説明

加工性および低温靭性に優れた中空部材用超高強度電縫鋼管およびその製造方法

【課題】非調質で、TS:1500MPa以上、TS×Elが27000MPa%以上、vE−40が50J/cm以上となる、加工性および低温靭性に優れた高強度電縫鋼管との製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.31〜0.50%、Si:0.01〜1.0%、Mn:1.0〜4.0%、Al:0.1%以下、N:0.0010〜0.0100%、B:0.0003〜0.0050%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の電縫鋼管とし、Ac変態点以上に加熱・均熱したのち、圧延終了温度:Ar変態点〜900℃、900℃以下の温度域での累積縮径率:20〜75%である縮径圧延を施す。これにより、TSが1500MPa以上、TS×Elが27000MPa%以上で、さらに母材部と電縫溶接部の硬さの差ΔHVが50ポイント以下、−40℃でのシャルピー衝撃値vE−40が50J/cm以上である超高強度電縫鋼管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブシャフト、スタビライザー等の自動車部品用中空部材として好適な、超高強度電縫鋼管およびその製造方法に係り、とくに、加工性、靭性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の、地球環境の保全という観点から自動車の燃費改善が強く要望され、自動車車体の軽量化が進められている。このような自動車車体の軽量化要求から、自動車のエンジンの動力を車輪に伝達する、例えばドライブシャフトなどの駆動軸関連部品、あるいはスタビライザーなどの足回り部品においても、棒鋼を用いた中実タイプに代えて、鋼管を用いた中空タイプが採用されるようになっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、質量%で、C:0.30〜0.47%、Si:0.5%以下、Mn:0.3〜2.0%、P:0.018%以下、S:0.015%以下、Cr:0.15〜1.0%、Al:0.001〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Ca:0.004%以下、N:0.01%以下、B:0.0005〜0.005%、O:0.0050%以下を含み、有効B量Beffが0.0001以上である鋼管を素材とし焼入れ後のオーステナイト結晶粒度番号が9以上である、高周波焼入れ中空駆動軸が記載されている。特許文献1に記載された技術によれば、高周波焼入れ後のオーステナイト結晶粒界の強度を確保でき、優れた冷間加工性、焼入れ性、靭性および捻り疲労強度を確保でき、安定した疲労寿命を発揮できる中空駆動軸が得られるとしている。
【0004】
また、特許文献2には、高強度鋼管が記載されている。特許文献2に記載された鋼管では、質量%で、C:0.30%超0.50%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.5%以下、Ti:0.1%以下、Mo:0.3〜0.5%、B:0.0005〜0.01%を含む鋼管で、焼入れ後に100〜400℃で焼戻処理を施すことで、旧オーステナイト粒径が10μm以下となる硬化部(マルテンサイト分率が90%以上である領域)が管C断面の30%以上形成される組織を有する耐遅れ破壊特性および疲労特性に優れた、引張強さ:1500MPa以上の高強度鋼管である。
【0005】
特許文献3には、高強度かつ延性に優れた電縫鋼管の製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術では、mass%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.01〜2.0%、Mn:2.0〜4.0%、Al:0.010〜0.10%、N:0.010%以下を含む鋼スラブを、熱間圧延して鋼帯とし、この鋼帯をロール成形したのち電縫溶接して素管としたのち、Ac〜Acの温度域に加熱し、絞り圧延することにより、管長手方向に伸びたフェライトおよびマルテンサイトからなる層状組織を有し、マルテンサイト組織の平均層間隔が2.0μm以下である電縫鋼管が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2006/104023号
【特許文献2】特開2008−274344号公報
【特許文献3】特開2003−96545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、素材となる鋼管を継目無鋼管としており、継目無鋼管では造管方法に由来する表面脱炭、表面疵などが残存する場合が多く、所望とする十分な疲労寿命を確保するためには表面研磨、研削を行う必要があり、またさらに、継目無鋼管では、その造管方法に由来する偏心偏肉等が発生しやすく、ドライブシャフト等の回転物用としては必ずしも適さない場合があるという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載された技術では、素材とする鋼管は電縫鋼管、鍛接鋼管、圧接鋼管等の鋼板(帯鋼)を成形加工、接合により管形状としている。高強度鋼板を素材とすると、細径かつ厚肉の鋼管に造管することが難しいため、比較的強度の低い鋼板を素材として造管したのち、高強度を確保するために、焼入れ処理を必須の要件としている。焼入れ処理や、焼戻処理といった熱処理の工程を含むことは、工程が複雑となり、生産性が低下するうえ、製造コストの高騰を招くという問題がある。
【0009】
また、特許文献3に記載された技術では、絞り圧延の加熱温度が低いため、電縫溶接部の低C域へのCの拡散(復炭)が不十分であるため、電縫溶接部の靭性が局部的に低下する場合があり、さらに母材の組織が層状組織であるため、靭性が劣り、衝撃力が作用した場合に割れが発生する恐れがあるなどの問題がある。
本発明は、かかる従来技術の問題を有利に解決し、焼入れ処理等の熱処理を行なうことなく非調質で、引張強さTS:1500MPa以上で、かつ強度−伸びバランスTS×Elが27000MPa%以上で、かつ−40℃でのシャルピー衝撃試験の衝撃値vE−40が50J/cm2以上となる、加工性および靭性に優れた高強度電縫鋼管およびその製造方法を提供することを目的とする。なお、自動車部品であるドライブシャフトやスタビライザーなどでは引張強さ:1500MPa以上の強度の材料が、また、ドライブシャフトではスウェージ加工が、スタビライザーでは曲げ加工が適用されるため、延性に優れた材料が要望されており、そのため、概ね、強度−伸びバランスTS×Elで27000MPa%以上となる材料(超高強度電縫鋼管)を目標とする。さらに、材質の均一性という観点から、電縫溶接部と母材部との特性差が少ない、具体的には母材部と電縫溶接部との硬度差がビッカース硬さで50ポイント以下となる、電縫鋼管を目的とする。さらに、高靭性という観点から、vE−40が50J/cm2以上となる靭性に優れた電縫鋼管を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、非調質鋼管における、強度および加工性に及ぼす各種要因について、鋭意研究した。その結果、適正範囲の組成に調整した電縫鋼管に、適正な縮径圧延を施し、冷却することにより、引張強さTS:1500MPa以上の高強度と、15%以上の伸び、vE−40:50J/cm2以上を有する加工性および靭性に優れた高強度電縫鋼管を製造できることを知見した。なお、その際の管組織は、ベイナイトを主体とし、第二相として、フェライトおよび/またはマルテンサイトを合計で面積%で0〜20%含有する組織であった。
【0011】
まず、本発明の基礎となった研究結果について説明する。
質量%で、C:0.31%、Si:0.2%、Mn:2.5%、P:0.01%、S:0.0010%、Al:0.03%、N:0.0025%、B:0.0020%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の電縫鋼管(外径89.1mmφ×肉厚7mm)を素材鋼管とした。なお、この素材鋼管のAc変態点は702℃、Ac変態点は750℃、Ar変態点は725℃である。
【0012】
そして、その素材鋼管を1000℃に加熱したのち、累積縮径率を50%とし、圧延終了温度を600〜850℃の範囲内で変化させて縮径圧延したのち、平均冷却速度:1.0℃/sで200℃以下まで冷却し、製品管(外径42.7mmφ×肉厚7mm)とした。
得られた製品管について、組織観察、引張試験および衝撃試験を実施した。試験方法はつぎのとおりとした。
(1)組織観察
得られた製品管から、組織観察用試験片を採取し、円周方向断面を研磨し、ナイタール腐食して、走査型電子顕微鏡(倍率:2000倍)を用いて、組織を観察し、組織の種類を判別した。
(2)引張試験
得られた製品管から、引張方向が管長手方向となるように、JIS 1号試験片(管状試験片:GL50mm)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、引張特性(引張強さTS、伸びEl)を求めた。
(3)衝撃試験
得られた製品管の肉厚中央位置から、管長手方向が試験片の長さ方向に一致するように、JIS Z 2242に準拠して、Vノッチシャルピー衝撃試験片(3mm厚)を採取した。試験温度:−40℃で試験し、衝撃値vE−40(J/cm)を求めた。試験は各3本実施し、その平均をその製品管の衝撃値とした。
【0013】
得られた結果を、引張強さTS、伸びElと縮径圧延終了温度との関係で図1に示す。そして、この結果からTS×Elを算出し、TS×Elと縮径圧延終了温度との関係で図2に示す。また、試験温度:−40℃での衝撃値vE−40を縮径圧延終了温度との関係で図3に示す。
図1から、引張強さTS:1500MPa以上の高強度を確保することができるのは、縮径圧延終了温度が650℃以上であり、伸びElは15%以上となることを知見した。また、図2から、縮径圧延終了温度が650℃以上であれば、強度−伸びバランスTS×Elが27000MPa%以上を確保できることを見出した。図3から、縮径圧延終了温度がAr変態点以上であればvE−40:50J/cm以上を確保できることを見出した。
【0014】
縮径圧延終了温度がAr変態点未満では、組織がフェライトとマルテンサイトの二相組織となり、靭性が著しく低下し、さらに650℃未満の縮径圧延終了温度では、フェライト分率が高くなるため、所望の高強度(TS:1500MPa以上)を確保できていない。また、縮径圧延終了温度が900℃を超えた温度域の場合には、結晶粒が拡大化し、靭性が低下するとともに、製品管の表面性状が低下し、生産性も低下する。このため、縮径圧延終了温度を900℃以下とすることが好ましいことも知見した。
【0015】
このようなことから、本発明者らは、素材鋼管(電縫鋼管)を、とくに、質量%で、C:0.31〜0.50%、Mn:1.0〜4.0%、B:0.0003〜0.0050%、Al:0.1%以下、N:0.0010〜0.0100%、あるいはさらにTi:0.01〜0.1%を含有する組成の鋼管とし、該鋼管に、Ac変態点以上に加熱・均熱したのち、圧延終了温度:(Ar変態点)以上900℃以下、900℃以下の温度域での累積縮径率:20〜75%である縮径圧延を施すことが、非調質で、引張強さTS:1500MPa以上で、かつ強度−伸びバランスTS×Elが27000MPa%以上で、−40℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm以上となる、加工性および低温靭性に優れた高強度電縫鋼管を製造するために、有効であることを見出した。
【0016】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)質量%で、C:0.31〜0.50%、Si:0.01〜1.0%、Mn:1.0〜4.0%、Al:0.1%以下、N:0.0010〜0.0100%、B:0.0003〜0.0050%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、ベイナイトを主相とし、第二相としてマルテンサイトおよび/またはフェライトを合計で、面積率で0〜20%含む組織とを有し、引張強さTSが1500MPa以上で、かつ強度−伸びバランスTS×Elが27000MPa%以上、−40℃でのシャルピー衝撃試験の衝撃値がvE−40:50J/cmであり、さらに母材部と電縫溶接部の硬さの差ΔHVが50ポイント以下であることを特徴とする加工性および低温靭性に優れた中空部材用超高強度電縫鋼管。
【0017】
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.1%以下を含有することを特徴とする中空部材用超高強度電縫鋼管。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1%以下、Cr:1%以下、Mo:2.0%以下、Ni:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする中空部材用超高強度電縫鋼管。
【0018】
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、W:2.0%以下、V:1.0%以下、Nb:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする中空部材用超高強度電縫鋼管。
(5)電縫鋼管を素材鋼管とし、該素材鋼管に縮径圧延を施して製品鋼管とする電縫鋼管の製造方法であって、前記素材鋼管を、質量%で、C:0.31〜0.50%、Si:0.01〜1.0%、Mn:1.0〜4.0%、Al:0.1%以下、N:0.0010〜0.0100%、B:0.0003〜0.0050%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の電縫鋼管とし、前記縮径圧延を、Ac変態点以上に加熱・均熱したのち、圧延終了温度:Ar変態点以上900℃以下とし、900℃以下の温度域での累積縮径率:20〜75%である縮径圧延とすることを特徴とする加工性および低温靭性に優れた中空部材用超高強度電縫鋼管の製造方法。
【0019】
(6)(5)において、前記組成に加えてさらに、質量%でTi:0.1%以下を含有することを特徴とする中空部材用超高強度電縫鋼管の製造方法。
(7)(5)または(6)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1%以下、Cr:1%以下、Mo:2.0%以下、Ni:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする中空部材用超高強度電縫鋼管の製造方法。
【0020】
(8)(5)ないし(7)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、W:2.0%以下、V:1.0%以下、Nb:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする中空部材用超高強度電縫鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、焼入れ処理等の熱処理を施すことなく非調質で、引張強さ:1500MPa以上の高強度で、かつ強度−伸びバランスTS×Elが27000MPa%以上でvE−40が50J/cmとなる、優れた延性を有し、加工性および低温靭性に優れた超高強度電縫鋼管を容易に、しかも安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。
また、本発明によれば、母材部と電縫溶接部の硬さの差ΔHVが50HV以下と小さく均質な電縫鋼管が得られ、安定してドライブシャフト、スタビライザー等の自動車部品用中空部材に適用することが可能となり、自動車車体の軽量化に寄与し、地球環境の保全に貢献できるという効果もある。また、本発明電縫鋼管は、低温靭性に優れているため、寒冷地仕様の自動車用部材として安心して適用できるという効果もある。また、自動車用部材以外にも、機械構造用部材、土木建築構造物用部材に適用できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】引張強さTSと伸びElに及ぼす縮径圧延終了温度の影響を示すグラフである。
【図2】強度−伸びバランスTS×Elと縮径圧延終了温度との関係を示すグラフである。
【図3】シャルピー衝撃値vE−40と縮径圧延終了温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明超高強度電縫鋼管の組成限定の理由について説明する。以下、とくに断わらない限り、質量%は単に%で記す。
C:0.31〜0.50%
Cは、鋼の強度を増加させる作用を有し、所望の強度を確保するために重要な元素である。このような効果を得るためには、0.31%以上の含有を必要とする。一方、0.50%を超える含有は、電縫溶接性や加工性を顕著に低下させる。このため、Cは0.31〜0.50%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.31〜0.40%である。
【0024】
Si:0.01〜1.0%
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶して強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、1.0%を超える含有は、加工性、焼入れ性を低下させる。このため、Siは0.01〜1.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.5%である。
【0025】
Mn:1.0〜4.0%
Mnは、焼入れ性を向上させるとともに、固溶して強度増加に寄与する元素であリ、所望の高強度を確保するためには、1.0%以上の含有を必要とする。一方、4.0%を超える含有は、加工性を低下するとともに、電縫溶接部の品質を低下させる。このため、Mnは1.0〜4.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは2.0〜3.0%である。
【0026】
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として有効に作用するとともに、焼入れ加熱時のオーステナイト粒の成長を抑制し、焼入れ後の強度の確保に有効な元素である。このような効果を得るためには0.001%以上含有することが望ましい。一方、0.1%を超えて含有すると、アルミナ系介在物が増加し、表面性状を低下させるとともに、疲労強度の低下を招く。このため、Alは0.1%以下に限定した。なお、好ましくは0.001〜0.06%である。
【0027】
N:0.0010〜0.0100%
Nは、Alと結合してAlNを形成し、加熱時に、結晶粒の成長を抑制し、結晶粒の微細化に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.0010%以上の含有を必要とする。一方、0.0100%を超えて過剰に含有すると、Bと結合してBNを形成するため、固溶B量が減少し、Bが有する焼入れ性向上効果が低減する。このため、Nは0.0010〜0.0100%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.0010〜0.0080%である。
【0028】
B:0.0003〜0.0050%
Bは、粒界に偏析して少量の含有で鋼の焼入れ性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、0.0003%以上の含有を必要とする。一方、0.0050%を超えて含有しても、効果が飽和し含有量に見合う効果を期待できないため、経済的に不利となるうえ、粒界に多量に偏析して粒界破壊を促進し、疲労強度を低下させる。このため、Bは0.0003〜0.0050%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.0010〜0.0030%である。
【0029】
上記した成分が基本の成分であるが、これら基本の組成に加えて、選択元素として、Ti:0.1%以下、および/または、Cu:1%以下、Cr:1%以下、Mo:2.0%以下、Ni:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、W:2.0%以下、V:1.0%以下、Nb:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、を選択して含有できる。
【0030】
Ti:0.1%以下
Tiは、鋼中のNと結合し、窒化物(TiN)を形成してNを固定するとともに、熱処理時の結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.1%を超えて含有すると、加工性、靭性が低下する。このため、含有する場合には、Tiは0.1%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.01〜0.05%である。
【0031】
Cu:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:2.0%以下、Ni:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上のうちから選ばれた1種または2種
Cu、Cr、Mo、Niはいずれも、焼入れ性向上を介して鋼の強度増加に寄与し、疲労強度を高める作用を有する元素であり、必要に応じて1種または2種以上を選択して含有できる。このような効果を得るためには、Cu:0.01%以上、Cr:0.01%以上、Mo:0.01%以上、Ni:0.01%以上をそれぞれ含有することが望ましいが、Cu:1.0%、Cr:1.0%、Mo:2.0%、Ni:2.0%をそれぞれ超える含有は、加工性を著しく低下させる。このため、含有する場合には、Cu:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:2.0%以下、Ni:2.0%以下にそれぞれ限定することが好ましい。なお、より好ましくは、Cu:0.05〜0.5%、Cr:0.05〜0.5%、Mo:0.05〜0.5%、Ni:0.05〜0.5%である。
【0032】
W:2.0%以下、V:1.0%以下、Nb:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
W、V、Nbは、いずれも、炭化物を形成し、鋼の強度を増加させる元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上を含有できる。このような効果を得るためには、W:0.01%以上、V:0.01%以上、Nb:0.01%以上をそれぞれ含有することが望ましいが、W:2.0%、V:1.0%、Nb:0.1%をそれぞれ超えて含有しても、効果が飽和するうえ、加工性が著しく低下する。このため、含有する場合には、W:2.0%以下、V:1.0%以下、Nb:0.1%以下にそれぞれ限定することが好ましい。なお、より好ましくは、W:0.05〜0.5%、V:0.05〜0.5%、Nb:0.001〜0.05%である。
【0033】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、P:0.03%以下、S:0.02%以下、O:0.01%以下が許容できる。
つぎに、本発明超高強度電縫鋼管の組織限定の理由について説明する。
本発明超高強度電縫鋼管は、ベイナイトを主相とし、第二相としてマルテンサイトおよび/またはフェライトを合計で、面積率で0〜20%含む組織を有する。
【0034】
ベイナイトを主相とすることにより、所望の高強度を確保できるようになる。
主相以外の第二相は、合計で面積率で0〜20%とする。第二相の合計で20%を超えて多くなると、第二相がフェライトの場合には、強度が低下し、所望の高強度を確保できなくなる。一方、第二相がマルテンサイトの場合には延性が低下するとともに、低温靭性が低下する。このため、第二相は、合計で20%以下に限定した。第二相としては、マルテンサイトおよび/またはフェライトとする。
【0035】
つぎに、本発明超高強度電縫鋼管の好ましい製造方法について説明する。
まず、素材鋼管として、上記した組成を有する電縫鋼管を用意し、素材鋼管に縮径圧延を施して製品鋼管とする。
素材鋼管として使用する電縫鋼管は、通常、鋼帯を、連続的にロール成形し、略円筒状のオープン管とし、該オープン管の端部同士を電縫溶接して製造される。使用する鋼帯は、上記した組成を有する熱延鋼帯とすることが、経済性の点から好ましいが、冷延鋼帯でもなんら問題はない。
【0036】
素材鋼管を、Ac変態点以上、望ましくは1100℃以下の加熱温度に加熱し、均熱する。加熱温度がAc変態点未満では、電縫溶接部の硬さ低下が不十分となり、母材部との硬さ差をビッカース硬さで50ポイント以下とすることができなくなり、さらに、電縫溶接部の低炭素域における復炭が不十分であるため、電縫溶接部の靭性改善が得られないうえ、管全体での材質の均一性を確保できなくなる。一方、加熱温度が1100℃を超える高温となると、鋼管の表面性状が低下する。なお、加熱温度での保持時間(均熱時間)は0.1〜5min程度とすることが表面肌、材質均一性の観点から好ましい。
【0037】
加熱後、素材鋼管には、縮径圧延が施される。
縮径圧延は、圧延終了温度:900℃〜Ar3変態点とし、900℃以下の温度域での累積縮径率:20〜75%とする圧延とする。
鋼管表面温度で、圧延終了温度が、900℃を超えて高温では、表面性状が低下する。一方、Ar3変態点未満では、ベイナイト分率が低下し、所望の高強度、高靭性が得られない。このため、縮径圧延の圧延終了温度を900℃〜Ar3変態点の範囲に限定することが好ましい。
【0038】
また、900℃以下の温度域での累積縮径率が20%未満では、加工量が少なすぎて所望の高強度を確保できない。一方、75%を超えると、過度に加工硬化して延性が低下するうえ、生産性が低下する。このため、900℃以下の温度域での累積縮径率を20〜75%に限定することが好ましい。
縮径圧延を終了したのち、管は冷却される。冷却条件はとくに限定する必要はないが、低温靭性向上という観点からは平均冷却速度で0.5℃/s以上10℃/s以下で400℃以下まで冷却することが好ましい。冷却速度(肉厚中心で)が0.5℃/s未満では、フェライト分率が増加し、所望の強度が確保できなくなる。一方、10℃/sを超えるとマルテンサイト分率が増加し、Elの低下が著しくなるため、所望のTS×El値が得られなくなる。
【0039】
上記した組成の素材鋼管に、上記した製造方法を適用すれば、引張強さTSが1500MPa以上、かつ強度−伸びバランスTS×Elが27000MPa%以上であり、さらに母材部と電縫溶接部の硬さの差ΔHVが50ポイント以下、−40でのシャルピー衝撃値vE−40が50J/cm以上である、加工性および低温靭性に優れた超高強度電縫鋼管を容易に得ることができる。
以下、実施例に基づいて、さらに本発明について説明する。
【実施例】
【0040】
表1に示す組成を有する熱延鋼帯(板厚:7.0mm)に、連続的にロール成形し、略円筒状のオープン管とし、該オープン管の端部同士を電縫溶接する造管工程を施して、電縫鋼管(外径:89.1mmφ×肉厚7.0mm)とし、素材鋼管とした。
これら素材鋼管に、表2に示す条件で、縮径圧延を施し、製品鋼管(外径22.2〜69.2mm×肉厚7.0mm)とした。なお、一部の鋼管では、縮径圧延なしの場合を試験し、比較例とした。
【0041】
得られた鋼管について、組織観察、引張試験、硬さ測定、衝撃試験を行なった。試験方法はつぎのとおりとした。
(1)組織観察
得られた製品鋼管から組織観察用試験片を採取し、円周方向断面を研磨し、ナイタール腐食して、走査型電子顕微鏡(倍率:2000倍)を用いて、組織を観察し、組織の種類を判別した。
(2)引張試験
得られた製品鋼管から、引張方向が管長手方向となるように、JIS 11号試験片(管状試験片:GL50mm)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、引張特性(引張強さTS、伸びEl)を求めた。
(3)硬さ試験
得られた製品鋼管から、電縫溶接部を含む硬さ測定用試験片を採取し、硬さ分布を測定した。硬さ測定は、ビッカース硬度計(試験力:4.9N)を用いて、管円周方向断面について、母材部から電縫溶接部を含み管円周方向に沿って、0.1mmピッチで測定した。測定位置は、中心偏析を避けた肉厚中央部に近い部分とし、電縫溶接部を中心に片方5mmの範囲とした。得られた結果から、母材部の平均硬さHVと、電縫溶接部の平均硬さHVを求め、電縫溶接部の平均硬さと母材部の平均硬さとの差ΔHVを求めた。
(4)衝撃試験
得られた製品鋼管の肉厚中央から、JIS Z 2242に準拠して、試片長手方向が管軸方向となるように3mm厚のシャルピー衝撃試験片(Vノッチ)を母材部、電縫溶接部から採取し、シャルピー衝撃試験を実施した。なお、電縫溶接部では、Vノッチ底が電縫部に位置するようにノッチ加工を行った。試験温度は−40℃とし、各鋼管各位置3本ずつ試験し、その算術平均値をその鋼管各位置の衝撃値とした。
得られた結果を表3に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
本発明例はいずれも、焼入れ処理を施すことなく非調質で、引張強さ:1500MPa以上の高強度で、かつ強度−伸びバランスTS×Elが27000MPa%以上と延性に優れ、加工性に優れ、さらに電縫溶接部の平均硬さと母材部の平均硬さとの差ΔHVが50ポイント以下と、管円周方向の均質性にも優れ、かつ−40℃でのシャルピー衝撃値vE−40が50J/cm以上と低温靭性にも優れた、加工性および低温靭性に優れた超高強度電縫鋼管となっている。
【0046】
一方、本発明の範囲を外れる比較例は、所望の高強度が確保できていないか、伸びが不足し、所望の強度−伸びバランスが確保できていないか、電縫溶接部の平均硬さと母材部の平均硬さとの差ΔHVが大きく、管円周方向の均質性が低下しているか、vE−40が50J/cm未満と低温靭性が低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.31〜0.50%、 Si:0.01〜1.0%、
Mn:1.0〜4.0%、 Al:0.1%以下、
N:0.0010〜0.0100%、 B:0.0003〜0.0050%、
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、ベイナイトを主相とし、第二相としてマルテンサイトおよび/またはフェライトを合計で、面積率で0〜20%含む組織とを有し、引張強さTSが1500MPa以上で、かつ強度−伸びバランスTS×Elが27000MPa%以上であり、さらに母材部と電縫溶接部の硬さの差ΔHVが50HV以下であり、−40℃でのシャルピー衝撃値がvE−40が50J/cm以上であることを特徴とする加工性および低温靭性に優れた中空部材用超高強度電縫鋼管。
【請求項2】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.1%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の中空部材用超高強度電縫鋼管。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1%以下、Cr:1%以下、Mo:2.0%以下、Ni:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の中空部材用超高強度電縫鋼管。
【請求項4】
W:2.0%以下、V:1.0%以下、Nb:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の中空部材用超高強度電縫鋼管。
【請求項5】
電縫鋼管を素材鋼管とし、該素材鋼管に縮径圧延を施して製品鋼管とする電縫鋼管の製造方法であって、前記素材鋼管を、質量%で、
C:0.31〜0.50%、 Si:0.01〜1.0%、
Mn:1.0〜4.0%、 Al:0.1%以下、
N:0.0010〜0.0100%、 B:0.0003〜0.0050%、
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の電縫鋼管とし、
前記縮径圧延を、Ac変態点以上に加熱・均熱したのち、圧延終了温度:Ar変態点以上900℃以下、900℃以下の温度域での累積縮径率:20〜75%である縮径圧延とする
ことを特徴とする加工性および低温靭性に優れた中空部材用超高強度電縫鋼管の製造方法。
【請求項6】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.1%以下を含有することを特徴とする請求項5に記載の中空部材用超高強度電縫鋼管の製造方法。
【請求項7】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1%以下、Cr:1%以下、Mo:2.0%以下、Ni:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項5または6に記載の中空部材用超高強度電縫鋼管の製造方法。
【請求項8】
前記組成に加えてさらに、質量%で、W:2.0%以下、V:1.0%以下、Nb:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の中空部材用超高強度電縫鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−224900(P2012−224900A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92553(P2011−92553)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】