説明

力伝達装置

【課題】2要素間で力を伝達すると共に複数方向の過負荷を遮断することができる力伝達装置の提供。
【解決手段】力伝達装置20は、ボールジョイントを構成する内輪アッセンブリ21および外輪アッセンブリ41と、内輪アッセンブリ21および外輪アッセンブリ41の軸心が一致しているときに外輪アッセンブリ41側の当接部材45と当接するように内輪アッセンブリ21により支持される球体30と、球体30を当接部材45に対して弾性的に押し付けるスプリング33,34と、基準軸としてのZ軸の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動を規制すると共に、基準軸とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動を許容する一対のローラ25と一対のガイド凹部43gとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2要素間で力を伝達する力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨折や脱臼等の治療に用いられる整復装置として、下肢を整復すべき患者の少なくとも下半身を支える支持台と、患者の下腿を支持する下腿支持台と、下腿支持台を略水平な軸線の周りに移動させる第1可動テーブルと、第1可動テーブルを駆動する第1駆動手段と、下腿支持台を略水平方向に移動させる第2可動テーブルと、第2可動テーブルを駆動する第2駆動手段とを備え、患者の下肢に捻り動作と伸縮動作とを行なわせることができるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この整復装置は、更に、患者の下肢に左右移動動作と上下移動動作とを行わせるために、下腿支持台を略水平面内で揺動させる揺動アームと、下腿支持台を略垂直方向に移動させる第3可動テーブルと、第3可動テーブルを駆動する第3駆動手段とを備え、患者の足首に前後への曲げ動作を行わせるために、下腿支持台と第1可動テーブルとの間に介装されると共に略水平な軸線の周りに移動自在な継手部材と、継手部材を略水平な軸線周りに移動させる第4駆動手段とを備え、患者の足首に左右への振り動作を行わせるために、継手部材と共に自在継手を構成して略垂直な軸線の周りに移動自在な第2継手部材と、下腿支持台と第1可動テーブルとの間に介装されると共に第2継手部材を略垂直な軸線の周りに移動させる第5駆動手段とを備える。加えて、特許文献1に記載の整復装置は、患者の下肢を整復する際に下肢に対して無理な力が加わらないようにするために、第1可動テーブルから患者の下腿に無理な力が加わりそうになると、第1可動テーブルから患者の下腿に対する動力の伝達がなされなくなるようにする第1のメカニカルセイフティースイッチと、第2可動テーブルから患者の下腿に無理な力が加わりそうになると、第2可動テーブルから患者の下腿に対する動力の伝達がなされなくなるようにする第2のメカニカルセイフティースイッチとを備える。
【0003】
第1のメカニカルセイフティースイッチは、第1可動テーブルの回転中心から偏倚した位置に形成された貫通孔と、下腿支持台に連結された中継プレートの貫通孔に対応する位置に形成されたねじ孔と、このねじ孔に螺合される調整ねじと、この調整ねじのねじ部先端側に配置された鋼球と、調整ねじと鋼球との間に配置されたコイルスプリングとから構成されるものである。第1メカニカルセイフティースイッチによれば、コイルスプリングにより鋼球が付勢されて第1可動テーブルの貫通孔に押し付けられている間、第1駆動手段からの駆動力を第1可動テーブル、鋼球、および中継プレートを介して下腿支持台に伝達することができる。また、患者の下肢に捻り方向の無理な力が加わろうとすると、コイルスプリングによる付勢力に抗して鋼球と貫通孔との係合状態が解除され、第1可動テーブルから中継プレートすなわち下肢支持台への動力の伝達がなされなくなる。同様に、第2のメカニカルセイフティースイッチは、第2可動テーブルと第2駆動手段との間に介装された中間プレートに形成された貫通孔と、第2可動テーブルの当該貫通孔に対応する位置に形成されたねじ孔と、このねじ孔に螺合される調整ねじと、この調整ねじのねじ部先端側に配置された鋼球と、調整ねじと鋼球との間に配置されたコイルスプリングとから構成されるものである。これにより、コイルスプリングにより鋼球が付勢されて中間プレートの貫通孔に押し付けられている間、第2駆動手段からの駆動力を第2可動テーブルを介して下腿支持台に伝達することができる。また、患者の下肢に伸縮方向の無理な力が加わろうとすると、コイルスプリングによる付勢力に抗して鋼球と貫通孔との係合状態が解除され、第2駆動手段から第2可動テーブルすなわち下肢支持台への動力の伝達がなされなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−58041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の整復装置では、患者の下肢に捻り動作を行わせる第1可動テーブルと、患者の下肢に伸縮動作を行わせる第2駆動テーブルとに対してのみメカニカルセイフティースイッチが設けられている。従って、下肢の左右移動方向、下肢の上下移動方向、足首の前後への曲げ方向、および足首の左右への振り方向のそれぞれにおける無理な力が患者に伝達されないようにするためには、整復装置に対して、これらの動作を行わせる駆動部の数だけメカニカルセイフティースイッチを追加しなければならない。しかしながら、このようにメカニカルセイフティースイッチを多数用いれば、コストアップや装置の大型化、装置構造の複雑化を招いてしまう。このため、2要素間で力を伝達する装置として、複数方向の過負荷を遮断可能なものに対するニーズが高まっている。また、産業用ロボットや人型ロボットといったロボットの分野においても、このようなニーズは高い。
【0006】
そこで、本発明は、2要素間で力を伝達すると共に複数方向の過負荷を遮断することができる力伝達装置の提供を主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による力伝達装置は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0008】
本発明による第1の力伝達装置は、
2要素間で力を伝達する力伝達装置であって、
凸球面を有する内輪要素と
前記内輪要素の前記凸球面と係合する凹球面を有し、前記内輪要素と共にボールジョイントを構成する外輪要素と、
前記内輪要素の軸心である内輪軸心と前記外輪要素の軸心である外輪軸心とが一致しているときに前記内輪要素および前記外輪要素の何れか一方に定められた当接部と当接するように前記内輪要素および前記外輪要素の他方により支持される球体と、
前記球体を前記当接部に対して弾性的に押し付ける付勢手段と、
前記内輪軸心と前記外輪軸心とが一致しているときの前記内輪要素および前記外輪要素の軸心である基準軸の周りにおける該内輪要素と該外輪要素との相対運動を規制すると共に、前記基準軸とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸の周りにおける前記内輪要素と前記外輪要素との相対運動を許容する運動拘束手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
この力伝達装置は、2要素間に配置されて当該2要素間で力を伝達するものであり、ボールジョイントを構成する内輪要素および外輪要素と、内輪軸心と外輪軸心とが一致しているときに内輪要素および外輪要素の何れか一方に定められた当接部と当接するように内輪要素および外輪要素の他方により支持される球体と、球体を当接部に対して弾性的に押し付ける付勢手段とを備える。これにより、付勢手段によって球体が当接部に対して弾性的に押し付けられて内輪要素と外輪要素とが同心に保たれていれば、内輪要素の軸心と外輪要素の軸心とが一致しているときの両者の軸心である基準軸周りの回転トルクや、様々な方向の力を内輪要素および外輪要素の一方から他方へと伝達することができる。また、この力伝達装置は、内輪軸心と外輪軸心とが一致しているときの内輪要素および外輪要素の軸心である基準軸の周りにおける当該内輪要素と当該外輪要素との相対運動を規制すると共に、基準軸とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸の周りにおける内輪要素と外輪要素との相対運動を許容する運動拘束手段を備える。これにより、内輪要素および外輪要素の一方から他方へと伝達される回転トルクが大きくなっても内輪要素と外輪要素との間での回転トルクの伝達が断たれることはないが、内輪要素または外輪要素に加えられる回転トルク以外の力が球体と当接部との間の静止力に打ち勝つと球体が付勢手段からの押付力に抗して当接部から外れ、内輪軸心や外輪軸心周りの回転以外の内輪要素と外輪要素との相対運動が許容されて当該相対運動を生じさせた力の方向における過負荷が遮断されることになる。従って、この力伝達装置によれば、2要素間で力を伝達すると共に複数方向の過負荷を遮断することが可能となる。
【0010】
また、前記球体は、前記外輪要素に向けて前記内輪要素から突出するように前記内輪軸心上に配置されてもよく、前記当接部は、前記球体と係合するように前記外輪要素に設けられる前記外輪軸心を中心とする凹部または孔部であってもよい。これにより、球体と当接部との当接を解除する力を基準軸と直交する平面内の全方向において概ね一定にすることが可能となる。
【0011】
更に、第1の力伝達装置は、前記付勢手段による前記球体を前記当接部に押し付ける力を変更可能な押付力設定手段を備えてもよい。これにより、力伝達装置の過負荷遮断特性を任意に変更することが可能となる。
【0012】
また、前記内輪要素は、前記球体を支持すると共に前記内輪軸心上で摺動可能な球体支持部材と、前記球体支持部材と間隔を置いて前記内輪軸心上で摺動可能な押付部材と、前記押付部材を前記内輪軸心上で進退移動させる移動機構とを有してもよく、前記付勢手段は、前記球体支持部材と前記押付部材との間に配置される弾性体であってもよい。これにより、移動機構を用いて押付部材と球体支持部材との間隔を調整することにより力伝達装置の過負荷遮断特性を容易に変更可能となる。
【0013】
更に、前記外輪要素は、前記凹球面と同心であると共に該凹球面よりも大きい曲率半径をもった第2凹球面を前記当接部の周囲に有してもよい。これにより、内輪要素または外輪要素に加えられた力により当接部から外れた球体は付勢手段により第2凹球面に押し付けられた状態で当該第2凹球面上を転動または摺動することになるので、球体が当接部から外れた後に内輪要素が外輪要素に対して大きく移動するのを抑制して力伝達装置の動作を安定化させることができる。
【0014】
また、前記当接部は、前記外輪要素に対して着脱自在に取り付けられる部材に形成されてもよい。これにより、当接部の構成(形状や材質等)を容易に変更することができるので、球体と当接部との接触状態や静摩擦係数すなわち力伝達装置の過負荷遮断特性を容易に調整可能となる。
【0015】
更に、前記運動拘束手段は、前記凸球面を介して互いに同軸に対向するように前記内輪要素に設けられる一対の円柱体と、前記凹球面を介して互いに対向すると共にそれぞれ対応する前記円柱体と係合するように前記外輪要素に設けられ、前記内輪軸心と前記外輪軸心とが一致しているときにそれぞれ前記基準軸と前記一対の円柱体の軸心とを含む平面と平行に延びる一対の側面を有する一対の凹部とにより構成されてもよい。これにより、基準軸の周りにおける内輪要素と外輪要素との相対運動を規制しつつ、基準軸とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸の周りにおける内輪要素と外輪要素との相対運動を許容することが可能となる。そして、かかる構成によれば、内輪軸心と外輪軸心とが一致していないときであっても、内輪要素と外輪要素との間で回転を伝達することができる。
【0016】
また、前記円柱体は、それぞれ対応する前記凹部の前記側面の一方と当接してもよく、該円柱体と該側面の他方との間には隙間が形成されてもよい。これにより、基準軸とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸の周りにおける内輪要素と外輪要素との相対運動をよりスムースなものとすることが可能となる。
【0017】
更に、前記円柱体は、それぞれ中心軸周りに回転自在となるように前記内輪要素に設けられてもよい。これにより、基準軸とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸の周りにおける内輪要素と外輪要素との相対運動をより一層スムースなものとすることが可能となる。
【0018】
また、第1の力伝達装置は、前記内輪要素および前記外輪要素の何れか一方に接続されており、入力回転トルクが所定値未満であるときには前記内輪要素および前記外輪要素の一方に前記入力回転トルクを伝達すると共に、前記入力回転トルクが前記所定値以上になったときには前記内輪要素および前記外輪要素の一方に前記入力回転トルクが伝達されないようにするトルクリミッタを更に備えてもよい。これにより、内輪要素および外輪要素の一方への回転トルクの伝達を断つことで内輪要素および外輪要素の一方から他方へと過剰な回転トルクが伝達されるのを抑制することが可能となるので、一体で多方向における過負荷を遮断する有用な力伝達装置の実現が可能となる。
【0019】
そして、上記第1の力伝達装置は、前記内輪要素および前記外輪要素の何れか一方に連結されており、前記基準軸周りの回転トルクと、前記基準軸と直交すると共に互いに直交する2つの軸それぞれの方向の力とを前記内輪要素および前記外輪要素の一方に出力する駆動ユニットと、前記内輪要素および前記外輪要素の他方に連結されると共に患者の身体の一部を支持する支持部材とを備える整復装置に適用されてもよい。
【0020】
第1の力伝達装置を備えた整復装置では、過負荷を遮断するためのセイフティー機構を多数用いる必要がなくなるので、コストダウン化や装置の小型化、装置構造の単純化を図ることができる。
【0021】
本発明による第2の力伝達装置は、
2要素間で力を伝達する力伝達装置であって、
凸球面を有する内輪要素と
前記内輪要素の前記凸球面と係合する凹球面を有し、前記内輪要素と共にボールジョイントを構成する外輪要素と、
前記内輪要素の軸心である内輪軸心と前記外輪要素の軸心である外輪軸心とが一致しているときに前記内輪要素および前記外輪要素の何れか一方に定められた第1当接部と当接するように前記内輪要素および前記外輪要素の他方により支持される第1球体と、
前記第1球体を前記第1当接部に対して弾性的に押し付ける第1付勢手段と、
前記凸球面を介して互いに対向するように前記内輪要素に設けられる一対の第2球体と、互いに対向するように前記外輪要素の外周に定められた一対の第2当接部と、前記第2球体を前記第2当接部に対して弾性的に押し付ける第2付勢手段とにより構成される運動拘束手段と、
を備えることを特徴とする。
【0022】
第2の力伝達装置は、2要素間に配置されて当該2要素間で力を伝達するものであり、ボールジョイントを構成する内輪要素および外輪要素と、内輪軸心と外輪軸心とが一致しているときに内輪要素および外輪要素の何れか一方に定められた第1当接部と当接するように内輪要素および外輪要素の他方により支持される第1球体と、第1球体を第1当接部に対して弾性的に押し付ける第1付勢手段と、凸球面を介して互いに対向するように内輪要素により支持される一対の第2球体と、互いに対向するように外輪要素の外周に定められた一対の第2当接部と、第2球体を第2当接部に対して弾性的に押し付ける第2付勢手段とにより構成される運動拘束手段を備える。これにより、第1付勢手段により第1球体が第1当接部に対して弾性的に押し付けられて内輪要素と外輪要素とが同心に保たれると共に、第2付勢手段により第2球体が第2当接部に対して弾性的に押し付けられて内輪要素と外輪要素との相対運動が規制されていれば、内輪要素の軸心と外輪要素の軸心とが一致しているときの両者の軸心周りの回転トルクや、様々な方向の力を内輪要素および外輪要素の一方から他方へと伝達することができる。また、第2の力伝達装置では、内輪要素および外輪要素の一方から他方へと伝達される回転トルクや内輪要素または外輪要素に加えられる回転トルク以外の力により、第2球体が第2当接部から外れるか、あるいは第2球体が第2当接部から外れると共に第1球体が第1当接部から外れると、内輪要素と外輪要素との相対運動が許容されて当該相対運動を生じさせた力の方向における過負荷が遮断される。従って、第2の力伝達装置によれば、2要素間で力を伝達すると共に複数方向の過負荷を遮断することが可能となる。
【0023】
更に、前記第1球体は、前記外輪要素に向けて前記内輪要素から突出するように前記内輪要素の軸心である内輪軸心上に配置されてもよく、前記第1当接部は、前記第1球体と係合するように前記外輪要素に設けられる該外輪要素の軸心である外輪軸心を中心とする凹部または孔部であってもよく、前記一対の第2球体は、前記内輪軸心と直交する軸上に配置されてもよく、前記第2当接部は、前記第2球体と係合するように前記外輪要素に設けられる前記外輪軸心と直交する軸を中心とする凹部または孔部であってもよい。また、前記外輪要素は、前記凹球面と同心であると共に該凹球面よりも大きい曲率半径をもった第2凹球面を前記当接部の周囲に有してもよい。
【0024】
そして、上記第2の力伝達装置は、前記内輪要素および前記外輪要素の何れか一方に連結されており、前記内輪軸心と前記外輪軸心とが一致しているときの前記内輪要素および前記外輪要素の軸心である基準軸周りの回転トルクと、前記基準軸と直交すると共に互いに直交する2つの軸それぞれの方向の力とを前記内輪要素および前記外輪要素の一方に出力する駆動ユニットと、前記内輪要素および前記外輪要素の他方に連結されると共に患者の身体の一部を支持する支持部材とを備える整復装置に適用されてもよい。
【0025】
第2の力伝達装置を備えた整復装置においても、過負荷を遮断するためのセイフティー機構を多数用いる必要がなくなるので、コストダウン化や装置の小型化、装置構造の単純化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例に係る整復装置1の概略構成図である。
【図2】整復装置1に含まれる力伝達装置20を示す断面図である。
【図3】力伝達装置20を模式的に示す斜視図である。
【図4】力伝達装置20を構成する内輪アッセンブリ21を示す断面図である。
【図5】力伝達装置20を構成する外輪アッセンブリ41を示す断面図である。
【図6】(a)および(b)は、内輪アッセンブリ21のローラ25と外輪アッセンブリ41のガイド凹部43gとの関係を示す説明図である。
【図7】力伝達装置20の動作を説明するための模式図である。
【図8】力伝達装置20の動作を説明するための模式図である。
【図9】力伝達装置20の動作を説明するための斜視図である。
【図10】変形例に係る力伝達装置20Bを示す断面図である。
【図11】他の変形例に係る力伝達装置200を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、実施例を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0028】
図1は、本発明の実施例に係る整復装置1の概略構成図である。同図に示す整復装置1は、例えば骨折や脱臼等の治療に用いられるものであり、可動テーブル2と、可動テーブル2に搭載された3軸式駆動ユニット3と、可動テーブル2に連結された進退駆動ユニット4と、患者の下肢といった身体の一部を支持する支持台(支持部材)5とを含む。3軸式駆動ユニット3は、セイフティー機構としてのトルクリミッタ10および本発明による力伝達装置20を介して支持台5に連結されており、支持台5に対して、図1におけるZ軸周りの回転トルクを出力すると共に、図1におけるX軸方向の力と図1におけるY軸方向の力とを出力する。また、進退駆動ユニット4は、3軸式駆動ユニット3を搭載した可動テーブル2を図1におけるZ軸方向に進退移動させることができる。これにより、実施例の整復装置1は、患者の下肢といった患部に捻り動作、左右移動動作、上下移動動作および伸縮動作を行わせることができる。
【0029】
3軸式駆動ユニット3と力伝達装置20との間に配置されるトルクリミッタ10は、3軸式駆動ユニット3からのZ軸周りの回転トルクが予め定められた伝達解除閾値未満であるときには力伝達装置20に当該回転トルクを伝達すると共に、3軸式駆動ユニット3からの回転トルクが当該伝達解除閾値以上になったときには力伝達装置20に当該回転トルクが伝達されないようにするものである。これにより、3軸式駆動ユニット3から力伝達装置20すなわち支持台5に支持された患者の身体の一部に過剰な回転トルクが伝達されるのを抑制することが可能となる。トルクリミッタ10としては、スプリングといった弾性体による押付力を利用したボールプランジャ式あるいはローラプランジャ式のトルクリミッタや電磁式のトルクリミッタ(電磁クラッチ)を採用することができる。
【0030】
図2は、上記整復装置1に含まれる力伝達装置20の断面図であり、図3は、力伝達装置20を模式的に示す斜視図である。これらの図に示すように、力伝達装置20は、それぞれ複数の部材により構成されると共に互いに係合してボールジョイントを構成する内輪アッセンブリ(内輪要素)21と外輪アッセンブリ(外輪要素)41とを含む。図2および図4に示すように、内輪アッセンブリ21は、主として、内輪ベース部材22と、内輪ベース部材22に固定される中空の内輪軸部材23と、所定の曲率半径をもった凸球面24aを外周に有する凸球面部材24とにより構成される。なお、力伝達装置20が上述の整復装置1に組み込まれる場合、内輪アッセンブリ21の内輪ベース部材22には、トルクリミッタ10(3軸式駆動ユニット3)および支持台5の一方がボルト等を介して連結される。
【0031】
内輪ベース部材22は、炭素鋼等により有底円筒状に形成されており、円筒状の側壁部22aと、軸心上に形成された中心孔22bと、内輪ベース部材22の外周面から中心孔22bまで径方向すなわち中心孔22bと直交する方向(図4におけるX軸方向)に延びる連通孔22cとを有する。内輪軸部材23は、炭素鋼等により円筒状に形成されており、概ね円錐台状を呈する先端部23aと、先端部23aの最外周よりも若干細径の円筒部23bとを有する。実施例では、先端部23a(内輪軸部材23)の最大外径は、内輪ベース部材22(側壁部22a)の内径の例えば2分の1程度とされている。また、先端部23aには、その軸心上に円筒部23bの内径よりも小さい内径を有する貫通孔23cが形成されている。
【0032】
凸球面部材24は、軸受鋼等により内部に内輪軸部材23の円筒部23bが同軸に挿入され得るように円環状に形成されており、当該円筒部23bと概ね同一の軸方向長さを有する。そして、実施例では、凸球面部材24の凸球面24aの曲率半径は、例えば、内輪ベース部材22(側壁部22a)の内径の2分の1よりも若干大きい程度に定められている。図4からわかるように、内輪軸部材23は、円筒部23bに凸球面部材24を嵌め込んだ後に内輪ベース部材22に対して同軸にボルトを介して固定される。これにより、凸球面部材24は、内輪ベース部材22の内底面と内輪軸部材23の先端部23aとにより挟持・固定される。
【0033】
また、内輪ベース部材22の側壁部22aには、一対のローラ(円柱体)25がそれぞれ軸受26を介して取り付けられる。一対のローラ25は、図4に示すように、凸球面部材24(凸球面24a)を介して図中X軸方向に延びる軸上で互いに同軸に対向するように側壁部22aに取り付けられる。実施例において、ローラ25を回転自在に支持する軸受26は、互いに対向するように内輪ベース部材22の側壁部22aに形成された孔に挿入されると共にセットスクリュー27を用いて固定される。
【0034】
更に、内輪アッセンブリ21は、図2および図4に示すように、軸受鋼等からなる小径の球体30を外輪アッセンブリ41に向けて突出するように当該内輪アッセンブリ21の軸心(内輪軸心)上に保持する。すなわち、実施例の内輪アッセンブリ21は、球体30を支持すると共に内輪アッセンブリ21の軸心上で摺動可能となるように内輪軸部材23により支持される球体支持部材31と、球体支持部材31と間隔を置いて内輪アッセンブリ21の軸心上で摺動可能となるように内輪ベース部材22により支持される押付部材32と、球体支持部材31と押付部材32との間に互いに同軸に配置される2本のスプリング33および34と、押付部材を内輪軸心上で進退移動させる移動機構としてのロッド35およびセットスクリュー36とを含む。
【0035】
球体支持部材31は炭素鋼等からなり、内輪軸部材23の先端部23aの貫通孔23c内に摺動可能に嵌合される本体と、内輪軸部材23の円筒部23b内でスプリング33,34と当接するフランジ部とを有する。球体支持部材31の本体の端部(図中左端)には、図4に示すように、その軸心を中心とした逆円錐面状あるいは球面状の凹部である球体支持凹部31aが形成されており、この球体支持凹部31a内に球体30が配置される。押付部材32は、炭素鋼等からなり、内輪ベース部材22の中心孔22b内に摺動可能に嵌合される本体と、内輪軸部材23の円筒部23b内でスプリング33,34と当接するフランジ部とを有する。押付部材32のフランジ部と反対側の端面32a(図中右側の端面)は、図4に示すように、軸心と直交しない斜面として形成されている。ロッド35は、中心孔22b内に突出するように内輪ベース部材22の連通孔22c内に摺動可能に挿入され、押付部材32の本体の端面(斜面)32aと密に当接するように斜めに形成された先端面35aを有する。セットスクリュー36は、連通孔22cの外周側の領域に形成された雌ねじ部と螺合する雄ねじ部をその外周に有し、ロッド35の端面と当接するように連通孔22cに螺合される。これにより、セットスクリュー36を連通孔22c内にねじ込んでロッド35を内輪ベース部材22の内部へと進行させれば、ロッド35の先端面35aからの力により押付部材32が内輪アッセンブリの軸心上で球体支持部材31に向けて(図中左側へと)移動し、それに伴って球体支持部材31と押付部材32との間のスプリング33,34が圧縮されることになる。従って、実施例の力伝達装置20では、セットスクリュー36のねじ込み量を調整することでスプリング33,34の圧縮量を変更し、それによりスプリング33,34から球体支持部材31を介して球体30に付与される力を変更することができる。
【0036】
一方、外輪アッセンブリ41は、図2および図5に示すように、主として、外輪ベース部材42と、外輪ベース部材42に固定される環状部材43と、内輪アッセンブリ21を構成する凸球面部材24の凸球面24aと係合可能な凹球面44aと円柱面状の外周面とを有する凹球面部材44とにより構成される。なお、力伝達装置20が上述の整復装置1に組み込まれる場合、外輪アッセンブリ41の外輪ベース部材42には、トルクリミッタ10(3軸式駆動ユニット3)および支持台5の他方がボルト等を介して連結される。
【0037】
外輪ベース部材42は、炭素鋼等からなり、内底面としての凹球面(第2凹球面)42aを有する。凹球面42aには、外輪ベース部材42の軸心を中心とした断面円形の比較的浅い凹部が形成されており、この凹部には、球体30の直径よりも小さい内径を有する孔部(断面円形の貫通孔)45aを中心軸上に有する当接部材45が着脱自在に嵌め込まれる。これにより、内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41とを両者の軸心が一致するように係合した際に、内輪アッセンブリ21側の球体30は、スプリング33,34により当接部材45に対して弾性的に押し付けられ、孔部45aと係合(実質的に線接触)することになる。なお、実施例では、当接部材45の内輪アッセンブリ21側(図中右側)の表面は、周囲の凹球面42aと同心かつ同一曲率半径の球面状に形成されるが、当接部材45の内輪アッセンブリ21側の表面は、平坦に形成されてもよい。また、当接部材45に孔部45aを形成する代わりに、当接部材45の内輪アッセンブリ21側の表面に例えば断面円形の凹部を形成してもよい。更に、外輪ベース部材42の適所には、内輪アッセンブリ21の内輪軸部材23に形成された検出孔23hの有無を非接触で検出することにより外輪アッセンブリ41(外輪ベース部材42)に対する内輪アッセンブリ21(内輪軸部材23)の移動の有無を検出する近接センサ47が配置されている。実施例の近接センサ47は、外輪ベース部材42に対する内輪軸部材23の移動を検知すると、その旨を示す信号を整復装置1の図示しないコントローラに出力する。
【0038】
環状部材43は、炭素鋼等からなり、凹球面部材44の外径と概ね同径であって凹球面部材44の軸方向長さと概ね同一の軸方向長さをもった第1孔部43aと、第1孔部43aの内輪アッセンブリ21側(図中右側)に形成された当該第1孔部43aよりも小径の第2孔部43bとを有する。凹球面部材44は、環状部材43の第1孔部43a内に同軸に挿入され得るように軸受鋼等により円環状に形成されており、当該第1孔部43aと概ね同一の軸方向長さを有する。そして、図5からわかるように、環状部材43は、第1孔部43aに凹球面部材44を嵌め込んだ後に外輪ベース部材42に対して同軸にボルトを介して固定される。これにより、凹球面部材44は、外輪ベース部材42と環状部材43とにより挟持・固定される。また、実施例において、外輪ベース部材42の凹球面42aは、球体30の転動または摺動が可能となるように凹球面44aよりも若干大きい曲率半径を有すると共に、外輪ベース部材42、環状部材43および凹球面部材44が一体化された状態で凹球面部材44の凹球面44aと同心となるように形成される。
【0039】
更に、実施例において、環状部材43の外周面43cは、凹球面44aよりも大きく、かつ内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41とが係合した状態で内輪ベース部材22の側壁部22aと干渉しないように定められた曲率半径を有すると共に、外輪ベース部材42、環状部材43および凹球面部材44が一体化された状態で凹球面部材44の凹球面44aと同心となる凸球面状に形成される。そして、環状部材43の外周面43cには、凹球面部材44(凹球面44a)を介して互いに対向すると共にそれぞれ内輪アッセンブリ21に設けられたローラ25の対応する一方と係合する一対のガイド凹部43gが形成されている。図6に示すように、ガイド凹部43gは、内輪アッセンブリ21の軸心と外輪アッセンブリ41の軸心とが一致しているときの両者の軸心を基準軸(図6等におけるZ軸)としたときに、基準軸と一対のローラ25の軸心(図6等におけるX軸方向に延びる軸)とを含む平面(YZ平面)と平行に延びる一対の側面43gaおよび43gbを有する。なお、図6(a)および(b)は、何れも図2におけるVI−VI線に沿った断面を示す。
【0040】
ここで、実施例では、側面43gaと側面43gbとの間隔がローラ25の外径よりも若干大きく定められている。また、ローラ25を回転自在に支持する軸受26としては、偏心軸受が採用されており、各ローラ25は、図6(a)に示すように、内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41とを両者の軸心が一致するように係合した際に、凸球面部材24の凸球面24aおよび凹球面部材44の凹球面44aの曲率中心Cを通り図6におけるX軸方向に延びる軸から偏心した状態で内輪ベース部材22の側壁部22aに支持される。これにより、ローラ25は、それぞれ対応するガイド凹部43gの側面43gaおよび43gbの一方と当接し、ローラ25と側面43gaおよび43gbの他方との間には隙間(例えば、0.5mm程度)が形成されることになる。そして、実施例では、各ローラ25の偏心量や各ローラ25と側面43gaまたは43gbとの間の隙間が、図6(b)に示すように、両者の軸心が一致する状態で内輪アッセンブリ21および外輪アッセンブリ41が基準軸(Z軸)周りに回転することにより一方のローラ25が対応するガイド凹部43gの図中左側の側面43gaと当接すると共に他方のローラ25が対応するガイド凹部43gの図中右側の側面43gbと当接したときに、一対のローラ25の軸心上の中点が凸球面24aおよび凹球面44aの曲率中心Cと一致するように定められる。
【0041】
このような一対のローラ25および一対のガイド凹部43gによれば、上記基準軸(Z軸)の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動を規制しつつ、基準軸とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸(X軸およびY軸)の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動を許容することが可能となる。更に、一対のローラ25および一対のガイド凹部43gは、内輪アッセンブリ21の軸心と外輪アッセンブリ41の軸心とが一致していないときであっても、内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との間における回転の伝達を可能とする。また、各ローラ25をガイド凹部43gの側面43gaおよび43gbの一方と当接させると共にローラ25と側面43gaおよび43gbの他方との間に隙間が形成されるようにすれば、基準軸とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸(X軸およびY軸)の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動をよりスムースなものとすることが可能となる。加えて、各ローラ25をガイド凹部43gの側面43gaおよび43gbの一方と当接させることにより、各ガイド凹部43gの一対の側面43gaおよび43gbのうち、ローラ25と頻繁に当接することになる一方の表面を精度よく仕上げておけばよいので、それにより力伝達装置20の製造コストを低下させることができる。
【0042】
次に、図7から図9等を参照しながら、上述の整復装置1に組み込まれた力伝達装置20の動作について説明する。ここでは、内輪アッセンブリ21の内輪ベース部材22にトルクリミッタ10を介して3軸式駆動ユニット3が連結されると共に、外輪アッセンブリ41の外輪ベース部材42に支持台5が接続されている構成を例にとって力伝達装置20の動作について説明する。
【0043】
3軸式駆動ユニット3からトルクリミッタ10を介して内輪アッセンブリ21に回転トルクや力が伝達されていない状態では、図2および図3に示すように、内輪アッセンブリ21側の球体30がスプリング33,34により外輪アッセンブリ41側の当接部材45に対して弾性的に押し付けられて孔部45aと係合(実質的に線接触)する。これにより、内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41とは、両者の軸心が一致する状態で係合する。そして、内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との軸心が一致している状態で整復装置1の3軸式駆動ユニット3や進退駆動ユニット4を作動させれば、3軸式駆動ユニット3や進退駆動ユニット4からトルクリミッタ10を介して内輪ベース部材22に付与された回転トルクや力が力伝達装置20により外輪アッセンブリ41へと伝達されると共に、外輪アッセンブリ41から支持台5上の患者の身体の一部に伝達されることになる。
【0044】
すなわち、内輪アッセンブリ21側の球体30がスプリング33,34により外輪アッセンブリ41側の当接部材45に対して弾性的に押し付けられて内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との軸心が一致する状態が維持されていれば、内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41とは実質的に剛体として機能することから、3軸式駆動ユニット3や進退駆動ユニット4からの力は、内輪アッセンブリ21から外輪アッセンブリ41へとそのまま伝達されることになる。また、内輪アッセンブリ21の一対のローラ25および外輪アッセンブリ41の一対のガイド凹部43gにより、基準軸(Z軸)の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動が規制されることから、3軸式駆動ユニット3からの回転トルクは、内輪アッセンブリ21から外輪アッセンブリ41へとそのまま伝達されることになる。そして、3軸式駆動ユニット3からの回転トルクが上記伝達解除閾値以上になると、トルクリミッタ10により内輪アッセンブリ21の内輪ベース部材22に対する3軸式駆動ユニット3からの回転トルクの入力が断たれることになる。
【0045】
一方、3軸式駆動ユニット3から内輪アッセンブリ21に加えられる回転トルク以外の力(図1等におけるX軸方向の力やY軸方向の力)が球体30と当接部材45(孔部45aの周縁部)との間の静止力に打ち勝つと球体30がスプリング33,34からの押付力に抗して当接部材45の孔部45aから外れ、それぞれの軸心周りの回転以外の内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動が許容されることになる。例えば、3軸式駆動ユニット3からのX軸方向の力が球体30と当接部材45(孔部45aの周縁部)との間の静止力に打ち勝つと、図7に示すように、球体30がスプリング33,34からの押付力に抗して当接部材45の孔部45aから外れると共に各ローラ25が対応するガイド凹部43gの側面43gaまたは43gb上を転動する。これにより、内輪アッセンブリ21が外輪アッセンブリ41に対して凸球面24aおよび凹球面44aの曲率中心Cを通りY軸方向に延びる軸の周りに回転し、球体30は外輪ベース部材42の凹球面42a上を転動するようになる。すなわち、3軸式駆動ユニット3からのX軸方向の力により球体30が当接部材45の孔部45aから外れると、凸球面24aおよび凹球面44aのボールジョイントとしての機能とローラ25およびガイド凹部43gのガイド機能とにより、凸球面24aおよび凹球面44aの曲率中心Cを通りY軸方向に延びる軸の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動が許容される。これにより、3軸式駆動ユニット3から内輪アッセンブリ21に付与されるX軸方向の力の外輪アッセンブリ41への伝達が断たれることになり、力伝達装置20により当該X軸方向における過負荷が遮断されることになる。
【0046】
また、例えば、3軸式駆動ユニット3からのY軸方向の力が球体30と当接部材45(孔部45aの周縁部)との間の静止力に打ち勝つと、図8に示すように、球体30がスプリング33,34からの押付力に抗して当接部材45の孔部45aから外れ、内輪アッセンブリ21が外輪アッセンブリ41に対して各ローラ25の軸心すなわち凸球面24aおよび凹球面44aの曲率中心Cを通りX軸方向に延びる軸の周りに回転し、球体30は外輪ベース部材42の凹球面42a上を転動するようになる。すなわち、3軸式駆動ユニット3からのY軸方向の力により球体30が当接部材45の孔部45aから外れると、凸球面24aおよび凹球面44aのボールジョイントとしての機能とローラ25およびガイド凹部43gのガイド機能とにより、凸球面24aおよび凹球面44aの曲率中心Cを通りX軸方向に延びる軸の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動が許容される。これにより、3軸式駆動ユニット3から内輪アッセンブリ21に付与されるY軸方向の力の外輪アッセンブリ41への伝達が断たれることになり、力伝達装置20により当該Y軸方向における過負荷が遮断されることになる。
【0047】
更に、3軸式駆動ユニット3からのX軸方向の力とY軸方向の力との合力が球体30と当接部材45(孔部45aの周縁部)との間の静止力に打ち勝つと、図9に示すように、球体30がスプリング33,34からの押付力に抗して当接部材45の孔部45aから外れ、凸球面24aおよび凹球面44aのボールジョイントとしての機能とローラ25およびガイド凹部43gのガイド機能とにより、凸球面24aおよび凹球面44aの曲率中心Cを通りX軸方向に延びる軸と曲率中心Cを通りY軸方向に延びる軸との周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動が許容される。これにより、3軸式駆動ユニット3から内輪アッセンブリ21に付与されるXY平面上のある方向における力の外輪アッセンブリ41への伝達が断たれることになり、力伝達装置20により当該方向における過負荷が遮断されることになる。
【0048】
ここで、実施例の力伝達装置20において、内輪アッセンブリ21側の球体30は、外輪アッセンブリ41に向けて突出するように内輪アッセンブリ21の軸心上に配置されると共に、外輪アッセンブリ41側の当接部材45には、外輪アッセンブリ41の軸心を中心とする孔部45aが形成されており、球体30は、スプリング33,34により当接部材45に対して弾性的に押し付けられて孔部45aの周縁部と実質的に線接触する。従って、球体30と当接部材45(孔部45a)との当接(係合)を解除する力は、基準軸としてのZ軸と直交するX軸方向とY軸方向とで概ね同一となり、3軸式駆動ユニット3からのX軸方向の力とY軸方向の力との合力の方向についても概ね同一となる。すなわち、実施例の力伝達装置20では、3軸式駆動ユニット3からのX軸方向、Y軸方向あるいはXY平面上の任意の方向における力が、スプリング33,34による球体30の押付力や球体30と孔部45aの周縁部との間の静摩擦係数等に基づく閾値を越えると、球体30が当接部材45から外れることになる。なお、実施例の力伝達装置20は、上述のように、外輪アッセンブリ41に対する内輪アッセンブリ21の移動の有無を非接触で検出する近接センサ47を有しており、近接センサ47により外輪アッセンブリ41に対する内輪アッセンブリ21の移動が検出されると、図示しない整復装置1のコントローラにより3軸式駆動ユニット3の作動がされる。これにより、整復装置1を用いた治療における安全性をより向上させることが可能となる。また、実施例の力伝達装置20において、内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41とは、図2において二点鎖線で示す範囲内で相対運動可能である。
【0049】
以上説明したように、実施例の力伝達装置20は、2要素間に配置されて当該2要素間で力を伝達するものであり、ボールジョイントを構成する内輪アッセンブリ21および外輪アッセンブリ41と、内輪アッセンブリ21の軸心と外輪アッセンブリ41の軸心とが一致しているときに外輪アッセンブリ41側の当接部材45と当接するように内輪アッセンブリ21により支持される球体30と、球体30を当接部材45に対して弾性的に押し付けるスプリング33,34とを備える。これにより、スプリング33,34によって球体30が当接部材45に対して弾性的に押し付けられて内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41とが同心に保たれていれば、内輪アッセンブリ21の軸心と外輪アッセンブリ41の軸心とが一致しているときの両者の軸心である基準軸(Z軸)周りの回転トルクや、様々な方向の力を内輪アッセンブリ21および外輪アッセンブリ41の一方から他方へと伝達することができる。
【0050】
また、実施例の力伝達装置20は、基準軸(Z軸)の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動を規制すると共に、基準軸とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸(X軸およびY軸)の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動を許容する運動拘束機構としてのローラ25およびガイド凹部43gを備えている。これにより、トルクリミッタ10により回転トルクの伝達が断たれない限り、内輪アッセンブリ21および外輪アッセンブリ41の一方から他方へと伝達される回転トルクが大きくなっても両者間での回転トルクの伝達が断たれることはないが、内輪アッセンブリ21または外輪アッセンブリ41に加えられる回転トルク以外の力が球体30と当接部材45(孔部45aの周縁部)との間の静止力に打ち勝つと球体30がスプリング33,34からの押付力に抗して当接部材45から外れ、内輪アッセンブリ21の軸心や外輪アッセンブリ41の軸心周りの回転以外の内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動が許容されて当該相対運動を生じさせた力の方向における過負荷が遮断されることになる。従って、実施例の力伝達装置20によれば、2要素間で力を伝達すると共に複数方向の過負荷を遮断することが可能となる。
【0051】
また、上記実施例では、球体30が外輪アッセンブリ41に向けて内輪アッセンブリ21から突出するように内輪アッセンブリ21の軸心上に配置され、外輪アッセンブリ41に取り付けられる当接部材45には、球体30と係合するように外輪アッセンブリ41の軸心を中心とする孔部45aが形成されている。これにより、球体30と当接部材45(孔部45a)との当接(係合)を解除する力を基準軸としてのZ軸と直交する平面内の全方向において概ね一定にすることが可能となる。ただし、球体30と当接部(孔部45a)は、内輪アッセンブリ21や外輪アッセンブリ41の軸心(基準軸)以外の軸上に配置されてもよいことはいうまでもない。また、球体30は外輪アッセンブリ41によって保持されると共に外輪アッセンブリ41側に設けられたスプリング等の付勢手段により内輪アッセンブリ21側に定められた当接部に押し付けられてもよい。この場合、球体30は、外輪アッセンブリ41の軸心上に配置されると好ましく、当接部は、球体30と係合するように内輪アッセンブリ21に設けられたその軸心を中心とする凹部または孔部であると好ましいが、球体30と当接部は、外輪アッセンブリ41や内輪アッセンブリ21の軸心(基準軸)以外の軸上に配置されてもよい
【0052】
更に、実施例の力伝達装置20は、スプリング33,34による球体30を当接部材45に押し付ける力を変更可能な押付力設定機能を有しているので、力伝達装置20では、その過負荷遮断特性を任意に変更することが可能となる。すなわち、実施例の力伝達装置20は、球体30を支持すると共に内輪アッセンブリ21の軸心上で摺動可能となるように内輪軸部材23により支持される球体支持部材31と、球体支持部材31と間隔を置いて内輪アッセンブリ21の軸心上で摺動可能となるように内輪ベース部材22により支持される押付部材32と、押付部材32を内輪アッセンブリ21の軸心上で進退移動させる移動機構としてのロッド35およびセットスクリュー36とを備えている。これにより、ロッド35およびセットスクリュー36を用いて押付部材32と球体支持部材31との間隔を調整することによりスプリング33,34から球体支持部材31を介して球体30に付与される力すなわち力伝達装置20の過負荷遮断特性を容易に変更可能となる。なお、球体支持部材31と押付部材32との間に配置されるスプリングは、1本であってもよく、3本以上であってもよい。また、スプリングの代わりに、付勢手段としてゴム等の弾性体を用いてもよく、空気圧式あるいは油圧式の付勢手段を用いてもよい。
【0053】
更に、実施例の力伝達装置20に含まれる外輪アッセンブリ41は、凹球面44aと同心であると共に当該凹球面44aよりも大きい曲率半径をもった第2の凹球面42aを当接部材45の周囲に有している。これにより、内輪アッセンブリ21または外輪アッセンブリ41に加えられた力により当接部材45から外れた球体30はスプリング33,34により第2の凹球面42aに押し付けられた状態で当該凹球面42a上を転動または摺動することになるので、球体30が当接部材45から外れた後に内輪アッセンブリ21が外輪アッセンブリ41に対して大きく移動するのを抑制して力伝達装置20の動作を安定化させることができる。
【0054】
また、上記実施例において、当接部としての孔部45aは、外輪ベース部材42に対して着脱自在に取り付けられる当接部材45に形成されている。これにより、当接部としての孔部(凹部)の構成(形状)や当接部材45の材質等を容易に変更することができるので、球体30と当接部材45との接触状態や静摩擦係数すなわち力伝達装置20の過負荷遮断特性を容易に調整可能となる。なお、当接部としての孔部や凹部を外輪アッセンブリ41に対して着脱自在に取り付けられる部材に形成する代わりに、外輪ベース部材42等に対して孔部や凹部を形成してもよく、球体30と第2の凹球面42aとを直接当接(実質的に点接触)させてもよい。
【0055】
更に、実施例の力伝達装置20は、凸球面24aを介して互いに同軸に対向するように内輪ベース部材22により支持された一対のローラ(円柱体)25と、凹球面44aを介して互いに対向すると共にそれぞれ対応するローラ25と係合するように外輪アッセンブリ41の環状部材43に設けられ、内輪アッセンブリ21の軸心と外輪アッセンブリ41の軸心とが一致しているときにそれぞれ基準軸としてのZ軸と一対のローラ25の軸心(X軸方向に延びる軸)とを含む平面(YZ平面)と平行に延びる一対の側面43gaおよび43gbを有する一対のガイド凹部43gとにより構成される運動拘束機構を備えている。これにより、基準軸(Z軸)の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動を規制しつつ、基準軸とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動を許容することが可能となる。また、かかる構成によれば、内輪軸心と外輪軸心とが一致していないときであっても、内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との間で回転を伝達することが可能となる。
【0056】
また、上記実施例では、ローラ25は、それぞれ対応するガイド凹部43gの側面43gaおよび43gbの一方と当接し、ローラ25と側面43gaおよび43gbの他方との間には隙間が形成される。これにより、基準軸(Z軸)とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸(X軸およびY軸)の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動をよりスムースなものとすることが可能となる。更に、ローラ25をそれぞれ中心軸周りに回転自在となるように内輪アッセンブリ21により支持すれば、基準軸(Z軸)とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸(X軸およびY軸)の周りにおける内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動をより一層スムースなものとすることが可能となる。
【0057】
そして、力伝達装置20は、上述のように、一体で複数方向の過負荷を遮断可能とするものであるから、それを備えた整復装置1では、過負荷を遮断するためのセイフティー機構を多数用いる必要がなくなるので、コストダウン化や装置の小型化、装置構造の単純化を図ることができる。ただし、力伝達装置20の適用対象は、整復装置1に限られるものではなく、力伝達装置20が産業用ロボットや人型ロボット等の各種ロボットといった様々な産業機械や民生用機械に適用されることはいうまでもない。
【0058】
図10は、変形例に係る力伝達装置20Bの概略構成図である。なお、以下の説明において、上述の力伝達装置20に関連して説明した要素等と同一の要素等には同一の参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0059】
変形例に係る力伝達装置20Bは、基本的に上述の力伝達装置20と同様の構成を有するものである。この力伝達装置20Bでは、当接部としての孔部45aが外輪ベース部材42に形成されており、球体支持部材31と押付部材32との間には、1本のスプリング33が配置されている。また、力伝達装置20Bでは、上述の力伝達装置20における環状部材43が省略されており、凹球面部材44の外周面が環状部材43の外周面43cと同様に凸球面状に形成されると共に、凹球面部材44の外周面に一対のガイド凹部43gが形成されている。そして、力伝達装置20Bは、上記整復装置1のトルクリミッタ10と同様の機能を有するトルクリミッタ50を備えている。
【0060】
トルクリミッタ50は、図10に示すように、ローラプランジャ式のトルクリミッタとして構成されており、炭素鋼等により概ね円盤状に形成される本体51と、ローラ52を回転自在に支持するローラ支持部材53と、ローラ支持部材53と間隔を置いて配置される押付部材54と、ローラ支持部材53と押付部材54との間に配置されるスプリング55と、セットスクリュー56とを備える。ローラ支持部材53は、本体51を径方向に貫通する貫通孔51aの内部の一端側(図中左端側)にローラ52の軸心が本体51の軸心と平行をなすように摺動可能に嵌め込まれる。また、押付部材54は、ローラ支持部材53と間隔を置いて貫通孔51a内に摺動可能に嵌め込まれ、ローラ支持部材53と押付部材54との間には、スプリング55が配置される。更に、セットスクリュー56は、押付部材54の端部と当接するように貫通孔51aの他端側(図中右端側)に形成された雌ねじ部に螺合される。これにより、セットスクリュー56を貫通孔51a内にねじ込んで押付部材54をローラ支持部材53に向けて移動させれば、それに伴ってローラ支持部材53と押付部材54との間のスプリング55が圧縮されることになる。従って、トルクリミッタ50では、セットスクリュー56のねじ込み量を調整することでスプリング55の圧縮量を変更し、それによりスプリング55からローラ支持部材53を介してローラ52に付与される力を変更することができる。
【0061】
そして、力伝達装置20Bの内輪アッセンブリ21を構成する内輪ベース部材22Bは、外輪アッセンブリ41とは反対側に延出されており、トルクリミッタ50は、内輪ベース部材22Bの延出部に形成された空間内に配置される。すなわち、トルクリミッタ50の本体51は、ボールベアリング等の軸受57を介して内輪ベース部材22Bに形成された空間内部に内輪アッセンブリ21と同軸に取り付けられる。更に、内輪ベース部材22Bの延出部に形成された空間の内周面には、本体51から突出するローラ52と当接する当接凹部22dが形成されている。これにより、ローラ52は、スプリング55によって内輪ベース部材22Bの当接凹部22dに対して基準軸としてのZ軸と直交する方向(図中X軸方向)に沿って弾性的に押し付けられる
【0062】
上述のように構成されるトルクリミッタ50は、本体51に付与される当該本体51の軸心周りの回転トルクが予め定められた伝達解除閾値未満であるときには内輪アッセンブリ21(内輪ベース部材22B)に回転トルクを伝達すると共に、当該回転トルクが伝達解除閾値以上になったときには内輪アッセンブリ21に回転トルクが伝達されないようにするものである。これにより、トルクリミッタ50を備えた力伝達装置20Bによれば、内輪アッセンブリ21への回転トルクの伝達を断つことで内輪アッセンブリ21から外輪アッセンブリ41へと過剰な回転トルクが伝達されるのを抑制することが可能となる。すなわち、変形例に係る力伝達装置20Bは、一体で多方向における過負荷を遮断する極めて有用なものである。そして、かかる力伝達装置20Bを上述の整復装置1に適用すれば、トルクリミッタ10を省略することが可能となり、整復装置1のより一層のコストダウン化や装置の小型化、装置構造の単純化を図ることができる。なお、トルクリミッタ50としてボールプランジャ式あるいは電磁式のトルクリミッタを採用し得ることはいうまでもない。また、力伝達装置20Bの適用対象も、整復装置1に限られるものではなく、力伝達装置20Bが産業用ロボットや人型ロボット等の各種ロボットといった様々な産業機械や民生用機械に適用されることはいうまでもない。
【0063】
図11は、他の変形例に係る力伝達装置200の概略構成図である。力伝達装置200も、上述の力伝達装置20および20Bと共通する構成を有するものであり、ボールジョイントを構成する内輪アッセンブリ21および外輪アッセンブリ41と、内輪アッセンブリ21の軸心と外輪アッセンブリ41の軸心とが一致しているときに外輪アッセンブリ41に設けられた第1の当接部としての孔部45aと当接するように内輪アッセンブリ21により支持される第1の球体30と、当該球体30を孔部45aに対して弾性的に押し付けるスプリング33とを備える。第1の球体30は、外輪アッセンブリ41に向けて突出するように内輪アッセンブリ21の軸心上に配置され、第1の当接部としての孔部45aは、球体30と係合するように外輪ベース部材42に形成された外輪アッセンブリ41の軸心を中心とする円孔である。また、外輪ベース部材42の孔部45aの周囲には、凹球面44aと同心であると共に該凹球面よりも大きい曲率半径をもった第2の凹球面42aが形成されている。
【0064】
そして、図11に示す力伝達装置200は、凸球面部材24(凸球面24a)を介して内輪アッセンブリ21の軸心と直交する軸(図中X軸方向の軸)上で互いに同軸に対向するように内輪ベース部材22により支持される一対の第2の球体60と、互いに対向するように外輪アッセンブリ41を構成する凹球面部材44の外周に形成された一対の第2の当接部としての当接凹部44bと、第2の球体60を当接凹部44bに対して弾性的に押し付ける第2の付勢手段としてのスプリング61とにより構成される運動拘束機構を備える。球体60は、球体支持部材62に形成された逆円錐面状あるいは球面状の凹部内に配置され、球体支持部材62は、内輪ベース部材22の側壁部22aに取り付けられるアダプタ63に形成された孔部内に摺動可能に配置され、球体支持部材62とアダプタ63との間には、スプリング61が配置される。そして、アダプタ63は、球体60が凹球面部材44の当接凹部44bに向けて突出するように側壁部22aに取り付けられる。当接凹部44bは、第2の球体60と係合するように凹球面部材44の外周面に形成された外輪アッセンブリ41の軸心を中心とする球体60よりも小径の断面円形の凹部である。
【0065】
このように構成される力伝達装置200では、スプリング33により球体30が孔部45aに対して弾性的に押し付けられて内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41とが同心に保たれると共に、スプリング61により第2の球体60が第2の当接部である外輪アッセンブリ41側の当接凹部44bに対して弾性的に押し付けられて内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動が規制されていれば、内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41とは実質的に剛体として機能することから、内輪アッセンブリ21の軸心と外輪アッセンブリ41の軸心とが一致しているときの両者の軸心(Z軸)周りの回転トルクや、様々な方向の力を内輪アッセンブリ21および外輪アッセンブリ41の一方から他方へと伝達することができる。
【0066】
また、力伝達装置200では、内輪アッセンブリ21および外輪アッセンブリ41の一方から他方へと伝達される回転トルクや内輪アッセンブリ21または外輪アッセンブリ41に加えられる回転トルク以外の力により、第2の球体60がスプリング61からの押付力に抗して第2当接部である当接凹部44bから外れるか、あるいは第2の球体60が当接凹部44bから外れると共に球体30がスプリング33からの押付力に抗して孔部45aから外れると、内輪アッセンブリ21と外輪アッセンブリ41との相対運動が許容されて当該相対運動を生じさせた力(Z軸周りの回転トルクを含む)の方向における過負荷が遮断されることになる。従って、力伝達装置200によれば、2要素間で力を伝達すると共に複数方向の過負荷を遮断することが可能となる。
【0067】
そして、かかる力伝達装置200も上述の整復装置1に適用され得るものであり、力伝達装置200を備えた整復装置1においても、過負荷を遮断するためのセイフティー機構を多数用いる必要がなくなるので、コストダウン化や装置の小型化、装置構造の単純化を図ることができる。ただし、力伝達装置200の適用対象も、整復装置1に限られるものではなく、力伝達装置200が産業用ロボットや人型ロボット等の各種ロボットといった様々な産業機械や民生用機械に適用されることはいうまでもない。
【0068】
以上、実施例を参照しながら本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。また、発明を実施するための形態の欄に記載されたものは、あくまで課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、力伝達装置や、整復装置、ロボットといった各種産業機械や民生用機械の製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 整復装置、2 可動テーブル、3 3軸式駆動ユニット、4 進退駆動ユニット、5 支持台、10,50 トルクリミッタ、20,20B,200 力伝達装置、21 内輪アッセンブリ、22,22B 内輪ベース部材、22a 側壁部、22b 中心孔、22c 連通孔、22d,44b 当接凹部、23 内輪軸部材、23a 先端部、23b 円筒部、23c,51a 貫通孔、24 凸球面部材、24a 凸球面、25,52 ローラ、26,57 軸受、27,36,56 セットスクリュー、30,60 球体、31,62 球体支持部材、31a 球体支持凹部、32,54 押付部材、32a 端面、33,34,55、61 スプリング、35 ロッド、35a 先端面、41 外輪アッセンブリ、42 外輪ベース部材、42a,44a 凹球面、43 環状部材、43a 第1孔部、43b 第2孔部、43c 外周面、43g ガイド凹部、43ga,43gb 側面、44 凹球面部材、45 当接部材、45a 孔部、47 近接センサ、51 本体、53 ローラ支持部材、63 アダプタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2要素間で力を伝達する力伝達装置であって、
凸球面を有する内輪要素と
前記内輪要素の前記凸球面と係合する凹球面を有し、前記内輪要素と共にボールジョイントを構成する外輪要素と、
前記内輪要素の軸心である内輪軸心と前記外輪要素の軸心である外輪軸心とが一致しているときに前記内輪要素および前記外輪要素の何れか一方に定められた当接部と当接するように前記内輪要素および前記外輪要素の他方により支持される球体と、
前記球体を前記当接部に対して弾性的に押し付ける付勢手段と、
前記内輪軸心と前記外輪軸心とが一致しているときの前記内輪要素および前記外輪要素の軸心である基準軸の周りにおける該内輪要素と該外輪要素との相対運動を規制すると共に、前記基準軸とそれぞれ直交すると共に互いに直交する2つの軸の周りにおける前記内輪要素と前記外輪要素との相対運動を許容する運動拘束手段と、
を備えることを特徴とする力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の力伝達装置において、
前記球体は、前記外輪要素に向けて前記内輪要素から突出するように前記内輪軸心上に配置され、前記当接部は、前記球体と係合するように前記外輪要素に設けられる前記外輪軸心を中心とする凹部または孔部であることを特徴とする力伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載の力伝達装置において、
前記付勢手段による前記球体を前記当接部に押し付ける力を変更可能な押付力設定手段を更に備えることを特徴とする力伝達装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の力伝達装置において、
前記内輪要素は、
前記球体を支持すると共に前記内輪軸心上で摺動可能な球体支持部材と、
前記球体支持部材と間隔を置いて前記内輪軸心上で摺動可能な押付部材と、
前記押付部材を前記内輪軸心上で進退移動させる移動機構とを有し、
前記付勢手段は、前記球体支持部材と前記押付部材との間に配置される弾性体であることを特徴とする力伝達装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の力伝達装置において、
前記外輪要素は、前記凹球面と同心であると共に該凹球面よりも大きい曲率半径をもった第2凹球面を前記当接部の周囲に有することを特徴とする力伝達装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の力伝達装置において、
前記当接部は、前記外輪要素に対して着脱自在に取り付けられる部材に形成されることを特徴とする力伝達装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の力伝達装置において、
前記運動拘束手段は、
前記凸球面を介して互いに同軸に対向するように前記内輪要素に設けられる一対の円柱体と、
前記凹球面を介して互いに対向すると共にそれぞれ対応する前記円柱体と係合するように前記外輪要素に設けられ、前記内輪軸心と前記外輪軸心とが一致しているときにそれぞれ前記基準軸と前記一対の円柱体の軸心とを含む平面と平行に延びる一対の側面を有する一対の凹部とにより構成されることを特徴とする力伝達装置。
【請求項8】
請求項7に記載の力伝達装置において、
前記円柱体は、それぞれ対応する前記凹部の前記側面の一方と当接し、該円柱体と該側面の他方との間には隙間が形成されることを特徴とする力伝達装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載の力伝達装置において、
前記円柱体は、それぞれ中心軸周りに回転自在となるように前記内輪要素に設けられることを特徴とする力伝達装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項に記載の力伝達装置において、
前記内輪要素および前記外輪要素の何れか一方に接続されており、入力回転トルクが所定値未満であるときには前記内輪要素および前記外輪要素の一方に前記入力回転トルクを伝達すると共に、前記入力回転トルクが前記所定値以上になったときには前記内輪要素および前記外輪要素の一方に前記入力回転トルクが伝達されないようにするトルクリミッタを更に備えることを特徴とする力伝達装置。
【請求項11】
2要素間で力を伝達する力伝達装置であって、
凸球面を有する内輪要素と
前記内輪要素の前記凸球面と係合する凹球面を有し、前記内輪要素と共にボールジョイントを構成する外輪要素と、
前記内輪要素の軸心である内輪軸心と前記外輪要素の軸心である外輪軸心とが一致しているときに前記内輪要素および前記外輪要素の何れか一方に定められた第1当接部と当接するように前記内輪要素および前記外輪要素の他方により支持される第1球体と、
前記第1球体を前記第1当接部に対して弾性的に押し付ける第1付勢手段と、
前記凸球面を介して互いに対向するように前記内輪要素に設けられる第2球体と、互いに対向するように前記外輪要素の外周に定められた一対の第2当接部と、前記第2球体を前記第2当接部に対して弾性的に押し付ける第2付勢手段とにより構成される運動拘束手段と、
を備えることを特徴とする力伝達装置。
【請求項12】
請求項11に記載の力伝達装置において、
前記第1球体は、前記外輪要素に向けて前記内輪要素から突出するように前記内輪要素の軸心である内輪軸心上に配置され、前記第1当接部は、前記第1球体と係合するように前記外輪要素に設けられる該外輪要素の軸心である外輪軸心を中心とする凹部または孔部であり、
前記一対の第2球体は、前記内輪軸心と直交する軸上に配置され、前記第2当接部は、前記第2球体と係合するように前記外輪要素に設けられる前記外輪軸心と直交する軸を中心とする凹部または孔部であることを特徴とする力伝達装置。
【請求項13】
請求項12に記載の力伝達装置において、
前記外輪要素は、前記凹球面と同心であると共に該凹球面よりも大きい曲率半径をもった第2凹球面を前記当接部の周囲に有することを特徴とする力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−156146(P2011−156146A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20205(P2010−20205)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】