説明

加飾性を向上させた合成樹脂成形品の製造方法

【課題】
製造コストを抑えつつも、合成樹脂成形品の表面に施される意匠の精緻さや高級感を高めると共に、容易に透過意匠を形成することができる合成樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】
合成樹脂シートに第1印刷層を設けるステップと、該合成樹脂シートのいずれかの面上の所定領域に剥離インクを印刷するステップと、剥離インクを印刷した面を金型内表面に接触するようにして合成樹脂シートを金型内に設置するステップと、金型内の空間に溶融合成樹脂を射出し、合成樹脂シートと一体化した合成樹脂成形品を成形するステップと、合成樹脂成形品の外表面上に第2印刷層を水圧転写するステップと、液体洗浄によって剥離インクが印刷された領域の第2印刷層を溶融除去するステップと、第2印刷面上にクリヤー層を設けるステップと、から構成される合成樹脂成形品の製造方法を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意匠面を有する合成樹脂成形品において意匠面の加飾性を向上させることができる合成樹脂成形品の製造方法を提供するものであり、更に詳細には、インモールド成形法と液圧転写印刷法を組み合わせることにより、高度な意匠面を有する合成樹脂成形品の製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の内装品や家電製品など、直接ユーザーの目に触れ、あるいはユーザーが直接手に触れる合成樹脂成形品においては、装飾性や触感を向上させるために、合成樹脂表面に平滑な面を持った意匠面を設けるようになってきている。
【0003】
このような意匠面を形成する方法として、シート状の表皮材に意匠面をなす印刷層を予め設けておき、インモールド成形法によりこの表皮材が成形品基材表面に配置されるようにして、基材樹脂を融着一体化させる製造方法がある。
【0004】
また、予め木目模様や幾何学模様などの絵柄を印刷した可溶性の特殊フィルムを液体上に浮かべ、その上方から合成樹脂の成形体を押し付けることによって、液圧を利用して成形体表面に絵柄の印刷層を付着させる液圧転写法によって成形体表面に意匠面を形成する製造方法も採用されている。
【0005】
インモールド成形法は、意匠の自由度が高く、また意匠の位置精度を高く維持することが可能である。また、透過意匠(バックライティングとも言い、成形品の後方あるいは横方向から光を当て、これを前面から見た場合に、印刷された絵柄や文字が明るく浮かびあがって見える意匠部分のことを言う)を設けることも可能である。(特許文献1参照)更に、絵柄や文字の印刷状態を制御することにより透過意匠部の光の透過の程度を調節することも可能になるなどの長所を有している。しかし、このインモールド成形法では、成形品の側面(立ち上がり部分)まで、意匠面を設けてあるシート状の表皮材を配置することは難しく、また意匠面の表面質感(例えば、意匠の精緻さや高級感)の点で、後述する液圧転写法には及ばないという問題点もある。
【0006】
一方、液圧転写法をそのまま用いたのでは、透過意匠を実現するのは難しく、透過意匠部分の調光処理も困難である。また、意匠の位置精度や意匠の自由度についても、インモールド成形法には及ばない。しかしながら、液圧転写法は成形品の側面(立ち上がり部分)まで意匠面を設けることが可能であり、また優れた意匠面の表面質感(例えば、意匠の精緻さや高級感)を得ることが可能である。(特許文献2参照)
【特許文献1】特開2002-178362号公報
【特許文献2】特開2005-231223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上述べたように、装飾性や触感を向上させるために、合成樹脂表面に高級感を備えた意匠面を設ける方法としてインモールド成形法および液圧転写印刷法があり、これらはそれぞれに特質があり、両者の利点を兼ね備えた合成樹脂成形品の製造方法が求められていた。
【0008】
しかし、同一の合成樹脂成形品に両者の方法を適用して、意匠面を形成するようにしても、製造コストが高くつくため、その実用化が困難であった。また、液圧転写印刷法をそのまま適用したのでは、透過意匠を形成するのは困難なため、自動車や電器製品の計器盤やスイッチパネル、あるいはオーディオ製品の操作パネルなどのように、透過意匠(バックライティング)が必要となる合成樹脂成形品に、これら両者の方法を適用することには無理があった。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑み考案されたものであり、製造コストを抑えつつも、合成樹脂成形品の表面に施される意匠の精緻さや高級感を高めると共に、容易に透過意匠を形成することができる合成樹脂成形品の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したような課題を解決するために、請求項1に記載された発明においては、合成樹脂シートの片面又は両面に第1印刷層を設けるステップと、合成樹脂シートのいずれかの面上の所定領域に剥離インクを印刷するステップと、剥離インクを印刷した面を金型内表面に接触するようにして合成樹脂シートを金型内に設置するステップと、合成樹脂シートの剥離インクを印刷した面の裏面と金型によって画成される空間に溶融合成樹脂を射出し、合成樹脂シートと一体化した合成樹脂成形品を成形するステップと、合成樹脂成形品のの外表面上に第2印刷層を液圧転写するステップと、第2印刷層面を液体洗浄することによって剥離インクが印刷された領域の第2印刷層を溶融除去するステップと、第2印刷面上にクリヤー層を設けるステップと、から構成される合成樹脂成形品の製造方法を採用した。
【0011】
また、請求項2に記載された発明においては、請求項1に記載の合成樹脂成形品の製造方法であって、合成樹脂成形品はバックライティング可能であり、第1印刷層には透光性又は不透光性の絵柄や文字が印刷されている構成の合成樹脂成形品の製造方法を採用している。
【0012】
また、請求項3に記載された発明においては、請求項2に記載の合成樹脂成形品の製造方法であって、透光性又は不透光性の絵柄や文字が印刷された領域の近傍には溶融合成樹脂が入り込まず、合成樹脂シートのみから成る窪み状の透光窓を形成する構成の合成樹脂成形品の製造方法を採用した。これは、溶融合成樹脂が不透明又は半透明であってもバックライティングを可能にするものである。
【0013】
また、請求項4に記載された発明においては、請求項1乃至3のいずれかに記載の合成樹脂成形品の製造方法であって、第2印刷層を形成する液圧転写が、水圧転写である構成の合成樹脂成形品の製造方法を採用した。
【0014】
また、請求項5に記載された発明においては、請求項1乃至4のいずれかに記載の合成樹脂成形品の製造方法であって、第1印刷層にグラデーション効果を取り入れた意匠が施されている構成の合成樹脂成形品の製造方法を採用した。
【0015】
更に、請求項6に記載された発明においては、請求項2乃至5のいずれかに記載の合成樹脂成形品の製造方法であって、第1印刷層に印刷された透光性又は不透光性の絵柄や文字部分において、光の透過の程度を調整する調光処理が絵柄や文字を印刷する際に行われる構成の合成樹脂成形品の製造方法を採用した。
【発明の効果】
【0016】
同一の合成樹脂成形品に、インモールド成形法と液圧転写印刷法を適用して表面加飾を低コストで施工することを実現した本発明により、従来にない高度な表面質感(例えば、意匠の精緻さや高級感)を持った意匠面を有する合成樹脂成形品を低コストで製造することが可能となった。
【0017】
また、インモールド成形法と液圧転写印刷法を適用して合成樹脂成形品の表面加飾を行う一方、当該合成樹脂成形品に透過意匠(バックライティング)を形成することができる製造方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明にかかる合成樹脂成形品の基本的な製造工程を示したものである。本発明にかかる合成樹脂成形品の製造工程は、大きく分けて以下の7つの工程から成り立っている。
【0020】
(1)合成樹脂シートに第1印刷層を印刷する工程 11
(2)合成樹脂シートのいずれかの面上の所定領域に剥離インクを印刷する工程 12
(3)合成樹脂シートを金型内に設置する工程 13
(4)溶融合成樹脂の射出により、合成樹脂シートと一体化した合成樹脂成形品を成形する工程 14
(5)合成樹脂成形品の外表面上に第2印刷層を液圧転写する工程 15
(6)液体洗浄により、剥離インクを印刷した領域の第2印刷層を溶融除去する工程 16
(7)第2印刷面上にクリヤー層を塗布する工程 17
本発明に使用される合成樹脂シート21としては、特に限定されるものではないが、板厚0.1mm程度から2.0mm程度の範囲の熱可塑性合成樹脂シート21が望ましい。合成樹脂シート21の板厚が薄すぎると、金型内に設置する場合に腰が弱く、金型の構造によっては金型面からずれてしまうことがある。また、後述する溶融合成樹脂の温度によっては合成樹脂シート21が部分的に溶けてしまい、その形状を保持できない場合がある。また、合成樹脂シート21の板厚が厚すぎる場合には、金型に装着する際に金型の形状に合わせて切断する必要があるが、この切断作業が難しくなる傾向にある。更に、合成樹脂シート21の板厚が厚すぎる場合には、金型の曲面が強かったり曲面が複雑な形状をしていると、溶融合成樹脂を射出しても合成樹脂シート21が金型内面に沿えず、所望の成形品を得ることができないという問題が生じる。また、バックライティングを行う場合には、この合成樹脂シート21は透明、または半透明でなければならない。
【0021】
合成樹脂シート21に第1印刷層28を印刷する工程11において採用される印刷方式の代表的なものにスクリーン印刷がある。スクリーン印刷以外の印刷方式を採用した場合、一度の印刷で得られる印刷膜厚としては1μm以下の膜厚のものしか得られず、印刷層にピンホール等の欠陥が発生しやすい。従って、バックライティングするような場合、印刷層にピンホール等の欠陥が発生しないことが必須の要件となり、このような欠陥が発生しにくい充分な印刷膜厚(例えば4μm以上)を一度の印刷で実現できるスクリーン印刷方式が望ましい。なお、バックライティングを行う領域であって、印刷部分が黒色で地を形成しているような場合(絵柄や文字ではない場合)には、スクリーン印刷で二層の重ね印刷を施すことにより、印刷膜厚を充分厚く(例えば8μm以上)しておくことが望ましい。印刷部分が黒色で地を形成しているような場合には、絵柄や文字の印刷とは異なり、黒色の地の部分の面積が広い分ピンホールが発現しやすく、バックライティングによる漏光を生じやすいからである。
【0022】
合成樹脂シート21上に印刷する第1印刷層28は、合成樹脂シート21の片面のみに印刷されたものであっても良いし、両面に印刷することによって立体感を出すようしたものであっても良い。また、第1印刷層28には合成樹脂成形品23に加飾性を与えることができるデザイン性に富んだ模様等が印刷される。更に、バックライティングするような場合には、第1印刷層28のバックライティングする領域(透過意匠部とも言う)に、透光性又は不透光性の絵柄や文字を同時に印刷しておくことが必要になる。
【0023】
一般に後述する液圧転写により印刷層を施工する場合、合成樹脂成形品23の表面の特定の一部にだけ印刷層を転写するということは困難である。かかる問題を解決するため、本発明においては、合成樹脂シート21のいずれかの表面上であって、液圧転写による印刷層を設けたくない特定の領域全面に、剥離インクを印刷する工程12を設けた。剥離インクは、液圧転写による印刷層が合成樹脂成形品23の表面に付着するのを防止するものであり、ソルベルト系のシリコーンまたはソルベントレス系の紫外線硬化型シリコーン等を使用することができる。
【0024】
特に、透過意匠部を有する合成樹脂成形品23の場合には、透過意匠部分に液圧転写による印刷層が付着すると不都合であり、かかる場合には透過意匠部分に剥離インクを印刷しておくことにより、液圧転写による印刷層が付着するのを防止することが可能となる。
【0025】
このような方法を採用することにより、大きなコストがかかるマスキング処理を行わなくとも、液圧転写による印刷層を設けたくない領域に、低コストで実現できる剥離インクの印刷を行っておくことによって、液圧転写による印刷層が付着するのを防止することが可能となる。
【0026】
上述したような処理をした合成樹脂シート21を後述するように金型内に設置するために、合成樹脂シート21は金型の開口部形状に合わせて切断加工される。合成樹脂シート21の切断は、鋏や裁断機(シャーリング)で切断することもできるが、打ち抜き金型を利用したプレス機械によって切断加工するようにしても良い。なお、ここでは、11、12の各工程を終えた後に、合成樹脂シート21を金型の開口部形状に合わせて切断加工することを説明したが、これに限定されるものではない。即ち、合成樹脂シート21を金型の開口部形状に合わせて切断加工した後に当該合成樹脂シート21に11、12の各工程処理を行うようにしても良い。
【0027】
また、金型の開口部形状に合わせて切断加工された合成樹脂シート21は、金型の内面形状に合わせて予めフォーミングしておくようにしても良い。このフォーミングする方法としては、熱板式真空圧空成形法を使用したり、あるいはホットプレス成形法を使用したりすることができる。
【0028】
合成樹脂シート21を金型内に設置する工程13においては、合わせ型の開口部から合成樹脂シート21の剥離インクの印刷面が金型内面に向く、即ち合成樹脂成形品23の外表面(意匠面)となるようにして挿入し、セットする。金型内の適切な位置に合成樹脂シート21を保持するようにするために、予め金型に微小な孔を設けておき、この孔と真空ポンプ等の真空源とを接続させることによって金型内表面と合成樹脂シート21の間を真空状態に維持するようにしても良い。
【0029】
以上のように金型内に合成樹脂シート21を装着し、金型を閉じた後、合成樹脂シート21と一体化した合成樹脂成形品23を成形する工程14に移行する。この工程は、一般に行われている熱可塑性樹脂による射出成形の工程と基本的には同じであるが、溶融した熱可塑性樹脂(以後単に「溶融合成樹脂」と言う)はゲートを通り、既に装着されている合成樹脂シート21の背面と金型が成す空間に圧入される。従って、圧入される溶融合成樹脂によって予め金型内に装着してある合成樹脂シート21を破るようなことがないよう、例えばゲートの向きが、合成樹脂シート21と直行することがないようにするなどの配慮が必要となる。このように合成樹脂シート21の背面と金型が成す空間に溶融合成樹脂を圧入した後、溶融した合成樹脂の温度がある程度下がると合成樹脂シート21と一体化した合成樹脂成形品23が成形される。(圧入された溶融合成樹脂が凝固した部分を以後「ベース樹脂」と呼ぶことにする。)この場合、合成樹脂成形品23の外表面(意匠面)には、合成樹脂シート21上に設けた第1印刷層28が視認できるようになっている。
【0030】
図2−4に基づいて、合成樹脂シート21と一体化した合成樹脂成形品23を成形する工程14について更に詳細に説明する。
【0031】
図2は、図3に示す合成樹脂成形品23のB部における金型の状況を示したものである。
【0032】
金型27aの内面側に合成樹脂シート21を装着させておき、合成樹脂シート21の背面と金型27bとの間に画成される空間に溶融合成樹脂22が圧入される。溶融合成樹脂22は射出成形用ノズル26、スプルー25、およびゲート24を通って金型27a、27b内に導入される。金型27aの内面側に装着される合成樹脂シート21は、予め金型27aの内面形状に合わせて成形しておくこともできる。合成樹脂シート21の背面と金型27bとの間の空間に圧入された溶融合成樹脂22は、合成樹脂シート21に溶着接合すると共に、比較的低温の金型により冷却されて凝固する。その結果図3に示すような合成樹脂シート21とベース樹脂22(溶融合成樹脂22が凝固したもの)が一体になった合成樹脂成形品23ができ上がる。
【0033】
図4は、図3のA部を拡大して示したものである。ベース樹脂22の外表面上には第1印刷層28が設けられ、第1印刷層28の上には剥離インク層30が設けられている。
【0034】
合成樹脂成形品23の一部にバックライティング部(透過意匠部)を設ける場合であって、ベース樹脂22が不透明又は半透明な樹脂で構成されている場合には、バックライティングのための透光を可能にする透光窓31が設けられる。(図3参照のこと。)この透光窓31は、合成樹脂シート21に印刷された透光性又は不透光性の絵柄や文字が印刷された領域の近傍に設けられ、透光窓31の部分には溶融合成樹脂22が入り込まないような金型形状となっている。従って、成形を完了した合成樹脂成形品23のバックライティング部分には合成樹脂シート21のみから成る窪み状の透光窓31が形成される。なお、ベース樹脂22が透明な樹脂で構成されている場合には、必ずしも透光窓は必要ないが、バックライティングの際に不必要な光が漏れるのを防止するために、ベース樹脂22又は合成樹脂シート21の所定位置に光を遮蔽する塗装が必要になる。
【0035】
合成樹脂シート21とベース樹脂22とが一体となって成形された合成樹脂成形品23ができ上がると、当該合成樹脂成形品23の外表面上に第2印刷層32を液圧転写する工程15に移る。
【0036】
ここで、液圧転写とは液圧転写印刷法ともいい、印刷しようとする図柄や模様が予め印刷された転写シートの図柄部分にシンナー等の溶剤を噴霧し、図柄を構成する塗料やインクを溶解状態にした後、転写シートを図柄が上を向くように液面上に浮かべ、被塗装部である合成樹脂成形品23の外表面(即ち、意匠面)を転写シートの図柄部分に押し当てながら、転写シートを液中に沈め、液体圧によって転写シートから図柄を被塗装部に転写するものである。なお、使用する液体として水を利用したものを水圧転写または水圧転写印刷法と呼ぶ。
【0037】
ここで、転写シートとは、水溶性あるいは水膨潤性のベースフィルムの上に転写インクによって印刷絵柄が印刷されているものをいい、ベースフィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコールを主成分とし、これにポリアクリル酸アミドや、その他の水溶性高分子、澱粉、ゼラチン、ニカワ等を必要に応じて混合したものが使用されている。
【0038】
ここで説明したような水圧転写印刷法によって、合成樹脂成形品23の外表面に図柄や模様の第2印刷層32を転写した後、液体洗浄(例えば水を使った洗浄)により、剥離インクを印刷した領域の第2印刷層32を除去する工程16に移る。液体洗浄の工程16においては、不要となった転写シートを除去すると共に、転写時に付着した水分や溶剤を除去する。更に、合成樹脂成形品23の表面に剥離インクを印刷した領域においては、水圧転写によって形成された第2印刷層32が除去されると共に、表面に付着した剥離インク層30も洗い流される。なお、液体洗浄が終了した後、表面に付着した余分な水分(洗浄液)が乾燥、除去される。
【0039】
液体洗浄の工程16の後、合成樹脂成形品23の第2印刷面32上にクリヤー層33を塗布する工程17が施工される。このクリヤー層33は、第2印刷層32を保護する(いわゆるトップコートとしての機能を持つ)と共に、洗浄除去された第2印刷層32の領域を埋めることによって合成樹脂成形品23の表面を平滑に仕上げるものである。(図5参照のこと。)クリヤー層33としては、例えば、二液性のウレタン塗料などを使用することができる。
【0040】
図5は、合成樹脂成形品23であって、第2印刷層32上にクリヤー層33を塗布する工程17が施工された後の(即ち完成状態の)合成樹脂成形品23の一部を模式的に表したものである。
【0041】
以上説明したように、合成樹脂成形品23の製造に当たり、本発明の技術的思想を適用しつつインモールド成形法と液圧転写印刷法又は水圧転写印刷法を採用し、更に、第2印刷面の下地面に剥離インクを印刷しておくという手法を取り入れることによって、従来手作業で行なわれていたマスキング貼りやマスキング剥がしの工程を無くすことが可能となり、従来にない高度な意匠面の表面質感(例えば、意匠の精緻さや高級感)を持った合成樹脂成形品23を低コストで製造することが可能となった。また、インモールド成形法と水圧転写印刷法を適用して合成樹脂成形品23の表面加飾を行う一方、水圧転写による印刷層に邪魔されることなく、合成樹脂成形品23に任意の透過意匠(バックライティング)を形成することができる製造方法を確立することが可能となった。
【0042】
なお、図4および図5で示した第1印刷層28は、合成樹脂シート21の外表面(ベース樹脂22の反対側の面)側に印刷されているものを示したが、合成樹脂シート21の内側面(ベース樹脂22側の面)に印刷するようにしても良いし、これら合成樹脂シート21の両側の面に印刷するようにしても良い。
【0043】
また、前述した第1印刷層28にグラデーション効果を取り入れてやることにより、第1印刷層28のグラデーション効果と第2印刷層32の絵柄や模様が重ね合わさり、従来表現することができなかった光陰のある意匠を表現することが可能となる。
【0044】
更に、第1印刷層28の透過意匠部分に印刷された透光性又は不透光性の絵柄や文字部分のインク層厚さやインクの種類を調整することによって、透過意匠部分における光の透過の程度を調整する、調光処理が容易に実施することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、自動車や電器製品の計器盤やスイッチパネル、あるいはオーディオ製品の操作パネルなどの他、建築内装部品や日曜雑貨等、幅広い分野に使用される合成樹脂成形品に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明にかかる合成樹脂成形品の基本的な製造工程を示したものである。
【図2】図2は、図3に示す合成樹脂成形品のB部における金型の状況を示したものである。
【図3】図3は、本発明に従って成形された合成樹脂成形品の実施例であって、その断面を模式的に示したものである。
【図4】図4は、図3のA部断面部分を模式的に拡大して示したものである。
【図5】図5は、合成樹脂成形品の完成状態を示すものであって、図3のA部断面部分を模式的に示したものである。
【符号の説明】
【0047】
11 合成樹脂シートに第1印刷層を印刷する工程
12 合成樹脂シートのいずれかの面上に剥離インクを印刷する工程
13 合成樹脂シートを金型内に設置する工程
14 合成樹脂シートと一体化した合成樹脂成形品を成形する工程
15 合成樹脂成形品の外表面上に第2印刷層を水圧転写する工程
16 剥離インクを印刷した領域の第2印刷層を洗浄除去する工程
17 第2印刷面上にクリヤー層を塗布する工程
21 合成樹脂シート
22 溶融合成樹脂(又は、ベース樹脂)
23 合成樹脂成形品
24 ゲート
25 スプルー
26 ノズル
27a,27b 金型
28 第1印刷層
30 剥離インク層
31 透光窓
32 第2印刷層
33 クリヤー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂成形品の製造方法であって、
(1) 合成樹脂シートの片面又は両面に第1印刷層を設けるステップと、
(2) 当該合成樹脂シートのいずれかの面上の所定領域に剥離インクを印刷するステップと、
(3)当該剥離インクを印刷した面を金型内表面に接触するようにして当該合成樹脂シートを金型内に設置するステップと、
(4) 当該合成樹脂シートの剥離インクを印刷した面の裏面と金型によって画成される空間に溶融合成樹脂を射出し、当該合成樹脂シートと一体化した合成樹脂成形品を成形するステップと、
(5) 当該合成樹脂成形品の外表面上に第2印刷層を液圧転写するステップと、
(6) 当該第2印刷層面を液体洗浄することによって当該剥離インクが印刷された領域の第2印刷層を溶融除去するステップと、
(7) 当該第2印刷面上にクリヤー層を設けるステップと、
から成ることを特徴とする合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の合成樹脂成形品の製造方法であって、
前記合成樹脂成形品はバックライティング可能であって、前記第1印刷層には透光性又は不透光性の絵柄や文字が印刷されていることを特徴とする合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の合成樹脂成形品の製造方法であって、前記透光性又は不透光性の絵柄や文字が印刷された領域の近傍には前記溶融合成樹脂が入り込まず、前記合成樹脂シートのみから成る窪み状の透光窓を形成してあることを特徴とする合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の合成樹脂成形品の製造方法であって、前記第2印刷層を形成する液圧転写が、水圧転写であることを特徴とする合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の合成樹脂成形品の製造方法であって、前記第1印刷層にグラデーション効果を取り入れた意匠が施されていることを特徴とする合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれかに記載の合成樹脂成形品の製造方法であって、前記第1印刷層に印刷された透光性又は不透光性の絵柄や文字部分において、光の透過の程度を調整する調光処理が当該絵柄や文字を印刷する際に行われることを特徴とする合成樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−173848(P2008−173848A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9069(P2007−9069)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(392010267)株式会社サカイヤ (24)
【出願人】(505156891)ナガシマ工芸株式会社 (9)
【Fターム(参考)】