説明

剛性部材およびそれを用いたパネル構造

【課題】 変形を効果的に抑制することを可能とした剛性部材およびパネル構造を提供する。
【解決手段】 平板状のパネル本体1上には、第1の粘弾性層2により、金属箔からなる平面状の基礎部材3が取り付けられている。この基礎部材3上には第2の粘弾性層4を介して剛性部材5が取り付けられている。剛性部材5の各ビード部50の頂面50Cは、舟形の平面であり、側壁50A、50Bはいずれもビード部50から外側に凸な曲面であり、両者はビード部50の中心に対して面対称に配置されている。この結果、ビード部50全体としては、いわゆる太鼓腹形状をなしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車室の床等のパネルを補強するのに用いられる剛性部材およびそれを用いたパネル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車室の床を形成するフロアパネルの構造として特許文献1に開示されたような構造が知られている。このフロアパネル構造は、予めビード部が形成された複数のフロアパネルを接合してフロア構造を形成するものであり、ビードを有する補強部材とフロアパネルとをビードを有していない部分で接合するものである。
【特許文献1】特開平10−24865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、このようにビード部が予め形成されたフロアパネルにおいては、フロア構造の形成時や、その後の後工程において、外力によってビード部が変形してしまう可能性がある。一方、補強用のビード部を後付する場合においても、この後付け時や、その後の後工程において、外力によってビード部が変形してしまう可能性は残る。
【0004】
そこで本発明は、変形を効果的に抑制することを可能とした剛性部材およびパネル構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る剛性部材は、所定板厚の金属板から成形されたビード部を有する剛性部材であって、ビード部の長手方向の両端を結ぶ側壁の一部に曲折部が設けられていることを特徴とする。側壁の一部に儲けられる曲折部とは、一部が曲面で形成されている場合の曲面部分を指すほか、側壁が長手方向において複数の平面で構成され、そのすべてが同一の延長平面に存在しない場合の平面の境界部分を表す概念である。
【0006】
側壁の少なくとも一部が曲面である場合、同一のビード部の一方の側壁と反対側の側壁の曲面は、ビード部の長手方向の両端部における側壁間の距離より長手方向の中間部分における側壁間の距離が大きくなるよう形成されているとよい。いわゆる太鼓腹形状であり、ビード部を上からみた場合に、円弧を略対象に配置したような形状をなす。
【0007】
あるいは、本発明に係る剛性部材は、所定板厚の金属板から成形されたビード部を有する剛性部材であって、ビード部を支える支持部材を備えているものでもよい。この支持部材は、ビード部の長手方向の両端を結ぶ側壁に取り付けられているとよい。例えば、ビード部の側壁の下端を固定する部材を備える形態等がある。
【0008】
この所定板厚の金属板には、金属箔を含み、また、金属箔を所定枚数重ね合わせて形成されているものも含む。ここで、金属箔を粘弾性層により、積層させていてもよい。
【0009】
このビード部の長手方向に直交する方向の断面形状は、コの字形であるとよい。コの字形のビード部を用い、その高さ、ビード部の長手方向に直交する方向の幅、複数配置する場合には、その間隔を調整することで、付与する剛性の調整を行う。
【0010】
本発明に係るパネル構造は、これらの剛性部材を粘弾性層を介してパネル本体に取り付けたものである。このような構成とすると、パネル本体が変形しようとする場合、剛性部材がパネル本体に剛性を付与するとともに、粘弾性層が剪断変形する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ビード部の側壁に曲折部を形成するか、ビード部を支える支持部材を儲けることで、ビード部の倒れ等の変形を抑制する。このため、ビード部の形状を維持し、その特性を維持することができる。特に、いわゆる太鼓腹形状に形成すると、ビード部の変形を抑制するとともに、剛性を付与する効果が高まる。
【0012】
所定板厚の金属板として金属箔を用いると、剛性部材の製造が容易である。また、これを重ね合わせて形成すると、剛性を高めることができ、特に、粘弾性層を介して重ね合わせると、層間の剪断変形によって振動が吸収し、制振・遮音効果が高まる。
【0013】
ビード部の長手方向に直交する方向の断面形状をコの字形とすることで、形状による剛性の調整が容易になる。また、ビード部自体の変形に対する抵抗も高まる。
【0014】
これらの剛性部材をパネル本体に粘弾性層を介して取り付けると、パネル本体に剛性を付与して変形を抑制することができるとともに、パネルに騒音等の振動が付与された場合には、粘弾性層が剪断変形し、振動を吸収するため、制振・遮音効果が高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、本発明に係るパネル構造の第1の実施形態を示す斜視図である。平板状のパネル本体1上には、第1の粘弾性層2により、金属箔からなる平面状の基礎部材3が取り付けられている。この基礎部材3上には第2の粘弾性層4を介して剛性部材5が取り付けられている。この剛性部材5は、平板状の金属箔の表面に所定の曲線を配置し、これらの曲線を折り返し線とするよう折り返したものであり、その断面は、コの字状またはS字状の状態が連続して繰り返す形状となっている。以下、剛性部材5のパネル本体1から突出した部分をビード部50、パネル本体1への取り付け部をフランジ部51と称する。この実施形態では、各ビード部50は、側壁50A、50Bと、頂面50Cで形成され、頂面50Cは、舟形の平面であり、側壁50A、50Bはいずれもビード部50から外側に凸な曲面であり、両者はビード部50の中心に対して面対称に配置されている。ここで、外側に凸な曲面とは、側壁50A、50Bがそれぞれ、ビード部50の長手方向の両端より中央部でその一方が他方に対して離隔する(両者間の距離が離れる)曲面を形成していることを意味する。この結果、ビード部50全体としては、いわゆる太鼓腹形状をなしている。
【0017】
ここで、ビード部50の長手方向中央部における幅、高さ、間隔はいずれも1センチ程度であり、端部におけるビード部50の幅は、中央部におけるビード部50の幅の1/2〜1/3程度に設定されている。基礎部材3と剛性部材5は、いずれもアルミニウム、銅、ステンレスやその他の金属または合金からなる金属箔であり、厚さは0.1〜0.2mmであって、単層または何層かを粘着テープ等によって貼り合わせたものである。重ね合わせる層数、各層の厚みは、重ね合わせた後の基礎部材3、剛性部材5の剛性が所望の剛性となるよう適宜選択される。また、金属箔に代えて所定の厚さの金属板を用いてもよい。
【0018】
本実施形態のパネル構造によれば、ビード部50の側壁50A、50Bを曲面として構成することで、いずれの側壁50A、50Bもビード部50の中心方向へと倒れ込む変形に比べて、反対方向に対しては、その曲面形状自体が倒れ込みを阻害するため、変形しにくい構成となっている。そして、側壁50A、50Bを対称に配置することによってねじれや歪みにより、ビード部50に対して倒れ込む方向の力が作用した場合でも、側壁50A、50Bのいずれか一方が倒れ込みを阻害することで、ビード部50自体が倒れ込む変形を効果的に抑制することができる。
【0019】
これにより、剛性部材5の形状を所望の形状に効果的に維持することができる。そのため、パネル本体1への取り付けの際に、剛性部材5が変形することがなく、取り付けの失敗を減らすことができ、施工性が大いに向上する。さらに、基礎部材3が剛性部材5が図中左右方向の伸張・圧縮力に対して変形を規制するため、施工性向上効果が高まる。
【0020】
このパネル構造においては、パネル本体1に基礎部材3と剛性部材5により、剛性が付与されているため、同じ応力が付与された場合でも、パネル本体1単体の場合に比較して変形が抑制される。そして、剛性部材5の形状が所望の状態に維持されるので、剛性付与効果が維持され、パネル本体1の強度を高めることができる。
【0021】
さらに、応力が付与された場合に、パネル本体1と基礎部材3間の粘弾性層2、基礎部材3と剛性部材5間の粘弾性層4がそれぞれ剪断変形することで、変形時のエネルギーを吸収する。このため、パネル本体1が振動した場合に、この振動エネルギーを吸収して、振動を減衰させ、振動騒音の内部への侵入を抑える効果が得られる。基礎部材3、剛性部材5の少なくとも一方が粘弾性層を介して積層されている場合には、その層間の粘弾性層においても剪断変形が生ずるため、さらに減衰効果が向上する。
【0022】
ここで、ビード部50の延在方向(長手方向)をパネル本体1の主要な曲げ方向に沿って配置するとよい。ビード部50は、その長手方向の剛性が、これに直交する方向の剛性に比較して高くなるから、主要な曲げ方向に沿って剛性の高い長手方向を一致させると、曲げ変形に対する剛性付与効果が高まる。
【0023】
図2は、本発明に係るパネル構造の第2の実施形態を示す斜視図である。この実施形態は、基本構造は、図1に示される第1の実施形態と同様であるが、剛性部材5が、パネル本体1上に粘弾性層2により直接貼り付けられており、基礎部材3を有していない点で相違する。そして、剛性部材5のビード部50の頂面50C、つまり、剛性部材5を挟んでパネル本体1と反対の側に、テープ8が接着されている。このテープ8としては、アルミ箔の一方の面に粘着剤を塗布したアルミテープ等を用いることができる。
【0024】
本実施形態でも、第1の実施形態と同様にビード部50の形状によってビード部50の倒れ込み変形が抑制されているので、剛性部材5は所望の形状を維持することができ、その変形を抑制することができる。さらに、テープ8を用いることで、剛性部材5が図中左右方向に引き延ばされたり、逆に同方向に圧縮される変形をさらに効果的に抑制することができる。ここでは、テープ8を用いたが、第1の実施形態における基礎部材3と同様に平板状の金属箔または積層した金属箔、金属板等を剛性部材5の頂面50Cを覆うように貼り付けてもよい。
【0025】
さらに、第2の実施形態からテープ8を除去した形態であっても、ビード部50の形状自体によってビード部50の倒れ込み変形を抑制する効果が得られるため、第2の実施形態におけるテープ8や第1の実施形態における基礎部材3は必須の構成ではない。しかし、これらの部材を設けることで、さらに、伸縮方向の変形を抑制する効果が得られる。
【0026】
ビード部の構成は、第1、第2の実施形態で示される構成に限られるものではない。図3は、本発明に係るパネル構造の第3の実施形態を示す斜視図である。この実施形態の剛性部材5aにおけるビード部52においては、頂面52Cは、ビード部52の延在方向に引き延ばされた細長い6角形であり、側壁52A、52Bは、それぞれ頂面52Cの連続する2つの側辺を延長した2平面からなる。言い換えると、側壁52A、52B自体が短冊を長手方向中央付近で折り曲げた形状をなしており、外側に凸な折れ面をなしている。この剛性部材5aは、ビード部52とフランジ部53とを別に所望の形状で形成し、両者を接着剤等の粘弾性層により接合することで形成するとよい。
【0027】
このような形状を採用した場合でも、第1、第2の実施形態と同様に、ビード部52の形状自体によってビード部52の倒れ込みを抑制する効果が得られる。このため、剛性部材5aの形状を所望の形状に効果的に維持することができる。そのため、第1、第2の実施形態と同様に、パネル本体1への取り付けの際の施工性向上効果が得られるほか、パネル本体1の剛性付与効果、制振・遮音効果についても同様である。
【0028】
ここでは、2つの平面を用いた場合を説明したが、3つ以上の平面を用いて側壁を構成してもよいし、曲面と平面を組み合わせて側壁を構成してもよい。この場合、組み合わせる平面または曲面のうち隣接する2面のうち少なくとも1組は、ビード部の長手方向で異なる位置に配置されている。そして、折れ面または曲面によって構成される曲折部は、側壁の倒れ込みを阻害する構成となっていること、具体的には、この曲折部がビード部の外側または内側に凸な構成となっているとよい。
【0029】
図4は、本発明に係るパネル構造の第4の実施形態を示す斜視図である。この実施形態の剛性部材5bでは、ビード部54の頂面54C、側壁54A、54Bは、いずれもビード部54の長手方向に引き延ばされた長方形である。そして、側壁54A、54Bの下端と連続するフランジ部55との間に爪56が配置されている。この爪56は、例えば、平板状の部材を折り曲げて剛性部材5bを形成する際に、側壁54A、54Bとフランジ部55を形成する部分の境界部分を折り曲げて引き延ばすことにより形成すればよい。あるいは、別に爪56を形成して境界部分に接着することで形成することもできる。このとき、爪56自体を樹脂等により形成することも可能である。
【0030】
本実施形態では、爪56により、側壁54A、54Bの倒れ込みを抑制している。このため、第1〜第3の実施形態と同様に、剛性部材5bの形状を所望の形状に効果的に維持することができ、パネル本体1への取り付けの際の施工性向上効果が得られるほか、パネル本体1の剛性付与効果、制振・遮音効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るパネル構造の第1の実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るパネル構造の第2の実施形態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るパネル構造の第3の実施形態を示す斜視図である。
【図4】本発明に係るパネル構造の第4の実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1…パネル本体、2…粘弾性層、3…基礎部材、4…粘弾性層、5、5a…、5b…剛性部材、8…テープ、50、52、54…ビード部、50A、50B、52A、52B、54A、54B…側壁、50C、52C、54C…頂面、51、53、55…フランジ部、56…爪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定板厚の金属板から成形されたビード部を有する剛性部材であって、前記ビード部の長手方向の両端を結ぶ側壁の一部に曲折部が設けられていることを特徴とする剛性部材。
【請求項2】
前記側壁の少なくとも一部は曲面であることを特徴とする請求項1記載の剛性部材。
【請求項3】
同一のビード部の一方の側壁と反対側の側壁の曲面は、ビード部の長手方向の両端部における側壁間の距離より長手方向の中間部分における側壁間の距離が大きくなるよう形成されていることを特徴とする請求項2記載の剛性部材。
【請求項4】
所定板厚の金属板から成形されたビード部を有する剛性部材であって、前記ビード部を支える支持部材を備えていることを特徴とする剛性部材。
【請求項5】
前記支持部材は、前記ビード部の長手方向の両端を結ぶ側壁に取り付けられていることを特徴とする請求項4記載の剛性部材。
【請求項6】
前記所定板厚の金属板は金属箔であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の剛性部材。
【請求項7】
前記ビード部の長手方向に直交する方向の断面形状は、コの字形であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の剛性部材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の剛性部材を粘弾性層を介してパネル本体に取り付けていることを特徴とするパネル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−347505(P2006−347505A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179718(P2005−179718)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】