10に進み、燃料補正係数KAFを上記触媒暖機用値KAF_ASTに設定する。その後、前述したように、ステップ5,6を実行した後、本処理を終了する。
【0126】
一方、ステップ7または8の判別結果がNOのとき、すなわちアクセルペダルが踏まれているとき、またはTast≧Tastlmtであるときには、ステップ11に進み、前述した燃料補正係数算出部20における算出手法によって、燃料補正係数KAFを算出する。
【0127】
次いで、ステップ12に進み、基本噴射量Tibsを算出する。このステップ12の算出処理は、具体的には、図20に示すように実行される。すなわち、まず、ステップ20で、前述した演算モード値MOD_CALが値1であるか否かを判別する。
【0128】
この判別結果がYESで、オフセットずれに起因するマップ誤差を補償すべきであるときには、ステップ21に進み、前述した第1燃料コントローラ40における算出手法によって、第1基本噴射量Tibs1を算出する。次いで、ステップ22で、基本噴射量Tibsを第1基本噴射量Tibs1に設定した後、本処理を終了する。
【0129】
一方、ステップ20の判別結果がNOのときには、ステップ23に進み、演算モード値MOD_CALが値2であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、温度ドリフトに起因するマップ誤差を補償すべきであるときには、ステップ24に進み、前述した第2燃料コントローラ50における算出手法によって、第2基本噴射量Tibs2を算出する。次いで、ステップ25で、基本噴射量Tibsを第2基本噴射量Tibs2に設定した後、本処理を終了する。
【0130】
一方、ステップ23の判別結果がNOで、スラッジ堆積に起因するマップ誤差を補償すべきであるときには、ステップ26に進み、前述した第3燃料コントローラ70における算出手法によって、第3基本噴射量Tibs3を算出する。次いで、ステップ27で、基本噴射量Tibsを第3基本噴射量Tibs3に設定した後、本処理を終了する。
【0131】
図17に戻り、ステップ12で以上のように基本噴射量Tibsを算出した後、前述したように、ステップ6で、燃料噴射量Toutを算出する。その後、本処理を終了する。
【0132】
一方、ステップ1の判別結果がYESで、スロットル弁開度センサ10が故障しているときには、ステップ13に進み、燃料噴射量Toutを、基本噴射量Tibsと、燃料補正係数の所定の故障時用値KFSとの積Tibs・KFSに設定した後、本処理を終了する。この故障時用値KFSは、混合気の燃焼状態を安定させるべく、混合気の空燃比がリッチ側の値になるように設定されている。
【0133】
本実施形態の制御装置1は、以上のような空燃比制御処理によって燃料噴射量Toutを算出し、図示しないが、この燃料噴射量Toutおよびエンジン回転数NEに応じて、燃料噴射タイミングを算出するとともに、これらの燃料噴射量Toutおよび燃料噴射タイミングに基づいた制御入力信号で、燃料噴射弁6を駆動することにより、混合気の空燃比を制御する。
【0134】
次に、図21〜26を参照しながら、本実施形態の制御装置1による空燃比制御のシミュレーション結果(以下「制御結果」という)について説明する。これらの図21〜26はいずれも、エンジン3の運転条件として、負荷すなわちエンジン回転数NEおよびスロットル弁開度THが周期的に増減するように設定した場合のものを示している。
【0135】
まず、図21および図22について説明する。図21は、本実施形態の制御装置1の制御結果例を示しており、より具体的には、シミュレーション条件を、オフセットずれによるマップ誤差が発生した状態に設定するとともに、第1燃料コントローラ40で算出した第1基本噴射量Tibs1を基本噴射量Tibsとして用いた場合のものを示している。また、図22は、比較のために、シミュレーション条件を図21と同じように設定するとともに、基本噴射量Tibsを、図7のマップを用いて算出した場合の制御結果例(以下「比較例1」という)を示している。
【0136】
図21(a)のタイミングチャートにおいて、上側の曲線が第1触媒装置8の上流側のNOx量を表しており、下側の曲線が、第1触媒装置8の下流側のNOx量を表している。また、同図(b)のタイミングチャートは、第1触媒装置8におけるNOx浄化率を表している。以上の関係は、図22〜26においても同様である。
【0137】
まず、図22の比較例1では、同図(c)に示すように、マップ誤差に起因して、センサ出力VO2が周期的に目標出力VO2_TRGTから大きく離間しており(時刻t11,t12など)、その結果、同図(b)に示すように、第1触媒装置8におけるNOx浄化率が周期的に大きく低下することが判る。
【0138】
これに対して、図21の制御結果例では、制御の開始直後は、同図(c)に示すように、マップ誤差に起因して、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTから一時的に若干、離間するものの、制御の進行に伴い、時刻t1以降は、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTに収束し、それにより、同図(b)に示すように、良好なNOx浄化率を確保できていることが判る。これは、時刻t1以降、第1開度補正値DTH1が最適値に収束することで(同図(d)参照)、第1基本噴射量Tibs1が適切な値に収束したためである。以上のように、本実施形態の第1燃料コントローラ40の制御手法によって、オフセットずれに起因するマップ誤差を適切に補償できることが判る。
【0139】
次に、図23および図24について説明する。図23は、本実施形態の制御装置1の制御結果例を示しており、より具体的には、シミュレーション条件を、温度ドリフトによるマップ誤差が発生した状態に設定するとともに、第2燃料コントローラ50で算出した第2基本噴射量Tibs2を基本噴射量Tibsとして用いた場合のものを示している。また、図24は、比較のために、シミュレーション条件を図23と同じように設定するとともに、基本噴射量Tibsを、図7のマップを用いて算出した場合の制御結果例(以下「比較例2」という)を示している。
【0140】
まず、図24の比較例2では、同図(c)に示すように、マップ誤差に起因して、センサ出力VO2が周期的に目標出力VO2_TRGTから大きく離間しており(時刻t31,t32など)、その結果、同図(b)に示すように、第1触媒装置8のNOx浄化率が周期的に大きく低下することが判る。
【0141】
これに対して、図23の制御結果例では、制御の開始直後は、同図(c)に示すように、マップ誤差に起因して、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTから一時的に若干、離間するものの、制御の進行に伴い、時刻t21以降は、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTにほぼ収束することによって、比較例2よりも良好なNOx浄化率を確保できていることが判る。これに加えて、制御の進行に伴い、NOx浄化率が徐々に向上していることが判る。これは、制御の進行に伴い、第2開度補正値DTH2の学習が進むことで(同図(d)参照)、第2基本噴射量Tibs2の算出精度が向上するためである。以上のように、本実施形態の第2燃料コントローラ50の制御手法によって、温度ドリフトに起因する非線形なマップ誤差を適切に補償できることが判る。
【0142】
次に、図25および図26について説明する。図25は、本実施形態の制御装置1の制御結果例を示しており、より具体的には、シミュレーション条件を、スラッジ堆積に起因するマップ誤差が発生した状態に設定するとともに、第3燃料コントローラ70で算出した第3基本噴射量Tibs3を基本噴射量Tibsとして用いた場合のものを示している。また、図26は、比較のために、シミュレーション条件を図25と同じように設定するとともに、基本噴射量Tibsを、図7のマップを用いて算出した場合の制御結果例(以下「比較例3」という)を示している。
【0143】
まず、図26の比較例3では、同図(c)に示すように、マップ誤差に起因して、センサ出力VO2が周期的に目標出力VO2_TRGTから大きく離間しており(時刻t51,t52など)、その結果、同図(b)に示すように、第1触媒装置8のNOx浄化率が周期的に大きく低下することが判る。
【0144】
これに対して、図25の制御結果例では、制御の開始直後は、同図(c)に示すように、マップ誤差に起因して、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTから一時的に離間するものの、制御の進行に伴い、時刻t41以降は、センサ出力VO2が目標出力VO2_TRGTにほぼ収束することによって、比較例3よりも良好なNOx浄化率を確保できていることが判る。これに加えて、制御の進行に伴い、NOx浄化率が徐々に向上していることが判る。これは、制御の進行に伴い、補正係数Kffの学習が進行することで(同図(d)参照)、第3基本噴射量Tibs3の算出精度が向上するためである。以上のように、本実施形態の第3燃料コントローラ70の制御手法によって、スラッジ堆積に起因する非線形なマップ誤差を適切に補償できることが判る。
【0145】
以上のように、本実施形態の制御装置1によれば、エンジン3で発生しやすいマップ誤差の種類に基づき、第1〜第3燃料コントローラ40,50,70で算出された3つの値Tibs1〜3のいずれかが基本噴射量Tibsとして設定され、これに燃料補正係数KAFを乗算することによって、燃料噴射量Toutが算出される。
【0146】
すなわち、MOD_CAL=1で、オフセットずれに起因するマップ誤差が発生しやすい場合には、第1燃料コントローラ40で算出された第1基本噴射量Tibs1が基本噴射量Tibsとして設定される。この第1燃料コントローラ40では、スライディングモード制御アルゴリズムによって、補正モデル誤差Ewが値0に収束するように、第1開度補正値DTH1が算出される。この場合、補正モデル誤差Ewは、モデル誤差Emに重みWを乗算した値であり、このモデル誤差Emは、値1と燃料補正係数KAFとの偏差であるので、第1開度補正値DTH1は、KAF≒1すなわちVO2≒VO2_TRGTが成立するように算出される。また、モデル誤差Emに乗算される重みWは、スロットル弁開度THに対する基本噴射量Tibsの感度を表すものであり、重みWが大きいほど、オフセットずれがモデル誤差Emの発生要因である確率が高くなる。したがって、そのような重みを用いることによって、オフセットずれがモデル誤差Emの発生要因である確率の高低を反映させながら、第1開度補正値DTH1を算出することができる。
【0147】
さらに、そのような第1開度補正値DTH1でスロットル弁開度THを補正した第1補正後開度THmod1と、エンジン回転数NEとに応じて、図6のマップを検索することにより、第1基本噴射量Tibs1が算出されるので、第1基本噴射量Tibs1は、KAF≒1すなわちVO2≒VO2_TRGTが成立するように算出される。その結果、オフセットずれに起因するマップ誤差が発生している場合において、エンジン3が過渡運転状態にあるときでも、そのマップ誤差を迅速かつ適切に補償しながら、第1基本噴射量Tibs1を精度よく算出することができる。
【0148】
また、MOD_CAL=2で、温度ドリフトに起因するマップ誤差が発生しやすい場合には、第2燃料コントローラ50で算出された第2基本噴射量Tibs2が基本噴射量Tibsとして設定される。この第2燃料コントローラ50では、モデル誤差Emと重みWの積を非線形な3つの結合関数ωiに乗算することによって、3つの第2補正モデル誤差Ew2iが算出され、これらが値0に収束するように、3つの修正係数θiが算出されるので、モデル誤差Emを、3つの結合関数ωiを介して3つの修正係数θiに配分することができる。さらに、そのような3つの修正係数θiを3つの結合関数ωiにそれぞれ乗算することによって、3つの乗算値ωiθiが算出され、第2開度補正値DTH2が3つの乗算値ωiθiの和として算出されるので、この第2開度補正値DTH2によって、マップ誤差をスロットル弁開度THの3つの領域毎に適切に補償することができる。特に、マップ誤差の発生方向が、スロットル弁開度THの3つの領域毎に異なっているとき、すなわち非線形なマップ誤差が発生しているときでも、そのようなマップ誤差を領域毎に適切に補償することができる。
【0149】
これに加えて、3つの乗算値ωiθiは、3つの修正係数θiを3つの結合関数ωiにそれぞれ乗算することによって算出されるので、これらの総和である第2開度補正値DTH2を、3つの修正係数θiを連続的に結合させた値として算出することができる。それにより、そのような第2開度補正値DTH2でスロットル弁開度THを補正することで、第2補正後開度THmod2を算出し、これを用いて第2基本噴射量Tibs2を算出することによって、スロットル弁開度THが急変したときでも、第2基本噴射量Tibs2を滑らかに段差なく変化するように算出することができる。以上のように、温度ドリフトに起因するマップ誤差が発生している場合において、エンジン3が過渡運転状態にあるときでも、そのマップ誤差を迅速かつ適切に補償しながら、第2基本噴射量Tibs2を精度よく算出することができる。
【0150】
また、MOD_CAL=3で、スラッジ堆積に起因するマップ誤差が発生しやすい場合には、第3燃料コントローラ70で算出された第3基本噴射量Tibs3が基本噴射量Tibsとして設定される。この第3燃料コントローラ70では、モデル誤差Emと重みWの積を非線形な3つの結合関数ωiに乗算することによって、3つの第2補正モデル誤差Ew2iが算出され、これらが値0に収束するように、3つの修正係数θiが算出されるので、前述したように、モデル誤差Emを、3つの結合関数ωiを介して3つの修正係数θiに配分することができる。さらに、そのような3つの修正係数θiを3つの結合関数ωiにそれぞれ乗算することによって、3つの乗算値ωiθiが算出され、これらの3つの乗算値ωiθiを加算することによって、乗算和Kff’が算出され、これに値1を加算することによって、補正係数Kffが算出されるので、この補正係数Kffによって、マップ誤差をスロットル弁開度THの3つの領域毎に適切に補償することができる。特に、エンジン回転数NEおよびスロットル弁開度THと、マップ値Tibs_mapとの間の関係が実際の関係とずれている場合において、そのずれの方向がスロットル弁開度THの3つの領域毎に異なっているとき、すなわち非線形なマップ誤差が発生しているときでも、そのようなマップ誤差を領域毎に適切に補償することができる。
【0151】
これに加えて、3つの乗算値ωiθiは、3つの修正係数θiを3つの結合関数ωiにそれぞれ乗算することによって算出されるので、これらの総和である乗算和Kff’を、3つの修正係数θiを連続的に結合させた値として算出することができる。さらに、そのような乗算和Kff’に値1を加算した補正係数Kffで、基本噴射量のマップ値Tibs_mapを補正することによって、第3基本噴射量Tibs3が算出されるので、スロットル弁開度THが急変したときでも、第3基本噴射量Tibs3を滑らかに段差なく変化するように算出することができる。その結果、スラッジ堆積に起因するマップ誤差が発生している場合において、エンジン3が過渡運転状態にあるときでも、そのマップ誤差を迅速かつ適切に補償しながら、第3基本噴射量Tibs3を精度よく算出することができる。
【0152】
以上のように、オフセットずれ、温度ドリフトおよびスラッジ堆積にそれぞれ起因する3つのマップ誤差のいずれかが発生している場合において、エンジン3が過渡運転状態にあるときでも、発生したマップ誤差を迅速かつ適切に補償しながら、基本噴射量Tibsを精度よく算出することができる。その結果、エンジン3が過渡運転状態のときでも、センサ出力VO2を目標出力VO2_TRGTに保持することができ、良好な排ガス特性を確保することができる。
【0153】
なお、実施形態は、本発明の制御装置1を、酸素濃度センサ12の出力VO2を制御量とし、燃料噴射量Toutを制御入力とする制御対象に適用した例であるが、本願発明の制御装置はこれに限らず、様々な産業機器における出力および入力を制御量および制御入力とする制御対象に適用可能である。
【0154】
また、実施形態は、所定のフィードバック制御アルゴリズムとして、スライディングモード制御アルゴリズムを用いた例であるが、本発明の所定のフィードバック制御アルゴリズムはこれに限らず、制御量を目標制御量に収束させるようにフィードバック制御できるものであればよい。例えば、フィードバック制御アルゴリズムとして、PID制御アルゴリズムや、バックステッピング制御アルゴリズム、スライディングモード制御アルゴリズムでの制御対象モデルを一次系のものに置き換えることによって導出される応答指定型制御アルゴリズム、最適レギュレータなどを用いてもよい。
【0155】
さらに、実施形態は、所定の制御アルゴリズムとして、スライディングモード制御アルゴリズムを用いた例であるが、本発明の所定の制御アルゴリズムはこれに限らず、フィードバック補正値を所定の目標値にするための修正値を算出できるものであればよい。例えば、所定の制御アルゴリズムとして、PID制御アルゴリズムや、バックステッピング制御アルゴリズム、スライディングモード制御アルゴリズムでの制御対象モデルを一次系のものに置き換えることによって導出される応答指定型制御アルゴリズム、最適レギュレータなどを用いてもよい。
【0156】
一方、実施形態は、フィードフォワード入力としての基本噴射量Tibsを、フィードバック補正値としての燃料補正係数KAFで補正することによって、制御入力としての燃料噴射量Toutを算出した例であるが、本発明の制御入力の算出手法はこれに限らず、フィードフォワード入力をフィードバック補正値で補正した値に基づき、制御入力を算出するものであればよい。例えば、実施形態において、燃料噴射量Toutを、基本噴射量Tibsと燃料補正係数KAFの積に、所定値を加減算または乗算することによって算出してもよい。
【0157】
また、実施形態は、第1動作状態パラメータおよび動作状態パラメータとして、スロットル弁開度THおよびエンジン回転数NEを用いた例であるが、本発明の第1動作状態パラメータおよび動作状態パラメータはこれに限らず、制御量以外の、制御対象の動作状態を表すものであればよい。例えば、内燃機関がアクセルペダルを備えている場合には、アクセルペダルの操作量を第1動作状態パラメータおよび動作状態パラメータとして用いてもよく、内燃機関が吸気弁および/または排気弁のリフトを無段階に連続的に変更する可変リフト機構を備えている場合には、吸気弁および/または排気弁のリフトを第1動作状態パラメータおよび動作状態パラメータとして用いてもよい。また、マップ検索に用いる動作状態パラメータの数は、2つに限らず、3つ以上の動作状態パラメータを用いてもよい。
【0158】
さらに、実施形態は、運転状態パラメータとして、スロットル弁開度THおよびエンジン回転数NEを用いた例であるが、本発明の運転状態パラメータはこれに限らず、内燃機関の運転状態を表すものであればよい。例えば、内燃機関がアクセルペダルを備えている場合には、アクセルペダルの操作量を運転状態パラメータとして用いてもよく、内燃機関が吸気弁および/または排気弁のリフトを無段階に連続的に変更する可変リフト機構を備えている場合には、吸気弁および/または排気弁のリフトを運転状態パラメータとして用いてもよい。
【0159】
また、実施形態は、第2および第3動作状態パラメータとして、スロットル弁開度THを用いた例であるが、本発明の第2および第3動作状態パラメータはこれに限らず、制御量以外の、制御対象の動作状態を表すものであればよい。例えば、例えば、エンジン回転数NEを、第2および第3動作状態パラメータとして用いてもよい。さらに、内燃機関が吸気弁および/または排気弁のリフトを無段階に連続的に変更する可変リフト機構を備えている場合には、吸気弁および/または排気弁のリフトを第2および第3動作状態パラメータとして用いてもよい。
【0160】
一方、実施形態は、第1〜第3感度パラメータとして、重みWを用いた例であるが、本発明の第1〜第3感度パラメータはこれに限らず、第1動作状態パラメータに対するフィードフォワード入力の感度を表すものであればよい。例えば、フィードフォワード入力と第1動作状態パラメータの比を、第1〜第3感度パラメータとして用いてもよい。
【0161】
また、実施形態は、排ガス濃度センサとして、酸素濃度センサ12を用いた例であるが、本発明の排ガス濃度センサはこれに限らず、排ガス中の所定成分の濃度を検出するものであればよい。例えば、排ガス濃度センサとして、排ガス中のNOx濃度を検出するNOx濃度センサを用いてもよい。
【0162】
さらに、実施形態は、本発明の制御装置をモータサイクル用の内燃機関に適用した例であるが、本発明の制御装置を、軽自動車などの比較的小排気量の内燃機関に適用してもよい。
【0163】
一方、実施形態は、演算モード値MOD_CALを工場出荷時に予め設定した後は変更しないように構成した例であるが、演算モード値MOD_CALを、手動スイッチなどを介して任意に変更できるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】本発明の第1実施形態に係る制御装置およびこれを適用した内燃機関の概略構成を示す模式図である。
【図2】制御装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図3】燃料コントローラの概略構成を示す機能ブロック図である。
【図4】第1燃料コントローラの概略構成を示す機能ブロック図である。
【図5】重みWの算出に用いる応答曲面マップの一例を示す図である。
【図6】第1基本噴射量Tibs1の算出に用いるマップの一例を示す図である。
【図7】基本噴射量Tibsと、スロットル弁開度THおよびエンジン回転数NEとの関係をマッピングしたマップの一例を示す図である。
【図8】オフセットずれに起因するマップ誤差を説明するための図である。
【図9】重みWの意味を説明するための図である。
【図10】第2燃料コントローラの概略構成を示す機能ブロック図である。
【図11】結合関数ωiの算出に用いるマップの一例を示す図である。
【図12】第2基本噴射量Tibs2の算出に用いるマップの一例を示す図である。
【図13】温度ドリフトに起因するマップ誤差を説明するための図である。
【図14】第3燃料コントローラの概略構成を示す機能ブロック図である。
【図15】マップ値Tibs_mapの算出に用いるマップの一例を示す図である。
【図16】スラッジ堆積に起因するマップ誤差を説明するための図である。
【図17】空燃比制御処理を示すフローチャートである。
【図18】燃料補正係数の始動時用値KAF_STの算出に用いるマップの一例を示す図である。
【図19】燃料補正係数の触媒暖機用値KAF_ASTの算出に用いるマップの一例を示す図である。
【図20】基本噴射量Tibsの算出処理を示すフローチャートである。
【図21】オフセットずれによるマップ誤差が発生した状態をシミュレーション条件とし、第1基本噴射量Tibs1を基本噴射量Tibsとして用いた場合の空燃比制御のシミュレーション結果の一例を示すタイミングチャートである。
【図22】比較のために、図21と同じシミュレーション条件下で、図7のマップを用いて基本噴射量Tibsを算出した場合の空燃比制御のシミュレーション結果を示すタイミングチャートである。
【図23】温度ドリフトによるマップ誤差が発生した状態をシミュレーション条件とし、第2基本噴射量Tibs2を基本噴射量Tibsとして用いた場合の空燃比制御のシミュレーション結果の一例を示すタイミングチャートである。
【図24】比較のために、図23と同じシミュレーション条件下で、図7のマップを用いて基本噴射量Tibsを算出した場合の空燃比制御のシミュレーション結果を示すタイミングチャートである。
【図25】スラッジ堆積によるマップ誤差が発生した状態をシミュレーション条件とし、第3基本噴射量Tibs3を基本噴射量Tibsとして用いた場合の空燃比制御のシミュレーション結果の一例を示すタイミングチャートである。
【図26】比較のために、図25と同じシミュレーション条件下で、図7のマップを用いて基本噴射量Tibsを算出した場合の空燃比制御のシミュレーション結果を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0165】
1 制御装置
2 ECU(目標制御量設定手段、フィードバック補正値算出手段、第1〜第3動作
状態パラメータ検出手段、フィードフォワード入力算出手段、制御入力算出手段
、修正後動作状態パラメータ算出手段、入力算出手段、第1〜第3感度パラメー
タ算出手段、第1修正偏差算出手段、第1修正値算出手段、第2修正値算出手段
、第1修正乗算値算出手段、第1修正係数算出手段、モデル値算出手段、入力設
定手段、第3修正値算出手段、第2修正乗算値算出手段、第2修正係数算出手段

3 内燃機関
7 排気通路
8 第1触媒装置(触媒装置)
10 スロットル弁開度センサ(第1〜第3動作状態パラメータ検出手段)
11 クランク角センサ(第1動作状態パラメータ検出手段)
12 酸素濃度センサ(制御量検出手段、排ガス濃度センサ)
20 燃料補正係数算出部(フィードバック補正値算出手段)
21 乗算器(制御入力算出手段)
30 燃料コントローラ(フィードフォワード入力算出手段)
40 第1燃料コントローラ(フィードフォワード入力算出手段、修正後動作状態パラ
メータ算出手段)
42 重み算出部(第1感度パラメータ算出手段)
43 乗算器(第1修正偏差算出手段)
44 SMコントローラ(第1修正値算出手段)
46 第1基本噴射量算出部(入力算出手段)
50 第2燃料コントローラ(フィードフォワード入力算出手段、修正後動作状態パラ
メータ算出手段、第2修正値算出手段)
54 重み算出部(第2および第3感度パラメータ算出手段)
56〜58 乗算器(第1および第2修正乗算値算出手段)
62〜64 SMコントローラ(第1および第2修正係数算出手段)
67 第2基本噴射量算出部(入力算出手段)
70 第3燃料コントローラ(フィードフォワード入力算出手段、第3修正値算出手段

77 マップ値算出部(モデル値算出手段)
78 乗算器(入力設定手段)
VO2 酸素濃度センサの出力(制御量、排ガス濃度センサの出力)
Tout 燃料噴射量(制御入力、燃料供給量)
VO2_TRGT 目標出力(目標制御量)
KAF 燃料補正係数(フィードバック補正値)
TH スロットル弁の開度(第1〜第3動作状態パラメータ、動作状態パラ
メータ、運転状態パラメータ)
NE エンジン回転数(第1動作状態パラメータ、動作状態パラメータ、運
転状態パラメータ)
Tibs 基本噴射量(フィードフォワード入力、燃料供給量の基本値)
Tibs1〜3 第1〜第3基本噴射量(フィードフォワード入力、燃料供給量の基本
値)
DTH1 第1開度補正値(修正値)
DTH2 第2開度補正値(修正値)
Kff 補正係数(修正値)
Kff’ 乗算和(複数の第4乗算値の総和)
THmod1 第1補正後開度(修正後動作状態パラメータ)
THmod2 第2補正後開度(修正後動作状態パラメータ)
W 重み(第1〜第3感度パラメータ)
Em モデル誤差(フィードバック補正値および所定の目標値の一方と他方
との偏差)
Ew 補正モデル誤差(第1修正偏差)
ωi 結合関数(第1および第2関数)
θi 修正係数(第1および第2修正係数)
ωiθi 乗算値(第2および第4乗算値)
Ew2i 第2補正モデル誤差(第1および第2修正乗算値)
Tibs_map マップ値(フィードフォワード入力のモデル値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象における制御量を制御入力によって制御する制御装置であって、
前記制御量を検出する制御量検出手段と、
前記制御量の目標となる目標制御量を設定する目標制御量設定手段と、
前記制御量を前記目標制御量に収束させるようにフィードバック制御するためのフィードバック補正値を、所定のフィードバック制御アルゴリズムを用いて算出するフィードバック補正値算出手段と、
前記制御量以外の、前記制御対象の動作状態を表す第1動作状態パラメータを検出する第1動作状態パラメータ検出手段と、
前記制御量を前記目標制御量にフィードフォワード制御するためのフィードフォワード入力を、当該フィードフォワード入力と前記第1動作状態パラメータとの間の相関関係を表す相関関係モデルおよび前記第1動作状態パラメータを用いて算出するフィードフォワード入力算出手段と、
前記フィードフォワード入力を前記フィードバック補正値で補正した値に基づき、前記制御入力を算出する制御入力算出手段と、
を備え、
前記フィードフォワード入力算出手段は、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記フィードバック補正値を所定の目標値にするための修正値を算出し、当該修正値によって、前記第1動作状態パラメータおよび前記相関関係モデルの一方を修正するとともに、前記相関関係モデルおよび前記第1動作状態パラメータのうちの修正された一方と他方とを用いて、前記フィードフォワード入力を算出することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記フィードフォワード入力算出手段は、
前記修正値で前記第1動作状態パラメータを修正することにより、修正後動作状態パラメータを算出する修正後動作状態パラメータ算出手段と、
当該修正後動作状態パラメータおよび前記相関関係モデルを用いて、前記フィードフォワード入力を算出する入力算出手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記フィードフォワード入力算出手段は、
前記第1動作状態パラメータに応じて、当該第1動作状態パラメータに対する前記フィードフォワード入力の感度を表す第1感度パラメータを算出する第1感度パラメータ算出手段と、
前記フィードバック補正値および前記所定の目標値の一方と他方との偏差を、前記第1感度パラメータで修正することにより、第1修正偏差を算出する第1修正偏差算出手段と、
前記所定の制御アルゴリズムを用いて、当該第1修正偏差が値0になるように、前記修正値を算出する第1修正値算出手段と、
をさらに有することを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御量以外の、前記制御対象の動作状態を表す第2動作状態パラメータを検出する第2動作状態パラメータ検出手段をさらに備え、
前記フィードフォワード入力算出手段は、
所定の複数の第1関数の値を前記フィードバック補正値および前記所定の目標値の一方と他方との偏差に乗算することによって、複数の第1乗算値を算出し、前記所定の制御アルゴリズムを用いて、当該複数の第1乗算値が値0になるように、複数の第1修正係数を算出し、当該複数の第1修正係数に前記所定の複数の第1関数の値をそれぞれ乗算することによって、複数の第2乗算値を算出するとともに、当該複数の第2乗算値の総和を用いて、前記修正値を算出する第2修正値算出手段を有し、
前記所定の複数の第1関数はそれぞれ、前記第2動作状態パラメータが変化し得る領域を区分した複数の領域に対応して、当該対応する領域において値0以外の値に設定されかつ当該対応する領域以外において値0に設定されており、隣り合う各2つの領域が互いに重なり合っているとともに、重なり合う領域に対応する第1関数の値の総和の絶対値が、第1関数における最大値の絶対値と等しくなるように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記第2修正値算出手段は、
前記第1動作状態パラメータに応じて、当該第1動作状態パラメータに対する前記フィードフォワード入力の感度を表す第2感度パラメータを算出する第2感度パラメータ算出手段と、
前記複数の第1乗算値を前記第2感度パラメータで修正することにより、複数の第1修正乗算値を算出する第1修正乗算値算出手段と、
前記所定の制御アルゴリズムを用いて、当該複数の第1修正乗算値が値0になるように、前記複数の第1修正係数を算出する第1修正係数算出手段と、
を有することを特徴とする請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記フィードフォワード入力算出手段は、
前記フィードフォワード入力のモデル値を、前記第1動作状態パラメータおよび前記相関関係モデルを用いて算出するモデル値算出手段と、
当該モデル値と前記修正値との積を、前記フィードフォワード入力として設定する入力設定手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項7】
前記制御量以外の、前記制御対象の動作状態を表す第3動作状態パラメータを検出する第3動作状態パラメータ検出手段をさらに備え、
前記フィードフォワード入力算出手段は、
所定の複数の第2関数の値を前記フィードバック補正値および前記所定の目標値の一方と他方との偏差に乗算することによって、複数の第3乗算値を算出し、前記所定の制御アルゴリズムを用いて、当該複数の第3乗算値が値0になるように、複数の第2修正係数を算出し、当該複数の第2修正係数に前記所定の複数の第2関数の値をそれぞれ乗算することによって、複数の第4乗算値を算出するとともに、当該複数の第4乗算値の総和と所定値との和を用いて、前記修正値を算出する第3修正値算出手段を有し、
前記所定の複数の第2関数はそれぞれ、前記第3動作状態パラメータが変化し得る領域を区分した複数の領域に対応して、当該対応する領域において値0以外の値に設定されかつ当該対応する領域以外において値0に設定されており、隣り合う各2つの領域が互いに重なり合っているとともに、重なり合う領域に対応する第2関数の値の総和の絶対値が、第2関数における最大値の絶対値と等しくなるように設定されていることを特徴とする請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
前記第1動作状態パラメータは、前記制御対象の動作状態を表す複数の動作状態パラメータで構成され、
前記第3修正値算出手段は、前記複数の第4乗算値の総和と所定値との和を、前記修正値に設定することを特徴とする請求項7に記載の制御装置。
【請求項9】
前記第3修正値算出手段は、
前記第1動作状態パラメータに応じて、当該第1動作状態パラメータに対する前記フィードフォワード入力の感度を表す第3感度パラメータを算出する第3感度パラメータ算出手段と、
前記複数の第3乗算値を前記第3感度パラメータで修正することにより、複数の第3修正乗算値を算出する第3修正乗算値算出手段と、
前記所定の制御アルゴリズムを用いて、当該複数の第3修正乗算値が値0になるように、前記複数の第2修正係数を算出する第2修正係数算出手段と、
を有することを特徴とする請求項7に記載の制御装置。
【請求項10】
前記制御量は、内燃機関の排気通路の触媒装置よりも下流側における排ガス中の所定成分の濃度を検出する排ガス濃度センサの出力であり、
前記目標制御量は、前記触媒装置の排ガス浄化率が所定状態になると推定される目標出力であり、
前記制御入力は、前記内燃機関への燃料供給量であり、
前記第1動作状態パラメータは、前記内燃機関の運転状態を表す運転状態パラメータであり、
前記フィードフォワード入力は、前記燃料供給量の基本値であり、
前記フィードバック補正値は、前記排ガス濃度センサの前記出力が前記目標出力に収束するように、前記所定のフィードバック制御アルゴリズムを用いて算出されるとともに、前記燃料供給量の前記基本値に乗算される燃料補正係数であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2009−162125(P2009−162125A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1078(P2008−1078)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】