説明

前処理液、捺染用布帛の防炎加工方法及び防炎性捺染用布帛

【課題】防炎性と染料の染着性とを高水準で両立し得る防炎性捺染用布帛、並びに、その実現を可能とする前処理液及び捺染用布帛の防炎加工方法を提供する。
【解決手段】前処理液は、捺染用布帛の前処理液であって、プルランと防炎剤とを含む。また、捺染用布帛の防炎加工方法は、捺染用布帛を、プルランと防炎剤とを含む前処理液に接触させる工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染用布帛の前処理液、捺染用布帛の防炎加工方法及び防炎性捺染用布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
布帛の染色方法として、インクジェットプリンターを利用した無製版捺染のインクジェット染色方法がある。インクジェット染色によれば、環境にやさしい小エネルギー・小ロットの染色が可能であり、コンピュータで作成された画像を各種インクで布帛上に形成することができる。
【0003】
ところで、学校、デパート、劇場、病院などの人が大勢集まる場所でのインテリア製品には防炎加工が義務付けられている。布帛の製品においては、防炎剤が染色を阻害しやすいことから、通常、染色後に防炎加工が施される。
【0004】
近年では、防炎性を有する捺染用布帛が提案されている。例えば、下記特許文献1には、CMCやアルギン酸ソーダなどの水溶性糊剤と難燃剤とを含む前処理液によって防炎性を付与したインクジェット捺染用布帛が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−31905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の前処理液で処理した捺染用布帛は、捺染後に十分な染色濃度が得られにくい色があり、染料の染着性の点で更なる改善の必要がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、防炎性と染料の染着性とを高水準で両立し得る防炎性捺染用布帛、並びに、その実現を可能とする前処理液及び捺染用布帛の防炎加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、捺染用布帛の前処理液であって、プルランと防炎剤とを含むことを特徴とする前処理液を提供する。
【0009】
本発明の前処理液によれば、捺染用布帛に接触させることで、防炎性と染料の染着性とを高水準で両立し得る防炎性捺染用布帛を得ることができる。
【0010】
本発明はまた、捺染用布帛を、本発明の前処理液に接触させる工程を備えることを特徴とする捺染用布帛の防炎加工方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、本発明の防炎加工方法によって防炎性が付与されたことを特徴とする防炎性捺染用布帛を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、防炎性と染料の染着性とを高水準で両立し得る防炎性捺染用布帛、並びに、その実現を可能とする前処理液及び捺染用布帛の防炎加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(前処理液)
本発明で用いられるプルランは、水に易溶で、接着性、皮膜性、保水性に優れ、pH安定性及び適度な粘性を有し、取扱い性に優れ、例えば、食品添加物として用いられるものなど公知のものが使用できる。布処理の観点から、プルランの平均分子量は、1万〜2万が好ましい。このようなプルランとしては、「プルランPI−20」(林原商事社製商品名)などの工業用各種プルランが商業的に入手可能である。
【0014】
本発明の前処理液におけるプルランの配合量は、1〜5質量%が好ましく、2〜4質量%がより好ましい。プルランの配合量が、1質量%未満であると、保水性が劣る傾向にあり、5質量%を超えると、染着や防炎性を阻害する傾向にある。
【0015】
防炎剤としては、例えば、公知のハロゲン系防炎剤やリン系防炎剤を用いることができる。本発明においては、ポリエステルに用いられるハロゲン系防炎剤やリン系防炎剤が好ましい。ハロゲン系防炎剤としては、例えば、1,2,5,6,9,10−ヘキサブロモシクロデカン、「ニッカファイノンCG−1」及び「ニッカファイノンTS−3」(以上、日華化学工業社製商品名)、並びに、「ピロガードF−800」(第一工業製薬社製商品名)などが挙げられる。リン系防炎剤としては、例えば、「ビゴールFV1010」、「ビゴールFV1030」及び「ビゴールFV2010」(以上、大京化学社製商品名)、並びに、「ホスコンFR−510N」(明成化学工業社製商品名)などが挙げられる。防炎剤は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
本発明の前処理液における防炎剤の配合量は、5〜30質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。防炎剤の配合量が、5質量%未満であると、防炎効果が十分に得られにくくなる傾向にあり、30質量%を超えると、染着を阻害する傾向にある。
【0017】
本発明の前処理液には、防炎性付与と同時に染着をより促進する目的で、染色助剤を配合することが好ましい。染色助剤としては、例えば、「サンフローレンSN」及び「サンフローレンPN」(以上、日華化学工業社製商品名)が挙げられる。本発明の前処理液における染色助剤の配合量は、2〜15質量%が好ましく、5〜10質量%がより好ましい。染色助剤の配合量が、2質量%未満であると、染着濃度が向上しにくくなる傾向にあり、15質量%を超えると、染着や防炎性を阻害する傾向にある。
【0018】
また、本発明の前処理液には、還元防止剤、pH調整剤、金属イオン封鎖剤などを配合することができる。還元防止剤としては、例えば、m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、ポリミンLなどが挙げられる。その配合量としては、前処理液全量を基準として0.5〜3質量%が好ましい。pH調整剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。金属イオン封鎖剤としては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸・2ナトリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸・4ナトリウムなどが挙げられる。
【0019】
本発明の前処理液は、上記成分を含む水溶液とすることができる。このとき、前処理液のpHは、染料の還元分解を防止して染料安定性を図る点で、4〜5.5が好ましい。
【0020】
(捺染用布帛の防炎加工方法)
本発明で用いられる捺染用布帛としては、例えば、ポリエステル、ポリエステル/綿からなる布帛などが挙げられる。布帛としては、上記に挙げた繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものであってもよい。上記の様な布帛を構成する糸の太さとしては、50〜150dの範囲が好ましい。
【0021】
本発明においては、捺染用布帛がポリエステル繊維からなるものであることが好ましい。ポリエステル繊維としては、例えば、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレートなどの繰り返し単位を有するものや、所定の染料に対して反応する官能基を有する共重合成分を共重合させた変性ポリエステル繊維が挙げられる。
【0022】
本発明の前処理液を捺染用布帛に接触させる方法としては、例えば、パディング法、片面塗布などが挙げられる。
【0023】
パディングや塗布により前処理液を含浸した捺染用布帛は、マングル装置などを用いて搾液することが好ましい。このときの絞り率については、前処理液中のプルラン濃度、布帛の厚さ、繊維の太さ、織り組織等で適宜設定することができる。前処理液の付着量の観点から、絞り率は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。なお、絞り率(%)は、下記式により求められる値である。
絞り率(%)={(前処理液の付着重量)/(捺染用布帛の重量)}×100
【0024】
搾液を行った捺染用布帛は所定の条件で乾燥される。乾燥は、例えば、布帛を吊るして自然乾燥した後、アイロンプレスなどの熱プレスや熱ロール乾燥により行うことができる。本発明においては、プルラン及び防炎剤を布帛に十分固着させる観点から、熱プレスすることが好ましい。
【0025】
こうして、防炎性が付与された本発明に係る防炎性捺染用布帛を得ることができる。
【0026】
本発明の防炎性捺染用布帛は、インクジェット捺染などに用いることができ、防炎性インクジェット捺染用布帛として用いることができる。
【0027】
インクジェット捺染の方法としては、例えば、サーマル方式、コンテティニュアス方式、及びピエゾ方式などのインクジェット方式を用いることができる。
【0028】
また、捺染に用いられる染料としては、分散染料、反応染料、酸性染料などを用いることができる。
【0029】
分散染料としては、非昇華性のものが好ましい。
【0030】
反応染料としては、例えば、高温型のモノクロルトリアジン型、二官能型反応染料を用いることができる。
【0031】
本発明の防炎性捺染用布帛を捺染した後、防炎剤及び染料を十分固着させる観点から、所定の後処理を施すことが好ましい。後工程としては、例えば、分散染料を用いてインクジェット捺染を施した場合、捺染後の布帛に染料を定着する定着工程、未固着の染料を除去する除去工程などが挙げられる。
【0032】
定着工程としては、例えば、捺染後の布帛に対して高熱又は高熱の蒸気により定着操作を行うことが挙げられる。より具体的には、例えば、高温蒸し機(HTスチーマー)では、130〜140℃で30分程度処理するのが好ましく、熱プレス機では、180〜190℃で1〜2分程度処理するのが好ましい。
【0033】
除去工程としては、例えば、上記の熱処理後の布帛を常温の水で水洗することが挙げられる。また、未固着の低分子化合物及び未染着染料を還元分解して除去する還元洗浄(R.C.洗浄)を行ってもよい。その後、布帛を乾燥させる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
<前処理液の調整>
配合成分として、下記の薬剤を準備した。
「プルランPI−20」(林原商事社製商品名)(以下、PI−20と略記する)。
「アルギン酸ナトリウム」(藍熊染料社製)(以下、NaAlgと略記する)。
「1,2,5,6,9,10−ヘキサブロモシクロデカン」(和光純薬工業社製、ハロゲン系防炎剤)(以下、6Brと略記する)。
「ニッカファイノンCG−1」(日華化学工業社製商品名、ハロゲン系防炎剤)(以下、CG−1と略記する)。
「ビゴールFV1010」(大京化学社製商品名、リン系防炎剤)(以下、FV1010と略記する)。
「ビゴールFV1030」(大京化学社製商品名、リン系防炎剤)(以下、FV1030と略記する)。
「ビゴールFV2010」(大京化学社製商品名、リン系防炎剤)(以下、FV2010と略記する)。
「ホスコンFR−510N」(明成化学工業社製商品名、リン系防炎剤)(以下、FR510Nと略記する)。
「サンフローレンSN」(日華化学工業社製商品名)(以下、S−SNと略記する)。
「サンフローレンPN」(日華化学工業社製商品名)(以下、S−PNと略記する)。
「m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム」(和光純薬工業社製)(以下、mNBSNaと略記する)。
「クエン酸」(和光純薬工業社製)。
「エチレンジアミンテトラ酢酸・2ナトリウム」(和光純薬工業社製)(以下、EDTAと略記する)。
【0036】
上記の薬剤を用いて、表1〜3に示す組成(質量部)を有する処理液1〜15及び処理液C−1〜C−6をそれぞれ調製した。
【0037】
【表1】



【0038】
【表2】



【0039】
【表3】



【0040】
<前処理液による捺染用布帛の防炎加工>
被染布として、ポリエステル(レギュラータイプの100%トロピカル織物(以下、PET布と略記する)を準備した。次に、40cm×120cmに裁断したPET布に、上記で調製した前処理液を含浸し、マングル装置(澤村化学機械工業社製)で搾液(絞り率:約90%)し、自然乾燥後、アイロン(中温)による熱プレスにより仕上げ、防炎加工が施されたPET布を得た。処理液1〜15及び処理液C−1〜C−6により防炎加工が施されたPET布をそれぞれ、防炎加工済PET布1〜15及び防炎加工済PET布C−1〜C−6とした。
【0041】
<防炎加工済PET布の捺染>
上記で得られた防炎加工済PET布に、インクジェットプリンター「Textile Jet Tx−1600S」(ミマキエンジニアリング社製)を用いて、画像(10cm×5cmの長方形)をプリントした。なお、画像のプリントは、単色(Y、M、B、K)、2色配合(Y+M、M+B、Y+B)の分散染料インクをそれぞれ用いて、720×720dpi、単方向4パス、インク濃度10〜100%(単色)又は10〜200%(2色配合)の条件で行った。
【0042】
次いで、プリント後のPET布を、定温乾燥機内にて170〜180℃で1〜3分間加熱する、又は、アイロン高熱プレス若しくは熱プレス機により180〜190℃で60〜90秒間加熱することにより、防炎剤の固着及び染料の染着を行った。
【0043】
次いで、加熱処理後のPET布を、「サンモールRC−700E」(日華化学工業社製商品名)を1質量%、アルカリ剤として無水炭酸ナトリウム(和光純薬工業社製)を1質量%、及びハイドロサルファイトナトリウム(和光純薬工業社製)を2質量%含む洗浄液に、浴比1:100、70〜80℃の条件で5〜10分間浸漬した。その後、水洗を行い、脱水後、アイロン仕上げした。
【0044】
こうして得られた捺染後の防炎加工済PET布について、下記の方法に基づいて染着性及び防炎性を評価した。
(染着性の評価)
測色計「SMカラーコンピュータ SM−2型」(スガ試験機株式会社製)を用いて、PET布にプリントした画像の明度(L)、色度(a、b)を測定し、白布を基準とする色差(ΔEab)を計算した。なお、ΔEabは下記式により算出される。
ΔEab={(L+(a+(b1/2
色差(ΔEab)はみかけの染色濃度を表し、この値に基づいて、下記の4段階の評価で染着性を評価した。
A:高い
B:同等
C:やや低い
D:低い
【0045】
(防炎性の評価)
JIS L 1091−2004(A−3法 水平法)に準拠して、PET布の燃焼試験を実施した。PET布の溶融時間(秒)(点火によりPET布が溶融して穴が空くまでの時間)及び燃焼長さ(mm)(燃焼した部分の縦と横の長さの平均値)を表4及び表5に示す。
【0046】
【表4】



【0047】
【表5】



【0048】
また、処理液8及び13が、他の処理液に比べて、防炎性及び染着性の双方を高水準で両立できることが確認された。
【0049】
一方、アルギン酸ナトリウムを配合した処理液C−1の場合、PET布に防炎性を付与することはできたものの、マゼンタにおいて染色濃度の低下が見られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
捺染用布帛の前処理液であって、
プルランと防炎剤とを含むことを特徴とする前処理液。
【請求項2】
捺染用布帛を、請求項1に記載の前処理液に接触させる工程を備えることを特徴とする捺染用布帛の防炎加工方法。
【請求項3】
請求項2に記載の防炎加工方法によって防炎性が付与されたことを特徴とする防炎性捺染用布帛。


【公開番号】特開2010−106377(P2010−106377A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277292(P2008−277292)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】