説明

前立腺癌マーカーとしてのSPINK1およびその使用

癌マーカーを含むがこれに限定されない、癌の研究、診断、および治療のための組成物および方法を提供する。特に、SPINK1および前立腺癌のための他のマーカーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)からのDA021519、CA046592、CA069568、CA102872およびCA111275、ならびに米国陸軍医学研究司令部(Army Medical Research and Materiel Command)からのDAMD17‐03‐2‐0033およびW81XWH‐06‐1‐0224の下に、米国政府の支援を受けてなされたものである。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
癌マーカーを含むがこれに限定されない、癌の研究、診断、および治療のための組成物および方法を提供する。特に、SPINK1および前立腺癌のための他のマーカーを提供する。
【背景技術】
【0003】
前立腺癌は、米国人男性において最も一般的な非皮膚癌であり、癌関連死の2番目に多い原因である。米国および英国で癌登録に記録された前立腺癌の数は、過去15年間で著しく増加している。この変化は、主に、集団における癌数が実際に増加したというよりも、診断された癌数が増加したことを示すものである。2006年には、234,460件の新規症例および27,350件の死亡が発生すると予測された。これらの新規症例のうち約91%は、局所的または領域的な段階で診断されるであろうと判断された。
【0004】
前立腺癌(PCa)は、典型的には、直腸診および/または前立腺特異抗原(PSA)によるスクリーニングを用いて診断される。血清PSA値の上昇は、PCaの存在を示唆することができる。PSAは前立腺細胞によってのみ分泌されるため、前立腺癌のマーカーとして用いられる。健常な前立腺は安定した量(典型的には1ミリリットル当たり4ナノグラム未満、またはPSA読み取り値「4」以下)を生成するのに対し、癌細胞は、その癌の重症度に対応して増大する量を生成する。4から10の間の値は、患者が前立腺癌を有するという疑いを医師に抱かせる可能性があり、50を上回る量は、腫瘍が体の他の部分に広がったことを示す可能性がある。
【0005】
PSAまたは直腸診が、癌が存在するという強い可能性を示唆する場合は、前立腺をマッピングして疑わしい領域を示すために経直腸的直腸検査(TRUS)が用いられる。前立腺癌が存在するかどうかを判断するために、前立腺の様々な部分の生検が用いられる。治療の選択肢は、癌のステージに依存する。グリーソンスコアが低く、前立腺以外に腫瘍が広がっていない平均余命10年以下の男性は、慎重な経過観察(治療なし)を行うことで処置されることが多い。侵襲性がより高い癌に対する治療の選択肢には、前立腺が完全に除去される(神経温存手技を用いてまたは用いずに)根治的前立腺切除術(RP)等の外科的治療、および、体の外から前立腺に線量を当てる外照射によって、または癌細胞を局所的に死滅させるために前立腺の中に埋め込まれる低線量の放射性シードを用いて適用される放射線を含む。抗アンドロゲンホルモン療法も、単独で、または外科手術もしくは放射線照射とともに用いられる。ホルモン療法は、下垂体がテストステロン生成を刺激するホルモンを生成するのをブロックする、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH‐RH)類似体を用いる。患者は、LH‐RH類似体の注射を一生受け続けなければならない。
【0006】
外科的治療およびホルモン療法は局在型のPCaに対して有効であることが多いが、進行した疾患は本質的に依然として不治のままである。アンドロゲン除去は、進行したPCaに対する最も一般的な治療であり、アンドロゲン依存性悪性細胞の強力なアポトーシスおよび一時的な腫瘍退縮を引き起こす。しかしながら、大抵の場合、腫瘍は強烈な勢いを帯びて再び出現し、アンドロゲンシグナルと無関係に増殖する可能性がある。
【0007】
PSAスクリーニングの登場により、PCaの早期検出がもたらされ、PCa関連致死率が大幅に減少した。PSAスクリーニングは、現在のところ前立腺癌に対する唯一最良の試験であり、前立腺癌の診断において広く使用されているが、検出された癌が臨床的に有意な疾患の原因となるかどうかを決定する上で役には立たない。PSAは、確立された前立腺癌を有する患者の経過観察のための優れたマーカーではあるが、前立腺癌に罹患した男性の中には、正常なPSA値を有する場合もあり得る。PSA値の中程度の上昇(4〜10ng/mL)は前立腺癌に対する特異性が低く、PSA値の上昇は前立腺癌に特異的ではない。血清PSA値の上昇は、前立腺炎、前立腺梗塞、PIN、前立腺生検、経尿道的前立腺切除術、および尿道カテーテル留置とも関連している可能性がある。
【0008】
PSAスクリーニングの限界のために、PSA密度、加齢に関連したPSA値、TZ‐PSA密度、PSA速度、遊離型PSA値、複合型PSA(cPSA)測定値、および総PSAに対する遊離型PSAの比等の派生指標の使用を通して、その診断特異性を向上するための努力が行われてきた。総PSAに対する遊離型PSAの比は、結合型PSAおよび遊離型PSAの両方を総PSAのパーセンテージとして測定するものであり、特に、中程度に上昇した血清PSA値(4〜10ng/mL)を有する患者における、癌と良性病態との間の有用な付加的識別子である。この比は、最初の組織生検の結果が陰性である、中程度に上昇したPSA値を有する患者において、繰り返しの生検が適切であるかどうかを決定するためにも有用である。遊離型PSAのパーセンテージが低いほど、癌である可能性は高い。
【0009】
よって、PSAスクリーニングを補うためのさらなる血清および組織バイオマーカーの開発が必要とされる。
【発明の概要】
【0010】
患者における前立腺癌を同定するための方法であって、患者由来の前立腺細胞を含有する試料を提供する工程と、該前立腺細胞を含有する試料におけるSPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現を検出する工程と、該前立腺細胞を含有する試料におけるERGおよび/またはETV1の正常発現を検出する工程とを含み、該前立腺細胞を含有する試料におけるERGおよび/またはETV1の正常発現と比較したSPINK1の相互排他的な過剰発現を検出する工程により、該患者における前立腺癌が同定される、方法が提供される。一部の態様においては、上記検出工程は、SPINK1のRNAの過剰発現を検出する工程を含む。他の態様においては、上記検出工程は、SPINK1のタンパク質の過剰発現を検出する工程を含む。一部の態様においては、上記前立腺細胞を含有する試料は、前立腺組織、血液、尿、精液、前立腺分泌物または単離された前立腺細胞である。一部の態様においては、上記前立腺細胞を含有する試料におけるSPINK1の過剰発現を検出する工程は、該患者における浸潤性前立腺癌を同定する。一部の態様においては、上記前立腺細胞を含有する試料は根治的前立腺切除術後の患者に由来し、SPINK1の過剰発現により、該根治的前立腺切除術後の患者における前立腺癌の再発が同定される。
【0011】
患者における前立腺癌を同定するための方法であって、該患者由来の前立腺細胞を含有する試料を提供する工程と、該前立腺細胞を含有する試料において、(a)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、およびPCA3の正常発現と比較したPCA3の過剰発現、(b)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、およびGOLPH2の正常発現と比較したGOLPH2の過剰発現、(c)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、およびTMPRSS2:ERGの存在、(d)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、PCA3の正常発現と比較したPCA3の過剰発現、およびGOLPH2の正常発現と比較したGOLPH2の過剰発現、(e)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、PCA3の正常発現と比較したPCA3の過剰発現、およびTMPRSS2:ERGの存在、(f)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、GOLPH2の正常発現と比較したGOLPH2の過剰発現、およびTMPRSS2:ERGの存在、または(g)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、PCA3の正常発現と比較したPCA3の過剰発現、およびGOLPH2の正常発現と比較したGOLPH2の過剰発現、およびTMPRSS2:ERGの存在、を検出する工程とを含み、該前立腺細胞を含有する試料におけるSPINK1の過剰発現を検出する工程により、該患者における前立腺癌が同定される、方法がさらに提供される。一部の態様においては、上記検出工程は、SPINK1のRNAの過剰発現を検出する工程を含む。他の態様においては、上記検出工程は、SPINK1のタンパク質の過剰発現を検出する工程を含む。一部の態様においては、上記前立腺細胞を含有する試料は、前立腺組織、血液、尿、精液、前立腺分泌物または単離された前立腺細胞である。
【0012】
以下のうちの少なくとも1つを含む組成物がさらに提供される:(a)SPINK1のRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を有する第1のオリゴヌクレオチドプローブ、ERGのRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を有する第2のオリゴヌクレオチドプローブ、およびETV1のRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を有する第3のオリゴヌクレオチドプローブ;(b)第1の対のそれぞれの増幅オリゴヌクレオチドは、SPINK1のRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を有する前記第1の増幅オリゴヌクレオチド対、第2の対のそれぞれの増幅オリゴヌクレオチドは、ERGのRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を有する前記第2の増幅オリゴヌクレオチド対、それぞれの増幅オリゴヌクレオチドはETV1のRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を有する第3の増幅オリゴヌクレオチド対;または(c)SPINK1のタンパク質に特異的に結合する第1の抗体、ERGのタンパク質に特異的に結合する第2の抗体、およびETV1のタンパク質に特異的に結合する第3の抗体。
【0013】
以下のうちの少なくとも1つを含む組成物がさらになお提供される:(a)少なくとも2つのオリゴヌクレオチドプローブであって、(i)SPINK1のRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を有するオリゴヌクレオチドプローブと、(ii)PCA3のRNAもしくはcDNA、GOLPH2のRNAもしくはcDNA、またはキメラRNAの5'末端はTMPRSS2遺伝子から転写され、キメラRNAの3'末端ERG遺伝子から転写されるキメラRNAもしくはcDNAの接合部に特異的にハイブリダイズする配列を含む、少なくとももう1つのオリゴヌクレオチドプローブ;(b)少なくとも2対の増幅オリゴヌクレオチドであって、(i)それぞれの増幅オリゴヌクレオチドが、SPINK1のRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含む、1対の増幅オリゴヌクレオチドと、(ii)少なくとももう1対の増幅オリゴヌクレオチドであって、それぞれの増幅オリゴヌクレオチドが、PCA3のRNAもしくはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含むか、それぞれの増幅オリゴヌクレオチドが、GOLPH2のRNAもしくはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含むか、または、TMPRSS2遺伝子もしくはその対応するcDNAから転写されたキメラRNAの5'末端に特異的にハイブリダイズする配列を有する第1の増幅オリゴヌクレオチド、およびERG遺伝子もしくはその対応するcDNAから転写されたキメラRNAの3'末端に特異的にハイブリダイズする配列を有する第2の増幅オリゴヌクレオチドを含む、少なくとももう1対の増幅オリゴヌクレオチドと、を含む、少なくとも2対の増幅オリゴヌクレオチド;または(c)少なくとも2つの抗体であって、(i)SPINK1のタンパク質に特異的に結合する抗体と、(ii)少なくとももう1つの抗体であって、GOLPH2のタンパク質、ネイティブERGタンパク質、TMPRSS2遺伝子とERG遺伝子との融合によってコードされる、アミノ末端が切断されたERGのタンパク質、または、TMPRSS2遺伝子によってコードされたアミノ末端部と、ERG遺伝子によってコードされたカルボキシ末端部とを有するキメラタンパク質、に特異的に結合する、少なくとも2つの抗体。を含む、少なくとももう1つの抗体。
【0014】
さらなる態様を以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】前立腺癌におけるERGおよびETV1による相互排他的な異常値として、メタCOPAにより同定されたSPINK1を示す図である。a.遺伝子は、所定の3つのパーセンタイルのカットオフ値(75、90、95)のうちのいずれかで上位100位以内の異常値(COPAにより順位付けられる)を記録した試験の数によって順位付けされた。上位100位に位置付けされた場合、遺伝子は試験におけるそれらの平均COPA順位(平均順位)によってさらに順位付けされた。b.SPINK1が上位100位のCOPA異常値として順位付けられた2つの試験からの、SPINK1の発現ならびにERG対SPINK1およびETV1対SPINK1の発現の散布図を示す。両方の試験におけるすべての試料についてのERG対SPINK1(中央パネル)およびETV1対SPINK1(下パネル)の分散図を示す。
【図2】SPINK1の過剰発現が、ETS陰性前立腺癌の進行性サブセットを同定し、非侵襲的に検出され得ることを示す図である。a〜b.以前に蛍光インサイツハイブリダイゼーション法(FISH法)によりTMRPSS2‐ERGの状態について評価を行った組織マイクロアレイ上に免疫組織化学(IHC)を用いて、2つのコホート(ミシガン大学(University of Michigan(UM))およびスウェーディッシュウォッチフルウェイティング(Swedish Watchful Waiting(SWW))においてSPINK1発現を評価した。a.代表的なSPINK1陽性および陰性のコア、ならびにFISH法によるTMRPSS2‐ERGの再構成に陰性および陽性である同じコアからの細胞。c.SPINK1の発現およびTMRPSS2:ERGの状態、ならびに両方のコホートにおけるフィッシャーの正確確率検定p値を表す分割表。c〜e.SPINK1の異常値発現と切除術後の生化学的再発との関係。(c)GlinskyらによるDNAマイクロアレイデータセットからの異常値SPINK1発現、(d)UMおよび(e)メモリアルスローンケタリング癌センター(Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC))コホートからのSPINK1 IHC、ならびに切除術後の生化学的再発についてのカプランマイヤー分析。f.TMRPSS2:ERG陰性の前立腺癌に罹患した男性における、SPINK1の異常値発現の非侵襲的検出。SPINK1の異常値発現およびTMPRSS2:ERGの状態、ならびにフィッシャーの正確確率検定p値を表す分割表。
【図3】22RV1前立腺癌細胞におけるSPINK1のノックダウンが侵襲性を軽減することを示す図である。a〜b.図のように、良性の不死化前立腺細胞株RWPEをSPINK1またはLACZアデノウイルスに感染させ、修飾した基底膜を通して(a)増殖または(b)浸潤について分析した。c.SPINK1、ERGおよびETV1の異常値発現に対するqPCR。d〜f.SPINK1は22RV1細胞における浸潤を媒介する。(d)増殖および(e)浸潤について細胞を分析した。図のようにsiRNAで処理した浸潤細胞の顕微鏡写真をfに示す。(g)VCaP(TMPRSS2:ERG陽性)および(g)LNCaP(ETV1再構成陽性)前立腺癌細胞株を、図のようにトランスフェクション試薬単独で処理するか(未処理)、あるいは非標的核酸またはSPINK1、ETV1もしくはERGに対するsiRNAでトランスフェクトして、浸潤について分析した。
【図4】良性前立腺組織およびETS陽性前立腺癌において過剰発現を示すメタ異常値遺伝子(meta‐outlier genes)を示す図である。a.図1に記載される試料分類に従って、図に示す試験からの正規化発現単位(normalized expression units)におけるメタ異常値遺伝子ORM(4位に位置付けられた)およびNEB(7位に位置付けられた)の発現が示され、複数の良性試料における異常値発現を明らかにしている。b.3位に位置付けられたメタ異常値遺伝子GPR116の発現(左パネル)、ならびに複数の試料におけるGPR116とERGの同時異常値発現(co‐outlier expression)を示す、2つの試験においてプロファイリングされたすべての試料についてのGPR116対ERGの分散図(右パネル)。
【図5】良性前立腺組織と比較した前立腺癌におけるSPINK1の過剰発現、ならびにDNAマイクロアレイ試験におけるERGおよびETV1による相互排他的な過剰発現を示す図である。SPINK1の発現、ならびに異なる分類の前立腺組織をプロファイリングする5つの試験(a)および複数の癌試験の一部として前立腺癌をプロファイリングする2つの試験(b)について、SPINK1対ERGおよびSPINK1対ETV1(測定した場合)の分散図を図1と同様に示した。
【図6】良性前立腺組織と比較した前立腺癌におけるSPINK1の過剰発現、ならびにERGおよびETV1による相互排他的な過剰発現を示す図である。a.10の良性前立腺試料、54の局在型前立腺癌(PCa)および7の転移性(Met)PCa試料における、qPCRによるERG対SPINK1(左パネル)およびETV1対SPINK1(右パネル)の分散図。
【図7】22RV1細胞におけるSPINK1のノックダウンにより異なって発現された遺伝子のqPCRによる確認を示す図である。22RV1 siSPINK1細胞中で選択されたa)過剰発現およびb)低発現された遺伝子を、図のように定量PCRを用いて評価した。
【図8】複数の前立腺癌プロファイリング試験にわたってSPINK1との同時発現を示した遺伝子の同定を示す図である。
【図9】前立腺癌の尿バイオマーカー候補の特徴付けを示す図である。A〜C.針生検または前立腺切除術を受けた患者から得られた尿の全トランスクリプトーム増幅(WTA)cDNAの定量PCR(qPCR)。針生検陰性の患者または前立腺癌に罹患した患者におけるバイオマーカーの発現を示す。一変量解析で前立腺癌の有意な予測因子ではなかった遺伝子のΔCt値(表5参照)をAに示し、有意な予測因子であったΔCt値の発現をBおよびCに示す。D.前立腺癌の診断のための個々の変数の受信者動作特性(ROC)曲線。
【図10】前立腺癌の検出において、多重セットの尿バイオマーカーがPCA3単独よりも優れていることを示す図である。A.多変量回帰分析は、前立腺癌の有意な予測因子としてSPINK1、PCA3、GOLPH2およびTMPRSS2:ERGを含む多重モデルをもたらした(表5参照)。感受性と特異性との最大合計値を用いたROC曲線上のポイントが破線で示され、陽性および陰性の予測値(それぞれPPVおよびNPV)が示される。B.A同様であるが、但し、曲線の下の不偏領域を作成するためにLeave‐one‐out交差検定(LOOCV)ストラテジーが用いられた。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一般的説明
Oncomineデータベース(Rhodes et al.,Proc Natl Acad Sci USA 101,9309[2004];Rhodes et al.,Neoplasia 6,1[2004])に申請する際に、癌異常値のプロファイル解析(cancer outlier profile analysis(COPA))と称される方法論は、白血病におけるPBX1および多発性骨髄腫におけるCCND1を含むいくつかの既知の癌遺伝子を正確に同定した(Tomlins et al.,Science 310,644[2005])。加えて、COPAは、前立腺癌における候補癌遺伝子としてETSファミリー遺伝子を指定し、ERGまたはETV1およびアンドロゲンによって調節された遺伝子TMPRSS2に関与する反復性の染色体再構築の発見を促した(Tomlins et al.,[2005]、上記参照)。
【0017】
50〜70%の前立腺癌にはTMPRSS2−ETSの遺伝子融合が潜んでいるため、前立腺癌におけるさらなる候補癌遺伝子を同定するために実験が行われた。行われた実験では、7つの前立腺癌のプロファイリング試験に適用されたCOPAのメタ分析を使用して、前立腺癌における異常値発現の候補ならびにERGおよびETV1による相互排他的な過剰発現を分析した。2位に位置付けられたメタ異常値として同定されたSPINK1は、8つのデータセットにわたって両方の基準を満たした。SPINK1は、プロファイリングした325個の前立腺癌のうち50個に著しい過剰発現を示したが(15.4%)、56の良性前立腺組織試料のうちわずか1つに過剰発現を示したのみであった(1.8%)。プロファイリングした全部で325の前立腺癌試料において、SPINK1、ERGおよびETV1は相互排他的な異常値発現を示した。癌試料の分画におけるSPINK1の過剰発現を良性前立腺組織と比較して、SPINK1、ERGおよびETV1の相互排他的な異常値発現を定量PCRにより確認した。SPINK1を過剰発現する局在型前立腺癌の組織からの蛍光インサイツハイブリダイゼーションでは、遺伝子の再構成または増殖は明らかにはならず、転写の増加を通してSPINK1が上方制御されることを示唆した。これらの結果を合わせると、異なるアッセイ法、マイクロアレイプラットフォーム、臨床検査および試料コホートにわたって一貫して、TMPRSS2−ETS遺伝子が融合すること(ERGまたはETV1の過剰発現によって示唆される)なく、SPINK1が前立腺癌において排他的に過剰発現されることを実証した。
【0018】
さらなる実験により、SPINK1の異常値発現は、前立腺癌の再発(例えば、手術後に)における増加と相関していることが実証された。したがって、一部の態様においては、前立腺癌の再発の可能性を決定するために試料をスクリーニングする方法が提供される。再発の危険性が高い対象に、より積極的な治療または付加的療法を提供することができるようになる。反対に、再発の危険性が低いまたは高い再発の危険性はないと見なされる対象は、不必要な治療による副作用から逃れることができる。
【0019】
定義
本明細書に記載される開示および添付の特許請求の範囲に関する理解を深めるために、多数の用語およびフレーズを以下に定義する。
【0020】
本明細書において、「SPINK1の異常値発現」という用語は、通常認められる量(例えば、癌であると診断されていない対象における量)に対するSPINK1の核酸(例えばmRNA)またはタンパク質の発現の変化量を指す。一部の態様においては、正常値は、癌であると診断されていない1つ以上の個体からなる集団における平均値である。他の態様においては、正常値は診断されるべき個体の他の組織内で決定される。一部の態様においては、通常認められる(例えば、非癌性組織における)発現量と比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも75%、さらになお好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも100%、発現が変化する。発現量は、これらに限定されないが、本明細書に開示される方法(例えば、下記の実施例1)を含む任意の好適な方法を用いて決定され得る。一部の態様においては、SPINK1の異常値発現に陽性である試料は、その発現が正規化発現単位約0.1より大きく、好ましくは0.2より大きく、およびより好ましくは0.5より大きく異なる試料である。正規化発現単位は、これらに限定されないが、以下の実験の章に記載される方法を含む任意の好適な方法を用いて計算され得る。
【0021】
本明細書において、「SPINK1の過剰発現」という用語は、通常認められる量と比較して、SPINK1の核酸(例えば、mRNA)またはタンパク質の発現のより多い量を指す。一部の態様においては、通常認められる発現量と比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも75%、さらになお好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも100%発現が増加する。通常認められる発現量は、任意の数の好適なパラメーターを用いて決定することができる。例には、これらに限定されないが、非癌性前立腺における量(例えば、前立腺癌であると診断されていない複数の対象からの前立腺組織におけるSPINK1発現量の平均)、非癌性組織における量(例えば、前立腺癌であると診断されていない複数の対象からの非前立腺組織におけるSPINK1発現量の平均)、非癌性前立腺細胞株における量、または発現の相対量(例えば、同じ個体における経時的な量)を含む。発現量は、これらに限定されないが、本明細書に開示される方法を含む任意の好適な方法を用いて決定され得る。一部の態様においては、発現量は、既知の遺伝子の発現量(例えば、発現量または相対的な発現)と比較される。一部の態様においては、既知の遺伝子はPSAである。
【0022】
本明細書において、「前立腺癌の再発と関連した遺伝子発現」という用語は、原発性腫瘍の治療(例えば、外科手術)後の前立腺癌の再発(例えば、前立腺内または転移性)と関連した遺伝子発現プロファイル(例えば、SPINK1の異常値発現)を指す。一部の態様においては、前立腺癌の再発は、代表的な対象集団(例えば、「SPINK1の過剰発現」を欠く対象の大規模集団(例えば、1人以上、好ましくは100人以上、より好ましくは1000人以上およびさらにより好ましくは10,000人以上の対象)の平均)における再発のレベルと比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも75%、さらになお好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも100%増加する。
【0023】
本明細書において、「エピトープ」という用語は、特定の抗体と接触する抗原の一部を指す。
【0024】
宿主動物を免疫化するためにタンパク質またはタンパク質の断片が用いられる際、タンパク質の多数の領域が、タンパク質上の所与の領域または三次元構造(これらの領域または構造は「抗原決定基」という)に特異的に結合する抗体の産生を誘導する可能性がある。抗原決定基は、抗体への結合について無傷の抗原(すなわち、免疫反応を誘発するために用いられる「免疫原」)と競合する可能性がある。
【0025】
抗体とタンパク質またはペプチドとの相互作用に関して使用される場合、「特異的結合」および「特異的に結合する」という用語は、その相互作用がタンパク質上の特定の構造(すなわち、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味し、言い換えると、抗体は、タンパク質全般よりもむしろ特定のタンパク質構造を認識して結合しているということである。例えば、抗体がエピトープ「A」に特異的である場合、標識化された「A」および該抗体を含有する反応におけるエピトープA(または遊離型の、未標識のA)を含有するタンパク質の存在は、該抗体に結合される標識化されたAの量を減少させる。
【0026】
抗体とタンパク質またはペプチドとの相互作用に関して使用される場合、本明細書において、「非特異的結合」および「バックグラウンド結合」という用語は、特定の構造の存在に依存しない(すなわち、抗体は、エピトープ等の特定の構造よりもむしろタンパク質全般に結合している)相互作用を指す。
【0027】
本明細書において、「対象」という用語は、これらに限定されないが、特定の治療の受け手となるヒト、ヒト以外の霊長類、げっ歯類等を含む任意の動物(例えば、哺乳類)を指す。典型的には、「対象」および「患者」という用語は、本明細書におけるヒト対象に関して同義的に使用される。
【0028】
本明細書において、「癌を有する疑いのある対象」という用語は、癌を示す1つ以上の症状(例えば、顕著なしこりまたは腫瘤)を呈する対象、または癌についてスクリーニングされる(例えば、定期健診の際に)対象を指す。癌を有する疑いのある対象は、1つ以上の危険因子を有する可能性がある。癌を有する疑いのある対象は、通常は癌について検査されていない。しかしながら、「癌を有する疑いのある対象」は、初期診断(例えば、腫瘤またはPSA値の上昇を示すCTスキャン)を受けたが、癌のステージは未知である個体を包含する。この用語は、かつて癌に罹患した人々(例えば、寛解期にある個体)をさらに含む。
【0029】
本明細書において、「対象において癌を特徴付ける」という用語は、これらに限定されないが、良性の前癌性または癌性組織の存在、癌のステージ、および対象の予後を含む、対象における癌試料の1つ以上の特性の同定を指す。癌は、本明細書に開示される癌マーカーを含むが、これらに限定されない1つ以上の癌マーカー遺伝子の発現の同定によって特徴付けられ得る。
【0030】
本明細書において、「対象において前立腺組織を特徴付ける」という用語は、前立腺組織試料の1つ以上の特性(例えば、これらに限定されないが、癌性組織の存在、癌性になる見込みのある全癌性組織の存在、および転移する見込みのある癌性組織の存在を含む)の同定を指す。一部の態様においては、組織は、本明細書に開示される癌マーカーを含むが、これらに限定されない1つ以上の癌マーカー遺伝子の発現の同定によって特徴付けられる。
【0031】
本明細書において、「癌マーカー遺伝子」という用語は、単独または他の遺伝子と組み合わせた発現量が、癌または癌の予後と相関している遺伝子を指す。該相関関係は、遺伝子の発現の増加または減少のいずれかと関連している可能性がある。例えば、遺伝子の発現は癌を示す可能性があるか、または遺伝子の発現の欠如は癌患者における予後不良と相関している可能性がある。
【0032】
本明細書において、「癌マーカーの有無を特異的に検出する試薬」という用語は、1つ以上の癌マーカー(例えば、これらに限定されないが、本明細書に記載される癌マーカー)の発現を検出するために用いられる試薬を指す。好適な試薬の例には、これらに限定されないが、対象となる遺伝子と特異的にハイブリダイズすることができる核酸プローブ、対象となる遺伝子を特異的に増幅することができるPCRプライマー、および対象となる遺伝子によって発現されるタンパク質に特異的に結合することができる抗体が含まれる。その他の非限定例は、以下の説明および実施例に見ることができる。
【0033】
本明細書において、「当該対象において癌を検出するための当該キットを用いるための取扱説明書」という用語には、対象からの試料における癌の検出および特徴付けのためのキットに含まれる試薬を使用するための取扱説明書が含まれる。一部の態様においては、上記取扱説明書は、インビトロ診断薬の標識において米国食品医薬品局(FDA)から要求される、意図される使用の記述をさらに含む。
【0034】
本明細書において、「癌のステージ」という用語は、癌の進行レベルの定性的評価または定量的評価を指す。癌のステージを決定するために用いられる基準には、これらに限定されないが、腫瘍の大きさ、腫瘍が体の他の部分まで広がっているかどうか、および癌がどこに広がったか(例えば、体の同じ器官内もしくは領域内で、または別の器官まで)が含まれる。
【0035】
本明細書において、「予後を提供する」という用語は、癌の存在(例えば、本明細書に記載される診断方法によって決定される)が患者の将来的な健康(例えば、予測される罹患率または死亡率、癌になる確率、および転移の危険性)に及ぼす影響に関する情報を提供することを指す。
【0036】
本明細書において、「初期診断」という用語は、初期の癌診断の結果(例えば、癌性細胞の有無)を指す。初期診断には、前立腺特異抗原異常の危険性のある癌のステージについての情報は含まない。
【0037】
本明細書において、「生検組織」という用語は、その試料が癌性組織を含有するかどうかを決定する目的で対象から取り出された組織(例えば、前立腺組織)の試料を指す。一部の態様においては、対象が癌を有する疑いがあるので、生検組織を得る。その後、生検組織は癌の有無について検査(例えば、顕微鏡で)される。
【0038】
本明細書において、「ヒト以外の動物」という用語は、これらに限定されないが、げっ歯類、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、ウシ、反芻動物、ウサギ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、トリ等の脊椎動物を含む、ヒト以外のすべての動物を指す。
【0039】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド、前駆物質、またはRNA(例えば、rRNA、tRNA)の産生のために必要なコード配列を有する核酸(例えば、DNA)配列を指す。ポリペプチドは、全長または断片の望ましい活性または機能性(例えば、酵素活性、配位子結合、シグナル伝達、免疫原性等)が保持される限り、全長コード配列によっても、または該コード配列の任意の部分によっても、コードすることができる。この用語は、構造遺伝子のコード領域、ならびに5'および3'末端の両方で、それぞれの末端上で約1kb以上の距離にわたって隣接する配列も包含するので、該遺伝子は全長mRNAの長さに対応する。コード領域の5'末端に位置し、mRNA上に存在する配列は、5'非翻訳配列と称される。コード領域の3'末端または下流に位置し、mRNA上に存在する配列は、3'非翻訳配列と称される。「遺伝子」という用語は、遺伝子のcDNA形態およびゲノム形態の両方を包含する。遺伝子のゲノム形態またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と称される非コード配列によって妨害されるコード領域を含有する。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントであり、エンハンサー等の制御要素を含有する可能性がある。イントロンは、核転写または一次転写から除去または「スプライシング」されるため、イントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写には存在しない。mRNAは、翻訳中に、新生ポリペプチドにおけるアミノ酸の配列または順序を特定するために機能する。
【0040】
本明細書において、「異種遺伝子」という用語は、その天然環境に存在しない遺伝子を指す。例えば、異種遺伝子は、別の種に導入された1つの種からの遺伝子を含む。異種遺伝子は、何らかの形で変更された(例えば、突然変異した、複数の複製に加えられた、非ネイティブの制御配列に結合された等)有機体に対してネイティブな遺伝子も含む。異種遺伝子の配列は、典型的には、天然では染色体内の遺伝子配列と関連して存在しない、または天然には存在しない染色体の一部(例えば、通常は遺伝子が発現されない座位において発現される遺伝子)と関連しているDNA配列と連結しているという点で、異種遺伝子は内在性遺伝子と区別される。
【0041】
本明細書において、「遺伝子発現」という用語は、遺伝子内でコードされた遺伝子情報を、遺伝子の「転写」(すなわち、RNAポリメラーゼの酵素作用を介して)を通してRNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、またはsnRNA)に変換するプロセスを指し、またタンパク質コード遺伝子の場合は、mRNAの「翻訳」を通してタンパク質に変換するプロセスを指す。遺伝子発現は、該プロセスにおける多くの段階で制御することができる。「上方制御」または「活性化」とは、遺伝子発現産物(すなわち、RNAまたはタンパク質)の産生を増加させる制御のことを言い、「下方制御」または「抑制」とは、産生を減少させる制御のことを指す。上方制御または下方制御に関与する分子(例えば、転写因子)は、それぞれ「活性化因子」および「抑制因子」と称されることが多い。
【0042】
遺伝子のゲノム形態は、イントロンを含有することに加えて、RNA転写物上に存在する、配列の5'および3'末端の両方に位置する配列も含んでもよい。これらの配列は「隣接」配列または「隣接」領域と称される(これらの隣接配列は、mRNA転写物上に存在する非翻訳配列の5'または3'側に位置する)。5'隣接領域は、遺伝子の転写を制御する、または転写に影響を与えるプロモーターおよびエンハンサー等の制御配列を含有し得る。3'隣接領域は、転写の集結、転写後切断およびポリアデニル化を導く配列を含有し得る。
【0043】
本明細書において、「オリゴヌクレオチド」という用語は、長さの短い一本鎖ポリヌクレオチドを指す。オリゴヌクレオチドは、典型的には200残基長未満(例えば、15〜100)であるが、本明細書において使用されるこの用語は、それよりも長いポリヌクレオチド鎖も包含するものとする。オリゴヌクレオチドは、その長さを用いて参照されることが多い。例えば、24残基のオリゴヌクレオチドは、「24量体」と称される。オリゴヌクレオチドは、自己ハイブリダイズすることによって、または他のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることによって、2次および3次構造を形成することができる。かかる構造には、二重鎖、ヘアピン、十字型、屈曲、および三重鎖を含み得るが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書において、「相補的」または「相補性」という用語は、塩基対合則により関連づけられたポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチドの配列)に関して用いられる。例えば、配列「5'‐A‐G‐T‐3'」は配列「3'‐T‐C‐A‐5'」と相補的である。相補性は「部分的」であり得る、つまり、核酸の塩基のいくつかのみが塩基対合則に従って合致し得る。または、核酸の間に「完全な」もしくは「全体的な」相補性が存在し得る。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間におけるハイブリダイゼーションの効率および強度に多大な影響を及ぼす。これは、増幅反応において、また核酸間の結合に依存する検出方法において特に重要である。
【0045】
「相同性」という用語は、相補性の程度を指す。部分的な相同性または完全な相同性(すなわち同一性)が存在し得る。部分的に相同な配列は、完全に相補的な核酸分子が「実質的に相同」である標的核酸とハイブリダイズすることを、少なくとも部分的に阻害する核酸分子である。完全に相補的な配列の標的配列へのハイブリダイゼーションの阻害は、低ストリンジェント条件下において、ハイブリダイゼーションアッセイ(サザンブロットまたはノーザンブロット、溶液ハイブリダイゼーション等)を用いて調べることができる。実質的に相同な配列またはプローブは、低ストリンジェント条件下において、完全に相同な核酸分子と標的配列との結合(すなわちハイブリダイゼーション)について競合し、またその結合を阻害する。これは、低ストリンジェント条件が非特異的結合を可能にするということではない。低ストリンジェント条件は、2つの配列の相互の結合が特異的(すなわち選択的)な相互作用であることを必要とする。非特異的結合が存在しないことは、実質的に非相補的(例えば、約30%未満の同一性)である第2の標的の使用によって検証することができる。非特異的結合が存在しない場合には、プローブは第2の非相補的な標的とハイブリダイズしない。
【0046】
cDNAまたはゲノムのクローン等の二本鎖核酸配列に関して用いられる場合、「実質的に相同である」という用語は、上述の低ストリンジェント条件下で二本鎖核酸配列のいずれかまたは両方の鎖とハイブリダイズできる任意のプローブを指す。
【0047】
一本鎖核酸配列に関して用いられる場合、「実質的に相同である」という用語は、上述の低ストリンジェント条件下で一本鎖核酸配列とハイブリダイズできる(すなわち、その相補体である)任意のプローブを指す。
【0048】
本明細書において、「ハイブリダイゼーション」という用語は、相補的な核酸の対合に関して用いられる。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強度(すなわち、核酸間の会合の強度)は、核酸間の相補性の程度、関与する条件のストリンジェンシー、形成されるハイブリッドのT、および核酸内のG:C比等の要因による影響を受ける。その構造内に相補的な核酸の対合を含有する単一分子は、「自己ハイブリダイズした」と言われる。
【0049】
本明細書において、「Tm」という用語は、「融解温度」を指して用いられる。融解温度は、二本鎖核酸分子の集団の半分が一本鎖に解離する温度である。核酸のTmを算出するための方程式は、当該技術分野において既知である。標準的な参考文献に示されるように、核酸が1M Naclで水溶液中にある場合、T値の単純推定値は、方程式Tm=81.5+0.41(%G+C)により算出することができる(例えば、Anderson and Young,Quantitative Filter Hybridization,in Nucleic Acid Hybridization[1985]を参照)。その他の参考文献は、Tの算出のために構造的および配列的な特徴を考慮に入れた、より精巧な計算を含む。
【0050】
本明細書において、「ストリンジェント」という用語は、核酸ハイブリダイゼーションが行われる温度、イオン強度、および有機溶媒等の他の化合物の存在といった条件に関して用いられる。「低ストリンジェント条件」下において、対象となる核酸配列は、その完全な相補体、単一塩基のミスマッチを有する配列、密接に関連する配列(例えば、90%またはそれを上回る相同性を有する配列)、および部分的な相同性のみを有する配列(例えば、50〜90%の相同性を有する配列)とハイブリダイズする。「中程度のストリンジェント条件」下において、対象となる核酸配列は、その完全な相補体、単一塩基のミスマッチを有する配列、および密接に関連する配列(例えば、90%またはそれを上回る相同性)とハイブリダイズする。「高ストリンジェント条件」において、対象となる核酸配列は、その完全な相補体、および(温度等の条件に依存して)単一塩基のミスマッチを有する配列とのみハイブリダイズする。言い換えると、高ストリンジェントな条件下では、単一塩基のミスマッチを有する配列とのハイブリダイゼーションを除外するために温度を上昇させることができる。
【0051】
「高ストリンジェント条件」は、核酸ハイブリダイゼーションに関して用いられる場合、約500ヌクレオチド長のプローブを用いた際に、5×SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaH2PO4H2Oおよび1.85g/l EDTA、pHはNaOHで7.4に調整)、0.5%SDS、5×デンハルト試薬、および100μg/ml変性サケ精子DNAから構成される42℃の溶液中での結合またはハイブリダイゼーションの後に、0.1×SSPE、1.0%SDSを含む42℃の溶液中で洗浄することと同等な条件を含む。
【0052】
「中程度のストリンジェント条件」は、核酸ハイブリダイゼーションに関して用いられる場合、約500ヌクレオチド長のプローブを用いた際に、5×SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaH2PO4H2Oおよび1.85g/l EDTA、pHはNaOHで7.4に調整)、0.5%SDS、5×デンハルト試薬および100μg/ml変性サケ精子DNAから構成される42℃の溶液中での結合またはハイブリダイゼーションの後に、1.0×SSPE、1.0%SDSを含む42℃の溶液中で洗浄することと同等な条件を含む。
【0053】
「低ストリンジェント条件」は、約500ヌクレオチド長のプローブを用いた際に、5×SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaH2PO4H2Oおよび1.85g/l EDTA、pHはNaOHで7.4に調整)、0.1%SDS、5×デンハルト試薬[50×デンハルト試薬は、500ml当たり、5gフィコール(Ficoll)(400型、Pharamcia)、5gのBSA(第V画分、Sigma)を含む]および100μg/ml変性サケ精子DNAからなる42℃の溶液中での結合またはハイブリダイゼーションの後に、5×SSPE、0.1%SDSを含む42℃の溶液中で洗浄することと同等な条件を含む。
【0054】
当技術分野では、低ストリンジェント条件を構成するために様々な同等な条件が用いられ得ることは既知である。プローブの長さおよび性質(DNA、RNA、塩基組成物)ならびに標的の性質(DNA、RNA、塩基組成物、溶液中に存在する、または固定化されている等)ならびに塩および他の成分の濃度(例えば、ホルムアミド、デキストラン硫酸、ポリエチレングリコールの有無)等の要因を考慮して、上に挙げた条件とは異なるが同等である低ストリンジェントのハイブリダイゼーション条件を作り出すために、ハイブリダイゼーション溶液は変更され得る。さらに、高ストリンジェント条件下においてハイブリダイゼーションを促す条件(例えば、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄段階の温度を上昇させる、ハイブリダイゼーション溶液中においてホルムアミドを使用する等)も、当技術分野では既知である(「ストリンジェント」についての上記定義を参照のこと)。
【0055】
本明細書において、「プローブ」という用語は、精製された制限消化物として天然に存在するか、または組換えによってもしくはPCR増幅によって、人工的に産生されるかに関わらず、対象となる別のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部とハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチドの配列)を指す。プローブは、一本鎖または二本鎖であり得る。プローブは、特定の遺伝子配列の検出、同定、および単離において有用である。本明細書において用いられる任意のプローブは、これらに限定されないが、酵素(例えば、ELISA、および酵素に基づく組織化学アッセイ)、蛍光、放射性、および発光のシステムを含む、任意の検出システムにおいて検出可能であるように、任意の「レポーター分子」で標識されることが企図される。記載される方法は、いずれか特定の検出システムまたは標識に限定されることを意図するものではない。
【0056】
本明細書において、「部分」という用語は、ヌクレオチド配列に関する場合(「所与のヌクレオチド配列の一部分」というように)、その配列の断片を指す。断片は、4ヌクレオチドから、全ヌクレオチド配列から1ヌクレオチドを差し引いた(10ヌクレオチド、20、30、40、50、100、200ヌクレオチド等)範囲までのサイズであり得る。
【0057】
「アミノ酸配列」、および「ポリペプチド」または「タンパク質」等の用語は、アミノ酸配列を、詳述するタンパク質分子と関連した、完全なネイティブアミノ酸配列に限定することを意味するものではない。
【0058】
「ネイティブタンパク質」という用語は、本明細書で用いられる場合、タンパク質がベクター配列によってコードされるアミノ酸残基を含有しないことを意味し、つまり、ネイティブタンパク質は、天然に存在するタンパク質に見られるアミノ酸のみを含有することを意味する。ネイティブタンパク質は、組換え手段を用いて産生され得る、または天然に存在する源から単離され得る。
【0059】
本明細書において、「部分」という用語は、タンパク質に関する場合(「所与のタンパク質の部分」というように)、そのタンパク質の断片を指す。断片は、4個のアミノ酸残基から、全アミノ酸配列から1個のアミノ酸を差し引いた大きさまでの範囲であり得る。
【0060】
「過剰発現」および「過剰発現する」という用語ならびに文法的な相当語句は、対照または非トランスジェニック動物における所与の組織中で観察される量よりも約3倍高い(またはそれを上回る)発現量を示すためのmRNAの量に関して用いられる。mRNAの量は、ノーザンブロット分析を含むがこれに限定されない、当業者に既知である多くの手法のいずれかを用いて測定される。ノーザンブロットには、分析する各組織からローディングされたRNAの量の違いについての対照とするために適切な対照が含まれる(例えば、すべての組織中に本質的に同じ量で豊富に存在するRNA転写物である28S rRNAの各試料中の量を、ノーザンブロット上で観察されるmRNA特異的シグナルを正規化または標準化する手段として用いることができる)。正確にスプライシングされた導入遺伝子のRNAの大きさに対応するバンド中に存在するmRNAの量は定量化されるが、導入遺伝子プローブとハイブリダイズする他の微量なRNA種は、導入遺伝子mRNAの発現の定量化には考慮されない。
【0061】
本明細書において、「インビトロ」という用語は、人工環境および人工環境内で発生するプロセスまたは反応を指す。インビトロ環境は、これらに限定されないが、試験管および細胞培養物から構成され得る。「インビボ」という用語は、自然環境(例えば、動物または細胞)および自然環境内で発生するプロセスまたは反応を指す。
【0062】
「試験化合物」および「候補化合物」という用語は、疾患、疾病、病気、または身体機能の障害(例えば、癌)を治療または予防するための使用の候補である、任意の化学物質、医薬品、薬物等を指す。試験化合物は、既知の治療化合物および潜在的な治療化合物の両方を含む。試験化合物は、本明細書に開示されるスクリーニング法を用いてスクリーニングすることにより、治療的であると決定することができる。一部の態様においては、試験化合物はアンチセンス化合物を含む。
【0063】
本明細書において、「試料」という用語は、その最も広義で用いられる。1つの意味において、それは任意の源から得られた検体または培養物、ならびに生物学的および環境的試料を含むことを意味する。生物学的試料は、動物(ヒトを含む)から得ることができ、また液体、固体、組織、および気体を包含する。生物学的試料は、血漿、血清等の血液製剤を含む。環境的試料は、表面物質、土壌、水、水晶のような環境的材料および産業的試料を含む。しかしながら、かかる例は、本発明に記載される組成物および方法に適用可能な試料の種類を限定するものと解釈されるべきではない。
【0064】
本明細書において、「前立腺試料」という用語は、前立腺細胞または分泌物を含有する任意の試料を指す。前立腺試料の例は、これらに限定されないが、前立腺組織試料(例えば、生検試料)または尿試料を含む。
【0065】
本明細書において、「検出する」、「検出している」、または「検出」という用語は、検出可能に標識された組成物の発見または識別または特異的観察の一般的な行為のいずれかを説明する可能性がある。
【0066】
本明細書において、「siRNA」という用語は、短い干渉RNAを指す。一部の態様においては、siRNAは約18〜25ヌクレオチド長の二重鎖または二本鎖領域を含み、しばしば、siRNAは、各鎖の3'末端に約2個から4個までの不対ヌクレオチドを含む。siRNAの二重鎖または二本鎖領域の少なくとも1つの鎖は、標的RNA分子と実質的に相同的であるか、または実質的に相補的である。標的RNA分子に相補的な鎖は「アンチセンス」鎖である。標的RNA分子に相同的な鎖は「センス」鎖であり、siRNAアンチセンス鎖に相補的でもある。またsiRNAは、付加的な配列を含み得る。かかる配列の非限定的例は、連結配列またはループ、ならびにステムおよび他の折り畳み構造を含む。siRNAは、無脊椎動物および脊椎動物においてRNA干渉を引き起こす際に、ならびに植物において転写後遺伝子サイレンシング中の配列特異的RNA分解を引き起こす際に、重要な中間体として機能すると考えられる。
【0067】
「RNA干渉」または「RNAi」という用語は、siRNAによる遺伝子発現のサイレンシングまたは減少を指す。それは配列特異的な、動物および植物における転写後の遺伝子サイレンシングのプロセスであり、発現停止させた遺伝子の配列と二重鎖領域において相同であるsiRNAによって開始される。遺伝子は、有機体に内在性または外来性であり得、染色体内に組み込まれて存在するか、またはゲノムに組み込まれていないトランスフェクションベクター内に存在し得る。遺伝子の発現は、完全にまたは部分的に阻害される。RNAiも、標的RNAの機能を阻害すると考えられ得る(標的RNAの機能は完全または部分的になる可能性がある)。
【0068】
発明の詳細な説明
癌マーカーを含むがこれに限定されない、癌の研究、診断、および治療のための組成物および方法を記載する。特に、SPINK1および前立腺癌のための他のマーカーを提供する。したがって、マーカーの検出のための方法およびキット、ならびに薬剤スクリーニング、治療への応用を提供する。
【0069】
I.前立腺癌マーカー
癌性前立腺組織において、発現が特異的に変化するマーカーを提供する。このようなマーカーは、前立腺癌の診断および特性化に使用を見出す。例えば、本明細書に記載される実験では、前立腺癌において過剰発現するSPINK1を同定した。加えて、SPINK1、ERGおよびETV1は、相互排他的な異常値発現を示した。さらなる実験では、SPINK1、PCA3、GOLPH2およびTMPRSS2:ERG融合を含む前立腺癌に関連する遺伝子発現の検出のための多重パネルアッセイを同定した。
【0070】
A.SPINK1
SPINK1(セリンペプチダーゼ阻害剤、Kazal型1)のcDNA配列は、Genbankアクセッション番号NM_003122.2に提供される。PSTIまたはTATIとしても知られている、SPINK1によってコードされるペプチドは、本来は、ウシ膵臓およびヒト膵液から単離され、その正常機能は、膵臓におけるトリプシンの阻害であると考えられる(Haverback et al.,Am J Med 29,421−33(1960);Kazal et al.,Journal of the American Chemical Society 70,3034−3040(1948);Paju et al.,Crit Rev Clin Lab Sci 43,103−42(2006);Greene et al.,Methods Enzymol 45,813−25(1976))。SPINK1 mRNAおよびタンパク質は、様々な良性および癌組織において検出されているが、前立腺におけるその発現は記載されていない(Paju and Stenman,Crit Rev Clin Lab Sci 43,103−42(2006),Stenman,Clin Chem 48,1206−9(2002)にて概説)。SPINK1は、23のアミノ酸シグナルペプチドを有する79のアミノ酸ペプチドをコード化し、健常な個体の尿および血清において検出可能である(Paju and Stenman、上記参照)。重度の炎症および膵臓炎中、大いに上昇するのに加えて、SPINK1の血中濃度は、膵臓、胃、肝臓、肺、乳癌、膀胱、腎、頭頸部、結腸直腸、腎臓および卵巣癌を含む、多数の癌において異常調整され得る(Paju and Stenman(上記参照)、Stenman(上記参照)にて概説)。結論として、バイオインフォマティクス的アプローチを用いて、本試験は、TMPRSS2−ETSの陰性前立腺癌のサブセットにおけるSPINK1の著しい過剰発現を同定し、qPCRを用いてこれらの結果を確認した。これらの結果は、総合してSPINK1の過剰発現が、前立腺癌増殖に関与する、ならびに前立腺癌の分子サブタイプのためのバイオマーカーとして役立つことが示される。
【0071】
B.ERG
ERG(NM_004449)は、他の正常ヒト組織に対して前立腺上皮において高度に発現することが実証されている。ERG遺伝子は、染色体21に位置している。この遺伝子は、短腕の末端から38,675,671〜38,955,488の塩基対に位置している。ERG遺伝子は、279,817の全塩基対(マイナス鎖配向)である。対応するERG cDNAおよびタンパク質配列は、それぞれ、GenBankアクセッション番号M17254およびGenBankアクセッション番号NP04440(Swissタンパク質アクセッション番号P11308)で示される。
【0072】
C.ETV1
ETV1遺伝子は、染色体7(GenBankアクセッション番号 NC_000007.11、NC_086703.11、およびNT_007819.15)に位置している。この遺伝子は、短腕の末端から13,708330〜13,803,555の塩基対に位置している。ETV1遺伝子は、95,225の全塩基対(マイナス鎖配向)である。対応するETV1 cDNAおよびタンパク質配列は、それぞれ、GenBankアクセッション番号 NM_004956およびNP_004947(Swissタンパク質アクセッション番号P50549)で示される。
【0073】
D.PCA3
DD3(Bussemakers、国際公開第WO 98/45420号、Schalken,Eur.Urol.34(suppl.3):3−6(1998),Bussemakers et al.,Cancer Res. 59:5975−5979(1999)、およびBussemakers,Eur.Urol.35:408−412(1999))としても知られている、PCA3のための遺伝子は、染色体9、さらに正確には、領域9q21−22に位置している。これは4つのエクソンからなり、選択的スプライシングと選択的ポリアデニル化の両方によって、大きさが異なる転写を生じる。RT−PCRによって、PCA3dd3発現は、前立腺組織に限定され、睾丸、精嚢、卵巣、胎盤、および膀胱を含む、試験したすべての他の組織には存在しないことが認められた。加えて、ノーザンブロット分析では、PCA3dd3は、検査した前立腺癌の大部分(50のうち47)に高度に発現したのに対し、同一の患者からのBPHまたは正常な前立腺細胞において、全くない、または非常に低い発現を検出したことを示した。正常またはBPH組織と比較して、前立腺癌においては、PCA3dd3の少なくとも20倍の過剰発現がある。PCA3dd3発現は、腫瘍悪性度とともに増加すると考えられ、転移病巣において検出される。
【0074】
PCA3は、ノーザンブロット上で観察される大きさが異なる転写、および同定された異なる型のクローンによって証明されるように、有意な選択的スプライシング(ならびに選択的ポリアデニル化)が生じる遺伝子である。実質的には、エクソンのすべての組み合わせが可能である。
【0075】
80の分析されたcDNAクローンから、少なくとも4つの異なる転写物が、選択的スプライシングまたは選択的ポリアデニル化の故に、存在することが示された(例えば、米国特許第7,008,765号、国際公開第WO05/003387A2号、米国特許第7,138,235、およびde Kok et al.,Cancer Res 2002;62:2695−8を参照されたい。これらのそれぞれは、参照することにより本明細書に組み込まれる)。cDNAクローンと比較した、ゲノムのクローンの配列分析は、PCA3遺伝子のゲノム構造を明らかにした。3つのイントロンおよび4つのエクソンが存在する。第1のイントロンは、約20kbの長さである。
【0076】
第1のcDNA種は、約5%のcDNAクローンに認められ、エクソン1、2、3、4aおよび4b(4b後のポリアデニル化は、実際のコンセンサスのポリA付加シグナルにより開始される)を含む。
【0077】
クローン化された約15%のcDNAに認められる、第2のcDNA種は、エクソン1、3、4a、4bおよび4cを含み、第2のエクソン(本cDNAに存在せず)の選択的スプライシングによって発生し、異なる(実際のコンセンサス)ポリA付加シグナルで終了する。
【0078】
第3のcDNA種は、エクソン1、3、4aおよび4bを含み、認められる最も一般的なものである(80のクローンのうちの約65%)(図1)。本cDNAは、ノーザンブロット分析によって見られる最も顕著な転写に最も関与する。
【0079】
検出された第4のcDNA種は、エクソン1、3、およびクローンのうちの約15%を示す4aを含み、4a後に終了するが、これは本来のDD3クローン先端部位である。ここで示すポリA付加シグナルは、コンセンサス配列に近い。
【0080】
E.GOLPH2
GOLPH2(GP73)は、肝臓癌に関連するB型肝炎の糖タンパク質マーカーである(Block et al.,(2005)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,102,779−784)。GP73は、ウイルス性肝炎に罹患した患者の肝細胞において高いレベルで発現されるII型ゴルジ膜貫通タンパク質である(Kladney,et al.,2000,Gene249,53−65)。GP73は、胆管上皮細胞に構成的に発現され、正常な肝細胞に最小限に発現される。対照的に、巨細胞性肝炎に罹患した患者の肝臓は、多核化肝細胞において、GP73に強い免疫活性を示す。GP73 mRNAおよびタンパク質は、アデノウイルスを含む、ウイルスで感染した後、高度に分化したHepG2ヘパトーマ細胞に発現される。GP73は、ゴルジ膜貫通タンパク質であるため、損傷または病的肝臓を有する対象であっても、血清中に有意な量で存在することは期待されない。
【0081】
全臓器におけるGP73の値の有意な増加は、ウイルス性の原因(HBV、HCV)または非ウイルス性の原因(アルコール性肝疾患、自己免疫性肝炎)に起因して、肝疾患に認められている(Kladney, et al.,2002,Hepatology 35(6):1431−40)。GP73の肝細胞発現は、病因論に関わらず、病的肝臓では制御されていないのに対し、胆管上皮細胞発現は、感知できるほど変化しない。Gp73は、肝細胞癌のためのマーカーとして使用されている(米国第20050112711号(その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる))。
【0082】
F.TMPRSS2:ERG
TMPRSS2:ERGおよび前立腺癌の他の遺伝子融合マーカーは、米国公開第US20070212702 A1号に記載される(その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)。TMPRSS2(NM_005656)は、他の正常ヒト組織に対して前立腺上皮において高度に発現することが実証されている(Lin et al.,Cancer Research 59:4180(1999))。TMPRSS2遺伝子は、染色体21に位置している。この遺伝子は、短腕の末端から41,750,797〜41,801,948の塩基対に位置している(51,151の全塩基対(マイナス鎖配向))。ヒトTMPRSS2タンパク質配列は、GenBankアクセッション番号AAC51784(Swissタンパク質アクセッション番号O15393)及びGenBankアクセッション番号U75329で対応するcDNAに見ることができる(Paoloni−Giacobino,et al.,Genomics 44:309(1997)も参照されたい)。
【0083】
II.抗体
SPINK1、またはその断片、誘導体、および類似体を含む、他の癌マーカーポリペプチドは、診断および治療への応用に有用な抗体を産生するための免疫原として使用され得る。このような抗体は、ポリクローナル、またはモノクローナル、キメラ、ヒト化、一本鎖またはFab断片であり得、標識または非標識され得、これらのすべては、既知の手順および標準的な実験室規範を用いて産生され得る。例えば、Burns, ed., Immunochemical Protocols,3rd ed.,Humana Press (2005)、 Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory(1988)、Kozbor et al.,Immunology Today 4: 72(1983)、Ko¨hler and Milstein,Nature 256:495(1975)を参照されたい。
【0084】
一部の態様においては、組成物および方法は、市販の抗体を利用する。SPINK1に対する抗体は、例えば、テキサス州サンアントニオ(San Antonio、Tx)所在のGeneTex、コロラド州リトルトン(Littleton、CO)所在のNovus Biologicals、カリフォルニア州サンタクルーズ(Santa Cruz、California)所在のSanta Cruz Biotechnology、および台湾台北市(Taipei City、Taiwan)所在のAbnova Corporationから入手可能である。SLC22A3に対する抗体は、例えば、台湾台北市(Taipei City、Taiwan)所在のAbnova Corporationから入手可能である。
【0085】
III.診断への応用
一部の態様においては、癌マーカー(例えば、SPINK1)の発現の検出するための方法を提供する。一部の態様においては、検出方法は、(例えば、正常前立腺組織における癌マーカーの値と比較して)検出された癌マーカーの値を測定する。
【0086】
一部の態様においては、発現は、直接測定される(例えば、RNAまたはタンパク質値において)。一部の態様においては、発現は、組織試料(例えば、生検組織)において検出される。他の態様においては、発現は、体液(例えば、血漿、血清、全血、粘液、および尿を含むが、これらに限定されない)において検出される。ある態様においては、癌マーカーの存在は、対象に予後を提供するために使用される。例えば、SPINK1の過剰発現の検出は、前立腺癌と関連した遺伝子発現を示し、SPINK1の異常値発現は、対象における前立腺癌再発と関連する。提供された情報はまた、治療過程を選択するためにも使用される。例えば、対象が高度に転移している腫瘍を示すマーカーを有することが認められる場合、付加的療法(例えば、ホルモンまたは放射線療法)は、有効である可能性が高い場合、早期(例えば、転移前)に開始され得る。加えて、対象がホルモン療法に反応しない腫瘍を有することが認められる場合、このような療法の費用および不都合を避けることができる。
【0087】
本明細書に記載される癌マーカー(例えば、SPINK1)は、多重またはパネル形式において、他のマーカーとともに検出され得る。マーカーは、単独、またはSPINK1と組み合わせて、予測値のために選択される。例示的な一態様においては、2つ以上のSPINK1、PCA3、GOLPH2、およびTMPRSS2:ERGを多重アッセイにおいて検出する。他の例示的な前立腺癌マーカーは、AMACR/P504S(米国特許第6,262,245号)、PCA3(米国特許第7,008,765号)、PCGEM1(米国特許第6,828,429号)、プロステイン/P501S、P503S、P504S、P509S、P510S、プロスターゼ(prostase)/P703P、P710P(米国公開第20030185830号)、および米国特許第5,854,206号および同第6,034,218号、ならびに米国公開第20030175736号に記載されるものを含むが、これらに限定されず、これらのそれぞれは、その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる。他の癌、疾病、感染、および代謝状態のためのマーカーはまた、パネル形式の多重に含まれることが考慮される。
【0088】
本明細書に記載される診断方法はまた、特定の癌マーカーを、疾患のステージ、悪性度、もしくは進行、または転移の存在もしくは可能性と相関するデータを参照して修正され得る。最終的に、本明細書に記載される方法によって提供される情報は、特定の患者のための最良の治療過程を選択する上で、医師の役に立つであろう。
【0089】
A.試料
癌マーカーを含む疑いのあるいかなる患者の試料も、本明細書に記載される方法に従い、試験され得る。非限定例として、該試料は、組織(例えば、前立腺生検試料または前立腺切除術によって得られた組織試料)、血液、尿、精液、前立腺分泌物、またはその部分(例えば、血漿、血清、尿上清、尿細胞ペレットまたは前立腺細胞)であり得る。尿試料は、前立腺からの前立腺細胞を尿路に流す、細心の直腸診(DRE)の直後に採取されることが好ましい。
【0090】
患者の試料は、典型的には、遺伝子融合、または遺伝子融合を含む細胞のための試料を単離する、または濃縮するように設計された予備処理を必要とする。遠心分離、免疫捕捉、細胞溶解、および核酸標的捕捉を含むが、これらに限定されない、当業者に既知である様々な手法が、本目的のために使用され得る(例えば、欧州特許第EP1 409 727号(その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0091】
B.DNAおよびRNA検出
本明細書に記載される癌マーカーは、核酸配列分析、核酸ハイブリダイゼーション、および核酸増幅を含むが、これらに限定されない、当業者に既知の様々な核酸手法を使用して、RNAとして検出され得る。
【0092】
1.配列分析
核酸配列分析法の例示的な非限定例は、チェーンターミネーター(chain terminator)(Sanger)配列分析およびダイターミネーター(dye terminator)配列分析を含むが、これらに限定されない。当業者は、RNAが細胞中で不安定であり、実験的にさらにヌクレアーゼ攻撃される傾向があるため、RNAは、通常、配列分析される前に、DNAに逆転写されることを理解されるであろう。
【0093】
チェーンターミネーター配列分析は、修飾ヌクレオチド基質を用いて、DNA合成反応の配列特異的な停止反応を使用する。伸長は、短放射性、またはその領域で鋳型に相補的な他の標識された、オリゴヌクレオチドプライマーを使用することによって、鋳型DNA上の特異的部位で開始される。オリゴヌクレオチドプライマーは、DNAポリメラーゼ、標準的な4つのデオキシヌクレオチド塩基、および低濃度のある連鎖停止ヌクレオチド、最も一般的には、ジデオキシヌクレオチドを用いて、伸長される。本反応は、ジデオキシヌクレオチドとして順番に塩基のそれぞれを伴い、4つの別々の管中で繰り返し行われる。DNAポリメラーゼによって連鎖停止ヌクレオチドの限定された取り込みは、特定のジデオキシヌクレオチドを使用する位置でのみ停止反応する一連の関連したDNA断片をもたらす。それぞれの反応管に関しては、断片は、スラブポリアクリルアミドゲルまたは粘性ポリマーで充填された毛細管中の電気泳動法によってサイズ分離される。配列は、ゲルの上部から下部をスキャンする際、どのレーンが、標識されたプライマーから視覚的指標を生成するかを読み取ることによって決定される。
【0094】
ダイターミネーター配列分析は、代替として、ターミネーターを標識化する。完全配列分析は、異なる波長で蛍光染色する、別々の蛍光染料を用いて、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーターのそれぞれを標識化することによって、単一反応において行われ得る。
【0095】
2.ハイブリダイゼーション
核酸ハイブリダイゼーションの例示的な非限定例は、インサイツハイブリダイゼーション法(ISH)、マイクロアレイ、およびサザンブロットまたはノーザンブロットを含むが、これらに限定されない。
【0096】
インサイツハイブリダイゼーション法(ISH)は、組織(インサイツ)の一部または部分、または該組織が十分に小さい場合、全組織(ホールマウントISH)において、特定DNAまたはRNA配列を局在するプローブとして標識された相補的DNAまたはRNA鎖を使用するハイブリダイゼーション型である。DNA ISHは、染色体の構造を決定するために使用することができる。RNA ISHは、mRNAおよび組織部分またはホールマウント内の他の転写物を測定し、局在するために使用される。試料細胞および組織は、通常、適所に標的転写物を固定し、プローブのアクセスを増大するために処理される。該プローブは、高温で標的配列をハイブリダイズし、その後、過剰プローブを流失する。放射性、蛍光、あるいは抗原標識された塩基のいずれかで標識されたプローブは、それぞれ、オートラジオグラフィー、蛍光顕微鏡検査法、あるいは免疫組織化学を用いて、組織中で局在化および定量化される。ISHはまた、2つ以上の転写物を同時に検出するために、放射能で標識された、または他の非放射性標識の2つ以上のプローブを使用することもできる。
【0097】
2.1 FISH
一部の態様においては、癌マーカー配列は、蛍光インサイツハイブリダイゼーション法(FISH)を用いて検出される。好ましいFISHアッセイは、細胞人工染色体(BAC)を利用する。これらは、ヒトゲノム配列決定において広範に使用されている(Nature 409:953−958(2001)を参照)、特定のBACを含むクローンは、販売業者を通して入手でき、多くの供給源、例えば、NCBIを通して位置され得る。ヒトゲノムからのそれぞれのBACクローンは、それを疑いなく同定する参照名を与えられている。これらの名を使用して、対応するGenBank配列を見つけ、販売業者からクローンの複製を注文することができる。
【0098】
ヒト前立腺細胞、ヒト前立腺組織、または該ヒト前立腺細胞またはヒト前立腺組織を取り囲む液体におけるFISHアッセイを実施する方法をさらに提供する。
【0099】
特定のプロトコルは、当技術分野において既知であり、使用のために容易に適応することができる。方法論に関する手引は、In situ Hybridization: Medical Applications(eds. G. R. Coulton and J. de Belleroche), Kluwer Academic Publishers, Boston(1992)、In situ Hybridization: In Neurobiology、Advances in Methodology(eds. J.H.Eberwine,K. L.Valentino,and J. D.Barchas), Oxford University Press Inc.,England(1994)、In situ Hybridization: A Practical Approach(eds. D.G.Wilkinson),Oxford University Press Inc.,England(1992))、Kuo,et al.,Am.J.Hum.Genet.49:112−119(1991)、Klinger,et al.,Am.J.Hum.Genet.51:55−65(1992)、およびWard,et al.,Am.J.Hum.Genet. 52:854−865(1993))等を含む、多くの参考文献から得ることができる。FISHアッセイ(例えば、メリーランド州ゲイサーズバーク(Gaithersburg、MD)所在のOncor,Inc.から入手可能)を実施するためのプロトコルを提供する市販のキットもある。方法論における手引を提供する特許は、米国特許第5,225,326号、同第5,545,524号、同第6,121,489号および同第6,573,043号を含む。これらの参照のすべては、本明細書によって、それらの全体において参照することにより組み込まれ、当技術分野において類似の参照、および本明細書の実施例部分に提供される情報と共に、使用され、特定の実験室にとって好都合の手順の工程を構築する。
【0100】
2.2 マイクロアレイ
異なる種類の生物学的アッセイは、マイクロアレイと称され、DNAマイクロアレイ(例えば、cDNAマイクロアレイおよびオリゴヌクレオチドマイクロアレイ)、タンパク質マイクロアレイ、組織マイクロアレイ、トランスフェクションまたは細胞マイクロアレイ、化合物マイクロアレイ、および抗体マイクロアレイを含むが、これらに限定されない。遺伝子チップ、DNAチップ、またはバイオチップとして一般に知られている、DNAマイクロアレイは、発現プロファイリングまたは何千もの遺伝子の発現量を同時に観察するために、アレイを形成する固体表面(例えば、ガラス、プラスチック、またはシリコンチップ)に付着させる顕微鏡的DNAスポットの集合である。付加されたDNAセグメントは、プローブとして知られ、何千ものプローブを、単一DNAマイクロアレイに使用することができる。マイクロアレイを、疾患細胞および正常細胞において遺伝子発現と比較することによって、疾患遺伝子を同定するために使用することができる。マイクロアレイは、ガラス板に極細ピンを用いた印刷、既製マスクを用いたフォトリソグラフィー、動的マイクロミラーデバイスを用いたフォトリソグラフィー、インクジェット印刷、または微小電極アレイにおける電気化学を含むが、これらに限定されない、様々な手法を用いて製造することができる。
【0101】
サザンおよびノーザンブロット法は、それぞれ、特定のDNAまたはRNA配列を検出するために使用される。試料から抽出されたDNAまたはRNAを、断片化し、マトリックスゲル上で電気泳動的に分離し、薄膜フィルターに移す。フィルターに結合されたDNAまたはRNAは、対象となる配列に相補的である標識されたプローブでハイブリダイゼーションされる。フィルターに結合したハイブリダイズしたプローブを検出する。手順の変形は、逆ノーザンブロット法であり、膜に付加される基質核酸が、単離したDNA断片の集合であり、該プローブは、組織から抽出され、標識されたRNAである。
【0102】
3.増幅
癌マーカーゲノムDNAおよびmRNAは、検出前または検出と同時に増幅され得る。核酸増幅法の例示的な非限定例は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、転写媒介増幅法(TMA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換型増幅法(SDA)、および核酸配列増幅法(NASBA)を含むが、これらに限定されない。当業者は、ある種の増幅法(例えば、PCR)は、増幅前に、RNAが、DNAに逆転写されること(例えば、RT−PCR)を必要とするのに対し、他の増幅法は、RNAを直接増幅する(例えば、TMAおよびNASBA)ことを理解するであろう。
【0103】
ポリメラーゼ連鎖反応(米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号、同第4,800,159号、および同第4,965,188号、これらのそれぞれは、その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)は、一般的に、PCRと称され、変性の多重サイクル、反対の鎖にプライマー対をアニーリング、プライマー伸長を使用して、標的核酸配列の複製数を指数関数的に増加させる。RT−PCRと称する変形において、逆転写酵素(RT)を使用して、mRNAから相補的DNA(cDNA)を作製し、cDNAは、その後、DNAの複数の複製を産生するためにPCRによって増幅される。PCRの他の様々な置換に関しては、例えば、米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号、および同第4,800,159号;Mullis et al.,Meth. Enzymol.155: 335(1987);およびMurakawa et al.,DNA 7: 287(1988)を参照し、これらのそれぞれは、その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0104】
転写媒介増幅法(米国特許第5,480,784号および同第5,399,491号(これらのそれぞれは、その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる))は、一般的に、TMAと称され、標的配列の複数のRNA複製が自触媒的に追加の複製を生成する、実質的に一定温度、イオン強度、およびpHの条件下で、自触媒的に標的核酸配列の複数の複製を合成する。例えば、それぞれが、その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる、米国特許第5,399,491号および同第5,824,518号を参照されたい。米国公開第20060046265号(その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)に記載される変形においては、TMAは、遮断部分、停止部分、ならびにTMAプロセスの感度および精度を改善するための他の修飾部分の使用を任意に組み込む。
【0105】
リガーゼ連鎖反応(Weiss,R.,Science 254:1292(1991)、その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)は、一般的に、LCRと称し、標的核酸の隣接領域にハイブリダイズする2セットの相補的DNAオリゴヌクレオチドを使用する。DNAオリゴヌクレオチドは、検出可能な二本鎖結紮オリゴヌクレオチド産物を産生するために、熱変性、ハイブリダイゼーション、結紮の繰り返しサイクルにおけるDNAリガーゼによって共有結合される。
【0106】
鎖置換型増幅法(Walker,G. et al.,Proc.Natl.Acad.Sci. USA 89:392−396(1992);米国特許第5,270,184号および同第5,455,166号(これらのそれぞれは、その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる))は、一般的に、SDAと称され、標的配列の反対側の鎖へのアニーリング対のプライマー配列、二重鎖ヘミホスホロチオ化された(hemiphosphorothioated)プライマー伸長産物を産生するためにdNTPαSの存在におけるプライマー伸長、半修飾(hemimodified)される制限エンドヌクレアーゼ認識部位のエンドヌクレアーゼ媒介ニッキング、および存在する鎖を置換し、プライマーアニーリング、ニッキング、および鎖置換の次期間の鎖を産生するために、ニックの3'末端からポリメラーゼ媒介のプライマー伸長のサイクルを使用し、産物のゲノム増幅をもたらす。好熱性SDA(tSDA)は、本質的に同一の方法において、高温で、好熱性エンドヌクレアーゼおよびポリメラーゼを使用する(欧州特許第EP0 684 315号)。
【0107】
他の増幅方法は、例えば、核酸配列ベース増幅法(米国特許第5,130,238号(その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる))は、一般的に、NASBAと称し、プローブ分子自体を増幅するためにRNAレプリカーゼを使用するもの(Lizardi et al.,BioTechnol.6:1197(1988)、その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)であり、一般的に、Qβレプリカーゼと称し、転写ベース増幅法(Kwoh et al.,Proc.Natl.Acad.Sci. USA 86:1173(1989))、および自立した配列複製(Guatelli et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1874(1990)(これらのそれぞれは、その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる))を含む。既知の増幅法のさらなる考察に関しては、Persing, David H.,“In Vitro Nucleic Acid Amplification Techniques” in Diagnostic Medical Microbiology:Principles and Applications (Persing et al.,Eds.),pp.51−87(American Society for Microbiology,Washington,DC(1993))を参照されたい。
【0108】
4.検出方法
非増幅または増幅された核酸を任意の従来の手段によって検出することができる。例えば、癌マーカー核酸を、検出可能な標識されたプローブを用いたハイブリダイゼーションおよび得られるハイブリッドの測定によって検出することができる。検出方法の例示的な非限定例は、下に記載される。
【0109】
一例示的な検出方法である、ハイブリダイゼーションプロテクションアッセイ(HPA)は、標的配列へ化学蛍光オリゴヌクレオチドプローブ(例えば、アクリジニウムエステル標識(AE)プローブ)をハイブリダイズする工程と、非ハイブリダイズプローブ上に存在する化学蛍光標識を選択的に加水分解する工程と、照度計において残されたプローブから生成された化学発光を測定する工程と、を必要とする。例えば、米国特許第5,283,174号およびNorman C.Nelson et al., Nonisotopic Probing, Blotting, and Sequencing,ch.17(Larry J. Kricka ed.,2d ed.1995(これらのそれぞれは、その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる))を参照されたい。
【0110】
別の例示的な検出方法は、リアルタイムにおいて増幅プロセスの定量的評価を提供する。「リアルタイム」における増幅プロセスの評価は、増幅反応中、継続的に、あるいは周期的に、反応混合物において、単位複製配列の量を決定する工程、および試料に初めに存在する標的配列の量を算出するための決定値を用いる工程を必要とする。リアルタイム増幅法に基づいて試料に存在する初期標的配列の量を決定するための様々な方法は、当技術分野において既知である。これらは、米国特許第6,303,305号および同第6,541,205号に開示される方法を含む(これらのそれぞれは、その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)。試料に初めに存在する標的配列の量を決定する別の方法は、リアルタイム増幅法に基づかないが、米国特許第5,710,029号に開示される(その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)。
【0111】
増幅産物は、様々な自己ハイブリダイズプローブの使用を通して、リアルタイムに検出され得、これらのほとんどは、ステムループ構造を有する。このような自己ハイブリダイズプローブは、該プローブが自己ハイブリダイズ状態または標的配列へのハイブリダイゼーションを通して変化した状態であるかによって、検出可能なシグナルを異なって発光するように、標識化される。非限定的な例として、「分子トーチ(molecular torch)」は、自己相補的な固有の領域(「標的結合ドメイン」または「標的閉鎖ドメイン」と称する)を含む自己ハイブリダイズプローブの一種であり、結合域(例えば、非ヌクレオチドリンカー)によって接続され、所定のハイブリダイゼーションアッセイ条件下で互いにハイブリダイズする。好適な態様においては、分子トーチは、1〜約20の塩基の長さである標的結合ドメインにおいて、一本鎖塩基領域を含み、鎖置換条件下で、増幅反応に存在する標的配列へのハイブリダイゼーションにアクセス可能である。鎖置換条件下で、完全に、または部分的に相補的であり得る、分子トーチの2つの相補的領域のハイブリダイゼーションに恵まれ、標的配列の存在を除いては、標的結合ドメインに存在する一本鎖領域に結合し、標的閉鎖ドメインのすべてまたはその一部を置換するであろう。分子トーチの標的結合ドメインおよび標的閉鎖ドメインは、該分子トーチが標的配列にハイブリダイズされる場合でなく該分子トーチが自己ハイブリダイズされる場合、異なるシグナルが生成され、それにより、非ハイブリダイズ分子トーチの存在において、試験試料中のプローブ−標的複合体の検出を可能にするように、位置付けられる、検出可能な標識または一対の相互作用標識(例えば、発光/消光)を含む。分子トーチおよび様々な種類の相互作用標識対は、米国特許第6,534,274号に開示される(その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)。
【0112】
自己相補性を有する検出プローブの別の例は、「分子指標」である。分子指標は、標的相補的配列と、増幅反応の存在において標的配列がない状態で、閉構造にプローブを維持するアフィニティー対(または核酸アーム)と、該プローブが閉構造にある場合に相互作用する標識対を有する核酸分子を含む。標的配列および標的相補的配列のハイブリダイゼーションは、アフィニティー対のメンバーを分離し、それによって、開構造へプローブを移動させる。開構造への移動は、標識対の低下した相互作用のため、検出可能であり、それは、例えば、フルオロフォアおよび消光剤(例えば、DABCYLおよびEDANS)であり得る。分子指標は、米国特許第5,925,517号および同第6,150,097号に開示される(その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)。
【0113】
他の自己ハイブリダイズプローブは、当業者に既知である。非限定例として、米国特許第5,928,862号に開示されるような(その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)、相互作用標識を有するプローブ結合対は、使用に適合され得る。また、単一ヌクレオチド多型(SNP)を検出するために使用されるプローブシステムを利用し得る。追加の検出システムは、米国公開第20050042638号に開示される、「分子スイッチ」を含む(その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)。他のプローブ、例えば、インターカレート染色および/または蛍光染色を含むもの等はまた、増幅産物の検出に有用である。例えば、米国特許第5,814,447号を参照されたい(その全体において参照することにより本明細書に組み込まれる)。
【0114】
C.タンパク質検出
癌マーカーは、タンパク質配列分析、およびイムノアッセイを含むが、これらに限定されない、当業者に既知の様々なタンパク質手法を用いて、タンパク質として検出され得る。
【0115】
1.配列分析
タンパク質配列分析法の例示的な非限定例は、質量分析法およびエドマン分解法を含むが、これらに限定されない。
【0116】
質量分析は、原則として、任意の大きさのタンパク質を配列することができるが、大きさが増大すると、計算する上でさらに困難になる。タンパク質は、エンドプロテアーゼによって消化され、得られる溶液は、高圧液体クロマトグラフィーカラムを通過する。本カラム終了後、溶液は、質量分析計に高陽電位に荷電された狭いノズルの外に噴霧される。液滴上の荷電は、単一イオンのみが残るまで、断片にイオンを生じる。ペプチドは、その後、断片化し、断片の質量電荷比を測定する。質量スペクトルは、コンピュータで分析され、しばしば、断片の配列を決定するために、以前に配列されたタンパク質のデータベースに対して比較される。プロセスは、その後、異なる消化酵素を用いて繰り返され、配列中の重複は、タンパク質のための配列を構成するために使用される。
【0117】
エドマン分解法においては、配列されるペプチドは、固体表面(例えば、ポリブレンでコーティングされたガラス繊維)上に吸着される。エドマン試薬、フェニルイソチオシアネート(PTC)を、12%トリメチルアミンの弱塩基性緩衝液と共に吸着ペプチドに加え、N末端アミノ酸のアミン基と反応させる。末端アミノ酸誘導体は、その後、無水酸の付加によって、選択的に分離させることができる。誘導体は、異性化し、置換フェニルチオダントインを得、洗浄され、クロマトグラフィーによって同定され得、サイクルを繰り返すことができる。それぞれの工程の効率は、約98%であり、約50のアミノ酸を確実に決定することが可能である。
【0118】
2.イムノアッセイ
イムノアッセイの例示的な非限定例は、免疫沈降、ウエスタンブロット法、ELISA、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、およびイムノPCR法を含むが、これらに限定されない。当業者に既知の様々な手法(例えば、比色分析、蛍光、化学蛍光、または放射能)を用いて検出可能に標識されたポリクローナルまたはモノクローナル抗体は、イムノアッセイにおける使用に適している。
【0119】
免疫沈降は、その抗原に特異的な抗体を用いて、溶液によって抗原を沈殿させる手法である。該プロセスは、複合体中にあると考えるタンパク質を標的にすることによって、細胞抽出物に存在するタンパク質複合体を同定するために使用することができる。該複合体は、初めに細菌から単離された不溶性抗体結合タンパク質(例えばタンパク質Aおよびタンパク質G)によって溶液から引き出す。該抗体はまた、溶液から容易に単離することができるセファロースビーズに結合させることもできる。洗浄した後、沈殿物を、質量分析、ウエスタンブロット法、または複合体の成分を同定するためのいずれかの他の方法を用いて分析することができる。
【0120】
ウエスタンブロット法、または免疫ブロット法は、組織ホモジネートまたは抽出物の所与の試料中にあるタンパク質を検出する方法である。該方法は、質量によって変性タンパク質を分離するためのゲル電気泳動法を使用する。該タンパク質は、その後、膜、典型的にはポリフッ化ビニリデンまたはニトロセルロース上に、ゲルによって運搬され、対象となるタンパク質に特異的な抗体を用いてプローブされる。結果として、研究者らは、所与の試料におけるタンパク質の量を分析し、いくつかの群の間の値を比較することができる。
【0121】
ELISA(酵素免疫測定法(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)の省略)は、抗体または抗原の存在を検出するための試料における生化学的手法である。最低限の2つの抗体を利用し、それらのうちの1つは、抗原に特異的であり、それらのうちのもう1つは、酵素に結合する。第2の抗体は、シグナルを生成するために、発色基質または蛍光発生基質をもたらす。ELISAの変形は、サンドイッチELISA、競争ELISA、およびELISPOTを含む。ELISAは、試料における抗原の存在、あるいは抗体の存在のいずれかを評価するために実施され得るので、血清抗体濃度を決定するため、また、抗原の存在を検出するための双方で有用なツールである。
【0122】
免疫組織化学および免疫細胞化学は、それぞれ、抗体に結合する組織または細胞において、抗原の原理を介して、組織部分または細胞におけるタンパク質を局在化するプロセスを意味する。視覚化は、発色または蛍光タグを有する抗体にタグをつけることによって可能になる。発色タグの典型的な例は、西洋ワサビペルオキシダーゼおよびアルカリ性ホスファターゼを含むが、これらに限定されない。蛍光タグの典型的な例は、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)またはフィコエリトリン(PE)を含むが、これらに限定されない。
【0123】
フローサイトメトリーは、液体の流れにおいて懸濁された微細粒子を集計、試験、分類するための手法である。該方法は、光学/電子検出器具を通して流れる単一細胞の物理的および/または化学的特性の同時多様性分析を可能にする。単一周波数または発色の光線(例えば、レーザー)は、流体力学的に集中した液体の流れに方向付けられる。多数の検出器が、流れが光線を通過する点に向けられる(光線に沿った、1つの検出器(前方散乱またはFSC)および光線に対して直角の方向の、いくつかの検出器(側方散乱(SSC)および1つ以上の蛍光検出器))。何らかの方法で、光線錯乱を通過するそれぞれの懸濁された粒子、および粒子中の蛍光化学物質は、光源よりも低い周波数で発光を励起し得る。散乱および蛍光の組み合わせは、検出器、およびそれぞれの検出器での輝度の変動(それぞれの蛍光発光ピークの変動)を分析することによって得られ、それぞれの個々の粒子の物理的および化学的構造について様々な情報を推定することが可能である。FSCは、細胞体積と相関し、SSCは、粒子の密度または内部複雑性(例えば、細胞核の形状、細胞質顆粒の量およびその型または膜の粗さ)と相関する。
【0124】
イムノポリメラーゼ連鎖反応(IPCR)は、抗体ベースのイムノアッセイにおけるシグナル発生を増大するための核酸増幅法を利用する。PCRのタンパク質当量は存在しない、つまり、PCR中、核酸を複製するのと同一の方法でタンパク質を複製できないため、検出感度を増大するための唯一の方法は、シグナル増幅法によるものである。標的タンパク質は、オリゴヌクレオチドに直接または間接的に共役される抗体に結合される。非結合抗体を流失し、残りの結合抗体は、増幅されたオリゴヌクレオチドを有する。タンパク質検出は、リアルタイム法を含む、標準的な核酸検出法を用いて、増幅されたオリゴヌクレオチドの検出を介して生じる。
【0125】
D. データ分析
一部の態様においては、コンピュータベースの分析プログラムは、検出分析によって生成された原データ(例えば、所与のマーカーの存在、不在、またはその量)を、臨床医用の予測値のデータに変換するために使用される。臨床医は、任意の好適な手段を用いて予測データにアクセスすることができる。したがって、好適な態様においては、遺伝学または分子生物学において訓練されていない可能性が高い臨床医は、原データを理解する必要がない。該データは、その最も有用な形式で臨床医に直接示される。該臨床医は、その後、対象のケアを最適化するために、その情報を直ちに利用することができる。
【0126】
該アッセイ法を実行する実験室、情報提供者、および医療関係者、および対象間で情報を受信、処理、伝送することができる任意の方法が利用され得る。例えば、一部の態様においては、試料(例えば、生検、または血清もしくは尿試料)を、対象から得、原データを生成するために、世界の任意の場所に(例えば、対象が居住する、または情報を最終的に使用する国とは異なる国に)位置するプロファイリングサービス(例えば、医療施設での臨床検査室、ゲノムプロファイリングビジネス等)に提出する。該試料が組織または他の生体試料を含む場合には、該対象は、得られた試料およびプロファイリングセンターに発送された試料がある医療センターを訪問することができ、または対象は、自身で試料(例えば、尿試料)を採取し、プロファイリングセンターに直接発送することができる。該試料があらかじめ決められた生体情報を含む場合には、該情報は、対象によってプロファイリングサービスに直接発送することができる(例えば、情報を包含する情報カードは、コンピュータによってスキャンされ得、データは、電子通信システムを用いてプロファイリングセンターのコンピュータに伝送される)。プロファイリングセンターで受け取られると、該試料を処理し、対象のために望ましい診断または予測情報に対して特異的なプロファイルを制作する(すなわち、発現データ)。
【0127】
その後、プロファイルデータは、治療を行う医師によって解釈に適した形式で作成される。例えば、原発現データを提供するのではなく、作成された形式は、特定の治療の選択肢のための提案とともに、対象のための診断またはリスク評価(例えば、存在する癌の可能性または癌のサブタイプ)を示し得る。データは、任意の好適な方法によって臨床医に示され得る。例えば、一部の態様においては、プロファイリングサービスにより、(例えば、臨床現場で)臨床医用に印刷することができる報告書、またはコンピュータのモニター上に表示することができる報告書が作られる。
【0128】
一部の態様においては、情報は、まず、臨床現場または地域施設で分析される。原データは、その後、さらなる分析、および/または臨床医または患者に有用な情報に原データを変換するために中央処理施設に送られる。該中央処理施設は、プライバシー(すべてのデータは、均一なセキュリティープロトコルによって中央施設に保存される)、速度、およびデータ分析の均一性の利点を提供する。該中央処理施設は、その後、対象の治療に従い、データの最終結果を制御することができる。例えば、電子通信システムを用いて、該中央施設は、臨床医、対象、または研究者らにデータを提供することができる。
【0129】
一部の態様においては、対象は、該電子通信システムを用いて、データに直接アクセスすることができる。該対象は、結果に基づいてさらなる診療またはカウンセリングを選択することができる。一部の態様においては、該データは、研究用として使用される。例えば、該データは、疾患の特定の状態またはステージの有用な表示器として、マーカーの含有または排出をさらに最適化するために使用され得る。
【0130】
一部の態様においては、該結果は、さらなる診断(例えば、追加のさらなるスクリーニング(例えば、PSAまたは他のマーカー))または診断(例えば、生体)手順を決定するための臨床的設定に使用される。他の態様においては、該結果は、治療手順(例えば、療法の選択または経過観察)を決定するために使用される。
【0131】
E.インビボイメージング
一部の態様においては、インビボイメージング法は、動物(例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳類)における癌マーカーの発現を視覚化するために使用される。例えば、一部の態様においては、癌マーカーのmRNAまたはタンパク質は、癌マーカーに対して特異的な標識された抗体を用いて標識される。特異的に結合および標識された抗体は、放射性核種イメージング、ポジトロン断層法、コンピュータ断層撮影、X線、また磁気共鳴映像法、蛍光検出、および化学蛍光検出を含むが、これらに限定されないインビボイメージング法を用いて、個体において検出され得る。癌マーカーに抗体を発生させる方法を、上に記載する。
【0132】
インビボイメージング法は、本明細書に記載される癌マーカー(例えば、SPINK1)を発現する癌の診断に有用である。インビボイメージング法は、癌を示すマーカーの存在を視覚化するために使用される。このような手法は、不快な生検を使用せず、診断を可能にする。インビボイメージング法はまた、癌患者に予後を提供するために有用である。例えば、転移する恐れのある癌を示すマーカーの存在を検出することができる。該インビボイメージング法は、体の他の部分における転移癌を検出するために、さらに使用することができる。
【0133】
一部の態様においては、癌マーカーに対して特異的な試薬(例えば、抗体)を蛍光標識する。標識された抗体は、(例えば、経口または非経口で)対象に導入される。蛍光標識抗体は、任意の好適な方法を用いて(例えば、米国特許第6,198,107号に記載される器具を用いて、(参照することにより本明細書に組み込まれる))、検出される。
【0134】
他の態様においては、抗体は、放射活性物質で標識される。インビボ診断の抗体の使用は、当技術分野において既知である。Sumerdonら(Nucl.Med.Biol 17:247−254[1990])は、標識としてインジウム−111を用いて、腫瘍の放射免疫シンチグラフィのイメージング用に最適化された抗体キレート剤を記載している。Griffinら(J Clin Onc 9:631−640[1991])は、再発した結腸直腸癌に罹患している疑いのある患者において腫瘍を検出する本薬剤の使用を記載している。磁気共鳴映像法用の標識として常磁性イオンを有する類似薬剤の使用は、当技術分野において既知である(Lauffer, Magnetic Resonance in Medicine 22:339−342[1991])。使用された標識は、選択された画像診断法によって異なる。インジウム−111、テクネチウム−99m、またはヨウ素−131等の放射性標識は、平面スキャンまたは単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)用に使用することができる。フッ素−19等の陽電子放出標識はまた、ポジトロン断層法(PET)用に使用することもできる。MRIに関しては、ガドリニウム(III)またはマンガン(II)等の常磁性イオンを使用することができる。
【0135】
スカンジウム−47(3.5日間)、ガリウム−67(2.8日間)、ガリウム−68(68分間)、テクネチウム−99m(6時間)、およびインジウム−111(3.2日間)等の、1時間〜3.5日の範囲の半減期を有する放射性金属は、抗体に共役するために利用でき、その中で、ガリウム−67、テクネチウム−99m、およびインジウム−111は、ガンマカメライメージングに好ましく、ガリウム−68は、ポジトロン断層法に好ましい。
【0136】
このような放射性金属を有する標識抗体の有用な方法は、例えば、In−111およびTc−99mのために、Khawら(Science 209:295[1980])によって、およびScheinbergら(Science 215:1511[1982])に記載されるように、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等の二官能性キレート剤を利用するものである。その他のキレート剤を使用してもよいが、それらの使用は、実質的に抗体の免疫活性に影響を及ぼすことなく共役を可能にするため、1−(p−カルボキシメトキシベンジル)EDTAおよびDTPAのカルボキシ炭酸無水物は有利である。
【0137】
タンパク質にDPTAを結合するための別の方法は、Hnatowichら(Int.J.Appl.Radiat.Isot.33:327[1982])によって記載されるように、In−111を有するアルブミンの標識のためであるが、抗体の標識のために適応することができる、DTPAの環状無水物の使用によるものである。DPTAによるキレート化を使用しないTc−99mを有する標識抗体の好適な方法は、Crockfordら(米国特許第4,323,546号(参照することにより本明細書に組み込まれる))のプレティニング(pretinning)法である。
【0138】
Tc−99mを有する標識免疫グロブリンの好ましい方法は、血漿タンパク質に関してWongら(Int.J.Appl.Radiat.Isot.,29:251[1978])によって記載され、標識抗体に関してWongら(J.Nucl.Med.,23:229[1981])によって、最近、うまく適用されたものである。
【0139】
特異抗体に共役される放射性金属の場合においては、その免疫染色を破壊することなく、抗体分子にできるだけ高い割合の放射性標識を導入することが、同様に望ましい。
【0140】
更なる改善は、抗体における抗原結合部位を保護することを確実にするために、特定の癌マーカーの存在下で、放射性標識に影響を及ぼすことによって達成され得る。該抗原は、標識後、分離される。
【0141】
さらに更なる態様においては、インビボバイオフォトニックイメージング(Xenogen,Almeda,CA)をインビボイメージングのために利用する。本リアルタイムインビボイメージングは、ルシフェラーゼを利用する。ルシフェラーゼ遺伝子は、細胞、微生物、および動物(例えば、癌マーカーを有する融合タンパク質として)に組み込まれる。活性する際、ルシフェラーゼ遺伝子は、光を発光する反応を引き起こす。CCDカメラおよびソフトウェアは、画像を獲得し、分析するために使用される。
【0142】
F.組成物およびキット
さらに他の態様において、前立腺癌の検出および特性のためのキットが提供される。一部の態様においては、該キットは、検出試薬および緩衝液に加えて、癌マーカーに対して特異的な抗体(例えば、SPINK1)を含む。他の態様においては、該キットは、mRNAまたはcDNAのレベル、または染色体欠失の存在もしくは不在(例えば、オリゴヌクレオチドプローブまたはプライマー)の検出に対して特異的な試薬を含む。好適な態様においては、該キットは、すべての対照、アッセイ法を実施するための指示、および分析および結果の提示のための任意の必須のソフトウェアを含む、検出分析を実施するために必要な、または十分な構成要素のすべてを含む。
【0143】
IV.薬剤スクリーニング
一部の態様においては、薬剤スクリーニングアッセイ(例えば、抗癌剤のためのスクリーニング)を提供する。スクリーニング法は、本明細書で同定される癌マーカーを利用する(例えば、SPINK1を含むが、これに限定されない)。例えば、一部の態様においては、癌マーカー遺伝子の発現を変化する(例えば、減少または増加)、発現もしくは発現しない、または特定の癌マーカーを所有する個体の健康を変化させる化合物をスクリーニングする方法を提供する。一部の態様においては、候補化合物は、癌マーカーに対して方向付けられるアンチセンス剤(例えば、オリゴヌクレオチド)である。アンチセンス療法の考察のための下のIV章を参照されたい。他の態様においては、候補化合物は、癌マーカーに特異結合し、その生物学的機能を阻害する抗体または小分子である。
【0144】
あるスクリーニング法においては、候補化合物は、癌マーカーを発現する細胞と化合物を接触させ、その後、発現上の候補化合物の効果を検定することによって、癌マーカー発現を変化するそれらの能力に対して分析される。一部の態様においては、癌マーカー遺伝子の発現上の候補化合物の効果は、細胞によって発現される癌マーカーmRNAの値を検出することによって分析される。mRNA発現を任意の好適な方法によって検出することができる。他の態様においては、癌マーカー遺伝子の発現上の候補化合物の効果は、癌マーカーによってコード化されるポリペプチドの値を測定することによって分析される。発現したポリペプチドの値は、本明細書に開示されるものを含むが、これらに限定されない、任意の好適な方法によって測定することができる。
【0145】
特に、本明細書に記載される癌マーカーに結合する、もしくは、例えば、癌マーカー発現または癌マーカー活性への阻害(または促進)作用を有する、もしくは、例えば、癌マーカー基質の発現または活性への促進または阻害作用を有する、モジュレータ、すなわち、候補もしくは試験化合物または薬剤(例えば、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣薬、ペプトイド、小分子、または他の薬物)を同定するためのスクリーニング法を提供する。したがって、同定される化合物は、標的遺伝子産物(例えば、癌マーカー遺伝子)の活性を調整するために、標的遺伝子産物の生物学的機能を構成する、または正常標的遺伝子相互作用を中断する化合物を同定するための治療プロトコルにおいて、直接あるいは間接的に使用され得る。癌マーカーの活性または発現を阻害する化合物は、増殖性障害、例えば、癌、特に、前立腺癌の治療に有用である。
【0146】
一態様においては、癌マーカータンパク質もしくはポリペプチドまたはその生物学的に活性な部分の基質である、候補もしくは試験化合物をスクリーニングするためのアッセイ法を提供する。別の態様においては、癌マーカータンパク質もしくはポリペプチドまたはその生物学的に活性な部分に結合する、またはその活性を調整する、候補もしくは試験化合物をスクリーニングするためのアッセイ法を提供する。
【0147】
試験化合物は、当技術分野において既知の組み合わせライブラリー法における、多数のアプローチのいずれかを用いて得られ、それには、生物学的ライブラリー、ペプトイドライブラリー(ペプチドの機能性を有するが、新規の、非ペプチド骨格を有する分子のライブラリーであり、酵素分解に耐性を示すにもかかわらず、生物活性を維持する、例えば、Zuckennann et al.,J.Med.Chem.37:2678−85[1994]を参照)、空間的に位置特定可能な(spatially addressable)平行固相または溶液相ライブラリー、デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法、「1ビーズ1化合物(one−bead one−compound)」ライブラリー法、およびアフィニティークロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー法を含む。生物学的ライブラリーおよびペプトイドライブラリーアプローチは、ペプチドライブラリーと共に使用するために好ましいが、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマーあるいは化合物の小分子ライブラリーに適用することができる(Lam(1997)Anticancer Drug Des.12:145)。
【0148】
分子ライブラリーの合成のための方法の例は、先行技術に見出すことができ、例えば、DeWitt et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6909[1993]、Erb et al.,Proc.Nad.Acad.Sci.USA 91:11422[1994]、Zuckermann et al.,J.Med.Chem.37:2678[1994]、Cho et al.,Science 261:1303[1993]、Carrell et al.,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33.2059[1994]、Carell et al.,Angew.Chem. Int.Ed.Engl.33:2061[1994]、およびGallop et al.,J.Med.Chem.37:1233[1994]がある。
【0149】
化合物のライブラリーは、溶液中(例えば、Houghten,Biotechniques 13:412−421[1992])、あるいはビーズ上(Lam,Nature 354:82−84[1991])、チップ上(Fodor,Nature 364:555−556[1993])、細菌もしくは胞子上(米国特許第5,223,409号(参照することにより本明細書に組み込まれる))、プラスミド上(Cull et al.,Proc.Nad.Acad.Sci.USA 89:18651869[1992])、あるいはファージ上(Scott and Smith, Science 249:386−390[1990]、Devlin Science 249:404−406[1990]、Cwirla et al.,Proc.NatI.Acad.Sci.87:6378−6382[1990]、Felici,J.Mol.Biol.222:301[1991])で存在し得る。
【0150】
V.癌療法
一部の態様においては、癌(例えば、前立腺癌)に対する療法を提供する。一部の態様においては、療法は、癌マーカー(例えば、SPINK1を含むが、これに限定されない)を標的にする。例えば、一部の態様においては、SPINK1の発現を標的にするアンチセンスまたはRNAi療法を利用する。追加の治療剤を、例えば、本明細書に記載される、薬剤スクリーニング法を用いて同定する。
【0151】
実験
以下の実施例は、ある好適な態様および態様を示し、さらに例示するために提供され、その範囲を限定されるものと解釈されるべきではない。
【0152】
実施例1 前立腺癌におけるSPINK1の異常値発現
本実施例は、前立腺癌におけるSPINK1発現の特性化を記載する。
【0153】
A. 材料および方法
癌異常値のプロファイル解析(COPA)
COPA解析は、(Tomlins et al.Science 310,644−8(2005))に記載される、Oncomine3.0において、7つの前立腺癌遺伝子発現データセット(Yu et al.,J Clin Oncol 22,2790−9(2004);Lapointe et al.,Proc Natl Acad Sci USA 101,811−6(2004);Glinsky et al.,J Clin Invest 113,913−23(2004);Vanaja et al.,Cancer Res 63,3877−82(2003),Dhanasekaran et al.,Nature 412,822−6(2001),LaTulippe et al.,Cancer Res 62,4499−506(2002);Welsh et al.,Cancer Res 61,5974−8(2001))上において実施された。COPAは、3つの工程を有する。まず、遺伝子発現値は、中央値を中央とし、それぞれの遺伝子の中央発現値を0に設定する。第2に、中央絶対偏差値(MAD)を算出し、それぞれの遺伝子発現値をそのMADで除算することによって、1まで縮尺する。注目すべきは、異常発現値が、分布推定値に過度に影響を及ぼさず、したがって、正規化後も維持されるように、平均偏差および標準偏差ではなく、中央値およびMADを、変換のために使用したことである。第3に、転換した発現値の75番目、90番目、および95番目のパーセンタイルは、それぞれの遺伝子に対して一覧にされた後、遺伝子は、パーセンタイルのスコアによって順位付けられ、異常値のプロファイルの優先順位をつけた表を提供する。3つのパーセンタイルのカットオフ値のいずれかで上位100位以内の異常値を記録した遺伝子を、異常値と称した。同一番号の試験における異常値として同定された遺伝子は、これらの異常値試験におけるそれらの平均異常値順位によってさらに順位付けされた。SPINK1発現も、2つのマルチ癌プロファイリング試験からの前立腺癌の検体において調べた(Bittner et al.,Nat Biotechnol 23,183−4(2005),Su et al.,Cancer Res 61,7388−93(2001))。
【0154】
試料
定量PCRに使用された組織は、ミシガン大学(University of Michigan)で根治的前立腺切除術シリーズおよび迅速な検視プログラム(Rapid Autopsy Program)からのものであり、それらはともに、ミシガン大学(University of Michigan)前立腺癌重点研究特別助成金(Specialized Program of Research Excellence(S.P.O.R.E.))組織コアの一部である。組み合わせた蛍光インサイツハイブリダイゼーション法(FISH)および免疫組織化学(IHC)評価に関しては、ミシガン大学(University of Michigan(UM))コホートは、根治的前立腺切除術シリーズからの試料からなる。スウェーディッシュウォッチフルウェイティング(Swedish Watchful Waiting(SWW))コホートは、記載されるように、症候性良性前立腺過形成のための経尿道的前立腺切除術によって付随的に診断された局在型前立腺癌に罹患した男性のスウェーディッシュ集団に基づくコホートからの試料からなる(Andren et al.,J Urol 175,1337−40(2006)、Johansson et al.,JAMA 291,2713−9(2004))。メモリアルスローンケタリング癌センター(Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC))コホートは、1985年から2003年の間に、根治的前立腺切除術によってMSKCCで処置された局在型または局所進行性前立腺癌に罹患した患者からなる。すべての試料は、各機関からIRB承認書と共に得られた。前立腺癌細胞株22RV1は、Jill Macoska(ミシガン大学(University of Michigan))によって提供された。
【0155】
組織試料からの定量PCR(qPCR)
定量PCR(qPCR)は、本質的に記載されるように、Applied Biosystems 7300リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems,Foster City,CA))におけるSYBR Green染料を用いて、実施された(Tomlins et al., Science 310,644−8(2005)、Tomlins et al., Cancer Res 66,3396−400(2006))。略説すると、全RNAは、Trizol(Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いて、組織から単離された。RNAは、ND−1000分光光度計(Nanodrop Technologies,Wilmington,DE)を用いて定量化し、3〜5μgの全RNAは、ランダムプライマーの存在下で、SuperScript III(Invitrogen)を用いて、cDNAに逆転写された。すべてのqPCR反応は、製造業者の推奨した熱サイクル条件を用いて、Power SYBR Green Master Mix (Applied Biosystems)、および25ngの前方プライマーおよび逆のプライマーの双方で実施した。それぞれに実験に関しては、閾値は、配列検出ソフトウェアバージョン1.2.2(Applied Biosystems)を用いて、qPCR反応の対数期中、設定された。それぞれの試料のためのハウスキーピング遺伝子GAPDHおよびHMBSの平均と比較してERG、ETV1、およびSPINK1の量は、比較閾値サイクル(C値)法(Applied Biosystems User Bulletin #2に従う)を用いて決定した。それぞれの試料のためのERG、ETV1、およびSPINK1の相対量は、それぞれの遺伝子のためのすべての試料からの平均量に較正された。すべてのオリゴヌクレオチドプライマーは、Integrated DNA Technologies(Coralville,IA)によって合成された。GAPDHおよびHMBS、ならびにERG(エクソン5_6)およびETV1(エクソン6_7)プライマーは、記載される通りであった(Tomlins et al.,2005、上記参照)。SPINK1の配列を以下に示す。

【0156】
プライマーのほとんど等しい効率は、比較C法を使用するために、プールした前立腺癌のcDNAの連続希釈法を用いて確認された。すべての反応は、溶解曲線分析に従った。
【0157】
免疫組織化学(IHC)および蛍光インサイツハイブリダイゼーション法(FISH)
ミシガン大学(University of Michigan、(UM))およびスウェーディッシュウォッチフルウェイティング(Swedish Watchful Waiting(SWW))コホートのためのIHCは、局在型前立腺癌の75(UM)と312(SWW)の評価可能な症例からのコアを含む、組織マイクロアレイにおけるSPINK1(H00006690−M01、Abnova,Taipei City,Taiwan)に対するマウスモノクローナル抗体を用いて、実施された。1%を超える癌性上皮細胞の染色は、陽性であると見なした。以前に、前述に記載されるように、別々のERGアッセイを用いて、FISHによってTMRPSS2−ERG融合の状態のためのこれらの組織マイクロアレイ上で評価された症例がある(Tomlins et al.,2005、上記参照)。これらの試験をSPINK1発現と融合の状態の間で逆相関関係があったことを事前の仮説で実施した際、片側フィッシャーの正確確率検定をSPINK1と融合の状態の間の関係を評価するために使用した。
【0158】
MSKCC免疫組織化学
MSKCCコホートのためのIHCは、局在型前立腺癌の817の評価可能な症例から3重のコアを含む組織マイクロアレイ上のSPINK1(コード6E832)に対して自家マウスモノクローナル抗体を用いて、実施された。それぞれのコアにおける陽性の腫瘍細胞のパーセンテージは、0%、5%の値、または10%の倍数を予測し、割り当てられた。発現の強度は、0、1、2、または3の値を割り当てられた。それぞれの検体からの3重コアは、別々に記録され、少なくとも2つの解釈可能なコアにおいて、腫瘍性組織の存在は、分析の症例を含むために必要とされた。症例は、3つのコアのうちのいずれかが80%を超える、陽性のSPINK1免疫活性(強度1〜3)を示す腫瘍細胞を示した場合、SPINK1陽性として記録された。
【0159】
予後解析
Glinskyらのカプランマイヤー分析およびUMデータセットに関しては、生化学的制御は、生化学的再発情報を利用できない場合、0.2ng/mlのPSA増加、または転移癌の発生等の前立腺切除術後の疾患の再発として定義された。MSKCCコホートに関しては、臨床的異常者はすべて、生化学的再発を以前に有していたため、第2次確認PSA測定が>0.2ng/mlを有し、切除術後PSA>0.2ng/mlとして定義される、生化学的再発のみ検討した。Glinskyらからのデータセットからの予後解析に関しては、SPINK1の異常値発現に陽性である試料は、(図1Aに示すように)正規化発現単位(normalized expression units)が0.5より大きくなるものとして定義された。UMおよびMSKCCコホートのIHC解析に関しては、陽性症例は、上に記載されるように定義された。カプランマイヤー分析および多変量Cox比例ハザード回帰は、その後、生化学的PSA再発を伴うSPINK1の会合を分析するために使用される。疾病の再発の可能性を予測するために、Kattanの7年の術後ノモグラム(Kattan et al.,J Clin Oncol 17,1499−507(1999))を使用し、ノモグラムおよびノモグラムプラスSPINK1状態(status)のコンコーダンスインデックス(concordance index)は、記載されるように1000倍のブートストラッピングを用いて評価された(Kattan et al.,J Clin Oncol 21,3573−9(2003))。
【0160】
SPINK1発現の尿検出
尿の採取、RNAの単離、RNA増幅および前立腺癌に罹患した男性からのTMRPSS2−ERGのqPCRは、記載される通りであった(Laxman,B. et al.Noninvasive detection of TMPRSS2:ERG fusion transcripts in the urine of men with prostate cancer.Neoplasia 8,885−8(2006))。略説すると、25ngの単離されたRNAを、製造業者の取扱説明書に従い、TransPlex Whole Transcriptome Amplification(WTA)キット(Rubicon Genomics、ミシガン州アナーバー(Ann Arbor、MI))を用いて増幅した。それぞれのqPCR反応に関しては、10ngのWTA増幅されたcDNAを鋳型として使用した。2×Power SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems,Foster City,CA)および25ngの前方および逆のプライマーの双方を、SPINK1、ERG(上に記載されるようなプライマー)およびPSA(Laxman et al.,2006、上記参照)のために使用した。すべての実験に関しては、同一の閾値および基線は、配列検出ソフトウェアバージョン1.2.2(Applied Biosystems)を用いて設定された。PSAに対して26より大きい閾値サイクル(C)値を有するすべての試料を排除し、不十分な前立腺細胞回復を有する試料を除去した。試料は、ERGおよびTMRPSS2−ERGアッセイがともに、37未満のC値を示した場合、TMRPSS2−ERG陽性であると見なされた。PSAと比較してSPINK1の量は、比較C法を用いてそれぞれの試料に対して決定され、それぞれの試料のための相対量は、すべての試料の平均に正規化された。SPINK1過剰発現試料のうちの上位11%(本試験において評価された他の5つのコホートからSPINK1陽性試料の平均パーセント(表3参照))が、SPINK1陽性として同定された。この試験をSPINK1発現と融合の状態の間で逆相関関係があったことを事前の仮説で行なったので、片側フィッシャーの正確確率検定をSPINK1とTMPRSS2:ERG状態の間の関係を評価するために使用した。
【0161】
SPINK1のインビトロ過剰発現
前立腺癌検体過剰発現SPINK1に存在する際、SPINK1のcDNA(NM_003122.2)はコンセンサスKozak配列(下線を引いた部分の開始および終止コドン)を含む、前方プライマーと共に、以下のプライマーを用いて、RT−PCRによって増幅された。

cDNA産物は、GatewayエントリーベクターpCR8/GW/TOPO(Invitrogen)にクローニングされたTOPOであり、pCR8−SPINK1を得た。アデノウイルス構成物を生成するために、pCR8−SPINK1を、LRクロナーゼII(Invitrogen)を用いて、pAD/CMV/V5(Invitrogen)と再結合した。対照pAD/CMV/LACZクローンは、Invitrogenから得られた。アデノウイルスは、ミシガン大学(University of Michigan)Vector Coreによって生成された。良性の不死化前立腺細胞株RWPEをSPINK1またはLACZアデノウイルスに感染させ、一時的過剰発現のためのRWPE−SPINK1およびRWPE−LACZを生成した。
【0162】
増殖アッセイ
RWPE−LACZおよびRWPE−SPINK1細胞の増殖は、指定された時点において、ミトコンドリアデヒドロゲナーゼ(細胞増殖試薬WST1,Roche Diagnostics,Mannheim,Germany)によるテトラゾリウム塩WST−1の開裂に基づく比色分析アッセイによって3回測定された。22RV1細胞の細胞計数は、72時間において、トリプシン処理細胞、およびCoulter counter(Beckman Coulter,Fullerton,CA)によって、3回の分析によって見積もられた。
【0163】
浸潤アッセイ
浸潤アッセイに関しては、RWPE−SPINK1およびRWPE−LACZ細胞(アデノウイルスで感染してから48時間後)、または22RV1細胞を使用した。同数の指示された細胞を、化学誘引物質として下方室に加えられたウシ胎仔血清を用いて、24ウェル培養プレートの挿入物に存在している基底膜マトリックス(EC matrix,Chemicon,Temecula,CA)上に播種した。48時間後、非浸潤細胞およびECマトリックスを綿棒から除去した。浸潤細胞をクリスタルバイオレットで染色し、撮影した。挿入部分を10%酢酸で処置し、吸光度を560nmで測定した。
【0164】
SPINK1ノックダウン
22RV1細胞内のSPINK1のsiRNAノックダウンに関しては、SPINK1(LQ−019724−00,Chicago,IL)に対するDharmacon SMARTpoolを含む個々のsiRNAを、qPCRによるSPINK1ノックダウンのために試験され、最も有効な単一siRNA(J−019724−07)をさらに実験のために使用した。SiCONTROL非標的siRNA #1(D−001210−01)またはSPINK1に対するsiRNAは、Oligofectamine(Invitrogen)を用いて、22RV1細胞にトランスフェクトした。24時間後、第2の同一トランスフェクションを実行し、上に記載されるように、細胞をRNA単離、浸潤アッセイ、または増殖アッセイのために24時間後採取した。
【0165】
発現プロファイリング
発現プロファイリングをアジレント(Agilent)のWhole Human Genomeオリゴマイクロアレイ,Santa Clara,CA)を用いて実施した。Trizolを用いて単離された全RNAをQiagen RNAeasy Microキット,Valencia,CA)を用いて精製した。1μgの全RNAをcRNAに変換し、製造業者のプロトコル(アジレント(Agilent))に従い標識化した。ハイブリダイゼーションを、65℃で16時間実施し、アレイをアジレント(Agilent)DNAマイクロアレイスキャナー上でスキャンした。画像を解析し、データは、それぞれのアレイに対し実施された、線形およびLowess(locally weighted scatterplot smoother)正規化とともに、アジレント(Agilent)Feature Extraction Software 9.1.3.1を用いてデータを抽出した。22RV1−siSPINK1ハイブリダイゼーションに関して、参照は、非標的siRNAで感染した22RV1細胞であった。二重ハイブリダイゼーションは、合計4つのアレイのために、複製染料フリップと共に実施された。過剰発現および低発現されたシグニチャー(signature)は、すべてのハイブリダイゼーションにおいて有意な差異を示す発現(PValueLogRatio<0.01)、およびすべてのハイブリダイゼーションにおいてCy5/Cy3比>もしくは<1を有する特性のみを含むようにフィルタリングすることによって、生成された。
【0166】
B.結果
上に記載されるように、2位に位置付けられたメタ異常値であるSPINK1(セリンペプチダーゼ阻害剤、Kazal型1)は、複数の試験にわたって、ERGおよびETV1を有する良性の前立腺組織および相互排他的な過剰発現と比較して、前立腺癌において過剰発現を示すことが決定された。SPINK1が上位100位の異常値として同定された2つの試験からの、SPINK1発現ならびにERGおよびETV1を有する散布図のプロファイル(Glinsky et al.,J Clin Invest 113,913−23(2004);Yu et al.,J Clin Oncol 22,2790−9(2004))を図1bに示し、SPINK1発現を測定する7つの追加試験からのプロットを共に図5に示す(Dhanasekaran et al.,Nature 412,822−6(2001),LaTulippe et al.,Cancer Res 62,4499−506(2002),Vanaja et al.,Cancer Res 63,3877−82(2003),Welsh et al.,Cancer Res 61,5974−8(2001),Su et al.,Cancer Res 61,7388−93(2001)、GSE2109およびGSE8218)。全体で、これらの試験からのSPINK1は、127のうち2のみ(1.6%)の良性の前立腺組織試料および387のうち64(16.5%)の前立腺癌(両側フィッシャーの正確確率検定、p=9.5E−7)において異常値発現を示した。387のうち384のプロファイルされた前立腺癌(99.2%)は、図1bおよび5に示されるように、SPINK1、ERG、およびETV1の相互排他的な過剰発現を示した。
【0167】
ETS陰性前立腺癌における排他的なSPINK1の異常値発現を確認するために、SPINK1、ERGおよびETV1発現を、10個の良性の前立腺組織および61個の前立腺癌(54の臨床的に局在する試料、および7の転移性試料)のうちの独立したコホートにおいて、定量PCR(qPCR)によって測定した。ERG、ETV1、またはSPINK1は、それぞれ、61個の前立腺癌のうち、25(41%)、4(6.5%)、および4(6.5%)において、著しく過剰発現したが、良性の前立腺組織試料は、これらの遺伝子の過剰発現を示さなかった。上に記載されるプロファイリング試験を確認するように、ERG、ETV1およびSPINK1は、固有の試料において過剰発現した(図6)。
【0168】
SPINK1の異常値発現が、転写量でETS再構成の陰性前立腺癌のサブセットを定義することを示した後、前立腺癌におけるSPINK1タンパク質の発現を評価した。組織マイクロアレイ上の免疫組織化学(IHC)分析によって、SPINK1発現は、2つの独立したコホート(ミシガン大学(University of Michigan、(UM))およびスウェーディッシュウォッチフルウェイティング(Swedish Watchful Waiting(SWW))は、臨床的に局在する前立腺癌のうち合計392症例を示す。双方のコホートは、蛍光インサイツハイブリダイゼーション法(FISH)によって、TMRPSS2−ERG融合状態のために以前に評価されている。双方のコホートにおいては、前立腺癌上皮細胞は、多くの前立腺癌マーカーに対して観察されるように、中間の染色なく、強度あるいはSPINK1の発現がないかのいずれかを示した。図2a〜図2bに示されるように、UMコホートにおいて、75個の症例のうち10個および36個は、それぞれ、TMRPSS2−ERG陰性(片側フィッシャーの正確確率検定、p=0.0008)である、すべてのSPINK1陽性の症例とともに、SPINK1発現(13.3%)およびTMRPSS2−ERG融合(48%)に対して陽性であった。SWWコホートにおいては、312個の症例のうち23個および57個は、それぞれ、SPINK1発現(7.4%)およびTMRPSS2−ERG融合(18.3%)に対して陽性であり、ここでも、すべてのSPINK1陽性の症例について、TMRPSS2−ERG陰性(片側フィッシャーの正確確率検定、p=0.0008)であった。
【0169】
臨床的に局在する前立腺癌のために前立腺全摘出術によって処置される約25〜40%の患者は、疾患の再発を経験し、初めに、PSAの血中濃度の増加によって示される(生化学的制御)(Han et al.,Urol Clin North Am 28,555−65(2001),Hull et al.,G.W. et al.Cancer control with radical prostatectomy alone in 1,000 consecutive patients.J Urol 167, 528−34(2002))。したがって、SPINK1異常値状態が切除術後、生化学的再発に関連しているかどうかを、次に決定した。2つのデータセットは、次の生化学的再発情報および十分な数のSPINK1陽性の症例(>5)があった評価されたコホートから同定された。79人の患者(37個の再発を伴う)からの腫瘍を含み、それらのうちの10人は、SPINK1の異常値mRNA転写発現(>0.5正規化発現単位)を示す、Glinskyの遺伝子発現データセットが、分析された。これらの患者は、カプランマイヤー分析によって、異常値SPINK1発現(危険率:2.65、95% CI:1.16−6.07、ログ順位p=0.016)のない患者よりも有意に高いリスクの再発があった(図2c)。多変量Cox比例ハザード回帰分析はまた、SPINK1異常値状態は、グリーソンスコア、リンパ節の状態、切除縁状態、年齢および術前PSAから独立して、前立腺癌の臨床的再発の有意な予測因子であったことも示した(危険率:2.5、95% CI:1.1−6.0、p=0.035、表2)。
【0170】
同一の分析は、次に、IHCによってSPINK1状態に対して評価されたUMコホート(75個の症例、28個の再発)において実施された。カプランマイヤー分析によって、SPINK1陽性染色は、生化学的再発に有意に関連した(危険率:2.49、95% CI:1.01−6.18、p=0.04、図2d)。多変量Cox比例ハザード回帰分析は、SPINK1状態が他の臨床的パラメーターから独立して再発を予測することを再度確認した(表2)。4.1の調整された危険率(95% CI:1.4−11.7、p=0.009)と共に、それは、本モデルにおいて最も強い予測因子であった。
【0171】
最終検証として、SPINK1状態のためのIHCを、メモリアルスローンケタリング癌センター(Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC))からの817個の評価可能な前立腺癌(200個の再発)の独立したコホート上で実施した。このMSKCCコホートにおいては、異なるSPINK1抗体を用いて、UMおよびSWWコホートから独立してIHCが実施され、817個の症例のうちの297個の症例(36%)は、3つの3重のコアのうちの少なくとも1つにおいて、陽性SPINK1免疫活性を示した。加えて、染色強度は、UMおよびSWWコホートにおいて観察されたものよりもさらに可変であった。本コホートにおける、SPINK1染色(36%)を有する症例のパーセンテージが、他のIHCコホート(13%および7%)、またはDNAマイクロアレイおよびqPCR試験からのSPINK1異常値試料のパーセンテージ(17%および7%、表3参照)よりもはるかに大きいため、MSKCCコホートにおけるSPINK1陽性の症例は、陽性SPINK1免疫活性を示す、80%を超える細胞を示す少なくとも1つのコアを有するものとして定義され、他の試験と一致する、75個のSPINK1陽性の症例(9%)をもたらす。カプランマイヤー分析によって、MSKCCコホートにおけるSPINK1陽性染色は、生化学的再発にかかる時間を有意に短縮することを示した(危険率:2.32、95% CI:1.59−3.39、p=6.96E−06、図2e)。多変量Cox比例ハザード回帰分析は、SPINK1異常値状態が、グリーソンスコア、リンパ節の状態、切除縁状態、精嚢浸潤、嚢外伸長、および術前PSAから独立して、臨床的再発の有意な予測因子であったことを再度確認した(危険率:2.02;95% CI:1.37−2.99;p=0.0004、表2)。臨床的に、ノモグラムは、臨床的および病理学的パラメーターを最適に組み込むことによって、切除術後、生化学的再発の可能性を予測するために、一般的に使用される。SPINK1の付加が生化学的再発の前立腺切除術から7年後の可能性を予測するための確認されたノモグラムを改善するか否かを決定するために(Kattan et al.,J Clin Oncol 17,1499−507(1999))、ノモグラムおよびノモグラムプラスSPINK1状態のコンコーダンスインデックス(Kattan et al.,J Clin Oncol 21,3573−9(2003))(所与の2つの無作為に選択された患者である、より悪い予後を有する患者は、実際にはより悪い予後を有することを予測される可能性)を評価した。ブートストラップ修正済みコンコーダンスインデックスは、ノモグラムへのSPINK1状態の付加によってすべての3つのデータセットにおいて最小限に改善された(Glinsky et al:0.772対0.762、UM IHC: 0.698対0.676、およびMSKCC: 0.775対0.765)。したがって、SPINK1は、最適化された多変量モデルの予測能力に著しく影響を与えないが、SPINK1異常値状態は前立腺癌の進行性サブセットを同定することが3つのコホートからの971個の癌を分析することによって実証された。
【0172】
次に、SPINK1の異常値発現は、非侵襲的に検出され得るかどうかが決定された。SPINK1の血中濃度は、多数の悪性腫瘍の結果として異常調整され得(Paju and Stenman, Crit Rev Clin Lab Sci 43,103−42(2006);Stenman et al.,Clin Chem 48,1206−9(2002)、前立腺癌に罹患した患者の44%は、SPINK1の血中濃度の上昇を有することが報告されているので(Paju et al.,Eur Urol(2007))、異常値発現を有する患者の約11%を同定するための特定のアッセイ法(表3参照)を開発した。前立腺癌に罹患した男性の尿におけるTMRPSS2−ERG融合転写物の検出は、最近、記載され(Laxman et al.,Neoplasia 8,885−8(2006))、および本アッセイ法は、前立腺細胞によってもたらされる転写物をさらに直接的に評価することを可能にする。したがって、SPINK1発現は、TMRPSS2−ERG陽性(43)または陰性(105)として特徴付けられている前立腺癌に罹患した男性から採取された148の尿試料のコホートから評価された。図2fに示されるように、43のTMRPSS2−ERG陽性試料のうちの1つ(2.3%)は、著しいSPINK1過剰発現(正規化SPINK1発現の上位11%)を示し、それに対して105のTMRPSS2−ERG陰性試料のうちの15(14%)は、著しいSPINK1過剰発現を示した(フィッシャーの正確確率検定、p=0.02)。
【0173】
前立腺癌におけるSPINK1の機能的役割を調査するために、アデノウイルス発現SPINK1を生成し、良性の不死化前立腺上皮細胞株RWPEを、RWPE−SPINK1細胞を生成するために、アデノウイルスに感染させた。SPINK1の過剰発現は、RWPE細胞の増殖または浸潤における有意な効果がなかった(図3a−b)。SPINK1過剰発現が、良性の前立腺細胞における有意な効果がなかった際、SPINK1過剰発現は、共存する遺伝子病変の存在下で、前立腺癌の進行において後に生じ、その進行性前立腺癌に関連と一致し得ると仮定した。したがって、前立腺癌細胞株のパネルは、SPINK1異常値発現に対して分析された。SPINK1の異常値発現は、22RV1細胞株に排他的に同定され(図3c)、以前の研究と一致した(Paju et al.、上記参照)。進行性22RV1前立腺癌細胞株は、親のアンドロゲン依存性CWR22異種移植片の去勢誘発された回帰および再発した後、ヌードマウスにおいて連続的に繁殖されたヒト前立腺癌移植から得られた(Sramkoski, R.M.et al.A new human prostate carcinoma cell line,22Rv1.In Vitro Cell Dev Biol Anim 35,403−9(1999))。22RV1は、臨床的SPINK1異常値症例と同様に、ERGまたはETV1を過剰発現せず(図3c)、SPINK1異常値発現の細胞株モデルとしてその使用を支援する。
【0174】
22RV1におけるSPINK1の機能を評価するために、siRNAノックダウンを利用した。SPINK1ノックダウンは、22RV1増殖(図3d)における効果はなかったが、SPINK1ノックダウンは、修飾した基底膜を通して22RV1細胞の侵襲性を著しく軽減した(図3e〜図3f)。SPINK1ノックダウンは、VCaP(TMPRSS2:ERG陽性)またはLNCaP(ETV1再構成陽性)の侵襲性に効果がなかったが、ERG、ETV1およびSPINK1の相互排他的な過剰発現と一致し、22RV1におけるERGまたはETV1のsiRNAノックダウンは、VcaP(TMPRSS2:ERG陽性)やLNCaP(ETV1再構成陽性)の浸潤に効果がなかった(図3g〜図3h)。VcaPにおけるERG、およびLNCaPにおけるETV1のsiRNAノックダウンは、増殖に影響を及ぼすことなく、浸潤を同様に軽減した(図3g〜図3h)(Tomlins et al.,2007、上記参照)。さらに、22RV1−siSPINK1細胞のマイクロアレイ分析は、限定された転写効果のみを示し(76個の過剰発現した特性、14個の低発現した特性、表4および図7)、SPINK1ノックダウンは、細胞侵襲性に直接影響を及ぼすことを明らかにした。これらの結果は、総合して、前立腺癌の浸潤におけるSPINK1のための役割を提供し、進行性全立願におけるその過剰発現と一致する。
【0175】
前立腺癌のサブセットにおけるSPINK1の異常値発現は、SPINK1がTMPRSS2−ETS陽性前立腺癌と同様に、固有の分子事象によって活性化され得ることを示唆する。しかしながら、遺伝子座/調節および5’/3’スプリットプローブを用いたFISH試験は、それぞれ、SPINK1過剰発現を有する試料における、増幅または全体の再構成の証拠がないことを示した。さらに、SPINK1コード領域の配列分析は、SPINK1異常値発現を有する試料において変異がないことを同定した。本開示は、特定の機構に限定されない。実に、機構の理解は、本発明を理解するために必要ではない。とはいえ、SPINK1は、転写の増加によって、例えば、制御要素に影響を及ぼすプロモーター変異を通して、活性化されることが企図される。あるいは、SPINK1は、固有の上流遺伝的事象によって活性化され得る。しかしながら、ほとんどの遺伝子は、データセットにわたってSPINK1との一貫した相関関係を示さず(図8)、SPINK1が排他的な下流標的であることを示す。また、SPINK1は、TMPRSS2−ETS陽性癌において下方制御される可能性があるが、良性の前立腺上皮における、高いSPINK1発現を期待し、上に記載されるインビトロデータは、前立腺癌の進行における、SPINK1過剰発現の役割を支援する。
【0176】
結論として、独立した実験検証に加えて、コンピュータ内でバイオインフォマティクス分析の組み合わせを用いて、1,800個の前立腺癌におけるデータを分析し、TMPRSS2−ETS陰性前立腺癌のSPINK1の一貫した異常値発現を実証した(表3)。SPINK1過剰発現が既知の遺伝子融合事象に起因しない、前立腺癌(症例の約11%)の進行性分子サブタイプを定義することをもたらすという証拠が提供される。SPINK1は、尿において非侵襲的に観察され得、故に、前立腺癌のための遺伝子融合ベースの尿試験を補完するための役目を果たすことが示された。さらに、SPINK1異常値発現のための細胞株モデルとしての22RV1の効用が示された。更なる実験においては、メタ−COPAストラテジーを使用して、特定の癌型における候補癌遺伝子を指定した。
【0177】
(表1)Oncomineにおける7個の前立腺癌遺伝子発現プロファイリングデータセットのメタCOPA分析。
遺伝子は、所定の3つのパーセンタイルのカットオフ値(75、90、95)のうちのいずれかで上位100位以内の異常値(COPAにより順位付けられる)を記録した試験の数によって順位付けされた。上位100位に位置付けされた場合、遺伝子は試験におけるそれらの平均COPA順位(平均順位)によってさらに順位付けされた。

【0178】
(表2)SPINK1の生化学的再発に対する関連性の、多変量Cox比例ハザード回帰分析。

【0179】
(表3)コホートにわたるSPINK1異常値状態。
本試験で評価される6つのコホートに関しては、分析された全前立腺癌試料、SPINK1陽性試料数およびそのパーセンテージ(それぞれのアッセイ法のための方法に定義されるように)、および試料のパーセンテージは、SPINK1およびERG、ETV1またはTMPRSS2:ERGの相互排他的な過剰発現を示した(測定される場合)。その6つのコホートは、インシリコのマイクロアレイデータ、組織試料における定量PCR(qPCR)、ミシガン大学(University of Michigan、UM)免疫組織化学(IHC)/蛍光インサイツハイブリダイゼーション法(FISH)、スウェーディッシュウォッチフルウェイティング(Swedish Watchful Waiting(SWW))IHC/FISH、メモリアルスローンケタリング癌センター(Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC))IHC、および尿試料におけるqPCRである。

*非尿ベースのコホートからの個々のパーセントは、平均がとられた。qPCR尿コホートからのSPINK1陽性試料を定義するために、他のコホートからの11%平均のSPINK1正値性を使用した。
【0180】
(表4)22RV1細胞におけるSPINK1のsiRNAノックダウンにより異なって発現された遺伝子。
22RV1細胞を、SPINK1(siRNA SPINK1)または非標的制御siRNA(NT siRNA)に対してsiRNAでトランスフェクトした。全RNAを単離し、発現プロファイリングをAgilent Whole Human Genome Oligo Microarray(GPL4133)を用いて実施した。ハイブリダイゼーション(siRNA SPINK1/NT siRNA)は、複製染料フリップと共に二重に実施された。染色フリップ(siRNA SPINK1/NT siRNA)用に補正されプローブ名、遺伝子名および代表的配列、4つのハイブリダイゼーションにわたる平均倍率変化を含む、特異的に発現された特性(方法参照)を示す。


【0181】
実施例2 多重尿アッセイ
本実施例は、前立腺癌に関連するマーカーのための試料の評価で用いる多重尿アッセイを記載する。
【0182】
A. 方法
尿採取、RNA単離、増幅、および定量PCR
本試験は、ミシガン大学(University of Michigan)医学部の施設内治験審査委員会(IRB)によって承認され、試料は、ミシガン大学医療システム(University of Michigan Health System、UMHS)で、針生検(n=216)あるいは根治的前立腺切除術(n=60)のいずれかを行う前の直腸診に続いて、インフォームド・コンセントの上で276人の患者から得られた。尿は、DNA/RNA保存料を含む尿採取カップに(Sierra Diagnostics LLC、Sonora,CA)、排泄された。尿からのRNAの単離および全トランスクリプトーム増幅(whole transcriptome amplification(WTA))は、(Laxman et al.,Neoplasia 2006;8:885−8)に記載される通りであった。定量PCR(qPCR)を使用し、7個の前立腺癌バイオマーカー(AMACR、ERG、GOLPH2、PCA3、SPINK1、TFF3、およびTMPRSS2:ERG融合)、および(Laxman et al.,2006、上記参照、Tomlins et al.,Neoplasia 2006;8:153−62)に本質的に記載される、WTA増幅されたcDNAからの対照転写物PSAおよびGAPDHを検出した。ERG(エクソン5_6)(Tomlins et al., Science 2005;310:644−8)、GAPDH(Vandesompele et al.,Genome Biol 2002;3:RESEARCH0034)、AMACR(Kumar−Sinha et al.,Am J Pathol 2004;164:787−93)、およびPSA(Specht et al.,Am J Pathol 2001;158:419−29)に対するプライマー配列は、以前に記載されており、他のバイオマーカーに関しては、以下のように示す。

TMPRSS2:ERG融合は、Taqmanプライマー/プローブを用いて、以下の配列と共に検出された。

閾値は、配列検出ソフトウェアバージョン1.2.2(Applied Biosystems,Foster City,CA)を用いて、qPCR反応の対数期中、それぞれのプレートに対して同一の基線および閾値セットと共に、設定され、それぞれの試料のためにすべての遺伝子のために、閾値サイクル(C)値を生成した。
【0183】
分析
qPCRは、111人の生検陰性の患者および前立腺癌に罹患した165人の患者(105人の生検陽性の患者および60人の前立腺切除術を受けた患者)から採取された尿からのWTAのcDNAにおいて実施された。27を超えるPSA C値を有する試料は、試料内の前立腺細胞の十分な量を確保するために除外し、分析における、105人の生検陽性および前立腺癌に罹患した患者からの152の試料をもたらした。qPCR分析に関しては、対照(2-ΔCt)に対する試験マーカーではなく、未加工の−ΔCを(試験変数の分散を安定するために)使用した。TMPRSS2:ERGは、陽性試料を37未満のC値を有するものとして定義して、組織試料において観察された融合陽性または陰性状態に反映するための2値変数として二分された(Tomlins et al.,2005、上記参照、Perner et al.,Am J Surg Pathol 2007;31:882−8)。PCA3が、前立腺組織特定のマーカーであることを報告されているので(de Kok et al.,Cancer Res 2002;62:2695−8)、それは、尿PSA(CtPSA−CtPCA3)に対して正規化された。すべての他の試験変数は、尿PSAとGAPDH値の平均((CtPSA+CtGAPDH)/2−Ct変数)に対して調整された。異常値を示す22の試料は、それらの試料における少なくとも1つの試験変数が、その試料平均から標準偏差3を下回る調整値を示し、qPCRの失敗を示唆したため、除外された。これにより、前立腺癌に罹患した138人の患者(86人の針生検陽性の患者および52人の根治的前立腺切除術を受けた患者)および96人の生検陰性の患者からの試料の採集データセットを得た。
【0184】
統計分析
一変量および多変量ロジスティック回帰を、前立腺癌の診断状態と試験変数との間の関連性を分析するために使用した。多変量ロジスティック回帰に関しては、赤池情報量基準(AIC)ベースの逆方向選択を使用し、重要度の低い条件を除外した(Venables WNaR,B.D Modern Applied Statistics with S,4th edition.:New York:Springer,2002)。すべての試験マーカーが、初期回帰モデルに含まれ、該モデルは、AICベースの逆方向選択によってさらに改良された。最終モデルを決定した後、それぞれの試料のための予測信頼度を、受信者動作特性(ROC)曲線を生成するための入力として使用し、濃度曲線下面積(AUC)を算出した。すべての試料を回帰モデル生成のために使用したので、予測されたAUCは過剰最適化された可能性がある。この偏りを修正するために、leave−one−out交差検定法を実施した。略説すると、1つの試料を除外する一方、該回帰モデルは、最適マーカーを選択し、係数を予測するために、残りの試料に対して照準された。その後、除外した試料のためのモデル予測に基づいて、予測信頼度を算出した。すべての試料が1度ずつ除外されるまで、これを繰り返し、生成された予測信頼度を、その後、ROC分析として使用した。同様に、PCA3は、AUCを生成するためにロジスティック回帰モデルにフィットさせた。AUCの差異は、前に記載されるように、分析された(DeLong et al.,Biometrics 1988;44:837−45)。すべての分析は、Rにおいて実施され、ROC曲線はSPSS11.5でプロットした(SPSS Inc.,Chicago,IL,USA)。
【0185】
リスクの階層化
臨床情報は、臨床ステージ、グリーソンスコア、および生検結果および病理的データに基づくリスク分類等の臨床学的因子との関連を決定するために、カルテから同定された(D’Amico et al.,JAMA 1998;280:969−74)。臨床的ノモグラムを使用し、無増悪生存率および病理学的病期分類のリスクを算出した(Kattan et al.,J Natl Cancer Inst 1998;90:766−71、Kattan et al.,Cancer 1997;79:528−37)。新規のリスク階層化分類(高リスク対低リスク)はまた、すべてのグリーソン6腫瘍、臨床的T1cステージを有する任意のグリーソン7腫瘍、またはグリーソン3+4腫瘍を低リスク腫瘍として、およびグリーソン8+、ステージT2グリーソン7腫瘍またはグリーソン4+3の階層化を有する腫瘍を高リスク腫瘍として分類することによって評価された。すべての変数は、それぞれの臨床的リスク群と一変量関連のために試験された。
【0186】
B.結果
前立腺癌に対する多重qPCRベースの試験を開発するために、既刊された報告書に基づく7個の推定前立腺癌バイオマーカー、ならびに前立腺癌に罹患した138人の患者(86人の針生検陽性の患者および52人の根治的前立腺切除術を受けた患者)および針生検陰性を有する96人の患者の最終コホートにおける我々の群からの分析を評価した。バイオマーカーは、PCA3、AMACRおよびGOLPH2等の前立腺癌において、一般に、過剰発現されるもの(Rubin et al.,JAMA 2002;287:1662−70;de Kok et al.、上記参照)、ならびにERGおよびTMPRSS2:ERG、ならびにTFF3およびSPINK1(Tomlins et al,2005、上記参照;Faith et al.,Prostate 2004;61:215−27;Garraway et al.,Prostate 2004;61:209−14)等の前立腺癌のサブセットにおいて過剰発現されるものを含んだ。
【0187】
すべての遺伝子はまず、前立腺癌に罹患した特異な患者を陰性針生検を有する患者から識別するための有意な関連を示す、GOLPH2(P=0.0002)、SPINK1(P=0.0002)、PCA3(P=0.001)、およびTMPRSS2:ERG融合(P=0.034)を用いて、一変量解析によって試験された(図9および表5)。組織における前立腺癌に対して感度があり、特定のバイオマーカーであることが以前に示されているAMACR(Rubin et al.,2002、上記参照)と、前立腺癌のサブセットにおける高度発現を示すTFF3(Faith et al.,Prostate 2004;61:215−27、Garraway et al.,Prostate 2004;61:209−14)は共に、尿試料を用いる際の、前立腺癌の統計的に有意な予測因子ではなかった(それぞれ、P=0.450および0.189)。尿におけるAMACRおよびTFF3の特異性の欠如は、尿に流すこともできる細胞物質に由来する尿路または腎臓におけるこれらの転写物の発現のためであり得る。TMPRSS2:ERG融合が前立腺癌の存在に有意に関連する一方(図9および表5)、ERG過剰発現は、一変量解析において癌存在に関連せず(P=0.166)、他の組織からの細胞は、尿へのERG転写物をもたらし得ることを示す。さらに、生検または前立腺切除術前のPSAの血中濃度はまた、本コホートにおける癌存在に関連しなかった(P=0.376)。受信者動作特性曲線(ROC)に基づいて前立腺癌を検出するための能力の個別の変数として試験された際、GOLPH2(濃度曲線下面積(AUC)=0.664、P=2.01E−5)、PCA3(AUC=0.661、P=2.84E−5)、およびSPINK1(AUC=0.642、P=0.0002)は、PSAの血中濃度よりも検出能力が高かった(AUC=0.508、p=0.837)(図9)。したがって、本試験は、生検試料の代わりに患者の尿を用いる、前立腺癌の非侵襲的検出のための多数の新規バイオマーカーを同定した。
【0188】
多重モデルがこれらの単一バイオマーカーの性能を改良することができるか否かを決定するために、分析された前立腺癌バイオマーカーは、次に、赤池情報量基準(AIC)ベースの逆方向選択を使用し、多変量回帰分析において試験され(Venables, B. D Modern Applied Statistics with S, 4th edition.: New York: Springer,2002)、モデルから重要度の低い条件を除外した。本分析は、SPINK1(P=7.41E−5)、PCA3(P=0.003)、GOLPH2(P=0.004)、およびTMPRSS2:ERG(P=0.006)を含む最終モデルをもたらした(表5)。前立腺癌を診断するための本モデルの性能を評価するために、最終モデルから得られた予測信頼度に基づいて、ROC分析を実施した。尿ベースのPCA3の検出は、選択的検出法(Venables WNaR,B.D Modern Applied Statistics with S,4th edition.:New York:Springer,2002、Hessels et al.,Eur Urol 2003;44:8−15; discussion−6;Fradet et al.,Urology 2004;64:311−5; discussion 5−6;Groskopf et al.,Clin Chem 2006;52:1089−95、Marks et al.,Urology 2007;69:532−5)を用いて、単一バイオマーカーとして類似のコホートにおいて、以前に評価されているので、多重モデルからのROC曲線およびPCA3のみを比較した。例えば、van Gilsらは、3〜15ng/mLの間の血清PSAを有する前立腺生検を受けた534人の男性のコホートにおいて、尿PCA3検出発現は、0.57の血清PSAと比較して、0.66のAUCがあったことを示した(van Gils et al.,2007、上記参照)。図10Aに示されるように、本明細書に記載されるコホートにおいて、多重モデルに対するAUC(0.758、P=1.91E−11)は、PCA3のみに対するAUC(0.662、P=2.58E−5)と比較して、有意に改善された(P=0.003(DeLong et al.,Biometrics 1988;44:837−45))。感受性および特異性の最大合計値(それぞれ、65.9%および76.0%)を用いた多重モデルROC上の点で、陽性の予測値は、79.8%であり、陰性の予測値は、60.8%であった(図10A)。PCA3は、血清PSAと比較して、改善されたAUCを示すことが示された。また、PCA3を含む多重モデルは、PCA3のみの予測能力を有意に改善することも示され、PCA3および他の単一遺伝子ベースの診断試験を改善するための能力を示す。
【0189】
すべての試料を使用して、回帰分析のための変数のサブセットを選択したので、これは、報告されたAUCを過剰最適化する可能性を有する。したがって、不偏のAUCを作成するためにLeave‐one‐out交差検定(LOOCV)ストラテジーが用いられた。図10Bに示されるように、LOOCV多重モデルに対するAUC(0.736)は、ここでも、LOOCV PCA3のみに対するもの(0.645)よりも有意に良好(P=0.006)であった。感受性および特異性の最大合計値(それぞれ、62.3%および75.0%)を用いたLOOCV多重モデルROC上の点で、陽性の予測値は、78.2%であり、陰性の予測値は、58.1%であった(図10B)。
【0190】
患者パラメーターに基づく臨床的リスク群を予測するためのこれらの遺伝子マーカーの能力が、次に、分析された。臨床的リスク群は、生検を追跡する、治療を決定する、または監視レジメンのために患者を階層化する決定を導く、臨床的患者データによって決定された(方法参照)。これらの前立腺癌バイオマーカーと臨床的リスク群との間の限定された関連のみが、リスク群との関連を示すGOLPH2、SPINK1、およびTMPRSS2:ERG状態と共に、観察された。乳癌再発の危険性に対する以前に記載されているPCRベースの試験に類似して、前立腺癌リスク試験は、疾患経過にさらに好適な療法を、高リスク患者に推進するために、使用することができる(van Gils et al.、上記参照)。
【0191】
要約すれば、本実施例は、血清PSAまたはPCA3のみに比べて優れた性能を示す前立腺生検または前立腺切除術を受けた患者から採取した沈降尿における、多重qPCRベースのアッセイを記載する。PCA3、SPINK1、GOLPH2、およびTMPRSS2:ERG状態の組み合わせである、多重尿試験は、75%を超える特異性および陽性の予測値を達成し、前立腺癌を検出する際に特異性の低い、血清PSAを補完するために有用な試験を可能にする。
【0192】
(表5)

【0193】
上の明細書に言及されるすべての刊行物および特許は、参照することにより本明細書に組み込まれる。本発明の記載の方法およびシステムの様々な修正および変更は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者に明らかとなるであろう。本発明は、特定の好適な態様に関連して記載されているが、特許請求される本発明は、このような特定の態様に過度に限定されるべきではないことを理解されるべきである。実際には、関連分野における当業者に明らかである本発明を実行するための記載の形態の様々な修正は、添付の特許請求の範囲内であることを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)患者由来の前立腺細胞を含有する試料を提供する工程;
(b)前立腺細胞を含有する試料において、SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現を検出する工程;および
(c)前立腺細胞を含有する試料において、ERGおよび/またはETV1の正常発現を検出する工程
を含む、患者における前立腺癌を同定するための方法であって、
前立腺細胞を含有する試料において、ERGおよび/またはETV1の正常発現と比較したSPINK1の相互排他的な過剰発現を検出する工程により、患者における前立腺癌を同定する、方法。
【請求項2】
工程(b)が、SPINK1のRNAの過剰発現を検出することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(b)が、SPINK1のタンパク質の過剰発現を検出することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前立腺細胞を含有する試料が、前立腺組織、血液、尿、精液、前立腺分泌物、または単離された前立腺細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前立腺細胞を含有する試料において、SPINK1の過剰発現を検出する工程により、患者における浸潤性前立腺癌を同定する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前立腺細胞を含有する試料が、根治的前立腺切除術後の患者に由来し、かつSPINK1の過剰発現により、根治的前立腺切除術後の患者における前立腺癌の再発を同定する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
(a)患者由来の前立腺細胞を含有する試料を提供する工程;ならびに
(b)前立腺細胞を含有する試料において、
(i)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、およびPCA3の正常発現と比較したPCA3の過剰発現、
(ii)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、およびGOLPH2の正常発現と比較したGOLPH2の過剰発現、
(iii)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、およびTMPRSS2:ERGの存在、
(iv)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、PCA3の正常発現と比較したPCA3の過剰発現、およびGOLPH2の正常発現と比較したGOLPH2の過剰発現、
(v)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、PCA3の正常発現と比較したPCA3の過剰発現、およびTMPRSS2:ERGの存在、
(vi)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、GOLPH2の正常発現と比較したGOLPH2の過剰発現、およびTMPRSS2:ERGの存在、または
(vii)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、PCA3の正常発現と比較したPCA3の過剰発現、GOLPH2の正常発現と比較したGOLPH2の過剰発現、およびTMPRSS2:ERGの存在
を検出する工程
を含む、患者における前立腺癌を同定するための方法であって、
前立腺細胞を含有する試料において、SPINK1の過剰発現を検出する工程により、患者における前立腺癌を同定する、方法。
【請求項8】
工程(b)が、SPINK1のRNAの過剰発現を検出することを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
工程(b)が、SPINK1のタンパク質の過剰発現を検出することを含む、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前立腺細胞を含有する試料が、前立腺組織、血液、尿、精液、前立腺分泌物、または単離された前立腺細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
(a)患者由来の前立腺細胞を含有する試料を提供する工程;ならびに
(b)前立腺細胞を含有する試料において、
(i)SPINK1の正常発現と比較したSPINK1の過剰発現、
(ii)PCA3の正常発現と比較したPCA3の過剰発現、
(iii)GOLPH2の正常発現と比較したGOLPH2の過剰発現、および
(iv)TMPRSS2:ERGの存在
を検出する工程
を含む、患者における前立腺癌を同定するための方法であって、
前立腺細胞を含有する試料において、SPINK1の過剰発現を検出する工程により、患者における前立腺癌を同定する、方法。
【請求項12】
以下のうちの少なくとも1つを含む、組成物:
(a)SPINK1のRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含む第1のオリゴヌクレオチドプローブ、ERGのRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含む第2のオリゴヌクレオチドプローブ、およびETV1のRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含む第3のオリゴヌクレオチドプローブ;
(b)第1の対のそれぞれの増幅オリゴヌクレオチドが、SPINK1のRNAもしくはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含む、第1の増幅オリゴヌクレオチド対、第2の対のそれぞれの増幅オリゴヌクレオチドが、ERGのRNAもしくはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含む、第2の増幅オリゴヌクレオチド対、およびそれぞれの増幅オリゴヌクレオチドが、ETV1のRNAもしくはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含む、第3の増幅オリゴヌクレオチド対;または、
(c)SPINK1のタンパク質に特異的に結合する第1の抗体、ERGのタンパク質に特異的に結合する第2の抗体、およびETV1のタンパク質に特異的に結合する第3の抗体。
【請求項13】
以下のうちの少なくとも1つを含む、組成物:
(a)
(i)SPINK1のRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含むオリゴヌクレオチドプローブ、および
(ii)
(A)PCA3のRNAもしくはcDNA、
(B)GOLPH2のRNAもしくはcDNA、または
(C)キメラRNAの5’部分がTMPRSS2遺伝子から転写され、かつキメラRNAの3’部分がERG遺伝子から転写される、キメラRNAもしくはcDNAの接合部
に特異的にハイブリダイズする配列を含む、少なくとももう1つのオリゴヌクレオチドプローブ
を含む、少なくとも2つのオリゴヌクレオチドプローブ;
(b)
(i)それぞれの増幅オリゴヌクレオチドが、SPINK1のRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含む、1対の増幅オリゴヌクレオチド、および
(ii)
(A)それぞれの増幅オリゴヌクレオチドが、PCA3のRNAもしくはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含むか、
(B)それぞれの増幅オリゴヌクレオチドが、GOLPH2のRNAもしくはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列を含むか、または
(C)TMPRSS2遺伝子もしくはその対応するcDNAから転写されたキメラRNAの5’部分に特異的にハイブリダイズする配列を含む第1の増幅オリゴヌクレオチド、およびERG遺伝子もしくはその対応するcDNAから転写されたキメラRNAの3’部分に特異的にハイブリダイズする配列を含む第2の増幅オリゴヌクレオチドを含む、
少なくとももう1対の増幅オリゴヌクレオチド
を含む、少なくとも2対の増幅オリゴヌクレオチド;または
(c)
(i)SPINK1のタンパク質に特異的に結合する抗体、および
(ii)
(A)GOLPH2のタンパク質、
(B)ネイティブERGタンパク質、
(C)TMPRSS2遺伝子とERG遺伝子との融合体によってコードされる、アミノ末端が切断されたERGのタンパク質、または
(D)TMPRSS2遺伝子によってコードされたアミノ末端部と、ERG遺伝子によってコードされたカルボキシ末端部とを有するキメラタンパク質
に特異的に結合する、少なくとも2つの抗体
を含む、少なくとももう1つの抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−508855(P2010−508855A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536481(P2009−536481)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/084090
【国際公開番号】WO2008/058239
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(505053844)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (16)
【Fターム(参考)】