説明

副甲状腺ホルモン、緩衝液、および安定剤を含んでなる安定化された副甲状腺ホルモン組成物

緩衝液および安定剤を含んでなる安定化された副甲状腺ホルモン(PTH)、より具体的には、その中でコハク酸、リンゴ酸、ヒスチジンまたは重炭酸アンモニウムが緩衝液として使用され、ソルビトールまたはマンニトールが安定剤として使用される、安定化されたPTH組成物について開示される。本発明のPTH組成物を使用して、通常の低分子量薬剤よりもはるかにより不安定で容易に分解されるPTHタンパク質を安定に調合できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝液および安定剤を含んでなる安定化された副甲状腺ホルモン(PTH)、より具体的にはその中でコハク酸、リンゴ酸、ヒスチジンまたは重炭酸アンモニウムが緩衝液として使用され、ソルビトールまたはマンニトールが安定剤として使用される、安定化されたPTH組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)は、副甲状腺によって84個のアミノ酸を含有するポリペプチドとして分泌される。それは身体中でカルシウム代謝を制御して骨成長および密度を調節する重要な役割を果たす。PTHは低濃度のCa2+の下で分泌されて、骨および腎臓細胞に作用することでCa2+の放出を促進することが報告されており(非特許文献1、非特許文献2)、PTHは全アミノ酸配列の一部でもその生物学的活性を示し、中でもアミノ末端(N末端)領域に34個のアミノ酸を含有するPTH(1〜34)は、代表的な活性画分である(非特許文献3)。PTH(1−34)およびPTH(1〜38)の生物学的活性は互いに類似しているが、オスおよびメスのラットにおいて、PTH(1〜34)が用量および処置期間に依存して、骨肉腫(悪性骨腫瘍)発生率増大の副作用を引き起こすことが分かり(非特許文献4)、それは重大な問題であった。
【0003】
遺伝子操作技術が発展するにつれて、様々な種類の細菌、酵素などから組換えタンパク質形態のPTHが調製されているが(非特許文献5)、その活性は、酸化、脱アミド化などの化学変性およびペプチド結合切断のために、容易に失われるかもしれない。実験的に84個のアミノ酸を含有するPTH(1〜84)を過酸化水素などの酸化剤と反応させると、Met8およびMet18残基酸化の結果としてPTH(1〜84)活性が急速に低下することが、最初の研究で明らかにされた(非特許文献6)。
【0004】
医療用目的のために使用されるPTHのような生物学的活性を有するペプチドを開発する上で、分離および保存におけるPTHの安定性を考慮することは不可避である。しかし上述のようにこのようなPTHの不安定性は、PTH調合物の重大な障害であった。したがって調合物の点から見て、このような障害を克服する安定化された組成物に関する様々な研究が、科学的注目を集めている。
【0005】
特許文献1は、糖および塩化ナトリウムを含有する安定化された副甲状腺ホルモン組成物を開示し、特許文献2は安定した結晶性形態のPTHおよび調製方法を開示する。しかしどちらの文献も緩衝液および安定剤を含んでなる安定化されたPTH組成物については、述べていない。
【0006】
その一方で特許文献3は、本発明に従った緩衝液および安定剤を含有するPTH組成物のように、酢酸または酒石酸および糖を含有する安定化されたPTH組成物を開示する。しかし緩衝液および安定剤の成分が、本発明のものとは異なる。さらに本発明のPTH組成物は、上の参照文献ものよりも容易には分解されず(表3参照)、本発明のPTH組成物の安定性は凍結乾燥後にはるかに優れて増大するので、安定性が上の文献のものよりも高いことが確実になる。さらに上の文献は、PTHの一部であるPTH(1〜34)の安定化に着目するのに対し、本発明は全長PTH(1〜84)の安定化を高レベルに保つことができることを示し、それが本発明の際立った特徴である。
【0007】
一般に、アミノ酸の長さが長いほど分解がより簡単に起きるので、不安定な全長PTHを調合することは困難である。さらにPTH(1〜34)は、長期間投与すると骨肉腫発生を引き起こすかもしれない副作用を有することが報告されている(FDAは製薬会社に、PTH(1〜34)の製品であるフォルテオ(Forteo)に、かかるリスクを警告として挿入するように指導した)。製薬会社はリスクのない全長PTH調合物の開発を試みている。
【0008】
したがって本発明の発明者らは、コハク酸、リンゴ酸、ヒスチジンまたは重炭酸アンモニウムを緩衝液として使用し、ソルビトールまたはマンニトールを安定剤として使用すると、本発明のPTH組成物が容易に分解されないので、本発明のPTH組成物が、通常の低分子量薬剤よりも不安定なタンパク質PTHから安定に調合できることを知って、本発明を完成した。
【特許文献1】PCT Publication No. WO/1993/11785
【特許文献2】PCT Publication No. WO/1999/31137
【特許文献3】PCT Publication No. WO/1999/39337
【非特許文献1】Mayer, G.P. (1979) Endocrinology 2, 607-611
【非特許文献2】Rotts, J.T., Kronenberg, H.M., Rosenbaltt, M. (1982) Adv. Protein Chem. 35, 323-396)
【非特許文献3】Br. Med. J. 1980 280:1340-44
【非特許文献4】Barbehenn EK et al., Trends Endocrinol Metab. 2001 Nov;12 (9):383
【非特許文献5】J. Biol. Chem. 1989 264(8):4367-74
【非特許文献6】The Journal of Biological Chemistry, Vol. 259, No. 9, 5507-5513, 1984
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
副甲状腺ホルモン、緩衝液、および安定剤を含んでなる液体副甲状腺ホルモン組成物を提供することが本発明の目的である。
【0010】
含水量2%未満で、副甲状腺ホルモン、緩衝液、および安定剤を含んでなる、凍結乾燥副甲状腺ホルモン組成物を提供することが、本発明のもう1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、治療上有効用量の副甲状腺ホルモン、pH値を4.0〜6.0の範囲に調節できる用量の緩衝液、および0.05〜20重量部の範囲の安定剤を含んでなる液体副甲状腺ホルモン組成物を提供する。
【0012】
さらに本発明は、含水量2%未満で、副甲状腺ホルモン、緩衝液、および安定剤を含んでなる、凍結乾燥副甲状腺ホルモン組成物を提供する。
【0013】
さらに本発明は、凍結乾燥組成物を使用して注射剤を調製する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下で本発明について詳細に述べる。
【0015】
第1に、本発明は、治療上有効用量の副甲状腺ホルモン、pH値を4.0〜6.0の範囲に調節できる用量の緩衝液、および0.05〜20重量部の範囲の安定剤を含んでなる、副甲状腺ホルモンを提供する。
【0016】
ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)は、副甲状腺によって84個のアミノ酸を含有するポリペプチドとして分泌される。これは身体中でカルシウム代謝を制御して骨成長および密度を調節する重要な役割を果たす。PTHは、全アミノ酸配列の一部によってもその生物学的活性を示すことが報告されており、PTH(1〜34)はアミノ末端(N末端)領域に34個のアミノ酸を含有する代表的な活性画分である(Br. Med. J. 1980 280:1340-44)。本発明に従って、PTHは上のアミノ酸配列に由来するPTH活性を有する全画分を含み、ならびにPTHは1〜84のアミノ酸配列を有する。さらに本発明のPTHは、PTHの安定性および半減期を改善するために、例えば、PTH(1〜34)、PTH(1〜37)、PTH(1〜38)、およびPTH(1〜41)などの最初の34個以上のN末端残基、および1〜5個のアミノ酸置換基を含む。例えばそれは、ロイシンまたはその他の疎水性アミノ酸を置換するPTHアミノ酸置換基を含んで8位および/または18位のメチオニン残基の酸化に対するPTH安定性を改善し、トリプシン非感応性アミノ酸を置換して、例えばアミノ酸25位〜27位領域域のヒスチジンまたはその他のアミノ酸のプロテアーゼに対するPTH安定性を改善する。好ましくは、本発明は、微生物を使用した組換え体調製方法によって(米国特許第5,010,010号)、または化学合成(米国特許第4,427,827号)によって調製される、84個のアミノ酸から構成されるPTHに関するものである。
【0017】
PTHは、酸化、脱アミド化などの化学変性、およびペプチド結合切断のために容易に分解される。全長PTH(1〜84)は、長さが最大なのではるかに容易に分解される。したがって医療用目的で利用するためには、PTHを安定化することが最も重要である。本発明の発明者らは、多様な緩衝液および安定剤と混合された様々なPTH組成物を調製することで、いずれの組成物が最も安定しているか調べた。
【0018】
第1に、組換え大腸菌(E.coli)から調製されたPTH(1〜84)(配列番号1)を使用して、安定化されたPTHを組成物を調製するのに適したpH値を選択するために、代表的な緩衝液をpH毎に調製して、溶液にPTH(1〜84)を添加して組成物の安定性を比較した。その結果、最も安定したPTH組成物のpH値は5.0であることが確認された(表1参照)。安定性の比較は、逆相(RP)HPLCを使用して残存するPTH組成物の量を測定する方法によって実施した。
【0019】
上の結果に従って、本発明の発明者らは、pH値を5.0に設定し、適用する緩衝液の種類を変化させることで、適切な緩衝液を選択することを意図した。コハク酸、リンゴ酸、ヒスチジン、酢酸、グリシンまたはクエン酸を緩衝液として使用した試験PTH(1〜84)組成物を50℃に7日間保ち、次にRP HPLCを使用して残存PTH(1〜84)の量を測定した。その結果、安定化されたPTH組成物を調製するための緩衝液の種類としては、コハク酸、リンゴ酸、酢酸、クエン酸またはそれらの塩、またはアミノ酸であるヒスチジン、アルギニンまたはグリシン、好ましくはコハク酸、リンゴ酸、ヒスチジンまたはそれらの塩(表2参照)が挙げられることが確認された。
【0020】
上の結果に従って、本発明の発明者らは、大量の残存PTH量をもたらす高順位の3つの物質であるコハク酸、リンゴ酸またはヒスチジンを緩衝液として選択し、適用する安定剤の種類を変化させることで、適切な安定剤を選択することを意図した。ソルビトールまたはマンニトールを安定剤として使用した試験PTH(1〜84)組成物を40℃に7日間保ち、次にRP HPLCを使用して残存PTH(1〜84)量を測定した。その結果、安定化されたPTH組成物を調製するための安定剤の種類としては、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、スクロース、EDTAまたはトウィーン80、好ましくは、ソルビトールまたはマンニトールが挙げられることが確認された(表3参照)。
【0021】
液体PTH組成物を調製する際に、PTH濃度は、10μg/mL〜5,000μg/mL、好ましくは50μg/mL〜500μg/mLであり、非経口的に許容可能な保存料、好ましくはm−クレゾールまたはベンジルアルコールをさらに含む。
【0022】
さらに本発明は、治療上有効用量の副甲状腺ホルモン、pH値を4.0〜6.0の範囲に調節できる用量の緩衝液、および0.05〜20重量部の範囲の安定剤を含んでなる、液体副甲状腺ホルモン組成物を提供する。
【0023】
上の結果に従って、本発明の発明者らは、緩衝液と、安定化されたPTH組成物を調製するのに最適であると判定された安定剤とを含んでなる液体PTH組成物を調製し、さらに緩衝液として重炭酸アンモニウム、および安定剤としてソルビトールまたはマンニトールを含んでなる液体PTH組成物を調製して、含水量2%未満の液体PTH組成物を凍結乾燥し、次にそれらを4℃に保った。ここで緩衝液として使用した重炭酸アンモニウムは、酸性条件下では揮発するかもしれないので、液体PTH組成物のpH値を7.0〜8.5に設定し、液体PTH組成物を凍結結乾燥した。凍結乾燥PTH組成物は、水和処理によって注射剤として調製できるかもしれない。凍結乾燥中に添加される緩衝液がコハク酸、リンゴ酸またはヒスチジンの場合、水和は蒸留水を使用して実施され、一方凍結乾燥中に添加される緩衝液が重炭酸アンモニウムの場合は、凍結乾燥中に重炭酸アンモニウムが揮発するかもしれないので、水和は緩衝液を使用して実施された。
【0024】
凍結乾燥PTH中の緩衝液および安定剤の濃度は、液体注射剤中の最終濃度として表される。水、緩衝液、または(緩衝液および安定剤の)混合液によって、凍結乾燥組成物から注射投与のために調製される最終液体の成分は、10μg/mL〜5,000μg/mL、好ましくは、50μg/mL〜500μg/mLのPTHと、0.1mM〜100mMの緩衝液と、0.05〜20重量部の安定剤であり、最終pH値は好ましくは4.0〜6.0の範囲である。
【0025】
上の様式で調製された液体組成物を50℃に3日間保って、RP HPLCを使用して残存PTH量を測定した。その結果、凍結乾燥後に蒸留水で水和された残存PTH組成物量は80%以上と測定されたので、凍結乾燥PTH組成物は非常に安定していることが確認された(表4参照)。特にその中で重炭酸アンモニウムが使用された残存PTH量は90%以上と測定されたので、非常に安定していることが分かった(表4参照)。
【0026】
さらに本発明のPTH組成物は、非経口的に許容可能な保存料、好ましくは、m−クレゾールまたはベンジルアルコールを含む。
【0027】
本発明の組成物は、上の成分に加えて、同一または同様の機能を提供する少なくとも1つの有効成分を含んでもよい。
【0028】
本発明の組成物は、上述の成分に加えて、少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリアを含有してもよい。薬学的に許容可能なキャリアは、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水溶液、デキストロース溶液、マルトデキストロース溶液、グリセロール、エタノール、リポソーム、およびその混合物からよりなる群から選択される少なくとも1つを含有してもよく、さらに必要ならば、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などのその他の普通の添加剤を含有する。さらに水溶液、懸濁液、エマルジョンなどの注射用調合物を調製するために、希釈剤、分散剤、界面活性剤、および潤滑剤をそれに添加してもよい。なおさらに標的に特異的に作用させるために、標的臓器のための特異的抗体またはその他のリガンドをPTHに結合してもよい。さらに化学抱合体をPTH(1〜84)に結合してもよく、またはポリマーをPTH(1〜84)と混合してもよい。例えばPTH化学抱合体材料またはポリマー混合物は、その中でPTHがポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどと化学的に結合するPTH抱合材料、または乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)と混合された微粒子を含んでもよい。
【0029】
本発明に従ったPTH組成物投与方法は特に上に限定されず、所望方法に従って、非経口投与(例えば静脈内、皮下、腹腔内または局所投与)または経口投与が利用できる。非経口投与が所望され、特に皮下注射剤または静脈内注射剤による投与が好ましい。投薬量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態および食生活、投与時間、投与方法、排出率、疾患の重篤性などに従って多様化されてもよい。1日投薬量は約0.1μg/kg〜2mg/kg、好ましくは0.5μg/kg〜100μg/kgである。1日1回、または何回かに分けてPTH組成物を投与することが最も望ましい。
【0030】
本発明のPTH組成物を静脈内注射によってマウスに投与して毒性実験を行ったところ、PTH組成物は50%致死用量LD50が少なくとも4mg/kgである安全な物質であると判定された。
【0031】
本発明のPTH組成物は単独で使用してもよく、または手術、ホルモン療法、薬物療法、生物学的応答調節剤を使用した方法などのその他の治療法と併せて使用してもよい。
【0032】
本発明の好ましい実施形態は、添付の図面を参照して最もよく理解される。
【0033】
以下に添付の図面を参照して、本発明の詳細な説明を提供する。本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の精神と範囲内で多数のバリエーションが可能である。本発明の実施形態は、本発明をあらゆる当業者により完全に説明するために提供される。
【実施例】
【0034】
実施例1:安定化されたPTH(1〜84)組成物を調製するのに適したpH値の選択
本発明で使用されたPTH(1〜84)(配列番号1)は、組換え大腸菌(E.coli)から調製された。本発明は、Korean Patent No. 10-0230578で開示される方法によって発現ベクター(pA15UP、p153PTH、およびpm153PTH)で形質転換された大腸菌(E.coli)MC1061から純粋に単離されたPTH(1〜84)を使用して、Korean Patent No. 10-0255270で開示されるDO−stat流加法培養によって発現された。
【0035】
より詳しくはPTH(1〜84)は、ホスホリブロキナーゼ断片およびPTH(1〜84)(ウロキナーゼ開裂部位を通じて、融合タンパク質のアミノ末端であるホスホリブロキナーゼ断片がPTH(1〜84)に結合する)から構成される融合タンパク質の形態で、大腸菌(E.coli)中の封入体に発現された。発現誘導された細胞を細胞溶解して、封入体を集めた。引き続いて尿素中で収集した封入体を溶解した後に、透析またはシグマ(Sigma)からのセファデックス(Sephadex)G25を使用したゲル濾過によって尿素を除去し、融合タンパク質を再び折り畳んだ。融合タンパク質を最適比率のウロキナーゼ(融合タンパク質:ウロキナーゼ=100:1)で処理してホスホリブロキナーゼ断片を除去し、次にカチオン交換クロマトグラフィーおよび逆相クロマトグラフィーを使用して、PTH(1〜84)を純粋に単離した。
【0036】
安定化されたPTH組成物のpH値を選択するために、代表的な緩衝液をpH毎に調製してPTH(1〜84)が100μg/mLになるように添加し、次に50℃に7日間保った。RP HPLCを使用して残存無損傷PTH(1〜84)量を分析し、pH毎の組成物の安定性を比較した。
【0037】
RP HPLC分析条件は次のとおりである。C18 HPLCカラム(0.46×25cm)を0.1%のTFAを含有する35%アセトニトリル緩衝液で平衡化し、その中に分析する目的組成物を注入して、アセトニトリルの比率を徐々に45%まで増大させて溶出した。吸光度214nmで測定し、流速は0.8mL/分であった。100%の初期PTHピーク面積を基準とした各試験溶液のピーク面積%と共に、残存無損傷PTH(1〜84)量を示す。
【0038】
表1は、試験された緩衝液の種類と濃度、および7日間保持した後の残存無損傷PTH(1〜84)量を示す実験結果である。
【0039】
【表1】

【0040】
上の試験結果に基づいて、安定化されたPTH組成物を調製するのに適したpH値は5.0と判定された。
【0041】
実施例2:安定化されたPTH(1〜84)組成物を調製するのに適した緩衝液の選択
上の実施例1の結果に基づいて、pH値を5.0に設定して適切な緩衝液を選択し、適用する緩衝液の種類を変化させた。ここで液体PTH(1〜84)の濃度は100μg/mLであり、使用した緩衝液の種類と濃度を50℃で7日間保った後の残存無損傷PTH(1〜84)量と共に表2に示す。実施例1と同一様式で、安定化されたPTH組成物の分析を実施した。
【0042】
比較例1
緩衝液の種類以外の実験のその他の条件は実施例2のものと同一であった。
【0043】
【表2】

【0044】
上の試験結果に基づいて、安定化されたPTH組成物を調製するのに適した緩衝液は、コハク酸、リンゴ酸またはヒスチジンであると判定された。
【0045】
実施例3:安定化されたPTH(1〜84)組成物を調製するのに適した安定剤の選択
上の実施例2の結果に基づいて、適用する安定剤の種類を変化させて適切な安定剤を選択するための緩衝液の種類は、コハク酸、リンゴ酸またはヒスチジンに決定された。ここで液体PTH(1〜84)の濃度は100μg/mLであり、使用した安定剤の種類と濃度を40℃で7日間保った後に残存する無損傷PTH(1〜84)量と共に表3に示す。安定化されたPTH組成物の分析を実施例1と同一様式で実施した。
【0046】
比較例2
安定剤の種類以外の実験のその他の条件は実施例3のものと同一であった。
【0047】
比較例3
緩衝液の種類以外の実験のその他の条件は実施例3のものと同一であった。
【0048】
【表3】

【0049】
上の試験結果に基づいて、安定化されたPTH組成物を調製するのに適した安定剤はソルビトールまたはマンニトールであることが判定された。さらに上の試験結果から、本発明のPTH組成物が、緩衝液としてクエン酸を使用したものよりも高い有効性を有することが確認された。
【0050】
実施例4:凍結乾燥後に蒸留水で水和されたPTH組成物の安定性の確認
100μg/mLのPTH(1〜84)、緩衝液、および安定剤を含んでなる液体PTH(1〜84)組成物、または100μg/mLのPTH(1〜84)、重炭酸アンモニウム、および安定剤を含んでなる液体PTH(1〜84)組成物を凍結乾燥後4℃に保った。凍結乾燥組成物を蒸留水または注射剤投与のための緩衝液で水和して、50℃に3日間保った。引き続いて組成物の安定性を測定した。
【0051】
表4は、凍結乾燥PTH(1〜84)の成分、および残存無損傷PTH(1〜84)量を示す実験結果である。安定化されたPTH組成物の分析は、実施例1と同一様式で実施した。
【0052】
比較例4
緩衝液の種類以外の実験のその他の条件は実施例4のものと同一であった。
【0053】
【表4】

【0054】
表4に示すように、本発明に従って凍結乾燥され、蒸留水で水和されたPTH組成物は、残存PTHが90%以上と測定されて非常に安定であり、緩衝液として重炭酸アンモニウムを含有し、安定剤としてソルビトールまたはマンニトールを含有し、凍結乾燥されて、コハク酸、リンゴ酸またはヒスチジンを含有する緩衝液で水和されたPTH組成物は、残存PTHが90%以上と測定されて、非常に安定であることが分かった。
【0055】
当業者は、本発明の同一目的を実行するためのその他の実施形態を修正しまたはデザインするための基本として、前述の説明で開示される概念および特定の実施形態を容易に利用してもよいことを理解するであろう。当業者はまた、このような同等の実施形態が、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の精神と範囲を逸脱しないことを理解するであろう。
【0056】
産業上の利用可能性
本発明に従って緩衝液、および安定剤を含んでなる安定化された副甲状腺ホルモン(PTH)組成物が、多くの化学変性を有する全長PTH(1〜84)から安定して調合され、より具体的には、凍結乾燥中に揮発する重炭酸アンモニウムを含んでなる凍結乾燥組成物は、水和後でさえも優れた安定性を有するので、安定したPTH医薬品として有用に応用できる。
【0057】
配列一覧
PTH(1〜84)
Ser Val Ser Glu Ile Gln Leu Met His Asn Leu Gly Lys His Leu Asn
1 5 10 15
Ser Met Glu Arg Val Glu Trp Leu Arg Lys Lys Leu Gln Asp Val His
20 25 30
Asn Phe Val Ala Leu Gly Ala Pro Leu Ala Pro Arg Asp Ala Gly Ser
35 40 45
Gln Arg Pro Arg Lys Lys Glu Asp Asn Val Leu Val Glu Ser His Glu
50 55 60
Lys Ser Leu Gly Glu Ala Asp Lys Ala Asp Val Asn Val Leu Thr Lys
65 70 75 80
Ala Lys Ser Gln
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】PTHを50℃でpH6.0〜8.0の緩衝液(リン酸溶液)中に7日間保った後に、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用したPTH安定性分析の結果を示すグラフであり、ここでは20mMおよびpH6.0のリン酸溶液と、20mMおよびpH7.0のリン酸溶液と、20mMおよびpH8.0のリン酸溶液と、標準PTH(1〜84)の初期状態とがそれぞれ使用された。
【図2】PTHを50℃でpH4.0〜6.0の緩衝液(クエン酸溶液)中に7日間保った後に、HPLCを使用したPTH安定性分析の結果を示すグラフであり、ここでは20mMおよびpH4.0のクエン酸溶液と、20mMおよびpH5.0のクエン酸溶液と、20mMおよびpH6.0のクエン酸溶液と、標準PTH(1〜84)の初期状態とがそれぞれ使用された。
【図3】PTHを50℃で緩衝液(コハク酸、リンゴ酸またはクエン酸)中に7日間保った後に、HPLCを使用したPTH安定性分析の結果を示すグラフであり、ここでは20mMおよびpH5.0のクエン酸ナトリウム緩衝液と、20mMおよびpH5.0のリンゴ酸ナトリウム緩衝液と、20mMおよびpH5.0のコハク酸ナトリウム緩衝液と、標準PTH(1〜84)の初期状態とがそれぞれ使用された。
【図4】緩衝液および安定剤を含んでなる液体PTH組成物を40℃で7日間保った後に、HPLCを使用したPTH安定性分析の結果を描写するグラフであり、ここではコハク酸およびソルビトールを含有する液体組成物はグラフ(a)で分析され、コハク酸およびトレハロースを含有する液体組成物はグラフ(b)で分析され、ヒスチジンおよびソルビトールを含有する液体組成物はグラフ(c)で分析され、ヒスチジンおよびトレハロースを含有する液体組成物はグラフ(d)で分析され、0はPTH(1〜84)の初期状態を示し、1は各液体組成物を40℃に1日間保ったことを示し、3は各液体組成物を40℃に3日間保ったことを示し、7は各液体組成物を40℃に7日間保ったことを示す。
【図5】緩衝液、および安定剤を含んでなる、凍結乾燥PTH組成物を水和して50℃に3日間保った後に、HPLCを使用したPTH安定性分析の結果を描写するグラフであり、ここでは蒸留水を水和に使用し、クエン酸およびソルビトールを含有する凍結乾燥組成物はグラフ(a)で分析され、コハク酸およびソルビトールを含有する凍結乾燥組成物はグラフ(b)で分析され、リンゴ酸およびソルビトールを含有する凍結乾燥組成物はグラフ(c)で分析され、ヒスチジンおよびソルビトールを含有する凍結乾燥組成物はグラフ(d)で分析され、0日目は水和後のPTH(1〜84)の初期状態を示し、3日目は各凍結乾燥組成物PTH(1〜84)を水和後、50℃に3日間保ったことを示す。
【図6】揮発性緩衝液、および安定剤を含んでなる凍結乾燥PTH組成物を緩衝液を含有する液体で水和して、50℃に3日間保った後に、HPLCを使用してPTH安定性を分析した結果を描写するグラフを示し、ここでは重炭酸アンモニウムおよびマンニトールを含有する凍結乾燥組成物が使用され、クエン酸溶液が水和のために使用されてグラフ(a)で示され、コハク酸溶液が水和のために使用されてグラフ(b)で示され、リンゴ酸溶液が水和のために使用されてグラフ(c)で示され、ヒスチジン溶液が水和のために使用されてグラフ(d)で示され、0日目は水和後のPTH(1〜84)の初期状態を示し、3日目は各凍結乾燥組成物PTH(1〜84)を水和後、50℃に3日間保ったことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効用量の副甲状腺ホルモンと、
pH値を4.0〜6.0の範囲に調節できる用量の緩衝液と、
0.05〜20重量部の範囲の安定剤と
を含んでなる、液体副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項2】
緩衝液が、ヒスチジン、コハク酸、リンゴ酸、およびそれらの塩からよりなる群から選択されるものである、請求項1に記載の液体副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項3】
安定剤がソルビトールまたはマンニトールである、請求項1に記載の液体副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項4】
緩衝液がコハク酸であり安定剤がソルビトールである、請求項1に記載の液体副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項5】
緩衝液がリンゴ酸であり安定剤がソルビトールである、請求項1に記載の液体副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項6】
緩衝液がヒスチジンであり安定剤がソルビトールである、請求項1に記載の液体副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項7】
非経口的に許容可能な保存料をさらに含んでなる、請求項1に記載の液体副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項8】
保存料がm−クレゾールまたはベンジルアルコールである、請求項7に記載の液体副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項9】
治療上有効用量の副甲状腺ホルモンと、
pH値を4.0〜8.5の範囲に調節できる用量の緩衝液と、
0.05〜20重量部の範囲の安定剤と
を含んでなる、含水量2%未満の凍結乾燥された副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項10】
緩衝液が、ヒスチジン、コハク酸、リンゴ酸、重炭酸アンモニウム、およびそれらの塩からよりなる群から選択されるものである、請求項9に記載の凍結乾燥副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項11】
安定剤がソルビトールまたはマンニトールである、請求項9に記載の凍結乾燥副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項12】
緩衝液がコハク酸であり安定剤がソルビトールである、請求項9に記載の凍結乾燥副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項13】
緩衝液がヒスチジンであり安定剤がソルビトールである、請求項9に記載の凍結乾燥副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項14】
緩衝液が重炭酸アンモニウムであり安定剤がマンニトールまたはソルビトールである、請求項9に記載の凍結乾燥副甲状腺ホルモン組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の凍結乾燥副甲状腺ホルモン組成物に緩衝液を添加することにより、副甲状腺ホルモン注射剤を調製する方法。
【請求項16】
緩衝液が、ヒスチジン、コハク酸、リンゴ酸、およびそれらの塩からよりなる群から選択されるものである、請求項15に記載の副甲状腺ホルモン注射剤を調製する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−542364(P2008−542364A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514563(P2008−514563)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【国際出願番号】PCT/KR2006/002167
【国際公開番号】WO2006/129995
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(504385351)モガム バイオテクノロジー リサーチ インスティチュート (10)
【Fターム(参考)】