説明

前立腺癌の特徴付け

【課題】前立腺癌の再発または悪性度を予測する方法を提供する。
【解決手段】別の診断法と協調してメチル化を調査すること、および、その手法で使用するキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔発明の背景〕
本発明は、別の診断法と協調してメチル化遺伝子を調査すること、およびそれらの手法で使用するキットに関する。
【0002】
高等真核生物において、CpGジヌクレオチド内のグアノシンの5’側に位置するシトシンでのみ、DNAがメチル化される。この修飾は、特に遺伝子プロモーター領域に位置するCpGリッチ領域(CpGアイランド)を含む場合に、遺伝子の発現での重要な調節効果を持つ。通常はメチル化されないCpGアイランドの異常なメチル化は、不死化および形質転換した細胞において頻繁に起こる事象であり、ある種の腫瘍抑制遺伝子、もしくはある種のヒトの癌の改善と関連のある遺伝子の転写不活性化と関連付けられてきた。
【0003】
グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GSTs)は、遺伝子のメチル化状態を示す典型的なタンパク質であり、この発現は、前立腺癌の重要な予後診断的および診断的価値を有している可能性がある。このタンパク質は、細胞内解毒反応を触媒し、化学反応性の求電子体をグルタチオンと共役することにより求電子性発癌物質を不活性化させることを含む(シー・ビー・ピケット等(C. B. Pickett, et al.)による、「アニュアル・レビュー・オブ・バイオケミストリー( Annu. Rev. Blocbern.)」, 58:743, 1989年、ビー・コールズ等(B. Coles, et al.)による、「CRCクリティカル・レビュー・オブ・バイオケミカル・アンド・モレキュラー・バイオロジー(CRC Crit, Rev. Biochem. Mol. Biol.)」, 25:47,1990年、ティー・エイチ・ラッシュモア等(T. H. Rushmore, et al.)による「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー( J. Biol. Chem.)」 268:11475, 1993年)。ヒトのGSTは、異なる遺伝子座にある、それぞれ異なった遺伝子によってコードされており、アルファ、ミュー、パイおよびシータと呼ばれる4つのファミリーに分類されてきた(ビー・マナービック等(B. Mannervik, et al.)による、「バイオケミカル・ジャーナル( Biochem. J.)」 282:305, 1992年)。エピジェネティックな変化によるGSTP1の発現の減少は、しばしば前立腺および肝臓の癌と関連付けられる。
【0004】
前立腺癌を持つ患者の予後診断を決定するために通常使用されるシステムは、グリーソンスコアシステム(Gleason scoring system)である。グリーソンスコアシステムは、患者の前立腺から得た生検標本を解釈するとともに、病理学者によって判定された顕微鏡的な腫瘍のパターンに基づいている。予後診断にグリーソンスコアおよびいくつかの他の因子を含むノモグラム(Nomogram)もカッタン(Kattan)他によって開発されてきた。
【0005】
前立腺の生検に前立腺癌がある場合には、グリーソンスコアを判定する。グリーソンスコアは、ドナルド・グリーソン博士によって独自に記述され開発されたように、正常な腺組織構造(すなわち、形状、大きさ、および、腺の分化)の消失の程度に基づいている。グリーソン・ディーエフ(Gleason DF),メリンジャー・ジーティー( Mellinger GT),および、退役軍人協同泌尿器科リサーチグループ( the Veterans Administration Cooperative Urological Research Group)による:組織学的グレーディングおよび臨床病期の組み合わせによる、前立腺腺癌の予後予測(Prediction of prognosis for prostatic adenocarcinoma by combined histologic grading and clinical staging.)ジャーナル・オブ・ユロロジー( J Urol) 111:58−64, 1974年を参照。古典的なグリーソンスコアダイアグラム(Gleason scoring diagram)は、腫瘍の「グレード」と呼ばれる5つの基本的な組織パターンを示す。この、癌によって引き起こされた正常な腺構造の消失の主観的な顕微鏡的決定が、1から5の範囲の数のグレードで抽象的に示され、5が最も悪いとされている。グリーソンスコア(GS)とグリーソン合計は同一のものである。しかしながら、「グリーソングレード」と「グリーソンスコア」(「グリーソン合計」とも呼ばれる)は異なるものである。グリーソンスコアは、第1のグレード(腫瘍の主だった部分を表わす)と第2のグレード(腫瘍の少数の部分に割り当てる)の合計であり、2から10の範囲の数である。グリーソンスコアが高いほど、腫瘍はより悪性になる傾向があり、患者の予後がより悪いと、現在の診療では広く考えられている。有用ではあるが、グリーソンスコアと癌の予後の相関は直接的なものではない。ひとつには、7またはそれ以上のグリーソンスコアの試料は、不均一な癌のグループを示しており、予測可能性は、この不均一さによって損なわれる可能性がある。患者に提供される治療の種類はそれに依存するため、7もしくはそれ以上のグリーソンスコアを示す癌を副層化することが重要である。
【0006】
生検試料を含まない診断と予後診断に関しては、前立腺特異抗原(「PSA」)が前立腺癌の標準的な「マーカー」であることが良く知られている。マーカーの使用は参考にはなるが、診断への応用においては決定的ではなく、予後診断としてはマーカーは最小限の使用でしかない。PSA等の既知のマーカーの使用を改善するための新しい技術も有益であろう。
【0007】
本発明はこれらの要求を満たすものである。
【0008】
〔発明の概要〕
本発明の一態様では、患者の前立腺癌の特徴付けの方法は、患者のグリーソンスコアを決定することと、患者のグリーソンスコアが7以上である場合に患者の遺伝子メチル化などの特異的変化を検出することと、を含む。エピジェネティックな変化の程度または量が所定値を超える場合に、癌は悪性として特徴付けられ、所定値を超えない場合には悪性度が低いとされる。患者は、悪性または悪性度が低い前立腺癌を治療する方法と同様の方法で治療される。
【0009】
本発明の一態様では、GSTP1、APC、RASSF1A、15−LO−1、および、CDH1の群からなる1つ以上の遺伝子のメチル化を検出する。好ましくは、GSTP1プロモーターのメチル化の状態を、血液、血液成分、尿、尿道洗浄液、精液、または、組織試料から検出する。最も好ましくは、試料は組織試料である。
【0010】
本発明の別の態様では、前立腺癌の患者についてグリーソンスコアを得る。当該患者が7以上のグリーソンスコアを有すると判定された場合に、患者から別の生物学的試料を採取するか、あるいは、グリーソンスコアが算定された試料をさらに分析する。メチル化標的配列を有する疑いのある核酸試料は、1つまたは2つの生物学的試料から得る。該試料を、標的核酸を刺激することができる試薬で処置して標的核酸を刺激し、試料から増幅された標的のメチル化の程度を、既知の正常試料または既知の正常試料から得られた所定値と比較する。本発明のさらに別の様態では、メチル化される可能性が低いと考えられる配列も、増幅されたメチル化配列と比較するために増幅し、検出する。
【0011】
本発明の別の態様では、定量リアルタイムPCRを介してメチル化の状態を決定する。
【0012】
本発明のさらに別の態様では、前立腺の状況を特徴付ける方法は、標準的なPSA検査のようなスクリーニング分析で患者をまず検査するステップを含む。癌の可能性がある状態を示すものではないが、正常値より高濃度のマーカーを使用した患者には、GSTP1、APC、RASSF1A、15−LO−1、または、CDH1などの前立腺癌のマーカーのメチル化を検査する。メチル化の所定値を超える値を示す患者には、生検を行った。本方法の好ましい態様では、メチル化分析を、PSA値が2.5ng/mLと等しいかそれ以上である患者に実施する。代替として、メチル化分析を、2〜4のPSA値の患者に実施する。
【0013】
さらに別の態様では、本発明は、メチル化核酸の検出に有用なキットである。該キットは1つ以上の容器を含み、第一の容器には、非メチル化シトシンを修飾する試薬が収容され、第二の容器には、CpG含有核酸の増幅を初回刺激する試薬が収容されており、試薬は、修飾されたメチル化核酸と修飾された非メチル化核酸との間で区別される。キットは、7以上のグリーソンスコアであると判定された前立腺試料の患者に分析を実施するための説明書を包含する。別の実施形態では、説明書は、7より大きいグリーソンスコアであると判定された試料の患者に実施する分析を提供する。
【0014】
〔発明の詳細な説明〕
グリーソンスコアは、切除または生検から採取された前立腺組織試料に対して決定される。通常、2つの異常組織パターンの試料が分析され、それらの個々のスコアが合計される。サンプリングおよびグリーソンスコアの割り当ての方法は、現在では周知であり、広く実施されている。
【0015】
本発明のいくつかの方法では、前立腺癌の患者、前立腺癌の治療を受けている患者、または前立腺癌を持つと疑われる対象者に対して、グリーソンスコアを決定する。もしグリーソンスコアが7以上であれば、遺伝子に相当する核酸のメチル化状態を決定するために、患者は検査され、そのメチル化状態は前立腺癌の悪性度または進行度と相関する。本発明のキットでは、グリーソンスコアが7以上と算定された患者に対して、患者のメチル化状態が決定できるように、説明書が提供される。本発明の別のキットでは、グリーソンスコアが7より大きいと算定された患者に対して、患者のメチル化状態が決定できるように説明書が提供される。
【0016】
核酸は、以下に示す場合に、そのメチル化状態が前立腺癌と相関がある遺伝子に相当する。すなわち、そのような遺伝子のメチル化状態が前立腺癌についての情報を提供する場合と、その配列が、遺伝子もしくはその相補鎖のコーディング部分である、遺伝子もしくはその相補鎖の代表的部分である、遺伝子もしくはその相補鎖のプロモーターもしくは調節配列である、遺伝子もしくはその相補鎖の存在を示す配列である、または、遺伝子もしくはその相補鎖の全長の配列である場合と、である。このような核酸を、本明細書ではマーカーと呼ぶ。マーカーは以下のような遺伝子に相当する。すなわち、GSTP1 (配列番号59)、RASSF1A (配列番号69)、APC (プロモーター=配列番号64、遺伝子=配列番号65)、15−LO−1(配列番号56)、およびCDH1(配列番号57)である。関心のある他の配列は、ベータ−アクチン(配列番号60および61)、およびPTGS2(プロモーター=配列番号66、遺伝子=配列番号67)等の分析の参照として有用な構成遺伝子を含む。
【0017】
過剰メチル化の検出のための分析は、MSP、および制限エンドヌクレアーゼ分析等の技術を含む。プロモーター領域は、このような過剰メチル化分析の検出に対して特に注目すべき標的である。GSTP1のプロモーター領域の配列分析で、ヌクレオチドのほぼ72%がCGであり、約10%がCpGジヌクレオチドであることがわかる。
【0018】
本発明は、前立腺癌と関連するDNAが増幅され検出される、被験者の組織または他の生物学的試料のマーカーの特定領域のメチル化状態の決定を含む。マーカーによってコード化されるタンパク質の発現レベルの減少(すなわち、転写の減少)は、しばしばプロモーターのような特定の領域の過剰メチル化の結果であるため、このような領域が過剰メチル化されているか否かを決定することが望ましい。これはGSTP1遺伝子の場合に最も明らかに見られる。過剰メチル化された領域とは、正常な組織と比較した場合に、病変組織から得られた試料中で、統計的に有意なより大きな割合でメチル化されている領域のことである。
【0019】
本発明の目的は、特定のマーカー領域に特異的な核酸プローブまたはレポーターを使用して、前立腺組織、尿、尿道洗浄液、血液、血清等の血液成分、精液、および、前立腺のタンパク質の存在が期待できる他の試料を含む、生体液中または生物組織中のマーカー遺伝子のメチル化された領域の存在を検出することである。マーカー配列の特定の部分に基づくオリゴヌクレオチドプライマーは、PCR等の技術によってDNAを増幅するために特に有用である。関連のあるポリヌクレオチドを検出可能な量で含む、いかなる標本も使用することができる。尿および前立腺組織は、メチル化状態を決定するために好ましい試料である。試料は、上皮細胞を含んでいることが好ましい。
【0020】
本発明のいくつかのプライマー/プローブまたはレポーター試薬は、マーカー遺伝子の発現調節配列のメチル化を検出するために使用される。これらは、核酸配列の転写、および、時には核酸配列の翻訳を調節する、核酸配列である。したがって、発現調節配列には、プロモーター、エンハンサー、転写のターミネーター、開始コドン(すなわち、ATG)、イントロンに対するスプライシングシグナル、mRNAの適切な翻訳を可能にするためのその遺伝子の正しい読み取り枠の維持、および、終止コドンに関する配列を含むことができる。
【0021】
GSTP1プロモーターは、有用なマーカーの典型である発現調節配列である。これは、グルタチオン−S−トランスフェラーゼタンパク質(glutathione-s-transferase protein)を産生するように遺伝子の転写を命令することのできるポリヌクレオチド配列である。プロモーター領域は、構造遺伝子の上流、すなわち5’側に位置する。この領域は、細胞型特異的に、組織特異的に、あるいは外部のシグナルまたは作用物質により誘導可能に制御することのできる、プロモーター依存遺伝子発現を行うのに十分な要素を含んでいてもよく、このような要素は、ポリヌクレオチド配列の5’または3’領域に位置していてもよい。
【0022】
本発明の一方法では、マーカーを含む標的細胞を、核酸と結合する試薬に接触させることを含む。標的細胞の成分は、DNAまたはRNA等の核酸である。これらの試薬は、標的配列を増幅および検出するように構成された、PCRもしくはMSPのプライマーまたはその他の分子等の、プローブおよびプライマーを含むことができる。例えば、これらの試薬は、スコーピオン試薬(Scorpion reagent)またはスコーピオンレポーター(Scorpion reporter)と呼ばれ、ウィットコンブ(Whitcombe)らに付与された米国特許第6,326,145号および同第6,270,967号(これらの文献は、参照によりその全体が本明細書に包含される)に記載されたような、それら自身のレポーター区域(their own reporter segments)に組み合わせた、または結合したプライミング配列を含むことができる。用語「プライマー」と「プライミング配列」とは、同一ではないが、本明細書では核酸配列の増幅をプライミングする分子または分子の一部に言及するために使用してもよい。
【0023】
メチル化パターンを検出する鋭敏な方法の1つには、メチル化感受性酵素の使用とポリメラーゼ連鎖反応(PCR)との組み合わせを含む。DNAを酵素で消化した後、PCRは、DNA切断がメチル化によって阻害された場合にのみ、制限酵素部位に隣接するプライマーから増幅する。本発明のPCRプライマーがデザインされている典型的な標的部位は、M24485(GenBank)のゲノム位置番号によれば、GSTP1の転写開始部位からおよそ−71から+59塩基対の間にある領域に隣接するプライマーを含む。
【0024】
本発明の方法はまた、核酸含有標本を、非メチル化シトシンを修飾する作用物質と接触させることと、CpG特異的オリゴヌクレオチドプライマーを使用して標本中のCpG含有核酸を増幅することと、メチル化核酸を検出することと、を含むこともできる。好ましい修飾は、非メチル化シトシンが他のヌクレオチドに変換して、非メチル化シトシンとメチル化シトシンを区別することである。作用物質は、非メチル化シトシンをウラシルに変換するものであって、亜硫酸水素ナトリウムが好ましいが、非メチル化シトシンを修飾する一方でメチル化シトシンを修飾しない他の作用物質を使用することもできる。亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3)による修飾が最も好ましく、シトシンの5,6−二重結合(5,6-double bond of cytosine)と直ちに反応するが、メチル化シトシンとはほとんど反応しない。シトシンは亜硫酸水素イオンと反応して、脱アミノ化を受けやすいスルホン酸シトシン反応中間体を形成し、スルホン酸ウラシルを生成する。スルホン酸基はアルカリ条件下で取り除くことが可能であり、その結果としてウラシルが生成される。ウラシルはTaqポリメラーゼによってチミンとして認識されるので、PCRでは、出発鋳型(starting template)で5−メチルシトシンが存在した場所にのみシトシンを含む生成物となる。スコーピオンレポーターおよび試薬ならびに他の検出システムは、上記方法で処理された修飾種と非修飾種を同様に区別する。
【0025】
本発明で標本中のCpG含有核酸の増幅に使用されるプライマーは、修飾の後(例えば、亜硫酸水素塩による)、処理されていないDNA、すなわちメチル化DNAおよび非メチル化DNAを、特異的に区別する。メチル化特異的PCR(MSPCR)では、非メチル化DNAに対するプライマーまたはプライミング配列は、メチル化DNAに保持されているCから区別するために、3’CG対にTを持つことが好ましく、その相補鎖はアンチセンスプライマーのためにデザインされる。非メチル化DNAのためのMSPプライマーまたはプライミング配列では、センスプライマー中にCが存在せず、アンチセンスプライマー中にGが存在しないため(Cは修飾されて、増幅生成物中でT(チミジン)として増幅されるU(ウラシル)になる)、通常配列中に含まれるCまたはGが相対的に少ない。
【0026】
多型遺伝子座中の多数の核酸で特異的な重合の開始を提供するために、本発明のプライマーは、十分な長さと適切な配列のオリゴヌクレオチドである。適切なプローブまたはレポーターに曝されことで、増幅された配列のメチル化状態が明らかになり、これによって診断情報が明らかになる。
【0027】
好ましいプライマーは、プライマー伸長生成物の合成の開始が可能な、8以上のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドであり、実質的に多様な遺伝子座の鎖に対して相補的であることが最も好ましい。合成を行う環境条件は、ヌクレオチド三リン酸およびDNAポリメラーゼ等の重合のための作用物質の存在と、適切な温度およびpHとを含む。プライマーまたはプライミング配列のプライミング区域は、増幅の際に最大の効率をあげるために一本鎖であることが好ましいが、二本鎖であってもよい。二本鎖の場合には、伸長生成物の合成に使用する前に、まずプライマーの二本鎖を解離する処理をする。プライマーは、重合を誘発する作用物質の存在下で伸長生成物の合成をプライミングするのに、十分な長さである必要がある。プライマーの正確な長さは、温度、バッファー、および、ヌクレオチド組成物等の因子に依存する。オリゴヌクレオチドプライマーは、約12〜20のヌクレオチドを含むことが最も好ましいが、もっと多いあるいは少ないヌクレオチドを含んでいてもよく、周知の設計のガイドラインまたは規則に従う事が好ましい。
【0028】
プライマーは、増幅されるべきゲノム遺伝子座のそれぞれの鎖と実質的に相補的であり、前記に議論されたように適切なGまたはCヌクレオチドを含むようにデザインされる。これは、プライマーが、重合のための作用物質が作用可能な条件下で、それぞれの鎖とハイブリダイズするために十分に相補的である必要があることを意味する。言い換えれば、プライマーは、ゲノム遺伝子座をハイブリダイズし、ゲノム遺伝子座の増幅を可能にするのに十分な5’および3’の隣接配列(あるいは複数の隣接配列)との相補性を有する必要がある。
【0029】
プライマーは増幅プロセスで利用される。つまり、反応ステップ数に対してさらに多くの標的遺伝子座を産生する反応(好ましくは酵素的連鎖反応)が含まれる。最も好ましい実施形態では、この反応は指数関数的に多大な量の標的遺伝子座を産生する。上記のような反応は、PCR反応を含む。典型的には、ひとつのプライマーは遺伝子座の負(−)の鎖と相補的であり、もうひとつのプライマーは正(+)の鎖と相補的である。変性した核酸にプライマーをアニールさせ、次にDNAポリメラーゼIの大きなフラグメント(クレノウ(Klenow))等の酵素とヌクレオチドとによる伸長を行い、結果として標的遺伝子座配列を含む新たに合成された+と−の鎖を得る。連鎖反応の生成物は、使用した特定のプライマーの終端に対応する末端を持つ別の核酸二本鎖である。
【0030】
プライマーは、自動的な方法を含む従来のホスホトリエステル法(phosphotriester)およびホスホジエステル法(phosphodiester)等の、任意の適切な方法を使用して準備してもよい。そのような自動的な一実施形態では、開始物質としてジエチルホスホルアミダイト(diethylphosphoramidites)を使用し、ビューケージ等(Beaucage, et at.)(テトラへドロン・レターズ(Tetrahedron Letters), 22: 1859−1862, 1981年)によって記述されたように合成してもよい。修飾された固体担体上でオリゴヌクレオチドを合成する方法は、米国特許第4,458,066号に記載されている。
【0031】
精製、未精製にかかわらず、任意の核酸標本が、標的遺伝子座(例えば、CpG)を含む特異な核酸配列を、含む、または含むと疑われるならば、開始核酸または複数の開始核酸として利用することができる。したがって、例えば、プロセスには、DNA、またはメッセンジャーRNAを含むRNAを使用してもよい。DNAまたはRNAは、一本鎖または二本鎖であってよい。RNAを鋳型として使用する場合では、鋳型をDNAに逆転写するのに最適な酵素および/または条件が使用される。加えて、それぞれの一本の鎖を含んだDNA−RNAハイブリッドを使用してもよい。複数の核酸の混合物を使用してもよく、または、同じもしくは異なるプライマーを使用した本明細書中の前記の増幅反応で生成された核酸を使用してもよい。増幅されるべき特定の核酸配列、すなわち標的遺伝子座は、より大きな分子の一部であってもよく、または特定の配列が核酸全体を構成するように別個の分子として最初から存在することもある。
【0032】
メチル化されたCpGの検出に使用される核酸含有標本は、組織(特に、前立腺組織およびリンパ組織)、血液もしくは血液成分、リンパ液、尿、尿道洗浄液、精液または他の生物試料であってよく、Maniatis等によって記述されたように(「モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」, ニューヨーク州コールドスプリング港(Cold Spring Harbor, N.Y.) ページ280,281, 1982年)様々な技術によって抽出することができる。
【0033】
抽出された試料が純粋でない場合、増幅の前に、試料の細胞、体液、組織、すなわち動物細胞の膜を開放するためと、核酸(複数の核酸)の鎖(複数の鎖)を露出および/または解離するために、効果のある量の試薬で処理をしてもよい。鎖を露出および解離する溶解および核酸変性のステップによって、より容易な増幅が可能になる。
【0034】
試料の標的核酸配列が二本鎖を含んでいる場合、鋳型としての使用を可能にする前に、核酸の鎖を解離する必要がある。別のステップとしてまたはプライマー伸長生成物の合成と同時に、鎖の解離を行うことができる。この鎖の解離は、物理的、化学的、または、酵素的方法を含む、各種適切な変性条件を使用することで達成できる。核酸の鎖を解離する物理的な一手段では、変性するまで核酸を熱することを含む。典型的な熱変性は、最大10分間で約80℃から105℃の範囲の温度を含んでもよい。鎖の解離は、ヘリカーゼとして知られる酵素群の酵素によって、またはヘリカーゼ活性を有し、リボATPの存在下でDNAを変性することが知られている酵素RecAによって、誘発されてもよい。ヘリカーゼを使用する核酸の鎖の解離に適した反応条件は、クーン・ハフマン−ベルリン(Kuhn Hoffmann-Berling)によって記述されている(「CSH‐クオンティテイティブ・バイオロジー(CSH-Quantitative Biology)」, 43:63, 1978年)。RecAを使用する技術は、C.ラディン(C. Radding)において概説されている((「アニュアル・レビュー・オブ・ジェネティクス(Ann. Rev. Genetics)」, 16:405−437, 1982年)。これらの技術の改良版についても、現在では周知である。
【0035】
核酸あるいは複数の核酸の相補鎖が解離された場合、その核酸が本来二本鎖であったか一本鎖であったかに関わらず、解離された鎖は、追加的核酸鎖の合成の鋳型としていつでも使用できる。この合成は、プライマーの鋳型に対するハイブリダイゼーションが起こるような条件下で行われる。一般的に合成は、緩衝水溶液中で行われ、好ましくはpH7〜9の、最も好ましくは約pH8である。モル過剰(ゲノム核酸に対して、通常はプライマー:鋳型が約108:1)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーが、解離された鋳型鎖を含む緩衝液に添加されるのが好ましい。本発明のプロセスが診断的応用に用いられる場合には、相補鎖の量が未知であることがあるため、相補鎖の量に対するプライマーの量は常に確実に決定できるとは限らない。しかしながら、事実上、増幅される配列が複雑な長鎖核酸鎖の混合物に含まれている場合には、加えられるプライマーの量は、一般的に相補鎖(鋳型)の量に対してモル過剰である。大幅なモル過剰はプロセスの効率を向上させるのに好ましい。
【0036】
デオキシリボヌクレオチド三リン酸であるdATP、dCTP、dGTP、および、dTTPは、プライマーと別に、またはプライマーと共に、適切な量が合成混合液に添加され、その結果得られた溶液は、約90℃から100℃で、最長で10分間、好ましくは1分から4分間、加熱される。この加熱終了後、溶液は室温まで冷却され、これはプライマーのハイブリダイゼーションにとって好ましい。冷却された混合液に、プライマー伸長反応を実行するのに適した作用物質(「重合用作用物質」)が加えられ、当業者には周知の条件下で反応を行うことができる。重合用作用物質が熱安定性の場合は、他の試薬と共に添加してもよい。この合成(または増幅)反応は、室温から、重合用作用物質が機能しない温度まで、起こる可能性がある。
【0037】
重合用作用物質は、機能してプライマー伸長生成物の合成を達成する任意の化合物またはシステムであってもよいが、酵素が好ましい。この目的に適合する酵素は、例えば、大腸菌(E.coli)DNAポリメラーゼI、大腸菌(E.coli)DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント、T4 DNAポリメラーゼ、他の有用なDNAポリメラーゼ、ポリメラーゼの変異体、逆転写酵素、および熱安定性酵素(例えば、変性を起こす十分高められた温度にさらされた後、プライマー伸長を行うような酵素)を含むその他の酵素を含む。好ましい作用物質はTaqポリメラーゼである。適した酵素は、ヌクレオチドが本来の様式で結合し、それぞれの遺伝子座の核酸鎖に相補的なプライマー伸長生成物を形成することを促進する。一般的には、合成はそれぞれのプライマーの3’末端で開始され、合成が終了するまで鋳型鎖に沿って5’方向へ進み、異なった長さの分子を生成する。しかしながら、5’末端で合成を開始し、前記に記載されたものと同様のプロセスを使用して、逆方向へ進む重合用作用物質があってもよい。
【0038】
増幅の方法は、PCRによるものが最も好ましい。本発明のプライマーを使用するPCRで増幅されたメチル化および非メチル化の遺伝子座が、代替の手段で同様に増幅されるのであれば、代替の増幅方法を採用してもよい。
【0039】
増幅された生成物は、マリス(Mullis)等に付与された米国特許第4,683,195号(この米国特許文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるものとする)に記載されているように、生成物に特異的な、プローブまたはレポーターを用いて、メチル化または非メチル化として同定されることが好ましい。ポリヌクレオチドを検出するためのプローブおよびレポーターの分野における進歩は、当業者には周知のことである。状況に応じて、核酸のメチル化パターンは、制限酵素による消化およびサザンブロット解析(Southern blot analysis)等の他の技術によって確認することができる。5’CpGのメチル化を検出するために使用できるメチル化感受性の制限エンドヌクレアーゼの例には、SmaI、SacII、EagI、MspI、HpaII、BstUIおよびBssHIIが含まれる。
【0040】
本発明の別の態様では、メチル化比が使用される。これは、得られたマーカーの増幅されたメチル化種の量と、増幅された参照マーカーまたは増幅された非メチル化マーカー領域の量との間の比を規定することで行うことができる。これは定量リアルタイムPCRを使用して行うのが最も良い。規定されたまたは所定のカットオフまたは閾値よりも高い比は、過剰メチル化(hypermethylated)と考えられ、癌等(GSTP1の場合では前立腺癌)の増殖性疾患を有していることを示唆すると考えられる。カットオフは、既知の方法に従って規定され、これらの方法は、既知の病態の試料と既知の正常状態の試料との、少なくとも2セットの試料に対して使用される。本発明の参照マーカーは、内部標準として使用することもできる。参照マーカーは、試料の細胞で恒常的に発現しているベータアクチン等の遺伝子であることが好ましい。
【0041】
規定値または所定値(カットオフまたは閾値)は、比が使用されない場合でも本発明にしたがう方法で規定され、使用される。この場合、カットオフ値は、正常試料内または癌が診療的に重大ではない(診療的に意義のある状態に進行しないことがわかっている、または、悪性でない)試料内のメチル化の量または比率等のベースライン値に対する、メチル化の量または比に関して規定される。メチル化比を基にした方法を使用した場合と同様に、これらのカットオフ値は、周知の方法にしたがって規定される。
【0042】
本発明の方法およびキットは、多重化のためのステップと試薬を含むことができる。すなわち、1つより多くのマーカーを一度に分析することができる。
【0043】
ポリヌクレオチド配列および/または発現制御配列(例えば、プロモーター配列)の特定要素の過剰メチル化の結果が、しばしばマーカーに関連した遺伝子の転写レベルの減少となるため、これらの配列に対応するように調製されたプライマーが準備された。したがって、本発明は、マーカーのプロモーター領域または発現制御領域内の特定範囲のメチル化を検出することで、細胞増殖性の疾患を検出または診断する方法を提供する。これらの領域のメチル化の検出に有用なプローブは、このような診断または予後診断方法に有用である。マーカーの検出のために好ましい分子を下記に示す。マーカー遺伝子の短縮名を、採用した検出システムの種類と共に括弧内に示す。アンチセンスは、結合したペアのもう一方のメンバーのプライミング配列との関連性があるようにデザインされた、プライマーの方向性を参照するにすぎない。それは必ずしもゲノムDNAに対してアンチセンスである必要はない。
【0044】






【0045】
本発明のキットは、少なくとも1つのプライマーもしくはプローブ、または検出分子(例えばスコーピオンレポーター)を完全に含有してさえいれば、各種の構成成分で構成することができる。一実施形態では、キットは過剰メチル化マーカー部分を増幅および検出するための試薬を含む。状況に応じて、キットは、試料から核酸を抽出するための試料調整用試薬および/または物品(例えば、試験管)を含む。
【0046】
好ましいキットでは、1−試験管MSP(one-tube MSP)に必要な試薬を含む。必要な試薬には、対応するPCRプライマーのセット、Taqポリメラーゼ等の熱安定性DNAポリメラーゼ、および加水分解プローブまたは分子ビーコン等の適切な検出試薬などを含む。状況に応じた好ましいキットでは、検出試薬は、スコーピオンレポーターまたは試薬である。単染料プライマーまたは臭化エチジウム等の二本鎖DNAに特異的な蛍光染料も使用することができる。プライマーは、高濃度を生じる量であることが好ましい。キットには、付加的な材料を含むこともある。その付加的な材料は、適切な反応用試験管またはバイアル、バリア組成物、典型的にはワックスビーズ(状況に応じてマグネシウムを含む)、必須の緩衝液およびdNTP等の試薬、対照核酸(複数の対照核酸)および/または任意の追加緩衝液、化合物、コファクター(co-factors)、イオン性成分、タンパク質および酵素、ポリマー、ならびに、MSP反応に使用可能な材料などを含む。状況に応じて、キットは、核酸抽出試薬および材料を含む。
【0047】
本発明の最も好ましいキットでは、7以上のグリーソンスコアであると判定された前立腺試料の患者に分析を行うための説明書が提供される。本発明に従った別のキットでは、説明書は、7より大きいグリーソンスコアであると判定された試料をもつ患者に分析を行うためのものである。本発明に従った別のキットでは、PSAレベルが2.5ng/mLより大きい患者に分析を行うための説明書が提供され、別のキットでは、PSAレベルが2〜4ng/mLの患者に分析を行うための説明書が提供される。説明書は、メチル化陽性の結果には、引き続き生検を行うべきであることを指示することもある。
【0048】
〔実施例〕
<実施例1:メチル化検査とグリーソンスコア>
診断結果が既知の患者から前立腺試料を採取した。周知の方法にしたがって、試料に対してグリーソンスコアを割り当てた。これらの試料は、52試料が7未満のグリーソンスコアを持つことがわかり、36試料が7のグリーソンスコアを持っており、12試料が7より大きいグリーソンスコアを持っていた。
【0049】
GSTP1(配列番号(Seq ID No )19、20)およびAPC試薬(配列番号34、35)を使用して、それぞれのセットのメチル化の分析を行った。
【0050】
メチル化分析は以下のように行った。市販の亜硫酸水素ナトリウム変換試薬キット(ザイモリサーチ、オレンジ郡、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を使用してゲノムDNAを修飾した。この処理で非メチル化DNA内のシトシンを全てウラシルに変換し、一方でメチル化DNA内ではグアニンの前に位置しないシトシンだけがウラシルに変換された。グアニンの前に位置する全てのシトシン(CpGジヌクレオチド内の)はシトシンのままであった。
【0051】
亜硫酸水素ナトリウムで修飾されたゲノムDNA(100〜150ng)を、以下の成分を含む25μLの反応物中で増幅した。成分は、67mMのトリス(pH8.8)、16.6mMの硫酸アンモニウム((NH42SO4)、6.7mMの塩化マグネシウム(MgCl2)、10mMのベータ−メルカプトエタノール、各々1.25mMのdATP、dCTP、dGTP、およびdTTP、1Uのホットスタート Taq DNAポリメラーゼ、250nMのスコーピオンプローブ、250nMのリバースまたはフォワードプライマー(スコーピオンのデザインに依存)、625nMのパッシブレファレンス色素(passive reference dye)である。
【0052】
次に、試料に対し、Cepheid SmartCycler(登録商標) PCR装置で定量リアルタイムPCR分析の検査を行った。使用したPCR条件は以下の通りである。
【0053】
95℃で60秒間、続いて95℃で30秒間、59℃で30秒間、および72℃で5分間の最終延長を40サイクル。各サイクルの59℃での光学的データを収集した。
【0054】
GSTP1では、メチル化率((マーカーのコピー数/ベータ−アクチンのコピー数)×1000)カットオフ値を1に規定し、APCでは、メチル化率カットオフ値を10に規定した。カットオフ値は臨床的に関連する感度と特異性に基づいた。結果は以下の表に示した。
【表1】

【表2】

【0055】
これらの結果からメチル化分析が、7より大きいグリーソンスコアを持つ患者の前立腺癌の状態について正確な情報を提供していることが示された。グリーソンスコアが7の患者に対しても、特に他の診断的または予後診断的情報と組み合わせた場合に、有用で比較的正確な情報が得られた。
【0056】
現在、グリーソンスコアが6と7の集団では、大きな相異が存在する。これらの患者のおよそ半分は予後不良であり、半分は予後が良好である。より積極的な治療の恩恵を受ける者と、受けない者を決定する方法は、現在まで存在していない。グリーソンスコアが7より大きい癌(典型的にはより悪性の癌)におけるより高感度なメチル化の分析は、メチル化の分析結果がカットオフより高い患者では悪性の癌の結果として予後不良である、と予想することを可能にする。上記のメチル化データにより、グリーソンスコアが7の患者の66〜69%は予後不良とされ、積極的な治療を考慮すべきであると予測される一方で、残りの3分の1は待機療法が可能であると予測される。すなわち、グリーソンスコアが7より大きい集団(予後不良の集団)におけるメチル化分析の陽性の強い相関は、診断的価値と同様、予後診断的価値を示している。
【0057】
<実施例2:血清分析>
血清試料は、前立腺癌であるという結果が既知の患者と、生検試料が採取されてグリーソンスコアが算定された患者とから得た。これらの試料のなかで、55試料は癌ではない患者から、36試料はグリーソンスコアが5〜6の患者から、21試料はグリーソンスコアが7〜8の患者から得た。
【0058】
実施例1の方法にしたがってメチル化状態を決定した。
【0059】
GSTP1マーカーは、グリーソンスコアが7〜8の患者から得た試料の26%でメチル化を正確に検出し、グリーソンスコアが5〜6の患者または癌でない患者から得た試料ではメチル化を検出しなかった。APCマーカーは、グリーソンスコアが7〜8の患者から得た試料の26%でメチル化を正確に検出し、グリーソンスコアが5〜6または癌でない患者の試料でも、最大で9試料までメチル化を検出した。2つのマーカーの組み合わせの特異性は84%、感度はグリーソンスコアが5〜6で18%であり、グリーソンスコアが7〜8で38%であった。
【0060】
続いて、第3と第4のマーカー、RASSF1aおよびRARb2をメチル化の検出に使用するマーカーのグループに加え、82%の特異性と、グリーソンスコアが5〜6で25%、およびグリーソンスコアが7〜8で58%の感度とを得た。すなわち、追加、または異なったメチル化マーカーを包含して、感度を上げるために使用することが可能であり、血清検査が望ましく、感度と特異性の要求が高い場合に、使用することができる。
【0061】
追加のマーカー検査データは以下に示し、記載した。
【0062】
34試料の前立腺腺癌(CaP)、24試料の前立腺良性(Neg)、6試料のHG−PIN(Neg)、2試料の萎縮性(Neg)、4試料の異型性(Neg)、および、2試料の炎症性を含む、58試料が存在した。3試料は生検レポートが無く、1試料は検査に失敗した(アクチン−hskg Ct値無し)。GSTP1、RASSF1、RARB2、APC、CDH1、および、15−LO−1に対するマーカーを使用した。
【0063】
これらのマーカーを使用したmsPCR分析のために調製した試薬を表3に示した。
【表3】

【0064】
マーカーに対するプライマー/プローブは以下の通り。
GSTP1: 配列番号26/27、配列番号28/29、配列番号19/20
RASSF1: 配列番号30/31
RARB2: 配列番号32/33
APC: 配列番号34/35
CDH1: 配列番号52/53
15−LO−1: 配列番号54/55
ベータアクチン: 配列番号38/39
【0065】
PCR条件は表4に示した。
【表4】

【0066】
表5は6個の遺伝子特異マーカーのCt値と1個のhkgを示し、58試料に対してのグリーソンスコアおよびPASの有用な情報を含む。
【表5】

【0067】
感度と特異性は表6に示したCt値から直接決定した。
【表6】

【0068】
<実施例3:尿分析>
尿試料は、前立腺癌であるという結果がわかっている患者と、生検試料が採取されてグリーソンスコアが算定された患者とから得た。これらの試料中で、42試料はグリーソンスコアが4〜6の患者から、10試料はグリーソンスコアが7〜9の患者からであった。
【0069】
Cepheid Smart Cycler PCR装置を使用して、例1の方法にしたがってメチル化状態を決定した。
【0070】
GSTP1およびRARb2の2つのマーカーの組み合わせでの特異性は、マッサージ後の尿試料では89%、生検後の試料では91%であった。マッサージ後の試料のメチル化分析は、グリーソンスコアが7より低い試料では40%の感度であり、スコアが7より大きい試料では78%の感度であった。したがって、非侵襲性の試料採取は、本発明の別の態様と組み合わせて使用することができる。
【0071】
<実施例4:PSA結果ありの血清分析(予見的)>
前立腺癌であるという結果がわかっている患者から血清試料が採取される。標準的な臨床的方法にしたがってPSA濃度を決定する。これらの試料中で、55試料がPSAレベル1〜2ng/mLの癌ではない患者から、36試料がPSAレベル2〜4ng/mLの患者から、21試料がPSAレベルが4より大きい患者からである。PSAレベルが4より大きい患者には、確立した臨床的ガイドラインにしたがって生検が指示される。
【0072】
PSAレベルが4未満の患者に対するメチル化状態は、例1の方法にしたがって決定した。
【0073】
GSTP1マーカーは、PSAレベル2〜4の患者から得た試料の20%にメチル化を検出している。これらの患者には生検を行い、7以上のグリーソンスコアを持つことが見出される。これらの患者には更なる治療を指示することが適当である。PSA値が2未満の患者から得られたいずれの試料でも過剰メチル化は見られない。APC、RASSF1A、15−LO−1、およびCDH1マーカーをこれらの患者の独立したメチル化分析に使用し、試料の15%で過剰メチル化が見出される。これらの患者には生検を行い、7以上のグリーソンスコアであることが見出される。これらの患者には更なる治療を指示することが適当である。4未満のPSAレベルの患者において、2つのマーカーを組み合わせた特異性は95%であり、感度は85%である。
【0074】
生検の必要性を不確実にするPSAスコアを持つ患者は、メチル化分析の結果にしたがって階層化する。これは一般的に、待機療法または治療モニタリングの戦略に特に有用であり得る。生検での解釈が不明瞭または困難であることを示す場合には、患者には定期的に、PSA検査等の非生検分析での検査、および前立腺マーカーのDNAメチル化状態に対する検査を行う。所定のカットオフ値を超えるメチル化の結果は、生検の必要性を示し、7以上のグリーソンスコアはそのような生検の少なくともひとつの結果であり得ることを示す。
【0075】
〔実施の態様〕
(1) 前立腺癌の再発または悪性度(aggressiveness)を予測する方法において、
a)前立腺試料のグリーソンスコアを決定することと、
b)グリーソンスコアが7以上であるこれらの患者について生物学的試料中のマーカー(Marker)のメチル化状態を決定することと、
を含み、
所定値を超えるメチル化が悪性の癌または再発性の癌(aggressive or recurrent cancer)を示し、かかる所定値を超えないメチル化が低悪性度の癌(indolent cancer)を示す、方法。
(2) 実施態様1に記載の方法において、
参照マーカーの存在を測定すること、
をさらに含む、方法。
(3) 実施態様2に記載の方法において、
前記参照マーカーが、ベータアクチンおよびPTGS2からなる群から選択される、方法。
(4) 実施態様1に記載の方法において、
マーカーの組み合わせが使用される、方法。
(5) 実施態様4に記載の方法において、
前記マーカーの組み合わせが、GSTP1に対するマーカーと、APC、RASSF1A、15−LO−1、またはCDH1に対するマーカーとを含む、方法。
(6) 実施態様1に記載の方法において、
メチル化状態が決定される前記試料は、前立腺組織である、方法。
(7) 実施態様1に記載の方法において、
メチル化状態が決定される前記試料は、尿、尿道洗浄液、血液、血液成分、精液、または、循環細胞である、方法。
(8) 実施態様7に記載の方法において、
前記試料が、血清または血漿である、方法。
【0076】
(9) 前立腺癌の経過または悪性度を予測するための分析を行うキットにおいて、
核酸の増幅および検出の試薬と、
グリーソンスコアが7以上と算定された患者において、その使用法を指示する説明書と、
を含む、キット。
(10) 実施態様9に記載のキットにおいて、
前記説明書が、グリーソンスコアが7以上と算定された患者におけるキットの使用法を指示する、キット。
(11) 実施態様9に記載のキットにおいて、
前記試薬が、配列番号(Seq. ID No.)26および27からなる群のメンバーを含む、キット。
(12) 実施態様9に記載のキットにおいて、
前記PCRのプライミング試薬が、実質的配列番号26および27からなる、キット。
(13) 実施態様9に記載のキットにおいて、
前記試薬が、配列番号28および29からなる群のメンバーを含む、キット。
(14) 実施態様9に記載のキットにおいて、
前記PCRのプライミング試薬が、実質的配列番号28および29からなる、キット。
(15) 実施態様9に記載のキットにおいて、
前記試薬が、配列番号32および33からなる群のメンバーを含む、キット。
(16) 実施態様9に記載のキットにおいて、
前記PCRのプライミング試薬が、実質的配列番号32および33からなる、キット。
(17) 実施態様9に記載のキットにおいて、
前記試薬が、配列番号52および53からなる群のメンバーを含む、キット。
(18) 実施態様9に記載のキットにおいて、
前記PCRのプライミング試薬が、実質的配列番号52および53からなる、キット。
(19) 実施態様9に記載のキットにおいて、
前記試薬が、配列番号54および55からなる群のメンバーを含む、キット。
(20) 実施態様9に記載のキットにおいて、
前記PCRのプライミング試薬が、実質的配列番号54および55からなる、キット。
(21) 実施態様9に記載のキットにおいて、
前記試薬が、GSTP1、APC、RASSF1A、15−LO−1、およびCDH1からなる群から選択される遺伝子の過剰メチル化を検出する、キット。
(22) 実施態様9に記載のキットにおいて、
構成的発現遺伝子(constitutively expressed gene)の増幅、および構成的発現遺伝子の存在の検出のための試薬、
をさらに含む、キット。
(23) 実施態様1に記載の方法において、
メチル化比を確定することと、
前記メチル比がカットオフ値を超えるか否かを決定することと、
をさらに含む、方法。
(24) 実施態様1に記載の方法において、
治療のモニタリングに使用される、方法。
【0077】
(25) 患者が前立腺の生検検査を受けるべきか否かを決定する方法において、
a)患者試料のPSAのレベルを決定することと、
b)PSAレベルが2より大きく、4ng/mLと等量またはより小さいとされる患者に対する生物学的試料のマーカーのメチル化状態を検出することと、
を含み、
生検検査のために所定値を超えるメチル化値の患者を選択する、方法
(26) 実施態様25に記載の方法において、
参照マーカーの存在を測定すること、
をさらに含む、方法。
(27) 実施態様26に記載の方法において、
前記参照マーカーが、ベータアクチンおよびPTGS2からなる群から選択される、方法。
(28)実施態様25に記載の方法において、
マーカーの組み合わせが使用される、方法。
(29) 実施態様28に記載の方法において、
上記マーカーの組み合わせが、GSTP1に対するマーカーと、APC、RSSF1A、15−LO−1、またはCDH1に対するマーカーとを含む、方法。
(30) 実施態様25に記載の方法において、
メチル化の状態が決定された前記試料は、尿、尿道洗浄液、血液、血液成分、精液、または、循環細胞である、方法。
(31) 実施態様30に記載の方法において、
前記試料が、血清または血漿である、方法。
(32) 患者が前立腺の生検検査を受けるべきかどうかを決定するための分析を行うキットにおいて、
核酸の増幅および検出試薬と、
2〜4ng/mLのPSAレベルが検出された患者において、その使用法を指示する説明書と、
を含む、キット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺癌の再発または悪性度を予測する方法において、
a)前立腺試料のグリーソンスコアを決定することと、
b)グリーソンスコアが7以上であるこれらの患者について生物学的試料中のマーカーのメチル化状態を決定することと、
を含み、
所定値を超えるメチル化が悪性の癌または再発性の癌を示し、かかる所定値を超えないメチル化が低悪性度の癌を示す、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
参照マーカーの存在を測定すること、
をさらに含む、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記参照マーカーが、ベータアクチンおよびPTGS2からなる群から選択される、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
マーカーの組み合わせが使用される、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、
前記マーカーの組み合わせが、GSTP1に対するマーカーと、APC、RASSF1A、15−LO−1、またはCDH1に対するマーカーとを含む、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
メチル化状態が決定される前記試料は、前立腺組織である、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、
メチル化状態が決定される前記試料は、尿、尿道洗浄液、血液、血液成分、精液、または、循環細胞である、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
前記試料が、血清または血漿である、方法。
【請求項9】
前立腺癌の経過または悪性度を予測するための分析を行うキットにおいて、
核酸の増幅および検出の試薬と、
グリーソンスコアが7以上と算定された患者において、その使用法を指示する説明書と、
を含む、キット。
【請求項10】
請求項9に記載のキットにおいて、
前記説明書が、グリーソンスコアが7以上と算定された患者におけるキットの使用法を指示する、キット。
【請求項11】
請求項9に記載のキットにおいて、
前記試薬が、配列番号26および27からなる群のメンバーを含む、キット。
【請求項12】
請求項9に記載のキットにおいて、
前記PCRのプライミング試薬が、実質的に配列番号26および27からなる、キット。
【請求項13】
請求項9に記載のキットにおいて、
前記試薬が、配列番号28および29からなる群のメンバーを含む、キット。
【請求項14】
請求項9に記載のキットにおいて、
前記PCRのプライミング試薬が、実質的に配列番号28および29からなる、キット。
【請求項15】
請求項9に記載のキットにおいて、
前記試薬が、配列番号32および33からなる群のメンバーを含む、キット。
【請求項16】
請求項9に記載のキットにおいて、
前記PCRのプライミング試薬が、実質的に配列番号32および33からなる、キット。
【請求項17】
請求項9に記載のキットにおいて、
前記試薬が、配列番号52および53からなる群のメンバーを含む、キット。
【請求項18】
請求項9に記載のキットにおいて、
前記PCRのプライミング試薬が、実質的に配列番号52および53からなる、キット。
【請求項19】
請求項9に記載のキットにおいて、
前記試薬が、配列番号54および55からなる群のメンバーを含む、キット。
【請求項20】
請求項9に記載のキットにおいて、
前記PCRのプライミング試薬が、実質的に配列番号54および55からなる、キット。
【請求項21】
請求項9に記載のキットにおいて、
前記試薬が、GSTP1、APC、RASSF1A、15−LO−1、およびCDH1からなる群から選択される遺伝子の過剰メチル化を検出する、キット。
【請求項22】
請求項9に記載のキットにおいて、
構成的発現遺伝子の増幅、および構成的発現遺伝子の存在の検出のための試薬、
をさらに含む、キット。
【請求項23】
請求項1に記載の方法において、
メチル化比を確定することと、
前記メチル比がカットオフ値を超えるか否かを決定することと、
をさらに含む、方法。
【請求項24】
請求項1に記載の方法において、
治療のモニタリングに使用される、方法。
【請求項25】
患者が前立腺の生検検査を受けるべきか否かを決定する方法において、
a)患者試料のPSAのレベルを決定することと、
b)PSAレベルが2より大きく、4ng/mLと等量またはより小さいとされる患者に対する生物学的試料のマーカーのメチル化状態を検出することと、
を含み、
生検検査のために所定値を超えるメチル化値の患者を選択する、方法
【請求項26】
請求項25に記載の方法において、
参照マーカーの存在を測定すること、
をさらに含む、方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法において、
前記参照マーカーが、ベータアクチンおよびPTGS2からなる群から選択される、方法。
【請求項28】
請求項25に記載の方法において、
マーカーの組み合わせが使用される、方法。
【請求項29】
請求項28に記載の方法において、
上記マーカーの組み合わせが、GSTP1に対するマーカーと、APC、RSSF1A、15−LO−1、またはCDH1に対するマーカーとを含む、方法。
【請求項30】
請求項25に記載の方法において、
メチル化の状態が決定された前記試料は、尿、尿道洗浄液、血液、血液成分、精液、または、循環細胞である、方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、
前記試料が、血清または血漿である、方法。
【請求項32】
患者が前立腺の生検検査を受けるべきかどうかを決定するための分析を行うキットにおいて、
核酸の増幅および検出試薬と、
2〜4ng/mLのPSAレベルが検出された患者において、その使用法を指示する説明書と、
を含む、キット。

【公開番号】特開2008−206511(P2008−206511A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−282148(P2007−282148)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(505060347)ベリデックス・エルエルシー (43)
【氏名又は名称原語表記】Veridex,LLC
【住所又は居所原語表記】33 Technology Drive,Warren,NJ 07059,U.S.A.
【Fターム(参考)】