説明

加齢に関連した障害を治療する方法

本発明は、細胞の経時寿命および複製寿命のうち少なくともいずれか一方と関係する障害の治療のためのフジマイシンの使用、および、細胞の複製寿命を延長する方法であって、配列番号1、3または5を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは遺伝子の機能を妨害するステップを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の寿命を調整する方法、ならびに加齢に関連した障害を治療するための方法および医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母は、老化およびその調節経路をヒトとの十分な関連性をもって研究することができる、非常に優れたモデル系である
老化には2つのタイプがある。1つは複製老化として知られ、細胞が分裂することができる回数として定義される。各種類の細胞は固有の複製寿命(RLS)を有し、複製寿命は、酵母からマウスまで広範囲の生物体において寿命を延長する良く知られた方法である、カロリー制限(CR)のような介入によって延長することができる。複製老化は幹細胞の長命における重要な特徴である。
【0003】
第2のタイプの老化は、細胞が分裂を停止した後に代謝活性を維持して生存し続ける時間の長さとして定義される、経時老化である。成熟した哺乳動物の多くの細胞は分裂を停止しており、そのCLSは老化の重要な特徴である。複製老化と同様に、経時老化はカロリー制限によって影響を受ける3、4。サーチュイン、例えば酵母のSir2は、細胞のRLSを維持する。CLSについては、菌株の遺伝的背景に特異的な軽微な影響が存在する場合がある。しかしながら、野生型の背景においては、概してSir2はCLSの調節を方向付けることはない5、6
【0004】
老化、加齢関連疾患および細胞寿命の調節の間のつながりは、数多くの疾患、例えば代謝疾患、糖尿病、炎症性障害、骨粗鬆症、癌、心血管疾患などの治療的処置における細胞寿命の調節因子の潜在的な役割を明らかにする。細胞の栄養素利用性、様々な成長因子、ストレスおよびエネルギー状態についてのシグナルは、PI3キナーゼTor1またはTor212を含んでいる複合体TORC1(target of rapamycin complex)によって統合されて細胞の増殖に翻訳される9〜11。TORC1からのシグナルは、特にキナーゼおよび転写因子Sch9、Snf1およびRtg2などの基質によって仲介される14。Snf1キナーゼの標的のうちの1つは、Gcn5(Kat2)、リジンアセチルトランスフェラーゼ、ならびにSAGA複合体およびSLIK複合体両方の構成成分である15〜18。SAGA複合体およびSLIK複合体は、細胞増殖シグナル伝達に応答して遺伝子群の発現を調節する。TORC1の基質であるRtg2は、ミトコンドリアの逆行性応答の既知の調節因子であり19、老化に関連し、かつSLIK複合体のサブユニットである19。SAGA複合体およびSLIK複合体両方の別の重要なサブユニットはSpt7であり、Spt7はSLlK複合体のみの状況ではUbp8によってプロセシングされる17、20。SAGA複合体の活性は別途Spt8によって制御される15
【0005】
カロリー制限の代替法によるTORC1シグナル伝達のダウンレギュレーションは、遺伝子発現の大きな変化によって酵母その他の生物体において寿命を延長することが知られている9、10。しかしながら、そのような調節のメカニズムは理解されておらず、現在研究中である。
【0006】
酵母では、S6キナーゼ(Sch9)の突然変異が経時寿命および複製寿命の延長をもたらす。マウスまたは線虫(C.elegans)において相似遺伝子がノックアウトされた場合も、寿命の延長が観察される。
【0007】
本発明では、本発明者らは、細胞寿命の制御に関与するさらなる因子を同定し、この因子がCLSおよびRLSの両方に影響を及ぼすことを示した。
本発明者らは、酵母のYdr026cがクロマチンの高次構造の保持にとって不可欠であることを確認した。この高次構造は、エピジェネティクスを介して、遺伝子発現の制御におけるその役割から老化において重要な役割を果たすことに関係すると見なされてきた。遺伝子のこのエピジェネティック制御は、老化において影響を受ける。
【発明の概要】
【0008】
概要
本発明の第1の態様によれば、加齢に関連した障害の治療のための医薬の製造におけるフジマイシン(fujimycin)の使用が提供される。
【0009】
好ましくは、前記の加齢に関連した障害は、代謝障害;例えば糖質代謝異常(例えばグリコーゲン蓄積症);アミノ酸代謝異常(例えばフェニルケトン尿症、グルタル酸血症など);有機酸代謝異常(有機酸尿症、例えばアルカプトン尿症);脂肪酸酸化およびミトコンドリア代謝の異常(例えばグルタル酸血症2型);プリンおよびピリミジンの代謝異常(例えばレッシュ‐ナイハン症候群);ミトコンドリア機能の異常(例えばカーンズ‐セイヤ症候群);ペルオキシソーム機能の異常(例えばツェルウェガー症候群) 炎症性障害、心血管疾患、1型糖尿病、2型糖尿病、アテローム性動脈硬化(artherosclerosis)、アルツハイマー病、認知症、臨床的鬱病、脂肪障害(adipose disorder)、例えば肥満、脂肪関連代謝異常、筋ジストロフィー、サルコペニア、悪液質ならびに骨粗鬆症、からなる群から選択される。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、細胞の複製寿命を延長する方法であって、配列番号1、3もしくは5を含むポリペプチド、または該ポリペプチドに対して少なくとも70%、80%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するポリペプチドもしくは前記ポリペプチドのホモログ、または1個もしくは数個のアミノ酸の付加、欠失もしくは置換により配列番号1、3もしくは5とは異なっているポリペプチド、をコードする遺伝子の機能を妨害するステップを含む方法が提供される。
【0011】
本発明の第3の態様によれば、細胞の経時寿命を延長する方法であって、配列番号1もしくは3を含むポリペプチド、または該ポリペプチドに対して少なくとも70%、80%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するポリペプチドもしくは前記ポリペプチドのホモログ、または1個もしくは数個のアミノ酸の付加、欠失もしくは置換により配列番号1、3もしくは5とは異なっているポリペプチド、をコードする遺伝子の機能を妨害するステップを含む方法が提供される。
【0012】
本発明の第4の態様によれば、細胞の経時寿命および複製寿命のうち少なくともいずれか一方を延長する方法であって、前記細胞をフジマイシンで処理するステップを含む方法が提供される。
【0013】
本発明の第5の態様によれば、加齢に関連した障害の治療に使用するためのフジマイシンが提供される。
1つの実施形態では、好ましくは、前記の障害は細胞の経時寿命および複製寿命のうち少なくともいずれか一方に関連している。
【0014】
さらなる実施形態では、前記の障害は、代謝障害、例えば、糖質代謝異常(例えばグリコーゲン蓄積症);アミノ酸代謝異常(例えばフェニルケトン尿症、グルタル酸血症など);有機酸代謝異常(有機酸尿症、例えばアルカプトン尿症);脂肪酸酸化およびミトコンドリア代謝の異常(例えばグルタル酸血症2型);プリンおよびピリミジンの代謝異常(例えばレッシュ‐ナイハン症候群);ミトコンドリア機能の異常(例えばカーンズ‐セイヤ症候群);ペルオキシソーム機能の異常(例えばツェルウェガー症候群)、炎症性障害、心血管疾患、1型糖尿病、2型糖尿病、アテローム性動脈硬化(artherosclerosis)、アルツハイマー病、認知症、臨床的鬱病、脂肪障害、例えば肥満、脂肪関連代謝異常および筋ジストロフィー、サルコペニア、悪液質ならびに骨粗鬆症、からなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】酵母のYDR026C遺伝子座から生産されたYdr026c遺伝子産物が、酵母におけるエピジェネティック制御の一部として遺伝子の高次構造の形成に直接関与することを示す図。
【図1B】酵母のYDR026C遺伝子座から生産されたYdr026c遺伝子産物が、酵母におけるエピジェネティック制御の一部として遺伝子の高次構造の形成に直接関与することを示す図。
【図2】A:ydr026c枯渇突然変異体における嫌気的条件下での経時寿命の延長と、fob1枯渇突然変異体の野生型では延長がないことを示す図。B:同じ結果を較正された成長曲線として示す図。
【図3】野生型(BY4741)、ydr026cΔおよびfob1Δの酵母菌株の経時寿命を、通気条件下(上側パネル)および脱酸素条件下(下側パネル)について示す図。
【図4】経時寿命に対するフジマイシンの影響を示す図。
【図5】線虫(C.elegans)の寿命に対するFK‐506の影響を示す図。
【図6】ヒト線維芽細胞株MRC5における細胞分裂の速度に対するFK‐506の影響を示す図。
【図7】細胞の経時寿命に対するobd1およびsir2の欠失の影響を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
本発明は、ポリペプチドYdr026c(配列番号3)を発現しない酵母細胞はこのポリペプチドを発現する細胞と比較すると大幅に延長された経時寿命を有するという、本発明者らによる発見に基づいている。
【0017】
本発明は、ポリペプチドYdr026c(配列番号3)を発現しない細胞は該ポリペプチドを発現する細胞と比較すると延長された複製寿命をも有するというさらなる発見にも基づいている。
【0018】
当業者には明白なことであるが、経時寿命という用語は、細胞が代謝活性を維持して分裂せずに生存し続ける時間の長さを指す。同様に明白なことであるが、複製寿命という用語は、細胞が分裂することができる回数を指す。したがって、容易に分かることであるが、延長とは、細胞が複製せずに生存し続ける時間の長さの延長、または、細胞が老化現象を示す前に複製することができる回数の増大に関する。
【0019】
本明細書中で使用されるように、遺伝子の名称YDR026CおよびOBD1は同意語であり互換的である。このポリペプチドをコードする遺伝子は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のYDR026C遺伝子座に位置する。
【0020】
本明細書中で使用されるように、加齢に関連した障害という用語は、その病因論の一因患者の年齢を有するあらゆる障害に関する。当然のことであるが、年齢は、組み合わさって該障害の発症をもたらすいくつかの要因のうちの1つにすぎない場合もある。そのような障害の例には、限定するものではないが、代謝障害、例えば、糖質代謝異常(例えばグリコーゲン蓄積症);アミノ酸代謝異常(例えばフェニルケトン尿症、グルタル酸血症など);有機酸代謝異常(有機酸尿症、例えばアルカプトン尿症);脂肪酸酸化およびミトコンドリア代謝の異常(例えばグルタル酸血症2型);プリンおよびピリミジンの代謝異常(例えばレッシュ‐ナイハン症候群);ミトコンドリア機能の異常(例えばカーンズ‐セイヤ症候群);ペルオキシソーム機能の異常(例えばツェルウェガー症候群)、2型糖尿病、内分泌障害、例えば甲状腺障害、癌、炎症性障害、自己免疫疾患、心血管疾患、1型糖尿病、アテローム性動脈硬化(artherosclerosis)、アルツハイマー病、認知症、臨床的鬱病、脂肪障害、例えば肥満、脂肪関連代謝異常および筋ジストロフィー、サルコペニア、悪液質ならびに骨粗鬆症、が挙げられる。
【0021】
本発明の別の態様によれば、加齢に関連した障害の治療のための医薬の製造におけるフジマイシンの使用が提供される。
好ましくは、前記障害は、代謝障害、例えば、糖質代謝異常(例えばグリコーゲン蓄積症);アミノ酸代謝異常(例えばフェニルケトン尿症、グルタル酸血症など);有機酸代謝異常(有機酸尿症、例えばアルカプトン尿症);脂肪酸酸化およびミトコンドリア代謝の異常(例えばグルタル酸血症2型);プリンおよびピリミジンの代謝異常(例えばレッシュ‐ナイハン症候群);ミトコンドリア機能の異常(例えばカーンズ‐セイヤ症候群);ペルオキシソーム機能の異常(例えばツェルウェガー症候群)、炎症性障害、心血管疾患、1型糖尿病、2型糖尿病、アテローム性動脈硬化(artherosclerosis)、アルツハイマー病、認知症、臨床的鬱病、脂肪障害、例えば肥満、脂肪関連代謝異常、筋ジストロフィー、サルコペニア、悪液質ならびに骨粗鬆症、からなる群から選択される。
【0022】
1つの好ましい実施形態では、障害はアルツハイマー病、認知症、臨床的鬱病から選択される。
別の好ましい実施形態では、障害はサルコペニアまたは悪液質から選択される。
【0023】
細胞へのフジマイシンの添加により、CLSの延長およびRLSの延長がもたらされる。当業者には明白なことであるが、細胞のCLSおよびRLSのうち少なくともいずれか一方のそのような延長は、加齢に関連した障害の治療に影響を及ぼす可能性がある。
【0024】
該医薬は、治療上有効な量の本発明の作用物質と、好ましくは薬学的に許容可能な担体、希釈剤または賦形剤(これらの組み合わせを含む)とを含む。
該医薬は、人間医学および獣医学におけるヒトまたは動物の使用向けであってよく、典型的には任意の1つ以上の薬学的に許容可能な希釈剤、担体、または賦形剤を含むことになろう。治療的使用について許容可能な担体または賦形剤は製薬分野において良く知られており、例えばA.R.ジェンナロ(Gennaro)編「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co.、1985)に記載されている。製薬用の担体、賦形剤または希釈剤の選択は、意図される投与経路および標準的な薬務を考慮して選択することができる。該医薬は、担体、賦形剤もしくは希釈剤として、または担体、賦形剤もしくは希釈剤に加えて、任意の適切な1または複数の結合剤、潤滑剤、懸濁化剤、コーティング剤、可溶化剤を含むことができる。
【0025】
保存剤、安定剤、染料および香料すらも医薬の中に提供される場合がある。保存剤の例には、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp‐ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。酸化防止剤および懸濁化剤も使用されうる。
【0026】
様々な送達システムに応じて様々な組成物/製剤形態の要件が存在しうる。例を挙げると、本発明の医薬は、ミニポンプを使用するかまたは粘膜経路によって投与されるように、例えば、吸入のための鼻腔用スプレーもしくはエアロゾル、もしくは摂取可能な溶液として製剤化されてもよいし、または、非経口的に投与されるように、例えば静脈内、筋肉内、もしくは皮下経路による送達のために、組成物が注射可能な形態により製剤化されてもよい。別例として、製剤形態は複数の経路によって投与されるように設計されてもよい。
【0027】
作用物質が胃腸粘膜を通して経粘膜投与される予定である場合、該作用物質は胃腸管を通過する間に安定性を維持することが可能でなければならず;例えば、該作用物質は、タンパク質分解に耐性を有し、酸pHにおいて安定で、かつ胆汁の界面活性作用に耐性でなければならない。
【0028】
適切な場合には、医薬は、吸入により、坐薬もしくはペッサリーの形態で、ローション剤、溶液、クリーム、軟膏もしくは散粉剤の形態で局所的に、皮膚用パッチ剤の使用により、デンプンもしくはラクトースのような賦形剤を含有している錠剤の形態で経口的に、または単独かもしくは賦形剤と混合されたカプセル剤もしくは腔坐剤で、または香料もしくは着色剤を含有しているエリキシル剤、溶液もしくは懸濁剤の形態で投与されてもよいし、あるいは、該医薬は非経口的に、例えば静脈内、筋肉内または皮下に注射されてもよい。非経口投与については、組成物は無菌の水性溶液の形態で使用されるのが最もよく、該水性溶液は、他の物質、例えば該溶液を血液と等張にするのに十分な塩類または単糖類を含有することができる。口腔内投与または舌下投与については、組成物は従来の手法で製剤化することができる錠剤またはトローチ剤の形態で投与されてもよい。
【0029】
作用物質がタンパク質である場合、前記タンパク質は治療を受けている対象者の体内においてin situで用意されてもよい。この点では、前記タンパク質をコードしているヌクレオチド配列が、非ウイルス技法の使用(例えばリポソームの使用)またはウイルス技法の使用(例えばレトロウイルスベクターの使用)によって送達されて、前記タンパク質が前記ヌクレオチド配列から発現されるようになっていてもよい。
【0030】
「安定な」製剤形態とは、その中のポリペプチドまたはタンパク質が保存に際してその物理的および化学的安定性ならびに生物学的活性をほぼ完全に保持する製剤形態である。タンパク質の安定性を計測するための様々な分析技法が当分野において利用可能であり、Peptide and Protein Drug Delivery,247−301,Vincent Lee Ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Pubs.(1991) およびJones,A.Adv.Drug Delivery Rev.10:29−90 (1993)に概説されている。安定性は、選択された温度で選択された期間にわたり計測可能である。迅速なスクリーニングについては、対象とする製剤形態は1週間から1か月の間40℃に維持されてもよく、この状態で時間的安定性が計測される。凍結乾燥および保存の後の凝集の程度は、ペプチドおよび/またはタンパク質の安定性の指標として使用することができる。例えば、「安定な」製剤形態とは、ポリペプチドまたはタンパク質の約10%未満、好ましくは約5%未満が該製剤形態において凝集物として存在するものである。凍結乾燥製剤の凍結乾燥および保存の後の凝集体形成の増大は、測定することができる。例えば、「安定な」凍結乾燥製剤とは、該凍結乾燥製剤が40℃で少なくとも1週間インキュベーションされた場合に、該凍結乾燥製剤における凝集体の増大が約5%未満または約3%未満であるものであってよい。融合タンパク質製剤の安定性は、本明細書中に記載されるような結合アッセイなどの生物学的活性アッセイを使用して計測可能である。
【0031】
さらなる態様によれば、細胞の複製寿命を延長する方法であって、配列番号1、3もしくは5を含むポリペプチド、または該ポリペプチドに対して少なくとも70%、80%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するポリペプチドもしくは前記ポリペプチドのホモログ、または1個もしくは数個のアミノ酸の付加、欠失もしくは置換により配列番号1、3もしくは5とは異なっているポリペプチド、をコードするポリヌクレオチドまたは遺伝子の機能を妨害するステップを含む方法が提供される。
【0032】
好ましい実施形態では、該ポリヌクレオチドまたは遺伝子は、配列番号4、6もしくは7で示されるヌクレオチド配列;または該ヌクレオチド配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するか;もしくは遺伝子コードの縮重により配列番号4、6もしくは7と異なっているか;もしくは、1個もしくは数個の核酸の付加、欠失もしくは置換により配列番号4、6もしくは7とは異なっている配列を含む。
【0033】
好ましい実施形態では、細胞は幹細胞である。より好ましくは、細胞は哺乳動物の幹細胞である。最も好ましくは、細胞はヒトの幹細胞である。
さらなる好ましい実施形態では、細胞は人工多能性幹細胞である。
【0034】
当然のことであるが、本発明に関して使用される細胞という用語は、植物細胞および動物細胞の両方ならびにex vivoで維持された細胞もしくは細胞集団を指してもよいし、または別例として、適切な場合にはin vivoの細胞もしくは細胞集団を指してもよい。
【0035】
注目すべきなのは、配列番号1および5(TTF1)ならびに配列番号3(Ydr026c)は同じタンパク質のヒトおよび酵母のホモログであることである。さらに、配列番号3(本研究)およびマウスのホモログ(Shiue,C−N,et al,(2009)Oncogene,28,1833−1842)はいずれも遺伝子ループ形成を調節することが示された。
【0036】
さらに当然のことであるが、配列番号1および5はヒトTTF1のスプライスバリアントである。
本発明のさらなる態様によれば、細胞の経時寿命を延長させる方法であって、配列番号1、3もしくは5を含むポリペプチド;または該ポリペプチドに対して少なくとも70%、80%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するポリペプチドもしくは前記ポリペプチドのホモログ;または1個もしくは数個のアミノ酸の付加、欠失もしくは置換により配列番号1、3もしくは5とは異なっているポリペプチド、をコードするポリヌクレオチドまたは遺伝子の機能を妨害するステップを含む方法が提供される。
【0037】
好ましい実施形態では、該ポリヌクレオチドまたは遺伝子は、配列番号4、6もしくは7で示されるヌクレオチド配列:または該ヌクレオチド配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するか;もしくは遺伝子コードの縮重により配列番号4、6もしくは7と異なっているか;もしくは、1個もしくは数個の核酸の付加、欠失もしくは置換により配列番号4、6もしくは7と異なっている配列を含む。
【0038】
当然のことであるが、ホモログは自己由来ペプチドであっても異種由来ペプチドであってもよい、すなわち同じ生物種に由来してもよいし異なる生物種に由来してもよい。
この場合、ホモログは対象の配列に少なくとも50、60、70、75、80、85または90%同一、好ましくは少なくとも95、97%、98%または99%同一となりうるアミノ酸配列を含むものと解釈される。典型的には、ホモログは対象のアミノ酸配列と同じ活性部位などを含むことになろう。ホモロジーは、類似度(すなわち類似の化学的性質/機能を有するアミノ酸残基)の点で考えることもできるが、本発明との関連では配列同一性の点でホモロジーを表現することが好ましい。
【0039】
ホモロジー比較は目視によって行なわれてもよいし、より一般的には、容易に利用可能な配列比較プログラムの助力を用いて行なわれてもよい。これらの市販のコンピュータ・プログラムは、2つ以上の配列間のホモロジー(%)を計算することができる。
【0040】
ホモロジー(%)は連続した配列に関して計算されてもよい、すなわち、一方の配列が他方の配列とともにアラインメントされて、一方の配列の各アミノ酸が他方の配列の対応するアミノ酸と、一度に1残基ずつ直接比較される。これは「ギャップ無し」アライメントと呼ばれる。典型的には、そのようなギャップ無しアラインメントは、比較的短い残基数に関してのみ行なわれる。
【0041】
これは非常に単純かつ一貫した方法ではあるが、該方法は、例えば、他の部分は同一な配列対において、1つの挿入または欠失がその後に続くアミノ酸残基をアラインメントから締めだす原因となり、従って大域的アラインメントが行なわれた場合にホモロジー(%)の大幅な低下をもたらす可能性がある、ということを考慮に入れることができない。
【0042】
したがって、最大のホモロジー(%)の計算には、第1に、ギャップペナルティを考慮に入れた最適なアラインメントの生成を必要とする。そのようなアラインメントを行なうのに適したコンピュータ・プログラムはVector NTI(インビトロジェン社(Invitrogen Corp.))である。配列比較を行なうことができるソフトウェアの例には、例えば、限定するものではないが、BLASTパッケージ(Ausubel et al 1999 Short Protocols in Molecular Biology,4th Ed−Chapter 18を参照)、BLAST 2(FEMS Microbiol Lett 1999 174(2):247−50;FEMS Microbiol Lett 1999 177(1):187−8およびtatiana@ncbi.nlm.nih.govを参照)、FASTA(Altschul et al 1990 J.Mol.Biol.403−410)およびAlignXが挙げられる。少なくともBLAST、BLAST 2およびFASTAはオフラインおよびオンラインの検索に利用可能である(Ausubel et al 1999,pages 7−58 to 7−60を参照)。
【0043】
当然のことであるが、機能を妨害するという用語は、ポリヌクレオチドもしくは遺伝子の発現を妨害すること、またはコードされたポリペプチドの活性を妨害することを指す。さらに当然のことであるが、転写の開始と成熟タンパク質の産生との間の遺伝子発現のいかなる段階も妨害される可能性がある。当業者には当然のことであるが、これは、クロマチン構造の制御による遺伝子発現制御のエピジェネティック手段のほかに、遺伝子発現制御の転写時、翻訳時、翻訳後における手段も含むことになる。
【0044】
当然のことであるが、本明細書中で使用されるような遺伝子の発現を妨害するステップが意味するのは、当分野で知られた任意の手段によって機能性ポリペプチドの生産を阻止または抑制することであり、またコードされたポリペプチドの活性を妨害するステップは、機能性ポリペプチドと1つ以上のその結合パートナーとの相互作用を妨害して該ポリペプチドがその機能を実施しないようにすることを指している。生産または機能は、完全に阻止されてもよいし部分的に阻止されてもよい。1つの実施形態では、好ましくは、遺伝子産物の生産または機能は完全に阻止される、すなわち活性を有する遺伝子産物は存在しない。いくつかの場合には、遺伝子産物の生産または機能は、野生型レベルの発現のわずかに約5%、約10%、約20%、約30%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約95%が残っているように妨害されてもよい。
【0045】
本明細書中で使用されるように、機能性ポリペプチドの生産を抑制することが意味するのは、遺伝子産物の生産が、(a)前記遺伝子をノックアウトすること;(b)前記遺伝子を、例えばiRNAまたはアンチセンスRNAの使用により転写後にサイレンシングすること(遺伝子サイレンシング);(c)前記遺伝子を、例えばエピジェネティック技法によって転写的にサイレンシングすること;(d)少なくとも1つの点突然変異の導入によって遺伝子産物の機能を阻止または変更すること;(e)遺伝子産物を翻訳後に不活性化すること、により阻止または抑制されうることである。
【0046】
1つの好ましい実施形態では、遺伝子またはホモログの発現はiRNAによって妨害される。
好ましくは、細胞は、プロモータの制御下でiRNAをコードしているプラスミド/ベクターを用いて形質転換される。明白なことであるが、このプロモータは構成的プロモータおよび組織特異的プロモータのうち少なくともいずれか一方であってよい。
【0047】
本明細書中で使用されるように、iRNAという用語はRNA干渉(RNAi)を指す。これは、dsRNAの直接導入によって誘導される真核生物における転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)の方法である(Fire A,et al.,(1998))。
【0048】
さらに好ましい実施形態では、遺伝子の発現は転写/DNAレベルで妨害される。好ましくは、前記妨害は、少なくとも1つのヌクレオチドを該遺伝子に挿入すること、または該遺伝子から少なくとも1つのヌクレオチドを欠失させることよって達成される。
【0049】
さらなる実施形態では、遺伝子の妨害は少なくとも1つの点突然変異の導入によって達成される。
当然のことであるが、ポリペプチドと1つ以上のその結合パートナーとの相互作用の妨害の場合、この妨害は、任意の適切な手段、例えば競合阻害、非競合阻害、混合型阻害または不競合阻害によるものであってよい。
【0050】
本発明によれば、細胞の経時寿命および複製寿命のうち少なくともいずれか一方を延長させる方法であって、前記細胞をフジマイシンで処理するステップを含む方法が提供される。
【0051】
上記に議論されるように、細胞は植物細胞であっても動物細胞であってもよい。好ましくは、前記細胞は動物細胞である。1つの好ましい実施形態では、細胞は哺乳動物細胞である。より好ましくは、前記細胞はヒト細胞である。
【0052】
本発明によってさらに提供されるのは、加齢に関連した障害の治療において使用するためのフジマイシンである。
好ましくは、該障害は、細胞の経時寿命および複製寿命のうち少なくともいずれか一方と関係がある。
【0053】
好ましくは、前記障害は、代謝障害、例えば、糖質代謝異常(例えばグリコーゲン蓄積症);アミノ酸代謝異常(例えばフェニルケトン尿症、グルタル酸血症など);有機酸代謝異常(有機酸尿症、例えばアルカプトン尿症);脂肪酸酸化およびミトコンドリア代謝の異常(例えばグルタル酸血症2型);プリンおよびピリミジンの代謝異常(例えばレッシュ‐ナイハン症候群);ミトコンドリア機能の異常(例えばカーンズ‐セイヤ症候群);ペルオキシソーム機能の異常(例えばツェルウェガー症候群)、炎症性障害、心血管疾患、1型糖尿病、2型糖尿病、アテローム性動脈硬化(artherosclerosis)、アルツハイマー病、認知症、臨床的鬱病、脂肪障害、例えば肥満、脂肪関連代謝異常 筋ジストロフィー、サルコペニア、悪液質ならびに骨粗鬆症からなる群から選択される。
【0054】
1つの好ましい実施形態では、障害はアルツハイマー病、認知症、臨床的鬱病から選択される。
別の好ましい実施形態では、障害はサルコペニアまたは悪液質から選択される。
【0055】
当業者であれば、フジマイシン(FK‐506)が臓器移植後に主として使用される免疫抑制性の抗生物質であることを承知しているであろう。フジマイシンは、カルシニューリンの活性を抑制することにより作用すると考えられている(Griffith,J.P.,et al,[1995]Cell,82(3),507−522)。
【0056】
アルツハイマー病は、加齢に伴う疾患であるだけでなく、加齢を調節する経路の妨害によって回復可能であるはずの疾患でもある。例えば、線虫(C.elegans)におけるDaf2の突然変異は、アルツハイマー病の線虫モデルの進行を遅らせることができる。この突然変異はIGF‐1シグナル伝達を妨害し、寿命の延長をもたらす。マウスで実行された類似の実験も同じ仮説を示唆している。アルツハイマー病は毒性タンパク質凝集物の蓄積にも関連づけられる。経時寿命を延長するFK‐506(フジマイシン)のような化合物は、これらの凝集物の蓄積を改善することが可能であり、したがって、アルツハイマー病および関連する適応症、例えば認知症および臨床的鬱病の治療において有用である可能性がある。
【0057】
別途定義のないかぎり、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。開業医に対しては、当分野の定義および用語について特にCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel)を教示する。アミノ酸残基の略語は、20種の通常のLアミノ酸のうちの1つを指すために当分野で使用される標準的な3文字コードおよび1文字コードのうち少なくともいずれか一方である。
【0058】
さらに留意すべきなのは、本明細書中で使用されるように、単数形の「1つの」および「その」は、明確かつ明快に1つの指示対象に限定されるのでないかぎり、複数の指示対象を含む。用語「または」、「もしくは」は、文脈が明らかにそうでないことを示していないかぎり、用語「および〜のうち少なくともいずれか一方」と互換的に使用される。
【0059】
さらに、用語「一部分」および「フラグメント」は、ポリペプチド、核酸、またはその他の分子構築物の一部を指すために互換的に使用される。
「ポリペプチド」および「タンパク質」は、部分長タンパク質または完全長タンパク質のいずれかを含む可能性のあるタンパク質分子について述べるために本明細書中で互換的に使用される。
【0060】
当分野で知られているように、「タンパク質」、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「オリゴペプチド」は、アミノ酸(典型的にはLアミノ酸)の鎖であって、そのα炭素は、1つのアミノ酸のα炭素のカルボキシル基と別のアミノ酸のα炭素のアミノ基との間の縮合反応によって形成されたペプチド結合によって連結されている。典型的には、タンパク質を作り上げているアミノ酸は、アミノ末端の残基から始まって該タンパク質のカルボキシ末端の残基へ向かって大きくなる順序で番号付けされる。
【0061】
「核酸」は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)のようなポリヌクレオチドである。該用語は、一本鎖の核酸、二本鎖の核酸、ならびにヌクレオチド類似体またはヌクレオシド類似体から作られたDNAおよびRNAを含むように用いられる。
【0062】
用語「プラスミド/ベクター」は、1つの実施形態では、核酸分子であって別の核酸分子を細胞内へ輸送するために使用可能な核酸分子を指す。1つの実施形態では、ベクターは、該ベクターに挿入されたDNA配列の複製を可能にする。ベクターは、少なくともいくつかの宿主細胞における核酸分子の発現を増強するためにプロモータを含むことができる。ベクターは、自律的に(染色体外で)複製してもよいし、宿主細胞の染色体内に組み入れられてもよい。1つの実施形態では、ベクターは、該ベクターに挿入された核酸配列の少なくとも一部に由来するタンパク質を生産することができる発現ベクターを含むことができる。
【0063】
本明細書中で使用されるように、「有効な量」とは、対象者において所望の効果を生じるために有効な作用物質の量を意味する。用語「治療上有効な量」とは、薬物または薬剤の量であって求められている動物またはヒトの治療反応を誘発するであろう量を表わす。有効な量を含む実際の用量は、投与経路、対象者の大きさおよび健康状態、治療される障害などによって異なっていてよい。
【0064】
本明細書中で使用されるような用語「薬学的に許容可能な担体」は、例を挙げるとすれば、対象とする障害または疾患の治療のために投与される治療用組成物のための、ヒトまたは動物の対象者に使用するのに適した化合物および組成物を指すことができる。
【0065】
ここで本発明について図面を参照しながらさらに詳細に説明する。
実施例
実施例1
図1は、遺伝子の高次構造に対するYDR026C遺伝子産物の影響が、rDNAなどの遺伝子座の安定性のエピジェネティック制御の一部を形成することを示す。Ydr026cおよびその機能の喪失は、3C(chromosome conformation capture)アッセイ(図1B)によって計測されるように、エピジェネティックな染色体高次構造の喪失をもたらす。野生型(wt)において観察される正常な高次構造の喪失は、エピジェネティックな脱制御および遺伝子座安定性の喪失に関係している。Ydr026cの相互作用パートナーであるFob1の喪失は、高次構造の安定性上昇をもたらす。
【0066】
図1Aは、酵母のrDNA遺伝子座を、該遺伝子座の上流および下流の2つのYDR026結合部位、標準的な3C(Chromosome Conformation Capture)アッセイに使用されるBfaI制限酵素切断部位の位置(垂直線)、ならびにTer、25c、5.8c、18cおよびProと記載されたPCRプライマーの位置(小矢印)とともに示し、さらには該遺伝子座から作られるrRNA転写物(ブロック矢印)も示されている。
【0067】
図1Bは、3Cアッセイの結果を示している。WTでは、同図は、野生型ではプライマー対Ter‐Proを用いた33サイクルの後に特異的生成物のバンドが生じることを示している。同じ生成物は、fob1欠失株における28サイクル後にもみられる。注目すべきことは、ydr026C欠失株では33サイクル後でも生成物が見られないことである。
【0068】
これは、Ydr026cの喪失が、酵母のrDNA遺伝子座由来の野生型正常転写物において観察される特有のエピジェネティックな高次構造の喪失をもたらすことを示している。また、Ydr026cと相互作用するfob1の喪失が、該高次構造の高い安定性をもたらし、該構造が3CアッセイのPCRサイクルの早い時期に検出されるのを容易にしていることも示している。
【0069】
実施例2
細胞を、2%グルコースを含有する培地で通気せずに(酸素欠乏)表示の日数の間成長させ、生存度を測定するために10倍希釈でプレート培養した。
【0070】
この実験は、Ydr026c枯渇突然変異体が、野生型またはfob1枯渇突然変異体と比較して長い寿命を有することを実証している。図は、嫌気培養における12日後に、野生型およびΔfob1株がもはや生存可能でない一方、ydr026cΔ株は依然として成長を示すことを示している。
【0071】
実施例3
この実験では、野生型、ydr026cΔおよびfob1Δの酵母細胞を、通気培養条件下または脱酸素培養条件下(AN)のいずれかで3%グルコース培地中で表示の日数培養した後、成長培地上でプレート培養した。図から分かるように、好気条件および嫌気条件のいずれにおいても、ydr026cΔ突然変異体は、33日および20日それぞれについて延長された経時寿命を示している。
【0072】
実施例4
図4から分かるように、FK‐506(フジマイシン)は、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)の経時寿命を延長する。0.1ng/mlにおける培養培地へのフジマイシンの添加は、対照と比較して細胞の経時寿命に対する有意な作用を持たないが、1ng/ml以上の添加は、対照と比較して酵母細胞の寿命中位数(median lifespan)を延長する有意な作用を有する。寿命は、Murakami,C.and Kaeberlein,M.,(2009)J.Vis.Exp,27に記載された増殖方法を使用して計測した。
【0073】
簡潔に述べると、酵母の経時寿命は、時間を経て老化している酵母培養物の生存度のプロファイルを指す。これを計測するために、酵母培養物を、グルコース炭素供給源が使い尽くされて細胞が分裂を停止するまで、液体培地中で増殖させる。この時点で、生きていて分裂可能な細胞の比率を、老化している該培養物の新しい接種物の増殖特性をBioscreen(商標)Cマシン(フィンランド国所在のグロース・カーブAb社(Oy Growth Curves Ab Ltd))を使用して観察することにより、計測する。様々な時点における生存度を、培養物の経時寿命を測定するために比較する。
【0074】
実施例5
図5から分かるように、FK‐506の添加は用量依存的に線虫の寿命を延長し、4μ/mlの添加では生物体の生存度(経時寿命)の顕著な上昇をもたらす。FK‐506を、同期させた産卵ステージ中に線虫に与え、Sutphin,G.L,and Kaeberlein,M.,(2009)J.Vis.Exp,27に記載されているようにして寿命を計測した。簡潔に述べると、この方法は、虫の集団を同期させる工程と、生きている虫の割合(%)を様々な時点で計測し、生きている虫を、物理刺激に応答するその能力によってスコア化する工程とからなる。
【0075】
実施例6
図6は、MRC5ヒト線維芽細胞株における細胞分裂速度の日齢依存的な低下をFK‐506が食い止めるようであることを示す。これは、FK506がこれらの細胞の複製寿命を延長することを示している。細胞分裂速度は、Fairweather,D.S.,M.Fox,and G.P.Margison,.(1987),Exp Cell Res,168(1):p.153−9の方法を使用して計測した。簡潔に述べると、MRC5細胞の複製寿命は、該細胞をディッシュの表面でコンフルエントに到達するまで増殖させ、その後すぐに1:2の比率に分割する(すなわち、1/2に希釈する)ことにより計測する。該培養物が分割される回数は、該培養物の複製寿命である、細胞が行うことができる分裂の数のそれと等しい。MRC5細胞は、限られた回数だけしか分裂することができず、該細胞がその生命の終末に到達するにつれて、該細胞が細胞分裂を行うために要する時間が長くなる。この場合、細胞分裂の速度は日齢の尺度として使用される。
【0076】
図のように、39回分裂後のFK‐506の添加は、FK‐506を添加しない対照と比較して分裂時間の短縮をもたらす。
より高い濃度では、FK506は該細胞に対して有毒となり、よって細胞の複製能を制限する。
【0077】
該データは、FK‐506がヒトおよび線虫のいずれにおいても老化の開始を遅らせることができることを示唆している。線虫の老化は主として筋細胞および腸細胞の老化である。データは、FK‐506が線虫の寿命を延長しており、したがってこれらの組織における老化を遅らせるに違いないことを示している。このことは、FK‐506がヒトの筋細胞の老化の影響を遅らせるであろうこと、およびサルコペニアのような障害の治療に有用であろうことを示す。この疾患の進行は、機械論的に極めて類似したプロセスであると考えられる床上安静または化学療法に伴う筋力減少(悪液質)である。
【0078】
データはさらに、FK‐506が老化の開始を遅らせることができること、したがって幹細胞療法で使用される可能性のある人工多能性幹細胞および直接変換細胞の効率を増大させるのに有用となりうることを示唆している。
【0079】
実施例7
YDR026c遺伝子座の欠失による、分裂する幹細胞の複製寿命(RLS)の延長。複製寿命は、マイクロマニピュレータ(シンガー・インスツルメンツ(Singer Instruments))を使用して計測した。これは、YPD寒天培地(2%グルコース、2%酵母抽出物、1%バクトペプトン、2%寒天)上で増殖している単一の母細胞の生存期間中に生じた各娘細胞を物理的に解剖することを含む。10〜50個の母細胞由来のデータを平均して、各菌株およびその野生型親菌株について平均寿命を導きだした。出発点となる処女細胞が小さな(したがって若い)母細胞から生じたことを確実にするように注意した。[Kaeberlein,M.,Kirkland,K.T.,Fields,S.and Kennedy,B.K.,Genes determining yeast replicative life span in a long−lived genetic background.Mech Ageing Dev 126,491−504(2005)およびKaeberlein,M.et al.,Regulation of yeast replicative life span by TOR and Sch9 in response to nutrients.Science 310,1193−1196 (2005)]。
【0080】
【表1】

表1から分かるように、BY4741(野生型対照)については平均寿命は25世代、YdrO26cを欠く菌株については30世代である。
【0081】
実施例8
図7に示したデータに基づいたモデルを以下に示す。該モデルは、Obd1欠失依存的な寿命の延長がSir2に対するOBD1の抑制作用に起因することを示している。これは、Sir2の活性化により寿命を延長するいかなるメカニズムもObd1による抑制によって制限を受けるであろうことを示唆している。
【0082】
【化1】

図7は、obd1、sir2のうちいずれか一方、またはobd1およびsir2両方が妨害された酵母菌株BY4741の寿命中位数を示す。寿命は、先述のBioscreen(商標)Cに基づいたプロトコールを使用して計算した。酵母菌株は、ロングタイン(Longtine)らが述べたようにして作製した(Yeast vol.14 p.953 Additional modules for versatile and economical PCR−based gene deletion and modification in Saccharomyces cerevisiae)。
【0083】
該データは、野生型と比較した時、obd1の妨害は経時寿命を有意に延長する一方、sir2の妨害は経時寿命を有意に短縮することを明白に示している。興味深いことに、obd1およびsir2の両方が妨害される二重突然変異体は、経時寿命の有意な短縮をもたらす。
【0084】
さらに、表2に示すデータは、sir2の活性に対するobd1の上位性効果を示している。
【0085】
【表2】

組換え率は、酵母コロニーの色の変化を観察することでADE+復帰突然変異体の数を計測することにより計測した。ERCは、核内に存在する短い環状DNA配列をもたらす異常な組換えにより生じる、リボソーム外染色体(extra−ribosomal−chromosomes)であり、そのレベルはサザンブロット法によって検出可能である。このデータは、obd1の不在下において、sir2の発現が経時寿命の延長および組換え率の低下をもたらすことを示している。
【0086】
上記の詳述において言及された出版物はすべて参照により本願に組込まれる。本発明の上記方法およびシステムの様々な修正形態および変形形態は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく当業者に明らかとなろう。本発明について特定の好ましい実施形態に関して説明してきたが、当然ながら、特許請求の範囲に記載の発明はそのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではない。実際、生化学および生物工学または関連分野の当業者にとって明白な、本発明を実施するための記載された形式の様々な修正形態は、特許請求の範囲の範囲内にあるように意図される。
【0087】
【表3】


【0088】
【表4】

【0089】
【表5】



【0090】
【表6】

【0091】
【表7】

【0092】
【表8】

【0093】
【表9】


【0094】
【表10】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の経時寿命および複製寿命のうち少なくともいずれか一方に関連した障害の治療のための医薬の製造におけるフジマイシンの使用であって、前記障害は、代謝障害、炎症性障害、心血管疾患、1型糖尿病、2型糖尿病、アテローム性動脈硬化、アルツハイマー病、認知症、臨床的鬱病、肥満、脂肪関連代謝異常を含む脂肪障害、筋ジストロフィー、サルコペニア、悪液質および骨粗鬆症からなる群から選択される、使用。
【請求項2】
細胞の複製寿命を延長する方法であって、配列番号1、3もしくは5を含むポリペプチド、または前記ポリペプチドに対して少なくとも70%、80%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは遺伝子、もしくはそれらのホモログの機能を妨害するステップを含む方法。
【請求項3】
前記細胞は幹細胞である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞はヒトの幹細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞は人工多能性幹細胞である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
細胞の経時寿命を延長する方法であって、配列番号1、3もしくは5を含むポリペプチド、または前記ポリペプチドに対して少なくとも70%、80%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは遺伝子、もしくはそれらのホモログの機能を妨害するステップを含む方法。
【請求項7】
遺伝子またはホモログの機能はiRNAによって妨害される、請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
遺伝子の機能は転写/DNAレベルで妨害される、請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
細胞の経時寿命および複製寿命のうち少なくともいずれか一方を延長する方法であって、前記細胞をフジマイシンで処理するステップを含む方法。
【請求項10】
前記細胞は植物細胞または動物細胞である、請求項2〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞は哺乳動物の細胞である、請求項2〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
加齢に関連した障害の治療に使用するための、フジマイシンを含む組成物。
【請求項13】
前記障害は細胞の経時寿命および複製寿命のうち少なくともいずれか一方に関係することを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記障害は、代謝障害、炎症性障害、心血管疾患、1型糖尿病、2型糖尿病、アテローム性動脈硬化、アルツハイマー病、認知症、臨床的鬱病、肥満、脂肪関連代謝異常を含む脂肪障害、筋ジストロフィー、サルコペニア、悪液質および骨粗鬆症からなる群から選択されることを特徴とする、請求項12または請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤または担体をさらに含む、請求項12〜14のいずれか1項に記載の組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−532856(P2012−532856A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519064(P2012−519064)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051125
【国際公開番号】WO2011/004194
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(511314854)クロノス セラピューティクス リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】CHRONOS THERAPEUTICS LIMITED
【Fターム(参考)】