説明

加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーの金属塩およびそれらの木材防腐剤としての使用

銅および/または亜鉛と加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーとの錯体がアンモニア溶液に可溶化されて、木材に完全に浸透する防腐剤溶液が提供される。木材からアンモニアを除去することで、錯体は木材に安定的に定着して持続性の防腐効果をもたらした。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、すべての目的についてその全体が本明細書の一部として援用される米国仮特許出願第60/755,211号明細書の利益を請求する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、木材および他のセルロース系材料用防腐剤における使用のための菌・カビ有毒性および殺シロアリ性塩に対する高分子バインダに関する。具体的には、セルロース系材料の保護は、加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーの銅または亜鉛塩の溶液の適用によって提供される。これらの錯体は、容易にセルロース系材料に浸透する。
【背景技術】
【0003】
菌・カビ類による木材および他のセルロース系材料の腐朽、およびシロアリによる木材の消尽は顕著な経済的損失をもたらす。最近まで、最も広範に用いられていた木材防腐剤はクロム化ヒ酸銅(CCA)である。しかしながら、住宅用構造物における使用のためのCCAの製造は、CCA処理材木に用いられる砒素およびクロムの環境に対する影響および安全性に関する懸案による問題のために2004年1月現在規制されている。CCA代替品として、砒素を含有しないおよびクロムを含有しない木材防腐剤が求められている。
【0004】
銅を木材防腐剤に組み込むための種々の代替的アプローチがなされてきた。銅および他の菌・カビ有毒性金属の塩は、一般に水溶性であり、処理済み木材から容易に浸出して、防腐機能の喪失をもたらす。高分子バインダを菌・カビ有毒性および殺シロアリ性金属錯体を木材中に定着するために用いることが可能である。特許文献1は、例えば、非高分子アミン、ポリエチレンイミン、およびビニルベースのポリマーと一緒にアンモニアと錯化された金属を含有する木材防腐剤を開示する。ノニオン性ポリマーを用いるこのような組成物は、土壌バクテリアによる木材のコロニー形成により容易に生分解され得、これにより、保護性金属錯体を木材から浸出させる。
【0005】
特許文献2は、アンモニア、エタノールアミン、またはピリジンを用いて可溶化される、アミドキシム、ヒドロキサム酸、チオヒドロキサム酸、N−ヒドロキシ尿素、N−ヒドロキシカルバメート、またはN−ニトロソアルキル−ヒドロキシルアミンを含有するポリマーとの銅錯体を含有する木材防腐剤を開示する。
【0006】
特許文献3は、木材中の金属錯体を安定化するための、水、および2,000未満の分子量を有するポリアクリル酸中に溶解された銅および/または亜鉛錯体を含有する木材防腐剤を開示する。ポリアクリル酸ポリマー銅錯体は、アンモニア水中に可溶性であり、またはアンモニア水中でミセルを形成し、木材に少なくとも部分的に浸透する。しかしながら、2,000を超える分子量のポリアクリル酸ポリマーは低い木材浸透性を有し、これは、2,000を超える分子量のポリマー溶液について、木材の表面含浸を主に、または単にもたらすことが、特許文献3によって報告されている。
【0007】
特許文献4は、アクリル酸および/またはメタクリル酸のポリマーまたはコポリマーの銅アミン塩および、場合によりアクリル酸またはメタクリル酸の低級アルキルエステルである農作物保護剤を開示する。特許文献5は、菌・カビ類またはバクテリアを防除するための、アクリル酸またはメタクリル酸および場合によりアクリレートまたはメタクリレート、および少なくとも12%の銅を含有するポリマー酸の水溶液であって、銅がアンモニアガスを圧力下に適用することにより溶解されているものである、農作物保護剤を開示する。アクリル酸またはメタクリル酸の製造における経費、およびCu1モル当たり2モルの一塩基(メタ)アクリル酸基が必要であることは、このタイプの薬剤を、商業的調製に対して望ましくないものとしている。
【0008】
特許文献6は、1つもしくはそれ以上のC〜Cモノカルボン酸の銅アンモニア錯体を含有する溶液を調製するための方法を開示する。このタイプの錯体は、処理済み木材から容易に浸出することとなり、それ故、持続的な防腐性を提供しない。
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,843,837号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/089,196号明細書
【特許文献3】米国特許第4,737,491号明細書
【特許文献4】米国特許第4,409,358号明細書
【特許文献5】米国特許第5,242,685号明細書
【特許文献6】米国特許第4,175,090号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、高度に浸透性、効果的、持続性であると共に容易に調製される、CCA木材防腐剤の代替となる木材防腐剤に対する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態は、混合剤中に、(a)(i)銅イオン、亜鉛イオンまたはこれらの混合物、および(ii)少なくとも約2,000分子量の加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーを含んでなる錯体;および(b)アンモニアおよび/またはエタノールアミンを含んでなる水性組成物であって;成分(b)が錯体を可溶化させるに十分な量で存在する水性組成物を提供する。
【0012】
本発明の別の実施形態は、上述の成分(a)および(b)を組み合わせること、およびこれから形成された錯体を可溶化させることにより組成物を調製する方法を提供する。
【0013】
本発明のさらなる実施形態は、セルロース系材料、またはセルロース系材料を含んでなる物品を保存する方法であって、セルロース系材料または物品を、上述の組成物と接触させることを含んでなる方法を提供する。
【0014】
本発明のさらに別の実施形態は、セルロース系材料、またはセルロース系材料を含んでなる物品を提供し、ここで、上述の組成物が、セルロース系材料に吸着または吸収される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
約2,000を超える分子量加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー、および銅および/または亜鉛イオンから形成される錯体は、例えば、アンモニアまたはエタノールアミンによって可溶化され、ならびに、木材および他のセルロース系材料用の深浸透性および持続性防腐剤などの形態で用いられる。金属イオン錯体が水性媒体中に可溶化されるため、木材または他のセルロース系材料に、容易に吸着され、および/または吸収または膨潤されることが可能である。溶液中の溶剤または共溶剤の損失または蒸発で、この錯体は可溶性となり、これにより、加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーおよび金属イオンを目標材料中に定着させ、セルロース系材料に対する有効な防腐剤組成物を提供する。加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーは、高分子バインダとして作用して、銅をセルロース系材料中、またはその上に定着させる。
【0016】
セルロース系材料は、本発明の組成物との接触が材料を、有害生物および生物の一方または両方によって生じる有害な効果からの腐朽または劣化から保護するという意味で保存される。例えば、本発明の組成物は、セルロース系材料をシロアリの攻撃から保護すると共に、銅および/または亜鉛などの組成物の活性成分の殺シロアリ活性ならびに殺菌・カビ類活性による菌・カビ性保護をも提供する。天然条件またはハザードへの露出によるセルロース系材料の劣化または分解に対する可能性は、それ故、本発明の組成物の材料中のおよび/またはその上の存在により、低減され、好ましくは防止される。本発明の方法は、材料の本発明の組成物との接触を提供することによりセルロース系材料に対する保存を提供し、これにより、悪条件、上述のシロアリおよび菌・カビ類などの有害生物および生体に対する保護の有益性を達成する。
【0017】
本発明の組成物で処理されることが可能であるセルロース系材料は、ほとんどの植物における細胞壁の主構成成分を形成する多糖類であり、それ故、ほとんどの植物組織および繊維の主要構成成分であるセルロースを含有する、またはこれに由来するものである。これらのセルロース系材料としては、リグニン、綿、ヘミセルロースおよびセルロース自体に追加して、材木、合板、配向性ストランドボードおよび紙などの木材および木材製品が挙げられる。本発明の組成物の使用による、または本発明の方法の実施による本願明細書における木材の保存への言及、または木材防腐剤としての本願明細書の組成物の有用性への言及は、従って、木材のみだけではなくすべてのタイプのセルロース系材料の保存に対する言及であると理解されるべきである。
【0018】
加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー
本発明の防腐剤組成物における高分子バインダとしての使用に好適である無水マレイン酸コポリマーは、多様なオレフィンで形成され得る。特定の使用は構造Iのオレフィンである:
【0019】
【化1】

【0020】
式中、Rは、(CH−H(ここで、x=1〜10)、またはフェニルである。
【0021】
オレフィンは、無水マレイン酸(構造II)と結合して、オレフィン/無水マレイン酸コポリマー、構造IIIに示される繰り返し単位を形成する:
【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
式中、Rは、(CH−H;x=1〜10、またはフェニル;および
n=約10〜約800である。
【0025】
n=10〜約400であるコポリマーが特に好適である。
【0026】
オクテン/無水マレイン酸およびスチレン/無水マレイン酸が、本発明の特に好適なタイプのコポリマーである。オクテン/無水マレイン酸コポリマーおよびスチレン/無水マレイン酸コポリマーの混合物などの異なるタイプのオレフィン/無水マレイン酸コポリマーの混合物もまた用いられ得る。オレフィン/無水マレイン酸コポリマーの合成は、米国特許第3,706,704号明細書および米国特許第3,404,135号明細書などのソースから周知である。
【0027】
分子量が2,000以上のオレフィン/無水マレイン酸コポリマーが本発明における使用に好適であり、一般に、分子量は約10,000〜約50,000の間である。約1,000,000分子量以下のコポリマーが本発明の組成物において用いられ得るが、使用前に希釈されるべき防腐剤溶液の濃縮マスターバッチを提供することが所望される場合には、約80,000分子量を超えるコポリマーはきわめて粘性であり、従って、使用が困難である。従って、本発明においては、2,000〜約80,000の範囲の分子量のオレフィン/無水マレイン酸コポリマーが好ましい。2,000〜約40,000の範囲の分子量のコポリマーがより好ましい。
【0028】
20,000〜100,000の間の範囲の分子量のコポリマーをもたらす、スチレン/無水マレイン酸コポリマーの好ましい合成方法は、トルエンおよびイソプロピルアルコールの組み合わせを、溶剤および連鎖移動剤の両方として使用する。イソプロピルアルコール単独ではなくこの組み合わせを用いることで、重合の最中に形成されるモノイソプロピルマレエートエステルの割合が約20%から約1%に低減される。加えて、コポリマー製品の分子量が、イソプロピルアルコールを単独で用いた場合の約18,000から、1:1のトルエン:イソプロパノール比を用いた場合の20,000超に増加される。90,000超の分子量が、76:4の比を用いることで達成され得る。オレフィン/無水マレイン酸コポリマーはまた商業的に入手できる。
【0029】
防腐剤金属成分
例えば銅イオンといったイオン状態の菌・カビ有毒性金属銅および亜鉛が、本発明による防腐剤組成物を提供するために、加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーと組み合わされ得る。いずれの可溶性銅塩も銅イオンのソースであり得、例えばCu(II)塩としては、硫酸銅、硫酸銅五水和物、塩化第二銅、酢酸第二銅、および銅カーボネートが挙げられ得る。硫酸銅五水和物が銅塩として特に有用である。いずれの可溶性亜鉛塩も亜鉛イオンのソースであり得、例えばZn(II)塩としては、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、および炭酸亜鉛が挙げられ得る。酢酸亜鉛が亜鉛塩として特に有用である。銅イオンソースおよび亜鉛イオンソースの混合物もまた、本発明の組成物において用いられ得る。上述のとおり、銅イオンおよび亜鉛イオンのソースは市販されている。
【0030】
加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅および/または亜鉛イオン溶液
本発明において、銅および/または亜鉛イオンおよび少なくとも1タイプの加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーを含んでなる溶液が形成され、ここで、溶液の含有物が木材などのセルロース系材料中に膨潤されることが可能であるよう、これらの成分の錯体が十分良好に溶解している。加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー−銅/亜鉛錯体は、典型的には水に不溶性である。しかしながら、このタイプの錯体は、アンモニア溶液などの溶剤系において可溶性であることが見出されている。
【0031】
オレフィン/無水マレイン酸コポリマーは加水分解されて、銅および亜鉛イオンと錯化することが可能である、負に荷電されたカルボン酸アニオンを形成する。例えば、水性NaOHでの加水分解および錯化は、図IVに示されている、銅を伴う加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーをもたらす。
【0032】
【化4】

【0033】
水中における、NaOHの存在下での、カルボン酸、マレイン酸、誘導体を形成する加水分解が、国際公開第97/15382号パンフレットにさらに記載されている。
【0034】
銅および/または亜鉛イオンおよび加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー溶液は、典型的には、銅および/または亜鉛塩の溶液および加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー塩の溶液を組み合わせることにより調製される。水酸化アンモニウムは銅および/または亜鉛塩および加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー塩の溶液の混合の後に添加され得、次いで、形成された沈殿物の溶解が必要とされる。あるいは、水酸化アンモニウムがこれらの溶液の一方または両方に成分として含まれてもよい。好ましくは、銅および/または亜鉛塩がアンモニア溶液中に調製され、これが、次いで、加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー塩溶液と組み合わされる。アンモニアは、銅および/または亜鉛および加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー錯体の溶解度を維持する十分な量で存在する。典型的には、アンモニアは、最終の溶液において約0.5%〜3重量%である。1.4%アンモニア水溶液が好ましい。エタノールアミンもまた約0.5%〜3重量%で用いられ得る。追加で、エタノールアミンおよびアンモニアの組み合わせが用いられ得る。アンモニアの使用は好ましいが、水と溶液を形成する、アンモニアのように容易に錯体を可溶化させる、さらに、処理の後にアンモニアのように容易にセルロース系材料から蒸発する他の溶剤または共溶剤がまた、アンモニアまたはエタノールアミンに追加してまたはその代わりに、錯体が可溶化される溶剤系において用いられ得る。
【0035】
普通、錯体の溶解度は視覚的観察により測定され、錯体は、その処理がなされたときに、十分な量の錯体が溶液に溶解されてセルロース系材料への所望の量の錯体の吸着および/または吸収が許容されたときに、可溶化されたとみなされる。
【0036】
種々の成分は、本発明の防腐剤組成物において、処理されるべきセルロース系材料が経験するであろう使用条件(目標材料の性質、予期される最終用途および地理学的場所を含む)を考慮して、所望のレベルの保護を提供するのに有効な量で用いられる。銅および/または亜鉛イオンは、典型的には、処理溶液において、約500ppm〜約11,000ppmの範囲の濃度で用いられる。海洋用途は、一般に、約11,000ppm以下のより高濃度を必要とするが、陸上用途は、約500〜6,000ppmの間の濃度を包含し得る。処理済のセルロース系材料における防腐剤成分の含有量を測定する1つの方法は、この材料を燃焼させ、材料の処理に用いられた成分のその含有量についてこの灰を分析することである。本願明細書に記載の組成物は、ブレンダーまたは回転ミキサなどのいずれかの好適なデバイス中で成分を混合することにより形成され得る。
【0037】
セルロース系材料の処理に用いられる本発明の防腐剤組成物は、完全ではなくてもほとんどがアンモニア溶液などの溶液中に溶解されているが、商業的目的のために容易に輸送されるより濃縮されたマスターバッチが形成され得、次いで、使用の前に希釈される。このような濃縮マスターバッチは、部分的に沈殿した加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅および/または亜鉛錯体を含有するスラリーであり得る。このスラリーは、1種もしくはそれ以上の溶剤または共溶剤の追加によって、例えば溶剤系においてアンモニアが用いられている場合に、およそ1.4重量%のアンモニア水溶液が得られる最終濃度に溶液の体積を増加させることにより、処理における使用のために調製される。
【0038】
銅および/または亜鉛イオンおよび加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー錯体の乾燥粉末がまた、セルロース系材料用の防腐剤溶液の調製のために提供され得る。この粉末は、銅および/または亜鉛塩および加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー塩の溶液を水酸化アンモニウムの不存在下に組み合わせることにより調製される。形成される沈殿物は、遠心分離、ろ過および噴霧乾燥などの標準的な方法によって、残留している溶液から回収され得る。追加的に、沈殿物は、加熱されたオーブン中などにおいて乾燥され得る。銅および/または亜鉛および加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー錯体を含有しているこの沈殿物は、本発明の防腐剤組成物の調製のためにアンモニア溶液中に可溶性である。
【0039】
防腐剤組成物としてのアンモニア溶液中の銅および/または亜鉛および加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー錯体の特徴
加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅および/または亜鉛錯体の溶解度特性は、セルロース系材料用の防腐剤組成物に役立つ特定の属性を提供する。これらの錯体は不水溶性であるが、典型的には、アンモニア溶液などの溶剤系中に、完全に可溶性ではなくても良好に溶解する。錯体が溶液に良好に溶解したとき、表面木材を十分に超えた、木材などのセルロース系材料への防腐剤溶液の深い浸透が得られる。浸透に続いて、アンモニアなどの溶剤または共溶剤が木材から容易に蒸発して、水性木材環境に加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーと錯化した抗菌・カビ性銅および/または亜鉛が残留され、そこで沈殿し、およびセルロースに頑強に結合する。加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーは、金属を木材中に長期の保存のために定着させる結合剤として作用する。それ故、金属の処理済み木材からの浸出はほとんどない。
【0040】
防腐剤組成物および追加の成分
80,000分子量の加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーが本発明の防腐剤組成物において用いられ得るが、このサイズでは、銅および/または亜鉛および加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー錯体のアンモニア溶液は、木材処理における使用のために希釈されるべき、輸送に好都合な濃度では極度に粘性である。輸送に好都合であると共に希釈の最中に容易に操作される、適当に濃縮された水性アンモニア溶液を提供する、約40,000分子量以下のサイズの範囲の加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーが、防腐剤組成物における使用のために好ましい。
【0041】
本発明の防腐剤組成物は、上述のものに追加して、抗菌・カビ性および/または殺シロアリ性成分を単独でまたは組み合わせで含み得る。例としては、特に限定されないが、米国仮特許出願第60/755,213号明細書に記載のタングステン酸塩および/またはモリブデン酸塩イオン;米国仮特許出願第60/755,214号明細書に記載のイブプロフェン;および米国仮特許出願第60/755,242号明細書に記載のトロポロンが挙げられ、上記の仮特許出願の各々は、すべての目的についてその全体が本明細書の一部として援用される。
【0042】
本発明の防腐剤溶液において追加の成分として用いられるモリブデン酸塩および/またはタングステン酸塩イオンは、カリウムモリブデン酸塩、アンモニウムモリブデン酸塩、ナトリウムモリブデン酸塩二水和物、モリブデンオキシド、モリブデン酸、カリウムタングステン酸塩、アンモニウムタングステン酸塩、ナトリウムタングステン酸塩二水和物、タングステンオキシド、タングステン酸などのモリブデン酸塩またはタングステン酸塩のいずれかの可溶性ソースから入手され得る。タングステン酸塩またはモリブデン酸塩イオンのソースとして用いられ得る追加の化合物としては、シリコタングステン酸塩、リンタングステン酸塩、ホウタングステン酸塩、シリコモリブデン酸塩、リンモリブデン酸塩およびホウモリブデン酸塩などの化合物が挙げられる。
【0043】
モリブデン酸塩および/またはタングステン酸塩イオンは、不水溶性であるが、アンモニア溶液などの溶剤系中に完全ではなくとも相当な溶解度を有する錯体を銅および/または亜鉛イオンと共に形成する。これらの成分は、溶液に溶解されたときに木材などのセルロース系材料に浸透し、アンモニアの損失の後、木材中に定着される。銅および/または亜鉛の錯体を有する組成物中に、モリブデン酸塩および/またはタングステン酸塩イオンが追加の防腐剤成分として用いられる場合、銅および/または亜鉛は、イブプロフェン成分およびモリブデン酸塩および/またはタングステン酸塩成分の両方と錯体を形成するために十分な量で添加される。モリブデン酸塩および/またはタングステン酸塩イオンの好適な量は、上述のとおり用いられるべきセルロース系材料に関連する要因に応じて約10〜約6,000ppmの範囲である。約200〜約1,700ppmの濃度が特に好適である。
【0044】
さらなる実施形態において、イブプロフェンは、その殺褐色腐朽菌活性および殺シロアリ活性を考慮して本発明の組成物の追加の成分として組み込まれ得る。イブプロフェンは、イブプロフェンまたはイブプロフェンナトリウムとして供給され得る。これらの化合物は、メタノールおよびエタノールに可溶性であるが、比較的不水溶性である。イブプロフェンは、不水溶性であるが、アンモニア溶液中に、上述のトロポロン−−銅および/または亜鉛錯体の溶解度に類似する溶解度を有する銅および/または亜鉛と錯体を形成する。イブプロフェンによって形成された錯体はまた、溶液中に溶解されたときセルロース系材料に深く浸透し、アンモニアなどの溶剤または共溶剤の損失の後に木材中に定着される。イブプロフェンが追加の成分として本発明の組成物中に存在する場合、銅および/または亜鉛イオンは、トロポロンおよびイブプロフェンの両方と錯体を形成するよう十分な量で添加される。
【0045】
イブプロフェンまたはイブプロフェネートは、処理されるべきセルロース系材料が経験するであろう使用条件(目標材料の性質、予期される最終用途および地理学的場所を含む)に応じて、約100〜約1,000ppmの範囲の量で本願明細書に記載の組成物に含まれ得る。約200〜約700ppmの間の組成物中のイブプロフェンまたはイブプロフェネートの濃度が特に好適である。
【0046】
「トロポロン」という用語は、通例、トロポロン自体(2−ヒドロキシシクロヘプタ−2,4,6−トリエノン)およびトロポロンの誘導体である化合物を指すために用いられ、天然化合物β−ツジャプリシン(ヒノキチオールとしても公知である)、γ−ツジャプリシン、およびβ−ドラブリンなどと同様の特性を有する。抗菌・カビ性および/または殺シロアリ活性を有するこれらのトロポロンのいずれも、本発明の防腐剤組成物における追加の成分として用いられ得る。これらの化合物は、メタノールおよびエタノールに可溶性であるが、比較的不水溶性である。
【0047】
トロポロンはまた、不水溶性であるが、アンモニア溶液などの溶剤系中に完全ではなくとも相当な溶解度を有する錯体を銅および/または亜鉛イオンと形成する。この成分は、溶液に溶解されたときに木材などのセルロース系材料に浸透し、アンモニアなどの溶剤の損失の後に木材に定着する。銅および/または亜鉛イオンを含有する組成物において追加の防腐剤成分としてトロポロンが用いられる場合、銅および/または亜鉛は、イブプロフェン成分およびトロポロン成分の両方と錯体を形成するために十分な量で添加される。本願明細書に記載の組成物においての使用に好適なトロポロンの量は、上述のとおり、セルロース系材料に対する使用に関連する要因に対応して、約100〜約1,000ppmの範囲である。約200〜約700ppmの間の濃度が特に好適である。
【0048】
防腐処理
銅および/または亜鉛との加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー錯体、および場合により追加の抗菌・カビ性および/または殺シロアリ性化合物を含有する本発明の組成物は、浸漬、はけ塗、吹付け、液浸、ドローコーティング、ロール塗、圧力処理または他の公知の方法により適用され得る。防腐剤組成物は、例えば木材、材木、合板、配向性ストランドボード、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、綿、および紙を含むいずれかのセルロース系材料に適用され得る。水性防腐剤系のための標準的な圧力処理プロセス下での木材への膨潤が特に有効である。木材防腐剤の適用前および/または後に減圧を適用し得る。減圧下で木材から脱気し、次いで、防腐剤溶液の存在下に減圧を停止することで、木材への溶液の浸透性が高まる。
【0049】
木材についての特に有用な処理プロセスは以下に記載のとおりである。乾燥または、切り立てで生の木材がチャンバ内におかれ、これが、次いで、シールされ、木材の種によって判定される規定のサイクルで排気される。一般に、サザンイエローパイン(SYP)木材については、排気時間は約30分間であり、この最中に、密閉チャンバ内の圧力は、約2インチ水銀以下のレベルとされる。チャンバ内の排気圧力は、0.01〜0.5atmで異なる。この工程の目的は、空気、水および揮発物を木材から除去することである。防腐剤組成物が、次いで、大気に真空を破壊することなく、閉塞されたチャンバ内に木材を完全に浸漬するために十分な量で導入される。容器の加圧が次いで開始され、この圧力は、隔壁または他のポンプにより、所望のレベルで所与の時間の間維持される。初期においては、容器内の圧力は、コンテナ内の水性組成物が木材中に浸透することにより低下することとなる。圧力は、浸透期間を通して所望のレベルの処理が維持されるよう高められることが可能である。容器内の圧力の安定化は、木材への液体のさらなる浸透がないことを示す。この時点で、圧力が開放されて、木材が大気圧で溶液と平衡化され、容器を排水し、および木材を取り出すことが可能である。プロセスのこの部分において、用いられる圧力は、300psigもの高さであることが可能であり、一般的には約50〜250psigである。
【0050】
防腐剤組成物が組み込まれた物品
本発明の物品は、本願明細書に記載の防腐剤組成物で処理されたものである。木材、材木、合板、配向性ストランドボード、紙、セルロース、綿、リグニン、およびヘミセルロース製のまたはこれらが組み込まれたものなどの物品の処理に続いて、防腐剤組成物のアンモニア溶液中のアンモニアが散逸されることとなる。この物品は、銅および/または亜鉛および加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーを保持する。追加の抗菌・カビ性および/または殺シロアリ性成分が、処理に用いられる防腐剤組成物中に含まれる場合には、同様に処理済の物品中および/または上に定着される。
【0051】
本発明の組成物において任意選択的に使用される追加の成分は、タングステン酸塩および/またはモリブデン酸塩イオン、イブプロフェン、トロポロン、およびこれらの混合物を含み得る。少なくとも2,000の分子量を有する、銅および/または亜鉛および加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマー、ならびに、タングステン酸塩および/またはモリブデン酸塩イオン、イブプロフェン、トロポロン、およびこれらの混合物から選択される少なくとも1種の成分を含有する物品が特に有用である。
【0052】
セルロース系材料を処理するための本発明の方法はまた、セルロース系材料、または木材などのセルロース系材料を含有する処理済の物品を、家、キャビン、倉庫、棺保護容器またはコンテナ、または海洋施設などの構造物へ、または屋外用調度品の部品などの消耗装置へ、または建築物用のトラス、壁パネル、小支台、土台または敷板の部品へ組み込む工程を含む。
【実施例】
【0053】
本発明を、以下の実施例においてさらに例示する。これらの実施例は、例示のためだけに提供されていることが理解されるべきである。上記考察およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の基本的な特徴を確認することが可能であり、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の使用法および条件に適合させるために、本発明の種々の変更および改良をなすことが可能である。
【0054】
略語の意味は以下のとおりである:「秒(sec)」とは秒を意味し、「ml」とはミリリットルを意味し、「L」とはリットルを意味し、「g」とはグラムを意味し、「mmol」とはミリモルを意味し、「mtorr」とはミリトールを意味し、「時間(hr)」とは時間を意味し、「分(min)」とは分を意味し、「mm」とはミリメートルを意味し、「cm」とはセンチメートルを意味し、「nm」とはナノメートルを意味し、「Mw」とは重量平均分子量を意味し、「Mn」とは数平均分子量を意味し、「mw」とは分子量を意味し、「XRF」とはX線蛍光分光分析を表し、「RH」は相対湿度であり、「MHz」とはメガヘルツを意味し、「NMR」とは核磁気共嗚を意味し、「IR」とは赤外線を意味し、「ICP」とはイオン結合プラズマを意味し、「LC/MS」とは液体クロマトグラフィ/質量分析を意味し、そして「S/S」とはステンレス鋼を意味する。「SD」は標準偏差であり、「SMA」はスチレン/無水マレイン酸コポリマーであり、「SMA−NOH」はスチレン/N−ヒドロキシマレアミド酸コポリマーであり、「OMA」はオクテン/無水マレイン酸コポリマーである。
【0055】
「SYP」は「サザンイエローパイン」であり、カリビアマツ(Pinus caribaea Morelet)、スラッシュマツ(Pinus elliottii Englelm.)、ダイオウショウ(Pinus palustris P.Mill.)、リギダマツ(Pinus rigida P.Mill.)、およびテーダマツ(Pinus taeda L.)を含む密接に関連する松種に対する略語である。「AWPA」は米国木材保存協会(American Wood−Preserver’s Association)である。AWPAl規格は、「AWPA規格ブック(AWPA Book of Standards)」、AWPA、私書箱5690、テキサス州グランバリー(Granbury,TX)76049に発行されている。SYP杭の保存のための手順は、AWPA規格、方式E7−01、セクション4、5、6、および7ならびにE11−97に基づく。AWPA規格E7−01に準拠して、杭を、以下のとおりの菌・カビ性腐朽および昆虫の攻撃に対する以下の判定基準に従って視覚的に格付けした:
腐朽等級
等級番号 条件の記載
10 傷んでいない
9.5 許容される腐朽の疑い
9 断面の3%までの僅かな腐朽
8 断面の3〜10%の腐朽
7 断面の10〜30%の腐朽
6 断面の30〜50%の腐朽
4 断面の50〜75%の腐朽
0 破壊

シロアリ等級
等級番号 条件の記載
10 傷んでいない
9.5 1〜2つの許容される微笑なかじり跡
9 断面の3%の摂食の僅かな証拠
8 断面の3〜10%の攻撃
7 断面の10〜30%の攻撃
6 断面の30〜50%の攻撃
4 断面の50〜75%の攻撃
0 破壊
【0056】
シロアリ等級および腐朽等級は、以下の表において、虫害および木材腐食のそれぞれを報告するために用いられている。「総定着量」とは、膨潤の直後に木材中に残留する処理液体の量を指す。「定着量」とは、膨潤された液体が乾燥により木材から除去された後に木材中に残留する防腐剤の量を指す。この量は、ppmとしてまたは重量として表記されることが可能である。「証拠用杭」または「証拠用サンプル」は、将来的な分析のためにサンプルとして残されることとなる、杭全体、または処理された杭の一部分である。
【0057】
一般的方法
すべての反応および操作を大気に開放された標準的な実験用ドラフト中で実施した。以下の手法において水求められる場合には脱イオン水を用いた。ソルビトール、AIBN、アクリロニトリル、水酸化リチウム一水和物、塩酸ヒドロキシルアミン、硫酸銅五水和物、およびクロマズロール(Chromazurol)S[1667−99−8]はシグマアルドリッチケミカル(Sigma−Aldrich Chemical)(ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee,WI))から入手し、入手したままで使用した。濃水酸化アンモニウムおよび氷酢酸はEMサイエンス(EM Science)(ニュージャージー州ギブスタウン(Gibbstown,NJ))から入手し、入手したままで使用した。シアノエチル化スクロース[18307−13−7]および銅アセテート一水和物はアクロスオーガニックス(Acros Organics)(ベルギー国ギール(Geel,Belgium))から入手し、入手したままで使用した。スクロースはパスマークスーパーマーケット(Pathmark Supermarket)(デラウェア州ウィルミントン(Wilmington,DE))から入手し、入手したままで使用した。
【0058】
元素分析は、デラウェア州ウィルミントン(Wilmington,DE)のマイクロアナリティカル社(Micro−Analytical Inc)によって実施した。サザンイエローパイン木材の圧力処理は、高圧実験室にて、ステンレス鋼圧力容器を用いてAWPA規格プロセス(AWPAP5−01)に準拠して実施した。XRF分析を、オランダ国アイントホーフェン(Eindhoven,Netherlands)のパナリティカル社(Panalytical Inc.)製のアクシオス波長分散型X線蛍光分光計(Axios Wavelength Dispersive X−ray Fluorescence Spectrometer)で実施した。
【0059】
銅の存在に対するクロマズロール(Chromazurol)Sテスト
処理済み木材を、AWPAA3−00セクション2に記載の方法を用いて、銅の存在についてクロマズロール(Chromazurol)Sでテストした。1.67%w/w水性ナトリウムアセテート溶液中の0.167%w/wクロマズロール(Chromazurol)Sを、新鮮な処理済み木材切断面に噴霧した。噴霧領域での黄色溶液色から濃青色への変化は、最低でも25ppmの銅が存在することを示す。965mm(38インチ)長の杭を各端部から457mm(18インチ)で切断し、中間の残りの50.8mm(2インチ)片(証拠用片)を、新鮮な切断面上で、クロマズロール(Chromazurol)−Sの溶液で処理した。この溶液への露出で新鮮な切断面が濃青に変化する場合、これは、木材防腐処理溶液による木材への完全な浸透性の指標である。
【0060】
すべての木材を、インチ計測値を用いて切断した。木材は、木材は水分含有量で寸法が変化するであろうことを考慮して実行可能な限り正確に切断した;切断誤差は、いずれの寸法においても1mm以内であると推測される。メートル法への変換を提供している。
ファールシュトレーム(Fahlstrom)杭:0.156インチ×1.5インチ×10インチ(4mm×38mm×254mm)
予腐朽杭:3/4インチ×3/4インチ×38インチ(19mm×19mm×1154mm)
腐朽杭:3/4インチ×3/4インチ×18インチ(19mm×19mm×450mm)
劣化杭:1.5インチ×1.5インチ×18インチ(38mm×38mm×450mm)
ブロック:3/4インチ×3/4インチ×3/4インチ(19mm×19mm×19mm)
【0061】
実施例1
防腐剤としての加水分解オクテン/無水マレイン酸コポリマー銅錯体のアンモニア溶液
A1)アンモニア溶液中の加水分解オクテン/無水マレイン酸コポリマー銅錯体の調製
オクテンおよび無水マレイン酸モノナトリウム塩の1:1コポリマーを、米国特許第3706704号明細書および米国特許第3404135号明細書に記載のとおり調製した。加水分解1:1オクテン/無水マレイン酸コポリマーモノナトリウム塩の前駆体であるオクタン/無水マレイン酸のMwを、多角光散乱検出器を用いてサイズ排除クロマトグラフィにより測定した。オクテン/無水マレイン酸コポリマーのMwは、8595+/−50と測定された。サイズ排除クロマトグラフィを、ウォーターズ(Waters)2690液体クロマトグラフィ(Liquid Chromatograph)(マサチューセッツ州ミルフォード(Milford,MA)のウォーターズ社(Waters Corp.))で実施し、検出器は、ワイアットテクノロジー光散乱検出器(Wyatt Technology Light Scattering Detector)(カリフォルニア州サンタバーバラ(Santa Barbara,CA)のワイアットテクノロジー(Wyatt Technology))であった。得られたコポリマーを水性水酸化ナトリウム溶液で加水分解し、水中に27.8%w/w溶液とした。次いで、42.13gの加水分解1:1オクテン/無水マレイン酸コポリマーモノナトリウム塩溶液を1Lボトルに入れ、300gの水および6gの水酸化アンモニウムを添加した。混合物をよく混合した。個別に、5.835gのCuSO・5HOを70mLの水中に溶解した。この銅溶液のすべてを、加水分解1:1オクテン/無水マレイン酸コポリマーモノナトリウム塩溶液に添加したところ、オクタン/無水マレイン酸コポリマーと錯化した銅の不溶性を示す沈殿物が観察された。追加の9gの水酸化アンモニウムを、銅および加水分解オクタン/無水マレイン酸コポリマー混合物に添加したところ、沈殿物は直ぐに溶解した。溶液を水で1Lとして、1485ppmのCuを含有する溶液を得た。混合物を室温で1時間静置させた。オクタン/無水マレイン酸コポリマーと錯化した銅は溶液中に残留し、分子量8595+/−50の、銅と錯化した加水分解オクタン/無水マレイン酸コポリマーは、アンモニア溶液中に可溶性であることが実証された。
【0062】
A2)加水分解オクテン/無水マレイン酸コポリマーのアンモニア溶液の代替的調製および銅錯体防腐剤溶液
300gの水を、ビーカ中の47.8gの硫酸に徐々に添加した。37.2gのCuOを、硫酸中に、何回かに分けて、15分かけて攪拌しながら徐々に添加した。反応は発熱性であり、45℃から60℃に温度が昇温した。CuOのすべてが45分間で可溶性であった。銅溶液とオクテン/無水マレイン酸コポリマー錯体との組み合わせに直接的に関連する不溶性の問題を回避するために、オクテン/無水マレイン酸コポリマーの添加の前にCuOのアンモニア溶液を調製した。120gの濃縮NHOHを、CuOおよび硫酸溶液に添加したところ、濃い青に変色した。この溶液に、469.5gの、加水分解1:1オクテン/無水マレイン酸コポリマーモノナトリウム塩溶液の27.1%w/w溶液を添加し、続いて、80gのNHOHおよび145gの水を添加した。得られた溶液に、28%w/w濃縮水酸化アンモニウム溶液を、水中の1.4%w/wアンモニアの最終濃度および20Kgの最終重量に添加した。上記の手法を3回反復して、各々1485ppmの銅の濃度を有する、合計で3つの個別の20Kg溶液を生成した。
【0063】
742ppmの銅を含有する20Kgの木材処理溶液を調製するために、上記の10Lの1485ppm銅溶液を1.4%w/wアンモニア水で希釈して、20Kgの最終重量を得た。371ppmの銅を含有する20Kgの木材処理溶液を調製するために、10Kgの742ppmの銅溶液を1.4%w/wアンモニア水で希釈して、20Kgの最終重量を得た。
【0064】
B)加水分解オクテン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅錯体のアンモニア溶液の木材ブロックへの浸透
実施例1 A1で調製した加水分解オクテン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅錯体のアンモニア溶液を、米国木材保存協会(American Wood Preservers Association)(AWPA)によってAWPA規格、方式E11−97として記載されているものに類似の木材含浸系を用いて木材に膨潤させた。標準的な実験用ガラス器具および真空ポンプを用いて、3/4インチ×3/4インチ×3/4インチ(19mm×19mm×19mm)のサイズの32個の予め計量しておいたサザンイエローパイン(SYP)木材ブロックを膨潤させた。ブロックは節、樹脂および樹液溜りがなく、カビ、変色および木材腐朽菌による感染の視覚的兆候を有さず、割れを有さず、6〜10年輪/インチの年輪数を有しており、および少なくとも50%の夏材を含有していた。ブロックを、23℃+/−0.5℃および50%+/−2%の相対湿度に設定した湿度室で21日間事前調整した。これらの条件下では、ブロックは、コントロールカンパニー(Control Company)(テキサス州フレンズウッド(Friendswood,TX))製の含水率計、モデルPM6304を用いて測定した、9〜10%の平衡含水率を達成した。その2つが標準的なテーパ摺ガラス29/26ジョイントであると共に1つの中央ジョイントが標準的なテーパ摺ガラス102/75ボールジョイントを有する3つの開口を有する、直径10.16cm×30.48cm長のガラスフラスコを用いて膨潤容器を調製した。滴下漏斗を29/26ジョイントの一方に取り付け、処理溶液で満たした。木材キューブを、沈めるためにステンレス鋼ナットの重石をつけたナイロンバッグに入れて、膨潤容器内に置き、膨潤容器を30分排気した。800mLの膨潤溶液を導入することによって真空を停止した。この溶液の量はブロックを覆うために十分であった。32個のブロックを、A1で調製した加水分解オクテン/無水マレイン酸コポリマーナトリウム塩/銅錯体溶液で膨潤させた。ブロックは、大気圧下で30分間膨潤させた。ブロックを、タオルで優しく拭いて表面の溶液をすべて除去し、次いで、木材が膨潤溶液によって浸透されていることを確認するために、濡れているうちに直ぐに計量した。総定着量計算を含む表1は、加水分解オクテン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅錯体のアンモニア溶液が良好に木材に膨潤されたことを示すブロック重量の増加を表す。
【0065】
【表1】

【0066】
上述のとおり処理した32個のSYPブロックから、グループ平均の+/−5%以内に属する総定着量を有する6個のブロックを選択した。これらのブロックを表1の第5列におけるアスタリスクでマークしたものから選択し、これらは表2に列挙されている。ブロックを室温で2週間乾燥させ、再度、23℃+/−0.5℃および50%+/−2%の相対湿度に設定した湿度室中に21日間調整した。調整したブロックの重量(浸出前の重量)を、次いで、表2に記録した。
【0067】
【表2】

【0068】
6個の木材ブロックに含有されている活性処方成分の量を、含有されている処理溶液の重量および処理溶液中の活性処方成分の重量分率に基づいて算出した。6個のブロックについての膨潤溶液の総消費量は30.2450gであった(表2を参照のこと)。膨潤溶液中の銅の濃度は1485ppmであった。従って、6個のブロック中の銅の総量は、(30.2450g)(1485ppm)/1,000,000=0.04491gの銅であった。
【0069】
C)加水分解オクテン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅錯体のアンモニア溶液の木材ブロックにおける定着量
実施例1Bにおける選択した6個のブロックを膨潤容器に再度導入し、これを30分間排気し、150mLの脱イオン水を添加して真空を停止した。沈めたブロックを、水で30分間、大気圧で膨潤させた。水膨潤溶液の残りをメスシリンダーに移し、脱イオン水で体積を300mLにした。ブロックおよび水をジャーに移し、ジャーを覆った。6個のブロックを150mLの脱イオン水で個別に膨潤して対照とした;これらのブロックを取り出し、浸出ジャー中に置いた。過剰量の水をメスシリンダー中に入れ、DI水で300mLの総量とし、次いで、処理済のブロックのように対照ブロックを浸出させた。浸出ジャーを、23℃+/−0.5℃、100振動/分で、イノーバ(Innova)2300プラットフォームシェーカー(Platform Shaker)テーブル(ニュージャージー州エディソン(Edison,NJ)のニューブランズウィックサイエンティフィック社(New Brunswick Scientific Co.,Inc.))上で撹拌した。各ジャーからの水を浸出溶液として回収し、以下の時間間隔で、300mLの新たな脱イオン水で置き換えた:6、24、48、96、144、192、240、288、336、および384時間。個別の浸出溶液を以下の手法により銅含有量について分析した:浸出液サンプルを、95℃に設定したオーブンを用いてジャー内で乾燥するまで蒸発させた。次いで、1gのスルファミド酸および50mLの脱イオン水を添加し、このジャーを100℃で30分間加熱した。ジャーを室温に冷却し、次いで、6gの硫酸アルミニウム18水和物を添加した。15%炭酸ナトリウム溶液を用いてpHを中和し、続いて、約1〜3mLの氷酢酸を添加してpHをおよそ4とした。次いで、7gのNaIを室温の溶液に添加した。溶液を0.00919Mチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した。溶液が麦わら色の外観を呈したら、新たに調製した100mLの水中の1gの可溶性デンプンの溶液および1gのカリウムチオシアネートを添加した。次いで、溶液を、青いデンプン/ヨウ素色が退色するまで0.00919Mチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した。浸出液の各サンプル中に存在する銅の量を下記の式により算出した:
g Cu=(ml0.00970Nチオ硫酸ナトリウム)(0.00970当量/1000ml)(63.546gCu/当量)。
【0070】
上記の所与の時間の各々で回収した浸出液の滴定から、6個のブロック中に残留している銅の総量を、浸出溶液の滴定により測定された量と、前の時点での値との差として計算した(表3を参照のこと)。
【0071】
【表3】

【0072】
6個の未処理対照ブロックを、上述のとおり、処理すると共に浸出させ、0.00937Nチオ硫酸塩で滴定して、0.000178gの浸出性銅バックグラウンドを得た。この量の銅を処理済みのブロックから浸出した銅の総量(0.00135g、表3)から減じて、防腐剤から浸出した銅0.001172gを得た。初めに木材に膨潤された銅の量は0.04491gであった。従って、これらの激しい浸出性条件下で、僅かに約2.61%=[(0.001172/0.04491)(100)]の銅しか木材から浸出しなかった。この結果は、加水分解オクタン/無水マレイン酸コポリマーと錯化したときに、木材における銅の定着が優れていることを示している。
【0073】
浸出の後、ブロックを計量した。ブロック重量(浸出テスト後の重量)は上記表2に記載されている。このデータは、ブロックの重量は浸出後に僅かに減ったことを示す。
【0074】
D)腐朽杭についての木材調製処理手法ならびに環境テスト
以下の方法は、AWPA規格、方式E7−01、セクション4、5、6、および7およびE11−97に基づいている。
【0075】
SYPボード、5/4インチ×14インチ×8ft(3.175cm×35.56cm×243.84cm)および5/4インチ×12インチ×8ft(3.175cm×30.48cm×243.84cm)を、デラウェアカントリーサプライ(Delaware County Supply)(ペンシルベニア州ブーツウィン(Boothwin,PA))から入手した。ボードを、サイズが3/4インチ×3/4インチ×38インチ(19mm×19mm×96.5cm)(AWPA規格、方式E7−01、セクション4.2、例外として、これらのボードは均衡化せずに製材した)の前腐朽杭に切断した。杭を目視検査によって区別し(AWPA規格、方式E7−01、セクション4.1)、節、割れ、樹脂および樹液溜り、カビ、変色および木材腐朽菌による感染の兆候を有する杭を排除した。残りの杭を、重量によりグループ分けした(AWPA規格、方式E7−01、セクション5)。200g〜220gの間の重量の前腐朽杭のグループを膨潤実験のために選択し、23℃および50%のRHで制御した環境チャンバ(モデル1〜60LLVLヒューミディティキャビネット(Humidity Cabinet)、アイオワ州ブーン(Boone,IO)のパーシバルサイエンティフィック社(Percival Scientific Inc.))に、21日間(AWPA規格、方式E7−01、セクション4およびE11−97、セクション3)入れた。環境チャンバ内での均衡化の後、各杭に2つのS/S識別タグを取り付け、24.6mmのS/S釘で固定した。次いで、各杭を計量する(表4に記載の重量:乾重量)と共に寸法を測り、および結果を記録した。
【0076】
木材保存処理手法:
処理を、デュポンエクスペリメンタルステーション(DuPont Experimental Station)(デラウェア州ウィルミントン(Wilmington,DE))で設計され、製造されたステンレス鋼圧力容器で実施した。圧力を、ダイヤフラム・ポンプ(モデルS216J10;オハイオ州ブレックスビル(Brecksville,OH)のカーチスライトフローコントロール社(Curtiss−Wright Flow Control Corp.)のスピローグプロダクツディビジョン(Sprague Products Div.))により供給した。圧力容器は、12.7cm(5インチ)直径の既定の80S/Sパイプから構成され、S/Sフランジおよびキャップで各端部で閉じた。パイプの長さは、処理されるべき木材の長さに応じて変化させた。典型的には、40インチ(101.6cm)=長さを38インチの木材試料を処理するために選択した。他の長さのパイプをフランジを介して追加して、圧力容器の長さを、8ft(243.84cm)試料を収容するために延長し、または短い長さのパイプを用いて10インチ(25.4cm)試料を処理した。
【0077】
10本のラベルを付けた杭、ならびに2本の証拠用杭(合計で12本の杭)をステンレス鋼分離ラック(木材の小片をボードの間に置くことによりこれらを分離する材木の物理的分離である固着をシミュレートするために)に装填し、圧力容器内に入れた。圧力容器をシールし、69.85cm Hgゲージ(13.5psig)の真空を30分の時間適用した。膨潤流体を導入して圧力容器を満たし、木材を覆うことにより真空を停止した。用いた膨潤流体は、実施例1 A1で調製し、1485ppmの銅を含有していた。容器全体に膨潤流体を循環させることによりエアポケットを除去し、および7.18キロパスカルゲージ(150psig)の圧力を、ダイヤフラム・ポンプで30分間適用した。圧力を開放し、杭を膨潤溶液中で15分間均衡化させた。圧力容器を排水し、杭を保持している処理ラックを取り外した。杭を紙タオルで軽く拭き取り、計量し(表4に記載の重量:湿重量)、および換気した筐体中の開放したラックにおいて乾燥させた。各ブロックについての最初の乾重量を湿重量から差し引いたものは、表4に示す処理溶液の吸収量を示していた。
【0078】
【表4】

【0079】
14日間の後、杭を計量し、結果を記録し、湿度室に戻した。チャンバ内に合計で21日間置いた後、杭を計量すると共に結果を記録した(AWPA規格、方式E7−01、セクション6)。14および21日での重量における相似性は、内部水分レベルが一定値に達していたことを示していた。
【0080】
10本のラベルを付けた前腐朽杭を、各端部から切断して、5.1cm(2インチ)の証拠用セクションを杭の中心から残して、45.7cm(18インチ)の長さ(腐朽杭長さ)に切断した。一般的方法に記載のクロマズロール(Chromazurol)Sテストを用いて、銅浸透性についてすべての証拠用セクションをテストした。テストしたすべての証拠用セクションは、木材の木材防腐処理溶液による完全な浸透を示す濃い青に変色した。
【0081】
45.7cm(18インチ)腐朽杭の各々を計量し、寸法を採り、および結果を記録した。各々の半分からの10本の杭のグループを一緒に束ね、2つの個別のテストサイトでの地中への挿入のためにラベルを付けた(デラウェア州ニューアーク(Newark,DE)およびフロリダ州スターク(Starke,FL))。束は、これらの杭を地中に設置するまで涼しい場所に保管した(AWPA規格、方式E7−01、セクション7)。処理済の杭を、未処理の対照杭と共に、AWPA E7−01により地中に設置した。杭の位置調整は、AWPA E7−01によりテストサイトにおいて無作為化した。12ヶ月後、杭を地中から取り出し、AWPA手順E7−01に準拠して、腐朽およびシロアリの攻撃について視覚的に格付けした。フロリダ州スターク(Starke,FL)でテストした杭についての等級区分が表5に記載されている。
【0082】
【表5】

【0083】
追加の杭を、同一の処理溶液の1:2および1:4の希釈物で処理し、フロリダ州スターク(Starke,FL)およびデラウェア州ニューアーク(Newark,DE)でテストした。これらの2つのサイトでの、非希釈処理および希釈処理での、杭についての腐朽および昆虫の攻撃結果のまとめが表6に記載されている。
【0084】
【表6】

【0085】
対照に対する損傷と共に、フロリダ州スターク(Starke,FL)サイトでのすべての処理溶液による広範で、強力な保護を観察した。ニューアーク(Newark)サイトでは、12ヶ月の間に、より寒冷な気候および小ない雨量により、腐朽および虫害がほとんどなかった。より長期の期間にわたって、ニューアーク(Newark)サイトでの処理済の腐朽杭は、対照に対して、小さい菌・カビ性攻撃および虫害を示すであろうことが予期される。
【0086】
実施例2
易可溶化性粉末としての加水分解1:1オクテン/無水マレイン酸コポリマー銅塩の調製
輸送目的のために、銅錯体を粉末形態で調製して、希釈水溶液の輸送を回避するすることが所望され得る。易溶性粉末を以下のとおり調製した。
【0087】
11.7gのCuSO・5HOの40gの水中の溶液を調製した。この溶液に、1.87g NaOHおよび43.3gの加水分解1:1オクテン/無水マレイン酸コポリマーモノナトリウム塩の混合物を27.8%w/w水溶液として添加した。沈殿物が形成された。スラリーを、ワットマン(Whatman)1番フィルタ紙を通してろ過して、沈殿物を単離した。この沈殿物を、部分的に空気乾燥し、続いて、90℃オーブン内で2時間、26.5gの最終重量までさらに乾燥させた。固体は、57%1:1オクテン/無水マレイン酸コポリマー銅塩錯体および43%の水を含有していた。沈殿物は、1.4%アンモニア水中に可溶性であった。
【0088】
実施例3
スチレン/無水マレイン酸コポリマー(SMA)の調製
溶剤およびコポリマー(SMA)の分子量を制限する連鎖移動剤の両方としてイソプロピルアルコールを用いる、スチレンおよび無水マレイン酸の共重合が、米国特許第3,404,135号明細書に記載されている。しかしながら、本発明者らは、重合中には、約20%の無水マレイン酸が反応してモノイソプロピルマレエートエステルを形成することを見出した。イソプロピルアルコールを溶剤として用いることにより得られるコポリマーのMnは典型的には約7200であり、およびMwは約17,000であった。トルエンを溶剤および連鎖移動剤として用いた場合、エステルは形成されなかったが、反応生成物は、ろ過による回収が困難である粘着性の塊であった。トルエンを反応溶剤として用いることにより得られるコポリマーのMnは約9,000であり、およびMwは約35,000であった。本発明者らは、トルエンとイソプロピルアルコールとの組み合わせが、モノマー用の溶剤およびコポリマーの分子量を制限するための連鎖移動剤の両方として役立つことを見出した。このコポリマーのMnは約20,900であり、およびMwは約47,400であった。重合において形成されたエステルの量は約1%であった。反応生成物、SMAは、反応溶剤に不溶の不溶性の粉末であり、ろ過による回収が容易であった。
【0089】
小規模SMA調製:
機械的攪拌機、コンデンサ、熱電対さや、鉱物油充填窒素バブラー、および滴下漏斗を備える500mL丸底フラスコに、71gのトルエンおよび4gのイソプロピルアルコールを充填した。溶媒混合物を、油浴を熱源として用いて60℃に加熱した。この熱溶剤に、9.8gの無水マレイン酸を添加した。混合物を攪拌して無水マレイン酸を溶解させ、次いで、70℃に温めた。この混合物に、5gのトルエン中の0.125gのAIBNの溶液を添加した。フラスコを窒素で置換し、次いで、2分間かけて、10.4gのスチレンを、滴下漏斗で滴加した。数分間の後、白色の沈殿物が形成し始めた。反応温度を72℃で150分間維持し、次いで、80℃に昇温させ、30分間維持した。反応を、次いで室温に冷却し、コポリマーをろ過により回収した。ポリマー粉末を、20gのトルエンで洗浄し、次いで、オーブン中、80℃で空気乾燥させて19.3gの白色の、自由に流動する粉末を得た。Mw=54,400およびMn=23,200。洗浄液を蒸発させて、追加の0.4gのモノイソプロピルマレエート(H NMR(THF−d):δ1.23(d、CH3、6H)、5.2(m、CH、1H)、6.2(m、CH、2H)ppm)を得た。
【0090】
プロセスを、トルエンおよび酢酸を用いて、または表7に記載のとおりトルエンとイソプロパノールとの異なる比、ならびに異なる温度を用いて反復した。SMA生成物のMnおよびMwは、表7に示されるとおり異なっていた。
【0091】
【表7】

【0092】
大規模調製
18Lの多口フラスコに、2つの滴下漏斗、還流凝縮器、加熱マントル、機械的攪拌機、および窒素バブラーを取り付けた。フラスコに、9500g(11L)のトルエンおよび500g(640ml)のイソプロパノールを充填した。この溶液に、1276gの無水マレイン酸粉末を添加した。500g(578ml)のトルエンに溶解した15gのAIBNの溶液を調製し、一方の滴下漏斗に入れた。第2の漏斗を、1302.6gのスチレンで充填した。装置をシールし、窒素でパージした。無水マレイン酸溶液を60℃に温め、AIBN溶液の約三分の一を添加した。次いで約150mLのスチレンをフラスコに漏斗から添加した。酸素が消費される、約5分間の誘導時間を設けた。重合が開始したことを示す、白色の沈殿物の形成が開始した後に、残りのスチレンを、150mL分量で60分間かけて添加した。AIBN溶液を、3回で60分間かけて添加した。スチレンおよびAIBNを添加することで、マントルで追加の熱をほとんど付与せずに、反応温度は約70℃〜80℃に維持された。添加が完了した後、反応温度を、加熱マントルを用いて約80℃で追加の2時間維持した。コポリマーの白色スラリーを、次いで、約室温に冷却し、ろ過し、温かいトルエンで洗浄し、90℃の真空オーブン中に乾燥させて、2460g(95.5%収率)のSMAおよび40gのモノイソプロピルマレエートを得た。Mw=40,400およびMn=18,600。洗浄液を蒸発させて、0.4gのモノイソプロピルマレエート(H NMR(CDCl):δ1.32(d、J=1.2、CH3、6H)、5.15(m、CH、1H)、6.36(m、CH、2H)ppmを得た。
【0093】
実施例4
防腐剤としての加水分解1:1ポリ(スチレン/無水マレイン酸)コポリマー銅塩のアンモニア溶液
A)アンモニア溶液中の加水分解1:1ポリ(スチレン/無水マレイン酸)コポリマー銅塩の調製
37.44gのNaOHおよび100gの水の溶液を、94.63gの1:1スチレン/無水マレイン酸コポリマーに添加した。混合物を攪拌し、50℃に温めて、ポリマーを溶解し、および加水分解した。清透な溶液を室温に冷却させた(25℃)。116.85gのCuSO・5HOの溶液を、250gの濃縮水酸化アンモニウムおよび500gの水の混合物中に調製した。加水分解スチレン/無水マレイン酸コポリマーの銅錯体の濃縮溶液を、1.4%アンモニア溶液で希釈して、20Kgの1485ppmCu防腐剤溶液を調製した。
【0094】
B)加水分解スチレン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅錯体アンモニア溶液の木材ブロックへの浸透
実施例4Aで調製した加水分解スチレン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅錯体のアンモニア溶液を、米国木材保存協会(American Wood Preservers Association)(AWPA)によりAWPA規格として記載の、実施例1Bに記載の方式E11−97に類似の木材含浸系を用いて木材に膨潤させた。総定着量計算を含む表8はブロックの重量が増加したことを示し、これは、加水分解スチレン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅錯体のアンモニア溶液は木材に良好に膨潤されたことを示している。
【0095】
【表8】

【0096】
上述のとおり処理した32個のSYPブロックから、グループ平均の+/−5%以内に属する総定着量を有する6個のブロックを選択し、これらは表9に列挙されている。ブロックを処理し、実施例1Bに記載のとおり計算をした。合計で29.7411gの1485ppmの銅膨潤溶液が定着され、または0.04417gの銅が定着された。
【0097】
【表9】

【0098】
C)加水分解スチレン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅錯体のアンモニア溶液の木材における定着量
実施例2Bにおける6個の選択したブロックを、実施例1Cに記載のとおり浸出に供した。結果が表10に示されている。6個の未処理対照ブロックを、上述のとおり、処理すると共に浸出させ、0.00937Nチオ硫酸塩で滴定して、0.000178gの浸出性銅バックグラウンドを得た。この量の銅を処理済みのブロックから浸出した銅の総量(0.003294g、表10)から減じて、防腐剤から浸出した銅0.003116gを得た。初めに木材に膨潤された銅の量は0.04417gであった。従って、これらの激しい浸出性条件下で、僅かに約7.05%=[(0.003116/0.04417)(100)]の銅しか木材から浸出しなかった。この結果は、加水分解スチレン/無水マレイン酸コポリマーと錯化したときに、木材における銅の定着が優れていることを示している。
【0099】
浸出の後、ブロックを計量した。ブロック重量(浸出テスト後の重量)は上記表9に記載されている。このデータは、ブロックの重量は浸出後に僅かに減ったことを示す。
【0100】
【表10】

【0101】
ブロックの残留している銅含有量をアッシングにより分析した。ブロックを室温で乾燥させ、次いで、6個のブロックのすべてを一緒に250℃で2時間、次いで、580℃で18時間加熱した。得られた灰の量および初めの木材サンプルの重量が表11に示されている。
【0102】
【表11】

【0103】
残渣を、ジャー中において1gの硫酸および50mLの脱イオン水を残渣に添加し、連続して既述の滴定手法に従うことにより銅について分析した。XRFにより、マンガン、鉄、砒素、および鉛などの他の金属が、灰中に存在することが見出された。これらの金属は、浸出液においては滴定可能ではないような様式で木材中に結合していたが、これらは、灰からはチオ硫酸塩/ヨウ素により滴定可能であった。滴定によって測定される灰中の銅の量は、滴定可能な金属含有量の91.7%であった。灰の滴定により、浸出後に処理済みのブロック中に残留する銅の量は0.0416gであった。それ故、アッシングアッセイにより、5.82%の銅がブロックから浸出した(初期値.044170gの.00257gが浸出した)。6個の処理済および浸出ブロックの灰の総量から、0.141gの灰が得られた。XRF分析により、灰は28.27%の銅または0.0399gの銅を含有しており、9.67%の銅の計算損失量が得られる。ブロックから浸出する銅の割合を測定する種々の方法は、分析のこれらの方法はかなり異なるため、相互に良好に一致する。結果が表12に示されている。
【0104】
【表12】

【0105】
C)加水分解スチレン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅錯体のアンモニア溶液で処理したファールシュトレーム(Fahlstrom)杭の調製および環境テスト
ファールシュトレーム(Fahlstrom)杭の選択および調製
以下の方法は、AWPA規格、方式E7−01、セクション4、5、6、および7およびE11−97に基づいている。
【0106】
SYPボード、3.175cm×35.56cm×243.84cm(5/4インチ×14インチ×8ft)および3.175cm×30.48cm×243.84cm(5/4インチ×12インチ×8ft)を、デラウェアカントリーサプライ(Delaware County Supply)(ペンシルベニア州ブーツウィン(Boothwin,PA))から入手した。これらのボードを、4mm×38mm×254cm(0.156インチ×1.5インチ×10インチ)のサイズのファールシュトレーム(Fahlstrom)杭に切断した(AWPA規格、方式E7−01、セクション4.2、例外として、これらのボードは均衡化せずに製材した)。杭を目視検査によって区別し(AWPA規格、方式E7−01、セクション4.1)、節、割れ、樹脂および樹液溜り、カビ、変色および木材腐朽菌による感染の兆候を有する杭を排除した。残りの杭を、重量によりグループ分けした(AWPA規格、方式E7−01、セクション5)。20g〜25gの間の重量の杭を膨潤実験のために選択し、23℃および50%のRHで制御した環境チャンバ(モデル1〜60LLVLヒューミディティキャビネット(Humidity Cabinet)、アイオワ州ブーン(Boone,IO)のパーシバルサイエンティフィック社(Percival Scientific Inc.))内に21日間置いた(AWPA規格、方式E7−01、セクション4およびE11−97、セクション3)。環境チャンバ内での均衡化の後、各杭を数を描くことにより識別した。次いで、各杭を計量すると共に寸法を測り、および結果を記録した。
【0107】
ファールシュトレーム(Fahlstrom)杭の処理を、デュポンエクスペリメンタルステーション(DuPont Experimental Station)(デラウェア州ウィルミントン(Wilmington,DE))で設計され、製造されたステンレス鋼圧力容器で実施した。圧力を、ダイヤフラム・ポンプ(モデルS216J10;オハイオ州ブレックスビル(Brecksville,IO)のカーチスライトフローコントロール社(Curtiss−Wright Flow Control Corp.)のスピローグプロダクツディビジョン(Sprague Products Div.))により供給した。圧力容器は、直径12.7cm(5インチ)の既定の80SSパイプから構成され、SSフランジおよびキャップで各端部で閉じた。パイプの長さは、処理されるべき木材の長さに応じて変化させた。典型的には、101.6cm(40インチ)長を38インチの木材試料を処理するために選択した。他の長さのパイプをフランジを介して追加して、圧力容器の長さを、243.84cm(8ft)試料を収容するために延長し、または短い長さのパイプを用いて25.4cm(10インチ)試料を処理した。
【0108】
10本のラベルを付けた杭の束、ならびに2本の証拠用杭(合計で12本の杭)をステンレス鋼分離ラック(木材の小片をボードの間に置くことによりこれらを分離する材木の物理的分離である固着をシミュレートするため)に装填し、圧力容器内に入れた。圧力容器をシールし、69.85cm Hgゲージ(13.5psig)の真空を30分の時間適用した。膨潤流体、実施例4Aで調製した加水分解スチレン/無水マレイン酸コポリマー銅塩のアンモニア溶液の導入により真空を停止して圧力容器を満たし、木材を覆った。容器全体に膨潤流体を循環させることによりエアポケットを除去し、および7.18キロパスカルゲージ(150psig)の圧力を、ダイヤフラム・ポンプで30分間適用した。圧力を開放し、杭を膨潤溶液中で15分間均衡化させた。圧力容器を排水し、杭を保持している処理ラックを取り外した。杭を紙タオルで軽く拭き取り、計量した。ファールシュトレーム(Fahlstrom)杭は、表1.および2.における杭と同様の方策で重量が増加し、これは、加水分解スチレン/無水マレイン酸コポリマーおよび銅錯体のアンモニア溶液は木材に良好に膨潤されたことを示していた。
【0109】
既述のファールシュトレーム(Fahlstrom)杭を、フロリダ州ハイアレア(Hialeah,FL)においてAWPA E7−01のとおり地中に設置した、フロリダ州スターク(Starke,FL)、デラウェア州ニューアーク(Newark,DE)、およびルイジアナ州ラプレイス(LaPlace,LA)。同一の処理溶液の1:2および1:4の希釈物で処理した追加の杭もまた、同一のサイトで地中に設置した。加えて、各場所で未処理の対照杭を地中に設置した。杭の位置調整は、AWPA E7−01によりテストサイトにおいて無作為化した。フロリダ州ハイアレア(Hialeah,FL)における非希釈処理溶液で処理した杭を、11、17、および23ヶ月で、未処理の対照杭に対して、AWPAl規格E7−01に準拠して、腐朽について評価し、結果が表13に示されている。処理済の杭は、対照杭よりかなり小さい菌・カビ性腐朽を示した。
【0110】
【表13】

【0111】
非希釈および希釈溶液で処理し、スターク(Starke)、ニューアーク(Newark)、およびラプレイス(LaPlace)サイトでテストした杭を、表14に列挙した時間で格付けし、これらのサイトからの腐朽および昆虫結果の平均が、表14における17ヶ月でのハイアレア(Hialeah)サイトからの平均と比較される。
【0112】
【表14】

【0113】
対照に対する損傷と共に、フロリダ州ハイアレア(Hialeah)およびフロリダ州スターク(Starke,FL)サイトでのすべての処理溶液による広範で、強力な保護を観察した。ニューアーク(Newark)およびラプレイス(LaPlace)サイトでは、それぞれ、12および7ヶ月の間に、腐朽および虫害がほとんどない。より長期の期間にわたって、ニューアーク(Newark)およびラプレイス(LaPlace)サイトでの処理済の腐朽杭は、対照に対して小さい菌・カビ性攻撃および虫害を示すであろうことが予期される。
【0114】
実施例5
比較例:アンモニア溶液における銅/セルロース錯体不溶解性
以下の実験を行って、銅塩を形成するポリマーのすべてが、アンモニア水中に可溶化されることが可能であるわけではないことを示した。以下に示すとおり、得られた生成物は粘質の塊であり木材の膨潤にはことができず、従って、木材防腐剤としては用いられることができなかった。
【0115】
500mLビーカに、250gの水および5gの硫酸セルロースを入れた。混合物を攪拌し、沸騰するまで加熱して硫酸セルロースを溶解した。シロップ状の溶液を室温に冷却し、これに、50mLの水中の3.7gの硫酸銅五水和物から調製した溶液を添加した。緑色の粘性溶液が形成され、硫酸セルロースの銅塩が水溶性であり、木材に固定されないであろうことから、これは、木材保存には好適ではなかった。次いで3mLのこの溶液を、4mLの濃縮水酸化アンモニウムと組み合わせた。粘質の塊が得られ、これは、その水への不溶性から、木材の圧力処理に好適ではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】加水分解オクテン/無水マレイン酸コポリマーを含有する溶液で処理された木材ブロックの浸出試験において、残留している銅の量のグラフを示す。
【図2】加水分解スチレン/無水マレイン酸コポリマーを含有する溶液で処理された木材ブロックの浸出試験において、残留している銅の量のグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合剤中に、(a)(i)銅イオン、亜鉛イオンまたはこれらの混合物、および(ii)少なくとも約2,000分子量の加水分解オレフィン/無水マレイン酸コポリマーを含んでなる錯体;および(b)アンモニアおよび/またはエタノールアミンを含んでなる水性組成物であって;成分(b)が錯体を可溶化させるに十分な量で存在する水性組成物。
【請求項2】
コポリマーが、加水分解オクテン/無水マレイン酸コポリマー、加水分解スチレン/無水マレイン酸コポリマー、またはこれらの混合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
コポリマー分子量が約2,000〜約80,000の間である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
コポリマー分子量が約2,000〜約40,000の間である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
追加の抗菌・カビ性成分および追加の殺シロアリ性成分の一方または両方から選択される成分(c)をさらに含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
成分(c)が、タングステン酸塩イオン、モリブデン酸塩イオン、イブプロフェン、トロポロン、およびこれらの組み合わせよりなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
成分(c)が、タングステン酸塩イオンまたはモリブデン酸塩イオンを含んでなる、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
セルロース系材料、またはセルロース系材料を含んでなる物品を保存する方法であって、セルロース系材料または物品を、請求項1に記載の組成物と接触させることを含んでなる方法。
【請求項9】
セルロース系材料が、木材、材木、合板、配向性ストランドボード、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、綿、および紙よりなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
セルロース系材料または物品を、請求項1に記載の組成物で浸漬、はけ塗、吹付け、ドローコーティング、ロール塗または圧力処理することを含んでなる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
セルロース系材料が木材または材木である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
木材または材木を、組成物と接触させる前および/または後に減圧に供することをさらに含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
セルロース系材料または物品を、構造物中または消耗装置中に組み込む工程をさらに含んでなる、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物が、セルロース系材料に吸着および/または吸収されている、セルロース系材料、またはセルロース系材料を含んでなる物品。
【請求項15】
セルロース系材料が、木材、紙、セルロース、綿、リグニン、およびヘミセルロースよりなる群から選択される、請求項14に記載の材料または物品。
【請求項16】
コポリマーが、加水分解オクテン/無水マレイン酸コポリマー、加水分解スチレン/無水マレイン酸コポリマー、またはこれらの混合物である、請求項14に記載の材料または物品。
【請求項17】
コポリマー分子量が約2,000〜約80,000の間である、請求項14に記載の材料または物品。
【請求項18】
組成物が、タングステン酸塩イオン、モリブデン酸塩イオン、イブプロフェン、トロポロン、およびこれらの組み合わせよりなる群から選択される少なくとも1種の成分をさらに含んでなる、請求項14に記載の材料または物品。
【請求項19】
組成物が、タングステン酸塩イオンまたはモリブデン酸塩イオンをさらに含んでなる、請求項14に記載の材料または物品。
【請求項20】
請求項14に記載のセルロース系材料または物品を含んでなる構造物または消耗装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−522300(P2009−522300A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548763(P2008−548763)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/049544
【国際公開番号】WO2007/079213
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】