説明

刺繍ミシンのヒートカット装置

【課題】 被加工物を安定的に押え付けて適切な加工を行うことのできるようにした刺繍ミシンのヒートカット装置の提供。
【解決手段】 加熱手段の加熱先端部を、被加工物に押し当てられた加工位置、被加工物から離れた待機位置、待機位置よりも被加工物から離間した退避位置のいずれかに移動可能に設けるとともに、被加工物を押える押え部材を、被加工物を押えた作動位置又は被加工物を押えていない非作動位置のいずれかに移動可能に設ける。押え部材の移動に連動させて、加熱先端部の前記待機位置と前記退避位置間の移動を行う一方、押え部材が作動位置にある場合に加熱先端部を待機位置と加工位置との間で移動駆動する。これにより、押え部材が被加工物を押えたまま加熱先端部のみを加工位置から待機位置へと移動できることから、加工の開始点及び終了点において適切な加工を行うことができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍ミシンの刺繍枠に保持された布などの被加工物に対して裁断やマーキングなどの熱による加工を行う刺繍ミシンのヒートカット装置に関する。特に、被加工物を安定的に押え付けるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、所定の移動データに基づいて水平方向において前後左右に移動制御される刺繍枠に保持された布などの被加工物に対して、加熱による裁断やマーキングなどのヒート加工が可能なヒートカット装置を備えた刺繍ミシンが周知となっている。従来のヒートカット装置はその加熱可能となっている先端部を、被加工物に押し当てて加工を行う加工位置と、被加工物から離れた退避位置とのいずれかに移動することのできるようになっている。ヒートカット装置にて加工を行うときには、該ヒートカット装置を前記退避位置から前記加工位置へと移動することにより前記加熱した加熱先端部を被加工物に押し当てた状態にし、その状態のまま刺繍枠を移動制御することによって被加工物の裁断やマーキングなどのユーザ所望の加工を行うようにしている。
【0003】
ところで、刺繍枠に保持される被加工物は、その素材や性状などによって表面に凹凸がある場合や、刺繍などの縫製を行うことによって縫糸に引っ張られて凹凸ができてしまう場合がある。また、刺繍枠に被加工物をセットする方法としては、刺繍枠に展張保持されたシートの上に被加工物をテープで張り付ける場合や剥離容易な接着剤で接着する場合などがあり、こうした場合には被加工物が保持シートから部分的に浮き上がることがある。このような被加工物に凹凸がある場合や被加工物が保持シートから部分的に浮き上がっているような場合、従来のヒートカット装置では加熱先端部付近の被加工物がその厚み方向に関して何ら拘束されていない状態のままで加工を行っていたために、裁断が不完全になったりマーキングの一部が裁断されるなどして加工がうまくできないことがあった。
【0004】
そこで、上記した不具合を解決するために、加工時に被加工物を押える押え部材を備えたヒートカット装置が下記に示す特許文献1に開示されている。この特許文献1に記載のヒートカット装置では、加熱先端部に押え部材であるスペーサが設けてある。スペーサには加熱先端部が挿入される開口部が設けてあり、この開口部より加熱先端部が突出されている。このスペーサ下面から突出する分の加熱先端部の長さは、被加工物の厚さや加工の種類に応じて調整できるようになっている。このとき、スペーサと加熱先端部の相対的位置関係は一旦所定関係に調整されたならば、相対的に動くことのない固定された関係にある。そして、加熱先端部を被加工物に押し当てて加工を行うときには、スペーサにて被加工物を押えてスペーサより突出する加熱先端部が被加工物に貫入することで加工が行われる。このように、上記特許文献1のヒートカット装置では被加工物を押えるスペーサが設けてあり、またスペーサの開口より突出する分の加熱先端部の長さを被加工物の厚さや加工の種類に応じて調整できることから、被加工物に凹凸がある場合や被加工物が保持シートから部分的に浮き上がっているような場合であっても裁断やマーキングなどの加工を安定して行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ヨーロッパ特開EP1983083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に記載のヒートカット装置では、被加工物を押えるためのスペーサが加熱先端部に設けられているため、当該スペーサは加熱先端部とともに加工位置と退避位置とを移動する。また、加熱先端部はスペーサの開口より突出しているため、被加工物に凹凸がある場合や被加工物が保持シートから部分的に浮き上がっているような場合には、加工始めの加工位置への移動の際にスペーサにて被加工物を押えるより先に加熱先端部が被加工物と当接する。また、退避位置への移動の際には、スペーサが被加工物より離れるのに伴って被加工物が浮き上がることから、加熱先端部が被加工物より離れるのが若干遅れる。このように、ヒートカット装置による加工の開始点及び終了点において加熱先端部が被加工物と接する時間が長くなってしまうことが生じ得て、それ故に被加工物に対してマーキングがしたかったにも関わらず被加工物が裁断されるなどユーザの意図した加工が正しく行われない、といった不具合が起こる。
【0007】
更に、ヒートカット装置による加工を断続的に行うときには、加熱先端部とともにスペーサが加工位置と退避位置への移動を繰り返すこととなり、各加工部分の開始点及び終了点にてやはり上記したような不具合が生じ得ることになる。また、加熱先端部が退避位置にあるときには被加工物がスペーサにより押えられていないために、被加工物に凹凸がある場合や被加工物が保持シートから部分的に浮き上がっているような場合には断続的な加工を行う箇所にずれが生じるといった不具合が起こる可能性があった。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、刺繍ミシンの刺繍枠に保持された布などの被加工物に対して裁断やマーキングなどの熱による加工を行う際に、被加工物を安定的に押え付けて適切な加工を行うことのできるようにした刺繍ミシンのヒートカット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る刺繍ミシンのヒートカット装置は、刺繍枠に保持された被加工物を部分的に加熱することにより、当該被加工物に対し加工を施す刺繍ミシンのヒートカット装置において、加熱可能な先端部を有する加熱手段であって、前記加熱先端部が被加工物に押し当てられた加工位置、前記被加工物から離れた待機位置、前記待機位置よりも被加工物から離間した退避位置のいずれかに移動しうるものと、前記刺繍枠に保持された被加工物を押える押え部材であって、該押え部材は被加工物を押えた作動位置、被加工物を押えていない非作動位置のいずれかに移動しうるものと、前記押え部材の前記作動位置と前記非作動位置間の移動と、前記加熱先端部の前記待機位置と前記退避位置間の移動とを連動して行う連動駆動手段と、前記押え部材が前記作動位置にある場合に、前記加熱先端部を前記待機位置と前記加工位置との間で移動駆動する加熱先端部駆動手段とを備える。
【0010】
本発明によれば、加熱手段の加熱先端部を、被加工物に押し当てられた加工位置、前記被加工物から離れた待機位置、前記待機位置よりも被加工物から離間した退避位置のいずれかに移動可能に設けるとともに、刺繍枠に保持された被加工物を押える押え部材を、被加工物を押えた作動位置又は被加工物を押えていない非作動位置のいずれかに移動可能に設ける。そして、前記押え部材の前記作動位置と前記非作動位置間の移動と、前記加熱先端部の前記待機位置と前記退避位置間の移動とを連動して行う一方で、前記押え部材が前記作動位置にある場合に前記加熱先端部を前記待機位置と前記加工位置との間で移動駆動するようにした。これによれば、押え部材の退避位置から作動位置への移動に伴って加熱先端部を退避位置から待機位置へと移動することができ、押え部材が被加工物を押えた後に加熱先端部を加工位置に移動することができる。また、加熱先端部を被加工物より離すときは、押え部材が作動位置にて被加工物を押えたまま加熱先端部のみを加工位置から待機位置へと移動することができる。さらに、押え部材の非作動位置への移動に伴い加熱先端部を退避位置に移動することができる。したがって、加熱先端部と被加工物とを適正に接触させることができて従来のように接触時間が長くなりマーキング時に裁断されるなどの不具合が生じることがないので、ヒートカット装置による加工の開始点及び終了点において適切な加工を行うことができるようになる。
【0011】
また、押え部材を作動位置に位置させたままで加熱先端部のみを加工位置と待機位置とで繰り返し移動できることから、ヒートカット装置による加工を断続的に行うときに加熱先端部が移動するにも関わらず被加工物は押え部材にて押え付けられた状態で保持されるので、各加工部分の開始点及び終了点において安定した加工を行えることとなる。さらに、被加工物の断続的に加工を行う箇所に凹凸や浮き上がりがある場合でも、押え部材による押え付け状態が確保されることによって被加工物が安定的に保持されて凹凸や浮き上がりが解消されるので、加工を行う箇所がずれることなく適切に加工を行える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、押え部材にて被加工物を押えた後に加熱先端部を被加工物に押し当てるとともに、押え部材にて被加工物を押えたまま加熱先端部を被加工物から離すことができることから、被加工物を安定的に押え付けた状態で加熱先端部による加工の開始点及び終了点において適切な加工を行うことができるようになる、という効果を奏する。
また、加工を断続的に行うときに、押え部材により被加工物を押えた状態のままで加熱先端部のみを相対的に加工位置と待機位置へと移動できることから、加工を断続的に行う際においても適切な加工を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】6つのミシンヘッドを有する6頭立て刺繍ミシンにおける本発明の一実施例を示す外観斜視図である。
【図2】ミシンヘッドの部分を拡大して示す右側面図である。
【図3】ヒートカット装置の部分を更に拡大して示す左側面図である。
【図4】押え部材が被加工物に当接して押えた作動位置にある状態におけるヒートカット装置の要部を拡大して示す側面図である。
【図5】ヒートカット装置を図4の矢印A方向から見た図である。
【図6】加熱先端部を加工位置まで移動した状態におけるヒートカット装置の要部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に従って詳細に説明する。
【0015】
図1は、6つのミシンヘッドを有する6頭立ての多頭刺繍ミシンにおける本発明の一実施例を示す外観斜視図である。1はミシンフレーム、2はテーブルである。ミシンフレーム1には、6個のミシンヘッドMが配設してある。これらの各ミシンヘッドMに対応して各ミシンヘッドMの下方には、上面に固定されてなる針板3がテーブル2と略同一高さとなるようにして釜土台(図示せず)が配設されている。一方、テーブル2の上面には布などの被加工物を展張保持する刺繍枠4が載置してあり、この刺繍枠4はテーブル2の下方に設けてあるX駆動機構5及びY駆動機構6によってテーブル2上を前後(図1において正面手前から奥)及び左右に水平駆動されるようになっている。
【0016】
図2は、ミシンヘッドMの部分を拡大して示す右側面図である。図2に示すように、ミシンヘッドMはミシンフレーム1に正面に突き出るように固定されたアーム7と、当該アーム7の前面において左右方向(図では垂直方向)にスライド可能に支持された針棒ケース8とにより構成されてなる。アーム7には、図示しないミシン駆動モータによって回転駆動されるミシン主軸9が左右方向(図では垂直方向)に貫通した状態に設けてある。
【0017】
針棒ケース8には複数の縫針10が上下動可能に設けてあって、該針棒ケース8が図示しない色換え機構によって順次にスライドされることにより、任意の縫針10が選択位置(具体的には対応する釜土台に対向する位置)に位置されるようになっている。そして、ミシン主軸9が回転することに応じて、図示しない駆動機構を介して前記選択された縫針10は対応する釜土台(図示せず)に向かって上下動する。この縫針10の上下動と釜土台内で回転駆動される釜(図示せず)との協働動作により周知の縫いが行われ、こうした縫い動作と共に刺繍枠4がX駆動機構5及びY駆動機構6によって前後左右に随時に駆動されることによって、任意の刺繍データに基づく刺繍縫いが被加工物Sに対して行われるようになっている。
【0018】
図2から理解できるように、各ミシンヘッドMの下方にはヒートカット装置Hがそれぞれ設けてある。このヒートカット装置Hの構成例につき詳しく説明する。図3は、ヒートカット装置Hの部分を更に拡大して示す左側面図である。この図3では、押え部材33が被加工物Sを押えていない非作動位置にある状態を示している。図4は、押え部材33が被加工物Sに当接して押えた作動位置にある状態におけるヒートカット装置Hの要部を拡大して示す側面図である。図5は、ヒートカット装置Hを図4の矢印A方向から見た図である。図6は、加熱先端部11aを加工位置まで移動した状態におけるヒートカット装置Hの要部を示す側面図である。
【0019】
図3に示すように、ヒートカット装置Hは、ヒートカッター11(加熱手段)を支持する支持機構12(支持部材)と、該支持機構12を被加工物Sに対して接離可能に移動する昇降機構13とにより構成されてなる。当該昇降機構13により、前記支持機構12は図3(又は図2)に示す上昇位置と図4に示す下降位置との間を往復するように昇降される。詳しくは後述するが、こうした支持機構12の昇降に従って、被加工物Sを押えた作動位置又は被加工物Sを押えていない非作動位置のいずれかに押え部材33を移動することと、被加工物Sから離れた待機位置又は前記待機位置よりも被加工物Sから離間した退避位置のいずれかにヒートカッター11先端の加熱先端部11aを移動することとを同時に行うことのできるようにしている。
【0020】
昇降機構13はブラケット14を有しており、ブラケット14はアーム7の下方背面に固定してある。ブラケット14には、ガイドベース15が固定してある。図5より明らかなように、ガイドベース15にはガイドレール16が固定してあり、該ガイドレール16にはスライド体17が図5において上下方向に摺動可能に設けてある。また、スライド体17にはベース部材18が固定してある。
【0021】
ガイドベース15には、その上部に2つの腕部15a、15bが形成してあり、一方の腕部15aにはブラケット19を介してエアシリンダ20(連動駆動手段)が固定してあり、他方の腕部15bにはエアシリンダ20の後方部を支承する支承部材21が固定してある。エアシリンダ20のロッド先端部分は、ベース部材18に固定されたプレート22に固定される。これにより、エアシリンダ20の作動によってロッド先端部分が伸縮することに応じて、プレート22を介してベース部材18が昇降動作することになる。このとき、ベース部材18はスライド体17によってガイドレール16に沿って移動することになる。なお、ガイドレール16の長手方向の両端部には、スライド体17の摺動範囲を規制するストッパ23がそれぞれ設けてある。また、スライド体17には係止ピン24が固定してある一方で、ガイドベース15にはスライド体17の下降を停止する係止部材25が回動可能に設けてある。すなわち、当該係止部材25を回動させて図3に示す位置から下降してきたスライド体17の係止ピン24に係止させることにより、スライド体17の下降を停止させることができる。
【0022】
スライド体17を介してガイドレール16に沿って移動するベース部材18は、図5において手前側に立設した側壁18a、18bを両側方部に備えており、そのうちの右側の側壁18aがスライド体17に固定してある。この右側の側壁18aは、先端側(図5において下側)がスライド体17より大きく飛び出すように、スライド体17より長く形成してある。一方、ガイドベース15の先端側(図5において下側)は直角に屈曲された形状に形成されてなり(先端部15c)、該先端部15cには溝26aを有する位置決め部材26が固定してある。支持機構12が下降位置(図4に示すように、押え部材33が被加工物20を押え付けた状態にある押え部材33の作動位置に相当)まで下降したときには、この位置決め部材26の溝26aにベース部材18の右側の側壁18aの先端が嵌入するようになっている。これにより、支持機構12の下降位置(押え部材33の作動位置)での左右位置が決められるとともに、支持機構12の振動を抑制するようにしている。
【0023】
ベース部材18には、ヒートカッター11が支持してある。ヒートカッター11は周知のものであってよく、その先端部11a(加熱先端部)を加熱できるようになっている。ベース部材18を下降した後に該加熱した先端部11aを被加工物Sに押し当てることによって、被加工物Sに対しヒート加工が行われる。ベース部材18の左側の側壁18bと、ベース部材18において該側壁18bに対向する位置に固定された支持ブラケット27とがヒートカッター11の左右側に突設されたピン28を枢支するようになっており、これらによりヒートカッター11はベース部材18に対して回動可能に支持される。すなわち、側壁18bと支持ブラケット27とは、少なくともヒートカッター11の幅(直径)以上の間隔を空けて対向配置される。
【0024】
ベース部材18の左側の側壁18bには、ヒートカッター11の先端部11aを上方(図5では手前)へ回動するようにピン28を介してヒートカッター11を付勢するトーションバネ29が設けてある。支持ブラケット27にはヒートカッター11の上方(図5では手前)にエアシリンダ30(加熱先端部駆動手段)が固定してある一方で、ヒートカッター11にはエアシリンダ30のロッドの先端と当接する作動板31が固定してある。この作動板31は、トーションバネ29の付勢によって常にエアシリンダ30のロッドの先端に当接されている。
【0025】
ヒートカッター11の先端部11aは、常には図3、4に示すような先端部11aが押え部材33の孔33bに挿入されていない状態、つまりは先端部11aが前記被加工物Sから離れた待機位置(図4参照)又は前記待機位置よりも被加工物Sから離間した退避位置(図3参照)のいずれかに位置している。エアシリンダ20を作動してヒートカッター11を下降させた後に(図4に示す押え部材33が作動位置にある場合)、エアシリンダ30を作動させてエアシリンダ30のロッドを前進させると、そのロッドに作動板31が押されてヒートカッター11はトーションバネ29の付勢力に抗して揺動駆動されるので、図4から図6に至るようにその先端部11aが被加工物Sに接近するように下方(図5では奥)へと回動する。
【0026】
ヒートカッター11はベース部材18に設けてあるストッパ32(規制部材)により下方への揺動動作が規制されるようになっており、そのため揺動駆動されたヒートカッター11は該ストッパ32に当接した状態を保持したまま停止する。このとき、図6に示すように先端部11aは被加工物Sに押し当てられた加工位置にある。ヒートカッター11の動作を規制するストッパ32はベース部材18に螺着されたネジ棒からなり、その上端にヒートカッター11が当接する。このストッパ32はネジ棒の締め込み量により上端の位置調整が可能であって、ナットの締め付けによりロックしてある。このネジ棒の上端の位置を調整することにより、先端部11aが被加工物Sに押し当てられた加工位置にあるときの当該先端部11aの押え部材33下面からの突出量(被加工物Sに対する貫入深さに相当)を、被加工物Sの厚さや加工の種類に応じて調整することができるようになっている。なお、ストッパ32をアクチュエータにより調整できるようにしてもよい。
【0027】
さらに、ベース部材18には、ヒートカット11の先端部11a方向に向かって前方(図5では下方)へと延びる腕部18cが形成してあり、その腕部18cには刺繍枠4に保持された被加工物Sを押える押え部材33が設けてある。押え部材33の下端には押え部33aが形成してあり、支持機構12が下降位置に移動したときに前記押え部33aが被加工物Sを押えるように構成されている。押え部材33は、腕部18cに前後の位置調整可能に固定してある。押え部材33の押え部33aには、ヒートカッター11の先端部11aを通す孔33bが形成してある。ヒートカッター11の先端部11aが加工位置に回動したときには、該先端部11aが押え部材33の孔33bに挿入されて被加工物Sに押し付けられるようになっている。
【0028】
ここで、本実施例に従うヒートカット装置Hによる被加工物Sへのヒート加工について説明する。ヒートカット装置Hにより加工を行うときには、まずエアシリンダ20を作動させて支持機構12を図3に示す位置から図4に示す位置まで下降させる。これにより、押え部材33が被加工物Sを押えていない非作動位置から被加工物Sを押えた作動位置まで移動されて、押え部材33の押え部33aが被加工物Sに当接して押えた状態になる。また、こうした押え部材33の移動に連動して、ヒートカッター11の先端部11aが前記被加工物Sから離れた図4に示す待機位置まで、前記待機位置よりも被加工物Sから離間した図3に示す退避位置から移動される。
【0029】
次に、エアシリンダ30を作動させてヒートカッター11を回動する。すると、先端部11aが前記被加工物Sから離れた図4に示す待機位置から被加工物Sに押し当てられた図6に示す加工位置まで移動する。こうしてヒートカッター11の先端部11aは被加工物Sに押し付けられた状態となるので、この状態で刺繍データに基づいて刺繍枠4(被加工物S)をX駆動機構5及びY駆動機構6を駆動してX、Y方向へ移動することにより被加工物Sへ加工が行われる。
【0030】
被加工物Sへの加熱による裁断やマーキングなどの加工(ヒート加工)が終了したら、再度エアシリンダ30を作動させる。すると、ヒートカッター11はトーションバネ29の付勢力により揺動駆動されて、図6から図4に至るようにその先端部11aが被加工物Sから離れるように上方(図5では手前)へと回動する。こうして、ヒートカッター11の先端部11aを前記加工位置から前記待機位置へと回動させて被加工物Sから離しておき、その後に再度エアシリンダ20を作動させる。すると、支持機構12は図4に示す位置(押え部材33は前記作動位置にある)から図3に示す位置(押え部材33は前記非作動位置にある)へと移動する。これに連動して、先端部11aは前記待機位置から前記退避位置へと移動する。
【0031】
一方、被加工物Sに対して熱による加工を断続的に行うときには、支持機構12を図4に示す位置に位置させたまま、つまりは押え部材33を作動位置に位置させたままで、エアシリンダ30を作動させてヒートカッター11の先端部11aを、加工を行うときには加工位置へ、加工を行わないときには待機位置へと移動させる。これにより、加工を断続的に行うときには押え部材33の押え部33aにて常に被加工物Sを押えた状態で、ヒートカッター11の先端部11aを断続的に被加工物Sに押し付け、そして離す、という工程を繰り返す形態となるので、被加工物Sを安定して押え付けながらの断続的な加工を行うことができることとなる。
【0032】
なお、ヒートカッター11による熱による加工(ヒート加工)としては裁断やマーキング等があるが、この加工の変更はヒートカッター11の先端部11aの加熱温度や、先端部11aの押え部材33下面からの突出量や、刺繍枠4の移動速度を変更することによって行われる。また、非加工物Sに刺繍も行うときには、ヒートカット装置Hによる加工の前又は後にミシンヘッドMを作動して刺繍を行えばよい。
【0033】
以上のように、本発明では、押え部材33の前記作動位置と前記非作動位置間の移動と、ヒートカッター11の先端部11aの前記待機位置と前記退避位置間の移動とを連動して行いながら、それとは別途に、前記押え部材33が前記作動位置にある場合に前記先端部11aのみを前記待機位置と前記加工位置との間で移動駆動できるようにした。これにより、押え部材33に対してヒートカッター11の先端部11aは相対的に変位することになる。こうすることにより、押え部材33にて被加工物Sを押えた後にヒートカッター11の先端部11aを被加工物Sに押し当てることができる一方で、押え部材33にて被加工物Sを押えたまま前記先端部11aを被加工物Sから離すことができるようになる。したがって、先端部11aと被加工物Sとを適正に接触させることができ、従来のように接触時間が長くなりマーキング時に裁断されるなどの不具合が生じることなく、ヒートカット装置Hによる加工の開始点及び終了点において適正な加工を行えることとなる。
【0034】
また、ヒートカット装置Hによる加工を断続的に行うときには、押え部材33を作動位置に位置させたままでヒートカッター11の先端部11aのみを加工位置と待機位置とで繰り返し移動する。これにより、先端部11aが移動するにも関わらず被加工物Sは押え部材33にて押え付けられた状態で保持されることから、各加工部分の開始点及び終了点において適正な加工を行えることとなる。また、被加工物Sの断続的に加工を行う箇所に凹凸や浮き上がりがある場合でも、押え部材33による押え付け状態が保持されることによって凹凸や浮き上がりが解消されるので、加工を行う箇所がずれることなく安定した状態で適正な加工を行うことができることとなる。
【0035】
以上、図面に基づいて実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な実施形態が可能であることは言うまでもない。例えば、ヒートカッター11を回動可能に支持し、回動によってその先端部11aを待機位置と加工位置との間で移動する構成としたが、直線的な移動によって先端部11aが前記待機位置と前記加工位置との間を往復移動するように構成してもよい。
なお、押え部材33を高さ調整可能な構成として、被加工物Sの厚さに応じて高さ調整ができるようにしてあってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…ミシンフレーム、2…テーブル、3…針板、4…刺繍枠、5…X駆動機構、6…Y駆動機構、7…アーム、8…針棒ケース、9…ミシン主軸、10…縫針、11…ヒートカッター、11a…先端部、12…支持機構、13…昇降機構、14…ブラケット、15…ガイドベース、15a(15b,18c)…腕部、16…ガイドレール、17…スライド体、18…ベース部材、18a(18b)…側壁、19…ブラケット、20(30)…エアシリンダ、21…支承部材、22…プレート、23(32)…ストッパ、24…係止ピン、25…係止部材、26…位置決め部材、26a…溝、27…支持ブラケット、28…ピン、29…トーションバネ、31…作動板、33…押え部材、33a…押え部、33b…孔、M…ミシンヘッド、H…ヒートカット装置、S…被加工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍枠に保持された被加工物を部分的に加熱することにより、当該被加工物に対し加工を施す刺繍ミシンのヒートカット装置において、
加熱可能な先端部を有する加熱手段であって、前記加熱先端部が被加工物に押し当てられた加工位置、前記被加工物から離れた待機位置、前記待機位置よりも被加工物から離間した退避位置のいずれかに移動しうるものと、
前記刺繍枠に保持された被加工物を押える押え部材であって、該押え部材は被加工物を押えた作動位置、被加工物を押えていない非作動位置のいずれかに移動しうるものと、
前記押え部材の前記作動位置と前記非作動位置間の移動と、前記加熱先端部の前記待機位置と前記退避位置間の移動とを連動して行う連動駆動手段と、
前記押え部材が前記作動位置にある場合に、前記加熱先端部を前記待機位置と前記加工位置との間で移動駆動する加熱先端部駆動手段と
を備えるヒートカット装置。
【請求項2】
前記加熱先端部が前記待機位置と前記加工位置との間を移動するように前記加熱手段を移動可能に支持すると共に、前記押え部材を固定支持してなる支持部材を備えてなり、前記連動駆動手段は前記支持部材を前記被加工物に対して接離移動することにより、前記押え部材の前記作動位置と前記非作動位置間の移動と、前記加熱先端部の前記待機位置と前記退避位置間の移動とを連動して行うことを特徴とする請求項1に記載のヒートカット装置。
【請求項3】
前記加熱手段の移動動作を規制する規制部材をさらに備えてなり、該規制部材により前記押え部材下面からの前記加熱先端部の突出量が可変調整されることを特徴とする請求項2に記載のヒートカット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−228370(P2012−228370A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98581(P2011−98581)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000219749)東海工業ミシン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】