説明

加工油浄化システム

【課題】低コストでかつ効率良く再生後の加工油の清浄度が高まり、圧延油の場合には圧延製品の品質の向上も図れる加工油濾過システムを提供する。
【解決手段】使用済みの圧延油を粗分離機15の液体収容槽14に供給し、油と水の比重差を利用した重力分離により、該圧延油を粗分離する。次に、粗分離された圧延油を精密濾過機21の各濾過室18aに圧送し、ここで圧延油を濾材20に通して精密濾過する。よって、低コストでかつ効率良く再生後の圧延油の清浄度が高まり、圧延製品の品質の向上も図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加工油浄化システム、詳しくは使用済みの圧延油などの加工油を精密に濾過し、加工油に含まれているスカム、金属微粉、スラッジなどの不純物を高精度に除去する加工油浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムや銅のスラブは、圧延ローラを有した熱間圧延機による圧延工程で、所定厚さの薄肉板に加工される。その際、スラブを冷却およびローラの潤滑性を保つため、ソリブルオイルといわれる圧延油が多量に使用されている。使用済みの圧延油の再生には、圧延油の使用量が多いため大容量濾過機が必要で、現状では真空式の粗分離機(ホフマンフィルタ)が多く使用されている。
【0003】
一方、ユーザ側の要請にアルミニウムや銅製品の表面精度の向上があり、特にアルミニウムは熱間圧延における疵はその後の冷間圧延時には品質を確保できないという問題が生じる。しかしながら、上記のホフマンフィルタでは、スカム、金属微粉、スラッジなどの不純物の分離精度が低く、この要請に対応できない問題点がある。
【0004】
その対策として、精密濾過が可能な加圧式水平濾板型濾過機を使用し、再生された圧延油の清浄度を高めることが考えられる。この濾過機は、濾板枠を有する複数の濾板を多段に積み重ねて濾過室を形成し、開閉装置により濾板を昇降させて開閉し、上下の濾板間に濾材をそれぞれ挟み、各濾材を通して加工油を濾過して浄化するものである。加圧式の採用により、粗分離機に比べてより細かな粒子を濾過分離することができる。
【0005】
しかしながら、上記加圧式水平濾板型濾過機は、精密濾過は可能であるが、濾材の目詰まりも早く、濾材を比較的短いサイクルで更新しなければならない。そのため、濾材の更新時間を含めれば、単位時間当りの濾過時間が短くなり、圧延速度に見合った濾過速度を得るには、多数の濾過機が必要になる。
従って、要求される濾過性能を満足し、しかも精密濾過機における濾材の更新時間を延長させることができる比較的低コストな加工油浄化システムの開発が必要とされている。
【0006】
一方、特許文献1には、使用済み加工油をスクリュー型デカンタに循環させて分離し、浄化する方法が提案されている。しかしながら、このシステムは、スカム分、金属微粉、スラッジなどの不純物を除去するのに、デカンタという遠心分離機が必要であり、動力費がかかるばかりでなく、回転機器であるために、点検整備などの維持管理費がかかるという問題がある。
【0007】
また、特許文献2には、使用済み圧延油を浮上分離手段で処理して作動油およびスカム分を主とする浮上物質を分離し、浮上物質を遠心分離機で処理してスラッジ分と液相分とに分離し、また、浮上分離した圧延油を濾過手段で金属粉などの固形分を分離除去する圧延油の浄化方法が提案されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法と同様に遠心分離機が必要であり、動力費がかかるばかりでなく、回転機器であるために、点検整備などの維持管理費がかかるという問題があり、また、浮上分離手段と濾過手段とが直接に接続しているため、それぞれの処理量および圧延工程に循環する浄化された圧延油の使用量などのバランスを調節するのが難しく、それらのバランスを保つために上記手段の一部を過大に設けなければならない問題がある。
【特許文献1】特開平9−141020号公報
【特許文献2】特開平9−31486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、使用済み加工油と比重差を利用した粗分離機で分離した金属粉などを含有する粗分離油とを混合し、その混合油の上層油を上記粗分離機で分離するとともに、下層油を精密濾過機で濾過処理して、濾過された浄化加工油を圧延工程に循環し再使用することにより、再生後の加工油の清浄度を効率良く低コストで高めることができ、圧延製品の品質の向上も図れることを知見し、この発明を完成させた。
すなわち、本発明は、低コストでかつ効率良く再生後の加工油の純度が高まり、加工油が圧延油の場合には圧延製品の品質の向上も図ることができる加工油浄化システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明は、スカム、金属微粉およびスラッジを不純物として含む使用済みの加工油から不純物を除去する加工油浄化システムにおいて、使用済みの加工油が供給される不純物含有加工油貯槽と、該不純物含有加工油貯槽に使用済みの加工油を供給する使用済み加工油供給流路と、親油性で疎水性の複数枚の傾斜板を互いに平行な離間状態で並設した傾斜板群が収納された液体収容槽を有し、かつ該液体収容槽内で、上記不純物と粗分離油とを比重差を利用した重力分離により粗分離する傾斜板式の粗分離機と、該粗分離機により分離された粗分離油を、上記不純物含有加工油貯槽に循環する粗分離油循環流路と、上記不純物含有加工油貯槽の上層油を上記粗分離機に供給する上層油供給流路と、濾板枠を有した複数の濾板を多段に積み重ねて濾過室を形成し、開閉装置により上記濾板を昇降させて上記濾過室を開閉し、上下の該各濾板間に濾材をそれぞれ挟み、該各濾材を通過させることで加工油を濾過して浄化する水平濾板式の精密濾過機と、上記不純物含有加工油貯槽の下層油を上記精密濾過機に供給する下層油供給流路と、上記精密濾過機により浄化された加工油を貯留する浄化加工油槽と、上記精密濾過機により浄化された加工油を浄化加工油槽に排出する浄化加工油排出流路、とを備えたことを特徴とする加工油浄化システムである。
【0010】
請求項1に記載の本発明によれば、使用済み加工油と比重差を利用した粗分離機の傾斜板群で分離した金属微粉などを含有する粗分離油を混合し、その混合油の上層油を上記粗分離機の傾斜板群で分離するとともに、下層油を精密濾過機で濾過処理して、濾過された浄化加工油を加工工程に循環し再使用することにより、それぞれの処理量および加工工程に循環する浄化された加工油の使用量などのバランスを容易に調節できる。また、使用済みの不純物含有加工油を粗分離油および浄化加工油で実質的に希釈して精密濾過機に供給するため、濾材の目詰まりも遅く、濾材を長いサイクルで使用することができ、低コストでかつ効率良く再生後の加工油の清浄度が高まり、加工油が圧延油の場合には圧延製品の品質の向上も図ることができる。
【0011】
また、請求項2に記載の本発明は、内部空間がその上部を除いて仕切板により両側の2室に区分された密閉式の槽において、一方の室を上記不純物含有加工油槽としてのダーティセクションとし、他方の室を上記浄化加工油槽としてのクリーンセクションとし、上記ダーティセクションには、使用済みの加工油を上記ダーティセクションに供給する使用済み加工油供給流路と、上記粗分離機で分離された粗分離油を上記ダーティセクションに循環する循環流路と、上記ダーティセクションの上層油を上記粗分離機に供給する上層油供給流路と、上記ダーティセクションの下層油を上記精密濾過機に供給する下層油供給流路がそれぞれ接続され、上記クリーンセクションには、上記精密濾過機により浄化された加工油を排出する浄化加工油排出流路が接続された請求項1に記載の加工油浄化システムである。

【0012】
請求項2に記載の本発明によれば、比較的設置面積が嵩む貯留槽を実質的に単一槽とすることができるため、設置面積を狭くでき、また、後段の工程で再使用される加工油量が処理量よりも少ない場合には仕切板の両方のセクションを連通する上部をオーバーフローしてダーティセクション戻るように構成されているため、それぞれの処理量および加工工程に循環する浄化された加工油の使用量などのバランスを容易に調節できる。
【0013】
請求項3に記載の本発明は、上記精密濾過機での濾過後、上記各濾板間に残った浄化加工油を、エアにより押し出して上記不純物含有加工油貯槽に戻す浄化加工油戻し流路を設けた請求項1または請求項2に記載の加工油浄化システムである。
【0014】
請求項3に記載の本発明によれば、精密濾過機での濾過操作後に内部に残った浄化加工油を、不純物含有加工油の希釈油として利用することができ、精密濾過機の濾材の目詰まりも遅く、濾材を長いサイクルで使用することができる。
【0015】
請求項4に記載の本発明は、上記不純物含有加工油貯槽には、該不純物含有加工油貯槽内の上層油を上記粗分離機に供給する吸い上げ用のトランプオイルスキマーが配置された請求項1〜請求項3のうち、何れか1項に記載の加工油浄化システムである。
【0016】
請求項4に記載の本発明によれば、不純物含有加工油貯槽の比較的不純物の割合が多い上層油のみをトランプオイルスキマーで吸い上げて粗分離機に供給するため、精密濾過機には不純物の少ない下層油を供給することが出来、更に濾材の目詰まりも遅く、濾材を長いサイクルで使用することができる。
【0017】
請求項5に記載の本発明は、スカム、金属微粉およびスラッジを不純物として含む使用済みの加工油から不純物を除去する加工油浄化方法において、上記使用済みの加工油は使用済み加工油供給流路を経るとともに、粗分離機によって分離された粗分離油は粗分離油循環流路を経ることでそれぞれ不純物含有加工油貯槽に供給する工程と、油性で疎水性の複数枚の傾斜板を互いに平行な離間状態で並設した傾斜板群が収納された液体収容槽に、上層油供給流路を通して、上記不純物含有加工油貯槽の上層油を供給する工程と、濾水平濾板式の精密濾過機に搭載された板枠を有する複数の濾板を多段に積み重ねて濾過室を形成し、開閉装置により上記濾板を昇降させて上記濾過室を開閉し、上下の該各濾板間に濾材をそれぞれ挟み、下層油供給流路を通して、上記不純物含有加工油貯槽の下層油を上記各濾材によって濾過することで浄化する工程と、上記精密濾過機により浄化された加工油を、浄化加工油排出流路を経て上記浄化加工油槽に排出して貯留する工程とを備えたことを特徴とする加工油浄化方法である。
【0018】
請求項5に記載の本発明によれば、使用済み加工油と、粗分離機で分離した粗分離油とを混合し、その混合油の上層油を粗分離機で分離するとともに、下層油を精密濾過機で濾過処理して、濾過された浄化加工油を加工工程に循環し再使用することにより、それぞれの処理量および加工工程に循環する浄化された圧延油の使用量などのバランスを容易に調節でき、また、使用済みの不純物含有加工油を粗分離油で実質的に希釈して精密濾過機に供給するため、濾材の目詰まりも遅く、濾材を長いサイクルで使用することができ、低コストでかつ効率良く再生後の加工油の清浄度が高まり、加工油が圧延油の場合には圧延製品の品質の向上も図ることができる。
【0019】
本発明で称する加工油は、油分が水にエマルジョン(乳化)状態で混ざった(例えば、油分5重量%、水95重量%)のソリブルオイルであり、熱間圧延工程から排出された圧延油、成形加工油、切削油などを採用することができる。
また、使用済み加工油に含まれる不純物としては、スカム、金属微粉、スラッジなどが挙げられる。
【0020】
粗分離機では、使用済み加工油の上層油を傾斜板群に通すことで、上層油中の比較的大きい粒子の固形分(スラッジ)は粗分離機の液体収容槽の底部に沈降し、スカム(上層)と金属微粉を含む粗分離油(中層)とスラッジ(下層)に分離される。
すなわち、粗分離機の傾斜板群では、上層油を概ね、スカム、金属微粉を含む粗分離油、スラッジの三相に分離することができる。
【0021】
ここで、スカムとは、エマルジョン状態の油が脱離して油相となり浮上するものであり、また、劣化した油や加工油の添加剤などとの化合物とそれらが発酵(腐敗)したり、熱や化学反応でガスの発生を伴って発泡して、比重が軽くなっている。
また、スラッジは、上層油に含まれる加工時に生ずる比較的粗大な粒子の金属粉や上記化合物とそれらの結合物で、上層油より比重が重く、沈降しやすい。
さらに、粗分離後の粗分離油は、上記のスカムとスラッジが分離された粗分離機の液体収容槽内の中層の部分で、主に微粒子の金属粉などの固形分が液中に留まっている状態にある。この粗分離機の液体収容槽を経た粗分離油と、新たに流入する使用済みの加工油とが、不純物含有加工油貯留槽内で混合されたものが、後記の精密濾過機に供給されることになる。
【0022】
ここで、粗分離機の傾斜板群として配設されている傾斜板の素材は、親油性で疎水性であり、例えばフッ素系樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル系樹脂などを採用することができる。傾斜板に付着した油は、傾斜板表面に沿ってスムーズに分離室上部へ流れ、そこで自動的に浮上した油がスカムとして回収される。
一方、スラッジは、沈降し傾斜板表面に沿ってスムーズにスラッジ室へ滑り込む。
【0023】
また、傾斜板群の一例としては、波板である多数の傾斜板が55°の角度をもって傾斜し、圧延油が流れる方向に沿うように、多数本の縦長な連結枠を介して、互いの傾斜板が一定の間隔を隔てて平行に並設されている。傾斜板群は、その上端縁が加工油の液面より低く位置付けられている。
傾斜板群は、例えば吊り金具によりSUS304製フレームに入れられ、容易に取り付けおよび取り外しができるように構成されている。
【0024】
一方、精密濾過機に関しては、濾板の積み重ね段数は、2段以上であれば任意である。
開閉装置は、アクチュエータの動力により、各濾板どうしを近接かつ離間させる構成を有している。
濾材の素材としては、例えば濾紙、濾布などを採用することができる。
濾材の濾過室への供給は、例えばフィーダに装填された複数の濾材ロールからの自動供給巻き取りを採用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、使用済み加工油と比重差を利用した粗分離機で分離した金属微粉などを含有する粗分離油とを混合し、その混合油の比較的軽質の上層油を上記粗分離機で循環して分離するとともに、比較的重質の下層油を精密濾過機で濾過処理して、濾過された浄化加工油を加工工程に循環し再使用することにより、低コストでかつ効率良く再生後の加工油の清浄度が高まり、加工油が圧延油の場合には圧延製品の品質の向上も図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、この発明を金属圧延工程で使用された使用済みの圧延油(加工油)を浄化処理する加工油浄化システムに基づいて具体的に説明する。
【0027】
図1において、10はこの発明に係る加工油浄化システムである。加工油浄化システム10は、比重差を利用した重力分離により使用済みの圧延油を粗分離する粗分離機15を具備した粗分離工程部Aと、粗分離後の圧延油を精密濾過する水平濾板式の精密濾過機21が組み込まれた精密濾過部Bを備える浄化システムである。
【0028】
まず、粗分離工程部Aを説明する。粗分離工程部Aは、不純物含有加工油貯留槽としての圧延油タンク13のダーティセクション11と、分離板群が配置された液体収容槽14とを有している。
圧延油タンク13は、周辺環境を考慮して密閉されたタンクで、密閉された槽を上部で連通する仕切板によって内部空間が2槽に区画され、一方の槽を不純物含有加工油貯槽としての汚れた圧延油を貯留するダーティセクション11と、他方の槽を浄化加工油槽としての濾過後の浄化された加工油を貯留するクリーンセクション12として設けられている。ダーティセクション11の液面直下には、上層油を、上層油供給流路としての供給管22の途中に設けられた供給ポンプ23により、後述の液体収容槽14の供給口14aへ供給する吸い上げ用のトランプオイルスキマー24が配置されている。また、ダーティセクション11の下部には、下層油を一対の粗分離油圧送ポンプ25により精密濾過機21へ供給する下層油供給流路としての粗分離油供給管26が接続されている。
【0029】
さらに、圧延油タンク13のダーティセクション11側には、スラブの熱間圧延機(ミル)から排出された圧延油を供給する使用済み加工油供給流路としての使用済み油供給管27と、後述する液体収容槽14の排出口14bから排出された粗分離後の粗分離油をダーティセクション11に循環する粗分離油循環流路としての粗分離油戻し管28と、精密濾過機21での濾過操作後に内部に残った浄化加工油を、エアにより押し出ダーティセクション11に戻す浄化加工油戻し流路としての再生油戻し用分岐管29が接続されている。また、圧延油タンク13のクリーンセクション12側には、精密濾過機21で濾過により浄化された浄化加工油をクリーンセクション12に排出する浄化加工油排出流路としての再生油排出管30が接続されている。さらに、クリーンセクション12の下部には、浄化された再生圧延油を熱間圧延機に供給する再生油供給管31が接続されている。
【0030】
次に、図2,3を参照して、粗分離機15を説明する。
粗分離機15は、多数本の支柱36により水平に支持され、かつ横長な矩形容器状の液体収容槽14を有している。液体収容槽14には、その長さ方向の上流側板14cの上部に圧延油の供給口14aが形成され、液体収容槽14の下流側板14dの下部に粗分離後の粗分離油の排出口14bが形成されている。液体収容槽14の上流部の底部14eは漏斗状に形成され、その最下部にはスラッジを排出する排出口14fが設けられている。排出口14fには排出管37が接続され、排出管の先端にはドレンコック38が取り付けられている。このドレンコック38を開くことでスラッジが排出される。
【0031】
液体収容槽14の内部空間は、圧延油の流れに沿った上流側から順に、上部が導入管39を介して供給口14aに連通され、かつ下部が上記漏斗状の底部14eと連通した入口流路40と、下部が漏斗状の底部14eと連通された傾斜板群収納部41と、下流側の端部が傾斜板群収納部41に連通し、粗分離された圧延油が通る処理液流路42と、処理液流路42の上部空間に配置され、傾斜板群43を通過して浮上したスカムを回収するスカム回収部44と、上部が処理液流路42に連通され、下部が上記排出口14bに連通された出口流路45に区画されている。処理液流路42と出口流路45とは、仕切板48により仕切られている。
【0032】
スカム回収部44は、正面視してJの字を有した容器で、Jの字の短尺側が上流の方向に配置されている。スカム回収部44のJの字の短尺側の上縁は、仕切板48の上縁より6〜12mm高く設けられている。そのため、傾斜板群収納部41の液面に浮上したスカムは、処理液流路42の液面からそのままスカム回収部44に落下して回収される。一方、スカムを除く処理液はスカム回収部44に流出することなく処理液流路42を経由して仕切板48を越えて出口流路45の排出口14bから排出される。スカム回収部44の底部には、スカムを排出するドレン付きの排出口44aが設けられている。排出口から排出されたスカムは、排出管70を通して上記回収タンク17に回収される。また、スラッジは底部14eに沈降し、ドレンコック38(図1)を開くことでスラッジが排出口14fから排出される。
【0033】
傾斜板群43は、波板である多数の傾斜板53が55°の角度をもって傾斜し、圧延油が流れる方向に沿うように、多数本の縦長な連結枠54を介して、互いの傾斜板53が一定の間隔を隔てて平行に並設されている(図3)。傾斜板群43は、その上端縁が圧延油の液面より低く位置付けられている。
各傾斜板53は、上面側に位置するステンレス鋼板と、ステンレス鋼板に接着され下面側に位置する板状の分離板とによって形成されている。ステンレス鋼板は、剛性が高くかつ表面が滑らかで低摩擦の部材によって形成され、分離板は親油性を有するポリプロピレン材によって形成されている。不純物含有の圧延油を傾斜板群43に通すことで、エマルジョン状態の油が脱離して油相となった微粒油分を主体とするスカムが傾斜板53に付着する。この付着したスカムは、互いに隣接するものどうしが順次結合して除々に粗粒化する。これにより、スカムの浮力が除々に増大し、各傾斜板53を上昇することで、分離される。
【0034】
次に、図1、図4〜9を参照して、精密濾過機21を有する精密濾過部Bを説明する。
図4〜図7において、精密濾過機21は、濾板枠55を有する複数の濾板18を多段に積み重ね、加圧ジャッキ(開閉装置)19により濾板を昇降させて開閉可能とされ、濾過室18aを形成する上下の濾板18間に濾材(濾布または濾紙)20をそれぞれ挟み、各濾材20を通して圧延油を濾過する水平濾板式の濾過機である。
【0035】
図7(図6のIV−IV矢視平面図)に示すように、精密濾過機21の濾板枠55は、前後方向に若干長い央部の長方形濾板部の後辺の左右端に水平かつ等長の後部アーム55aを突設し、その両先端にて濾材ロール56の左右端を水平的に軸支している。また、濾板枠55はその前辺の左右端に水平かつ等長の前部アーム57を突設し、その両先端にて駆動ローラ58の左右端を水平的に軸支し、その上面には引き出しトレイ59を張設し、引き出しトレイ59の前端は駆動ローラ58の後端に達している。
【0036】
このように、濾板枠55は中央部が縦長な長方形の濾板18を構成した異形H字状の枠材である。濾板枠55の後部アーム55aの長さは、上位の濾板枠55から下位の濾板枠55の順に、濾材ロール56の外径にほぼ等しい一定長ずつ長くなり、前部アーム57の長さは上位のものから下位のものへ順に、駆動ローラ58の外径より若干長い一定長ずつ短くなっている。そのため、図4に示すように、斜辺がそれぞれ前傾する前後方向に長い平行四辺形状となっている。
【0037】
次に、図7〜図9において、60は駆動ローラ58の下端に圧接して転動する遊動圧接ローラで、モータ61によりチェーン62を介してそれぞれ駆動される。図9に示すように、63は圧接ローラ60を駆動ローラ58の下端に圧接する鉛直方向のエアシリンダである。エアシリンダ63は、前部アーム57に垂設された取付板64に固着されている。65は下端が取付板64に固着されたスクレーパで、調整ネジ66によりスクレーパ65の上端の圧接力が調整され、駆動ローラ58にかけ回された濾材20のケーキを除去する。

【0038】
このような精密濾過機21において、各濾板枠55の後部アーム55aは上位段のものから下位段の順に濾材ロール56の外径にほぼ等しい一定長ずつ長く後方へ伸びている。そのため、図6に示す開枠状態で行う濾材ロール56の交換および濾材20の濾板枠55に沿っての展張、その駆動ローラ58および圧接ローラ60へのかけ回しが容易になる。このようにして、濾材20の展張およびかけ回しが終了した後、図4に示すように、濾板枠55を一斉に閉枠する。精密濾過時は、加圧ジャッキ19で積層濾板18全体を締めつけ、この状態で、処理する原液をポンプ圧送し、原液供給ヘッダおよびこれに接続された耐圧ホースを経て各濾板18に供給する。濾板18内で濾材20により精密濾過された浄化圧延油は、精密濾過機21から再生油排出管30を通してクリーンセクション12へ排出される。
濾材20の濾過抵抗が増加して濾過操作が困難となった際には、加圧ジャッキ19を駆動して濾板18を離開し、濾材引出し装置により濾板18上に新しい濾材20を引き入れ、次の濾過操作を行う。
【0039】
図1において、CV2は粗分離油供給管26の下流部に設けられた第1の電磁弁、CV3は粗分離油供給管26の下流端と再生油戻し用分岐管29とを接続する分岐管32に設けられた第2の電磁弁、CV4は再生油排出管30の上流部に設けられた第3の電磁弁、CV5は再生油戻し用分岐管29の上流部に設けられた第4の電磁弁、CV7はコンプレッサからのエア(加圧空気)を精密濾過機21の各濾過室18aへ供給するエア供給管33の下流部に設けられた第5の電磁弁、CV6は精密濾過機21の各濾過室18aから排出されたエアを再生油戻し用分岐管29に導入するエア排出管34の上流部に設けられた第6の電磁弁である。また、図4〜図9において、010は門形支柱、011は台座である。
【0040】
次に、図1〜図9を参照して、本発明の加工油浄化システム10による圧延油の浄化再生方法を説明する。
熱間圧延機より排出された圧延油は、使用済み油供給管27を通して圧延油タンク13のダーティセクション11に貯留される。ダーティセクション11の不純物含有圧延油は、供給ポンプ23により、トランプオイルスキマー24から上層油が抜き出され粗分離機15の供給口14aへ供給され、ここで粗分離される。
具体的には、液体収容槽14に供給されたダーティセクション11の不純物含有圧延油は、まず入口流路40から漏斗状の底部14eへ流れ込む。このとき、沈降した固形分のスラッジが、排出口14fから排出管を経て外部排出される。この底部14eに流れ込んだ圧延油は、上昇流となって上方の傾斜板群収納部41の傾斜板群43に下方から供給される。粗分離時、圧延油を傾斜板群43に通すことで、エマルジョン状態の油が脱離して油相となった微粒油分を主体とするスカムが傾斜板53に付着する。この付着したスカムは、互いに隣接するものどうしが順次結合して除々に粗粒化する。これにより、スカムの浮力が除々に増大し、各傾斜板53を上昇することで、分離される。
一方、圧延油中のスラッジは底部14eに沈降し、ドレンコック38を開くことでスラッジが排出口14fから排出される。
【0041】
その後、傾斜板群収納部41の液面に浮上したスカムは、処理液流路42の液面からそのままスカム回収部44に落下して回収される。スカム回収部44の底部の排出口44aから排出されたスカムは、排出管70を通して回収タンク17に回収される。そして、粗分離された圧延油は、処理液流路42の下部を通って出口流路45に流れ込み、排出口14bから粗分離機15の外部へ排出される。粗分離後の圧延油は、粗分離油供給管28を介していったんダーティセクション11に戻される。
【0042】
次に、ダーティセクション11の不純物含有圧延油は、一対の粗分離油圧送ポンプ25により、ダーティセクション11の下層油が下部から粗分離油供給管26を経て精密濾過機21へ供給される。
精密濾過機21では、図4に示すように、濾材20の展張およびかけ回しを行い、その後、濾板枠55を一斉に閉枠する。精密濾過時は、加圧ジャッキ19で積層濾板18全体を締めつけ、この状態で、処理する原液をポンプ圧送し、原液供給ヘッダおよびこれに接続した耐圧ホースを経て各濾板18へ供給する。このようして、濾板18内で濾材20により濾過された浄化圧延油は、再生油排出管30を経てクリーンセクション12に排出される。一方、精密濾過機21から排出された浄化圧延油の一部は、精密濾過機21に導入される直前に分岐管32を経て分岐された粗分離後の粗分離とともに、再生油排出管30から分岐された再生油戻し用分岐管29を経てダーティセクション11に戻される。
【0043】
ここで、精密濾過機21による圧延油の精密濾過時の各弁CV2〜CV7を開閉操作する方法を説明する。
濾過時には、第1の電磁弁CV2を開放する。その後、弁を操作して精密濾過機21の内部に残った圧延油をエアにより押し出す。この状態で2つの粗分離油圧送ポンプ25により、ダーティセクション11下層から粗分離油供給管26を経て精密濾過機21へ不純物含有圧延油が供給される。ここで再生された浄化圧延油は、再生油排出管30を経てクリーンセクション12へ排出される。
このようにして、精密濾過機21で濾過された浄化圧延油は、金属粉などが濾過されて清淨液となっているので、供給管31を通して、再度、圧延油として用いられる。
【0044】
なお、濾材20の濾過抵抗が増加して濾過操作が困難となった際には、電磁弁CV3,CV5,CV7を開き、他の電磁弁CV2,CV4,CV6を閉じる。その後、外部から電磁弁CV7を通して精密濾過機21へ供給されたエア(加圧空気)を各濾板18内に供給し、精密濾過機21の内部に残った浄化圧延油を、電磁弁CV5を通って再生油戻し用分岐管29からエアによりダーティセクション11へ押し出す。このとき、粗分離油供給管26の下流部に溜まった浄化圧延油は、電磁弁CV3付きの分岐管32を通って再生油戻し用分岐管29からダーティセクション11へ排出される。その後、エアにより濾材20上のケーキを乾燥させる。次に、加圧ジャッキ19を駆動して各濾板18を離開し、濾材引出し装置により濾板18上に新しい濾材20を引き入れ、次の精密濾過操作を行う。
【0045】
具体的には、電磁弁CV2,CV5,CV6を開き、他の電磁弁CV3,CV4,CV7を閉じる。この状態で、粗分離油供給管26から精密濾過機21へ粗分離後の不純物含有圧延油が供給されると、まず精密濾過機21内のエアが電磁弁CV6付きのエア排出管34を経て再生油戻し用分岐管29からダーティセクション11へ押し出される。その後、電磁弁CV6を閉じることで、前述したように精密濾過機21により再生された浄化圧延油が、電磁弁CV4付きの再生油排出管30を経てクリーンセクション12へ排出される。
このように、使用済み圧延油を粗分離機15および精密濾過機21を使用して浄化するので、低コストでかつ効率良く再生後の加工油の清浄度が高まり、圧延製品の品質の向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の加工油浄化システムを示す全体図である。
【図2】この発明の加工油浄化システムに組み込まれた粗分離機の正面図である。
【図3】この発明の加工油浄化システムに組み込まれた粗分離機の要部拡大斜視図である。
【図4】この発明の加工油浄化システムに組み込まれた精密濾過機の閉枠状態を示す側面図である。
【図5】図4のII−II矢視図である。
【図6】この発明の加工油浄化システムに組み込まれた精密濾過機の開枠状態を示す側面図である。
【図7】図6のIV−IV矢視図である。
【図8】この発明の加工油浄化システムに組み込まれた精密濾過機の濾材引き出しトレイを示す拡大正面図である。
【図9】図8のVI−VI矢視図である。
【符号の説明】
【0047】
10 加工油浄化システム
13 圧延油タンク
14 液体収容槽
15 粗分離機
55 濾板枠
18 濾板
19 加圧ジャッキ(開閉装置)
18a 濾過室
20 濾材
21 精密濾過機
53 傾斜板
43 傾斜板群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカム、金属微粉およびスラッジを不純物として含む使用済みの加工油から不純物を除去する加工油浄化システムにおいて、
使用済みの加工油が供給される不純物含有加工油貯槽と、
該不純物含有加工油貯槽に使用済みの加工油を供給する使用済み加工油供給流路と、
親油性で疎水性の複数枚の傾斜板を互いに平行な離間状態で並設した傾斜板群が収納された液体収容槽を有し、かつ該液体収容槽内で、上記不純物と粗分離油とを比重差を利用した重力分離により粗分離する傾斜板式の粗分離機と、
該粗分離機により分離された粗分離油を、上記不純物含有加工油貯槽に循環する粗分離油循環流路と、
上記不純物含有加工油貯槽の上層油を上記粗分離機に供給する上層油供給流路と、
濾板枠を有した複数の濾板を多段に積み重ねて濾過室を形成し、開閉装置により上記濾板を昇降させて上記濾過室を開閉し、上下の該各濾板間に濾材をそれぞれ挟み、該各濾材を通過させることで加工油を濾過して浄化する水平濾板式の精密濾過機と、
上記不純物含有加工油貯槽の下層油を上記精密濾過機に供給する下層油供給流路と、
上記精密濾過機により浄化された加工油を貯留する浄化加工油槽と、
上記精密濾過機により浄化された加工油を浄化加工油槽に排出する浄化加工油排出流路、
とを備えたことを特徴とする加工油浄化システム。
【請求項2】
内部空間がその上部を除いて仕切板により両側の2室に区分された密閉式の槽において、一方の室を上記不純物含有加工油槽としてのダーティセクションとし、他方の室を上記浄化加工油槽としてのクリーンセクションとし、
上記ダーティセクションには、使用済みの加工油を上記ダーティセクションに供給する使用済み加工油供給流路と、上記粗分離機で分離された粗分離油を上記ダーティセクションに循環する循環流路と、上記ダーティセクションの上層油を上記粗分離機に供給する上層油供給流路と、上記ダーティセクションの下層油を上記精密濾過機に供給する下層油供給流路がそれぞれ接続され、
上記クリーンセクションには、上記精密濾過機により浄化された加工油を排出する浄化加工油排出流路が接続された請求項1に記載の加工油浄化システム。
【請求項3】
上記精密濾過機での濾過後、上記各濾板間に残った浄化加工油を、エアにより押し出して上記不純物含有加工油貯槽に戻す浄化加工油戻し流路を設けた請求項1または請求項2に記載の加工油浄化システム。
【請求項4】
上記不純物含有加工油貯槽には、該不純物含有加工油貯槽内の上層油を上記粗分離機に供給する吸い上げ用のトランプオイルスキマーが配置された請求項1〜請求項3のうち、何れか1項に記載の加工油浄化システム。
【請求項5】
スカム、金属微粉およびスラッジを不純物として含む使用済みの加工油から不純物を除去する加工油浄化方法において、
上記使用済みの加工油は使用済み加工油供給流路を経るとともに、粗分離機によって分離された粗分離油は粗分離油循環流路を経ることでそれぞれ不純物含有加工油貯槽に供給する工程と、
親油性で疎水性の複数枚の傾斜板を互いに平行な離間状態で並設した傾斜板群が収納された液体収容槽に、上層油供給流路を通して、上記不純物含有加工油貯槽の上層油を供給する工程と、
濾水平濾板式の精密濾過機に搭載された板枠を有する複数の濾板を多段に積み重ねて濾過室を形成し、開閉装置により上記濾板を昇降させて上記濾過室を開閉し、上下の該各濾板間に濾材をそれぞれ挟み、下層油供給流路を通して、上記不純物含有加工油貯槽の下層油を上記各濾材によって濾過することで浄化する工程と、
上記精密濾過機により浄化された加工油を、浄化加工油排出流路を経て上記浄化加工油槽に排出して貯留する工程、
とを備えたことを特徴とする加工油浄化方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−29987(P2009−29987A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197306(P2007−197306)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000176752)三菱化工機株式会社 (48)
【Fターム(参考)】