説明

制電性樹脂組成物および成形品

【課題】制電性、耐衝撃性、及び成形品外観に優れた成形品が得られる制電性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化スチレン系樹脂(A1)、及び/又は、該ビニル系単量体(b)の(共)重合体(A2)からなるスチレン系樹脂70〜97質量%、
(B)ポリアミド及び/又はポリエステルのブロック(B1)と親水性ポリマーのブロック(B2)とを有するブロック共重合体3〜30質量%、
上記成分(A)及び成分(B)を含有してなり、
さらに、上記成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して
(C)フッ素化アルキルスルホニル基を備えたアニオンを有する塩(C1)及び非イオン界面活性剤(C2)からなる群より選ばれた少なくとも1種を0.01〜10質量部を含有してなることを特徴とする制電性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性、耐衝撃性、及び成形品外観に優れた制電性樹脂組成物、そして、この制電性樹脂組成物からなる成形品に関する。
【0002】
ABS樹脂等のスチレン系樹脂は、耐衝撃性、成形品表面外観及び成形加工性等に優れることから、電気・電子分野、OA・家電分野、建材分野、玩具分野、サニタリー分野、車両分野等に幅広く使用されている。しかし、かかるスチレン系樹脂は、帯電し易く、静電気障害の問題が発生させることから、液晶を用いた表示装置、半導体周辺装置、プラズマディスプレイ、クリーンルーム内等で用いられる各種パーツ、シート、フィルム等に使用することは難しかった。ABS樹脂等のスチレン系樹脂の帯電性を防止する目的から、特許文献1、特許文献2、特許文献3には、ゴム強化スチレン系樹脂にポリアミドエラストマーを配合した組成物が開示されている
しかしながら、かかる技術により成形品の帯電防止性は改善されるものの、十分ではなかった。例えば、射出成形で成形品を得る場合、ゲート付近では帯電防止性を発現するものの、流動末端では帯電防止性が劣る。また、押出成形を行ってシート、フィルム等にした場合も、帯電防止性が劣る等の問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開昭63―23435号公報
【特許文献2】特開平4―309547号公報
【特許文献3】特開平2―292353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、制電性、耐衝撃性、及び成形品外観に優れた制電性樹脂組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、スチレン系樹脂にポリアミドブロック及び/又はポリエステルブロックと親水性ポリマーブロックとを有するブロック共重合体を配合した組成物に、更に特定の化合物としてフッ素化アルキルスルホン酸塩、及び/又は、非イオン界面活性剤を配合することで、制電性、耐衝撃性及び成形品の外観に優れた成形品が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明の一局面によれば、
(A)ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化スチレン系樹脂(A1)、及び/又は、該ビニル系単量体(b)の(共)重合体(A2)からなるスチレン系樹脂70〜97質量%、
(B)ポリアミド及び/又はポリエステルのブロック(B1)と親水性ポリマーのブロック(B2)とを有するブロック共重合体3〜30質量%、
上記成分(A)及び成分(B)を含有してなり(但し、上記成分(A)と成分(B)の合計は100質量%)、
さらに、上記成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して
(C)フッ素化アルキルスルホン酸塩(C1)及び非イオン界面活性剤(C2)からなる群より選ばれた少なくとも1種を0.01〜10質量部を含有してなることを特徴とする制電性樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、(A)スチレン系樹脂(本明細書では、「成分(A)」ということもある。)および(B)ポリアミド及び/又はポリエステルのブロックと親水性ポリマーのブロックとを有するブロック共重合体(本明細書では、「成分(B)」ということもある。)とブレンドしてなる樹脂組成物に、(C)フッ素化アルキルスルホン酸塩(本明細書では、「成分(C1)」ということもある。)及び非イオン界面活性剤(本明細書では、「成分(C2)」ということもある。)からなる群より選ばれた少なくとも1種(本明細書では、「成分(C)」ということもある。)を含有せしめてなるため、当該樹脂組成物を用いることにより、制電性、耐衝撃性及び成形品外観に優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳しく説明する。尚、本明細書において、「(共)重合」とは、単独重合及び共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0008】
成分(A)
本発明の成分(A)は、ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル単量体(b)を重合して得られたゴム強化スチレン系樹脂(A1)、及び/又は、このビニル系単量体(b)を(共)重合して得られた(共)重合体(A2)からなるものである。後者の(共)重合体(A2)は、ゴム質重合体(a)の非存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるものである。これらの樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。以下、成分(A1)及び成分(A2)のそれぞれについて詳細に説明する。
【0009】
成分(A1)
ゴム強化スチレン系樹脂(A1)は、ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られる。
ゴム質重合体(a)としては、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン系ブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン・イソプレン系ブロック共重合体及びその水素添加物等のジエン系ゴム;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・ブテン−1・非共役ジエン共重合体等のエチレン・α−オレフィン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーン系ゴム;シリコーン・アクリル系IPNゴム等が挙げられる。これらの重合体は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらのうち、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、スチレン・ブタジエンブロック共重合体、スチレン・ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、アクリルゴムが好ましい。
【0010】
ゴム質重合体(a)を乳化重合で得る場合、そのゲル含率は、好ましくは98質量%以下であり、更に好ましくは40〜98質量%である。この範囲とすることにより耐衝撃性に優れた成形品を与える制電性樹脂組成物を得ることができる。
ゲル含率は、以下に示す方法により求めることができる。
先ず、ゴム質重合体1gをトルエン100mlに投入し、室温で48時間静置する。その後、100メッシュの金網(質量をWグラムとする)で濾過したトルエン不溶分と金網を、温度80℃で6時間真空乾燥して秤量(質量Wグラムとする)する。W及びWを、下記式(1)に代入して、ゲル含率を得る。
ゲル含率=〔{W(g)−W(g)}/1(g)〕×100 (1)
【0011】
尚、ゲル含率は、ゴム質重合体の製造時に、架橋性単量体の種類及びその使用量、分子量調節剤の種類及びその使用量、重合時間、重合温度、重合転化率等を適宜設定することにより調整される。
【0012】
ゴム質重合体の存在下に重合されるビニル系単量体(b)は、芳香族ビニル化合物のみから構成されてもよく、または、芳香族ビニル化合物と、該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル系単量体とから構成されてもよい。かかる共重合可能な他のビニル系単量体としては、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物の他、酸無水物基、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基等の官能基を含有するビニル系化合物が挙げられる。
【0013】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α―メチルスチレン、ヒドロキシスチレン等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレン及びα―メチルスチレンが好ましい。芳香族ビニル化合物の使用量は、ビニル系単量体(b)の全量を100質量%として、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは10〜80質量%である。この範囲にあると、成形加工性及び機械的強度の物性バランスに優れる。
【0014】
シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。シアン化ビニル化合物を使用する場合、その使用量は、ビニル系単量体(b)の全量を100質量%として、好ましくは50質量%以下、更に好ましくは5〜40質量%である。この範囲にあると、耐薬品性、色調及び成形加工性の物性バランスに優れる。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル化合物を使用する場合、その使用量は、ビニル系単量体(b)の全量を100質量%として、好ましくは90質量%以下、更に好ましくは10〜85質量%、特に好ましくは50〜85質量%である。この範囲にあると、着色性、透明性、及び成形加工性等のバランスに優れる。
【0016】
マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。尚、マレイミド化合物単位を分子に導入する方法としては、無水マレイン酸を共重合した後、これをイミド化する等の方法を用いてもよい。マレイミド系化合物を使用する場合、その使用量は、ビニル系単量体(b)の全量を100質量%として、好ましくは50質量%以下、更に好ましくは10〜50質量%である。この範囲にあると、耐熱性及び成形加工性の物性バランスに優れる。
【0017】
酸無水物基を含有するビニル系化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
ヒドロキシル基を有するビニル系化合物としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、ヒドロキシスチレン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
アミノ基を有するビニル系化合物としては、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸フェニルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、(メタ)アクリルアミン、N−メチルアクリルアミン、(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、p−アミノスチレン等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
エポキシ基を有するビニル系化合物としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−オキシシクロヘキシル、ビニルグリシジルエーテル、アクリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
カルボキシル基を有するビニル系化合物としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
オキサゾリン基を含有するビニル系化合物としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらの化合物は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
酸無水物基、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基等の官能基を含有する上記ビニル系化合物(以下、「特定官能基含有ビニル系化合物」ということもある。)を使用した場合、スチレン系樹脂と他のポリマーとをブレンドした時、両者の相溶性を向上させることができる。かかる効果を達成するために好ましい単量体は、エポキシ基含有不飽和化合、不飽和酸化合物、および水酸基含有不飽和化合物であり、特に好ましくは水酸基含有不飽和化合物である。
かかる特定官能基含有ビニル系化合物を使用する場合、その使用量は、ビニル系単量体(b)の全量を100質量%として、好ましくは20質量%以下、更に好ましくは1〜15質量%である。この範囲にあると、相溶性付与効果及び成形品の外観等のバランスに優れる。
【0023】
上記ビニル系単量体(b)を構成する上記単量体の好ましい組み合わせを、ビニル系単量体(b)が特定官能基含有ビニル系化合物を含有する場合と含有しない場合とに分けて、下記に示す。
〔ビニル系単量体(b)が特定官能基含有ビニル系化合物を含有しない場合〕
(1)芳香族ビニル化合物からなるビニル系単量体(b)。
(2)芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物およびマレイミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも2種からなるビニル系単量体(b)。
(3)芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とからなるビニル系単量体(b)。
(4)芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステル化合物とシアン化ビニル化合物とからなるビニル系単量体(b)。
(5)芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステル化合物とからなるビニル系単量体(b)。
(6)芳香族ビニル化合物とマレイミド化合物とからなるビニル系単量体(b)。
〔ビニル系単量体(b)が特定官能基含有ビニル系化合物を含有する場合〕
(1)芳香族ビニル化合物と特定官能基含有ビニル系化合物とからなるビニル系単量体(b)。
(2)芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物およびマレイミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも2種と、特定官能基含有ビニル系化合物とからなるビニル系単量体(b)。
(3)芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物と、特定官能基含有ビニル系化合物とからなるビニル系単量体(b)。
(4)芳香族ビニル化合物と、(メタ)アクリル酸エステル化合物と、特定官能基含有ビニル系化合物とからなるビニル系単量体(b)。
(5)芳香族ビニル化合物と、マレイミド化合物と、特定官能基含有ビニル系化合物とからなるビニル系単量体(b)。
上記ビニル系単量体(b)は、2種以上の異なる単量体から構成されることが好ましく、より好ましい組み合わせの例を以下に示す。尚、カッコ内の数字は、両者の合計を100質量%とした場合の好ましい使用割合(単位;質量%)である。
(1)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物(65〜90/35〜10)。
(2)芳香族ビニル化合物/メタクリル酸メチル(20〜80/80〜20)。
(3)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/メタクリル酸メチル(10〜80/後二者の合計が90〜20)。
(4)芳香族ビニル化合物/マレイミド化合物(50〜90/50〜10)。
(5)芳香族ビニル化合物/メタクリル酸メチル/マレイミド化合物(10〜80/後二者の合計が90〜20)。
(6)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/メタクリル酸グリシジル(64.9〜89.9/10〜35/0.1〜20)。
(7)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/(メタ)アクリル酸(64.9〜89.9/10〜35/0.1〜20)。
(8)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(10〜80/後二者の合計が90〜20)。
(9)芳香族ビニル化合物/無水マレイン酸(80〜99.9/20〜0.1)。
【0024】
ゴム強化スチレン系樹脂(A1)は、公知の重合法、例えば、乳化重合、塊状重合、溶液重合、懸濁重合およびこれらを組み合わせた重合法により製造することができる。これらのうち、乳化重合法、溶液重合法、及び懸濁重合法が好ましい。
【0025】
ゴム強化スチレン系樹脂(A1)を乳化重合により製造する場合、通常、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤等が用いられる。これらは全て公知のものを用いることができる。
重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
また、重合開始助剤として、各種還元剤、含糖ピロリン酸鉄処方、スルホキシレート処方等のレドックス系を用いることが好ましい。
【0026】
連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン類等が挙げられる。
乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩、ラウリル酸カリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、パルミチン酸カリウム等の高級脂肪酸塩、ロジン酸カリウム等のロジン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩等が挙げられる。
【0027】
ゴム強化スチレン系樹脂(A1)を乳化重合により製造する場合、ゴム質重合体(a)及びビニル系単量体(b)の使用方法としては、ゴム質重合体(a)全量の存在下に、ビニル系単量体(b)を全量一括添加して重合してもよく、分割添加もしくは連続添加して重合してもよい。また、ゴム質重合体(a)の一部を重合途中で添加してもよい。
ゴム強化スチレン系樹脂(A1)を100質量部製造する際には、ゴム質重合体の使用量は、好ましくは3〜80質量部、より好ましくは5〜70質量部、更に好ましくは10〜60質量部である。
【0028】
乳化重合により得られたラテックスは、通常、凝固剤により樹脂成分を凝固させ、更に、水洗、乾燥することにより、精製されたゴム強化スチレン系樹脂(A1)が得られる。凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の無機塩;硫酸、塩酸等の無機酸;酢酸、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸等を用いることができる。尚、2種以上のラテックスを製造した場合、上記凝固は、それぞれのラテックス毎に別々に行ってもよいし、2種以上のラテックスを混合してから行ってもよい。
【0029】
ゴム強化スチレン系樹脂(A1)を溶液重合により製造する場合、重合は、通常、公知のラジカル重合用不活性重合溶媒中で行われる。かかる溶媒としては、エチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
重合温度は、好ましくは80〜140℃、更に好ましくは85〜120℃の範囲である。
【0030】
溶液重合の際には、重合開始剤を用いてもよいし、重合開始剤を使用せずに、熱重合で重合してもよい。重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ケトンパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイオド、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物等が好ましく用いられる。
また、連鎖移動剤を用いる場合、メルカプタン類;ターピノレン類;α―メチルスチレンダイマー等を用いることができる。
また、ゴム強化スチレン系樹脂(A1)を塊状重合または懸濁重合で製造する場合、公知の方法を適用でき、溶液重合に例示した重合開始剤、連鎖移動剤等を用いることができる。
上記各重合法により得られたゴム強化スチレン系樹脂(A1)中に残存するビニル単量体の含量は、好ましくは10,000ppm以下、更に好ましくは5,000ppm以下である。
【0031】
上記のようにして製造されたゴム強化スチレン系樹脂(A1)は、通常、ビニル系単量体(b)がゴム質重合体(a)にグラフト(共)重合してなるグラフト共重合体と、ゴム質重合体にグラフトしていない未グラフト共重合体(上記(共)重合体(A2)と実質的に同じ)とを含む。
【0032】
ゴム強化スチレン系樹脂(A1)のグラフト率は、好ましくは20〜200質量%、より好ましくは30〜150質量%、更に好ましくは40〜120質量%である。グラフト率が、上記範囲にあると、耐衝撃性に優れる。
尚、グラフト率は、以下に示す方法により求めることができる。
グラフト率(質量%)={(T−S)/S}×100…(2)
上記式(2)中、Tは成分(A1)1gをアセトン(ただし、ゴム質重合体(a)がアクリル系ゴムを使用したものである場合、アセトニトリル)20mlに投入し、振とう機により2時間振とうした後、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Sは成分(A1)1gに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。
【0033】
ゴム強化スチレン系樹脂(A1)のアセトン(ただし、ゴム質重合体(a)がアクリル系ゴムを使用したものである場合、アセトニトリル)可溶分の極限粘度〔η〕(溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、好ましくは0.2〜1.2dl/g、更に好ましくは0.2〜1.0dl/g、特に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。この範囲に極限粘度〔η〕がある場合、耐衝撃性、加工性、及び成形品外観のバランスに優れる。
成分(A1)中に分散する上記グラフト共重合体の数平均粒子径は、好ましくは500〜30,000Å、より好ましくは1,000〜20,000Å、更に好ましくは1,500〜8,000Åの範囲である。尚、数平均粒子径は、電子顕微鏡を用いる等、公知の方法で測定することができる。
【0034】
尚、グラフト率、極限粘度〔η〕及び上記数平均粒子径は、ゴム強化スチレン系樹脂(A1)を製造する際の、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や使用量、更には、重合時間、重合温度等を変化させることにより容易に制御することができる。
【0035】
成分(A2)
(共)重合体(A2)は、ゴム質重合体(a)の非存在下に、上記ビニル系単量体(b)を(共)重合させて得られるものであり、上記ビニル系単量体(b)の(共)重合をゴム質重合体(a)の非存在下に行う以外、上記成分(A1)と同様の方法で製造することができる。上記成分(A1)について列挙した上記ビニル系単量体(b)は、総て、(共)重合体(A2)の製造に使用することができる。また、上記ビニル系単量体(b)の好ましい使用量は、(共)重合体(A2)についても該当する。
この(共)重合体(A2)を上記ゴム強化スチレン系樹脂(A1)と併用する場合、(共)重合体(A2)として、上記ゴム強化スチレン系樹脂(A1)の製造に用いられたビニル系単量体と全く同じ種類の化合物を用いて得られた(共)重合体を使用してもよいし、異なる種類の化合物を用いて得られた(共)重合体を使用してもよい。
【0036】
(共)重合体(A2)は、公知の重合法、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及び乳化重合により製造することができる。
【0037】
(共)重合体(A2)の極限粘度〔η〕(溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、好ましくは0.2〜1.2dl/g、更に好ましくは0.2〜1.0dl/g、特に好ましくは0.3〜0.8dl/gであり、この範囲に極限粘度〔η〕がある場合、加工性及び成形品外観のバランスに優れる。
尚、この極限粘度〔η〕は、上記ゴム強化スチレン系樹脂(A1)の場合と同様、各種の製造条件を変化させることにより制御することができる。
【0038】
本発明の成分(A)は、ゴム強化スチレン系樹脂(A1)及び (共)重合体(A2)のいずれか一方のみからなるものであってもよく、ゴム強化スチレン系樹脂(A1)及び (共)重合体(A2)の両者からなるものであってもよい。しかし、上記成分(A)は、耐衝撃性及び制電性を安定して発揮させるために、ゴム強化スチレン系樹脂(A1)及び(共)重合体(A2)の両者を含んでなることが好ましい。
成分(A)中のゴム質重合体(a)の含有量は、成分(A)の全体を100重量%として、2〜40質量%が好ましく、更に好ましくは3〜35質量%である。ゴム質重合体(a)の含有量がこの範囲にあると耐衝撃性、成形加工性、及び剛性の物性バランスに優れる。
成分(A)中のビニル系単量体(b)の含有量は、成分(A)の全体を100重量%として、60〜98質量%が好ましく、更に好ましくは65〜97質量%である。ビニル系単量体(b)の含有量がこの範囲にあると耐衝撃性、成形加工性、剛性の物性バランスに優れる。 また、本発明の成分(A)と成分(B)の親和性を向上させる目的から、成分(A)は、前記特定官能基含有ビニル系化合物を共重合成分として含有する成分(A1)又は成分(A2)を含むことが好ましい。この場合、前記特定官能基含有ビニル系化合物は、成分(A1)又は成分(A2)を構成するビニル系単量体(b)全体(100重量%)の0.1〜20質量%を構成していることが好ましい。この特定官能基含有ビニル系化合物を共重合成分として含有する成分(A1)又は成分(A2)の含有量は、成分(A)全体(100質量%)に対して、0.3〜30質量%が好ましく、更に好ましくは0.5〜20質量%、特に好ましくは1〜15質量%である。含有量がこの範囲にあると耐衝撃性、成形品外観に優れる。
【0039】
本発明の制電性樹脂組成物において、成分(A)の使用量は、成分(A)と成分(B)の合計を100質量%とした場合、70〜97質量%であり、好ましくは75〜95質量%、更に好ましくは77〜95質量%、特に好ましくは78〜94質量%である。この使用量が70質量%未満では、耐衝撃性及び成形品外観が劣る傾向にあり、一方、97質量%を超えると、制電性が劣る。
【0040】
成分(B)
本発明の成分(B)は、ポリアミド及び/又はポリエステルのブロック(B1)と親水性ポリマーのブロック(B2)とを有するブロック共重合体である。
本発明の成分(B)には、ポリアミドブロック(B1−a)と親水性ポリマーのブロック(B2)とのジブロック共重合体、及びマルチブロック共重合体、ポリエステルブロック(B1−b)と親水性ポリマーのブロック(B2)とのジブロック共重合体、及びマルチブロック共重合体、ポリアミドブロック及びポリエステルブロックからなるブロック(B1−c)と親水性ポリマーのブロック(B2)とのブロック共重合体、及び前記(B1−a)〜(B1−c)のブロック共重合体の混合物からなるブロック共重合体(B1−d)と親水性ポリマーのブロック(B2)とのブロック共重合体等が挙げられ、制電性の面から、(B1)として好ましいものは(B1−a)及び(B1−b)であり、更に好ましくは(B1−a)である。
【0041】
(B1−a)で使用されるポリアミドとしては、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、2,3,4−もしくは2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−もしくは1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p−アミノヘキシル)メタン、フェニルジアミン、m−キシレンジアミン、p−キシレンジアミン等の脂肪族、脂環族、または芳香族ジアミン等のジアミン成分と、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の脂肪族、脂環族または芳香族ジカルボン酸とから導かれるポリアミド、カプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム類の開環重合によって選ばれるポリアミド。ω―アミノカプロン酸、ω―アミノエナン酸、アミノウンデカン酸、1,2−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸から導かれるポリアミド、ならびにこれらの共重合ポリアミドがあり、更にこれらの混合ポリアミドが挙げられる。
【0042】
(B1−b)におけるポリエステルとしては、(1)炭素数4〜20のジカルボン酸成分及び/またはそのエステル形成誘導体と(2)ジオール成分から得られる重合体である。ここで使用される上記(1)としては以下のものが例示される。ここで炭素数とは、カルボキシル基の炭素およびカルボキシル基の炭素に直結する鎖や環を構成する炭素の総数をいう。
【0043】
炭素数4〜20のジカルボン酸としては、(a)コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、α、ω―ドデカンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸、オクタデセニルジカルボン酸等の炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸、(b)1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の炭素数8〜20の脂環族ジカルボン酸、(c)テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸、(d)5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等のスルホン酸基が芳香環に結合した炭素数8〜12の置換芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。また炭素数4〜20のジカルボン酸のエステル形成誘導体としては、前記(a)〜(b)の低級アルキルエステルが挙げられる。これには例えば、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、アゼライン酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、α,ω―ドデカンジカルボン酸ジメチル、ドデセニルコハク酸ジメチル、オクタデセニルジカルボン酸ジメチル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、コハク酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、アゼライン酸ジエチル、セバシン酸ジエチル、α,ω―ドデカンジカルボン酸ジエチル、ドデセニルコハク酸ジエチル、オクタデセニルジカルボン酸ジエチル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジエチル、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジ(2−ヒドロキシエチル)、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジエチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジエチル、2,7−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、2,7−ナフタレンジカルボン酸ジエチル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(2−ヒドロキシエチル)、5−カリウムスルホイソフタル酸(2−ヒドロキシエチル)等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上を併用して用いることができる。なかでも、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびこれらのエステル形成誘導体が好ましい。
【0044】
(B1−b)に使用されるジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−および1,3−シクロヘキサンジメチロール、2,2−ビス(4´−β―ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4´―β―ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上を併用して用いることができる。なかでも、エチレングリコール、テトラメチレングリコールが好ましい。
【0045】
親水性ポリマーブロック(B2)としては、ポリエーテル(b2―a)、ポリエーテル含有親水性ポリマー(B2―b)、およびアニオン性ポリマー(B2−c)が挙げられる。
ポリエーテル(B2―a)としては、ポリエーテルジオール、ポリエーテルジアミン、およびこれらの変性物が挙げられる。
ポリエーテル含有親水性ポリマー(B2−b)としては、ポリエーテルジオールのセグメントを有するポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルジオールのセグメントを有するポリエーテルアミドイミド、ポリエーテルジオールのセグメントを有するポリエーテルエステル、ポリエーテルジアミンのセグメントを有するポリエーテルアミド、および、ポリエーテルジオールまたはポリエーテルジアミンのセグメントを有するポリエーテルウレタンが挙げられる。
アニオン性ポリマー(B2―c)としては、スルホニル基を有するジカルボン酸と、ポリエーテル(B2―a)とを必須構成単位とし、かつ一分子内に好ましくは2〜80個、更に好ましくは3〜60個のスルホニル基を有するアニオン性ポリマーが挙げられる。
これらは、直鎖状であっても、また分岐状であってよい。特に好ましい成分(B2)は、ポリエーテル(B2−a)である。
【0046】
ポリエーテル(B2−a)のうちのポリエーテルジオールとしては、一般式(3):
H−(OA―O―E―O―(AO)n′―Hで表されるもの、及び一般式(4):
H−(OA―O―E―O―(AO)m′―Hで表されるもの等が挙げられる。
一般式(3)中、Eは二価の水酸基含有化合物から水酸基を除いた残基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、nおよびn′は前記二価の水酸基含有化合物の水酸基1個当たりのアルキレンオキサイド付加数を表す。n個の(OA)とn′個の(AO)とは、同一であっても異なっていてもよく、また、これらが2種以上のオキシアルキレン基で構成される場合の結合形式はブロックもしくはランダムまたはこれらの組み合わせのいずれでもよい。nおよびn′は、通常1〜300、好ましくは2〜250、特に好ましくは10〜100の整数である。また、nとn′は、同一であっても異なっていてもよい。
【0047】
上記二価の水酸基含有化合物としては、一分子中にアルコール性またはフェノール性の水酸基を2個含む化合物、すなわち、ジヒドロキシ化合物が挙げられ、具体的には、二価アルコール(例えば炭素数2〜12の脂肪族、脂環式、あるいは芳香族二価アルコール)、炭素数6〜18の二価フェノールおよび第3級アミノ基含有ジオール等が挙げられる。
脂肪族二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6―ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,12―ドデカンジオール等が挙げられる。
脂環式二価アルコールとしては、例えば、1,2―および1,3―シクロペンタンジオール、1,2―、1,3−および1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、芳香族二価アルコールとしては、例えば、キシレンジオール等が挙げられる。
二価フェノールとしては、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、ウルシオール等の単環二価フェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4、4′―ジヒドロキシジフェニルー2,2−ブタン、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシジフェニルエーテル等のビスフェノール、およびジヒドロキシナフタレン、ビナフトール等の縮合多環二価フェノール等が挙げられる。
【0048】
一般式(4)中、Eは、一般式(3)で記載した二価の水酸基含有化合物から水酸基を除いた残基、Aは、少なくとも一部が一般式(5):−CHR―CHR′―[式中、R、R′の一方は、一般式(6):―CHO(AO)R″で表される基、他方はHである。一般式(6)中、xは1〜10の整数、R″はHまたは炭素数1〜10の、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基またはアシル基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基である。]で表される置換アルキレン基であり、残りは炭素数2〜4のアルキレン基であってもよい。m個の(OA)とm′個の(AO)とは同一であっても異なっていてもよい。mおよびm′は1〜300の整数であることが好ましく、更に2〜250、特に10〜100が好ましい。またmとm′とは、同一でも異なっていてもよい。
【0049】
上記一般式(3)で示されるポリエーテルジオールは、二価の水酸基含有化合物にアルキレンオキサイドを付加反応させることにより製造することができる。アルキレンオキサイドとしては、炭素数2〜4のアルキレンオキサイド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2―ブチレンオキサイド、1,4−ブチレンオキサイド、2,3―ブチレンオキサイド、および1,3−ブチレンオキサイドおよびこれらの2種以上の併用系が用いられる。2種以上のアルキレンオキサイドを併用するときの結合形式はランダムおよび/またはブロックのいずれでもよい。アルキレンオキサイドとして好ましいものは、エチレンオキサイド単独およびエチレンオキサイドと他のアルキレンオキサイドとの併用によるブロックおよび/またはランダム付加である。アルキレンオキサイドの付加数は、前記二価の水酸基含有化合物の水酸基1個当たり、好ましくは1〜300、更に好ましくは2〜250、特に好ましくは10〜100である。
【0050】
上記一般式(4)で示されるポリエーテルジオールの好ましい製造方法としては下記の(ア)、(イ)等の方法が挙げられる。
(ア)上記二価の水酸基含有化合物を出発物質として、一般式(7):
【0051】
【化1】

【0052】
[一般式(7)中のAは炭素数2〜4のアルキレン基、pは1〜10の整数、RはH または炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基またはアシル基である。]
で表されるグリシジルエーテルを重合、または炭素数2〜4のアルキレンオキサイドと共重合する方法。
(イ)上記二価の水酸基含有化合物を出発物質として、側鎖にクロロメチル基を有するポリエーテルを経由する方法。更に具体的には、エピクロルヒドリン、またはエピクロルヒドリンとアルキレンオキサイドを付加共重合し、側鎖にクロロメチル基を有するポリエーテルを得た後、該ポリエーテルと炭素数2〜4のポリアルキレングリコールとRX (Rは上記したもの、XはCl、BrまたはI)をアルカリ存在下で反応させるか、または該ポリエーテルと炭素数2〜4のポリアルキレングリコールモノカルビルエーテルをアルカリ存在下で反応させる方法である。
【0053】
ここで使用される炭素数2〜4のアルキレンオキサイドとしては、前記したものがある。
また、本発明の好ましい成分(B)は、上記(B1)と(B2)を公知の方法で重合することによって得ることがでる。例えば、ブロック(B1)とブロック(B2)を減圧下200〜250℃で重合反応を行うことにより製造することができる。
【0054】
また、重合反応に際し公知の重合触媒を使用することができるが、好ましいものは、モノブチルスズオキサイド等のスズ系触媒、三酸化アンチモン、二酸化アンチモン等のアンチモン系触媒、テトラブチルチタネート等のチタン系触媒、ジルコニウム水酸化物、酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニル等のジルコニウム系触媒、IIB族有機酸塩触媒から選ばれる1種または2種以上の組み合わせである。
【0055】
ポリアミドブロック(B1−a)の好ましい重合法は加熱溶融重合法であり、(B1−a)を用いた成分(B)の好ましい重合法の具体例を下記に示す。
(i)ポリアミドを重合した後、ジカルボン酸化合物を添加し、ポリアミド成分の両末端をカルボキシル化し、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールを添加重合しブロック共重合体を得る方法。
(ii)ポリアミド重合時に分子末端基が実質上カルボキシル化されるようにジカルボン酸化合物を過剰に添加重合し、更にポリ(アルキレンオキシド)グリコールを添加重合し、ブロック共重合体を得る方法。
(iii)ポリアミド生成成分と過剰のジカルボン酸化合物、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールを規定量一括添加しブロック共重合体を得る方法。
【0056】
上記ポリアミドの分子末端をカルボキシル化するために用いられるジカルボン酸としては、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、マレイン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等がある。本発明の上記ポリアミドの数平均分子量は、好ましくは500〜20,000、更に好ましくは500〜10,000、特に好ましくは500〜5,000の範囲であることが本発明の目的を達成するうえで好ましい。
本発明の成分(B)におけるポリアミドブロック(B1−a)と親水性ポリマーブロック(B2)の質量割合(B1−a)/(B2)は、90/10から10/90の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは80/20〜20/80、特に好ましくは70/30〜30/70である。
【0057】
(B1)にポリアミドブロックを用いた成分(B)の分子量は特に限定されるものではないが、還元粘度(ηsp/C)(ギ酸溶液中、0.5g/100ml、25℃で測定)は、1.0〜3.0dl/gの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは1.2〜2.5dl/gである。
更に、本発明の(B1−a)は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
特に好ましいものは、ポリアミドとポリ(アルキレンオキシド)グリコールブロックとがエステル結合で結合されたポリエーテルエステルアミドであり、三洋化成工業社製ペレスタット NC6321、M−140、6500(商品名)として入手できる。
【0058】
ポリエステルブロック(B1−b)の好ましい重合法は加熱溶融重合法であり、(B1−b)を用いた成分(B)の好ましい重合法の具体例を下記に示す。
(i)ポリエステルを重合した後、ジカルボン酸化合物を添加し、ポリエステル成分の両末端をカルボキシル化し、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールを添加重合しブロック共重合体を得る方法。
(ii)ポリエステル重合時に分子両末端が実質上カルボキシル化されるようにジカルボン酸化合物を過剰に添加重合し、更にポリ(アルキレンオキシド)グリコールを添加重合し、ブロック共重合体を得る方法。
(iii)ポリエステル生成成分と過剰のジカルボン酸化合物、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールを規定量一括添加しブロック共重合体を得る方法。
【0059】
上記ポリエステルに分子末端をカルボキシル化する際に用いられるジカルボン酸としては、前記したものが全て使用できる。本発明に用いられるポリエステルの数平均分子量は、好ましくは300〜20,000、更に好ましくは300〜10,000、特に好ましくは500〜5,000の範囲にあることが本発明の目的を達成する上で好ましい。
本発明の成分(B)におけるポリエステルブロック(B1−b)と親水性ポリマーブロック(B2)の質量割合(B1−b)/(B2)は、90/10〜10/90の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは80/20〜20/80、特に好ましくは70/30〜30/70である。
【0060】
ブロック(B1)にポリエステルブロック(B1−b)を用いた成分(B)の分子量は特に限定されるものではないが、還元粘度(ηsp/C)(フェノール/テトラクロロエタン=40/60質量比の混合溶媒を用いて、濃度1.0g/dl、35℃で測定)は、0.3〜2.5dl/gの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.5〜2.5dl/gである。
更に、本発明の(B1−b)は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
このような(B1−b)を含む成分(B)としては、例えば、竹本油脂社製TEP004、TEP010、TEP008(商品名)として入手できる。
【0061】
本発明の成分(B)の製造時(重合前、重合中、重合後)に、公知の酸化防止剤、熱安定剤等を存在させることもできる。
更に本発明の目的である、制電性を更に向上させる目的から、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の塩(D)(本明細書中、「成分(D)」ということもある。)を含有させることができる。これらの成分は、成分(B)の重合前、成分(B)の重合時に含有させることもできるし、成分(B)の重合後に含有させることも、また本発明の制電性樹脂組成物を製造する際に配合することも、またこれらを組み合わせた方法で含有させることもできる。
成分(D)としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属および/またはマグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属の有機酸、スルホン酸、無機酸の塩、及びハロゲン化物等が挙げられる。
【0062】
成分(D)の具体的な好ましい例として、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等のアルカリ金属のハロゲン化物;過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等のアルカリ金属の無機酸塩、酢酸カリウム、ステアリン酸リチウム等のアルカリ金属の有機酸塩;オクチルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、テトラデシルスルホン酸、ステアリルスルホン酸、テトラコシルスルホン酸、2−エチルヘキシルスルホン酸等の、アルキル基の炭素数8〜24のアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩;フェニルスルホン酸、ナフチルスルホン酸等の芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩;オクチルフェニルスルホン酸、ドデシルフェニルスルホン酸、ジブチルフェニルスルホン酸、ジノニルフェニルスルホン酸等の、アルキル基の炭素数6〜18のアルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩;ジメチルナフチルスルホン酸、ジイソプロピルナフチルスルホン酸、ジブチルナフチルスルホン酸等の、アルキル基の炭素数2〜18のアルキルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩;トリフルオロメタンスルホン酸等のフッ化スルホン酸等のアルカリ金属塩等が挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を併用して用いることができる。上記成分(D)は、本発明の成分(B)に対して、好ましくは0.001〜20質量%、更に好ましくは0.01〜10質量%の範囲で用いることができる。
【0063】
本発明の制電性樹脂組成物において、上記成分(B)の使用量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量%とした場合、3〜30質量%、好ましくは5〜25質量%、更に好ましくは5〜23質量%、特に好ましくは6〜22質量%の範囲で使用される。3質量%未満では制電性が劣り、30質量%を超えると耐衝撃性及び成形品外観が劣る。
【0064】
成分(C)
本発明の成分(C)は、フッ素化アルキルスルホニル基を備えたアニオンを有する塩(C1)及び非イオン界面活性剤(C2)からなる群より選ばれた少なくとも1種であり、これらの成分を配合することで、更に制電性を向上させることができる。
ここで使用される成分(C1)は、フッ素化アルキルスルホニル基を1以上備えてなるアニオンと適当なカチオンとからなる塩を意味する。アニオン中に含まれるフッ素化アルキルスルホニル基としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸などのフッ素化された低級アルキルスルホニル基、特に、パーフルオロアルキルスルホニル基などが挙げられる。成分(C1)を構成するアニオンとしては、トリフルオロメタンスルホン酸自体の他、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドなどの一以上の好ましくは複数のトリフルオロメタンスルホニル基で水素原子が置換されたメチド、アンモニア等の誘導体が挙げられる。成分(C1)を構成するカチオンとしては、代表的には、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が挙げられる。成分(C1)の具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドカリウム及びトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドナトリウム等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましい成分(C1)は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム及びトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムである。
【0065】
上記成分(C1)は、そのまま使用することもできるし、溶液として使用することもできるし、更にエーテル結合を有する重合体に事前に配合して使用することもできる。
成分(C1)を溶解させる溶剤として特に好ましいものは、水、または下記式(8)で示される化合物である。
【0066】
【化2】

【0067】
〔一般式(8)中、Xは炭素数2〜8からなるアルキレン基、芳香族基を含む二価の炭化水素基、または二価の脂環式炭化水素基、Rは同一または異なり炭素数1〜9の直鎖または分岐のアルキル基、Aは同一または異なり炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは同一または異なり1〜7の整数である。〕
【0068】
上記一般式(8)で表される化合物として好ましいものは、Rが末端にヒドロキシ基を有さないアルキル基であるものである。特に好ましくはビス〔2−(2ブトキシエトキシ)エチル〕アジペート(アジピン酸ジブトキシエトキシエチル)、またはビス(2−ブトキシエチル)フタレートである。
本発明の成分(C1)を溶解する場合の濃度は、好ましくは0.1〜80質量%、更に好ましくは1〜60質量%の範囲である。
【0069】
また、エーテル結合を有する重合体としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド等をエポキシ基等の官能基で変性したもの、更にポリオレフィンブロックとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体、及び本発明の成分(B)等がある。
【0070】
本発明の成分(C1)の溶液は、三光化学工業社製サンコノール0862−20R、0862−13T、0862−10T、AQ−50T(商品名)等として、また、マスターバッチとしては、同じく三光化学工業社製サンコノールTBX−25(商品名)等として入手することができる。
【0071】
本発明の成分(C2)の非イオン界面活性剤としては、多価アルコールエステル化合物(C2−1)、含窒素化合物(C2−2)等があり、これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
多価アルコールエステル化合物(C2−1)としては、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノオレエート、グリセリンモノラウレートなどのグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリンモノミリステート、ジグリセリンモノパルミテート、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノベヘネート、ジグリセリンモノオレートなどのジグリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノベヘネート、ソルビタンモノラウレートなどのソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ、これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
特に好ましいものは、グリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート及びこれらを少なくとも20質量%含有するもの等が挙げられる。
【0072】
含窒素化合物(C2−2)としては、ラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、オレイルジエタノールアミン、ラウリルジイソプロパノールアミン、ミリスチルジイソプロパノールアミン、パルミチルイソプロパノールアミン、ステアリルジイソプロパノールアミン、オレイルジイソプロパノールアミン、N,N―ビスヒドロキシエチルアルキル(アルキル基の炭素数12〜22)アミン等のアミン類、或いはラウリルジエタノールアミド、ミリスチルジエタノールアミド、パルミチルジエタノールアミド、ベヘニルジエタノールアミド、オレイルジエタノールアミド、ラウリルジイソプロパノールアミド、ミリスチルジイソプロパノールアミド、パルミチルジイソプロパノールアミド、ステアリルジイソプロパノールアミド、オレイルジイソプロパノールアミド等のアミド類がある。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは上記アミン類であり、更に好ましくは、ラウリルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミンなどの高級飽和炭化水素基で置換されたアミノアルコールをそれぞれ20質量%以上含有するもの等が挙げられる。また、上記した化合物に制電性を向上させる目的から、公知の添加剤を配合することができる。これらを例示すると炭素数12〜18の高級アルコール、滑剤、シリカ、珪酸カルシウム等がある。また、混和性を向上させる目的から、マスターバッチ化したものを用いることもできる。本発明の成分(C)は、上記(C1)が好ましく、更に好ましくは(C1)と(C2)の併用である。
【0073】
本発明の成分(C)は、本発明の成分(A)と(B)の合計100質量部に対して0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜8質量部、更に好ましくは0.1〜5質量部、特に好ましくは0.5〜5質量部の範囲で使用される。0.01質量部未満では制電性を向上させる効果があらわれず、また10質量部を超えると耐衝撃性及び成形品外観が劣る。
【0074】
本発明の制電性樹脂組成物には、公知の耐候(光)剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、シリコーンオイル、界面活性剤、可塑剤、摺動剤、着色剤、染料、発泡剤、加工助剤(超高分子量アクリル系重合体、超高分子量スチレン系重合体)、難燃剤、結晶核剤等を適宜配合するこができる。
【0075】
また、本発明の制電性樹脂組成物には、公知の無機・有機充填材を配合することができる。ここで使用される充填材としては、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラス繊維のミルドファイバー、ガラスビーズ、中空ガラスビーズ、炭素繊維、炭素繊維のミルドファイバー、銀、銅、黄銅、鉄等の粉体あるいは繊維状物質、カーボンブラック、錫コート酸化チタン、錫コートシリカ、ニッケルコート炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、炭酸カルシウムウイスカー、ワラストナイト、マイカ、カオリン、モンモリロナイト、ヘクトライト、酸化亜鉛ウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、板状アルミナ、板状シリカ、及び有機処理されたスメクタイト、アラミド繊維、フェノール繊維、ポリエステル繊維等があり、これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
更に、上記充填材の分散性を向上させる目的から、公知のカップリング剤、表面処理剤、集束剤等で処理したものを用いることができ、公知のカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等がある。
上記無機・有機充填材は、本発明の制電樹脂組成物100質量部に対して、1〜200質量部の範囲で通常使用される。
【0076】
更に、本発明の制電性樹脂組成物には、他の公知の重合体であるポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、液晶ポリエステル等の熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリエステルエラストマー、PMMA、メタクリル酸メチル・マレイミド化合物共重合体、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フェノキシ樹脂等を適宜配合することがでる。
【0077】
本発明の制電性樹脂組成物は、上記各構成成分を、各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、連続ニーダー、ロール等により溶融混練することにより得ることができる。混練に際し、本発明の上記各成分を一括添加して混練してもよく、分割して添加して混練してもよい。このように調製された本発明の制電性樹脂組成物は、射出成形、プレス成形、カレンダー成形、Tダイ押出成形、インフレーション成形、ラミネーション成形、真空成形、異形押出成形等、また、これらを組み合わせた成形法等の公知の成形法により成形品を得ることができる。
【0078】
本発明の制電性樹脂組成物をシート、フィルムに加工する場合の厚みは、10μm〜100mmの範囲が好ましい。
上記シート、フィルムは、単層シート、フィルムであってもよく、また他材料と多層化したものであってもよく、粘着剤等を積層したシート、フィルムであってもよい。更に前記シート、フィルムに公知のガスバリア膜を形成させることもできる。
【0079】
本発明の制電性樹脂組成物を用いて多層シートまたは多層フィルムを成形する場合、他材からなるシート又はフィルムの片面に本発明の制電性樹脂組成物からなるシート又はフィルムを積層した2層シートまたは2層フィルム、あるいは、他材を中間層としてその両面に本発明の制電性樹脂組成物からなるシート又はフィルムを積層した3層シート又は3層フィルム等とすることができる。ここで使用される他材としては、公知の重合体を用いることができ、それらには、本発明の成分(A)が好ましく用いられる。更に剛性、耐熱性を向上させる目的から、前記無機・有機充填材を配合したものを用いることもできる。
上記2層及び多層シート及びフィルムに積層される本発明の制電性樹脂組成物の厚みは、安定的に制電性を発現させる目的から好ましくは10μm以上、更に好ましくは50μm以上、特に好ましくは80μm以上の厚みである。このような多層シート及びフィルムを得る方法として、特に好ましい方法は、Tダイによる共押出、インフレーションによる共押出である。このようにして得られたシート及びフィルムは、必要に応じて真空成形等でトレイ等の成形品にすることができる。
【0080】
このようにして得られた成形品は、リレーケース、ウエハーケース、レチクルケース、アスクケース等のケース類、液晶トレイ、チップトレイ、メモリトレイ、CCDトレイ、ICトレイ等のトレイ類、ICキャリアー等のキャリアー類、フィルム切断時の保護シート、クリーンルーム内のシート等のシート類、更に自動販売機内部部材等の分野に使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。尚、実施例中において部および%は、特に断らない限り質量基準である。また、実施例、比較例中の各種測定は、下記の方法に従った。
【0082】
〔1〕評価方法
(1)ゴム質重合体のゲル含率;前記の方法に従った。
(2)ゴム質重合体ラテックスの数平均粒子径;
成分(A1)の形成に用いるゴム質重合体ラテックスの数平均粒子径は、光散乱法で測定した。測定機は、大塚電子社製LPA―3100型を使用し、70回積算でミュムラント法を用いた。尚、成分(A1)中の分散グラフト化ゴム質重合体粒子の粒子径は、ラテックス粒子径とほぼ同じであることを電子顕微鏡で確認した。(3)成分(A1)のグラフト率;前記の方法に従った。
(4)成分(A1)のアセトン可溶分及び成分(A2)の極限粘度〔η〕;前記の方法に従った。
【0083】
(5)制電性;減衰特性
厚み2.4mmの平板、または厚み1mmのシートを、米国連邦政府試験基準 101C 4046に準拠して、温度23℃、湿度12%RHの条件下に48時間放置した後、+5KVの電圧を印加後接地し50Vに減衰するまでの時間(秒)を測定した。減衰時間が短い程、制電性に優れることを示す。
(6)耐衝撃性;
厚み2.4mmの平板、または厚み1mmのシートを、1/2インチ径の打撃棒が速度2.4m/secで破壊するエネルギー(kgf・cm)を測定した。
(7)成形品外観
厚み2.4mm平板、または厚み1mmのシートの表面を目視観察し、下記評価基準で目視評価した。
〇;平滑な外観で良好。
×;表面に凹凸等が見られ平滑でない。
(8)透明性
厚み2.4mm平板、または厚み1mmのシートについて、ASTM D1003に準拠してヘイズを測定し、下記基準で評価した。
〇;透明性に優れる(ヘイズが30%以下である)。
×;透明性が劣る又は不透明である(ヘイズが30%を超える)。
【0084】
〔2〕制電性樹脂組成物成分
(1)成分(A)
(1−1)製造例1;A1−1(ポリブタジエン−スチレン−アクリロニトリル共重合体)
攪拌機を備えた内容積7Lのガラス製フラスコに窒素気流中で、イオン交換水75部、ロジン酸カリウム0.5部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部、ポリブタジエン
ラテックス(平均粒子径;3500Å、ゲル含率;85%)40部(固形分)、スチレン15部、アクリロニトリル5部を加え、攪拌しながら昇温した。内温が45℃に達した時点で、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部、及びブドウ糖0.2部をイオン交換水20部に溶解した溶液を加えた。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始した。1時間重合させた後、更にイオン交換水50部、ロジン酸カリウム0.7部、スチレン30部、アクリロニトリル10部、tert−ドデシルメルカプタン0.05部およびクメンハイドロパーオキサイド0.01部を3時間かけて連続的に添加し、更に1時間重合を継続させた後、2,2´−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加し重合を完結させた。反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥してゴム強化スチレン系樹脂A1−1を得た.この重合体A1―1のグラフト率は68%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は、0.45dl/gであった。
【0085】
(1−2)製造例2;A1−2(ポリブタジエン−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体)
攪拌機を備えた内容積7Lのガラス製フラスコに窒素気流中で、ポリブタジエンラテックス(平均粒子径;2500Å、ゲル含率;80%)20部(固形分)、ロジン酸カリウム0.5部、イオン交換水150部を加え、攪拌を開始した。メタクリル酸メチル14.7部、スチレン5.3部を加えた後、昇温を行ない、内温が40℃に到達した時点で、スルホキシレート系開始助剤水溶液とクメンハイドロパーオキサイド0.05部を添加し重合反応を開始した。重合開始1時間後から、メタクリル酸メチル44部、スチレン16部、ロジン酸カリウム0.5部、イオン交換水25部からなるエマルジョン液、クメンハイドロパーオキサイド0.1部、またスルホキシレート系開始助剤の水溶液を4時間かけて連続的に添加しながら重合反応を行った後、更に2時間攪拌を継続した。その後50℃まで冷却し、重合反応を終了させた。反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後乾燥を行いゴム強化スチレン系樹脂A1−2を得た。この重合体A1−2のグラフト率は83%、極限粘度[η]は、0.65であった。
【0086】
(1−3)製造例3;A2−1(水酸基含有ビニル系化合物共重合スチレン−アクリロニトリル共重合体)
製造例1において、ポリブタジエンラテックスを用いず、ロジン酸カリウムをドデシルベンゼンスルホン酸カリウムに変えた。また、1段目の単量体成分をスチレン/アクリロニトリル/2−ヒドロキシ−エチル−メタクリレート=22.5/7.5/3.5部に変えた。更に連続添加成分をスチレン/アクリロニトリル/2−ヒドロキシ−エチル−メタクリレート=44.7/14.9/6.9部に変えた。上記変更点以外は、全て、製造例1と同様の方法で重合した。反応生成物のラテックスを硫酸マグネシウム水溶液を用いて凝固、水洗した後、乾燥してスチレン系重合体A2−1を得た。本重合体A2−1の極限粘度[η]は、0.44であった。
【0087】
(1−4)製造例4;A2−2(スチレンーアクリロニトリル共重合体)
内容積30Lのリボン翼を備えたジャケット付き重合反応容器を2基連結し、窒素置換した後、1基目の反応容器にスチレン75部、アクリロニトリル25部、トルエン20部を連続的に添加した。分子量調節剤としてtert−ドデシルメルカプタン0.06部およびトルエン5部の溶液、および重合開始剤として、1,1´−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)0.1部、およびトルエン5部の溶液を連続的に供給した。1基目の重合温度は、110℃にコントロールし、平均滞留時間2.0時間、重合転化率57%であった。得られた重合体溶液は、1基目の反応容器の外部に設けたポンプにより、スチレン、アクリロニトリル、トルエン、分子量調節剤、および重合開始剤の供給量と同量を連続的に取り出し2基目の反応容器に供給した、2基目の反応容器の重合温度は、130℃で行ない、重合転化率は75%であった。2基目の反応容器で得られた共重合体溶液は、2軸3段ベント付き押出機を用いて、直接未反応単量体と溶剤を脱揮し、極限粘度
[η]0.62のスチレン系樹脂A2−2を得た。
【0088】
(1―5)製造例5;A2−3(スチレン−メタクリル酸メチル共重合体)
攪拌機、ジャケット付きオートクレーブを窒素置換したのち、窒素気流中でメタクリル酸メチル73.4部、スチレン26.6部、トルエン20部、tert−ドデシルメルカプタン0.05部を投入した後、攪拌及び昇温を開始した。内温が50℃に到達した時点で、ベンゾイルパーオキサイド0.5部を添加し、更に昇温し、80℃に達した後、80℃一定で制御しながら重合反応を行なわせた。反応開始後6時間目から1時間を要して120℃まで昇温し、更に2時間反応を行なって終了した。100℃まで冷却後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物を留去した後、粉砕し、ベント付き押出機で脱揮しペレット化し、スチレン系重合体A2−3を得た。本重合体A2−3の極限粘度[η]は、0.65であった。
【0089】
(2)成分(B)
(2−1);重合体B1;三洋化成工業社製ポリアミド−ポリエーテルマルチブロック共重合体“ペレスタットM−140”(商品名)を用いた。
(2−2);重合体B2;三洋化成工業社製ポリアミド−ポリエーテルマルチブロック共重合体“ペレスタットNC6321”(商品名)を用いた。
(2−3);重合体B3;三洋化成工業社製ポリアミド−ポリエーテルマルチブロック共重合体“ペレスタット6500”(商品名)を用いた。
(2−4);重合体B4;竹本油脂社製ポリエステル−ポリエーテルマルチブロック共重合体“TEP004”(商品名)を用いた。
【0090】
(3)成分(C)
(3−1);C1−1;三光化学工業社製 サンコノールAQ−50T(水を溶媒とするトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウム含有量50%の水溶液)
(3−2);C1−2;三光化学工業社製 サンコノール0862−10T(有機溶媒を溶媒とするトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウム含有量10%の溶液)
(3−3);C2−1;花王社製 エレクトロストリッパーTS−5(非イオン界面活性剤;ステアリルモノグリセライド)
【0091】
実施例1〜11、比較例1〜4
表1記載の成分を表1記載の配合割合で、ヘンシエルミキサーにより混合した後、二軸押出機(シリンダー設定温度220℃)を用いて溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットを十分に乾燥し、本発明の制電性樹脂組成物を得えた。得られた組成物を射出成形機(220℃)で成形し、厚み2.4mmの平板を得た。
また、共押出(温度200℃)により、表1記載の重合体からなる厚み800μmのコア層の表面及び裏面に、上記制電性樹脂組成物からなる厚み100μmの層を形成し、肉厚1.0mmの三層シートを得た。
上記、厚み2.4mmの平板及び厚み1.0mmのシートを用い、前記方法で制電性、耐衝撃性、成形品外観、及び透明性を評価した。
【0092】
【表1】

【0093】
表1に記載された結果から、以下のことが明らかである。
本発明の実施例1〜11の成形品は、制電性耐衝撃性、成形品外観に優れる。
一方、比較例1は、本発明の成分(B)の使用量が発明の範囲外で少なく、本発明の成分(A)の使用量が本発明の範囲外で多い例であり、制電性が劣る。比較例2は、本発明の成分(B)の使用量が発明の範囲外で多く、本発明の成分(A)の使用量が本発明の範囲少ない例であり、耐衝撃性及び成形品外観が劣る。比較例3は、本発明の成分(C)の使用量が発明の範囲外で少ない例であり、制電性が劣る。比較例4は、本発明の成分(C)の使用量が発明の範囲外で多い例であり、耐衝撃性及び成形品外観が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の制電性樹脂組成物は、従来にない優れた制電性、耐衝撃性、及び成形品外観を兼ね備える熱可塑性樹脂組成物であることから、高度な性能が要求される、車両分野、電気・電子分野、OA・家電分野、サニタリー分野等の各種部品の成形材料として利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化スチレン系樹脂(A1)、及び/又は、該ビニル系単量体(b)の(共)重合体(A2)からなるスチレン系樹脂70〜97質量%、
(B)ポリアミド及び/又はポリエステルのブロック(B1)と親水性ポリマーのブロック(B2)とを有するブロック共重合体3〜30質量%、
上記成分(A)及び成分(B)を含有してなり(但し、上記成分(A)と成分(B)の合計は100質量%)、
さらに、上記成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して
(C)フッ素化アルキルスルホニル基を備えたアニオンを有する塩(C1)及び非イオン界面活性剤(C2)からなる群より選ばれた少なくとも1種を0.01〜10質量部を含有してなることを特徴とする制電性樹脂組成物。
【請求項2】
成分(C1)が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム及びトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムからなる群より選ばれた少なくとも1種であり、成分(C2)が、多価アルコールエステル化合物であることを特徴とする請求項1記載の制電性樹脂組成物。
【請求項3】
成分(C1)1〜99質量%及び成分(C2)99〜1質量%を含有してなる(但し、成分(C1)と成分(C2)の合計は100質量%)ことを特徴とする請求項1及び2記載の制電性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項の制電性樹脂組成物からなる成形品。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載の制電性樹脂組成物からなるシートまたはフィルムを、スチレン系樹脂からなるシートまたはフィルムの少なくとも一方の表面に積層してなる積層体。


【公開番号】特開2007−63303(P2007−63303A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247139(P2005−247139)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】