説明

劣化判定装置、モータ装置、及び劣化判定方法

【課題】差動信号を伝送する伝送線において、断線等の障害が生じる可能性を低減させる。
【解決手段】劣化判定装置は、一対の信号線を用いて差動信号を伝送する複数の伝送線それぞれにおける該一対の信号線間の電位差を繰り返し検出する電位差検出部と、電位差検出部が複数の伝送線の電位差を検出するたびに、複数の伝送線ごとに、現在検出されている電位差と、前回検出された電位差との差分を算出する差分算出部と、差分算出部が算出した電位差の差分に基づいて、該伝送線が劣化しているか否かを判定する劣化判定部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化判定装置、モータ装置、及び劣化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ装置における制御信号、例えば、エンコーダ等の計測機器が計測した結果を示す信号は、ノイズ等の影響を受けにくい差動信号として伝送されている。差動信号は、対をなす2本の伝送線を用いて伝送されており、エンコーダ等の計測機器と、モータを制御する制御装置とを接続する上記の伝送線を通じて伝送される。
【0003】
モータの動作を正確に制御するにはエンコーダ等の計測結果が重要であり、計測結果を伝送する伝送線における断線は、モータの正確な制御に与える影響が大きく、モータの制御が不能になることもある。
そこで、伝送線に断線が生じていることを検出するための技術が提案されている(例えば、特許文献1)。この技術を用いて、稼働中のモータ及びその制御装置において断線の検出を行い、断線が検出された場合、モータ及びその制御装置の稼動を停止させて伝送線を交換するなどの処置が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−267840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の技術を用いたとしても、伝送線に断線が生じた場合、断線してから断線が検出されるまでの期間をゼロにすることは困難であり、その期間、モータに対して計測結果を用いない制御が行われてしまい、モータの制御に誤差が生じることがある。例えば、製造工場等で用いられているモータ装置の伝送線に断線が生じてモータの制御に誤差が生じると、製造している製品の品質などにばらつきが生じてしまうことがあり、好ましくない。そのため、モータ装置における制御信号を伝送する伝送線における断線が生じる前に、伝送線を交換するなどの対策を行うことにより、断線等の障害が生じる可能性を低減させることが望ましい。
【0006】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、差動信号を伝送する伝送線において、断線等の障害が生じる可能性を低減させることができる劣化判定装置、モータ装置、及び劣化判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、本発明は、一対の信号線を用いて差動信号を伝送する複数の伝送線それぞれにおける該一対の信号線間の電位差を繰り返し検出する電位差検出部と、前記電位差検出部が前記複数の伝送線の電位差を検出するたびに、前記複数の伝送線ごとに、現在検出されている電位差と、前回検出された電位差との差分を算出する差分算出部と、前記差分算出部が算出した電位差の差分に基づいて、該伝送線が劣化しているか否かを判定する劣化判定部とを具備していることを特徴とする劣化判定装置である。
【0008】
また、本発明は、モータと、該モータの動作状態を検出するエンコーダと、該エンコーダが検出した動作状態に基づいて該モータを制御する制御装置とを具備するモータ装置であって、前記制御装置は、前記エンコーダが検出した動作状態を、一対の信号線を用いた差動信号として伝送する複数の伝送線それぞれにおける該一対の信号線間の電位差を繰り返し検出する電位差検出部と、前記電位差検出部が前記複数の伝送線の電位差を検出するたびに、前記複数の伝送線ごとに、今回検出された電位差と、前回検出された電位差との差分を算出する差分算出部と、前記差分算出部が算出した電位差の差分に基づいて、該伝送線に劣化が生じているか否かを判定する劣化判定部とを備えていることを特徴とするモータ装置である。
【0009】
また、本発明は、一対の信号線を用いて差動信号を伝送する複数の伝送線それぞれにおける該一対の信号線間の電位差を繰り返し検出する電位差検出ステップと、前記電位差検出ステップにおいて、前記複数の伝送線の電位差が検出されるたびに、前記複数の伝送線ごとに、今回検出された電位差と、前回検出された電位差との差分を算出する差分算出ステップと、前記差分算出ステップにおいて算出された電位差の差分に基づいて、該伝送線に劣化が生じているか否かを判定する劣化判定ステップとを有していることを特徴とする劣化判定方法である。
【発明の効果】
【0010】
この発明では、伝送線における一対の信号線間の電位差を検出するたびに、今回検出した電位差と、前回検出した電位差との差分値を算出し、算出結果に基づいて、信号線に劣化が生じているか否か、及び劣化が広がっているか否かを判定することにより、伝送線が断線等の障害が生じる前に、当該伝送線における劣化の程度を把握して、障害が生じることを利用者等に通知することができる。そして、伝送線の交換等の対策が施されることにより、断線等の障害が生じる可能性を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態におけるモータ装置1を示す概略図である。
【図2】本実施形態におけるモータ制御装置10の構成を示す概略ブロック図である。
【図3】本実施形態における断線検出部14、及びそれに関連する部分の構成例を示す回路図である。
【図4】本実施形態の判定部19における劣化判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態における劣化検出装置、モータ装置、及び劣化検出方法を説明する。本実施形態では、リニアモータを制御するモータ装置の場合について説明する。
【0013】
図1は、本実施形態におけるモータ装置1を示す概略図である。同図に示すように、モータ装置1は、モータ制御装置10と、リニアモータ20とを具備している。モータ制御装置10は、リニアモータ20を駆動させる制御をする。リニアモータ20は、長尺の固定子21と、固定子21上を移動する可動子25と、固定子21及び可動子25を組み付ける一対の案内装置22、22を備えている。
【0014】
案内装置22は、例えば、ボールを介して組みつけられた軌道レール23及びスライドブロック26、26から構成されている。案内装置22の軌道レール23は固定子21が有するベース54に固定され、案内装置22のスライドブロックは可動子25に固定されている。これにより、可動子25は、固定子21上を軌道レール23に沿って自在に案内されるようになっている。
【0015】
また、固定子21は、一対の軌道レール23、23の間に並べられた複数の駆動用磁石24を備えている。複数の駆動用磁石24は、可動子25が移動する方向において、N極及びS極の磁極が交互になるように配列されている。また、各駆動用磁石24は、配列されている方向において、同じ長さを有しており、可動子25が固定子21上のいずれに位置していても、一定の推力が得られるようになっている。
【0016】
可動子25には、電力線31を介してモータ制御装置10から電力が供給される。また、可動子25には、リニアモータ20を用いて移動させる搬送物を載せるためのテーブル53と、可動子25の動作状態を検出するエンコーダ27とが取り付けられている。ここで、可動子25の動作状態とは、例えば、固定子21上のいずれか一方の端部からの距離や、単位時間当たりの移動量などである。
【0017】
エンコーダ27は、例えば、光学式又は磁気式の距離や移動量などを検出する計測機器であり、可動子25の移動量を検出し、検出した移動量に応じた信号をモータ制御装置10に出力する。以下、本実施形態では、エンコーダ27が、可動子25の移動量に応じて周期的に変化するA相パルス信号と、A相パルス信号と90度の位相差を有するB相パルス信号と、可動子25が所定の距離を移動したことを示すZ相パルス信号とを出力する場合について説明する。
【0018】
また、エンコーダ27は、伝送線32を介して、モータ制御装置10と接続されており、A相、B相、及びZ相パルス信号それぞれを一対の信号線を用いて表される差動信号として出力する。伝送線32は、A相、B相、及びZ相パルス信号それぞれの差動信号を伝送する3組の信号線対、すなわち6本の信号線を有し、エンコーダ27とモータ制御装置10とを接続している。
モータ制御装置10は、外部から入力され固定子21上の移動先の位置を示す指令信号と、エンコーダ27が検出する可動子25の移動量とに基づいて、リニアモータ20を制御する。
【0019】
図2は、本実施形態におけるモータ制御装置10の構成を示す概略ブロック図である。同図に示すように、モータ制御装置10は、モータ制御部11と、3つのフェイルセーフ回路12a、12b、12zと、3つのラインレシーバ13a、13b、13zと、断線検出部14と、電位差検出部15と、差分算出部16と、劣化判定部17とを備えている。
【0020】
モータ制御部11には、フェイルセーフ回路12a、12b、12z、及びラインレシーバ13a、13b、13zを介してエンコーダ27から入力されるA相、B相、及びZ相パルス信号と、外部より入力される指令信号とが入力される。モータ制御部11は、入力される各パルス信号と、指令信号とに基づいて、指令信号が示す位置に可動子25を移動させるように、電力線31を介して電力を供給してリニアモータ20を制御する。
【0021】
フェイルセーフ回路12a、12b、12zは、エンコーダ27から出力されるA相、B相、及びZ相パルス信号それぞれに対応して設けられている。エンコーダ27は、不図示の検出センサが出力するA相、B相、及びZ相パルス信号を差動信号に変換し、伝送線32を介して変換した差動信号をフェイルセーフ回路12a、12b、12zに出力する3つのラインドライバ271a、271b、271zを有している。
【0022】
フェイルセーフ回路12aは、ラインドライバ271aがA相パルス信号を変換した信号A及び信号/Aからなる差動信号が入力される。ここで、信号Aと信号/Aとは、電位の変化が逆になるように変換される。フェイルセーフ回路12b(12z)も、同様に、ラインドライバ271b(271z)が変換した信号B及び信号/B(信号Z及び信号/Z)からなる差動信号が入力される。
【0023】
また、フェイルセーフ回路12a、12b、12zは、入力された差動信号をラインレシーバ13a、13b、13zに出力するとともに、伝送線32において断線が生じた場合に、ラインレシーバ13a、13b、13zに出力する差動信号の電圧を予め定めた電圧に安定させる。
ラインレシーバ13a、13b、13zは、フェイルセーフ回路12a、12b、12zごとに対応して設けられており、A相、B相、及びZ相パルス信号に対応する差動信号が入力される。
【0024】
ラインレシーバ13aは、入力された信号A及び信号/Aからなる差動信号の電位差に基づいて、当該差動信号をA相パルス信号に変換してモータ制御部11に出力する。ラインレシーバ13b(13z)も、同様に、入力された信号B及び信号/B(信号Z及び信号/Z)からなる差動信号の電位差に基づいて、当該差動信号をB相パルス信号(Z相パルス信号)に変換してモータ制御部11に出力する。
【0025】
断線検出部14は、伝送線32において断線が生じているか否かを検出する。具体的には、断線検出部14は、A相、B相、及びZ相パルス信号を伝送する信号線対における電位差を検出し、検出した電位差と、予め定められた断線しきい値とを比較して断線が生じているか否かを検出する。
【0026】
図3は、本実施形態における断線検出部14、及びそれに関連する部分の構成例を示す回路図である。なお、A相、B相、及びZ相パルス信号それぞれに対応する信号線対における断線検出を行う構成は、同じであるのでA相パルス信号に対応する信号線対における断線検出を行う構成を示し、B相及びZ相パルス信号に対応する構成の説明を省略する。
【0027】
図3に示すように、断線検出部14は、電位差検出部141と、比較部145とを有している。電位差検出部141は、A相パルス信号に対応する信号線対、すなわち信号Aを伝送する信号線Aと、信号/Aを伝送する信号線/Aとの電位差の絶対値を検出する絶対値検出部142と、絶対値検出部142が検出した絶対値(電圧)を増幅して出力する差動増幅部143とを有している。
【0028】
絶対値検出部142は、4つのダイオードD1〜D4と、抵抗R6とからなる。ダイオードD1は、アノードがダイオードD3のアノードと、抵抗R6の一端とに接続され、カソードが信号線Aと、ダイオードD2のアノードとに接続されている。
ダイオードD2は、カソードが抵抗R6の他端と、ダイオードD4のカソードとに接続されている。ダイオードD3は、カソードがダイオードD4のアノードと、信号線/Aとに接続されている。
【0029】
抵抗R6の一端が低位側出力端子OUTを介して差動増幅部143に接続され、抵抗R6の他端が高位側出力端子OUTを介して差動増幅部143に接続されている。
このように、絶対値検出部142は、ダイオードD1〜D4がブリッジ接続され、ダイオードD1〜D4によるブリッジ回路に接続された抵抗R6の両端に生じる電位差を出力するようになっている。
【0030】
差動増幅部143は、4つの抵抗R7〜R10と、演算増幅器Ampとからなる。抵抗R7は、一端が絶対値検出部142の低位側出力端子OUTに接続され、他端が演算増幅器Ampの反転入力端に接続されている。抵抗R8は、一端が絶対値検出部142の高位側出力端子OUTに接続され、他端が演算増幅器Ampの非反転入力端に接続されている。抵抗R9は、一端が抵抗R8の他端と、演算増幅器Ampの非反転入力端に接続され、他端が接地されている。
【0031】
抵抗R10は、一端が抵抗R7の他端と、演算増幅器Ampの反転入力端とに接続され、他端が演算増幅器Ampの出力に接続されている。
このように構成された差動増幅部143は、抵抗R1と抵抗R2との抵抗値が同じであり、抵抗R3と抵抗R4との抵抗値が同じであるとき、演算増幅器Ampが絶対値検出部142の低位側出力端子OUTと高位側出力端子OUTとの電位差を(R3/R1)倍にして比較部145に出力する。ここで、R3及びR1は、抵抗R3及び抵抗R1の抵抗値を示し、以下同様に、Ri(i=1,2,3,…,12)は、抵抗Riの抵抗値を示す。
【0032】
比較部145は、2つの抵抗R11、R12と、コンデンサC1と、比較器Cmpとからなる。抵抗R11は、一端が差動増幅部143の出力に接続され、他端が抵抗R12の一端と、コンデンサC1の一端と、比較器Cmpの一方の入力端とに接続されている。コンデンサC1の他端と、抵抗R12の他端とは、接地されている。
【0033】
比較器Cmpは、他方の入力端に断線しきい値としての電圧Vthが印加され、一方の入力端に印加される電圧と電圧Vthとを比較する。この一方の入力端に印加される電圧は、差動増幅部143が出力する電圧を、(R12/(R11+R12))倍にした電圧である。比較器Cmpは、一方の入力端に印加される電圧が電圧Vthより高いときに断線が生じていることを示す断線信号をモータ制御部11に出力し、低いときに断線が生じていることを示す断線信号をモータ制御部11に出力しない。
【0034】
ここで、フェイルセーフ回路12a(12b及び12z)の構成例についても、説明する。フェイルセーフ回路12aは、5つの抵抗R1〜R5からなる。抵抗R1は、一端に所定の電圧Vccが印加され、他端が抵抗R2の一端と、ラインレシーバ13aの非反転入力端とに接続されている。抵抗R2は、信号線Aを介して、他端がエンコーダ27のラインドライバ271aの非反転出力端に接続されている。抵抗R3は、一端が信号線Aと抵抗R2の他端とに接続され、他端が抵抗R4の一端と信号線/Aとに接続されている。
【0035】
抵抗R4は、信号線/Aを介して、一端がラインドライバ271aの反転出力端に接続され、他端がラインレシーバ13aの反転入力端と抵抗R5の一端とに接続されている。抵抗R5は、他端が接地されている。
このように構成されたフェイルセーフ回路12aは、信号線A又は信号線/Aのいずれか一方、あるいは両方に断線が生じた際に、ラインレシーバ13aの非反転入力端と反転入力端との間の電位差、及び絶対値検出部142の入力端に接続されている信号線間の電位差を、電圧Vccを(R3/(R1+R2+R3+R4+R5))倍にした電圧にする。
【0036】
抵抗R1〜R5の各抵抗値は、ラインドライバ271a及びラインレシーバ13aの特性や、信号線A及び信号線/Aの長さ、周囲から受けるノイズ等に応じて定められるとともに、電圧Vccを(R3/(R1+R2+R3+R4+R5))倍にした電圧が、信号線A及び信号線/Aに断線が生じていないときに当該信号線に生じる電位差より小さくなるように定められる。
また、比較部145における電圧Vthは、フェイルセーフ回路12a(12b及び12z)を構成する抵抗R1〜R5の抵抗値に応じて定められる。
【0037】
比較部145は、信号線A及び信号線/Aのいずれか一方、あるいは両方に断線が生じた場合、抵抗R1〜R5に応じて定められた電圧Vthと、電位差検出部141が検出した信号線A及び信号線/Aの電位差から得られた電圧とを比較して、上述の現象を検出することにより、伝送線32の断線を検出する。
【0038】
図2に戻って、説明を続ける。
電位差検出部15は、A相、B相、及びZ相パルス信号を伝送する信号線対における電位差を検出し、各信号線対の電位差を示す情報を差分算出部16に出力する。なお、電位差検出部15は、例えば、電位差検出部141(図3)に示した回路構成と同じにしてもよい。
【0039】
差分算出部16は、Z相パルス信号が生じたか否かを検出する。そして、差分算出部16は、Z相パルス信号が生じたことを検出すると、電位差検出部15から現在入力されている各信号線対の電位差(現在値)から、前回Z相パルス信号が生じたことを検出した際に電位差検出部15から入力されていた各信号線対の電位差(前回値)を減算した差分値を算出する。また、差分算出部16は、A相、B相、及びZ相パルス信号に対応する差分値を示す差分値情報を劣化判定部17に出力する。
【0040】
劣化判定部17は、差分算出部16から入力された差分値情報に基づいて、伝送線32の各信号線対に断線に至る劣化が生じているか否かを判定し、判定結果を外部に出力する。なお、判定結果の出力の方法としては、例えば、伝送線32の交換を要求する情報を表示する。劣化判定部17は、差分値記憶部18と、判定部19とを有している。
【0041】
差分値記憶部18には、差分算出部16から入力される差分値情報に示される差分値が、A相、B相、及びZ相パルス信号ごとに対応付けられて、時系列順に記憶されている。
判定部19は、差分値記憶部18に記憶されている差分値と、差分算出部16から入力される差分値情報とに基づいて、伝送線32の各信号線対に断線に至る劣化が生じているか否かを判定し、判定結果を外部に出力する。
【0042】
図4は、本実施形態の判定部19における劣化判定処理を示すフローチャートである。
判定部19は、差分算出部16から差分値情報が入力されると、A相、B相、及びZ相パルス信号の信号線対に対応する差分値ごとに、以下のステップS1〜ステップS11の処理を行う。
【0043】
まず、判定部19は、入力された差分値が予め定められた第1しきい値以上であるか否かを判定し(ステップS1)、差分値が第1しきい値以上である場合(ステップS1:YES)、信号線対において、断線に至る劣化が生じたことを示す情報を外部に出力し(ステップS3)、劣化判定処理を終了する。
一方、ステップS1において、差分値が第1しきい値以上でない場合(ステップS1:NO)、判定部19は、差分値記憶部18に記憶されている差分値のうち、判定対象になっている信号線対の差分値を読み出し、読み出した差分値と入力された差分値との総和(累積値)を算出する(ステップS5)。
【0044】
続いて、判定部19は、算出した累積値が第2しきい値以上であるか否かを判定し(ステップS7)、累積値が第2しきい値以上である場合(ステップS7:YES)、信号線対の劣化が断線に至る状態になっていることを示す情報を外部に出力し(ステップS9)、劣化判定処理を終了する。
一方、ステップS7において、累積値が第2しきい値以上でない場合(ステップS7:NO)、信号線対に断線に至る劣化が生じていないことを示す情報を外部に出力し(ステップS11)、劣化判定処理を終了する。
【0045】
上述の劣化判定処理における第1しきい値及び第2しきい値は、伝送線32に対する加速劣化試験の結果や、差分値記憶部18に記憶されている差分値、及び算出された累積値のうち、伝送線32に断線が生じたときの差分値及び累積値などに基づいて予め定められる値である。
【0046】
上述の劣化判定処理で、判定部19は、信号線対のいずれか一方、あるいは両方に亀裂などの劣化が生じ、信号線対における抵抗値が増加して現在値と前回値との差分値が第1しきい値以上になると、信号線対に断線に至る劣化が生じていることを検出する(ステップS1)。
また、判定部19は、Z相パルス信号が生じる間隔で検出できない程度の劣化が徐々に生じ、信号線対における抵抗値が徐々に増加して差分値の累積値が第2しきい値以上になると、徐々に進んだ劣化により信号線対に断線に至る可能性があることを検出する(ステップS7)。
【0047】
このように、モータ装置1は、エンコーダ27が検出した信号を伝送する伝送線における一対の信号線間の電位差を検出するたびに、差分算出部16が今回検出した電位差と前回検出した電位差との差分値を検出する。
一般に、信号線における断線は、信号線に生じた亀裂等の劣化が徐々に広がるなどして断線に至ることが多く、信号線が断線に至る過程において、劣化が生じた箇所では電流が流れにくくなり抵抗値が高くなるため、差動信号の電位差が正常時と異なるため、作動信号の電位差に変化が生じる。
【0048】
そして、劣化判定部17は、検出された差分値である、電位差の変化量に基づいて信号線に劣化が生じているか否か、及び劣化が広がっているか否かを判定する。これにより、劣化判定部17は、伝送線における劣化の程度を把握して、伝送線が断線に至る前に断線等の障害が生じる可能性が高いことをモータ装置1の利用者等に通知することができる。そして、伝送線の交換等の処置が施されることにより、断線等の障害が生じる可能性を低減させることができる。
【0049】
また、劣化判定部17は、差分値の累積値に基づいて、伝送線における劣化の程度を把握し、累積値が第2しきい値以上になると、伝送線において徐々に劣化が進み断線等の障害が生じる可能性について判定する。これにより、差分値の変化で検出されない劣化の蓄積により障害が生じる可能性が高いことを事前に判定することができる。
【0050】
なお、第1しきい値及び第2しきい値は、判定対象となっている伝送線32の使用期間に応じて、徐々に低くするようにしてもよい。例えば、伝送線32に対して定められている耐用期間の半分の期間使用した場合、第1しきい値及び第2しきい値それぞれを20%低くした値を用いるようにしてもよい。これにより、伝送線32の使用期間に応じたしきい値の設定を行うことができ、断線に至る劣化の検出精度を向上させることができる。
【0051】
また、上述の実施形態において、差分算出部16は、Z相パルス信号に変化が生じたことを検出し、Z相パルス信号に変化が生じたときに、A相、B相、及びZ相パルス信号に対応する差分値を算出するようにしてもよい。
また、第1しきい値及び第2しきい値を複数設け、伝送線32における劣化の進み具合を検出するようにしてもよい。これにより、モータ装置1は、伝送線32における劣化の度合いを利用者に通知することができ、伝送線32を交換する時期の予測に用いる情報を提供することができる。
【0052】
また、上述の実施形態において、差分算出部16は、現在値と前回値との差分値だけでなく、A相、B相、及びZ相パルス信号に対応する信号線対の間で差分値を算出するようにしてもよい。例えば、A相パルス信号に対応する信号線対の電位差と、B相パルス信号に対応する信号線対の電位差との差分を算出し、算出した結果を差分値情報に含めるようにしてもよい。
また、上述の実施形態において、劣化判定部17は、伝送線32において、断線等の障害が発生する可能性が高いと判定した場合、モータ制御部11に対して、リニアモータ20の駆動を停止させる制御を行うようにしてもよい。
【0053】
なお、本発明における劣化判定部17の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより劣化判定処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0054】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組合せで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0055】
複数の差動信号を伝送する信号線を用いる装置において、当該信号線の断線等を含む劣化を検出し、障害を未然に防ぐことが不可欠な用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
15…電位差検出部、16…差分算出部、17…劣化判定部、19…判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の信号線を用いて差動信号を伝送する複数の伝送線それぞれにおける該一対の信号線間の電位差を繰り返し検出する電位差検出部と、
前記電位差検出部が前記複数の伝送線の電位差を検出するたびに、前記複数の伝送線ごとに、現在検出されている電位差と、前回検出された電位差との差分を算出する差分算出部と、
前記差分算出部が算出した電位差の差分に基づいて、該伝送線が劣化しているか否かを判定する劣化判定部と
を具備していることを特徴とする劣化判定装置。
【請求項2】
前記劣化判定部は、
前記複数の伝送線ごとに、前記差分算出部が算出した電位差の差分、該電位差の差分の累積値、及び予め定められたしきい値に基づいて、該伝送線に劣化が生じているか否かを判定する判定部と
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の劣化判定装置。
【請求項3】
前記しきい値は、第1しきい値と第2しきい値とを含み、
前記判定部は、
前記複数の伝送線ごとに、前記差分算出部が算出した電位差の差分が前記第1しきい値以上の場合、又は、前記電位差の差分の累積値が前記第2しきい値以上の場合、該伝送線に劣化が生じていると判定する
ことを特徴とする請求項2に記載の劣化判定装置。
【請求項4】
モータと、該モータの動作状態を検出するエンコーダと、該エンコーダが検出した動作状態に基づいて該モータを制御する制御装置とを具備するモータ装置であって、
前記制御装置は、
前記エンコーダが検出した動作状態を、一対の信号線を用いた差動信号として伝送する複数の伝送線それぞれにおける該一対の信号線間の電位差を繰り返し検出する電位差検出部と、
前記電位差検出部が前記複数の伝送線の電位差を検出するたびに、前記複数の伝送線ごとに、今回検出された電位差と、前回検出された電位差との差分を算出する差分算出部と、
前記差分算出部が算出した電位差の差分に基づいて、該伝送線に劣化が生じているか否かを判定する劣化判定部と
を備えていることを特徴とするモータ装置。
【請求項5】
一対の信号線を用いて差動信号を伝送する複数の伝送線それぞれにおける該一対の信号線間の電位差を繰り返し検出する電位差検出ステップと、
前記電位差検出ステップにおいて、前記複数の伝送線の電位差が検出されるたびに、前記複数の伝送線ごとに、今回検出された電位差と、前回検出された電位差との差分を算出する差分算出ステップと、
前記差分算出ステップにおいて算出された電位差の差分に基づいて、該伝送線に劣化が生じているか否かを判定する劣化判定ステップと
を有していることを特徴とする劣化判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−177651(P2012−177651A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41656(P2011−41656)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】