説明

加熱装置

【課題】対象物をムラなく均一に高温加熱しながら高精度に計測するため、加熱装置を密閉構造とすることなく、さらに対象物をステージ動作させながらでも、対象物の加熱及び計測を可能とする加熱装置を提供する。
【解決手段】対象物6の上面に計測用に設けた開口部10を有するプレート型ヒーター5を配置し、前記対象物6の下面には接触式または非接触式の加熱ユニット7と、前記対象物6を支持する支持体11とで構成された加熱ケース9をステージに搭載し、ステージ動作させながら対象物6の加熱と計測を可能とする加熱装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物をリフロー半田付けする等のために加熱を行う場合において、加熱時に対象物の観察や表面形状などの計測が可能な加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製作段階において高温の加熱が必要な製品あるいは物質は工業生産品の中に数多く存在する。例えば精密機器に使用されている電子回路基板では、半導体素子などを表面実装する際に電気的接続をするための半田材などの接続用材料を融解させるために高温リフロー加熱がなされる。
【0003】
高温リフロー加熱の方法としては密閉状態で加熱装置内部に熱風を循環させ均一な雰囲気温度にして加熱する方法や、赤外線ヒーター等の輻射熱を利用して加熱するもの、あるいは熱風と赤外線ヒーターの両方を併用するものがある。
【0004】
高温リフロー加熱中に発生する対象物の変形などの問題は、製品の品質や歩留まりに影響を与えてしまうことから、高温加熱中の対象物の各種特性を把握しておくことは非常に重要である。
【0005】
高温加熱中に対象物を光学計測して各部の寸法、形状変化を把握しようとする場合、従来の加熱装置は特許文献1に示されているように、均一に対象物を加熱するため密閉構造とし、加熱装置の一部にガラスなどの透明体を用いた観察窓を設ける必要があった。その場合、観察窓や装置筐体の外部表面が高温にならないように断熱材を挟んだ2重筐体、2重窓としたり、熱の影響を受けないように観察窓から離して光学計測器を設置したりするのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-123796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、対象物を高精度に光学計測しようとする場合は、顕微鏡のような拡大光学系を用いる必要があり、そのような光学系は一般的に観察対象に対して非常に近接して設置する必要があるため、上記のように計測器を観察窓から離して設置することは不可能である。あるいは窓部を高温としないように断熱を目的として空気層を設けた、いわゆる2重窓も結果的に観察対象との距離が離れてしまうため設置不可能である。
【0008】
このような困難への対策として、観察窓が必要となる密閉構造を採用せず、光学計測器を薄い透明断熱構造で保護し、観察対象に近接して設置する事を可能とした断熱装置が本発明と同一の発明者により特願2009-209283に於いて提案されている。
【0009】
しかし密閉構造でないことから、熱風による加熱は困難であり、輻射熱を利用した加熱では直接加熱されている面と、反対側の面との間に温度差ができ加熱均一性には限界がある。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、加熱装置を密閉構造とすることなく、かつ対象物をムラなく均一に加熱でき、加熱と同時に光学計測を可能とする加熱装置の実現である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、加熱対象物を固定するための支持体と、前記加熱対象物の観察面裏側を接触または非接触で加熱する裏面加熱器と、前記加熱対象物と前記支持体と前記裏面加熱器とを搭載し動作させる少なくとも1軸の移動ステージと、面的に広がった均一温度領域を有し、その均一温度領域の一部に前記加熱対象物を観察するための開口部を有し、前記加熱対象物に近接させることで前記加熱対象物を観察面表側より非接触で加熱する表面加熱器とで構成する。
【0012】
前記移動ステージを動作させることで、前記開口部を通して前記加熱対象物全体を観察あるいは計測しながら前記加熱対象物の表面および裏面を同時に均一加熱することを可能とする。
【0013】
前記加熱対象物に対し少なくとも一つの温度計を設置し、フィードバック制御により前記加熱対象物の温度を制御する機能を備える。
【0014】
前記観察用の開口部に、前記光学計測器の計測に影響を与えない程度の薄さの平行平面透明体を配置する。
【発明の効果】
【0015】
以上のように構成することで、加熱機構を密閉構造としなくても対象物の両面を均一な温度でムラなく加熱することが可能となる。また加熱と同時に光学計測器を対象物へ接近しながらの高精度な計測が可能な加熱装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例を示した正面図である。
【図2】実施例の加熱ケース部を示した側面図である。
【図3】実施例のプレートヒーター部を示した断面図である。
【図4】赤外線ヒーター加熱による対象物の温度プロファイルを示したグラフである。
【図5】赤外線ヒーター加熱+プレートヒーター加熱による対象物の温度プロファイルを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明を具体的に実施するにあたり最良と思われる実施形態について述べる。
【0018】
まず、本発明を具現化した実施形態の例を、図1、図2を参照して説明する。
【0019】
基本的な構成は、観察部と加熱部から構成され、観察部は対象物6の観察面表面を観察するための光学計測器1の光学系部2と、その光学系部2を断熱するための断熱器3からなる。また本実施例では光学系部2は対物レンズを表し、光学計測器1はその光学系部2にはいった光をカメラに結像させて、観察及び計測する役割を持っている。
【0020】
観察部の断熱器3は光学系部2が接近して対象物6を観察する際に、対象物6からの熱またはプレートヒーター5からの熱が光学系部2へと伝熱されるのを断熱する機能を持つ。また、この断熱器3は光学系部2の光路部においてワーキングディスタンスより十分に薄く、光学系部2の光学性能を劣化させないような透明断熱構造で構成されていることが必要である。
【0021】
加熱部は対象物6を観察面側から加熱するプレートヒーター5と、プレートヒーター5に取り付ける断熱材4と、加熱ケース9で構成される。断熱材4とプレートヒーター5には断熱器3を装着した光学系部2の挿入と光路を確保するため一部開口部10を設けている。
【0022】
加熱ケース9は対象物6を観察面裏側から加熱する赤外線ヒーター7と、そのヒーターの下に配置するヒーター用断熱材8と、対象物6を支持する支持部11で構成される。また、加熱ケース9はXYステージ101上に搭載されていてXY移動が可能となっている。さらに加熱後に対象物6を強制冷却できるように側面には冷却用ファン201を設けている。
【0023】
加熱ケース9内部には対象物6のサイズに合わせて図2に示すように赤外線ヒーター7を複数本配置している。また赤外線ヒーター7からの熱が加熱ケース9を伝わりXYステージ101へ伝熱する事を防ぐため、赤外線ヒーター7下面に低熱伝導材質のヒーター用断熱材8を配置している。対象物6を支持する支持部11の材質は、加熱により膨張してしまうと対象物6を計測する際に誤差要因となってしまうため、ファインセラミックスのような極低膨張材質で構成されると良い。またここでは、対象物6の観察面裏側からの加熱は赤外線ヒーター7を用いているが、これに限るものではない。ホットプレート式の加熱器のように直接対象物6を載せて加熱する場合も本発明の範疇である。しかしこの場合、加熱部の膨張収縮により対象物6も同時に動くため、加熱部の膨張収縮量が観察や計測に影響がない程度に抑える必要がある。
【0024】
配熱設計された赤外線ヒーター7で加熱を行うと、対象物6の観察面裏側は均一な温度で加熱することができる。また加熱ケース9はプレートヒーター5と接触していないため、加熱ケース9ごとXY動作させることが可能であり、対象物6の任意の位置を開口部10の直下に移動することができる。つまり赤外線ヒーター7と対象物6の位置関係を維持しながら対象物6の任意の部分を観察することを可能としている。
【0025】
しかし、観察面裏側からの赤外線ヒーター7の加熱だけでは、対象物6内部で観察面裏側から表側への熱平衡に要する時間に加え、対象物6の表側から雰囲気中への熱移動により、対象物6の観察面裏側と表側において温度差が出来てしまう。
【0026】
そこで、観察面裏側からの赤外線ヒーター7と同時に観察面表側からプレートヒーター5での加熱を行う機構とした。対象物6とプレートヒーター5との距離を1〜2mm程度と非常に近接した位置に配置することで、効率よく加熱ができるとともに、プレートヒーター5が蓋の役割を果たし密閉構造に近い状態としている。また、加熱ケース9をXY動作させるため、プレートヒーター5は加熱ケースの動作範囲を覆うだけの領域が必要となる。このプレートヒーター5によって対象物6を観察面表側からも加熱し、表面側の雰囲気温度を安定させ、且つ、雰囲気中への熱の放出を防いでいる。図4.5に示した本実施例で検証した結果のグラフは対象物6の裏面と表面側の温度差がプレートヒーター5により大幅に改善されていることを表している。
【0027】
前記プレートヒーター5は少なくとも光学系部2が挿入される領域においては、光学系部2のワーキングディスタンスより十分に薄い必要がある。本実施例では図3に示すように、プレートヒーター部は加熱器用断熱材301と銅板303で加熱器302を挟みプレートヒーター部を構成している。加熱器302は光学系部2が挿入できるように干渉しない位置に配置することで銅板303の厚さのみがワーキングディスタンスに関係する。
【0028】
上記のような構造の場合、加熱器302に接触している箇所と接触していない箇所とで温度ムラが発生してしまうが、本実施例のように金属の中でも非常に熱伝導の良い銅材を使用することで温度ムラは微小となる。さらに銅板303の厚みを薄くすれば熱平衡状態に達する時間が早くなり、また、光学部2のワーキングディスタンス確保も容易となる。ここでは、非常に薄くて電力密度の高い加熱器があれば光学系部2直下を含め加熱領域全面に配置しても前記と同様の効果を得ることができるが、それも本発明の範疇である。
【0029】
さらに上記の場合、対象物6の観察面表側に熱風を当てて加熱する方法も考えられるが、光学計測を行う場合、気体の揺らぎがあると空間の屈折率が変化し計測ノイズとして計測精度に影響を及ぼす可能性がある。そのため光路中は層流状態であることが望まれる。本実施例のように密閉構造でなく、対象物6をXY動作させている状態で層流状態の気流を作り出すのは困難である。
また、対象物6に直接熱風が当たり、対象物6が揺れて計測に影響を及ぼす恐れもある。対象物6を強固な固定方法で固定できれば揺れは収まるが、強い外力を対象物6にかけながら加熱すると、加熱中に熱応力が発生し熱変形が問題となる。
本実施例での検証実験においても、対象物6の固定方法により加熱中の変形の様子が変わることを確認している。
【0030】
プレートヒーター5の開口部10ではプレートヒーター5直下と比べ、雰囲気温度が低下することが考えられる。本実施例の検証でも時間経過とともに若干の温度低下が見られた。しかしこれは高速に計測する場合には問題とならないレベルである。
【0031】
また本実施例の場合、対象物6の観察面表側と裏側の雰囲気温度では裏側の雰囲気温度のほうが上記の理由で安定するため、赤外線ヒーター7の温度制御は対象物6の観察面裏側温度に対して行うと良い。表側に対して温度制御を行うと、外乱を抑えるため操作量が増え両面での温度差が出来やすくなってしまう。さらに、プレートヒーターと赤外線ヒーターでは通常赤外線ヒーターのほうが昇温速度が速いため、対象物6は赤外線ヒーター7の出力に大きく影響を受ける。この場合、表側を目標温度に制御しようとすると、裏側温度は瞬間的にでも目標温度(表側温度)よりも高くなり、対象物6の許容温度を超えてしまう可能性がある。
【0032】
一方、プレートヒーター5の開口部10において平行平面透明体を配置する構造が考えられる。平行平面透明体を配置することで、平行平面透明体が加熱されて高温体となり開口部10周辺の雰囲気温度の低下は軽減される。この時、平行平面透明体に厚みがあると、それ自身の厚みや熱膨張による変形によって光学系部2の結像性能を劣化させるため、平行平面透明体は顕微鏡のカバーガラスレベルの厚みで且つ、熱膨張がほとんどない材質、例えば合成石英ガラスなどを使用すれば計測への影響は小さくすることができる。これらの場合についても本発明の範疇である。
【0033】
プレートヒーター5の開口部10に必要な大きさは、光学部2の開口数とプレートヒーター5の開口部10との距離によって決まるが、上記で説明したように開口部10では雰囲気温度の低下が起こるので、できるだけ小さいほうが良い。また、上記のように開口部10に薄い平行平面透明体を配置する場合、薄くてサイズの大きい平行平面透明体は取扱いが非常に難しく、製作も困難であるため好ましくない。また、自重によってたわみが発生し、結果として光学性能に影響を与えてしまう可能性もある。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、密閉空間で加熱しなくても対象物の表裏面を均一な温度分布で加熱することが可能となる。また同時に、加熱中の対象物の精密な形状観察及び計測が可能となる。
これは物体の高温ストレスによる影響を研究する分野において大きな需要があると考えられる。
【符号の説明】
【0035】
1 光学計測器
2 光学部
3 断熱器
4 断熱材
5 プレートヒーター
6 対象物
7 赤外線ヒーター
8 ヒーター用断熱材
9 加熱ケース
10 開口部
11 支持部
101 XYステージ
201 冷却用ファン
301 加熱器用断熱材
302 加熱器
303 銅板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱対象物を固定するための支持体と、
前記加熱対象物の観察面裏側を接触または非接触で加熱する裏面加熱器と、
前記加熱対象物と前記支持体と前記裏面加熱器とを搭載し動作させる少なくとも1軸の移動ステージと、
面的に広がった均一温度領域を有し、その均一温度領域の一部に前記加熱対象物を観察するための開口部を有し、前記加熱対象物に近接させることで前記加熱対象物を観察面表側より非接触で加熱する表面加熱器とで構成され、
前記移動ステージを動作させることで、前記開口を通して前記加熱対象物全体を観察あるいは計測しながら前記加熱対象物の表面および裏面を同時に均一加熱することを特徴とする加熱装置
【請求項2】
前記加熱対象物に対し少なくとも一つの温度計を設置し、フィードバック制御により前記加熱対象物の温度を制御することを特徴とする請求項1の加熱装置
【請求項3】
前記開口部に、観察あるいは計測用の光学系に影響を与えない薄さの平行平面透明体を配置することを特徴とする請求項1または請求項2いずれかに記載の加熱装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−145283(P2012−145283A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4480(P2011−4480)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【Fターム(参考)】