説明

加工乾燥卵黄およびその製造方法

【課題】コレステロールが低減された、リゾ化率の高い加工乾燥卵黄を提供する。
【解決手段】リゾ化卵黄をスプレードライにより乾燥し、この乾燥卵黄にガム質を含有するバインダー添加して顆粒化して、得られた顆粒卵黄を超臨界二酸化炭素処理することにより、効率よくコレステロールを低減することにより得られる加工乾燥卵黄。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含有リン脂質(ジアシル型)が高度にモノアシル化(以後、「リゾ化」という)されているにもかかわらず、超臨界二酸化炭素処理によってコレステロール含量が低減された新規な加工乾燥卵黄およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
卵黄は、特有の食味と風味を有する食品であり、菓子やマヨネーズ等の原料として用いられているが、コレステロールを比較的多く含むため、コレステロールを低減させたものが健康食品や加工食品等の原料として好まれている。このようなコレステロールの低減を図った卵黄は、例えば、乾燥卵黄を超臨界二酸化炭素と接触させ、乾燥卵黄からコレステロールを抽出する、という方法(特許文献1)や、ドラムドライした乾燥卵黄を超臨界二酸化炭素処理する方法(特許文献2)等により得られる乾燥タイプの加工乾燥卵黄が知られている。
【0003】
また、本出願人は、特に低濃度食塩水に対して戻りがよく、かつ、コレステロールの除去率も高い加工乾燥卵黄を製造する方法を見出し、特許を取得している(特許文献3)。この方法は、スプレードライして得られる乾燥卵黄を清水のバインダーを用いて押出し造粒して多孔性の顆粒とした後、これを超臨界二酸化炭素で脱コレステロール処理する加工乾燥卵黄の製造方法である。
【0004】
一方、含有リン脂質(ジアシル型)が高度にリゾ化された卵黄は、高い乳化力を有していることから、各種食品に応用されている。また、リン脂質(ジアシル型)とリゾ化されたリン脂質(モノアシル型)を比較すると、リゾ化リン脂質の方が、経口摂取した場合に体内への吸収率が高いことから、高い生理活性を発揮することが期待され、高度にリゾ化された卵黄も同様に高い効果が期待されている。したがって、この含有リン脂質(ジアシル型)のリゾ化率の高い卵黄をコレステロール除去処理することにより、健康食品の原料として有用となると考えられる。
【0005】
そこで、本発明者は、リゾ化率の高い卵黄を使用して特許文献3記載の方法を試みるべく、リゾ化率100%の乾燥卵黄を製し、清水のバインダーを用いて押出し造粒し、得られた多孔性顆粒を超臨界二酸化炭素と接触せしめたところ、卵黄顆粒が崩れ、抽出槽内の圧力が急激に上昇し、充分なコレステロール除去処理を施すことが不可能であった。
【特許文献1】特公昭62−51092号公報
【特許文献2】特表平7−507930号公報
【特許文献3】特許第3459617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、含有リン脂質(ジアシル型)が高度にリゾ化されているにもかかわらず、超臨界二酸化炭素処理によってコレステロール含量が低減された新規な加工乾燥卵黄を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、含有リン脂質(ジアシル型)が高度にリゾ化された卵黄の脱コレステロール処理について鋭意研究を重ねた結果、バインダーとしてガム質を含有する水溶液を使用するならば、意外にも、脱コレステロール処理を効率よく実施できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)コレステロール含量が0.1〜1%である加工乾燥卵黄であって、ガム質を含有し、かつ、卵黄中のリン脂質のリゾ化率が60〜100%である、加工乾燥卵黄、
(2)ガム質の含量が0.1〜0.3%である、(1)の加工乾燥卵黄、
(3)(1)又は(2)の加工乾燥卵黄の製造方法であって、スプレードライして得られる乾燥卵黄をガム質を含有する水溶液をバインダーとして用いて押出し造粒して多孔性の顆粒とした後、これを超臨界二酸化炭素で脱コレステロール処理する加工乾燥卵黄の製造方法、
(4)押出し造粒時に添加するガム質の量が、造粒前の乾燥卵黄の量に対して0.05〜0.2%である、(3)の加工乾燥卵黄の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、含有するリン脂質(ジアシル型)のリゾ化率の高い卵黄からも効率よくコレステロール除去処理を行うことができ、コレステロール除去加工乾燥卵黄を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る加工乾燥卵黄およびその製造方法を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0011】
本発明は、加工乾燥卵黄およびその製造方法に係る発明であるが、説明上、本発明の加工乾燥卵黄の製造方法を中心に詳述する。
【0012】
本発明の加工乾燥卵黄は、含有リン脂質(ジアシル型)が高度にリゾ化された卵黄(以後、「リゾ化卵黄」という)であり、具体的には、当該リゾ化率が60〜100%である。ここでリゾ化卵黄とは、卵黄にホスホリパーゼ、好ましくはホスホリパーゼA処理を施すことによりリゾ化したものである。
【0013】
また、リゾ化率が60〜100%とは、リゾ化卵黄中に含有されるホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンなどのリン脂質と、リゾホスファジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミンなどのリゾリン脂質との合計含量に対する全リゾリン脂質の合計含量の割合が60〜100%であることをいう。なお、上記のリン脂質のリゾ化率は、加工乾燥卵黄から抽出した脂質についてそれを構成する各成分とその割合を分析することにより容易に求めることができ、本発明においては、株式会社三菱化学ヤトロン製のイアトロスキャン(TLC−FID法)を用いて算出した。
【0014】
本発明の加工乾燥卵黄は、コレステロール含量が0.1〜1%にまで低減されていることを特徴とするが、さらに遊離脂肪酸やトリグリセリドも低減されている。上記超臨界二酸化炭素処理前のリゾ化卵黄は、ホスホリパーゼ処理によってリン脂質中の脂肪酸が切断され、遊離脂肪酸含量が増加する。しかしながら、超臨界二酸化炭素処理によって、コレステロールのみならず上記遊離脂肪酸やトリグリセリドを除去することもでき、加工乾燥卵黄中の遊離脂肪酸含量およびトリグリセリド含量をそれぞれ5%以下にまで低減することが可能となる。
【0015】
本発明の加工乾燥卵黄は、ガム質を含有することを特徴とする。ここで、ガム質とは、粘着性がありコロイド的性質を持つ高分子多糖類であり、例えば、グアーガム、キサンタンガム、アラビアガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム等が挙げられる。本発明においては、これらのガム質から選ばれる一種または二種以上を含有することができる。
【0016】
本発明の加工乾燥卵黄は、リゾ化処理した卵黄をスプレードライにより乾燥後、上述のガム質を含むバインダーにて押出し造粒を行い、得られた多孔性の顆粒状の乾燥卵黄を超臨界二酸化炭素で脱コレステロール処理することにより得ることができる。卵黄の含有リン脂質のリゾ化率が高いほど、スプレードライして得られる乾燥卵黄を使用して超臨界二酸化炭素処理により効率的にコレステロールを除去可能な強固に結着した多孔性の顆粒状乾燥卵黄を製造し難く、超臨界二酸化炭素処理を施すことが困難となるが、リゾ化率が60〜100%の卵黄を使用した場合であっても、上述の製造方法により効率的にコレステロールを除去することが可能となる。
【0017】
本発明の加工乾燥卵黄の製造方法において、上述のガム質から選ばれる、一種または二種以上をバインダー液に添加することができる。このようなガム質を使用することにより、澱粉や蛋白質などを糊料として使用する場合とは異なり、乾燥卵黄の顆粒表面を覆うことなく、乾燥卵黄の粒子同士が強固に結着するため、多孔性の顆粒状乾燥卵黄を得ることができ、超臨界二酸化炭素による脱コレステロール処理を効率的に行うことが可能となる。また、超臨界処理後に得られた加工乾燥卵黄中に含まれる上記ガム質の含量は、後述の製造条件により0.1〜0.3%であることが好ましい。
【0018】
バインダー液として用いる、ガム質を含有する水溶液中のガム質の含量は、乾燥卵黄の量に対して0.05〜0.2%となるように含有させる。ガム質の含量が上記範囲以下であると、ガム質の添加効果が小さくなり、強固に決着した多孔性の顆粒を製造できない。逆にガム質の含量が上記範囲以上であると、押出し造粒時に卵黄が糸状となり顆粒を形成し難いのみならず、顆粒の多孔性が失われることからその後の超臨界二酸化炭素処理時に脱コレステロール効率が低くなるため、好ましくない。なお、上記理由に加え、生産効率を考慮し、0.5〜1.5%のガム質を含有した水溶液をバインダー液として用いることが好ましい。
【0019】
乾燥卵黄に対するバインダーであるガム質を含有した水溶液の使用量は、多孔性の顆粒が出来る程度の量を使用すればよい。具体的には、乾燥卵黄に対して15〜17%であることが好ましい。加水量が多いと多孔性の顆粒が出来にくくなり、一方、少なすぎると顆粒状態を形成することが出来ない。
【0020】
また、上記バインダーを加えた乾燥卵黄の造粒は、バケット式ブレード型押出し造粒機等を用い、常法により行えばよい。この造粒によって多孔性の顆粒が得られるが、造粒機の押出しスクリーンの径は1.5〜3.0mmが望ましい。1.5mm未満では圧力により多孔性が失われ超臨界二酸化炭素の顆粒内への進入が抑制される。また、3.0mmを超えると乾燥卵黄粒子同士の結着力が弱いため、顆粒を形成しづらく、顆粒中に乾燥卵黄の微粉末が混入して、超臨界二酸化炭素処理するにあたって偏流が生じ、脱コレステロール効率が悪いからである。
【0021】
上述の顆粒は、乾燥卵黄微粒子同士が結着している状態であり、多孔性を有する。その結果、微粒子に由来する表面積の大きさと、顆粒による多孔性の両面を備えており、超臨界状態の二酸化炭素の浸透性が高く、しかも偏流や目詰まりが生じないためコレステロールを効率的に除去することができる。
【0022】
上記方法により、コレステロール含量が0.1〜1%であり、ガム質を含有し、かつ、卵黄中のリン脂質のリゾ化率が60〜100%である加工乾燥卵黄が得られる。また、ガム質の含量は、具体的には0.1〜0.3%となる。上記方法によれば、リゾ化率の高い卵黄からも効率的にコレステロールを除去することができ、上述の範囲にまでコレステロールを低減することが可能となる。
【0023】
以下、本発明で用いる加工乾燥卵黄およびその製造方法について、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0024】
〔実施例1〕
鶏卵を割卵して得た卵黄300kgにホスホリパーゼA処理を施し、リゾ化率100%の卵黄液とした。この卵黄液をスプレードライし、乾燥卵黄を製した。この乾燥卵黄100kgを取ってハイスピードミキサーに入れ、攪拌しながらバインダーとして0.9%キサンタンガム水溶液16kgを噴霧状に添加してその水分含量が16%になるまで加水した。キサンタンガムの添加量は、乾燥卵黄の量に対して0.14%であった。その後、これを押出し造粒装置(畑鉄工社製、バケット式:スクリーン径2.0mm)を用いて造粒し、顆粒卵黄を得た。この顆粒卵黄96kgを超臨界抽出設備にて40℃、35MPaの条件下で超臨界二酸化炭素6700kgと接触させたところ、加工乾燥卵黄50kgが得られた。この加工乾燥卵黄中のコレステロール含量(ガスクロマトグラフィー分析による)は0.3%であり、キサンタンガム含量は0.29%であった。
【0025】
〔実施例2〕
実施例1の加工乾燥卵黄の製造方法において、バインダーとして1%グアーガム水溶液17kgを使用する以外は、実施例1と同様の方法で実施例2の加工乾燥卵黄50kgを得た。グアーガムの添加量は、乾燥卵黄の量に対して0.17%であった。この加工乾燥卵黄は、コレステロール含量が0.8%であり、グアーガム含量は0.34%であった。
【0026】
〔比較例1〕
実施例1の加工乾燥卵黄の製造方法において、バインダーとして1%澱粉水溶液17kgを使用する以外は、実施例1と同様の方法で比較例1の加工乾燥卵黄65kgを得た。澱粉の添加量は、乾燥卵黄の量に対して0.15%であった。得られた加工乾燥卵黄中の、コレステロール含量は2.8%であり、澱粉含量は0.23%であった。
【0027】
〔比較例2〕
実施例1の加工乾燥卵黄の製造方法において、バインダーとして1%プルラン水溶液16kg(プルランの添加量は乾燥卵黄の量に対して0.16%)を使用する以外は、実施例1と同様の方法で顆粒卵黄を製し、超臨界二酸化炭素と接触させたところ、顆粒卵黄が崩れ、抽出槽内の圧力が急激に上昇したため、脱コレステロール処理を行うことができなかった。
【0028】
〔比較例3〕
実施例1の加工乾燥卵黄の製造方法において、バインダーとして0.9%グルコマンナン水溶液17kg(マンナンの添加量は乾燥卵黄の量に対して0.15%)を使用する以外は、実施例1と同様の方法で顆粒卵黄を製し、超臨界二酸化炭素と接触させたところ、顆粒卵黄が崩れ、抽出槽内の圧力が急激に上昇したため、脱コレステロール処理を行うことができなかった。
【0029】
〔比較例4〕
実施例1の加工乾燥卵黄の製造方法において、バインダー中のキサンタンガム含量を0.2%(キサンタンガムの添加量は乾燥卵黄の量に対して0.03%)とする以外は、実施例1と同様の方法で顆粒卵黄を製し、超臨界二酸化炭素と接触させたところ、顆粒卵黄が崩れ、抽出槽内の圧力が急激に上昇したため、脱コレステロール処理を行うことができなかった。
【0030】
〔比較例5〕
実施例1の加工乾燥卵黄の製造方法において、バインダー中のキサンタンガム含量を3.0%(キサンタンガムの添加量は乾燥卵黄の量に対して0.48%)とする以外は、実施例1と同様の方法で比較例5の加工乾燥卵黄68kgを得た。この加工乾燥卵黄は、コレステロール含量が3%であり、キサンタンガム含量は0.96%であった。
【0031】
上述の結果より、本発明によれば、リゾ化率の高い卵黄のコレステロール除去処理が可能となることから、コレステロール含量が0.1〜1%であり、リゾ化率が60〜100%である加工乾燥卵黄を得ることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステロール含量が0.1〜1%である加工乾燥卵黄であって、ガム質を含有し、かつ、卵黄中のリン脂質のリゾ化率が60〜100%である、加工乾燥卵黄。
【請求項2】
ガム質の含量が0.1〜0.3%である、請求項1記載の加工乾燥卵黄。
【請求項3】
請求項1又は2の加工乾燥卵黄の製造方法であって、スプレードライして得られる乾燥卵黄をガム質を含有する水溶液をバインダーとして押出し造粒して多孔性の顆粒とした後、これを超臨界二酸化炭素で脱コレステロール処理する、加工乾燥卵黄の製造方法。
【請求項4】
押出し造粒時に添加するガム質の量が、造粒前の乾燥卵黄の量に対して0.05〜0.2%である、請求項3記載の加工乾燥卵黄の製造方法。