説明

副生塩の処理方法

【課題】炭酸水素ナトリウムと排気ガス中の酸性成分とを反応させて得られた副生塩から、重金属成分を効率的に除去する。
【解決手段】前記副生塩を、水に溶解し、得られる溶液から不溶分を分離除去し、さらにpH1〜8の条件で、下記式1〜5のいずれかで表される官能基を有するキレート樹脂に接触させて水銀を除去する。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴミ焼却炉の排気ガスなどからの酸性成分除去剤として、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムを使用した際に発生する副生塩の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴミ焼却炉などから排出される排気ガスから、塩化水素や硫黄酸化物などの酸性成分を吸収除去するために、酸性成分除去剤として消石灰を使用することが知られている。この場合、消石灰は、反応当量に対して3〜4倍当量と過剰に使用する必要があるために、廃棄物の量が増加するなどの欠点があった。
【0003】
一方、酸性成分除去剤として炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムを使用した場合、酸性成分除去剤および排気ガス中の塩化水素との反応生成物である塩化ナトリウムなどが、いずれも水溶性である。このため、これらを水で溶解して廃棄することができ、廃棄処理の簡素化および廃棄物量の削減に極めて有効である。酸性成分除去剤として炭酸水素ナトリウムを用いる場合は、炭酸水素ナトリウムが分解して生成する炭酸ナトリウムが酸性成分と反応すると考えられている。
【0004】
酸性成分除去剤として炭酸水素ナトリウムを用いる場合、約200〜300℃の被処理気体中に炭酸水素ナトリウムの粉末を分散し、気体中の酸性成分の少なくとも一部と反応させてバグフィルターに捕集する。バグフィルターの表面では、酸性成分除去剤がさらに酸性成分と反応することにより、気体中の酸性成分を除去する。バグフィルター表面に捕集された粉体は、適宜パルスエアで払い落とされ、系外に排出される。このようにして得られる、酸性成分と酸性成分除去剤との反応物を主とする粉体を、本明細書では副生塩という。
【0005】
酸性成分除去剤として炭酸水素ナトリウムを用いた場合、副生塩は、主として炭酸水素ナトリウムと排気ガス中の塩化水素との反応生成物である塩化ナトリウムを主成分とし、炭酸水素ナトリウムと排気ガス中の硫黄酸化物から得られる硫酸ナトリウムなどを含む。さらに、排気ガス中の他の固形成分および、場合により未反応の炭酸水素ナトリウム、その分解生成物である炭酸ナトリウムなどを含む。これら副生塩の主成分はいずれも水溶性の物質であり、これを溶解して廃棄できるので処理操作が簡素化できるばかりでなく、消石灰を使用した場合のように埋め立てが必要な産業廃棄物の発生量が著しく少ないので好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ゴミ焼却炉などから排出される燃焼排ガス中には酸性成分以外に、雑多な被処理物の存在に起因して、副生塩中には水質基準の健康に関連する項目として排水基準が規定されているHgやCrをはじめ、複数の重金属成分が含有されている。このため、この副生塩を溶解して廃棄する場合、該重金属成分の濃度を、少なくとも排水基準を満たす水準まで低減させるための重金属処理が不可欠である。
【0007】
水質基準の健康に関連する項目として排水基準が規定されている重金属は、Hg、Cr、Cd、Se、As、Pbであり、排出基準はHgが0.005mg/L(水銀及びアルキル水銀化合物)、Pbが0.5mg/L、その他はそれぞれ0.1mg/Lとなっている。Lは容量の単位であるリットルを意味するものとする。
【0008】
溶液中の重金属を除去する方法として、例えば溶液にジチオカルバミン酸塩などのキレート剤を添加し難溶性の沈殿を生成して、これを分離する方法が知られている。しかし、副生塩に適用した場合、効果が不充分で、溶液中の残留重金属濃度を、排出基準以下に効率的に低減することが困難であった。
【0009】
本発明は、酸性成分除去剤として炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムを使用した場合に、副生塩を溶解した排水中の重金属濃度について、これを効率良くかつ確実に低減し、排水中に残留する重金属が排出基準を満たす副生塩の重金属処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムと、排気ガス中の酸性成分とを反応させて得られた副生塩を水に溶解し、得られる溶液から副生塩中の不溶分を分離除去し、不溶分を分離除去した後の溶液を、pH1〜8の条件で、下記式1で表される官能基、下記式2で表される官能基、下記式3で表される官能基、下記式4で表される官能基および下記式5で表される官能基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を有するキレート樹脂に接触させて溶液からHgを除去する副生塩の処理方法を提供する。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明においては、副生塩を水に溶解したのちに不溶分を分離除去する操作により、副生塩中の大部分の重金属を、排水基準以下の濃度にまで除去することができる。しかし、この操作のみでは、Hgについては完全に除去することができず、水質基準の健康に関連する項目として設定された排水基準を完全に満たすことは困難である。この原因はHg成分として、塩化水銀などの水溶性化合物が含まれているためと推定される。
【0013】
本発明においては、次に、不溶分を分離除去した後の溶液を、上記の特定のキレート樹脂に接触させる。このキレート樹脂は、一般には水銀キレート樹脂とも呼ばれるものであり、溶液中のHgを効率的に除去することができる。
【0014】
さらに、本発明においては、溶液をキレート樹脂に接触させる際の溶液のpHを1〜8に調整する必要がある。溶液のpHは、キレート樹脂のHg2+イオンの吸着効率に影響し、特に8超では吸着効率が低下するので不適当である。溶液のpHのより好ましい範囲は、3〜7である。なお、本明細書においてpHとは、25℃で測定した値をいう。
【0015】
副生塩は未反応の炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムを含むことがあるので、pHが8〜10になることがある。キレート樹脂と接触する際には、酸を添加するのが好ましい。酸については特に限定されるものではないが、有機酸の場合は排水中のBODやCODを上昇させる可能性があるので好ましくなく、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸が好ましい。
【0016】
本発明においては、不溶分を分離除去した後の溶液中のCr、Cd、Se、As、Pb、Ni、MnおよびCuの濃度が、いずれも0.1mg/L未満であることが好ましい。このうち、Cr、Cd、Se、AsおよびPbは、水質基準の健康に関連する項目として排水基準が規定されている重金属であり、これらの濃度が0.1mg/L未満である場合は、この排水基準を満足する。また、Ni、MnおよびCuは、副生塩に多く含まれる重金属であり、これらの濃度が0.1mg/L未満である場合は、副生塩からNi、MnおよびCuが環境に影響のない程度にまで除去されたといえる。
【0017】
また、本発明においては、前記キレート樹脂と接触させた後の溶液中に含まれるHg濃度が、0.005mg/L未満であることが好ましい。Hg濃度が0.005mg/L未満である場合は、水質基準の健康に関連する項目として規定されているHgの排水基準を満足する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の副生塩の処理方法により、ゴミ焼却炉などから排出される酸性成分の中和除去剤として、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムを使用した際に発生する副生塩を、溶解して廃棄などする場合に、副生塩中に含有される重金属成分を、効率的に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
回収された副生塩は、溶解槽などを用いて、水に溶解する。溶解槽の構造は特に限定されるものではないが、溶解を加速するための撹拌機またはこれに代わるポンプ外部循環装置などを備えていることが望ましい。水は、水道水、工業用水、イオン交換水、脱塩水など種々のものを使用することができる。さらに海水などの、すでに他の塩などを溶解しているものであってもよい。
【0020】
副生塩は、炭酸ナトリウムが30重量%以下であることが好ましい。炭酸ナトリウムは、投入した炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムが排気ガスの酸性成分と反応せずに残留したものであり、その残留量が増加することは酸性成分の除去に寄与しない酸性成分除去剤を徒に使用するので好ましくない。さらに、炭酸ナトリウムが30重量%を超えて含有している場合、後段のpH処理の際に、酸の添加量が増大するので好ましくない。
【0021】
副生塩の溶解濃度は10〜40重量%が好ましい。10重量%未満の場合、設備が大型化するので好ましくない。また、40重量%超では沈殿の分離効率が悪化する傾向があり好ましくない。副生塩の溶解濃度は20〜30重量%がさらに好ましい。
【0022】
溶解作業終了後、不溶分を分離除去する。不溶分は、重金属成分を含む。副生塩中に存在する重金属成分としては、Cr、Cd、Se、As、Pb、Ni、Mn、Cu、Hgなどの酸化物、塩化物、硫酸塩などが含まれていることが想定されるが、これらの重金属成分を効率良く不溶分として分離するために、溶液のpHを管理することが重要である。通常、副生塩中には炭酸ナトリウムが残留しており若干アルカリ性を示す傾向があるが、溶解液のpHとしては、7〜12が好ましい。pH7未満では、重金属成分が溶解し重金属濃度の上昇を招く可能性があるので好ましくない。またpHを12超にするためには、水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加することや、以降の中和作業に徒に多量の酸を添加する必要があるので好ましくない。より好ましいpHは8〜11である。
【0023】
不溶分の分離除去は、濾過法が好ましい。濾過設備の形式としては特に限定されるものではないが、フィルタープレス、プレコートフィルターなどの加圧濾過形式およびベルトフィルター、ヌッチェなどの減圧濾過形式のものがいずれも好適に使用される。
【0024】
本発明において、上記キレート樹脂を用いる場合は、吸着塔に充填して使用するのが好ましい。キレート吸着剤の充填密度は300〜1000kg/mが好ましく、500〜800kg/mがさらに好ましい。300kg/m未満の場合、吸着効率が低下するので好ましくない。また1000kg/m超の場合、通液抵抗が上昇し作業効率が悪化するので好ましくない。
【0025】
また、被処理溶液のキレート剤充填層通過速度は2〜15m/秒が好ましく、5〜10m/秒がさらに好ましい。2m/秒未満の場合、単位時間当たりの被処理液の処理量が減少し作業効率が悪化するので好ましくない。また15m/秒超の場合、充填層滞留時間が短くなりHg濃度を充分に低減することができなくなる可能性があるので好ましくない。
【実施例】
【0026】
ゴミ焼却炉から排出される排気ガス中に、炭酸水素ナトリウム粉末を投入し、バグフィルターにより回収して得られた副生塩の処理を行った。副生塩は、ロットの異なるA、B、Cの3種類を用いた。
【0027】
[例1]
副生塩A20gを容量300mlビーカーに入れ、これに水道水80gを加えパドル撹拌翼で10分間撹拌して溶解した。この溶液のpHは11.0であり、不溶分を含有していた。次に、不溶分を5A濾紙を用いて減圧濾過して分離した。不溶分を分離した後の溶液を中間処理液という。
【0028】
次に、この中間処理液に硝酸を添加してpHを5.8に調整し、フェノール樹脂骨格に官能基としてジチオカルバミン酸基(式2)を有する構成のキレート樹脂(旭硝子エンジニアリング社製、商品名アクリーンZH)10gを500kg/m3の密度で充填したガラス製充填塔に、8m/秒の速度で通液して処理した。キレート樹脂で処理した後の溶液を最終処理液という。
【0029】
上記中間処理液および最終処理液について、表1に示す金属元素について、濃度を測定した。Hgを除く他の金属元素についてはICP法で測定し、装置はセイコー社製、商品名SPS1500Rを使用した。Hgについては冷原子吸光光度法で測定し、装置は島津製作所社製、商品名UV−140−02を使用した。測定結果を表1に示す。表1における単位はmg/Lである。
【0030】
一方、副生塩A20gを容量300mlビーカーに入れ、1Nの硝酸水溶液80gを加えパドル撹拌翼で10分間撹拌して溶解した。この溶液のpHは1.2であり、不溶分を含有していた。次に、不溶分を5A濾紙を用いて減圧濾過して分離した。この溶液では、副生塩中の金属成分が実質的に全部溶解しているので、この溶液について上記と同様に金属元素の濃度を測定した結果を、表1の全含有量の欄に示す。
【0031】
表1によると、水銀以外の重金属類は不溶分として大部分が濾過操作で分離され、中間処理液の段階で基準値を満足する程度に除去されていることがわかる。中間処理液の段階では基準値以上の濃度を有していた水銀も、キレート樹脂による処理をされた最終処理液では基準値を満たしていた。この結果、最終処理液では、排水基準が規定されているHg、Cr、Cd、Se、As、Pbの全てについて基準値を満たしていた。Ni、Mn、Cuについても充分に除去されていた。
【0032】
【表1】

【0033】
[例2]
副生塩Bについて、例1と同様の方法で処理し、濾液中の重金属濃度を測定した結果を表2に示す。最終処理液では、排水基準が規定されているHg、Cr、Cd、Se、As、Pbの全てについて基準値を満たしていた。Ni、Mn、Cuについても充分に除去されていた。なお、副生塩溶解時のpHは9.7、硝酸の添加後にキレート樹脂と接触させたときのpHは6.0であった。
【0034】
【表2】

【0035】
[例3]
副生塩Cについて、例1と同様の方法で処理し、濾液中の重金属濃度を測定した結果を表3に示す。最終処理液では、排水基準が規定されているHg、Cr、Cd、Se、As、Pbの全てについて基準値を満たしていた。Ni、Mn、Cuについても充分に除去されていた。なお、副生塩溶解時のpHは10.5、硝酸の添加後にキレート樹脂と接触させたときのpHは6.3であった。
【0036】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムと、排気ガス中の酸性成分とを反応させて得られた副生塩を水に溶解し、得られる溶液から副生塩中の不溶分を分離除去し、不溶分を分離除去した後の溶液を、pH1〜8の条件で、下記式1で表される官能基、下記式2で表される官能基、下記式3で表される官能基、下記式4で表される官能基および下記式5で表される官能基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を有するキレート樹脂に接触させて溶液からHgを除去する副生塩の処理方法。
【化1】

【請求項2】
不溶分の分離除去時の溶液のpHが7〜12である請求項1記載の副生塩の処理方法。
【請求項3】
不溶分を分離除去した後の溶液中のCr、Cd、Se、As、Pb、Ni、MnおよびCuの濃度が、いずれも0.1mg/L未満である請求項1または2記載の副生塩の処理方法。
【請求項4】
前記キレート樹脂と接触させた後の溶液中に含まれるHg濃度が、0.005mg/L未満である請求項1、2または3記載の副生塩の処理方法。

【公開番号】特開2010−188346(P2010−188346A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95386(P2010−95386)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【分割の表示】特願平11−100631の分割
【原出願日】平成11年4月7日(1999.4.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】