説明

前胃細胞外マトリックス由来の組織スキャフォールド

本発明は、反芻動物の前胃由来の細胞外マトリックス(ECM)スキャフォールドの開発に関する。該スキャフォールドは、創傷治癒、組織再生、及び乳房再建を含む、多くの臨床的及び治療的応用に有用である。加えて、本発明は、反芻動物前胃を含むがそれに限定されない哺乳類器官からECMスキャフォールドを単離する方法を特徴とする。このような方法は、組織の2つの側面の間の貫壁性浸透流を作り出すことを含む。本発明はさらに、個々のECMシートの間に配置されるポリマーを含む、積層ECMスキャフォールドを特徴とする。該ポリマーは、該スキャフォールドの機能性を高めるために生物活性分子を任意に含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2008年7月30日出願の米国仮出願第61/137,367号及び2009年4月24日出願の米国仮出願第61/172,671号の優先権を主張する。該先行出願の全ての内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
細胞外マトリックス(ECM)は、組織の成長と再生にとって最適な化学的及び構造的環境を提供することにおいて重要な役割をもっている。組織再生に用いられるECMスキャフォールドは従来、様々な器官や様々な動物の粘膜下組織及び基底膜源から単離された、脱細胞されたヒト及び動物の真皮から調製される。これらスキャフォールドは、組織再生を促進し、免疫学的に寛容性が良好である。一般的な粘膜下組織の移植片組成物は、小腸、膀胱、及び単一の腺胃(simple glandular stomach)由来である(例えば米国特許第4,902,508号、米国特許第5,554,389号、及び米国特許第6,099,567号を参照のこと、これらの全内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ECMスキャフォールドの生産及び使用における進歩にも関わらず、理想的なスキャフォールド組成物は特定されていない。理想的スキャフォールドは非アレルギー性で、非発ガン性で、持続的応力下で機械的に安定で、毛細血管化を可能とするのに十分に多孔質であり、適切な細胞及び脈管の内部成長を促進及び進めることができ、宿主組織と同様の適合性を持ち、感染に対して抵抗性があり、非血栓形成性であり、安価であり、そして元の組織の完全な機能的アナログになることができるものである。これらの性質を持つECMスキャフォールドは、創傷修復及び軟組織再生を含む様々な臨床的応用にとって有用であろう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
本発明は、反芻動物の前胃に由来し、また、本明細書では“前胃マトリックス”(FM)スキャフォールドと呼ばれる細胞外マトリックス(ECM)スキャフォールドを提供する。本発明のFMスキャフォールドは、先行の組織スキャフォールドに優る多くの利点を提供し、創傷修復及び組織再生を含む、様々な臨床的及び治療的応用に有用である。さらに、本発明は、反芻動物前胃を含むがそれに限られない、哺乳類器官からECMスキャフォールドを生産するための改良法を提供する。特定の実施形態では、本発明のFMスキャフォールドは、例えばCapra aegagrus hircus、Bos taurusまたはOvis ariesといったCapra、Bos、CervusまたはOvis属に属する反芻動物に由来してもよい。
【0005】
従って、第一の態様では、本発明は、反芻動物の前胃の固有−粘膜下組織(propria-submucosa)のECMを含む、組織スキャフォールド(FMスキャフォールド)を特徴とする。特定の一実施形態では、固有−粘膜下組織は前胃の第一胃、第二胃、または第三胃に由来する。これらの組織スキャフォールドは、典型的には起伏のある管腔表面を有する。本発明のECM組織スキャフォールドは、上皮、基底膜または筋層(tunica muscularis)の一部分、及びそれらの組み合わせを含む、脱細胞された組織を追加的に含んでもよい。該組織スキャフォールドはまた、I型コラーゲン、III型コラーゲンまたはエラスチン、及びそれらの組み合わせを含むがそれらに限られない、1つまたはそれ以上の繊維性タンパク質を含んでもよい。他の実施形態においては、該組織スキャフォールドは、FGF−2、TGFb1、TGFb2またはVEGF及びそれらの組み合わせを含むがそれらに限られない、1つまたはそれ以上の成長因子を含むことができる。さらに他の実施形態では、該組織スキャフォールドは、ヒアルロン酸及びヘパラン硫酸、及びそれらの組み合わせを含むがそれらに限られない、1つまたはそれ以上のグリコサミノグリカンを含むことができる。別の実施形態では、該組織スキャフォールドは、フィブロネクチン、IV型コラーゲンまたはラミニン、及びそれらの組み合わせを含むがそれらに限られない、1つまたはそれ以上の接着タンパク質を含むことができる。
【0006】
本発明のFMスキャフォールドは、単層シート、またはFMの多数のシートを含む積層シートのような、様々な様式に合わせることができる。ある実施形態では、FMスキャフォールドは2〜15の積層シートを含む。該積層シートは、縫合(stitches or sutures)によってまとめることができる。もう一つの方法として、該積層シートは、1つまたはそれ以上のシートの間の中に配置されたポリマーによってまとめることができる。一つの実施形態では、該積層シートは、縫合によって貼り付けられ、追加的に1つまたはそれ以上のシートの間に配置されたポリマーを含む。別の実施形態では、積層組織スキャフォールドは、それぞれの積層シートの間に配置されたポリマーを含む。該ポリマーは、該シート間に散りばめてもよく、またはポリマー層として均一に配置してもよい。コラーゲン、キトサン、アルギン酸塩(alginate)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びそれらの組み合わせを含むがそれらに限られない、あらゆる適切なポリマーを、本発明のFMスキャフォールドに用いてよい。
【0007】
特定の一実施形態では、該ポリマーはさらに、例えば、小分子またはぺプチドのような生物活性分子を含む。該生物活性分子は例えば、粒子、微小粒子またはコロイドとして封入された懸濁液として、またはそれらの混合物として、非共有的に該ポリマー中に組み込まれてよい。該生物活性分子はまた、該生物活性分子を該ポリマーに付着させるためのあらゆる適切な化学的性質を用いて、共有的にポリマー中に組み込まれてよい。該生物活性分子は成長因子、抗菌剤、鎮痛剤、止血剤、血管新生促進剤または血管新生抑制剤といった、あらゆる治療的に望ましい分子でありうる。典型的実施形態では、該ポリマーはFGF2、NGF、ドキシサイクリン、アモキシシリン及びポリ−L−リジンのうちの1つまたはそれ以上を含む。
【0008】
別の特定の実施形態では、FMスキャフォールドは少なくとも10cmの幅を有する。例えば、該スキャフォールドは、少なくとも10cmの幅、及び少なくとも10cmの長さを有することができる。従って、あるFMスキャフォールドは、例えば400cmといった100cmより大きい表面積を有することができる。一実施形態では、FMスキャフォールドの単層または積層シートは孔が開いている。別の実施形態では、FMは流体化、または微粉化されている。
【0009】
本発明のFMスキャフォールドは一般的に、他の胃腸または泌尿生殖器源から得られたスキャフォールドより大きな2軸強度を有する。従って、特定の一実施形態では、FMスキャフォールドは、少なくとも80Nまたはそれ以上の平均2軸強度を有する。
【0010】
本発明の組織スキャフォールドは、組織欠損の被覆及び軟組織強化を含むがそれらに限られない、多数の応用に用いることができる。特定の一実施形態では、該組織欠損または該軟組織は少なくとも10cmの幅を有する。別の実施形態では、該組織欠損または該軟組織は少なくとも10cmの幅及び少なくとも10cmの長さを有する。さらに別の実施形態では、該組織欠損または該軟組織は少なくとも100cmの表面積を有する。
【0011】
従って、別の態様では、本発明は損傷組織の修復を誘導するための方法を特徴とし、該方法は、該損傷組織を本発明のFMスキャフォールド、例えば、反芻動物の固有−粘膜下組織のECMを含むものと接触させることを含む。本発明はさらに、軟組織再生を促進する方法を特徴とし、該方法は、該軟組織を本発明のFMスキャフォールドと接触させることを含む。
【0012】
FMスキャフォールドがある組織と接触状態に置かれたとき、該FMスキャフォールドは、該スキャフォールド近くに位置する細胞の増殖を増進させることができる。加えて、該FMスキャフォールドは、それが付着する組織内部の脈管形成(vascularization)を促進することができる。よって、別の態様では、本発明は、組織における細胞増殖を促進する方法を提供し、該方法は、細胞増殖が促進されるように、該組織をFMスキャフォールドに接触させることを含む。本発明はさらに、組織の脈管形成を誘導する方法を提供し、該方法は、脈管形成が該組織内部で起こるように、該組織をFMスキャフォールドに接触させることを含む。
【0013】
別の態様において、本発明は、患者内部で乳房組織を支持するための移植可能な組織スキャフォールド装置を特徴とする。ここで、該装置は反芻動物前胃の固有−粘膜下組織の細胞外マトリックスを含む。該乳房組織は、人工乳房、即ち乳房インプラントを含んでもよい。該組織スキャフォールド装置は、細胞外マトリックスの2つまたはそれ以上の層を含む積層シートとして構成されてもよい。特定の一実施形態では、該積層シートは細胞外マトリックスの層を2〜15層含む。
【0014】
該組織スキャフォールド装置は、平坦でもよい、または凹面を有していてもよい。一実施形態では、該装置の細胞外マトリックスの層は、縫合によってまとまって固定されてもよい。該細胞外マトリックスは、孔を開けてもよい、または開けなくてもよい。ある実施形態では、該装置は三日月型を有する。他の実施形態では、該装置は楕円型を有する。
【0015】
別の態様において、本発明は患者内部で乳房組織を支持する方法を提供し、該方法は、前述の組織スキャフォールド装置を該患者内部の該乳房組織に対する支持位置に配置することを含む。一実施形態では、該乳房組織は人工乳房を含む。別の実施形態では、該乳房組織は、天然組織を含む。特定の一実施形態では、該組織スキャフォールドの配置は、該乳房組織の下部及び側面部分を覆うことを含む。
【0016】
別の態様では、本発明は、シート間に配置されたポリマーによって積層された、2つまたはそれ以上の細胞外マトリックス層を含む組織スキャフォールドを提供する。該スキャフォールドは、小腸、胃、膀胱、心膜及び真皮からなる群より選ばれる組織の粘膜下組織の細胞外マトリックスを含んでもよい。特定の一実施形態では、該細胞外マトリックスはコラーゲンを含む。該ポリマーはコラーゲン、キトサン、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0017】
前述した態様の、特定の一実施形態では、該ポリマーはさらに生物活性分子を含む。該生物活性分子は、非共有的にまたは共有的に、該ポリマーと結合していてもよい。一実施形態では、該生物活性分子は、例えば、成長因子、抗菌剤、鎮痛剤、止血剤、血管新生促進剤、血管新生抑制剤またはそれらの組み合わせといった小分子またはポリペプチドでもよい。典型的生物活性分子には、FGF2、NGF、ドキシサイクリン、ポリ−L−リジン及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0018】
さらにもう一つの態様では、本発明は組織の全部または一部の内部の層を分離する、及び/または脱細胞化することによって、ECM組織スキャフォールドを作り出す方法を提供する。該方法は、該組織の全部または一部の内部の層が分離される、及び/または脱細胞化されるように、該組織の2つの側面の間で貫壁性(transmural)浸透流を作り出すことを含む。該貫壁性浸透流は、該組織の全部または一部の管腔側から反管腔側へ、または該組織の全部または一部の反管腔側から管腔側へ向けることができる。これは、例えば高張溶液と低張溶液との間で該組織を分離することによって、貫壁性浸透流が該低張溶液から該高張溶液へ流れるように、達成することができる。該方法は、さらに、上皮、基底膜または筋層及びそれらの組み合わせを含む組織層の全部または一部を除去することを含みうる。
【0019】
特定の一実施形態では、本発明の方法は、器官または組織(またはその一部)内部に第一の溶液を封入すること、及び該器官または組織(またはその一部)を、該第一の溶液より高張である第二の溶液に浸すことを含む。この方法はさらに、例えば該組織をさらに脱細胞化するために、該器官または組織を該第二の溶液から取り出すこと、及び該器官または組織、またはその一部を、同様に該第一の溶液より高張である第三の溶液に浸すことを含むことができる。
【0020】
別の実施形態では、該方法は、器官または組織(またはその一部)内部に第一の溶液を封入すること、及び該器官または組織(またはその一部)を該第一の溶液より高張である第二の溶液に浸すこと、続いて、任意に、該器官または組織、またはその一部を同様に該第一の溶液より高張な第三の溶液に浸すことを含む。
【0021】
該高張及び低張溶液は、例えば、水、及び任意に少なくとも1つのバッファー、デタージェントまたは塩を含むことができる。該高張溶液は該低張溶液よりも、より高い濃度の溶質を含む。特定の一実施形態では、該高張溶液は4M NaClを含み、及び該低張溶液は0.028%Triton X−200及び0.1%EDTAを含む。別の特定の実施形態では、該低張溶液は0.1%SDSを含む。さらに別の実施形態では、該低張溶液は0.028%Triton X−200、0.1%EDTA、及び0.1%SDSを含む。
【0022】
本発明の方法は、例えば、4℃またはそれ以下(例えば、約2℃から約4℃の間)の低温で行うことができる。本発明の方法は、かわりに、室温または室温付近(例えば約18℃から約24℃の間)で行うことができる。該方法はまた、他の方法を用いたときに可能な時間よりもより短い時間で、組織層を分離及び脱細胞化させることができる。特定の実施形態では、該組織層は、36時間以内で、より好ましくは24時間以内で、分離及び脱細胞化される。他の実施形態では、該組織層は6時間以内(例えば5時間以内、4時間以内、または、3時間以内)で分離及び脱細胞化される。
【0023】
本発明の方法は、あらゆる適切な組織源または器官を用いることができる。特定の一実施形態では、該組織は角化重層扁平上皮を含む。他の特定の実施形態では、該組織は反芻動物、例えば、Capra、Bos、Cervus及びOvis属に属する動物の前胃由来である。さらに他の実施形態では、該組織は、前胃の第一胃、第二胃または第三胃由来である。該組織は、任意に、分離及び脱細胞化がさらに促進するように、該組織層を横断する貫壁性浸透流を増やすために膨張させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】図1は、未処理状態及びSTOF処理後両方の(A)前胃壁及び(B)腺胃壁の横断面概要図である。
【図1B】図1は、未処理状態及びSTOF処理後両方の(A)前胃壁及び(B)腺胃壁の横断面概要図である。
【図2A】図2は、豊胸手術、乳房再建または乳房固定術に有用なFMスキャフォールドの2つの典型的形状を説明する。(A)は三日月型のスキャフォールドを示す。(B)は楕円型のスキャフォールドを示す。
【図2B】図2は、豊胸手術、乳房再建または乳房固定術に有用なFMスキャフォールドの2つの典型的形状を説明する。(A)は三日月型のスキャフォールドを示す。(B)は楕円型のスキャフォールドを示す。
【図3】図3は、器官を横断して流れる貫壁性浸透流を確立することによって、該器官を処理する方法の一実施形態を説明する。
【図4】図4は、破砕された基底膜を持つ脱細胞化されたFMスキャフォールドを生産するための、STOFを用いた組織処理の典型的実施例を示す。
【図5】図5は、STOF処理前後の組織の全核酸含量を示す。
【図6】図6は、前胃組織の表面積とSTOF処理後の前胃全体積の増加との間の線形関係を示す。
【図7】図7は、貫壁性浸透流の結果としての組織重量変化を示す。該組織を通過及び進入する液体により組織水和が増加したため、重量増加が起きた。
【図8】図8は、STOF処理完了時のSTOF溶液中におけるラミニンのウェスタンブロット検出を示す。
【図9】図9は、FMの相対的強度を示しているボールバースト試験の結果を示す。
【図10】図10は、多層ヒツジFMプロダクトのボールバースト強度をグラフにより示す。単層または多層のヒツジFMプロダクトの2軸強度は、ASTM D 3797-89 “Standard Test Method for Bursting Strength of Knitted Goods, Constant-Rate-of-Traverse (CRT) Ball-burst Test”に準じたボールバースト試験を用いて、またボールバースト圧縮ケージを取り付けた、Instron5800シリーズの電気機械テスターを用いて決定した。該機械により、25.4mmのステンレス鋼ボールが、305+/−13mm/minの送り速度で、試験材料に対し、破損するまで押された。破損時における最大圧縮負荷(N)を記録するために1kNのロードセルを用いた。エラーバーは、少なくとも5サンプルの標準誤差を示している。
【図11】図11は、4層のヒツジFM及び市販のインプラントプロダクトに関する、正規化された最大圧縮負荷の比較を示す。エラーバーは、少なくとも5サンプルの、または、既報のデータからの標準誤差を示す。
【図12】図12は、FMの相対的強度を示している1軸試験の結果を示す。
【図13A−C】図13は、単層及び多層ヒツジFMプロダクトの強度の比較を示す。(A)破損時の最大負荷(N);(B)最大接線剛性(N/mm);(C)最大伸長(mm);(D)弾性係数(ヤング係数)(GPa);(E)降伏応力(MPa)及び(F)厚み。単層及び多層プロダクトの破損時の最大負荷は、Instron5800シリーズ電気機械テスターを用いて決定した。様々な材料は、幅0.6cmのイヌ用骨型サンプルに切断した。サンプルを、7.5cmのゲージ長で固定し、破損するまで25.4mm/minの速度で伸ばした。負荷(N)は、500Nロードセルを用いて記録した。剛性は、負荷(N)対伸長(mm)曲線の傾きから計算した。該負荷対伸長曲線は、該プロダクトの厚みから計算された断面積を用いて、応力(N/m)対ひずみ曲線に変換した。この後者の曲線の傾きを弾性係数即ちヤング係数(GPa)を計算するために用いた。エラーバーは、少なくとも5サンプルの標準誤差を示す。
【図13D−F】図13は、単層及び多層ヒツジFMプロダクトの強度の比較を示す。(A)破損時の最大負荷(N);(B)最大接線剛性(N/mm);(C)最大伸長(mm);(D)弾性係数(ヤング係数)(GPa);(E)降伏応力(MPa)及び(F)厚み。単層及び多層プロダクトの破損時の最大負荷は、Instron5800シリーズ電気機械テスターを用いて決定した。様々な材料は、幅0.6cmのイヌ用骨型サンプルに切断した。サンプルを、7.5cmのゲージ長で固定し、破損するまで25.4mm/minの速度で伸ばした。負荷(N)は、500Nロードセルを用いて記録した。剛性は、負荷(N)対伸長(mm)曲線の傾きから計算した。該負荷対伸長曲線は、該プロダクトの厚みから計算された断面積を用いて、応力(N/m)対ひずみ曲線に変換した。この後者の曲線の傾きを弾性係数即ちヤング係数(GPa)を計算するために用いた。エラーバーは、少なくとも5サンプルの標準誤差を示す。
【図14】図14は、1及び2層のヒツジFMプロダクトと、市販の硬膜修復プロダクトの降伏応力の比較を示す。エラーは、少なくとも5サンプル、または既報のデータからの標準誤差を示す。
【図15】図15は、多層ヒツジFMプロダクトの縫合保持力強度(suture retention strength)の比較を示す。多層ヒツジFMプロダクトのサンプルを、縫合保持力について、ANSI/AAMI VP20-1994 Guidelines for Cardiovascular Implants Vascular Prostheses Measured in Newton’sに従ってテストした。4cm×2.5cmのサンプルを、咬み深さ(bite-depth)2mmの縫い目で、縫合した。破損時の負荷を、進行速度100mm/minを用い、100Nロードセルを取り付けたInstron5800シリーズ電気機械テスターを用いて記録した。破損時の負荷は、実測負荷の90%換算として規定した。該サンプルの遊離端を25mmの万力グリップで固定し、一方、該縫い目はステンレスフックを介して、反対側の止め具に固定した。エラーバーは、少なくとも6サンプルの標準誤差を示す。
【図16】図16は、ヒツジFMプロダクト及び硬膜修復プロダクトの、正規化された縫合保持力強度の比較を示す。エラーは、5つの独立したサンプル、または既報データからの標準誤差を示す。
【図17】図17は、4層ヒツジFMプロダクト及び市販のインプラントマトリックスの、正規化された縫合保持力強度の比較を示す。エラーは、少なくとも5サンプル、または既報データからの標準誤差を示す。SurgisisTMについては、エラーは報告されていなかった。AllodermTM及びStratticeTMは咬み深さ10mmでテストし、4層ヒツジFM及びSurgisisTMは、咬み深さ2mmでテストした。
【図18】図18は、ブタの創傷治癒研究において、ブタ背部に作られた全層切除創傷の配置の一例を示す。
【図19】図19は、該創傷治癒研究の過程で採取された組織生検における、ECMスキャフォールドの持続性を示す。
【図20】図20は、創傷治癒中の細胞増殖の定量化をグラフで示す。創傷組織は、ヒツジFM(1層、2層)、SISで処置または処置せず、上皮層から取られた3つの40倍フレーム及び再生真皮中の層から取られた3つの40倍フレーム中の、Ki67陽性細胞の全数をIHC及びデジタル方式でカウントした。一元配置分散分析(one−way ANOVA)を用いたところ、未処置のコントロールに対して、**P<0.01で有意であった。
【図21A】図21はヒツジFM(1層及び2層)、SISで処置した創傷組織、または、処置しなかった創傷組織における血管の定量化をグラフで示す。(A)は、各組織生検について分析した、フレームごとにカウントした血管全数の平均値を示す。エラーバーは、示した時点において各処置群について分析した、20生検からの標準誤差を示す。一元配置分散分析(one−way ANOVA)を用いたところ、未処置のコントロールに対して**P<0.01及びP<0.05で有意であった。(B)は、示した時点における、(小、中及び大)血管の数を、各処置について観察された全血管の比率として示す。(C)は、フレームごとにカウントされた小血管(300−500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。(D)は、フレームごとにカウントされた中血管(500−1500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。(E)は、フレームごとにカウントされた大血管(>1500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。
【図21B】図21はヒツジFM(1層及び2層)、SISで処置した創傷組織、または、処置しなかった創傷組織における血管の定量化をグラフで示す。(A)は、各組織生検について分析した、フレームごとにカウントした血管全数の平均値を示す。エラーバーは、示した時点において各処置群について分析した、20生検からの標準誤差を示す。一元配置分散分析(one−way ANOVA)を用いたところ、未処置のコントロールに対して**P<0.01及びP<0.05で有意であった。(B)は、示した時点における、(小、中及び大)血管の数を、各処置について観察された全血管の比率として示す。(C)は、フレームごとにカウントされた小血管(300−500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。(D)は、フレームごとにカウントされた中血管(500−1500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。(E)は、フレームごとにカウントされた大血管(>1500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。
【図21C】図21はヒツジFM(1層及び2層)、SISで処置した創傷組織、または、処置しなかった創傷組織における血管の定量化をグラフで示す。(A)は、各組織生検について分析した、フレームごとにカウントした血管全数の平均値を示す。エラーバーは、示した時点において各処置群について分析した、20生検からの標準誤差を示す。一元配置分散分析(one−way ANOVA)を用いたところ、未処置のコントロールに対して**P<0.01及びP<0.05で有意であった。(B)は、示した時点における、(小、中及び大)血管の数を、各処置について観察された全血管の比率として示す。(C)は、フレームごとにカウントされた小血管(300−500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。(D)は、フレームごとにカウントされた中血管(500−1500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。(E)は、フレームごとにカウントされた大血管(>1500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。
【図21D】図21はヒツジFM(1層及び2層)、SISで処置した創傷組織、または、処置しなかった創傷組織における血管の定量化をグラフで示す。(A)は、各組織生検について分析した、フレームごとにカウントした血管全数の平均値を示す。エラーバーは、示した時点において各処置群について分析した、20生検からの標準誤差を示す。一元配置分散分析(one−way ANOVA)を用いたところ、未処置のコントロールに対して**P<0.01及びP<0.05で有意であった。(B)は、示した時点における、(小、中及び大)血管の数を、各処置について観察された全血管の比率として示す。(C)は、フレームごとにカウントされた小血管(300−500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。(D)は、フレームごとにカウントされた中血管(500−1500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。(E)は、フレームごとにカウントされた大血管(>1500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。
【図21E】図21はヒツジFM(1層及び2層)、SISで処置した創傷組織、または、処置しなかった創傷組織における血管の定量化をグラフで示す。(A)は、各組織生検について分析した、フレームごとにカウントした血管全数の平均値を示す。エラーバーは、示した時点において各処置群について分析した、20生検からの標準誤差を示す。一元配置分散分析(one−way ANOVA)を用いたところ、未処置のコントロールに対して**P<0.01及びP<0.05で有意であった。(B)は、示した時点における、(小、中及び大)血管の数を、各処置について観察された全血管の比率として示す。(C)は、フレームごとにカウントされた小血管(300−500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。(D)は、フレームごとにカウントされた中血管(500−1500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。(E)は、フレームごとにカウントされた大血管(>1500μm)の平均数を示す。カウントは、研究中の5体の動物から分析された全てのフレームについて平均化した。エラーバーは、示した時点における各処置群につき20個の分析フレームからの標準誤差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、反芻動物の前胃の固有−粘膜下組織に由来し、本明細書では‘前胃マトリックス’(FM)と呼ばれる、細胞外マトリックス(ECM)スキャフォールドの開発に関する。FMスキャフォールドは、腺胃を含む他器官由来のECMスキャフォールドとは異なる独特な特性を有する。これらの特徴により、FMスキャフォールドは組織の再生及び修復を含む臨床的応用に特にうまく適合する。本発明はさらに、前胃を含むが、それに限定されない哺乳類の器官からECMスキャフォールドを生みだす改良方法に関する。
【0026】
I.定義
本発明がよりたやすく理解されるように、特定の用語を最初に定義する。
【0027】
本明細書で使用される“前胃マトリックス”(略してFM)という用語は、反芻動物の前胃の固有−粘膜下組織を含むECMスキャフォールドを言う。
【0028】
本明細書で使用される“固有−粘膜下組織 ”という用語は、反芻動物前胃における粘膜固有層及び粘膜下組織の混成により形成される組織構造を言う。
【0029】
本明細書で使用される“粘膜固有層”という用語は、細胞外マトリックスの緻密な層を含む、固有−粘膜下組織の管腔部を言う。
【0030】
本明細書で使用される“反芻動物”という用語は、4室の胃を有する哺乳類を言う。これらは、第一胃、第二胃及び第三胃で構成される前胃、及び第四胃として知られる第四室を含む。反芻動物の非限定例に、Capra、Bos、Cervus及びOvis属に属する哺乳類が含まれる。
【0031】
本明細書で使用される“に由来する”という用語は、ECMの組織源または起源を言う。ECMは、全体または一部として組織に由来することができ、固有−粘膜下組織などの組織の少なくとも一要素を保持する。
【0032】
本明細書で使用される“固有−粘膜下組織”という用語は、反芻動物の前胃壁の一部を言い、粘膜固有層及び筋層からなる。
【0033】
本明細書で使用される“密封貫壁性浸透流(Sealed Transmural Osmotic Flow)”(STOF)という用語は、組織または器官の層の脱細胞化及び/または分離方法を言い、それにおいて、貫壁性浸透流が、該組織または器官の壁の全てまたは一部を横断して確立される。
【0034】
本明細書で使用される“高張”という用語は、もう1つの溶液と比較して溶質濃度がより高い溶液を言う。
【0035】
本明細書で使用される“低張”という用語は、もう1つの溶液と比較して溶質濃度がより低い溶液を言う。
【0036】
本明細書で使用される“層剥離された”という用語は、組織または器官内の層の分離を言う。
【0037】
本明細書で使用される“脱細胞化された”という用語は、例えばECMなど、組織または器官の一部からの、細胞及びそれに関連した残骸の除去を言う。
【0038】
本明細書で使用される“乳房再建(breast reconstruction)”という用語は、患者における乳房丘のサイズ、形、配置または外観を変えようとするあらゆる行為を言う。該行為には、豊胸手術、乳房固定術(即ち、胸のたるみを取る手術)、及び乳房切断後の再建が含まれるが、それらに限定されない。
【0039】
本発明の様々な態様について、以下のサブセクションにおいて、さらに詳細に述べる。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者に通常理解されるのと同じ意味を有する。対立する場合、定義を含む本明細書が優先する。本明細書に記載されたものと同様または等価な方法及び材料を、本発明の実施に用いることができるが、適切な方法及び材料の例を下に記載する。本明細書に記載された材料、方法及び例は、単なる実例であり、限定することを意図するものではない。本明細書で言及された、あらゆる出版物、特許出願、特許及びその他の参考文献は、その全てが参照により組み込まれる。
【0040】
II.反芻動物前胃の構造
反芻動物(例えばウシ、ヒツジ及びヤギ)は、複合胃を有し、該複合胃は、他の哺乳類の単一胃(simple stomach)とは、大きさが実質的により大きく、第一胃、第二胃、第三胃、及び第四胃の4つの部分に分けられるという点で、異なる。これら各部分は、異なる物理的及び組織学的構造を有する。第一胃、第二胃及び第三胃はまとまって、前胃(proventriculus)として知られている。第一胃(rumen)及び第二胃(reticulum)は、構造及び機能上密接に関係しており、よく“rumenoreticulum”と言われる。複合胃の最後の室である第四胃のみ、単一の腺胃と構造的に類似している。前胃と単一の腺胃との間の解剖学的違いは、それらの異なる機能的役割を反映している。前胃の主な機能は、貯蔵、発酵及び吸収であり、一方、単一の腺胃は分泌及び消化機能を果たしている。
【0041】
結果として、前胃は、腺胃のそれとは全く異なる、巨視的な解剖学的及び組織学的特徴を有する。前胃の解剖学的特徴は、図1Aに示す。そして、腺胃の解剖学的特徴は、図1Bに示す。重要なことに、前胃は腺性粘膜(glandular mucosa)を持たないが、代わりに無腺の角化重層扁平上皮からなり、これは角質層、顆粒層、有棘層及び基底層からなり、多くの点で皮膚構造と類似しているように見える。上皮は、前胃の管腔側に位置しており、基底膜によって下部の固有−粘膜下組織とは分離されている。前胃の反管腔側は、筋層(tunica muscularis)として知られている筋肉層を含む。
【0042】
前記した胃粘膜下組織の組成は、腺胃壁に由来し、次の層を有する:粘膜(tunica mucosa;上皮層、網状または細かい疎性結合組織からなる粘膜固有層、及び腺層を含む)、粘膜下組織層(tunica submucosa layer;疎性結合組織からなり、腺が欠落している)、筋層(tunica muscularis layer;3つの筋肉の層からなる)、及び漿膜(筋肉層を取り巻く疎性結合組織の外にある中皮の層)。胃壁内部における腺層の存在は、単胃哺乳類の腺胃、胃(gastric)または単一胃に特徴的である。反芻動物の複合胃の最後の室である第四胃のみ、この腺層を有する。前胃及び腺胃の追加的特徴は、表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
腺胃と比較した、前胃のユニークな2つの特徴は、前胃の粘膜固有層が非常に緻密であること、及び、腺も腺層も含んでいないことである。加えて、腺胃の粘膜層の基底領域における微細な筋肉層である粘膜筋板が、第一胃と第二胃の大部分とから欠落している。筋層(lamina muscularis)の欠如により、粘膜固有層が粘膜下組織と融合し、集合的に固有−粘膜下組織と呼ばれる層を形成する。また、上皮表面に対して平行に走る粘膜固有層内部の非常に厚く緻密なECM帯も、前胃に独特なものである。この帯状組織は、細胞の成長、分化ならびに組織の発達及び再構築中の移動において重要な役割をするIV型コラーゲンとラミニンを含む。この帯状組織の下でECMは、より典型的な目の粗い網状パターン(open reticular pattern)を有する。成長因子FGF2の生物活性を調節する重要な補助因子である、グリコサミノグリカンであるヘパラン硫酸が、前胃ECMに含まれる。米国特許第6,099,567号で言及されるように、ヘパラン硫酸は、腺胃粘膜下組織には存在しない。これは、2つのECMの間の重要な区別である。
【0045】
前胃組織はまた、第一胃においては乳頭、第二胃においては網状クレスト(reticular crests)、第三胃においてはラメラ(lamellae)として知られる表面突起を有する。固有−粘膜下組織はこれらの突起に広がっている。
【0046】
III.前胃由来の組織スキャフォールド
本発明によれば、ECMスキャフォールドは前胃の第一胃、第二胃、または第三胃に由来し得る。該ECMスキャフォールド(本明細書では、“前胃マトリックス”またはFMと呼ばれる)は、前胃壁の粘膜固有層及び粘膜下組織(固有−粘膜下組織)層を有する点で特徴付けられる。本発明の特定の実施形態では、FMスキャフォールドは第一胃由来または第三胃内部の個々の薄膜(laminae)由来であり得る。固有−粘膜下組織に加え、FMスキャフォールドは、脱細胞された上皮、基底膜または筋層(tunica muscularis)の無傷または部分的な層を任意に含んでもよい(図1A参照)。
【0047】
前胃のユニークな構造及び機能の結果として、前胃由来の本発明のECM組織スキャフォールドは、腺胃、腸及び膀胱から単離された、以前に記載されたスキャフォールドと比べて、異なる生化学的、構造的及び物理的特徴を有する。特に、FMは粘膜固有層内部に緻密なECM帯を含む。加えて、FMは任意に、無傷または破壊された基底膜を含む。対照的に、腺胃粘膜下組織または小腸粘膜下組織由来のスキャフォールドは、粘膜固有層が、粘膜の腺と腺の間に主に位置し、結果として粘膜が層剥離されると除去されるため、粘膜固有層を、あるとしても、ほとんど含まないだろう。重要なことに、組織像は、FMスキャフォールドの反管腔側が目の粗い網状マトリックスとして構築されているのに対して、粘膜固有層が非常に緻密なことを示している。より緻密でない側が障壁とならず、従って細胞侵入を許す一方、緻密な側が細胞移動に対する障壁として働くため、これらの違いは、上皮再生において重要な役割を果たす。この構造によりFMは、医療用装置として組織再生のために用いられたときに、該マトリックスの緻密な管腔側での上皮再生、及び、該マトリックスのより緻密でない反管腔側での繊維芽細胞の侵入を促進するのに、よく適したものとなる。対照的に、腺胃及び膀胱由来の粘膜下組織の移植片は均一な密度を有する。
【0048】
粘膜固有層由来のECMの緻密な層は、他の器官由来のものと比べて、FMスキャフォールドの増加した厚み及び強度に貢献する。前胃由来組成物と他の器官由来の組成物との、厚み及び破裂強度の比較は、実施例11及び12に提供されている。前胃の大きな表面積と、前胃由来スキャフォールドの増加した厚み及び強度とは、他の器官で可能なものよりも、より大きな前胃由来ECMスキャフォールドの単離を可能にする。例えば、本発明のECMスキャフォールドは、5cm(例えば0.5cm、1cm、2cm、3cm、4cmまたは5cm)、より好ましくは少なくとも6cm、7cm、8cmまたは9cm、及び最も好ましくは少なくとも10cmまたはそれ以上の幅を有することができる。加えて、本発明のECMスキャフォールドは、5cm(例えば0.5cm、1cm、2cm、3cm、4cmまたは5cm)、より好ましくは少なくとも6cm、7cm、8cmまたは9cm、及び最も好ましくは少なくとも10cmまたはそれ以上の長さを有することができる。従って、特定の一実施形態では、本発明のFMスキャフォールドは、他の器官由来のECMスキャフォールドよりかなり大きなサイズの、10cmまたはそれ以上の幅及び長さを有することができる。典型的FMスキャフォールドは少なくとも100cm、200cm、300cm、400cm、500cm、600cm、700cm、800cm、900cmまたは1000cmまたはそれ以上の表面積を有する。特定の一実施形態では、FMスキャフォールドは約400cmの表面積を有する。
【0049】
腺胃から得られるスキャフォールドとは違い、前胃由来のECMスキャフォールド(即ちFMスキャフォールド)は、管腔表面の基底膜由来のIV型コラーゲン及びラミニンを含みうる。驚くべきことに、これらのタンパク質も、粘膜固有層の緻密な帯内部に存在し、上皮細胞の接着及び成長にとって重要な生息環境を提供している。腺胃スキャフォールドは、上皮または基底膜、またはその一部を典型的には含まない。これらの層は壊れ易く、物理的な層剥離に耐えられないからである(図1B参照)。腺胃粘膜下組織(glandular submucosal)スキャフォールドは、管腔側に粘膜筋板の、及び反管腔側に筋層の残部を含みうる。
【0050】
FMスキャフォールドは、真皮の乳頭間突起に類似した、起伏のある管腔表面を有する。対照的に、小腸、膀胱及び腺胃粘膜下組織から層剥離されたスキャフォールドは、比較的滑らかな管腔表面を有する。起伏のあるFM管腔表面は、上皮再生に有利に働く複雑な形態を提供する。この形態は、小腸粘膜下組織、腺胃粘膜下組織または膀胱粘膜下組織由来のECMスキャフォールドには存在しない。
【0051】
本発明のFMスキャフォールドは、創傷治療の重要な制御因子を含み、該制御因子には、成長因子FGF−2、TGFb1、TGFb2及びVEGF、及びグリコサミノグリカンであるヒアルロン酸及びヘパラン硫酸が含まれるがそれらに限られない。FGF2は創傷治癒において、新しい組織及び脈管構造の形成に必要な細胞の移動及び分化のシグナルを伝達することによって、重要な役割をする。ヘパラン硫酸は、FGF2のレセプターに作用することにより、FGF2の生物活性を調節する重要な補助因子である。ヘパラン硫酸はFGF2活性に必要であり、FGF2の安定性を増す。重要なことに、FGF2及びヘパラン硫酸は胃粘膜下組織には存在しない。FMは、さらにI型コラーゲン、III型コラーゲン及びエラスチンを含む繊維性タンパク質だけでなく、フィブロネクチン、IV型コラーゲン及びラミニンを含む接着タンパク質も含む。これらのタンパク質、特にコラーゲン及びエラスチンは、FMスキャフォールドの高度な引っ張り強さ及び弾性に貢献する。FMスキャフォールドの分子組成の詳細な定量化は、実施例7に提供される。
【0052】
特定の実施形態において、FMスキャフォールドは、多層シートを形成するためにまとまって積層されうる。例えば、積層FMは、2またはそれ以上のFMスキャフォールドのシートを含んでよい(例えば、2から30のFMスキャフォールドシート、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30またはそれ以上のシート)。特定の一実施形態では、積層FMは、2から15のFMスキャフォールドシート、例えば2から10シート、2から8シート、2から6シート、または2から4シートのFMスキャフォールドを含む。FMスキャフォールドのシートは、当技術分野で公知のあらゆる適切な技術を用いて、まとまって積層できる。加えて、積層は、下に記載したポリマーを用いて達成することができる。積層は、吸収可能な、または吸収不可能な縫合材料または等価物を用いて縫製することで、または縫製することなく達成することができる。
【0053】
FMスキャフォールドは、その強度及び物理的特徴によって、より薄くより弱いECM源由来のスキャフォールドに比べて改良された取扱特性となる。FMスキャフォールドは、例えば腺胃といった、他の源から単離されたECMスキャフォールドよりも物理的に丈夫であるため、取扱がより容易になり、取扱時の変形により耐えることができる。これは、外科手術に先立って、及び外科手術中に、スキャフォールドの取扱が必要となる臨床業務において、重要な影響を持つ。
【0054】
FMスキャフォールドは、孔を開けなくてもよいし、孔を開けてもよい。穿孔は、手作業による孔開け、またはレーザーによる孔開けを含む、あらゆる適切な方法を用いてFMスキャフォールドに導入してよい。孔サイズは、約10から約500ミクロンの間(例えば、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、または約500ミクロン)で変えることができる。穿孔は、FMスキャフォールド生成中いつ導入してもよいが、好ましくは、殺菌前に行う。穿孔は、FMスキャフォールドを完全に貫通してもよいし、またはFMスキャフォールドを部分的にのみ貫通してもよい。多層のFMシートを含む積層FMスキャフォールドでは、穿孔は、該スキャフォールドの全層を完全に突き抜けてもよいし、いくつかの層のみを貫通、従って該スキャフォールドを部分的にのみ貫通してもよい。穿孔により、細胞がより簡単にスキャフォールドに浸潤できるようになり、より早い組織内部成長及びスキャフォールドのリモデリングが可能となる。
【0055】
本発明のFMスキャフォールドは、改良された取扱特性を兼ね備え、大型で使用可能であり、生化学的構成要素の新たな組み合わせを含む点において独自のものである。
【0056】
反芻動物の前胃からECMスキャフォールドを単離する適切な方法は、本明細書に記載されているが、本発明は、下で述べられているSTOF法を含むがそれに限定されないあらゆる方法で、反芻動物の前胃から単離されるECMスキャフォールドを包含することを意図する。
【0057】
IV.積層組織スキャフォールド
ECMスキャフォールドは、まとまって結合し、多層積層シートを形成することができる。ECMスキャフォールドの積層は、スキャフォールドの強度を増し、スキャフォールドの耐荷重性が必要とされ、及び/または縫合もしくはステープルを保持することが必要とされる応用にとって、特に適切な積層ECM組成物を作る。シートは、いくつかの方向でまとまって結合されてもよい。例えば、2またはそれ以上のシートは互いに同じ方向で積み重ねられてもよい、即ちあるシートのマトリックスの管腔表面が、隣接するシートのマトリックスの反管腔表面に接触するようにである。別の一実施形態では、2またはそれ以上のシートは互いに反対の方向で積み重ねられてもよい、即ちあるシートのマトリックスの管腔表面が、隣接するシートのマトリックスの管腔表面に接触するように、またはあるシートのマトリックスの反管腔表面が、隣接するシートのマトリックスの反管腔表面に接触するようにである。積層FMスキャフォールドは、ポリマー接着層、縫製、または接触しているFM層を単純に脱水することを含むがそれらに限定されない、多くの技術を用いて、2またはそれ以上のFMスキャフォールド層を合わせて結合することによって作製してもよい。
【0058】
A.接着性ポリマーを含む積層組織スキャフォールド
多層シートを形成するためにECMスキャフォールドを積層する従来の方法は、ECMスキャフォールドを互いに直接架橋するための化学剤の使用を含む。ECMスキャフォールドに直接作用することにより、該化学剤は該スキャフォールドを修飾し、結果として該スキャフォールドの生物的特性を変える。本発明は、スキャフォールドそれ自身の化学的修飾なしに積層ECMスキャフォールド(例えばFMスキャフォールド)を形成する方法を提供することで、この制限を克服する。該方法の1つは、ECMスキャフォールドの1またはそれ以上の層の間にポリマーを配置することを含む。該ポリマーは、接着剤として働き、ECMスキャフォールドの次々に来る層を結合して、多層組成物にする。該ポリマーはまた、ECMスキャフォールドの外面に塗布することもできる。重要なことに、ECMスキャフォールドの積み重ねを結合するためのポリマーの使用は、積層組成物を作るためのECMの化学架橋または他の共有結合修飾の必要性をなくす。このようにして、もとのECMスキャフォールドの生物学的特性は積層スキャフォールドにおいて保持される。
【0059】
本明細書に記載される積層ECM組成物を生成するためにポリマーを使用する方法は、FMスキャフォールドの多くの層、または、例えば単一の腺胃、小腸粘膜下組織、膀胱粘膜下組織、または真皮ECM由来のECM組成物といった当技術分野で公知の他のECMスキャフォールドの多くの層を一緒に積層するのに適用される。ある実施形態では、ポリマーはAlloderm(登録商標)、Strattice(登録商標)もしくはSurgisis(登録商標)またはそれらの組み合わせの積層シートを形成するために使用することができる。ポリマーはまた、FMの層が、例えば、腺胃、小腸粘膜下組織、膀胱粘膜下組織、心膜または真皮ECM由来のスキャフォールド、例えば、Alloderm(登録商標)、Strattice(登録商標)またはSurgisis(登録商標)といった、他のECMスキャフォールドに積層されるような、積層組成物を形成するためにも使用できる。
【0060】
ある実施形態では、積層ECMシート(例えばFMシート)は、2またはそれ以上の次々にくるECMスキャフォールド(例えばFMスキャフォールド)層の間にポリマーを配置することにより形成される。該ポリマーは、該ECMスキャフォールドにわたって断続的に配置されてもよいし、または連続的な層として存在してもよい。ポリマー層は、無傷のフィルムまたはシート、または溶液またはゲルとして塗布することができる。該ポリマーは、2つの連続したECMシートを合わせて結合する効果を有する。好ましい実施形態では、該ポリマーは、積層サンドウィッチ内部で連続した無傷の層を形成する。該ポリマーは、積層ECMスキャフォールドの外面に、追加的にまたは代替的に塗布することができる。コラーゲン、キトサン、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースもしくはヒドロキシプロピルセルロースまたはそれらの組み合わせを含む、様々な適切なポリマーは、ECMスキャフォールドの連続シートを積層するために使用できる。該ポリマーは、フィルム、シート、溶液、懸濁液またはゲルとして、凍結乾燥したECMシートに塗布し、それから、積層ECMシートを作るために脱水することができる。別の方法として、該ポリマーは、ぬれたECMシートに溶液、懸濁液、ゲルまたはドライフィルムとして塗布し、それから積層ECMを作るために脱水することができる。その他の適切なポリマーは、その内容が、その全体において参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願第2002/0119180号または第2003/0031696号、または、米国特許第6,281,256号、6,472,210号、5,885,829号、5,366,734号、5,366,733号、5,366,508号、5,360,610号、5,350,580号、5,324,520号、5,324,519号、5,324,307号、5,320,624号、5,308,623号、5,288,496号、5,281,419号、5,278,202号、5,278,201号、5,271,961号、5,268,178号、5,250,584号、5,227,157号、5,192,741号、5,185,152号、5,171,217号、5,143,730号、5,133,755号、5,108,755号、5,084,051号、5,080,665号、5,077,049号、5,051,272号、5,011,692号、5,007,939号、5,004,602号、4,961,707号、4,938,763号、4,916,193号、4,898,734号、4,898,186号、4,889,119号、4,844,854号、4,839,130号、4,818,542号、4,744,365号、4,741,337号、4,623,588号、4,578,384号、4,568,559号、4,563,489号、4,539,981号、4,530,449号、4,384,975号、4,300,565号、4,279,249号、4,243,775号、4,181,983号、4,166,800号、4,137,921号のいずれかに記載された、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ−L−乳酸(Poly-lactic co-lactic acid)(PLLA)及びポリ(乳酸)−ポリ(グリコール酸)(PLGA)ポリマーを含むが、それらに限定されない。
【0061】
当業者によって理解されるように、該ポリマー層は、積層スキャフォールドの性能特性全体に貢献する。従って、該積層物の異なる強度及び取扱特性は、該ポリマー層の性質を変えることで生み出すことができる。加えて、該ポリマー層の組成変化により、該積層物の水和速度及びそのタンパク分解安定性を変えることができる。例えば、比較的疎水性のポリマーの使用は、親水性ポリマーを使用して作った積層物と比べて、該積層物の水和速度を遅くさせる。天然でない合成ポリマー(例えばポリビニルアルコール)は、天然に存在するポリマー(例えば多糖)に比べて、酵素安定性が増すと予想されるだろう。
【0062】
ECMスキャフォールドの連続する層の間にポリマーを配置することによって、2またはそれ以上のECMスキャフォールドシート(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30またはそれ以上のECMスキャフォールドシート)を含む積層組成物を作ってもよい。典型的一実施形態では、該ECMスキャフォールドは、FMスキャフォールドである。
【0063】
ある実施形態では、FMから調製したコラーゲンゲルを2またはそれ以上のFMスキャフォールド層を合わせて積層するためのポリマーとして用いてもよい。このゲルは、親FMスキャフォールドの生化学的性質を保持し、例えば組織再生のために積層FMスキャフォールドの一部として使用されたとき、リモデリングされる。
【0064】
B.縫合を用いて形成された積層組織スキャフォールド
積層ECMシート(例えば、積層FMシート)は、別の方法として、ECMの多くの層を縫い合わせることによって形成することができる。FMの物理的特性(サイズ、厚み、強度など)により、シートはその後の使用のための積層物を形成するためにまとめて縫い合わせることができる。積層物は、個々のFMシートの間に配置されたポリマー層を伴ってまたは伴わずに、縫い合わせることができる。
【0065】
縫製は積層スキャフォールドの性能特性を変えるためのもう一つの手段を提供する。縫製は、特定の解剖学的部位に有用な、3D構造を有する単一または積層FMシートの1つまたはそれ以上のピースから装置を作ることにも役立ち得る。縫製は、再水和に続いての、及び取り扱い中においての、該積層物の3D形態を保持するのに役立つ。
【0066】
FMスキャフォールドのシートは、吸収性縫合糸(例えば、ポリグルカプロン25(Monocryl)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリグラクチン−910(Vicryl)、ポリグリコール酸(Dexon))、非吸収性縫合糸(例えば、ナイロン(Ethilon)、ポリプロピレン(Prolene)、綿糸または絹糸)を含むがそれらに限定されない、あらゆる適切な糸を用いて縫製することができる。糸は、必要とされる強度特性によって、様々な厚みまたは内径のものであり得(例えば、6−0、5−0または4−0糸)、様々な一縫いの長さ(例えば、2mm、4mm、または6mm)及びパターン(例えば、直線縫い、ランニングステッチ、ジグザグステッチ、オーバーロック縫いまたは本縫い)を用いて縫製され得る。
【0067】
C.生物活性分子を含む積層組織スキャフォールド
上記したように、本発明は、一部分において、個々のECMシート間に配置されたポリマーを含む、積層ECMスキャフォールド(例えば、FMスキャフォールド)に関する。このポリマーにより、ECMスキャフォールドの隣接するシートをまとめて結合することができる。該ポリマーの組成は、積層ECMスキャフォールドが組織または器官に与える影響を含む、該スキャフォールドの特性を変えるために、変更することができる。特定の一実施形態では、該ポリマーは、生物活性分子が接触部位で放出されるように、該生物活性分子を組織または器官に送達するビヒクルとして用いることができる。生物活性分子を含む組織スキャフォールドは、例えば、組織再生の速度及び質を促進するために、及び、急性または慢性の感染を予防または治療するために、用いることができる。
【0068】
あらゆる望ましい生物活性分子を該ポリマー中に組み込むことができる。適切な分子には、例えば、小分子、ペプチドまたはタンパク質、またはそれらの混合物が含まれる。ある実施形態では、2つまたはそれ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上)の異なる生物活性分子が該ポリマー中に組み込まれる。生物活性分子は、粒子、微粒子及び/またはコロイドとして封入された懸濁液として、またはそれらの混合物としてのどちらかで、非共有的に該ポリマー中に組み込むことができる。生物活性分子はまた、該生物活性分子を該ポリマーに結合するための、適切な化学的性質を用いて、共有的に該ポリマー中に組み込むことができる。1つまたはそれ以上の生物活性分子を含む該ポリマーは、積層ECMスキャフォールド(例えばFMスキャフォールド)の、1つまたはそれ以上のECMシートの間に配置することができる、及び/または、該スキャフォールドの外面に塗布してもよい。特定の一実施形態では、第一の生物活性分子を含むポリマーが、積層ECMスキャフォールドのある層間に配置され、第二の生物活性分子を含むポリマーが、積層ECMスキャフォールドの他の層間に配置される。適切な生物活性分子には、抗菌剤、鎮痛剤、成長因子、止血剤、血管新生促進剤、血管新生抑制剤、及びそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。特定の実施形態では、積層ECMスキャフォールドのポリマー層に組み込まれた生物活性分子には、FGF2、NGF、ドキシサイクリン、ポリ−L−リジン及びそれらの組み合わせが含まれる。別の特定の実施形態では、該ポリマー層は、抗菌剤及び成長因子を含む。重要なことに、本明細書で示されているように、直接ECMに付着させることで、付加的分子がECMスキャフォールドに組み込まれる従来の方法とは対照的に、ECMスキャフォールド積層物のポリマー層を、生物活性分子で機能的にしても、本来備わっている該ECMスキャフォールドの生物学的特性は変わらない。
【0069】
生物活性剤がECMの連続する層の間に配置された接着性ポリマーに(例えばポリマー層に)組み込まれている、生物活性積層ECMスキャフォールド(例えば、FMスキャフォールド)は、生物活性剤がECMに直接結合されている別の組成物に対して、いくつかの重大な利点を有する。まず、生物活性剤を積層または積み込むために、スキャフォールドの共有的または化学的修飾を必要としないので、生物活性剤をポリマーまたはポリマー層に組み込むことは、ECMスキャフォールドの本来備わっている組成を変えるものではない。二番目に、生物活性剤の送達ビヒクルとして、事前に編成された生物活性ポリマー層を使用することで、該生物活性分子の投与の均一性のよりよい制御及び一貫性をもたらす。
【0070】
IV.前胃マトリックス組成物の使用
前胃マトリックススキャフォールドは、幅広い組織再生への活用に非常に適している。これらは、創傷などの組織欠損を被覆するために、及び軟組織を強化及び/または修復するために使うことができる。これらは、単一または積層シートとして使用することができ、特定の器官、解剖学的位置、または特定の外科的応用に合うようカスタマイズした装置として作ってもよい。FMスキャフォールドは、縫合、ステープルまたは包帯を含む、当技術分野で公知のあらゆる適切な手法を用いて、適所に固定される。
【0071】
ある実施形態では、FMスキャフォールドは広範囲の外傷または熱傷を被覆するために使用され、全範囲を被覆するために多数のより小さなスキャフォールド装置をまとめて結合するといった、不便性及び複雑性を克服する。従って、本発明の特定のFMスキャフォールドは、10cmまたはそれ以上の幅、及び10cmまたはそれ以上の長さを有する創傷または傷害を被覆することができる。
【0072】
粘膜固有層内部の結合組織の緻密な層の存在及びその起伏のある表面形態により、FMは真皮及び上皮再生への活用に、非常に適したものとなる。FMスキャフォールドの高い引っ張り強さはまた、スキャフォールドが耐荷重性を必要とされる、または張力下に置かれるところで、特に有用である。従って、特定の一実施形態において、本発明のFMスキャフォールドは、組織修復または組織再生を促進する、または組織強化する必要性がある、創傷及び手術部位に適用される。該ECMは、FMスキャフォールドが宿主組織によって吸収及び置換されるように、自然に、徐々にリモデルされる。
【0073】
他の実施形態では、本発明のFMスキャフォールドは、損傷した、病気のまたは欠落した心臓弁、動脈、静脈、膀胱、肝臓、胃腸管の部分を置換するため、または、頭頸部構造の修復または置換のための鋳型として、使用される。FMは、あらゆる固体または流動化された形で、真皮または表皮修復用のスキャフォールドとして、尿道括約筋または食道括約筋または胃括約筋といった様々な体部括約筋に注入されて、神経組織の復元のためのパイプとして一つの管または部分的な管に折りたたまれて、または、組織再生組成物として活用するために適したあらゆる形に押し出されまたは成型されて、使用することができる。従って、本発明のFMスキャフォールドは、固体のシート型で所定の位置に縫合したり、ゲル型で創傷または体部位に配置したり、または、液体または微粒子型で注入することができる。本発明のFMスキャフォールドは、in vivoで標的組織に接触するよう配置されると、上皮及び結合組織を含む内因性組織の成長を誘導する。加えて、該FMは任意に、新しい皮膚、心血管、泌尿生殖器、神経、筋膜、腱、鞘、靱帯及び胃腸組織を作るための組織構築物を作るために、細胞と結合させることができる。FMはまた、特定の皮膚科学的活用において使用するために、該マトリックスのより緻密な管腔側にケラチノサイトを、より緻密でない反管腔側に繊維芽細胞を植えつけることができる。FMスキャフォールドは、再生医療における利用のために、幹細胞を含む様々なタイプの細胞を植え付けることができる。
【0074】
また他の実施形態において、本発明のFMスキャフォールドは、in vitro細胞培養における付着生育環境として、及び、組織工学への応用において細胞成長のためのスキャフォールドとして機能し、そこでFMは真核細胞の増殖を促進、及び/または分化を誘導することができる。In vitro細胞培養への応用における、非FM粘膜下組織を活用するプロトコルは、例えば、米国特許第5,695,998号に記載されており、これはその全体が、参照により本明細書に組み込まれる。これらの方法は通常、in vitro細胞培養を促進するための生育環境として、FMを使用するのに適用できる。概して、これは、真核細胞成長につながる条件下で、in vitroで真核細胞にFMを接触させることを含む。本明細書に記載されているように、本発明のFMスキャフォールドはまた、ドラッグデリバリーのための装置を構築するためにも使用できる。
【0075】
本明細書に記載されているように、FMスキャフォールドは、該スキャフォールド付着部位近くに位置する細胞の増殖を増進することができる。従って、FMスキャフォールドは、組織または器官において、細胞増殖を促進、活性化、または増進させるために使用することができる。好ましい実施形態では、FMスキャフォールドは、創傷組織または組織欠損内部、例えば再生中の創傷内部において、細胞増殖を促進、活性化、増進させるために使用される。
【0076】
FMスキャフォールドはまた、該FMスキャフォールドが付着している組織または器官内部で、脈管形成(例えば、血管新生(angiogenesis))を促進する。従って、FMスキャフォールドは、組織または器官の脈管形成を促進、活性化または増進させるために使用することができる。好ましい実施形態では、FMスキャフォールドは、創傷組織または組織欠損、例えば再生中の創傷内部における脈管形成を促進、活性化または増進させるために使用される。脈管形成を向上させることは、FMスキャフォールドが創傷閉合を促進し、及び創傷治癒の質を向上する、一つの方法である。
【0077】
本明細書に記載されている、生物活性積層FMスキャフォールドは、多くのさらなる臨床応用性がある。これには、微生物感染を治療、阻止または予防するために、抗生物質(例えば、アモキシシリン、ペニシリン、ポリアミン、またはキノリン)を手術部位に送達すること、その部位での微生物感染を治療、阻止または予防するために、創傷及び組織欠損部に抗生物質を送達すること、組織再生及び/または該組織の脈管形成を促進するために創傷または手術部位に、成長因子(例えば、FGF2、VEGFまたはPDGF)を送達すること、慢性的な創傷において、タンパク質分解活性を低減するために酵素阻害剤を送達すること、組織再生を促進するために創傷または手術部位に一酸化窒素のアナログを送達すること、感染及び/または生物膜の形成を阻止または予防するために、創傷または手術部位に抗菌剤または抗生物膜剤を送達すること、が含まれるがそれらに限定されない。
【0078】
本発明のFMスキャフォールドは、粉、エマルジョン(流動化FM)、ゲルまたは抽出物を含むがそれらに限定されない、様々な形式で、処方及び使用してよい。さらに、該FMスキャフォールドは、エチレンオキサイド処理、γ線照射処理、プラズマガス滅菌、または電子線処理を含む、従来の方法により、使用前に滅菌してよい。
【0079】
V.乳房再建に有用な、積層FMスキャフォールド
本発明のFM組織スキャフォールドは、その特徴、例えば、本明細書に記載されている強度、弾性、縫合保持力などにより、軟組織を支持または強化する必要がある様々な応用に適したものとなる。特定の一実施形態では、該FM組織スキャフォールドは、乳房再建中に、人工乳房を被覆、配置、及び/または固定するために、または、乳房固定術(即ち、乳房のたるみをとる手術)の間に、天然の乳房組織または人工乳房を被覆、配置、及び/または固定するために使用される。
【0080】
豊胸手術は、一般的美容処置であり、大胸筋の上かつ乳房組織の下(腺の下(subglandular))、部分的に筋肉の下(partial submuscular)または完全に筋肉の下(submuscular)、の3つの位置のうちの一つにおいて、胸部に、人工器官、即ち、乳房インプラントが典型的に配置される。該インプラントの位置に係らず、該処置の美的な成果は、該人工器官が患者内部でその位置を維持するように、該人工器官を支持する周囲組織の能力に大部分依存している。徐々に、人工器官は内側にずれてsymmastiaを生じ得、または側面へとずれて胸腔の腋窩内へのインプラントのずれを生じ、または下にずれて“ずり落ち(bottoming out)”を生じうる。位置異常の原因はしばしば、インプラントの重みに対する不十分な軟組織の支持である。不十分な軟組織の支持は、例えば、非常に大きなインプラントを受けた患者、及び、非常に体重が落ちた患者によく見られる。
【0081】
この問題は、特に乳癌の治療に続いて、乳房再建を受けた患者において悪化する。放射線療法や、化学療法などの癌治療は、人工器官を支持するのに必要な軟組織を弱める。加えて、乳房切断術後、筋肉または軟組織によって、十分に人工器官を被覆することは、技術的に難しい課題である。十分に被覆できるかどうかは、組織欠損の程度及び残余組織の質による。十分な被覆が不可能なとき、被覆は、患者の別の場所から取られた筋肉組織を移すことにより、通常達成されるが、これはドナー部位の不健全さ、治癒不良、瘢痕及び拘縮、感染の危険性及び将来起こりうる皮弁壊死を伴い得る。
【0082】
本発明のFM組織スキャフォールドは、乳房組織を強化し、豊胸手術/乳房再建中、様々な人工乳房を十分に支持できるという点で、これらの問題に対処する。該組織スキャフォールドはまた、乳房固定術中、天然の乳房組織または人工乳房を支持するために用いてもよい。本明細書に記載されているように、反芻動物の前胃由来の細胞外マトリックスによって、該組織スキャフォールドの付加的な支持が、ある程度得られる。
【0083】
乳房再建のためのFMスキャフォールドは、例えば、平ら、または、凹型状でありうる。好ましい実施形態では、該FMスキャフォールドは、凹面を有する。該凹面により、平らなシートに比べ、デッドスペースが減り、配置、組織接合及び固定が改善し、適合性が改善されて、乳房組織及び/または人工乳房の丸い型に近いものが得られる。FMは、前胃の自然な湾曲と形が、自然な凹面を有するECMスキャフォールドを形成するのに有用であるため、こうした利用によく適している。加えて、FMスキャフォールドは、特定の利用に必要となるように形を変えるために(例えば、該スキャフォールドの湾曲を増したり減らしたりすることによって)、鋳型のまわりに形成することができる。
【0084】
乳房再建のためのFMスキャフォールドはまた、単一または積層FMシートを含むことができる。例えば、FMの多重シートは、本明細書に記載されているように、スキャフォールドの強度及び厚みを増すために、合わせて積層することができる。人工乳房及び/または天然の乳房組織を支持するためには、比較的強いスキャフォールドが必要とされる。従って、乳房再建のためのFMスキャフォールドは、まとめて結合された2またはそれ以上のFMシート(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15またはそれ以上のシート)を含む積層シートを有利に含むことができる。本明細書に記載されているように、該FMシートは、ポリマーを用いて、縫合(stitch and suture)によって、またはポリマーと縫合両方によって、積層してよい。特定の一実施形態では、乳房再建のための積層FMスキャフォールドの層は、縫合によって、まとまって固定される。縫合及び/または接着性ポリマーを多くのFMシートの積層に用いることで、FMスキャフォールドが、移植に先立ち、及び移植中に、患者において、その3D形状を保持することが確実になる。
【0085】
FMスキャフォールドはまた、本明細書に記載されているように、孔を開けてもよいし、開けなくてもよい。穿孔によって、インプラント下における体液の蓄積及び漿液腫形成の危険性が減り、細胞が該スキャフォールドをより容易に浸潤しやすくなって、より早い組織内成長及び該スキャフォールドのリモデリングが可能となる。
【0086】
乳房再建のためのFMスキャフォールドは、豊胸手術中に人工乳房を、または乳房固定術中に天然の乳房組織を十分被覆するために、多くの異なる形を有してよい。好ましい実施形態では、該FMスキャフォールドは、図2(A)に示されるように三日月形を、または図2(B)に示されるように楕円型を有する。半円または半月型も使用してよい。ある実施形態では、該スキャフォールドは、人工乳房または乳房組織の下部及び/または側面部を、完全にまたは部分的に被覆するのに十分大きい。これにより、該スキャフォールドは、下及び側面の乳房下溝をまねて、人工乳房及び/または天然の乳房組織の下極を支持することができる。この実施形態では、該スキャフォールドは、水平または垂直な方向で配置してよい。該スキャフォールドはまた、側面へのまたは内側への人工器官のずれを防ぐために、該人工乳房の側面または内側に、垂直な方向で配置するためのサイズにできる。
【0087】
本発明の特定の実施形態では、乳房再建のためのFMスキャフォールドは、約3cmから約35cmの長さ(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34または35cm)、及び約3cmから約35cmの幅(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34または35cm)である。乳房再建のための典型的FMスキャフォールドは、約3cmから約12cmの幅、及び約25cmから約35cmの長さである。スキャフォールドのさらなる適切な形やサイズは、例えば、国際公開第2008/016919号パンフレット及び米国特許公開公報第2007/0088434号に記載されているように、当技術分野において既知のものであり、それらの内容は、その全体において参照により本明細書に組み込まれる。これらの形及びサイズは全て、本発明のFMスキャフォールドに適用できる。
【0088】
患者に移植されたとき、乳房再建のためのFMスキャフォールドは、元々のスキャフォールドがリモデルされるように、生細胞に置き換わった結果として、制御された生分解を受ける。患者の細胞が該スキャフォールドに浸潤することで、最終的に、浸潤細胞によって作られたマトリックスによる該スキャフォールドのECMの置換が生じる。徐々に、該スキャフォールドは、通常の構造的リモデリングを受け、人工乳房及び/または乳房組織を支持する新しい組織が形成される。このアプローチによって、乳房切断術後の乳房再建の場合特に、患者の別の部位から組織を移す必要性がなくなり、それによって、外科的処置の複雑さ及び処置時間が減少する。
【0089】
従って、本明細書に記載されている乳房再建のためのFMスキャフォールドは、豊胸手術または乳房固定術を含む処置、例えば、その時点でのまたは最初の人工乳房の配置時における予防機能、その後の配置修正処置、乳房切断術後の乳房再建、胸のたるみを取る手術を含む様々な処置に用いてよい。前述の処置において組織スキャフォールドを用いる方法は、当技術分野において良く知られているものである。該方法は通常、例えば、人工乳房/乳房組織の下極を支持するために乳房の下部及び側面部をまたがって、または、側面へのまたは内側へのずれを予防するために乳房の側面または内側面に、といったような望ましい場所に該スキャフォールドを固定することを含む。固定は、当技術分野において公知のあらゆる適切な方法を用いて、例えば、縫合またはステープルの配置によって、または仮縫い装置の使用によって、達成してよい。徐々に、該FMスキャフォールドは、周辺組織と一体化していく。乳房再建において人工の組織スキャフォールドを用いるための、その他の典型的技術は、例えば、国際公開第2008/016919号パンフレット及び米国特許公開公報第2007/0088434号に記載されており、それらの内容は、その全体において参照により本明細書に組み込まれる。当技術は、乳房再建処置における本明細書のFM組織スキャフォールドにも同様に適用される。
【0090】
VI.密封貫壁性浸透流(STOF)を用いた、哺乳類器官からの組織スキャフォールドの単離
細胞外マトリックススキャフォールドは従来、物理的に、または組織を処理溶液に浸す前または後の化学的分離により、上皮細胞及び粘膜筋板を除去することによって、胃腸組織(例えば腺胃及び小腸)または泌尿生殖器組織(例えば膀胱)から作られる。粘膜層(mucosal layer)の物理的分離は、典型的には、上皮、基底膜、腺層、及び粘膜固有層及び筋層の全てでなくとも大部分を除去する。
【0091】
脱細胞処理によって、ECMの生物学的活性だけでなく、機械的及び構造的完全性を保持しつつ、該スキャフォールドから抗原性要素が除去される。細胞除去の物理的方法は、従来、急速冷凍、機械力、撹拌及び超音波処理を含む。従来脱細胞化に用いられた化学剤には、アルカリ及び酸処理、非イオン性デタージェント(例えばTriton X−100)、イオン性デタージェント(例えば、SDS、Triton X−200)、両イオン性デタージェント(例えばCHAPS、SB−10、SB−16)、トリ(n−ブチル)フォスフェート、低張及び高張処理、及びキレート剤(例えばEDTA、EGTA)が含まれる。酵素処理方法は従来、トリプシン、ジパーゼ(dipase)、エンドヌクレアーゼ及びエキソヌクレアーゼを用いる。
【0092】
今まで用いられた処理方法は、開放系の無傷の器官または該器官の一部を、一連の処理溶液に浸し、そうすることで、該溶液のそれぞれに、全ての面がさらされる。筋肉及び上皮組織の性質が異なるということは、一つの組織層によい効果をもたらす溶液が、もう一方の組織層には負の影響を与えるかもしれないことを意味し得る。これは、たびたび、多数の処理ステップの使用という結果となり、処理時間を延ばすことになる。全ての処理溶液は、生化学的組成、組織の超微細構造、及び残存ECMの機械的挙動に影響を与えるだろう。処理剤、例えば、Triton X−100、SB−10、SB−16、Triton X−200、SDS及びトリプシンへの長期の曝露は、ECMに有害となりうるため、処理時間がより短くなることが望ましい。より短い処理時間はまた、より高い処理量を可能とし、加工上の経済性を向上し、天然のECMの超微細構造に障害を与えうる細胞性プロテアーゼへの曝露を減らす。現在まで用いられている処理方法は、処理溶液の組織中への拡散に依存しており、これは、撹拌及び温度を上げることでいくらか向上しうる。従って、生理的な温度下での組織処理は、4℃での処理に対して処理時間を短縮する。しかしながら、生理的温度は、内因性プロテアーゼ活性を増し、使用される溶液によっては、微生物の汚染物質の増殖を促進し得る。
【0093】
本発明は、こうした障害を打開し、哺乳類の組織または器官からECMスキャフォールドを生成するための改良方法を提供する。本発明の方法によって、異なる溶液が組織の各面に隔離され、各溶液が、個々の組織層をターゲットとするのに最適化される。1つの溶液は、もう一つの溶液に対して高張または低張であるように調製され、該溶液が組織または器官の反対面(例えば、管腔側及び反管腔側)にさらされたとき、該組織または器官の壁を通り抜ける貫壁性浸透流が確立される。この処理方法は、脱細胞化、組織層の分離、及び細胞残骸と処理剤の除去に役立つ。加えて、この方法は、処理時間を効果的に減らす。
【0094】
器官の壁を横断して貫壁性浸透流が確立される、本明細書に記載された本発明の方法は、“密封貫壁性浸透流”(STOF)と呼ばれる。STOF手法は、あらゆる無傷または密封された動物またはヒトの組織を、組織層を分離及び/または脱細胞化し、それによってECMベースのスキャフォールドを抽出するために処理するのに用いることができる。従って、この方法は、FMスキャフォールドを生成するために反芻動物の前胃組織を処理するため、または、他のあらゆる哺乳類組織を処理するために用いてもよい。STOF手法の典型的で非限定的な実施形態は、図3に示されている。この図は、1つの溶液で満たされ、密封され、それから別の溶液に浸された器官を示す。2つの溶液間の塩分濃度の違いにより、貫壁性浸透流が生じる。該溶液(即ち、高張溶液及び低張溶液)の配置を変えることによって、浸透圧勾配をどちらの方向でも確立できることがわかるだろう。該勾配は、器官の自然な流れを模倣する方向で好ましくは確立される。例えば、反芻動物の前胃由来の組織を処理する際、該勾配は、該組織の管腔面から反管腔面に向けて、好ましくは確立される。貫壁流を確立する方向を決定するために生物模倣を使用することで、該組織の自然な生理機能及び流れの性質により処理を高めることができる。
【0095】
本発明のSTOF法は、組織層が特定の剤で標的化されるため、角化重層扁平上皮を有する組織のような、層剥離が困難な組織を処理するのに、特に有用である。STOFは、貫壁性浸透流が作られるように密封することができる、あらゆる無傷の、または部分的に無傷の組織または器官を処理するために用いることができる。例えば、これには、胃腸、泌尿生殖器、心血管及び真皮由来の組織または器官が含まれる。このアプローチは、塩(例えば、NaCl、KCl、EDTA、EGTA)、デタージェント(例えば、Triton X−100、Triton X−200、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、CHAPs、スルホベタイン、トリ(n−ブチル)フォスフェート)、及び酵素(例えば、トリプシン、エンドヌクレアーゼ及びエキソヌクレアーゼ)を含む溶液が含まれるが、それらに限定されない様々な処理溶液を用いて、幅広い組織または器官を処理するために使用してもよい。従って、この手法は、貫壁性浸透圧勾配が作られるように組織もしくは器官またはその一部が密封されるよう適合させることができる、あらゆる動物またはヒトの組織または器官を用いた使用のために、適合させることができる。貫壁性浸透圧勾配はまた、ある容器中の一つの溶液を、組織が浸される第二の溶液から隔離する組織の一部を横断して確立されてもよい。
【0096】
流れが、拡散及びブラウン運動に依存するのではなく、浸透圧勾配によって駆動されているため、STOF手法は、低温で非常によく機能する。低温下でのこの手法の短時間での効率性は、ECMスキャフォールドの生物的要素の、内因性のプロテアーゼによる分解を最小限にし、また微生物成長を妨げるという点において、特に有利である。ある実施形態では、該手法は、6℃以下の温度(例えば2℃〜4℃)で、36時間未満(例えば、好ましくは24時間以内)で機能する。この手法は、例えば、ヒツジ前胃の角化重層扁平上皮を4℃で24時間未満で層剥離するために、効果的に用いられている。比較すると、食道の無細胞マトリックススキャフォールドを作るための処理は、1週間より長くかかると以前報告されている(例えば、Bhrany et al., “The Development of an Esophagus Acellular Matrix Tissue Scaffold,” Tissue engineering (2006) 12(2)を参照、これは参照によって本明細書に組み込まれる)。貫壁性浸透流が、組織を通って処理溶液を引き込むため、この改良が可能なのである。別の実施形態では、該手法は、室温または室温付近(例えば、18℃〜24℃)で行われる。室温または室温付近では、処理時間をより短縮することができる。例えば、STOF処理は、室温にて6時間未満でヒツジ前胃を脱細胞化し、層剥離するために用いられている。STOF処理はまた、異なる組織表面を、ターゲット層(例えば、筋肉または上皮)を除去するために最適化された異なる溶液で処理する利点を与える。
【0097】
貫壁性浸透流の性質は、組織を通り抜ける流体の量が表面積に依存するというものである。組織の表面積は、その内部に封入された液体の量(膨張度)によって制御してよい。従って、組織または器官は、浸透圧勾配にさらされる組織の表面積をさらに増し、それによって該組織又は器官中へ移行する浸透流を増すために、完全にまたは部分的に膨張させてよい。
【0098】
本発明のSTOF手法は、処理されている組織の単一または多数の層の全てまたは一部を除去するために使用してよい。例えば、上皮、基底膜または筋層の全てまたは一部、及びそれらの組み合わせは、処理中または処理に続いて除去されてよい。処理する組織及び層剥離する組織層の組成によって、多数の異なる溶液を用いてよい。ある実施形態では、高張溶液が組織または器官に封入され、該組織または器官が低張溶液に浸される。別の実施形態では、低張溶液が器官内部に封入され、該器官が高張溶液に浸される。両方の場合において、浸透流の方向は、低張溶液と接している器官表面から、高張溶液に接している表面の方向であるだろう。
【0099】
高張溶液は、1つまたはそれ以上のバッファー、デタージェント、塩またはそれらの組み合わせを含んでよい。同様に、低張溶液は1つまたはそれ以上のバッファー、デタージェント、塩またはそれらの組み合わせを含んでよい。全ての例において、高張溶液は、低張溶液よりも高い溶質濃度を含む。例えば、高張塩溶液は、低張溶液よりも高い塩濃度を含む。好ましい実施形態では、高張溶液は、処理されている器官より高い塩濃度を含み、低張溶液は、処理されている器官よりも低い塩濃度を含む。
【0100】
特定の一実施形態では、高張溶液はNaClを含む。適切なNaCl濃度は、例えば、約0.5M〜10Mの間(例えば、約0.5M、1M、1.5M、2M、2.5M、3M、3.5M、4M、4.5M、5M、5.5M、6M、6.5M、7M、7.5M、8M、8.5M、9M、9.5Mまたは10M)の範囲である。典型的一実施形態では、高張溶液は、約4MのNaClを含む。
【0101】
別の特定の実施形態では、低張溶液は、Triton X−200及びEDTAを含む。該低張溶液における、Triton X−200の適切な濃度は、例えば、約0.001%から1%の間(例えば、約0.001%、0.005%、0.01%、0.05%、0.1%、0.25%、0.5%、0.75%または1%)の範囲である。該低張溶液におけるEDTAの適切な濃度は、例えば、約0.01%から1%の間(例えば、約0.01%、0.05%、0.1%、0.25%、0.5%、0.75%または1%)の範囲である。典型的一実施形態では、低張溶液は、約0.028%Triton X−200及び約0.1%EDTAを含む。
【0102】
別の特定の実施形態では、低張溶液は、SDSを含む。該低張溶液におけるSDSの適切な濃度は、約0.001%から1%の間(例えば、約0.001%、0.005%、0.01%、0.05%、0.1%、0.25%、0.5%、0.75%または1%)の範囲である。典型的一実施形態では、低張溶液は、約0.1%SDSを含む。別の典型的実施形態では、低張溶液は、約0.028%SDSを含む。特定の一実施形態では、低張溶液は、約0.028%Triton X−200、0.1%EDTA及び0.1%SDSを含む。別の特定の実施形態では、低張溶液は、約0.028%Triton X−200、0.1%EDTA及び0.028%SDSを含む。
【0103】
器官の最初の処理が、該器官内部への1つの溶液の封入によって達成された後、該器官の壁を通り抜けて流れる貫壁性浸透流が確立されるように、該器官は第二の溶液に浸され、該第二の溶液から該器官を取り出すことによって、更なる処理が可能になり(必要ではないが)、該器官は、貫壁性浸透流が再び確立されるように、第三の溶液に浸される。貫壁性浸透流の方向は、処理の両ステージの間、同じ方向であるのが好ましい(即ち、管腔表面から反管腔表面へ、または、反管腔表面から管腔表面へ)。該器官内部に封入された溶液は、さらなる処理に先立って、またはさらなる処理の間、取り除く必要はない。
【0104】
従って、典型的一実施形態では、NaClを含む高張溶液(例えば約4MのNaCl)は、哺乳類の器官(またはその一部)内部に封入される。該器官はそれからTriton X−200及びEDTA(例えば約0.028%Triton X−200及び0.1%EDTA)を含む低張溶液に浸される。該器官はそれから、SDS(例えば約0.1%SDSまたは約0.028%SDS)を含む低張溶液に浸される。該溶液は、それらが処理された組織に与える望ましい効果にもとづいて選択される。例えば、Triton X−200及びEDTAを含む低張溶液は、上皮と固有−粘膜下組織との間の基底膜の分解を目標とし、一方、SDSを含む低張溶液は、主として脱細胞化を達成するために用いられる。STOF手法において、SDS溶液を使用することで、細胞壁及び細胞残骸の除去が早まる。従って、複数回のSTOF処理が、多数の異なる処理溶液によって得られる利益を得るために使用されてもよい。
【0105】
別の典型的実施形態では、STOF手法は、FMを生成するために反芻動物前胃の組織層を分離及び脱細胞化するために用いられる。該処理は例えば、ウシ、ヤギまたはヒツジの前胃に用いてもよい。STOF手法を用いて、FMを第一胃、第二胃または第三胃から生成することができる。典型的一実施形態では、該手法は、ヒツジ(Ovis aries)の前胃からFMを生成するために用いられる。前胃の上皮表面は、基底膜に固く結合している角化重層扁平上皮である。それは、層剥離によるダメージに耐えるために適応しており、他の手作業または機械的手法を用いた除去を困難にしている。好ましい一実施形態では、器官の自然な流れを模倣するように、貫壁性浸透流が管腔表面から反管腔表面に向けて、前胃を横断して確立される。
【0106】
本発明の別の典型的実施形態では、STOF手法を用いた、時宜に即した様式での前胃組織の分離及び細胞除去での使用において、3つの特定の溶液が用いられる。溶液Aは約4MのNaClを含み、溶液Bは約0.028%Triton X−200及び0.1%EDTAを含み、溶液Cは約0.1%SDSを含む。溶液Aは、溶液B及び溶液Cに対して高張である。前胃組織を処理するためにこれらの溶液を用いて、裏返しにされた前胃は約10Lの溶液Aで満たされ、ケーブルタイで密封することができる。それから、満たされた第一胃は約16時間溶液Bに浸すことができる。この組み合わせは、上皮と固有−粘膜下組織との間の基底膜の分解を目標とする。加えて、貫壁性浸透流及び溶液Aへの筋肉層の曝露は、筋繊維を柔軟にし、物理的分離を助ける。それから、満たされた前胃は約4時間、脱細胞化を達成するために溶液Cに浸すことができる。
【0107】
STOF手法は、細胞壁及び細胞残骸の除去を早める。流れは単にブラウン運動に限られないので、該プロトコルを用いることで、従来の処理方法に比べて処理時間枠を圧縮できる。さらに、処理は、内因性のプロテアーゼ活性及び微生物増殖を制限するために、低温(例えば4℃またはそれ以下)で行うことができる。低温で短い時間枠で組織を処理する能力は、他の手法を用いた処理に対して、完成したスキャフォールドにおけるECM生来の生物分子(例えば、成長因子、繊維性タンパク質、接着タンパク質、グリコサミノグリカン等)のより高いレベルでの回収を可能にする。従って、STOF手法を用いて生成されたECMスキャフォールドは、他のプロセスによって単離されたスキャフォールドに対して、異なる生化学的性質を有する。
【0108】
本発明は、さらに、以下の実施例によって示されるが、これらは、限定として解釈されるべきではない。
【実施例】
【0109】
実施例1
密封貫壁性浸透流(STOF)による、前胃マトリックス(FM)の調製
2歳未満の子ヒツジ由来の前胃は、地元の食肉処理場から調達した。該前胃は、上皮面が外に、筋層が内側になるよう裏返した。該器官を10Lの4M NaClで膨張させるように満たし、ケーブルタイで密封した。それから、該前胃を0.1%EDTA及び0.028%Triton X−200を含む溶液中で16時間浮かし、その後、さらに4時間、0.1%SDSを含む溶液中へ移した。浸透流を限定し得る互いの面を含む該器官が、他の面に触れないよう注意した。この処理により、Triton X−200/EDTA及びSDS溶液が、組織を通って引き込まれ、脱細胞化を起こし、効率的に基底膜を破壊した。
【0110】
該前胃を、STOF処理から取り出し、内容物を出した。それから筋肉及び上皮面が層剥離されるように、該器官を切って開いた。これは、例えば、FMを単離するための手作業または機械的かき取りによって、実行されてよい。該FMを室温で30分間、かきまわしながら水で洗浄し、それから0.1%過酢酸、1M NaClを含む5%エタノール溶液に移した。これを60分間混合し、その後、水(15分)、pH7.2のPBS(15分)、水(15分)及びpH7.2のPBS(15分)からなる、4回の無菌洗浄ステップを行った。該FMをそれから凍結乾燥し、無菌状態で梱包し、最後にエチレンオキサイドで滅菌した。STOF処理のこの実施形態は、図4において概要が述べられている。ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色した切片の、組織学的検査によって、脱細胞化が効果的だったことが確認された。これはさらに、前胃組織とFMスキャフォールドにおけるDNA濃度を比較することで検証された。パパイン消化サンプルを、ヘキスト33258染料(10μg/mL,Sigma−Missouri,USA)と共にインキュベートし、相対蛍光単位をマイクロタイタープレートリーダーを用いて定量化した。全DNA濃度をウシ胸腺DNA(Sigma−Missouri,USA)の標準曲線から計算した。図5に示されているように、核酸含量は前胃組織と比較してFMスキャフォールドにおいて顕著に減少しており、FMスキャフォールドが脱細胞されたことを示している。
【0111】
実施例2
STOF手法中の流れ特性及び組織方向の影響
以下の実験は、前胃の表面積と前胃を通り抜ける水の浸透流との間の関係を決定するために行った。この研究では、4M NaClと水を、前胃組織を隔てた浸透圧勾配を確立するために用いた。前胃の表面積は、球体の表面積(4πr)を基にして概算することができる。STOF前後の前胃における液体体積を用いて、内部溶液(L)の体積変化を計算した。図6に示されているように、STOF前の前胃の表面積(膨張度)と前胃への水の流入(体積変化)との間には線形関係があった。図6に示されているように、前胃を通り抜ける水の浸透流は、密封された前胃表面積の増加と共に増加した。典型的に浸透流れ速度の減少が徐々に見られ、最も早い流れは、STOFの最初の24時間の間に達成された。
【0112】
STOF処理中に浸透圧勾配に沿って前胃を通る流れを証明する手段として、前胃の重量を貫壁性浸透流の適用前後に測定した。該STOFの設定は、実施例1及び実施例3に記載されたものと同様とした。組織内へ流体が移動した結果として、前胃の重量がSTOF中に増加した。該処理開始時の前胃の重量は、789+/−45gであったが、一方、該処理終了時の同じ前胃の重量は、1160+/−92gを超えていた。前胃組織に移行する流体によって、組織の水和が増加したため、重量の増加が起きた。こうした結果は、図7に示されている。
【0113】
組織の方向性は、STOFで得られる結果に非常に影響を与える。自然な生理的流れ(即ち、上皮から筋肉への流れ、例えば前胃の管腔面から反管腔面への流れ)の方向で、前胃を横断した浸透圧勾配を確立することで、前胃から筋肉層、上皮層及び細胞を除去することに成功した。対照的に、浸透圧勾配が、自然な生理的流れの方向に反して確立されたとき(即ち、筋肉から上皮への流れ、例えば、前胃の反管腔面から管腔面への流れ)、該組織は、脱水し、ねばねばするようになり、その後の筋肉及び上皮層の除去がより困難だった。このデータは、表2に要約してある。流れの方向はまた、処理終了時の組織の外観にも影響を与えた。
【0114】
【表2】

【0115】
実施例3
接着性ポリマーを用いた、積層前胃マトリックスの調製
本明細書に記載されているFMスキャフォールドは、単一のシートとして構成されてもよいし、またはFMの多層積層組成物を形成するように積層されてもよい。以下の実施例は、コラーゲンポリマー接着剤、またはポリビニルアルコールまたはヒドロプロピルセルロース(hydropropyl cellulose)から調製された接着剤層を用いた、積層FMスキャフォールドの調製を表している。コラーゲンで結合された積層物を調製するために、最初に、コラーゲンポリマーのゲルを親FMスキャフォールドから調製した。このコラーゲンゲルは、親材料と同じ生化学的性質を保持し、組織再生において、積層FMスキャフォールドの一部として用いられると、リモデリングを受ける。該コラーゲンポリマーゲルは、親FMスキャフォールドを熱変性して調製した。細かく粉末化したFM(10%w/v)を、純水またはPBS中で90分間95℃で加熱した。混合物を、微粒子を除去するために35℃で30分間10krpmにて遠心し、その上澄みを取っておいた。放置して室温まで冷やすと、該溶液はゲルに凝固した。該コラーゲン懸濁液のゼラチンは、可逆性であり、そしてそれ自体、2(またはそれ以上の)シートの間の層として、FMシートにゲル状態で直接適用する前に、加熱した(>37℃)。冷やし、乾燥させると、該コラーゲンゲルは、FMシートを効果的に積層し、2層の積層物を生成した。
【0116】
ポリマー層は、積層スキャフォールドの全体的性能特性に寄与するので、該積層物の異なる強度及び取扱特性を、該ポリマー接着剤層の性質を変えることで得た。さらに、該ポリマー層の変化を、該積層物の水和速度、そのタンパク質分解安定性を変えるため、及び生物活性物の送達のために用いた。
【0117】
ポリビニルアルコール及びヒドロキシプロピルセルロースポリマー接着剤をドライフィルムとして適用し、これを湿ったFMスキャフォールドと接触させて再水和した。引き続いて、該ポリビニルアルコール及びヒドロキシプロピルセルロースを含む積層物を凍結乾燥させることで、該ポリマー層を脱水し、積層サンドウィッチを生成した。
【0118】
実施例13に従って、該2層積層物の一軸強度をテストした。結果は、表3に要約してある。ポリビニルアルコール及びヒドロキシプロピルセルロースで積層したFMスキャフォールドは、コラーゲン積層したFMスキャフォールドよりもかなり強度が高かった。しかしながら、強度の増加は、弾性係数の増加及び最大伸長の減少に反映されるとおり、ポリビニルアルコール及びヒドロキシプロピルセルロースで積層したFMスキャフォールドの弾性減少によって相殺された。ポリビニルアルコール積層したFMスキャフォールドは、サンプルの厚みに正規化した項(term)である降伏応力に基づいて、最もよく機能した。
【0119】
この実施例は、ポリマー層が、積層スキャフォールドの全体的性能特性に寄与しているので、該積層物の異なる強度及び取扱特性が、該ポリマー接着剤層の性質を変えることで得られたことを示している。
【0120】
【表3】

【0121】
実施例4
積層物に縫製されたFMスキャフォールド
本明細書に記載されているFMスキャフォールドは、積層物を形成するためにFMスキャフォールドシートを縫い合わせる(sewn or sutured)ことを可能にする、固有の物理的性質(例えば、サイズ、厚み、強度)を有する。積層物は、ポリマーを個々のFMシートの間に配置して、または配置せずに縫合できる。以下の実施例は、綿糸でFM層を縫い合わせる(stitch)ことによる、2層の積層FMスキャフォールドの調製を示している。
【0122】
FMスキャフォールドを、2層積層物を形成するために、綿糸を用いて、縫い合わせた。縫製機を用いて、2層のFMスキャフォールドシートを直線縫いした(約2mm長の縫い目)。該2層積層物を、該積層物の長さを走る、約5mm離れた平行な縫い目によって、縫い合わせた。該縫合積層物の一軸強度試験を、実施例13に記載されたプロトコルで行い、該縫合積層物を、縫い合わせていない、コラーゲンポリマー接着剤層を用いて作製した2層積層物と比較した。結果は、表4に示されている。最大負荷及び降伏応力に示されているように、該縫合積層物の強度は、コラーゲンベースの積層物よりも優れていた。しかしながら、強度が増加すると、該縫合積層物の弾性及び伸長は、コラーゲンベースの積層物と比較して、減少した。
【0123】
【表4】

【0124】
実施例5
破壊された基底膜におけるIV型コラーゲン及びラミニンの分布
実施例1に述べられている処理に従って得られたFMスキャフォールド、ならびに前胃組織の層剥離中に除去された上皮を、中性に中和された7%のホルマリンに浸して固定し、パラフィンワックスに包埋した。ミクロトームを用いて、切片を10μm厚に切り、その後該切片を温水中で緩ませ、APEでコートしたスライドにマウントした。10分間パラフォルムアルデヒドに浸して切片を該スライドに固定し、ちりの無い環境で室温保存した。100%キシレンを用いた5分間洗浄4回で浸し、パラフィンをスライドから溶解させた。エタノール濃度下降系列を通して再水和し、その後50mM TBS(pH7.4)に浸した。30分間5%H含有70%メタノールを用いて、内因性のペルオキシダーゼを失活させた。DAB secondary detection kit(Chemicon)のプロトコルに従って、染色処理を行った。切片をTBS中で各回5分間、計3回洗浄し、その後非特異的結合を防ぐために、30分間ブロッキングセラム中でインキュベートした。引き続いて、1:100の希釈濃度で適切な一次抗体(即ち、ウサギ抗ヒツジ一次抗体などの、ラミニンまたはIV型コラーゲンを認識する抗体)中で切片をインキュベートした(両一次抗体はこのアッセイで使用する前に、該組織中で最適化した)。切片を、室温で30分間、加湿チャンバーにおいて一次抗体中でインキュベートした。それから切片を0.1%Triton X−100を含むTBS(TrTBS)中で洗浄し、その後各回5分間計2回TBS中で、洗浄した。切片を、上記したDAB secondary detection kitにおいて提供されている二次抗体と共に、室温で10分間インキュベートした。引き続いて、切片をTrTBS中で1度、TBS中で2度洗浄し、ストレプトアビジン−ビオチン(strepavidin-biotin)複合体(Vector Laboratories,USA)と共に、室温にて10分間インキュベートした。スライドをTBS中で3回洗い、ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)色素原と共に、バックグラウンドの染色が最小に、抗原染色が最大となるよう、1〜5分間インキュベートした。蒸留水(dHO)中で切片を洗うことにより、DAB標識を止めた。それから切片をヘマトキシリンで対比染色し、流水中で再洗浄し、エタノール濃度上昇系列中で脱水し、キシレンできれいにして、DPX包埋剤を用いてマウントし、観察まで室温保存した。標識タンパクは、茶色に見え、一方、ヘマトキシリン標識した核はブルーに見えた。上記処理中に該一次及び/または二次抗体を使用しないことでネガティブコントロールをとった。光学顕微鏡下でスライドを観察し、AnalySISソフトウェアを用いて写真撮影した。
【0125】
FMスキャフォールドの免疫組織化学的検査により、IV型コラーゲン及びラミニンが上皮及び脈管基底膜に局在していること、また、粘膜固有層内部深くの、マトリックスの緻密な層内部にも存在していることが明らかとなった。FMスキャフォールドにおけるラミニン及びIV型コラーゲン染色により、基底膜は連続面ではなく、むしろ非連続または破壊されることが明らかとなった。さらにIV型コラーゲン及びラミニンは、組織層剥離後に採取された上皮サンプルにも見られた。該上皮組織の染色によって、IV型コラーゲン及びラミニンが基底膜断片に局在していることがわかった。FMスキャフォールドの上皮層及び管腔面両方における、ラミニン及びIV型コラーゲンの存在は、基底膜が前胃組織の層剥離中に破壊されることを示している。処理中の基底膜の破壊及び破砕(Disruption and fracture)により、上皮が放出される。重要なことに、FMスキャフォールドの粘膜固有層において、ラミニン及びIV型コラーゲンが存在することで、組織再生中の、これらの重要な細胞接着分子源が提供される。
【0126】
実施例6
基底膜の破壊及び破砕
0.028%Triton X−200及び0.1%EDTA含有低張処理溶液中に、NaClを含むヒツジ前胃を16時間浮かせることで、基底膜が破壊され、下にある固有−粘膜下組織から上皮が取り除かれる。
【0127】
上皮シートから採取された切片の免疫組織化学的分析によって、FM及び除去された上皮層(上記した)両方の基底膜の残存物において、IV型コラーゲン及びラミニンが存在することがわかった。上記に基づけば、該処理溶液が基底膜構造を破壊し、基底膜がバラバラになって、上皮層が放出されることは明らかである。処理に続いて、上皮が、下にある固有−粘膜下組織から一枚一枚バラバラにはがれた。上皮のこの‘シート化(sheeting)’は、該STOF処理中にTriton X−200及びEDTA溶液への浸漬後に起きた。
【0128】
ウェスタンブロッティングにより、基底膜の主要な要素であるラミニンが、STOF処理の間、溶液中へ放出されることがわかった。これは、0.028%Triton X−200、または0.028%Triton X−200+0.1%EDTAどちらかの溶液を、STOF処理中にサンプリングしたとき、明らかだった。サンプル中に存在しているタンパクをゲル電気泳動法によって分離し、抗ラミニン抗体を用いて可視化した(図8)。0.028%Triton X−200を含む溶液(図8のレーン2及びレーン4)によってラミニンが可溶化されたが、NaClを含む溶液(図8のレーン3)でも0.1%SDSを含む溶液(図8のレーン5)でも、ラミニンは、可溶化されなかった。
【0129】
FMスキャフォールド、及び処理中に除去された上皮層の生化学的分析によって、主要な基底膜要素であるラミニンが両フラクションに存在することが明らかになった。FMスキャフォールド及び上皮組織両方において、以下の実施例7に従いELISAを用いて、ラミニンを定量化した。FMスキャフォールド及び上皮組織におけるラミニン濃度は、それぞれ5.87±2.16μg/g及び17.3±1.1μg/gであった。ラミニンが、除去された上皮組織に比較的高濃度で検出されたという事実は、STOF処理中に、前胃組織の基底膜がバラバラにされ、上皮層が喪失したという観察をさらに支持するものである。
【0130】
実施例7
FMスキャフォールドの生化学的組成
FMスキャフォールド、例えば、実施例1に述べられている処理に従って得られたスキャフォールドの主要な構成要素、及び微量構成要素を理解するために、広範囲の研究を行った。巨視的に、該プロダクトは、細胞の充填及び分化を支えるであろうコラーゲンマトリックスと考えることができる。しかしながら、製造工程は、微量の生物学的に活性な構成要素、例えば、成長因子及びグリコサミノグリカン(GAG)を保持するように開発された。これらの微量構成要素は、創傷治癒に等しく重要な役割を果たしており、FMスキャフォールドにおけるそれらの存在が、該プロダクトに有益な創傷治癒特性を与える。
【0131】
あらゆるケースにおいて、FMスキャフォールドの生化学的組成を、ブタ小腸粘膜下組織(SIS)及び、原材料であるヒツジ前胃と比較した。
【0132】
あらゆるケースにおいて、組織サンプルをまず液体窒素で凍結し、スパイスグラインダーで挽いて、細かな微粒子を得た。該粉を抽出し、生化学的巨大分子を、確立された手法によって分析した。主要構成要素の生化学的分析は表5に要約してある。
【0133】
全可溶性コラーゲンは、パウダーになったサンプルを酵素消化することで定量し(5mg/mLペプシン、0.5M 酢酸、37℃で16時間)、SircolTM Soluble Collagen Kit(Biocolor−County Antrim,UK)を用いて上澄みの遠心及び分析を行った。該サンプルの全可溶性コラーゲンは、ラットのしっぽのI型コラーゲンの標準曲線から計算した(Gibco Invitrogen−California,USA)。全可溶性コラーゲン濃度は、ヒツジ前胃、FMスキャフォールド及びSISにおいて、ほぼ同じであった。
【0134】
可溶性コラーゲンの定量化は、生理的に使用可能なコラーゲンの相対的豊富さを表しているかもしれないが、マトリックスのペプシン不溶性コラーゲン要素を考慮に入れていない。それ故に、テストサンプルの全コラーゲン含量を知るために、確立された方法に従い、ヒドロキシプロリン分析を行った。サンプルを6M HClで加水分解し(120℃、60分)、それから、ヒドロキシプロリン残基を、ピロール発色団を形成するよう反応させ、吸光度で定量化した。全コラーゲンは、全コラーゲンに対するヒドロキシプロリンの比率が7.14であると仮定して、ヒドロキシプロリンの標準曲線(Sigma−Missouri,USA)から計算した。FM及びSISスキャフォールドにおいて、コラーゲンは組成のおよそ80−80%であった。予想されたように、ペプシン可溶性コラーゲンは、該サンプルに存在する全コラーゲンのごく一部のみであった。
【0135】
IV型コラーゲンは、細胞の接着及び増殖を促進する基底膜の重要な構成要素である。FMの基底膜は部分的に無傷で、この特徴が、該プロダクトに有益な増殖特性を与えているかもしれないことを示唆している。IV型コラーゲンを抽出バッファー中で4%SDSで可溶化し(37℃、16時間)、PBSに対して透析し、抗IV型コラーゲン抗体(Abacus ALS−Queensland,Australia)でプローブした直接ELISAを用いて定量化し、HRPに結合した2次抗体(Abacus ALS−Queensland,Australia)を用いて検出した。IV型コラーゲンは、部分的に精製したウシIV型コラーゲン(Chemicon Millipore−Massachusetts,USA)の標準曲線と比べて定量した。IV型コラーゲンは、マトリックス中の全コラーゲンのわずかな一部であった(約2%)。
【0136】
エラスチンは、ECM内部で弾性繊維ネットワークを形成し、弾性、感触、耐久性、及び伸ばした後反動で戻る能力を与えている、重要な構造タンパク質である。該タンパク質の弾性は、可溶性トロポエラスチンモノマーが広範囲に架橋して広範囲の共有結合配置を産んでいることにより与えられている。その広範囲のリジン架橋を考えると、エラスチンは特に不溶性で、それ故に生物サンプルにおいて定量するのが困難である。エラスチンの相対的濃度を知るために、‘可溶性’及び‘不溶性’エラスチン両方を定量した。マトリックスのサンプルは、0.25M シュウ酸で可溶化し(105℃、16時間)、遠心して不溶性物質をペレットにし、それから、上澄みを、FastinTM Elastin Kit(Biocolor−County Antrim,UK)を用いメーカーの推奨に従って、解析した。可溶化したエラスチンは、部分的に精製したウシエラスチンの標準曲線と比べて定量した。可溶化エラスチン組成物の濃度は、FMにおいて、SISと比較して約10分の1であった。不溶性エラスチンは、質量収支解析を用いて、確立された手法に従い、定量化した。手短に言えば、サンプルは、(1)エタノール/ジエチルエーテル(1:1、15分、室温);(2)0.3%SDS(16時間、室温);及び(3)0.1M NaOH(15分、100℃)で抽出した。サンプルを遠心し、その上澄みを各抽出ステップ後に捨てた。不溶性エラスチンは、該抽出工程後に残った;そのようにして、全不溶性エラスチン量を、該抽出前後の該サンプルの乾燥重量を比較することで計算した。全不溶性エラスチン濃度は、SISにおいてよりもFMにおいて低かった(それぞれ3.0%及び5.3%)。
【0137】
ヘパラン硫酸及びコンドロイチン硫酸を含むグリコサミノグリカン分子(GAG)は、成長因子及びサイトカインを結合し、ECM内部の水分保持及びゲル特性を制御している。多くの細胞表面レセプター及び多くの成長因子(例えば、FGFファミリー、VEGF)のヘパラン結合特性によって、ヘパランリッチなGAGは、組織修復にとってきわめて望ましいスキャフォールドの要素となっている。全GAGを、色素結合比色分析(Blyscan Sulfated Glycosamine Kit;Biocolor−County Antrim,UK)を用いて定量し、その後粉状のサンプルをパパイン消化(125μg/mL)した。GAG濃度は、コンドロイチン硫酸(Sigma−Missouri,USA)の標準曲線から計算した。SISは、ヒツジ前胃及びFM両方よりも全硫酸化GAGの濃度が高かった(それぞれ7.3±0.4,3.9±0.1及び0.6±0.1mg/g)。ヘパラン硫酸濃度は、FM及びSISにおいて、それぞれ0.2mg/g及び2.1±0.1mg/gであった。ヘパラン硫酸の定量化についてのより詳細な考察を以下に示す。3つのサンプルのそれぞれにおいて、ヒアルロン酸(HA)濃度をELISA kit(Echelon Biosciences−Utah,USA)を用いて決定した。HAは、3つ全てのサンプルにおいて、低濃度で存在していることがわかった。
【0138】
FMの製造における重要な特徴は、ECMを脱細胞化し、それによって、異種移植(xenoplant)に対するあらゆるネガティブな宿主反応を減らすステップである。典型的には、脱細胞化は、細胞溶解及び細胞要素の可溶化をまねく、デタージェントを介した細胞膜破壊を通して達成される。核酸の存在を、マトリックスの細胞性に対するサロゲートマーカーとして用いた。DNA断片はそれ自体で、宿主を介した免疫反応を引き起こすいくらかのリスクももたらす。全DNAは、蛍光色素結合分析によって定量した。パパイン消化したサンプルをヘキスト33258色素(10μg/mL,Sigma−Missouri,USA)と共にインキュベートし、相対蛍光単位を、マイクロタイタープレートリーダーを用いて定量した。全DNA濃度はウシ胸腺DNA(Sigma−Missouri,USA)の標準曲線から計算した。FMのDNA濃度は、SISのものよりも少なかった(それぞれ0.2%及び0.4%)。予想されたように、ヒツジ前胃の原材料と比べて、FMのDNA濃度は著しく減少していた(それぞれ0.2%及び2.6%)。
【0139】
組織の脂質は、細胞膜で主に見つかり、それ故に、ECMマトリックスの脱細胞化の程度の評価に有用でありうる、別のサロゲートを提供する。FMスキャフォールドの脂質量を質量収支解析を用いて決定し、その後サンプルをエーテル抽出にかけた。FM及びSISスキャフォールド両方とも、約6%の脂質組成を有していた。一方、ヒツジ前胃は、14.4%の脂質組成を有していた。
【0140】
【表5】

【0141】
ヒツジ前胃と同様に、FM及びSIS組織スキャフォールドも、微量生化学的構成要素であるフィブロネクチン、ラミニン、ならびに成長因子であるVEGF、FGF2、TGFβ1及びTGFβ2について分析を行った。結果は表6に要約してある。
【0142】
フィブロネクチンは、ECMに広く分布している糖タンパク質で、細胞成長接着、移動及び分化において、重要な役割を果たしている。フィブロネクチンは、コラーゲン及びヘパランに結合し、重要なことに、細胞の接着及び増殖をもたらす、細胞表面インテグリンレセプターの接着のためのリガンドを提供する。フィブロネクチンを、QuantiMatrix Human Fibronectin ELISA Kit(Chemicon Millipore−Massachusetts,USA)を用いて定量化し、その後、4%SDSで抽出したサンプルの透析を行った。FMにおけるフィブロネクチンの濃度は、SISよりもかなり高く、それぞれ13.67±1.64及び5.00±0.05μg/gだった。
【0143】
ラミニンは、ECMタンパクで、IV型コラーゲン分子、ヘパラン硫酸及びインテグリンレセプターへ結合することができ、そうして、細胞と基底膜またはECMとの間に重要な接続を形成する。ラミニンは、QuantiMatrix human Laminin ELISA Kit(Chemicon Millipore−Massachusetts,USA)を用いて、4%SDSで抽出したサンプルにおいて定量し、濃度をヒトラミニン標準と比較して決定した。FM及びSISにおけるラミニン濃度はおおよそ等しかった。
【0144】
塩基性繊維芽細胞成長因子(FGF2)は、多機能であり、血管新生中の内皮細胞分化促進、及び多くの細胞型の細胞分化及び移動を含む、創傷治癒における重要な役割を果たしている。FGF2の存在に関して、サンプルをHuman FGF−Basic ELISA Development Kit(Peprotech−New Jersey,USA)を用いて分析した。スキャフォールドサンプルは、4%SDS抽出バッファーで抽出し、PBSに対して透析した。その後、ヒトFGF2を標準として用い、FGF2を定量した。ヒツジ前胃及びFMにおけるFGF2濃度は、SISで見られた濃度よりも少なかった(それぞれ1.70±1.38,0.74±0.0.09及び4.85±0.84)。
【0145】
成長因子VEGF、TGFβ1、及びTGFβ2を、市販のELISAキットを用い、メーカーの指示(Bender Medsystems and Peprotech)に従って、定量した。まず、粉状にしたFMを2M 尿素(37℃、48時間)または4M グアニジウム ハイドロクロライド(37℃、48時間)を用いて抽出した。サンプルを遠心し、ELISA定量の前に、上澄みを濾過した。成長因子TGFβ2及びVEGFもまた、確立された手法に従ってウェスタンブロットを用いて定量した。該成長因子に対する抗体及びポジティブコントロール(使用可能な場合)を適宜用いた;これらは、ウサギ抗TGFβ2ポリクローナル(Abcam(登録商標))、TGFβ2モノクローナル(InvitrogenTM)、及びウサギポリクローナル抗VEGF(Abcam(登録商標))を含んでいた。加えて、TGFβ1を、ウサギポリクローナル抗TGFβ1(Abcam(登録商標))及びポジティブコントロールとして精製TGFβ1(InvitrogenTM)を使い、ドットブロット法を用いて定量した。
【0146】
【表6】

【0147】
実施例8
FMスキャフォールドはグリコサミノグリカン(GAG)ヘパラン硫酸を含む。
N−硫酸化GAGヘパラン硫酸は、FGF2の生物活性に対する補因子として重要な役割を果たしている、重要なECM結合GAGである。ヘパラン硫酸は、FGF2存在下でFGF2レセプターに直接結合し、そうすることでFGF2−レセプター複合体を安定化するので、FGF2の生物活性に必要である。ヘパラン硫酸はまた、遊離FGF2にも結合し、該成長因子を安定化させ、その循環半減期を延ばす。米国特許第4,902,508号及び米国特許第6,099,567号によれば、小腸粘膜下組織は、ヘパラン硫酸を含み、一方、胃粘膜下組織は含まない。胃粘膜下組織におけるヘパラン硫酸の欠如は、胃粘膜下組織由来のECMスキャフォールドにおけるFGF2に関連したあらゆる生物活性を限定する。
【0148】
ヘパラン硫酸の存在を決定するために、前胃粘膜下組織を分析した。パパインで消化したFMサンプルを、確立された手法に従って、酢酸セルロースGAGゲル電気泳動により分離した。該FMサンプルに存在するGAGは、ヘパラン硫酸の標準サンプルと似たように移動したが、コンドロイチン硫酸Bまたはヒアルロン酸は移動しなかった。アルシアンブルー染色ゲルのデンシティオメトリーを分析することで、該FMサンプルに存在するヘパラン硫酸の量を定量することが可能になった。ヘパラン硫酸濃度は約0.2mg/gだった。
【0149】
ヘパラン硫酸レベルはまた、より定量的な方法を用いて決定した。FMにおける全GAGを、上記した市販のBlyscan GAG detection kitを用いて定量した。このアプローチを用いることで、コンドロイチン硫酸(4−及び6−硫酸化)、ケラタン硫酸(アルカリ感受性型及び耐性型)、デルマタン硫酸(イズロン酸&グルクロン酸を含む)及びヘパラン硫酸(ヘパランを含む)を含むサンプルにおける全GAG(N−硫酸化及びO−硫酸化GAG両方)濃度を決定することができた。該手法の修飾により、O−硫酸化GAGの存在下で、亜硝酸処理により、N−硫酸化ヘパラン硫酸ポリマーをそれらの構成モノマーにまで開裂することが可能になる。この方法では、1サンプルに存在する全GAG中のパーセンテージとしてヘパラン硫酸を定量することができる。このアプローチを用いて、SISが2.1±0.1mg/gの濃度でヘパラン硫酸を有することが示された。驚くべきことに、同じ条件下で、FMまたはヒツジ前胃組織のいずれにおいても、ヘパラン硫酸は検出することができなかった。
【0150】
Blyscan assayに対する亜硝酸修飾は、FM抽出物におけるヘパラン硫酸の分解に効果がなかった可能性がある。そのため、FMマトリックスにおけるヘパラン硫酸の存在をさらに検証するために、別の方法を探索した。
【0151】
ヘパラン硫酸の存在は、Blyscan assayを用いた全GAG分析の前に、FM抽出物をヘパラナーゼ消化することで確認した。パパイン処理したFM抽出物を、ヘパランリアーゼI(0.5mU)、II及びIII(共に0.5mUで)(Seikagaku Corporation,Japan)を37℃で24時間用い、構成要素である二糖まで消化した。24時間後、追加のリアーゼ消化を行い、サンプルの完全消化を確かにした。リアーゼ消化前後のサンプルを、Blyscan assayを用いて全GAG分析を行った。二糖は、Blyscan GAG assayに反応しない。結果は、表7に要約してある。
【0152】
【表7】

【0153】
Blyscan assayにより決定されたように、該サンプルのヘパランリアーゼ消化によって、全GAG濃度は顕著に減少した(表7)。例えば、(50μg/mLで調製された)ヘパラン硫酸標準の濃度は、リアーゼ消化前後で、それぞれ52μg/mL及び15μg/mLであった。24時間または48時間処理したサンプルにおいて、顕著な違いは見られず、リアーゼ消化が最初の24時間のインキュベーション後に、本質的に完了したことを示唆している。ヘパラン硫酸標準のリアーゼ消化によって、Blyscan試薬に対する該サンプルの反応性が落ちたが、バックグラウンドレベルに対しては落ちなかった。これは、ヘパラナーゼ消化に対する感受性のない、ヘパラン標準中の追加のGAGの存在によって、及び/または該標準のヘパラナーゼ消化が、ヘパランをその構成要素である二糖に変換するのに、100%有効ではないことで、説明されるかもしれない。FM抽出物のヘパランリアーゼ消化によって、消化されたサンプルに存在する全GAGは顕著に減少した。(例えば、リアーゼ消化前後でそれぞれ70μg/mL,42μg/mL)。この分析に基づくと、リアーゼ感受性ヘパラン硫酸は、FMに存在する全GAGの約40%をなす。これは、リアーゼ消化前の全GAG濃度が0.7mg/gであるとすると、ヘパラン硫酸濃度が0.2mg/gであることを表す。この知見は、ヘパラン硫酸濃度が0.2mg/gと決定した、上記のゲル電気泳動分析と一致している。
【0154】
FMマトリックスに存在すると予想され得る、もう一つの主要なGAG、コンドロイチン硫酸の存在を立証するために、HPLCによって、FM抽出物をさらに分析した。コンドロイチンポリマーを、構成モノマー、即ち非硫酸化コンドロイチン、コンドロイチン6−硫酸、コンドロイチン4−硫酸、コンドロイチン2,6−硫酸、コンドロイチン2,4−硫酸、及びコンドロイチン2,6−硫酸に加水分解するために、パパイン消化したFM抽出物を、Trisバッファー(50mM pH8.0,0.4M 酢酸ナトリウム,0.1%BSA)中5U/mLのコンドロイチナーゼABC(Seikagaku Corporation,Japan)で消化した(37℃で20時間)。コンドロイチナーゼ消化サンプルも、HPLCで分析し、それによって、抽出物中のコンドロイチンモノマー濃度をコンドロイチナーゼ消化の前のコンドロイチン硫酸濃度を推察するために用いた。サンプルを遠心し、その上澄みをRP−HPLCで分析した。PhenosphereTM SAX 5μm column(Phenomenex−California,USA)に対して、22℃で注入(20μL)した。混合物を、流速1.0mL/minで、含水HCl(pH3.5)/1.5M NaClを含むHCl(pH3.5)勾配を用いて分離した。ピークは、232nmで検出した。
【0155】
このHPLC手法を用いたところ、予想されたコンドロイチン硫酸モノマーは検出されず、コンドロイチン硫酸がFMにおいて検出された全GAGの主要な構成要素ではないことを示唆している。
【0156】
総合すると、これらの知見は、ヘパラン硫酸はFMスキャフォールドに存在するが、SISで見つかったヘパラン硫酸より低い濃度で存在することを示唆している(表8)。FMの全GAG濃度が0.6±0.1mg/gと決定され、これは、ゲル電気泳動で分離されなかった、コンドロイチン硫酸を除く他のGAG構成要素が、該抽出物に存在しているかもしれないことを示唆していることに言及するのは興味深い。
【0157】
【表8】

【0158】
実施例9
FM組織2面スキャフォールド構造
実施例1で概要を述べた方法を用いて、ヒツジFMを調製した。ヒツジ腺胃粘膜下組織も、粘膜下組織から筋肉及び上皮を層剥離し、その後、細胞を溶解するために、2時間水中に該スキャフォールドを浸すことによって、腺胃から調製した。ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色スライドを、標準的な方法を用いて、組織像を得るために調製した。
【0159】
(i)巨視的形態:腺胃粘膜下組織は、管腔表面及び反管腔表面両方において、似たような巨視的外観を有していた。対照的に、FMスキャフォールドは、該マトリックスの管腔側と反管腔側との間で、表面外形において、明らかな違いを有していた。管腔側の乳頭は、通常の皮膚の乳頭間突起と非常によく似たトポロジーを示し、一方、筋層が除去されたとき残される反管腔側は滑らかであった。このスキャフォールドの2面の性質は、治癒の状況で、異なる細胞型と相互作用する点において、重要である。
【0160】
(ii)組織像:固有−粘膜下組織層は、反芻動物の前胃に独特なものであり、他の胃腸組織では存在しない。腺胃及び小腸の粘膜固有層は、層剥離過程中に大部分除去される粘膜の腺の間にある、目の粗い疎性結合組織(loose areolar layer)である。粘膜筋板と呼ばれる組織層は、小腸及び腺胃において、粘膜固有層と粘膜下組織とを分離する。粘膜筋板は、前胃の第一胃では欠落しており、結果として、粘膜固有層及び粘膜下組織は融合して、固有−粘膜下組織を形成している。FMスキャフォールドは、基底膜残部及び固有−粘膜下組織から成る。顕微鏡によるスキャフォールドの分析によって、FMが、固有−粘膜下組織の粘膜固有層内部にECMの緻密な層を有し、それは、該マトリックスの厚みにおいて、上位約20%をしめることが明らかとなった。FMスキャフォールドの反管腔側は、より目の粗い網状構造を有していた。FMスキャフォールドは、起伏のある管腔表面、及び管腔側に緻密な粘膜固有層を有し、一方、反管腔側では、粘膜下組織のECMはより目の粗い網状であった。従って、FMスキャフォールドは、2面構造を有する。この構造によって、FMは組織再生のための医療装置として用いられる際、該マトリックスの緻密な管腔側における上皮再生の促進、及び該マトリックスのより緻密でない反管腔側における繊維芽細胞の侵入を促進するのに非常に適したものとなる。
【0161】
(iii)走査型電子顕微鏡(SEM):管腔表面及び反管腔表面を比較するために、1週齢のウシ及び6ヶ月齢の子ヒツジ由来の凍結乾燥した組織において、FM及び腺胃粘膜下組織の走査型電子顕微鏡観察を行った。子ヒツジ由来のFMスキャフォールドは、本明細書で述べられている手法を用いて調製した。“未処理”前胃固有−粘膜下組織は、上皮及び筋肉層を除去することによって調製したが、該組織のSTOF処理は行っていない。腺胃粘膜下組織は、粘膜下組織から筋肉及び上皮を層剥離し、その後細胞を溶解するため2時間水中に該スキャフォールドを浸すことによって、子ヒツジの腺胃から調製した。ウシ新生児のFM、ヒツジのFM及び腺胃のSEM画像の比較から、FMが2つの異なる表面及び明確な側面を有すること、一方、腺胃粘膜下組織は、両面において非常によく似ていることが明確に示された。
【0162】
FM及び腺胃粘膜下組織の断面SEM像は、腺胃粘膜下組織のより薄くかつより一様な構造と比べて、FM固有−粘膜下組織の管腔表面における、厚く緻密なECM層の存在を示した。特に、ECMの緻密な層は腺胃粘膜下組織から欠落している。
【0163】
実施例10
FM組織マトリックスの表面積
6ヶ月齢の子ヒツジからの6つの前胃及び6つの腺胃を地元の食肉処理場から収集した。巨視的に、前胃は腺胃よりもかなり大きな器官であり、それ故に、大きな表面積のスキャフォールドを生成するのに理想的である。
【0164】
サイズ上の違いを比較するために、前胃及び腺胃のそれぞれの体積を測定した。前胃は典型的には12−15リットルの体積で、一方腺胃は、2.5−3リットルに限定されていた。球体の表面積に近似すると、これは、腺胃の表面積が104cmであるのに比べて、前胃の表面積はおよそ405cmであることを示す。
【0165】
表9は、ヒツジ前胃及び腺胃由来のECMスキャフォールド間の違いを要約している。これらのECMシートの典型的寸法は、表9に示されており、前胃及び腺胃から得られるスキャフォールドの面積のおおよその違いを示している。また、腺胃粘膜下組織マトリックスが、もろく繊細な構造を有しており、単離するのが困難であること、一方FMはより頑丈で入手しやすいということも指摘された。
【0166】
【表9】

【0167】
他の既知の組成物に勝るFMの重要な利点は、大きな構造体を、一つの器官(例えば前胃)から得ることができるということである。例えば、あらゆる年齢または体重の動物に関して、前胃から得られるFMシートは、腺胃から得られ得るものより典型的には3−4倍大きく、同様に、腺胃から得られるものは膀胱から得られるものより典型的には大きい。小腸のような管状臓器から得られるECMシートは、幅において、該器官の円周に限定される。例えば、市場の重量のブタ(market weight pigs)由来の小腸粘膜下組織は、該小腸の円周に因って、10cm未満の幅に限定される。
【0168】
実施例11
FMスキャフォールドの厚み
FMスキャフォールドの4枚のシートを、約25kgで5−6ヶ月齢の4体の子ヒツジの前胃から調製した。4サンプルそれぞれにおいて、FMシートの厚みを、十分にスペースを空けて、13箇所で測定した。その結果を表10に示す。
【0169】
【表10】

【0170】
(米国特許第5,372,821号に示されているように)180kgより重いブタ由来の小腸粘膜下組織は典型的には、100μm厚しかない。上記測定結果は、成熟ブタの20%未満のサイズの未成熟の子ヒツジから、ブタ小腸粘膜下組織から得られるものの少なくとも3倍の厚みのECMシートが得られることを示している。そのようなより厚いスキャフォールドは、in vivoでの移植後のより強い強度及びより長い耐久性といった、有利な特性を有する。より厚いFMスキャフォールドは、より年齢が高く、体重も重い動物を用いて得ることができる。
【0171】
実施例12
FMスキャフォールドの2軸強度
1層のFMスキャフォールドシートのサンプルを実施例3に記載されているように、コラーゲンポリマー層を用いて積層し、2、3、4、及び8層の積層物を得た。加えて、前胃の固有−粘膜下組織及び腺胃粘膜下組織を、前胃及び腺胃より手作業でそれぞれ単離した。これら‘未処理の’サンプルに対して、実施例1に示されているようなSTOF処理は行わなかった。
【0172】
ボールバースト強度によって、2軸の力が加えられたときの、負荷に対する生体材料の抵抗性の測定値が得られる。試験は、テスト材料を丸い開口部(オリフィス)に固定し、サンプルが破壊されて球が通り抜けるまで、該サンプルの中央に金属球を押すことによって行われる。材料の相対的強度を、‘最大圧縮負荷’(Newtons,N)と呼ばれる、該材料の破損時点での力を用いて比較する。サンプルの最大圧縮負荷は、サンプルの厚みと同様に、サンプルの弾性及び強度に依存するだろう。ボールバースト試験は、全ての方向に力を均等に加えて2軸強度を決定する。比べて、一軸強度(下参照)は、一方向のみでの破損までの負荷を決定する。
【0173】
Standard Test Method for Bursting Strength of Knitted Goods, Constant-Rate-of-Traverse (CRT) Ball-Burst Test (ASTM D 3797-89)に従って、Instron1122 Machineを用いて、24.5mmの磨かれたステンレス半球体を、ECMシートが破損するまで、シートに押し付けた。最大圧縮負荷を、該シートを破裂するのに要する力と定義した。各ECMについて、少なくとも6サンプル(n=6)試験した。結果を表11及び図9に示す。FMスキャフォールドは、未処理の前胃固有−粘膜下組織と同程度の強度があり(それぞれ92.8±12.7及び114.3±8.1N)(表11及び図9)、両方の前胃ECM材料は腸組織及び腺胃組織由来のものよりかなり強度があった。
【0174】
【表11】

【0175】
FM積層物の強度における顕著な増加は、追加のシートを一連の多層(2、3、及び4層の)装置を生成するために積層したときに見られた。例えば、図10に示されるように、4層のヒツジFMは361.5±24.9Nの最大圧縮負荷を有し、一方、1層のFMは(92.8±12.7N)の最大圧縮負荷を有していた。
【0176】
4層FM積層物の2軸強度を、AllodermTM(LifeCell Corporation)、StratticeTM(LifeCell Corporation)、そしてSurgisisTM(Cook Biotechnology)といった、市販のECMベースプロダクトの既報のボールバーストデータと比較した(表12参照)。該4層FMは、他のインプラントプロダクトよりも低い最大圧縮強度を有していた。しかしながら、ボールバースト強度比較において、テスト材料の厚みの寸法は最大圧縮負荷の実測値にかなり影響を与えるだろうため、該テスト材料の厚みも考慮することが重要である。例えば、報告されているAllodermTMの厚みは1.9±0.13mmだったが、一方、4層FMプロダクトは0.47±0.01mmと、約75%より薄かった。該ECMプロダクトの異なる厚みを考慮に入れ、それにより該ECMプロダクトの2軸強度に関して有意義な比較をするために、該プロダクトの最大圧縮負荷(N)を、それらの厚み(mm)に正規化した。この分析を用いると、4つのプロダクトの相対的2軸強度は統計的に類似であることがわかった(表12及び図11参照)。
【0177】
【表12】

【0178】
実施例13
一軸の引っ張り強さ
一軸強度は、一片の材料の一端を固定し、反対方向の力を加えることにより、生体材料の一次元での力への耐性を測定する。材料の破損時の力を“最大負荷”(N)と呼ぶ。サンプルの最大負荷は、テスト材料のサイズ及び厚みと同様、テスト材料固有の強度に依存する。一軸試験は、Instron1122 Machineで行った。サンプルは、以前記載されたように、中央部分の幅が1cmのイヌ用骨型にカットした(Freytes et al., “Effect of Storage Upon Material Properties of Lyophilized Porcine Extracellular Matrix Derived from the Urinary Bladder” (2005) J. Biomed. Mater. Res. B: Appl. Biomater. and Freytes et al., “Uniaxial and Biaxial Properties of Terminally Sterilized Porcine Urinary Bladder Matrix Scaffolds” (2007) J. Biomed. Mater. Res. B: Appl. Biomater.参照、共に、その全体において参照により本明細書に組み込まれる)。
【0179】
FMスキャフォールドは実施例1に従って調製した。さらに、‘未処理’前胃固有−粘膜下組織及び胃粘膜下組織を手作業で調製した。これらの未処理サンプルは、STOF処理をかけなかった。全てのサンプルを、Instron試験機に取り付け、20mm/minの一定速度で破損するまで引っ張った。少なくとも、各ECMについて8サンプル(n=8)をテストした。
【0180】
表13及び図12に示されているように、その結果は、未処理前胃固有−粘膜下組織が、同じ動物由来の胃粘膜下組織よりかなり強いことを示した。加えて、米国特許第6,099,567号で報告されているように、6ヶ月齢の動物(約25kg)由来のヒツジFMスキャフォールドは、成熟動物(約50kg)由来のブタ胃粘膜下組織よりも強かった。このデータは、動物の年齢ひいては体重に関係なく、FMスキャフォールドが胃粘膜下組織よりかなり強いことを示している。従って、FMは、組織強化の適用において、単一シートで用いられたとき、胃由来ECMに比べて、損傷または機械的破損をより被りにくくなる。また、ECMシートを合わせて積層することにより、高い引っ張り強度の組成物を得ることが望ましいとき、他の胃腸または泌尿生殖器由来のECMスキャフォールドと比較して、必要とされるFMシートがより少なくすみ、この処理をより簡単で費用効果のあるものにすることが理解されるだろう。
【0181】
FM固有の強度はまた、胎児または新生児組織から単離されたFMの使用を実用的にし、一方、他の胎児または新生児粘膜下組織源は、その薄さ及び未成熟状態故に非常に弱い組織を生む。
【0182】
【表13】

【0183】
前述のデータに加えて、最大接線剛性(N/mm)、破損時の伸長(mm)、弾性係数(GPa)及び降伏応力(MPa)と同様に、単一及び多層のFMスキャフォールドに関する最大一軸負荷を決定した。降伏応力は、テストサンプルの寸法に正規化した用語であり、異なる厚みを持った類似のプロダクトを比較するために用いることができる。この用語は、材料固有の強度の尺度である。弾性係数即ちヤング係数は、材料の弾性ポテンシャルの尺度であり、これは破損することなく変形され、元の状態に戻ることができる能力である。弾性係数は材料の固有の性質であり、それにより異なるサイズのサンプルを比較することができる。弾性係数では、より低い数値がより大きな弾性を示す。例えば、ゴムの該係数は、0.01−0.1GPaである。
【0184】
1層から4層までのFM積層物の一軸強度特性の比較を図13に示す。予想されたように、積層状態、従ってプロダクトの厚みを増加させると、一軸強度及び剛性が著しく向上した。しかしながら、統計的には、積層により最大伸長または弾性係数は変化しなかった。これは、積層加工によりプロダクトの強度は増すが、その柔軟性は変わらないことを示し、1層及び多層のプロダクトの取扱性も同様であろうことを示唆している。
【0185】
ヒツジFMプロダクトの相対的一軸強度を評価するために、文献調査を行い、代替ECM様プロダクトの強度に関連しているデータを同定・抽出した。1層及び2層のFMスキャフォールドの一軸強度特性及び厚みを、硬膜修復プロダクトDuraGuardTM及びDurarepairTMの既報データと比較した(表14及び図14)。該1層及び2層FMスキャフォールドは、統計的に等価な降伏応力を有していた(それぞれ10.15±1.81及び9.77±1.68MPa)。これは、同じ材料から調製された異なる厚みの2つのサンプルで同一の降伏応力となるように、降伏応力をサンプルの厚みに正規化したためと予想される。1層及び2層のFMプロダクトはDura−GuardTM(13.5±3.34MPa)に類似の降伏応力を有し、3つのプロダクト全てDuraDermTM(6.27±4.20MPa)より、優れていた。Durarepairは、最も強いプロダクトで、22.7±2.83MPaの降伏応力を有していた。該1層及び2層のFMスキャフォールド(それぞれ0.04±0.01及び0.05±0.01GPaのヤング係数)は、Dura−GuardTM及びDurarepairTM(それぞれ0.08±0.02及び0.07±0.01MPa)よりも、弾性特性が良好だった。DuraDermTMは、最もよい弾性ポテンシャルを示した(係数0.002±0.009GPa)が、上記したように、調査したプロダクトの中では最も弱かった。
【0186】
この分析は、FMスキャフォールドが、現在市販されている硬膜修復プロダクトと同程度か、またはそれより良好な強度及び弾性特性を有することを示唆する。この分析は、4層FMスキャフォールドが市販の硬膜プロダクトと同等の強度を有することを示している。
【0187】
【表14】

【0188】
積層FMスキャフォールドの移植への適性を評価するために、一軸強度テストから導かれるような、スキャフォールドの生物物理学的特性を、市販プロダクトAllodermTMに関する類似の既報データと比較した(表15参照)。報告されたデータの広がりから、AllodermTMの本当の強度及び弾性ポテンシャルについての同意が文献では達成されていないことは明らかである。これは該プロダクトが、厚みの実測値のばらつきを含むプロダクトの不規則性をもたらす、死体由来であることを反映しているのかもしれない。報告されたAllodermTMの降伏応力は、7.00±1.00から16.79±2.10MPaの範囲である。有意義な比較をするために、データの広がりの中心点を11.90MPaとして、計算した。これは、4層積層物の降伏応力(11.97±1.16MPa)と同程度である。AllodermTMに関して報告されている2つの弾性係数は、互いに一桁分違い、4層プロダクトとの比較を困難にしている。しかしながら、4層プロダクトは、1層と2層のプロダクトの弾性特性を保持し、硬膜修復プロダクトDura−GuardTM及びDurarepairTMの弾性特性と似ている(上記考察参照)。
【0189】
従って、本明細書で行われた研究は、FMスキャフォールドがAllodermTMを製造するために使用される材料と同等の強度特性を有することを示している。特に、データは、多層FMスキャフォールドが、固有の強度がインプラント材料にとって必要とされる、インプラントへの適用に適した強度及び弾性特性を有することを示している。
【0190】
【表15】

【0191】
実施例14
縫合保持力強度
縫合保持力テストは、縫合‘引き抜き’に対する生体材料の耐性を決める実用的な臨床的検討である。該テストプロトコルは一軸強度と似ているが、本実施例では、テスト材料の一端を固定し、もう一方を、該テスト材料を通っている縫い目を介して反対側の留め具で固定した。規定した‘咬み深さ(bite-depth)’(縫合部位から、該テスト材料の端までの距離)で、該縫い目を生体材料に固定した。該材料が破損し、該縫い目が該テスト材料から引き抜かれるまで、反対方向への力を一定速度で与えた。材料の破損時の負荷は、‘最大負荷’(N)と呼ばれるが、テスト材料固有の強度、サンプルの咬み深さ及び厚みに依存する。
【0192】
一連の積層FMスキャフォールドを縫合保持力についてテストした。予想されたように、図15に示されるように、FMシートの積層により、縫合引き抜きに対する該プロダクトの耐性が増した。例えば、1層FMの破損までの負荷は5.91±0.60Nだったが、一方、(上記の、一軸及びボールバースト試験から決定されたように)より強い4層FMスキャフォールドは、15.96±1.30Nの破損までの負荷だった。
【0193】
図15で見られるように、実測された縫合保持力強度はサンプルの厚みに依存している。よって、ヒツジFM積層物の縫合保持力強度を、既報データを用いて、市販プロダクトと比較するために、最大負荷をサンプルの厚みに正規化した。FMスキャフォールド、及び硬膜修復プロダクトDurarepairTM及びDura−GuardTMの比較分析は、表16及び図16に示されている。1層(4.7±0.4N)及び2層(7.1±0.5N)のFMスキャフォールドの縫合保持力強度は、Dura−GuardTM(10.02±1.35N)及びDurarepairTM(12.38±2.10N)より小さかった。しかしながら、正規化した縫合保持力によって、4つのプロダクトの相対的厚みを考慮に入れると、4つのプロダクトは、縫合引き抜きに耐える同等の潜在能力を有していた。
【0194】
【表16】

【0195】
比較研究を、市販のインプラントプロダクトAllodermTM、StratticeTM及びSurgisisTMと比べて、積層FMスキャフォールドの性能を決定するために拡大した。その結果は、表17及び図17に示されている。縫合保持力テストに関するASTM基準が2mmの咬み深さを規定しているのに対し、これらの研究にわたって、約2mmから約10mmの様々な咬み深さを用いたことを指摘することは重要である(表17)。テスト中に用いる咬み深さを増すことにより、サンプルをさらに深いところで通っている縫い目を、端に達して実際に引き抜かれるまで引っ張るためには、より大きい力が必要となるため、実際の最大負荷が増加する。4層FM積層スキャフォールドは、SurgisisTMプロダクト(正規化した縫合保持力強度、それぞれ34.2±2.8及び18.0N/mm)よりはるかに、縫い目引き抜きに対して耐性があった。AllodermTM及びStratticeTM両方の、報告されている縫合保持力強度は、10mmの咬み深さを用いて、ASTM基準へ修正を加えている(表17)。これらのプロダクトの正規化された縫合保持力強度はそれぞれ、71.2±10.71及び40.2±3.43N/mmであった。比べて、4層FMスキャフォールドの正規化された縫合保持力強度は2mmの咬み深さを用いたとき、34.2±2.8N/mmであった。このデータは、3つのプロダクトを全て同等の咬み深さを用いた比較実験でテストをした場合、4層FMスキャフォールドの縫合保持力強度が、AllodermTM及びStratticeTM両方と同等でありうることを示している。この指摘は、4層FMスキャフォールドが、一軸試験のもとで同等の降伏応力を有する(表15参照)、及び、該3つのプロダクトが同等の正規化されたボールバースト強度を有する(表12参照)という観察によって支持される。
【0196】
【表17】

【0197】
実施例15
FMスキャフォールドの静水浸透性インデックス(PI)
移植可能なECMスキャフォールドの浸透性は、外因性インプラントの中へ及び外因性インプラントからの、細胞浸潤及び分子拡散の速度に影響を与えうる。インプラントの望ましい浸透性は、その応用次第であろう。例えば、硬膜代替のためのインプラント装置は、通常、脳脊髄液の喪失の可能性に対し保護するため、比較的不透過性であるべきである。組織再建用インプラントは、有用な成長因子の交換、ならびに細胞浸潤及び創傷浸出液の放出が可能なように、比較的高い浸透性を必要とする。従って、理想的には、本発明によって提供されるような組織スキャフォールド技術は、目的とする応用によって必要とされるように、浸透性を調節できる。
【0198】
単一及び多層ヒツジFMプロダクトの水浸透性の程度を評価するために、静水浸透性テスト用具を用い、確立された手順(Freytes,Tullius et al.2006)に従って、浸透性インデックス(PI)を決定した。上皮の接合部及び筋肉の接合部に由来する面を有し、FMスキャフォールドが異方性であることを考慮して、異方性材料を通る流れの方向に依存して、1層スキャフォールドが異なる浸透性を有するかどうか決めることを本研究は求めた。生物学的に誘導されたECMの“掌性(handedness)”の結果としての示差的浸透性は以前に指摘されている。表18では、1層FMスキャフォールドの浸透性を、ブタ膀胱マトリックス由来ECMに関する既報の浸透性インデックスと比較している。その結果は、FMスキャフォールドが水溶液に対して浸透性があることを示した。とりわけ、1層FMスキャフォールドは、両方向において、膀胱マトリックスよりも低い約10分の1の浸透性を有していた。
【0199】
本研究は、天然のウシ硬膜、ならびに1及び4層のFMスキャフォールドの水浸透性を決定するために拡大した。硬膜を約2歳のウシから取り出し、確立された手順を用い、該硬膜の浸透性についてテストした。硬膜は、漏出及び異物傷害から哺乳類の中枢神経系を守るよう進化したため、比較的不透過性の膜であると考えられる。該硬膜の浸透性は、1層FMスキャフォールドと似ており(それぞれ0.0022±0.0003及び0.0031±0.0005mL/cm/min)、一方、4層FMスキャフォールドは約10分の1の低い浸透性だった(0.00010±0.00001mL/cm/min)。従って、1層スキャフォールドは、天然の硬膜と非常に類似した浸透性を有するという利点がある。2層と4層FMスキャフォールドとの間の違いは、おそらくシートを積層するために用いられたポリマーの特性を反映している。従って、さらなる積層プロダクトは、硬膜インプラントプロダクトと特に関係があるであろう特徴、‘調節された’浸透性をもって開発されうる。
【0200】
【表18】

【0201】
実施例16
創傷治癒のげっ歯類モデルにおける、FMスキャフォールドのin vivoにおける有効性
以下の研究は、創傷治癒におけるFMの有効性を示すために行った。1週齢のウシから調製した前胃マトリックスを、楕円形のインプラントに切り取った(25×12mm)。平均体重が370gで、20〜23週齢の12匹のオスLewisラットを得た。該ラットの皮膚を0.5%クロルヘキシジン及び70%エタノールで消毒した。頭蓋の縁を測定後、頭蓋底から脊髄軸に沿って6cmとなるよう、滅菌した12mmのバイオプシーパンチで全層の創傷を施した。該創傷を被覆し、頭蓋周辺の皮膚の下に広がるよう、該マトリックスを移植した。該マトリックスを再水和するために無菌PBSを用い、該創傷をIntrasite Gel(Smith and Nephew)で被覆した。類似の創傷を負った6匹のラットを、コントロールとして無菌生理食塩水で処置した。実験の最初の4日間において、FMで処置したラットは、コントロールと比較して、はるかに早い速度で閉合した。この後、FM創傷の治癒速度は、推測するに、該スキャフォールドが創傷の収縮の程度を減らしたため、コントロールと比較して、より遅かった。23日目までに、FM処置した創傷及びコントロールの未処置創傷は、元のサイズの20%未満となった。創傷または皮下インプラント領域において、FMに対する炎症性または免疫反応の兆候は無かった。
【0202】
実施例17
創傷治癒のブタモデルにおけるFMスキャフォールドのin vivoでの有効性
FMスキャフォールドのin vivoでの性能をさらに評価し、組織再生促進におけるその有効性、及びリモデリングを受ける能力を決定するために、ブタモデル系における包括的な創傷治癒研究を行った。ブタ創傷治癒モデルは、通常、創傷治癒過程、及び臨床的または治療的介入の有効性を研究するための、一般的に認められた動物モデルと考えられている(Lindblad 2008)。これは、ブタ真皮の治癒が、ヒトでの治癒過程と大部分似ているためである。例えば、創傷拘縮は、げっ歯類における創傷閉合の主要なメカニズムであるが、一方、ブタ及びヒトでは、創傷閉合は、主に組織欠損の充填を介して起こる(Lindblad 2008)。
【0203】
現在の研究が、創傷治癒の急性ブタモデルに焦点を当てている一方、本発明のFMスキャフォールドは、急性及び慢性の適応症の両方で用いられてよいことを指摘するのは重要である。研究は以下のように進んだ。0日目に、6週齢の麻酔をしたメスブタ(約18−20kg)の背に、皮膚穴あけ器を用いて、20mm直径の全層創傷計20個を外科的に作った。図18に示されるように、該創傷は、スペースを3cmずつ空けて、横5列縦4列となるように作った。該研究には、計5体の動物を用いた(全部で100の創傷部位)。
【0204】
該創傷それぞれを、未処置または、無菌の1層FM、2層積層FM、もしくは確立されたECMベースプロダクトであるSISのいずれかで処置した。それぞれの場合において、前述のスキャフォールドの一つから取った円形の一片(直径20mm)を、該創傷に適用し、無菌食塩水を用いてin situで再水和した。あらゆる位置的なバイアスを平均化するために、同じ処置レイアウトを受ける動物が2体とないように、4つの処置の位置をそれぞれの動物の間で変えた。処置及び未処置の創傷を同じように包帯した。
【0205】
0、3、7、14、28及び42日目に、全ての創傷を、デジタル画像化し、創傷面積及び深さ(もし適切ならば高さ)を記録した。加えて、それぞれの動物から、1列の創傷において生検を行った。該生検は外科的に切除され、創傷床だけでなく、創傷周辺からの正常な組織の一部も含んでいた。全ての生検をホルマリンで固定、マウントし、切片に切って、分析用に染色した。切片化した組織は、H&E、Verhoff von Gieson、及びGomoriのトリクロム染色で染色した。組織は、免疫染色化学を用いて、細胞分化、内皮細胞増殖(endothelialisation)及び免疫応答のマーカーでも染色した。
【0206】
(A)創傷治癒中、FMスキャフォールドはリモデルされ、細胞で浸潤される。
該研究過程の間に採取された、固定組織生検の検査により、FMスキャフォールドが治癒過程の間、細胞によって浸潤されたことが示された。ECMマトリックスは、Gomoriのトリクローム染色切片において、緑色のリボンとして見え、該ECMマトリックスは、7日目に特に顕著であった。7日目に、外因性のECMスキャフォールド内部で、細胞がはっきりと見えた。FMスキャフォールドマトリックス及び市販プロダクトSIS両方とも、約14−28日間見え、その後該マトリックスは完全に分解され、リモデリング過程で成熟コラーゲンが据えられた。
【0207】
(B)処置創傷におけるFMスキャフォールドの持続性
該ブタ創傷治癒モデルにおいてFMスキャフォールドの持続性を評価した。治癒創傷におけるECM処置の持続性を定量化(qualitate)するために、Verhoff van Gieson(エラスチン)染色組織切片を、該マトリックスまたはマトリックス断片の外観に関して、それぞれ調べた。エラスチン染色切片において、スキャフォールド(1及び2層FMまたはSIS)は、再生中の創傷と明らかに見分けることができる、赤から黒の(red-to-black)リボンとして現れた。サンプリングされた時点でのスキャフォールドの持続性は図19に要約した。
【0208】
早い時点では(3日目及び7日目)、スキャフォールドは、典型的には、再生中の上皮及び/またはかさぶたに関連して、創傷の上部1/3においてはっきりと見えた。タイムコースが進むに従って、該スキャフォールドは、創傷床内に移動し、分解を受けているように見えた。3つのスキャフォールド処置の寿命にはほとんど差が無く、14−28日目までに、スキャフォールドは創傷の大部分から欠落していた。42日目にはマトリックスは観察されなかった。
【0209】
(C)FMスキャフォールドは、小腸粘膜下組織由来のマトリックスよりも大きな程度まで、再生中の創傷内部での細胞増殖を促進する。
再生中の創傷内部での細胞増殖は、細胞増殖が、有益な免疫応答、及び、繊維芽細胞及び/またはケラチノサイトの移動及び増殖の指標であるため、創傷処置の有効性に対する有効な指標になりうる。細胞増殖を定量化するために、上記のブタ創傷治癒研究中に得られた生検組織の免疫組織化学を、細胞マーカーKi67を用いて行った。Ki67は、細胞周期のあらゆる活動期の間、発現しており、それ故に細胞増殖及び細胞活性の有用なマーカーである。Ki67は、静止細胞では発現していない。
【0210】
ホルマリン固定した生検組織をパラフィン内にマウントし、15μmの切片に切り、エピトープ除去用クエン酸バッファーにさらした。その後、活性細胞を、1:50に希釈したKi67一次抗体を用いて検出し、Bond MaxTM Automated IHC/ISH Staining System(Leica Microsystems Instruments)により、HRPを結合した二次抗体及びDABを用いて染色を発色させた。その後切片を、Mayer’s haematoxylinで軽く対比染色した。上皮層(3、7、14、28及び42日目)から取った3つのランダムな視野、及び再生中の真皮層(7、14、28及び42日目)から取った3つの画像を用いて、免疫染色したスライドを40倍率でデジタル画像化した。ImageJソフトウェア(国立衛生研究所)を用いて、フレームあたりのKi67陽性細胞数を定量化するために、画像処理した。まず画像をデコンボリュートして、茶色のDAB染色を画像に現れている他の色要素から分離し、その後、閾値関数によって、バックグラウンドを差し引いた。Ki67陽性細胞を、300−4500ピクセルのサイズ範囲で黒いクラスターとして同定し、それに従ってカウントした。
【0211】
細胞増殖の定量化を、組織切片当たり、3つの上皮のフレーム及び3つの真皮のフレームにおいて同定された、Ki67陽性細胞の全数として表し、図20に示す。4つの処置グループそれぞれを、指定日にサンプリングした。3日目では、真皮層が存在していないので、真皮層におけるKi67陽性細胞は定量化しなかった。大体において、真皮の細胞増殖は、4つの処置グループ全てに関して、7日目及び14日目に急上昇した。7日目及び14日目両方で、FMスキャフォールド処置した創傷は、SIS処置及び未処置グループよりも、細胞増殖が有意に激しかった(図20参照;P<0.01、GraphPad Prismを用いた一元配置分散分析)。Ki67陽性細胞が全ての処置グループにおいて、42日目に‘ベースライン(baseline)’に戻って、時間と共に、この増殖期は消失した。
【0212】
(D)FMスキャフォールドは、小腸粘膜下組織由来のスキャフォールドと比べて、治癒創傷の脈管形成を増進する。
創傷内部での機能的な血液供給の存在は、創傷閉合及び治癒にとって重要である。そのようなものとして、治癒創傷の脈管分布状態を増すことは、特に慢性創傷において、創傷治癒速度及び創傷治癒の質を向上させる手段として、かなり注目を受けてきた。ヒツジFMスキャフォールド及び小腸粘膜下組織スキャフォールドでの処置に続く、脈管形成(例えば、血管新生(angiogenesis))の程度を、上記のブタ創傷治癒モデルとの関連で決定した。治癒創傷における、内皮細胞増殖及び脈管構造の発達の程度を定量化するために、デジタル定量化法を併用した免疫組織化学を行った。固定した生検組織を15μmの切片に切り、マウントし、EDTAでバッファーした界面活性剤にさらした。Mayer’s Haemotoxylinで軽く対比染色する(light counterstaining)前に、内皮細胞を1:100に希釈した抗CD34抗体で染色し、HRP結合二次抗体及びDAB染色を用いて視覚化した。3日目に採取された組織生検は、明確に輪郭を示す真皮層が欠けていたため、この分析から除外した。染色したスライドは、各組織切片の再生中の真皮層の、無作為に選択された4つのフレームを記録することで、40倍の倍率でデジタル画像化した。ImageJソフトウェアを用いて、DABカラーチャンネル(CD34陽性細胞)を各画像からデコンボリュートした。より小さな非特異的に染色された粒子、及び、血管を代表していない小さなCD34陽性クラスター(<300μm)を除去するために、モノクロの茶色の画像にフィルターをかけた。その後、以下の基準を用いて血管数を数えた。‘小血管’=300−500μm、‘中血管’=500−1500μm及び‘大血管’>1500μm
【0213】
実験コースにわたって(3日目は除く)、4つの処置群それぞれについて、フレームにつき数えた血管の平均全数は、図21Aに示されている。未処置創傷に比べ、ヒツジFMスキャフォールドのいずれかで処置した創傷における血管数において、統計的に有意な増加があった。未処置創傷と比較した全血管の増加は、14日目(P<0.01、1層FM及び2層FM)、28日目(P<0.01、1層FM及び2層FM)及び42日目(P<0.01、1層FM及びP<0.05、2層FM)に明らかであった。比べて、SIS処置では、未処置のコントロールと比較して、血管全数は増加しなかった。
【0214】
ヒツジFMスキャフォールドのいずれかによる処置で生じた結果の、小血管の数は、7日目にSIS処置で生じた数または未処置群で生じた数よりも多く、この傾向は、該実験コースを通して進行した(図21C)。中及び大サイズの血管数は、タイムコースの7日目では4つの処置群の間で、ほぼ同等であった(図21D及び図21E)。ヒツジFMベースの処置は、より多い数の中血管及び大血管を有する点で、14、28及び42日目ではSIS及び未処置創傷とは異なっていた。例えば、42日目に、ヒツジFMスキャフォールド処置では、SIS処置及び未処置創傷と比べて、約2倍の数の大血管を有していた(図21E)。
【0215】
小血管、中血管及び大血管の数を定量化することで、結果として生じている血管の相対的サイズ分布に対する4つの処置群の影響を理解することができた。小血管(約40%)、中血管(約45%)及び大血管(約15%)の比率は、該タイムコースにわたって、4つの処置群の間で変化しなかった(図21B)。これらの知見は、ヒツジ前胃マトリックス処置が、血管の全数は増やすが、処置によって、形成された血管の相対的サイズ分布は影響を受けないことを示している。
【0216】
実施例18
積層された生物活性FMスキャフォールド
上記したように、接着性ポリマーを含む積層FMスキャフォールドを開発した。該ポリマーは、FMスキャフォールドの隣接するシートを結合し、積層シートを作る。このポリマーはまた、生物活性分子の送達ビヒクルとして働くことができ、本明細書に記載されているように、組織接触部位において、生物活性分子の放出を調節するために使用することができる。該ポリマー層中に、以下の生物活性剤:成長因子FGF2または神経成長因子(NGF)、または抗菌剤ドキシサイクリン、アモキシシリン及びポリ−L−リジンのうち一つを含むFMスキャフォールド積層物を調製した。引き続き、生物活性ポリマー層を含むFMスキャフォールド積層物を、該積層物の生物活性を明らかにするために分析した。
【0217】
具体的には、実施例3に記載されているように、コラーゲンゲルを調製した。形成した時点で、該ゲルに、ヒトリコンビナントFGF2またはNGFいずれかを混ぜた。滅菌したFMスキャフォールドシートを8mmディスクに切り取って、成長因子を混ぜたコラーゲンゲル(10μL)を一方面に塗布した。積層物サンドウィッチ(即ち、FMスキャフォールド/生物活性コラーゲンポリマー/FMスキャフォールド)を作るために、2つ目のFMスキャフォールドディスクに、該コラーゲン層を塗布した。結合積層物を生成するために、該生物活性FMスキャフォールド積層物を、25℃で2時間脱水した。該FM積層物を、0、250または500ng/ディスクいずれかの濃度でFGF2またはNGFを含むよう作製した。細胞単層に適用する前に、結合した成長因子を抽出するために、生物活性FMスキャフォールドを、DMEM(1mL)中で37℃24時間インキュベートした。PC12細胞を、20k細胞/ウェル(DMEM(1mL)中)にて、24ウェルプレート上に播種し、37℃で24時間インキュベートした。細胞から媒体を除去し、生物活性FMスキャフォールド積層物と共にインキュベートしたDMEM(1mL)で置換した。ポジティブコントロール細胞を、最終濃度50ng/mLのFGF2またはNGFどちらかの溶液で処理した。細胞を、48時間インキュベートした。その後、倒立顕微鏡を用いて、該細胞の単層を画像化した(ウェルあたり3フレーム)。フレームあたりの全細胞数をカウントし、フレームあたりの細胞突起化の全数もカウントした。細胞突起は、外因性の成長因子によって活性化される細胞分化を示している。細胞突起を、細胞体の幅の2倍の長さを有するような、細胞体からの細胞伸長として定義した。成長因子によって活性化された細胞分化を、フレームあたりの、細胞あたりの細胞突起の数として表現した。結果を表19に示す。NGFを混ぜた積層物及びFGF2を混ぜた積層物両方によって、PC12細胞から細胞応答が引き起こされた。加えて、該応答は用量依存的であり、500ngの成長因子(FGF2またはNGF)を混ぜた積層物の細胞応答は、250ngを混ぜた積層物よりも高かった。
【0218】
【表19】

【0219】
上記したように、必要な生物活性物をコラーゲンゲルに混ぜることによって、小分子の抗菌剤ドキシサイクリンまたはポリ−L−リジンポリマーどちらかを含むFMスキャフォールド積層物のディスクも調製した。最終濃度が30、15、5、2.5、1及び0μg/ディスクとなるように、ドキシサイクリンを混ぜたディスクを調製し、一方、ポリ−L−リジンを混ぜたディスクを、5、2、1、0.5、0.1及び0μg/ディスクとなるように調製した。ドキシサイクリン(最終濃度30μg/ディスク)またはポリ−L−リジン(最終濃度5μg/ディスク)どちらかの溶液を無菌濾紙ディスク上にたらして、ポジティブコントロールを調製した。Mueller−Hinton寒天プレートを調製し、100μLの10個S.aureusをストリークし、5−10分間放置して乾燥させた。無菌技術を用いて、ディスクを該プレートに移し、35℃で24時間該プレートをインキュベートした。24時間後、プレートをデジタル画像化し、各ディスクのまわりの抗菌阻止帯を、ポジティブコントロールと比較して記録した。積層FMスキャフォールドのS.aureusに対する生物活性は表20に示す。ポジティブコントロールに匹敵する生物活性を‘+++’で示し、生物活性なしを、‘−’で示して、被験物の生物活性を記録した。
【0220】
【表20】

【0221】
ドキシサイクリンを含むコラーゲンポリマーで事前に積層したFMスキャフォールドディスクは、S.aureusの培養に対して生物活性があった。ドキシサイクリン積層FMスキャフォールドの生物活性は、濃度依存的で、30μg/ディスクの積層ディスクがコントロールディスクとほぼ同等の生物活性を持ち、一方、1及び0μg/ディスクの積層物は生物活性を示さなかった。ポリ−L−リジンを含むFMスキャフォールド積層物の生物活性は、ドキシサイクリンFMスキャフォールド積層物よりも、顕著ではなかった。しかしながら、テストした最高濃度のポリ−L−リジン(5μg/ディスク)では、生物活性がみられ、コントロールディスクにかなり匹敵していた。
【0222】
これらin vitroでの研究結果は、成長因子タンパクまたは抗菌剤小分子及びポリマーの、ポリマー接着剤層から時間と共に拡散する能力を示した。従って、該結果は、生物活性剤を含むポリマー層を有する積層FMシートを、様々な処置目的に使用してよいことを示している。該積層物は、特殊な臨床応用及び、それによって必要とされる物理的性能の程度に依存して、2層から15層またはそれ以上(例えば2から30層)の範囲でありうる。
【0223】
In vivoでは、生物活性FMスキャフォールド積層物は同様に、ポリマー層から周辺組織に生物活性剤を拡散させる。ポリマー層の種類及びこの層内部の生物活性剤の処方を変化させることで、該積層物から局所的な組織への生物活性剤の拡散を制御することができる。
【0224】
実施例19
ヒツジFMスキャフォールドの生体適合性
ヒツジFMスキャフォールドを、実施例1に従って調製し、4×4cmの四角型装置に切り取って、最後にエチレンオキサイドで滅菌した。FMスキャフォールド装置をBlue Book Memorandum G95−1及びISO10993−1:2003に従って、生体適合性についてテストした。テストは、細胞毒性、感作及び刺激/皮内反応を含んでいた。FMスキャフォールド装置から生じるあらゆる微生物感染を検出する、及び/または、あらゆる免疫的または炎症的応答を検出するために、必要なテストを、30日間のin vivo移植アッセイを含むまで拡張した。該装置のエンドトキシン濃度も同様に定量化した。
【0225】
あらゆる装置及び対照群をISO10993−12:2007‘Biological Evaluation of Medical Devices, Part 12: Sample Preparation and Reference Materials’に従って調製した。生体適合性テストの結果は表21に要約してあり、FMスキャフォールドが、その生体適合特性によって、in vivo送達に適したものとなっていることを示している。
【0226】
【表21】

【0227】
実施例20
ヒツジFMスキャフォールド製造中のウィルス不活化
FMスキャフォールド作製中のウィルス不活化は:1)デタージェント(Triton X−200及びSDS)処理中における、ウィルスタンパクの変性及び/またはウィルス外殻のウィルス脂質の破壊;2)過酢酸(PAA)処理中における、活性酸素種の遊離;及び3)エチレンオキサイドを用いた最終的な滅菌、の結果として起こり得る。該STOF処理及びPAA処理中のウィルス不活化を調べるために、3つのモデルウィルスを用いて、研究を行った。
【0228】
ウィルス不活化のレベルを、スケールダウンした製造工程でテストした。これは、2つの異なる製造工程段階を代表するサンプル中に3つの各モデルウィルスの高い力価のウィルスストックを混ぜること、及び、混ぜたこれらのサンプルを、対応する製造段階と類似の処理にかけることを含んでいた。各処理中のウィルス不活化のレベルを、各処理後の混ぜたサンプルから回収されたウィルス力価を未処理サンプルからのウィルス回収と比べることによって決定した。
【0229】
該モデルウィルスは、外殻の有無、核酸ゲノムのタイプ(DNAまたはRNA)及び該環境中での生存/消毒への抵抗性といった、異なる生理化学的特性を持つウィルスを含むよう選んだ(表22)。サンプル中に存在する感染性ウィルス量を、終点滴定によって決定し、ウィルス力価を組織培養感染量、50%(TCID50)として表した。
【0230】
本研究で用いたモデル系によって、STOF及びPAA処理は共に、6logs TCID50より大きいウィルス力価における全理論的減少をもって、該モデルウィルスを不活化したことが示された(表22)。
【0231】
デタージェント処理は、外殻を持つウィルス(PI−3及びFHV−1)の不活化に効果的だったが、外殻を持たないBEVウィルスの不活化には、ほとんど効果が無かった。外殻を持たないウィルスは一般的にデタージェント処理の影響を受けないので、この結果は予想された。対照的に、PAA処理は、3つ全てのモデルウィルスの不活化に効果的であった(表22)。
【0232】
【表22】

【0233】
実施例21
乳房再建用装置の製造
自然にくぼんだFMスキャフォールドの湿潤シートを一列に並べ、連続的に相互に積み重ねて、4層、6層及び8層の積層物を作った。該FMスキャフォールドの自然な輪郭を支持し補完するような曲面形を用いて、該シートを相互に積み重ねた。該積層物を凍結乾燥し、結合積層物を生成した。引き続いて、これらの積層物を、約3mm長の縫い目でvicryl糸で直線縫いをして、縫い合わせた。積層物を、該積層物の湾曲に沿って、直線縫いで縫った。縫い目線は、約10mm離した。該乳房積層物は、図2A及び図2Bにおいてそれぞれ示されているように、三日月型または楕円型のどちらかとした。該乳房積層物は、縫合やステープルを用いて、天然組織に取り付けることができる。
【0234】
参考文献
Boguszewski, D. V., N. A. Dyment, et al. (2008). Biomechanical Comparison
of Abdominal Wall Hernia Repair Materials. ASME 2008 Summer Bioengineering
Conference Marriott Resort, Marco Island, Florida, ASME
Choe, J. M., R. Kothandapani, et al. (2001). "Autologous, cadaveric, and
synthetic materials used in sling surgery: comparative biomechanical
analysis." Urology 58(3): 482-6.
Freytes, D. O., R. S. Tullius, et al. (2006). "Effect of storage upon
material properties of lyophilized porcine extracellular matrix derived from
the urinary bladder." J Biomed Mater Res B Appl Biomater 78(2): 327-33.
Freytes, D. O., R. S. Tullius, et al. (2008). "Hydrated versus lyophilized
forms of porcine extracellular matrix derived from the urinary bladder." J
Biomed Mater Res A 87(4): 862-72.
Gouk, S. S., T. M. Lim, et al. (2008). "Alterations of human acellular
tissue matrix by gamma irradiation: histology, biomechanical property,
stability, in vitro cell repopulation, and remodeling." J Biomed Mater Res
B Appl Biomater 84(1): 205-17.
Lemer, M. L., D. C. Chaikin, et al. (1999). "Tissue strength analysis of
autologous and cadaveric allografts for the pubovaginal sling." Neurourol
Urodyn 18(5): 497-503.
Lindblad, W. J. (2006). "How should one study wound healing?" Wound Repair
Regen 14(5): 515.
Lindblad, W. J. (2008). "Considerations for selecting the correct animal
model for dermal wound-healing studies." J Biomater Sci Polym Ed 19(8):
1087-96.
Morgan, A. S., T. McIff, et al. (2004). "Biomechanical properties of
materials used in static facial suspension." Arch Facial Plast Surg 6(5):
308-10.
Sclafani, A. P., S. A. McCormick, et al. (2002). "Biophysical and
microscopic analysis of homologous dermal and fascial materials for facial
aesthetic and reconstructive uses." Arch Facial Plast Surg 4(3): 164-71.
Vural, E., N. McLaughlin, et al. (2006). "Comparison of biomechanical
properties of alloderm and enduragen as static facial sling biomaterials."
Laryngoscope 116(3): 394-6.
Zerris, V. A., K. S. James, et al. (2007). "Repair of the dura mater with
processed collagen devices." J Biomed Mater Res B Appl Biomater 83(2): 580-8.
【0235】
均等物
本発明は、特定の実施例及び実施形態のみを参照して、本明細書に記載してきた。本発明のあらゆる可能な実施例及び実施形態を余すところ無く記載する努力は行っていない。実際、当業者は、以下の特許請求の範囲において列挙される、本発明の意図された精神と範囲から離れることなく、様々な付加、削除、修正及びその他の変更が、上記実施例及び実施形態になされてよいことをよく理解するであろう。あらゆるそうした付加、削除、修正及びその他の変更が、以下の特許請求の範囲に含まれることが意図されている。
【0236】
参照による組み込み
本明細書に引用されている、あらゆる特許、公開された特許出願、ウェブサイト、及びその他の参考文献の全ての内容は、本明細書によって、明確に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反芻動物前胃の固有−粘膜下組織の細胞外マトリックスを含む組織スキャフォールド。
【請求項2】
固有−粘膜下組織が第一胃に由来する、請求項1記載の組織スキャフォールド。
【請求項3】
上皮、基底膜、筋層及びそれらの組み合わせから成る群より選ばれる脱細胞化された組織をさらに含む、請求項1または請求項2に記載の組織スキャフォールド。
【請求項4】
I型コラーゲン、III型コラーゲン、エラスチン及びそれらの組み合わせから成る群より選ばれる繊維性タンパク質をさらに含む、請求項1−3のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項5】
FGF−2、TGFb1、TGFb2、VEGF及びそれらの組み合わせから成る群より選ばれる成長因子をさらに含む、請求項1−4のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項6】
ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸及びそれらの組み合わせから成る群より選ばれるグリコサミノグリカンをさらに含む、請求項1−5のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項7】
フィブロネクチン、ラミニン、IV型コラーゲン及びそれらの組み合わせから成る群より選ばれる接着タンパク質をさらに含む、請求項1−6のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項8】
起伏のある管腔表面を有する、請求項1−7のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項9】
単一または積層シートとして構成される、請求項1−8のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項10】
2−12の積層シートを含む、請求項9記載の組織スキャフォールド。
【請求項11】
2またはそれ以上の積層シートの間に配置されたポリマーをさらに含む、請求項10記載の組織スキャフォールド。
【請求項12】
該ポリマーが、コラーゲン、キトサン、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びそれらの組み合わせから成る群より選ばれる、請求項11記載の組織スキャフォールド。
【請求項13】
該ポリマーが生物活性分子をさらに含む、請求項11または請求項12に記載の組織スキャフォールド。
【請求項14】
該生物活性分子が、該ポリマーの層全体に分布している、請求項13記載の組織スキャフォールド。
【請求項15】
該生物活性分子が非共有的に該ポリマーに結合している、請求項13記載の組織スキャフォールド。
【請求項16】
該生物活性分子が共有的に該ポリマーに結合している、請求項13記載の組織スキャフォールド。
【請求項17】
該生物活性分子が小分子またはポリペプチドである、請求項13記載の組織スキャフォールド。
【請求項18】
該生物活性分子が、成長因子、抗菌剤、鎮痛剤、止血剤、血管新生促進剤、血管新生抑制剤及びそれらの組み合わせから成る群より選ばれる、請求項17記載の組織スキャフォールド。
【請求項19】
該生物活性分子が、FGF2、NGF、ドキシサイクリン、ポリ−L−リジン及びそれらの組み合わせから成る群より選ばれる、請求項18記載の組織スキャフォールド。
【請求項20】
該積層シートが縫合によりまとまって固定されている、請求項10−19のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項21】
該シートが、少なくとも10cmの幅及び少なくとも10cmの長さを有する、請求項1−20のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項22】
該シートが、少なくとも80Nの平均バースト強度を有する、請求項1−21のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項23】
該反芻動物が、Capra、Bos、Cervus及びOvisから成る群より選ばれる属に属する、請求項1−22のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項24】
該反芻動物がOvis ariesである、請求項1−23のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項25】
請求項1−24のいずれか一項に記載の組織スキャフォールドを含む、組成物。
【請求項26】
組織欠損を被覆するための、請求項1−24のいずれか一項に記載の組織スキャフォールドの使用。
【請求項27】
該組織欠損が、少なくとも10cmの幅及び少なくとも10cmの長さを有する、請求項26記載の使用。
【請求項28】
該組織スキャフォールドが、該組織欠損内部での細胞増殖を増進する、請求項26または請求項27に記載の使用。
【請求項29】
該組織スキャフォールドが、該組織欠損内部の脈管形成を増進する、請求項26または請求項27に記載の使用。
【請求項30】
軟組織を強化するための、請求項1−24のいずれか一項に記載の組織スキャフォールドの使用。
【請求項31】
強化された軟組織が、少なくとも10cmの幅及び少なくとも10cmの長さを有するスキャフォールドで修復される、請求項30記載の使用。
【請求項32】
損傷組織の修復を誘導するための方法であって、請求項1−24のいずれか一項に記載の組織スキャフォールドと該損傷組織とを接触させることを含む方法。
【請求項33】
軟組織再生を活性化するための方法であって、請求項1−24のいずれか一項に記載の組織スキャフォールドと該軟組織とを接触させることを含む方法。
【請求項34】
該組織スキャフォールドが細胞増殖を誘導する、請求項32または請求項33に記載の方法。
【請求項35】
該組織スキャフォールドが脈管形成を誘導する、請求項32または請求項33に記載の方法。
【請求項36】
組織の脈管形成を誘導する方法であって、脈管形成が該組織内部で起こるように、請求項1−24のいずれか一項に記載の組織スキャフォールドと該組織とを接触させることを含む方法。
【請求項37】
組織の全てまたは一部の内部の層を分離または脱細胞化する方法であって、該組織の全てまたは一部の内部の層が分離または脱細胞化されるように、該組織の2つの側面の間で貫壁性浸透流を作り出すことを含む方法。
【請求項38】
貫壁性浸透流が該組織の管腔側から反管腔側へ作り出される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
上皮、基底膜、筋層及びそれらの組み合わせから成る群より選ばれる組織層の全てまたは一部を除去することを含む、請求項37または請求項38に記載の方法。
【請求項40】
該組織が、角化重層扁平上皮を含む、請求項37−39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
該組織またはその一部の内部に第一の溶液を封入し、該第一の溶液より高張な第二の溶液に該組織またはその一部を浸す段階をさらに含む、請求項37−40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
該組織またはその一部を該第二の溶液から取り出し、同様に該第一の溶液より高張な第三の溶液に該組織またはその一部を浸す段階をさらに含む、請求項41記載の方法。
【請求項43】
該組織またはその一部の内部に第一の溶液を封入し、該第一の溶液より低張な第二の溶液に該組織またはその一部を浸す段階をさらに含む、請求項37−40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
該組織またはその一部を該第二の溶液から取り出し、同様に該第一の溶液より低張な第三の溶液に該組織またはその一部を浸す段階をさらに含む、請求項43記載の方法。
【請求項45】
該第二の溶液が、水、任意に少なくとも一つのバッファー、デタージェントまたは塩を含む、請求項43または請求項44に記載の方法。
【請求項46】
該第一の溶液が、4M NaClを含む、請求項43または請求項44に記載の方法。
【請求項47】
該第二の溶液が、0.028%Triton X−200及び0.1%EDTAを含み、該第三の溶液が0.028%SDSを含む、請求項46記載の方法。
【請求項48】
該第二の溶液が0.1%SDSを含み、該第三の溶液が0.028%Triton X−200及び0.1%EDTAを含む、請求項46記載の方法。
【請求項49】
該方法を2℃と4℃との間の温度で36時間未満で行う、請求項37−48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
該方法を4℃で行う、請求項37−49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
該方法を24時間未満で行う、請求項37−50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
該第二の溶液が0.028%Triton X−200、0.1%EDTA及び0.1%SDSを含む、請求項46記載の方法。
【請求項53】
該方法を18℃と24℃との間の温度で行う、請求項52記載の方法。
【請求項54】
該方法を6時間未満で行う、請求項52または請求項53に記載の方法。
【請求項55】
該貫壁性浸透流を増やすために、該組織またはその一部を膨張させる、請求項37−54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
該組織が器官全体またはその一部である、請求項37−55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
該組織が反芻動物前胃に由来する、請求項37−56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
該組織が第一胃である、請求項57記載の方法。
【請求項59】
該反芻動物が、Capra、Bos、Cervus及びOvisから成る群より選ばれる属に属する、請求項57または請求項58に記載の方法。
【請求項60】
該反芻動物がOvis ariesである、請求項59記載の方法。
【請求項61】
請求項37−60のいずれか一項に記載の方法によって生成される組織スキャフォールド。
【請求項62】
請求項37−60のいずれか一項に記載の方法を行うことを含む、組織スキャフォールドを形成する方法。
【請求項63】
反芻動物前胃の固有−粘膜下組織の細胞外マトリックスを含む、患者内部の乳房組織を支持するための移植可能な組織スキャフォールド装置。
【請求項64】
該乳房組織が人工器官を含む、請求項63記載の装置。
【請求項65】
2またはそれ以上の細胞外マトリックスの層を含む積層シートとして構成された、請求項63または請求項64に記載の装置。
【請求項66】
該積層シートが、4−8の細胞外マトリックスの層を含む、請求項65記載の装置。
【請求項67】
凹面を有する、請求項63−66のいずれか一項に記載の装置。
【請求項68】
該細胞外マトリックス層が、縫合によってまとまって固定されている、請求項65−67のいずれか一項に記載の装置。
【請求項69】
該細胞外マトリックスに孔が開いている、請求項63−68いずれか一項に記載の装置。
【請求項70】
該細胞外マトリックスに孔が開いていない、請求項63−68のいずれか一項に記載の装置。
【請求項71】
該装置が三日月型を有する、請求項63−70のいずれか一項に記載の装置。
【請求項72】
該装置が楕円型を有する、請求項63−70のいずれか一項に記載の装置。
【請求項73】
患者内部の乳房組織を支持する方法であって、該乳房組織に対して支持する位置で、該患者内部に請求項63−72のいずれか一項に記載の装置を配置することを含む方法。
【請求項74】
該乳房組織が人工乳房を含む、請求項73記載の方法。
【請求項75】
該乳房組織が天然組織を含む、請求項73記載の方法。
【請求項76】
該配置が該乳房組織の下部及び側面部を被覆することを含む、請求項73−75のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
シートの間に配置されたポリマーによって積層された、2またはそれ以上の細胞外マトリックスのシートを含む、組織スキャフォールド。
【請求項78】
該スキャフォールドが、小腸、胃、膀胱、心膜及び真皮から成る群より選ばれる組織の粘膜下組織の細胞外マトリックスを含む、請求項77記載の組織スキャフォールド。
【請求項79】
該細胞外マトリックスがコラーゲンを含む、請求項77記載の組織スキャフォールド。
【請求項80】
該ポリマーがコラーゲン、キトサン、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びそれらの組み合わせから成る群より選ばれる、請求項77−79のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項81】
該ポリマーが生物活性分子をさらに含む、請求項77−80のいずれか一項に記載の組織スキャフォールド。
【請求項82】
該生物活性分子が非共有的に該ポリマーに結合している、請求項81記載の組織スキャフォールド。
【請求項83】
該生物活性分子が共有的に該ポリマーに結合している、請求項81記載の組織スキャフォールド。
【請求項84】
該生物活性分子が小分子またはポリペプチドである、請求項81記載の組織スキャフォールド。
【請求項85】
該生物活性分子が、成長因子、抗菌剤、鎮痛剤、止血剤、血管新生促進剤、血管新生抑制剤及びそれらの組み合わせから成る群より選ばれる、請求項84記載の組織スキャフォールド。
【請求項86】
該生物活性分子が、FGF2、NGF、ドキシサイクリン、ポリ−L−リジン及びそれらの組み合わせから成る群より選ばれる、請求項85記載の組織スキャフォールド。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13A−C】
image rotate

【図13D−F】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21A】
image rotate

【図21B】
image rotate

【図21C】
image rotate

【図21D】
image rotate

【図21E】
image rotate


【公表番号】特表2011−529375(P2011−529375A)
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521063(P2011−521063)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際出願番号】PCT/NZ2009/000152
【国際公開番号】WO2010/014021
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(511025916)メシンセス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】