前照灯配光制御装置
【課題】 自車の視界を確保しつつ、他の車両への幻惑を防止し、さらに、歩行者への幻惑も防止する。
【解決手段】 前照灯配光制御装置(1)は、自車前方の画像を撮像する撮像手段(2)と、前記撮像手段の出力画像に基づいて自車前方の先行車の尾灯又は対向車の前照灯若しくは街路灯を識別する識別手段(7)と、前記識別手段の識別結果に従って自車の前照灯(9)の配光特性と光量を制御する制御手段(7)とを備え、好ましくは、前記撮像手段は自車前方のカラー画像を撮像するものであって、前記識別手段は、該カラー画像に含まれる照明光の色情報から先行車の尾灯又は対向車の前照灯若しくは街路灯を識別する。
【解決手段】 前照灯配光制御装置(1)は、自車前方の画像を撮像する撮像手段(2)と、前記撮像手段の出力画像に基づいて自車前方の先行車の尾灯又は対向車の前照灯若しくは街路灯を識別する識別手段(7)と、前記識別手段の識別結果に従って自車の前照灯(9)の配光特性と光量を制御する制御手段(7)とを備え、好ましくは、前記撮像手段は自車前方のカラー画像を撮像するものであって、前記識別手段は、該カラー画像に含まれる照明光の色情報から先行車の尾灯又は対向車の前照灯若しくは街路灯を識別する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等車両に用いられる前照灯配光制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等車両(以下、車両という。)の前照灯、すなわちヘッドライトの主たる役割は、夜間や薄暮又はトンネル等の低照度環境下において、自車前方を明るく照らし出して先行車等の障害物を早期発見することにあり、この役割達成のためには、できるだけ高光量で遠距離の配光特性が求められるものの、一方で、対向車等への幻惑防止の観点からは、低光量で近距離の配光特性も求められる。一般的に前者の配光特性をハイビーム、後者の配光特性をロービームといい、ビームの切り換えは、運転者の意図的操作(手動操作)によって行うことができるようになっている。
【0003】
さて、かかる運転者による意図的操作は、しばしば不適切なビームの選択を生じることがある。たとえば、対向車がいるにもかかわらず、ロービームへの切り換えをし忘れた場合などである。そこで、このような不都合を回避するために、前照灯の配光制御を自動化した技術が知られている。
【0004】
たとえば、下記の特許文献1には、自車前方の画像をカメラで撮影し、その画像に基づいて「対向車」や「先行車」又は「追い越し車」の有無を判定し、その判定結果に従って前照灯の照度や照射距離を制御するようにした技術(以下、従来技術という。)が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−170063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術にあっては、他の車両、すなわち、「対向車」や「先行車」又は「追い越し車」への幻惑を防止できる点で有益であるが、歩行者に対する配慮が欠けており、未だ改善する余地がある。
【0007】
このことについて詳述すると、今、自車が、街路灯を完備した明るい道路を走行中であるものとする。かかる道路は、一般的に市街地道路や幹線道路等の歩行者が存在する可能性が高い道路であるということができる。このような街路灯完備の道路を走行する場合において、前記の従来技術にあっては、対向車や先行車又は追い越し車がいないとき、前照灯は高照度で遠距離の配光特性(つまりハイビーム)にされる。しかし、前記のとおり街路灯完備の道路は、歩行者が存在する可能性が高い道路でもあるから、このハイビームにより、歩行者に対して幻惑を与えてしまうという問題点がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、自車の視界を確保しつつ、他の車両への幻惑を防止し、さらに、歩行者への幻惑も防止できる前照灯配光制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る前照灯配光制御装置は、自車前方の画像を撮像する撮像手段と、前記撮像手段の出力画像に基づいて自車前方の先行車の尾灯又は対向車の前照灯若しくは街路灯を識別する識別手段と、前記識別手段の識別結果に従って自車の前照灯の配光特性と光量を制御する制御手段とを備えたことを特徴とし、
好ましくは、前記撮像手段は自車前方のカラー画像を撮像するものであって、前記識別手段は、該カラー画像に含まれる照明光の色情報から先行車の尾灯又は対向車の前照灯若しくは街路灯を識別することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、自車前方の先行車又は対向車を識別して自車の前照灯の配光特性と光量を制御するので、これらの先行車や対向車(他の車両)への幻惑を防止することができ、加えて、街路灯も識別して自車の前照灯の配光特性と光量を制御するので、歩行者への幻惑も防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、実施の形態に係る前照灯配光制御装置の全体構成図である。この図において、前照灯配光制御装置1は、撮像部2、コンビネーションスイッチ3、前照灯オートスイッチ4、舵角センサ5、点灯状態表示部6、制御部7、照度調光部8及び前照灯部9を備える。
【0012】
各部の詳細を説明すると、まず、撮像部2は、自車前方の画像を周期的に撮像する、特に高ダイナミックレンジで且つカラー画像を出力できる、たとえば、HDRC(High Dynamic Range CMOS)等の撮像デバイスである。
【0013】
図2は、撮像部2に用いられる撮像デバイス10の構造図である。この図において、撮像デバイス10は、撮像素子(ここではCMOSとする。)11と、この撮像素子11の受光面に積層される色フィルタ12とを有する。CMOS11の桝目は各々1個の光電変換素子13を含む画素である。各画素は色フィルタ12の桝目と一対一に対応している。色フィルタ12の桝目はそれぞれ特定の色を有しており、色の選び方や配列の仕方によって様々なタイプのものが使用されている。
【0014】
図3は、色フィルタ12を示す図であり、詳細には、B.E.Bayerによって考え出されたベイヤー方式(又は緑市松方式)と呼ばれる色フィルタの原理構造図である。この方式は、色信号と輝度信号のS/Nバランスがよく、被写体の明るさに依存せずに良好な色再現性が得られることから、広く用いられている方式である。この図において、Yは輝度情報を得るためのフィルタ、C1、C2は色情報を得るためのフィルタである。Yフィルタを市松状に配置するとともに、奇数ラインの隙間にC1フィルタを配置し、偶数ラインの隙間にC2ラインを配置する。なお、Yフィルタを多く配置する理由は、人間の視覚上、色情報よりも輝度情報の方が画像の解像度や輪郭のシャープさをよく知覚するからである。
【0015】
図4は、実際の色フィルタの構成図であり、Rは赤色のフィルタ、Gは緑色のフィルタ、Bは青色のフィルタである。各色の配列は、図中の太線枠内に示すように、「R:G:B=1:2:1」の割合で規則的に繰り返されている。赤(R)、緑(G)、青(B)は光の三原色であり、特に、緑色は被写体の明るさをよく表すから、Gフィルタは輝度情報を得るためのフィルタとしても用いられる。すなわち、Gフィルタは図3のYフィルタに相当し、RフィルタとBフィルタは図3のC1、C2フィルタに相当する。
【0016】
次に、前照灯部9は多段階配光、つまり、冒頭の従来技術で説明した二段階配光(ロービームとハイビーム)を越える多段階配光を可能とする構成になっている。
【0017】
具体的には、図1に示すように、前照灯部9は、右前照灯部14と左前照灯部15とを備え、さらに、右前照灯部14は、右上前照灯(以下、L1)、右下前照灯(以下、L2)、右右前照灯(以下、L3)及び右左前照灯(以下、L4)から構成され、また、左前照灯部15は、左上前照灯(以下、L5)、左下前照灯(以下、L6)、左右前照灯(以下、L7)及び左左前照灯(以下、L8)から構成されている。これらのL1〜L8の点灯を個別に制御することにより、また、その点灯光量を適宜に増減制御することにより、二段階を越える多段階配光を可能としている。なお、この明細書において、「左」、「右」(又は右側、左側)とは、特に断りがない限り、車両の進行方向に正対したときの左右をいう。
【0018】
図5は、車両における各前照灯(L1〜L8)の位置を示す図である。この図において、右前照灯部14は、車両16のフロント右側(図面に正対した場合は左側)に取り付けられており、また、左前照灯部15は、車両16のフロント左側(図面に正対した場合は右側)に取り付けられている。
【0019】
これらの右前照灯部14及び左前照灯部15において、L1とL5は、各々のリフレクタ14a、15bのセンタ14b、15bから若干上側にずれた位置に取り付けられている。同様に、L2とL6は若干下側にずれた位置に取り付けられており、L3とL7は若干右側にずれた位置に取り付けられており、さらに、L4とL8は若干左側にずれた位置に取り付けられている。
【0020】
したがって、L1又はL2を点灯させた場合は光軸が下向きとなり、L2又はL6を点灯させた場合は光軸が上向きとなり、L3又はL7を点灯させた場合は光軸が左向きとなり、L4又はL8を点灯させた場合は光軸が右向きとなるので、L1〜L8の点灯を個別に制御することにより、ロービーム(下向き)とハイビーム(上向き)のみならず、加えて、ビームを左右にも振ることもできるから、点灯光量の増減制御と相まって、二段階を超える多段階の配光制御を行うことができるのである。
【0021】
L1〜L8に用いる発光体としては、通常のタングスタンランプやハロゲンランプであってもよいが、好ましくは、より高輝度で単一発光色のもの、たとえば、HID(Hight Intensity Discharg:高輝度放電)バルブや高輝度LEDの使用が望ましい。特に高輝度LEDは、他のランプに比べて高寿命で発熱も少ないという利点があるうえ、駆動電流を変化させるだけで容易に光量を増減変更できるという利点があるから最良の選択である。
【0022】
再び、図1に戻り、コンビネーションスイッチ3は、いわゆるライトON/OFFスイッチであり、夜間や薄暮又はトンネル等の低照度環境下において、前照灯(前照灯部9)の点灯を意図した運転者によって操作されるものである。このコンビネーションスイッチ3を操作すると前照灯が直ちに点灯し、且つ、その操作位置に応じて前照灯のビーム配光が切り換えられる。一方、前照灯オートスイッチ4は、これも運転者の意図に基づいて操作される点で上記のコンビネーションスイッチ3と類似するが、この前照灯オートスイッチ4を操作した時点では、直ちに前照灯が点灯せず、所定の条件が成立したときに点灯及び配光制御(前記の多段階配光制御)が行われる点で上記のコンビネーションスイッチ3と相違する。
【0023】
舵角センサ5は、ステアリングハンドルの相舵角を検出するためのセンサであり、この舵角センサ5の出力は、後述のコーナ部検出処理で用いられる。
【0024】
点灯状態表示部6は、前照灯部9の動作状態(たとえば、L1〜L8の個別の点灯/消灯を示す情報及びそれらの照度情報)を運転者に対して通知するものである。この通知には前照灯部9の異常(異常温度等)を示す情報が含まれていてもよい。
【0025】
制御部7は、たとえば、プログラム制御方式のマイクロプロセッサユニット(すなわちコンピュータ)を主体に構成されたものであってもよいし、あるいは、その論理要素の全て又は大部分をハードロジックで構成されたものであってもよい。ここでは、説明の便宜上、コンピュータで構成されたものであるとすると、この制御部7は、後述の制御プログラムを実行することにより、前照灯部9の手動点灯制御(コンビネーションスイッチ3の操作に基づくもの)又は自動点灯制御(前照灯オートスイッチ4の操作に基づくもの)を実行する
【0026】
照度調光部8は、制御部7からの手動点灯制御指示又は自動点灯制御指示に従い、前照灯部9のL1〜L8の点灯を個別に制御するとともに、必要に応じて、その点灯光量を増減制御する。
【0027】
図6は、制御部7で実行される制御プログラムの要部概略フローを示す図である。このフローでは、まず、前照灯オートスイッチ4が「オン」になっているか否かを判定し(ステップS0)、「オン」になっていなければ、不図示の手動点灯制御を実行する。
【0028】
一方、前照灯オートスイッチ4が「オン」になっている場合には、対向車検知処理と先行車検知処理(ステップS1、ステップS2)を実行し、次に、対向車又は先行車の有無を判定する(ステップS3)。そして、対向車又は先行車「無し」が判定された場合には、コーナ部検知処理(ステップS4)と街路灯検知処理(ステップS5)を実行した後、前照灯配光制御処理を実行し(ステップS6)、また、対向車又は先行車「有り」が判定された場合には、そのまま前照灯配光制御処理を実行(ステップS6)し、いずれの場合も、ステップS0に復帰する。なお、ここでは、自車以外の他の車両として「先行車」と「対向車」しか検知していないが、自車を追い抜いた直後の車両(つまり、追い越し車)も、自車との相対関係から「先行車」とみなして差し支えないので、本実施の形態においては、「先行車」は「追い越し車」の意味も含むものとする。
【0029】
対向車検知処理、先行車検知処理、コーナ部検知処理及び街路灯検知処理の具体的な説明は後述する。
【0030】
図7は、前照灯配光制御処理の制御態様を示す図であり、(a)は右前照灯部14に関する制御態様17、(b)は左前照灯部15に関する制御態様18である。これら二つの制御態様17、18は、各々、直線部17a、18aとコーナ部17b、18bに分かれている。さらに、直線部17a、18aは先行車17c、18cと対向車17d、18dに分かれ、先行車17c、18cは有り17e、18eと無し17f、17fに分かれており、対向車17d、18dも有り17g、18gと無し17h、17hに分かれており、先行車17c、18cの有り17e、18eは遠い17i、18iと近い17j、18jに分かれている。また、コーナ部17b、18bは、さらに右カーブ17k、18kと左カーブ17m、18mに分かれている。
【0031】
ここで、二つの制御態様17、18における「コーナ部」とは、走行路面の屈曲路(カーブともいう)のことをいい、詳細には、図6のコーナ部検知処理(ステップS4)において、コーナ部走行が検出されたときのことをいう。したがって、二つの制御態様17、18における「直線部」とは、上記のコーナ部以外の走行路面のことをいい、詳細には、図6のコーナ部検知処理(ステップS4)において、コーナ部走行が検出されなかったとき(つまり、直線路走行)のことをいう。
【0032】
コーナ部検知は、舵角センサ5の出力を用いて行うことができる。すなわち、運転者によってステアリングハンドルが回されたときに、コーナ部走行であると検知することができる。あるいは、撮像部2の画像から路面の白線を抽出し、その白線の曲がり方からコーナ部を検知することも可能である。本発明の思想上は、このいずれを用いてもよいし、あるいは、他の方法(たとえば、カーナビゲーションシステムを利用した走行路予測)を用いてコーナ部を検知してもよい。
【0033】
また、二つの制御態様17、18における「先行車」や「対向車」とは、自車の前方にあって自車と同じ方向に走行する車両を先行車といい、自車に向かって走行する車両を対向車という。これらの「先行車」や「対向車」は、図6の対向車検知処理(ステップS1)と先行車検知処理(ステップS2)において検知されたものであり、先行車や対向車の「有り」は、同処理において検知された場合を示し、「無し」は検知されなかった場合を示す。また、先行車有りの「遠い」、「近い」とは、その先行車から自車までの車間距離の大小をいう。
【0034】
二つの制御態様17、18を用いた前照灯配光制御処理の実際は、次のとおりである。
<対向車・先行車なし>
図8は、対向車・先行車なしの場合の前照灯配光状態図である。この図に示すように、道路19には自車16しか走行しておらず、しかも、その道路19は直線路であって、且つ、街路灯も設置されていないものとする。このような場合、前記の二つの制御態様17、18から、右前照灯14のL1の光量が強、L2の光量が強、L3の光量が強、L4の光量が弱とされ、また、左前照灯15のL5の光量が強、L6の光量が強、L7の光量が弱、L8の光量が強とされる。この図において、扇状の図形は、それぞれL1〜L8の配光を表しており、実線の扇は光量が強のもの、破線の扇は光量が弱のものである。扇の根本から円弧までの長さで光の到達距離を表している。このように、街路灯なしの直線路走行中に対向車や先行車がいない場合は、光量強のハイビーム(L2とL6)により、自車16の前方遠距離を照明することができるとともに、光量強のロービーム(L1とL5)により、自車16の前方中近距離も照明することができ、加えて、光量強の外向きサイドビーム(L3とL8)により、自車16の前方両側を照明し、さらに、光量弱の内向きサイドビーム(L4とL7)により、自車16の前方直近を照明することができる。
したがって、自車16の進行方向の充分遠距離から中近距離までの広い範囲を明るく照明できるとともに、自車16の前方両側と直近をも明るく照明することができ、低照度環境下における運転者の視界を良好に確保することができる。
【0035】
<先行車あり(遠い)>
図9は、遠くの先行車ありの場合の前照灯配光状態図である。この図に示すように、道路19を走行する自車16の前方遠くには、同方向に走行する先行車20が存在している。なお、道路19は直線路であって、且つ、街路灯も設置されていないものとする。このような場合、前記の二つの制御態様17、18から、右前照灯14のL1の光量が強、L2の光量が弱、L3の光量が強、L4の光量が弱とされ、また、左前照灯15のL5の光量が強、L6の光量が弱、L7の光量が弱、L8の光量が強とされる。前記と同様に、この図においても、扇状の図形は、それぞれL1〜L8の配光を表しており、実線の扇は光量が強のもの、破線の扇は光量が弱のものである。扇の根本から円弧までの長さで光の到達距離を表している。このように、街路灯なしの直線路走行中、自車16の前方遠距離に先行車20が存在する場合は、光量弱のハイビーム(L2とL6)により、遠くの先行車20に幻惑を与えない程度の明るさで自車16の前方遠距離を照明することができるとともに、光量強のロービーム(L1とL5)により、自車16の前方中近距離も照明することができ、加えて、光量強の外向きサイドビーム(L3とL8)により、自車16の前方両側を照明し、さらに、光量弱の内向きサイドビーム(L4とL7)により、自車16の前方直近を照明することができる。
したがって、遠くの先行車20への配慮を払いつつも、自車16の進行方向の充分遠距離から中近距離までの広い範囲を必要充分に照明できるとともに、自車16の前方両側と直近をも明るく照明することができ、低照度環境下における運転者の視界を良好に確保することができる。
【0036】
<先行車あり(近い)>
図10は、近い先行車ありの場合の前照灯配光状態図である。この図に示すように、道路19を走行する自車16の前方近くには、同方向に走行する先行車20が存在している。なお、道路19は直線路であって、且つ、街路灯も設置されていないものとする。このような場合、前記の二つの制御態様17、18から、右前照灯14のL1の光量が強、L2消灯、L3の光量が強、L4の光量が弱とされ、また、左前照灯15のL5の光量が強、L6消灯、L7の光量が弱、L8の光量が強とされる。前記と同様に、この図においても、扇状の図形は、それぞれL1〜L8の配光を表しており、実線の扇は光量が強のもの、破線の扇は光量が弱のものである。扇の根本から円弧までの長さで光の到達距離を表している。このように、街路灯なしの直線路走行中、自車16の前方近距離に先行車20が存在する場合は、ハイビーム(L2とL6)が消灯とされるため、近くの先行車20に幻惑を与えることはなく、さらに、光量強のロービーム(L1とL5)により、自車16の前方中近距離も照明することができ、加えて、光量強の外向きサイドビーム(L3とL8)により、自車16の前方両側を照明し、さらに、光量弱の内向きサイドビーム(L4とL7)により、自車16の前方直近を照明することができる。
したがって、近くの先行車20への配慮を払いつつも、自車16の進行方向の充分遠距離から中近距離までの広い範囲を必要充分に照明できるとともに、自車16の前方両側と直近をも明るく照明することができ、低照度環境下における運転者の視界を良好に確保することができる。なお、先行車20がより自車16に接近している場合は、ロービーム(L1とL5)の光量を弱とすることが望ましい。光量強のロービーム(L1とL5)のままだと、車間距離が短い場合に先行車20に幻惑を与える可能性があるからである。
【0037】
<対向車あり>
図11は、対向車ありの場合の前照灯配光状態図である。この図に示すように、道路19を走行する自車16の対向車線側には、自車16に向かって走行する対向車21が存在している。なお、道路19は直線路であって、且つ、街路灯も設置されていないものとする。このような場合、前記の二つの制御態様17、18から、右前照灯14のL1の光量が弱、L2の光量が弱、L3の光量が弱、L4の光量が弱とされ、また、左前照灯15のL5の光量が弱、L6の光量が弱、L7の光量が弱、L8の光量が強とされる。前記と同様に、この図においても、扇状の図形は、それぞれL1〜L8の配光を表しており、実線の扇は光量が強のもの、破線の扇は光量が弱のものである。扇の根本から円弧までの長さで光の到達距離を表している。このように、街路灯なしの直線路走行中、対向車21が存在する場合は、光量弱のハイビーム(L2とL6)により、自車16の前方遠距離を照明することができるとともに、光量弱のロービーム(L1とL5)により、自車16の前方中近距離も照明することができ、加えて、光量弱の右外向きサイドビーム(L3)により、自車16の前方右側を弱めに照明し、且つ、光量強の左外向きサイドビーム(L8)により、自車16の前方左側を強めに照明し、さらに、光量弱の内向きサイドビーム(L4とL7)により、自車16の前方直近を照明することができる。
したがって、ハイビーム(L2とL6)及びロービーム(L1とL5)並びに右外向きサイドビーム(L3)の光量が弱とされるので、対向車21への配慮を払いつつも、自車16の進行方向の充分遠距離から中近距離までの広い範囲を必要充分に照明できるとともに、自車16の前方両側と直近も照明することができ、低照度環境下における運転者の視界を良好に確保することができる。なお、対向車21がより自車16に接近したときには、右外向きサイドビーム(L3)の光量をさらに落としたり、あるいは、消灯させたりしてもよい。すれ違いざまの対向車21への幻惑を確実に防止できる。
【0038】
<街路灯あり>
図12は、街路灯ありの場合の前照灯配光状態図である。この図に示すように、街路灯22〜29が設置された道路19を走行する自車16の前方には、先行車も対向車もいない。なお、道路19は直線路であり、街路灯22、23、26、27は水銀灯、街路灯24、25、28、29はナトリウム灯である。このような場合、前記の二つの制御態様17、18には示していないが、L1〜L8の全ての光量を弱くする。前記と同様に、この図においても、扇状の図形は、それぞれL1〜L8の配光を表しており、実線の扇は光量が強のもの、破線の扇は光量が弱のものである。扇の根本から円弧までの長さで光の到達距離を表している。このように、街路灯ありの直線路を走行中は、いずれも光量弱のハイビーム(L2とL6)、ロービーム(L1とL5)、外向きサイドビーム(L3とL8)、及び、内向きサイドビーム(L4とL7)により、自車16の進行方向の充分遠距離から中近距離までの広い範囲を、街路灯22〜29の照度を考慮した必要充分な明るさで照明することができる。
したがって、この道路19の歩道を散策する歩行者30、31に対して幻惑を与えない。
【0039】
次に、対向車や先行車の検出並びに街路灯の検出について、具体的に説明する。
図13は、撮像部2の出力画像を示す図である。(a)は生の出力画像(以下、RAW画像30)である。低照度環境下で撮影したRAW画像30は全体が黒レベルに沈んでおり、白レベルや中間階調レベルを有する部分は、もっぱら街路灯や対向車のヘッドライト又は先行車の尾灯などの照明光である。撮像部2に用いられている撮像デバイス10のダイナミックレンジが充分に大きいとき、上記の白レベルや中間階調レベルを有する部分から、照明光を抽出することができる。つまり、(a)のRAW画像30をそのまま使用し、又は、(b)に示すような、RAW画像30を見やすくしたストレッチ画像31を使用し、RAW画像又はストレッチ画像31の画面全体の輝度平均値から、(c)に示すような赤枠で示すエリア32を設定し、このエリア32の平均値を算出して、標準偏差(σ)の凡そ2〜3倍にある輝度値を示す画素の集合を特定し、この画素集合を、街路灯や対向車のヘッドライト又は先行車の尾灯などの照明光であると判断して抽出することができる。
【0040】
このように、撮像部2の出力画像から照明光に相当する画素集合を抽出できるものの、まだこの段階では、その照明光が街路灯であるのか、対向車のヘッドライトであるのか、又は、先行車の尾灯であるのかは識別されていない。単に照明光であることが分かっているだけである。この識別ができない以上、前記の二つの制御態様17、18(図7参照)を使用することができないので、何らかの工夫が必要である。
【0041】
本実施の形態における照明光の識別手法は、以下のとおりである。
<尾灯とヘッドライトの識別>
図14は、尾灯とヘッドライトの識別を行うためのフローを示す図である。このフローにおいて、まず、撮像部2の出力画像から道路のエリアを設定し(ステップS11)、次いで、そのエリア内の輝度平均値を算出する(ステップS12)。そして、エリア内の標準偏差を算出し(ステップS13)、所定の閾値以下の輝度を棄却し(ステップS14)、閾値以上の輝度値を有する画素の集合を照明光であると判定する(ステップS15)。
次いで、その画素の集合の色を調べ、赤色であれば(ステップS16の“YES”)、その照明光は先行車の尾灯であると判定し、又は、ハロゲンランプの発光波長に相当する発光色であれば(ステップS17の“YES”)、その照明光は対向車のヘッドライトであると判定し、又は、HIDバルブの発光波長に相当する発光色であれば(ステップS18の“YES”)、その照明光は対向車のヘッドライトであると判定し、又は、LEDの発光波長に相当する発光色であれば(ステップS19の“YES”)、その照明光は対向車のヘッドライトであると判定し、いずれの場合も、次フレームの処理に移行する。
【0042】
<街路灯の識別>
図15は、街路灯の識別を行うためのフローを示す図である。このフローにおいて、まず、撮像部2の出力画像から道路のエリアを設定し(ステップS21)、次いで、そのエリア内の輝度平均値を算出する(ステップS22)。そして、エリア内の標準偏差を算出し(ステップS23)、所定の閾値以下の輝度を棄却し(ステップS24)、閾値以上の輝度値を有する画素の集合を照明光であると判定する(ステップS25)。
次いで、その画素の集合の色を調べ、水銀灯の発光波長に相当する発光色であれば(ステップS26の“YES”)、その照明光は水銀灯を用いた街路灯であると判定し、又は、ナトリウム灯の発光波長に相当する発光色であれば(ステップS27の“YES”)、その照明光はナトリウム灯を用いた街路灯であると判定し、又は、ハロゲン灯の発光波長に相当する発光色であれば(ステップS28の“YES”)、その照明光はハロゲン灯を用いた街路灯であると判定し、いずれの場合も、それら照明光の輝度が閾値以上であれば、前記の図8に示したように、L1〜L8の光量を弱にした後、次フレームの処理に移行する。
【0043】
<照明光の識別判定の具体例>
図16は、照明光の識別判定の具体例のフローを示す図である。このフローにおいて、まず、撮像部2の出力画像(たとえば、図13のRAW画像30又はストレッチ画像31)から高輝度の画素を切り出す(ステップS31)。矩形枠線は切り出しエリア33であり、エリア33内の白点は高輝度の画素(又は画素の集合)を表している。
【0044】
次に、エリア33内の画素を縦横2画素ずつの4画素単位に分類する(ステップS32)。この分類は、図4の太枠で示すRGGBの2×2画素を指定することを意味する。次に、分類された4画素のうちRとGの画素値の比率(R/G)を求める(ステップS33)。R/Gが大きい場合、その分類された4画素は赤色主体の画素の集まりであると考えることができ、この場合、たとえば、R/Gが1.1を越えている場合に赤色の照明光(たとえば、先行車の尾灯)であると判断することができる。
【0045】
R/Gが1.1以下であった場合は、次に、分類された4画素のうちRとBの画素値の比率(R/B)を求める(ステップS34)。R/Bが小さい場合、その分類された4画素は青色主体の画素の集まりであると考えることができ、この場合、たとえば、R/Bが1.0以下であった場合に青色の照明光(たとえば、HIDバルブを用いた対向車の前照灯)であると判断することができる。
【0046】
R/Bが1.0以上であった場合は、再び、分類された4画素のうちRとBの画素値の比率(R/B)を求める(ステップS35)。そして、R/Bが1.13以上であった場合、その分類された4画素は橙色主体の画素の集まりであると考えることができ、この場合、橙色の照明光(たとえば、ナトリウム灯を用いた街路灯)であると判断することができる。
【0047】
R/Bが1.0〜1.13であった場合は、次に、分類された4画素のRとGとBの画素値の比率(R/G/B)を求める(ステップS36)。そして、R/G/Bが0.000055以下であった場合、その分類された4画素は白色主体の画素の集まりであると考えることができ、この場合、白色の照明光(たとえば、白色LEDを用いた街路灯又は対向車の前照灯)であると判断することができる。
【0048】
R/G/Bが0.00055以下でなかった場合は、次に、分類された4画素のRとBの画素値の比率(R/B)を求める(ステップS37)。そして、R/Bが1.044以上であった場合、その分類された4画素は淡橙色主体の画素の集まりであると考えることができ、この場合、淡橙色の照明光(たとえば、ハロゲンランプ用いた街路灯又は対向車の前照灯)であると判断することができる。
【0049】
そして、最後に、R/Bが1.044以上でなかった場合(換言すればR/Bが1.044以下であった場合)は、その分類された4画素は淡緑色主体の画素の集まりであると考えることができ、この場合、淡緑色の照明光(たとえば、蛍光灯又は水銀灯用いた街路灯)であると判断することができる。
【0050】
以上のとおり、RGBの各画素値の比率から照明光の識別を行うことができるのであるが、これは、様々な照明光は、その発光波長に対応した特定の色の光を発するからである。
【0051】
図17は、先行車の尾灯などの赤色灯の識別概念図である。この図において、横軸はR/G比率(1次)であり、図中の三角図形はそれぞれの照明光を示している。ここで、HIDバルブや蛍光灯、白色LED、ハロゲン灯及びナトリウム灯はR/G比率のほぼ1.11前後を境にしてその左側に集まっているのに対して、赤色灯はその境から右側に位置するという特異性を持っている。したがって、上記の境目に相当する適切な閾値を設定してR/G比率を評価することにより、様々な照明光の中から「赤色光」を識別することができる。
【0052】
図18は、HIDバルブとナトリウム灯の識別概念図である。この図において、横軸はR/B比率であり、図中の三角図形はそれぞれの照明光を示している。ここで、蛍光灯や白色LED、ハロゲン灯はR/B比率のほぼ1.0〜1.03の間に集まっているのに対して、HIDバルブはR/B比率のほぼ1.0の左側に位置し、また、ナトリウム灯はR/B比率のほぼ1.03の左側に位置するという特異性を持っている。したがって、上記の境目(1.0と1.13程度)に相当する適切な閾値を設定してR/B比率を評価することにより、様々な照明光の中から「HIDバルブ」と「ナトリウム灯」を識別することができる。
【0053】
図19は、白色LEDの識別概念図である。この図において、横軸はR/G/B比率であり、図中の三角図形はそれぞれの照明光を示している。ここで、ハロゲン灯や蛍光灯はR/G/B比率のほぼ0.00053を境に、その右側に集まっているのに対して、白色LEDは、その境の左側に位置するという特異性を持っている。したがって、上記の境目(0.00053程度)に相当する適切な閾値を設定してR/G/B比率を評価することにより、様々な照明光の中から「白色LED」を識別することができる。
【0054】
図20は、蛍光灯とハロゲン灯の識別概念図である。この図において、横軸はR/B比率(2次)であり、図中の三角図形はそれぞれの照明光を示している。ここで、蛍光灯とハロゲン灯はR/B比率のほぼ1.041を境に、その右側と左側に分かれて位置するという特異性を持っている。したがって、上記の境目(1.041程度)に相当する適切な閾値を設定してR/B比率を評価することにより、「蛍光灯」と「ハロゲン灯」を識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施の形態に係る前照灯配光制御装置の全体構成図である。
【図2】撮像部2に用いられる撮像デバイス10の構造図である。
【図3】色フィルタ12を示す図である。
【図4】実際の色フィルタの構成図である。
【図5】車両における各前照灯(L1〜L8)の位置を示す図である。
【図6】制御部7で実行される制御プログラムの要部概略フローを示す図である。
【図7】前照灯配光制御処理の制御態様を示す図である。
【図8】対向車・先行車なしの場合の前照灯配光状態図である。
【図9】遠くの先行車ありの場合の前照灯配光状態図である。
【図10】近い先行車ありの場合の前照灯配光状態図である。
【図11】対向車ありの場合の前照灯配光状態図である。
【図12】街路灯ありの場合の前照灯配光状態図である。
【図13】撮像部2の出力画像を示す図である。
【図14】尾灯とヘッドライトの識別を行うためのフローを示す図である。
【図15】街路灯の識別を行うためのフローを示す図である。
【図16】照明光の識別判定の具体例のフローを示す図である。
【図17】先行車の尾灯などの赤色灯の識別概念図である。
【図18】HIDバルブとナトリウム灯の識別概念図である。
【図19】白色LEDの識別概念図である。
【図20】蛍光灯とハロゲン灯の識別概念図である。
【符号の説明】
【0056】
1 前照灯配光制御装置
2 撮像部(撮像手段)
7 制御部(識別手段、制御手段)
9 前照灯部(前照灯)
16 自車
20 先行車
21 対向車
22〜29 街路灯
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等車両に用いられる前照灯配光制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等車両(以下、車両という。)の前照灯、すなわちヘッドライトの主たる役割は、夜間や薄暮又はトンネル等の低照度環境下において、自車前方を明るく照らし出して先行車等の障害物を早期発見することにあり、この役割達成のためには、できるだけ高光量で遠距離の配光特性が求められるものの、一方で、対向車等への幻惑防止の観点からは、低光量で近距離の配光特性も求められる。一般的に前者の配光特性をハイビーム、後者の配光特性をロービームといい、ビームの切り換えは、運転者の意図的操作(手動操作)によって行うことができるようになっている。
【0003】
さて、かかる運転者による意図的操作は、しばしば不適切なビームの選択を生じることがある。たとえば、対向車がいるにもかかわらず、ロービームへの切り換えをし忘れた場合などである。そこで、このような不都合を回避するために、前照灯の配光制御を自動化した技術が知られている。
【0004】
たとえば、下記の特許文献1には、自車前方の画像をカメラで撮影し、その画像に基づいて「対向車」や「先行車」又は「追い越し車」の有無を判定し、その判定結果に従って前照灯の照度や照射距離を制御するようにした技術(以下、従来技術という。)が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−170063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術にあっては、他の車両、すなわち、「対向車」や「先行車」又は「追い越し車」への幻惑を防止できる点で有益であるが、歩行者に対する配慮が欠けており、未だ改善する余地がある。
【0007】
このことについて詳述すると、今、自車が、街路灯を完備した明るい道路を走行中であるものとする。かかる道路は、一般的に市街地道路や幹線道路等の歩行者が存在する可能性が高い道路であるということができる。このような街路灯完備の道路を走行する場合において、前記の従来技術にあっては、対向車や先行車又は追い越し車がいないとき、前照灯は高照度で遠距離の配光特性(つまりハイビーム)にされる。しかし、前記のとおり街路灯完備の道路は、歩行者が存在する可能性が高い道路でもあるから、このハイビームにより、歩行者に対して幻惑を与えてしまうという問題点がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、自車の視界を確保しつつ、他の車両への幻惑を防止し、さらに、歩行者への幻惑も防止できる前照灯配光制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る前照灯配光制御装置は、自車前方の画像を撮像する撮像手段と、前記撮像手段の出力画像に基づいて自車前方の先行車の尾灯又は対向車の前照灯若しくは街路灯を識別する識別手段と、前記識別手段の識別結果に従って自車の前照灯の配光特性と光量を制御する制御手段とを備えたことを特徴とし、
好ましくは、前記撮像手段は自車前方のカラー画像を撮像するものであって、前記識別手段は、該カラー画像に含まれる照明光の色情報から先行車の尾灯又は対向車の前照灯若しくは街路灯を識別することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、自車前方の先行車又は対向車を識別して自車の前照灯の配光特性と光量を制御するので、これらの先行車や対向車(他の車両)への幻惑を防止することができ、加えて、街路灯も識別して自車の前照灯の配光特性と光量を制御するので、歩行者への幻惑も防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、実施の形態に係る前照灯配光制御装置の全体構成図である。この図において、前照灯配光制御装置1は、撮像部2、コンビネーションスイッチ3、前照灯オートスイッチ4、舵角センサ5、点灯状態表示部6、制御部7、照度調光部8及び前照灯部9を備える。
【0012】
各部の詳細を説明すると、まず、撮像部2は、自車前方の画像を周期的に撮像する、特に高ダイナミックレンジで且つカラー画像を出力できる、たとえば、HDRC(High Dynamic Range CMOS)等の撮像デバイスである。
【0013】
図2は、撮像部2に用いられる撮像デバイス10の構造図である。この図において、撮像デバイス10は、撮像素子(ここではCMOSとする。)11と、この撮像素子11の受光面に積層される色フィルタ12とを有する。CMOS11の桝目は各々1個の光電変換素子13を含む画素である。各画素は色フィルタ12の桝目と一対一に対応している。色フィルタ12の桝目はそれぞれ特定の色を有しており、色の選び方や配列の仕方によって様々なタイプのものが使用されている。
【0014】
図3は、色フィルタ12を示す図であり、詳細には、B.E.Bayerによって考え出されたベイヤー方式(又は緑市松方式)と呼ばれる色フィルタの原理構造図である。この方式は、色信号と輝度信号のS/Nバランスがよく、被写体の明るさに依存せずに良好な色再現性が得られることから、広く用いられている方式である。この図において、Yは輝度情報を得るためのフィルタ、C1、C2は色情報を得るためのフィルタである。Yフィルタを市松状に配置するとともに、奇数ラインの隙間にC1フィルタを配置し、偶数ラインの隙間にC2ラインを配置する。なお、Yフィルタを多く配置する理由は、人間の視覚上、色情報よりも輝度情報の方が画像の解像度や輪郭のシャープさをよく知覚するからである。
【0015】
図4は、実際の色フィルタの構成図であり、Rは赤色のフィルタ、Gは緑色のフィルタ、Bは青色のフィルタである。各色の配列は、図中の太線枠内に示すように、「R:G:B=1:2:1」の割合で規則的に繰り返されている。赤(R)、緑(G)、青(B)は光の三原色であり、特に、緑色は被写体の明るさをよく表すから、Gフィルタは輝度情報を得るためのフィルタとしても用いられる。すなわち、Gフィルタは図3のYフィルタに相当し、RフィルタとBフィルタは図3のC1、C2フィルタに相当する。
【0016】
次に、前照灯部9は多段階配光、つまり、冒頭の従来技術で説明した二段階配光(ロービームとハイビーム)を越える多段階配光を可能とする構成になっている。
【0017】
具体的には、図1に示すように、前照灯部9は、右前照灯部14と左前照灯部15とを備え、さらに、右前照灯部14は、右上前照灯(以下、L1)、右下前照灯(以下、L2)、右右前照灯(以下、L3)及び右左前照灯(以下、L4)から構成され、また、左前照灯部15は、左上前照灯(以下、L5)、左下前照灯(以下、L6)、左右前照灯(以下、L7)及び左左前照灯(以下、L8)から構成されている。これらのL1〜L8の点灯を個別に制御することにより、また、その点灯光量を適宜に増減制御することにより、二段階を越える多段階配光を可能としている。なお、この明細書において、「左」、「右」(又は右側、左側)とは、特に断りがない限り、車両の進行方向に正対したときの左右をいう。
【0018】
図5は、車両における各前照灯(L1〜L8)の位置を示す図である。この図において、右前照灯部14は、車両16のフロント右側(図面に正対した場合は左側)に取り付けられており、また、左前照灯部15は、車両16のフロント左側(図面に正対した場合は右側)に取り付けられている。
【0019】
これらの右前照灯部14及び左前照灯部15において、L1とL5は、各々のリフレクタ14a、15bのセンタ14b、15bから若干上側にずれた位置に取り付けられている。同様に、L2とL6は若干下側にずれた位置に取り付けられており、L3とL7は若干右側にずれた位置に取り付けられており、さらに、L4とL8は若干左側にずれた位置に取り付けられている。
【0020】
したがって、L1又はL2を点灯させた場合は光軸が下向きとなり、L2又はL6を点灯させた場合は光軸が上向きとなり、L3又はL7を点灯させた場合は光軸が左向きとなり、L4又はL8を点灯させた場合は光軸が右向きとなるので、L1〜L8の点灯を個別に制御することにより、ロービーム(下向き)とハイビーム(上向き)のみならず、加えて、ビームを左右にも振ることもできるから、点灯光量の増減制御と相まって、二段階を超える多段階の配光制御を行うことができるのである。
【0021】
L1〜L8に用いる発光体としては、通常のタングスタンランプやハロゲンランプであってもよいが、好ましくは、より高輝度で単一発光色のもの、たとえば、HID(Hight Intensity Discharg:高輝度放電)バルブや高輝度LEDの使用が望ましい。特に高輝度LEDは、他のランプに比べて高寿命で発熱も少ないという利点があるうえ、駆動電流を変化させるだけで容易に光量を増減変更できるという利点があるから最良の選択である。
【0022】
再び、図1に戻り、コンビネーションスイッチ3は、いわゆるライトON/OFFスイッチであり、夜間や薄暮又はトンネル等の低照度環境下において、前照灯(前照灯部9)の点灯を意図した運転者によって操作されるものである。このコンビネーションスイッチ3を操作すると前照灯が直ちに点灯し、且つ、その操作位置に応じて前照灯のビーム配光が切り換えられる。一方、前照灯オートスイッチ4は、これも運転者の意図に基づいて操作される点で上記のコンビネーションスイッチ3と類似するが、この前照灯オートスイッチ4を操作した時点では、直ちに前照灯が点灯せず、所定の条件が成立したときに点灯及び配光制御(前記の多段階配光制御)が行われる点で上記のコンビネーションスイッチ3と相違する。
【0023】
舵角センサ5は、ステアリングハンドルの相舵角を検出するためのセンサであり、この舵角センサ5の出力は、後述のコーナ部検出処理で用いられる。
【0024】
点灯状態表示部6は、前照灯部9の動作状態(たとえば、L1〜L8の個別の点灯/消灯を示す情報及びそれらの照度情報)を運転者に対して通知するものである。この通知には前照灯部9の異常(異常温度等)を示す情報が含まれていてもよい。
【0025】
制御部7は、たとえば、プログラム制御方式のマイクロプロセッサユニット(すなわちコンピュータ)を主体に構成されたものであってもよいし、あるいは、その論理要素の全て又は大部分をハードロジックで構成されたものであってもよい。ここでは、説明の便宜上、コンピュータで構成されたものであるとすると、この制御部7は、後述の制御プログラムを実行することにより、前照灯部9の手動点灯制御(コンビネーションスイッチ3の操作に基づくもの)又は自動点灯制御(前照灯オートスイッチ4の操作に基づくもの)を実行する
【0026】
照度調光部8は、制御部7からの手動点灯制御指示又は自動点灯制御指示に従い、前照灯部9のL1〜L8の点灯を個別に制御するとともに、必要に応じて、その点灯光量を増減制御する。
【0027】
図6は、制御部7で実行される制御プログラムの要部概略フローを示す図である。このフローでは、まず、前照灯オートスイッチ4が「オン」になっているか否かを判定し(ステップS0)、「オン」になっていなければ、不図示の手動点灯制御を実行する。
【0028】
一方、前照灯オートスイッチ4が「オン」になっている場合には、対向車検知処理と先行車検知処理(ステップS1、ステップS2)を実行し、次に、対向車又は先行車の有無を判定する(ステップS3)。そして、対向車又は先行車「無し」が判定された場合には、コーナ部検知処理(ステップS4)と街路灯検知処理(ステップS5)を実行した後、前照灯配光制御処理を実行し(ステップS6)、また、対向車又は先行車「有り」が判定された場合には、そのまま前照灯配光制御処理を実行(ステップS6)し、いずれの場合も、ステップS0に復帰する。なお、ここでは、自車以外の他の車両として「先行車」と「対向車」しか検知していないが、自車を追い抜いた直後の車両(つまり、追い越し車)も、自車との相対関係から「先行車」とみなして差し支えないので、本実施の形態においては、「先行車」は「追い越し車」の意味も含むものとする。
【0029】
対向車検知処理、先行車検知処理、コーナ部検知処理及び街路灯検知処理の具体的な説明は後述する。
【0030】
図7は、前照灯配光制御処理の制御態様を示す図であり、(a)は右前照灯部14に関する制御態様17、(b)は左前照灯部15に関する制御態様18である。これら二つの制御態様17、18は、各々、直線部17a、18aとコーナ部17b、18bに分かれている。さらに、直線部17a、18aは先行車17c、18cと対向車17d、18dに分かれ、先行車17c、18cは有り17e、18eと無し17f、17fに分かれており、対向車17d、18dも有り17g、18gと無し17h、17hに分かれており、先行車17c、18cの有り17e、18eは遠い17i、18iと近い17j、18jに分かれている。また、コーナ部17b、18bは、さらに右カーブ17k、18kと左カーブ17m、18mに分かれている。
【0031】
ここで、二つの制御態様17、18における「コーナ部」とは、走行路面の屈曲路(カーブともいう)のことをいい、詳細には、図6のコーナ部検知処理(ステップS4)において、コーナ部走行が検出されたときのことをいう。したがって、二つの制御態様17、18における「直線部」とは、上記のコーナ部以外の走行路面のことをいい、詳細には、図6のコーナ部検知処理(ステップS4)において、コーナ部走行が検出されなかったとき(つまり、直線路走行)のことをいう。
【0032】
コーナ部検知は、舵角センサ5の出力を用いて行うことができる。すなわち、運転者によってステアリングハンドルが回されたときに、コーナ部走行であると検知することができる。あるいは、撮像部2の画像から路面の白線を抽出し、その白線の曲がり方からコーナ部を検知することも可能である。本発明の思想上は、このいずれを用いてもよいし、あるいは、他の方法(たとえば、カーナビゲーションシステムを利用した走行路予測)を用いてコーナ部を検知してもよい。
【0033】
また、二つの制御態様17、18における「先行車」や「対向車」とは、自車の前方にあって自車と同じ方向に走行する車両を先行車といい、自車に向かって走行する車両を対向車という。これらの「先行車」や「対向車」は、図6の対向車検知処理(ステップS1)と先行車検知処理(ステップS2)において検知されたものであり、先行車や対向車の「有り」は、同処理において検知された場合を示し、「無し」は検知されなかった場合を示す。また、先行車有りの「遠い」、「近い」とは、その先行車から自車までの車間距離の大小をいう。
【0034】
二つの制御態様17、18を用いた前照灯配光制御処理の実際は、次のとおりである。
<対向車・先行車なし>
図8は、対向車・先行車なしの場合の前照灯配光状態図である。この図に示すように、道路19には自車16しか走行しておらず、しかも、その道路19は直線路であって、且つ、街路灯も設置されていないものとする。このような場合、前記の二つの制御態様17、18から、右前照灯14のL1の光量が強、L2の光量が強、L3の光量が強、L4の光量が弱とされ、また、左前照灯15のL5の光量が強、L6の光量が強、L7の光量が弱、L8の光量が強とされる。この図において、扇状の図形は、それぞれL1〜L8の配光を表しており、実線の扇は光量が強のもの、破線の扇は光量が弱のものである。扇の根本から円弧までの長さで光の到達距離を表している。このように、街路灯なしの直線路走行中に対向車や先行車がいない場合は、光量強のハイビーム(L2とL6)により、自車16の前方遠距離を照明することができるとともに、光量強のロービーム(L1とL5)により、自車16の前方中近距離も照明することができ、加えて、光量強の外向きサイドビーム(L3とL8)により、自車16の前方両側を照明し、さらに、光量弱の内向きサイドビーム(L4とL7)により、自車16の前方直近を照明することができる。
したがって、自車16の進行方向の充分遠距離から中近距離までの広い範囲を明るく照明できるとともに、自車16の前方両側と直近をも明るく照明することができ、低照度環境下における運転者の視界を良好に確保することができる。
【0035】
<先行車あり(遠い)>
図9は、遠くの先行車ありの場合の前照灯配光状態図である。この図に示すように、道路19を走行する自車16の前方遠くには、同方向に走行する先行車20が存在している。なお、道路19は直線路であって、且つ、街路灯も設置されていないものとする。このような場合、前記の二つの制御態様17、18から、右前照灯14のL1の光量が強、L2の光量が弱、L3の光量が強、L4の光量が弱とされ、また、左前照灯15のL5の光量が強、L6の光量が弱、L7の光量が弱、L8の光量が強とされる。前記と同様に、この図においても、扇状の図形は、それぞれL1〜L8の配光を表しており、実線の扇は光量が強のもの、破線の扇は光量が弱のものである。扇の根本から円弧までの長さで光の到達距離を表している。このように、街路灯なしの直線路走行中、自車16の前方遠距離に先行車20が存在する場合は、光量弱のハイビーム(L2とL6)により、遠くの先行車20に幻惑を与えない程度の明るさで自車16の前方遠距離を照明することができるとともに、光量強のロービーム(L1とL5)により、自車16の前方中近距離も照明することができ、加えて、光量強の外向きサイドビーム(L3とL8)により、自車16の前方両側を照明し、さらに、光量弱の内向きサイドビーム(L4とL7)により、自車16の前方直近を照明することができる。
したがって、遠くの先行車20への配慮を払いつつも、自車16の進行方向の充分遠距離から中近距離までの広い範囲を必要充分に照明できるとともに、自車16の前方両側と直近をも明るく照明することができ、低照度環境下における運転者の視界を良好に確保することができる。
【0036】
<先行車あり(近い)>
図10は、近い先行車ありの場合の前照灯配光状態図である。この図に示すように、道路19を走行する自車16の前方近くには、同方向に走行する先行車20が存在している。なお、道路19は直線路であって、且つ、街路灯も設置されていないものとする。このような場合、前記の二つの制御態様17、18から、右前照灯14のL1の光量が強、L2消灯、L3の光量が強、L4の光量が弱とされ、また、左前照灯15のL5の光量が強、L6消灯、L7の光量が弱、L8の光量が強とされる。前記と同様に、この図においても、扇状の図形は、それぞれL1〜L8の配光を表しており、実線の扇は光量が強のもの、破線の扇は光量が弱のものである。扇の根本から円弧までの長さで光の到達距離を表している。このように、街路灯なしの直線路走行中、自車16の前方近距離に先行車20が存在する場合は、ハイビーム(L2とL6)が消灯とされるため、近くの先行車20に幻惑を与えることはなく、さらに、光量強のロービーム(L1とL5)により、自車16の前方中近距離も照明することができ、加えて、光量強の外向きサイドビーム(L3とL8)により、自車16の前方両側を照明し、さらに、光量弱の内向きサイドビーム(L4とL7)により、自車16の前方直近を照明することができる。
したがって、近くの先行車20への配慮を払いつつも、自車16の進行方向の充分遠距離から中近距離までの広い範囲を必要充分に照明できるとともに、自車16の前方両側と直近をも明るく照明することができ、低照度環境下における運転者の視界を良好に確保することができる。なお、先行車20がより自車16に接近している場合は、ロービーム(L1とL5)の光量を弱とすることが望ましい。光量強のロービーム(L1とL5)のままだと、車間距離が短い場合に先行車20に幻惑を与える可能性があるからである。
【0037】
<対向車あり>
図11は、対向車ありの場合の前照灯配光状態図である。この図に示すように、道路19を走行する自車16の対向車線側には、自車16に向かって走行する対向車21が存在している。なお、道路19は直線路であって、且つ、街路灯も設置されていないものとする。このような場合、前記の二つの制御態様17、18から、右前照灯14のL1の光量が弱、L2の光量が弱、L3の光量が弱、L4の光量が弱とされ、また、左前照灯15のL5の光量が弱、L6の光量が弱、L7の光量が弱、L8の光量が強とされる。前記と同様に、この図においても、扇状の図形は、それぞれL1〜L8の配光を表しており、実線の扇は光量が強のもの、破線の扇は光量が弱のものである。扇の根本から円弧までの長さで光の到達距離を表している。このように、街路灯なしの直線路走行中、対向車21が存在する場合は、光量弱のハイビーム(L2とL6)により、自車16の前方遠距離を照明することができるとともに、光量弱のロービーム(L1とL5)により、自車16の前方中近距離も照明することができ、加えて、光量弱の右外向きサイドビーム(L3)により、自車16の前方右側を弱めに照明し、且つ、光量強の左外向きサイドビーム(L8)により、自車16の前方左側を強めに照明し、さらに、光量弱の内向きサイドビーム(L4とL7)により、自車16の前方直近を照明することができる。
したがって、ハイビーム(L2とL6)及びロービーム(L1とL5)並びに右外向きサイドビーム(L3)の光量が弱とされるので、対向車21への配慮を払いつつも、自車16の進行方向の充分遠距離から中近距離までの広い範囲を必要充分に照明できるとともに、自車16の前方両側と直近も照明することができ、低照度環境下における運転者の視界を良好に確保することができる。なお、対向車21がより自車16に接近したときには、右外向きサイドビーム(L3)の光量をさらに落としたり、あるいは、消灯させたりしてもよい。すれ違いざまの対向車21への幻惑を確実に防止できる。
【0038】
<街路灯あり>
図12は、街路灯ありの場合の前照灯配光状態図である。この図に示すように、街路灯22〜29が設置された道路19を走行する自車16の前方には、先行車も対向車もいない。なお、道路19は直線路であり、街路灯22、23、26、27は水銀灯、街路灯24、25、28、29はナトリウム灯である。このような場合、前記の二つの制御態様17、18には示していないが、L1〜L8の全ての光量を弱くする。前記と同様に、この図においても、扇状の図形は、それぞれL1〜L8の配光を表しており、実線の扇は光量が強のもの、破線の扇は光量が弱のものである。扇の根本から円弧までの長さで光の到達距離を表している。このように、街路灯ありの直線路を走行中は、いずれも光量弱のハイビーム(L2とL6)、ロービーム(L1とL5)、外向きサイドビーム(L3とL8)、及び、内向きサイドビーム(L4とL7)により、自車16の進行方向の充分遠距離から中近距離までの広い範囲を、街路灯22〜29の照度を考慮した必要充分な明るさで照明することができる。
したがって、この道路19の歩道を散策する歩行者30、31に対して幻惑を与えない。
【0039】
次に、対向車や先行車の検出並びに街路灯の検出について、具体的に説明する。
図13は、撮像部2の出力画像を示す図である。(a)は生の出力画像(以下、RAW画像30)である。低照度環境下で撮影したRAW画像30は全体が黒レベルに沈んでおり、白レベルや中間階調レベルを有する部分は、もっぱら街路灯や対向車のヘッドライト又は先行車の尾灯などの照明光である。撮像部2に用いられている撮像デバイス10のダイナミックレンジが充分に大きいとき、上記の白レベルや中間階調レベルを有する部分から、照明光を抽出することができる。つまり、(a)のRAW画像30をそのまま使用し、又は、(b)に示すような、RAW画像30を見やすくしたストレッチ画像31を使用し、RAW画像又はストレッチ画像31の画面全体の輝度平均値から、(c)に示すような赤枠で示すエリア32を設定し、このエリア32の平均値を算出して、標準偏差(σ)の凡そ2〜3倍にある輝度値を示す画素の集合を特定し、この画素集合を、街路灯や対向車のヘッドライト又は先行車の尾灯などの照明光であると判断して抽出することができる。
【0040】
このように、撮像部2の出力画像から照明光に相当する画素集合を抽出できるものの、まだこの段階では、その照明光が街路灯であるのか、対向車のヘッドライトであるのか、又は、先行車の尾灯であるのかは識別されていない。単に照明光であることが分かっているだけである。この識別ができない以上、前記の二つの制御態様17、18(図7参照)を使用することができないので、何らかの工夫が必要である。
【0041】
本実施の形態における照明光の識別手法は、以下のとおりである。
<尾灯とヘッドライトの識別>
図14は、尾灯とヘッドライトの識別を行うためのフローを示す図である。このフローにおいて、まず、撮像部2の出力画像から道路のエリアを設定し(ステップS11)、次いで、そのエリア内の輝度平均値を算出する(ステップS12)。そして、エリア内の標準偏差を算出し(ステップS13)、所定の閾値以下の輝度を棄却し(ステップS14)、閾値以上の輝度値を有する画素の集合を照明光であると判定する(ステップS15)。
次いで、その画素の集合の色を調べ、赤色であれば(ステップS16の“YES”)、その照明光は先行車の尾灯であると判定し、又は、ハロゲンランプの発光波長に相当する発光色であれば(ステップS17の“YES”)、その照明光は対向車のヘッドライトであると判定し、又は、HIDバルブの発光波長に相当する発光色であれば(ステップS18の“YES”)、その照明光は対向車のヘッドライトであると判定し、又は、LEDの発光波長に相当する発光色であれば(ステップS19の“YES”)、その照明光は対向車のヘッドライトであると判定し、いずれの場合も、次フレームの処理に移行する。
【0042】
<街路灯の識別>
図15は、街路灯の識別を行うためのフローを示す図である。このフローにおいて、まず、撮像部2の出力画像から道路のエリアを設定し(ステップS21)、次いで、そのエリア内の輝度平均値を算出する(ステップS22)。そして、エリア内の標準偏差を算出し(ステップS23)、所定の閾値以下の輝度を棄却し(ステップS24)、閾値以上の輝度値を有する画素の集合を照明光であると判定する(ステップS25)。
次いで、その画素の集合の色を調べ、水銀灯の発光波長に相当する発光色であれば(ステップS26の“YES”)、その照明光は水銀灯を用いた街路灯であると判定し、又は、ナトリウム灯の発光波長に相当する発光色であれば(ステップS27の“YES”)、その照明光はナトリウム灯を用いた街路灯であると判定し、又は、ハロゲン灯の発光波長に相当する発光色であれば(ステップS28の“YES”)、その照明光はハロゲン灯を用いた街路灯であると判定し、いずれの場合も、それら照明光の輝度が閾値以上であれば、前記の図8に示したように、L1〜L8の光量を弱にした後、次フレームの処理に移行する。
【0043】
<照明光の識別判定の具体例>
図16は、照明光の識別判定の具体例のフローを示す図である。このフローにおいて、まず、撮像部2の出力画像(たとえば、図13のRAW画像30又はストレッチ画像31)から高輝度の画素を切り出す(ステップS31)。矩形枠線は切り出しエリア33であり、エリア33内の白点は高輝度の画素(又は画素の集合)を表している。
【0044】
次に、エリア33内の画素を縦横2画素ずつの4画素単位に分類する(ステップS32)。この分類は、図4の太枠で示すRGGBの2×2画素を指定することを意味する。次に、分類された4画素のうちRとGの画素値の比率(R/G)を求める(ステップS33)。R/Gが大きい場合、その分類された4画素は赤色主体の画素の集まりであると考えることができ、この場合、たとえば、R/Gが1.1を越えている場合に赤色の照明光(たとえば、先行車の尾灯)であると判断することができる。
【0045】
R/Gが1.1以下であった場合は、次に、分類された4画素のうちRとBの画素値の比率(R/B)を求める(ステップS34)。R/Bが小さい場合、その分類された4画素は青色主体の画素の集まりであると考えることができ、この場合、たとえば、R/Bが1.0以下であった場合に青色の照明光(たとえば、HIDバルブを用いた対向車の前照灯)であると判断することができる。
【0046】
R/Bが1.0以上であった場合は、再び、分類された4画素のうちRとBの画素値の比率(R/B)を求める(ステップS35)。そして、R/Bが1.13以上であった場合、その分類された4画素は橙色主体の画素の集まりであると考えることができ、この場合、橙色の照明光(たとえば、ナトリウム灯を用いた街路灯)であると判断することができる。
【0047】
R/Bが1.0〜1.13であった場合は、次に、分類された4画素のRとGとBの画素値の比率(R/G/B)を求める(ステップS36)。そして、R/G/Bが0.000055以下であった場合、その分類された4画素は白色主体の画素の集まりであると考えることができ、この場合、白色の照明光(たとえば、白色LEDを用いた街路灯又は対向車の前照灯)であると判断することができる。
【0048】
R/G/Bが0.00055以下でなかった場合は、次に、分類された4画素のRとBの画素値の比率(R/B)を求める(ステップS37)。そして、R/Bが1.044以上であった場合、その分類された4画素は淡橙色主体の画素の集まりであると考えることができ、この場合、淡橙色の照明光(たとえば、ハロゲンランプ用いた街路灯又は対向車の前照灯)であると判断することができる。
【0049】
そして、最後に、R/Bが1.044以上でなかった場合(換言すればR/Bが1.044以下であった場合)は、その分類された4画素は淡緑色主体の画素の集まりであると考えることができ、この場合、淡緑色の照明光(たとえば、蛍光灯又は水銀灯用いた街路灯)であると判断することができる。
【0050】
以上のとおり、RGBの各画素値の比率から照明光の識別を行うことができるのであるが、これは、様々な照明光は、その発光波長に対応した特定の色の光を発するからである。
【0051】
図17は、先行車の尾灯などの赤色灯の識別概念図である。この図において、横軸はR/G比率(1次)であり、図中の三角図形はそれぞれの照明光を示している。ここで、HIDバルブや蛍光灯、白色LED、ハロゲン灯及びナトリウム灯はR/G比率のほぼ1.11前後を境にしてその左側に集まっているのに対して、赤色灯はその境から右側に位置するという特異性を持っている。したがって、上記の境目に相当する適切な閾値を設定してR/G比率を評価することにより、様々な照明光の中から「赤色光」を識別することができる。
【0052】
図18は、HIDバルブとナトリウム灯の識別概念図である。この図において、横軸はR/B比率であり、図中の三角図形はそれぞれの照明光を示している。ここで、蛍光灯や白色LED、ハロゲン灯はR/B比率のほぼ1.0〜1.03の間に集まっているのに対して、HIDバルブはR/B比率のほぼ1.0の左側に位置し、また、ナトリウム灯はR/B比率のほぼ1.03の左側に位置するという特異性を持っている。したがって、上記の境目(1.0と1.13程度)に相当する適切な閾値を設定してR/B比率を評価することにより、様々な照明光の中から「HIDバルブ」と「ナトリウム灯」を識別することができる。
【0053】
図19は、白色LEDの識別概念図である。この図において、横軸はR/G/B比率であり、図中の三角図形はそれぞれの照明光を示している。ここで、ハロゲン灯や蛍光灯はR/G/B比率のほぼ0.00053を境に、その右側に集まっているのに対して、白色LEDは、その境の左側に位置するという特異性を持っている。したがって、上記の境目(0.00053程度)に相当する適切な閾値を設定してR/G/B比率を評価することにより、様々な照明光の中から「白色LED」を識別することができる。
【0054】
図20は、蛍光灯とハロゲン灯の識別概念図である。この図において、横軸はR/B比率(2次)であり、図中の三角図形はそれぞれの照明光を示している。ここで、蛍光灯とハロゲン灯はR/B比率のほぼ1.041を境に、その右側と左側に分かれて位置するという特異性を持っている。したがって、上記の境目(1.041程度)に相当する適切な閾値を設定してR/B比率を評価することにより、「蛍光灯」と「ハロゲン灯」を識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施の形態に係る前照灯配光制御装置の全体構成図である。
【図2】撮像部2に用いられる撮像デバイス10の構造図である。
【図3】色フィルタ12を示す図である。
【図4】実際の色フィルタの構成図である。
【図5】車両における各前照灯(L1〜L8)の位置を示す図である。
【図6】制御部7で実行される制御プログラムの要部概略フローを示す図である。
【図7】前照灯配光制御処理の制御態様を示す図である。
【図8】対向車・先行車なしの場合の前照灯配光状態図である。
【図9】遠くの先行車ありの場合の前照灯配光状態図である。
【図10】近い先行車ありの場合の前照灯配光状態図である。
【図11】対向車ありの場合の前照灯配光状態図である。
【図12】街路灯ありの場合の前照灯配光状態図である。
【図13】撮像部2の出力画像を示す図である。
【図14】尾灯とヘッドライトの識別を行うためのフローを示す図である。
【図15】街路灯の識別を行うためのフローを示す図である。
【図16】照明光の識別判定の具体例のフローを示す図である。
【図17】先行車の尾灯などの赤色灯の識別概念図である。
【図18】HIDバルブとナトリウム灯の識別概念図である。
【図19】白色LEDの識別概念図である。
【図20】蛍光灯とハロゲン灯の識別概念図である。
【符号の説明】
【0056】
1 前照灯配光制御装置
2 撮像部(撮像手段)
7 制御部(識別手段、制御手段)
9 前照灯部(前照灯)
16 自車
20 先行車
21 対向車
22〜29 街路灯
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車前方の画像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段の出力画像に基づいて自車前方の先行車の尾灯又は対向車の前照灯若しくは街路灯を識別する識別手段と、
前記識別手段の識別結果に従って自車の前照灯の配光特性と光量を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする前照灯配光制御装置。
【請求項2】
前記撮像手段は自車前方のカラー画像を撮像するものであって、
前記識別手段は、該カラー画像に含まれる照明光の色情報から先行車の尾灯又は対向車の前照灯若しくは街路灯を識別することを特徴とする請求項1記載の前照灯配光制御装置。
【請求項1】
自車前方の画像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段の出力画像に基づいて自車前方の先行車の尾灯又は対向車の前照灯若しくは街路灯を識別する識別手段と、
前記識別手段の識別結果に従って自車の前照灯の配光特性と光量を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする前照灯配光制御装置。
【請求項2】
前記撮像手段は自車前方のカラー画像を撮像するものであって、
前記識別手段は、該カラー画像に含まれる照明光の色情報から先行車の尾灯又は対向車の前照灯若しくは街路灯を識別することを特徴とする請求項1記載の前照灯配光制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−132230(P2009−132230A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308936(P2007−308936)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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