説明

加熱装置および蒸着方法

【課題】蒸着材料が充填された開口容器を、その開口部が上向きであるか下向きであるかにかかわらず簡易に載置することが可能な加熱装置およびこの加熱装置を用いた蒸着方法を提供すること。
【解決手段】加熱装置10は、コイル部11を有し、抵抗加熱が可能な導電性線状体からなり、コイル部11は、重力により筒状開口容器20の開口部21および底面部22のいずれを接触させて載置することも可能な直径を有する底部11Aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着材料を保持して加熱する加熱装置、およびその加熱装置を用いた蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズの表面に反射防止層や撥水層など各種の薄層を形成する方法として蒸着法が広く用いられている。
例えば、薄層形成能を持った蒸着材料を繊維状導電性物質の塊に付着させた後、開口容器内に該繊維状導電性物質を入れ、該容器を抵抗加熱することで、蒸着材料を蒸散させ、所定のレンズ基材表面に薄層を形成する蒸着方法が知られている(特許文献1参照)。具体的には、図6の真空蒸着装置100に示すように、真空チャンバー101内のホットプレート110上に載置された開口容器120を加熱することで、開口容器120内部の蒸着材料130が加熱されて蒸散し、保持具140に固定されたレンズ基材150表面に所定の蒸着材料からなる薄層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−340966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された蒸着方法によれば、レンズ基材表面に種々の蒸着材料からなる薄層を形成することができる。しかしながら、特許文献1に記載された方法では、加熱装置であるホットプレート110上に載置された開口容器120から上部に向かってのみ蒸着材料を蒸散させるだけであって汎用性に乏しい。例えば、蒸着材料が入った開口容器をチャンバー内の上部に載置し、チャンバー内の下部に基材を載置して蒸着を行わせる場合には、開口容器の開口部を下向きにした状態で該開口容器を固定する特別な治具が必要となる。
【0005】
本発明は、蒸着材料が入った開口容器を、その開口部が上向きであるか下向きであるかにかかわらず簡易に載置することが可能な加熱装置およびこの加熱装置を用いた蒸着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、蒸着材料が充填された筒状開口容器を内部に載置して加熱する加熱装置であって、該加熱装置は、抵抗加熱が可能な導電性線状体からなり、前記導電性線状体は、コイル部を備え、前記コイル部は、重力により前記容器の開口部および底部のいずれを接触させて載置することも可能な直径を有する底部を備えることを特徴とする。
ここで、蒸着材料とは蒸着される物質そのものの他、蒸着される物質が金属繊維や多孔質のセラミックスのような媒体に付着している場合には、それらの媒体をも含めた概念である。また、該筒状開口容器は、例えば、有底円筒状の容器であり、底部と開口部とを有する。
【0007】
本発明の加熱装置によれば、抵抗加熱が可能な導電性のコイル部を備えているので、通電により容易に内部に載置した容器の加熱が可能である。そして、このコイル部は、重力により、容器の開口部および底部のいずれを接触させて載置することも可能な直径を有する底部を備えているので、容器を上下逆に載置するだけで、同じ構造の加熱装置により、上方向だけでなく下方向にも蒸着材料を蒸散させることが可能となる。それ故、蒸着材料を下方向に蒸散させる場合に、容器を固定するための特殊な治具を用いる必要がない。
なお、本発明の加熱装置内に載置される容器は有底の筒状であるが、その断面は円形でも矩形でもよく特に断面形状に制限はない。
【0008】
本発明の加熱装置では、前記コイル部は、載置された前記容器に接触してこれを保持する保持部を備えることが好ましい。
この構成の発明によれば、コイル部が、載置された容器に接触してこれを保持する保持部をさらに備えているので、該容器を安定してコイル部に固定することができる。それ故、加熱装置が多少傾いたりあるいは振動を受けた場合でも安定して蒸着を行うことができる。
【0009】
本発明の加熱装置では、前記導電性線状体の材質がタングステン、タンタル、ニオブおよびモリブデンのうち、少なくともいずれかであることが好ましい。
この構成の発明によれば、導電性線状体の材質が所定の耐熱性金属であるので、蒸着材料を入れた容器を安定して高温に加熱することができる。それ故、蒸着を行うための加熱装置として好ましい。
【0010】
本発明の蒸着方法は、上述のいずれかの加熱装置を用いて基材表面に蒸着を行うことを特徴とする。
本発明の蒸着方法によれば、加熱装置のコイル部が、重力により、容器の開口部および底部のいずれを接触させて載置することも可能な直径を有する底部を備えているので、同じ構造の加熱装置を用い、容器を上下逆に載置するだけで上方向だけでなく下方向にも蒸着材料を蒸散させることが可能となる。従って、基材に対して、下からも上からも簡便に蒸着を行うことができ、さらには、基材の両面に対して同時に蒸着を行うことも可能となる。
【0011】
本発明の蒸着方法では、前記基材がレンズ基材であることが好ましい。
ここで、レンズ基材は無機ガラス製でもプラスチック製でもよい。また、レンズとしては、眼鏡用、カメラ用、顕微鏡用、望遠鏡用など種々の用途に適用可能である。
この構成の発明によれば、蒸着により反射防止層や防汚層等が形成された種々のレンズを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る加熱装置の斜視図。
【図2】本実施形態において、加熱装置とその内部に載置される開口容器の断面図。
【図3】本実施形態において、開口容器を上向きの状態で載置した加熱装置の断面図。
【図4】本実施形態において、開口容器を下向きの状態で載置した加熱装置の断面図。
【図5】本実施形態において、保持具に固定されたレンズ基材を示す断面図。
【図6】従来技術における真空蒸着装置を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に加熱装置10の斜視図を示す。加熱装置10は、タングステン製の導電性線状体からなり、円錐台様の螺旋形状をしているコイル部11と、直線状であって電極(図示せず)に接続される直線部12、13とを含んで構成される。
【0014】
図2は、加熱装置10と、開口容器20とを示した断面図である。加熱装置10のコイル部11は、螺旋形状をしており、開口容器20が重力により接触載置される底部11Aと、その上部に位置する中間部11B、11C、11Dおよび最上部11Eとから構成される。底部11Aと最上部11Eは、各々直線部12、13に連続している。
【0015】
開口容器20は、有底円筒状であって開口部21と底面部22とを備えるが、図3、図4に示すように、開口部21が重力方向に対して上下いずれの向きであっても加熱装置10におけるコイル部11の底部11Aに載置できる。すなわち、底部11Aは、開口容器20の開口部21および底面部22をともに重力により載置できるような直径を有している。
【0016】
また、加熱装置10のコイル部11における中間部11Bは、開口容器20の側面に接してこれを保持するような直径を有している。すなわち、この中間部11Bは、図3、図4に示すように、開口容器20における開口部21の向きが上下いずれであっても開口容器20の側面に接してこれを保持する保持部として機能する。
さらに、コイル部11の底部11Aから伸びる直線部13は、水平部13Aと垂直部13Bと水平部13Cとを含んで構成される。
【0017】
開口容器20は、その内部に蒸着材料30を含んでいる。蒸着材料30は、蒸着される物質自身であってもよいし、蒸着される物質を担持した担体(金属繊維塊等)であってもよい。開口容器20の材料は、導電性でもよく、非導電性でもよい。導電性材料としてはステンレスのような金属製であってもよいが、耐腐食性や耐酸化性が必要であればカーボン製が好ましい。
【0018】
本実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
(1)図3あるいは図4に示す加熱装置10を、図6に示すような真空チャンバー101内に載置して、内部の開口容器20を抵抗加熱すれば蒸着材料30が蒸散し、所定の基材表面に対して蒸着を行うことができる。すなわち、開口容器20を上下逆に載置するだけで、一つの加熱装置10により、上方向にも下方向にも蒸着材料を蒸散させることが可能となる。それ故、蒸着材料を下方向に蒸散させる場合でも、開口容器20を固定するための特殊な治具を用いる必要がなく簡便である。
なお、抵抗加熱する際は、加熱装置10の直線部12、13の端部に対して直流あるいは交流のいずれの電圧をかけてもよい。交流電圧をかける場合は、5W以上100W以下の電力が好ましい。
【0019】
(2)コイル部11は、載置された容器20に接触してこれを保持する中間部11Bをさらに備えているので、容器20を安定してコイル部11に固定することができる。それ故、加熱装置10が多少傾いたりあるいは振動を受けた場合でも蒸着時に支障をきたすことがない。
【0020】
(3)図3および図4に示す加熱装置10を同時に用いることで、基材の両面に対して同時に蒸着を行うことが可能となる。例えば、図5に示すように、保持具40に固定されたレンズ基材50に対して、図3の加熱装置10をレンズ基材50の下側に載置し、図4の加熱装置をレンズ基材50の上側に載置して蒸着を行えばよい。この場合、単に開口容器20の開口部21の向きを上下に変えて、2つの加熱装置10内に各々載置するだけでよいので非常に簡便である。
【0021】
(4)図4に示すようにコイル部11の底部11Aから伸びる直線部13は、水平部13Aを有している。従って、蒸着時に、容器20から下に向かって蒸着材料30が蒸散した場合に、垂直部13Bや水平部13Cが蒸着を妨げにくい位置に存在する構造となっている。
【0022】
(5)加熱装置10を用いることで、種々のレンズ基材に対して片面蒸着はもちろん、両面同時蒸着をも簡便に行うことが可能となる。それ故、反射防止層や防汚層等が形成された種々のレンズを容易に製造することが可能となる。ここで、レンズ基材は無機ガラス製でもプラスチック製でもよい。また、レンズとしては、眼鏡用、カメラ用、顕微鏡用、望遠鏡用など種々の用途に適用可能である。
【0023】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含むものである。
例えば、本実施形態のコイル部11は、開口容器20を保持する中間部11Bを備えているが、必ずしも、中間部11が開口容器20を保持する必要はない。逆に、中間部11Bだけでなく、他の中間部11Cや11D、さらには最上部11Eがともに開口容器20の側面に対して接触することにより保持していてもよい。
また、本実施形態における開口容器は有底円筒状であったが、断面形状は必ずしも円形でなくともよく、楕円形や矩形であってもよい。
なお、加熱装置10を構成する導電性線状体の材料としてタングステンを用いたが、他の導電性材料であってもよい。例えば、タンタル、ニオブあるいはモリブデンのような耐熱性金属も使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、真空蒸着装置の内部に載置され、蒸着材料を加熱して蒸着を行わせるための加熱装置として好適である。
【符号の説明】
【0025】
10…加熱装置、11…コイル部、11A…底部、11B、11C、11D…中間部、11E…最上部、12、13…直線部、13A、13C…水平部、13B…垂直部、20、120…開口容器、22…底面部、30…蒸着材料、40、140…保持具、50、150…レンズ基材、100…真空蒸着装置、101…真空チャンバー、110…ホットプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料が充填された筒状開口容器を内部に載置して加熱する加熱装置であって、
該加熱装置は、抵抗加熱が可能な導電性線状体からなり、
前記導電性線状体は、コイル部を備え、
前記コイル部は、重力により前記容器の開口部および底部のいずれを接触させて載置することも可能な直径を有する底部を備える
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加熱装置において、
前記コイル部は、載置された前記容器に接触してこれを保持する保持部を備える
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の加熱装置において、
前記導電性線状体の材質がタングステン、タンタル、ニオブおよびモリブデンのうち、少なくともいずれかである
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の加熱装置を用いて基材表面に蒸着を行う
ことを特徴とする蒸着方法。
【請求項5】
請求項4に記載の蒸着方法において、
前記基材がレンズ基材である
ことを特徴とする蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−270370(P2010−270370A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124044(P2009−124044)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】