説明

制振機構

【課題】構造物の揺れを検知したときに速やかに制振を行うことができ、且つ、大きな揺れを十分に低減させることができる制振機構を提供することを目的とする。
【解決手段】構造物1の揺れを制御する制御力Fを加えることで構造物1の揺れを低減させる制振機構において、互いに直列に連結される油圧式加力装置6及び電磁式加力装置7と、構造物1の揺れを検知する振動センサ4と、振動センサ4からのセンサ信号に基づき油圧式加力装置6及び電磁式加力装置7の駆動を制御する制御手段5と、が備えられ、振動センサ4により構造物1の揺れを検知したとき、制御手段5により油圧式加力装置6及び電磁式加力装置7が起動するとともに油圧式加力装置6がロックされ、油圧式加力装置6のアイドリング終了後に、油圧式加力装置6のロックが解除される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動を低減させる制振機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、強風時または地震時の建物の揺れを能動的に制御するアクティブ制振機構が提案されている。このアクティブ制振機構は、構造物の振動を制御する制御力を付与する加力装置が備えられた構成からなる。アクティブ制振機構としては、例えばマス・ダンパー型の制振機構がある。この制振機構は、建物の最上部などに設置した重錘を建物の揺れに同調させ、建物の揺れを吸収するシステムである。また、近年では、建物の揺れに合わせて重錘をコンピュータ制御の加力装置により動かすハイブリッド型のマス・ダンパーがある。上記した加力装置は、風や地震の無い平常時においては、主として電気代の節約と安全のために待機状態となっている。そして、風や地震による構造物の揺れを振動センサが検知したときに、加力装置が起動され、建物の揺れに対して制御力を加えるように稼動する(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平10−115124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来の技術では、加力装置として、油圧アクチュエータ等の油圧式加力装置を用いると、油圧系のアイドリング時間(立ち上がり時間)が長く、装置を起動させてから実際に稼動するまでに時間がかかるという問題がある。このため、地震時のように地震到達後、即座に制御力を発生させる必要がある場合には、加力装置の立ち上がりが間に合わない場合がある。
【0004】
一方、加力装置として、サーボモータとボールねじとの組み合わせ等の電磁式加力装置を用いると、立ち上がりが速いため地震に対して即座に対応することが可能であるが、油圧式加力装置と比較して制御力が劣るという問題がある。したがって、地震の主要動や巨大台風などの時には、建物の振動を十分に低減させることができない。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、構造物の揺れを検知したときに速やかに制振を行うことができ、且つ、大きな揺れを十分に低減させることができる制振機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る制振機構は、構造物の揺れを制御する制御力を加えることで該構造物の揺れを低減させる制振機構において、前記制御力を直列に連結された油圧式加力装置及び電磁式加力装置と、前記構造物の揺れを検知する振動センサと、該振動センサからのセンサ信号に基づき前記油圧式加力装置及び電磁式加力装置の駆動を制御する制御手段と、が備えられ、前記振動センサにより前記構造物の揺れを検知したとき、前記制御手段により前記油圧式加力装置及び電磁式加力装置がそれぞれ起動するとともに前記油圧式加力装置がロックされ、該油圧式加力装置のアイドリング終了後に、前記油圧式加力装置のロックが解除されることを特徴としている。
【0007】
このような特徴により、振動センサが構造物の揺れを検知すると、油圧式加力装置及び電磁式加力装置はそれぞれ起動する。このとき、油圧式加力装置は、アイドリングを開始するが、十分な稼動状態となるまでロックされる。これにより、電磁式加力装置のみによって制御力が付与されて制振が行われる。そして、油圧式加力装置のアイドリングが終了し、油圧式加力装置が十分に稼動可能となったところで、油圧式加力装置のロックが解除される。これにより、油圧式加力装置によって構造物に制御力が付与されて制振が行われる。
【0008】
また、本発明に係る制振機構は、前記構造物に対して相対的に移動可能な重錘が備えられ、該重錘と前記構造物との間に、前記油圧式加力装置及び電磁式加力装置が介装されていることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る制振機構は、前記構造物の架構と該架構内に設置されたブレースとの間に、前記油圧式加力装置及び電磁式加力装置が介装されている構成であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る制振機構によれば、電磁式加力装置によって、構造物の揺れを検知したときに速やかに制振を行うことができ、且つ、油圧式加力装置によって、大きな揺れを十分に低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る制振機構の第1、第2の実施の形態について、図面に基いて説明する。
【0012】
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態を説明する。
図1は本実施の形態に係る制振機構の構成を表した模式図である。
【0013】
図1に示す制振機構は、構造物1の揺れを制御する制御力Fを加えることで構造物1の揺れを低減させるアクティブ制振機構であり、具体的には、構造物1に設置された重錘2を構造物1の揺れに合わせて加力手段3により動かすことで構造物1の揺れをアクティブに制御するシステムである。この制振機構には、重錘2と、加力手段3と、振動センサ4と、制御手段5と、が備えられている。
【0014】
重錘2は、例えば構造物1の最上階などに設置され、構造物1の揺れに同調して水平移動して構造物1の揺れを抑えるものである。重錘2は、構造物1に対する相対的な水平移動が許容された状態で構造物1に支持されている。例えば、重錘2は、積層ゴム等の図示せぬ支承を介して構造物1に載置されていてもよく、或いは、鉛直面に沿って回動可能な図示せぬアームを介して振り子状に吊持されていてもよい。
【0015】
加力手段3は、構造物1と重錘2との間に介装され、構造物1の振動方向(図1における矢印Sの方向)と反対の方向に向けて制御力Fを付与するものである。加力手段3は、直列に連結された油圧式加力装置6と電磁式加力装置7とから構成されている。油圧式加力装置6としては、例えばピストン6aとシリンダ本体6bとからなる油圧シリンダを用いることができ、また、電磁式加力装置7としては、例えばサーボモータ7aとボールネジ7bとを組み合わせたものを用いることができる。この場合、油圧式加力装置6のピストン6aの先端は、構造物1のスラブ等に固定された構造物側固定部8を介して構造物1に連結され、油圧式加力装置6のシリンダ本体6bは電磁式加力装置7のサーボモータ7aに連結されている。そして、電磁式加力装置7のボールネジ7bに螺合されたスライダ7cが、重錘2から垂設された重錘側固定部9を介して重錘2に連結される。なお、加力手段3には、少なくとも油圧式加力装置6の稼動をロックする図示せぬブレーキ手段が備えられている。ブレーキ手段は、公知のブレーキ手段を用いることが可能である。
【0016】
振動センサ4は、構造物1の揺れを検知するセンサである。振動センサ4は、重錘2に設置された重錘側センサ10と、構造物1に設置された構造物側センサ11と、からなる。なお、重錘側センサ10及び構造物側センサ11としては、公知のセンサを用いることが可能であり、例えば、変位センサや速度センサ、加速度センサを用いることができる。
【0017】
制御手段5は、上記した振動センサ4により検知されたセンサ信号に基づいて油圧式加力装置6及び電磁式加力装置7の駆動を制御する制御コンピュータである。制御手段5は、重錘側センサ10及び構造物側センサ11とそれぞれ電気的に接続されており、重錘側センサ10及び構造物側センサ11からのセンサ信号を受信する。また、制御手段5は、油圧式加力装置6及び電磁式加力装置7とそれぞれ電気的に接続されており、油圧式加力装置6及び電磁式加力装置7に対して駆動信号を送信する。
【0018】
次に、上記した構成からなる制振機構の作用について説明する。
【0019】
風や地震等により構造物1が揺れると、重錘2は、構造物1に対する相対的な水平移動が許容されているため、構造物1の振動方向と反対の方向に、構造物1に対して相対移動する。このとき、重錘側センサ10及び構造物側センサ11から制御手段5へセンサ信号がそれぞれ送られ、これらのセンサ信号に基づいて制御手段5では構造物1の揺れが検知される。構造物1の揺れを検知すると、制御手段5から油圧式加力装置6及び電磁式加力装置7へ駆動信号がそれぞれ送られる。この駆動信号により、油圧式加力装置6及び電磁式加力装置7はそれぞれ起動する。このとき、油圧式加力装置6は、アイドリングを開始するが、図示せぬブレーキ手段によって十分な稼動状態になるまでロックされる。これにより、電磁式加力装置7のみによって、構造物1の揺れに合わせて重錘2を動かす制御力F1が付与され、重錘2は構造物1の揺れに同調して振動方向の反対方向に水平移動し、構造物1の揺れが吸収されて制振が行われる。
【0020】
その後、油圧式加力装置6のアイドリングが終了し、油圧式加力装置6が十分に稼動可能となったところで、図示せぬブレーキ手段による油圧式加力装置6のロックが解除される。これにより、油圧式加力装置6によって、構造物1の揺れに合わせて重錘2を動かす制御力F2が付与され、重錘2は構造物1の揺れに同調して振動方向の反対方向に水平移動し、構造物1の揺れが吸収されて制振が行われる。なお、油圧式加力装置6による制振が行われるとき、電磁式加力装置7を駆動したままにして油圧式加力装置6と電磁式加力装置7とを併用してもよく、或いは、上記したロック解除に伴い電磁式加力装置7を停止又はロックして油圧式加力装置6のみによって制振を行ってもよい。なお、油圧式加圧装置6及び電磁式加力装置7の各ブレーキ手段は、そのロックによって他の装置の機能を妨げるものではなく、例えば、油圧式加圧装置6がロックされても電磁式加力装置7の駆動が妨げられることがなく、電磁式加力装置7がロックされても油圧式加圧装置6の駆動が妨げられることがない。
【0021】
上記した制振機構によれば、振動センサ4によって構造物1の揺れを検知されると、電磁式加力装置7によって速やかに制振を行うことができる。したがって、構造物1の初期揺れを確実に低減させることができる。
しかも、揺れを検知した後しばらくすると、油圧式加力装置6による制振が行われるため、構造物1に大きな揺れが生じても十分に低減させることができる。したがって、地震の主要動や巨大台風時などで、大きな制御力を必要とする場合にも十分に対応することができる。
【0022】
また、上記した制振機構によれば、構造物1の揺れを検知すると、構造物1の揺れに合わせて加力手段3により重錘2が動かされ、構造物1の揺れが吸収されるため、小さな制御力Fで構造物1全体の揺れを制御することができる。
【0023】
[第2の実施の形態]
まず、図2を参照して、本発明の第2の実施の形態を説明する。なお、上述した第1の実施の形態と同様の構成については第1の実施の形態と同一の符号を付し、その説明を省略する。
図2は本実施の形態に係る制振機構の構成を表した模式図である。
【0024】
図2に示す制振機構は、上記した加力手段3を、構造物1の架構12と架構12内に設置されたブレース13との間に介装させた構成からなり、ブレース13を介して構造物1の層間変位を直接制御した例である。図2に示す加力手段3は、上述した第1の実施の形態と同様に、直列に連結された油圧式加力装置6と電磁式加力装置7とから構成されている。そして、油圧式加力装置6の端部は、構造物側固定部8を介して架構12の梁14に連結され、電磁式加力装置7の端部は、ブレース13の下端部に連結されている。
なお、図2では振動センサや制御手段の図示が省略されているが、本実施の形態における制振機構にも、第1の実施の形態と同様に振動センサや制御手段が備えられている。
【0025】
次に、上記した構成からなる制振機構の作用について説明する。
【0026】
風や地震等により構造物1が揺れると、図示せぬ振動センサによって構造物1の揺れが検知される。構造物1の揺れを検知すると、図示せぬ制御手段によって油圧式加力装置6及び電磁式加力装置7がそれぞれ起動する。このとき、油圧式加力装置6は図示せぬブレーキ手段によってロックされる。これにより、構造物1の揺れに合わせて電磁式加力装置7による制御力が付与され、構造物1の層間変位が抑えられ、構造物1の揺れが吸収されて制振が行われる。その後、油圧式加力装置6のアイドリングが終了し、油圧式加力装置6が十分に稼動可能となったところで、上記した油圧式加力装置6のロックが解除され、油圧式加力装置6が駆動する。これによって、構造物1の揺れに合わせて油圧式加力装置6による制御力が付与され、構造物1の層間変位が抑えられ、構造物1の揺れが吸収されて制振が行われる。
【0027】
上記した制振機構によれば、上述した第1の実施の形態と同様に、電磁式加力装置7によって速やかに制振を行うことができ、且つ、油圧式加力装置6によって、大きな制御力を必要とする場合にも十分に対応することができる。
さらに、上記した制振機構によれば、ブレース13を介して構造物1の層間変位が直接制御されるため、構造物1の層間変位を確実に抑えることができる。
【0028】
以上、本発明に係る制振機構の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施の形態では、油圧式加力装置6として油圧シリンダが用いられ、電磁式加力装置7としてサーボモータ7aとボールネジ7bを組み合わせたものを用いているが、本発明は、油圧式加力装置6や電磁式加力装置7は公知の加力装置に適宜変更可能である。例えば、電磁式加力装置7として、リニアモータ等を使用することも可能である。
【0029】
また、上記した実施の形態では、油圧式加力装置6が構造物1に連結され、電磁式加力装置7が重錘2或いはブレース13に連結されているが、本発明は、油圧式加力装置6と電磁式加力装置7とを入れ替えることも可能である。すなわち、油圧式加力装置6が重錘2やブレース13に連結され、電磁式加力装置7が構造物1に連結された構成にすることも可能である。
また、本発明は、直列に連結する油圧式加力装置6や電磁式加力装置7の数は適宜変更可能である。
【0030】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態を説明するための制振機構を表した模式図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態を説明するための制振機構を表した模式図である。
【符号の説明】
【0032】
1 構造物
2 重錘
4 振動センサ
5 制御手段
6 油圧式加力装置
7 電磁式加力装置
12 架構
13 ブレース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の揺れを制御する制御力を加えることで該構造物の揺れを低減させる制振機構において、
互いに直列に連結される油圧式加力装置及び電磁式加力装置と、
前記構造物の揺れを検知する振動センサと、
該振動センサからのセンサ信号に基づき前記油圧式加力装置及び電磁式加力装置の駆動を制御する制御手段と、
が備えられ、
前記振動センサにより前記構造物の揺れを検知したとき、前記制御手段により前記油圧式加力装置及び電磁式加力装置がそれぞれ起動するとともに前記油圧式加力装置がロックされ、該油圧式加力装置のアイドリング終了後に、前記油圧式加力装置のロックが解除されることを特徴とする制振機構。
【請求項2】
請求項1記載の制振機構において、
前記構造物に対して相対的に移動可能な重錘が備えられ、
該重錘と前記構造物との間に、前記油圧式加力装置及び電磁式加力装置が介装されていることを特徴とする制振機構。
【請求項3】
請求項1記載の制振機構において、
前記構造物の架構と該架構内に設置されたブレースとの間に、前記油圧式加力装置及び電磁式加力装置が介装されていることを特徴とする制振機構。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−286322(P2008−286322A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132630(P2007−132630)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】