説明

加水分解安定剤およびその迅速投与装置

【目的】 第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムを、保存安定性がありかつ素早く溶媒化合物化される有機包接錯体に形成する。
【構成】 有機燐毒素による神経性中毒の治療に有効なカルボキシ、コリンおよびその他のエステラーゼの再活性化剤(reactivator)を含む第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムを、シクロデキストリンと組み合わせることにより、保存安定性がありかつ素早く溶媒化合物化される(solvaed)有機包接錯体とする。該有機包接錯体を発射自在に内蔵するガンタイプの迅速投与手段も提供されている。
【効果】 有機燐毒素による神経性中毒の治療において哺乳動物に対して有効な第四ピリジニウムおよびアルドキシムを保存に適した安定な形態とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロデキストリンにより水溶液において安定にされる加水分解に不安定な(hydrolytically unstable) 有機イオン化合物、より詳細には、有機燐神経性毒素により抑制されるカルボキシ、コリン(choline) その他のエステラーゼ(esterase)の再活性化において有効な、シクロデキストリンにより水溶液において安定にされる加水分解に不安定なカチオンピリジニウムオキシムまたはアルドキシムに関する。本発明はまた、シクロデキストリンにより水溶液において安定にされる、カルボキシ、コリンその他のエステラーゼの加水分解に不安定な第四ピリジニウムオキシムまたはアルドキシム再活性化剤を素早く投与する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機燐カルボキシ、コリンおよびエステラーゼ抑制剤による神経性中毒の治療において有効な、第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムのような第四ピリジニウム化合物の開発に関して、十年以上に亘って広範な研究が行なわれてきた。かかる有機燐毒素は、化学戦争の神経ガス(nerve agent) であるサリン、VX、タブンおよびソマンの活性成分であるとともに、数多くの家庭用、農業用および工業用殺虫剤の活性成分でもある。
【0003】
有機燐毒素による神経性中毒の治療に有効である第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムには、2−PAM(プラリドキシム、2−ヒドロキシイミノメチルピリジニウム−1−メチルクロリド)のようなモノ第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシム並びにオキシムおよびアルドキシムのHシリーズのようなビス−第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムがある。Hシリーズのビス−第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムには、有機燐毒素による神経性中毒の治療において最も有効な既知の解毒剤、即ち、HI−6(1−(2−ヒドロキシイミノメチルピリジニウム)−2−(4−カルボキシアミドピリジニウム)−ジメチルエ−テルジクロリド)がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機燐による神経性中毒の治療において第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムを使用する場合の欠点の1つとして、かかる化合物が加水分解に不安定であるにも拘らず、水溶液で投与しなければならないということがあり、従って、通常は、これらの物質はすぐに使用することができる形態で長期間に亘って保存することができない。これらの物質が加水分解に不安定とはならない公知の溶媒はほかには存在しない。これは、有機燐毒素は化学神経ガスの場合にもあるいは殺虫剤の場合にも、速効性であるので、解毒剤溶液を調製する余裕がないので、むしろ重要な問題となる。従って、野戦用具に入れる化学神経ガスの解毒剤として軍隊がこれらの物質を使用する場合には、解毒剤を新鮮、有効かつ緊急時に容易に使用することができるものとするために、野戦用具を頻繁に入れ替えることが必要となる。これらの物質が不安定であるということはまた、消費者向けとして、かつ、工業および農業において使用する場合に受け入れることができないものとなる。
【0005】
第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムの水溶液に対する安定剤は公知である。酢酸塩/酢酸のpH3.0緩衝液がこの目的のために長い間使用されてきた。バートナ(Bartner) に付与された米国特許第4,305,947号には、2−PAM塩の水溶液をヒドロキシルアミン塩で安定にする技術が開示されている。第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムに対して酢酸緩衝剤およびヒドロキシルアミン塩安定剤を使用することによる問題点として、これらがモノ第四ピリジニウムオキシムまたはアルドキシムに対してのみ有効であり、かつ、約100mg/ml以下の濃度に関してのみ有効であるとともに、モノ第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムの効力は、体重70kg当たり約125乃至400mgの範囲にあるということがある。安定剤系は、第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムに関しては、これらの物質の有効濃度を100mg/mlよりも高いレベルに保持することが必要となる。
【0006】
グラメラ(Gramera) に付与された米国特許第3,459,731号には、シクロデキストリンポリエーテルが記載されている。この特許には、シクロデキストリンは数多くの有機物質、特に、水に対する溶解度が低い有機液体と種々の結晶性包接錯体(inclusion complex) を形成することが開示されている。シクロデキストリンは、アミロースの場合のように1、4部位において互いに結合された6つ以上のアルファDグルコピラノース単位を含む同族環状分子である。6単位のシクロデキストリンはアルファシクロデキストリンとして知られ、7単位のシクロデキストリンはベータシクロデキストリンとして知られ、8単位のシクロデキストリンはガンマシクロデキストリンとして知られている。環状であるので、分子は円環体(torus) を形成する。包接錯体は、円環体の中心に包接化合物を挿入することにより形成される。シクロデキストリン円環体の中心は疎水性であるのに対して、外部は親水性であるので、この分子は水に対する溶解度の低い疎水性物質を安定にするのに有効であると説明されている。包接化合物は、疎水性「ゲスト」分子を「ホスト」シクロデキストリンの疎水性内部に親和させることにより形成するが、この錯体はシクロデキストリンの外部が親水性であるので、依然として水溶性である。
【0007】
シクロデキストリンはまた、加水分解に不安定な極性分子と包接化合物を形成して、極性化合物の安定な水溶液を提供するものとしても知られている。これは、アグリカルチュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agric. Biol. Chem.)第45(2)巻、第505−506頁(1981年)に掲載のヨネザワ(Yonezawa)の論文、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(Int. J. Pharm.)第46巻、第49−55頁(1988年)に掲載のグロモット(Glomot)の論文、ファーマコロジー・ウィーク(Pharm. Week.)第10巻、第207頁(1988年)に掲載のビーカーズ(Bekers)の論文、プロシーディングズ・オブ・ザ・フォース・インターナショナル・シンポジウム・オブ・シクロデキストリンズ(Proc. Fourth Int. Sym. Cyclodextrins)[ヒューバー(Huber) およびセユトリ(Szejtli) 発行)第313−317頁(1988年)に掲載のビーカーズ(Bekers)の論文およびジャーナル・オブ・ザ・ファーマシューティカル・サイエンス(J. Pharm. Sci.)第78(5)巻、第427頁(1989年)に掲載のグリーン(Green) の論文に開示されている。
【0008】
加水分解に不安定な第四化合物のようなカチオン化合物をはじめとする加水分解に不安定なイオン化合物と安定な包接錯体を形成するのに、シクロデキストリン(cyclodextrin)を利用することができることがわかった。シクロデキストリンは加水分解に不安定な極性分子と加水分解に安定な包接錯体を形成するが、かかる事実からは、シクロデキストリンの疎水性内部が有機アニオン、カチオンまたは双性イオンのような電荷担持有機化合物を取り込むこと(accommodate) を予期し得るものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明の一の観点によれば、加水分解に不安定な有機イオン化合物とシクロデキストリンとの、保存安定性があり、素早く溶媒化合物化される(solvaed) 有機包接錯体が提供されており、シクロデキストリンはイオン化合物と加水分解に安定な包接化合物を形成することができる。かかる観点の本発明は、有機燐毒素による神経性中毒の治療に有効なカルボキシ、コリンおよびその他のエステラーゼの再活性化剤(reactivator) を含む第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムの保存安定性があり、素早く溶媒化合物化される有機包接錯体に関する。
【0010】
本発明の別の観点によれば、加水分解に不安定な有機イオン化合物とシクロデキストリンとからなる本発明の有機包接錯体の保存安定性水溶液が提供されており、シクロデキストリンは溶媒化合物化されるイオンと加水分解安定性を有する包接錯体を形成することができる。かかる観点の本発明は、上記した加水分解に不安定な第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムとシクロデキストリンの保存安定性水溶液に関する。
【0011】
本発明はまた、有機燐毒素による神経性中毒の治療を必要とする哺乳動物に対して、該治療に有効な水溶液を素早く投与する装置を含む。本発明に係る一の装置においては、有機燐毒素により抑制されるカルボキシ、コリンおよびその他のエステラーゼを再活性することができる加水分解に不安定な第四ピリジニウムオキシムまたはアルドキシム化合物と、第四ピリジニウム化合物と加水分解に安定な包括錯体を形成することができるシクロデキストリンとの包接錯体の保存安定性のある水溶液が、該水溶液を迅速に投与する手段と組み合わされている。本発明に係る別の装置においては、有機燐毒素により抑制されるカルボキシ、コリンおよびその他のエステラーゼを再活性することができる加水分解に不安定な第四ピリジニウムオキシムまたはアルドキシム化合物と、第四ピリジニウム化合物とともに加水分解に安定な包接錯体を形成することができるシクロデキストリンとからなる保存安定性のある素早く溶媒化合物化される(solvated)有機イオン包接錯体が、該包接錯体を素早く溶媒化合物化しかつ投与する手段と組み合わされている。
【0012】
特定の理論に拘束されるものではないが、HI−6のような不安定な有機イオン化合物は、電荷担持(charge-bearing)窒素原子の領域において加水分解攻撃(hydrolytic attack) を受けるとともに、シクロデキストリンの「ホスト」円環体内に包接化合物が形成されると、カチオンをこの点での攻撃から保護するものと考えられる。更に、シクロデキストリン包接錯体が形成されると、不安定な極性オキシムおよびアルドキシム置換基を加水分解攻撃から保護するものと考えられる。本発明の組成物および装置の他の目的、特徴および利点は以下に説明する本発明の好ましい実施例に関する詳細な説明から容易に理解されるものである。
【0013】
第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムのような加水分解に不安定な有機イオン化合物は、有機燐毒素による神経性中毒の治療に有効なカルボキシ、コリンおよびその他のエステラーゼの再活性化剤として作用する。シクロデキストリンは、加水分解に不安定な有機イオン化合物の安定剤として作用し、有機イオン化合物とともに、加水分解に安定な有機包接錯体を形成する。
【実施例】
【0014】
本発明においては、加水分解に不安定な有機イオン化合物の安定剤としてシクロデキストリンが使用される。シクロデキストリンを、加水分解に不安定な有機イオンを形成するための化合物とともに水に溶解することにより、イオン−シクロデキストリン包接錯体が形成される。この錯体の水溶液は加水分解に安定である。
【0015】
本発明において使用するのに適したシクロデキストリンは、アルファ、ベータまたはガンマシクロデキストリンとすることができる。安定化されるべき有機イオン化合物を錯化するのに、アルファ、ベータまたはガンマのうちのどのシクロデキストリンを選択すべきは、必要以上の実験を行なうことなく当業者が容易に決定することができる。目的とすることは、水溶性溶媒を浸透させることなくゲスト分子の浸透を許容することができる最適のキャビティサイズの円環体を有するシクロデキストリンを選択することである。シクロデキストリンの代表的なスクリーニングが、上記したアグリカルチュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agric. Biol. Chem.)第45(2)巻、第505−506頁(1981年)に掲載のヨネザワ(Yonezawa)の論文に記載されている。安定にされるべき化合物は、選択されたシクロデキストリンと、蒸留水中で混合される。錯体が形成しない場合には、シクロデキストリンの円環体のキャビティサイズが小さ過ぎるのである。形成するシクロデキストリン錯体は、水溶液において安定であると評価され、かかるシクロデキストリンを選択することにより、最大の水性安定性を提供することができる。かかるシクロデキストリン包接錯体の評価と選択は、上記したヨネザワの論文に記載されている。
【0016】
次に、シクロデキストリンを使用して、加水分解に不安定な有機イオン化合物と、水溶液において安定な包接錯体を形成する。「加水分解に不安定な有機イオン化合物」なる語は、全ての有機イオン化合物が加水分解に不安定であることを意味するものではない。むしろ、この語は、加水分解に不安定である有機イオン化合物の部類のメンバーを云うものであって、加水分解に安定であるメンバーを除外するものである。このように定義することにより、この語はまた、電荷担持原子が分解反応に関係する加水分解に不安定な化合物についてのみ云うものである。
【0017】
本発明に関して使用するのに適した加水分解に不安定な有機イオン化合物は、アニオン、カチオンおよび双性イオンがある。本発明において使用するのに適したカチオンの中には、モノ−およびビス−第四ピリジニウム化合物、特に、これらのオキシムおよびアルドキシム誘導体がある。
【0018】
上記したように、モノ−およびビス−第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムは、有機燐毒素神経性中毒の治療に有効であるが、多数のこれらの化合物が加水分解に不安定である。この種の加水分解に不安定なメンバーは、2−PAMおよびP2Sをはじめとするピリジニウムオキシムおよびアルドキシム、並びに、
【0019】
【化5】

なる構造式を有し、該式において、R1 は−CH=NOHなる式を有する2−または4−置換オキシム置換基であり、R2 は−CH=NOH、−N(CH3 )2、−SC2 H5 、−SCH(CH3 )2 、
【0020】
【化6】

よりなる群から選ばれる3−または4−置換基であり、R3 は−O−または−CH2 −である。
【0021】
R1 が2−位置において置換され、R3 が−O−であり、かつ、R2 が
【0022】
【化7】

なる式を有する4−置換アミドであるときには、オキシムは、有機燐神経性毒素により抑制されるカルボキシ、コリンおとびその他のエステラーゼの再活性化におけるHシリーズの最も有効な化合物であるHI−6である。HI−6と使用するのに好ましいシクロデキストリンは、ベータシクロデキストリンであり、より好ましくは、アメリカ合衆国、フロリダ州に所在するアラチュア(Alachua) により製造されているモレキュゾル(Molecusol) MHPBのような2−ヒドロキシプロピルベータシクロデキストリンである。
【0023】
安定にされるべき加水分解に不安定な有機イオン化合物とシクロデキストリンは、水に同時に溶解されて、包接化合物を形成する。水は、蒸留水または脱イオン水である。イオン化合物に対するシクロデキストロンのモル比は臨界的ではないが、シクロデキストリンの安定効果は、イオン化合物に対するシクロデキストリンの比が大きくなるにつれて増大する。シクロデキストリンとイオン化合物を組み合わせて包接錯体を形成するのは、平衡反応であるので、未錯化イオン化合物が溶液に残らないようにするために、イオン化合物に対してシクロデキストリンを過剰にするのが望ましい。従って、イオン化合物に対するシクロデキストリンのモル比が約1:1を越えるのが好ましく、約2:1を越えるモル比がより一層好ましい。
【0024】
本発明の組成物は、上記した物質以外に、最終用途で使用するのに適した他の任意の添加剤と組み合わせることができる。例えば、1つ以上の別の非シクロデキストリン安定剤を、1つ以上の防腐剤および有機燐毒素による神経性中毒の徴候を和らげるのに有効な1つ以上の別の薬剤組成物とともに水溶液に加えることができる。
【0025】
即ち、酢酸塩/酢酸pH3.4緩衝剤、ヒドロキシルアミンなどのような1つ以上の別の安定剤を、約5mg/ml乃至約10mg/mlの濃度で水溶液に任意に存在させることができる。メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソールなどのようなヒンダード(hindered)フェノールのような1つ以上の防腐剤を、約1乃至約3ミリモル濃度で任意に存在させることができる。ベナクチジン、アプロフェンなどのような1つ以上の非ピリジニウムコリン抑制性化合物のような1つ以上の薬剤化合物を、約15乃至約50ミリモル濃度で任意に存在させることができる。更に、本発明の水溶液に任意に含ませることができる他の薬剤組成物として、約2乃至約6ミリモル濃度で存在させることができる硫酸アトロピンがある。
【0026】
本発明に従って加水分解に不安定な有機イオン化合物とシクロデキストリンとの保存安定性水溶液包接錯体水溶液を調整に関する技術は周知であり、有機イオン化合物とシクロデキストリンを水に溶解して包接化合物を形成する場合に関係する重要なパラメータから逸脱することなく、特定の有機イオン化合物とシクロデキストリンによって幾分変わる場合がある。かかる説明は例示を目的とし、かつ、本発明の実施に最良の形態を提供するためのものであるので、本発明は、このようなパラメータには限定されるものではない。
【0027】
本発明の保存安定性水溶液は、加水分解に不安定な有機イオン化合物とシクロデキストリンを蒸留水に溶解することにより調整することができる。シクロデキストリンの水溶液を最初につくり、これに有機イオン化合物を溶解することにより、有機イオン化合物を最初につくり、これにシクロデキストリンを加える場合に生ずる加水分解に不安定な有機イオン化合物の劣化を避けるのが好ましい。シクロデキストリン溶液は、所定量のシクロデキストリンを、撹拌しながら蒸留水に溶解することにより得ることができる。室温の蒸留水が適しているが、溶液は約18乃至約25℃の範囲の温度に保持するのが好ましい。混合物は、少なくとも0.5時間、好ましくは少なくとも1時間撹拌すべきである。次に、所定量の加水分解に不安定な有機イオン化合物を、撹拌しながら加える。この場合にも、溶液は、撹拌しながら、室温、好ましくは約18乃至約25℃の温度に保持することができる。有機イオン化合物の添加後に、混合物は、少なくとも0.25時間、好ましくは0.5時間撹拌すべきである。任意の安定剤、防腐剤および薬剤組成物を加水分解に安定な有機イオン化合物の添加前、該化合物と同時にあるいは該化合物の添加後に加えることができる。
【0028】
本発明に係る加水分解に不安定な有機イオン化合物とシクロデキストリンとの保存性のある、素早く溶媒化合物化される有機イオン包接錯体は、水溶液の親液性化に関する重要なパラメータから逸脱することなく、特定の有機イオン化合物とシクロデキストリンによって幾分変わる場合がある周知の技術により、本発明の保存安定性のある水溶液から得ることができる。この場合にも、かかる説明は例示を目的とし、かつ、本発明の実施に最良の形態を提供するためのものであるので、本発明は、このようなパラメータには限定されるものではない。
【0029】
本発明の保存性のある、素早く溶媒化合物化される有機イオン包接錯体は、本発明の水性包接錯体を素早く冷凍することにより得ることができる。次に、凍結した溶液を低温および低圧環境に曝して凍結液の実質上全てを昇華させて、液体を凍結溶液から除去し、有機イオン包接錯体を残留させる。
【0030】
有機燐神経性毒素により抑制されるカルボキシ、コリンおよびその他のエストラーゼの再活性化において有効な第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムの保存性のある水溶液は、有機燐毒素による神経性中毒の治療を必要とする哺乳動物に対して、該治療に有効な水溶液を素早く投与する装置において利用することができる。かかる装置は、有機燐毒素により抑制されるカルボキシ、コリンおよびその他のエステラーゼを再活性化することができる加水分解に不安定な第四ピリジニウムオキシムまたはアルドキシムと、第四ピリジニウム化合物と加水分解に安定な包接錯体を形成することができる保存安定性のある水溶液を、該水溶液を素早く投与する手段とを組み合わせてなるものである。
【0031】
水溶液を素早く投与する手段は、ばねのような、ポテンシャルエネルギ源の力に抗してプランジャを操作し(cock)、該プランジャは解放されると、本発明の水溶液をガンと関連するアンプルから発射するようにピストンに力を加えるようになっているガンタイプのオートインジェクタ(Auto-Injector) 皮下注入装置である。オートインジェクタは、有機燐毒素により抑制されるカルボキシ、コリンおよびその他のエステラーゼを再活性化することができる加水分解に不安定な第四ピリジニウムオキシムまたはアルドキシムと、シクロデキストリンとの有機包接錯体の予め混合した水溶液を含むことができる。
【0032】
水溶液を投与するためにオートインジェクタは、実質上公知であり、サルノフ(Sarnoff) に付与された米国特許第3,712,301号および同第3,797,489号に記載されている。
【0033】
オートインジェクタはまた、有機燐毒素により抑制されるカルボキシ、コリンおよびその他のエステラーゼを再活性化することができる加水分解に不安定な第四ピリジニウムオキシムまたはアルドキシムとシクロデキストリンとの保存安定性のある素早く溶媒化合物化される有機イオン包接錯体を含み、かつ、有機燐毒素による神経性中毒の治療を必要とする哺乳動物に投与するために、該治療に有効な本発明の水溶液を形成するように包接錯体を素早く溶媒化合物化する手段を有するタイプのものとすることができる。溶解されるべき物質を含みかつ物質を素早く溶媒化合物化する手段を備えるオートインジェクタは、実質上公知であり、ジェネス(Genese)に付与された米国特許第4,226,236号並びにサルノフ(Sarnoff) に付与された米国特許第4,689,042号および第4,755,169号に記載されている。
【0034】
本発明の水溶液を素早く投与する装置が図1および2に示されており、参照番号10で全体示され、かつ、アンプル16とカニューレ18とを内蔵する内側スリーブ20を有するガンのアセンブリとして示されている。
【0035】
内側スリーブ20は、プランジャ30の二又端部29の通路の中央開口28を除いて、後端部26が閉止されており、プランジャ30の端部は、スリーブ20の端部26の外面と協働して、アンプル16へ向かうプランジャ30の力に抗するように構成されている。これは、プランジャ30の肩部34と内側スリーブ20の後端部26の内側面27との間で圧縮状態にあるばね32の作用により行なわれる。プランジャ30の端部29は二又部35となっており、プランジャ30は、通常は二又部35の截頭円錐状端部36が端部26の外側面に対して連係する平坦面を有している。
【0036】
二又部がともに圧縮されると、円錐部36の直径は開口28の直径よりも小さくなり、ばねは伸長自在となってプランジャをアンプルへ向けて素早く動かす。外側スリーブ38が内側スリーブ20に対して入子式に移動することができるように配設されており、外側スリーブ38には、外側スリーブがアンプルへ向けて動かされたときに円錐部36と係合して圧縮するようになっている内側中央カム面42を有する厚肉端部40が設けられている。プランジャ30が不注意により外れるのを防止するために、円錐部36がつぶれるのを防止するように二又部間に挿入することができる一体ピン48を有するローレットが切られた手で係合自在のキャップ46からなる安全装置44が設けられている。
【0037】
内側スリーブ20の反対側端部は、中央に開口58を有する截頭円錐形のノーズ(nose)56が形成されている。カニューレ18は、カニューレ18に固着され、かつ、アンプルの首部でフランジ70に係合されたスリーブ66を堅持する中空のキャップ68によりアンプル16に取着されている。アンプル内には、弾性ダイヤフラム72がキャップ68によりフランジ70に保持されている。ダイヤフラム72は、薄肉壁74に流体圧をかけることにより破裂するようになっている。アンプル内のカニューレと反対側の端部にはピストン76が配設され、ピストン76とダイヤフラム72との間に本発明の水溶液78を収容する空間を形成している。水溶液78がピストン76の操作によりカニューレに向けて付勢されると、流体圧がV字状の壁74を反転させ、最終的に破裂するように引張る。
【0038】
インジェクタ装置を使用する場合には、先づ、円錐部36が開口を通過し、内側スリーブ20の端部の外側面と係合するように拡がるまで、プランジャ30の二又部35を内側スリーブ20の端部内に付勢することによりガン10を操作する。安全上の理由から、ピン48がプランジャの二又部の間に挿入される。装置を使用する場合には、安全ピン48は除去され、内側スリーブ20の円錐形ノーズ56が、注入が所望される領域に対して強く押圧される。スリーブ20に対するスリーブ38の入子状作用により、円錐部36が開口を通過し、プランジャ30が解除される。ばね32が作用すると、プランジャは、カニューレが開口58を通って、患者の身体に入るようにアンプルを変位させる。アンプルの動きは、円錐形ノーズ56により拘束されるまで継続する。プランジャの連続した動きとピストン76の動きにより、水溶液がカニューレを介して患者に注入される。
【0039】
本発明の保存安定性包接錯体を素早く溶媒化合物化しかつ投与する装置が図3に示されており、この装置は、全体が参照番号110で示され、二重容器カートリッジアセンブリ114と応力ばねアセンブリ116とが内部に取着された外側ハウジングアセンブリ112を備えるガンアセンブリとして示されている。装置110はまた、第1の所定の手動操作手順に応答して作動して応力ばねアセンブリ116の最初の解除を行なうことにより溶媒化合物化作用を行なわせる安全キャップおよび解除ピンアセンブリ118と、第2の所定の手動操作手順に応答して作動して応力ばねアセンブリ116の第2の解除を行なう注入作用を行なわせる第2の解除アセンブリ120とを備えている。
【0040】
外側ハウジングアセンブリ112は、開口前端部と、中央開口を有する端部壁124により閉止された後端部とを有するシリンダの形態をなす管状ハウジング部材122を備えている。ハウジングアセンブリ112はまた、管状フレーム部材の前端の外周部に対するスナップ連結部を有する後方へ延びるスカート部128と、中央が開口した前方へ延びる中央ノーズ部130とを有している。
【0041】
二重容器カートリッジアセンブリ114は、後端が開口しかつ狭縮され外方にフランジが設けられた前端を有する円筒状容器の形態をなす外側容器132を備えている。ハブアセンブリ134が、容器132の狭縮された前端部と連通するように針136の後端に接続して配設されている。弾性シート138が皮下注入針136に対して固定され、先端部は注入針136内に保存状態で液体を封止状態に保持するとともに、注入針を殺菌状態に保持するように作用する。
【0042】
外側容器132の前端部内には、本発明の保存安定性があり、素早く溶媒化合物化される有機イオン包接錯体140が、好ましくは乾燥粉末として収納されている。包接錯体140は、大きなピストン142により後端が閉じ込められており、ピストン142はピストン内に狭い前方中央部を画定するように後端部に深い凹部144が形成されている。ピストン142の後方の外側容器132内には、容器132と同様の形状であるが直径が小さくなるように形成された内側容器146が取着されている。内側容器146の縮径され外部にフランジが形成された前端部は、ハブアセンブリ148により短い針状素子150に接続され、素子150の尖端は液体シールを提供するようにピストン142の中央薄肉壁部内に埋め込まれている。内側容器146内には、弾性材料からなるピストン154により後端が閉止された水溶性溶媒152が収納されている。
【0043】
応力ばねアセンブリ116は、ピストン154と係合して配設されたフランジ付前端部160と、応力コイルばね164の一端を再着座させる中間フランジ162とを有する細長いプランジャ158を備えている。ばね164の他端は外側管状ハウジング部材122の後壁124と係合している。プランジャ158の後端部には、複数のばねフィンガ166を形成するようにスロットが形成され、ばねフィンガは端部壁124において截頭円錐状のプランジャ保持面170と係合するように配設されたプランジャ保持面168と、アセンブリ118の一部を形成する解除ピン174の外部と係合する内部プランジャ解除面172とを有している。アセンブリ118は、後方へ延びるスカートを有する端部壁の形態をなす安全キャップ176を備えている。ピン174はキャップの中央前面と一体をなし、スカートには管状ハウジング部材122の後端の外周部と係合しかつ肩部178を提供して後端壁124と係合することによりキャップ176の前方の動きを制限するように凹部が形成されている。
【0044】
第2の解除アセンブリ120は、外側ハウジング部材122の外周に摺動自在に摩擦により取着された手動係合スリーブ180を備えている。スリーブ180の前端には、管状ハウジング部材122の周壁に形成された小さいスロット184と整合するようにスロット182が形成されている。解除ロック即ちボルト186がスロット182と184内に摺動自在に取着され、このボルトには、ピン190が内挿される角度のついたスロット188が形成されている。ピン190は、スロット182を画定するスリーブ180の部分に固着されている。ロック即ち保存位置にあるボルト186は、ハウジング部材122の内部を延び、外側容器146の狭縮が開始する位置で外側容器146の前方に取着された管状取着部材192の前方で係合している。
【0045】
操作にあたって装置110を利用することが所望される場合に、オペレータは先づ、安全キャップ176を取り外して解除ピン174を引っ込める。プランジャ保持面168と170との間の角度の関係およびばね164の強さは、プランジャ158が解除ピン174を引っ込める操作に応答して動きを開始するようになっている。解除ピンがプランジャ解除面172と係合しなくなると、プランジャ158のばねフィンガ166は半径方向内方へ直ちにカム作動され、プランジャを前方へ動かすことができるようになる。プランジャの前方への動きは、ピストン154の前端部160を介して伝達され、次に、水溶液152を介して内側容器146に伝達される。従って、安全キャップ176を取り外す第1の所定の手動操作手順に従うプランジャ158の初期の動きの際には、内側容器140は、ハブアセンブリ148とともに突き出るとともに、針150は前方へ動かされる。一方、ピストン142の前方への動きは有機包接錯体粉末140の存在により制限され、従って、針素子150はピストン142の薄肉中央部を貫通して内側容器146の内部を外側容器132の内部と連通させる。
【0046】
この連通が形成されると直ちに、ピストン142と内側容器部材146は、水溶液152が内側容器から外側容器へ流れるにつれて、後方へ動かされる。ピストン142の圧力面積はピストン154の圧力面積よりも大きいので、内側容器146から外側容器132への液体の流れは、ピストン154が内側容器146の前端に到達するまで継続することになる。ばね164は実際にはわずかな量だけ伸長するので、かなりの応力がコイルばねに残る。この応力が、ピストン154、容器146、ピストン142を介して外側容器132へ伝達される力をフランジ162を介してプランジャに作用させる。容器132は、固定ボルト186と取付け部材192との係合を介して、最初に解除されたばね164の付勢により前方へ動くのを阻止されている。
【0047】
次に、有機包接錯体140が水溶液152に溶解して、本発明の有機包接錯体の水溶液を形成する。注入は、オペレータがスリーブ180の外周を把持し、ノーズ部130を動かして、例えば腿のような注入を行なおうとする領域において患者の皮膚と係合させることにより行なうことができる。オペレータがスリーブ180の外部に前方の力を加えると、担持されているピン190は外側ハウジング部材122に対して前方へ動かされる。角度をなして配設されたスロット188内での係合によるピン190のこの前方へ移動により、固定ボルト186はスロット184と182とを介して取付け部材192との係合が外れる位置へ半径方向外方へ動かされる。
【0048】
この動きにより、応力ばね164の第2の解除を行なわせる第2の所定の手動操作手順が行なわれる。外側容器132に前に作用してこれを前方へ動かした力によりこの動作が行なわれ、針136は、弾性シーズ138の圧縮により外側容器132の前方への動きを遅らせあるいは停止させるまで、弾性シーズの外側からシーズを圧縮する患者の筋肉組織に挿入される。ばね164の付勢の下で更に動かされると、ピストン142が容器の前端に到達して有機イオン包接錯体の水溶液の最後の部分を針を介して患者の筋肉組織の中へ放出するまで、外側容器132内でピストン142は前方へ動かされる。
【0049】
従って、本発明によれば、加水分解に不安定な有機イオン化合物が、水性溶媒にシクロデキストリンを溶解することにより安定にすることができる。以下、本発明を実験例により更に説明するが、かかる実験例は本発明を限定するものではない。
【0050】
実験例
濃度が450mg/mlのベータシクロデキストリン溶液を、ベータシクロデキストリン1.125gを蒸留水2.5mlに溶解することによりつくった。ベータシクロデキストリンは、アメリカ合衆国、フロリダ州に所在するファーマテック・インコーポレイテッド(Pharmatec Inc.)から得られる2−ヒドロキシプロピルベータシクロデキストリンである、モレキュゾル(Molecusol) MHPBであった。
【0051】
シクロデキストリンで安定にしたHI−6ジクロリドの50mg/ml溶液を、HI−6ジクロリド60mgを上記のようにしてつくったシクロデキストリン溶液1.2mlに加えることによりつくった。HI−6ジクロリドは、アメリカ合衆国、ニュージャージー州、サウス・プレインフィールド(South Plainfield)に所在するシュバイツァーホール(Schweizerhall) から得たものであった。シクロデキストリン溶液は、HI−6の溶解の際には18−20℃に保持した。混合物を0.5時間撹拌し、更に0.5時間撹拌しながら室温まで冷却した。90mg/mlのシクロデキストリンで安定にしたHI−6溶液を、108mgのHI−6とシクロデキストリン1.2mlを使用して同じようにしてつくった。
【0052】
シクロデキストリンを含まない、蒸留水に溶解したHI−6の対照水溶液を同じようにしてつくった。50mg/mlのH−6対照溶液を、60mgのHI−6を蒸留水1.2mlに溶解することによりつくり、100mg/mlのHI−6対照溶液を、HI−6120mgを蒸留水1.2mlに溶解してつくった。
【0053】
4つのHI−6原液を4℃、室温(18−20℃)および35℃で1年間保存した。安定性の試験を行なうために、サンプル100マイクロリットルを毎月取り出した。この安定性試験は、予め包装された30cmx3.9mlのIDのマイクロ−ボンダパック(micro-Bondapak)C18カラム[アメリカ合衆国、マサチューセッツ州、ミルフォードに所在するウォーターズ・アソシエイツ(Waters Associates) ]を、2つのモデル(Model) 6000A高圧ポンプを備えたウォーターズ・アソシエイツのモデルALC/GPC−204、モデル660溶媒プログラマ、U6Kループインジェクタ、254nmに設定されたモデル440検出器、ヒューストン・インスツルメントHouston Instrument) のオムニ・スクライブ(Omni-Scribe) A5000デュアルペン(dual-pen)レコーダおよびコロンビア・サイエンティフィックス(Columbia Scientifics)のスーパーグレイタ−3A−インテグレイタ(supergrator-3A-integrator) とともに使用して4つのHI−6原液のそれぞれの新鮮なサンプルのHPLCプロフィルを得ることにより行なった。
【0054】
移動層は、アセトニトリルと組み合わせた0.01Mの1−ヘプタン−スルホン酸であった。20:80のパーセント比率を有するpH3.4のアセトニトリル−PIC−B7試薬を共通の態様で使用して、サンプル配合物のHI−6を分離した。50:50溶媒系を使用して、複成分サンプルのクロマトグラフ処理を行なった。分離の流速は、1.5ml/分であり、カラム圧は72乃至92バールの範囲にあった。全ての分離を室温で行なうとともに、サンプルは連続流ループインジェクタを介してカラムに導入した。この方法の検出限界は1ngオンカラムであり、ピーク領域はオンライン計算インテグレイタにより測定した。
【0055】
保存されたサンプルの安定性は、同じ態様で月毎に試験し、劣化しないで残っているHI−6のパーセントを得るために各原液の正しいプロフィルの比較をクロマトグラフで行なった。結果は図4乃至図7に示す通りであった。
【0056】
50mg/mlの濃度のHI−6では、対照とシクロデキストリンで安定にしたサンプルとでは4℃、室温(18−20℃)および35℃では有意な差は認められなかった。しかしながら、シクロデキストリンを使用した90mg/mlの濃度のHI−6の安定性は、100mg/mlの対照サンプルに比べて、明らかな改良が認められた。100mg/mlの対照サンプルは、4℃、室温、30℃および40℃にエージング処理した。4℃で2週間経過後は、対照には劣化は認められなかった。しかしながら、室温のサンプルは劣化しないHI−6が65%よりも低いレベルまで低下し、一方、室温の、シクロデキストリンで安定にしたHI−6サンプルは実質上劣化しなかったので、試験を中断した。12か月後には、このサンプルは、80%以上の劣化しないHI−6を含んでいた。
【0057】
結果は、高温で保存した場合に著しく顕著であった。20週後には、30℃で保存したHI−6対照サンプルに含まれる未劣化HI−6は25%よりも低く、40℃で保存したサンプルに含まれる未劣化HI−6は、5%よりも低かった。シクロデキストリンで安定にし、35℃で保存したHI−6サンプルは、20週後でも80%を越える非劣化HI−6を含んでいた。
【0058】
かくして、ベータシクロデキストリンで安定にしたHI−6は、冷凍することなく、長期間容易に使用することができる態様で保存することができることがわかる。
【0059】
好ましい実施例に関する上記説明は例示として理解されるべきであり、特許請求の範囲に記載の本発明を限定するものではない。上記した特徴を有する多くの変更および修正は、本発明から逸脱することなく利用することができるものである。
【0060】
以上のように、本発明においては、有機燐神経性毒素により抑制されるカルボキシ、コリン(choline) その他のエステラーゼの再活性化において有効である加水分解に不安定なカチオンピリジニウムオキシムまたはアルドキシムをシクロデキストリンと組み合わせて包接錯体としたので、該オキシムまたはアルドキシムを水溶液においてに安定にすることができるとともに、素早く溶媒化合物化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ガンが操作状態にありかつカニューレがカートリッジのホルダの中に収納された状態にある、本発明の一の装置において使用する注入装置の側横断面図である。
【図2】ガンが解除され、カートリッジの内容物が発射された状態にある図1の注入装置の側横断面図である。
【図3】部品が保管状態にある、本発明の別の装置において使用される注入装置の側横断面図である。
【図4】4℃、18−20℃および35℃で保存された、シクロデキストリンで安定にされた50mg/mlのHI−6溶液の濃度の経時損失を示すグラフ図である。
【図5】4℃、18−20℃および35℃で保存された、シクロデキストリンを含まない50mg/mlのHI−6溶液の濃度の経時損失を示すグラフ図である。
【図6】4℃、18−20℃および35℃で保存された、シクロデキストリンで安定にされた90mg/mlのHI−6溶液の濃度の経時損失を示すグラフ図である。
【図7】18−20℃、35℃および40℃で保存された、シクロデキストリンを含まない100mg/mlのHI−6溶液の濃度の経時損失を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0062】
10 ガンアセンブリ
16 アンプル
18 カニューレ
20 内側スリーブ
30 プランジャ
32 ばね
35 二又部
38 外側スリーブ
44 安全装置
46 キャップ
48 ピン
56 ノーズ
66 スリーブ
68 キャップ
70 フランジ
72 ダイヤフラム
76 ピストン
78 水溶液
110 ガンアセンブリ
112 ハウジングアセンブリ
114 二重容器カートリッジアセンブリ
116 応力ばねアセンブリ
118 安全キャップおよび解除ピンアセンブリ
120 解除アセンブリ
132 外側容器
134 ハブアセンブリ
136 針
140 包接錯体
142 ピストン
146 内側容器
148 ハブアセンブリ
150 針状素子
152 水性溶媒
154 ピストン
158 プランジャ
164 ばね
166 ばねフィンガ
174 解除ピン
176 キャップ
180 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解に不安定な有機イオン化合物と、該イオン化合物とともに加水分解に安定な包接錯体を形成することができるシクロデキストリンとからなることを特徴とする保存安定性を有する水溶液において、前記イオン化合物は第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムよりなる群から選ばれるカチオンであることを特徴とする水溶液。
【請求項2】
前記第四ピリジニウムオキシムは2−PAMまたはP2Sであることを特徴とする請求項1に記載の水溶液。
【請求項3】
前記第四ピリジニウムオキシムは
【化1】

なる構造式により表わされ、該式において、R1 は−CH=NOHなる式を有する2−または4−置換オキシム置換基であり、R2 は−CH=NOH、−N(CH3 )2 、−SC2 H5 、−SCH(CH3 )2 、
【化2】

よりなる群から選ばれる3−または4−置換基であり、R3 は−O−または−CH2 −であることを特徴とする請求項2に記載の水溶液。
【請求項4】
前記第四ピリジニウムオキシムはHI−6であることを特徴とする請求項3に記載の水溶液。
【請求項5】
前記シクロデキストリンはアルファシクロデキストリン、ベータシクロデキストリンおよびガンマシクロデキストリンよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つの項に記載の水溶液。
【請求項6】
前記シクロデキストリンはベータシクロデキストリンであることを特徴とする請求項5に記載の水溶液。
【請求項7】
シクロデキストリンはベータシクロデキストリンであり、前記溶液はモル過剰の前記ベータシクロデキストリンを含むことを特徴とする請求項4に記載の水溶液。
【請求項8】
HI−6に対するシクロデキストリンのモル比は約1:1よりも大きいことを特徴とする請求項7に記載の水溶液。
【請求項9】
前記溶液は非シクロデキストリン安定剤、防腐剤および薬剤組成物よりなる群から選ばれる1つ以上の添加剤を更に含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つの項に記載の水溶液。
【請求項10】
前記非シクロデキストリン安定剤は酢酸塩/酢酸pH3.0緩衝剤およびヒドロキシルアミンよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項9に記載の水溶液。
【請求項11】
前記防腐剤はヒンダードフェノール化合物よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項9に記載の水溶液。
【請求項12】
前記ヒンダードフェノール化合物はメチルパラベン、プロピルパラベン、ブチル化ヒドロキシトルエンおよびブチル化ヒドロキシアニソールよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項11に記載の水溶液。
【請求項13】
前記薬剤組成物はベナクチジンおよびアプロフェンよりなる群から選ばれる非ピリジニウムコリン抑制性化合物であることを特徴とする請求項9に記載の水溶液。
【請求項14】
有機燐毒素による神経性中毒の治療を必要とする哺乳動物に該治療に有効な水溶液を素早く投与する装置において、
前記有機燐毒素により抑制されるカルボキシ、コリンおよびエステラーゼを再活性化することができる加水分解に不安定な第四ピリジニウムオキシムまたはアルドキシム化合物の包接錯体の保存安定性のある水溶液と、該水溶液を素早く投与する手段とからなり、前記第四ピリジニウム化合物と加水分解に安定な包接錯体を形成することができるシクロデキストリンを含むことを特徴とする水溶液迅速投与装置。
【請求項15】
前記水溶液を迅速に投与する前記手段はオートインジェクタ皮下注入装置であることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムは2−PAMまたはP2Sであることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項17】
前記第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムは
【化3】

なる構造式により表わされるビス−第四ピリジニウムオキシムおよびアルドキシムであり、上記式において、R1 は−CH=NOHなる式を有する2−または4−置換オキシム置換基であり、R2 は−CH=NOH、−N(CH3 )2 、−SC2 H5 、−SCH(CH3 )2 、
【化4】

よりなる群から選ばれる3−または4−置換基であり、R3 は−O−または−CH2 −であることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項18】
前記ビス−第四ピリジニウムオキシムはHI−6であることを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記シクロデキストリンはアルファシクロデキストリン、ベータシクロデキストリンおよびガンマシクロデキストリンよりなる群から選ば
れることを特徴とする請求項14乃至18のいずれか一つの項に記載の装置。
【請求項20】
前記シクロデキストリンはベータシクロデキストリンであることを特徴とする請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記ベータシクロデキストリンは2−ヒドロキシプロピルベータシクロデキストリンであることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記溶液は非シクロデキストリン安定剤、防腐剤および薬剤組成物よりなる群から選ばれる1つ以上の添加剤を更に含むことを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項23】
前記非シクロデキストリン安定剤は酢酸塩/酢酸pH3.0緩衝剤およびヒドロキシルアミンよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記防腐剤はヒンダードフェノール化合物よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項25】
前記ヒンダードフェノール化合物はメチルパラベン、プロピルパラベン、ブチル化ヒドロキシトルエンおよびブチル化ヒドロキシアニソールよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記薬剤組成物はベナクチジンおよびアプロフェンよりなる群から選ばれる非ピリジニウムコリン抑制性化合物であることを特徴とする請求項22に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−119492(P2007−119492A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29705(P2007−29705)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【分割の表示】特願2002−350538(P2002−350538)の分割
【原出願日】平成3年11月28日(1991.11.28)
【出願人】(591285619)
【氏名又は名称原語表記】NESBITT D BROWN
【出願人】(591285620)ブーペンドラ・パナラル・ドクター (1)
【氏名又は名称原語表記】BHUPENDRA PANNALAL DOCTOR
【出願人】(591285631)
【氏名又は名称原語表記】JOSEQH MICHAEL MARASCO
【Fターム(参考)】