説明

力覚提示装置及び自動二輪シフトシミュレーター

【課題】操作感の異なるパターンを提示しつつ評価データを収集すること。
【解決手段】移動体の操作者の操作姿勢を保持する操作姿勢保持部10と、この操作姿勢保持部10の位置に応じて配置した前記移動体の実機部品を支持する実機部品支持部20と、前記操作姿勢で前記操作者が手又は脚で操作可能な位置に配置される操作部22と、前記操作部22の操作量34を測定するセンサー24と、当該操作量34に応じて予め定められた提示力パターン36での提示力を算出するコントローラー28と、前記提示力に応じて前記操作部22に力覚を提示するアクチュエーター30とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力覚を提示する技術分野に関連し、特に、回転運動の力覚を提示する力覚提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オペレーターが操作するグリップ、レバー、ハンドル、グローブ、医療器具などの操作部に力覚を提示することで、データの入力や、シミュレーションや、仮想空間での仮想的又はコンピュータネットワークを介した接続先での実物の操作部の操作が行われている。
操作部に力覚を提示するには、ユーザの操作による力に対して、操作部の位置や角度に応じて対象物に力を与える。このため、力覚提示装置は、操作部の位置や角度や操作のトルクを測定するセンサー(群)と、このセンサーの測定値に応じて提示する力の強さ及び方向を計算するコントローラーと、このコントローラーの制御に応じて操作部に力を与える駆動部とを備える。駆動部は、駆動機構と、例えばモーター等のアクチュエーターとを有する。
【0003】
ところで、近時、四輪や二輪の移動体では、運転者(操作者)による各種操作部(ハンドル、アクセルペダル、ブレーキレバー、ギアシフトレバー、クラッチレバー等)の操作量や操作速度に応じて様々な電子制御がなされるようになっている。また、オペレーターの操作に関する官能評価(フィーリング)も、より重視されている。
このため、(1)オペレーターがどのような操作をするか、(2)オペレーターの操作に関する感覚はどうか、(3)操作の感覚と実機の部品の諸元との関係はどうか、(4)評価の高い操作の感覚を提示するためにどう設計するか、(5)一定の操作感を提示しつつ部品を合理化することが可能か、等の正確な情報に対するニーズが高まっている。
【0004】
実機の操作部にトルクセンサーや加速度センサーを装備することで、操作者がどのような操作をするかについてのデータを得ることはできる。しかし、操作に対する感覚を評価するには、絶対的な評価ではなく、少なくとも2種類の操作を比較させる評価の方が、正確で精密な測定となる。重量感、音の高低、色味、より情緒的な感覚など、人間の感性は同一条件で比較をすることで、より精度良く測定できる。従って、統計的に官能評価試験を行い、その結果を設計やシミュレーションに用いるには、まず、異なる対象に対する同一条件での比較という検査が求められる。
【0005】
実機の操作部の操作自体や操作感のデータを得るには、実機を操作する際の当該操作部に実機と同様の力(荷重やトルク等の提示力)が与えられていなければ、正確な操作がなされない。この荷重は、操作部の位置(及び速度)に応じて変化する。例えば、ブレーキであれば、握り始めという操作部の位置では軽く、より強くブレーキをかける際には重くなる、というパターンを持つ。この点、実機を用いれば、操作部に正確なパターンを与えることができる。しかし、官能評価試験のためには異なる対象の比較が必要であり、実機で操作感を比較するには、2種類の実機を用意するか、部品を取り替える時間の待機が必要となる。すると、操作の感覚が残っている状態での比較試験を行うことが極めて難しい。音や色の刺激との比喩では、刺激提示の後、時間をおいてしまうか、不必要な他の刺激にさらされてしまった後に、比較対象の刺激提示をすることとなってしまう。
【0006】
特許文献1及び2には、仮想物体に応じた力覚を操作グリップに提示しつつ三次元データの入力を促す手法が開示されている。この手法では、データの切り替えにより仮想物体を切り替えて、異なる仮想物体に応じてオペレーターがどのような操作をするかについてのデータを得ることができる。しかし、これらの文献に開示される操作部は、主にペン型のグリップであり、そのまま実機に応じたモデルに適用することができない。
特許文献3には、ギアシフトペダルの操作感覚を実車におけるギアシフト・フィーリングに近づけるように工夫されているが、構成部品を交換しなければギアシフトの操作感のパターンを変更することはできないため、操作感を比較する測定には適さない。
【0007】
【特許文献1】特許第3534147号公報
【特許文献2】特開2000-246680号公報
【特許文献3】特開2006-347289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
移動体等の操作部の操作がどのようになされるかについて、実機を用いてデータ収集をしようとする場合、次の点が課題となる。
1. 現に存在するパターンの提示しかできず、構成部品の様々な組み合わせによるパターンのパラメーターを設定することが困難である。
2. 構成部品の組替え作業に時間がかかるため、官能評価試験の精度が低下し、かつ、試験に時間を要する。
3. 同一条件(日時や乗車姿勢など)での官能評価試験の実施が難しい。
【0009】
また、従来の力覚提示装置は、移動体等の実機の操作部に適用することが想定されていない。
[課題1]このように、上記従来例では、移動体の操作部がどのように操作されるのか、実機や仮想的な操作感のパターンを提示しつつ測定することができない、という不都合があった。
[課題2]また、操作部に異なるパターンを与えて、操作の感覚(フィーリング)の比較試験(例えば、同一条件でのSD法や一対比較法)を精度良く実施することができない、という不都合があった。
[課題3]上記より、移動体の操作部に対する操作感を定量化し、設計や、パネリスト(例えばテストライダー)の評価のばらつき低減や、マーケティングに活用することができない、という不都合があった。
【0010】
[発明の目的]本発明の目的は、操作感の異なるパターンを提示しつつ操作入力データや操作感の評価データを収集することのできる力覚提示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[着眼点]本発明の発明者は、力覚提示装置を精度良く動作させる技術的知見から、移動体の操作部のパターンを力覚提示装置で提示できる、という点に着目した。そして、特に、力覚提示により操作感のパターンを変化させることで、同一条件での操作入力データの収集や、極めて精度の高い官能評価試験が可能ではないか、との着想に至った。
【0012】
[課題解決手段1]実施例1に対応する第1群の本発明は、移動体の操作者の操作姿勢を保持する操作姿勢保持部と、この操作姿勢保持部を支持すると共に、当該操作姿勢保持部の位置に応じて配置した前記移動体の実機部品を支持する実機部品支持部と、前記操作姿勢で前記操作者が手又は脚で操作可能な位置に配置される操作部と、前記操作部の操作量34を測定するセンサーと、当該操作量に応じて予め定められた提示力パターンでの提示力を算出するコントローラーと、前記提示力に応じて前記操作部に力覚を提示するアクチュエーターとを備えた、という構成を採っている。
これにより、上記技術的課題1,2及び3を解決した。
提示力は、操作者から操作部に与えられる力に抗する力で、操作部の操作位置(や速度)に応じて変化する。この変化が提示力パターンである。そして、提示力は力[N]又はトルク[N・m]であり、提示力がトルクである場合(例えば実施例2)には、提示力パターンをトルクパターンともいう。
【0013】
[課題解決手段2] 実施例2に対応する第2群の本発明は、基盤と、二輪車用のシート及びハンドルを支持する前記基盤に装着された実機部品支持部と、モーターを支持する前記基盤に装備されたハウジングと、このハウジング内に装着され、モーターシャフトを有し、所定の制御トルク信号に応じたトルクを当該モーターシャフトに与えるモーターと、前記モーターシャフトに取り付けられ当該モーターシャフトに与えられる外部からの操作トルクを測定するトルクセンサーと、前記トルクセンサーに取り付けられ前記モーターシャフトを回転軸として回転する前記二輪車のシフトレバーと、このシフトレバーの回転角を測定するエンコーダーとを備えている。
さらに、課題可決手段2は、前記操作トルクと、前記回転角と、予め定められたトルクパターンとに応じて前記シフトレバーへの前記トルク(制御トルクu)を算出して、当該制御トルク信号を前記モーターに伝達することで、当該シフトレバーに力覚を提示制御するコントローラーを備えた、という構成を採っている。
これにより、上記技術的課題1、2及び3を解決した。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、本明細書の記載及び図面を考慮して各請求項記載の用語の意義を解釈し、各請求項に係る発明を認定すると、各請求項に係る発明は、上記背景技術等との関連において次の有利な効果を奏する。
【0015】
[発明の作用効果1] 課題解決手段1の実機部品支持部が実機部品を支持し、操作姿勢保持部が操作者の操作姿勢を保持する。そして、センサーが、操作部への操作量を測定し、コントローラーは、この操作量に応じて予め定められた提示力パターンでの提示力を算出する。そして、アクチュエーターが、前記操作部に、算出した提示力に応じた力覚を提示する。例えば、アクチュエーターは算出された提示力を目標値としてこの目標値に追従するように力覚を提示する。このため、操作者には、操作部を操作すると、実機と同種で種々の提示力パターンのうちの一つの力覚が提示され、操作部の操作量の限界や、操作感覚などを感じ取ることができる。そして、力覚を提示しつつ、センサーが操作量を測定しているため、この力覚提示に応じた操作量の変化(操作のパターン)を記録し、また、官能評価試験のために操作者の評価等を得ることもできる。
【0016】
[発明の作用効果2] 課題解決手段2では、シフトレバーの回転軸をモーターで駆動することによって、シフトレバーに任意のギアシフト操作の提示力パターンを提示する。従って、ギアシフトの機構の入れ替えをせずに、提示力パターンを変化させることで、異なる機構による操作感を短時間で切り替えて提示することができる。このため、一対比較等を用いた官能評価試験を短時間で安定して行うことができる。そして、シフトレバーをモーターの回転軸に直結しているため、フィーリングの違和感を発生させずに官能評価試験を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
発明を実施するための最良の形態として、2つの実施例を開示する。実施例1は力覚提示装置であり、実施例2は図6等に示す自動二輪シフトシミュレーターである。実施例1及び2を含めて実施形態という。
【実施例1】
【0018】
<1. 回転運動の力覚提示>
<1.1 シート位置と操作部の配置関係>
まず、本実施形態の実施例1を開示する。
図1を参照すると、力覚提示装置は、操作姿勢保持部10と、実機部品支持部20と、操作部22と、センサー24と、コントローラー28と、アクチュエーター30とを備えている。
操作姿勢保持部10は、移動体の操作者の操作姿勢を保持する。図1に示す例では、操作姿勢保持部10は、自動二輪のシート12と、ハンドル14とを備えている。自動二輪では、シート12とハンドル14とで、操車者(ライダー)の操作姿勢を保持する。本実施形態では、操作姿勢保持部10として、実機部品を使用することができる。
【0019】
実機部品支持部20は、操作姿勢保持部10を支持すると共に、当該操作姿勢保持部10の位置に応じて配置した前記移動体の実機部品を支持する。図1に示す例では、実機部品は、例えば、シート12や、ハンドル14の他、フレーム16や、燃料タンク18や、ミラー、メーター、ライト等である。実機部品支持部20は、基盤8上に配備され、前輪側と後輪側のフレーム16を支持する。後輪側では、実機にてリヤサスペンションが取り付けられる左右一対のリアサス穴17を支持に用いると、実機部品をバランス良く支持することができる。また、実機部品支持部20の長手方向の長さ(図中上下方向)を調整することで、操作姿勢を実機での高さと同一とすることができる。例えば、図1等に示す例では、実機部品支持部20の長さを、リヤサスペンション等の沈み込みを勘案した高さとした。また、基盤8の下面に複数のキャスター31を装着することで、力覚提示装置全体を容易に移動可能とすることができる。
【0020】
操作部22は、操作者により操作される対象であると共に、力覚を提示する対象である。操作部22は、前記操作者が前記操作姿勢で手又は脚で操作可能な位置に配置される。操作部22は、図3に示す例では、自動二輪のシフトレバー62であり、図4に示す例では電動車のアクセルレバー23である。その他、操作部22を、移動体の運転を操作するためのハンドル、アクセルペダル、アクセルレバー、ブレーキレバー、ギアシフトレバー、クラッチレバー、MTシフトレバー等としても良い。
【0021】
センサー24は、前記操作部22の操作量34を測定する。操作部22が回転動作するシフトレバー62やアクセルレバー23等である場合には、センサー24は、操作荷重を測定するトルクセンサー60と、回転角度を測定するエンコーダー66とを備えると良い(図9,図11)。MTシフトレバー等の場合には、センサー24は、回転中心点からの三次元の操作量34を測定する。センサー24は、測定した操作量34をコントローラー28に送信する。この操作量34の時間変化は、当該力覚を提示しつつ操作者が操作した操作入力データ35となる。操作入力データ35は、例えば、操作部22の回転角θ、回転角θの時間変化(θの時間微分)、操作トルクτなどの時系列のデータである。
【0022】
コントローラー28は、当該操作量34に応じて予め定められた提示力パターン36での提示力を算出する。そして、アクチュエーター30は、この提示力に応じて前記操作部22に力覚を提示する。提示力パターン36は、提示する力覚毎に予め作成し、記憶部29に格納する。提示力は力又はトルクとすると良い。コントローラー28は、提示する力覚に応じた提示力パターン36を読み出し、この提示力パターン36と操作量とに応じた提示力を算出し、提示力信号38をアクチュエーター30に送信する。
【0023】
操作部22がシフトレバー62等の単一の回転軸44での回転操作による場合には、アクチュエーター30をモーター42とすることができる。この場合、モーター42の種類に応じて、コントローラー28は、モーター42の駆動電流や、駆動パルスを提示力信号38(実施例2では、制御トルクu)として、送信する。
【0024】
このように、本実施例での力覚提示装置は、提示力パターン36を切り替えると、他の実機部品等を変更することなく、異なる力覚を提示することができる。すると、操作姿勢を保ちつつ2つの操作感を比較する一対比較法を適用することが可能となり、官能評価試験等の精度と信頼性とを格段に向上させることができる。
【0025】
図2に示すように、モーター42等のアクチュエーター30は、ハウジング32に装備させるとよい。ハウジング32は、シフトレバー62等の操作部22と、モーター42等のアクチュエーター30を実機部品と干渉させずに支持する。また、シフトペダルの高さを調整するために、ハウジング台33を備えている。
【0026】
図3に示すように、ハウジング32を説明のために取り除くと、モーター42は、実機部品であるフットレスト63及び脚台プレート64の位置に応じて配置されている。モーター42は、モーターシャフト40を有し、センサー24と、操作部22であるシフトレバー62(操作部22)とが取り付けられている。脚台プレート64の一部には、モーターシャフト40と干渉しないように、切り欠き65を設けている。
【0027】
図4及び図5に示すように、力覚提示装置として、電動車を用いることもできる。電動車は、操作者(運転者)が操作部22であるアクセルレバー23を押し下げると進み、放すと電磁ブレーキがかかる。ここでは、このアクセルレバー23の操作感を提示するために、モーター42をアクセルレバー23の回転軸44に配置して、力覚を提示する。図4及び5に示す例では、実機部品支持部20についても実機部品を使用しているが、力覚提示の目的に応じて、車輪を外して基盤8に装備し、図1等に示すパイプ型の実機部品支持部20を採用するようにしても良い。
【0028】
図1から図5に示す例では、操作部22に力覚を提示しつつ、操作量34をデータとして記憶部29に格納すると、様々な局面に応じて操作者がどのように操作部22を操作するのかの操作入力データ35を記録することができる。また、力覚を提示しつつ操作を促し、その操作感の評価を手書きの評価シート等に記入してもらうことで、官能評価試験を行うことができる。
【0029】
・1.1 シート位置と操作部の配置関係の効果
上述のように、本実施例では、操作部22を、操作姿勢で前記操作者が手又は脚で操作可能な位置に配置し、操作姿勢保持部10が、移動体の操作者の操作姿勢を保持しつつ、アクチュエーター30が、操作量34に応じて予め定められた提示力パターン36に応じて当該操作部22に力覚を提示する。
従って、提示力パターン36のデータを切り替えることで、複数種類の力覚を同一の操作姿勢のまま提示することができる。これにより、乗り降りや、部品交換時間の待機を要することなく、複数種類の操作感を提示することができる。このため、操作感の評価を評価シート等へ手書記入してもらうことで、一対比較法等の統計的手法により官能評価試験をすることができる。また、提示力パターン36に応じて力覚を提示した状態での操作量34を測定するため、この操作入力データ35を記録することで、提示する力覚に応じた実際の操作量34を定量的に取り扱うことが可能となる。そして、この操作入力データ35についても、同一の操作姿勢で待機時間なく操作を行うことができるため、異なる力覚を提示した際の操作入力データ35の比較を精度良く測定することができる。
【0030】
<1.2 モーターシャフト直結>
再度図2から図5を参照すると、好適な実施例では、モーターシャフト40を、操作部22の回転軸44に直結する。すなわち、この例では、前記操作部22が、前記手又は脚で回転操作される回転軸44を有する。そして、アクチュエーター30が、モーター42を備えている。さらに、モーター42の前記モーターシャフト40に、前記操作部22の前記回転軸44を直結する。
【0031】
回転軸44は、図2及び図3に示す例では、自動二輪のシフトレバー62の回転軸44であり、図4及び図5に示す例では、電動車のアクセルレバー23の回転軸44である。
【0032】
・1.2 モーターシャフト直結の効果
操作部22の回転軸44をモーターシャフト40に直結すると、モーター42と操作部22との間に伝達系を介在させる必要がなくなり、機構が簡易となる他、力覚の提示に際して余分な質量及び慣性モーメントの影響が発生せず、力覚提示を正確に行うことができる。
【0033】
<1.3 シート位置と表示操作部の配置関係>
再度図1及び図4を参照すると、好適な実施例では、操作姿勢で目視可能で入力操作可能な位置に、表示操作部48を配置する。そして、この表示操作部48が、前記提示力パターン36に応じて官能評価試験の試験項目を表示すると共に、前記操作者によって入力される評価データ50を前記コントローラー28に送信する。
【0034】
表示操作部48は、例えば、タッチパネルとして、ボタン等のGUI(グラフィカル・ユーザ・インタフェース)の表示データ52を表示し、操作者(ライダー、ドライバー)の操作を受け付けると良い。すると、表示制御する表示データ52の内容を変更させることで、複数の提示力パターン36のうちの一つの選択や、順次の選択を促す時系列の制御が可能となる。また、評価データ50についても、評価シート等への手書きを要せず、表示操作部48への入力により、力覚提示した提示力パターン36を特定した評価データ50として記録することができる。
【0035】
特に、図1及び図4に示すように、表示操作部48を、移動体のハンドル14のほぼ中心でサイドミラーより低い高さに配置したため、操作者が通常の操作姿勢にて目視でき、操作姿勢を変更せずに操作することができる。このため、操作部22に力覚提示をして操作を促しつつ、その操作の感覚を最大限残したまま、提示力パターン36の選択操作や、評価データ50の入力操作をすることができる。
【0036】
・1.3 シート位置と表示操作部の配置関係の効果
上述したように、表示操作部48を操作姿勢のまま入力可能な位置に配置したため、操作姿勢を変更せずに評価データ50の入力をすることができる。従って、力覚提示する操作部22への操作感を残したまま、提示力パターン36を変化させる評価の精度を高めることができる。例えば、提示中の提示力パターン36の番号等を表示操作部48に表示し、操作者の操作により任意に切り替えることができるようにすると、提示している力覚の比較をより確実に行うことができるようになり、すると、二種類の提示力パターン36を順次提示して比較させる一対比較法による官能評価試験の精度を格段に向上させ、安定させることができる。
【0037】
<1.4 スピーカーの配置>
再度図1及び図4を参照すると、好適な実施例では、前記操作部22の操作による前記移動体の音源箇所の近傍に、スピーカー54を配置し、前記コントローラー28が、前記操作量34及び前記提示力パターン36に応じて予め定められた音信号56を前記スピーカー54に出力する。
【0038】
図1に示す自動二輪では、シフトレバー62である操作部22とアクチュエーター30の近傍にスピーカー54を配置している。そして、シフトレバー62の操作によって機械音が発生する音源は、図示しないギアシフト機構であり、スピーカー54は、操作者の聴覚を起点としてこのギアシフト機構の方向上に配置すると良い。
そして、コントローラー28は、ギアシフト機構が機械音を発するタイミングを提示力パターン36と関連させ、操作量34に応じて音信号56をスピーカー54に出力する。例えば、ギアシフト機構で変速が完了するデフのかみ合い音を出力する場合、提示力パターン36での変速完了時点と、操作部22(シフトレバー62)の回転角θ等の操作量34とが一致した際に、当該音信号56を出力する。音信号56は、提示力パターン36がモデル化した実機に応じて予め録音しておいても良いし、複数の録音データを合成させることで作成しても良い。
【0039】
図4及び図5に示す電動車では、アクセルレバー23の操作に応じて電動車のモーター音が変化する。コントローラー28は、アクセルレバー23の操作量34に応じて、電動車両のモーター音に相当する音信号56をスピーカー54に出力すると良い。この場合、コントローラー28は、音信号56の出力制御に際して、アクセルレバー23の回転軸44での回転角θのみならず、アクセルレバー23に加えられる操作荷重も使用すると良い。この場合、アクセルレバー23を離し、電磁ブレーキがかかる状態の音を回転角θに依存せずに出力制御することができる。
【0040】
・1.4 スピーカーの配置の効果
上述のように、提示力パターン36に応じた操作量34に音出力を同期させることで、実機の操作感をより高めることができる。そして、実機の音源近くにスピーカー54を配置することで、モーターシャフト40を操作部22の回転軸44に直結させ、操作部22の機構を実機とは異なる構成としても、実機操作の再現性を高めることができる。これにより、官能評価試験の条件を実機と同様とし、操作入力データ35の信頼性をより高めることができる。
【0041】
<1.5 適用実機[手操作、脚操作]>
本実施例は、力覚提示する操作部22の例として、脚で操作する自動二輪のシフトレバー62(図3)や、手で操作する電動車(図5)を開示した。上述のように、本実施例は、回転動作をする操作部22であれば、単一のモーター42による力覚提示を行いやすい。このため、本実施例を適用可能な実機は数多くある。
【0042】
脚操作するものとしては、自動二輪では、シフトペダルや、ブレーキ・ペダルがある。ブレーキ・ペダルの操作感や操作入力データ35を測定できると、アンチロックブレーキの制御の開発や、デュアル・コンバインド・ブレーキシステムの開発に有用な情報を得ることができる。
【0043】
四輪車では、脚操作するものとして、アクセルペダル、ブレーキ・ペダル、パーキング・ブレーキ・ペダルなどがある。アクセルペダルの操作入力データ35を測定できると、オートマティック・トランスミッションの開発や、主なドライバー層の相違に応じたアクセルペダルの重みの設計などに有用な情報を得ることができる。さらに、力覚を提示しつつアクセルペダルの操作入力データ35を測定できると、燃料の使用量の少ない操作を学習するためのシミュレーション装置等の開発をすることができる。
ブレーキ・ペダルについても、自動二輪と同様に、様々な開発に有用な情報を得ることができる。
マニュアル・トランスミッションのクラッチ・ペダルに力覚を提示し、操作入力データ35を得ることができれば、クラッチ・ペダルの操作感の官能評価試験を行うことができる。また、様々な局面に応じたクラッチ・ペダルの操作入力データ35は、半クラッチが作動する状況等の設計に役立てることができる。
パーキング・ブレーキの操作入力データ35は、例えば、ドライバー層の相違に応じた操作量34の相違を定量化するために、「全力で」「急いで」等の用語に応じた操作を促し、その操作入力データ35を操作者の筋力や反応速度等により定量的に分類することができる。
【0044】
手操作するものとして、自動二輪では、ハンドルや、ブレーキレバーがある。ブレーキレバーの操作入力データ35の有用性は、ブレーキレバーの場合と同様である。
また、四輪で手操作するものとして、ハンドル、パーキング・ブレーキ、シフトノブなどがある。さらに、全地形対応車(ATV)や船外機のギアシフトの官能評価試験に適用することができる。
さらに、ギアシフトチェンジを機械的に行わないシフト機構(シフト・バイ・ワイヤーなど)のギアシフト操作の提示力パターン36を任意に設定できる装置として応用が可能である。
【0045】
・1.5適用実機[手操作、脚操作]の効果
・回転動作する移動体の操作部22をモーターにより力覚提示するため、任意の操作感(提示力パターン36)を提示することができ、提示力パターン36を変更することで同一の条件で異なる操作感を提示することができる。このため、移動体の手操作又は脚操作の制御により、シフトペダルに任意のシフト操作荷重を提示できる。
・ギアチェンジ感覚を瞬時に切り替えられるため、同一条件での一対比較が可能となる。
【実施例2】
【0046】
<2. シフトシミュレーター>
次に、実施例2を開示する。実施例2では、自動二輪のギアシフトのフィーリング(操作感)を定量化するための自動二輪シフトシミュレーターを開示する。
自動二輪のギアシフト・フィーリングを定量化するための方策として、重さや節度感など、ギアシフトのフィーリングを表す評価語の評点を収集して、重回帰式等を作成することが考えられる。このフィーリング評価語の重回帰式を作成するためには、複数の操作者(パネリスト)が、複数の提示力パターン36のギアシフトをそれぞれ操作してフィーリング評価語に評点を与えることで官能評価試験を行い、この評点を統計的手法によりデータ処理しなければならない。
以下、実施例2では、自動二輪のシフトレバーという回転のみの操作部22を対象とするため、提示力をトルクといい、提示力パターン36をトルクパターン37という。
このように、重回帰式を作成するためにはギアシフト・フィーリング官能評価試験を行う必要がある。しかし、実際の車両を用いて官能評価試験を行う場合、以下のような不便さが課題となる。
【0047】
1.任意のトルクパターン37を作成し提示することができない。
ミッション構成部品の組み合わせによるギアシフト操作のトルクパターン37の設定は困難である。ギアシフトカムプレート、ストッパスプリング、リターンスプリング等のミッション構成部品の諸元を変更するとトルクパターン37に影響する物理パラメーターが変化するが、それらは一対一に対応していない。このため、ミッション構成部品の諸元の組み合わせによってトルクパターン37を任意の値変化に設定することは非常に困難である。
【0048】
2.官能評価試験の所要時間が増大し評価精度が低下する。
ミッション構成部品を組替えようとしても、その作業に時間がかかるため、官能評価試験に時間がかかってしまう。すなわち、官能評価試験時には多数のギアシフト操作のトルクパターン37について評価を行う必要があるが、ギアシフト操作のトルクパターン37を変更するためにはミッション構成部品の組替える必要がある。ミッション構成部品の組替え作業にはかなりの時間を要するため、結果的に官能評価試験の所要時間が長くなってしまう。
【0049】
3.官能評価試験に際して同一条件を精度良く再現することができない。
構成部品の組み替えによる場合、同一条件(日時や乗車姿勢など)でギアシフト操作のトルクパターン37を判定することができない。すなわち、一台の車両で官能評価試験を行う場合、ミッション構成部品の組替えによって判定を行う日時が異なることや、組付け誤差の影響により、同じ条件でギアシフト操作のトルクパターン37を判定することはできない。車両を二台以上用意できる場合でも、乗車姿勢が同一でないことや、ミッション構成部品以外の車両間差の影響が問題となる。また、一対比較試験の場合には、乗降を行う際に直前の操作フィーリングが薄れてしまうといった問題もある。
【0050】
この実施例2では、実際の車両を使用する官能評価試験の上記不都合を改善するため、モーター42を用いた力覚提示の応用を提案する。図6に示す例はスタンダードタイプの自動二輪車のシフトシミュレーターであり、図7に示す例はクルーザー(アメリカン)タイプの自動二輪車のシフトシミュレーターである。本実施例2による自動二輪シフトシミュレーターは、図6及び図7に示すように、基盤8と、二輪車用のシート12及びハンドル14等を支持する前記基盤8に装着された実機部品支持部20と、モーター42を支持する前記基盤8に装備されたハウジング32とを備えている。
そして、自動二輪シフトシミュレーターは、ハウジング32内に装着され、モーターシャフト40を有し、所定の制御トルク信号39に応じたトルクを当該モーターシャフト40に与えるモーター42と、制御トルク信号39をモーター42に出力するコントローラー28とを備えている。コントローラー28は、前記操作トルクτと、前記回転角θと、予め定められたトルクパターン37とに応じて前記シフトレバー62への制御トルクを算出して、当該制御トルク信号39を前記モーター42に伝達することで、当該シフトレバー62に力覚を提示制御する。
【0051】
また、図6及び図7に示す例では、シート12、ハンドル14、燃料タンク18、シフトレバー62、フットレスト63等は実車と同等の部品を使用可能とし、必要に応じて実機補強部21により補強しつつ、実機部品支持部20で支持している。また、シート12の高さは設計上の1名乗車時の高さとなるように設定した。これらによって、実車との差異が軽減される。そして、官能評価試験を様々な場所で行えるように、キャスター31を取り付けて容易に移動できるようにした。
【0052】
実施例2では、モーター42が、制御トルク信号39に応じたトルクをモーターシャフト40に与えるため、予め定められたトルクパターン37に応じた制御トルクをシフトレバー62(操作部22)に提示することができ、これにより、構成部品と同様な操作感を提示することができる。しかも、制御トルク信号39のパターンを変化させることで、構成部品を変化させることなく、異なる機種や仮想的な機種の操作感を切り替えながら提示することができる。このため、シフトレバー62の操作感を対象とする官能評価試験に際して、精度の高い一対比較法を適用することができる。
【0053】
また、実施例1と同様に、図6及び図7に示すように、通常の乗車姿勢にて操作可能な位置に表示操作部48を設置しても良い。表示操作部48は、操作感(トルクパターン37)の選択操作を受け付けて、官能評価試験での評価値の入力や、提示中のトルクパターン37の番号等の表示をする。通常の乗車姿勢で操作可能な位置に表示操作部48を配置することで、同一条件化での一対比較官能評価試験(2種類のギアシフト操作のトルクパターン37を比較して、各シフトフィーリング評価語について感じ方の違いを判定する等)が可能となる。
【0054】
<2.1 シフトレバー回転軸直結>
図8を参照すると、自動二輪シフトシミュレーターは、ハウジング32内に装備されモーターシャフト40を回転させるモーター42と、モーターシャフト40に取り付けられ当該モーターシャフト40に与えられる外部からの操作トルクτを測定するトルクセンサー60とを備えている。トルクセンサー60の測定値は出力端子61を介してコントローラー28に送信される。また、シフトレバー62には、シフトレバー62の回転角θを測定するエンコーダー66を装着する(図9)。そして、シフトレバー62は、モーターシャフト40に取り付けられ前記モーターシャフト40を回転軸44として回転する。シフトレバー62の回転軸44は、モーター42及びモーターシャフト40の回転軸44である。
【0055】
図9に示すように、実施例2では、シフトレバー62の回転軸44部分をDDモーター42のモーターシャフト40の外側部40Aに直結する。このシャフト部40Aの他端にモーターシャフト40の軸への操作トルクτを測定するトルクセンサー60を挿入する。トルクセンサー60は測定した操作トルクτを出力する出力端子61を有している。DDモーター42は、ステーター84と、ステーター84に対して回転するローター82とを備えており、ローター82はモーターシャフト40の内側部40Bと一体として回転する。
【0056】
このモーターシャフト40の外側部40Aと内側部40Bとはベアリング80で回動可能に支持されており、シフトレバー62、外側部40A、トルクセンサー60、内側部40B及びローター82が一体として回転する。トルクセンサー60は、回転した状態を基準としてその回転角θでの操作トルクτを測定する。さらに、シフトレバー62を直結する反対側のモーターシャフト40端にはシャフトの回転角θを測定するエンコーダー66を取り付ける。この取り付けのために、カップリング86を用いると良い。
そして、DDモーター42はサーボドライバ74(図11)によって駆動される。サーボドライバ74はDDモーター42のステーター84に流れる電流を外部から入力される指令値(制御トルクu)に追従させることによって、DDモーター42の出力を制御する。
【0057】
また、モーターシャフト40の内側部40Bにはねじ穴があり、シフトレバー62とネジ41により接合している。内側部40Bに方向を定める切り欠き部を設け、複数種類のシフトレバー62にも対応する突起部を設定すると、このネジ41によるネジ止めのみでシフトレバー62を取り替えることができる。
【0058】
・2.1 シフトレバー回転軸直結の効果
上述のように、シフトレバー62の回転軸44をDDモーター42で駆動することによって、シフトレバー62に任意のギアシフト操作のトルクパターン37を提示することができる。これにより、ギアシフトの機構の入れ替えをせずに、トルクパターン37を変化させることで、異なる機構による操作感を短時間で切り替えて提示することができる。すなわち、ギアシフト操作のトルクパターン37を外部から瞬時に変更できるようにすることで、同一条件化での一対比較法による官能評価試験を安定して短時間に行うことができる。
【0059】
また、シフトレバー62の回転軸44とモーター42の回転軸44が一致しない場合には、ギアや歯付きベルト等を用いてモーター44の出力トルクをシフトレバー62の回転軸44に伝達しなければならなくなる。そして、トルク伝達の際にはバックラッシが発生するため、操作者が体感するギアシフト操作荷重にバックラッシの影響が含まれることになってしまう。このように、回転軸44を一致させない場合には、機構が複雑になり、さらに、ギアシフト・フィーリングに違和感が発生する可能性が大きくなり、官能評価試験の精度に悪影響をもたらす。この点、本実施例2ではシフトレバー62の回転軸44とモーター42の回転軸44とを一致させているため、フィーリングの違和感を発生させない。
【0060】
<2.2実機操作の再現性>
再度図6、図7を参照すると、実施例2によるギアシフト・フィーリングの官能評価試験では、次のような操作を再現することができる。
1.ギアシフト操作音を提示する場合
実車ではギアシフトチェンジ時に、ギアのドッグが噛合う音が発生する。DDモーター42ではこのような音は発生しないため、ギアシフトチェンジの角度に合わせて実車に相当する音をスピーカー54から発生させることで、操作感の力覚のみならず、聴覚への刺激を制御することができ、官能評価試験時の音による影響が軽減される。
再度図6を参照すると、スピーカー54は、モーター42の近傍に配置すると良い。コントローラー28は、操作量34(例えば回転角θ)とトルクパターン37とに応じた音信号56をスピーカー54に出力する。図6に示す例では2つのスピーカー54を配備し、図7に示す例では1つのスピーカー54を配備している。
【0061】
2.ギアシフトショックを提示する場合
実車ではギアシフトチェンジ時に、クラッチ板の連結に伴う車体振動が発生する。シミュレーターを振動させるための振動発生部70を取り付け、ギアシフトチェンジの角度に合わせて振動発生部70を動作させることによってギアシフトショックを模擬することができる。
この例では、自動二輪シフトシミュレーターは、所定の振動発生信号68に応じて前記シート12及びハンドル14を振動させる振動発生部70を備えている。そして、前記コントローラー28が、前記操作量34と前記トルクパターン37とに応じた振動発生信号68を前記振動発生部70に送信する。これにより、操作量34(例えばモーターシャフト40の回転角θ)に応じて実機を模した振動を提示することができる。
【0062】
図6及び図7に示す例では、シート12側(後輪側)の実機部品支持部20に振動発生部70を装着することで、操作者(ライダー)に良好な振動を提示することができる。さらに、図6に示す例では、実機部品支持部20が、実機にてリヤサスペンションが取り付けられる左右一対のリアサス穴17にて実機部品を支持するため、振動発生部70にて発生した振動を実機部品の全体に実機と同様に伝達することができる。
【0063】
3.スロットル開度やクラッチの切れを考慮する場合
走行状態では、ミッション構成部品の諸元に加え、スロットル開度やクラッチの切れによっての物理パラメーターが変化する。本実施例での自動二輪シフトシミュレーターでこれらを考慮するには、スロットルグリップ98(もしくはスロットルワイヤー)およびクラッチレバー100(もしくはクラッチケーブル)にポテンショメーター96A,96B等のセンサー24を取り付けて(図11)、スロットル開度やクラッチの切れを測定し、これらの情報を制御トルクの計算に用いても良い。
【0064】
・2.2 実機操作の再現性
上述のように、スピーカー54を配置してシフトレバー62及びモーターシャフト40の回転角θに応じた操作音を提示することで、官能評価試験にて提示する選択肢が増加し、より広範囲な評価をすることができる。また、振動発生部70を用いる例では、クラッチ板の連結に伴う車体振動などを提示することで、DDモーター42による力覚を用いつつ、より実機に近い操作感を提示することができる。
【0065】
<2.3 制御とその結果>
トルクパターン37は、シフトレバー62等の操作部22の操作量34の関数である。操作部22には機械的な抵抗力とバネ等による反発力が生じる。操作部22は、例えば、操作完了となる直前の抵抗感を操作者に与え、また、バネの復元力により原点への復帰する。その操作部22が操作者に提示する力の大きさを操作量34に応じて調整する設計が試みられている。操作部22のトルクパターン37は、この操作部22の位置及び状態に応じた操作部22から操作者に提示されるトルク [N・m] であり、実機のトルクパターン37を測定しても良いし、複数の実機の測定値から仮想的なトルクパターン37を人工的に定義しても良い。
【0066】
また、操作部22がシフトレバー62のように回転動作をする場合、トルクパターン37はその回転角θの関数となる。図10を参照すると、トルクパターン37は、横軸をシフトレバー62の回転角θ[deg]、縦軸をシフトレバー62の操作トルクτ[N・m]とするトルク・角度線図である。各期間及び各時点の名称を次のように定義する。
q1: がた期間
q2: 変速前遊び期間
q3: 変速期間
q4: 変速後遊び期間
q5: 原点復帰期間
t1:リターンスプリング取付トルク点
t2: 変速開始点
t3: 変速完了点
t4:回転端
P0: 初期トルク
Pmax: ピークトルク
Pmin: 極小トルク
a: ピーク位相
【0067】
シフトアップ/シフトダウン時(変速操作時)のトルクパターン37Aにて、変速期間q3は、カムが作動する期間で、変速完了点t3に到達しなければ変速操作を中止することが可能である。回転端t4に到達してもリンク等の弾性変形により、シャフトは余分に回転する。シフトの戻り時(原点復帰時)のトルクパターン37Bを点線で示す。
【0068】
トルク・角度線図の縦軸は操作トルクτ [N・m] であるため、シフトレバー62の回転軸44から操作部分62A,62B(図3,図8)までの長さに依存する。従って、シフトレバー62の種類毎にトルク・角度線図を準備する。また、トルク・角度線図の縦軸を荷重 [N]とし、シフトレバー62の長さを別途管理しつつ制御トルクuの算出にて荷重をトルクに変換するようにしても良い。
【0069】
図11を参照すると、コントローラー28は、トルクセンサー60からの操作トルクτをデジタルデータに変換するA/Dボード94Aと、エンコーダー66からの信号をカウントしてシフトレバー62の回転角θを測定するカウンタボード92とを備えている。また、コントローラー28は、前記操作トルクτと、前記回転角θと、予め定められたトルクパターン37とに応じて前記シフトレバー62への制御トルクを算出して、当該制御トルク信号39(制御トルクu)を前記モーター42に伝達することで、当該シフトレバー62に力覚を提示するための制御をする。
図11に示す例では、制御ソフトウエア90が、シフトレバー62への制御トルクを算出し、D/Aボード95Aを介してサーボドライバ74に制御トルク信号39(制御トルクu)を送信し、サーボドライバ74はこの制御トルク信号39(制御トルクu)に応じてDDモーター42を駆動する。
【0070】
制御ソフトウエア90には、記憶部29が併設されている。この記憶部29には、複数種類のトルクパターン37や、制御トルク信号39を算出するための算式データや、制御ソフトウエア90用のプログラムデータや、必要に応じて、音信号56や、振動発生信号68を生成するための振動パターンを予め記憶する。
【0071】
振動発生部70を備える例では、制御ソフトウエア90がD/Aボード95Bを介して振動発生部70に振動発生信号68を伝達する。制御トルクuの算出に際して、スロットル開度やクラッチの切れ具合等の情報を用いる際には、スロットルグリップ98とクラッチレバー100との操作状態をポテンショメーター96A,96Bで測定し、A/Dボード94B,94Cを介して測定値を制御ソフトウエア90に取り込む。
【0072】
コントローラー28は、モーターシャフト40の操作トルクτやモーターシャフト40の回転角θなどの情報に基づいて、サーボドライバ74への指令となる制御トルクuの計算を行う。この制御トルクuは、DDモーターの制御トルクuとなる。制御トルクuは、インピーダンス制御を実現するためのトルクで、DDモーター42のローター82およびモーターシャフト40の慣性を補償するためのトルクや、ギアシフト操作荷重を提示するためのトルクなどで構成される。ギアシフト操作のトルクパターン37は外部からの信号によって瞬時に変更できるようにする。サーボドライバ74はDDモーター42のステーター84に流れる電流を外部から入力される制御トルクuに追従させることによって、DDモーター42の出力トルクを連続的にリアルタイム制御する。
【0073】
制御トルクuは、実際のモーターの動特性を表す式(1)と、目標の動特性を表す式(2)とから、次式(3)により求めることができる。
【0074】
【数1】

【0075】
θ: ローター回転角(操作量の回転角θと同じ)
J: ローターの慣性モーメント
D: 粘性抵抗係数
τ: 外部から加えられるトルク(操作トルクτ)
u: 制御トルク(制御トルク信号39)
Jd: 目標の慣性モーメント
Dd: 目標の粘性抵抗係数
Kd(θ): シミュレーターで提示するトルク・角度特性(トルクパターン37に対応)
【0076】
・実車の諸元を参考にして設定するパラメーター
目標の慣性モーメントJd、目標の粘性抵抗係数Ddは、実車の諸元を参考として予め設定する。これらは任意の値に設定することができるが、実車のギアシフト機構のシフトレバー62の回転軸44まわりの等価慣性モーメントおよび実車のシフトレバー62の回転軸44の位置からJdを計算(設定)することにより、DDモーター42の回転軸44の動特性を実車のシフトレバー62の回転軸44まわりの動特性に近づけることができます。実車のシフトレバー62の回転軸44まわりの粘性抵抗はほとんど無いため、Ddは可能な限り小さくすることが好ましい。しかし、Jd、DdがJ、Dに対して小さ過ぎると制御が不安定になりやすくなってしまう。
【0077】
・DDモーター42により定まるパラメーター
モーター回転軸44の慣性モーメントJ、モーターの粘性抵抗係数Dは、DDモーター42の特性により予め定まる。Jはモーターシャフト40、DDモーター42のローター82、トルクセンサー60及びシフトレバー62のモーター回転軸44まわりの慣性モーメントとの和である。DはDDモーター42のステップ応答から予め概算可能である。
【0078】
・事前に準備するトルク・角度特性(=提示サンプル)
Kd(θ)は、官能評価試験等の検査目的に応じて予め準備する。Jd、Ddは定数であるが、Kdはθの関数である。Kd(θ)は、通常は実車のトルク・角度特性を参考にして設定する。しかし、実際には存在しないような特性に設定することも可能である。実車のトルク・角度特性は、リターンスプリングの取付トルクおよびバネ定数、ストッパスプリングの取付トルクおよびバネ定数、ギアシフトカムプレートの形状等によって定まる。
本実施例の自動二輪シミュレーターのシフトレバー62を取り替えた場合には、モーター回転軸44の慣性モーメントJを変更する。モーター回転軸44とシフトペダルの距離が変わる場合には、Kd(θ)も変更する。ギアシフトレバーの回転軸44の位置が異なる2種類の実機を想定する場合には、Jd、Kd(θ)を変更する。
【0079】
【数2】

【0080】
制御トルクuの計算に必要な角速度ωはエンコーダー66等のセンサー24から直接得られないため、式4等により回転角θの時間微分を計算することによって求めている。提示するトルクパターン37をnで識別すると、式(3)は式(5)となり、トルクパターン37の番号がnであるトルク・角度特性(Kdn(θ))に応じて、制御トルクunを算出することができる。
【0081】
図12を参照すると、制御ソフトウエア90は、トルク・角度特性算出部104と、微分計算部106と、インピーダンス計算部108とを備えている。トルク・角度特性算出部104は、表示操作部48等からの入力に応じて提示するトルクパターン37を特定し、当該トルクパターン37であるトルク・角度線図を記憶部29から読み出して、カウンタボード92から入力される回転角θに応じたトルク・角度特性(Kdn(θ))を算出し、インピーダンス計算部108に送信する。微分計算部106は、回転角θの変化(角速度ω)を求めるために、式(4)等により回転角θの時間微分を算出し、インピーダンス計算部108に角速度ω送信する。インピーダンス計算部108は、トルク・角度特性(Kdn(θ))と角速度ωと定数(J, Jd, D, Dd)とから、式(5)により制御トルクunを求め、この制御トルクunをD/Aボード95Aに送信する。サーボドライバ74は、DDモーター42のステーター84に流れる電流をこの制御トルクunに追従させることによって、DDモーター42の出力を制御する。
【0082】
図13を参照すると、制御モードの際に(ステップS1)、制御トルクu(制御トルク信号39)を算出し、制御モード以外では、制御トルクuを0に設定する(ステップS2)。制御モード中であれば、操作トルクτと回転角θとが入力され(ステップS3)、微分計算部106が角速度ωを計算し(ステップS4)、インピーダンス計算部108が制御トルクuを計算し(ステップS5)、制御トルクuを出力する。
【0083】
ステップS2では、まず、ライダーがシフトレバー62を操作すると、シフトレバー62が回転する。この回転角θをエンコーダー66が測定し、カウンタボード92がデジタル値の回転角θに変換する。また、この回転角θの状態でシフトレバー62に制御トルクuに応じた力覚が提示されている。ライダーがギアシフトチェンジ等の操作を継続するには、この制御トルクを超えるトルクでシフトレバー62を操作する。この操作のトルクをトルクセンサー60が測定し、この操作トルクτはA/Dボード94Aがデジタルデータに変換する。この操作トルクτと回転角θとの測定及び入力はリアルタイムで継続して行われる。そして、ステップS3では、微分計算部106が、角速度ωを算出する。ステップS4では、インピーダンス計算部108が、制御トルクuを算出する。
【0084】
図14を参照すると、表示操作部48は、表示データ52を表示する表示操作画面110を備えている。表示操作部48を液晶等によるタッチパネルディスプレイとし、コントローラー28が表示データを生成すると良い。表示操作画面110は、パターン切り替えボタン112A,112Bと、フィーリング評価語表示114と、評価選択ボタン116とを備えている。また、上部中央に「パターンAを表示中」と、現在提示中のトルクパターン37をライダーに表示している。
ライダーは、2つのパターンAとBとを順次切り替えて操作し、Aの操作感とBの操作感を比較する。人間の感覚は、絶対値を求めるよりも比較する方が違いに関する精度が高い。ライダーは、Aの操作感とBの操作感とを比較して、重さを評価する。すなわち、ライダーは、「同じ」、「やや」、「かなり」、「非常に」という7段階の評価から一つの評価を選択し、評価選択ボタン116を用いて入力する。例えば、トルクパターン37がAのパターンとトルクパターン37がBのパターンとの評価を比較して、Aがかなり重いという評価結果(評価スコア)であれば、当該重さの欄の「-2」と表示された評価選択ボタン116をクリックする。この評価選択ボタン116の操作結果が、評価データ50となる。
【0085】
また、表示内容を変化させて、ある特性を提示し、「今の特性の○○感を3点とします」等の表示をすることで、パネリスト(テストライダー)間の評価のばらつきを低減させることもできる。
【0086】
・2.3 制御とその結果の効果
上述したように、モーター制御により、シフトレバー62に任意のシフト操作荷重を提示することができる。そして、ダイレクトドライブモーター42の使用により、減速機構によって生じる違和感を排除することが。さらに、インピーダンス制御により、ローター82の慣性によって生じる違和感が軽減される。 このように、ノイズ的な要素を除外して本質的な官能検査を行うことができる。すなわち、求めたい要因を浮き彫りにする官能評価試験を計画し、実行することができる。
そして、ギアチェンジ感覚を瞬時に切り替えられるため、同一条件での一対比較が可能となる。また、ギアシフト機構の部品を特定した段階で試作をしなくとも、想定されるトルクパターン37を設定することで、シフトレバー62の操作感を評価することができる。さらには、存在しない部品の組み合わせによる力覚提示が可能で、目的に応じた官能検査の計画を立てやすい。そして、一定条件下での安定した官能評価を低コストでかつ短期間に検査することができる。
また、精度の高い官能評価試験の蓄積により、逆に、テストライダーのトレーニングに応用可能である。例えば、実車を用いた走行試験時にはギアシフト・フィーリングの確認も行われ、テストライダーにはテスト車両の絶対的な評価が要求される。この点、本実施例によるシミュレーターを用いることで、テストライダー間のばらつきを低減し、その評価値の差を軽減することができ、また、ばらつきを統計的に取り扱うことが可能となるため、厳密な信頼区間等の算出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、本実施形態の構成例を示す説明図である。
【図2】図2は、アクチュエーターをハウジング内に装備した一例を示す正面図である。
【図3】図3は、モーターと操作部等との関係例を示す斜視図である。
【図4】図4は、電動車のアクセルレバーを操作部とする一例を示す斜視図である。
【図5】図5は、図4に示すハンドル部分の一例を示す説明図である。
【図6】図6は、実施例2をスタンダードタイプの自動二輪車に適用した一例を示す説明図である。
【図7】図7は、実施例2をクルーザータイプの自動二輪車に適用した一例を示す説明図である。
【図8】図8は、図7に示すシフトペダル及びハウジングの関係例を示す斜視図である。
【図9】図9は、モーターとセンサーの関係例を示す断面図である。
【図10】図10は、トルクパターン(トルク・角度線図)の一例を示すグラフ図である。
【図11】図11は、実施例2のコントローラーの構成例を示すブロック図である。
【図12】図12は、図11に示す制御ソフトウエアの構成例を示すブロック図である。
【図13】図13は、制御トルクを算出する情報処理の一例を示すフローチャートである。
【図14】図14は、表示操作部の表示例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0088】
τ 操作トルク
θ 回転角
Kd(θ) トルク・角度特性
8 基盤
10 操作姿勢保持部
12 シート
14 ハンドル
16 フレーム
17 リアサス穴
18 燃料タンク
20 実機部品支持部
22 操作部
23 アクセルレバー
24 センサー
28 コントローラー
29 記憶部
30 アクチュエーター
32 ハウジング
34 操作量
35 操作入力データ
36 提示力パターン
38 提示力信号
39 制御トルク信号
40 モーターシャフト
42 モーター
44 回転軸
48 表示操作部
54 スピーカー
60 トルクセンサー
62 シフトレバー
70 振動発生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の操作者の操作姿勢を保持する操作姿勢保持部と、
この操作姿勢保持部を支持すると共に、当該操作姿勢保持部の位置に応じて配置した前記移動体の実機部品を支持する実機部品支持部と、
前記操作姿勢で前記操作者が手又は脚で操作可能な位置に配置される操作部と、
前記操作部の操作量を測定するセンサーと、
当該操作量に応じて予め定められた提示力パターンでの提示力を算出するコントローラーと、
前記提示力に応じて前記操作部に力覚を提示するアクチュエーターと、
を備えたことを特徴とする力覚提示装置。
【請求項2】
前記操作部が、前記手又は脚で回転操作される回転軸を有し、
前記アクチュエータ−が、モーターシャフトを有するモーターを備え、
前記モーターシャフトに、前記操作部の前記回転軸を直結した、
ことを特徴とする請求項1記載の力覚提示装置。
【請求項3】
前記操作姿勢で目視可能で入力操作可能な位置に、表示操作部を配置し、
この表示操作部が、前記提示力パターンに応じて官能評価試験の試験項目を表示すると共に、前記操作者によって入力される評価データを前記コントローラーに送信する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の力覚提示装置。
【請求項4】
前記操作部の操作による前記移動体の音源箇所の近傍に、スピーカーを配置し、
前記コントローラーが、前記操作量及び前記提示力パターンに応じて予め定められた音信号を前記スピーカーに出力する、
ことを特徴とする請求項1,2又は3記載の力覚提示装置。
【請求項5】
基盤と、
二輪車用のシート及びハンドルを支持する前記基盤に装着された実機部品支持部と、
モーターを支持する前記基盤に装備されたハウジングと、
このハウジング内に装着され、モーターシャフトを有し、所定の制御トルク信号に応じたトルクを当該モーターシャフトに与えるモーターと、
前記モーターシャフトに取り付けられ当該モーターシャフトに与えられる外部からの操作トルクを測定するトルクセンサーと、
前記モーターシャフトに取り付けられ前記モーターシャフトを回転軸として回転する前記二輪車のシフトレバーと、
このシフトレバーの回転角を測定するエンコーダーと、
前記操作トルクと、前記回転角と、予め定められたトルクパターンとに応じて前記シフトレバーへの前記トルクを算出して、当該制御トルク信号を前記モーターに伝達することで、当該シフトレバーに力覚を提示制御するコントローラーと、
を備えたことを特徴とする自動二輪シフトシミュレーター。
【請求項6】
所定の振動発生信号に応じて前記シート及びハンドルを振動させる振動発生部を備え、
前記コントローラーが、前記操作量と前記トルクパターンとに応じた振動発生信号を前記振動発生部に送信する、
ことを特徴とする請求項5記載の自動二輪シフトシミュレーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−108009(P2010−108009A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276198(P2008−276198)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】