説明

前照灯制御装置

【課題】前方車両との相対速度に応じて、安全な夜間走行が可能となるように前照灯を制御することができる前照灯制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】前照灯のハイビームとロービームとの切り換えを制御する前照灯制御部14と、前方車両を検出する前方車両検出部11と、前方車両との車間距離を検出する車間距離検出部12と、前方車両の相対速度を検出する相対速度検出部13とを備え、前照灯制御部14は、前方車両を検出した場合、相対速度検出部13で検出した相対速度に対応する該当車間距離閾値を決定し、車間距離検出部12で検出した車間距離が該当車間距離閾値を超えたことを条件として前照灯2をロービームからハイビームに切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車の前方で走行する前方車両との距離や速度に応じて前照灯を制御する前照灯制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の前照灯(ヘッドランプ)は、車両前方遠方を照射するハイビーム(走行用ビーム)と、車両前方近傍を照射するロービーム(すれ違いビーム)とを切り替え可能に構成されている。
【0003】
自車の前方に前方車両が走行している場合には、その前方車両の運転者の視界の妨げにならないように、前照灯をロービームにして走行する。一方、前方車両がない場合には、良好な視界が得られるように、前照灯をハイビームにして走行する。
【0004】
このように、前方車両との関係で前照灯のハイビーム、ロービームを手動で切り替えるのが一般的であるが、近年は、前方車両の有無を検出して、前照灯のハイビームとロービームとを自動的に切り換える装置が開発されている。
【0005】
例えば、前方車両が走行していることを画像処理により検出したとき、前照灯がハイビームである場合には前照灯をロービームに切り替え、画像処理の結果、前方車両が確認されず前照灯がロービームである場合には、前照灯をハイビームに切り換えるようにした装置がある。
【0006】
このような装置では、前方車両の有無に応じて、前照灯を自動的に切り替えることができる。しかし、前方車両の有無により前照灯を判断するので、その前方車両との距離が十分であるにもかかわらず前照灯をロービームのままとしてしまう状況があり得る。
【0007】
そこで、前方車両との車間距離及び自車両の車速とに基づいて、前照灯をロービームからハイビームに切り替える装置がある(特許文献1参照)。このような装置によれば、前方車両の有無だけではなく、車間距離及び自車両の車速に応じて、前照灯を自動的に切り替えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平6−67704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に係る装置では、前照灯の切り替えの判断は、自車両の車速と前方車両との車間距離である。しかし、前方車両の速度(自車との相対速度)によっては、前方車両が自車両に近づく場合や、遠ざかる場合、若しくはどの程度の速さで遠ざかるのかなど、様々な状況があり得る。
【0010】
前方車両の相対速度によっては、前照灯をハイビームにしても前方車両の運転者の視界を妨げないにも関わらず、ロービームのままとしてしまう状況があり得る。このような状況においては、より安全な夜間走行を実施する観点から、速やかにハイビームに切り替えることが好ましい。
【0011】
しかし、特許文献1に係る装置は、前方車両の相対速度を考慮したものではないので、そのような状況に対応してハイビームに切り替えることができない。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、前方車両との相対速度に応じて、より安全な夜間走行が可能となるように前照灯を制御することができる前照灯制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、車両の前照灯のハイビームとロービームとの切り換えを制御する前照灯制御手段と、前記車両の前方を走行する前方車両を検出する前方車両検出手段と、前記前方車両との車間距離を検出する車間距離検出手段と、前記前方車両の前記車両に対する相対速度を検出する相対速度検出手段と、前記相対速度に対応して設定された車間距離閾値を保持する保持手段とを備え、前記前照灯制御手段は、前記前方車両検出手段で前方車両を検出した場合、前記保持手段に保持された車間距離閾値のうち、前記相対速度検出手段で検出した相対速度に対応するものを該当車間距離閾値として決定し、前記車間距離検出手段で検出した車間距離が該当車間距離閾値を超えたことを条件として前記前照灯をロービームからハイビームに切り替えることを特徴とする前照灯制御装置にある。
【0014】
かかる第1の態様では、前方車両の相対速度に応じた該当車間距離閾値を決定し、車間距離と比較するようにした。これにより、相対速度が速い場合はより短い該当車間距離閾値を用い、相対速度が遅い場合はより長い該当車間距離閾値を用いて、車間距離と比較することができる。この結果、相対速度に適した車間距離のときに、前照灯をハイビームにすることができる。例えば、速く遠ざかる前方車両に対しては、より短い車間距離で、すなわち、より早いタイミングで前照灯をハイビームに切り替えることができる。これにより、車両の運転者は、より安全な夜間走行が可能となる。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する前照灯制御装置において、前記車間距離検出手段は、前記車両に搭載された撮像手段により撮像された前記前方車両の画像データを画像処理することで前記車間距離を検出し、前記相対速度検出手段は、前記車間距離検出手段により検出された車間距離の所定時間における変化量を計算して前記相対速度を検出することを特徴とする前照灯制御装置にある。
【0016】
かかる第2の態様では、前方車両の有無、車間距離及び相対速度を、全て画像データを画像処理することにより検出する。すなわち、撮像手段とこの画像データを処理するプログラムがあれば車間距離等を得ることができる。昨今では、撮像手段を備える車両が増えている。このような車両においては、車間距離等を得るための特別な計測機器を新たに搭載することが不要であるので、低コストで本態様の発明を実施することができる。
【0017】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載する前照灯制御装置において、前記相対速度に対応して設定された車間距離閾値は、所定の閾値未満である相対速度に対応して設定された第1車間距離閾値、及び当該所定の閾値以上である相対速度に対応して設定された第2車間距離閾値であり、前記第2車間距離閾値は、前記第1車間距離閾値よりも小さく、前記前照灯制御手段は、前記前方車両検出手段で前方車両を検出した場合、前記保持手段に保持された前記第1車間距離閾値及び前記第2車間距離閾値のうち、前記相対速度検出手段により検出された相対速度に対応するものを該当車間距離閾値として決定し、前記車間距離検出手段で検出した車間距離が該当車間距離閾値を超えたことを条件として前記前照灯をロービームからハイビームに切り替えることを特徴とする前照灯制御装置にある。
【0018】
かかる第3の態様では、車間距離閾値として二つの第1車間距離閾値及び前記第2車間距離閾値を用いる。これにより、車間距離の判定を速くすることができ、また、前照灯制御手段の実装が容易になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る前照灯制御装置によれば、前方車両の相対速度に応じた該当車間距離閾値を用いて、前照灯をハイビームに切り替える。これにより、前方車両が速く遠ざかる場合などでは、より早く前照灯をハイビームに切り替えることができる。このように、前方車両の相対速度に応じてハイビームに切り替える車間距離(タイミング)を変えることで、より速やかに前照灯をハイビームに切り替えることが可能となり、より安全な夜間走行が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施形態に係る前照灯制御装置の概略構成図である。
【図2】前照灯制御装置の機能ブロック図である。
【図3】前照灯制御装置で行われる処理のフローチャートである。
【図4】車間距離及び相対速度に基づいて行われる前照灯の切り替えを説明する概略図である。
【図5】前照灯をハイビームに切り替えるタイミングを説明するグラフである。
【図6】相対速度と車間距離閾値との関係を示す図である。
【図7】前方車両の相対速度及び車間距離について説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〈実施形態1〉
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。図1は、本実施形態に係る前照灯制御装置の概略構成図である。
【0022】
図示するように、前照灯制御装置10は、車両1(以下、自車両ともいう)に搭載されている。前照灯制御装置10には、自車両1の前方に配設された前照灯2と、前照灯2のOn/Off等を操作する前照灯操作装置3と、自車両1の前方を撮影するCCDカメラ(撮影手段)4とが接続されている。
【0023】
前照灯2は、ハイビームとロービームとを切り替え可能に構成されており、自車両1の前端部の車幅方向両端(一方は図示していない)に一つずつ配置されている。
【0024】
前照灯操作装置3は、自車両1内部に備えられたステアリング5の回転軸付近に配設されている。前照灯操作装置3は、ターンシグナルレバー及びランプスイッチ(共にに図示せず)を備えている。ランプスイッチは、前照灯2を消灯するOFF位置、点灯するON位置、後述するハイビーム、ロービームの切り替え等を制御するAUTO位置への切り換え操作が可能に構成されている。また、ターンシグナルレバーは、方向指示器(ウィンカー)の点灯と、前照灯のハイビーム・ロービームを切り替える操作が可能に構成されている。例えば、ターンシグナルレバーを上下方向に傾倒させることで左右の方向指示器が点灯するように構成されている。また、ターンシグナルレバーを前後方向に傾倒させることで前照灯2の点灯状態において自車両1の前方近傍を照射するロービームと、自車両1の前方遠方を照射するハイビームとの切り換え操作が可能に構成されている。前照灯操作装置3の状態は、前照灯制御装置10で検出されるように構成されており、その状態に応じて、前照灯制御装置10により前照灯2の消灯・点灯、ハイビーム・ロービームの切り替え等が行われる。
【0025】
CCDカメラ4は、自車両1の前方を撮影するものであり、車両1のルームミラー(図示せず)に取り付けられている。CCDカメラ4は、自車両1の前方を撮った像を、画像データとする。画像データは、CCDカメラ4の画素数分のピクセルから構成され、各ピクセルは、当該ピクセルの色を例えばRGBの各色で表した数値から構成されている。このような画像データは、所定間隔、例えば1/30秒ごとに形成され、前照灯制御装置10に送信されるように構成されている。また、CCDカメラ4は、前照灯制御装置10から受信した制御信号に基づいて、撮像の開始、終了、フォーカスの変更などの各種動作が制御可能に構成されている。なお、CCDカメラ4の取り付け位置は、ルームミラーに限定されず、車両1の前方を撮影可能な位置であればよい。
【0026】
図2は、前照灯制御装置10の機能ブロック図である。前照灯制御装置10は、前方車両検出部(前方車両検出手段)11、車間距離検出部(車間距離検出手段)12、相対速度検出部(相対速度検出手段)13及び前照灯制御部(前照灯制御手段)14を備えている。
【0027】
前照灯制御装置10自体は、ECU(電子制御ユニット)と呼ばれる電子制御装置であり、特に図示しないが、プログラム、制御マップや演算用に用いる記憶装置(ROM、RAM等)、演算処理を行う中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ、制御信号の入出力を担うインターフェース等から構成されている。
【0028】
上述した各部11〜14は、前照灯制御装置10の上述したハードウェア上で実行されるプログラムとして実装されたものである。
【0029】
前方車両検出部11は、CCDカメラ4より送信された画像データを受信し、当該画像データを処理することにより、前方車両を検出する。この前方車両の検出方法は、特に限定されず、公知の画像認識技術を用いることができる。例えば、画像データにエッジ検出処理を適用することで、前方車両を検出してもよい。また、前方車両のテールランプにより発光した部分の色や輝度を検出することで、前方車両を検出してもよい。
【0030】
車間距離検出部12は、CCDカメラ4より送信された画像データを受信し、当該画像データを画像処理することにより、自車両1と前方車両との車間距離を検出する。この車間距離の検出は、公知の計測技術、例えば、レンズ焦点法や、ステレオ法などの、いわゆる受動型の計測手法を用いることができる。
【0031】
具体的には、レンズ焦点法の場合、CCDカメラ4に制御信号を送信して、レンズのフォーカス位置を駆動しながら、得られた画像データから最もよく合焦しているときの画像データを求める。その最もよく合焦したときのフォーカス位置から、CCDカメラ4(自車両1)と前方車両との車間距離を求めることができる。
【0032】
ステレオ法を用いる場合は、自車両1の車幅方向両側に一台ずつCCDカメラ4を配設するなどして、複数台のCCDカメラ4から画像データが相対速度検出部13に送信されるように構成する。そして、相対速度検出部13は、これらの画像データから三角測量の原理で車間距離を求めることができる。
【0033】
相対速度検出部13は、前方車両の相対速度を検出する。この相対速度の検出方法は特に限定されないが、例えば、車間距離検出部12が画像データに基づいて検出した車間距離を用いて検出することができる。具体的には、時刻tで得られた画像データに基づく車間距離Dt1を車間距離検出部12より取得する。さらに、その後の時刻tで得られた画像データに基づく車間距離Dt2を車間距離検出部12より取得する。そして、次式より、自車両1に対する前方車両の相対速度Vが求まる。
V=(Dt2−Dt1)/(t−t
【0034】
前照灯制御部14は、前方車両検出部11から前方車両が検出されたことを表す信号を受信したとき、車間距離検出部12で検出した車間距離及び相対速度検出部13で検出した相対速度に基づいて前照灯2を制御する。この制御は、前照灯操作装置3のランプスイッチがAUTO位置に切り替えられているときに行われる。
【0035】
具体的には、前照灯制御部14は、相対速度検出部13により検出された相対速度と、予め設定された相対速度閾値とを比較する。相対速度閾値とは、相対速度と比較される閾値であり、この相対速度閾値以上であるか否かにより、後述する処理で用いる車間距離閾値が定まる。
【0036】
車間距離閾値とは、車間距離検出部12で検出された前方車両との車間距離がその車間距離閾値を超えた場合に、前照灯2をハイビームに切り替えるための閾値である。本実施形態では、車間距離閾値は2つ設定されている。
【0037】
すなわち、相対速度閾値未満である相対速度に対しては、第1車間距離閾値(以下、閾値D)が設定され、相対速度閾値以上である相対速度に対しては、第2車間距離閾値(以下、閾値D)が設定されている。この閾値Dは、閾値Dよりも小さく設定されている。本実施形態では、これらの閾値D及び閾値Dは、記憶装置(例えばROM)に記憶されている。記憶装置は、請求項の「相対速度に対応して設定された車間距離閾値を保持する保持手段」としても機能するものである。
【0038】
前照灯制御部14は、相対速度検出部13により検出された相対速度が相対速度閾値未満であれば、閾値Dを選択し、相対速度閾値以上であれば、閾値Dより小さい閾値Dを選択する。
【0039】
そして、前照灯制御部14は、上述のようにして決定された閾値D又は閾値D(請求項でいう該当車間距離閾値である)と、車間距離検出部12で検出された車間距離とを比較する。車間距離が該当車間距離閾値(閾値D又は閾値D)を超えたことを条件に、前照灯2をハイビームに切り替える。
【0040】
「車間距離が該当車間距離閾値を超えた」か否かの判定は、種々の態様を挙げることができる。例えば、一瞬でも、車間距離が該当車間距離閾値を超えれば、「車間距離が該当車間距離閾値を超えた」と判定してもよい。他にも、車間距離が該当車間距離閾値を超え、かつその状態が所定時間続いたときに「車間距離が該当車間距離閾値を超えた」と判定しても良い。
【0041】
なお、前照灯制御部14は、ランプスイッチがAUTO位置以外の場合は、ランプスイッチやターンシグナルレバーの状態に応じて前照灯2を制御する。例えば、前照灯制御部14は、ランプスイッチがOFF位置にある場合、前照灯2を消灯し、ON位置にある場合、前照灯2を点灯する。また、前照灯制御部14は、前照灯2の点灯状態において、ターンシグナルレバーが前方に傾倒している場合、前照灯2をハイビームにし、ターンシグナルレバーが後方に傾倒している場合、前照灯2をロービームにする。
【0042】
図3は、前照灯制御装置で行われる処理のフローチャートである。図4は、車間距離及び相対速度に基づいて行われる前照灯の切り替えを説明する概略図である。これらの図を用いて、上述した構成の前照灯制御装置10で行われる処理を詳細に説明する。なお、前提として、ランプスイッチがAUTO位置にあり、前照灯2がロービームであるという状態で自車両1が走行しているとする。
【0043】
まず、前照灯制御装置10の前照灯制御部14は、前方車両の有無を判定する(ステップS1)。具体的には、前照灯制御部14は、前方車両検出部11から、前方車両を検出したことを表す情報を受信したならば(ステップS1:Yes)次の処理に進む。前方車両を検出していないことを表す情報を受信したならば(ステップS1:No)、前照灯制御部14は、始めに戻り、所定時間経過後にステップS1の処理を再度行う。
【0044】
次に、前照灯制御部14は、車間距離検出部12が検出した前方車両の車間距離を取得する(ステップS2)。この車間距離をDと表す。また、前照灯制御部14は、相対速度検出部13が検出した前方車両の相対速度を取得する(ステップS3)。この相対速度をVと表す。
【0045】
次に、前照灯制御部14は、相対速度Vと、予め設定された相対速度閾値(以下、閾値Vという)とを比較する(ステップS4)。相対速度Vが閾値V未満であるとき(ステップS4:Yes)、車間距離Dと閾値Dとを比較する(ステップS5)。
【0046】
比較の結果、車間距離Dが閾値D以下ならば(ステップS5:No)、ステップS1に戻る。すなわち、前照灯2をロービームからハイビームに切り替えない。
【0047】
このときの自車両1と前方車両との関係を図4(a)に表す。同図に示すように、前方車両6の相対速度Vは、閾値V未満である。すなわち、比較的遅い相対速度で走行している状態である。ステップS5でNoと判定される状態は、車間距離Dが、このような遅い相対速度Vに対応して設定された閾値Dに達していない状態である。このような状態では、自車両1に対して前方車両6との車間距離Dが十分ではなく、かつ、それほど速く自車両1から離れて行かないので、自車両1はロービームの状態を維持する。
【0048】
一方、図3に示したように、車間距離Dが閾値Dを超えているならば(ステップS5:Yes)、前照灯2をロービームからハイビームに切り替える(ステップS6)。
【0049】
このときの自車両1と前方車両との関係を図4(b)に表す。同図に示すように、前方車両6の相対速度Vは、閾値V未満である。しかし、車間距離Dは、相対速度Vに対応して設定された閾値Dを超えている状態である。すなわち、自車両1に対して前方車両6との車間距離Dが十分であるので、自車両1はロービームからハイビームに切り替える。
【0050】
ここで、前照灯制御部14は、相対速度Vが閾値V以上であるときは(ステップS4:No)、閾値Dではなく、閾値Dを用いて車間距離Dと比較する(ステップS7)。
【0051】
比較の結果、車間距離Dが閾値D以下ならば(ステップS7:No)、ステップS1に戻る。すなわち、前照灯2をロービームからハイビームに切り替えない。
【0052】
一方、車間距離Dが閾値Dを超えているならば(ステップS7:Yes)、前照灯2をロービームからハイビームに切り替える(ステップS6)。
【0053】
このときの自車両1と前方車両との関係を図4(c)に表す。同図に示すように、前方車両6の相対速度Vは、閾値V以上である。すなわち、比較的速い相対速度で走行している状態である。ステップS7でYesと判定される状態は、車間距離Dが、このような速い相対速度Vに対応して設定された閾値Dを超えている状態である。このような状態では、前方車両6が比較的速く自車両1から離れて行き、かつ車間距離Dが十分であるので、自車両1は前照灯2をロービームからハイビームに切り替える。
【0054】
このように図4(b)及び図4(c)はいずれも、自車両1の前照灯2がハイビームに切り替わる。しかし、図4(c)に示すように、前方車両6の相対速度Vが閾値V以上ならば、閾値Dよりも小さい閾値Dが採用されるので、自車両1は、より早く前照灯2をハイビームに切り替えることができる。図5を用いて、このことを詳細に説明する。
【0055】
図5は、前照灯をハイビームに切り替えるタイミングを説明するグラフである。横軸は時刻、縦軸は車間距離を表している。原点を通る直線の傾きは、前方車両6の相対速度を表している。各直線は、その傾きが表す相対速度で前方車両6が走行したときの車間距離と時間との関係を表している。
【0056】
直線Lの傾きは閾値Vを表している。直線Lslowは、直線Lの傾きよりも緩やかな直線であり、直線Lfastは、直線Lの傾きよりも急な直線である。
【0057】
直線Lslowの場合、すなわち、前方車両6が閾値Vよりも遅い相対速度Vslowで走行している場合、閾値Dが用いられる。したがって、前方車両6が、車間距離Dがゼロの状態から、Lslowの傾きで表される相対速度で走行し続ければ、時刻がTslowに達したとき、車間距離Dが閾値Dに達する。このとき、自車両1では前照灯制御装置10により前照灯2がハイビームに切り替えられる。
【0058】
一方、直線Lfastの場合、すなわち、前方車両6が閾値Vよりも速い相対速度Vfastで走行している場合、閾値Dが用いられる。したがって、前方車両6が、車間距離Dがゼロの状態から、Lfastの傾きで表される相対速度で走行し続ければ、時刻がTfastに達したとき、車間距離Dが閾値Dに達する。このとき、自車両1では前照灯制御装置10により前照灯2がハイビームに切り替えられる。
【0059】
ここで、仮に、どの様な相対速度であっても車間距離閾値が一定、例えば閾値Dであったとする。直線Lfastの場合、車間距離Dが閾値Dに達するのは時刻Tの時である。
【0060】
一方、本発明では、直線Lfastの場合、閾値Dよりも小さい閾値Dを用いるので、車間距離Dが閾値Dに達するのは時刻Tfastの時であり、これは、時刻Tよりも速い。つまり、本発明では、どの様な相対速度であっても一定の車間距離閾値を用いる場合よりも速く、前照灯2をハイビームにすることができる。
【0061】
以上に説明したように、本実施形態に係る前照灯制御装置10では、前方車両6の相対速度Vに応じて、閾値D又は閾値Dと車間距離とを比較するようにした。これにより、相対速度Vが速い場合はより短い閾値Dを用い、相対速度Vが遅い場合はより長い閾値Dを用いて、車間距離と比較することができる。この結果、相対速度Vが閾値Vを超える速さであるならば、より短い車間距離、すなわち、より早く前照灯2をハイビームに切り替えることができ、より安全な夜間走行が可能となる。
【0062】
また、閾値D以下の短い閾値Dでハイビームに切り替えても、前方車両は閾値Vを超える十分な速さの相対速度Vで自車両1から遠ざかるので、前方車両6の運転者の視界がハイビームで妨げられることはない。万が一、運転者の視界にハイビームが入ったとしても、前方車両6は自車両1から速やかに遠ざかるので、そのような状況はすぐに解消される。
【0063】
さらに、本実施形態では、前方車両の有無、車間距離及び相対速度は、全てCCDカメラ4から得られた画像データを画像処理することにより検出した。すなわち、CCDカメラ4とこの画像データを処理するプログラムがあれば車間距離等を得ることができる。CCDカメラ4など撮像手段を備えた車両においては、そのCCDカメラ4をそのまま利用できるので、車間距離等を得るための特別な計測機器を新たに搭載することが不要となり、低コストで本発明を実施することができる。
【0064】
また、前方車両検出手段として、画像処理により前方車両を検出する前方車両検出部11を用いたが、このような態様に限られない。例えば、レーザーレーダー装置を自車両1に取り付け、この装置により前方車両を検出してもよい。
【0065】
さらに、車間距離検出手段として、画像処理により車間距離を検出する車間距離検出部12を用いたが、このような態様に限られない。例えば、自車両1に、前方に光を発する光源を取り付け、この光が前方車両に反射して返ってくるまでの時間を計測することで車間距離を計測する光レーザー法を用いて車間距離を検出してもよい。他にも、アクティブステレオ法、照度差ステレオ法などいわゆる能動型の計測を行う計測装置により車間距離を検出してもよい。
【0066】
なお、上述した実施形態に係る前照灯制御装置10では、前照灯2がロービーム状態であることを前提として、所定条件のときにハイビームに切り替える処理が行われるが、これに限定されない。例えば、ランプスイッチがAUTO位置にあり、前照灯2がハイビームであり、車間距離Dが閾値D又は閾値D未満であれば、前照灯2をロービームに切り替える処理を行ってもよい。
【0067】
〈実施形態2〉
実施形態1では、相対速度に応じて用いられる車間距離閾値として、閾値D及び閾値Dの2つを用いたが、本発明は、3つ以上の車間距離閾値を用いてもよい。例えば、N個の車間距離閾値を用いる場合は、相対速度閾値をN−1個設定する。
【0068】
図6(a)に、Nが3のときの相対速度と車間距離閾値との関係を示す。横軸は相対速度を表し、縦軸は車間距離閾値を表している。
【0069】
同図に示すように、相対速度閾値としてV、Vの2つが設定されている。相対速度が0以上V未満であれば車間距離閾値はDである。同様に、相対速度がV以上V未満であれば車間距離閾値はDであり、相対速度がV以上であれば車間距離閾値はDである。
【0070】
前照灯制御部14は、3つの車間距離閾値D、D、Dのうち、相対速度に応じた何れか一つを該当車間距離閾値として決定する。
【0071】
そして、前照灯制御部14は、車間距離検出部12で検出した車間距離が、該当車間距離閾値(D〜Dの何れか)を超えているか否かを判定し、超えているならば前照灯2をロービームからハイビームに切り替える。
【0072】
他にも、相対速度と車間距離閾値との関係を連続的に設定してもよい。例えば、図6(b)に示すように、相対速度に対して一つの車間距離閾値が定まるような関数を設定してもよい。この場合、前照灯制御部14は、相対速度検出部13から相対速度Vを取得し、当該関数から、その相対速度Vに対応するものを該当車間距離閾値Dとして決定する。
【0073】
そして、前照灯制御部14は、車間距離検出部12で検出した車間距離が、該当車間距離閾値Dを超えているか否かを判定し、超えているならば前照灯2をロービームからハイビームに切り替える。
【0074】
上述したような、相対速度を入力として車間距離閾値を出力する関数は、請求項の「相対速度に対応して設定された車間距離閾値を保持する保持手段」の一例である。具体的には、そのような関数をECUで実行されるプログラムとして実装すればよい。
【0075】
なお、関数は図示したような一次直線に限らず、曲線状の関数であってもよい。図6(a)のような階段状の場合や、図6(b)のような関数の場合のように、相対速度が速ければ速いほど、車間距離閾値が同じであるか又は小さくなるように、相対速度と車間距離閾値との関係を設定すればよい。
【0076】
ここで、前方車両の相対速度及び車間距離について言及する。図7は、前方車両の相対速度及び車間距離について説明する平面図である。図7(a)に示すように、自車両1と前方車両6とが同一方向に進行しているときは、その進行方向における自車両1に対する前方車両6の速度Vが、本発明でいう前方車両の相対速度となる。また、その進行方向における車間距離Dが本発明でいう自車両と前方車両との車間距離となる。
【0077】
一方、図7(b)に示すように、カーブなどでは、自車両1と前方車両6との進行方向が異なる場合がある。同図は、自車両1の進行方向をY方向、それに直交する方向をX方向としてある。このような相対速度Vと相対速度閾値とを比較する場合は、相対速度VのY方向成分を相対速度閾値と比較してもよいし、相対速度Vの大きさと相対速度閾値とを比較してもよい。車間距離Dについても同様に、車間距離DのY方向成分と該当車間距離閾値とを比較してもよいし、車間距離Dの大きさと該当車間距離閾値とを比較してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 自車両
2 前照灯
3 前照灯操作装置
4 CCDカメラ
5 ステアリング
6 前方車両
10 前照灯制御装置
11 前方車両検出部
12 車間距離検出部
13 相対速度検出部
14 前照灯制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前照灯のハイビームとロービームとの切り換えを制御する前照灯制御手段と、
前記車両の前方を走行する前方車両を検出する前方車両検出手段と、
前記前方車両との車間距離を検出する車間距離検出手段と、
前記前方車両の前記車両に対する相対速度を検出する相対速度検出手段と、
前記相対速度に対応して設定された車間距離閾値を保持する保持手段とを備え、
前記前照灯制御手段は、
前記前方車両検出手段で前方車両を検出した場合、
前記保持手段に保持された車間距離閾値のうち、前記相対速度検出手段で検出した相対速度に対応するものを該当車間距離閾値として決定し、
前記車間距離検出手段で検出した車間距離が該当車間距離閾値を超えたことを条件として前記前照灯をロービームからハイビームに切り替える
ことを特徴とする前照灯制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載する前照灯制御装置において、
前記車間距離検出手段は、前記車両に搭載された撮像手段により撮像された前記前方車両の画像データを画像処理することで前記車間距離を検出し、
前記相対速度検出手段は、前記車間距離検出手段により検出された車間距離の所定時間における変化量を計算して前記相対速度を検出する
ことを特徴とする前照灯制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する前照灯制御装置において、
前記相対速度に対応して設定された車間距離閾値は、所定の閾値未満である相対速度に対応して設定された第1車間距離閾値、及び当該所定の閾値以上である相対速度に対応して設定された第2車間距離閾値であり、
前記第2車間距離閾値は、前記第1車間距離閾値よりも小さく、
前記前照灯制御手段は、
前記前方車両検出手段で前方車両を検出した場合、前記保持手段に保持された前記第1車間距離閾値及び前記第2車間距離閾値のうち、前記相対速度検出手段により検出された相対速度に対応するものを該当車間距離閾値として決定し、
前記車間距離検出手段で検出した車間距離が該当車間距離閾値を超えたことを条件として前記前照灯をロービームからハイビームに切り替える
ことを特徴とする前照灯制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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