説明

創傷皮膚再生方法および再生用シート

【課題】 人体の創傷部位の皮膚の再生を促進させ、治療効果を増進させることを課題とする。
【解決手段】 人体の創傷部位1に細片の分布またはスリット等により隙間部分6を設けた人工皮膚2を添着し、その上にスリット7、細孔等による貫通部8が形成された導電性を有する金属箔からなるシート3を載置し、その上に剥離性に富む材料からなるガーゼ4を被覆して皮膚組織の再生を図るようにしたことにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の創傷皮膚再生方法とそれに用いる創傷皮膚再生用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
人体の皮膚の傷、例えば擦過傷、切り傷、びらん、皮膚潰瘍、褥創などの創傷の治療には、従来シート状または細片状の人工皮膚を創傷部位に分布させ、その上からガーゼで被覆して人体から増生する皮膚構成細胞や血管などにより人工皮膚が人体と一体化して皮膚の再生を図るようにしている。
【0003】
上記人工皮膚としては、一般にコラーゲンスポンジ(アテロコラーゲン)が用いられる。
【0004】
しかして上記従来の処置方法では、アテロコラーゲン内への細胞浸潤、血管増生による肉芽の完成に時間がかかり感染やずれの危険が大きく、また適時にガーゼを交換することが必要となるので手当てが容易でなく、そのうえガーゼを交換するときガーゼに貼り付いた人工皮膚がガーゼと一緒に人体から剥離してしまうなど、多くの問題点があった。
【特許文献1】特開平5−192363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、人体の創傷部分の皮膚の再生を促進させ、治療効果を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する手段として本発明は、人体の創傷部位に細片の分布またはスリット等により隙間を設けた人工皮膚を添着し、その上にスリット、細孔等による貫通部が形成された導電性を有する金属箔からなるシートを載置し、その上に剥離性に富む材料からなるガーゼを被覆して皮膚組織の再生を図るようにしたことを特徴としている。
【0007】
上記金属箔は、スリットによる貫通部が形成されたアルミ箔を用いることが好ましく、また前記ガーゼはシリコンガーゼを用いることが好ましい。
【0008】
また前記シートの貫通部は、金属箔をスリットにより細片状に切り裂いた形態とするほか、千鳥状にスリットを入れてこれを広げることにより菱形状の貫通部としてもよく、これらの形態は任意に選択することができる。
【0009】
そして上記金属箔のスリットにより形成される細片が、創傷部位に添着した人工皮膚の隙間部分に入り込む幅とすることが人体との間におけるイオン効果を高めるうえで好ましい。
【0010】
さらに上記金属箔に予め人工皮膚を添着したものとして提供し、使用時にその人工皮膚側を人体の創傷部位に当てがうようにして人工皮膚と共に金属箔をセットできるようにすることにより創傷部位への処置を容易化することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、人体の創傷部位に添着する人工皮膚に金属箔を重ね、その一部が人工皮膚の間隙部分から人体に接触乃至近接しておかれるようにしているので、人体と金属箔との間におけるイオン効果により血管内皮細胞を刺激して肉芽組織の増生促進を図ることができる。
【0012】
すなわち金属材がもつ直接的細胞増殖分化促進作用に加えて、血管内皮細胞が局所に血管新生を起こしたり、線維芽細胞を増生させたりする作用を有する因子(線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子等)を誘導し、さらにそれらにより刺激を受けた線維芽細胞、浸潤細胞、表皮細胞が促進物質を放出することによって創傷治癒促進効果をもたらし、早期に創傷を治すことができる。特に金属箔にアルミ箔を用いれば、上記効果を一層顕著に得ることができる。
【0013】
また創傷部位の肉芽組織の盛り上がりに伴いガーゼと共に金属箔が周囲に固着することなく浮き上がるので、金属箔を容易に除去することができる。
【0014】
さらに金属箔と人工皮膚とを予め一体化した再生用シートとすれば、治療時における取り扱いを簡便にでき、人工皮膚の添着不良を起こすことも回避され、かつ良質で均一な商品として提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の一実施形態を示すもので、図1において1は人体に生じた創傷部位、2はこの創傷部位1に添着された人工皮膚、3はこの人工皮膚2に重ねられた金属箔からなるシート、4はその上を被覆するガーゼを示している。
【0016】
上記人工皮膚2としては、例えば従来から用いられているものと同様、シート状に形成されたコラーゲンスポンジ(アテロコラーゲン)であるが、本発明においては図2(A)に例示するように人工皮膚2に適当間隔をおいてスリット5、5…を入れるか、あるいは図2(B)に例示するように単册状に細断した形態として用いられ、これらスリット5部分または単册状に細断したものの場合はそれらの相互間が隙間部分6とされている。
【0017】
前記シート3を構成する金属箔としては、厚さ0.01〜0.2mm程度の導電性に富むアルミ箔が用いられている。
【0018】
上記シート3は、図3(A)に示すように一側端から所要長さの範囲に複数条のスリット7、7…を入れて一部を細片状に切り裂くか、あるいは図3(B)に示すように千鳥状にスリット7、7…を入れ、これらスリット7部分が広がることにより貫通部8が形成されるようになっており、人体から滲み出す体液が前記貫通部8を通じてシート3の外面側へ滲出することが可能とされている。
【0019】
前記ガーゼ4は、剥離性と周囲組織や被覆物との癒着防止を考慮してシリコンガーゼが用いられている。
【0020】
したがって図1に示したように人体の創傷部位1に人工皮膚2を添着し、その上にシート3を重ねたとき、シート3の一部が人工皮膚2の隙間部分6から人体の創傷部位1に接触乃至は近接した状態におかれる。
【0021】
一般に血管内皮、赤血球、血小板などは陰性に帯電していて互いに反発することで血栓が形成されにくくしていることが知られており、シート3(アルミ箔)は陽イオンを帯電していることから両イオンが接着する方向に作用し、これらを局所に集約させることが考えられる。
【0022】
このようなイオン効果に基づき、血管内皮細胞を刺激し、血管内皮細胞が局所に血管新生を起こしたり、線維芽細胞を増生させたりする作用を有する線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子などの成長因子を誘導し、さらにそれらにより刺激を受けた線維芽細胞、浸潤細胞、表皮細胞が促進物質を放出することにより創傷治癒促進効果を期することができる。
【0023】
創傷部位1から滲出する過剰の体液は、前述のようにシート3の貫通部8を通じてガーゼ4上に吸収される。このガーゼ4を適時に交換する際に剥しても、シート3の介在により人工皮膚2に貼り付くことがないので人工皮膚2を剥してしまうことがなく、ガーゼ4のみを容易に剥すことができる。
【0024】
なお、ガーゼ4の構成としては、例えば、シート3上に敷設される剥離性に富むシリコンガーゼと、このシリコンガーゼ上に敷設される吸収用ガーゼとしての綿ガーゼとで構成することができる。この場合、シリコンガーゼはシート3とガーゼとの固着を防ぎ、綿ガーゼは浸出液を吸収する役目をなす。綿ガーゼのみを複数回に渡って繰り返して交換しても、シリコンガーゼ及びその下のシート3に影響を与えないような状態に維持することができる。
【0025】
創傷部位1から滲出する体液の量が減少してきた時点、あるいは体液の色を観察することにより良好な肉芽が生成されたと判断されたときシート3を除去すればよい。またこのシート3は、肉芽の盛り上がりにより異物として自然に剥れ落ちる場合もある。
【0026】
図4はシート3に人工皮膚2を予め一体に貼り合わせた形態の再生用シートとして提供するようにした場合を示している。この形態とした場合の使用方法も前述の実施形態と同様であるが、シート3と人工皮膚とが一体化されているので創傷部位1に施す際の操作を簡便に行うことができる利点があると同時に人工皮膚2とシート3との相互の位置ずれを生じることがなく、患部に的確に添着することができる。
【0027】
なおシート3と人工皮膚2との一体化は、人工皮膚2が人体の肉芽に包含されたあと、シート3を剥離除去させることが可能な程度に両者を予め固定しておくことはもちろんである。
【0028】
また上記再生用シートとする場合、人体の指用として予め筒状に形成しておき、指の創傷に対し差し込むだけで人工皮膚2を的確に施すことができるようにすることができる。
【0029】
次に本発明による創傷皮膚再生方法を創傷部位に適用して、皮膚全層欠損治療時における病理組織学的差異につき実際に試行した結果を表1に示す。
【表1】

【0030】
この試行結果から明らかなように、アルミ箔によるシートを用いた場合、創傷治癒が促進したことを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態を模式的に示す断面図。
【図2】本発明における人工皮膚を示し、(A)はスリットにより貫通部を形成した場合、(B)は細片状として貫通部を形成するようにした場合を示す平面図。
【図3】金属箔からなるシートを示し、(A)は一側端からスリットを入れた場合、(B)は千鳥状にスリットを入れた場合を示す平面図。
【図4】シートと人工皮膚とを一体として再生用シートとした場合の断面図。
【符号の説明】
【0032】
1 創傷部位
2 人工皮膚
3 シート(金属箔としてのアルミ箔)
4 ガーゼ(シリコンガーゼ)
5、7 スリット
6 隙間部分
8 貫通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の創傷部位に細片の分布またはスリット等により隙間を設けた人工皮膚を添着し、その上にスリット、細孔等による貫通部が形成された導電性を有する金属箔からなるシートを載置し、その上に剥離性に富む材料からなるガーゼを被覆して皮膚組織の再生を図るようにしたことを特徴とする創傷皮膚再生方法。
【請求項2】
前記金属箔は、スリットによる貫通部が形成されたアルミ箔で構成されている請求項1に記載の創傷皮膚再生方法。
【請求項3】
前記ガーゼにシリコンガーゼを用いる請求項1に記載の創傷皮膚再生方法。
【請求項4】
人体の創傷部位に細片の分布またはスリット等により隙間が設けられた人工皮膚を添着して皮膚の再生を図るためのシートであって、
前記人工皮膚の隙間部分に嵌入し得るようスリット、細孔等からなる貫通部が形成された導電性を有する金属箔で構成されている
ことを特徴とする創傷皮膚再生用シート。
【請求項5】
人体の創傷部位に添着して皮膚の再生を図るためのシートであって、
人体の創傷部位に添着される細片の分布またはスリット等により隙間が設けられた人工皮膚と、
前記人工皮膚に一体的に添着される導電性を有する金属箔と、を備える
ことを特徴とする創傷皮膚再生用シート。
【請求項6】
前記金属箔はアルミ箔で構成され、このアルミ箔にスリットを入れて多数の細片が形成されており、これら細片間を貫通部として細片が人工皮膚の隙間部分に嵌入し得るように構成されている請求項4または5に記載の創傷皮膚再生用シート。
【請求項7】
前記シートはアルミ箔で構成され、このアルミ箔に千鳥状のスリットを入れて多数の細片が形成されており、これら細片間を貫通部として細片が人工皮膚の隙間部分に嵌入し得るように構成されている請求項4または5に記載の創傷皮膚再生用シート。
【請求項8】
前記シートは、その上にガーゼを被覆して使用される請求項4または5に記載の創傷皮膚再生用シート。
【請求項9】
前記ガーゼは、前記シート上に敷設されるシリコンガーゼと、前記シリコンガーゼ上に敷設される吸収用ガーゼとで構成される請求項8に記載の創傷皮膚再生用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−75208(P2006−75208A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259743(P2004−259743)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(592067568)株式会社ヤヨイ (4)
【Fターム(参考)】