説明

刺繍ミシン

【課題】 アタッチメントの装脱着を必要としない内蔵型でありながら、XY移動機構の移動範囲を大きくすることの可能な刺繍ミシンを提供することを目的とする。
【解決手段】Y方向移動アーム1はベッド90に形成された切欠部3に収まるようになっており、常態ではミシン本体と一体化し、そのアーム上面10もベッド上面91と連続した平面を形成している。Y方向移動アーム1は回動可能になっており、ベッド背面93側の奥行き方向(Y方向)に突出し、稼働状態となり、刺繍枠を刺繍枠取付片19に装着する。Y方向移動アーム1はミシン本体内に納められたX方向移動装置4に連結し、該X方向移動装置4によりミシン本体の幅方向(X方向)に動かされ、また刺繍枠取付片19をY方向に移動し、ここに装着された刺繍枠をY方向に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、刺繍ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
刺繍ミシンは布を刺繍枠に装着し、この刺繍枠をXY方向に移動させて刺繍を行うものであるが、刺繍枠をXY方向に移動させるための機構には大別して2種類ある。その中の1つは、XY移動機構をミシン本体とは別のアタッチメントとし、刺繍時に該アタッチメントを取り付けて刺繍を行う外装型の刺繍ミシンである。他の1つは、XY移動機構をすべてミシン本体の内部に納める内蔵型である。
また外装型のアタッチメントに関して、Y方向移動機構を折りたたみ可能とした構成のものが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−237478号公報
【特許文献2】米国特許公開公報US2002/0083872A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前者の外装型の場合、アタッチメントが別体として存在して場所をとること、アタッチメントの装脱着に手間が掛かるなどの欠点がある。また、Y方向移動機構がベッドより高い位置にあるので、該アタッチメントをつけたまま通常のミシン縫いを行う場合に、作業がし難い問題があった。
また外装型でY方向移動機構を折りたたみ可能とした構成のものは、従来のものよりコンパクトにはなったが、Y方向移動装置がベッド上に位置する問題は解決していない。この場合、Y方向移動機構を低い位置に設定しようとすると、X方向移動機構と並べて配置する必要があるため、アタッチメントが大型化する問題がある。
一方内蔵型の場合には、上記した外装型の問題点はないが、XY方向の移動範囲が、ミシン本体の大きさに制限される問題があり、大型の刺繍を行うのが難しい欠点がある。
本発明は上記した従来の刺繍ミシンの問題点を解決するためになされたもので、アタッチメントの装脱着を必要としない内蔵型でありながら、XY移動機構の移動範囲を大きくすることの可能な刺繍ミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、刺繍対象物を保持する保持装置を、ミシン本体の幅方向に沿うX方向とミシン本体の奥行き方向に沿うY方向とに移動させて刺繍縫いを実行させる刺繍ミシンにおいて、ミシンのベッドの下側のベースに備えられて、前記保持装置をX方向に移動させるためのX方向移動機構と、該X方向移動機構に接続し、前記ベッドの背面側に露出し、X方向に移動可能な連結手段と、該連結手段に接続してX方向に移動可能であり、前記保持装置を接続して、該保持装置をY方向に移動させることが可能であるY方向移動機構と、を備え、前記Y方向移動機構は、前記ベッドの背面側からY方向に突出する位置と前記ベッドの背面側に沿う位置に、前記連結手段との連結部を軸として回動可能であり、前記Y方向移動機構は、前記ベッドの背面側に沿う位置にあるときは、その上面がベッド上面と同一レベルになる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の上記構成によれば、Y方向移動機構をミシン本体に内蔵していないため、Y方向の移動範囲がミシン本体の大きさに制限されることがなく、大型の刺繍枠を取り付けることが可能になり、大型の刺繍が実現できる。
しかも、X方向移動装置はミシン本体に内蔵され、ベッドの下側のベースに取り付けられているため、Y方向移動機構の位置を低い位置に設定することが可能であり、その上面をベッドの上面と同一レベルとすることができ、縫製作業時に邪魔になることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る刺繍ミシンを前側(操作者側)から見た斜視図であり、ベッド前面92側が表れている。ベースBの上にベッド90が設けられ、ベッド90からアーム立上部96が立ち上がり、アーム95に続いている。アーム95には表示部98が設けられ、また縫い針部Nが設置され、縫製と刺繍縫いを実行するようになっている。
ベッド90は、フリーアーム94、取外部97、固定部99に区分され、これらの上面は同一レベルに保たれて、全体でベッド上面91を形成するようになっている。このベッド上面91が縫製時に作業面となる。
取外部97を取り外すことにより、フリーアーム94はフリーアームとして機能するように構成されている。
なお、図示するようにミシン本体の幅方向をX方向、ミシン本体の奥行き方向をY方向とする。
【0008】
図2に示すように、ベッド背面93側にはY方向移動アーム1が装着されている。このY方向移動アーム1はベッド90に形成された切欠部3に収まるようになっており、常態ではミシン本体と一体化している。そして、そのアーム上面10もベッド上面91と同一レベルになっており、ベッド上面91と連続した平面を形成している。
【0009】
Y方向移動アーム1は回動可能になっており、図3に示すようにベッド背面93側の奥行き方向(Y方向)に突出するようになっている。Y方向移動アーム1はこの位置で、稼働状態となり、刺繍枠をY方向移動アーム1に設けられた刺繍枠取付片19に装着するように構成されている。
Y方向移動アーム1は後述するように、ミシン本体内に納められたX方向移動装置4に連結し、該X方向移動装置4によりミシン本体の幅方向(X方向)に動かされ、また刺繍枠取付片19をY方向に移動し、ここに装着された刺繍枠をY方向に移動する。この動作により刺繍枠をXY方向に移動させて刺繍を行うようになっている。
【0010】
切欠部3は、Y方向移動アーム1の外形に倣う形状の切欠部であり、Y方向移動アーム1を回動して収納したときに、Y方向移動アーム1の上面はベッド上面91とほぼ同一レベルの面になるようになっている。
Y方向移動アーム1は、この切欠部3において、X方向移動装置4と連結し、X方向に移動するようになっている。
切欠部3は、隙間36を残して、カバー30に覆われており、そのカバー上面35、35もアーム上面10と同一レベルの面になっている。また、刺繍枠取付片19もこれらと同一レベルの面になっている。
隙間36は、フリーアーム94との間に隙間を確保するために設けられており、この隙間36によりフリーアーム機能を確保している。隙間36をベッド上面91と同一面とするためのアダプタなど設けることも可能である。
【0011】
図3に示すように、カバー30にはY方向移動アーム1の外形とほぼ同一形状の収納部31と刺繍枠取付片19の外形とほぼ同一形状の凹部32が形成され、Y方向移動アーム1をミシン本体と一体化して収納するようになっている。
該カバー30は、Y方向移動アーム1と一緒にX方向に移動するようになっている。
【0012】
Y方向移動アーム1はアーム立上部96側を基部12とし、該基部12側をX方向移動装置4に連結し、基部12側を軸として回動し、先端部11側が開いてY方向に突出するように構成されている。アーム立上部96側にY方向移動アーム1を位置させることにより、アーム立上部96と刺繍枠との干渉を防止でき、刺繍枠を大きくすることが可能になるためである。
【0013】
図4により、Y方向移動アーム1の構成を更に詳細に説明する。図4はY方向移動アーム1のカバーリングを取り外した状態を示している。
Y方向移動アーム1はYガードレール13を有し、このYガードレール13上をYキャリッジ14が移動するようになっている。Yキャリッジ14には前記した刺繍枠取付片19が装着され、刺繍枠取付片19を介して刺繍枠が装着される。
Yキャリッジ14はYガードレール13の下側に設けられたY駆動ベルト18に固定され、Y駆動ベルト18の駆動により移動するようになっている。
Y駆動ベルト18はY駆動歯車16とYプーリ17の間に掛けわたされており、Yモータ15の稼働により回動するように構成されている。
【0014】
前記したY方向移動アーム1の基部12、即ちYガードレール13の基部12は、図5に示すように連結部2に結合され、この基部12側を軸に、ほぼ90度回動する。連結部2は回動基板20を備えており、該回動基板20が回動することによりY方向移動アーム1を回動させるようになっている。
図5では、Y方向移動アーム1はベッド背面93からほぼ90度方向に突出した位置にあり、この位置が刺繍を行う位置である。刺繍を行わない場合、Y方向移動アーム1を約90度回動させて、前記切欠部3に納める。この状態を図6に示す。
【0015】
連結部2はX方向移動装置4のX案内軸41上をX方向に移動するXキャリッジ40上に装着されている。
連結部2は図7と図8に示すように回動基板20と回動軸21とを備え、該回動軸21がXキャリッジ40に設けられた回動孔42に貫挿し、回動するように構成されている。
回動軸21はバネ23により常態では下方向に押し下げられており、一対の固定用突起22、22が張出時固定溝43又は収納時固定溝44に嵌挿され、且つバネ23の押し下げ力により、Xキャリッジ40上に固定されるようになっている。この状態ではY方向移動アーム1は回動しないようになっている。
【0016】
Xキャリッジ40には図9に示すように、90度の角度を有する張出時固定溝43又は収納時固定溝44が設けられており、回動基板20に180度対向して設けられた一対の固定用突起22、22が嵌挿されるようになっている。
Yガードレール13がY方向に突出した時には固定用突起22、22は張出時固定溝43に嵌挿し、Yガードレール13が切欠部3に収納されるときには、固定用突起22、22は収納時固定溝44に嵌挿されるように構成されている。
【0017】
回動軸21は押上げレバー24を押し下げると、押上げリンク25により上に持ち上げられるようになっており、この持ち上げにより、前記固定用突起22、22と張出時固定溝43又は収納時固定溝44の係合が解除されて、Y方向移動アーム1が回動できる状態となる。
押上げレバー24は図2に示すように、その先端がミシン本体の側面から露出している。
なお、5、5’は係合解除時に、アーム1を所定量回動させるための回動スプリングである。
【0018】
図10にX方向移動装置4の詳細を示す。
前記Xキャリッジ40は2本のX案内軸41、41上を移動するように構成されており、駆動ベルト45に連結している。該駆動ベルト45はXモータ46により駆動され、これによりXキャリッジ40はX方向に移動するようになっている。
以上のX方向移動装置4の機構は、ベースBに備えられている。
【0019】
以上の構成において、通常縫いの場合には、図2に示すようにY方向移動アーム1を切欠部3に収納しておく。この時、Y方向移動アーム1のアーム上面10はベッド上面91と同一面になるから、縫製作業を阻害することがなく、逆にベッド上面91を拡大することになるから利便性が向上する。また、カバー上面35、35、刺繍枠取付片19も同一面を形成するから、全体的に均一な作業面を得ることができる。
刺繍時には、図3に示すようにY方向移動アーム1をほぼ90度引き出し、刺繍枠取付片19に刺繍枠(図示せず)を固定し、刺繍を実行する。Y方向移動アーム1はミシン本体のY方向長さよりも大きくすることが可能であるから、Y方向の移動量を従来に内蔵型のものより大幅に増加することが可能になり、大型の刺繍を実現することが可能である。
また、Y方向移動アーム1は前記した連結部2の機構により、確実に固定されるため、確実な動作を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態を示す正面側の斜視図。
【図2】本発明の一実施形態を示す背面側の斜視図。
【図3】本発明の一実施形態の動作を示す背面側の斜視図。
【図4】本発明の一実施形態におけるY方向移動アーム1の構成を示す斜視図。
【図5】本発明の一実施形態におけるY方向移動アーム1とX方向移動装置4の構成を示す斜視図。
【図6】本発明の一実施形態における連結部2の構成を示す斜視図。
【図7】本発明の一実施形態における連結部2の構成を示す概略断面図。
【図8】本発明の一実施形態における連結部2の構成を示す他の斜視図。
【図9】本発明の一実施形態における回動基板20の構成を示す概略平面図。
【図10】本発明の一実施形態におけるX方向移動装置4の構成を示す斜視図。
【符号の説明】
【0021】
1:Y方向移動アーム、2:連結部、3:切欠部、4:X方向移動装置、5:回動スプリング、10:アーム上面、11:先端部、12:基部、13:Yガードレール、14:Yキャリッジ、15:Yモータ、16:Y駆動歯車、17:Yプーリ、18:Y駆動ベルト、19:刺繍枠取付片、20:回動基板、21:回動軸、22:固定用突起、23:バネ、24:押上げレバー、25:押上げリンク、30:カバー、31:収納部、32:凹部、35:カバー上面、36:隙間、40:Xキャリッジ、41:X案内軸、42:回動孔、43:張出時固定溝、44:収納時固定溝、45:駆動ベルト、46:Xモータ、90:ベッド、91:ベッド上面、92:ベッド前面、93:ベッド背面、94:フリーアーム、95:アーム、96:アーム立上部、97:取外部、98:表示部、99:固定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍対象物を保持する保持装置を、ミシン本体の幅方向に沿うX方向とミシン本体の奥行き方向に沿うY方向とに移動させて刺繍縫いを実行させる刺繍ミシンにおいて、
ミシンのベッドの下側のベースに備えられて、前記保持装置をX方向に移動させるためのX方向移動機構と、
該X方向移動機構に接続し、前記ベッドの背面側に露出し、X方向に移動可能な連結手段と、
該連結手段に接続してX方向に移動可能であり、前記保持装置を接続して、該保持装置をY方向に移動させることが可能であるY方向移動機構と、を備え、
前記Y方向移動機構は、前記ベッドの背面側からY方向に突出する位置と前記ベッドの背面側に沿う位置に、前記連結手段との連結部を軸として回動可能であり、
前記Y方向移動機構は、前記ベッドの背面側に沿う位置にあるときは、その上面がベッド上面と同一レベルになる、
ことを特徴とする刺繍ミシン。
【請求項2】
ベッド背面側に形成された前記Y方向移動機構を収納する切欠部を更に備え、
前記連結手段は、該切欠部において露出し、
前記Y方向移動機構はベッドの背面側に沿う位置に回動するときは、該切欠部に収納される、
請求項1の刺繍ミシン。
【請求項3】
Y方向移動機構はミシン本体のアーム立上部側において、前記連結手段と連結される、
請求項1又は2の刺繍ミシン。
【請求項4】
Y方向移動機構は、ミシン本体の幅方向長さとほぼ同じ長さを有する、
請求項1又は2又は3の刺繍ミシン。
【請求項5】
刺繍対象物を保持する保持装置を、ミシン本体の幅方向に沿うX方向とミシン本体の奥行き方向に沿うY方向とに移動させて刺繍縫いを実行させる刺繍ミシンにおいて、
ミシンのベッドの下側のベースに備えられて、前記保持装置をX方向に移動させるためのX方向移動機構と、
該X方向移動機構に接続し、前記ベッドの背面側に露出し、X方向に移動可能な連結手段と、
該連結手段に接続してX方向に移動可能であり、前記保持装置を接続して、該保持装置をY方向に移動させることが可能であるY方向移動機構と、を備え、
前記Y方向移動機構は、前記ベッドの背面側からY方向に突出する位置と前記ベッドの背面側に沿う位置に、前記連結手段との連結部を軸として回動可能であり、
前記連結手段は;
前記Y方向移動機構を支持し、前記X方向移動機構に対して回動可能な基板と、
該基板に設けられた突起部と、
X方向移動機構に設けられ、少なくともY方向移動機構がY方向に突出する位置にある時、前記突起部を嵌合する溝と、
前記基板とX方向移動機構側を互いに近接させる方向に力を加える近接手段と、
を有することを特徴とする刺繍ミシン。
【請求項6】
前記近接手段の力に抗して、前記突起部と溝の嵌合を解く、嵌合解除手段を備えた、
請求項5に記載の刺繍ミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−340958(P2006−340958A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170729(P2005−170729)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000002244)蛇の目ミシン工業株式会社 (79)
【Fターム(参考)】