説明

加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法

【課題】高強度(590MPa以上の引張強度TS)を有し、加工性に優れ、かつプレス加工による歪の導入がなくても、5%程度の低歪域までの吸収エネルギーが大きく、耐衝突特性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】成分組成は、質量%でC:0.04%以上0.13%以下、Si:0.7%以上2.3%以下、Mn:0.8%以上2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以上0.1%以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、組織は、面積率で、75%以上のフェライト相と1%以上のベイニティックフェライト相と1%以上10%以下のパーライト相を有し、さらに、マルテンサイト相の面積率が10%以下であり、かつ、マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)≦0.6を満たし、かつフェライト相中のMn濃度と第2相中のMn濃度の比が0.70以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用鋼板としての用途に用いる、耐衝撃特性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全の見地から、自動車の燃費向上が重要な課題となっている。このため、車体材料の高強度化により薄肉化を図り、車体そのものを軽量化しようとする動きが活発となってきている。しかしながら、鋼板の高強度化は延性の低下、即ち成形加工性の低下を招くことから、高強度と高加工性を併せ持つ材料の開発が望まれている。また、自動車の衝突時に各部位が受ける歪速度は10/s程度に達するため、このような高速度域での耐衝撃特性が特に重要となる。さらには、最近の自動車への耐食性向上の要求の高まりも加味して、溶融亜鉛めっきを施した高張力鋼板の開発が多く行われてきている。さらに、プレス性、スポット溶接性および塗料密着性を確保するために、めっき後に熱処理を施してめっき層中に鋼板のFeを拡散させた、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が多く使用されている。
【0003】
このような要求に対して加工性と耐衝撃吸収特性に優れる高強度鋼板としては特許文献1に開示されているようなフェライトとマルテンサイトの複合組織からなる二相組織鋼板(DP鋼板)が代表的である。しかし、本来降伏強度が低いDP鋼板が高い衝撃吸収能を示すのは、プレス加工による加工硬化が大きいこと、および加工歪が入るとそれに続く塗装焼付け工程で歪時効を生じて降伏強度が大きく上昇することがその理由であり、曲げ加工など加工量の小さな部品では必ずしも十分な衝撃吸収能を発揮しないという問題があった。さらに、DP鋼では10〜30%程度の高い歪域までの衝撃吸収エネルギーが高く耐衝撃特性に優れるという特徴があり、前面衝突部位など衝突時にある程度変形して衝突エネルギーを吸収する部位には適しているが、側面衝突部位のように乗員空間確保の観点から小さい歪域で高い吸収エネルギーが必要となる部位に対しては特性を十分満足しているとは言えなかった。
【0004】
また、特許文献2では残留γの塑性誘起変態を利用したTRIP鋼において、耐衝撃特性を向上させる技術が開示されているが、上記DP鋼と同様の問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−213369号公報
【特許文献2】特開2001−335891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高強度(590MPa以上の引張強度TS)を有し、加工性に優れ、かつプレス加工による歪の導入がなくても、5%程度の低歪域までの吸収エネルギーが大きく、耐衝突特性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題を達成し、加工性および耐衝撃特性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造するため、鋼板の組成およびミクロ組織の観点から鋭意研究を重ねた。その結果、主相がフェライトで、第2相にベイニティックフェライト、マルテンサイトおよびパーライトを含む組織とし、マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)≦0.6を満たし、さらにフェライト相中のMn濃度と第2相中のMn濃度の比を0.70以上とすることにより、高い加工性と耐衝撃特性が得られることが分かった。
【0008】
加工性の向上はSiの活用による主相であるフェライトの加工硬化能向上による延性の向上と、ベイニティックフェライトやパーライトの活用による、軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトの硬度差緩和による穴拡げ性の向上により可能となった。
【0009】
また、通常Mnは熱延時や焼鈍時に第2相に濃化し、鋼中で分布が生じることが知られているが、熱延での巻取り温度を低温とし、かつ焼鈍時の均熱時間を適正にすることにより、鋼中におけるMnの分布を均一にし、フェライト相中のMn濃度と第2相中のMn濃度の比を0.70以上とすることにより、プレス加工による歪の導入がなくても、5%程度の低歪域までの吸収エネルギーが大きく、耐衝突特性の向上が可能となる。
【0010】
本発明は、上記した知見に基づいて構成されたものである。
すなわち本発明は、
(1)成分組成は、質量%でC:0.04%以上0.13%以下、Si:0.7%以上2.3%以下、Mn:0.8%以上2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以上0.1%以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、組織は、面積率で、75%以上のフェライト相と1%以上のベイニティックフェライト相と1%以上10%以下のパーライト相を有し、さらに、マルテンサイト相の面積率が10%以下であり、かつ、
マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)≦0.6を満たし、かつフェライト相中のMn濃度と第2相中のMn濃度の比が0.70以上であることを特徴とする加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0011】
(2)さらに、成分組成として、質量%で、Cr:0.05%以上1.0%以下、V:0.005%以上0.5%以下、Mo:0.005%以上0.5%以下から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする(1)に記載の加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0012】
(3)さらに、成分組成として、質量%で、Ti:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.1%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.05%以上1.0%以下、Cu:0.05%以上1.0%以下から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0013】
(4)さらに、成分組成として、質量%で、Ca:0.001%以上0.005%以下、REM:0.001%以上0.005%以下から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0014】
(5)さらに、成分組成として、質量%で、Ta:0.001%以上0.010%以下、Sn:0.002%以上0.2%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0015】
(6)さらに、成分組成として、質量%で、Sb:0.002%以上0.2%以下を含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0016】
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の成分組成を有する鋼スラブに、熱間圧延を施した後、300℃以上570℃以下の温度で巻取り製造した熱延板を酸洗し、またはさらに冷間圧延し、その後、750〜900℃の温度域で、t:保持時間(s)が下式;
15≦t≦47.6×10−10/exp(−27016/(T+273))
T:焼鈍温度(℃)
を満たす条件で焼鈍した後、冷却し、450〜550℃の温度域で10〜200s保持し、次いで、溶融亜鉛めっきを施し、またはさらに500〜600℃の温度域において、Tave:平均保持温度(℃)とth:保持時間(s)が下式;
0.45≦exp[200/(400−Tave)]×ln(th)≦1.0
を満たす条件で亜鉛めっきの合金化処理を施すことを特徴とする加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば加工性に優れ、かつプレス加工による歪の導入がなくても、5%程度の低歪域までの吸収エネルギーが大きく、耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られ、自動車の軽量化と衝突安全性向上との両立を可能とし、自動車車体の高性能化に大きく寄与するという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0019】
まず、本発明において鋼の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
【0020】
C:0.04%以上0.13%以下
Cはオーステナイトを安定化させる元素であり、フェライト以外の相を生成しやすくするため、鋼板強度の上昇に必要な元素である。C量が0.04%未満では製造条件の最適化を図ったとしても所望の強度確保が難しい。一方、C量が0.13%を超えると、フェライト相が減少して鋼板の加工性が低下し、さらに溶接部および熱影響部の硬化が著しく、溶接部の機械的特性が劣化する。こうした観点からC量を0.04%以上0.13%以下とする。
【0021】
Si:0.7%以上2.3%以下
Siはフェライト生成元素であり、また、固溶強化に有効な元素でもある。そして、強度と延性のバランスの改善およびフェライトの硬度確保のためには0.7%以上の添加が必要である。しかしながら、2.3%を超えるSiの過剰な添加は、赤スケール等の発生により表面性状の劣化や、めっき付着・密着性の劣化を引き起こす。よって、Siは0.7%以上2.3%以下とする。好ましくは、1.2%以上1.8%以下である。
【0022】
Mn:0.8%以上2.0%以下
Mnは、鋼の強化に有効な元素である。また、オーステナイトを安定化させる元素であり、第2相の分率調整に必要な元素である。このため、Mnは0.8%以上の添加が必要である。一方、2.0%を超えて過剰に添加すると、第2相中のマルテンサイト面積率が増加し、伸びフランジ性が低下する。従って、Mnは0.8%以上2.0%以下とする。好ましくは1.0%以上1.8%以下である。
【0023】
P:0.1%以下
Pは、鋼の強化に有効な元素であるが、0.1%を超えて過剰に添加すると、粒界偏析により脆化を引き起こし、耐衝撃性を劣化させる。また0.1%を超えると合金化速度を大幅に遅延させる。従って、Pは0.1%以下とする。
【0024】
S:0.01%以下
Sは、MnSなどの介在物となって、耐衝撃性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となるので極力低い方がよいが、製造コストの面からSは0.01%以下とする。
【0025】
Al:0.01%以上0.1%以下
Alは脱酸剤として作用し、鋼の清浄度に有効な元素であり、脱酸工程で添加することが好ましい。ここに、Al量が0.01%に満たないとその添加効果に乏しくなるので、下限を0.01%とした。しかしながら、Alの過剰な添加は製鋼時におけるスラブ品質を劣化させる。従って、Alは0.1%以下とする。
【0026】
本発明における高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、上記の成分組成を基本成分とし、残部は鉄および不可避的不純物からなるが、所望の特性に応じて、以下に述べる元素から選ばれる少なくとも1種の元素を適宜含有させることができる。
【0027】
Cr:0.05%以上1.0%以下、V:0.005%以上0.5%以下、Mo:0.005%以上0.5%以下
Cr、V、Moは焼き入れ性を上げ、鋼の強化に有効な元素である。その効果は、Cr:0.05%以上、V:0.005%以上、Mo:0.005%以上で得られる。しかしながら、それぞれCr:1.0%、V:0.5%、Mo:0.5%を超えて過剰に添加すると、第2相分率が過大となり加工性の低下の懸念が生じる。従って、これらの元素を添加する場合には、その量をそれぞれCr:0.05%以上1.0%以下、V:0.005%以上0.5%以下、Mo:0.005%以上0.5%以下とする。
【0028】
更に、下記のTi、Nb、B、Ni、Cuのうちから1種以上の元素を含有することができる。
【0029】
Ti:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.1%以下
Ti、Nbは鋼の析出強化に有効で、その効果はそれぞれ0.01%以上で得られ、本発明で規定した範囲内であれば鋼の強化に使用して差し支えない。しかし、それぞれが0.1%を超えると加工性が低下する。従って、Ti、Nbを添加する場合には,その添加量をTiは0.01%以上0.1%以下、Nbは0.01%以上0.1%以下とする。
【0030】
B:0.0003%以上0.0050%以下
Bはオーステナイト粒界からのフェライトの生成・成長を抑制する作用を有するので必要に応じて添加することができる。その効果は,0.0003%以上で得られる。しかし、0.0050%を超えると加工性が低下する。従って、Bを添加する場合は0.0003%以上0.0050%以下とする。
【0031】
Ni:0.05%以上1.0%以下、Cu:0.05%以上1.0%以下
Ni、Cuは鋼の強化に有効な元素であり、本発明で規定した範囲内であれば鋼の強化に使用して差し支えない。これらの効果を得るためには,それぞれ0.05%以上必要である。一方、Ni、Cuともに1.0%を超えて添加すると、鋼板の加工性を低下させる。よって、Ni、Cuを添加する場合に、その添加量はそれぞれ0.05%以上1.0%以下とする。
【0032】
更に、下記のCa、REMのうちから1種以上の元素を含有することができる。
【0033】
Ca:0.001%以上0.005%以下、REM:0.001%以上0.005%以下
CaおよびREMは、硫化物の形状を球状化し穴拡げ性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。この効果を得るためには、それぞれ0.001%以上必要である。しかしながら、0.005%を超える過剰な添加は,介在物等の増加を引き起こし表面および内部欠陥などを引き起こす。したがって、Ca、REMを添加する場合は、その添加量はそれぞれ0.001%以上0.005%以下とする。
【0034】
更に、下記のTa、Snのうちから1種以上の元素を含有することができる。
【0035】
Ta:0.001〜0.010%、Sn:0.002〜0.2%
Taは、TiやNbと同様、合金炭化物や合金炭窒化物を形成して高強度化に寄与するのみならず、Nb炭化物やNb炭窒化物に一部固溶し、(Nb,Ta)(C,N)のような複合析出物を形成することで、析出物の粗大化を著しく抑制して、析出強化による強度への寄与を安定化させる効果があると考えられる。そのため、Taを添加する場合は、その含有量を0.001%以上とすることが望ましい。しかし、過剰に添加した場合、上記の析出物安定化効果が飽和するのみならず、合金コストが上昇するため、Taを添加する場合は、その含有量を0.010%以下とすることが望ましい。
【0036】
Snは、鋼板表面の窒化、酸化、あるいは酸化により生じる鋼板表層の数10μm領域の脱炭を抑制する観点から添加することができる。このような窒化や酸化を抑制することで鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止し、疲労特性や耐時効性を改善させる。窒化や酸化を抑制する観点から、Snを添加する場合は、その含有量は0.002%以上とすることが望ましく、0.2%を超えると靭性の低下を招くため、その含有量を0.2%以下とすることが望ましい。
【0037】
更に、下記のSbを含有することができる。
【0038】
Sb:0.002〜0.2%
SbもSnと同様に鋼板表面の窒化、酸化、あるいは酸化により生じる鋼板表層の数10μm領域の脱炭を抑制する観点から添加することができる。このような窒化や酸化を抑制することで鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止し、疲労特性や耐時効性を改善させる。窒化や酸化を抑制する観点から、Sbを添加する場合は、その含有量は0.002%以上とすることが望ましく、0.2%を超えると靭性の低下を招くため、その含有量を0.2%以下とすることが望ましい。
【0039】
次に鋼組織について説明する。
【0040】
フェライト相の面積率:75%以上
良好な延性を確保するためには、フェライト相は面積率で75%以上必要である。
【0041】
ベイニティックフェライト相の面積率:1%以上
良好な穴拡げ性の確保のため、即ち軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトの硬度差を緩和させるために、ベイニティックフェライト相の面積率は1%以上必要である。
【0042】
パーライト相の面積率:1%以上10%以下
良好な穴拡げ性の確保のため、パーライト相の面積率が1%以上とする。パーライト相の面積率が10%を超えると延性(TS×EL)が低下する。したがって、パーライト相の面積率は1%以上10%以下とする。
【0043】
マルテンサイト相の面積率:10%以下
マルテンサイト相の面積率が10%を超えると伸びフランジ性の低下が顕著となる。したがって、マルテンサイト相の面積率は10%以下とする。
【0044】
マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)≦0.6
マルテンサイトはフェライトとの強度差が大きく伸びフランジ性を低下させるが、ベイニティックフェライトおよびパーライトと共存させ、マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)≦0.6とすることにより、マルテンサイトによる穴拡げ性の低下を抑制することが可能となる。したがって、マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)≦0.6とする。
【0045】
なお、フェライト・ベイニティックフェライト・パーライト・マルテンサイト以外に、残留オーステナイトや焼戻しマルテンサイトやセメンタイト等の炭化物が生成する場合があるが、上記のフェライト・ベイニティックフェライト・パーライト・マルテンサイトの面積率が満足されていれば、本発明の目的を達成できる。
【0046】
また、本発明におけるフェライト・ベイニティックフェライト・パーライト・マルテンサイトの面積率とは、観察面積に占める各相の面積割合のことである。
【0047】
ミクロ組織は、鋼板の圧延方向断面の板厚1/4部について、研磨後、3%ナイタールで腐食し、走査型電子顕微鏡を用いて倍率5000倍の視野で観察し、Media Cybernetics社のImage−Proを用いて各相の面積率を求めることができる。
【0048】
その際、マルテンサイトと残留オーステナイトの区別が困難なため、得られた溶融亜鉛めっき鋼板に200℃で2時間の焼戻し処理を施し、その後、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面の組織を上記の方法で観察し、上記の方法で求めた焼戻しマルテンサイト相の面積率をマルテンサイト相の面積率とした。
【0049】
また、残留オーステナイト相の含有量は、鋼板を板厚方向の1/4面まで研磨し、この板厚1/4面の回折X線強度により求めることができる。その際、入射X線にはCoKα線を使用し、残留オーステナイト相の{111}、{200}、{220}、{311}面とフェライト相の{110}、{200}、{211}面のピークの積分強度の全ての組み合わせについて強度比を求め、これらの平均値を残留オーステナイト相の含有量とし、その含有量を残留オーステナイトの面積率として扱うことができる。
【0050】
フェライト相中のMn濃度と第2相中のMn濃度の比(フェライト相中のMn濃度/第2相中のMn濃度)が0.70以上
鋼中におけるMnの分布を均一にすることにより、プレス加工による歪の導入がなくても、5%程度の低歪域までの吸収エネルギーが大きく、耐衝突特性の向上が可能となり、フェライト相中のMn濃度と第2相中のMn濃度の比を0.70以上とすることによりその効果が得られる。したがって、フェライト相中のMn濃度と第2相中のMn濃度の比を0.70以上とする。
【0051】
次に製造条件について説明する。
【0052】
上記の成分組成に調整した鋼を転炉などで溶製し、連続鋳造法等でスラブとする。この鋼スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とし、この熱延鋼板を酸洗し、あるいはさらに冷間圧延を施して冷延鋼板とする。酸洗した熱延鋼板あるいは冷延鋼板に連続焼鈍を施した後、溶融亜鉛めっき処理を施し、あるいはさらに亜鉛めっきの合金化処理を施す。各工程の限定理由を説明する。
【0053】
[熱間圧延条件]
巻取り温度:300℃以上570℃以下
熱間圧延後の巻取り温度が570℃を超えると、巻取り後に第2相へのMnの分配が促進され、最終組織でフェライト相中のMn濃度と第2相中のMn濃度の比を0.70以上とすることが困難となる。また巻取り温度が300℃未満では熱延板の形状が悪化したり、熱延板の強度が過度に上昇し冷間圧延が困難となる。従って、巻取り温度は300℃以上570℃以下とする。
【0054】
[連続焼鈍条件]
750〜900℃の温度域で下式を満す条件で焼鈍する。
15≦t≦47.6×10−10/exp(−27016/(T+273))
t:保持時間(s)
T:焼鈍温度(℃)
焼鈍温度が750℃未満の場合、または保持(焼鈍)時間が15s未満の場合は、焼鈍時のオーステナイトの生成が不十分となり、焼鈍冷却後に必要な量の低温変態相が確保できなくなる。一方、焼鈍温度が900℃を超えると、焼鈍時のオーステナイトが著しく増加し、焼鈍冷却後に必要な量のフェライトが確保できなくなる。また、保持時間が47.6×10−10/exp(−27016/(T+273))秒を超えると、焼鈍時のオーステナイト相へのMnの濃化が過度に進み、最終組織でフェライト相中のMn濃度と第2相中のMn濃度の比を0.70以上とすることが困難となる。
【0055】
焼鈍後冷却し、450〜550℃の温度域にて10〜200s保持する。
【0056】
保持温度が550℃を超える場合、または保持時間が10s未満の場合は、ベイナイト変態が促進せず、ベイニティックフェライトが殆ど得られないため、所望の穴拡げ性を得られない。また、保持温度が450℃未満もしくは保持時間が200sを超える場合、第2相の大半がベイナイト変態促進により生成した固溶炭素量の多いオーステナイトとベイニティックフェライトになり、所望のパーライト面積率が得られず、かつ、硬質なマルテンサイト面積率が増加し、良好な穴拡げ性と材質安定性が得られない。
【0057】
上記の保持を行なった後、実使用時の防錆能向上を目的として、表面に溶融亜鉛めっき処理を施す。
【0058】
プレス性、スポット溶接性および塗料密着性を確保するために、めっき後に熱処理を施してめっき層中に鋼板のFeを拡散させた、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が多く使用される。合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するときは、溶融亜鉛めっき後、さらに下記の条件で合金化処理を行う。
【0059】
[合金化処理条件]
500〜600℃の温度域において、Tave:平均保持温度(℃)、th:保持時間(s)が、下式;
0.45≦exp[200/(400−Tave)]×ln(th)≦1.0
を満たす条件でめっき層の合金化処理を行う。
なお、exp(X)、ln(X)はそれぞれXの指数関数、自然対数を示す。
【0060】
めっき層の合金化処理は、めっき層中に適正なFe%を得るために500〜600℃の範囲とする。
【0061】
exp[200/(400−Tave)]×ln(th)が0.45未満の場合、最終組織にマルテンサイトが多く存在し、上記硬質なマルテンサイトが軟質なフェライトと隣接しているため、異相間に大きな硬度差が生じ、穴拡げ性が低下する。exp[200/(400−Tave)]×ln(th)が1.0超の場合、未変態オーステナイトの殆どがセメンタイトもしくはパーライトに変態し、結果として所望の強度と延性のバランスが得られない。
【0062】
なお、本発明の製造方法における一連の熱処理においては、上述した温度範囲内であれば保持温度は一定である必要はなく、規定した範囲内であれば本発明の趣旨を損なわない。また、熱履歴さえ満足されれば、鋼板はいかなる設備で熱処理を施されてもかまわない。加えて、熱処理後に形状矯正のため本発明の鋼板に調質圧延をすることも本発明の範囲に含まれる。なお、本発明では、鋼素材を通常の製鋼、鋳造、熱延の各工程を経て製造する場合を想定しているが、例えば薄手鋳造などにより熱延工程の一部もしくは全部を省略して製造する場合でもよい。
【0063】
その他の製造方法は、特に限定するものではないが、好適な一例について以下に示す。
【0064】
[鋳造条件]
使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止するために連続鋳造法で製造するのが好ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、鋼スラブを製造したのち、いったん室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加え、室温まで冷却しないで、温片のままで加熱炉に挿入する、あるいはわずかの保熱をおこなった後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0065】
[熱間圧延条件]
スラブ加熱温度:1100℃以上
スラブ加熱温度は、低温加熱がエネルギー的には好ましいが、加熱温度が1100℃未満では、炭化物が十分に固溶できなかったり、圧延荷重の増大による熱間圧延時のトラブル発生の危険が増大するなどの問題が生じる。なお、酸化量の増加にともなうスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度は1300℃以下とすることが望ましい。
【0066】
なお、スラブ加熱温度を低くしても熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーを加熱する、いわゆるシートバーヒーターを活用してもよい。
【0067】
仕上げ圧延温度:Ar変態点以上
仕上げ圧延終了温度がAr変態点未満では、圧延中にαとγが生成して、鋼板にバンド状組織が生成し易くなり、かかるバンド状組織は冷間圧延後や焼鈍後にも残留し、材料特性に異方性を生じさせたり、加工性を低下させる原因となる場合がある。このため、仕上げ圧延温度はAr変態点以上とすることが望ましい。
【0068】
なお、本発明における熱延工程では、熱間圧延時の圧延荷重を低減するために仕上圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.25〜0.10の範囲とすることが好ましい。また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることが好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
【0069】
[冷間圧延条件]
ついで、冷間圧延を施す場合には、好ましくは熱延鋼板の表面の酸化スケールを酸洗により除去した後、冷間圧延に供して所定の板厚の冷延鋼板とする。ここに酸洗条件や冷間圧延条件は特に制限されるものではなく、常法に従えば良い。冷間圧延の圧下率は40%以上とすることが好ましい。
【0070】
[溶融亜鉛めっき条件]
めっき処理は0.08〜0.18%の溶解Al量のめっき浴で浴温440〜500℃のめっき浴で鋼板をめっき浴中に侵入させて行い、ガスワイピングなどで付着量を調整する。
なお、溶融亜鉛めっき処理後の鋼板には、形状矯正、表面粗度等の調整のため調質圧延を行ってもよい。また、樹脂あるいは油脂コーティング、各種塗装等の処理を施しても何ら不都合はない。
【実施例】
【0071】
表1に示す成分組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物(表1中、Nは不可避的不純物である)よりなる鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にて鋳片とした。得られた鋳片を表2及び表3に示す条件で板厚3.0mmに熱間圧延した。次いで、酸洗後、板厚1.4mmに冷間圧延し冷延鋼板を製造し焼鈍に供した。また一部、板厚2.3mmに熱間圧延した熱延鋼板を酸洗したものをそのまま焼鈍に供した。
【0072】
【表1】

【0073】
次いで、これら冷延鋼板あるいは熱延鋼板に、連続溶融亜鉛めっきラインにて、表2及び表3に示す条件で焼鈍とめっき処理を行った。めっき付着量は片面あたり35〜45g/mとした。
【0074】
得られた鋼板のミクロ組織、引張特性、伸びフランジ性および耐衝撃特性について調査を行い、その結果を表4及び表5に示した。
【0075】
なお、ミクロ組織は鋼板の圧延方向断面の板厚1/4部について、走査型電子顕微鏡を用いて倍率5000倍の視野で観察し、上述の方法により、各相の面積率を求めた。
【0076】
フェライト相と第2相中のMn濃度はEPMAにて0.1μm間隔でMnの線分析を行い測定した。各粒子のMn濃度の平均値をその粒のMn濃度とし、フェライト相と第2相それぞれ10粒子について測定し、その平均値をフェライト相および第2相のMn濃度とした。
【0077】
加工性は、延性、穴拡げ性(伸びフランジ性)を評価した。
【0078】
延性は、無加工の鋼板の圧延方向と直角方向から採取したJIS5号試験片を用いて、歪速度10−3/sで引張試験を行い、TS(引張強度)、EL(全伸び)を測定し、TS×EL≧19000MPa・%の場合を良好と判定した。
【0079】
伸びフランジ性は、日本鉄鋼連盟規格JFST1001に準拠して行った。得られた鋼板を100mm×100mmに切断後、板厚2.0mm以上はクリアランス12%±1%で、板厚2.0mm未満はクリアランス12%±2%で、直径10mmの穴を打ち抜いた後、内径75mmのダイスを用いてしわ押さえ力9tonで抑えた状態で、60°円錐のポンチを穴に押し込んで亀裂発生限界における穴直径を測定し、下記の式から、限界穴広げ率λ(%)を求め、この限界穴広げ率の値から伸びフランジ性を評価した。
限界穴広げ率λ(%)={(D−D)/D}×100
ただし、Dは亀裂発生時の穴径(mm)、Dは初期穴径(mm)である。
本発明では、λ≧70(%)の場合を良好と判定した。
【0080】
衝撃吸収特性は、無加工の鋼板の圧延方向と直角方向から採取した平行部の幅5mm、長さ7mmの試験片を用い、歪速度2000/sで引張試験を行ったときの歪量までの吸収エネルギーを求め(鉄と鋼、vol.83(1997)、p.748参照)、求めた吸収エネルギーと静的なTSとの比(AE/TS)で衝撃吸収特性を評価した。なお、吸収エネルギーは応力−真歪曲線を歪量0〜5%の範囲で積分することにより求めた。
【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【0085】
本発明例では、TSが590MPa以上で、延性、伸びフランジ性に優れ、また歪速度が2000/sで歪量が5%までの吸収エネルギーと静的なTSとの比(AE/TS)が0.050以上となり、高い歪速度での小さい歪域の加工で高い耐衝撃特性を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られている。これに対して、比較例では、前記AE/TSが0.050未満であることから高い歪速度での小さい歪域の加工で高い耐衝撃特性が劣るか、または延性、伸びフランジ性の少なくとも何れか一つの特性が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、加工性に優れ、優れた耐衝撃特性を有する。本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、自動車の前面衝突部位だけでなく側面衝突部位に適用する鋼板として利用でき、また曲げ加工など加工量の小さい部位に使用する鋼板としても利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成は、質量%でC:0.04%以上0.13%以下、Si:0.7%以上2.3%以下、Mn:0.8%以上2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以上0.1%以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、組織は、面積率で、75%以上のフェライト相と1%以上のベイニティックフェライト相と1%以上10%以下のパーライト相を有し、さらに、マルテンサイト相の面積率が10%以下であり、
かつ、マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)≦0.6を満たし、かつフェライト相中のMn濃度と第2相中のMn濃度の比が0.70以上であることを特徴とする加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
さらに、成分組成として、質量%で、Cr:0.05%以上1.0%以下、V:0.005%以上0.5%以下、Mo:0.005%以上0.5%以下から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
さらに、成分組成として、質量%で、Ti:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.1%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.05%以上1.0%以下、Cu:0.05%以上1.0%以下から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
さらに、成分組成として、質量%で、Ca:0.001%以上0.005%以下、REM:0.001%以上0.005%以下から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
さらに、成分組成として、質量%で、Ta:0.001%以上0.010%以下、Sn:0.002%以上0.2%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
さらに、成分組成として、質量%で、Sb:0.002%以上0.2%以下を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の成分組成を有する鋼スラブに、熱間圧延を施した後、300℃以上570℃以下の温度で巻取り製造した熱延板を酸洗し、またはさらに冷間圧延し、その後、750〜900℃の温度域で、t:保持時間(s)が下式;
15≦t≦47.6×10−10/exp(−27016/(T+273))
T:焼鈍温度(℃)
を満たす条件で焼鈍した後、冷却し、450〜550℃の温度域で10〜200s保持し、次いで、溶融亜鉛めっきを施し、またはさらに500〜600℃の温度域において、Tave:平均保持温度(℃)とth:保持時間(s)が下式;
0.45≦exp[200/(400−Tave)]×ln(th)≦1.0
を満たす条件で亜鉛めっきの合金化処理を施すことを特徴とする加工性および耐衝撃特性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2011−168876(P2011−168876A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262086(P2010−262086)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】