説明

加工大豆およびその製造方法

従来に比べて短い処理時間で大豆を単細胞化できる加工大豆の製造方法を提供する。この製造方法は、水の存在下、酵素としてセルラーゼおよびヘミセルラーゼの少なくとも一方、特に好ましくはTrichoderma sp.より産生されるヘミセルラーゼを用いて大豆を酵素処理し、個々の大豆単細胞に分離するステップを含む。この酵素処理により、製造コストの低減と得られた加工大豆の品質安全性の改善を図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、酵素を用いて大豆を効率よく単細胞化ステップを含む加工大豆の製造方法、および同方法により得られる加工大豆に関するものである。
【背景技術】
大豆は、ガン、更年期障害、生活習慣病(成人病)の予防に有効とされているイソフラボン、サポニン、レシチン等の成分に加え、良質のたんぱく質、ビタミンを豊富に含む極めて栄養価に優れた食品素材である。しかしながら、その食品分野への応用においては、表皮組織が硬いために調理方法が制限されることや、調理中に上記成分が変質あるいは溶出して調理品に含まれる量が減少するといった問題が古くから指摘されている。
そこで、本願発明者は、PCT国際公開明細書WO01/10242に記載されているように、Bacillus属の産生するペクチナーゼを用いて大豆に酵素処理を施すことにより大豆を機械的に粉砕することなく、個々の大豆単細胞を健全な状態で分離して液状もしくは粉状の加工大豆を作製し、食品分野への大豆の応用可能性を飛躍的に増大させることに成功した。
しかしながら、上記した酵素処理においてはその処理時間においてさらなる改善の余地が残されていた。すなわち、酵素処理に要する時間が長くなると最終製品である加工大豆のコスト上昇を招くだけでなく、酵素処理時に雑菌の発生・増殖する可能性が増大する。したがって、安定した品質の加工大豆をより安価に供給するためには、これまでよりも短時間の酵素処理で加工大豆を製造することが望まれる。
【発明の開示】
上記問題点に鑑みて、本発明の目的は、酵素処理に要する時間を短縮することで製造コストを低減できるとともに、得られた加工大豆の品質安全性を改善できる加工大豆の製造方法を提供することにある。
すなわち、本発明の製造方法は、水の存在下、セルラーゼおよびヘミセルラーゼの少なくとも一方を用いて大豆を酵素処理し、個々の大豆単細胞に分離するステップを含むことを特徴とする。
本発明の製造方法によれば、Bacillus属の微生物が産生するペクチナーゼを使用する従来の酵素処理に比べ、大豆を単細胞化するのに要する酵素処理時間を大幅に短縮することができる。また、分離された大豆細胞は、細胞壁・細胞膜の損傷が少なく、細胞内部に蛋白顆粒(プロテインボディ)と脂肪球(リピットボディ)が健全な状態に保たれており、前記ペクチナーゼを用いた従来の酵素処理で得られる大豆と少なくとも同等の品質を有する。
酵素としては、Trichoderma属の産生するセルラーゼおよびヘミセルラーゼの少なくとも一方を使用することが好ましい。この場合は、pH調整を行うことなく中性領域で酵素処理を行えるので、得られた加工大豆が酸味を帯びるのを回避できる。また、酵素処理の均一性を高めて安定した高品質の加工大豆を提供する観点から、トリコデルマ(Trichoderma)属の産生するヘミセルラーゼの使用が特に好ましい。
また、加工大豆を大豆単細胞内の蛋白球が壊れないように機械的粉砕することにより粒度調整することが好ましい。このように粒度調整された加工大豆は、大豆含有飲料の製造に効果的であり、大豆蛋白球(プロテインボディ)が健全な状態に保たれているとともに、平均粒径が0.3μm〜1μmでなることを特徴とする。この場合は、大豆臭が顕著に増加すること無く、大豆成分を飲料内に均一に分散させやすくなる。また、一旦分散した大豆成分は沈殿し難く、舌触りもザラザラせずに飲みやすくなるという効果がある。尚、上記した粒度調整を行う場合は、例えばホモゲナイザーを用いることが好ましい。
したがって、本発明のさらなる目的は、大豆単細胞が分散したスラリーを大豆単細胞内の大豆蛋白球(プロテインボディ)が壊れないように機械的粉砕して得られ、平均粒径が0.3μm〜1μmの大豆成分が分散する液状加工大豆、および大豆単細胞が分散したスラリーを大豆単細胞内の大豆蛋白球が壊れないように機械的粉砕、乾燥して得られ、平均粒径が0.3μm〜1μmである粉状加工大豆を提供することにある。
本発明のさらなる特徴およびそれがもたらす効果は,以下に述べる発明の詳細な説明および実施例から理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施形態に基づく製造方法により得られた粉状加工大豆の光学顕微鏡写真である。
発明の詳細な説明
本発明の加工大豆の製造方法および同方法により得られる加工大豆について以下に詳述する。
本発明の好ましい実施形態に基づく加工大豆の製造方法は、大豆を水に所定時間浸漬するステップと、水の存在下で大豆を加熱殺菌するステップと、加熱した大豆を酵素処理温度まで冷却し、水とセルラーゼおよびヘミセルラーゼの少なくとも一方の存在下で大豆に酵素処理を施すステップと、酵素処理終了後に酵素を失活させて液状の加工大豆を得るステップとを含み、必要に応じてこの液状の加工大豆を乾燥して粉状の加工大豆を得るステップ、および/もしくは細胞内の大豆蛋白球を破壊しないように加工大豆を粉砕して粒度調整するステップがさらに実施される。以下、個々のステップについて詳細に説明する。
まず、所定量の原料大豆を水洗した後、大豆を水に浸漬する。この工程は、大豆の個々の細胞内に十分量の水分を供給し、後に実施される酵素処理を行い易くする。浸漬時間は特に限定されないが、酵素としてセルラーぜおよびヘミセルラーゼの少なくとも一方を使用する本発明においては、例えば、50℃で1〜2時間浸漬すればよい。また、浸漬に使用する水の量は、例えば、体積比で大豆1に対して2〜4とすることができる。尚、酵素処理で使用するセルラーゼおよび/あるいはヘミセルラーゼを添加した水に大豆を浸漬することが、後の酵素処理のさらなる効率アップを図る上で好ましい。
次に、大豆を水の存在下で加熱殺菌する。このステップは、大豆に含まれるリポキシゲナーゼの作用を失活させるとともに、大豆タンパクを熱変性させて人体への消化吸収性を改善し、さらに細胞間物質を軟化させて後に実施される酵素処理を行い易くするために実施される。これらの目的を効率良く達成する上で、大豆を蒸煮することが特に好ましい。蒸煮条件としては、例えば、圧力鍋等を使用して120℃で5〜10分間蒸煮することが好ましい。
蒸煮した大豆を所定温度に冷却した後、水およびセルラーゼおよび/あるいはヘミセルラーゼの少なくとも一方を大豆に添加して酵素処理を行う。蒸煮した大豆は、酵素処理が実施される温度、例えば、約50〜60℃に冷却することが好ましい。また、大豆の加工に際してできるだけ廃棄物あるいは排水を出さないゼロエミッションの観点から、酵素処理において使用される水は、前述した浸漬工程で使用した水を利用することが好ましい。尚、添加する水の量は、体積比で大豆を1とした場合に2〜4倍量の水を添加し、酵素処理を行う環境を中性域とすることが好ましい。
酵素処理は、好ましくは攪拌しながら、例えば、50℃で5〜10分間保持することにより行うことが好ましい。本発明の最大の特徴は、Bacillus属の産生するペクチナーゼを使用して酵素処理する場合に比べ、セルラーゼおよびヘミセルラーゼの少なくとも一方、特にTrichoderma sp.より産生されるセルラーゼおよび/あるいはヘミセルラーゼを用いることで得られる加工大豆の品質を同等に維持しながらも酵素処理時間を大幅に短縮できる点にある。また、酵素処理時間の短縮により、製造中に雑菌が発生・増殖する可能性を低減できるとともに、製造コスト下げることができる。
尚、攪拌は酵素処理時間の短縮にとって有効であるが、大豆細胞を破壊するような強力な条件を採用すべできはない。例えば、混合物中において攪拌翼を20〜200回転/分程度の速度で回転させるようなソフトな条件を採用することが好ましい。このような条件であれば、分離された大豆の単細胞を攪拌によってほぐしながら、大豆細胞に対して均一にセルラーゼおよび/もしくはヘミセルラーゼを作用させることができるので、酵素処理をスムーズに実施することができる。
本発明の酵素処理においては、例えば、アスペルギルスニガーの産生するセルラーゼもしくはヘミセルラーゼや、Trichoderma sp.より産生されるヘミセルラーゼもしくはセルラーゼを使用することができるが、好ましくはTrichoderma sp.より産生されるヘミセルラーゼおよび/もしくはセルラーゼを使用することが特に好ましい。その理由は、酵素処理条件の制御にある。すなわち、アスペルギルスニガーの産生するセルラーゼもしくはヘミセルラーゼを使用する場合は、pH調整剤により酵素処理の環境を酸性域に調整しておく必要がある。このため得られた加工大豆の酸味が増す恐れがある。これに対して、Trichoderma sp.より産生されるヘミセルラーゼもしくはセルラーゼを用いる場合は、酵素処理を中性域で行えるので、上記した場合のようにpH調節剤を使用する必要が無く、味および品質とも良好な加工大豆を安定して得ることができる。
セルラーゼもしくはヘミセルラーゼの添加量は、浸漬工程前の大豆重量に対して0.01〜1wt%、特に0.05〜0.5wt%とすることが好ましい。尚、セルラーゼとヘミセルラーゼの混合物を使用する場合においては、その合計量を上記範囲内とすることが好ましい。添加量が0.01wt%を下回ると、大豆が単細胞化され難くなるとともに、処理時間が長くなる傾向がある。一方、酵素の添加量を1wt%以上としても良いが、もはや酵素処理速度の改善は得られず、逆に製造コストの上昇を招く恐れがある。
このように、本発明の酵素処理により大豆細胞は破壊されることなく単細胞に分離される。このようにして得られた大豆の単細胞が分散するスラリーを50℃で15〜30分間保持して熟成させる。この際、攪拌する場合は、例えば、攪拌翼を20〜30回転/分程度の速度で回転させながら15分間保持すればよい。このように、攪拌を伴うことにより熟成時間を短縮できる。
次に、酵素作用を失活させるためにスラリーに熱処理を施す。例えば、約90〜100℃で5〜15分間スラリーを加熱することが好ましい。
得られた大豆単細胞が分散するスラリーを気流乾燥法もしくは噴霧乾燥法により乾燥すれば粉状の加工大豆とすることができる。気流乾燥法とは、乾燥製品が粉粒体となる材料で、湿潤時に糊泥状、あるいは粉粒状のものを急速に流れる熱気流中に分散させ、熱気流と並流に送りながら迅速に乾燥する方法であり、フラッシュドライヤーとして知られる装置を使用して行われる。本発明においては、例えば、120℃、5秒の乾燥条件を採用することが好ましい。また、噴霧乾燥法としては、例えばスプレードライヤーを使用することができる。
以上の工程により本発明の液状もしくは粉状加工大豆を製造することができる。得られた粉状加工大豆の光学顕微鏡写真を図1に示す。分離された大豆単細胞には細胞壁・細胞膜の損傷がなく、細胞内部に蛋白顆粒(プロテインボディ)と脂肪球(リピットボディ)が健全な状態に保たれており、PCT国際公開明細書WO01/10242に記載のBacillus属の産生するペクチナーゼを用いた酵素処理によって得られる加工大豆の単細胞化状態と少なくとも同等である。
本発明の液状もしくは粉状の加工大豆を含有する食品の好ましい例示としては、スパゲッティ、マカロニ、ピザ生地等の小麦粉利用食品、ハンバーグやミートボール等の加工肉食品、豆腐、豆乳ヨーグルトといった既存の大豆食品、大豆たんぱく含有食品、ロールパン、ハンバーガーバンズ、イングリッシュマフィンといったパン類、クリーム、味噌、植物性チーズ、シリアル、ビスケット、クラッカー、ドレッシング、健康食品、こんにゃくゼリー等のダイエットフーズ、餡、プリン、クリーム、ジャム、カレー、アイスクリーム、シャーベット、菓子類等を挙げることができる。また、本発明の加工大豆を含有する飲料の好ましい例示としては、果物ジュース、トマトジュースや人参ジュース等の野菜ジュース、コーヒー飲料、豆乳、ポタージュスープや味噌汁などのスープ類等を挙げることができる。
ところで、上記製造方法により得られた液状もしくは粉状加工大豆を添加して大豆含有飲料を製造する場合は、平均粒径が数μmである大豆単細胞を飲料全体に均一に分散させにくく、飲料の入った容器をよく振って大豆単細胞を飲料内に分散させたとしても速やかに大豆単細胞が沈殿してしまう恐れがある。このような不具合はトマトジュースやポタージュスープ等の粘性の高い飲料よりも、コーヒーやレモンジュースなどの比較的に粘性の低い飲料の場合に起こりやすい。
そこで、大豆含有飲料をより美味しく飲みやすくする観点から、大豆単細胞が分散したスラリーを大豆単細胞内の蛋白球が壊れないように機械的粉砕するステップを行うことが好ましい。この機械的粉砕ステップは、粉砕後において大豆蛋白球(プロテインボディ)が健全な状態に保たれるとともに、粉砕後の大豆成分の平均粒径が0.3μm〜1μmとなるように行うことが重要である。すなわち、個々の大豆単細胞に部分的に細胞壁の破損が生じても大豆蛋白球(プロテインボディ)が健全な状態に保たれていればよい。
また、平均粒径に関しては、大豆蛋白球の平均粒径が0.3μmであることからこれ以下の平均粒径となると、大豆蛋白球の破損が増大し、その結果大豆臭が徐々に増加する傾向がある。したがって、大豆を単細胞化した後に粒度調整する意味がなくなる。一方、平均粒径が1μmを上回ると、飲料に添加しても沈殿を抑制する効果が十分に得られず、また舌触りもザラザラして飲み易さを改善できない。このような粒度調整には、例えばホモゲナイザーを用いることが好ましい。この場合は、プランジャーポンプとバルブの組み合わせにより、スラリー内にせん断・衝突・キャビテーション等の複合作用を瞬間的に発生させて均質な乳化状態を作り、浮遊や沈殿を防ぐことができる。尚、ホモゲナイザーを用いて粒度調整する場合は、例えば、50〜60℃の温度条件で、30〜50kg/cmで第1段階を行った後、150〜200kg/cmで第2段階を行う2段階法を採用することが好ましい。この場合は、上記平均粒径の範囲内への粒度調整を安定して実現することができる。
尚、本発明は、セルラーぜおよびヘミセルラーゼの少なくとも一方の使用を必須とするが、心要に応じてBacillus属の微生物の産生するペクチナーゼやその他の酵素類を補助的に使用することを排除するものではない。
【実施例】
以下に本発明を好ましい実施例に基づいて具体的に説明する。
[実施例1]
原料大豆を水洗いした後、50℃で60分間水に浸漬した。この時使用した水の体積は大豆1に対して水4である。尚、浸漬にあたっては乾燥大豆重量に関して0.1%のトリコデルマ属の産生したヘミセルラーゼを水に添加した。次いで浸漬に使用した水から大豆を分離(脱水)し、大豆を120℃で5分間加熱殺菌した。次に、脱水時に回収した酵素入りの水を再び殺菌後の大豆に加え、200回転/分で回転する攪拌翼によって攪拌を行ないながら、50℃で5分間保持して酵素処理を実施した。
水に浸漬する時は、大豆の表皮がまだ硬い状態であるので酵素処理はその表面からわずかに進行するだけであるが、浸漬して加熱殺菌を行った後においては原料大豆の表皮は軟化した状態にある。そのため、攪拌しながら50℃で5分間行う酵素処理は大豆の表面から内部に向かって効率よく進行する。次いで、攪拌翼の回転速度を20回転/分とし、50℃で15分間放置して熟成させた後、酵素作用を失活させるために95℃で5分間保持した。このようにして得られた大豆単細胞が分散するスラリーをスプレードライヤーで乾燥することにより、図1に示すような個々の大豆単細胞が健全な状態で分離された加工大豆粉末を得た。
本実施例においては、トリコデルマ属の産生したヘミセルラーゼを酵素に用いたことにより、50℃で5分間の酵素処理によって大豆の単細胞化を完了することができた。この酵素処理時間は従来に比べて非常に短い。これは、以下のバチルス属のペクチナーゼを酵素に用いた以外は実施例1と同じ条件で実施した比較例から容易に理解することができる。
すなわち、前記ペクチナーゼを用いて50℃で5分間の条件で酵素処理を行ったところ、大豆表面近傍の細胞は単細胞化されたが、大豆粒子の中心付近にある細胞にはほとんど酵素処理が進行しておらず、依然として細胞同士が繋がった状態に維持されていた。そこで、酵素処理時間を、10分、20分、30分、60分、90分と延長して酵素処理効果をチェックしたところ、実施例1と同様の加工大豆を得るには50℃で60分間の酵素処理が少なくとも心要であることがわかった。この場合であっても部分的に単細胞化の不完全な大豆粒子が残存しており、大豆の均一な単細胞化を図るためには、例えば、酵素処理前の水への浸漬時間を24時間に延長する等の前処理が必要であることがその後の補足実験により判明した。尚、浸漬時間の延長は加工大豆の製造効率の低下を招くので、一定の製造効率を維持するために大豆の浸漬用タンクの増設など製造設備への投資が心要になる。したがって、本発明の製造方法によれば、酵素処理時間だけでなく浸漬時間も短くでき、製造設備にかかる費用も節約できる。
このように、実施例1の酵素処理条件での比較においては、トリコデルマ属の産生したヘミセルラーゼを酵素に用いた場合は、バチルス属のペクチナーゼを酵素に用いた場合に比べ酵素処理時間を少なくとも1/6に短縮できた。また、酵素処理に先立って行われる水への浸漬時間も短くできる。さらに、得られた加工大豆に大豆臭および酸味はなく、バチルス属の産生するペクチナーゼを用いて完全に単細胞化した加工大豆と食感および外観ともほとんど同じあった。
[実施例2]
ヘミセルラーゼの代わりに、トリコデルマ属の産生したセルラーゼを酵素に用いたことを除いて実施例1と実質的に同じ条件により大豆を単細胞化した。この場合は、酵素処理として200回転/分で回転する攪拌翼によって攪拌を行ないながら、50℃で1分間保持することで大豆を単細胞化できた。このように、セルラーゼを用いた場合にはヘミセルラーゼに比べて一層酵素処理時間を短縮できることがわかった。しかしながら、酵素処理が過剰に継続されると、得られた大豆単細胞の細胞壁が損傷を受ける恐れがあるために酵素処理時間を詳細に管理する必要がある。また、大型の処理槽で酵素処理を実施する場合は、処理槽内において酵素反応スピードにばらつきが生じる恐れがあるため、均一な品質の大豆単細胞を安定に得るために個々の処理槽での酵素処理の進行過程を把握しておく必要がある。
ところで、トリコデルマ属の産生したセルラーゼを使用する本実施例は、従来のバチルス属の産生するペクチナーゼを使用する場合との比較において酵素処理時間の短縮という点で好ましいことは勿論であるが、総合的な面から言えば、実施例1のトリコデルマ属の産生したヘミセルラーゼの使用がより好ましい。ヘミセルラーゼを使用する場合は、セルラーゼを使用する場合に比べやや処理速度は遅くなるものの、酵素処理が均一に進行するので得られた大豆単細胞の品質を安定化させやすく、酵素処理を管理/制御しやすいという長所がある。尚、バチルス属の産生するペクチナーゼを使用した場合に比べれば顕著に酵素処理を短縮できることは言うまでもない。
[実施例3]
実施例1で得た大豆の単細胞が分散するスラリーを用いて、美味しく飲みやすい大豆含有飲料を製造するため、ホモゲナイザーを用いて粒度調整ステップを実施し、加工大豆ピューレを得た。尚、ホモゲナイザーでの処理条件は、60℃、40kg/cmで第1段階を行った後、180kg/cmで第2段階を行う2段階法を採用した。これにより、粒度調整前においては平均粒径が数μmであった大豆単細胞は、粒度調整後においてはその平均粒径が約0.8μmになった。顕微鏡観察から、この粒度調整ステップにより大豆細胞の細胞壁にある程度の損傷が発生しているものの、平均粒径がおよそ0,3μmである大豆蛋白球は依然として健全な状態で維持されていた。また、大豆蛋白球の損傷がほとんどないことから、粒度調整後における大豆臭の発生は認められなかった。
得られた加工大豆ピューレを用いて、コーヒー飲料、大豆スープおよびオレンジ果汁飲料をそれぞれ以下に示す条件で作製し、味及び飲みやすさを評価した。
1)コーヒー飲料
コーヒー9.75gに対して砂糖24.5g、加工大豆ピューレ9.55gおよびその他に所定量のブドウ糖、全粉乳、重曹および水を添加して得られた混合物をよく攪拌してコーヒー飲料を得た。
2)大豆スープ
加工大豆ピューレ300g(大豆固形分:20%)に市販のコンソメスープの乾燥チップを1個入れて所定量のお湯で溶解して大豆スープとした。
3)大豆入り果汁飲料
加工大豆ピューレをスプレードライヤーにより乾燥して得た加工大豆粉末にオレンジ果汁を添加し、よくかき混ぜて大豆入り果汁飲料を得た。加工大豆粉末とオレンジ果汁の配合比(重量%)は5:95である。
4)大豆入り野菜ジュース
加工大豆ピューレをスプレードライヤーにより乾燥して得た加工大豆粉末を市販の人参ジュース、トマトジュース、野菜ジュースにそれぞれ添加して、家庭用ミキサーにかけてよくかき混ぜて大豆入りの野菜ジュースを得た。加工大豆粉末と各野菜ジュースの配合比(重量%)は5:95である。
尚、粒度調整ステップを行っていない大豆単細胞が分散するスラリーを使用した以外は上記と同じ方法で各飲料を製造し、比較飲料とした。比較飲料においては、大豆単細胞が沈殿するために舌にザラザラ感が残り、飲みにくいものであったの対し、本実施例の飲料はいずれも飲み終えるまで大豆成分の沈殿がほとんどなく、舌にザラザラ感の残らない飲みやすい飲料であった。また、大豆臭の発生は、比較飲料と同様にほとんどなかった。このように、粒度調整ステップが本発明の加工大豆を含有する飲料の製造に非常に有効であることを確認できた。
[実施例4]
本実施例では、実施例3の加工大豆ピューレをスプレードライヤーにより乾燥して得た加工大豆粉末を使用して栄養強化豆腐を作製した。まず、板ゼラチンを水に漬けてふやかしておく。約50ccの牛乳を小鍋で温めながら、前記したゼラチンを牛乳に添加して溶かす。加熱をやめて、所定量の牛乳および加工大豆粉末を加えて均一に混合する。次いで、得られた混合溶液を水で濡らした型に入れて、冷蔵庫で冷やして固めることで本実施例の豆腐を得た。得られた豆腐は、加工大豆粉末の添加なしで製造した豆腐と比較して、味および外観ともほとんど差はなかった。
しかしながら、本実施例の豆腐に含まれるイソフラボンの量は従来の豆腐の約9倍であり、食物繊維の含有量は約15倍であった。これは、通常の豆腐の製法では大豆の表皮や胚軸は取り除かれるが、本発明の加工大豆は基本的に原料大豆に含まれる栄養成分の割合をそのまま維持しているので、表皮に多く含まれる繊維質、胚軸に多く含まれる大豆イソフラボンが豆腐中に効率よく残存する結果、栄養強化された豆腐を製造できたと考えられる。
[実施例5]
本実施例では、実施例1の加工大豆粉末を使用して麺を作製した。粉状加工大豆の添加量は、小麦粉を含む原料粉体成分の全量に対して6%とした。得られた麺は、製麺時および試食時ともに大豆臭はほとんど感じられず、食感も良好であった。このように、本発明の加工大豆を用いることで栄養強化した麺が得られた。
[実施例6]
本実施例では、実施例1の加工大豆粉未を使用して食パンを作製した。まず、表1に示す量に秤量した原材料を捏上温度28℃で所定時間混合してパン生地を得た。このパン生地を100分間発酵させ、所定量に分割、ベンチタイムを経た後、ホイロに38℃、湿度80%、40分保持してから焼成を行って本実施例の食パンを得た。
得られた食パンを被験者5人に試食してもらい、大豆臭が感じられるかどうかをチェックしたが、大豆臭を感じたと答えた被験者はいなかった。また、本発明の粉状加工大豆を含有する食パンは、大豆細胞内に蓄えられた細胞内水分″セルウォーター″を含むため、加工大豆を含まない食パンに比して保水性に優れ、ふっくらとした焼き上がりを達成できた。

[実施例7]
本実施例では、実施例3の加工大豆ピューレをスプレードライヤーにより乾燥して得た加工大豆粉末を使用して減塩味噌を作製した。すなわち、市販の味噌500gに加工大豆粉末50gと水125ccを加え、よくかき混ぜて本実施例の減塩味噌を得た。加工大豆粉末を均一に混合することにより、みそ1gあたりに含まれる塩分が相対的に減少するので、塩分が少なく大豆によって栄養強化されたまろやかな味の味噌が得られた。
[実施例8]
本実施例では、実施例3の加工大豆ピューレをスプレードライヤーにより乾燥して得た加工大豆粉末を使用して豆乳状飲料を作製した。すなわち、加工大豆粉末をミネラルウォーター100gに対し30gの割合で添加/混合し、家庭用ミキサーにかけてよくかき混ぜ本実施例の豆乳状飲料を得た。この場合は、固形分の配合量が多いにもかかわらず、喉越しの良い安価な大豆飲料が得られた。
【産業上の利用可能性】
このように、本発明の加工大豆の製造方法においては、セルラーゼおよびヘミセルラーゼの少なくとも一方、特にトリコデルマ属(Trichoderma sp.)により産生されるヘミセルラーゼを酵素として用いるので、従来のバチルス属の産生するペクチナーゼを酵素として用いる場合に比べて酵素処理時間を大幅に短縮することができる。このことから、製造コストの低減だけでなく、雑菌の発生・繁殖を防ぐことでより品質安全性の高い加工大豆を提供できる。さらに、本発明は製造時に廃棄物を出さないゼロエミッションを基本理念としているので、環境にもやさしい製造方法である。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の存在下、セルラーゼおよびヘミセルラーゼの少なくとも一方を用いて大豆を酵素処理し、個々の大豆単細胞に分離するステップを含む加工大豆の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法において、
上記酵素処理は、Trichoderma sp.により産生されるセルラーゼおよびヘミセルラーゼの少なくとも一方を用いて行われる。
【請求項3】
請求項1の製造方法において、
上記酵素処理は、Trichoderma sp.により産生されるヘミセルラーゼを用いて行われる。
【請求項4】
請求項1の製造方法において、
上記セルラーゼおよびヘミセルラーゼの少なくとも一方の添加量は、乾燥大豆重量の0.01〜1%である。
【請求項5】
請求項1の製造方法において、
上記酵素処理によって得られる大豆単細胞が分散したスラリーを大豆単細胞内の蛋白球が壊れないように機械的粉砕するステップをさらに含む。
【請求項6】
請求項5の製造方法において、
上記機械的粉砕は、ホモゲナイザーを用いて行われる。
【請求項7】
請求項1の製造方法によって得られる大豆単細胞が分散したスラリーを大豆単細胞内の大豆蛋白球が壊れないように機械的粉砕、乾燥することにより得られ、平均粒径が0.3μm〜1μmである加工大豆粉末。
【請求項8】
請求項5の製造方法によって得られ、大豆蛋白球(プロテインボディ)が健全な状態にあるとともに、平均粒径が0.3μm〜1μmの大豆成分が分散する液状加工大豆。
【請求項9】
請求項1の製造方法によって得られる加工大豆を他の食品素材に添加して製造される加工食品。
【請求項10】
請求項5の製造方法によって得られる加工大豆を含む飲料。
【請求項11】
請求項1の製造方法によって得られる加工大豆を含む麺類。
【請求項12】
請求項1の製造方法によって得られる加工大豆を含むパン。
【請求項13】
請求項5の製造方法によって得られる加工大豆を含む豆腐。
【請求項14】
請求項5の製造方法によって得られる加工大豆を含む味噌。

【国際公開番号】WO2005/099481
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【発行日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508492(P2006−508492)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005343
【国際出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【出願人】(503272265)有限会社智間 (1)
【Fターム(参考)】