説明

剥離ヘア除去装置及び剥離ヘア除去方法

【課題】効果的にエナメルヘアなどを除去することができ、経済性や生産性などを向上させることができる剥離ヘア除去装置及び剥離ヘア除去方法の提供を目的とする。
【解決手段】エナメルヘア除去装置1は、コンビーフ缶6を搬送するマグネットコンベア11と、エナメルヘア63を吸引するための吸引用流路213を有し、コンビーフ缶6からエナメルヘア63を掻き取るセグメント式ロールブラシ2と、吸引用流路213と連通し、エナメルヘア63を吸引して排出する吸引用ダクト5とを備え、コンビーフ缶6からエナメルヘア63を除去する構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶から剥離ヘア(剥離した糸状あるいはヘア状の物体、たとえば、エナメルヘアなど)を除去する剥離ヘア除去装置及び剥離ヘア除去方法に関し、特に、効果的にエナメルヘアを除去することができ、経済性や生産性などを向上させることができる剥離ヘア除去装置及び剥離ヘア除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
缶は、金属板製の容器であり、通常、使用される金属板は、製缶工程の前に、塗料や樹脂などによって被覆されている。被覆された金属板は、製缶工程において、所定の形状に成形されるが、この際、塗料や樹脂などの一部が糸状あるいはヘア状に剥離することがある。また、製缶工程の後工程である充填工程などにおいても、塗料や樹脂などの一部が同様に剥離することがある。この剥離した糸状やヘア状の物体は、その材質によって、エナメルヘア、塗膜ヘア、熱可塑性樹脂ヘアなどと呼ばれている。
なお、本明細書では、缶から剥離した糸状やヘア状の物体を、その材質などにかかわらず、剥離ヘアと総称する。
【0003】
また、被覆された金属板にスコア加工が施される缶(たとえば、コンビーフ缶など)においては、スコアやスコア近傍の塗料などが糸状に剥離し、スコア加工に起因する剥離ヘア(コンビーフ缶の場合、エナメルヘア)が発生する。
次に、コンビーフ缶やコンビーフ缶のエナメルヘアなどについて説明する。
【0004】
コンビーフ缶は、特殊な台形の角形形状(截頭四角錐状)を有する角形缶であり、巻き取り部を巻き取ることにより、缶胴を分割し、開缶する構成となっている。巻き取られる巻き取り部は、約5mmの幅を有しており、巻き取り部の上部及び下部には、それぞれ二本のスコア(二本のスコアどうしは、約1mm離れている。)が形成されている。このようにすると、巻き取り部を巻き取る際、二本のスコアから外れて缶胴が切断されるといった不具合を防止することができる。
【0005】
上記缶胴は、クロメート処理の施されたすずメッキ鋼板上に、ホワイトコート層、文字などの印刷層、及び、仕上げニス層など(適宜、これらの層を印刷膜と呼称する。)がこの順に積層された金属板である。
印刷膜の塗布された金属板は、製缶工程において、まず、打ち抜き加工によって、所定の形状に切断される。この打ち抜かれた金属板は、平板状である。
次に、打ち抜かれた金属板は、印刷面に、スコアカッターを回転させながら押し込むことにより、四本のスコアが形成される。各スコアは、線状の溝であり、たとえば、溝の断面は、逆さにしたほぼ三角形状であり、また、溝の幅は約0.1mmである。
【0006】
スコアが形成される際、スコアの表面(すなわち、溝の一対の斜面)には、大きな面圧が作用し、印刷膜の下面(ホワイトコート層の下面)と金属面(クロメート処理面)との間に剪断力が加わり密着性が低下する。
さらに、スコアのエッジ部(溝の斜面の上側縁部)やスコアの中央部(溝の斜面の下側縁部)に沿って、印刷膜にひび割れなどが発生する場合がある。かかる場合は特に、また、ひび割れなどが発生していない場合であっても、スコア加工後の曲げ加工や搬送時のシュートとのこすれなどにより、スコアの印刷膜が糸状に剥離し、数mm〜約30mmの長さのエナメルヘアが発生する。
【0007】
なお、コンビーフ缶は、上述したように、印刷層の下地に酸化チタン顔料を含有するホワイトコート層が一般に設けられているため、エナメルヘアが目立ちやすく、また、ホワイトコートは、顔料入り塗料であるため金属面(ここでは、クロメート処理面)との密着性が弱くエナメルヘアが発生しやすい傾向にある。さらに、缶胴シーム部が半田付けや溶接で製缶されるため、金属板は、すずを含んだメッキ処理が施されており、この点においても、塗料との密着性が弱く、エナメルヘアが発生しやすい状況にある。
【0008】
(従来例)
次に、コンビーフ缶のエナメルヘアを除去するための、従来例にかかるエナメルヘア除去装置について、図面を参照して説明する。
図5は、従来例にかかるエナメルヘア除去装置の要部の概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はD−D拡大断面図を示している。
図5において、剥離ヘア除去装置としてのエナメルヘア除去装置101は、マグネットコンベア11、一対のチャンネルブラシ102、及び、一対の吸引用ダクト105などを備えている。
なお、エナメルヘア除去工程におけるコンビーフ缶6は、缶胴及び上蓋からなる空缶(コンビーフを充填した後に、底蓋が取り付けられる。)であり、缶胴のほぼ中段部に、上下それぞれ二本のスコア62によって、巻き取り部61が形成されている。
【0009】
搬送手段としてのマグネットコンベア11は、逆さにしたコンビーフ缶6の上蓋を磁力により吸引した状態で搬送する。この際、ほぼ角形缶であるコンビーフ缶6は、長手方向の側面が搬送方向と平行となる向きで搬送される。また、マグネットコンベア11の両側には、一対のガイドレール12が対向するように設けられており、コンビーフ缶6の向きが変わらないようにガイドする。
【0010】
一対のチャンネルブラシ102は、チャンネル部材121及びブラシ122を有しており、マグネットコンベア11を挟むようにして、保持手段(図示せず)を介して基台10に固定されている。また、各チャンネルブラシ102は、ブラシ122の先端が、コンビーフ缶6のスコア62と当接し、長手方向の両側面からエナメルヘア(図示せず)が剥離する。
【0011】
吸引用ダクト105は、上板、背板、及び、一対の側板などを有するほぼ直方体状であり、上板に複数の吸引口155が設けられている。また、吸引用ダクト105は、ブラシ122の先端部がコンビーフ缶6の側に突き出る状態で、チャンネルブラシ102を覆うように固定される。上記吸引口155は、集塵機(図示せず)の吸い込み口と連通しており、チャンネルブラシ102によって除去されたエナメルヘアは、吸引用ダクト105によって上方に吸引され、吸引口155から集塵機に排出される。
【0012】
また、本発明に関連する様々な技術が提案されている。
たとえば、特許文献1には、公転するとともに自転し、かつ、缶内に進退可能なブラシを備え、絞り缶(DR缶)のフランジ先端の塗膜ヘア(エナメルヘア)を除去する缶塗膜ヘア除去装置の技術が開示されている。この缶塗膜ヘア除去装置は、ブラシの移動範囲を覆うように塵埃飛散防止用カバーを備えており、除去された塗膜ヘアを吸引し、装置外へ排除する。
【0013】
さらに、エナメルヘアなどの発生自体を抑制しようとする様々な技術なども提案されている。
たとえば、特許文献2には、熱可塑性樹脂粒子を塗料中に分散させることにより、蓋の成形加工時や開缶時にエナメルヘアの発生を抑制する金属製缶蓋被覆用塗料の技術が開示されている。
また、特許文献3には、塗膜の厚さを鋼板表面凹凸の半分以下にすることにより、フランジ曲げ加工の際、端面にエナメルヘアを発生させることのないフランジ曲げ加工用塗装鋼板の技術が開示されている。
また、特許文献4には、フランジエッジ部に塗料を塗布することにより、エナメルヘアの脱落を防止する金属缶のフランジエッジ部の加工方法の技術が開示されている。
さらに、特許文献5には、フランジ部後端を加工する際、しわ押さえを解放することにより、絞り成形におけるカップ上端部のエナメルヘアの発生を防止する有機被覆金属材の絞り成形法の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】実開昭54−162491号公報
【特許文献2】特開2006−45542号公報
【特許文献3】特開2004−291397号公報
【特許文献4】特開平7−112229号公報
【特許文献5】特開平5−154570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述したエナメルヘア除去装置101は、エナメルヘアの除去率を向上させることが要望されていた。すなわち、エナメルヘアは、スコアカッターの切れ味や印刷膜の密着状態などによって、発生率が突発的に変動するため、エナメルヘアが多く発生している場合であっても、効果的にエナメルヘアを除去することの可能な技術の確立が要望されていた。
また、上述したように、スコアカッターの切れ味が悪くなると、エナメルヘアが発生しやすくなるため、スコアカッターの交換及び再研磨を頻繁に行う必要があり、再研磨の費用の削減や生産性の向上などを図ることができないといった問題があった。
【0016】
なお、特許文献1の技術は、本発明に関連する技術ではあるものの、上記の課題を解決することはできず、また、経済性などに優れた状態で、コンビーフ缶などの角形缶に適用することが困難であった。
また、特許文献2〜5の技術において、エナメルヘアの発生を抑制するために、塗膜の密着性の向上、金属の表面処理改善、加工での工夫などがなされてきたが、エナメルヘアの発生を十分に抑制することができず、上記の課題を解決することは困難であった。
【0017】
本発明は、以上のような問題を解決するために提案されたものであり、効果的にエナメルヘアなどを除去することができ、経済性や生産性などを向上させることができる剥離ヘア除去装置及び剥離ヘア除去方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の剥離ヘア除去装置は、缶から剥離ヘアを除去する剥離ヘア除去装置であって、前記缶を搬送する搬送手段と、前記剥離ヘアを吸引するための吸引用流路を有し、前記缶から前記剥離ヘアを掻き取る回転ブラシと、前記吸引用流路と連通し、前記剥離ヘアを吸引して排出する吸引用ダクトとを備えた構成としてある。
【0019】
また、本発明の剥離ヘア除去方法は、缶から剥離ヘアを除去する剥離ヘア除去方法であって、搬送手段が前記缶を搬送し、前記剥離ヘアを吸引するための吸引用流路を有する回転ブラシが、搬送されている前記缶に当接して、前記缶から前記剥離ヘアを掻き取り、吸引用ダクトが、掻き取られた前記剥離ヘアの少なくとも一部を、前記回転ブラシの前記吸引用流路を介して吸引する方法としてある。
【発明の効果】
【0020】
本発明の剥離ヘア除去装置及び剥離ヘア除去方法によれば、効果的にエナメルヘアなどを除去することができ、経済性や生産性などを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかるエナメルヘア除去装置の要部の概略平面図を示している。
【図2】図2は、図1のA−A拡大断面図を示している。
【図3】図3は、本発明の一実施形態にかかるエナメルヘア除去装置の回転ブラシを説明するための要部の概略拡大図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はB−B断面図を示しており、(c)はC−C断面図を示している。
【図4】図4は、本発明の一実施形態にかかるエナメルヘア除去装置の動作を説明するための要部の概略拡大断面図を示している。
【図5】図5は、従来例にかかるエナメルヘア除去装置の要部の概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はD−D拡大断面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[剥離ヘア除去装置の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかるエナメルヘア除去装置の要部の概略平面図を示している。
また、図2は、図1のA−A拡大断面図を示している。
図1、2において、本実施形態の剥離ヘア除去装置は、エナメルヘア除去装置1であり、コンビーフ缶6を搬送するマグネットコンベア11と、エナメルヘア63を吸引するための吸引用流路213を有し、コンビーフ缶6からエナメルヘア63を掻き取るセグメント式ロールブラシ2と、吸引用流路213と連通し、エナメルヘア63を吸引して排出する吸引用ダクト5とを備えた構成としてある。
このエナメルヘア除去装置1は、マグネットコンベア11によって搬送されるコンビーフ缶6から、セグメント式ロールブラシ2によってエナメルヘア63を掻き取り、吸引用ダクト5によって除去する。
なお、本実施形態のコンビーフ缶6は、上述した従来例のものとほぼ同様としてある。
【0023】
(マグネットコンベア)
搬送手段としてのマグネットコンベア11は、上述した従来例のものとほぼ同様であり、逆さにしたコンビーフ缶6の上蓋を磁力により吸引した状態で搬送する。この際、ほぼ角形缶であるコンビーフ缶6は、長手方向の側面が搬送方向と平行となる向きで搬送される。
また、マグネットコンベア11の両側には、一対のガイドレール12が対向するように設けられており、コンビーフ缶6の向きが変わらないようにガイドする。さらに、本実施形態のガイドレール12は、セグメント式ロールブラシ2などと対応する部分に、後述するヘア除去用部材4が設けられている。
【0024】
(セグメント式ロールブラシ)
図3は、本発明の一実施形態にかかるエナメルヘア除去装置の回転ブラシを説明するための要部の概略拡大図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はB−B断面図を示しており、(c)はC−C断面図を示している。
図3において、回転ブラシは、セグメント式ロールブラシ2としてあり、マグネットコンベア11の両側に対向して配設される。図示の例ではブラシロール21を2個つなげて使用している。すなわち、エナメルヘア除去装置1は、搬送手段がマグネットコンベア11であり、該マグネットコンベア11の両側に、セグメント式ロールブラシ2を配設した構成としてある。これにより、コンビーフ缶6の両側から効率よくエナメルヘア63を除去することができる。また、エナメルヘア除去装置1の全体的な構造を単純化することができ、製造原価のコストダウンを図ることができる。
【0025】
セグメント式ロールブラシ2は、隣接して取り付けられる2個のブラシロール21、これらブラシロール21を挟持する一対のジグザグカラー22、並びに、ブラシロール21及びジグザグカラー22が取り付けられるシャフト23などを有している。また、セグメント式ロールブラシ2は、エナメルヘア63を吸引するための吸引用流路213を有している。
【0026】
ブラシロール21は、ほぼ円筒状のブラシ台211と、ブラシ台211に植毛されたブラシ212とを有している。
ブラシ台211は、周面中央部に、回転中心軸に沿った長穴状の三つの開口部214が、周方向に対して等間隔で位置するように形成されている。すなわち、ブラシ台211は、両端部付近の外周面に、全周にわたってブラシ212が植毛されており、また、中央側の外周面には、回転中心軸に沿った直線状の三箇所に(周方向に対して等間隔で位置するように)ブラシ212が植毛されている。
【0027】
また、ブラシ台211は、両端部に、冠歯車状の凹凸が形成されており、この凹凸は、ジグザグカラー22などと係合し、シャフト23からのトルクを伝達する。
さらに、隣接するブラシ台211どうしは、上記の凹凸を介して係合しているので、それぞれの開口部214の位相を容易に設定することができる。本実施形態では、隣接するブラシ台211の開口部214の位相を一致させているが、これに限定されるものではない。上記の位相を所定の角度、例えば60度異なるようにしてもよい。
なお、ブラシ台211やブラシ212は、通常、樹脂製である。
【0028】
シャフト23は、中央部に、2個のブラシロール21が嵌入され、さらに、2個のブラシロール21を挟持するジグザグカラー22が嵌入される。シャフト23の嵌入されたジグザグカラー22は、六角穴付き止めねじなどによって、シャフト23に固定される。
また、シャフト23は、ブラシロール21の開口部214と対応する位置の直径が、ブラシ台211の内径(たとえば、20mm)より小さく(たとえば、14mm)なっており、この部分の外周面とブラシ台211の内周面との間に、筒状スペース215が形成される。さらに、シャフト23は、通常、金属製である。
なお、上記の筒状スペース215は、ブラシ台211に中ぐり加工を行うことによって形成されてもよい。
【0029】
シャフト23は、図1に示すように、両軸端がベアリングホルダ24によって回転可能に支持されており、また、搬送方向側の軸端には、かさ歯車25が固定されている。かさ歯車25は、かさ歯車31と係合しており、また、かさ歯車31は、シャフト32を介してスプロケット33と連結されており、シャフト32は、ベアリングホルダ34によって回転可能に支持されている。
本実施形態では、スプロケット33は、図示してないが、チェーンなどを介してマグネットコンベア11の駆動軸などと連結されている。これにより、エナメルヘア除去装置1は、専用のモータ(図示せず)などを設ける必要が無いので、製造原価などのコストダウンを図ることができる。
【0030】
また、セグメント式ロールブラシ2は、エナメルヘア63を吸引するための吸引用流路213を有しており、本実施形態では、吸引用流路213は、上述した開口部214と筒状スペース215とからなっている。すなわち、セグメント式ロールブラシ2は、開口部214が、回転中心軸に対して120°間隔の三方向に配設されており、三つの開口部214が筒状スペース215と連通している。
このようにすると、セグメント式ロールブラシ2は、コンビーフ缶6に対して、ブラシ212によるエナメルヘア63の掻き取り、及び、吸引用流路213によるエナメルヘア63の吸引を交互に行うことができる。これにより、吸引用流路213は、一群のブラシ212が掻き取ったエナメルヘア63を迅速に吸引し排出することができるので、掻き取ったエナメルヘア63がブラシ212に絡まるといった不具合を防止することができる。また、ブラシ212は、エナメルヘア63が絡まっていない状態で、吸引用流路213の吸引により一部が突き出たエナメルヘア63と当接するので、掻き取り性能を向上させることができる。したがって、セグメント式ロールブラシ2は、効果的にエナメルヘア63を除去することができる。
【0031】
また、本実施形態のセグメント式ロールブラシ2は、一群のブラシ212の角度αを約60°とし、吸引される領域の角度βを約60°としてある。ただし、角度α、βは、上記に限定されるものではなく、たとえば、α=50°〜70°、β=70°〜50°としても、上記とほぼ同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態では、三つの開口部214を形成しているが、この理由は、四つ以上の開口部214を形成すると、ブラシ台211の機械的強度が弱くなり、掻き取り効率が低下したりするからである。さらに、一つ又は二つの開口部214を形成すると、エナメルヘア63を迅速に吸引しづらくなり、エナメルヘア63がブラシ212に絡まりやすくなるからである。
【0032】
(ヘア除去用部材)
また、本実施形態のエナメルヘア除去装置1は、セグメント式ロールブラシ2のブラシ212がコンビーフ缶6と当接する位置(水平方向の位置)から、所定の角度θ(本実施形態では、角度θは約45°)だけセグメント式ロールブラシ2の回転方向へ離れた位置に、ブラシ212と当接するヘア除去用部材4が設けられている(図2参照)。ヘア除去用部材4は、通常、金属製の丸棒(細長い板状部材や角棒などであってもよい。)と、この丸棒を覆う摩擦抵抗の高い有機材(たとえば、ゴムチューブ)とを有する構成としてある。これにより、ヘア除去用部材4とブラシ212とが当接すると、後述するように、コンビーフ缶6と一部がつながっているエナメルヘア63が挟まれた状態となり、コンビーフ缶6から効果的に引き千切ることができ、エナメルヘア63の除去率をさらに向上させることができる。
【0033】
なお、ヘア除去用部材4は、搬送方向の入り側部分が、外側に曲げられており、ガイドレール12としても機能する。さらに、ヘア除去用部材4は、通常、回転しない構成としてある。
また、角度θを約45°としてあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、35°〜55°としてもよく、ほぼ同様の効果を得ることができる。
【0034】
(吸引用ダクト)
吸引用ダクト5は、上板51、下板52、一対の側板53、及び、背板54などを有するほぼ直方体状であり、背板54に複数の吸引口55が設けられている。また、吸引口55は、集塵機(図示せず)の吸い込み口と連通しており、セグメント式ロールブラシ2によって掻き取られたエナメルヘア63は、吸引用ダクト5によって左右方向にそれぞれ吸引され(図4参照)、吸引口55から集塵機に排出される。
【0035】
ここで、好ましくは、吸引用ダクト5は、ブラシロール21の一部がコンビーフ缶6の側に突き出る状態で、ブラシロール21を覆うように固定される。本実施形態では、上板51、下板52、及び、一対の側板53の端部が、シャフト23の回転中心軸より微小距離(たとえば、数mm)だけコンビーフ缶6の側に位置し、一対の側板53は、ジグザグカラー22の外形に対応する形状としてある。すなわち、吸引用ダクト5は、セグメント式ロールブラシ2の所定の領域(ほぼブラシロール21の回転中心軸よりコンビーフ缶6側の部分)を覆うように、バキュームガイド(上板51、下板52、一対の側板53、及び、背板54)を有している。このようにすると、コンビーフ缶6の側に二つの開口部214が位置する状態、及び、コンビーフ缶6の側に一つの開口部214が位置する状態が交互に繰り返され、開口部214は、強い吸引力で、かつ、回転しながらエナメルヘア63を吸引するので、吸引の効率を向上させることができる。
【0036】
また、好ましくは、吸引口55が、セグメント式ロールブラシ2に対してコンビーフ缶6と反対側に設けてあるとよい。このようにすると、たとえば、吸引口55が上板51に設けられた場合(図示せず)と比べて、吸引用流路213をエアーが通り抜けやすくなるので、効率よくエナメルヘア63を排出することができる(図4参照)。また、後述するように、掻き取ったエナメルヘア63を迅速に吸引することができる。
なお、吸引口55の位置は、上記に限定されるものではなく、たとえば、セグメント式ロールブラシ2に対してコンビーフ缶6と反対側であって、かつ、下側に設けてもよく、ほぼ同様の効果を得ることができる。
【0037】
(コンビーフ缶)
また、本実施形態では、缶をコンビーフ缶6としてある。
コンビーフ缶6は、上述したように、缶胴に四本のスコア62が設けられており、エナメルヘア対策が取りにくい仕様であるが、吸引用流路213を有し、回転するセグメント式ロールブラシ2により、効果的にエナメルヘア63を除去することができる。
【0038】
また、コンビーフ缶6は、角形缶であり、長手方向の側面は、スコア加工の後に、曲げ加工や張り出し加工によって中央部が内側に窪んだ形状に成形され、短手方向の側面は、曲げ加工によって外側に湾曲した形状に成形されている。すなわち、長手方向の側面のスコア62は、スコア加工での密着性低下に加え、さらに密着性が低下しており、印刷膜の剥離によってエナメルヘア63が発生しやすい部位である。エナメルヘア除去装置1は、長手方向の側面に対して、効率よくエナメルヘア63を除去することができる。
なお、本実施形態では、コンビーフ缶6の長手方向の側面に対して、エナメルヘア除去装置1を適用しているが、これに限定されるものではなく、たとえば、コンビーフ缶6の向きを90°変えて搬送し、短手方向の側面に対しても、エナメルヘア除去装置1を適用する構成としてもよい。
【0039】
さらに、エナメルヘア除去装置1は、空缶であるコンビーフ缶6に対して、エナメルヘア63の除去を行う構成としてある。このようにすると、エナメルヘア除去装置1を通過した後の搬送工程や充填工程などにおいて、エナメルヘア63の発生を防止することができ、たとえば、充填ラインなどがエナメルヘア63で汚れるといった不具合を回避することができる。
【0040】
次に、上記構成のエナメルヘア除去装置1の動作などについて、図面を参照して説明する。
図4は、本発明の一実施形態にかかるエナメルヘア除去装置の動作を説明するための要部の概略拡大断面図を示している。
図4において、コンビーフ缶6は、マグネットコンベア11によって搬送されており、セグメント式ロールブラシ2は、通常、毎秒数回転の回転数で回転している。
ここで、マグネットコンベア11は、コンビーフ缶6を磁力で吸引した状態で搬送し、セグメント式ロールブラシ2は、コンビーフ缶6の長手方向の側面に、上側から下側にブラシ212が当接する方向に回転する。この際、コンビーフ缶6は、ブラシ212の回転によりマグネットコンベア11に押し付けられるので、搬送を確実に行うことができる。また、掻き取られたエナメルヘア63は、下方に移動するので、コンビーフ缶6の内部へ侵入するといった不具合を防止することができる。
【0041】
まず、図4(a)に示すように、第一の開口部214aが、スコア62とほぼ対向する位置にある。この際、スコア62の近傍の空間は、第三群のブラシ212cと第一群のブラシ212aに囲まれた状態となり、この空間のエアーは、第一の開口部214a、筒状スペース215、及び、第二の開口部214bあるいは第三の開口部214cを経て、吸引口55に吸引される。この吸引は、吸引の先端口がほぼ第一の開口部214aとなるので、吸引力が強まり、スコア62の近傍にエナメルヘア63が起き上った状態、すなわち、エナメルヘア63の一端が剥離し突き出ているが、他端がコンビーフ缶6とつながっている状態となる。あるいは、コンビーフ缶6から剥がれていないが、第一群のブラシ212aによって擦られると、エナメルヘア63が起き上りやすい状態となる。
また、図示してないが、第二群のブラシ212bにおいては、第二群のブラシ212bに付着しているエナメルヘア63は、ここでほぼ確実に吸引口55に吸引される。
【0042】
次に、図4(b)に示すように、セグメント式ロールブラシ2がさらに回転すると、第一群のブラシ212aがエナメルヘア63と当接し、エナメルヘア63を掻き取る。この際、第三群のブラシ212cと第一群のブラシ212aに囲まれた空間のエアーは、第一の開口部214a、筒状スペース215、及び、第三の開口部214cを経て、吸引口55に吸引される。このエアーの流れはほぼ直線状であり、掻き取られたエナメルヘア63は、迅速かつ確実に吸引口55に吸引される。
また、第一群のブラシ212aと第二群のブラシ212bに囲まれた空間のエアーは、第二の開口部214b、筒状スペース215、及び、第三の開口部214cを経て、吸引口55に吸引される。これにより、開口したコンビーフ缶6の上方エアーを吸引するので、舞い上がったエナメルヘア63があったとしても吸引し、コンビーフ缶6内に落下するといった不具合を防止することができる。
【0043】
ここで、好ましくは、上板51や下板52の先端部を、破線で示すように、コンビーフ缶6の側に延設してもよい。このようにすると、第三群のブラシ212cと第一群のブラシ212aに囲まれた空間のエアーをより強力に吸引することができ、掻き取られたエナメルヘア63は、さらに迅速かつ確実に吸引口55に吸引される。
【0044】
また、第一群のブラシ212aと当接し、コンビーフ缶6から剥離したエナメルヘア63は、上述したように、吸引口55に吸引されるが、エナメルヘア63のなかには、第一群のブラシ212aと当接し、一端がコンビーフ缶6から剥がれるものの、他端がコンビーフ缶6とつながっているものある。このエナメルヘア63は、通常、一端がブラシ212aとともに下側に移動する。
【0045】
上記のほぼ剥がれているもののコンビーフ缶6と一部がつながっているエナメルヘア63は、図4(c)に示すように、セグメント式ロールブラシ2がさらに回転すると、第一群のブラシ212aとヘア除去用部材4とによって挟まれ、挟まれた状態で、セグメント式ロールブラシ2が回転し、また、コンビーフ缶6が搬送されることによって、コンビーフ缶6から引き千切られる。すなわち、エナメルヘア除去装置1は、ヘア除去用部材4を備えることにより、より確実にエナメルヘア63を除去することができる。また、引き千切られたエナメルヘア63は、通常、第一の開口部214a、筒状スペース215、及び、第三の開口部214cを経て、吸引口55に吸引される。
【0046】
このように、エナメルヘア除去装置1は、エナメルヘア63の発生しやすい、コンビーフ缶6の長手方向の側面のスコア62をセグメント式ロールブラシ2で擦り、スコア62からエナメルヘア63を掻き取り、セグメント式ロールブラシ2内の吸引用流路213及び吸引用ダクト5を経由して、エナメルヘア63を吸引し、集塵機のフィルター(図示せず)に捕獲することができる。
また、エナメルヘア除去装置1は、スコア62及びスコア62の近傍で、剥離直前になっているエナメルヘア63(密着性が弱くなった剥離しそうな部分をも含む。)を掻き取って除去するため、この工程の後工程において、エナメルヘア63の発生を効果的に防止することができる。
さらに、掻き取られたエナメルヘア63は、吸引用流路213及び吸引用ダクト5を介して迅速に回収されるので、ブラシ212にエナメルヘア63が絡まったままの状態となるといった不具合を回避することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態のエナメルヘア除去装置1によれば、効果的にエナメルヘア63を除去し、エナメルヘア63の除去率を大幅に向上させることができる。また、スコアカッターの交換及び再研磨を頻繁に行う必要がなくなり、再研磨の費用の削減や生産性の向上などを図ることができる。
なお、回転ブラシとして、セグメント式ロールブラシ2を用いる構成としてあるが、回転ブラシの構造は、上記に限定されるものではなく、様々な構造のブラシ(回転させることの可能なブラシ)を用いることができる。
【0048】
[剥離ヘア除去方法の一実施形態]
また、本発明は、剥離ヘア除去方法の発明としても有効である。
本実施形態の剥離ヘア除去方法は、上述したエナメルヘア除去装置1を用いて、コンビーフ缶6からエナメルヘア63を除去する方法としてある。
すなわち、マグネットコンベア11がコンビーフ缶6を搬送し、エナメルヘア63を吸引するための吸引用流路213を有するセグメント式ロールブラシ2が、搬送されているコンビーフ缶6に当接して、コンビーフ缶6からエナメルヘア63を掻き取り、吸引用ダクト5が、掻き取られたエナメルヘア63の少なくとも一部を、セグメント式ロールブラシ2の吸引用流路213を介して吸引する方法としてある。
【0049】
これにより、エナメルヘア63の発生しやすいコンビーフ缶6の長手方向の側面のスコア62を、セグメント式ロールブラシ2で擦り、スコア62からエナメルヘア63を掻き取り、セグメント式ロールブラシ2内の吸引用流路213及び吸引用ダクト5を経由して、エナメルヘア63を吸引し、集塵機のフィルター(図示せず)に捕獲することができる。
【0050】
また、本実施形態の剥離ヘア除去方法は、好ましくは、セグメント式ロールブラシ2の吸引用流路213が、回転中心軸に対して120°間隔の三方向に配設されているとよい。このようにすると、掻き取られたエナメルヘア63は、吸引用流路213及び吸引用ダクト5を介して迅速に回収されるので、ブラシ212にエナメルヘア63が絡まったままの状態となるといった不具合を回避することができる。また、ブラシ212は、エナメルヘア63が絡まっていない状態で、吸引用流路213の吸引により一部が突き出たエナメルヘア63と当接するので、掻き取り性能を向上させることができる。したがって、セグメント式ロールブラシ2は、効果的にエナメルヘア63を除去することができる。
【0051】
また、本実施形態の剥離ヘア除去方法は、好ましくは、セグメント式ロールブラシ2のブラシ212がコンビーフ缶6と当接する角度位置(水平方向の位置)から、所定の角度θ(本実施形態では、角度θは約45°)だけ回転方向側の位置に、ブラシ212と当接するヘア除去用部材4が設けられているとよい。このようにすると、ヘア除去用部材4とブラシ212とが当接すると、コンビーフ缶6と一部がつながっているエナメルヘア63が挟まれた状態となり、コンビーフ缶6から効果的に引き千切ることができ、エナメルヘア63の除去率をさらに向上させることができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の剥離ヘア除去方法によれば、効果的にエナメルヘア63を除去し、エナメルヘア63の除去率を大幅に向上させることができる。また、スコアカッターの交換及び再研磨を頻繁に行う必要がなくなり、再研磨の費用の削減や生産性の向上などを図ることができる。
【0053】
以上、本発明の剥離ヘア除去装置及び剥離ヘア除去方法について、好ましい実施形態などを示して説明したが、本発明に係る剥離ヘア除去装置及び剥離ヘア除去方法は、上述した実施形態などにのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、本発明の剥離ヘア除去装置及び剥離ヘア除去方法は、コンビーフ缶6に対して用いられる場合に限定されるものではない。たとえば、図示してないが、フランジ部などから発生するエナメルヘア、塗膜ヘアや熱可塑性樹脂ヘアなど、塗装金属板や熱可塑性樹脂被覆金属板などを製缶するときに発生する剥離ヘア全般の対策として使用できるものである。
また、缶の種類も、特に限定されるものではなく、たとえば、溶接缶や半田缶などの3ピース缶、樹脂被覆金属板を絞り加工する絞り缶、あるいは、絞りしごき加工やストレッチ加工を組み合わせるシームレス缶などにも適用できる。
さらに、缶は、空缶であっても充填後の実缶であってもよい。
また、缶が円筒缶などである場合、缶を回転させる機構を有する搬送手段を用いてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1、101 エナメルヘア除去装置
2 セグメント式ロールブラシ
4 ヘア除去用部材
5 吸引用ダクト
6 コンビーフ缶
10 基台
11 マグネットコンベア
12 ガイドレール
21 ブラシロール
22 ジグザグカラー
23 シャフト
24 ベアリングホルダ
25 かさ歯車
31 かさ歯車
32 シャフト
33 スプロケット
34 ベアリングホルダ
51 上板
52 下板
53 側板
54 背板
55 吸引口
61 巻き取り部
62 スコア
63 エナメルヘア
102 チャンネルブラシ
121 チャンネル部材
122 ブラシ
105 吸引用ダクト
155 吸引口
211 ブラシ台
212 ブラシ
213 吸引用流路
214 開口部
215 筒状スペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶から剥離ヘアを除去する剥離ヘア除去装置であって、
前記缶を搬送する搬送手段と、
前記剥離ヘアを吸引するための吸引用流路を有し、前記缶から前記剥離ヘアを掻き取る回転ブラシと、
前記吸引用流路と連通し、前記剥離ヘアを吸引して排出する吸引用ダクトと
を備えたことを特徴とする剥離ヘア除去装置。
【請求項2】
前記回転ブラシの前記吸引用流路が、回転中心軸に対して120°間隔の三方向に配設されたことを特徴とする請求項1に記載の剥離ヘア除去装置。
【請求項3】
前記回転ブラシのブラシが前記缶と当接する位置から、所定の角度だけ前記回転ブラシの回転方向へ離れた位置に、前記ブラシと当接するヘア除去用部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の剥離ヘア除去装置。
【請求項4】
前記吸引用ダクトが、前記回転ブラシの所定の領域を覆うように、バキュームガイドを有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の剥離ヘア除去装置。
【請求項5】
前記吸引用ダクトの吸引口が、前記回転ブラシに対して前記缶と反対側に設けてあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の剥離ヘア除去装置。
【請求項6】
前記搬送手段がコンベアであり、該コンベアの両側に、前記回転ブラシを配設したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の剥離ヘア除去装置。
【請求項7】
前記缶は、スコアが設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の剥離ヘア除去装置。
【請求項8】
前記缶が角形缶であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の剥離ヘア除去装置。
【請求項9】
前記缶が空缶であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の剥離ヘア除去装置。
【請求項10】
缶から剥離ヘアを除去する剥離ヘア除去方法であって、
搬送手段が前記缶を搬送し、
前記剥離ヘアを吸引するための吸引用流路を有する回転ブラシが、搬送されている前記缶に当接して、前記缶から前記剥離ヘアを掻き取り、
吸引用ダクトが、掻き取られた前記剥離ヘアの少なくとも一部を、前記回転ブラシの前記吸引用流路を介して吸引する
ことを特徴とする剥離ヘア除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−235422(P2011−235422A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110755(P2010−110755)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】