説明

制汗デオドラントスプレー組成物

【課題】白残り抑制効果と肌感触のいずれにも優れ、特にさらさら感が持続する制汗デオドラントスプレー組成物を提供する。
【解決手段】(A)制汗塩及び/又は殺菌剤、(B)シリコーン粉体のなかから選ばれる疎水性球状粉体、(C)ポリエーテル変性シリコーン、(D)25℃で液状の油剤(但し、成分(C)を除く)、及び(E)噴射剤を含有し、含有される成分(B)と成分(C)の質量比が200:1〜10:1であり、且つ、水を含まない制汗デオドラントスプレー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白残り抑制と肌感触のいずれにも優れる制汗デオドラントスプレー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発汗を抑制し、汗によるべたつきや臭いの発生を防止する制汗デオドラント製品としては、パウダースプレーが広く用いられている。パウダースプレーには、噴射時の凝集などによるパウダーの白残り、及びべとつき感等の不快な肌感触がないことが求められており、これらの問題を改善するために様々な方法が検討されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウムヒドロキシクロライド等の制汗剤物質と、アルコール類及びポリエーテル変性シリコーンを配合する液状制汗組成物が記載されている。この制汗組成物は、ポリエーテル変性シリコーンとアルコールにより、制汗塩の白残りを抑制するものであるが、制汗剤とは別に、さらさら感等の肌感触向上を目的として粉体を配合した場合、十分な白残り抑制効果が得られない。
特許文献2には、粉末成分としてタルク、無水ケイ酸、カオリン、アルミニウムヒドロキシクロライド等の親水性無機粉体に、非イオン性界面活性剤又はシリコーンオイルを配合した粉末エアゾール組成物が記載されている。この粉末エアゾール組成物は、噴射された時に白色化状態を抑制するものであるが、油性感が強く、粉体のさらさら感に優れた肌感触は得られない。
【0004】
また、特許文献3には、アルミニウムヒドロキシクロライド等の収れん剤、トリクロサン等の制菌又は殺菌剤に、球状シリコーンゴム粉末と液状の油性成分を配合した制汗・消臭剤が記載され、特許文献4には、クロルヒドロキシアルミニウム等の無機粉体に、異種のオルガノポリシロキサンからなる複合粉体とミリスチン酸イソプロピル等の液状の油剤を含有するエアゾール組成物が記載されている。しかし、これらの組成物は、さらさらした使用感を有するものの、白残り抑制は不十分である。
【0005】
【特許文献1】特開平5−229925公報
【特許文献2】特開平3−157327号公報
【特許文献3】特開平8−12545公報
【特許文献4】特開平11−335254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、白残り抑制効果と共にさらさら感等の肌感触にも優れ、特にさらさら感が持続する制汗デオドラントスプレー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、(A)制汗塩及び/又は殺菌剤を含有し、且つ水を含まない制汗デオドラントスプレー組成物に、(B)シリコーン粉体のなかから選ばれる疎水性球状粉体、(C)ポリエーテル変性シリコーン、(D)25℃で液状の油剤(但し、成分(C)を除く)、及び(E)噴
射剤を組み合わせ、さらに、含有される成分(B)と成分(C)の質量比を200:1〜10:1にして配合することにより、肌のべたつきの少ないさらさらした肌感触を有しながら、スプレー後の白残りを抑制することができ、特にさらさら感が長時間持続することを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
制汗塩及び/又は殺菌剤(A)は、例えば、制汗塩として、アルミニウムヒドロキシクロライド、アルミニウムジルコニウム複合塩、塩化アルミニウム等が挙げられる。また、殺菌剤としては、例えば、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、安息香酸、塩化ベンザルコニウム、トリクロロカルバニリド等が挙げられる。制汗塩と殺菌剤は組み合わせて用いても良い。本発明の制汗デオドラントスプレー組成物には、噴射剤を含む全量中に制汗塩は0.01〜5質量%、殺菌剤は0.005〜0.1質量%配合することが好ましい。
【0009】
疎水性球状粉体(B)は、少なくとも表面が疎水性の表面特性を有する略球状の粉体であり、皮膚上に適用されることで、汗によるべたつき感を抑え、さらさら感等の肌感触を向上させる効果がある。疎水性球状粉体(B)としては、タルク等の従来から肌感触を向上させる効果があるとされる親水性粉体に比べて、疎水性の大きい球状粉体が用いられる。疎水性球状粉体(B)の形状は、厳密に真球状である必要はなく、例えば、断面が楕円形でもよいが、好ましくは真球状である。これらの疎水性度及び形状という観点から、本発明の疎水性球状粉体(B)は、天然粉体よりも有機ポリマー粉体であることが好ましい。
典型的には、疎水性球状粉体(B)の疎水性の尺度として、臨界表面張力が50mN/m以下であることが好ましい。臨界表面張力が50mN/m以下の場合、親水性が小さいため、粉体が汗を抱えこむことがなく、べたつき感を抑えることができる。また、疎水性球状粉体(B)の平均粒径は、好ましくは0.1〜30μmであり、さらに好ましくは1〜10μmである。0.1μm以上とすることで、好ましい滑らかな感触が得られ、30μm以下とすることでざらつきのない良好な肌感触を得ることができる。
【0010】
疎水性球状粉体(B)として、具体的には、ナイロン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン樹脂等の有機ポリマー粉体が挙げられる。
特に、シリコーン粉体は、撥水性が高いため好ましく、例えば、メチルシロキサン網状重合体や、複合シリコーン粉体、片末端にラジカル重合性基を有するポリシロキサン化合物を分散剤として溶媒中でビニルモノマーの分散重合を行うことにより得られるポリマー微粒子(特開2002−308909号公報参照)等が挙げられる。特に、複合シリコーン粉体の中でも、シリコーンゴム粉体の表面をシリコーン樹脂で被覆した複合シリコーン粉体(架橋型シリコーン・網状型シリコーンブロック共重合体)は、高いさらさら感と白残りを抑える効果を長時間持続させるため好ましい。斯かる複合粉体は、粉体内部に後述する油剤を吸蔵し、肌上で持続的にそれらを放出するため、特にこの組み合わせの時、さらさら感の持続と白残りを抑える効果が持続すると推測される。
【0011】
本発明に用いる疎水性球状粉体(B)は、市販品として入手可能であり、例えば、ナイロン樹脂として、SP−500(東レ)等;ポリスチレン系樹脂として、ファインパール(住友化学工業)、テクポリマーSB(積水化成品工業)、ファインパウダーSGP(綜研化学)等;ポリエチレン樹脂として、フロービーズ(住友精化)等;ポリメタクリル酸メチル系樹脂として、マツモトマイクロスフェアーM(松本油脂製薬)、テクポリマーMB(積水化成品工業)、ファインパウダーMP(綜研化学)等;シリコーン粉体として、KMP−590(信越化学工業)、トスパール130、トスパール145、トスパール2000B(以上、GE東芝シリコーン)等が挙げられる。特に、前記複合シリコーン粉体(架橋型シリコーン・網状型シリコーンブロック共重合体)としては、KSP−100、KSP−101、KSP−102、KSP−105(以上、信越化学工業)等が挙げられる。
【0012】
疎水性球状粉体(B)の含有量は、噴射剤を含む全量中、0.1〜30質量%とすることが好ましい。より好ましくは0.1〜15質量%とし、さらに好ましくは0.3〜10質量%とし、さらに好ましくは1〜8質量%とする。含有量を0.1質量%以上とすることでべたつきが抑えられ、一方、30質量%以下とすることで白残りを防ぐことができる。
【0013】
ポリエーテル変性シリコーン(C)は、側鎖又は末端にポリオキシアルキレン基を有するオルガノポリシロキサン化合物であり、ペースト状ないし高粘度の液体である。これは、制汗塩及び/又は殺菌剤(A)及び疎水性球状粉体(B)による白残りを抑える効果がある。ポリエーテル変性シリコーン(C)としては、例えば、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体、ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体が挙げられる。これらのポリエーテル変性シリコーンは、ペンダント型変性、片末端型変性、両末端型変性のいずれでも構わない。
【0014】
また、ポリエーテル変性シリコーン(C)は、良好な肌感触が得られる点から、HLB7以下のものが好ましい。ここで、HLBとは、親水親油バランス(Hydrophile−Lipophile−Balance)のことであり、Griffinの式:
【0015】
【数1】

【0016】
により算出される値をいう。
【0017】
本発明に用いるポリエーテル変性シリコーン(C)は、市販品として入手可能であり、例えば、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体として、シリコーンKF−6011、KF−6013、KF−6015(信越化学工業)、SH−3771(東レ・ダウコーニング・シリコーン)等が挙げられ、ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体として、KF−6012(信越化学工業)等が挙げられる。
【0018】
ポリエーテル変性シリコーン(C)は、疎水性球状粉体(B)の分散性を効果的に向上させ、良好な白残り抑制効果を発揮するためにはある程度以上の量を用いることが必要であるが、制汗デオドラントスプレー組成物を塗布した時の肌感触を良好にするためには適量とすることが好ましい。かかる観点から、デオドラントスプレー組成物中のポリエーテル変性シリコーン(C)の含有量は、噴射剤を含む全量中、0.001〜5質量%とするのが好ましく、より好ましくは0.001〜3質量%とし、さらに好ましくは0.01〜3質量%、特に好ましくは0.01〜1質量%とする。
また、制汗デオドラントスプレー組成物中の疎水性球状粉体(B)とポリエーテル変性シリコーン(C)の質量比((B):(C))は、粉体成分の分散性と制汗デオドラントスプレー組成物を塗布した時の肌感触の点から、1000:1〜5:1であることが好ましく、より好ましくは300:1〜10:1、特に好ましくは200:1〜10:1である。
【0019】
制汗塩及び/又は殺菌剤(A)に疎水性球状粉体(B)を加えることにより、さらさら感等の肌感触は向上するが、白残りが発生しやすくなる。これを改善するため、本発明においては、上記ポリエーテル変性シリコーン(C)と、更には25℃で液状の油剤(D)(但し、成分(C)を除く)を用いることにより、十分な白残り抑制効果が得られる。
【0020】
25℃で液状の油剤(D)は、例えば、25℃における粘度が1000mm/s以下のジメチルシリコーン、デカメチルシクロペンタシロキサン、メチルフェニルシリコーン等のシリコーン油(但し、ポリエーテル変性シリコーン(C)を除く)、スクワラン、流動パラフィン等の炭化水素類、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール等の多価アルコール類、分岐脂肪酸類、イソプロピルアルコール、2−エチルブチルアルコール等の分岐アルコール類、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール等の脂肪酸エステル類、ミリスチン酸イソステアリン酸グリセリル等のジグリセライド、イソステアリン酸トリグリセライド、ヤシ油脂肪酸トリグリセライド等のトリグリセライド等が挙げられる。
【0021】
このうち、白残り抑制効果が大きい点から、上記シリコーン油、及びミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール等の分岐エステル油が好ましく、特に、シリコーン油と分岐エステル油を組み合わせて用いることが好ましい。シリコーン油と分岐エステル油を組み合わせる場合には、その比率(シリコーン油:分岐エステル油)は質量比で5:1〜1:10であることが好ましく、特に好ましくは1:1〜1:5とすることにより、大きな白残り抑制効果が得られる。
油剤(D)の含有量は、噴射剤を含む全量中、好ましくは0.1〜20質量%とし、さらに好ましくは0.5〜15質量%とする。0.1質量%以上とすることにより、十分な白残り抑制効果を発揮し、20質量%以下とすることにより、良好な肌感触が得られる。
【0022】
本発明の制汗デオドラントスプレー組成物の噴射剤は特に限定されないが、例えば、フロン134a、フロン113等のフロンガス、プロパン、イソブタン、イソペンタン等の炭化水素系ガス、ジメチルエーテル等の液化ガス、炭酸ガス、及び窒素ガス等が挙げられる。噴射剤の含有量は、噴射剤を含む全量中60〜99質量%程度とするのが好ましい。
さらに、本発明の制汗デオドラントスプレー組成物は、必要に応じて、顔料、色素、香料、清涼剤、抗炎症剤、湿潤剤、安定剤、酸化防止剤等を本発明の効果を損なわない範囲内で適宜配合することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例3〜7及び比較例1〜7)
(製法)
表1に示すLPG以外の成分(1)〜(10)を均一に混合し、得られた混合物をエアゾール用耐圧ガラス容器に詰めた後、LPG(成分(11))を充填し、表1に示す組成のデオドラントスプレー組成物を調製した。なお、組成は質量%で示した。
【0024】
(評価方法)
専門パネラー10名の上腕部にスプレーを均一に適量塗布し、べたつきの抑制、白残りの抑制、さらさら感の持続について、下記の基準に従い官能評価した。各パネラーの評点を集計し、平均評価スコアでランク分けした。評価結果を組成とともに表1に示す。
【0025】
<評価基準>
(1)べたつき(塗布直後のべたつきのなさを評価した)
5:全くべたつかない
4:べたつかない
3:どちらともいえない
2:ややべたつく
1:べたつく
【0026】
(2)さらさら感の持続(塗布1時間後のさらさらした感触を評価した)
5:さらさらする
4:ややさらさらする
3:どちらともいえない
2:あまりさらさらしない
1:全くさらさらしない
<平均評価スコア>
◎ :4.5〜5.0
〇 :3.5〜4.4
〇△:2.5〜3.4
△ :1.5〜2.4
× :1.0〜1.4
【0027】
(3)白残り(塗布直後の見た目の白さを評価した)
4:白くならない
3:あまり白くならない
2:やや白くなる
1:白くなる
<平均評価スコア>
◎:3.5〜4.0
〇:2.5〜3.4
△:1.5〜2.4
×:1.0〜1.4
【0028】
【表1】

【0029】
これらの結果より、制汗塩及び/又は殺菌剤、疎水性球状粉体、ポリエーテル変性シリコーン、25℃で液状の油剤(但し、ポリエーテル変性シリコーンを除く)、及び噴射剤を配合する本発明の制汗デオドラントスプレー組成物は、白残り抑制効果、肌感触及びその持続性のいずれにも優れるものであった。油剤として分岐エステル油(パルミチン酸イソプロピル)とメチルフェニルシリコーンを組み合わせて用いた実施例4は、パルミチン酸イソプロピルのみを用いた実施例3と比較して、白残り抑制効果が向上し、実施例7と実施例6を比較しても、同様の改善が見られた。また、疎水性球状粉体として、架橋型シリコーン・網状型シリコーンブロック共重合体を用いた実施例5は、比較例7と比較して、さらさら感の持続性が向上した。同様の改善が実施例7と実施例4に見られる。
【0030】
一方、親水性粉体であるタルクを含有し、疎水性球状粉体を含有していない比較例5は、特にべたつきのあるものとなった。また、ポリエーテル変性シリコーンを含有しない比較例1及び2は、比較例7及び実施例5と比較して白残りが顕著なだけでなく、さらさら感等の肌感触も劣っており、疎水性球状粉体として架橋型シリコーン・網状シリコーン共重合体を用いた場合(比較例2)でさえ、最高評価に達しなかった。疎水性球状粉体を含有しても25℃で液状の油剤を含有しない比較例3及び4を、実施例3及び4と比較した場合も、同様の差が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)制汗塩及び/又は殺菌剤、(B)シリコーン粉体のなかから選ばれる疎水性球状粉体、(C)ポリエーテル変性シリコーン、(D)25℃で液状の油剤(但し、成分(C)を除く)、及び(E)噴射剤を含有し、含有される成分(B)と成分(C)の質量比が200:1〜10:1であり、且つ、水を含まない制汗デオドラントスプレー組成物。
【請求項2】
前記シリコーン粉体が、シリコーンゴム粉体の表面をシリコーン樹脂で被覆した複合シリコーン粉体である、請求項1に記載の制汗デオドラントスプレー組成物。
【請求項3】
前記油剤(D)が、シリコーン油及び分岐エステル油から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の制汗デオドラントスプレー組成物。
【請求項4】
前記油剤(D)が、シリコーン油及び分岐エステル油を含むものである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の制汗デオドラントスプレー組成物。

【公開番号】特開2008−31185(P2008−31185A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273564(P2007−273564)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【分割の表示】特願2004−69346(P2004−69346)の分割
【原出願日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】