説明

創傷バイオフィルムを破壊する、および創傷バイオフィルム再構成を阻害するための組成物

創傷ケア、特に慢性創傷の処置のための組成物および方法を開示する。組成物および方法を、慢性創傷におけるバイオフィルム再構成の抑制、または慢性創傷もしくは急性創傷におけるバイオフィルム拡大の防止について記載する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、創傷治癒を促進するための組成物に関する。より具体的には、本発明は、創傷バイオフィルムを破壊するための組成物に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年6月23日に先に出願された米国特許仮出願第60/805,699号、および2005年11月18日に出願された米国特許仮出願第60/738,395号の優先権の恩典を主張する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
慢性創傷は、重要性がより増加している医療上の問題である。医療上の問題の深刻さは、多くの場合ケアを提供するコストに反映し、米国のみにおいては、慢性創傷ケアの直接の医療コストは数十億ドルにのぼると推定される。1年当たり数十億ドルが創傷ケア製品に費やされていると推定される。
【0004】
著しい介護者時間を必要とする外傷および医学的状態の両方としての慢性創傷から生じる、生産性の損失の経済的影響は、約一千億ドルにのぼると推定される。慢性創傷は多くの場合、個体に一つまたは複数のこのような創傷が発生する素因をつくると一般に見なされている、様々な医学的状態に関連する。例えば、米国糖尿病協会(American Diabetes Association)によると、米国のみで約2080万人の糖尿病患者が存在し、この数は毎年有意に増加している。有意な割合の糖尿病患者に糖尿病性潰瘍が発生しており、糖尿病を有する個体の15〜25%は一般にいくつかの種類の切断を必要とする。60%を上回る非外傷性の肢の切断が糖尿病を有する人に起こり、2002年には、米国における糖尿病患者人口において約82,000例の非外傷性の下肢切断があった(米国糖尿病協会)。肢主要部(major limb)を切断した糖尿病個体の5年生存率に関する予後は20%だが、糖尿病の肢非切断患者は、末梢血管疾患を有したとしても、60%を上回る5年生存率を有する。
【0005】
静脈性足潰瘍(venous leg ulcer)は数百万人の個体を冒し、数百万人の個体が褥瘡性潰瘍を有する。
【0006】
広範囲の創傷ケア製品が使用されてきており、かつこれらは創傷治癒を向上させる試みにおいて使用されつつある。製品は、銀、カデキソマーヨウ素、メチリンブルー(methyline blue)/ゲンチアナバイオレットを含有する化合物などの抗菌物質、非特異的殺生物剤(例えば過酸化水素、デーキン溶液、および酢);局所用抗生物質;ならびに親水コロイドゲル、生理食塩水組成物(セルロース、アルギナート等)、および中鎖デキストラン(例えばハチ蜜)などの保湿剤を含む。創傷ケア製品はまた、全身性および局所性の抗感染性外傷管理包帯剤および包帯、創傷清浄剤、創面切除製品、銀包帯剤、例えばアルギナート、フィルム、泡沫、親水コロイドゲル、およびヒドロゲルなどの保湿包帯剤、人工皮膚コラーゲンおよび増殖因子などの生物学的包帯剤、ならびに圧力軽減製品を含む。より最近になって、バイオテクノロジーは様々な組換えタンパク質、ペプチド、増殖因子、および他の創傷治癒製品をもたらしてきた。
【0007】
米国疾病管理センター(United States Centers for Disease Control)によると、数百の異なる創傷ケア組成物が、創傷ケアを向上させる試みにおいて使用されてきたが、2002年には、年齢により調整した下肢切断率(人口10,000人当たり2.9人)は、1980年の割合(人口10,000人当たり1.6人)のほぼ2倍であった。明らかに、創傷管理および治療のためのより優良な製品および方法に対する強い必要性が、依然として存在する。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明の様々な態様および局面は、創傷ケアに使用するための組成物に関連する。ある態様において、組成物は、治療的有効量のウシ乳由来タンパク質産物(「MDPP」)およびキシリトールを含む。1つの局面において、MDPPは組成物総量1cc当たり約2〜約200mgを構成し、キシリトールは組成物1cc当たり少なくとも約2〜約1000mgを構成し得る。別の態様において、組成物は、少なくとも約2重量%のラクトフェリン、または実質的に純粋な単離されたラクトフェリン、またはそれらの機能的なサブユニットもしくは変形物をキシリトールと組み合わせて含む、任意の哺乳動物MDPPを含む。組成物は、MDPPまたは単離されたラクトフェリンおよびキシリトールを、創傷への局所投与用の薬学的に許容される担体と組み合わせて含み得る。いくつかの態様において、薬学的に許容される担体の少なくとも1つの構成要素は親水コロイドゲルであり得る。
【0009】
本発明の局面はまた、急性または慢性の創傷処置のための局所塗布用非ヒト乳由来アポラクトフェリン(apolactoferrin)を含む組成物を提供する。このような組成物は、例えば、約0%〜約20%の鉄分を有する乳由来タンパク質産物(MDPP-A)を含むことができ、MDPP-Aの局所投与を容易にするために、任意で少なくとも1種類の薬学的に許容される担体を含む。いくつかの態様において、アポラクトフェリンは非ヒト哺乳動物起源の単離されたラクトフェリンまたはその変形物であり得る。ある態様において、MDPP-Aは、急性創傷および慢性創傷を処置するための組成物を提供するために、キシリトールと組み合わせてもよい。
【0010】
本発明の局面はまた、創傷処置を提供する方法も提供する。ある態様において、この方法は、MDPP、または単離されたラクトフェリン、およびキシリトールを含む組成物を急性創傷または慢性創傷に塗布することを含む。別の態様において、この方法はさらに、例えばメチルセルロース/ゼラチンゲルなどの少なくとも1種類の保湿剤を創傷に塗布することを含み得る。本発明はまた、バイオフィルム再構成の阻害物質(IBR)を含む組成物を創面切除された創傷に塗布することにより慢性創傷を処置するための方法も提供し、この組成物は様々な態様において、ラクトフェリンおよびキシリトール、MDPPおよびキシリトール、MDPP、MDPP-A、またはMDPP-Aおよびキシリトールを含み得る。ヒトまたは動物の組織におけるバイオフィルム断片からのバイオフィルム再構成を阻害する方法がさらに提供され、この方法は、ラクトフェリンとして、約2%〜約100%の濃縮された濃度の乳由来タンパク質産物、およびラクトフェリン100g当たり約0%〜約15mgのFeを提供するよう加工処理したウシ乳由来タンパク質産物を組織に塗布することを含む。
【0011】
詳細な説明
本発明者は、ウシ乳由来タンパク質産物(MDPP)を含む組成物が、安全で効果が高く、かつ手頃な価格の局所用創傷ケア薬剤を提供することを発見した。本明細書において使用される場合、MDPPは、濃縮された濃度(すなわち2%を上回る)のラクトフェリンを含有する、非ヒト哺乳動物に由来する乳由来画分を指す。創傷治癒の促進に特に効果的であることを本発明者が見出した本発明の組成物は、MDPPおよびキシリトールを含む。このような組成物はさらに、キシリトールと組み合わせた、単離された哺乳動物ラクトフェリン(ヒトラクトフェリンを含む)またはそれらのサブユニットもしくは変形物を含んでもよい。キシリトールは多価アルコールであり、1,2,3,4,5-ペンタヒドロキシペンタンという化学名を有する炭素5個の開環した(open chain)糖アルコールである。純粋なキシリトールは白色の結晶性物質であり、その外観および味は糖に類似する。キシリトールの天然の供給源は、例えばプラム、イチゴ、およびラズベリーを含む。理論に縛られるわけではないが、キシリトールの活性は、カルボニル基の還元が無いことに依ると考えられている。したがって、例えばソルビトールなどの非還元糖アルコールは、記載されている組成物などの組成物において使用した場合に利点を提供する可能性もある。ラクトフェリン(LF)は、全体として分子量が75,000〜80,000ダルトンである1本鎖ポリペプチドからなる鉄結合糖タンパク質である。LFは、工業規模のクロマトグラフィーを使用して、多種多様な乳製品および乳製品由来成分から単離することができる。本発明の組成物は、本明細書に記載されている乳由来タンパク質産物を含み得るが、創傷治癒組成物を提供するためにキシリトールと組み合わせた、例えばウシ乳由来ラクトフェリン、他の哺乳動物の乳由来ラクトフェリン、組換えヒトラクトフェリン、または組換え哺乳動物ラクトフェリンの変形物などの、単離されたまたは精製されたラクトフェリンを任意で用いてもよい。創傷治癒用組成物において少なくとも約2〜約99重量パーセントのラクトフェリンを含む、他の非ヒト哺乳動物の乳由来タンパク質産物を提供することも、本発明の範囲内である。
【0012】
本発明者は、MDPPまたは単離されたラクトフェリンが、キシリトールと組み合わせると、慢性の非治癒性創傷の処置に特に効果的であることを発見した。慢性創傷は、本明細書において、順序正しく時宜にかなった一連の修復を進めることができない創傷、または処置に応答しない、および/もしくは処置の要求が患者の肉体的健康、許容度、もしくはスタミナを超えている創傷として定義される。創傷ケア分野の当業者は、当初急性創傷と見なされていた多くの創傷が、未だに十分に理解されていない要因により最終的に慢性創傷になることを理解している。本発明者は、1つの非常に重要な要因が、創傷中の浮遊細菌が移動してバイオフィルムを形成する事であることを明らかにした。本明細書において使用される場合、バイオフィルムの破壊、またはバイオフィルム再構成の阻害は、慢性創傷、もしくはバイオフィルムを含有する急性創傷からバイオフィルムを一掃すること、または創面切除後に残った残遺物からのバイオフィルム塊の再形成を阻害することにより創傷の治癒を促進するそれらの能力に関連する本発明の構成要素により実証された特徴を指す。
【0013】
1つの局面において、MDPPは少なくとも約10%のウシラクトフェリンを含み、鉄分が約15mg/100g〜約40mg/100gであり得る。他の局面において、MDPPは少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも約90%のラクトフェリンを含み得る。乳由来タンパク質産物の1つの形態はさらに、ラクトフェリンのアポラクトフェリン形態を含んでもよく、鉄濃度は約0mg/100g〜約15mg/100gとなる(「MDPP-A」)。ウシMDPPもしくはMDPP-A、または任意で、ウシラクトフェリンもしくはヒトラクトフェリンなどの単離された哺乳動物ラクトフェリンタンパク質、またはこれらの変形物を、キシリトールと組み合わせて含む組成物は、従来の創傷治癒方法に対して抵抗性を有していた創傷に特に効果的である。この創傷は、他の状況では、個体にとって創傷部位周囲組織の切断が適切であるとするような創傷である。本発明の局面はまた、MDPPまたはMDPP-A、キシリトール、および皮膚または創傷表面への組成物の局所投与に適した少なくとも1種類の薬学的に許容される担体を含む組成物も提供する。Bioferrin(登録商標)1000(Glanbia Nutritionals, Inc., Monroe, Wisconsin)は、天然の生物学的に活性なMDPP-Aである。Bioferrin(登録商標)2000(Glanbia Nutritionals, Inc.)は、より高い鉄含有量(15〜40mg/100g)を有するMDPPである。キシリトールは、例えば米国カリフォルニア州ガーディナのSpectrum Chemicals and Laboratory Productsなどの様々な民間の供給業者から入手してもよい。キシリトールはまた、例えばプラム、イチゴ、およびラズベリーを含む天然の供給源から単離され得る。
【0014】
乳由来タンパク質単離物は、タンパク質単離物100グラム当たり典型的に約15〜約45mgの鉄を含有するラクトフェリンを含有するが、タンパク質単離物1グラム当たり60mgだけ含有することもある。本発明者は、タンパク質単離物100グラム当たり約0〜約15mgの鉄を提供するよう加工処理された乳由来タンパク質単離物(すなわち、ラクトフェリンがアポラクトフェリン形態で提供される)が、創傷に局所的に塗布した場合に特に効果的な創傷治癒薬剤を提供することを発見した。ラクトフェリンは慢性創傷に存在するバイオフィルムの再構成を阻害するが、この加工処理されたMDPP-Aはそうした場合さらに効果的であり、ラクトフェリンおよびキシリトール、特にアポラクトフェリンおよびキシリトールの組み合わせは、慢性創傷の創面切除後に残ったバイオフィルム残遺物からより広範囲のバイオフィルムが再形成されることを阻害するのに非常に効果的である。本発明者はまた、慢性創傷を有する個体の亜集団はMDPP塗布時に不快な灼熱感を経験するが、これはMDPP-Aの使用により回避可能である事を発見した。MDPP-Aはさらに、より低い濃度で使用してもよく、しかし、MDPPおよび現在利用可能である創傷ケア製品よりも、高い治癒率および治癒創傷数を提供し続けた。Bioferrin(登録商標)1000(Glanbia Nutritionals, Inc.)は、天然の生物学的に活性な、新鮮なスィートホエイに由来するウシアポラクトフェリンを含む乳由来タンパク質産物(MDPP-A)である。これは、当業者に公知の分画分離方法を使用して単離され、かつ総タンパク質のうち90%を上回るタンパク質(例えば95%)が主にアポラクトフェリン形態であるラクトフェリンを含む、90パーセントを上回るタンパク質を含む。Bioferrin(登録商標)1000はまた、約5パーセント未満の水分含量および約2パーセント未満の灰分を有する。これは、約6.0を上回るpH(20℃の1%溶液)を有する乾燥粉末として提供され、したがって粉末として、または創傷への局所塗布用のゲル、クリーム、液体、もしくは他の好適な製薬基剤と混合して創傷に塗布され得る。これはまた、粉末、クリーム、ゲル、液体、エアロゾル、または他の局所用調合物として塗布され得る創傷治癒組成物を形成するために、キシリトールと容易に混合され得る。
【0015】
図1の創傷表面に見られる脱落組織は、Montana State UniversityのCenter for Biofilm Engineeringにより発明者のために行われた創傷脱落組織試料の分析によると、種が混在した細菌バイオフィルムで主に構成されている。慢性創傷は、驚くべき類似性を有する。創傷床(老化細胞)を構成する細胞上の退化した受容体と共に、生化学的なレベルで、慢性創傷は増加した前炎症性サイトカイン、特定のパターンの増加したマトリクスメタロプロテアーゼ、マトリクスメタロプロテアーゼの低レベルの組織インヒビター、低レベルの増殖因子サイトカインを示す。慢性創傷に遍在するバイオフィルムの存在および非治癒性創傷の共通の特徴は、慢性創傷で見つかった類似性のそれぞれと一致する。バイオフィルムは、抗生物質、殺生物剤、ヒト免疫系防御、および今日慢性創傷処置に使用される現在の創傷ケア製品のほとんどに対して、顕著なコロニー防衛を示す。
【0016】
任意の個々の創傷から単離されたバイオフィルムは、グラム陽性細菌およびグラム陰性細菌の両方である複数の異なる種類の細菌を含み得る。しかしながら、容易に検出可能なバイオフィルムを有するものに含まれるかに関わらず、創傷は一般に、真菌種と共に様々な細菌種に占められている。さらに、細菌は、バイオフィルムの形態で存在する場合、単離および培養がより困難である。この理由の一部は、これらが同定および定量化のためにプレーティングされる場合にコロニーを形成しない多細胞マトリクス封入型バイオフィルム断片を含む細胞クラスターとして、スワブによりまたは創面切除により取り除かれ得るためである。(Costerton, W., et al., J. Clin. Invest. (2003) 112(10) 1466-1477)。
【0017】
例えば、研究参加者が非感染創傷の存在の診断に基づいて選択されたある研究において、この診断は、感染の臨床的徴候の欠如という理由から行われた。対照群におけるこれらの創傷の14.3%のみが、および超音波処置群の創傷の40.7%のみが11〜12週以内に治癒し、研究者らは、組織1グラム当たり100,000コロニー形成単位を上回る細菌を含む研究参加者の86%を上回る「非感染創傷」発見した。特に注目すべき事は試料が創面切除後に培養される事であり、細菌バイオフィルムが治癒の阻害体であり、非効果的な処置および十分でない臨床結果をもたらすものとして現在効果的に特定されないことを示唆する(Ennis, W. et al (2005) 51 (8): 24-39)。
【0018】
Raynerらは、増殖因子を含む乳清抽出物が、動物モデルにおいて切開創傷治癒を刺激できることを実証した。(Rayner, T.E. et al, Am. J. Physiol. Regulatory Integrative Comp Physiol. (2000) 278: 1651 - 1660)。しかしながら、Raynerらが指摘するように、実験動物において創傷修復を促進することが示されている増殖因子は、概して、慢性創傷治癒の臨床研究において同様の効果が実証されていない。より初期の研究は、ウシラクトフェリンがハムスターにおける口の潰瘍の処置に効果的でないことを示しており(Clarke, J. et al, Oral Oncol. (1999) 35(2): 197-202)、一部では優良な抗菌物質であると考えられているものの、ウシラクトフェリンが創傷治癒に効果的でないことを示している。本発明者は、ラクトフェリンを含むウシ乳由来タンパク質産物が、別の方法では創傷空間におけるバイオフィルムの発生および創傷からの確立したバイオフィルムの除去において通常経験される難点に起因して治癒が遅延すると考えられる急性および慢性の創傷の処置に、非常に効果的であることを実証した。
【0019】
インビトロでの研究は、ウシ乳および乳清産物で見つかったタンパク質であるラクトフェリンの鉄封鎖特性が緑膿菌(P. aeruginosa)表面部分を刺激して、バイオフィルム形成を阻止することを実証した。(Singh, P. K. BioMetals (2004) 17: 267-270)。バイオフィルム形成はしかしながら、浮遊細胞(planktonic cell)表現型からバイオフィルム細胞表現型への移行を含み、これらの表現型が大きく異なっていることが示されている(Resch, A. et al, Appl. Env. Micro. (2005) 71(5): 2663-2676)。したがって、バイオフィルム形成を研究ために多くの場合使用される純粋な培養物は、バイオフィルムおよびこれらを形成する生物の研究にとって非常に不十分なモデルであることが示唆されている(Costerton, W. et al, J. Clin. Invest. (2003) 112 (10): 1466-1477)。熱傷創から単離された緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が数時間以内にバイオフィルムを生じさせることが示されており(Harrison-Balestra, C. et al, Dermatol. Surg. (2003) 29: 631-635)、慢性創傷は、数週間、数ヶ月間、または数年もの間バイオフィルムによりコロニーを形成した。したがって、バイオフィルム形成阻害のインビトロでの実証から、確立されたバイオフィルムを含む創傷において任意の特定の薬剤が効果的であるかどうかを決定する事は、より困難である。さらに、ラクトフェリンなどの薬剤の、インビトロでのシュードモナス属による最初のバイオフィルム形成を阻止する能力が実証されているが、ラクトフェリンおよび鉄の欠乏は、実際には、グラム陽性微生物であるストレプトコッカス ニュータンス(Streptococcus mutans)などのある特定の細菌種によるバイオフィルム形成を刺激することがFrancescaらにより実証されている。(Francesca, B. et al, BioMetals (2004) 17: 271-278)。Johnsonらはさらに、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のバイオフィルム生成が、鉄の存在量が少ない状態において誘導され、鉄により抑制されることを実証した。さらに不可解な点が研究されており、384ウェルプレート中の細菌培養物への様々な鉄の塩の塗布により生じた増加した鉄濃度が、バイオフィルム形成を阻害するようである事が示されている(Musk, D. et al, Chem. Biol. (2005) 12: 789-796)。さらに、Arnoldらによる研究(Infect. Immun. (1982) 35(3): 792-799)は、バイオフィルムにおける細菌の周りのマトリクスにより困難である細菌細胞表面への接触が、非ラクトフェリン耐性浮遊細菌において以前に実証されていたラクトフェリンの殺菌性効果にとって不可欠であることを示した。細菌はそれ自身をバイオフィルム中の多糖およびタンパク質マトリクス内に包んでおり、この場合、細菌は一般に抗生物質投与に対して耐性があると見なされている(Stewart, P. and J. Costerton, Lancet (2001) 358: 135-138)。
【0020】
個々の薬剤について成された観察と、創傷環境をもたらす要因の複雑性と組み合わせた、細菌集団、インビトロ創傷モデル等におけるそれらの効果との間の不一致は、特に、創傷においてバイオフィルムの塊が確立され、抗生物質および他の創傷治療薬剤に対する抵抗性が示されている慢性創傷に効果的な創傷ケア組成物の同定を著しくより困難にする。
【0021】
本発明者は、有意な数の患者における、様々なヒトの慢性/非治癒性創傷のインビボにおける本発明の組成物の有効性を実証した。本発明の局面の組成物は、慢性の状況においてインビボにおける有効性が示されており、これらの組成物による処置の結果として治癒した創傷の多くは、以前は治癒に対して抵抗性であると考えられていた。例えば、創傷治癒において組成物が有効性を有していることが実証されている糖尿病性足潰瘍の複数の事例において、創傷は、足指および/または足前部(forefoot)の壊疽に至る潰瘍であるWagnerのグレード4に分類される根拠に十分な重篤さであった。
【0022】
創面切除後の、存在するバイオフィルムの再構成は、慢性創傷の非治癒性の挙動の重要な要因である。バイオフィルム中の細菌が既に浮遊(planktonic)表現型からバイオフィルム群集メンバーの表現型に移行しており、かつバイオフィルムを含む組成物が、その中の微生物を、通常浮遊細胞(planktonic cell)殺す化合物から保護するため、抗生物質/防腐剤治療は、存在するバイオフィルムに対して効果が無い。創面切除による脱落組織の除去は、それが創傷から有意な量のバイオフィルムを除去するため有用である。しかしながら、不可能ではないにしても、バイオフィルムは、標準的な創面切除技術によるその全体の除去が困難であり、バイオフィルムは、創傷空間内およびその周りに残った残遺物からそれ自身を再建してその元の体積もしくは元の体積近くに戻るか、または壊死組織切除および標準的な治療法の後直ぐに再形成する傾向がある。バイオフィルム再構成の阻害に効果的な薬剤は、以前は「非治癒性」と見なされていた創傷における治癒の促進に特に効果的である。
【0023】
臨床結果に基づいて、好ましくは少なくとも約10%のウシラクトフェリンを含む乳由来タンパク質産物(MDPP)とキシリトールとの組み合わせは、創傷に局所的に適用した場合に、確立されたバイオフィルムの再構成を阻害して創傷治癒を促進させるための、効果的かつ十分に許容される組成物を提供する。Bioferrin(登録商標)2000(Glanbia Nutritionals USA, Monroe, Wisconsin)を含む乳由来タンパク質産物(MDPP)を使用した場合、有意な割合(%)の創傷が適用に対して応答し、後の結果により、MDPP-Aをキシリトールと組み合わせて局所適用用創傷ケア組成物に使用した場合、この組み合わせは創傷ケア組成物の局所適用に応答する創傷の割合(%)をさらに増加させる事が示された。MDPPを用いた結果は良好であるが、より最近になって、本発明者は、臨床においてBioferrin(登録商標)1000として提供されるMDPP-Aにより処置した創傷が、MDPPにより処置した創傷よりもより速やかに治癒に進むことを発見した。
【0024】
ある態様において、急性または慢性の創傷に対する適用のための、MDPP(またはより好ましくはMDPP-A)、キシリトール、および、例えば親水コロイドゲル、生理食塩水組成物、中鎖デキストラン(ハチ蜜)等の少なくとも1つの保湿剤を含む組成物が提供される。例えばDuoDerm(登録商標)Hydroactive Dressings(Bristol- Myers Squibb, Princeton, NJ)などの市販されている組成物を、好適な量のMDPP(Bioferrin(登録商標), Glanbia Nutritionals, Inc., Monroe, WI)を混合する基剤として使用することができる。創傷ケアに適している保湿剤は、当業者に公知であり、複数のそのような薬剤が市販されている。別の態様において、MDPPまたはMDPP-A、キシリトール、およびActicoat(登録商標)などの銀製品(Smith and Nephew, Memphis, Tennessee)を含む組成物が、提供される。
【0025】
本発明の組成物は、銀の抗菌性調合物を含む組成物およびデバイスと共に容易に使用され得る。例えば、Acticoat(登録商標)は、銀コーティングした高密度ポリエチレン(HDPE)メッシュの上層と下層との間で層状になったレーヨン/ポリエステルの織られていないコアとして抗菌性の銀を提供し得る。Acticoat(登録商標) Moisture Contro(Smith and Nephew, Memphis, Tennessee)は、銀をナノ結晶形態で含む泡沫包帯剤である。Johnson and Johnsonにより販売されるActisorb(登録商標)銀製品は、銀が添着した(布1平方センチメートル当たり33μg)活性炭布(activated charcoal cloth)を含む。Arglaes(登録商標)(Giltech Ltd., UK)はまた、創傷に適用するための粉末、フィルム包帯剤、または他の調合物から銀イオンを放出するためのポリマーも提供する。本発明の組成物は、このような製品に組み入れられ得るか、このような製品と組み合わせて使用され得る。本発明により説明されている組成物の使用と一緒に銀製品の使用を増加させる1つの利点は、創傷治癒において向上した効果を達成しながら、より少ない銀を製品に組み込む能力である。銀含有創傷包帯剤に関連して本明細書において使用される場合、組成物およびデバイスの両方が包含され、かつ、当業者により銀組成物の創傷への効果的な送達に適切であると見なされる、織布もしくは不織布、またはポリマー、アルギン酸、泡沫、粉末、ゲル、クリーム、液体、創傷充填剤、および他の薬学的または医療用のデバイスを含み得る。
【0026】
組成物は、好ましくは創傷の創面切除の後に適用される。たとえ、創面切除によりバイオフィルム細菌を創傷領域から完全に根絶することができなくても、バイオフィルム量の減少、ならびに創面切除組織および残ったバイオフィルム細菌の本発明の組成物への曝露の増加は、創傷治癒を増加させる。慢性創傷を満たす脱落組織は、以前は、死細胞、細胞片、細菌、および組織液から構成されると考えられていたが、最近になって、主に混合した種の細菌バイオフィルムから構成されることが示された。したがって、可能な限り完全に創傷から脱落組織を創面切除することが有利である。創面切除は、外科的、機械的、自己分解により、酵素的、または創傷ケアの当業者に公知の方法の組み合わせにより実行することができる。さらに、創傷を包むかまたは覆うための標準的なガーゼ包帯剤は、これらの包帯剤が創傷においてバイオフィルムの形成または再構成を亢進させるため、好ましくは回避されると考えられる。しかしながら使用する場合、このような包帯剤は、ガーゼ包帯剤がバイオフィルム増大特性を低下させるために本発明の組成物によりコーティングするかまたは本発明の組成物を浸透させてもよい。
【0027】
1つの提唱されている処置過程は、例えば、毎週の脱落組織を含む創傷の創面切除を含み、新しい包帯としての組成物の適用が利用され、これは週に3回行われ得る。
【0028】
局所的な創傷ケア組成物は、総組成物1立方センチメートル当たり約2〜約200mgのMDPPまたはMDPP-Aを含み得る。ある態様において、組成物は、総組成物1立方センチメートル当たりBioferrin(登録商標)1000またはBioferrin(登録商標)2000として提供される約20〜200mgのMDPPまたはMDPP-A、および約1〜約50、またはいくつかの態様においては約5〜約20パーセント(w/v)のキシリトールを含む。ある態様において、この組成物は、メチルセルロース/ゼラチンゲル中に混合され得る。この組成物は、タンパク質単離物/キシリトール組成物の約0.5から約5ccの量で、各1平方センチメートルの創傷領域、脱落組織が除去されている新しく創面切除された慢性創傷に適用することができる。
【0029】
適用前に、より高い密度を維持するために、組成物は約4℃で保存してもよい。組成物はまた、必要な場合、ある特定の創傷への組成物の付着を向上させる粘度を維持するために、Aquaphor(登録商標)(Smith and Nephew Wound Care, Hull, UKから入手可能な、41% w/wのワセリン基剤)などのワセリン基剤に混合され得る。本発明の組成物はまた、粉末、溶液、軟膏、エアロゾルスプレー、および/またはクリームを含み得る。
【0030】
伝統的に、湿潤乾燥包帯法(wet-to-dry dressing)(例えば、ガーゼを通常の生理食塩水により湿らせる)が、米国で最大80%の医師により使用される標準的な包帯法であった。この種類の包帯剤の使用が約40〜45%の創傷に治癒をもたらすことが、研究により示されている。より最近になって開発された、ヒドロゲル包帯剤および半透過性の一次包帯剤(primary dressing)が一部で使用されており、これは、最大約70%の割合の創傷治癒の増加をもたらした。しかしながら、本発明の組成物および方法は何百例もの創傷に適用され、慢性創傷において最低でも85%〜90%の割合の創傷治癒が達成されている。この組成物および方法はまた、他の環境下では多くの場合患者にとって罹患領域の切断が適切とされる創傷の治癒で、効果が示されてきた。
【0031】
さらに、ナーシングホームにおいて、高齢患者の皮膚の裂傷および他の急性創傷が、より深刻な創傷に進行しないようにする、本組成物の効果が示されている。これらの患者は、免疫無防備状態である傾向があり、慢性創傷に発展する可能性がさらに高い。彼らはまた、多くの場合既にバイオフィルム状態である様々な細菌に曝されやすい環境に住んでおり、彼らの急性創傷は直ぐにバイオフィルム感染慢性状態に進行し得る。したがって、例えば皮膚の切り傷、切り傷、擦り傷、および裂傷などの急性創傷の処置のために、組成物は、MDPPおよび/またはMDPP-Aを含んで提供され、同様にMDPPおよび/またはMPDI-Aならびにキシリトールを含む組成物が提供される。この組成物は、高い頻度で皮膚の裂傷を経験するナーシングホームの患者に効果的に使用され、彼らは、急性皮膚創傷から慢性創傷への移行頻度が低下することが観察されている。組成物は、粉末、エアロゾル、クリーム、ゲル、または他の局所用調合物として創傷に局所的に適用してもよく、または、包帯を創傷に適用する前に、これらを包帯に塗布してもよい。包帯表面は本発明の組成物でコーティングしてもよく、または、包帯材料は本発明の組成物を浸透させてもよい。
【0032】
慢性創傷を有する個体を前記組成物で処置することにより、本発明者およびSouthwest Regional Wound Care Centerの同僚は、本発明の創傷ケア組成物が、以前は創傷が存在する肢の切断を決定する根拠であった複数種類の創傷の治癒を促進できることを示した。
【0033】
慢性創傷を処置する方法がさらに提供され、この方法は、バイオフィルムの再構成または再付着を妨害する薬剤を含む組成物を慢性創傷に塗布することを含む。バイオフィルム形成は、急性創傷から慢性創傷への移行に重要な役割を果たし、現在使用されている抗生物質治療プログラム、殺生物剤、包帯剤等は、創傷空間におけるバイオフィルムの存在のために著しく効果が低い。主にバイオフィルムからなる脱落組織を除去するための創面切除の後、ある特定の局面においてバイオフィルム再構成を妨害する薬剤を保湿剤と共に含む組成物の適用は、慢性の以前は非治癒性であった創傷の治癒の割合を著しく増加させる様式で、創傷治癒を促進する。バイオフィルム再構成は一般に、創傷空間における脱落組織の再形成により検出することができ、この脱落組織は、本発明の組成物による処置の結果として著しく減少するかまたは除去される。バイオフィルムの有意な量がヒトの目に見えない創傷において、本発明の組成物は、最初の創傷創面切除無しに適用され得る。
【0034】
ある態様において、MDPP、MDPP-A、ラクトフェリン、MDPP/キシリトール、MDPP-A/キシリトール、またはラクトフェリン/キシリトール、および例えば親水コロイドゲル、生理食塩水組成物、中鎖デキストラン(例えばハチ蜜)など少なくとも1つの保湿剤を含む組成物が、創面切除後のバイオフィルム再構成を阻害するために、慢性創傷に対する適用用に提供される。本明細書において使用する場合、保湿剤とは、密封包帯剤などの、創傷床における水分保持を促進する薬剤のことか、または、ヒドロゲルなどの、創傷床に水分を供与する薬剤のことである。水性溶液および/または水を吸収し、ある期間にわたってそれを創傷床に放出するマトリクスは、多くの場合、創傷ケア用の保湿剤として特に効果的である。例えばDuoDerm(登録商標)Hydroactive Dressings(Bristol-Myers Squibb, Princeton, NJ)などの市販されている組成物を、好適な量のMDPPまたはMDPP-A(例えば、Bioferrin(登録商標)1000またはBioferrin(登録商標)2000, Glanbia Nutritionals, Inc., Monroe, WI)を混合する基剤として使用することができる。創傷ケアに適している保湿剤は、当業者に公知であり、複数のそのような薬剤が市販されている。ある特定の局面において、組成物は、創傷の創面切除の後に適用される。
【0035】
本発明者は、「非慢性」創傷の治癒時間の増加と同様に、バイオフィルムが様々な創傷に存在すること、これが創傷空間に直ぐに形成されること、およびこれが主に、一般に「慢性」創傷と呼ばれる創傷の慢性の非治癒性の性質に依ることを発見した。表面上でバイオフィルム形成を阻害する分野において多くの研究が行われたが、ほとんどの患者が診療所または病院を訪れる時点までに、または、治癒を向上させるための局所用薬剤の適用の根拠として創傷が十分深刻であることを彼らが理解する時点までに、バイオフィルムは、創傷空間に既に形成されていた。このバイオフィルムは、これらの形成の元となる浮遊細胞と比較して変化した表現型の細胞からなる。したがって、本発明者は、バイオフィルムを破壊するかまたは創面切除後に創傷領域に残った残遺物からのバイオフィルムの再構成を阻害する薬剤である、バイオフィルム再形成阻害剤として作用する薬剤の同定に焦点を当てた。
【0036】
本発明者は、少なくとも約2重量%のラクトフェリンを含むウシ乳タンパク質産物がバイオフィルムの再形成または再構成の妨害に効果的な薬剤であることを発見した。この目的に特に効果的な組成物は、ラクトフェリンおよびキシリトールの組み合わせを含み、組成物の基剤を形成するために使用され得る保湿剤を任意で含む組成物である。ある態様において、この組成物は、メチルセルロースゼラチンゲル中に混合され得る。この組成物は、各1平方センチメートルの創傷領域に対し、ラクトフェリン/キシリトール組成物の約0.5から約5ccの量で、脱落組織(バイオフィルム)が除去されている新しく創面切除された慢性創傷に適用することができる。
【0037】
組成物はまた、米国特許第6,399,092号(Hobson, et al. 2002)に記載されているような、親水性の高吸湿性の創傷包帯剤の使用により、創傷に適用してもよい。親水性のデキストランポリマービーズを使用する調製物を創傷処置に使用してもよく、この調製物は、親水性のデキストランポリマービーズ、ならびにMDPP、MDPP-A、ラクトフェリン、およびキシリトール、MDPPおよびキシリトール、MDPP-Aおよびキシリトール、またはこれらの組み合わせを含む。創傷の滲出物を吸収しながら活性薬剤を創傷中に放出するための、架橋したビーズの調製は、米国特許第4,783,448号に記載されている(Johansson, 1988)。本発明の組成物はまた、活性薬剤を創傷に送達するために、または、創傷ケア包帯剤もしくは包帯上にバイオフィルムを発生させることがより少ない包帯、充填剤、もしくは他の材料を作ることによりさらなる利点を提供するために、創傷包帯剤、包帯、創傷充填剤、および創傷ケアに使用される他の薬剤に適用してもよい。組成物は、ヒドロゲルシート、ヒドロゲル創傷充填剤、吸収性包帯剤、アルギナート、圧迫包帯剤および覆い、多層包帯剤(composite dressing)、ならびに透過性フィルムを含むがこれらに限定されない様々な異なる種類の創傷ケア製品と組み合わせても、および/またはこれらに適用してもよい。
【0038】
MDPP、MDPP-A、ラクトフェリン、ラクトフェリン/キシリトール、MDPP/キシリトール、MDPP-A/キシリトール、またはこれらの組み合わせを含む創傷ケア組成物の1つの利点は、摂取した場合のこれらの成分の安全性である。創傷ケア製品は、特に大きな創傷の表面に適用される場合、組織により吸収されて全身に分散し得る。これは、有意な程度で吸収された場合にヨウ素または硝酸銀などの創傷ケア製品の構成要素が毒性作用を持ち得る場合、問題となる可能性がある。しかしながら、乳由来ラクトフェリンは、使用する製品当たり100mgまたは1人1日当たり1.0gのレベルの摂取レベルで安全であると一般に認識されている(米国食品医薬品局(U.S. Food & Drag Administration)、GRN000077およびGRN0000130)。
【0039】
従来の創傷ケアは、異なる種類の慢性創傷を区別していたが、本発明の組成物は、例えば糖尿病性足潰瘍、褥瘡性潰瘍、静脈性足潰瘍、および術後手術創を含む任意の慢性創傷に使用することができる。また、MDPP、MDPP-A、MDPP/キシリトール、MDPP-A/キシリトール、またはラクトフェリンおよびキシリトールを適用することができ、かつ細菌種の混在した集団を含む可能性があるバイオフィルムに基づく感染に、この組成物は使用してもよい。これらの感染は、例えば洞感染(sinus infection)、直腸感染、口腔病変、バイオフィルムまたは上昇した(すなわち増加した)バイオフィルム形成に関連する腸の状態、およびカテーテルなどの留置デバイスに関連する感染を含む。
【0040】
尋常性座瘡は、人口の著しい割合が特に青年期に罹患する、一般的な皮膚障害である。これは多くの場合、アクネ菌(Propionibacterium acnes)細菌に関連し、バイオフィルム形成に関連していた。本発明の態様に従う組成物は、特に、全身的な抗生物質処置などの標準的な治療に関連して提供した場合に、このようなバイオフィルムに関連する状態の処置に対する局所投与の利点を提供する。プルロニックレシチン有機ゲル(PLO)などの物質を、保湿基剤を提供して活性薬剤の皮膚内への吸収を促進するために使用してもよい。
【0041】
科学界および医学界は、組織におけるバイオフィルムの存在またはバイオフィルムの増加に関連する疾患および疾患状態の同定を続けている。増加したバイオフィルムは概して、疾患状態を促進する、バイオフィルムの増加した割合であるかまたはバイオフィルム中の有意な数の細菌の存在である。このような例に関するものは、腸中のバイオフィルムに関連する慢性炎症状態を伴う慢性心不全(CHF)に関連する最近の研究(Sandek, A. et al, Akt Ernahr Med (2006) Vol. 31)である。本発明の組成物がバイオフィルム再構成の阻害に効果的であるという本発明者による発見、および腸がシロップ、液体、ロゼンジ、錠剤、カプセルなどの経口治療により処置され得るという事実を前提とすると、本発明の1つの態様は、腸の内側を覆う増加したバイオフィルムを減少させることによる、CHFなどのバイオフィルムに関連する状態または増加したバイオフィルムに関連する状態を処置する組成物および関連する方法を提供し得る。
【0042】
組成物はまた、組成物の活性成分との化学的相互作用を起こさない、またはそうでなければ組成物の活性成分の作用を妨げないという条件で、さらなる成分を含み得る。このような成分は、例えば、付加的な保湿剤、ゲル化剤、ローション、クリーム、または他の基剤、抗生物質組成物、抗真菌性組成物、局所的なもしくは全身的な疼痛の軽減を提供するための組成物等を含むことがができる。組成物は、保湿ゲル基剤中で一つまたは複数の抗生物質と組み合わせてMDPPおよび/またはMDPP-Aおよびキシリトールを含み得る。組成物はまた、創傷ケアに提案されている、例えば、血小板由来増殖因子、ファルネソール、フラノン誘導体、および他の作用物質などの増殖因子を含み得る。
【0043】
組成物は、バイオフィルム形成を阻害する効果が示されている薬剤のいくつかがバイオフィルム再構成の阻害をさらに示し得るため、これらの薬剤をさらに含み得る。バイオフィルムは最も高い頻度で、多様な群の慢性創傷から単離された黄色ブドウ球菌、大腸菌型細菌、バクテロイデス属の種、ペプトストレプトコッカス属、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、エンテロコッカス属の種、および化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)と混在した細菌集団を含む。抗生物質投与はバイオフィルムの発生に関連し、バイオフィルムは特徴的に抗生物質治療に対して耐性を持つ。たとえ、このような薬剤が次亜塩素酸ナトリウムと同様に、確立されたバイオフィルムに最も高い強度で適用されたとしても、バイオフィルムが死滅はたった50%であり得る。脱落組織の除去後、創傷に存在するバイオフィルム再構成の阻止において組成物の適用が利用され、かつ、特にこのような組成物の一つまたは複数の構成要素が少なくとも1つの抗生物質を含む場合に、まだバイオフィルム中に定着していない浮遊細菌を殺し得る。この種類の組成物はまた、治癒を促進する、および創傷がバイオフィルムを確立して慢性創傷となることを防止するため、新しく形成された糖尿病性潰瘍などの急性創傷を処置するために投与され得る。
【0044】
組成物は、ヒトの創傷治療用または獣医学的使用に使用され得る。組成物は、例えばイヌ、ネコ、または他の哺乳動物の例えば一つまたは複数の創傷に対して、局所的に適用され得る。組成物はまた、感染(多くの場合、動物の口に由来するバイオフィルム断片による)の結果としてヒトに潰瘍創傷が発生することを防ぐため、咬傷に適用され得る。
【0045】
組成物は、さらなる抗プラーク剤または抗バイオフィルム剤を含み得る。例えばRNAIII阻害ペプチド(RIP)と組み合わされるラクトフェリンは、相乗的な効果を有しかつ慢性創傷治癒を向上させ得る。RIPは、米国特許第6,291,431号に記載されている(Balaban, et al)。
【0046】
本発明を以下の非限定的な実施例の手段によってさらに説明する。
【0047】
実施例
実施例1
Southwestern Regional Wound Care Center (Lubbock, Texas)から、慢性創傷を有する患者由来の50個の試料を得た。さらに、持続時間が24時間未満の急性創傷を有する15人の患者に生検を実施し、彼らの創傷床を試験した。創傷試料は、グラム染色および走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
【0048】
慢性創傷のグラム染色は、複数種の細菌の存在を示した。さらに、細菌は、存在する毛細管を有する無傷の組織内に深く貫入する傾向を示し、非常に多くの不定形の物質が細菌の周りに存在した。走査型電子顕微鏡下では、慢性創傷の少なくとも60パーセントにおいて、コロニー細菌の周囲に付着した細胞外ポリマー物質を有する整然としたバイオフィルムが見られた。
【0049】
同じ方法を用いて、15例の急性創傷を評価した。15例の創傷のうち1例のみがバイオフィルムを有することが見出された。試料採取した急性創傷の全てが、2〜3週間で治癒し、この治癒プロセスに欠陥が無いことを示した。これらの創傷のほとんどは同じ肢に在り、さらに言えば、存在する慢性創傷と同じ領域に在った。急性創傷の多くは、慢性創傷処置に使用されるテープによる裂傷または包帯剤からの傷害に伴う。しかし、これらは2〜3週間の間に速やかに治癒したが、同じ領域の慢性創傷は2〜3ヶ月後も依然として開いたままであった。
【0050】
実施例2〜11において、患者の創傷は、ウシラクトフェリン(ウィスコンシン州モンローに在るGlanbia Nutritionals, Inc.のBioferrin(登録商標)1000またはBioferrin(登録商標)2000など)を濃度20-mg/ccで含む抗バイオフィルム剤を用いて処置した。キシリトール(Spectrum Chemicalの1-、2-、3-、4-、および5-キシペンタン ヒドロ)は第二の活性成分を含み、かつ混合物の5重量%の濃度で存在した。組成物の基剤となるゲルは、メチルセルロース(.023 gm/cc)、ゼラチン(.013 gm/cc)、および滅菌水を含んだ。
【0051】
実施例2
62歳の糖尿病の白人男性には、重篤な末梢神経障害および末梢血管疾患が発症していた。図1aにおいて、彼の左足親指には創傷壊死が生じており、感染症が彼の足の屈筋腱をたどってかかとまで達している。彼の血管の状態は非常に貧弱であった。これは、Wagnerの分類Vの糖尿病性足潰瘍と見なされる。この患者は著しく栄養不良かつ糖尿病の管理が非常に困難であり、管理の最初の12週間は血糖が制御不能(400を上回る)であった。
【0052】
この男性は一週間に一度を基準として創面切除を受け、健康な出血する骨に至る骨を含む壊死組織を除去した。彼は最初の8週間の間毎日IV抗生物質を服用し、最初の4週間は毎日、その後は月曜日、水曜日、および金曜日に包帯剤を交換した。最初の包帯剤の交換は、Acticoat(登録商標)(Smith & Nephew Wound Care, Hull, UK)と共に、ラクトフェリンおよび市販のゲル(Curasol(登録商標)ヒドロゲル創傷包帯剤、Healthpoint, Ltd.)を含んだ。患者は、局所処置に良好な反応を示した。骨髄炎のため、抗生物質は8週間全体にわたって継続された。図1bに示すように、創傷は治癒した。患者はその後外来通院となり、彼の足にさらなる問題は無かった。彼の糖尿病は極めて管理が容易となり、栄養状態も良くなり、全体的な健康状態も改善した。
【0053】
実施例3
62歳のラテンアメリカ人男性は、左足に、親指の損傷に始まり早期に足中部(mid foot)内を腐食した糖尿病性足潰瘍を患っていた。この患者は足前部(forefoot)の至る所から足後部(hindfoot)に達する、Wagnerの分類Vに一致する広範囲な壊死性傷害を有した。この創傷は損傷に始まり、感染症が親指に確立していた。表面を取り扱うための、IV抗生物質、局所的創面切除、抗バイオフィルム剤、および特定の殺生物剤を含む創傷ケアを、感染症の広がりを止めるために開始した。創傷ケアを毎日を基準として実施し、やがて、図2aに示すように、創傷は足の中部内に戻って消えた。
【0054】
ラクトフェリン療法を開始したところ、患者の反応は極めて早かった。数週間以内に、創傷の進行性の壊死が減少した。創傷床は、治癒創傷と一致するきめおよび色のある顆粒状になった。左足におけるドレナージ、疼痛、および腫脹が消散した。7ヶ月後、図2bのように、患者の創傷は完全に治癒した。彼は歩行を含む全ての活動に戻ることができた。
【0055】
実施例4
この男性は、彼の左足の中足切断を受けた。彼の創傷は完全に披裂していた。縫合材料を除去すると、密な線維性脱落組織が創傷床の表面全体を覆っていた。この足は腫脹しかつ圧痛があり、創傷には著しい量の滲出物が生じた(図3a)。各創面切除時点での知見は、密な創傷バイオフィルムと一致した。
【0056】
患者は、縫合を外した後Bioferrin(登録商標)療法を開始し、2または3回の表面創面切除を行った。患者はBioferrin(登録商標)療法に対して非常に良好な反応を示した。ドレナージをすぐに軽減し、疼痛が減少して足の腫張が小さくなった。IV抗生物質、局所的ラクトフェリン、銀とHydrofera Blue(登録商標)(Hydrofera, LLC, Willimantic, CT)とを繰り返す特定の殺生物剤、および表面に適切な湿気を保つために湿性相互作用的包帯剤を患者に継続した。5週間の間に、創傷は完全に治癒して患者は足で歩行し、通常の活動に復帰した。
【0057】
実施例5
この男性は、図5aで示す写真の前に、3年の間複数回の入院のためにThe Wound Care Centerを訪れていた。この患者は増大し衰弱した足において静脈不全を有していた。この創傷は治癒しなかったが、創傷ドレナージおよび疼痛が減少する静止状態の期間があった。患者は、左下部の末端疼痛の新たな再燃を伴って再発した。創傷上には、赤い活性境界、著しいドレナージおよび臭気、ならびに激しい痛みを有する著しい量の脱落組織が存在した。これらの症状は、創傷における活性バイオフィルムの存在の指標として認識され、患者には圧迫と共にラクトフェリン療法が開始される。彼の最初の包帯剤は主に、水分を適切なレベルで制御するために時折使用されるBiatain(登録商標)(Colplast A/S, Ltd., Humlebaek, Denmark)泡沫、PolyMem(登録商標)(Ferris Corp., Burr Ridge, IL)であった。次の5週間以降に彼の左下部末端の全ての創傷が完全に治癒し、その後回帰は起こらなかった。この特定の場合、ラクトフェリン療法の1週間後、患者の創傷は非常にきれいになり、いかなる創傷上にも脱落組織の痕跡(バイオフィルム)は無くなった。療法の最初の2週間にわたって滲出物は劇的に減少し、疼痛が減少し、彼の足全体に関わる腫張は劇的に減少した。図5bに示すように、約6週間後、患者の創傷はほぼ完全に治癒した。彼は仕事に復帰することができ、再燃前に彼が享受していた機能レベルに戻ることができた。
【0058】
実施例6
図6aに見られる、患者の右大腿部の大きな慢性創傷は、図6aにおける脱落組織の出現に見られるように、重要なバイオフィルム形成の特徴を示す。創傷は、Aquaphor(登録商標)(Smith and Nephew Wound Care, Hull, UK)と混合した、本発明のラクトフェリン/キシリトール組成物で処置した。図6bに示すように、数週間後、標準的な処置に対してこれまで難治性であったこの創傷は、ほぼ完全に治癒した。
【0059】
実施例7
74歳のラテンアメリカ系男性は、右膝下部の切断を受けた。創傷は披裂し、この男性はその後すぐに壊死性創傷を示した。創傷からの壊死性物質の除去は、数週間を要した。患者を乳由来のタンパク質産物/キシリトールゲルで処置し、この乳由来タンパク質産物は主に、比較的少量の鉄の少ない形態のラクトフェリンを含むBioferrin(登録商標)2000乳由来タンパク質産物と混合したアポラクトフェリン(apolactoferrin)産物Bioferrin(登録商標)1000(Glanbia Nutritionals)乳由来タンパク質産物を含んだ。この患者は、慢性創傷確立の複数の危険因子、すなわち真性糖尿、末梢血管疾患、栄養失調、および透析における腎不全を有する患者の一人だったが、創傷は急速に終息へと向かった。
【0060】
実施例8
60歳の女性は、3月初旬に深部静脈性足潰瘍を示した。この創傷は、著しいバイオフィルム取り込みの徴候を示した。患者は、重大な合併症を有さなかった。創傷は、Bioferrin(登録商標)1000を含む組成物に良好に反応し、8週間以内に終息に向かった。
【0061】
実施例9
患者は、右の内側足首にほぼ1年間存在する重篤な静脈性足潰瘍を示した。創傷床は広範囲に線維症を示した。創傷を毎週を基準として集中的に創面切除し、Bioferrin(登録商標)1000/キシリトールゲルを含む組成物を創傷に塗布した。患者の重篤な静脈不全にもかかわらず、創傷は治癒に向かった。
【0062】
実施例10
82歳のラテンアメリカ系男性は、右足に危険な肢虚血を示した。彼は、彼の足指が壊疽を示した後すぐに血管再生された。患者は集中的に創面切除され、主に、Bioferrin(登録商標)1000を含む局所組成物を用いて処置された。創傷の極度の重篤さおよび組織の損失にもかかわらず、創傷は治癒に向かい、さらなる組織除去は必要ではなかった(すなわち、肢は切断を必要としなかった)。
【0063】
実施例11
左足指の骨髄炎、著しい末梢血管疾患、および神経障害のある足を有する39歳の糖尿病のラテンアメリカ系男性は、治癒しない糖尿病性創傷であることから、左足を切断するよう勧められていた。彼は切断を断り、肢の救済のためにWound Care Centerに訪れた。創傷は毎週または隔週を基準として創面切除され、結果として親指までの骨のほとんどが喪失した。しかし、足指は救済され、創傷はBioferrin(登録商標)1000およびキシリトールを含む組成物の塗布により治癒した。
【0064】
実施例12
非常に快活な84歳の白人女性は、彼女の胸部に非治癒性の大きな外科創傷を示した。彼女は、彼女の胸部創傷の全体的な披裂を伴う大動脈冠状動脈バイパス移植を受けていた。持続陰圧吸引(vacuum assisted closure)が、彼女がWound Care Centerに訪れる約2ヶ月間前に施された。創傷は、基部上の100%の脱落組織により、基部に著しい壊死性物質を含んだ。創傷基部は不規則であり、おびただしいドレナージおよび多くの紅斑が存在した。
【0065】
患者は最初、キシリトールと併せたBioferrin(登録商標)2000(乳由来タンパク質に由来するラクトフェリン)で処置された。彼女は創傷の高い頻度の創面切除および解剖学的処置を受け、4〜5週間後、依然として鈍い創傷床と共に脱落組織斑および壊死性物質斑を有していた。著しいドレナージは依然として存在した。
【0066】
Bioferrin(登録商標)2000療法を始めてから約5週間後に、処置をキシリトールと併せたBioferrin(登録商標)1000に変更した。この組成物による処置の約2.5週間後、創傷は、良好な縮小、壊死性物質の減少、創傷周囲の活性辺縁部を示し、明らかに治癒していた。3ヶ月間、肉のように赤い創傷基部が存在し、この創傷は1ヶ月後治癒した。創傷は、Bioferrin(登録商標)1000を導入した際著しく改善した。患者はこの処置に非常に良好に耐容性を示し、極めて甚大な創傷の急速な閉鎖を経験した。
【0067】
実施例13
非常に快活な58歳の白人男性の大動脈冠状動脈バイパス移植後の状態が、Wound Care Centerにて示された。彼は胸骨の骨髄炎を発症しており、彼の胸骨はその後取り除かれた。手術後、彼の創傷は披裂し、彼に大きな胸部創傷が生じた。この患者は数ヶ月間持続陰圧吸引により処置されたが、これは失敗に終わった。発明者が最初に彼を見た時、彼は、100%脱落組織がその創傷を覆った非常に黒ずんだ創傷床を有していた。この患者は、キシリトールと併せたBioferrin(登録商標)2000で始めたが、強すぎる灼熱感が生じたため、この調製物の作用に耐えられなかった。患者はBioferrin(登録商標)1000に切り換えられ、この作用には十分耐え、創傷床において良好な反応を示した。1ヶ月後、脱落組織全体が表面から移動した。彼は、創傷の縮小と共に、活性辺縁部を有した。最初の呈示から3ヶ月の内に、創傷は良好なサイズの減少を示し、数週間後、完全な治癒に進んだ。
【0068】
実施例14
非常に快活な70歳の女性は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に感染した、治癒の非常に困難な右の内側足首の潰瘍を有し、Cubicin(登録商標)(Cubist Pharmaceuticals, Lexington, MA)、Tygacil(登録商標)(Wyeth Corp., Madison, NJ)、Zyvox(登録商標)(Pfizer Caribe Ltd., Guernsey, UK)、およびバンコマイシンを含む様々な抗ブドウ球菌抗生物質を使用中であった。患者の創傷はBioferrin 2000で2〜3ヶ月間処置され、その後、Acticoatを併用して、キシリトールを含むBioferrin(登録商標)1000による療法を開始した。6/16/06までにバイオフィルムは抑制されるように見え、患者の創傷は速やかに治癒していった。数週間後、創傷は完全に治癒した。
【0069】
実施例15
非常に快活な71歳の女性は、彼女の左脛に非常に長い病歴の非治癒性創傷を有した。彼女は静脈不全を有しており、彼女の足に関連する創傷を数ヶ月間有していた。彼女はWound Care CenterでBioferrin(登録商標)2000により5ヶ月間にわたって処置され、その後Bioferrin(登録商標)1000に切り換えられた。臨床的にバイオフィルムであると考えられる、創傷基部にある黄色がかった線維組織はすぐに消え、両方の創傷上に極めてきれいな創傷床が残った。Bioferrin(登録商標)1000療法の開始から数週間の内に、創傷は治癒した。
【0070】
実施例16
46歳の男性は、1年半の間改善を示すことなく、彼の左の内側足首に静脈性足潰瘍を有した。Bioferrin(登録商標)1000療法が開始され、6ヶ月未満の間に創傷は治癒した。
【0071】
実施例17
ある男性は、長年の間絶えることなく右肢下部に静脈性足潰瘍を有していた。このサイズは断続的に増減したが、創傷は完全に治癒することがなかった。患者は、10月から5月にかけてBioferrin(登録商標)2000により処置され、この時点でBioferrin(登録商標)1000療法を開始した。膝の真下から彼のくるぶしまでの広範囲の領域の創傷は非常に速やかにBioferrin(登録商標)1000に対して反応を示した。5月に見られた脱落組織は、4週間以内に脛中部領域におけるほんの小さな斑となった。8月中旬までに、脛の創傷はほぼ閉鎖した。10月中旬までに、創傷は治癒した。
【0072】
実施例18
43歳の男性は右足下部を雄牛に蹴られ、彼の脛骨および腓骨が粉砕し、コンパートメント症候群が起こっていた。金属プレートが、体の中央に近い腓骨に配置された。患者は頻繁な灌注および創傷の創面切除を伴うCubicin(登録商標) 6mg/kgに置かれ、Hydrofera Blue(登録商標)が創傷内に詰められた。ごく僅かな向上の後、創傷は治癒しないと見られた。金属プレートおよびネジの存在が、創傷の治癒をより困難とし、このデバイスはバイオフィルム成長環境をもたらした。Bioferrin(登録商標)1000およびキシリトールを、ハードウェアの除去を回避する試みとしてネジ中部の下の穴に注射した。Cubicin(登録商標) 6mg/kgを毎日4週間のさらなる過程を提供し、本発明者は毎日を基準としたBioferrin(登録商標)1000およびキシリトールのネジ内への塗布を継続した。さらに数週間を要したが、患者の創傷はドレナージ無く完全に閉鎖し、デバイスは除去の必要無く所定の位置に残った。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】目に見える脱落組織の実質的な量からも明らかな創傷におけるバイオフィルムの存在を示す、慢性創傷の写真である。
【図2】図2aは、処置前の慢性創傷の写真である。図2bは、本発明のある態様において提供されるMDPP/キシリトール組成物による処置後の同じ創傷の写真である。
【図3】図3aは、処置前の慢性創傷の写真である。図3bは、本発明のある態様において提供されるMDPP/キシリトール組成物による処置後の同じ創傷の写真である。
【図4】図4aは、処置前の慢性創傷の写真である。図4bは、MDPP/キシリトール組成物による処置後の同じ創傷の写真である。
【図5】図5aは、処置前の慢性創傷の写真である。図5bは、MDPP/キシリトール組成物による処置後の同じ創傷の写真である。
【図6】図6aは、処置前の慢性創傷の写真である。図6bは、MDPP/キシリトール組成物による処置後の同じ創傷の写真である。この場合、組成物はAquaphor(登録商標)(Smith and Nephew Wound Care, Hull, UK)基材に混合される。
【図7】図7aは、左足指の骨髄炎を伴う糖尿病性足潰瘍の写真である。最初の病院の勧めは、左足を切断することであった。図7bおよび7cは、Southwest Regional Wound Care Center, Lubbock, Texasでの処置の開始後に撮影された。図7bは、親指の組織が大幅に損失した、左足の創面切除された創傷の写真である。図7cは、3ヶ月に満たない時点での同じ創傷の写真である。創傷は、MDPP/キシリトールゲルで処置された。
【図8】8週間にわたる67例の創傷の処置の効果を示すグラフである(37例は乳由来タンパク質産物で処置し、30例は対照としてCurasol(登録商標)メチルセルロースゲルで処置した)。静脈性足潰瘍、外傷性創傷、非治癒性手術創、糖尿病性足潰瘍、静脈不全を有する患者の創傷、および褥瘡性潰瘍を含む様々な種類の創傷が、本研究に含まれた。創傷の周縁をトレースし、立方センチメートルで表される創傷体積を毎週計算した。治癒、改善、変化無し、または悪化の様な創傷の特徴および創傷の体積変化に基づいて創傷を分類した。結果を、X軸上の創傷分類、およびY軸上の、示される各分類に属する処置群における創傷の割合(%)によりグラフに示す。グラフに示されるように、MDPP処置は、標準的なヒドロゲル処置よりも有意にさらに多い、創傷の治癒および改善をもたらした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳由来タンパク質産物およびキシリトールの組み合わせを含む、創傷ケア組成物。
【請求項2】
乳由来タンパク質産物が、組成物1cc当たり約2〜約200mgを構成する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
乳由来タンパク質産物がウシ乳由来タンパク質産物である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
キシリトールが、組成物の約1パーセント(w/v)〜約50パーセント(w/v)を構成する、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
キシリトールが、組成物の約5パーセント(w/v)〜約20パーセント(w/v)を構成する、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
薬学的に許容される担体が、泡沫、アルギン酸、親水コロイド、創傷充填剤、ヒドロゲル、およびフィルムからなる群の中から選択される、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
銀をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
約2%〜約100%の濃縮された濃度の乳由来タンパク質産物をラクトフェリンとして提供するよう加工処理したウシ乳由来タンパク質産物を含む、ヒトまたは動物の組織におけるバイオフィルム断片からのバイオフィルム再形成を阻害するための薬物。
【請求項10】
ラクトフェリン100g当たり約0〜約15mgのFeをさらに含む、請求項9記載の薬物。
【請求項11】
ラクトフェリン100g当たり約15〜約40 mgのFeをさらに含む、請求項9記載の薬物。
【請求項12】
少なくとも約1パーセント(w/v)のキシリトールをさらに含む、請求項9記載の薬物。
【請求項13】
ヒトまたは動物の組織が、急性または慢性の創傷を含む上皮組織を含む、請求項9記載の薬物。
【請求項14】
キシリトールが少なくとも約5パーセント(w/v)を構成する、請求項12記載の薬物。
【請求項15】
ラクトフェリンとしての約50%〜約100%の乳由来タンパク質産物と、ラクトフェリン100g当たり約0〜約15 mgのFeとを提供するよう加工処理したウシ乳由来タンパク質産物を含む、バイオフィルム関連創傷の治癒の割合を増加させるための薬物。
【請求項16】
少なくとも約5%のキシリトールをさらに含む、請求項15記載の薬物。
【請求項17】
キシリトールを含む局所用組成物と、乳由来タンパク質産物、単離されたラクトフェリン、またはこれらの組み合わせの中から選択される組成物とを含む、座瘡を処置するための薬物。
【請求項18】
皮膚に対する組成物の局所適用に有効な製薬基剤をさらに含む、請求項17記載の薬物。
【請求項19】
製薬基剤がプルロニックレシチン有機ゲルである、請求項17記載の薬物。
【請求項20】
銀、乳由来タンパク質産物または単離されたラクトフェリン、およびキシリトールを含む、創傷包帯剤。
【請求項21】
銀が薬学的組成物により提供される、請求項20記載の創傷包帯剤。
【請求項22】
銀が医療デバイスにより提供される、請求項20記載の創傷包帯剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−523704(P2009−523704A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541403(P2008−541403)
【出願日】平成18年11月18日(2006.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2006/044876
【国際公開番号】WO2007/061942
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(504330650)グランビア ニュートリショナルズ (アイルランド) リミテッド (4)
【Fターム(参考)】