説明

制振装置

【課題】機械的に単一の構成をもって、同一の方向で入力される複数の周波数領域の振動に対して優れた制振効果を発揮することの出来る、新規な構造の制振装置を提供すること。
【解決手段】複数のゴム弾性体16,18を振動入力方向に対して並列的に配設して、該複数のゴム弾性体16,18で形成された複数のばね支持点40,42でマス部材14を弾性支持せしめると共に、該マス部材14の重心:Gを、該複数のばね支持点40,42の間で、且つ、それら複数のばね支持点40,42によって合成される弾性中心軸44から外れて位置せしめることによって、前記振動入力方向で複数の固有振動数を設定し、それら複数の固有振動数を前記振動部材において制振すべき複数の振動周波数にチューニングした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振すべき振動部材に対する副振動系を構成して、主振動系たる振動部材の振動を抑える制振装置に係り、特に複数の周波数領域に亘って優れた制振効果が発揮され得る、新規な構造の制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の車体等のように振動が問題となる振動部材において、振動を低減するための制振装置の一種として、マス−バネ系から構成されて主振動系たる振動部材に装着されることにより副振動系を構成するダイナミックダンパ(動的吸振器)が知られている。例えば、特許文献1(特開平9−264380号公報)や特許文献2(実開平1−150245号公報)に記載のものが、それである。
【0003】
これらのダイナミックダンパは、一般に、副振動系の固有振動数を、制振すべき振動の周波数に対して正確にチューニングすることによって、目的とする制振効果が有効に発揮される。それ故、従来では、例えば特許文献1や特許文献2にも記載されているように、マスを構成するマス部材の重心を、バネを構成するばね部材の弾性中心軸上に高精度に位置決めすることによって、副振動系において単一の固有振動数を安定して得ることの出来るようなチューニングが為されていた。
【0004】
ところが、このようなダイナミックダンパでは、副振動系がチューニングされた特定の固有振動数でしか有効な制振効果が発揮されないことから、複数の周波数領域に亘って制振効果が要求される場合には、各周波数領域毎にチューニングされた複数のダイナミックダンパを独立して装着する必要があった。しかし、複数のダイナミックダンパを設けることは、重量の増加やスペース効率の低下を招くことから好ましいものではない。また、複数のダイナミックダンパを近接した位置に配設すると、マス部材の振れによって互いのマス部材が衝突するなどのおそれもあった。
【0005】
そこで、例えば特許文献3(特開平10−274285号公報)には、自動車のプロペラシャフト等の回転軸に装着される制振装置であって、マス部材を支持するばね部材としてのゴム弾性体の肉厚寸法を周方向で異ならせることによって、ゴム弾性体の厚肉部の配設方向と薄肉部の配設方向で異なる固有振動数を有する制振装置が開示されている。
【0006】
ところが、特許文献3に記載の如き制振装置は、ゴム弾性体の厚肉部の配設方向および薄肉部の配設方向の各方向でそれぞれ一つの固有振動数を有するものであって、特定の振動入力方向で見ればその固有振動数は単一である。それ故、複数の周波数域の振動が同一の方向で入力される場合には、有効な制振効果を発揮することは困難であった。
【0007】
また、特許文献4(特開2006−226521号公報)には、前記特許文献3と同様の回転軸に装着される制振装置であって、マス部材を支持するばね部材としてのゴム弾性体の自由長を周方向で変化せしめることによって低ばね部と高ばね部を形成して、これら各ばね部において異なる固有振動数を有する制振装置が開示されている。しかし、特許文献4に記載の如き制振装置においては、両ばね部が一体形成されていることに起因して、各ばね部それぞれの共振点のピークが明確に得られないという問題を有していた。更に、前記特許文献3も同様であるが、これらの制振装置は回転軸に外挿状態で離隔配置される筒状のマス部材という特定形状を有するものであって、ロッド形状を有さない例えば自動車の車体などのような振動部材には適用困難であった。
【0008】
以上のように、何れの制振装置においても、同一の方向で入力される複数の周波数領域の振動に対して有効な制振効果を発揮するには、未だ不十分なものであった。
【0009】
【特許文献1】特開平9−264380号公報
【特許文献2】実開平1−150245号公報
【特許文献3】特開平10−274285号公報
【特許文献4】特開2006−226521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、機械的に単一の構成をもって、同一の方向で入力される複数の周波数領域の振動に対して優れた制振効果を発揮することの出来る、新規な構造の制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0012】
すなわち、本発明の第一の態様は、制振すべき振動部材に対して、ばね部材を介してマス部材を弾性支持せしめることにより、該振動部材に対する副振動系を構成するようにした制振装置において、前記ばね部材として複数のゴム弾性体を用い、それら複数のゴム弾性体を振動入力方向に対して並列的に配設して、前記マス部材を該複数のゴム弾性体で形成された複数のばね支持点で弾性支持せしめると共に、該マス部材の重心を、該複数のばね支持点の間で、且つ、それら複数のばね支持点によって合成される弾性中心軸から外れて位置せしめることによって、前記振動入力方向で複数の固有振動数を設定し、それら複数の固有振動数を前記振動部材において制振すべき複数の振動周波数にチューニングしたことを、特徴とする。
【0013】
本態様に従う構造とされた制振装置においては、複数のばね支持点によって複数の自由度系が構成されることから、複数の固有振動数を備えた制振装置を得ることが出来る。そして、特に本態様においては、マス部材の重心が、複数のばね支持点によって合成される弾性中心軸から外れて位置せしめられていることから、ばね支持点を構成する各ゴム弾性体を実質的に非連成の独立したばねとして用いることが出来る。それ故、機械的に単一の構成をもって、複数の固有振動数を有する制振装置を実現することが出来て、配設スペースの効率化が図られると共に、マス部材も一つで済むことから、部材重量の軽量化を図ることも出来る。
【0014】
そして、本態様に従う構造とされた制振装置においては、それら複数のばね支持点が複数のゴム弾性体で構成されていることから、各ゴム弾性体による固有振動数のピークを明確に生ぜしめることが出来て、より優れた制振効果が発揮され得る。更に、複数のゴム弾性体が振動入力方向で並列的に配設されて、同一の入力方向で複数の固有振動数が設定されていることから、同一の入力方向での複数の周波数領域の振動に対して、有効な制振効果を発揮することが出来るのである。
【0015】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る制振装置において、前記振動部材に対して鉛直方向上方に長手形状の前記マス部材を離隔配置すると共に、該マス部材の長手方向両側部分を該振動部材に対してそれぞれ前記ゴム弾性体で連結支持せしめて、該マス部材の長手方向両側部分を支持する該ゴム弾性体の鉛直方向に延びる弾性中心軸が、該マス部材の重心を通って該マス部材の長手方向に延びる中心軸と該マス部材の幅方向で交叉するようにされていることを、特徴とする。
【0016】
本態様に従う構造とされた制振装置においては、長手形状とされたマス部材の両側部分を支持する二つのばね支持点によって、二つの振動モードおよび固有振動数を有する制振装置を実現することが出来る。即ち、二つの固有振動数のうち、低周波側の固有振動数に近い周波数の振動が入力された場合には、マス部材に対してマス部材から外れた位置を中心としたピッチングのような動きが生ぜしめられる。一方、高周波側の固有振動数に近い周波数の振動が入力された場合には、マス部材内に中心を有するピッチングのような動きが生ぜしめられる。これにより、それぞれ異なる振動モードが発現せしめられて、各振動モードによる優れた制振効果を得ることが出来る。
【0017】
そして、ゴム弾性体の弾性中心軸が、マス部材の重心を通って長手方向に延びる中心軸とマス部材の幅方向で交叉せしめられていることから、振動が入力された場合にマス部材に対して長手方向に延びる中心軸周りのモーメントが生じるようなことを抑えることが出来て、マス部材の変位を安定して生ぜしめることが出来る。更にまた、マス部材の両側にゴム弾性体が配設されることから、マス部材が振動部材側に過大変位せしめらた場合でも、マス部材が振動部材に打ち当たるようなことを回避することも出来る。
【0018】
なお、本態様において、マス部材の長手方向両側部分を支持するゴム弾性体は、1つでも良いし、複数でも良い。例えば、マス部材の端部を複数のゴム弾性体で支持すれば、それらの内幾つかのゴム弾性体が破損したとしても、残りのゴム弾性体でマス部材と防振部材との連結状態を維持することが出来ることから、マス部材が防振部材から脱落するようなことを防止するフェイルセーフ構造を実現することが出来る。
【0019】
本発明の第三の態様は、前記第二の態様に係る制振装置において、互いに異なる動ばね定数を有する2つの前記ゴム弾性体で該マス部材の長手方向両側部分を前記振動部材に対して連結支持せしめたことを、特徴とする。
【0020】
本態様に従う構造とされた制振装置においては、二つのゴム弾性体でマス部材を支持せしめることから、簡易な構成で、本発明に従う防振装置を実現することが出来る。それと共に、ゴム弾性体が二つとされることから、これらゴム弾性体で形成されるばね支持点によって合成される弾性中心軸の位置を容易に求めることも出来て、所望の防振特性へのチューニングをより容易に行なうことも出来る。
【0021】
本発明の第四の態様は、前記第一の態様に係る制振装置において、3つの前記ばね支持点で前記マス部材を弾性支持せしめると共に、それら3つのばね支持点で囲まれた平面と振動入力方向で重なる位置に前記マス部材の重心を位置せしめたことを、特徴とする。
【0022】
本態様に従う構造とされた制振装置においては、振動が入力された場合には、入力振動の周波数に最も近い固有振動数を有するばね支持点が大きく振動せしめられて、ピッチングのような動きをマス部材に生ぜしめることが出来る。これにより、各ゴム弾性体をそれ以外のゴム弾性体に対して非連成とすることが出来て、三つの明確な固有振動数を有する制振装置を実現することが出来る。
【0023】
本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れか一つの態様に係る制振装置において、前記複数のばね支持点によって構成される複数の固有振動数において高周波側に設定された固有振動数が低周波側に設定された固有振動数の1.2倍以上とされていることを、特徴とする。
【0024】
本態様に従う構造とされた制振装置においては、例えば低周波側のばね支持点の振動が、高周波側のばね支持点に影響を与えるようなことを軽減することが出来て、各固有振動数を構成するばね支持点の実質的な非連成状態を有利に実現することが出来る。これにより、各ばね支持点による固有振動数のピークを明確にすることが出来て、複数の周波数領域に対する制振効果を有利に得ることが出来る。
【0025】
なお、本態様において、より好ましくは、高周波側の固有振動数は、低周波側の固有振動数の1.4倍以上とされる。このようにすれば、互いのばね支持点を略完全な非連成に出来ることが本発明者らの実験によって確認されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0027】
先ず、図1に、本発明の一実施形態としての制振装置としてのダイナミックダンパ10を示す。ダイナミックダンパ10は、支持部材としての平板形状を有する支持板金具12に対して、マス部材としてのマス金具14が、ゴム弾性体としての一対のゴム脚部16,18を介して弾性支持されている。そして、支持板金具12を自動車の車体フレーム等の振動部材20に取り付けて、マス金具14をゴム脚部16,18により振動部材20に対して弾性支持せしめることによって、主振動系たる振動部材20に対する副振動系が構成されるようになっている。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、上下方向とは、図1中の上下方向を言うものとし、本実施形態では、かかる上下方向が鉛直方向とされると共に、振動の入力方向とされている。
【0028】
より詳細には、マス金具14は、長手形状を有する矩形ブロック形状とされており、その底面22の長手方向(図1中、左右方向)両端部分には、薄板形状とされた一対の取付板金具24,26が固着されている。
【0029】
かかるマス金具14の取付板金具24,26には、ばね部材としてのゴム脚部16,18が固着されている。これらゴム脚部16,18は、略矩形状の一定断面を有する柱状のゴム弾性体によって形成されており、その上端面には上板金具28,30が加硫接着される一方、下端面には下板金具32,34が加硫接着された加硫成形品とされている。そして、これらゴム脚部16,18の上板金具28、30の上端面がマス金具14に設けられた取付板金具24,26に重ね合わされて固着される一方、下板金具32,34の下端面が支持板金具12に重ね合わされて固着される。これにより、マス金具14が支持板金具12の上方に所定距離を隔てて離隔配置せしめられると共に、支持板金具12と対向するマス金具14における底面22の長手方向両端部分から、底面22の垂直方向、換言すれば、振動入力方向に相互に平行に延びるようにゴム脚部16,18が固着されており、マス金具14は、支持板金具12に対してゴム脚部16,18を介して弾性支持されている。
【0030】
ここにおいて、ゴム脚部16,18の中心軸36,38とマス金具14の底面22の交点がばね支持点40,42とされており、マス金具14は、一対のばね支持点40,42で弾性支持されている。そして、ゴム脚部16,18は、その断面寸法が互いに異ならされることによって、異なる動ばね定数が設定されている。本実施形態においては、ゴム脚部16の断面寸法がゴム脚部18の断面寸法に比して小さくされている。これにより、ゴム脚部16の動ばね定数が、ゴム脚部18の動ばね定数よりも小さくされている。従って、図2にモデル的に示すように、ばね支持点40、42によって合成される弾性中心軸44は、ばね支持点40,42の中央からややばね支持点40寄りの位置において、ゴム脚部16,18の鉛直方向に延びるようにされている。
【0031】
なお、ゴム脚部16,18の動ばね定数は、ダイナミックダンパ10において発揮される二つの固有振動数のうち、高周波側の固有振動数が、低周波側の固有振動数の1.2倍以上、より好ましくは、1.4倍以上となるように設定される。
【0032】
それと共に、マス金具14の重心:Gは、ばね支持点40,42の間に位置せしめられている。そして、ばね支持点40,42によって合成される弾性中心軸44は、ばね支持点40,42の間に位置せしめられると共に、マス金具14の重心:Gを通ってマス金具14の長手方向(図2中、左右方向)に延びる中心軸:Lと、マス金具14の幅方向(図2中、上下方向)で交叉するように位置決めされている。これにより、特に本実施形態においては、マスの重心:G、両ばね支持点40,42およびそれによって合成される弾性中心軸44が、幅方向でマス金具14の中心軸:Lと重なり合うように位置せしめられている。そして、上述のように、弾性中心軸44がばね支持点40寄りに位置せしめられていることから、これらマス金具14の重心:Gと弾性中心軸44は、重なり合うことなく、互いに外れて位置せしめられている。
【0033】
ここにおいて、マス金具14の重心:Gの位置は、各ゴム脚部16,18を非連成とするために、例えば以下のようにして決定することが出来る。先ず、図3に示すように、マス金具14が上下運動と回転運動をする場合を考える。図3において、ゴム脚部16,18の動ばね定数をそれぞれk1、k2、マス金具14の重心:Gとばね支持点40,42との距離をl1、l2、マス金具14の質量をM、重心:G周りの慣性モーメントをJ、マス金具14の重心の鉛直方向の変位をx、重心周りのマス金具14の回転角をθとすれば、マス金具14の重心:Gの上下運動について下記数式1が、マス金具14の重心:G周りの回転運動について、下記数式2が成り立つ。
【0034】
【数1】

【0035】
【数2】

【0036】
上記数式1より、下記数式3が成り立つ。また、上記数式2より、下記数式4が成り立つ。なお、数式3および数式4におけるkx =k1 +k2 はばね定数、kθ=k1 1 2 +k2 2 2 は回転ばね定数で、第三項のkx θ=k1 1 −k2 2 は連成項の係数を表す。
【0037】
【数3】

【0038】
【数4】

【0039】
ここにおいて、k1 1 =k2 2 の場合に連成項は0となり、マス金具14の上下運動と回転運動は互いに関係なく独立の運動を行なうこととなる。従って、ゴム脚部16,18を非連成とするマス金具14の重心:Gの位置は、k1 1 =k2 2 を満たす位置に設定することも有効である。なお、かかる場合における上下運動の固有振動数は、下記数式5となり、回転運動の固有振動数は、下記数式6となる。そして、かかる固有振動数が、振動部材20において制振すべき振動周波数にチューニングされる。
【0040】
【数5】

【0041】
【数6】

【0042】
なお、各ばね支持点40,42における等価マス質量は、例えばばね支持点40における等価マス質量をM1 とすると、下記数式7により求めることが出来る。ここにおいて、数式7におけるAxは補正係数、r1は図2に示すように、重心:Gからばね支持点40までの距離、r1 ´は重心:Gからばね支持点42までの距離を示す。
【0043】
【数7】

【0044】
このような構造とされたダイナミックダンパ10は、支持板金具12がボルトや溶接などによって振動部材20に取り付けられる。これにより、主振動系としての振動部材20に対して、マス金具14の長手方向両側部分がゴム脚部16,18によって弾性的に連結支持せしめられて、マス金具14をマスとすると共にゴム脚部16,18をバネとする副振動系を構成しており、全体としてダイナミックダンパとして機能し得るようになっている。
【0045】
そして、特に本実施形態におけるダイナミックダンパ10は、マス金具14の重心:Gが、ばね支持点40,42の弾性中心軸44から外れた位置に設定されている。これにより、図4に示すように、振動が入力された場合には、マス金具14にピッチングのような動きが生ぜしめられる。具体的には、低周波の振動が入力された場合には、図4(a)に示すように、マス金具14は、マス金具14からゴム脚部18側に外れた点Pを中心に揺動せしめられる。これにより、低周波数域の振動が入力された場合には、動ばね定数が低く設定されたゴム脚部16による制振効果が発揮される。一方、高周波数域の振動が入力された場合には、図4(b)に示すように、マス金具14は、マス金具14内の点Pを回転中心として揺動せしめられる。これにより、高周波数域の振動が入力された場合には、動ばね定数が高く設定されたゴム脚部18による制振効果が発揮される。このように、本実施形態におけるダイナミックダンパ10は、マス金具14の重心:Gをばね支持点40,42の弾性中心軸44から外れた位置に設定することによって、各ばね支持点40,42を構成するゴム脚部16,18を非連成にして互いに独立した二つの自由度系を備えることが可能とされており、これにより、同一方向の振動入力に対して二つの振動モード及び固有振動数を有することが可能とされているのである。
【0046】
そして、特に本実施形態におけるダイナミックダンパ10は、両ゴム脚部16,18の中心軸36,38が互いに平行に配設されて、同じ方向に延び出して配設されている。これにより、何れのゴム脚部16,18も同じ方向(本実施形態においては、上下方向)の入力振動に対する制振効果を発揮することが出来て、同じ方向の複数周波数領域の入力振動に対して有効な制振効果を発揮することが可能とされるのである。このように、本実施形態におけるダイナミックダンパ10は、機械的に単一の構成をもって、同一の方向で入力される複数の周波数領域の振動に対して優れた制振効果を発揮することが可能とされており、優れたスペース効率が得られると共に、マス部材も一つで足りることから、部材の重量を軽減することも可能とされるのである。
【0047】
さらに、本実施形態におけるダイナミックダンパ10は、弾性中心軸44が、マス金具14の重心:Gを通る中心軸:Lと交叉する位置に設定されている。これにより、マス金具14を振動入力方向で安定して変位せしめることが出来る。また、本実施形態におけるダイナミックダンパ10は、板状の支持板金具12によって振動部材20に取り付けられるようになっている。これにより、振動部材20の部材形状に関わらず取り付けることが出来て、様々な形状の振動部材に対して幅広く用いることが出来る。加えて、本実施形態におけるダイナミックダンパ10は、マス金具14の長手方向両端部にゴム脚部16,18が配設されていることから、マス金具14が過大変位せしめられた場合でも、マス金具14が支持板金具12に打ち当たるようなことも回避されている。
【0048】
更にまた、本実施形態におけるダイナミックダンパ10は、二つの固有振動数のうち、高周波側の固有振動数が、低周波側の固有振動数の1.2倍以上、より好ましくは1.4倍以上とされている。これにより、二つの固有振動が互いに影響を及ぼすことを軽減乃至は回避することが出来て、それぞれの固有振動数において明確なピークを有する制振効果を発揮することが可能とされる。
【0049】
なお、本発明に従う構造とされたダイナミックダンパ10について、入力振動の周波数を所定範囲に亘って次第に変化せしめた場合の振幅の変化を測定した結果を、図5に示し、マス金具14の重心位置における位相の変化を図6に示す。なお、図5および図6は、本発明に従う構造とされて、ゴム脚部18の動ばね定数が互いに異ならされた2つのダイナミックダンパの測定結果を示すものであり、図5および図6における実施例1および3は、マス金具14の質量=1kg、ゴム脚部16の動ばね定数=100N/mm,ゴム脚部18の動ばね定数=300N/mmに設定されたものである。一方、実施例2および4は、マス金具の質量=1kg、ゴム脚部16の動ばね定数=100N/mm,ゴム脚部18の動ばね定数=500N/mmに設定されたものである。
【0050】
図5から明らかなように、実施例1においては、略2b(Hz)において低周波側の固有振動50が生ぜしめられると共に、略3.5b(Hz)において高周波側の固有振動52が生ぜしめられることが確認される。また実施例2においては、略2b(Hz)において低周波側の固有振動54が生ぜしめられると共に、略4.5b(Hz)において高周波側の固有振動56が生ぜしめられることが確認される。このように、本発明に従う構造とされたダイナミックダンパ10においては、二つの固有振動数を有することが確認される。また、実施例1および実施例2は、ゴム脚部18の動ばね定数が異ならされる一方、ゴム脚部16の動ばね定数は互いに等しくされている。そして、図5から明らかなように、低周波側の固有振動数は、実施例1および実施例2で大きな変化はなく、高周波側の固有振動数のみが変化せしめられている。このことから、ゴム脚部16,18が非連成に作用して、それぞれのゴム脚部16,18による制振効果が略独立して得られていることが確認される。更に、何れの実施例においても、高周波側の固有振動数は、低周波側の固有振動数の1.4倍以上とされている。これにより、互いの固有振動が影響を及ぼすことなく、それぞれが明確なピークをもって、優れた制振効果を発揮し得ることが確認される。
【0051】
また、図6から明らかなように、実施例1においては、略2b(Hz)と略3.5b(Hz)において90°の位相遅れが生じることが確認される。また、実施例2においては、略2b(Hz)と略4.5b(Hz)において90°の位相遅れが生じることが確認される。このことからも、本発明に従う構造とされたダイナミックダンパ10においては、二つの固有振動数を有することが確認される。また、ばね定数が小さくされたゴム脚部16は実施例1および2で同じものが用いられていることから、低周波側の位相遅れは何れの実施例においても略同様の態様で生ぜしめられる一方、ばね定数が大きくされたゴム脚部18が実施例1および2で異ならされることによって、高周波側の位相遅れが互いに異なる態様で生じることも確認される。
【0052】
【表1】

【0053】
また、本発明に従う構造とされたダイナミックダンパ10において、ゴム脚部16,18としてそれぞれ動ばね定数が異なる3種類のゴム弾性体を用意すると共に、ゴム脚部16,18の何れか一方を固定して、他方を異ならせた場合における、低周波側および高周波側の固有振動数の変化を、表1に示す。なお、表1における縦方向は低い動ばね定数を有するゴム脚部16の動ばね定数を示すものであり、100N/mm,130N/mm,200N/mmの3種類を用意した。また、表1における横方向は高い動ばね定数を有するゴム脚部18の動ばね定数を示すものであり、それぞれ、700N/mm,900N/mm,1800N/mmの3種類を用意した。また、それらゴム脚部16,18を組み合わせた場合の固有振動数の測定結果は、上段が低周波側の固有振動数、下段が高周波側の固有振動数を示す。
【0054】
表1から明らかなように、例えば、低い動ばね定数を有するゴム脚部16を100N/mmに固定して、高い動ばね定数を有するゴム脚部18を変化せしめた場合、低周波側の固有振動数は69a,71a,65aと殆ど変化しない一方、高周波側の固有振動数は195a,225a,379aと変化せしめられている。また、例えば、高い動ばね定数を有するゴム脚部18を700N/mmに固定して、低い動ばね定数を有するゴム脚部16を変化せしめた場合、高周波側の固有振動数は195a,193a,202aと殆ど変化しない一方、低周波側の固有振動は69a,74a,100aと変化せしめられている。このように、ゴム脚部16,18の一方のみを異ならせた場合、異ならされたゴム脚部16,18によって発揮せしめられる固有振動数は変化せしめられる一方、固定したゴム脚部16,18によって発揮せしめられる固有振動数は殆ど変化していない。このことから、本発明に従う構造とされたダイナミックダンパ10においては、両ゴム脚部16,18を非連成とすることが出来て、各ゴム脚部16,18による制振効果をそれぞれ実質的に独立して有効に得られることが確認された。
【0055】
なお、上述の第一の実施形態としてのダイナミックダンパ10は、マス金具14が二つのばね支持点40,42によって支持されていたが、ばね支持点の数は、二つ以上であれば特に限定されるものではなく、3点乃至はそれ以上の支持点でマス部材を支持せしめることも可能である。そのような例として、図7に、本発明の第二の実施形態としてのダイナミックダンパ70の上面視をモデル的に示す。
【0056】
ダイナミックダンパ70は、上面視において三角形状とされた図示しないマス部材としてのマス金具を備えており、かかるマス金具の端部となる頂点部分に、前述の第一の実施形態と略同様のゴム弾性体が配設されている。これにより、マス金具は、それらゴム弾性体によって構成されるばね支持点74,76,78によって各頂点部分が弾性的に支持されている。
【0057】
ここにおいて、ばね支持点74,76,78の各動ばね定数は1つの支持点の動ばね定数と、それ以外の支持点で合成される動ばね定数が異ならされることが好ましい。即ち、各ばね支持点74、76,78の動ばね定数をそれぞれk1 ,k2 ,k3 とすると、k1 ≠k2 +k3 ,k2 ≠k1 +k3 ,k3 ≠k1 +k2 とされることが好ましい。
【0058】
そして、マス金具の重心:Gは、これらばね支持点74,76,78で囲まれて形成された三角形状の平面80と振動入力方向(図7中、紙面に対する垂直方向)で重なり合うと共に、ばね支持点74,76,78によって合成される弾性中心軸82から外れた位置に位置せしめられる。
【0059】
なお、本実施形態において、各ばね支持点74,76,78における等価マス質量は、前述の第一の実施形態と略同様に、例えばばね支持点74における等価マス質量をM1 とすると、以下の数式8により求めることが出来る。なお、数式8におけるMはマス部材の質量、Ax は補正係数、r1 は、重心:Gからばね支持点74までの距離、r1 ´は重心:Gから、ばね支持点76、78を結ぶ直線までの距離を示す。
【0060】
【数8】

【0061】
このような構造とされたダイナミックダンパ70においては、各ばね支持点74,76,78を非連成とすることが出来て、図8にモデル的に示すように、三つの固有振動数fx1、fx2、fx3 を備えることが出来る。ここにおいて、各固有振動数fx1、fx2、fx3 は、高周波側の固有振動数が、低周波側の固有振動数の1.2倍以上(例えば、図8において、fx2>fx1×1.2、fx3>fx2×1.2)とされることが好ましく、より好適には、1.4倍以上とされる。このようにすれば、前記第一の実施形態と同様に、各固有振動数fx1、fx2、fx3における固有振動が互いに影響することを軽減乃至は回避することが出来て、各固有振動数において明確なピークを有する優れた制振効果を得ることが出来る。
【0062】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0063】
例えば、前述の各実施形態においては、何れもマス部材の端部に1つのゴム弾性体が配設されていたが、図9にモデル的に示すように、マス部材の端部を複数のゴム弾性体で弾性支持せしめる等しても良い。即ち、本態様においては、長手形状を有するマス金具14の長手方向両端部に、それぞれ、ゴム弾性体としての2つのゴム脚部90a,90bと92a,92bがマス金具14の幅方向(図9中、上下方向)に並んで設けられており、マス金具14の両端部のそれぞれが、これら2つのゴム脚部90a,90bと92a,92bによって振動部材に対して連結されて弾性支持されている。これにより、マス金具14の長手方向両端部は、それぞれ、ゴム脚部90a,90b,92a,92bによって形成されるばね支持点94a,94b,96a,96bで弾性支持されることとなる。ここにおいて、ゴム脚部90a,90b,92a,92bは、それぞれ、鉛直方向(図9中、紙面に対する垂直方向)、換言すれば、振動入力方向に延びるように配設されており、これらゴム脚部90a,90b,92a,92bで形成されるばね支持点94a,94b,96a,96bによって合成される弾性中心軸98が、振動入力方向に延びるように形成される。そして、前述の第一の実施形態と同様に、かかる弾性中心軸98は、マス金具14の重心:Gを通ってマス金具14の長手方向に延びる中心軸:Lとマス金具14の幅方向で交差するようにされる。
【0064】
このように、マス部材の一つの端部を、複数のゴム弾性体で支持せしめることも可能である。このようにすれば、何れかのゴム弾性体が損傷したとしても、残りのゴム弾性体でマス部材の振動部材との連結状態を維持出来ることから、マス部材の振動部材からの脱落を防止するフェイルセーフ構造を実現することも出来る。なお、例えば、マス部材の端部をより多数のゴム弾性体で支持せしめることも可能であるし、更には、何れか一方の端部を単一のゴム弾性体で支持せしめると共に、他方の端部を複数のゴム弾性体で支持せしめること等も、勿論可能である。
【0065】
また、前述の各実施形態においては、ばね支持点によって合成される弾性中心軸を偏倚せしめることによってマス部材の重心とばね支持点の弾性中心軸を互いに外れた位置に設定していたが、そのような方法に代えて、或いは加えて、マス部材の形状を変化せしめること等によってマス部材の重心位置を偏倚せしめて、ばね支持点の弾性中心軸とマス部材の重心位置を互いに外れて位置せしめる等しても良い。
【0066】
また、マス部材やゴム弾性体の具体的な形状は、何等限定されるものではないのであって、各種の形状が適宜に採用可能である。
【0067】
さらに、本発明に係る制振装置は、自動車におけるボデーやサブフレーム、エンジンブロック、シート、ステアリング部材、インストルメントパネル、ドア、ミラーなど、或いは自動車以外の各種装置において振動が問題となる部材に対して、極めて広い範囲に適用可能であることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第一の実施形態としての制振装置を示す縦断面図。
【図2】同制振装置のばね支持点、弾性中心軸、重心の位置を説明するための説明図。
【図3】同制振装置におけるマス部材の重心位置の決定方法を説明するための説明図。
【図4】同制振装置の振動モードを説明するための説明図。
【図5】本発明に従う制振装置の振幅の変化を示すグラフ。
【図6】本発明に従う制振装置の位相の変化を示すグラフ。
【図7】本発明の第二の実施形態としての制振装置を説明するためのモデル図。
【図8】同制振装置の固有振動数を説明するための説明図。
【図9】本発明の異なる態様を説明するための説明図。
【符号の説明】
【0069】
10:ダイナミックダンパ、14:マス金具、16:ゴム脚部、18:ゴム脚部、20:振動部材、36:中心軸、38:中心軸、40:ばね支持点、42:ばね支持点、44:弾性中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振すべき振動部材に対して、ばね部材を介してマス部材を弾性支持せしめることにより、該振動部材に対する副振動系を構成するようにした制振装置において、
前記ばね部材として複数のゴム弾性体を用い、それら複数のゴム弾性体を振動入力方向に対して並列的に配設して、前記マス部材を該複数のゴム弾性体で形成された複数のばね支持点で弾性支持せしめると共に、該マス部材の重心を、該複数のばね支持点の間で、且つ、それら複数のばね支持点によって合成される弾性中心軸から外れて位置せしめることによって、前記振動入力方向で複数の固有振動数を設定し、それら複数の固有振動数を前記振動部材において制振すべき複数の振動周波数にチューニングしたことを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記振動部材に対して鉛直方向上方に長手形状の前記マス部材を離隔配置すると共に、該マス部材の長手方向両側部分を該振動部材に対してそれぞれ前記ゴム弾性体で連結支持せしめて、該マス部材の長手方向両側部分を支持する該ゴム弾性体の鉛直方向に延びる弾性中心軸が、該マス部材の重心を通って該マス部材の長手方向に延びる中心軸と該マス部材の幅方向で交叉するようにされている請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
互いに異なる動ばね定数を有する2つの前記ゴム弾性体で該マス部材の長手方向両側部分を前記振動部材に対して連結支持せしめた請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
3つの前記ばね支持点で前記マス部材を弾性支持せしめると共に、それら3つのばね支持点で囲まれた平面と振動入力方向で重なる位置に前記マス部材の重心を位置せしめた請求項1に記載の制振装置。
【請求項5】
前記複数のばね支持点によって構成される複数の固有振動数において高周波側に設定された固有振動数が低周波側に設定された固有振動数の1.2倍以上とされている請求項1乃至4の何れか一項に記載の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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