説明

前立腺に特異的な膜抗原

【課題】精製された哺乳類PSM抗原、または哺乳類PSM抗原をコードする単離された哺乳類核酸分子によってコードされるポリペプチドを提供すること。
【解決手段】ヒト前立腺特異的膜抗原の特定な配列のポリペプチド、特定な配列のアミノ酸45〜750からなるヒト前立腺特異的膜抗原の外膜領域配列のポリペプチド、または特定な配列のアミノ酸45〜750からなるヒト前立腺特異的膜抗原の外膜領域配列における抗原性領域のポリペプチドであって、前記ポリペプチドは、前記前立腺特異的膜抗原に対して特異的な抗体を産生するために使用することができるポリペプチド。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、核酸変異検出法に関する。
【背景技術】
【0002】
この出願は、1992年11月5日に出願された合衆国特許出願第07/973,337号の一部継続出願であり、この親出願の内容は本願明細書の一部をなしている。
【0003】
ここに開示される発明は、保健社会福祉省から授与されたNHI補助金第DK 47650号およびCA 58192号に一部支援されてな成されたものである。従って、合衆国政府は本発明に関する一定の権利を有する。
【0004】
本件出願の全体に亘って、種々の文献が括弧内に示した引用によって参照される。これらの文献の開示は全体として、本発明が属する技術の状況をより完全に記述するための参考として、本明細書の一部をなしている。これら文献の完全な略記引用は、本明細書中の各実験シリーズの最後に列記してある。
【0005】
前立腺癌は、アメリカ人男性について診断される最も一般的な悪性腫瘍であるから、該疾患は合衆国における最も重要な医療問題の一つである。1992年には、132,000 例を越える前立腺癌が診断され、該疾患に起因した36,000例を越える死亡が検出されており、4年で17.3%の増加を示している(2)。前立腺癌の患者の5年生存率は、患部が局在化している疾患についての88%から、転移している患者についての29%に亘っている。症例数が急激に増加した理由の一部は、分泌タンパク、例えば前立腺特異的抗原(PSA)およびプロスタン酸ホスファターゼ(prostatic acid phosphatase;PAP)のような臨床マーカーが広範に使用されるようになったことと共に、当該疾患に関する知識が増加したことにあるよるように思える(37)。
【0006】
前立腺は、良性増殖(BPH)、新生物(前立腺癌)および感染(前立腺炎)のような症状に冒される重要な部位である。男性の癌による死亡の二番目の原因に相当する(1)。しかしながら、前立腺は男性において最も癌化し易い部位である。これら二つの事実の間に存在する食い違いは、前立腺癌の発生頻度は男性の年齢と共に増大し(特に60歳を越えてから)するので、そのときまでに他の要因によって死亡することが多いことが関係している。また、前立腺癌の生物学的侵襲力のスペクトルが大きいため、幾人かの男性では検出された後も腫瘍は潜伏した組織学的腫瘍のまま残り、重篤な臨床症状にはならないのに対して、他の例では迅速に広がり、2〜5年の比較的短い期間のうちに転移して死に至る(1,3)。
【0007】
前立腺癌細胞において、著しく高濃度で産生される二つの特異的タンパクは、プロスタン酸ホスファターゼ(prostatic acid phosphatase;PAP)および前立腺特異的抗原(PSA)である(4,5,6)。これらタンパクは既に特徴付けられており、治療に対する反応を追跡するために用いられている。癌の進行に伴なって、前立腺の正常な構造は変化するが、その変化には分泌物を除去するための正常な管路構造の喪失が含まれ、従って分泌物は血清に達することになる。実際に、血清PSAの測定は前立腺癌のための有望なスクリーニング法であることが示唆されている。事実、前立腺癌におけるPSAおよび/またはPAPの量は、正常または良性の組織に比較して相対的に低下する。
【0008】
PAPは、転移の広がりを検出するための最も初期の血清マーカーの一つである。PAPはリン酸チロシンを加水分解し、広い基質特異性を有している。チロシンのリン酸化は、しばしば発癌性の形質転換と共に増大する。悪性形質転換の間は、チロシン残基のリン酸化で活性化されるタンパクを不活性化すために利用され得るホスファターゼ活性が低いとの仮説が提示されている。幾つかの例において、チロシンホスファターゼ活性を有するホスファターゼ類の挿入は、悪性の表現型を反転させる。
【0009】
PSAはプロテアーゼであり、その活性が癌の発生とどのように関連するのかは、容易には理解されない(5,6)。PSAのタンパク分解活性は亜鉛によって阻害される。亜鉛濃度は正常な前立腺で高く、前立腺癌では低下する。多分、亜鉛の喪失はPSAによるタンパク分解活性を増大させる。プロテアーゼは転移に関与し、また幾つかのプロテアーゼは有糸分列活性を刺激するので、PSAの可能な活性増大は腫瘍の転移および広がりにおいて役割を有するとの仮説を立てることが可能であろう(7)。
【0010】
PSAおよびPAPの両者は、前立腺分泌物中に見られる。この両者の産生はアンドロゲンの存在に依存するようであり、アンドロゲンの枯渇に伴なって実質的に減少する。
【0011】
前立腺膜に局在化すると思われる前立腺特異的膜抗原(PSM)が同定されている。この抗原は、前立腺癌細胞、即ちLNCaPに対するモノクローナル抗体作成の結果として同定された(8)。
【0012】
ホロスツェビクツ博士(Dr. Horoszewicz) は、ホルモン治療に対して抵抗性の重度に前治療された患者のリンパ節から、LNCaPと命名される細胞系を樹立した(9)。この細胞系は異数体ヒト男性核型(aneuploid human male karyotype)を有することが見出された。これは、PSAおよびPAPの両者を産生する点において、前立腺分化機能を維持していた。また、高い親和性および特異性のアンドロゲン受容体を有していた。このLNCaP細胞でマウスを免疫感作し、感作細胞からハイブリドーマが誘導された。モノクローナル抗体が誘導され、7E11−C5と命名された(8)。この抗体染色は膜の分布位置と一致し、またLNCaP細胞膜の単離画分は、免疫ブロッティングおよびELISA技術で強い陽性反応を示した。この抗体は、イン・ビトロまたはイン・ビボにおいて、LNCaP細胞の増殖を阻害または促進しなかった。この抗原に対する抗体は、他の何れの成分においても反応性が観察されなかったから、前立腺上皮細胞に対して著しく特異的であった。癌性上皮細胞の免疫組織化学的染色の程度は、正常上皮細胞または良性上皮細胞のそれよりも強かった。
【0013】
ホロスツェビクツ博士はまた、7E11−C5を用いて、前立腺癌患者の血清中に免疫反応性物質を検出したことを報告した。この免疫反応性は、D−2疾病段階の患者では略60%で検出可能であり、より早期の疾病段階における患者では若干低いパーセンテージで検出可能であったが、後者の場合は患者数が少なかった。良性前立腺肥大(BPH)の患者は陰性であった。明白な疾病のない患者は陰性であったが、緩解期にあるけれども未だ活性で安定な疾病または進行性の疾病を有する患者は陽性の血清反応を示した。前立腺腫瘍のない患者は、7E11−C5との免疫反応を示さなかった。
【0014】
7E11−C5モノクローナル抗体については現在臨床試験が行なわれている。該抗体のアルデヒド基を酸化し、その重鎖の反応性アルデヒドに、リンカ- キレータグリコール- チロシル- (n,ε−ジエチレントリアミン−五酢酸)- リジン(GYK- DTPA)が結合された。得られた抗体は、CYT-356と命名された。このCYT-356修飾抗体が骨格筋を染色することを除けば、免疫組織化学的染色パターンは同様であった。CYT-356を7E11−C5モノクローナル抗体と比較することによって、両者がタイプ2の筋肉繊維に結合したことが示唆された。この結果が骨格筋が陰性であると報告した初期の研究と齟齬する理由は、組織固定化技術の相違に起因するものであることが示唆された。やはり、最も強く且つ明確な反応が前立腺上皮細胞、特に癌細胞で観察された。マウス骨格筋との反応は、免疫組織学的研究によって検出されたが、画像化研究では検出されなかった。インジウム-111でラベルされた抗体は、ヌードマウス中で増殖されたLNCaP腫瘍に対して、腫瘍1グラム当たり略30%の注射で4日間集中的に投与された。イン・ビボでは、PC−3およびDU-145のような抗体陰性腫瘍における該抗体の選択的な保持、または骨格筋による選択的な保持は観察されなかった。
【0015】
PSM抗原については極めて僅かしか知られていない。精製および特徴付けの努力については、ジョージ・ライト博士(Dr. George Wright) および彼の同僚によって会議で報告されている(11,12)。これらの研究者は、アクリルアミドゲル上での電気泳動およびウエスタンブロッティングによって、PSM抗原は 100キロダルトン(kd)の分子量を維持することを示した。化学的および酵素的処理によって、7E11−C5モノクローナル抗体による認識のためには、PSM抗原のペプチド部分および糖鎖部分が必要であることが示された。特異的レクチンを用いた拮抗研究は、galNAcが抗原性エピトープの優勢な糖鎖であることを示唆した。
【0016】
前立腺の細胞および組織に独特な該 100 kd の糖タンパクが精製され、特徴付けされた。このタンパクはトリプシンでタンパク分解的に消化され、9種類のペプチドフラグメントが配列決定された。縮退PCR(degenerate PCR)(ポリメラーゼ連鎖反応)の技術を用いることにより、この抗原をコードする2.65キロ塩基(kb)の完全な長さのcDNAがクローン化された。予備的な結果によって、この抗原は、骨およびリンパ節の転移を含む前立腺癌組織中で高度に発現されることが明らかになった(13)。このcDNAの全体のDNA配列、並びに該抗原の推定アミノ酸配列が決定された。当該PSA抗原の更なる特徴付けは、現在、出願人の実験室で進行中である:即ち、これには多種類の組織におけるPSA遺伝子発現の分析、当該抗原を発現しない細胞へのPSM遺伝子のトランスフェクション、PSM遺伝子の染色体分布、PSMプロモータの分析ならびにPSM抗原の抗原性の高いペプチドドメインに対するポリクローナルおよびモノクローナル抗体の生成を用いたゲノムPSM遺伝子のクローニング、何等かの内因性PSM結合性分子(リガンド)の同定が含まれる。
【0017】
LNCaP細胞は、三つの全ての前立腺バイオマーカー類、即ちPSA、PAPおよびPSMを産生するので、現在のところヒト前立腺癌を研究するための最良のイン・ビトロモデル系を提供する。この細胞は、Y染色体をもった異数体雄核型を有し、高いアンドロゲン受容体親和性を発現し、またテストステロンおよびDHTの両者に対してホルモン的に反応性である。PSMはトランスメンブラン糖タンパクであるようにみえるので、抗体指向性の画像化および前立腺腫瘍沈着物のターゲッティングに魅力的であると思われる(38)。我々は、PSM・cDNAをトランスフェクトしたLNCaP細胞およびPC−3細胞におけるPSMタンパクの発現を立証し、またヒト組織におけるステロイドホルモン類に応答したPSM・mRNA発現の特徴付けを行なった。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、哺乳類の前立腺特異性膜(prostate-specific membrane;PSM)の抗原をコードする単離された哺乳類核酸分子を提供する。この単離された哺乳類核酸は、DNA、cDNAまたはRNAであり得る。
【0019】
本発明はまた、PSM抗原をコードする核酸分子の配列内に含まれる一つの配列と特異的にハイブリダイズすることができる少なくとも15ヌクレオチドの核酸分子を有する核酸分子を提供する。この核酸分子は、DNAまたはRNAの何れかであり得る。
【0020】
本発明は、哺乳類の前立腺特異性膜抗原をコードする核酸分子に対して相補的な核酸分子の配列と特異的にハイブリダイズすることができる、少なくとも15ヌクレオチドの核酸分子を提供する。
【0021】
本発明は更に、PSM抗原の発現を検出する方法であって、細胞から全mRNAを得ることと、こうして得られたmRNAとラベルされたPSM抗原特異性の核酸分子とを、ハイブリダイズ条件下で接触させることと、該プローブにハイブリダイズしたmRNAの存在を測定し、これによって前記細胞によるPSM抗原の発現を検出することとを具備した方法を提供する。組織切片におけるPSM抗原が同様にして検出され得る。
【0022】
本発明は、RNA転写プロモータと動作可能にリンクした、PSM抗原の単離された核酸分子を提供する。本発明は更に、PSM抗原の単離された哺乳類核酸分子を含むベクターを提供する。
【0023】
本発明は更に、哺乳類PSM抗原の生物学的活性を有するポリペプチドを製造するためのホストベクター系であって、哺乳類PSM抗原をコードする哺乳類核酸分子と、適切なホストとを具備したホストベクター系を提供する。PSM抗原の発現のための適切なホストは、バクテリア細胞、昆虫細胞または哺乳動物細胞であり得る。
【0024】
本発明はまた、哺乳類PSM抗原の生物学的活性を有するポリペプチドを製造する方法であって、哺乳類PSM抗原をコードする単離された哺乳類核酸分子を含んだベクターおよび適切なホストを有するベクター系のホスト細胞を、前記ポリペプチドの産生および産生された該ポリペプチドの回収を可能とする適切な条件下で増殖させることを具備した方法を提供する。
【0025】
本発明は、或るリガンドが哺乳類PSM抗原に結合できるか否かを決定するための方法であって、哺乳類PSM抗原をコードする単離された哺乳類DNA分子を有する哺乳動物細胞と前記リガンドとを、前記哺乳類PSM抗原にリガンドを結合させる条件下で接触させることと、該リガンドが哺乳類PSM抗原に結合するか否かを決定することとを具備した方法を提供する。本発明は更に、PSM抗原に結合するリガンドを提供する。
【0026】
本発明は、精製された哺乳類PSM抗原を提供する。本発明はまた、哺乳類PSM抗原をコードする単離された哺乳類核酸分子によってコードされるポリペプチドを提供する。本発明は更に、哺乳類PSM抗原のリガンドを同定および精製する方法を提供する。
【0027】
本発明は更に、哺乳類PSM抗原をコードする単離された哺乳類核酸分子によってコードされる精製されたPSM抗原またはポリペプチドを用いて、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両者を製造する方法を提供する。
【0028】
本発明は、PSM抗原のペプチドである Asp-Glu-Leu-Lys-Ala-Glu(配列ID番号35)、Asn-Glu-Asp-Gly-Asn-Glu (配列ID番号36)または Lys-Ser-Pro-Asp-Glu-Gly(配列ID番号37)の何れかに対して最も指向され易い(しかし、これに限定されるものではない)ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を提供する。
【0029】
本発明は、哺乳類PSM抗原に向けられた抗体と、これに結合された細胞毒性薬剤とを含有する治療剤を提供する。
【0030】
本発明はまた、ヒト患者における前立腺癌を画像化する方法であって、該患者に対して、PSM抗原に向けられる少なくとも一つの抗体であって前立腺癌細胞の細胞表面に結合でき且つ画像化剤でラベルされた抗体を、該モノクローナル抗体と前記細胞表面PSM抗原との間で複合体が形成される条件下で投与することを具備した方法を提供する。本発明は更に、画像化に有効な量のPSM抗原に向けられた抗体と、薬剤的に許容され得るキャリアとを含有する組成物を提供する。
【0031】
本発明は更に、ヒト患者における前立腺癌を画像化する方法であって、該患者に対して、異なったPSMエピトープ類に向けられる複数の抗体を投与することを具備した方法を提供する。
【0032】
本発明はまた、ヒト患者における前立腺癌を画像化する方法であって、該患者に対して、前立腺癌細胞の細胞表面に結合でき且つ画像化剤でラベルされた少なくとも一つのリガンドを、該リガンドと前記細胞表面PSM抗原との間で複合体を形成する条件下で投与することを具備した方法を提供する。本発明は更に、画像化に有効な量のPSM抗原と、薬剤的に許容可能なキャリアとを含有する組成物を提供する。
【0033】
本発明は、生物学的サンプル(例えば血清)中のPSM抗原を測定するための免疫検定法であって、a)前記生物学的サンプルを少なくとも一つのPSM抗体と接触させて、該抗体と前記PSM抗原との複合体を形成する工程と、b)前記複合体の量を測定することにより、前記生物学的サンプル中のPSM抗原の量を測定する工程とを具備した方法を提供する。
【0034】
本発明はまた、生物学的サンプル中のPSM抗原の量を測定するための免疫検定法であって、a)前記生物学的サンプルを少なくとも一つのPSMリガンドと接触させて、該リガンドと前記PSM抗原との複合体を形成する工程と、b)前記複合体の量を測定することにより、前記生物学的サンプル中のPSM抗原の量を測定する工程とを具備した方法を提供する。
【0035】
本発明は、哺乳類PSM抗原を精製する方法であって、a)PSM抗原に対する抗体を固相マトリックスに結合させる工程と、b)PSM抗原を含む細胞溶解物および工程a)の結合抗体を、該抗体とPSM抗原とを結合させる条件下でインキュベートする工程と、c)前記結合させた固相マトリックスを洗浄して不純物を除去する工程と、d)前記結合抗体から前記PSM抗原を溶出させる工程とを具備した方法を提供する。
【0036】
本発明は更に、PSM抗原の単離された核酸分子を含んだトランスジェニック非ヒト哺乳動物を提供する。本発明はまた、哺乳類PSM抗原をコードするDNAに対して相補的なアンチセンスDNAがゲノム中に含まれるトランスジェニック非ヒト哺乳動物であって、該アンチセンスDNAはPSM抗原をコードするmRNAに対して相補的なアンチセンスmRNA中に転写されるように配置されており、該アンチセンスmRNAはPMS抗原をコードするmRNAとハイブリダイズすることにより、その翻訳を低下させるトランスジェニック非ヒト哺乳動物を提供する。
【0037】
本発明は、前立腺腫瘍細胞の転移能力、前立腺腫瘍の増殖または前立腺腫瘍細胞の除去を抑制し、または調節する方法であって、前立腺特異性膜抗原をコードし且つ5´調節要素と動作可能にリンクしたDNA分子を、該前立腺特異性膜抗原の発現が前記調節要素の制御を受けるような仕方で患者の腫瘍細胞中に導入し、これによって前立腺腫瘍細胞の転移能力、前立腺腫瘍の増殖または前立腺腫瘍細胞の除去を抑制し、または調節する方法を提供する。
【0038】
本発明は、前立腺腫瘍細胞の転移能力、前立腺腫瘍の増殖または前立腺腫瘍細胞の除去を抑制し、または調節する方法であって、前立腺特異性膜抗原をコードし且つ5´調節要素と動作可能にリンクすると共に、治療的DNAに結合したDNA分子を患者の腫瘍細胞中に導入し、これによって前立腺腫瘍細胞の転移能力、前立腺腫瘍の増殖または前立腺腫瘍細胞の除去を抑制し、または調節する方法を提供する。
【0039】
本発明は、患者におけるヒト前立腺腫瘍の増殖または前立腺細胞の刺激を防止するための治療的ワクチンであって、前立腺細胞に対して投与される有効量および薬剤的に許容され得るキャリアを含有し、これによって患者における腫瘍増殖または腫瘍細胞の刺激を防止するワクチンを提供する。
【0040】
本発明は、患者の血液原性微小転移腫瘍細胞を検出する方法であって、(A)前立腺特異性膜抗原プライマーを用いて、患者の血液、骨髄またはリンパ節サンプルに対し、ネストされたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行なうことと、(B)DNA配列決定およびサザン分析によって微小転移を確認することにより、前記患者の血液原性微小転移腫瘍細胞を検出することとを具備した方法を提供する。
【0041】
本発明は、トランスフェリンに起因した分裂応答を阻止する方法であって、前立腺特異性膜抗原をコードし且つ5´調節要素と動作可能にリンクしたDNA分子を腫瘍細胞中に導入することを具備し、該遺伝子の発現は多細胞生物内における定義された病理学的効果に直接関連しており、それによってトランスフェリンに起因した分裂応答を阻害する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【0042】
この出願を通して特定のヌクレオチドに言及するとき、その言及は核酸のコード鎖上に存在するヌクレオチドに関するものである。特定のヌクレオチドを示すために、この明細書を通して次の標準的な略記法が用いられる。
【0043】
C=シトシン A=アデノシン
T=チミジン G=グアノシン
「遺伝子」は核酸分子を意味し、該遺伝子の配列には、特定のタンパクを正常に調節された状態で製造するために必要な全ての情報(構造的コーディング配列、プロモータおよびエンハンサを含む)が含まれる。
【0044】
本発明は、哺乳類前立腺特異性膜(PSM)抗原をコードする単離された哺乳類核酸分子を提供する。
【0045】
本発明は更に、哺乳類前立腺特異性膜抗原をコードする単離された哺乳類核酸分子の、単離された哺乳類DNA分子を提供する。本発明はまた、哺乳類前立腺特異性膜抗原をコードする単離された哺乳類cDNA分子を提供する。本発明は、哺乳類前立腺特異性膜抗原をコードする単離された哺乳類RNA分子を提供する。
【0046】
本発明の好ましい態様において、前記単離された核酸配列は、配列ID番号1に示したように、ヒト由来のcDNAである。このヒト配列は、PSMホモサピエンス、2653塩基対の説明を伴なって、受付番号 M99487 でジーンバンク(ニューメキシコ州ロスアラモスに所在のロスアラモス国立研究所)に提出された。
【0047】
本発明はまた、PSM抗原の配列とは異なったアミノ酸配列をコードするDNA類およびcDNA類をも包含するが、表現型の変化を生じてはならない。或いはまた、本発明は、本発明のDNAおよびcDNAにハイブリダイズするDNA類およびcDNA類をも包含する。ハイブリダイゼーション法は当業者に周知である。
【0048】
本発明のDNA分子はまた、一以上のアミノ酸残基の同一性または位置の点で天然に存在する形とは異なり、且つ天然存在形の性質の幾つか又は全てを共有する、抗原性ポリペプチドのポリペプチド類縁体、フラグメントまたは誘導体(該タンパクについて特定された全残基よりも少ない残基を含む欠失類縁体、特定された一以上の残基が他の残基で置換された置換類縁体、一以上のアミノ酸残基が当該ポリペプチドの末端部分または中間部分に付加された付加類縁体)をコードするDNA分子をも包含する。これら分子は、選ばれた非哺乳動物ホストによる発現のために「好ましい」コドンの組み込み;制限エンドヌクレアーゼ酵素による開裂部位の設置;および容易に発現されるベクター類の構築を容易にする初期DNA配列、末端DNA配列もしくは中間DNA配列の追加設置を含んでいる。
【0049】
ここに説明され且つ権利請求されるDNA分子は、該分子が提供するポリペプチドのアミノ酸配列に関する情報において有用であり、また種々の組換え技術によるポリペプチド大規模合成の生成物として有用である。この分子は、新規なクローニングベクター、発現ベクター、形質転換およびトランスフェクトされた原核および真核ホスト細胞を創造するために有用であり、また当該ポリペプチドおよび関連生成物を発現できるホスト細胞を培養増殖するための新規かつ有用な方法を創造するために有用である。
【0050】
更に、哺乳類前立腺特異性膜抗原をコードする単離された哺乳類核酸分子は、前立腺癌の腫瘍発生を研究するためのプローブの開発に有用である。
【0051】
本発明はまた、前立腺特異性膜抗原をコードする核酸分子の配列と特異的にハイブリダイズできる少なくとも15ヌクレオチドの核酸分子を提供する。
【0052】
製造されたこの核酸分子は、DNAまたはRNAの何れであってもよい。ここで用いる「特異的にハイブリダイズする」との語句は、核酸分子が、それ自信の配列に対して相補的な核酸配列を認識し、相補的塩基対間の水素結合を介して二重螺旋セグメントを形成する能力を意味する。
【0053】
前立腺特異性膜抗原をコードする核酸分子の配列と特異的にハイブリダイズできる少なくとも15ヌクレオチドの前記核酸分子は、プローブとして用いることができる。核酸プローブ技術は当業者に周知であり、当業者は、かかるプローブの長さが非常に大きく変化され得ること、並びに該プローブの検出を容易にするために、放射性アイソトープまたは蛍光染料のような検出ラベルで標識され得ることを容易に理解するであろう。DNAプローブ分子は、PSM抗原をコードするDNA分子をプラスミドまたはバクテリオファージのような適切なベクター中に挿入し、続いて当該技術分野で周知の方法を用いることにより、適切なバクテリアホスト細胞中に形質転換し、この形質転換されたバクテリア細胞中で複製し、当該DNAプローブを回収することによって製造され得る。或いは、プローブをDNA合成機で化学的に生成させてもよい。
【0054】
RNAプローブは、T3,T7またはSP6のようなバクテリオファージの下流にPSM抗原分子を挿入することによって作成することができる。大量のRNAプローブは、ラベルされたヌクレオチドを、適切なRNAポリメラーゼの存在下で、線形化された上流プロモータを含むPSM抗原フラグメントと共にインキュベートすることによって製造され得る。 本発明はまた、哺乳類前立腺特異性膜抗原をコードする哺乳類核酸分子に対して相補的な核酸分子の配列と特異的にハイブリダイズできる少なくとも15ヌクレオチドの核酸分子を提供する。この分子は、DNA分子またはRNA分子の何れであってもよい。
【0055】
本発明は更に、細胞内における哺乳類PSM抗原の発現を検出する方法であって、細胞から全mRNAを得ることと、こうして得られたmRNAを、ハイブリダイズ条件下で、哺乳類PSM抗原をコードする核酸分子の配列と特異的にハイブリダイズできる少なくとも15ヌクレオチドのラベルされた核酸分子に接触させることと、該分子にハイブリダイズしたmRNAの存在を測定し、これによって前記細胞内における前記哺乳類前立腺特異性膜抗原の発現を検出することとを具備した方法を提供する。上記で合成された核酸分子は、PSM抗原をコードするmRNAの存在を検出することによりPSM抗原の発現を検出するために用いることができる。細胞由来の全mRNAは、当業者に周知の多くの方法によって単離され得る。前記ラベルされた核酸分子のハイブリダイズ条件は、当該技術分野で周知のルーチン実感によって決定され得る。プローブにハイブリダイズしたmRNAの存在は、ゲル電気泳動または当該技術分野で周知の他の方法によって測定され得る。形成されたハイブリッドの量を測定することによって、前記細胞によるPSM抗原の発現を測定することができる。ラベリングの手段は放射能であり得る。例えば、前記核酸を製造する際に、一以上の放射性ヌクレオチドを該核酸中に取り込むことができる。
【0056】
本発明の一態様において、核酸は溶解細胞からの沈殿によって抽出され、またmRNAは、該mRNAのポリA尾部を結合するオリゴ- dTカラムを用いて該抽出物から単離される(13)。次いで、このmRNAはニトロセルロース膜上の放射能ラベルされたプローブに晒され、該プローブは相補的なmRNAにハイブリダイズしてこれをラベルする。結合は、発光オートラジオグラフィー又はシンチレーション計数によって検出され得る。しかし、これらのステプを実行する他の他の方法が当業者に周知であり、上記で述べた方法は単なる例に過ぎない。
【0057】
本発明は更に、組織切片におけるPSM抗原の発現を検出する他の方法であって、前記組織切片を、ハイブリダイズ条件下で、哺乳類PSM抗原をコードする核酸分子の配列と特異的にハイブリダイズできる少なくとも15ヌクレオチドのラベルされた核酸分子に接触させることと、該分子にハイブリダイズしたmRNAの存在を測定し、これによって組織切片における前記哺乳類PSM抗原の発現を検出することとを具備した方法を提供する。このプローブはまた、原位置での(in-situ) ハイブリダイゼーション又はこの遺伝子を発現する組織の位置を突き止めるために有用であり、或いは種々の生物学的組織における当該遺伝子もしくはそのmRNAの存在に関する他のハイブリダイゼーション試験のために有用である。ラベルされた核酸分子を用いた原位置でのハイブリダイゼーションは、当該技術において周知である。本質的に、組織切片はラベルされた核酸分子と共にインキュベートされて、ハイブリダイゼーションが生じる。この分子は「ラベルされている」から検出のためのマーカーを有しており、該ハイブリッドの量はマーカ量の検出に基づいて測定されるあろうし、PSM抗原の発現もそうであろう。
【0058】
本発明は更に、RNA転写のプロモータに動作可能にリンクした、単離されたPSM抗原核酸分子を提供する。この単離されたPSM抗原の配列は、ベクター系に結合することができる。プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクターおよび他のウイルスを含む種々のベクター類が当業者に周知である。本発明は更に、PSM抗原をコードする単離された核酸分子を含んだベクターを提供する。 これらベクターを得る方法の一例は、挿入DNAおよびベクターDNAの両者を制限酵素に晒して塩基対が互いに相補的である末端を両分子に形成し、次いで、DNAリガーゼを用いてこれら分子を連結することである。或いは、ベクターDNAにおける制限部位に対応するリンカーを挿入DNAに結合し、次いで該部位で切断する制限酵素で消化することもできる。他の手段も利用可能であり、これは当業者に周知である。
【0059】
一つの態様において、該PSM配列はpSPORT/ベクター( GibcoR -BRL)のNotI/SalI部位にクローン化される。このプラスミド(p55A−PSM)は、1992年8月14日に、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約の規定に従って、アメリカ合衆国メリーランド州20852 ロックウィル 12301パークローンドライブのアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託された。プラスミドp55A−PSMには、ATCC受付番号 75294号が付与された。
【0060】
本発明は更に、前立腺特異性膜抗原の生物学的活性を有するポリペプチドを製造するためのホスト/ベクター系を提供する。これらのベクター類は適切なホスト細胞中に形質転換されて、PSM抗原の生物学的活性を有するポリペプチド製造のためのホスト細胞/ベクター系を形成する。
【0061】
発現のために必要とされる調節要素には、RNAポリメラーゼを結合するプロモータ配列およびリボゾーム結合のための転写開始配列が含まれる。例えば、バクテリア発現ベクターはlacプロモータ、転写開始のためのシャイン- ダルガノ配列および開始コドンAUGを含んでいる(14)。同様に、真核細胞発現ベクターはRNAポリメラーゼIIのための非相同性または相同性のプロモータ、下流ポリアデニル化信号、開始コドンAUGおよびリボゾームの脱離のための終止コドンを含んでいる。このようなベクター類は商業的に得ることができ、或いは当該技術において周知の方法、例えば一般的なベクターを構築するための上記方法によって、既知の配列から組み立てることができる。発現ベクターは、PSM抗原を発現する細胞の製造に有用である。
【0062】
本発明は更に、上記で説明した単離されたDNA分子またはcDNA分子であって、ホスト細胞がバクテリア細胞(例えばE.coli)、酵母細胞、真菌細胞、昆虫細胞および動物細胞からなる群から選択されるDNAまたはcDNA分子を提供する。適切な動物細胞にはVero細胞、HeLa細胞、Cos細胞、CV1細胞および種々の一次哺乳動物細胞(primary mammalian cells) が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
本発明は更に、前立腺特異性膜抗原の生物学的活性を有するポリペプチドを製造する方法であって、前記PSM抗原の配列を含んだベクター系のホスト細胞を、前記ポリペプチドの産生を可能とする適切な条件下で増殖させることと、こうして産生されたポリペプチドを回収することとを具備した方法を提供する。
【0064】
本発明は、哺乳類PSM抗原をコードするDNA分子を含んだ哺乳動物細胞、例えば哺乳動物細胞内での発現に適用されるプラスミドを含んだ哺乳動物細胞であって、哺乳類PSM抗原をコードするDNA分子と、哺乳類PSM抗原をコードする該DNA分子の発現を可能とするように相対的に位置づけられた、哺乳動物細胞内での前記DNAの発現に必要な調節要素とを含んだ哺乳動物細胞を提供する。
【0065】
多くの哺乳動物細胞がホストとして使用され得る。その中にはマウス繊維芽細胞NIH3T3、CHO細胞、HeLa細胞、Ltk- 細胞、Cos細胞等が含まれるが、これらに限定されるものではない。上記のような発現プラスミドは、リン酸カルシウム沈降法、電気穿孔法のような当該技術で周知の方法によって哺乳動物細胞をトランスフェクトするために使用され、或いは例えばマイクロインジェクションによって哺乳類細胞中に導入されて、哺乳類PSM抗原をコードするDNA(例えばcDNAまたはプラスミド)を含んだ哺乳類細胞を得ることができる。
【0066】
本発明は、或るリガンドが哺乳類前立腺特異性膜抗原に結合できるか否かを決定するための方法であって、哺乳類前立腺特異性膜抗原をコードする単離されたDNA分子を有する哺乳動物細胞と前記リガンドとを、前記哺乳類前立腺特異性膜抗原にリガンドを結合させる条件下で接触させることと、該リガンドが哺乳類前立腺特異性膜抗原に結合するか否かを決定することとを具備した方法を提供する。
【0067】
本発明は更に、哺乳類PSM抗原に結合するリガンドを提供する。
【0068】
本発明はまた、上記の方法によって同定されたリガンドと、これに結合された細胞毒性薬剤とを含有する治療剤を提供する。この細胞毒性薬剤は、放射性アイソトープまたは毒素の何れかであり得る。放射性アイソトープまたは毒素の例は、当業者に周知である。
【0069】
本発明はまた、ヒト患者における前立腺癌を画像化する方法であって、該患者に対して、上記方法により同定された少なくとも一つのリガンドであって前立腺癌細胞の細胞表面に結合でき且つ画像化剤でラベルされたリガンドを、該リガンドと前記細胞表面PSM抗原との間で複合体が形成される条件下で投与することを具備した方法を提供する。本発明は更に、画像化に有効な量のPSM抗原リガンドと、薬剤的に許容され得るキャリアとを含有する組成物を提供する。薬剤的に許容され得るキャリアは当業者に周知である。例えば、このような薬剤的に許容され得るキャリアは生理食塩水であり得る。
【0070】
また、本発明によれば、精製された哺乳類PSM抗原が提供される。ここで使用する「精製された前立腺特異性膜抗原」の用語は、単離された天然に存在する前立腺特異性膜抗原またはタンパク(天然物から精製され、或いは一次、二次もしくは三次コンホメーションおよび翻訳後の修飾が天然に存在する物質と同一になるように製造されたもの)、並びに一次構造の一致性(即ち、アミノ酸残基の連続的配列)を有する天然に存在しないポリペプチドを意味する。このようなポリペプチドには、誘導体および類縁体が含まれる。
【0071】
本発明は更に、PSM抗原の単離された哺乳類核酸配列によってコードされるポリペプチドを提供する。
【0072】
PSM抗原と相互作用する天然のリガンドが存在し得ると思われる。本発明は、このような天然のリガンドまたはPSM抗原に結合できる他のリガンドを同定する方法を提供する。該リガンドを同定する方法は、a)精製された哺乳類PSM抗原を固相マトリックスに結合させる工程と、b)この結合された精製哺乳類PSMタンパクと潜在的リガンドとを、該リガンドおよび精製PSM抗原を結合させる条件下でインキュベートする工程と、c)工程b)で形成された、前記リガンドおよび前記結合された哺乳類PSM抗原の複合体を洗浄して、非特異的結合物および不純物を除去する工程と、d)前記結合された哺乳類PSM抗原から前記リガンドを溶出させる工程とを具備する。タンパクを固相マトリックスに結合させる技術は、当該技術分野において周知である。潜在的リガンドは、哺乳類PSMの構造から推定され得、または当業者に公知の他の経験的な実験によって推定され得る。結合の条件もまた容易に決定され得、このような実験を行なうためのプロトコールは文献中に既に十分に説明されている(15)。リガンド- PSM抗原の複合体は洗浄される。最後に、結合したリガンドは溶出され、特徴付けされる。リガンドの特徴付けを行なう標準の技術は当該技術分野で周知である。
【0073】
上記方法はまた、何れかの生物学的供給源からリガンドを精製するために用いられ得る。細胞中の天然リガンドを精製するためには、マトリックス上に結合された哺乳類PSM抗原と共にインキュベートするために、細胞溶解物、血清または他の生物学的サンプルが用いられる。次いで、特定の天然リガンドが上記のようにして同定され、精製される。
【0074】
タンパク配列情報と共に、抗原性領域が同定され得る。そして、これら領域に対する抗体が作成されて、前立腺癌の画像化または治療のために、該抗体は前立腺癌に対してターゲッティングされ得る。
【0075】
本発明は、哺乳類PSM抗原のアミノ酸配列に対する抗体を提供する。
【0076】
本発明は、抗体を生成するPSM抗原上の特定の領域を選択する方法を提供する。タンパク配列は、PSMのDNA配列から推定され得る。アミノ酸配列は当業者に周知の方法により分析されて、構築されたタンパク中でそれらが疎水性領域または親水性領域を生成し得るか否かが決定され得る。細胞膜タンパクの場合、水性環境において、疎水性領域は細胞膜の脂質二重層中に挿入されるタンパク部分を形成するのに対し、親水性領域は細胞表面に位置することが周知である。通常、親水性領域は疎水性領域よりも免疫原性である。従って、哺乳類PSM抗原に対して特異的な抗体を生成するためには、親水性アミノ酸配列が選択され、使用され得る。一例として、図16の親水性プロットに示したヒトPSM抗原の親水性配列が容易に選択され得る。この選択されたポリペプチドは、商業的に入手可能な機械を用いて調製され得る。或いは、cDNAもしくはそのフラグメントのようなDNAをクローン化および発現させ、得られたポリペプチドを回収して、これを免疫原として使用してもよい。
【0077】
これらポリペプチドに対するポリクローナル抗体は、選択されたペプチドを用いて動物を免疫感作することにより製造され得る。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術を用いて、免疫感作された動物由来の抗体産生B細胞をミエローマ細胞と融合させ、得られた所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞系を選別することによって調製される。或いは、モノクローナル抗体は当業者に公知のイン・ビトロ技術によって製造され得る。これら抗体は、生きた動物、ヒト若しくは生物学的組織、または動物若しくはヒトから単離された体液中において、哺乳類PSM抗原の発現を検出するために有用である。
【0078】
一つの態様においては、ヒトPSM抗原のペプチドである Asp-Glu-Leu-Lys-Ala-Glu(配列ID番号35)、Asn-Glu-Asp-Gly-Asn-Glu (配列ID番号36)および Lys-Ser-Pro-Asp-Glu-Gly(配列ID番号37)が選択される。
【0079】
本発明は更に、ペプチドである Asp-Glu-Leu-Lys-Ala-Glu(配列ID番号35)、Asn-Glu-Asp-Gly-Asn-Glu (配列ID番号36)および Lys-Ser-Pro-Asp-Glu-Gly(配列ID番号37)に対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を提供する。
【0080】
本発明は、PSM抗原に向けられた抗体またはリガンドと、これに結合された細胞毒性薬剤または腫瘍殺滅性プロドラッグを活性化する抗体結合酵素とを含有する治療剤を提供する。細胞毒性薬剤は放射性アイソトープまたは毒素の何れかであり得る。
【0081】
本発明は、ヒト患者における前立腺癌を画像化する方法であって、該患者に対して、哺乳類PSM抗原のペプチドに向けられるモノクローナル抗体であって前立腺癌細胞の細胞表面に結合でき且つ画像化剤でラベルされた抗体を、該モノクローナル抗体と前記細胞表面の前立腺特異性膜抗原との間で複合体が形成される条件下で投与することを具備した方法を提供する。画像化剤は、インジウム111 のような放射性アイソトープである。
【0082】
本発明は更に、前立腺癌特異性の画像化剤であって、PSM抗原に向けられた抗体と、これに結合した放射性アイソトープとを含む画像化剤を提供する。
【0083】
本発明はまた、PSM抗原に向けられた画像化に有効な量の抗体と、薬剤的に許容され得るキャリアとを含有する組成物を提供する。画像化に有効な量を決定する方法は当業者に周知である。一つの方法は、異なった量の抗体を用いた滴定による方法である。
【0084】
本発明は更に、生物学的サンプル中の前立腺特異性膜抗原の量を測定するための免疫検定法であって、a)前記生物学的サンプルをPSM抗原に向けられた少なくとも一つの抗体と接触させて、該抗体と前立腺特異性膜抗原との複合体を形成する工程と、b)前記複合体の量を測定することにより、前記生物学的サンプル中の前立腺特異性膜抗原の量を測定する工程とを具備した方法を提供する。前記生物学的サンプルの一例は血清サンプルである。
【0085】
本発明は、哺乳類前立腺特異性膜抗原を精製する方法であって、a)PSM抗原に対する抗体を固相マトリックスに結合させる工程と;b)前立腺特異性膜抗原を含む細胞溶解物および工程a)の結合抗体を、該抗体および前立腺特異性膜抗原が結合できる条件下でインキュベートする工程と;c)前記固相マトリックスを洗浄して不純物を除去する工程と;d)前記結合抗体から前立腺特異性膜抗原を溶出させる工程とを具備した方法を提供する。
【0086】
本発明はまた、哺乳類PSM抗原をコードする単離された核酸分子を含んだトランスジェニック非ヒト哺乳動物を提供する。本発明は更に、哺乳類前立腺特異性膜抗原をコードするDNAに対して相補的なアンチセンスDNAがゲノム中に含まれるトランスジェニック非ヒト哺乳動物であって、該アンチセンスDNAは前立腺特異性膜抗原をコードするmRNAに対して相補的なアンチセンスmRNA中に転写されるように配置されており、該アンチセンスmRNAは前立腺特異性膜抗原をコードするmRNAとハイブリダイズすることにより、その翻訳を低下させるトランスジェニック非ヒト哺乳動物を提供する。
【0087】
哺乳類PSM抗原の生理学的および行動的役割を解明する動物モデル系は、種々の技術によってPSM抗原の発現が増大または減少され、或いは発現されたPSM抗原のアミノ酸配列が変化されるトランスジェニック動物を創製することによって製造される。これら技術の例には下記の二つが含まれるが、これらに限定されるものではない:1)トランスジェニック動物を製造するために、哺乳類PSM抗原をコードするDNAの正常バージョンまたは突然変異バージョンを、マイクロインジェクション法、電気穿孔法、レトロウイルストランスフェクションまたは当業者に周知の他の手段によって、適切な受精胚中に挿入すること(16);2)これら遺伝子の突然変異もしくは正常なヒト若しくは動物バージョンと、トランスジェニック動物における生来の遺伝子座との間の相同性組換え(17)を行ない、これらPSM抗原配列の発現調節または構造を変化させること。相同性組換えの技術は当該技術分野において周知である。相同性組換えは、生来の遺伝子を挿入遺伝子で置換するので、本来のPSM抗原を発現することはできないが、例えば挿入された突然変異型PSM抗原(該動物のゲノムにおける生来のPSM抗原を組換えによって置換したもの)を発現し、当該輸送体の過少発現をもたらす動物を製造するために有用である。マイクロインジェクションは遺伝子をゲノムに追加するが、遺伝子を除去しないから、それ自身のPSM抗原および追加されたPSM抗原を発現してPSM抗原の過剰発現をもたらす動物を製造するために有用である。
【0088】
例えばマウスについて、トランスフェニック動物を製造するために利用可能な一つの手段は次の通りである。雌のマウスを交配させ、輸卵管を切開して得られた受精卵を取り出す。この受精卵はM2培地のような適切な培地中に保存される (16)。哺乳類PSM抗原をコードするDNAまたはcDNAは、当該技術分野で周知の方法によってベクターから精製される。誘導プロモータを当該DNAのコーディング領域に融合させることによって、この導入遺伝子の発現を調節する実験的手段を提供し得る。その代りに又はそれに加えて、組織特異性の調節要素を前記コーディング領域に融合させることにより、当該導入遺伝子を組織特異的に発現させ得る。適切な緩衝溶液中のDNAをマイクロインジェクション針 (ピペットプラー(pipet puller)を用いてキャピラリー管から作製され得る)の中に収容し、遺伝子を注入すべき卵子を凹部スライド(depression slide)内に置く。針を卵子の前核中に挿入し、DNA溶液を注入する。注入された卵子は、次いで擬妊娠マウス(実際には妊娠していないが、妊娠を維持するように適切なホルモンによって刺激されたマウス)の輸卵管中に移される。その後、卵子は子宮へ移動し、着床し、所定期間だけ発育する。上記のように、マイクロインジェクションは卵細胞中にDNAを挿入する唯一の方法ではなく、ここでは例示の目的のためだけに用いられている。
【0089】
PSM抗原の配列の他の用途は、異なった動物における相同性の遺伝子(類)を単離することである。この遺伝子(類)は、異なった動物のcDNAライブラリーまたはゲノムライブラリーの何れかを、PSM配列に由来するプローブを用いて低い厳格性でスクリーニングすることによって単離され得る。同定された陽性クローンは、当業者に周知のDNAスクリーニング技術によって更に分析される。例えば、相同性プロービングによる、タンパク・セリンキナーゼ族の検出である(18)。
【0090】
本発明は、前立腺腫瘍細胞の転移能力、前立腺腫瘍の増殖または前立腺腫瘍細胞の除去を抑制し、または調節する方法であって、前立腺特異性膜抗原をコードし且つ5´調節要素と動作可能にリンクしたDNA分子を、該前立腺特異性膜抗原の発現が前記調節要素の制御を受けるような仕方で対象の腫瘍細胞中に導入し、これによって前立腺癌細胞の転移能力、前立腺腫瘍の増殖または前立腺腫瘍細胞の除去を抑制し、または調節する方法を提供する。前記対象は哺乳動物、特にヒトである。
【0091】
一つの態様において、前立腺特異性膜抗原をコードし且つ5´調節要素と動作可能にリンクしたDNA分子は、細胞または生物の中に挿入される導入ベクター(transfer vector) の一部を形成する。加えて、該ベクターは前立腺特異性膜抗原を複製および発現することができる。前立腺特異性膜抗原をコードするこのDNA分子は、真核細胞または原核細胞のゲノム中に組み込むことができ、または前立腺特異性膜抗原を含有および/または発現するホスト細胞中に組み込むことができる。
【0092】
更に、前立腺特異性膜抗原をコードするこのDNA分子は、バクテリア、ウイルス、真菌、動物またはリポソームのデリバリー担体によって導入され得る。他の手段もまた利用可能であり、これらは当業者に周知である。
【0093】
更に、前立腺特異性膜抗原をコードするDNA分子は、プロモータまたはエンハンサと動作可能にリンクする。種々のプロモータおよびウイルス由来の他の調節要素から作成されたものを含んで、多くのウイルスベクターが既に記載されている。プロモータは、転写に関与する細胞性タンパクと特異的に相互作用する核酸配列の短アレイからなっている。異なった認識配列と同起源の転写因子の細胞濃度との組合せによって、特定の細胞タイプにおいて遺伝子が転写される効率が決定される。
【0094】
適切なプロモータにはウイルス性プロモータが含まれる。ウイルスプロモータには、アデノウイルスプロモータ、シミアンウイルス40(SV40)プロモータ、サイトメガロウイルス(CMV)プロモータ、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモータ、マロネーネズミ白血病ウイルスプロモータ、ネズミ肉腫ウイルスプロモータ、およびラウス肉腫ウイルスプロモータが含まれる。
【0095】
更に、他の適切なプロモータは熱ショックプロモータである。加えて、バクテリオファージプロモータも適切なプロモータはである。適切なバクテリオファージプロモータの例には、T7プロモータ、T3プロモータ、SP6プロモータ、ラムダプロモータ、バキュロウイルスプロモータが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0096】
また、インターフェロンプロモータ、メタロチオネインプロモータ、免疫グロブリンプロモータのような動物細胞プロモータも適切なプロモータである。真菌プロモータもまた適切なプロモータである。真菌プロモータの例には、ADC1プロモータ、ARGプロモータ、ADHプロモータ、CYC1プロモータ、CUPプロモータ、ENO1プロモータ、GALプロモータ、PHOプロモータ、PGKプロモータ、GAPDHプロモータ、交配型因子プロモータが含まれるが、これらに限定去れるものではない。更に、植物細胞プロモータおよび昆虫細胞プロモータもまた、ここに記載する方法のために適切である。
【0097】
本発明は、前立腺腫瘍細胞の転移能力、前立腺腫瘍の増殖または前立腺腫瘍細胞の除去を抑制し、または調節する方法であって、前立腺特異性膜抗原をコードし且つ5´調節要素と動作可能にリンクすると共に、治療的DNAに結合したDNA分子を対象の腫瘍細胞中に導入し、これによって前立腺腫瘍細胞の転移能力、前立腺腫瘍の増殖または前立腺腫瘍細胞の除去を抑制し、または調節する方法を提供する。前記対象は哺乳動物、特にヒトである。
【0098】
更に、前立腺特異性膜抗原をコードし且つ5´調節要素と動作可能にリンクするDNA分子に結合される治療的DNAは、サイトカイン、ウイルス抗原、またはプロドラッグ活性化酵素をコードし得る。他の手段もまた利用可能であり、これら手段は当業者に公知である。
【0099】
使用されるサイトカインはインターロイキン2、インターロイキン12、インターフェロンα、β若しくはγ、顆粒球マクロファージ- コロニー刺激因子、または他の免疫因子であり得る。
【0100】
加えて、本発明は前立腺腫瘍細胞であって、5´調節要素に動作可能にリンクした前立腺膜抗原の制御下に、哺乳類前立腺特異性膜抗原をコードする哺乳類核酸から単離されたDNA分子を含んだ前立腺腫瘍細胞を提供する。
【0101】
ここで用いる「DNA分子」には、相補型DNA(cDNA)、合成DNAおよびゲノムDNAが含まれる。
【0102】
本発明は、患者におけるヒト前立腺腫瘍の増殖または前立腺腫瘍細胞の刺激を防止するための治療的ワクチンであって、前立腺細胞に対する有効量および薬剤的に許容され得るキャリアを投与し、これによって患者における腫瘍増殖または腫瘍細胞の刺激を防止するワクチンを提供する。他の手段もまた利用可能であり、これら手段は当業者に公知である。
【0103】
本発明は、対象の血液原性微小転移腫瘍細胞を検出する方法であって、(A)患者の血液サンプル、骨髄サンプルまたはリンパ節サンプルに対して、前立腺特異性膜抗原プライマーを用いて、ネストされたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行なうことと、(B)DNA配列決定およびサザン分析によって微小転移を確認することにより、前記対象の血液原性微小転移腫瘍細胞を検出することとを具備した方法を提供する。対象は哺乳動物、特にヒトであり得る。
【0104】
前記の微小転移腫瘍細胞は前立腺癌であり得、また前記DNAプライマーは前立腺特異性抗原から誘導され得る。更に、前立腺特異性膜抗原の発現が増大されるように、前記対象に対して有効量のホルモン類を同時に投与してもよい。
【0105】
本発明は、トランスフェリンに起因した分裂応答を阻止する方法であって、前立腺特異性膜抗原をコードし且つ5´調節要素と動作可能にリンクしたDNA分子を腫瘍細胞中に導入することを具備し、該遺伝子の発現は多細胞生物内における定義された病理学的効果に直接関連しており、それによってトランスフェリンに起因した分裂応答を阻害する方法を提供する。
【0106】
本発明は、以下に記載する実験の詳細によって更に良く理解されるであろう。しかし、以下で述べる特定の方法および結果は本発明の単なる例示に過ぎず、本発明は後述の請求の範囲においてより完全に記載されていることを、当業者は容易に承認するであろう。
【実験の詳細】
【0107】
第一実験シリーズ
<材料および方法>
遺伝子をクローニングするための手法には、免疫沈降による抗原を大量に精製することと、その後のポリメラーゼ連鎖反応に用いる縮退オリゴヌクレオチドプライマーの合成に使用するための幾つかの内部ペプチドのマイクロシークエンシング(microsequencing) が含まれていた(19,20)。部分的cDNAはPCR生成物として増幅され、このPCR生成物は、LNCap(前立腺のリンパ節癌腫)(Lymph Node Carcinoma of Prostate)細胞系cDNAプラスミドライブラリー(8)から完全な長さのcDNA分子をクローン化するための相同性プローブとして用いられた。PSM抗原の抗原決定基はPSMのグリコシル化部位であるために、CYT−356抗体(9)は細菌中で生産された抗原を検出できないことが初期の実験により明らかになった。このことによって、我々は一層困難で、かつ手の込んだ手法を要求された。
【0108】
PSM抗原のウェスタン分析
低張溶解に続いて、ショ糖密度勾配上での遠心分離にを行なうことより、膜蛋白質が細胞から単離された(21)。10〜20μg のLNCap,DU−145及びPC−3膜タンパクは4%スタッキングゲル(stacking gel)を用いた10% SDS-PAGE分離用ゲル中を16-18 時間、9-10ミリアンペアで電気泳動された。タンパクは、転写緩衝液(transfer buffer) [48mM Tris base, 39mM グリシン, 20% メタノール]中において、25ボルト及び4 ℃で一晩、PVDF膜(ミリポアR 社 (MilliporeR Corp.))上に電気ブロットされた。膜はTSB[0.15M NaCl, 0.01M Tris base, 5% BSA ]中において室温で30分間ブロックされ、引き続いて 10-15μg/mlのCYT−356モノクローナル抗体(サイトーゲン社)と共に2時間インキュベートされた。次いで、膜は10-15 μg/mlのウサギ抗マウス免疫グロブリン(アキュレート科学社(Accurate Scientific) )と共に室温で1 時間インキュベートされた後、1x106 cpm/mlの 125I- タンパクA(アマーシャムR (AmershamR) )と共に室温でインキュベートされた。その後、膜は洗浄され、-70 ℃で12-24 時間オートラジオグラフィーにかけられた(図1)。
【0109】
PSM抗原の発現に関する免疫組織化学的分析
アビジン- ビオチン法(avidin-biotin method)の免疫組織化学的検定を用いて、ヒト組織切片と細胞系の両方についてPSM抗原の発現を分析した(22)。クライオスタットで切断された(Cryostat-cut)前立腺組織切片(厚さ 4-6μm )を、メタノール/アセトン中で10分間固定化した。50,000細胞/100μl/スライドを用いて、スライドグラス上で細胞サイトスピン(cytospins) が作製された。全ての内因性ペルオキシダーゼ活性を除去するために、試料はPBS中1%過酸化水素で 10-15分間処理された。組織切片はPBS中で数回洗浄された後、適切な抑制血清(suppressor serum)と共に20分間インキュベートされた。抑制血清(suppressor serum)を排出し、次いで切片または細胞を、希釈されたCYT−356モノクローナル抗体と共に1時間インキュベートした。その後、試料はPBSで洗浄され、続いて二次抗体(1:200 希釈のウマもしくはヤギ免疫グロブリン、30分間)と共に、またアビジン- ビオチン複合体(1:25希釈で30分間)と共に連続的にインキュベートされた。DABが発色原として用いられ、ヘマトキシリン対比染色および顕微鏡板へのマウンティング(mounting)が引き続いて行われた。前立腺試料の凍結切片および2連の細胞サイトスピン(duplicate cell cytospins)が各実験についての対照として用いられた。陽性対照として、抗サイトケラチンモノクローナル抗体CAM 5.2が、上記で述べたのと同様の手法に従って用いられた。少なくとも細胞の5%が免疫活性を示せば、我々は組織切片がPSM抗原を発現していると見なした。我々の点数評価体系は以下の通りである: 陽性細胞が5%未満(<5%)=1; 陽性細胞が5〜19%=2; 陽性細胞が20〜75%=3; 陽性細胞が75%超(>75%)=4。3〜5のハイパワー光学顕微鏡の視野(400 x) において、陽性細胞と陰性細胞を評価し、100-500 個の細胞のうちの陽性細胞の割合を記録することによって、同質であるか異質であるかが説明された。免疫染色の強度は1+ から4+ のスケールで等級付けされた。正の対照と比較すると、1+ は穏和な染色を示し、2〜3+ は中程度の染色を示し、4+ は強い染色を示す。
【0110】
PSM抗原の免疫沈降
100 mmペトリ皿内の集密度80%のLNCaP細胞を、メチオニンを含まないRPMI培地中で2時間、メチオニン欠乏の状態で生育させ、その後 100μCi/ml の35Sメチオニンを添加して、細胞を更に16-18 時間生育させた。その後、細胞を洗浄し、1ml 溶菌緩衝液[1%トライトンX-100, 50mM ヘペス pH 7.5, 10%グリセロール, 150mM MgCl2, 1mM PMSF 及び1mM EGTA]を添加して、4℃で20分間インキュベートすることによって溶菌された。この溶解物は、4℃で90分間、パンソルビンR (PansorbinR ) 細胞(カルバイオケムR (CalbiochemR ) )と共に混合することによってプレクリアーされた(pre-cleared) 。次いで、この細胞溶解物は、予めCYT−356抗体(サイトゲン社(Cytogen Corp.) )およびRAM抗体(アキュレート科学(Accurate Scinetific) )に結合されたタンパクAセファロースR CL−4Bビーズ(ファルマシアR (PharmaciaR ) )と共に、4℃で3〜4時間混合された。ペトリ皿あたり、ビーズ 3mgに対して12μg の抗体が用いられた。その後、このビーズはHNTG緩衝液[20mMヘペス pH 7.5, 150mM NaCl, 0.1% トライトンX-100, 10%グリセロール及び2mM オルトバナジン酸ナトリウム]で洗浄され、β- メルカプトエタノールを含む試料ローディング緩衝液中に再懸濁され、95℃で5-10分間変性され、4%スタッキングゲル(stacking gel)を用いた10% SDS-PAGEゲル上において10ミリアンペアで一晩電気泳動された。このゲルをクマシーブルー(Coomassie Blue)で染色し、酢酸/メタノールを用いて脱色し、真空乾燥器内で60℃で乾燥(dried down)した。その後、ゲルは70℃で16-24 時間、オートラジオグラィーにかけられた(図2A−D)。
【0111】
大スケールでの免疫沈降とペプチド配列決定
免疫沈降に関して上に示された手法を、約6×107 個のLNCaP細胞を含む集密状態の8個のペトリ皿を用いて繰返した。免疫沈降産物はプールされ、10% SDS PAGEゲル上の2つのレーンにロードされ、9-10ミリアンペアで16時間電気泳動された。4℃において75ボルトで2時間、転写緩衝液中でタンパクをニトロセルロース BA-65膜(シュレイチャー及びシュエルR (Schleicher and SchuellR ) )上に電気ブロットした。タンパクを視覚化するために、膜をポンソーレッド(ponceau Red) で染色し、100KD のタンパクのバンドを切り出し、可溶化し、トリプシンでタンパク分解的に消化した。その後、消化された試料についてアプライドバイオシステム171C型(Applied Biosystems Model 171C) を用いてHPLCを行ない、主要なペプチドの明確なピークを選択し、改良ポストリキッド・アプライドバイオシステム477A型タンパク/ペプチド・マイクロシークエンサー(modified post liquid Applied Biosystems Model 477A Protein/Peptide Microsequencer) 上での改良エドマン分解により配列決定を行なった(23)。この書類には、全てのペプチドに関する配列決定データが含まれている。我々は、免疫沈降による抗原の精製およびPVDF膜(ミリポアR (MilliporeR ) )への電気ブロッティングによる転写を含む同様の方法により、PSM抗原のアミノ末端の配列決定を試みた。タンパクは、アプライドバイオシステム477A型のタンパク/ペプチド・シークエンサー(Applied Biosystems Model 477A Protein/Peptide sequencer) で分析され、アミノ末端がブロックされていることが判明した。従って、この技術では配列決定データは得られなかった。
【0112】
PSM抗原ペプチド配列
2T17 #5 SLYES(W)TK(配列ID番号3)
2T22 #9 (S)YPDGXNLPGG(g)VQR (配列ID番号4)
2T26 #3 FYDPMFK (配列ID番号5)
2T27 #4 IYNVIGTL(K) (配列ID番号6)
2T34 #6 FLYXXTQIPHLAGTEQNFQLAK(配列ID番号7)
2T35 #2 G/PVILYSDPADYFAPD/GVK
(配列ID番号8,9)
2T38 #1 AFIDPLGLPDRPFYR (配列ID番号10)
2T46 #8 YAGESFPGIYDALFDIESK (配列ID番号11)
2T47 #7 TILFAS(W)DAEEFGXX(q)STE(e)A(E)..
(配列ID番号12)
<注>: Xはこの位置に同定され得る残基が存在しないことを意味する。(大文字)は、同定されてはいるが信頼性の低い残基を示す。(小文字)は、非常に低レベルであるが残基が存在することを示す。…は、配列が続いてはいるが検出限界以下であることを示す。
【0113】
翻訳された遺伝子バンクのコンピューターデータベースを用いた完全相同性検索(complete homology search)の後、これらペプチド配列は全て独自性を有していることが確かめられた。
【0114】
縮退PDR(Degenerate PCR )
上記のペプチドの部分に相当する、長さ17〜20ヌクレオチドの5'末端がリン酸化されたセンス(Sense) 及びアンチセンスの縮退(degenerate)オリゴヌクレオチドプライマーが、アプライドバイオシステム 394A DNA合成機(Applied Biosystems Model 394A DNA synthesizer) で合成された。これらのプライマーは、32〜144 の縮退度(degeneracies)を有する。使用したプライマーを以下に示す。ペプチド中の下線を付したアミノ酸は、プライマー設計において用いられた残基を示す。
【0115】
・ペプチド3:FYDPMFK(配列ID番号5)
PSMプライマー“A”
TT(CまたはT)−TA(CまたはT)
−GA(CまたはT)−CCX−ATG
−TT(配列ID番号13)
PSMプライマー“B”
AAC−ATX−GG(AまたはG)
−TC(AまたはG)−TA(AまたはG)
−AA(配列ID番号14)
プライマーAはセンスプライマーであり、プライマーBはアンチセンスプライマーである。縮退度は32倍である。
【0116】
・ペプチド4:IYNVIGTL(K)
(配列ID番号6)
PSMプライマー“C”
AT(TまたはCまたはA)−TA(TまたはC)
−AA(TまたはC)−GTX
−AT(TまたはCまたはA)−GG
(配列ID番号15)
PSMプライマー“D”
CC(AまたはTまたはG)−ATX
−AC(GまたはA)−TT(AまたはG)
−TA(AまたはGまたはT)−AT
(配列ID番号16)
プライマーCはセンスプライマーであり、プライマーDはアンチセンスプライマーである。縮退度は 144倍である。
【0117】
・ペプチド2:G/PVILYSDPADYFAPD/G
VK(配列ID番号8,9)
PSMプライマー“E”
CCX−GCX−GA(TまたはC)
−TA(TまたはC)−TT(TまたはC)
−GC(配列ID番号17)
PSMプライマー“F”
GC(GまたはA)−AA(AまたはG)
−TA(AまたはG)−TXC−GCX−GG
(配列ID番号18)
プライマーEはセンスプライマーであり、プライマーFはアンチセンスプライマーである。縮退度は128 倍である。
【0118】
・ペプチド6:FLYXXTQIPFLAGTEQNFQ
LAK(配列ID番号7)
PSMプライマー“I”
ACX−GA(AまたはG)−CA(AまたはG)
−AA(TまたはC)−TT(TまたはC)
−CA(AまたはG)−CT
(配列ID番号19)
PSMプライマー“J”
AG−(TまたはC)TG−(AまたはG)AA
−(AまたはG)TT−(TまたはC)TG
−(TまたはC)TC−XGT
(配列ID番号20)
PSMプライマー“K”
GA(AまたはG)−CA(AまたはG)
−AA(TまたはC)−TT(TまたはC)
−CA(AまたはG)−CT
(配列ID番号21)
PSMプライマー“L”
AG−(TまたはC)TG−(AまたはG)AA
−(AまたはG)TT−(TまたはC)TG
−(TまたはC)TC(配列ID番号22)
プライマーIおよびKはセンスプライマーであり、プライマーJおよびLはアンチセンスプライマーである。IおよびJは 128倍の縮退度を有し、KおよびLは32倍の縮退度を有していた。
【0119】
・ペプチド7:TILFAS(W)DAEEFGXX(q)
STE(e)A(E)…
(配列ID番号12)
PSMプライマー“M”
TGG−GA(TまたはC)−GCX
−GA(AまたはG)−GA(AまたはG)
−TT(CまたはT)−GG
(配列ID番号23)
PSMプライマー“N”
CC−(GまたはA)AA−(TまたはC)TC
−(TまたはC)TC−XGC
−(AまたはG)TC−CCA
(配列ID番号24)
PSMプライマー“O”
TGG−GA(TまたはC)−GCX
−GA(AまたはG)−GA(AまたはG)
−TT(配列ID番号25)
PSMプライマー“P”
AA−(TまたはC)TC−(TまたはC)TC
−XGC−(AまたはG)TC−CCA
(配列ID番号26)
プライマーMおよびOはセンスプライマーであり、プライマーNおよびPはアンチセンスプライマーである。MおよびNは64倍の縮退度を有し、OおよびPは32倍の縮退度を有していた。
【0120】
縮退PCRは、パーキンエルマー 480型DNAサーマルサイクラー(Perkin-Elmer Model 480 DNA thermal cycler) を用いて行われた。PCRのためのcDNA鋳型は、オリゴdTクロマトグラフィー(コラボラティブリサーチ(Collaborative Research))の標準法により単離したLNCap・mRNAから調製された。cDNA合成は以下のようにして実行された。
【0121】
4.5 μl LNCap ポリA + RNA (2 μg)
1.0 μl オリゴdTプライマー (0.5 μg)
4.5 μl dH2O
10 μl
68℃で10分間インキュベートする。
【0122】
迅速に氷上で5分間冷却する。
【0123】
添加
4 μl 5 x RT緩衝液
2 μl 0.1M DTT
1 μl 10mM dNTPs
0.5 μl RNasin(プロメガ (Promega))
1.5 μl dH2O
19μl
37℃で2分間インキュベートする。
【0124】
スーパースクリプトR (SuperscriptR ) 逆転写酵素(ギ
ブコR -BRL(GibcoR -BRL) )1μl を添加する。
【0125】
37℃で2分間インキュベートする。
【0126】
30μl dH2Oを添加する。
【0127】
PCR反応(1回)あたり2μl を使用する。
【0128】
縮退PCR反応は、アニーリング温度、Mg2+濃度、プライマー濃度、緩衝液組成、伸長時間およびサイクル数を変化させることによって最適化された。我々のサーマルサイクラー特性の最適値は以下の通りである:94℃で30秒の変性、45-55 ℃で1分間のアニーリング(使用したプライマーの平均Tm に依存する)、72℃で2 分間の伸長。
【0129】
5 μl 10 x PCR緩衝液*
5 μl 2.5 mM dNTP ミックス
5 μl プライマー混合物(センス及びアンチ
センスプライマーを各 0.5-1.0μg 含む)
5 μl 100mM β- メルカプトエタノール
2 μl LNCap cDNA鋳型
5 μl 25mM MgCl2(最終濃度 2.5mM)
21μl dH2O
2 μl 希釈したTaqポリメラーゼ (0.5U/ μl)
総容量50μl 。
【0130】
チューブは60μl のライトミネラルオイル(light mineral oil) で被われ、30サイクル増幅された。PCR生成物は、各試料の5μl を2〜3%アガロースゲル上で電気泳動し、続いて臭化エチジウムで染色し、写真を撮ることによって分析された。
【0131】
10x PCR 緩衝液
166mM NH4SO4
670mM トリス(Tris), pH 8.8
2mg/ml BSA
PCR生成物を示す代表的な写真が図5に示されている。
【0132】
PCR生成物のクローニング
これらPCR生成物をさらに解析するために、これら生成物は「TAクローニング」(インビトロゲンコーポレーションR (InvitrogenR Corp.))を用いて、適切なプラスミドベクター中にクローニングされた。ここで採用されたクローニングの戦略は、突出したR残基を挿入部位に有するプラスミドベクターに、PCR生成物を直接連結させるというものである。これは、TaqポリメラーゼがPCR生成物末端の突出したA残基を残したままにするという事実を活用している。このライゲーション混合物を、コンピテント大腸菌細胞(competent E. coli cells) に形質転換し、得られたクローンを増殖して、アルカリ溶菌法(24)によりプラスミドDNAを単離し、制限(酵素消化)分析によりスクリーニングした(図6A−B)。
【0133】
PCR生成物のDNA配列決定
PCR生成物のTAクローンは、その後、シーケナーゼ(Sequenase) (U.S.バイオケミカル(U.S. Biochemical))を用い、ジデオキシ法(25)により配列決定された。各プラスミドDNA 3-4μg を水酸化ナトリウムを用いて変性し、エタノール沈殿させた。製造者の推奨に従い、35S−ATPを用いて標識反応が行なわれ、また該反応は同様の手順に従って停止された。次いで、配列決定用生成物(sequencing products) は、6%ポリアクリルアミドゲル/7M尿素ゲル上において、IBI配列決定装置を用いて分析された。ゲルは120 ワットで2時間泳動された。電気泳動に続いて、ゲルは10% メタノール/10% 酢酸中で15-20 分間固定化され、ワットマン 3MM紙(Whatman 3MM paper) 上に移され、バイオラドR 真空乾燥器(BioradR Vacuum dryer)内において、80℃で2時間乾燥された(dried down)。その後、ゲルは室温で16-24 時間オートラジオグラィーにかけられた。PCR生成物が正しいクローンであるか否かを決定するために、我々は、得られたDNA分子の 5'-及び 3'-末端で得られた配列について分析し、正しいプライマー配列を探索すると共に、プライマーの設計に用いられていないペプチドの一部に対応する隣接配列(adjacent sequences)を分析した。
【0134】
IN−20は、間違いなくPSM遺伝子のcDNAの一部に相当することが確認された。このPCR反応では、プライマーIおよびNが用いられた。プラマーIから解読した際、我々が得たDNA配列は以下の通りであった:
ACG GAG CAA AAC TTT CAG CTT GCA AAG (配列ID番号30)
T E Q N F Q L A K (配列ID番号31)
下線を付したアミノ酸は、このセンスプライマーを設計するために用いたペプチド6の一部である。また、残りのアミノ酸が我々のペプチド内に存在するアミノ酸と一致することによって、該分子のこの末端が正しいタンパク(PSM抗原)に相当することが確かめられた。
【0135】
プライマーNから解読することにより、我々が分子の他の末端を分析した際の配列は以下の通りであった:
CTC TTC GGC ATC CCA GCT TGC AAA CAA AAT TGT TCT
(配列ID番号32)
これはアンチセンスDNA配列を示しているので、我々のペプチドを見つけるためには、相補的なセンス配列を示す必要がある。
【0136】
センス配列(sense sequence):
AGA ACA ATT TTG TTT GCA AGC TGG GAT GCC AAG GAG (配列ID番号33)
R T I L F A S W D A E E (配列ID番号34)
ここで下線を付したアミノ酸配列は、プライマーNを作成するときに用いたペプチド7の一部を示す。このプライマーよりも上流の全てのアミノ酸は、IN-20 クローン中で正しいもの(配列)であり、ペプチド7内に見いだされるアミノ酸と一致している。更なるDNA配列決定によって、陽性クローンのDNA配列内に我々の他のPSMペプチドが存在することを確認することができた。
【0137】
遺伝子バンクのコンピューターデータベースで検索すると、このcDNAの部分的なDNA配列には独自性があることが見い出された。
【0138】
cDNAライブラリーの構築と、
完全な長さのPSM・cDNAのクローニング
LNCap・mRNA由来のcDNAライブラリーが、スーパースクリプトR プラスミド系(SuperscriptR plasmid system) (BRLRギブコ(BRLR Gibco))を用いて構築された。このライブラリーは、コンピテントDH5-α細胞 (competent DH5-α cells) を用いて形質転換され、100 μg/mlのカルベニシリン(Carbnicilin) を補充したLB培地の入っている100 mmペトリ皿上にプレーティングされた。該プレートを37℃で一晩増殖処理し、次いでクローンをニトロセルロースフィルター上に移した。このフィルターは、ランダムプライミング(27)により32PdCTPで放射性ラベルした我々の1.1 Kbの部分的cDNA相同性プローブを用い、グルンシュタインとホグネス(Grunstein and Hogness) (26)に従って処理され、スクリーニングされた。我々は8個の陽性クローンを得た。これらのクローンは、DNA制限酵素消化分析および配列決定分析において、PSM抗原をコードする完全な長さのcDNA分子を表わすことが証明された。図7で示されているのは、我々のライブラリーに表れたcDNA分子の大きさを示すオートラジオグラフィーであり、図8では完全な長さのクローンの幾つかについての制限酵素消化分析が示されている。図9は、図8の試料についてのプラスミドサザン分析であり、試料が1.1 Kbの部分的cDNAプローブに完全にハイブリダイズすることが示されている。
【0139】
抗原ならびにcDNAは何れも、遺伝子バンクのコンピューターデータベース(ヒトゲノムプロジェクト)を通して検索され、それらは独自性があることが見い出された。
【0140】
PSM遺伝子発現についてのノーザン分析
PSM遺伝子のノーザン分析(28)によって、その発現は前立腺と前立腺の癌腫に制限されていることが明らかになった。
【0141】
RNA試料(10μg の総RNAもしくは2μg のポリA+RNAの何れか)を変性し、1.1%アガロース/フォルムアルデヒドゲルを通して、60ミリアンペアで 6-8時間電気泳動させた。その後、RNAはポジブロッター(Posi-blotter)(ストラタジーンR ( StratageneR ) )を用いて10 x SSC中での加圧ブロッティング(Pressure blotting) を行なうことにより、ニトランR ナイロン膜(NytranR nylon membranes) (シュライヒャーとシュエルR (Schleicher and SchuellR ) )に転写された。RNAは、ストラタリンカー(stratalinker)(ストラタジーンR (StratageneR ) )を用いて膜に架橋され、引き続き真空オーブン内において80℃で2時間ベークされた。ブロットは、プレハイブリダイゼーション溶液(BRLR )中において65℃で2時間プレハイブリダイズされ、次いで1-2 x 106 cpm/mlの32Pで標識され且つランダムプライミングされたcDNAプローブを含むハイブリダイゼーション緩衝液(BRLR )中で、16時間ハイブリダイズされた。膜は、1 x SSPE/1% SDS 中において2度洗浄され、また0.1 x SSPE/1% SDS 中において42℃で2度洗浄された。その後、膜は空気乾燥され、-70 ℃で12-36 時間、オートラジオグラフィーにかけられた。
【0142】
ヒト前立腺組織内でのPSM遺伝子発現についてのPCR分析
PSM遺伝子発現を検定するために、15個のヒト前立腺試料についてPCRが行われた。正常な前立腺組織、良性の前立腺過形成組織および前立腺癌組織に由来する各5つの試料が用いられた(組織学的構造はMSKCC病理学科によって確かめられた)。
【0143】
各試料から10μg の総RNAが、前のセクションIVの項で説明したようにして、cDNA鋳型を作製するために逆転写された。使用したプライマーは我々の1.1 Kbの部分的cDNA、IN−20の 5'-及び 3'-末端に対応しており、従って増幅されたバンドに期待される大きさは1.1 kbである。我々のプライマーのTm は64℃であるから、我々はPCRにおいてプライマーを60℃でアニーリングした。我々は、先にセクションIVで説明したのと同様の条件を用いて、35サイクルのPCRを実行した。
【0144】
LNCapおよび H26-Ras感染したLNCap(H26-Ras transfected LNCap) (29)は陽性対照としてインキュベートされ、陰性対照としてDU-145がインキュベートされた。14/15 の試料が1.1 Kbバンドを明らかに増幅し、従って遺伝子を発現する。
【0145】
<実験結果>
100 KDのPSM抗原をコードする遺伝子は既に同定されている。完全なcDNA配列は配列ID番号1に示されている。その核酸配列の下には、予想される翻訳アミノ酸配列が記載されている。アミノ酸の総数は 750である(配列ID番号2)。予想タンパク配列の親水性は図16に示される。図17に示されているのは、最も親和性が高い部位(point) を持つ次の3つのペプチドである: Asp-Glu-Leu-Lys-Ala-Glu(配列ID番号35); Asn-Glu-Asp-Gly-Asn-Glu(配列ID番号36);及び Lys-Ser-Pro-Asp-Glu-Gly(配列ID番号37)。
【0146】
クライン、カネヒサおよびダリシ(Klein, Kanehisa and DeLisi)の方法によって、特殊な膜貫通ドメイン(membrane-spanning domain)が同定された。その配列は、アミノ酸 #19からアミノ酸 #44までである:
Ala-Gly-Ala-Leu-Val-Leu-Aal-Gly-Gly-Phe-Phe-Leu-Leu-Gly-Phe-Leu-Phe (配列ID番号38)。
【0147】
この予想膜貫通ドメインは、PCジーン(PC Gene)(コンピューターソフトウェアープログラム) によって推定された。このデータは、PSM抗原の膜内および膜外ドメインの予測を可能にし、そのことは前立腺癌のターゲッティングおよび画像化に用いる抗体を設計する手助けとなる。
【0148】
PSM抗原の配列とジーンバンク(GeneBank)の他の既知の配列とを比較すると、PSM抗原の配列とトランスフェリン受容体の配列との間に相同性が見い出された。そのデータは図18に示される。
【0149】
<実験の考察>
PSM抗原の可能な用途
1.腫瘍の検出:
顕微鏡的:
異なった抗原に対するプローブを使用することによって、曖昧さのない腫瘍の判定(designation) を達成することができる。前立腺癌に関しては、PSM抗原プローブが有用であることが証明され得る。従って、PSMは診断を目的として用いることあができるであろうし、これは出願人がクローン化したcDNAコーディング領域に由来するセンスプローブ(対照)およびアンチセンスプローブを用いて、自然位での(in-situ) ハイブリダイゼーションを行うことにより、顕微鏡レベルで達成され得るであろう。このことは、前立腺外への局所的拡大や、リンパ節、骨もしくは他の転位部位の関連性に関する評価に用いることができるであろう。骨転位は前立腺癌における主要な問題となっているので、転位の広がりを早期に検出することは、特にその段階を評価することに関して(for staging) 要望が強い。幾つかの腫瘍において、骨髄内での腫瘍細胞の検出は深刻な予後を予知させるものであり、転位を標的とした介入(interventions) が試みられるべきことを示唆する。骨髄吸引液(bone marrow aspirates) もしくは切片中におけるPSM抗原発現の検出は、そのような早期の情報を提供するかもしれない。PCR増幅もしくは自然位での(in-situ) ハイブリダイゼーションが用いられ得る。これは、転位の可能性がある何れの領域に対しても開発され得るであろう。
【0150】
2.抗原部位の同定:
抗原に関するcDNAの知見はまた、抗原の特異的アミノ酸配列に対して使用するための抗体を開発する上で、有効な抗原として役立ち得る領域を同定することを可能にする。そのような配列は、PSM抗原の膜外領域もしくは膜内領域といった様々な領域に存在し得る。これら特異的抗体の開発は、抗原の免疫組織化学的同定をもたらすであろう。これらの誘導された抗体は、免疫診断について非常に大きな有用性を有しているから、特に凍結切片、並びにパラフィン固定された切片内で作用する抗体として使用するために開発され得るであろう。
【0151】
3.制限酵素による断片長の多形性とゲノムDNA
制限酵素で切断された断片の長さの多形性(Restriction fragment length polymorphisms) (RFLPS)は、腫瘍の初期段階および促進段階の間に生じる遺伝的な損傷の経過を記録する上で有効であることが証明されている。これは、RFLP分析は次のことを立証するであろうということなのかもしれない。即ち、PSM配列の制限酵素消化マッピングにおける変化は、前立腺腫瘍の危険性、悪性化の可能性もしくは進行に関する質病素因の証拠を与え得るというてことである。
【0152】
PSM抗原の染色体上での位置に依存して、PSM抗原遺伝子は、染色体分析で有効な染色体位置マーカーとして役立ち得る。
【0153】
4.血清
抗原特異的な抗体の開発に伴って、もし当該抗原または選ばれた抗原断片が血清中に出現したならば、それらは転位による疾病の存在に関する血清マーカーとなり得る。これら抗原もしくは選ばれた抗原断片は、個別的にまたは他の前立腺特異性マーカーとの組み合わせにおいて有用であり得る。
【0154】
5.画像化
当該cDNA配列によって、当該抗原が外表面(exofacial Surface) 上の大部分のタンパクと同様に膜貫通タンパク (membrane spanning protein) の特性を有することが示唆されるので、抗体、特に当該腫瘍に特異的な露出されたペプチド断片に対するモノクローナル抗体は、前立腺摘出術または放射線照射の後に、転位性腫瘍の局所的拡大や残存腫瘍の画像化を提供し得る。コーディング領域についての知見によってモノクローナル抗体の生成が可能となり、これらは画像化の精度を最大にするために組み合わせて用いられ得る。cDNA分析によると、当該抗原はトランスフェリン受容体との相同性(約54%)を有しているので、この抗原に特異的な正規の(normal)リガンドがあるかもしれず、当該リガンドを同定することによって別の画像化方法が提供され得る。
【0155】
6.リガンドの単離
PSM抗原は、それに結合する正規のリガンドを単離するために用いられ得る。特異性に依存するこれらリガンドは、ターゲッテシングに用いられ得るし、或いはそれらの血清レベルは疾病の状態を予測し得るものであろう。PSMの正規リガンドがキャリア分子であることが判明すれば、PSMは循環系から当該リガンドを除去することを助ける治療的な目的で(鉄キレート物質のように)、当該リガンドを結合するために用いられ得る。もし、当該リガンドが腫瘍の増殖もしくは転位を促進するならば、可溶性PSMを与えることによって、当該リガンドは前立腺への結合から排除されるであろう。PSM抗原の構造に関する知見は、リガンドに結合し且つ同様の目的に用いることができる、より小さい断片の生成に役立ち得る。
【0156】
7.治療的用途
a)リガンド: PSM抗原のcDNA構造がトランスフェリン受容体との構造的相同性(核酸レベルで54%)を有しているとの知見は、トランスフェリン様もしくは非トランフフェリン様であり得る受容体に関する内因性リガンドが存在し得ることを示唆している。トランスフェリンは、トランスフェリン受容体に結合した後に、鉄を細胞内へ運搬するリガンドであると考えられている。しかし、アポトランスフェリンは、トランスフェリン受容体を発現する幾つかの細胞の増殖因子であることが報告されている(30)。トランスフェリンはこの抗原に対するリガンドであるのか否か、或いは他の幾つかのリガンドがこのリガンドに結合するのか否かは不明なままである。もし、或るリガンドが同定されれば、それは金属イオン(鉄もしくは亜鉛もしくはその他)のような特定の物質を腫瘍内へ運搬し得、従って毒性の物質(放射活性物質、或いは細胞毒性を有する化学薬品、例えばリシンのような毒物、細胞毒性アルキル化剤、細胞毒性プロドラッグ)を腫瘍に供給する手段として役立ち得る。
【0157】
前立腺腫瘍の主要な転位部位は骨である。骨および骨支質(bone stroma) にはトランスフェリンが豊富である。最近の研究により、この微細環境は骨における前立腺転移にとって好適な「土壌」(right "soil")を与えるものであることが示唆されている(31)。これは付着をも同様に促進し得るものであり、この能力を低下させるような因子は骨への前立腺転移および骨における前立腺転移増殖を減少させ得るということかもしれない。
【0158】
当該新規抗原に対するリガンド(胸部癌腫における腫瘍遺伝子であり、悪性表現型のマーカーと考えられる)は、胸部癌細胞の分化を誘導するように作用し、従って疾病促進因子であるよりも、むしろ治療に役立てることができるであろうことが見いだされた。PSMの正しい領域に結合するリガンドは、天然のリガンドもしくは抗体の何れであるにせよ、同様な機能を果たし得るであろう。
【0159】
細胞毒性剤と結合されたPSM抗原に対する抗体は、前立腺癌細胞を排除するために有用であろう。腫瘍細胞ではトランスフェリン受容体の発現レベルが増大する傾向にあるので、毒物と結合したトランスフェリン受容体抗体は、多くの腫瘍細胞に対して細胞毒性を有する(32)。トランスフェリン受容体は、エンドサイトーシス(endocytosis) によって細胞内に分子を取り込む。抗体と薬剤との組み合わせ(Antibody drug combination) は有毒であり得る。毒素と結合したトランスフェリンは湯毒であり得る。
【0160】
b)細胞毒性剤と結合したPSM抗原に対する抗体は、前立腺癌細胞を排除するために有用であろう。細胞毒性剤は、当業者に公知の放射性アイソトープもしくは毒素であり得る。抗体と毒物もしくは放射性アイソトープとの結合は化学的である。直接結合される毒素の例は、ドキソルビシン(doxorubicin) 、クロラムブシル(Chlorambucil)、リシン(ricin) 、シュードモナス菌体外毒素(pseudomonas exotoxin)等である。すなわち雑種毒素(hybrid toxin)は半分はPSM についての特異性を、半分は毒物についての特異性を有するように生成され得る。このような二価性分子は腫瘍に結合するために役立ち、また他の半分で腫瘍に細胞毒性を与え、或いは例えばT1-T3 受容体複合体への結合のように、細胞毒性リンパ球に結合してこれを活性化することができる。また、要求される特異性をもった抗体は、T細胞レセプター(TCR)の免疫グロブリンドメインを置換することと;所望のMAbの重鎖および軽鎖中にクローニングすることと;αTCR鎖およびβTCR鎖の定常領域を有するUh 遺伝子とUL 遺伝子をスプライシングし、これらのキメラAb/TCR遺伝子を患者のT細胞中にトランスフェクトし、これら雑種細胞(hybrid cells)を増殖して患者に注入することとによって、T細胞中にクローン化される(33)。標的としての組織特異的抗原に関する特別な知見と、そのような標的に対する特性をもったMAbの生成(generation)は、上記の有用なアプローチを構成する手助けとなるであろう。PSM抗原のコーディング領域はコーディング領域全体に関する知見を提供するから、付加的もしくは相乗的な抗腫瘍作用を達成するための組み合わせに用いることができるであろう多くの抗体を生成すること可能である。該抗体は、腫瘍部位で非毒性のプロドラッグを活性化できる酵素に結合することができる。例えば、Ab- カルボキシペプチダーゼ(Ab-carboxypeptidase) 、並びに 4-(ビス(2- クロロエチル) アミノ) ベンゾイル- αグルタミン酸 [4-(bis(2 chloroethyl)amino) benzoyl-α-glutamic acid) 及びそのマウスにおける活性プロドラッグである (34)。
【0161】
毒性の遺伝的キメラを生じさせることが可能である。このような遺伝子キメラは、例えばTGF−αおよびシュードモナス菌体外毒素の毒性部分に由来するcDNAをもった遺伝子組換え体TP−40である。この場合、該ハイブリッド(雑種)の前記TGFおよび毒性部分が内皮増殖因子受容体(EGFR)に結合し、シュードモナス部分は細胞内に酵素的に取り込まれ、タンパク合成を行うことのできるリボゾームを不活化し、その結果として細胞死をもたらす。PSM抗原のリガンドを解明すれば、我々は上記と同様のことを行なうことができる。
【0162】
更に、PSM抗原に対するリガンドが同定されれば、該リガンドに毒素を化学的に結合することができる。このような結合リガンドは診断上有用である。毒素の例としてはダウノマイシン(daunomycin)、クロラムブシル(chlorambucil)、リシン(ricin) 、シュードモナス菌体外毒素(pseudomonas exotoxin)等がある。あるいは、キメラ構造はリガンドのcDNAを毒性のcDNAと連結することによって作り出せるかもしれない。そのような毒物の一例は、TGFαおよびシュードモナス菌体外毒素である(35)。
【0163】
8.その他
PSM抗原には他の用途があるかもしれない。前立腺に亜鉛が豊富であることはよく知られており、もし当該抗原がこの点に関する機能もしくは他の生物学的機能を提供するならば、PSM抗原は、良性肥大および/または前立腺炎のような他の前立腺病態の治療における有用性を提供し得る。
【0164】
精製されたPSM抗原が生成され得るので、この精製PSM抗原をビーズに結合させて、これを標準の「アフィニティー」精製のようにして使用することができる。血清、尿素もしくは他の生物学的試料は、ビーズに結合したPSM抗原と共にインキュベートするために用いることができる。このビーズは完全に洗浄され、ついで塩勾配もしくはpH勾配で溶出され得る。溶出された物質はSDSゲル精製され、マイクロシークエンシング(microsequencing) のための試料として用いられる。配列は他の既知のタンパク配列と比較され、もし独自性があれば、リガンドを取得するために縮退PCR技術を用いることができる。一旦既知となれば、リガンドの親和性は標準的手法(standard protocols)(15)によって決定されるだろう。
【0165】
<第一実験シリーズの参照文献>





第二実験シリーズ
前立腺特異的膜抗原の発現
出願人は、最近、7E11−C5.3 抗前立腺モノクローナル抗体が認識する前立腺特異的膜抗原PSMをコードする、2.65kbの相補型DNAをクローニングした。PSM発現について、7Ell−C5.3 抗体を使ってLNCaP、DU145 およびPC-3前立腺癌細胞系を免疫組織化学的に分析すると、LNCaP細胞は強く染色されたが、DU145 およびPC-3細胞での発現は検出されなかった。インビトロにおける全長2.65kbのPSM・cDNAのカプリングされた転写/翻訳によって84kDaのタンパクが生産され、これは予測したPSMのポリペプチド分子量に相当した。イヌ膵臓ミクロソームによる該タンパクの翻訳後の修飾によって、予測した100 kDaのPSM抗原が作られた。真核発現ベクターの中の完全長PSM・cDNAでPC−3細胞をトランスフェクトした後に、出願人は、7Ell−C5.3 モノクローナル抗体を使ったウエスタン分析によって、PSM糖タンパクの発現を検出した。リボヌクレアーゼ保護分析によって、PSM・mRNASの発現はヒト組織では殆ど完全に前立腺特異的であることが証明された。PSM発現はホルモン欠乏状態において最も高いようであり、ステロイドによってホルモン的に調節されていて、DHTはヒト前立腺癌細胞系LNCaPにおけるPSM発現を8〜10倍下方調節し、テストステロンはPSM発現を3〜4倍下方調節し、コルチコステロイドは有意な効果を示さなかった。良性の前立腺肥厚においては、PSM発現は異質で且つ時には欠失していることは分っていたが、これに対して正常および悪性の前立腺組織は一貫して高いPSM発現を示す。ヌードマウスに正所移植および皮下移植されたLNCaP腫瘍はPSMを多く発現し、PSM発現の制御および調節を研究するための優れたイン・ビボのモデル系を提供する。
【0166】
<材料および方法>
細胞と試薬:
LNCaP、DU−145、PC−3細胞系は、アメリカンタイプカルチャーコレクションから得た。これらの細胞系の確立と性質に関する詳細は、以前に報告されている(5A、7A、8A)。別に明記しないかぎり、LNCaP細胞はL−グルタミン、可欠アミノ酸および5%ウシ胎児血清(ギブコ−BRL、Gaithersburg,MD)を補充したRPMI1640 培地を用いてCOインキュベーター中で37℃で培養した。DU-145およびPC-3細胞は、10%ウシ胎児血清を補充した最小必須培地で培養した。全ての細胞培地はMSKCC培地製造部門(Media Preparation Facility)から得た。制限酵素および修飾酵素は、特に明記しない限りギブコ−BRLから購入した。
【0167】
PSMの免疫組織化学的検出
我々はアビジン−ビオチン検出法を使って、前立腺癌細胞系のPSM抗原の発現を分析した(9A)。スライド当り5×10細胞/100 μlを使って、スライドグラス上に細胞サイトスピン(cell cytospins)を作成した。スライドグラスは、PBSで2回洗浄した後に適切な抑制血清と共に20分間インキュベートされた。抑制血清を捨て、希釈した7Ell−C5.3 (5g/mL)モノクローナル抗体と共に、細胞を1時間インキュベートした。その後、サンプルをPBSで洗浄し、続いて2次抗体と共に30分間、またアビジン−ビオチン複合体と共に30分間インキュベートした。ジアミノベンジヂンを色素原および発色剤として使用し、続いてヘマトキシリンで対比染色して封入した。二倍量の細胞サイトスピン(cytospin)を夫々の実験の対照として使用した。正のコントロールとして、抗サイトケラチンモノクローナル抗体CAM5.2 を上記の同じ方法に従って使用した。ヒトEJ膀胱癌細胞を負のコントロールとした。
【0168】
インビトロでのPSM抗原の転写/翻訳
プラスミドpSPORT1(ギブコ−BRL)中に完全長2.65kbのPSM・cDNAを含むプラスミド55Aを、イン・ビトロにおいて、プロメガTNTシステム(プロメガ社、マジソン、WI)を用いて転写した。ウサギ網状赤血球溶解物、メチオニン欠乏アミノ酸混合物、緩衝液および35S−メチオニン(アマシャム)を含む反応混合物内のcDNAに、T7・RMAポリメラーゼを加え、30℃で90分間インキュベートした。得られたタンパクの翻訳後修飾は、イヌ膵臓ミクロソームを反応混合液(プロメガ社、マジソン、WI)に加えることによって達成された。生成したタンパクを10%SDS−PAGEゲルで電気泳動分析し、続いて、該ゲルを増幅オートラジオグラフィーエンハンサー(アマシャム、アーリントンハイツ、IL)を用いて製造者の指示に従って処理し、80℃で真空乾燥機で乾燥した。このゲルを、 -70℃で一晩、ハイパーフィルムMP(アマシャム)を使ってオートラジオグラフにかけた。
【0169】
PC-3細胞へのPSMのトランスフェクション
完全長のPSM・cDNAを、pREP7真核発現ベクター(インビトロゲン、サンディエゴ、CA.)中にサブクローニングした。プラスミドDNAを、キアゲンマキシ−プレプ(Qiagen maxi-prep)プラスミド単離カラム(Qiagen Inc、Chatsworth、CA.)を用いて、形質転換されたDH5−アルファバクテリア(ギブコ−BRL)から精製した。精製したプラスミドDNA(6〜10g)をオプチメン(Optimem) 培地(ギブコ−BRL) 900ulで希釈し、既に 900lのオプチメン培地で希釈した30ulのリポフェクチン試薬(ギブコ−BRL)と混合した。この混合物を、オプチメン培地中で40-50 %の集密度状態にあるPC−3細胞が入ったT-75 フラスコに加えた。24-36 時間後に細胞をトリプシン処理し、10%ウシ胎児血清および1mg/mLのヒグロマイシンB(カルバイオケム(Calbiochem)、ラジョラ、CA.)を補充したRPME1640培地の入った100 mm皿に分けた。ヒグロマイシンBの用量は、経過時間/用量応答細胞毒性試験で前もって決定した。細胞は、この培地で2−3週間、培地とヒグロマイシンBを4-5 日ごとに交換しながら、分離性のコロニーが出現するまで培養した。コロニーを6mmのクローニングシリンダーを使って単離し、同じ培地で増殖させた。また、対照として、pREP7プラスミド単独でPC−3細胞をトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞からRNAを単離し、RNアーゼ保護分析(後述)およびノザン分析の両方によってPSM・mRNA発現を検出した。
【0170】
PSM発現のウェスタンブロット検出
LNCaP、PC−3、およびPSMでトランスフェクトしたPC−3細胞から、前述したようにして粗タンパク溶解物を単離した(10A)。LNCaP細胞膜もまた、刊行物に発表された方法によって単離した(10A)。タンパク濃度は、ブラッドフォード法により、バイオラッドタンパク試薬キット(バイオラッド、リッチモンド、CA.)を用いて定量した。変性に続き、20gのタンパクを10%SDS−PAGEゲルを用いて25mAで4時間電気泳動させた。ゲルを4℃で一晩、イモビロン(Immmobilon)P膜(ミリポア、ベッドフォード、MA.)上に電気ブロットした。膜を5%BSAを加えた0.15M NaCl/0.01M Tris−HCl(TS)に入れ、7Ell−C5.3 モノクローナル抗体(10g/mL)と共に1時間インキュベートした。0.15M NaCl/0.01M Tris−HCl/0.05%トリトン−X 100(TS−X)でブロットを4回洗浄し、10g/mL濃度のウサギ抗マウスIgG(アキュレイトサイエンティフィック(Accurate Scientific) 、ウエストベリー,N.Y.)と共に1時間インキュベートした。
【0171】
次いで、ブロットをTS−Xで4回洗浄し、100 万 cpm/mL濃度の 125I−タンパクA(アマシャム、アーリントンハイツ、IL.)でラベルした。次いで、ブロットをTS−Xで4回洗浄し、ワットマン3MM紙で乾燥したあと、ハイパーフィルムMP(アマシャム)を用いて -70℃で一晩オートラジオグラフにかけた。
【0172】
ヌードマウスにおける正所および皮下の
LNCaP腫瘍増殖長
0.25%トリプシンおよび0.02%EDTA溶液に一分間晒して、半集密状態の培養体からLNCaP細胞を回収した。細胞を5%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地中に再懸濁し、マトリゲル(Matrigel)(コラボラティブバイオメディカルプロダクツ(Collaborative Biomedical Products) ,ベッドフォード、MA.)またはカルシウム及びマグネシウムを含まないハンクス塩溶液(HBSS)中で洗浄し、希釈した。トリパンブルー排除試験により90%超の生存率を有する一つの細胞懸濁液だけを、イン・ビボでの注射に使用した。4〜6週令の雄の無胸腺症スイス(nu/nu)ヌードマウスを、メモリアルスローンケッタリング(Memorial Sloan-Kettering)癌センター動物施設から得た。皮下への腫瘍細胞の注射については、0.2 mLのマトリゲル中に再懸濁させた100 万個のLNCaP細胞を、28ゲージの針を備えた使い捨て注射器を用いて、各マウスの後ろ足に注射した。正所注射において、先ずペントバルビタールの腹腔内注射によりマウスを麻酔し、仰向けに寝かせた。腹をベタジンで消毒し、中線切開によって前立腺を露出させた。 0.1mL中の250万個のLNCaP腫瘍細胞を、28ゲージの針を備えた1mLの使い捨注射器を使って、一方の後葉に直接注射した。マトリゲル(Matrigel)と一緒に、またはマトリゲルを伴なわずに、LNCaP細胞が注射された。腹はオートクリップ(Autoclip)傷クリップ(クレイアダムス(Clay Adams),Parsippany,N.J.)を使って単一の層で閉じた。腫瘍は6−8週間で回収し、メモリアルスローンケッタリングガンセンター病理学部門の教授が組織学的に確認し、後のRNA単離のために液体窒素で凍結した。
【0173】
RNAの単離
RNAゾルB(チャイナ/バイオテク(Cinna/Biotecx) 、ヒューストン、TX.)の使用と共に、標準的な方法(11,12)によって、細胞および組織から全細胞性RNAを単離した。RNAの濃度および質は、ベックマンDU 640分光光度計でのUV分光と、ゲル分析とによって評価された。ヒト組織の全RNA試料は、カリフォルニア州パソアルト所在のクロテックラボラトリーズ社(Clotech Laboratories、Inc.,Paso Alto,CA)から購入した。
【0174】
リボヌクレアーゼ保護分析
プラスミドベクターpSPORT1(ギブコ−BRL)中にPSM・cDNAの一部をサブクローニングし、隣接するT7及びSP6・RNAポリメラーゼプロモーターに対するcDNA挿入の方向を、制限分析によって証明した。挿入したPSMの上流で該プラスミドを線状化し、続いてSP6・RNAポリメラーゼで転写することにより、400 ヌクレオチドのアンチセンスRNAプローブが生産されるが、このうち 350ヌクレオチドはPSM・RNAによってRNアーゼによる分解から保護されるに違いない。該プローブは図20で使用された。プラスミドIN−20は、プラスミドpCRII(インビトロゲン)内に1kbのPSM・cDNAの一部を含んでおり、リボプローブ合成にも使用された。XmnI (ギブコ−BRL)によって線状化されたIN−20は、SP6・RNAポリメラーゼを使って転写されて 298ヌクレオチドのアンチセンスRNAプローブを生成したが、このうちの 260ヌクレオチドは、PSM・mRNAによってRNアーゼによる分解から保護されるに違いない。このプローブは、図21および図22で使用された。プローブは、SP6・RNAポリメラーゼ(ギブコ−BRL)、rNTP(ギブコ−BRL)、RNAsin(プロメガ)および32P−rCTP(NEN、ウイルミングトン、DE.)を用い、刊行物に発表されたプロトコル(13)に従って合成された。プローブをNENSORB 20精製カラム(NEN)で精製し、およそ100 万cpmの精製放射性アイソトープで標識したPSMプローブを夫々10gのRNAと混合し、45℃で一晩、RPAIIキット(アンビオン(Ambion)、オ−スチン、TX.)の緩衝液および試薬を使ってハイブリダイゼーションを行なった。試料は製造者の指示通りに処理し、5%ポリアクリルアミド/7M尿素変性ゲル上で Seq ACRYL試薬(ISS、Natick、MA.)を使って分析した。ゲルは予め55℃に加熱し、25ワットで約1〜2時間稼働した。その後,ゲルを10%メタノール/10%酢酸で30分間固定し、80℃のバイオラッド真空乾燥機内においてワットマン3MN紙上で乾燥し、ハイパーフィルムMP(アマシャム)を用いて一晩オートラジオグラフにかけた。走査レーザデンシトメータ(LKB、ピスキャタウエイ,NJ.)を使用して、PSM発現の定
量測定を行なった。
【0175】
ステロイド調節実験
LNCaP細胞(200 万)を、5%ウシ胎児血清を補充したRPMI1640培地を充填したT-75 フラスコ内に撒き、約30-40 %の集密状態になるまで24時間培養した。その後、フラスコをリン酸緩衝生理食塩水で数回洗浄し、5%木炭抽出血清を補充したRPMI培地を加えた。次いで、細胞を更に24時間培養し、その際にジヒドロテストステロン、テストステロン、エストラジオール、プロゲステロン、デキサメタゾン(ステラロイド社(Steraloids Inc.) 、ウイルトン、NH.)を最終濃度2nMで加えた。細胞を更に24時間培養し、次いで前述したようにしてRNAを回収し、リボヌクレアーゼ保護分析で分析した。
【0176】
<実験結果>
PSMの免疫組織化学的検出
7Ell−C5.3 抗PSMモノクローナル抗体を使用することにより、LNCaP前立腺癌細胞系ではPSMの発現が明瞭に検出されたが、PC−3とDU−145細胞系では検出されなかった(図17)。これは、以前に刊行物に発表された結果と一致している(4A)。分析した正常および悪性の全ての前立腺組織はPSM発現について正に染色していた(未公開データ)。
【0177】
インビトロでのPSM抗原の転写/翻訳
図18で示したように、完全長2.65kbのPSM・cDNAのインビトロのカップリングされた転写/翻訳によって、84kDaのタンパク種が生産されたが、これはPSMのオープンリーディングフレームの 750アミノ酸から予測したタンパクと一致していた。続いて、イヌ膵臓ミクロソームを用いた翻訳後修飾によって、成熟した未変性のPSM抗原と一致する 100kDaのグリコシル化タンパク種が得られた。
【0178】
LNCaP細胞膜およびトランスフェクトされた
PC−3細胞におけるPSM抗原の検出
pREP7発現ベクター中の完全長PSM・cDNAでトランスフェクトされたPC-3細胞を、PSM・mRNAの発現についてノーザン分析により分析した(データは示していない)。PSM・mRNAを高く発現しているクローンを選択し、7Ell−C5.3抗体を使ったウエスタンブロッティング分析を用いてPSM抗原分析を行った。図19において、LNCaPの細胞溶解物および膜フラクションでは、PSMでトランスフェクトしたPC-3細胞と同様に100 kDa のPSM抗原が良く発現されていたが、本来のPC-3細胞では発現されていなかった。トランスフェクトされたPC-3細胞でこの発現が検出されたことは、以前にクローニングされた2.65kbのPSM・cDNAが、7Ell−C5.3 抗前立腺モノクローナル抗体によって認識される抗原をコードしていることを証明しており、また該抗体はPSMの炭水化物を含む抗原決定基を認識するから、該抗原はPC-3細胞内で適切にグリコシル化されていることを証明している。
【0179】
PSM・mRNAの発現
正常なヒト組織でのPSM・mRNA発現を、リボヌクレアーゼ保護分析を用いて分析した。PSMの組織発現は前立腺内で優勢に出現し、ヒトの脳および唾液腺では非常に低いレベルでの発現が検出される(図20)。ノーザン分析で分析したときは、PSM mRNA発現は非前立腺ヒト組織では検出されなかった(データは示していない)。我々はまた、正常なヒト小腸組織で時々PSM発現が検出されることに気付いたが、このmRNA発現は、使用した特異的リボプローブに応じて変化した(データは示していない)。分析した正常なヒト前立腺および前立腺癌の全ての試料においては、PSM発現を明瞭に検出できることが明らかになったのに対して、良性の肥厚を示している組織では、一般にPSMの発現は減少するか又は発現しなかった(図21)。ヌードマウスの正所および皮下の両方で増殖しているヒトLNCaP腫瘍において、我々は、皮下移植LNCaP細胞の増殖に必要なマトリゲル(matrigel)を使用した場合も使用しない場合にも、PSMが大量に発現することを検出した。PSM・mRNAの発現は、生理学的な用量のステロイドに明瞭に調節されている(図22)。DHTは、発現を24時間後に8-10倍ダウンレギュレーションし、テストステロンはPSMの発現を3-4 倍減少させた。エストラジオール及びプロゲステロンもまた、LNCaP細胞のPSM発現を下方調節したが、これはLNCaP細胞に存在することが知られている突然変異したアンドロゲン受容体に結合した結果であろう。全体的に、PSM発現は、ステロイド欠乏培地で培養した未処理のLNCaP細胞で最も高かったが、この我々の提案する状態は、インビボでのホルモン欠乏(去勢した)状態をシミュレーションしている。この実験は、ステロイド用量を 2-200 nM の範囲で変化させ、また時間を6時間から7日まで変化させて繰り返されたが、結果は同様であった。DHTについては、24時間、用量 2-20nM のときに、PSM・mRNAの最大の下方調節が観察された。
【0180】
<実験の考察>
ヒト前立腺の生物学を、正常状態および腫瘍性状態の両方について更に良く理解するためには、この重要な内分泌腺に固有の種々のタンパクおよび他の特性を研究することによって、知識を深めることが必要である。以前の研究によって2つの重要な前立腺バイオマーカー、即ちPAPおよびPSAが提供され、その何れもが前立腺悪性疾患の診断、治療および管理に重大な影響を与えた。前立腺特異性膜抗原(PSM)の予備的な特徴付けに関する我々の現在の研究によって、これが多くの興味深い特徴をもった遺伝子であることが明らかになった。PSMは、PAPおよびPSAと同様に、略完全に前立腺特異的であり、これらと同様に、前立腺の固有の機能および挙動を更に描写することを可能にし得る。PSMタンパクの予想配列(3)と、ウエスタンブロッティング及び免疫組織化学で証明されたように、該タンパクがLNCaP細胞膜に存在することとは、該タンパクが一体の膜タンパクであることを示している。従って、PSMは、抗体指向性の(antibody-directed) 画像診断および細胞毒性のターゲッティング治療様式のための、魅力的な細胞表面エピトープを提供する(14)。インビトロでPSM抗原を合成でき、またPSM発現を高いレベルで維持する腫瘍の異種移植を製造できる能力によって、PSM発現の制御および調節を更に研究し、特徴づけるための便利で魅力的なモデル系が提供される。また、LNCaP細胞での高レベルのPSM発現によって、優れたインビトロのモデル系が提供される。PSM発現はステロイドに対してホルモン的に反応性であり、またホルモン非反応性疾患において高度に発現し得るので(15)、アンドロゲン依存性前立腺癌の進行におけるPSMの潜在的な役割を解明することが肝要である。脳、唾液腺、小腸における僅かな量のPSM・mRNAの発現を検出することによって更なる研究が保証されるが、これらの組織は7Ell−C5.3 抗体を使った免疫組織化学によるPSM抗原の発現については陰性であった(l6)。これら全ての組織、特に小腸において、3´末端近傍のPSM・cDNA領域に相当するプローブを用いたときにはmRNAの発現を検出したが、5´末端PSMプローブを使ったときには発現を検出できなかった。これらの結果は、PSM・mRNAの転写物が、異なった組織では代替的スプライシング(alternative spricing)を受けることを示しているのかもしれない。以前のタンパクの研究では、7Ell−C5.3 抗体が 100kDaのPSM抗原に加えて、別の2つの少し大きいタンパク種を実際に検出し得ることが示唆された(17)。これら別のタンパク種は、図19におけるLNCaP溶解物および膜の試料に見ることができる。これらタンパクの起源には、択一的にスプライシングされたPSM・mRNA、PSMとは異なるがこれと密接な関係のある他の遺伝子、または異なる翻訳後修飾をうけたPSMタンパクが含まれる可能性がある。我々は現在、これらの可能性を研究している。
【0181】
出願人の研究法は、前立腺組織特異性プロモーター、即ち、酵素またはサイトカインキメラに基づいている。我々はプロドラッグ、例えば単純ヘルペスチミジンキナーゼによって毒性代謝物に変換される無毒性のガンシクロビル、又はシュードモナス・カルボキシペプチダーゼG2によって安息香酸マスタードアルキル化剤に変換される 4-(ビス(2- クロロエチル) アミノ) ベンゾイル-1- グルタミン酸の、プロモーター特異的な活性化について研究するつもりである。これらの約物は、腫瘍中で酵素(キメラ)によって特異的に活性化されるので、活性型の薬物は腫瘍環境においてのみ局部的に放出され、周囲の腫瘍細胞を破壊する。我々はまた、IL-12 、IL-2、またはGM−CSFといったサイトカインのプロモーター特異的活性化を、活性化および特異的抗腫瘍ワクチン接種について研究するつもりである。最後に、細胞死遺伝子の組織特異的プロモーターによる活性化もまた、この領域において有用であることが証明されるかもしれない。
【0182】
遺伝子治療キメラ
遺伝子治療のための「キメラDNA」を確立するためには、異なるセグメントのDNAを結合し、この結合に関与している両方の前駆体DNA種の特徴をもった新しいDNAを作ることが必要である。この提案においては、結合される2つの断片はDNAの異なった機能的特徴を含んでおり、mRNAの形成のためにDNAを読み取るプロモーター領域は特異性を与え、また該mRNAをコードする前記DNA配列は治療に機能するDNAを供給するであろう。
【0183】
DNA特異的酵素とサイトカインmRNA:
効果的であるときは、抗腫瘍薬は大量の腫瘍を退化させる。抗腫瘍薬活性を得るための主要な要件は、確実に十分な細胞損傷を与えて細胞死を生じさせるためにために、十分に長い時間(t)、十分高い濃度(c)で(cxt)、腫瘍を毒性の薬に晒すことである。また、この薬剤は「活性」でなければならず、腫瘍に対する毒性は宿主の正常細胞に対する毒性よりのも高くなければならない(22)。この腫瘍に対する薬物の有効性は、腫瘍の血流および薬物の拡散能力に依存している。多くの正常組織への血流は、しばしば腫瘍への血流と同じか又は多いので、腫瘍への血流は十分な選択性を提供しない。化学療法に用いられる大部分の細胞毒性薬は、腫瘍組織に対するのと同様に正常細胞に対しても有毒である。分裂性細胞はしばしば非分裂性の正常細胞よりも感受性が高いが、前立腺癌のような多くのゆっくり成長する固形腫瘍の場合、この感受性は抗癌剤が特異性であるために十分なものではない(22)。
【0184】
以前は、抗腫瘍薬の腫瘍特異性を高める方法は、腫瘍に関連した酵素を用いて、非毒性のプロドラッグを細胞毒性薬剤に活性化することであった(19)。この方法の問題点は、腫瘍に見られる殆どの酵素がその活性において完全に特異的ではなく、同様の基質活性酵素または同じ酵素が他の組織でも見つかっており、その量は僅かに少ないだけなので、正常組織は依然として損傷を受ける危険性があった。
【0185】
絶対的な特異性および固有の活性を与えるために、選択されたプロドラッグに対して固有の特異性をもった、ヒトおよび他の動物細胞に存在しないウィルス、バクテリア、菌類の酵素が発見された。単純ヘルペスチミジンキナーゼ、バクテリアのシトシンデアミナーゼ、カルボキシペプチダーゼG-2のような酵素を使う試みは、抗体ターゲッティング系と組み合わされて、ある程度成功していた(19)。不運なことに、抗体によってターゲッティングされる酵素の場合は、細胞当りの有効な酵素数が制限される。また殆どの抗体は、正常組織へのターゲッティングに対する腫瘍ターゲッティングの比率が高くないので、正常組織は依然として、これら特異性の低い独特の酵素に晒される。抗体は大きい分子で拡散性に乏しく、酵素の分子量が加わることによって抗体の拡散性は更に減少する。
【0186】
もし、腫瘍環境において活性化された薬物生産を目的として、局部的に高濃度の酵素を利用可能にするために、遺伝子治療によって腫瘍組織および非正常組織でのタンパクの特異的発現を達成することができるならば、遺伝子治療は最も望ましい結果を与えるであろう。
【0187】
サイトカイン:
出願人の研究グループは、特異的に且つ無毒的に、膀胱癌または前立腺癌のモデルにおいて、動物の樹立された腫瘍を治療できることを証明した。前立腺癌は、特に前立腺で正所増殖したときは、前立腺癌の治療はより困難であった。
【0188】
我々の研究は、膀胱および前立腺のような腫瘍は免疫原性でないことを証明した。即ち、照射していない腫瘍細胞を与えるまえに、照射した腫瘍細胞を動物に与えても腫瘍を作る腫瘍細胞の数は減少せず、腫瘍の成長率も減少しない。しかし、腫瘍がレトロウィルスでトランスフェクトされ、IL-2のようなサイトカインを高濃度で分泌すれば、抗腫瘍ワクチンとして作用することができ、既に樹立されて増殖している腫瘍の増殖潜在力を低減することもできるであろう。他の多くのサイトカイン類は殆ど活性はないが、IL-2は最も活性を有し、またGM−CSFも活性を有している。IL-2を免疫刺激に用いる臨床研究では、非常に高濃度を使わなければならず、これは有害であることが証明された。サイトカイン遺伝子を修飾した腫瘍細胞の成功の鍵は、サイトカインが腫瘍部位で局部的に生産され且つ毒性がないこと、並びに腫瘍の免疫認識を刺激して、腫瘍細胞の特異的かつ毒性ない認識を可能とし、腫瘍細胞を破壊をすることである。腫瘍細胞によるIL-2生産が如何にして免疫認識を活性化するのかについて、正確なメカニズムは十分に分かっていないが、一つの説明は、それがヘルパーT細胞によるサイトカイン生産の必要性を無視して、腫瘍抗原で活性化された細胞毒性CD8細胞を直接に刺激することである。また、抗原提示細胞の活性化も起こり得る。
【0189】
組織プロモーター特異的なキメラDNAの活性化
非前立腺腫瘍系:
非前立腺腫瘍においては、プロモーター特異的な活性化を用いることによって、トランスフェクトされた遺伝子の組織特異的な遺伝子の発現を選択的に導き得ることが観察された。黒色腫においては、メラニン発現の原因である酵素をコードするチロシナーゼプロモーターを使用することによって、黒色腫細胞でのプロモーター駆動性リポータ遺伝子の発現が50倍以上になったが、非黒色腫細胞ではならなかった。同様な特異的活性化が、マウスで増殖しているトランスフェクトされた黒色種細胞でもみられた。その実験において、非黒色腫またはメラニン細胞はトリプシナーゼ駆動性リポータ遺伝子生産物を発現しなかった。ウエルカム研究所の研究グループは、癌胎児性抗原(CEA)をコードしている遺伝子のプロモーター領域をクローニングし、配列決定した。CEAは結腸および結腸癌細胞で発現するが、5-フルオロシトシンを5-フルオロウラシルに変換する転移性シトシンデアミナーゼで特に発現し、CEAプロモーター駆動性結腸腫瘍細胞を選択的に殺傷する能力が非常に増加しているが、分裂していない正常肝細胞は殺傷しないことが観察された。イン・ビボでは、シトシンデアミナーゼ遺伝子でトランスフェクトされていない局外の腫瘍細胞も殺傷されること、並びに大きな腫瘍は治療によって後退するので宿主の動物に対しては毒性がないことが観察された。単純ヘルペスウィルス(HSV)チミジンキナーゼも同様に、プロドラッグであるガンシクロビル(gancyclovir) を活性化して、分裂する腫瘍細胞に対して有毒にし、またHSVチミジンキナーゼは組織特異的プロモーターによって特異的に活性化され得ることが示されている。
【0190】
前立腺腫瘍系:
効果的な癌治療の治療上の鍵は、特異性を達成すること並びに患者に毒性を与えないことである。遺伝子治療は、前立腺および前立腺腫瘍のような非本質的組織が、酸性ホスファターゼ(PAP)、前立腺特異性抗原(PSA)のような組織特異的タンパクと、我々がクローニングした遺伝子、即ち前立腺特異性膜抗原(PSM)遺伝子とを生産するという点で、特異性に重要な役目を提供し得る。前立腺のような組織は、これら組織特異的mRNAのDNAプロモーター領域への結合の原因となる選択的な組織特異性転写因子を含んでいる。PSAのプロモーターは既にクローニングされており、我々は前立腺腫瘍細胞の前立腺特異的プロモーターとしての使用を研究している。通常、転移性前立腺癌の治療を受けている患者は、PSAのmRNAの発現の劇的な減少をもたらすアンドロゲン剥奪治療を受けている。一方、PSMの発現はホルモン剥奪によって増加しているが、これはPSMはホルモン治療を受けた患者でより強く発現することを意味している。ジョンアイザック博士の(Dr.John Isaacs') 研究所との共同研究における予備研究では、ヒトPSM遺伝子を含むヒトクロモゾーム領域をラット腫瘍AT-6に転移したときに、PSMが発現することが証明された。AT−6は、転移性のアンドロゲン非依存性腫瘍である。非前立腺由来の組織もしくは腫瘍に移植された同じクロモゾームは発現しないので、これら細胞はこれらの実験の動物のモデルとして使用できるであろう。PSA、PSM陽性のヒトLNCaP細胞はヌードマウスでの試験に使われるであろう。
【0191】
<第二実験シリーズの参照文献>




第三実験シリーズ
ポリメラ−ゼ・チェイン反応(複製連鎖反応)における
PSAおよびPSM由来プライマ−を使用した
前立腺血液原性微小転移巣の高感度検出
我々は、前立腺癌患者において血液原性微小転移巣の高感度検出を可能にする、PCRに基づく分析法を開発した。我々は、「ネストPCR(重ねPCR法; nested PCR) )」を実施し、前立腺特異的抗原および前立腺特異的膜抗原に特有のmRNA配列を増幅して、夫々の結果を比較した。微小転移巣は、PSR由来プライマ−によるPCRでは2/30(6.7 %)の患者で検出されたのに対して、PSM由来のプライマ−では19/16(63.3%)の患者で腫瘍細胞を検出した。陰性対照8人は全て、PSAおよびPSM・PCRの両方について陰性であった。分析を繰返して結果を確認し、またPCR産物はDNA配列決定およびサザン分析によって確認された。PSM・PCRでは検出されるが、PSA・PCRでは検出されない循環している前立腺腫瘍細胞をもった患者の中には、先に前立腺全摘出術を受けており、今回の分析時には血清中PSAが測定可能なレベルにはない4人の患者が含まれていた。将来の疾病再罹患および進行に関するこれら知見の有意性について研究が行なわれる。
【0192】
前立腺癌患者の全生存率の向上は、早期診断に依存している。前立腺以外に転移形跡のない局所疾病は、前立腺全摘出術または外的放射線照射の何れかによって治療でき、長期に亘って優れた成果を得ている(2,3)。主要な問題は、前立腺癌と診断された男性の約2/3が、診断時に既に、現在は治療法のない前立腺外の進行性転移の証拠ありと診断されていることである(4)。前立腺特異性抗原(PSA)および前立腺酸性ホスファタ−ゼ(PAP)等の臨床的血清マ−カ−の使用によって、臨床医による前立腺癌の早期検出が可能となり、治療に対する応答を追跡するための有用なパラメ−タが提供された(5)。高感度血清PSA分析、放射線核種骨スキャン、CTスキャン、および他の画像化法の出現にも拘らず、転移が確実に定着する前に、微小転移巣細胞の存在を検出することはいまだ達成されていない。前研究では、ポリメラ−ゼ・チェイン反応を利用して、乳癌、白血病および循環器中の他の悪性細胞に特有のmRNA配列を増幅し、微小転移巣の早期検出を可能にした(6、7)。最近、PSA・DNA配列に由来するプライマ−を用いたPCRに基づくアプロ−チが刊行物に公表された(8)。この研究では、進行段階Dの前立腺癌患者の3/12に、検出可能な血液原性微小転移巣が見られた。
【0193】
我々は最近、抗前立腺モノクロ−ナル抗体7E11−C5.3 によって認識される、100 kDaの前立腺特異性膜抗原(PSM)をコ−ドしている2.65kbのcDNAを同定し、クローン化した(9)。PSMは、前立腺腫瘍および転移中において非常に多く発現し、ほぼ完全に前立腺特異的な膜結合性糖タンパクであるように思われる(10)。多くの未分化腫瘍および骨転移は、様々なレベルの、時には検出可能なレベルに至らないPSAを発現するのに対して、これら血液原性微小転移巣は一貫して高レベルのPSAを発現しているようである。前立腺から散逸して循環系に入る前立腺腫瘍細胞は、転移を形成する潜在能力をもっているようであり、おそらくはより活発でより未分化な細胞であるか、或いはPSAを高度に発現しないが、PSMの高度発現を保持し得る細胞集団であろう。それ故、我々は末梢循環系における転移細胞を検出するために、PCR分析において、PSAおよびPSMの両方の配列に由来するDNAプライマ−を使用することを選択した。従来のRNA・PCRは増幅が高レベルであり且つ高感度であるにも拘らず、我々は、ネスト(重ね)PCRアプロ−チ(nested PCR approach) を使用した。このネスト (重ね)PCRアプロ−チでは、まず標的配列が増幅され、続いてこのPCR産物をテンプレ−ト(鋳型)に用いて、前回の産物の配列内に完全に含まれる一組の新しいプライマ−によって、もう一回のPCR増幅ラウンドを行なった。このアプロ−チによって、我々は、検出レベルを一万個細胞につき1腫瘍細胞のレベルから、一億万細胞につき1腫瘍細胞のレベルにまで向上することができた。
【0194】
〔実験の詳細〕
<材料および方法>
細胞および試薬
LNCaP細胞およびMCF-7細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャ−・コレクション(Rockville, MD )から入手した。これらの細胞系の樹立および特徴に関する詳細は、先に刊行物中に公表されている(11,12)。細胞は、MSKCC培地製造施設から入手した、L−グルタミン、非必須アミノ酸類および5%子牛胎児血清(ギブコ-BRL、ガイテルスブルク(Gaithersburg)、MD)を補充したPRMI1640培地を用いて、二酸化炭素インキュベ−タ−中において37℃で増殖させた。細胞培地は全てMSKCC培地製造施設から入手した。常用の化学試薬は可能な限りの最高級品であり、シグマケミカル(Sigma Chemical Company, St., Louis, MO)から入手した。
【0195】
患者の血液標本
この研究で使用された血液標本は全て、MSKCCのスタッフである秘尿器科医らの外来患者オフィスを訪れた患者から入手した。規則的にスケジュールを決めた血液採集時に、患者一人当たり二つの抗凝固性(紫色のキャップ)のチュ−ブを得た。標本の調達は、MSKCC研究所の再審理評議会(Review Board)の認可により行われた。サンプルは迅速に実験室に運ばれて、直ちに処理された。血清PSAおよびPAPの測定は、MSKCC臨床化学実験室によって、標準法により行なわれた。PSA測定は、タンデムPSA分析(Hybritech, San Diego, CA)を用いて行なわれた。陰性対照として使用する8つの血液標本は、通常の血清PSA値および生体組織検査で実証されたBPHを有する男性2人、健康な女性一人、健康な男性3人、膀胱癌患者一人、および急性前骨髄細胞性白血病患者一人から入手した。
【0196】
血液サンプル処理/RNA抽出
抗凝固静脈血4mlを氷冷リン酸緩衝生理食塩水3mlと混合し、15mlポリスチレンチュ−ブ内の8mlフィコ−ル(Phamacia, Uppsala, Sweden )の上部に注意深く層状に加えた。チュ−ブを 200 x g、30分、4℃で遠心分離した。滅菌パスツ−ルピペットを使用して、バフィ−コ−ト層(約1ml)を注意深く除去し、50mlのポリスチレンチュ−ブ内で、氷冷リン酸緩衝生理食塩水を用いて50mlになるまで再希釈した。次いで、このチュ−ブを4℃において 200 x gで30分遠心分離した。上澄液を注意深く捨て、ペレットをドリップ乾燥させた。次に、1mlのRNazolBをペレットに添加し、製造業者の指示書(Cinna/Biotecx, Houston, TX) に従って全RNAを単離した。RNA濃度および純度は、ベックマン(Beckman)DU分光器を用いたUVスペクトロスコピ−、およびゲル分析によって測定した。
【0197】
PCR感度の決定
RNAは、LNCaP細胞、並びにLNCaP及びMCF-7細胞の混合物から、固定比率(例えば 1:100、1:1000等)で、RNAzolBを用いて単離された。この分析の検出限界を決定するために、下記に記載するように、PSAプライマーおよびPSMプライマ−の両者を用いてネストPCR法を遂行した。LNCaP:MCF-7(1:100,000 )cDNAを蒸留水で希釈し、1:1,000,000 および 1:10,000,000 の濃度を得た。MCF-7細胞が選択されたのは、これを予め試験したところ、PSMを発現しないことがPCRによって示されたからである。
【0198】
ポリメラ−ゼ・チェイン反応
PSA外側プライマ−は、エクソン4および5のスパン部分を用いて 486bpのPCR産物を生成し、またcDNAと可能な汚染ゲノムDNA増幅との区別を可能にした。PSA・cDNA配列中においてヌクレオシド 494で始まる上流のプライマ−配列は、5´- TACCCACTGCATCAGGAACA- 3´(配列ID番号39)であり、またヌクレオチド 960よりの下流のプライマ−は、5´- CCTTGAAGCACACCATTACA- 3´(配列ID番号40)である。PSAの内側上流プライマ−(ヌクレオチド 559で始まる)の5´- ACACAGGCCAGGTATTTCAG- 3(配列ID番号41)および下流プライマ−(ヌクレオチド 894で始まる)の5´- GTCCAGCGTCCAGCACACAG- 3´(配列ID番号42)は、355 bpのPCR産物を生成した。これらプライマ−は全てMSKCCマイクロケミストリ−・コア施設で合成された。全体積20リットル中において、ス−パ−スクリプト(Superscript )逆転写酵素(Gibco-BRL)を用い、製造業者の推薦書に従って、5gの全RNAがcDNAに逆転写された。このcDNAの1リットルを、外側プライマ−PCR反応の開始テンプレ−トとして使用した。20リットルのPCR混合物は、0.5 UのTaqポリメラ−ゼ(Promega Corp.,Madison,WI) 、プロメガ(Promega)反応緩衝液、1.5mM MgCl2 、200M dNTPsおよび各プライマ−1.0Mを含んでいた。次に、該混合物をパ−キンエルマ−9600DNA サ−マルサイクラ−(Perkin Elmer 9600 DNA thermalcycler)に移しれ、25サイクルのインキュベ−トを行なった。PCRのプロフィ−ルは次の通りである: 94℃×15秒、60℃×15秒、72℃×45秒。25サイクル後にサンプルを氷上に載置し、1リットルの該反応混合物を、内側プライマ−を用いて行なう別ラウンドのPCR用テンプレ−トとして使用した。最初の一組のチュ−ブをサ−マルサイクラ−に戻し、更に25サイクルにかけた。PSM−PCRでは、確実にcDNAが増幅され且つゲノムDNA増幅されないようにするため、イントロンにまで広がるプライマ−対を選択することが必要とされた。PSMゲノムDNAの配列は未だ決定されていなかったので、cDNA増幅時に期待される大きさのPCR産物を生成し、ゲノムDNAテンプレ−トからはバンドが生成されない(これは大きなイントロンが存在していることを示す)ような一対のプライマーが見付かるまで、別のプライマ−対を試用された。PSMの外側プライマ−は 946bpの産物を生成し、内側プライマ−は 434bpの産物を生成する。使用したPSM外側の上流プライマ−は、5´- ATGGGTGTTTGGTGGTATTGACC- 3´(配列ID番号43)(ヌクレオチド1401から開始)であり、下流プライマ−(ヌクレオチド2348より)は、5´- TGCTTGGAGCATAGATGACATGC- 3´(配列ID番号44)であった。PSM内側の上流プライマ−(ヌクレオチド1581より)は,5´- ACTCCTTCAAGAGCGTGGCG- 3´(配列ID番号45)であり、下流プライマ−(ヌクレオチド2015より)は、5´AACACCATCCCTCCTCGAACC- 3´(配列ID番号46)であった。使用したcDNAは、PSA分析用に用いたのと同様であった。50リットルのPCR混合物は、1UのTaqポリメラ−ゼ(Promega )、250M dNTPs、10mMメルカプトエタノ−ル、2mM MgCl2 及び166mM NH4 SO4 、670 mM Tris pH8.8 および2mg/mlのアセチル化BSAを含む5リットルの10×緩衝液混合物を含んでいた。PCRはパ−キン・エルマ−480DNAサ−マルサイクラ−(Perkin Elmer 480 DNA thermalcycler) を用い、下記のパラメ−タで行なわれた:94℃×4分を1サイクル、94℃×30秒、58℃×1分および72℃×1分を25サイクル、続いて72℃×10分で行われた。次いでサンプルを氷冷し、この反応混合物2リットルを内側PSMプライマ−を含有した新しい反応混合物による別の25サイクル用のテンプレ−トとして使用した。cDNAの定性は、466 bpのPCR産物を産生するアクチンから誘導されたプライマ−を用いた対照反応を行うことによって確認された。ここで使用した上流プライマ−は、5´- AGGCCAACCGCGAGAAGATGA- 3´(配列ID番号47)(エクソン3)であり、また下流プライマ−は、5´- ATGTCACACTGGGGAAGC- 3´(配列認識番号48)(エクソン4)であった。全PSA混合物および各PSM反応混合物10リットルを、1.5-2 %アガロ−スゲルにかけ、臭化エチジウムで染色し、イ−グル・アイ・ビデオ画像システム(Eagle Eye Video Imaging System)(Stratagene,Torrey Pines, CA )で撮影した。少なくとも3回繰り返して分析を行ない、結果を確認した。
【0199】
PCR産物のクロ−ニングおよび配列決定
TAクロ−ニングシステム(Invitrogen社)を用いて、PCR産物をpCRIIプラスミドベクタ−中にクロ−ン化した。これらのプラスミドを標準法(13)を用いてコンピテントな大腸菌細胞に形質転換し、プラスミドDNAをマジック・ミニプレプ(Magic Minipreps) (Promega 社)を用いて単離し、制限酵素分析でスクリ−ニングした。TAクロ−ンは、シーケナ−ゼ(Sequenase) (U.S.Biochemical 社)を用いてジデオキシ法(14)により配列決定された。各プラスミド 3-4gをNaOHで変性し、エタノ−ル沈殿を行なった。35S−dATP(NEN社)を使用して、メ−カ−推奨法に従って標識化反応を実施し、該反応を同プロトコ−ルに記載されているようにして終了させた。次に、配列決定された生成物を、6%ポリアクリルアミド/7M尿素ゲル上において、 120ワット2時間で分析した。該ゲルを、10%メタノ−ル/10%酢酸中で20分間固定化し、ワットマン3MM紙に移し、真空乾燥器で2時間80℃で乾燥した。ゲルは室温で18時間オ−トラジオグラフにかけられた。
【0200】
サザン分析
PCR生成物のエチジウム染色されたアガロ−スゲルを、0.2N HCl中に15分浸漬し、その後 0.5N NaOH/1.5M NaCl 中と、0.1M Tris pH7.5 /1.5M NaCl 中に30分ずつ浸漬された。次いで、ゲルは 10x SSC(1.5M NaCl /0.15M クエン酸ナトリウム)中で10分間平衡化された。DNAは、10 × SSC中でのポジブロッタ(Posi-blotter)(Stratagene社)による圧力ブロッテイングによって、DNAはナイトラン・ナイロン膜(Schleicher and Schuell社)に移された。DNAは、UVストラタリンカ(stratalinker)(Stratagene社)を使用して、その膜に架橋された。ブロットは65℃で2時間プレハイブリダイズされ、続いて32Pでラベルされ且つランダムプライムされた変性cDNAプロ−ブ(PSMまたはPSAのいづれか)とハイブリダイズされた(9,15)。ブロットは 1 × SSPE /0.5% SDS中において42℃で二回、1 × SSPE/0.5% SDS中において50℃で二回、夫々20分間洗浄された。膜を空気乾燥し、70℃で30分から1時間、コダックX-Omat フィルムを用いてオ−トラジオグラフにかけた。
【0201】
<実験結果>
ネストされたプライマ−を用いた我々のPCR増幅技術によって、PSAまたはPSMから誘導されたプライマ−の何れを用いた場合にも、前立腺細胞の検出レベルは約1万個のMCF-7細胞につき1個の前立腺細胞から、百万個のMCF-7細胞につき1個以上の細胞にまで向上された(図26および図27)。これは、最小病変(minimal disease) を検出する能力が実質的に改善されたことを示している。16人の患者の特徴を彼等の臨床段階、処置、血清PSAおよびPAP値について分析し、その分析結果を表1に示した。全体に、PSA−PCRは 2/30(6.7 %)の患者で腫瘍を検出したのに対し、PSM−PCRでは、19/30(63.3%)の患者で細胞を検出した。腫瘍細胞についてPSMでは非陽性であるがPSAでは陽性である患者はいなかったのに対して、PSMはPSAで検出されな8人の陽性患者を検出した。表1の患者10および11は、両者ともかなり進行したホルモン無反応性症の患者であるが、PSAおよびPSMの両方で検出された。これら患者は、両者ともこれらサンプルを採取した後に死亡した。患者4、7および12(全員が臨床的局所病弊について前立腺全摘出処置をしており、術後1-2 年の血清PSA値は測定レベルに満たない)は、PSM−PCRによる場合は循環系の前立腺腫瘍細胞について陽性であったが、PSR−PCRによる場合は陰性であった。図28に、PSM−PCRについての代表的なエチジウム染色ゲルの写真を示した。レ−ンAにかけたサンプルは、外側プライマ−から生じるPCR生成物を示し、レ−ンBのサンプルは内側プライマ−からの生成物である。図29に、対応するPSMサザンブロットオ−トラジオグラフを示した。幾つかのサンプルで示されるように、サザンブロット分析の感度はエチジウム染色を凌いでいた。即ち、これら幾つかのサンプルの外側プライマ−産物は、図28では見えないが、図29で示したようにサザンブロットでは検出可能である。更に、図28および図29のサンプル3(図30の患者6)は、外側および内側プライマ−生成産物のバンド(他の患者において対応しているバンドよりも小さい)を含んでいるように見える。DNA配列決定において、これらバンドのヌクレオチド配列は、小欠損を除いて、PSMのヌクレオチド配列と一致していることが確認された。これは、該患者におけるPCRのアーティクラフト、即ち択一的にプライシングされたPSM・mRNAのPCR産物、或いはPSM突然変異の何れかを示す。我々は、ある時、別のサンプルでも同様な知見に気付いた (未公表デ−タ)。配列決定され且つサザンブロット分析で分析した全サンプルが、PSAおよびPSMについて真性陽性であることが確認された。
【0202】
<実験の考察>
診断時に、前立腺癌患者を正確に段階分けする能力は、適切な治療法の選択において、また治療に対する長期的反応および治癒可能性の予測において、非常に重要であることは明らかである。現在のところ、前外科的段階は物理的検査、血清PSAおよびPAPの測定、直腸超音波断層画像、CTスキャン、放射線核種骨スキャンおよびMRIスキャンを含む多数の画像診断法からなる。しかし、現在の方法は血液原性微小転移病弊の問題、および予後に生じ得るマイナスの影響については向けられていない。以前の研究によって、循環する腫瘍細胞は、僅か数パ−セントあっても、不可避的に固形転移を形成することが示されている(16)。しかしながら、循環系に存在する腫瘍細胞負荷の検出および定量化ができれば、もっと正確に疾病段階の分類に役立つことが分かるであろう。循環系にこれらの細胞を有することがわかった患者の臨床経過を、テスト結果が陰性であった同様の段階にある同様の処置を受けている患者の経過とを比較することによって、血液原性微小転移病弊の長期にわたる影響を研究すべきである。
【0203】
PSMによる腫瘍細胞の検出レベルがPSAと比較しして著しく高いことは、我々とってはさほど驚きではない。何故なら、分化程度の低い退行性の前立腺癌ではPSAの発現が様々であるのに比較して、PSMは全段階および全ての程度の前立腺癌において一貫して発現されることに気付いていたからである。前立腺全摘出術(radical prostatectomies) を受け、その後の血清PSA量は検出レベルにない3人の患者において、腫瘍細胞が検出されたことは驚きであった。これらの患者は、標準的基範によれば、外科的「完治例」と見なされるであろうが、彼等は依然として前立腺腫瘍細胞をその後も続けて宿しているのは明らかである。PCRによる残存疾病の痕跡が現れなかった他の患者との比較において、これらの患者の臨床経過を追跡することは興味深いことである。我々は現在、これらの知見を実証する(おそらくは、転移の危険がある患者を同定する)ために、数多くの患者のサンプルを分析している。
【0204】
<第三実験シリーズの参照文献>


第四実験シリーズ
前立腺特異性膜抗原(PSM)の発現は、トランス
フェリンによる活発なヒト前立腺癌細胞の
有糸分裂刺激を減少させる
【0205】
トランスフェリンとヒト前立腺癌との間の関連は、何人かの研究者によって示唆されてきた。前立腺癌患者の発現前立腺分泌物はトランスフェリン含有量が高いこと、並びに前立腺癌細胞にはトランスフェリン受容体中が多いことがわかっている(J.Urol. 143, 381, 1990)。骨髄から派生するトランスフェリンは、侵入性の前立腺癌細胞の増殖を選択的に刺激することが示されている(PNAS 89, 6197, 1992)。我々は先に、100 kDa PSM抗原をコ−ドするcDNAのクロ−ニングを報告した(Cancer Res. 53,208,1993 )。DNA配列分析によって、ヌクレオチド1250から1700のコ−ド領域部分がヒト・トランスフェリン受容体と54%の相同性を有することが明らかになった。PC-3細胞はPSM・mRNAまたは蛋白を発現せず、またトランスフェリンに応答して細胞増殖の増加を示すのに対して、PSMを高度に発現するLNCaP前立腺癌細胞は、トランスフェリンに対して極めて弱い反応を示す。前立腺癌細胞によるPSM発現がトランスフェリンに応答しておこる有糸分裂に影響を与えるか否かを見るために、我々は完全な長さをもつPSM・cDNAを安定的にPC-3前立腺癌細胞にトランスフェクトした。PSM・mRNAを高度に発現するクロ−ンはノ−ザン分析によって同定され、またPSM蛋白の発現は、抗PSMモノクロ−ナル抗体7E11−C5.3 を用いたウエスタン分析によって確認された。
【0206】
我々は、PC-3細胞またはPSMでトランスフェクトされたPC-3細胞2×104 個を、10%子牛胎児血清を補充したPRMI培地のウエルにプレ−トし、24時間後に1ml当り1μgのホロトランスフェエリンを該細胞中に加えた。PC-3細胞に対して高度に有糸分裂的である細胞を、第1日目に計数した。一日目に細胞を計数してプレ−ト有効性を決定し、5日目に細胞を計数してトランスフェリンの影響を決定した。実験を繰り返して結果を確認した。
【0207】
我々は、PC−3細胞が対照を凌いで275 %の平均増殖を示したのに対し、LNCap細胞は僅か43%が刺激されたに過ぎないことを発見した。増殖の速度論によって、PSMでトランスフェクトされたPC-3細胞の増殖は、本来のPC-3細胞より30%遅いことがわかった。このデ−タによって、侵入性で且つ転移性のヒト前立腺癌細胞におけるPSMの発現は、トランスフェリンに応答するその有糸分裂を有意に阻害することを示唆している。
【0208】
確立された前立腺癌を治療するための、サイトカイン分泌性腫瘍細胞プレパレーションからなる治療用ワクチンの使用が、ダニングR3327-MatLyLu(Dunning R3327-MatLyLu) ラットの前立腺腺癌モデル中で調査された。IL-2を分泌する放射線照射された腫瘍細胞プレパレーションのみが、皮下に定着した腫瘍から動物を治療することができ、また別の腫瘍チャレンジから動物を防御する免疫記憶を発生させた。免疫治療は、腫瘍が正所誘導された場合には有効性が劣ったが、それでも結果は改善され、癌性前立腺の再切除後の腫瘍の再罹患を著しく遅延させ、場合によっては防止した。腫瘍を宿している動物において、非免疫原性MatLyLu 腫瘍に対する強い免疫応答が誘導されることは、前立腺癌の能動免疫療法が治療学的に利益があり得るとの見方を支持している。
【図面の簡単な説明】
【0209】
【図1】レーン2の信号は、100 kdのPSM抗原に相当する。陽性対照として用いられたEGFrは、レーン1に示されている。陰性対照として用いられたウサギ抗マウス(RAM)抗体のみとのインキュベーションが、レーン3に示されている。
【図2】上段の二つの写真は、PSM抗原について陽性に染色するLNCaPサイトスピン(cytospins) を示している。下段左側はDU-145、下段右側はPC-3サイトスピンであり、両者ともPSM抗原発現について陰性である。
【図3】上段の二つのパネルは、PSM抗原について陽性に染色するヒト前立腺切片(human prostate sections;BPH)である。下段の二つのパネルは、PSM抗原の発現について陽性に染色する、侵入性前立腺癌ヒト切片を示している。
【図4】35S−メチオニンでラベルされたLNCaP細胞の Cyt-356抗体との免疫沈降に従う 100 kd のPSM抗原。
【図5】縮退PSM抗原プライマーを用いて得られたPCR生成物を示す、臭化エチジウムで染色された3%アガロースゲル。矢印は1.1 kb のPCR生成物であるIN-20 サンプルを示しており、該サンプルはPSM遺伝子をコードする部分的なcDNAであることが後に確認された。
【図6】PCR生成物のTAクローンングから得られるプラスミドDNAの2%アガロースゲル。EcoRIで消化することによって、挿入物はPCRIIベクター(インビトロゲン社)から切り出された。1.1 kbのPSM遺伝子の部分的なcDNA生成物は、ゲル1のレーン3に示されている。
【図7】M−MLV逆転写酵素を用いた出願人のLNCaPライブラリーに現れるcDNAの大きさを示すオートラジオグラム。
【図8】cDNAライブラリーのスクリーニング後に得られる、PSM遺伝子の完全長クローンの制限酵素分析。挿入物を遊離させるために、サンプルはNotIおよびSalI制限酵素で切断された。
【図9】完全長PSM遺伝子クローンのプラスミド・サザン・オートラジオグラム。大きさは略 2.7 kb である。
【図10】LNCaP前立腺癌系およびH26・Rasで形質導入されたLNCaP細胞系に限定されたPSM発現を示すノーザンブロット。PC-3、DU-145、T-24 、SKRC-27 、HELA、MCR-7、HL-60 等は全て陰性である。
【図11】LNCaP細胞系(レーン1)に特有であり、且つDU-145細胞系(レーン2)およびPC-3細胞系(レーン3)には存在しない 2.8 kb のPSMメッセージの発現を示すノーザン分析のオートラジオグラム。梯子状のRNA寸法マーカが左側に示されており、また28Sおよび18SのリボゾームRNAバンドが右側に示されている。
【図12】PSM遺伝子プライマーを用いたヒト前立腺組織のPCRの結果。レーンには左から右に番号が付されている。レーン1,LNCaP;レーン2,H26;レーン3,DU-145;レーン4,正常前立腺;レーン5,BPH;レーン6,前立腺癌;レーン7,BPH;レーン8,正常;レーン9,BPH;レーン10,BPH;レーン11,BPH;レーン12,正常;レーン13,正常;レーン14,癌;レーン15,癌;レーン16,癌;レーン17,正常;レーン18,癌;レーン19,IN-20 対照;レーン20,PSM・cDNA。
【図13】PSM抗原の等電点(非グリコシル化)
【図14−1】PSM抗原の二次構造
【図14−2】PSM抗原の二次構造(続き)
【図14−3】PSM抗原の二次構造(続き)
【図14−4】PSM抗原の二次構造(続き)
【図14−5】PSM抗原の二次構造(続き)
【図14−6】PSM抗原の二次構造(続き)
【図14−7】PSM抗原の二次構造(続き)
【図14−8】PSM抗原の二次構造(続き)
【図15−A】PSM抗原の親水度プロット。
【図15−B】膜貫通切片の予想。
【図16−1】ニワトリ、ラットおよびヒトのトランスフェリン受容体配列との相同性。
【図16−2】ニワトリ、ラットおよびヒトのトランスフェリン受容体配列との相同性。
【図16−3】ニワトリ、ラットおよびヒトのトランスフェリン受容体配列との相同性。
【図16−4】ニワトリ、ラットおよびヒトのトランスフェリン受容体配列との相同性。
【図16−5】ニワトリ、ラットおよびヒトのトランスフェリン受容体配列との相同性。
【図16−6】ニワトリ、ラットおよびヒトのトランスフェリン受容体配列との相同性。
【図16−7】ニワトリ、ラットおよびヒトのトランスフェリン受容体配列との相同性。
【図16−8】ニワトリ、ラットおよびヒトのトランスフェリン受容体配列との相同性。
【図16−9】ニワトリ、ラットおよびヒトのトランスフェリン受容体配列との相同性。
【図16−10】ニワトリ、ラットおよびヒトのトランスフェリン受容体配列との相同性。
【図16−11】ニワトリ、ラットおよびヒトのトランスフェリン受容体配列との相同性。
【図17A】前立腺細胞系におけるPSM抗原の発現の免疫組織化学的検出。LNCaP細胞における均一な高レベルの発現を示している。
【図17B】前立腺細胞系におけるPSM抗原の発現の免疫組織化学的検出。夫々DU-145細胞を示し、陰性である。
【図17C】前立腺細胞系におけるPSM抗原の発現の免疫組織化学的検出。PC-3細胞を示し、陰性である。
【図18】PSMとカプリングしたイン・ビトロでの転写/翻訳の生成物を示すタンパクゲルのオートラジオグラム。非グリコシル化PSMポリペプチドが 84 kDa に見られ(レーン1)、またミクロソームの添加に続いて合成されたPSM糖タンパクが 100 kDaに見られる(レーン2)。
【図19】形質導入された非PSM発現PC-3細胞におけるPSM発現を検出するウエスタンブロット分析。LNCaP膜(レーン1)、LNCaP粗溶解物(レーン2)およびPSMを形質導入したPC-3細胞においては、100 kDa のPSM糖タンパク種が明瞭に見られるが、生来のPC-3細胞(レーン3)には検出されない。
【図20】正常ヒト組織におけるPSM・mRNA発現について試験するための、リボヌクレアゼ保護のオートラジオグラム。レーン1には、放射能ラベルされた梯子状の 1 kb DNAマーカが示されている。未消化のプローブは 400ヌクレオチド(レーン2)、予想された保護PSMバンドは350 ヌクレオチドであり、またtRNA対照が示されている(レーン3)。ヒト前立腺には強い信号が見られ(レーン11)、ヒト脳およびヒト唾液腺には弱いが検出可能な信号が見られる(レーン4)。
【図21】ヌードマウス中およびヒト前立腺組織中で増殖させたLNCaP腫瘍におけるPSM・mRNA発現について試験する、リボヌクレアーゼ保護ゲルのオートラジオグラム。32Pでラベルした梯子状の 1 kb DNAマーカがレーン1に示されている。298 ヌクレオチドの未消化プローブが示されており(レーン2)、またtRNA対照が示されている(レーン3)。LNCaP細胞において(レーン4)、マトリゲル(matrigel)を伴なって及び伴なわずにヌードマウス中で正所的に増殖したLNCaP腫瘍において(レーン5,6)、およびヌードマウス中で皮下移植され増殖されたLNCaP腫瘍(レーン7)において、PSM・mRNA発現は明瞭に検出可能である。PSM・mRNA発現はまた、正常なヒト前立腺(レーン8)、および中程度に分化したヒト前立腺アデノカルチノーマ(レーン10)に見られる。極めて弱い発現が、良性肥大を伴なうヒト前立腺組織のサンプル中に見られる(レーン9)。
【図22】生理学的投与量の種々のステロイド類で24時間処理されたLNCaP細胞における、PSM発現についてのリボヌクレアーゼ保護試験。レーン1に、32Pでラベルした梯子状のDNAマーカが示されている。298 ヌクレオチドの未消化プローブが示されており(レーン2)、またtRNA対照が示されている(レーン3)。PSM・mRNA発現は、活性炭でストリップされた培地中の未処理LNCaP細胞において最も高い(レーン4)。出願人はDHT(レーン5)、テストステロン(レーン6)、エストラジオール(レーン7)およびプロゲステロン(レーン8)で処理されたLNCaP細胞において有意に減少したPSM発現を観察しており、デキサメタゾン(Dexamethazsone)(レーン9)に対しては僅かな反応を伴なうに過ぎない。
【図23】サザンブロット技術およびノーザンブロット技術を用いた、デュンニング細胞系(Dunning cell lines)のトランスフェクションにおけるPSM・DNAおよびPSM・RNAの存在の結果を示すデータ。
【図24A】サイトカインを形質導入した細胞が非修飾細胞を教育する力を示している。投与は親の側腹部または前立腺細胞に向けられた。その結果は、微小環境の考慮(microenvironment considerations) を示している。
【図24B】特定部位における実際の能力を示している。腫瘍は前立腺細胞に移植され、二つの異なった部位において免疫細胞で処理された。
【図25A】一次腫瘍の増殖阻害におけるサイトカイン類の能力を示す。未修飾の親腫瘍細胞およびワクチンとして形質導入細胞を投与された動物。齧歯類腫瘍の前立腺切除に続いて、生存率の増大がもたらされる。
【図25B】一次腫瘍の増殖阻害におけるサイトカイン類の能力を示す。未修飾の親腫瘍細胞およびワクチンとして形質導入細胞を投与された動物。齧歯類腫瘍の前立腺切除に続いて、生存率の増大がもたらされる。
【図26】ネストされたプライマーを用いたPCR増幅によって、我々の前立腺細胞の検出レベルは改善された。即ち、何れかのPSAを用いることにより、MCF−7細胞10,000個当たり前立腺細胞1個のレベルから、MCF−7細胞1,000,000個当たり前立腺細胞1個のレベル以上にまで改善された。
【図27】ネストされたプライマー(nested primer) を用いたPCR増幅によって、我々の前立腺細胞の検出レベルは改善された。即ち、PSM由来のプライマーを用いることにより、MCF-7細胞10,000個当たり前立腺細胞1個のレベルから、MCF-7細胞1,000,000 個当たり前立腺細胞1個のレベル以上にまで改善された。
【図28】PSM- PCRについての、代表的なエチジウム染色されたゲル写真。レーンAのサンプルは、外部プライマーから生じたPCR生成物を表している。また、レーンBのサンプルは内部プライマー対の生成物である。
【図29】PSMサザンブロットのオートラジオグラフ。幾つかのサンプル(外部生成物が、図3A〜Dでは視認できないが、図4に示したサザンブロットでは検出可能であるサンプル)において観察できるように、該サザンブロット分析の感度はエチジウム染色の感度を凌駕した。
【図30】図30:臨床段階、治療、血清PSA値および血清PAP値、並びに試験結果に関する、分析された患者16人の特徴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:2に記載されたヒト前立腺特異的膜抗原の配列のポリペプチド、配列番号:2のアミノ酸45〜750からなるヒト前立腺特異的膜抗原の外膜領域配列のポリペプチド、または配列番号:2のアミノ酸45〜750からなるヒト前立腺特異的膜抗原の外膜領域配列における抗原性領域(ただし、該抗原性領域は配列番号:35に記載された配列からなるものではない)のポリペプチドであって、前記ポリペプチドは前記前立腺特異的膜抗原に対して特異的な抗体を産生するために使用することができるポリペプチド。
【請求項2】
配列番号:2に記載されたヒト前立腺特異的膜抗原の配列のポリペプチド。
【請求項3】
ヒト前立腺特異性膜抗原に対するモノクローナル抗体であって、前記前記抗原の配列は配列番号:2に記載されている抗体。
【請求項4】
請求項3に記載のモノクローナル抗体であって、以下からなる群より選択されるヒト前立腺特異性膜抗原の抗原性領域に結合する抗体:
(a)Asp-Glu-Leu-Lys-Ala-Glu(配列番号:35);
(b)Asn-Glu-Asp-Gly-Asn-Glu(配列番号:36);
(c)Lys-Ser-Pro-Asp-Glu-Gly(配列番号:37);
(d)前記ヒト前立腺特異性膜抗原の外膜領域 ;および、
(e)前記ヒト前立腺特異性膜抗原の親水性アミノ酸配列。
【請求項5】
請求項3または4に記載のモノクローナル抗体であって、さらに前立腺癌細胞の表面のヒト前立腺特異的膜抗原に結合することができることを特徴とするモノクローナル抗体。
【請求項6】
請求項3〜5の何れか1項に記載のモノクローナル抗体を含有する組成物。
【請求項7】
前記抗体に結合された薬剤をさらに含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記薬剤が画像化剤、治療剤、毒素、または細胞障害性の薬剤である、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
薬学的に許容されるキャリアを含む、請求項6〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
薬学的に許容されるキャリアを含む薬学的組成物である、請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
前立腺癌の治療または診断に使用するための、請求項3〜5の何れか1項に記載のモノクローナル抗体または請求項6〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
ヒト患者において癌を治療するための薬学的組成物を製造するために、請求項3〜5の何れか1項に記載のモノクローナル抗体を使用する方法。
【請求項13】
被験者の前立腺癌を画像化するための組成物の製造のために、請求項6〜10のいずれか1項に記載の物質の組成物を使用する方法。
【請求項14】
生物学的サンプル中のヒト前立腺特異的膜抗原の量を測定するための免疫検定法であって、
(a)少なくとも一つの前記生物学的サンプルを請求項3〜5のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体または請求項7または8に記載の組成物と接触させて、前記抗体と前記サンプル中に存在するヒト前立腺特異性膜抗原との複合体を形成する工程と、
(b)前記複合体中のヒト前立腺特異性膜抗原の量を測定することにより、前記生物学的サンプル中のヒト前立腺特異性膜抗原の量を測定する工程と、
を具備した方法。
【請求項15】
サンプル中の細胞または組織切片のヒト前立腺特異性膜抗原の発現を検出するための診断組成物を調製するために、配列番号:1に記載の配列の少なくとも15個の連続するラベルされた核酸を使用する方法。
【請求項16】
前記試料が血液、リンパ節、または骨髄である、請求項15に記載の使用する方法。
【請求項17】
請求項1に記載のポリペプチドをコードする核酸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図14−3】
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【図14−4】
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【図14−5】
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【図14−6】
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【図14−7】
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【図14−8】
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【図15−A】
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【図15−B】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図16−3】
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【図16−4】
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【図16−5】
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【図16−6】
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【図16−7】
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【図16−8】
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【図16−9】
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【図16−10】
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【図16−11】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24A】
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【図24B】
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【図25A】
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【図25B】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2007−14343(P2007−14343A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210930(P2006−210930)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【分割の表示】特願平6−511426の分割
【原出願日】平成5年11月5日(1993.11.5)
【出願人】(399026731)スローン − ケタリング・インスティテュート・フォー・キャンサー・リサーチ (15)
【Fターム(参考)】